JP2008039008A - 車両用変速機 - Google Patents

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Abstract

【課題】変速待機側のクラッチ機構について回転同期を行って、クラッチ機構の負荷を低減するとともに変速応答性を向上させる。
【解決手段】動力源1から動力が伝達される入力要素、およびいずれかの前記駆動軸に対して動力を出力する出力要素、ならびに反力要素を回転要素とした第1差動機構3と、その反力要素に連結されて反力を選択的に発生する第1反力機構12と、前記動力源から動力が伝達される他の入力要素、および他の前記駆動軸に対して動力を出力する他の出力要素、ならびに他の反力要素を回転要素とした第2差動機構4と、前記他の反力要素に連結されて反力を選択的に発生する第2反力機構13と、少なくともいずれか一方の差動機構における反力要素にトルクを与える同期補助機構46とを備えている。
【選択図】 図1

Description

この発明は、動力源から動力が伝達される複数の駆動軸と動力を出力する従動軸との間に伝動機構がそれぞれ設けられ、動力源から動力が伝達される駆動軸および伝動機構を選択することにより変速を行うことのできる変速機に関するものである。
変速機は、入力部材と出力部材との間に、複数の動力伝達経路を選択的に形成し、各動力伝達経路での増減速比を異ならせることにより、入力部材と出力部材との回転数比である変速比を複数の変速比に設定するように構成された動力伝達装置である。この種の変速機が車両に搭載されていることは周知のとおりであり、車両用の変速機としては、設定可能な変速比の数が多いこと、小型軽量であること、動力の伝達効率が高いことなどが要求される。そこで例えば特許文献1には、7段以上の変速段を設定でき、しかも小型化を図ることのできる変速機が記載されている。
この特許文献1に記載された変速機は、いわゆるツインクラッチ式の有段変速機であり、第1クラッチを介してエンジンに連結される第1入力軸と、第2クラッチを介してエンジンに連結される第2入力軸と、出力軸と、第1入力軸にギヤ対を介して連結されている副軸と、第1入力軸と副軸との間に設けられるとともに噛み合いクラッチ機構によって選択的に連結状態とする複数のギヤ対と、第2入力軸と出力軸との間に設けられるとともに噛み合いクラッチ機構によって選択的に連結状態とされる複数のギヤ対とを有している。そして、この変速機は、いずれかの入力軸から所定のギヤ対を介して出力軸にトルクを伝達する変速段と、いずれかの入力軸から所定のギヤ対および副軸を介して出力軸にトルクを伝達する変速段とを設定するように構成され、その結果、後進段を含めて7段以上の変速段を設定するように構成されている。
特開2003−120764号公報
上記の特許文献1に記載されている変速機では、設定可能な変速段数が多いことにより、エンジンを燃費のよい状態で運転でき、また副軸を効果的に利用するように構成されているので、変速機が全体として小型軽量化され、その結果、車両の燃費を向上させることができる。
しかしながら、動力の伝達経路を設定し、また変更するために用いられている前記第1クラッチおよび第2クラッチは、変速過渡時の慣性力を吸収するべく油圧式の摩擦クラッチによって構成されており、そのために、エネルギー効率や変速応答性の点で改善すべき余地があった。すなわち、油圧式の摩擦クラッチは、油圧によって摩擦板を押圧することにより係合するから、所定の変速段を設定して走行している定常的な状態であっても、クラッチを係合させるための油圧を発生させる必要があり、そのための動力を常時消費することになる。
また、トルクの伝達に関与していないクラッチはいわゆる解放状態に制御されるが、摩擦板の相対回転による引き摺りトルクが生じ、それに伴う摩擦によって動力損失が生じる。さらに、その摩擦によって熱が生じるので、冷却のために常時潤滑油を供給する必要があり、その潤滑のために動力を消費するから、動力損失が増える可能性がある。
またさらに、特許文献1に記載されている変速機では、トルクの伝達に関与していない入力軸と副軸もしくは出力軸との間に配置されている噛み合いクラッチ機構を係合状態とすることにより、いわゆる変速待機状態を設定し、その状態で摩擦クラッチの係合・解放状態を切り換えて変速を実行するようになっている。その変速待機状態を設定するために噛み合いクラッチ機構を係合させる場合、出力軸もしくはこれに連結されているギヤが、変速前の変速比および車速に応じた回転数で回転しているのに対して解放状態の摩擦クラッチに連結されている入力軸もしくはこれに連結されているギヤは回転していないので、噛み合いクラッチ機構は同期状態となってない。その状態で噛み合いクラッチ機構を係合させると、いずれかのギヤもしくはこれに連結されている部材の回転数が急激に変化するので、ショックが生じる可能性がある。
これを回避するために、同期連結機構(シンクロナイザー)を噛み合いクラッチ機構に替えて使用することが考えられるが、そのような構成では、変速指示に基づいてシンクロナイザーが動作し始めた後に同期が開始されるので、変速応答性が必ずしも充分には速くならない可能性がある。また、変速機のコストが高くなり、またシンクロナイザーを小型化した場合には、耐久性が低下する可能性がある。
そして、解放状態のクラッチを係合させる場合、摩擦板同士の間のクリアランスが詰まった後、摩擦板同士が実質的に係合してトルクを伝達する。したがってそのクリアランスが詰まるまでの時間が遅れ時間となる。特に、特許文献1に記載された変速機では、一方のクラッチの解放と他方のクラッチの係合とを協調して進行させるいわゆるクラッチ・ツウ・クラッチ変速となるので、各クラッチ相互の状況に応じて係合もしくは解放を進行させることになり、そのために複雑な制御が余儀なくされるのみならず、変速応答性が必ずしも良好ではない。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、全体としてのエネルギー効率が良好で、しかも変速応答性の良好な車両用の変速機を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、複数の駆動軸と従動軸との間に、所定の変速比を設定するための伝動機構がそれぞれ設けられるとともに、各伝動機構を選択的にトルク伝達可能にする切換機構が設けられ、動力源からいずれかの駆動軸に動力を伝達するとともに該駆動軸に前記切換機構によって連結されている伝動機構を介して前記従動軸に動力を出力する車両用変速機において、前記動力源から動力が伝達される入力要素、およびいずれかの前記駆動軸に対して動力を出力する出力要素、ならびに反力要素を回転要素とした第1差動機構と、その反力要素に連結されて反力を選択的に発生する第1反力機構と、前記動力源から動力が伝達される他の入力要素、および他の前記駆動軸に対して動力を出力する他の出力要素、ならびに他の反力要素を回転要素とした第2差動機構と、前記他の反力要素に連結されて反力を選択的に発生する第2反力機構と、少なくともいずれか一方の差動機構における反力要素にトルクを与える同期補助機構とを備えていることを特徴とするものである。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記同期補助機構は、トルクを伝達していない解放状態のいずれかの前記切換機構をトルクを伝達する係合状態に切り換える際に該切換機構による係合相手部材との回転数差が小さくなる方向に、前記切換機構に繋がっているいずれかの差動機構における反力要素にトルクを伝達する機構を含むことを特徴とする車両用変速機である。
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記各反力機構は、圧力流体を循環させる閉回路で相互に連通された、押出容積を変化させることのできる可変容量型流体圧ポンプモータから構成され、いずれか一方の流体圧ポンプモータの押出容積を最小にすることにより他方の流体圧ポンプモータの回転が阻止されるように構成されていることを特徴とする車両用変速機である。
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記同期補助機構は、エネルギ回生と動力の出力とが可能な電気モータを含むことを特徴とする車両用変速機である。
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記電気モータにエネルギ回生を行わせて前記反力要素に減速方向のトルクを与えることにより前記反力要素の回転数を低下させた後、回生したエネルギによって前記電気モータから動力を出力させて前記反力要素に増速方向のトルクを与えることにより前記反力要素の回転数を回転数低下時とは反対方向に増大させる電気モータ制御手段を更に備えていることを特徴とする車両用変速機である。
請求項1あるいは2の発明によれば、動力源から動力を伝達される駆動軸が選択され、その駆動軸と従動軸との間でトルクを伝達する伝動機構が選択され、その選択された伝動機構に応じた変速比が設定される。トルクの伝達に関与する伝動機構の選択は、切換機構をトルク伝達可能な状態に動作させることにより実行される。これに対して駆動軸の選択は、各差動機構および各反力機構によって行われる。すなわち、動力源から入力要素に対して動力を入力している状態で、反力機構によって差動機構に対して反力を与えれば、出力要素にトルクが現れるので、そのトルクがこれに連結されている駆動軸に伝達される。また反対に反力をゼロにすれば、入力要素に動力を入力しても出力要素にトルクが現れず、駆動軸には動力が伝達されない。したがって、係合状態の切換機構につながっている差動機構に対して反力機構から反力を与えると、その差動機構からこれに連結されている駆動軸に動力が出力され、これがさらに係合状態の切換機構および伝動機構を介して従動軸に伝達され、所定の変速比が設定される。なお、その場合、他方の反力機構からは反力を出力させなければ、前記伝動機構の変速比(もしくは回転数比)によって決まる変速比が設定される。これに対して、両方の反力機構および差動機構を動作させ、各々につながっている適宜の切換機構および伝動機構をトルク伝達可能な状態とし、さらに各伝動機構の変速比(もしくは回転数比)の相違による回転数差を差動機構もしくは反力機構で吸収することにより、各伝動機構で決まる変速比の中間の値の変速比が設定される。このようにすることにより、変速機の全体としての変速比を連続的に変化させるいわゆる無段変速が可能になる。
一方、いずれかの差動機構を経由して従動軸に動力を伝達している状態で、他の差動機構につながっている切換機構をいわゆる解放状態から係合状態に切り換える場合、同期補助機構から差動機構における反力要素にトルクが伝達され、これが所定方向に回転させられる。その差動機構の入力要素に動力源から動力が入力されているから、反力要素にトルクが入力されることにより、出力要素およびこれに連結されている駆動軸が従前とは異なって回転する。その結果、この駆動軸と従動軸との間に配置されているいずれかの切換機構における係合相手部材との回転数差が小さくなり、その切換機構が係合を完了するまでの時間が短くなる。すなわち、変速に要する時間が短縮されて変速応答性が向上する。また、係合時に切換機構で吸収するべきエネルギ量が少なくなるので、切換機構の耐久性を向上させることができ、あるいは切換機構を小型化することができる。
また、請求項3の発明によれば、各反力機構が流体圧ポンプモータによって構成され、かつそれらが閉回路によって連通されているので、二つの駆動軸および伝動機構を経由して従動軸に動力を伝達する場合、各動力伝達経路における回転数の差が流体を介した動力の伝達によって吸収され、したがって容易に無段変速を行うことができる。また、いずれか一方の差動機構のみを動力の伝達に関与させる場合、その差動機構に連結されている流体圧ポンプモータに対する圧力流体の供給・排出を止めてこれをロックすればよく、したがって駆動軸に対する動力の伝達状態を維持するために特に動力を消費しないので、この点でも動力の伝達効率を向上させることができる。さらに、このようなロック状態は、他方の流体圧ポンプの押出容積を最小にして圧力流体の流動を阻止することにより行うことができるので、駆動軸に対する動力の伝達・遮断の制御が容易になる。
さらに、請求項4の発明によれば、差動機構における反力要素およびこれに連結されている反力機構もしくは流体圧ポンプモータを電気モータによって回転させ、もしくはその回転を制限し、これによって切換機構を同期させることができる。したがって、切換機構の同期制御を容易に行うことができ、また回転数を減じる場合には、エネルギ回生することができるので、エネルギ効率を向上させ、ひいては車両の燃費を向上させることができる。
そして、請求項5の発明によれば、電気モータで回生したエネルギを切換機構における同期のための回転数制御に使用できるので、切換機構に掛かる負荷を更に低減し、その耐久性を向上させることができ、あるいは小型化を図ることができる。また、同期のために消費するエネルギを削減して全体としてのエネルギ効率を向上させることができる。
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1にこの発明に係る変速機の一例をスケルトン図で示してあり、ここに示す例は、流体を介さずにトルクを伝達して設定できるいわゆる固定変速比として三つの前進段および一つの後進段を設定するように構成した例である。すなわち、動力源(E/G)1に入力部材2が連結されており、この入力部材2から第1遊星歯車機構3および第2遊星歯車機構4にトルクを伝達するように構成されている。
その動力源1は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってもよい。また、この動力源1と入力部材2との間にダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させてもよい。
各遊星歯車機構3,4がこの発明の差動機構に相当しており、第1遊星歯車機構3が入力部材2と同一軸線上に配置され、第2遊星歯車機構4が第1遊星歯車機構3の半径方向で外側に離隔し、それぞれの中心軸線を平行にした状態で並列に配置されている。これらの遊星歯車機構3,4としては、シングルピニオン型やダブルピニオン型などの適宜の形式の遊星歯車機構を採用することができる。図1に示す例はシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成した例であり、外歯歯車であるサンギヤ3S,4Sと、そのサンギヤ3S,4Sと同心円状に配置された内歯歯車であるリングギヤ3R,4Rと、これらサンギヤ3S,4Sとリングギヤ3R,4Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリヤ3C,4Cとを備えている。そして、第1遊星歯車機構3におけるリングギヤ3Rに前記入力部材2が連結され、このリングギヤ3Rが入力要素となっている。
また、入力部材2にはカウンタドライブギヤ5が取り付けられており、このカウンタドライブギヤ5にアイドルギヤ6が噛み合っているとともに、そのアイドルギヤ6にカウンタドリブンギヤ7が噛み合っている。このカウンタドリブンギヤ7は、前記第2遊星歯車機構4と同一軸線上に配置され、かつ第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rに、一体となって回転するように連結されている。したがって、第2遊星歯車機構4においては、そのリングギヤ4Rが入力要素となっている。各遊星歯車機構3,4の入力要素であるリングギヤ3R,4Rは、カウンタギヤ対がアイドルギヤ6を備えた構成であるから、同方向に回転するようになっている。
第1遊星歯車機構3におけるキャリヤ3Cは出力要素となっており、そのキャリヤ3Cに第1駆動軸8が、一体になって回転するように連結されている。この第1駆動軸8は中空軸であって、その内部をモータ軸9が回転自在に挿入されており、このモータ軸9の一端部が、第1遊星歯車機構3における反力要素であるサンギヤ3Sに、一体となって回転するように連結されている。
第2遊星歯車機構4も同様な構成であって、そのキャリヤ4Cが出力要素となっており、そのキャリヤ4Cに第2駆動軸10が、一体になって回転するように連結されている。この第2駆動軸10は中空軸であって、その内部をモータ軸11が回転自在に挿入されており、このモータ軸11の一端部が、第2遊星歯車機構4における反力要素であるサンギヤ4Sに、一体となって回転するように連結されている。
上記のモータ軸9の他方の端部が可変容量型ポンプモータ12の出力軸(ロータ軸)に連結されている。すなわち、この可変容量型ポンプモータ12が第1遊星歯車機構3のサンギヤ3Sに連結され、この発明の反力機構となっている。この可変容量型ポンプモータ12は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また吐出口もしくは吸入口から圧力流体を供給することにより、モータとして機能するようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ12を以下の説明では、第1ポンプモータ12と記し、図にはPM1と表示する。
また、モータ軸11の他方の端部が可変容量型ポンプモータ13の出力軸に連結されている。すなわち、この可変容量型ポンプモータ13が第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sに連結され、この発明の反力機構となっている。この可変容量型ポンプモータ13は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また吐出口もしくは吸入口から圧力流体を供給することにより、モータとして機能するようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ13を以下の説明では、第2ポンプモータ13と記し、図にはPM2と表示する。
各ポンプモータ12,13は、圧力流体である圧油を相互に受け渡すことができるように、油路14,15によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入口12S,13S同士が油路14によって連通され、また吐出口12D,13D同士が油路15によって連通されている。したがって各油路14,15によってこの発明における閉回路が形成されている。なお、各ポンプモータ12,13における吸入口12S,13Sは、各ポンプモータ12,13が前記動力源1と同方向に正回転する際にオイルなどの流体を吸入するポートであり、また吐出口12D,13Dは正回転時にオイルなどの流体を吐出するポートである。
上記の各駆動軸8,10と平行に、この発明の従動軸に相当する出力軸16が配置されている。そして、この出力軸16と各駆動軸8,10との間のそれぞれに、所定の変速比を設定する伝動機構が設けられている。この発明における伝動機構としては、固定された変速比で動力を伝達する機構に限らず、変速比が可変な機構を採用することができ、図1に示す例では、固定された変速比で動力を伝達する複数のギヤ対17,18,44が採用されている。具体的に説明すると、前記第1駆動軸8には、第2速駆動ギヤ17Aが一体となって回転するように設けられている。その第2速駆動ギヤ17Aに噛み合っている第2速従動ギヤ17Bが、出力軸16上に配置され、かつ出力軸16に対して回転自在に嵌合されている。
また、第1速駆動ギヤ18Aが、第2駆動軸10に一体となって回転するように設けられている。この第1速駆動ギヤ18Aに噛み合っている第1速従動ギヤ18Bが出力軸16に回転自在に嵌合して支持されている。また、第1速駆動ギヤ18Aに隣接して第3速駆動ギヤ44Aが設けられており、この第3速駆動ギヤ44Aは第2駆動軸10に一体となって回転するように取り付けられている。この第3速駆動ギヤ44Aに噛み合っている第3速従動ギヤ44Bが、出力軸16に回転自在に嵌合し、支持されている。したがって、第3速従動ギヤ44Bと前記第1速従動ギヤ18Bとは、出力軸16上で互いに隣接している。
さらに、発進用ギヤ対19が設けられている。この発進用ギヤ対19は、図1の上側の第1ポンプモータ12が流体圧モータとして機能した場合に、その出力トルクを出力軸16に伝達するためのものである。具体的には、モータ軸9に一体となって回転するように取り付けられている発進駆動ギヤ19Aと、この発進駆動ギヤ19Aに噛み合うとともに出力軸16に回転自在に嵌合させられた発進従動ギヤ19Bとによって構成されている。
上述した第1速用および第2速用の各ギヤ対18,17、および発進用のギヤ対19を、いずれかの駆動軸8,10と出力軸16との間、もしくはモータ軸9と出力軸16との間でトルク伝達可能な状態とするための切換機構が設けられている。この切換機構は、要は、選択的にトルクを伝達する機構であって、従来知られているドグクラッチ機構や同期連結機構(シンクロナイザー)などの機構を採用することができ、図1にはシンクロナイザーを採用した例を示してある。
シンクロナイザーは、基本的には、回転軸と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させて、その回転軸に対して相対回転するように取り付けられた回転部材(相手部材)のスプラインに係合させ、その過程でシンクロナイザーリングが回転部材に次第に摩擦接触して回転軸と回転部材とを同期させることにより、回転軸と回転部材とを連結するように構成されている。前記出力軸16上で、発進従動ギヤ19Bと第2速従動ギヤ17Bとの間に第1のシンクロナイザー(以下、第1シンクロと記す)20が設けられている。この第1シンクロ20は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、発進従動ギヤ19Bを出力軸16に連結し、発進用のギヤ対19によってモータ軸9と出力軸16との間でトルクを伝達させるように構成されている。また、第1シンクロ20のスリーブを図1の右側に移動させることにより、第2速従動ギヤ17Bを出力軸16に連結し、第2速用のギヤ対17によってモータ軸9と出力軸16との間でトルクを伝達させるように構成されている。
また、前記出力軸16上で、第1速従動ギヤ18Bと第3速従動ギヤ44Bとの間に第2のシンクロナイザー(以下、第2シンクロと記す)21が設けられている。この第2シンクロ21は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第1速従動ギヤ18Bを出力軸16に連結し、第1速用のギヤ対18によって第2駆動軸10と出力軸16との間でトルクを伝達させるように構成されている。また、第2シンクロ21のスリーブを図1の右側に移動させることにより、第3速従動ギヤ44Bを出力軸16に連結し、第3速用のギヤ対44によって第2駆動軸10と出力軸16との間でトルクを伝達させるように構成されている。
さらに、モータ軸11上には後進用同期連結機構(以下、リバース(R)シンクロと記す)45が設けられている。このリバースシンクロ45は、第2駆動軸10とモータ軸11とを選択的に連結するクラッチ機構であり、モータ軸11に設けたハブ22の外周部にスリーブを軸線方向に移動自在に係合させ、そのスリーブを図1の右方向に移動させることにより、第2駆動軸10に設けたスプラインに係合させるように構成されている。
これらのシンクロ20,21,45は、手動操作によって切り替え動作するように構成することができるが、これに替えていわゆる自動制御するように構成することもでき、その場合は、例えば前述したスリーブを軸線方向に移動させる適宜のアクチュエータ(図示せず)を設け、そのアクチュエータを電気信号に応じて動作させるように構成すればよい。
上述したように、図1に示す変速機は、動力源1が出力したトルクが、いずれかの駆動軸8,10もしくはモータ軸9,11を介して出力軸16に伝達されるように構成されている。そして、その出力軸16には、歯車機構あるいはチェーンなどの巻き掛け伝動機構などの伝動機構23を介してデファレンシャル24が連結され、ここから左右の車軸25に動力を出力するようになっている。
さらに、変速機の動作状態を検出するためのセンサが設けられている。具体的には、前述した入力部材2もしくはこれと一体のカウンタドライブギヤ5の回転数を検出する入力回転数センサ26、前記車軸25の回転数を検出する出力回転数センサ27、第1ポンプモータ12の回転数を検出する回転数センサ28、第2ポンプモータ13の回転数を検出する回転数センサ29などが設けられている。
上述したように各ポンプモータ12,13は全体として閉回路となるように油路14,15によって連通されているが、不可避的な漏洩による圧油の不足や圧力低下による気泡の発生などを防止するために、チャージポンプ(ブーストポンプと称されることもある)30が設けられている。このチャージポンプ30は、前述した動力源1や図示しないモータなどによって駆動されて、オイルパン31からオイルを汲み上げて閉回路に供給するようになっている。
したがって、チャージポンプ30の吐出口は、前記閉回路における油路14と油路15とにそれぞれチェック弁32,33を介して連通されている。なお、これらのチェック弁32,33は、チャージポンプ30からの吐出方向に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。さらに、チャージポンプ30の吐出圧を調整するためのリリーフ弁34が、チャージポンプ30の吐出口に連通されている。このリリーフ弁34は、スプリングによる弾性力とパイロット圧もしくはソレノイドによる押圧力との和より高い圧力が作用した場合にドレインポートを開いてオイルをオイルパン31に排出するように構成されている。
上記の各ポンプモータ12,13の押出容積や各シンクロ20,21,45の切換動作を電気的に制御できるように構成されており、そのための電子制御装置(ECU)40が設けられている。この電子制御装置40は、マイクロコンピュータを主体にして構成されたものであって、前記各センサ26,27,28,29からの信号や他の検出信号が入力され、それらの入力された信号および予め記憶している情報ならびにプログラムに基づいて演算を行い、その演算結果に応じて指令信号を出力するように構成されている。
さらに、各遊星歯車機構3,4における反力要素にトルクを伝達してこれを回転させ、あるいは制動する機構が設けられている。その機構は、各反力要素に直接、および個別にトルクを伝達するように、それぞれに対応して動力装置を設けて構成することができるが、図1に示す例では、一つの電気モータ46と差動機構47とによって構成されている。その電気モータ46は、電力が供給されて動力を出力するいわゆる力行と、外力によって強制的に回転させられて発電するエネルギ回生とが可能であって、モータ・ジェネレータ(MG)として機能するものである。この電気モータ46は、図示しないインバータを介して蓄電装置に接続されている。また、差動機構47は図1に示す例ではシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されており、そのキャリヤ47Cに電気モータ46が連結されている。
また、上記の電気モータ46のトルクを前述した各遊星歯車機構3,4の反力要素であるサンギヤ3S,4Sに直接伝達する構成に替えて、図1に示す構成では、ポンプモータ12,13を介してトルクを伝達するようになっている。すなわち、差動機構47のリングギヤ47Rがいずれか一方のポンプモータ12(または13)に連結され、サンギヤ47Sが他方のポンプモータ13(または12)に連結されている。
つぎに、上述した変速機の作用について説明する。図2は、各変速段を設定する際の各油圧ポンプモータ(PM1,PM2)12,13、および各シンクロ20,21,45の動作状態をまとめて示す図表であって、この図2における各ポンプモータ12,13についての「MAX」は、押出容積が最大であることを示し、「0」は押出容積が最小もしくはゼロであることを示す。また、シンクロ20,21,45についての「N」はトルクを伝達しない解放状態(スリーブが中立位置)であることを示し、「左」はスリーブが図1の左側に移動させられて係合状態であることを示し、さらに「右」はスリーブが図1の右側に移動させられて係合状態であることを示す。また、カギ括弧はアップシフト待機状態を設定するためのスリーブの位置を示し、丸括弧はダウンシフト待機状態を設定するためのスリーブの位置を示す。「1−2」のようにハイフンで繋いでいるのは、各固定変速比の中間の変速比を設定している状態を示す。
ニュートラルポジションが選択されてニュートラル(N)状態では、各油圧ポンプモータ12,13は押出容積がゼロとされ、また各シンクロ20,21,45は解放状態とされる。すなわち、それぞれのスリーブが中央位置に設定される。したがって、各ポンプモータ12,13は空転する状態になって反力を発生することがなく、また各駆動軸10,11と出力軸16との間でトルクの伝達は生じない。
シフトポジションがドライブポジションなどに切り換えられることによって車両が発進する場合には、先ず、第1シンクロ20と第2シンクロ21のスリーブ20S,21Sが図1の左側に移動させられ、発進従動ギヤ19Bが出力軸16に連結され、また第1速従動ギヤ18Bが出力軸16に連結される。この状態では車両が停止しているので、第1遊星歯車機構3ではそのサンギヤ3Sが固定され、かつリングギヤ3Rに動力が入力されるが、キャリヤ3Cが空転するので、第1ポンプモータ12の押出容積を最大にしても、第1遊星歯車機構3は動力の伝達作用を行わない。一方、第1遊星歯車機構4では、第1速ギヤ対18を介して出力軸16に連結されているキャリヤ4Cが固定されている状態でリングギヤ4Rに動力が入力されているので、反力要素であるサンギヤ4Sには、リングギヤ4Rとは反対方向に回転させるトルクが作用している。その場合、第2ポンプモータ13の押出容積を最小もしくはゼロに設定しておくことにより、これが空転してサンギヤ4Sに反力が作用しないので、第2遊星歯車機構4を介した出力軸16への動力の伝達は生じない。
このようないわゆる発進待機状態で第2ポンプモータ13の押出容積を次第に増大させ、それに合わせて第1ポンプモータ12の押出容積を最大から次第に減少させると、先ず、第2ポンプモータ13がポンプとして機能し、油圧を発生する。それに伴う反力が第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sに作用するので、第2遊星歯車機構4はリングギヤ4Rに入力されている動力とサンギヤ4Sに使用している反力とを合成した動力をキャリヤ4Cから出力し、これが第1速ギヤ対18を介して出力軸16に伝達される。一方、第2ポンプモータ13で発生した圧油が油路14を介して第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sに供給される。そのため、第1ポンプモータ12がモータとして機能して正回転し、その出力トルクが発進用ギヤ対19を介して出力軸16に伝達される。すなわち、各ポンプモータ12,13を介して油圧による動力伝達が生じる。
このように、第2遊星歯車機構4および第1速ギヤ対18を介したいわゆる機械伝動による動力伝達と、油圧を介していわゆる流体伝動による動力伝達が生じ、これらの動力を合成した動力が出力軸16に伝達される。そして、そのトルクは、流体伝動による伝達割合が多いほど大きく、第1速ギヤ対18のギヤ比に基づいて決まる変速比でのトルクより大きくなる。すなわち、固定変速比である第1速の変速比より大きい変速比が設定される。また、流体伝動による動力の伝達は、第1ポンプモータ12の押出容積を次第に減少させ、かつ第2ポンプモータ13の押出容積を次第に増大させることにより減少する。それに伴って出力軸16のトルクが次第に低下する。すなわち、変速比が固定変速比である第1速に向けて連続的に変化し、いわゆる無段変速が行われる。そして、第1ポンプモータ12の押出容積が次第に最小もしくはゼロになり、かつ第2ポンプモータ13の押出容積が最大になることにより、第2ポンプモータ13における圧油の吸入・吐出が生じなくなって第2ポンプモータ13がロックされ、固定変速比である第1速が設定される。その場合、第1ポンプモータ12は押出容積が最小もしくはゼロとなっていることにより空転し、流体伝動は生じない。
この第1速の状態で第1シンクロ20をニュートラル状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ20Sを中立位置に設定すれば、第1ポンプモータ12を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第2シンクロ21のスリーブ21Sを図1の左側に移動させたまま、第1シンクロ20のスリーブ20Sを図1の右側に移動させて、第2カウンタギヤ対17のドリブンギヤ17Bを出力軸16に連結すれば、第1遊星歯車機構3の出力要素であるキャリヤ3Cが出力軸16に連結されるので、固定変速比である第2速へのアップシフト待機状態となる。一方、第1および第2のシンクロ20,21の各スリーブ20S,21Sを、共に、図1の左側に移動させておけば、第1速より大きい変速比を設定するダウンシフト待機状態となる。
第1速から第2速へのアップシフト待機状態では第1ポンプモータ12およびこれに連結されているサンギヤ3Sがリングギヤ3Rとは反対の方向に回転している。したがって第1ポンプモータ12の押出容積を増大させると、第1ポンプモータ12がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤ3Sに作用する。その結果、リングギヤ3Rに入力されたトルクとサンギヤ3Sに作用する反力とを合成したトルクがキャリヤ3Cに作用し、これが正回転し、かつその回転数が次第に増大する。言い換えれば、エンジン1の回転数が次第に引き下げられる。そのキャリヤ3Cから第2速ギヤ対15を介して出力軸16にトルクが伝達される。
第1ポンプモータ12がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入ポート12Sから第2ポンプモータ13の吸入ポート13Sに供給される。そのため、第2ポンプモータ13がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sに作用する。第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rにはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤ4Sに作用するトルクとが合成されてキャリヤ4Cから第2駆動軸10に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、出力軸16にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。そして、第1ポンプモータ12の回転数が次第に低下することにより、第1遊星歯車機構3および第2速ギヤ対17を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機の全体としての変速比は、第1速ギヤ対18で決まる変速比から第2速ギヤ対17で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第1ポンプモータ12の押出容積が最大まで増大することにより、固定変速比である第2速となる。
この状態で第2ポンプモータ13の押出容積がゼロに設定されるので、第2ポンプモータ13が空転するとともに、第1ポンプモータ12がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ12,13を連通させている閉回路が第2ポンプモータ13によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第1ポンプモータ12は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第1遊星歯車機構3のサンギヤ3Sにはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第1遊星歯車機構3ではサンギヤ3Sを固定した状態でリングギヤ3Rに動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤ3Cにはこれをリングギヤ3Rと同方向に回転させるトルクが生じ、これが第2速ギヤ対17を介して、出力軸16に伝達される。こうして固定変速比である第2速が設定される。
この第2速の状態で第2シンクロ21をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ20Sを中立位置に設定すれば、第2ポンプモータ13を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第2シンクロ21のスリーブ21Sを図1の右側に移動させて第3速従動ギヤ44Bを出力軸16に連結すれば、固定変速比である第3速へのアップシフト待機状態となる。一方、第2シンクロ21のスリーブ21Sを図1の左側に移動させて第1速従動ギヤ18Bを出力軸16に連結しておけば、第1速へのダウンシフト待機状態となる。
第2速から第3速へのアップシフト待機状態では第2ポンプモータ13およびこれに連結されているサンギヤ4Sがリングギヤ4Rとは反対の方向に回転している。したがって第2ポンプモータ13の押出容積を増大させると、第2ポンプモータ13がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤ4Sに作用する。その結果、リングギヤ4Rに入力されたトルクとサンギヤ4Sに作用する反力とを合成したトルクがキャリヤ4Cに作用してこれが正回転し、そのトルクが第2駆動軸10および第3速ギヤ対44を介して出力軸16に伝達される。また、変速比の低下に伴ってエンジン1の回転数が次第に引き下げられる。
第2ポンプモータ13がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入ポート13Sから第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sに供給される。そのため、第1ポンプモータ12がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第1遊星歯車機構3のサンギヤ3Sに作用する。第1遊星歯車機構3のリングギヤ3Rにはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤ3Sに作用するトルクとが合成されてキャリヤ3Cから第2カウンタギヤ対12を介して出力軸16に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、出力軸16にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。そして、第2ポンプモータ13の回転数が次第に低下することにより、第2遊星歯車機構4および第3速ギヤ対44を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機の全体としての変速比は、第2速ギヤ対17で決まる変速比から第3速ギヤ対44で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合や第1速から第2速にアップシフトする場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第2ポンプモータ13の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第3速となる。
この状態で第1ポンプモータ12の押出容積が最小もしくはゼロに設定されるので、第1ポンプモータ12が空転するとともに、第2ポンプモータ13がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ12,13を連通させている閉回路が第1ポンプモータ12によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第2ポンプモータ13は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sにはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第2遊星歯車機構4ではサンギヤ4Sを固定した状態でリングギヤ4Rに動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤ4Cにはこれをリングギヤ4Rと同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1駆動軸10および第3速ギヤ対44を介して、出力軸16に伝達される。こうして固定変速比である第3速が設定される。
つぎに後進段について説明する。シフトポジションがニュートラルポジションからリバースポジションに切り換えられるなどのことによって後進段を設定する指示が行われると、第1シンクロ20のスリーブ20Sが図1の左側に移動させられて発進用ギヤ対19がモータ軸9と出力軸16との間でトルク伝達可能な状態になり、またリバースシンクロ45が図1の右側に移動させられて、モータ軸11と第2駆動軸10、すなわち第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sとキャリヤ4Cとが連結され、第2遊星歯車機構4の全体が一体化される。したがって、第2ポンプモータ13は第2遊星歯車機構4を介してエンジン1によって直接駆動されている状態になる。
この状態で第2ポンプモータ13の押出容積をゼロもしくは最小から次第に増大させると、第2ポンプモータ13はいわゆる正回転して油圧を発生し、その圧油が吐出口13Dから油路15を介して第1ポンプモータ12の吐出口12Dに供給される。そのため、第1ポンプモータ12が前進走行時とは反対に逆回転して、そのトルクをモータ軸9に出力する。そして、このモータ軸9から発進用ギヤ対19を介して出力軸16にトルクが出力されるが、その方向が前進走行時とは反対になるので、車両が後進走行する。すなわち、後進時には流体伝動によってトルクが伝達される。また、変速比は、ポンプモータ12,13の押出容積の変化に応じて変化するので、無段変速となる。
上述したように図1に示す変速機では、流体伝動を伴わずに設定できるいわゆる固定変速比として前進3段・後進1段の変速比を設定でき、またそれらの固定変速比の間の変速比を連続的に設定でき、したがって全体として変速比幅の広い無段変速を行うことができる。また、上記の変速機で前進段としての各固定変速比を設定する場合、いずれかのポンプモータ12,13の押出容積をゼロにし、それに伴って他のポンプモータ12,13をロックするから、これらの固定変速比では流体伝動が行われない。すなわち、エネルギ形態の変換を行うことなく動力を伝達することができ、かつ動力の伝達経路を動力伝達可能な状態に維持するために特にエネルギを必要としないので、動力の伝達効率を従来になく向上させることができる。
上記の変速機では、固定変速比である第1速と第2速との間で変速を行う場合に、第1シンクロ20のスリーブ20Sを発進用従動ギヤ19Bと第2速従動ギヤ17Bとの間で切り換え、また固定変速比である第2速と第3速との間での変速を行う場合に、第2シンクロ21のスリーブ21Sを第1速従動ギヤ18Bと第3速従動ギヤ44Bとの間で切り換えることになる。これらの変速の際において、アップシフト待機状態もしくはダウンシフト待機状態を設定するべく各シンクロ20,21が係合する相手部材である各従動ギヤ17B,18B,19B,44Bは、各シンクロ20,21とは異なる回転数で回転している。
これを第2速から第3速へのアップシフト待機状態を設定する場合を例に採って説明すると、図3はその場合の各遊星歯車機構3,4についての共線図を示している。例えば固定変速比に対する中間変速比である1.5速から2.5速にアップシフトする場合、固定変速比である第2速が達成された状態で第2シンクロ21が切り換えられる。第2速は、前述したように、第1ポンプモータ12をロックして設定されるので、第1遊星歯車機構3についての共線図は、図3の右側に太線で示すようになる。そのキャリヤ3Cが第2速ギヤ対17を介して出力軸(OUT)16に連結されているので、その時点の出力軸16の回転数は、点P1で示す回転数となる。
一方、第2遊星歯車機構4の動作状態は図3の左側に太線で示すとおりであり、第2シンクロ21が第1速従動ギヤ18Bに係合しているので、第2遊星歯車機構4のキャリヤ4Cが出力軸16からトルクを受けて正回転している。そのためにそのサンギヤ4Sおよびこれに連結されている第2ポンプモータ13が正回転している。これに対して、第3速従動ギヤ44Bは、第2駆動軸10に取り付けられている第3速駆動ギヤ44Aに噛み合って回転しているので、図3の左側に破線で示すように、その回転数は点P2で示す回転数となっており、これは、第1速従動ギヤ18Bおよびこれに係合している第2シンクロ21の回転数より低い回転数である。
第2シンクロ21を第1速ギヤ対18側から第3速ギヤ対44側に切り換える場合、各従動ギヤ18B,44Bの回転数の差を吸収して第2シンクロ21と第3速従動ギヤ44Bとを回転同期させる必要があり、この発明に係る上記の変速機では、このような回転同期を前述した電気モータ46によって行うように構成されている。その回転同期制御の一例を図4のフローチャートを参照して説明する。
先ず、最終目標変速比γtgtが算出される(ステップS1)。これは、例えば従来の車両用自動変速機における変速制御と同様に、車速や要求駆動力(スロットル開度)および予め設定してある変速マップに基づいて行うことができ、あるいはエンジン1を最適燃費点の回転数にする要求や手動操作に基づく変速比指示に基づいて行うことができる。ついて、フラグXchgがONか否かが判断される(ステップS2)。このフラグXchgは制御開始時にOFFになっており、その場合は、ステップS3に進んで目標変速比γtgtが現時点の変速比γnow以上か否かが判断される。
このステップS3で肯定的に判断された場合には、ダウンシフトを行うべき状態であり、したがって出力変速比γoutとして、現時点の変速比γnowに所定の値Δγを加えた値が設定される(ステップS4)。これに対して、ステップS3で否定的に判断された場合には、アップシフトを行うべき状態であり、したがって出力変速比γoutとして、現時点の変速比γnowから所定の値Δγを減じた値が設定される(ステップS5)。なお、ここで所定値Δγは、変速速度もしくは変速比の変化勾配を規定するものであって、予め定めておくことができる。
前述したようにこの発明に係る変速機は、機械伝動と流体伝動との割合に応じて変速比が決まるから、設定するべき変速比およびその場合のトルク伝達可能なギヤ対が決まれば、各ポンプモータ12,13を介して伝達するべきトルクが定まる。そこで、ステップS4もしくはステップS5で求められた変速比を設定するための各ポンプモータ12,13の押出容積が、ステップS6で算出される。そして、この押出容積を設定するように各ポンプモータ12,13についての制御指令信号が出力される(ステップS7)。
ついで、現時点の変速比が固定変速比である第1速(γ1st)になっているか否かが判断される(ステップS8)。このステップS8で否定的に判断された場合には、現時点の固定変速比である第2速(γ2nd)になっているか否かが判断される(ステップS9)。なお、これらの判断は、入力部材2の回転数と出力軸16の回転数との比に基づいて行うことができる。これらステップS8およびステップS9のいずれでも否定的に判断された場合には、リターンする。
一方、現時点の変速比γnowが第1速γ1stであることによりステップS8で肯定的に判断された場合には、インデックスidが「1」にセットされる(ステップS10)。また、現時点の変速比γnowが第2速γ2ndであることによりステップS8で否定的に判断され、かつステップS9で肯定的に判断された場合には、インデックスidが「2」にセットされる(ステップS11)。これらステップS10もしくはステップS11のいずれかが実行された後、フラグXchgがONとなる(ステップS12)。
前述した図2に示すように、固定変速比である第1速において、アップシフトもしくはダウンシフトに備えるために、第1シンクロ20の切り換えが行われ、また第2速においては第2シンクロ21の切り換えが行われる。それらの切り換えの際の回転同期は、ポンプモータ12,13が連結されているいずれかのサンギヤ3S,4Sの回転数を、先ず、ゼロまで減少させ、その後に同期回転数まで増速することになる。このような回転数の変化は、各サンギヤ3S,4Sに連結されているポンプモータ12,13の回転数を変化させることにより実行され、これは、具体的には、前記電気モータ46を回生・力行させることにより実行される。すなわち、回転数をゼロまで低下させる際に電気モータ46を回生制御してポンプモータ12,13を制動し、回生された電力を蓄電装置に蓄えるようになっている。また、ポンプモータ12,13およびこれに連結されているサンギヤ3S,4Sを同期回転数まで増速する場合には、電気モータ46を力行制御してポンプモータ12,13を強制的に回転させる。
このような回生および力行の際の各エネルギ量と、回生エネルギと力行で消費するエネルギとがバランスする目標回転数Npmとが算出される(ステップS13)。一般的に、一定のトルクTconstで回生を行えば、現在の回転数Npmが一定の勾配で低下するので、回生エネルギは現在の回転数Npmに一定トルクTconstを掛けた値の半分に比例すると仮定できる。したがって例えば、回生エネルギ(回生P)は、ポンプモータ12,13の現在の回転数(回転速度)Npmに、回生の際のトルクとして予め定めた一定のトルクTconstを掛け、これに所定の係数を掛けて得られる。なお、この係数は、回生効率などを含む値であって、実験などによって予め定めておくことができる。また、回生したエネルギを使用してポンプモータ12,13をモータとして駆動した場合の駆動エネルギ(駆動P)は、上記の回生エネルギに、電気的な効率η1と機械的な効率η2とを掛けて求めることができる。なお、これらの効率η1,η2は、実験などによって予め求めておくことができる。そして、回生と力行とによるエネルギ収支がゼロになる回転数である目標Npmは、駆動エネルギ(駆動P)を所定の係数と一定トルクTconstとで除算した値となり、結局、これは、現在の回転数Npmに各効率η1,η2とを掛けて求められる。
ステップS13の制御により電気モータ46が回生制御および力行制御が実行され、制御ルーチンはリターンする。電気モータ46を使用した回転同期制御が開始されると、フラグXchgがONになっているので、再度ステップS2に到った場合には、ここで肯定的に判断される。その場合は、ステップS14に進んで現時点の変速比γnowが最終目標変速比γtgt以上になっているか否かが判断される。このステップS14で肯定的に判断された場合には、現時点の変速比γnowが最終目標変速比γtgtまで低下していないことにより、アップシフトするべき状態にあることになる。したがって、ステップS15では、前記インデックスidで示される変速段より一つ低速側の固定変速比(id−1)を設定するシンクロ(sync(id-1))がOFFに制御される。
具体的には、アップシフト時に第1速を通過する場合には発進用ギヤ対19をトルク伝達可能にしている第1シンクロ20がOFFにされ、またアップシフト時に第2速を通過する場合には、第1速ギヤ対18をトルク伝達可能な状態にしている第2シンクロ21がOFFにされる。ステップS15では、また、シンクロの切り換え先の固定変速比jとして、前記インデックスidに「1」を加えた変速比が設定される。具体的には、第1速を通過する場合には、シンクロの切り換え先固定変速比jが第2速となり、第2速を通過する場合には、シンクロの切り換え先固定変速比jが第3速となる。さらに、ステップS15では、電気モータ46のトルクの方向sigが負(−1)に設定される。
これとは反対にステップS14で否定的に判断された場合には、現時点の変速比γnowが最終目標変速比γtgtより高速段側にあから、ダウンシフトするべき状態にあることになる。したがって、ステップS16では、前記インデックスidで示される変速段より一つ高速側の固定変速比(id+1)を設定するシンクロ(sync(id+1))がOFFに制御される。具体的には、ダウンシフト時に第1速を通過する場合には第2速ギヤ対17をトルク伝達可能にしている第1シンクロ20がOFFにされ、またダウンシフト時に第2速を通過する場合には、第3速ギヤ対44をトルク伝達可能な状態にしている第2シンクロ21がOFFにされる。また、ステップS15では、シンクロの切り換え先の固定変速比jとして、前記インデックスidから「1」を減じた変速比が設定される。具体的には、第1速を通過する場合には、シンクロの切り換え先が発進状態になり、第2速を通過する場合には、シンクロの切り換え先固定変速比jが第1速となる。さらに、ステップS15では、電気モータ46のトルクの方向sigが正(+1)に設定される。
上記のステップS15もしくはステップS16の処理を行った後、それぞれで求められた切り換え先の相手部材にシンクロを係合させたとした場合のサンギヤ3S,4Sの回転数すなわち目標Ns(j)が算出される(ステップS17)。これは、エンジン1の回転数Neと、車速もしくは出力軸16の回転数Noと、切り換え後の変速比γ(j)とに基づいて算出することができる。
ついで、現在のサンギヤ回転数Nsが、前記ステップS13で算出した目標Npm(エネルギ収支がゼロになる回転数)に到達したか否かが判断される(ステップS18)。なお、そのサンギヤ回転数Nsは、図1に示す回転数センサ28,29によって検出することができる。このステップS18で否定的に判断された場合には、サンギヤ回転数Nsが、上記のステップS17で算出した目標Ns(j)に到達したか否か、すなわち最終目標回転数に到達したか否かが判断される(ステップS19)。そして、このステップS19で否定的に判断された場合には、電気モータ46を使用した回転同期制御が目標に達していないことになるので、電気モータ46のトルクTmgとして、前記ステップS15もしくはステップS16で求められた方向sigに一定トルクTconstを出力させ(ステップS20)、リターンする。
このような制御を継続することにより、サンギヤ回転数Nsが、エネルギ収支がゼロになる回転数である目標Npmに到達し、ステップS18で肯定的な判断が成立する。その場合、サンギヤ回転数Nsが、上記のステップS17で算出した目標Ns(j)に到達したか否か、すなわち最終目標回転数に到達したか否かが判断される(ステップS21)。これは、前述したステップS19と同様の判断である。このステップS21で肯定的に判断された状態は、回生したエネルギを消費し終わってしまい、かつ同期に到っていない状態であり、したがってこの場合は、前記ステップS15もしくはステップS16で求められた固定変速比jを設定するシンクロSync(j)がONに切り換えられ、また電気モータ46のトルクTmgがゼロに設定される(ステップS22)。すなわち、回生したエネルギを消費し終わった後は、シンクロによって同期回転数まで回転数を変化させる。
一方、ステップS21で肯定的に判断された場合、すなわちサンギヤ回転数Nsが最終目標回転数に到達した場合には、フラグXchgがOFFに切り換えられ(ステップS23)、その後、ステップS22に進んで制御が終了する。なお、前述したステップS19で肯定的に判断された場合も同様である。
上述した各シンクロ20,21,45の切り換え制御および各ポンプモータ12,13の押出容積の制御、ならびに電気モータ46の制御は、前述した電子制御装置40によって行うことができる。したがって、この電子制御装置40がこの発明における電気モータ制御手段に相当している。
したがって、上述したこの発明に係る変速機では、シンクロを係合させる場合、相手部材の回転数と同期させるための回転数の変化を電気モータの制動力や駆動力を利用して行うので、シンクロに掛かる負荷を低減でき、その結果、シンクロを小型化でき、あるいは容量の小さいものとすることができる。また、シンクロを切り換え動作させる前から同期制御を開始できるので、シンクロが切り換え動作し始めてから係合するまでの時間すなわち変速時間を短縮でき、その結果、全体としての変速応答性を向上させることができる。さらに、上述したようにエネルギを回生するとともに、回生したエネルギを使用すれば、実質的な動力を消費することなく同期制御を行うことができ、車両の燃費の向上に有利になる。
ここで、中間変速比である1.5速と2.5速との間で変速を行い、その過程の第2速でシンクロの切り換えを行う場合の制御例を説明すると、図5はそのタイムチャートであり、中間変速比では各ポンプモータ12,13が共に最大押出容積に設定されており、その状態でアップシフトの判断が成立すると(t1時点)、第2ポンプモータ12の押出容積が次第に減少させられ、それに伴って変速比が第2速に向けて次第に低下する。また、第1遊星歯車機構3におけるサンギヤ3Sの回転数NS1および第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sの回転数NS2が次第に増大する。こうして第2速の変速比に達すると(t2時点)、第2ポンプモータ13の押出容積がゼロになって第1ポンプモータ12がロックされ、また第2シンクロ21がOFF制御されて第1速従動ギヤ18Bが出力軸16から切り離される。
これと同時に同期制御が開始され、電気モータ46のトルクが負の一定トルクに設定される。それに伴ってエネルギが回生され、また第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sの回転数NS2が次第に低下する。そして、その回転数NS2がゼロなったときに(t3時点)、第2シンクロ21のスリーブ21Sを第3速従動ギヤ44B側に切り換える制御が開始される。第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sの回転数NS2がゼロになった後は、その回転数を増大させることになるので、電気モータ46はトルクを出力して力行することになる。これは、回生して蓄えた電力を使用して行われ、その電力がほぼゼロになった時点(t4時点)に、第2シンクロ21のスリーブ21Sが第3速従動ギヤ44Bに係合する。その後は、第2シンクロ21の同期機能により第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sの回転数NS2が同期回転数に向けて変化し続ける。
そして、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sの回転数NS2が同期回転数に達すると(t5時点)、第2ポンプモータ12の押出容積が増大し始め、それに伴って第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sの回転数NS2(負側の回転数)が幾分減少するとともに、第1遊星歯車機構3のサンギヤ3Sの回転数NS1が増大し始める。こうして変速比が2.5速に向けて次第に低下し、第2ポンプモータ13の押出容積が最大になった時点(t6時点)に2.5速が設定される。
一方、2.5速から1.5速に変速する過程における第2速でシンクロの切り換えを行う場合には、上記の例とは反対の制御が実行される。すなわち、t7時点にダウンシフトの判断が成立すると、第2ポンプモータ13の押出容積が最大から次第に低下させられ、その押出容積がほぼゼロになると(t8時点)、第2速の変速比になる。これと同時に第2シンクロ21のスリーブ21Sが中立位置に戻されて第3速従動ギヤ44Bが出力軸16から切り離され、また電気モータ46によるエネルギ回生が開始される。そのため、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sの回転数NS2が同期回転数に向けて次第に増大し始め、その過程で回転数がゼロになった時点(t9時点)に、第2シンクロ21のスリーブ21Sを第1速従動ギヤ18B側に移動させる制御が開始され、また電気モータ46が回生から力行に切り換えられる。
そして、回生した電力を消費し尽くした時点(t10時点)に第2シンクロ21のスリーブ21Sが第1速従動ギヤ18Bに係合する。その直後のt11時点に完全に係合して同期回転数に達し、これと同時に第2ポンプモータ13の押出容積が次第に増大させられる。それに伴って変速比が次第に増大し、t12時点に目標変速比である1.5速になる。
ところで、同期制御のために前記電気モータ46を動作させる場合、いずれか一方のポンプモータ12,13はロックされている。したがって、差動機構47とポンプモータ12,13および電気モータ46との連結の仕方によっては差動機構47を減速機として機能させ、容量の小さい電気モータ46で同期制御を行うことができる。その例を図6に示してある。
ここに示す例は、差動機構47のリングギヤ47Rをいずれか一方のポンプモータ12(または13)に連結し、キャリヤ47Cを他方のポンプモータ13(または12)に連結し、さらにサンギヤ47Sを電気モータ46に連結し、他の構成は図1に示す構成と同様にしたものである。このように構成した場合の差動機構47における各回転要素の間の回転数比は、差動機構47のギヤ比(サンギヤ47Sの歯数とリングギヤ47Rの歯数との比)をρとした場合、キャリヤ回転数Ncとサンギヤ回転数Nsとの比は、
Ns/Nc=(1+ρ)/ρ
となり、またリングギヤ回転数Nrとサンギヤ回転数Nsとの比は、
Ns/Nr=−1/ρ
となる。ここで、ρ=0.5とすれば、
Ns/Nc=3.0
Ns/Nr=−2.0
となり、大きい減速比を得ることができる。したがって、電気モータ46の出力トルクがある程度小さくても、ポンプモータ12,13やこれに連結されているサンギヤ3S,4Sなどを充分に制動し、また回転させることができるので、電気モータ46を小型化することができる。
なお、この発明は上述した各具体例に限定されないのであって、この発明における同期補助機構は、電気モータと差動機構とによって構成する以外に、摩擦ブレーキなどの制動機構を併用した構成、電気モータを流体圧モータに置換した構成、減速機を追加した構成、差動モータを使用した構成などを採用してもよい。また、この発明では、反力機構として流体圧ポンプモータに替えて電気的に制御できるモータ・ジェネレータを採用してもよい。さらに、この発明における伝動機構は、歯車による機構以外に、例えばローラーチェーンとスプロケットホイールとによるローラーチェーン伝動装置、あるいはベルトとプーリとによるベルト伝動装置などの巻き掛け伝動機構によって構成してもよい。さらに、この発明で差動作用のある歯車機構を用いる場合、シングルピニオン型遊星歯車機構に替えて例えばダブルピニオン型遊星歯車機構を用いるとができ、あるいは更に他の構成の差動歯車機構によって構成することもできる。またさらに、動力源は一方の差動機構に直接連結する替わりに、前述したカウンタギヤ対のアイドルギヤに連結してもよい。
また、この発明で対象とする変速機におけるギヤトレーンは、前述した図1あるいは図6に示す構成に限られないのであり、したがってこの発明で対象とする変速機は、固定変速比としての前進段が4段以上であってもよく、あるいは2段であってもよい。さらに、図1および図6に示す構成は、フロントエンジン・フロントドライブ車に適した構成となっているが、この発明では、出力軸もしくはこれと平行な軸線の延長方向にプロペラシャフトなどの他の動力伝達部材を連結するように構成し、フロントエンジン・リヤドライブ車への車載性の良いものとすることもできる。
この発明に係る変速機の一例を模式的に示すスケルトン図である。 図1に示す変速機で各変速比を設定するためのポンプモータおよび各シンクロの動作状態をまとめて示す図表である。 第2速の状態で第3速へのアップシフト待機状態を設定する際の各遊星歯車機構についての動作を説明するための共線図である。 この発明による同期制御の一例を説明するためのフローチャートである。 第2速での同期制御を行った場合の各動作状態の変化を示すタイムチャートである。 この発明に係る変速機の他の例を模式的に示すスケルトン図である。
符号の説明
1…動力源(E/G)、 2…入力部材、 3…第1遊星歯車機構、 4…第2遊星歯車機構、 8…第1駆動軸、 9…モータ軸、 10…第2駆動軸、 11…モータ軸、 12…可変容量型ポンプモータ(第1ポンプモータ)、 13…可変容量型ポンプモータ(第2ポンプモータ)、 16…出力軸、 17…第1速用ギヤ対、 18…第2速用ギヤ対、 19…発進用ギヤ対、 20…シンクロナイザー(第1シンクロ)、 21…シンクロナイザー(第2シンクロ)、 40…電子制御装置(ECU)、 44…第3速用ギヤ対、46…電気モータ。

Claims (5)

  1. 複数の駆動軸と従動軸との間に、所定の変速比を設定するための伝動機構がそれぞれ設けられるとともに、各伝動機構を選択的にトルク伝達可能にする切換機構が設けられ、動力源からいずれかの駆動軸に動力を伝達するとともに該駆動軸に前記切換機構によって連結されている伝動機構を介して前記従動軸に動力を出力する車両用変速機において、
    前記動力源から動力が伝達される入力要素、およびいずれかの前記駆動軸に対して動力を出力する出力要素、ならびに反力要素を回転要素とした第1差動機構と、
    その反力要素に連結されて反力を選択的に発生する第1反力機構と、
    前記動力源から動力が伝達される他の入力要素、および他の前記駆動軸に対して動力を出力する他の出力要素、ならびに他の反力要素を回転要素とした第2差動機構と、
    前記他の反力要素に連結されて反力を選択的に発生する第2反力機構と、
    少なくともいずれか一方の差動機構における反力要素にトルクを与える同期補助機構と
    を備えていることを特徴とする車両用変速機。
  2. 前記同期補助機構は、トルクを伝達していない解放状態のいずれかの前記切換機構をトルクを伝達する係合状態に切り換える際に該切換機構による係合相手部材との回転数差が小さくなる方向に、前記切換機構に繋がっているいずれかの差動機構における反力要素にトルクを伝達する機構を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用変速機。
  3. 前記各反力機構は、圧力流体を循環させる閉回路で相互に連通された、押出容積を変化させることのできる可変容量型流体圧ポンプモータから構成され、いずれか一方の流体圧ポンプモータの押出容積を最小にすることにより他方の流体圧ポンプモータの回転が阻止されるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用変速機。
  4. 前記同期補助機構は、エネルギ回生と動力の出力とが可能な電気モータを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用変速機。
  5. 前記電気モータにエネルギ回生を行わせて前記反力要素に減速方向のトルクを与えることにより前記反力要素の回転数を低下させた後、回生したエネルギによって前記電気モータから動力を出力させて前記反力要素に増速方向のトルクを与えることにより前記反力要素の回転数を回転数低下時とは反対方向に増大させる電気モータ制御手段を更に備えていることを特徴とする請求項4に記載の車両用変速機。
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