JP2006234782A - 電子捕獲解離反応装置及び電子捕獲解離を備えた質量分析装置 - Google Patents

電子捕獲解離反応装置及び電子捕獲解離を備えた質量分析装置 Download PDF

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Abstract

【課題】従来の線形イオントラップを用いた電子捕獲解離実施手段では、電子の導入効率
およびイオンの導入効率が低く、高速の電子捕獲解離スペクトルを取得することが困難で
あった。また、同手段のなかで衝突解離を有効に実施する方法がしめされておらず、電子
捕獲解離と衝突解離の組み合わせ実施が不可能であった。
【解決手段】高周波電場が印加される線形多重極電極と、線形多重極電極の軸方向の両端
に配置され線形多重極電極の中心軸上に穴を具備し直流電圧が印加されて壁電場を生成す
る壁電極を有する線形イオントラップと、線形多重極電極の中心軸と同軸を含む磁場を発
生し、線形イオントラップを取り囲む筒型の磁場発生手段と、線形多重極電極とは壁電極
を挟んで反対側に設けられた電子源とを有し、電子源の電子発生部位が、磁場発生手段の
発生する磁場の内部に設置された電子捕獲解離反応装置及びその電子捕獲解離を備えた質
量分析装置。
【選択図】図1

Description

質量分析法を用いた生体高分子の配列構造解析方法と装置に関する。
人のDNA配列の解析が終了した今日、この遺伝情報を用いて生成させるタンパク質、またこのタンパク質をもとに細胞内で翻訳後修飾され機能する生体高分子の構造解析が重要になっている。その構造解析手段の1つとして、質量分析法(mass spectrometry)がある。質量分析法を用いて、生体高分子を構成するアミノ酸がペプチド結合でつながったペプチドやタンパク質の配列などの情報を得ることができる。とくに高周波電場を用いたイオントラップやQマスフィルターを用いた質量分析法や、飛行時間型質量分析法(Time-of-Flight: TOF)は高速分析法のため、液体クロマトグラフィー装置などに代表される試料を分離する前処理手段との結合性がよい。そこで、大量の試料を連続解析することが求められるプロテオーム解析などの目的に合致しており、幅広く使われている。
一般に質量分析法では、試料分子をイオン化して真空中に導入し(または真空中でイオン化し)、電磁場中におけるそのイオンの運動を測定することにより、対象とする分子イオンの電荷と質量の比が測定される。得られる情報が質量と電荷の比という巨視的な量であるため、単に1度の質量分析操作では内部構造情報まで得ることは出来ない。そこで、タンデム質量分析法と呼ばれる方法が用いられる。すなわち、1回目の質量分析操作で試料分子イオンを特定する、もしくは、選択する。このイオンを親イオンとよぶ。つづいて、この親イオンを何らかの手法で解離する。解離したイオンをフラグメントイオンと呼ぶ。そのフラグメントイオンをさらに質量分析することにより、フラグメントイオンの生成パターンの情報を得る。解離手法により、解離パターンの法則性があるので、親イオンの配列構造を推察することが可能となる。とくに、タンパク質を骨格とする生体分子の分析分野では、解離手法として衝突励起解離(Collision Induced Dissociation : CID)、赤外多光子吸収(Infra Red Multi Photon Dissociation: IRMPD)そして、電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation: ECD)が使われる。
タンパク解析分野において、現在もっとも広く使われている手法がCIDである。親イオンに運動エネルギーを与えてガスと衝突させる。衝突により分子振動が励起されて、分子鎖の切れやすい部分で解離する。また、最近使われるようになった方法がIRMPDである。親イオンに赤外レーザ光を照射して、多数の光子を吸収させる。分子振動が励起されて、分子鎖の切れやすい部位で解離する。CIDやIRMPDで切れやすい部位は、アミノ酸配列からなる主鎖のうち、a-x、b-yで命名されている部位である。a-x、b-yの部位であっても、アミノ酸配列パターンの種類により切れにくい場合があるために、CIDやIRMPDのみでは完全な構造解析ができないことが知られている。そのために、酵素などを用いた前処理が必要になり、高速な分析を妨げている。また、翻訳後修飾を受けた生体分子では、CIDやIRMPDを用いると、翻訳後修飾による側鎖が切れやすい傾向がある。側鎖が切れやすいため、失われた質量から修飾分子種と修飾されているかどうかの判定は可能である。ただし、どのアミノ酸部分で修飾されていたかという修飾部位に関する重要な情報は失われる。
一方、他の解離手段であるECDは、アミノ酸配列に依存せず(ただし例外として環状構造であるプロリン残基は切断しない)、アミノ酸配列の主鎖上のc-z部位の1箇所を切断する。そのために、タンパク質分子を質量分析的手法のみで完全解析出来る。また、側鎖を切断しにくいという特徴をもっていることから、翻訳後修飾の研究・解析の手段として適している。このために、近年特に注目を受けているのがこのECDという解離手法である。
ECD反応を発生させるために必要な電子のエネルギーは、ほぼ1電子ボルトであることが知られている(非特許文献1)。また、ECDとは異なる原理により、10電子ボルト近傍でも、電子捕獲反応が発生することが知られている。この反応は高エネルギーECD(HECD)と呼ばれる。c-z部位を選択的に切断する反応は、前者のECDであり、後者のHECDではc-z部位に加え、a-x部位、b-y部位を含む他の部位も切断されたフラグメントイオンを多数生成する。このために、簡便な解析手段としてECDが好ましい。
ただし、実際の分析ではHECDを併用することも検討される。すなわち、ECDとHECDを使い分けるには、1eV以下の精度での電子のエネルギーの制御が必要となる。
以上のように、CIDとIRMPD、ECDはそれぞれ異なる配列情報を与えるために、互いに相補的に利用できる。
ECDは従来からフーリエ変換型質量分析装置(FT−ICR)でのみ実現されてきたが、最近、高周波イオントラップ内部で実現できる方法が報告され始めている。高周波イオントラップ利用の利点は、それが、FT-ICRに比べて装置価格が安価であり、さらに操作も容易なため、広く産業利用されている実績があるためである。ここで、ECDを実施できるFT-ICRによる従来法と、高周波イオントラップ内部で実施されている従来法、および特許開示されているその他の方法について説明する。
図19は、FT−ICRによるECDの基本装置構成の一例を説明する図である。イオン導入部(1909から1911)と、FT-ICR部(1901−1908)からなる。イオン導入部は、線形四重極電極(1909で代表される)と壁電極(1910、1911)からなり、線形四重極電極には高周波電圧が印加され、また壁電極には線形四重極電極に対し正の静電圧が印加されることにより導入された正の試料イオン(1912の矢印で導入を示す)が捕捉される。このイオン導入部で試料イオンは測定したいイオン種のみが単離される。単離されたイオンは、壁電極1910の電圧を線形四重極電極よりも低い電圧を印加することにより、イオン導入部から矢印1913のように排出され、FT-ICR部に導入される。
FT-ICR部は強い磁場(典型的に1T以上:磁力線を1908に代表される矢印で記載した)と、4つのピックアップ電極(1901−1004)と、2枚の壁電極(1905,1906)からなる。単離されたイオンは磁場により磁場に垂直な方向に捕捉され、さらに、ピックアップ電極群と壁電極の間に印加された静電圧により、磁場と平行な方向に捕捉される。電子源1907で発生させた電子は磁場に巻きついてFT-ICRセルに導入され、ECD反応が発生する。ECD反応により発生した解離イオンはFT-ICRセルの内部でそのサイクロトロン周波数がピックアップ電極に誘導される電流を検知することにより、その質量が測定される。
以上のように、FT−ICRではイオンを捕捉するために、高周波のような変動電磁場を用いず、静電磁場を用いている。そこで高周波イオントラップのように変動電磁場により電子が加速されることがない。静電磁場を用いていることからイオンをトラップした状態で、電子を1電子ボルトという低運動エネルギーでトラップしているイオンまで導くことができる。
しかしながら、FT−ICRは超伝導磁石を用いて、平行強磁場(数テスラ以上)が必要となるため、高価かつ大型である。また、1つのスペクトルを得るために、必要な測定時間は数秒から10秒、スペクトルを得るために必要なフーリエ解析に10秒程度必要である。都合、数10秒必要となるFT−ICRは、10秒程度で1つのピークが現れる液体クロマトグラフィーとの結合性は良いとは言えない。つまり、高速度タンパク質解析には利用しにくいという欠点がある。そのために、FT-ICRを用いないECD手段の開発が期待されていた。
FT-ICRを用いないECDの実現手法の1つとして、静電磁場によるペニングトラップに捕捉した電子雲にイオンを通過させてECD反応を発生させるというアイデアが開示されている(特許文献1)。しかし、この方法により、現在までにECDの実現は報告されていない。
FT-ICRを用いない別のECDの実現手法の1つとして、高周波イオントラップ、または高周波イオンガイドにイオンを捕捉してそこに電子を照射するというアイデアがある。3次元高周波イオントラップに捕捉したイオンに電子を照射するというアイデアに関する特許開示がある(特許文献2,3,4)。しかし、これらの開示よりも先に、Vachetらは3次元高周波イオントラップに電子線を入射することにより、電子とイオンの反応の実現を試みたけれども(非特許文献2)。入射電子が高周波電場により高速に加熱され、イオントラップ外に失われてしまうことから、ECDの実現には至らなかった。
高周波イオントラップ、高周波イオンガイドにおける電子の加熱の課題を回避するために、磁場を用いて電子の軌道を制限するというアイデアが開示されている。高周波電場内部では、イオンと電子の両者を安定に捕捉する条件は現実的に得られない。そこで、磁場を用いて電子の運動の磁力線とは垂直方向の運動を制限するアイデアが考案された。
一つは、3次元イオントラップ、もしくはイオントラップ機能を持たないイオンガイドに対し磁場を印加して電子の軌道を制限し電子の加熱を回避する方法が、Zubarevらにより開示された(特許文献5)。その概念図を図17に示した。本公知例は3次元イオントラップ(1701−1703)、フィラメントからなる電子源(1709)、イオン源(1710)、およびイオン検出器(1708)からなる。3次元イオントラップには円筒形の永久磁石(1704−1706)が埋め込まれている。この永久磁石により中心軸に平行な磁場が印加される。まず、イオン源で発生したイオンは3次元イオントラップに捕捉される。ここで試料イオンから測定されるべき親イオンがイオンの振動共鳴を用いて単離される。そこに、フィラメント電子源で発生した電子がイオントラップ内部に導入されて、ECD反応を発生させる。反応で生成されたイオンは共鳴排出により検出器で検出される。以上の3次元イオントラップによるECD反応の実現が報告されている(非特許文献3)。
また、別の方法では、線形イオントラップに対し、その中心軸に平行に磁場を印加して、電子の軌道を制限し、電子の加熱を回避する方法が提唱されている。その概念図を図18に示した。ECD反応部は、線形四重極電極(1801),永久磁石からなる壁電極1802,壁電極1803、高周波電源(1804)、電子源部(1808,1809)からなる。線形イオントラップは線形四重極電極に高周波を印加してその内部に形成される四重極電場と、壁電極に静電圧を印加して生成される静電場により、イオンを捕捉する。そこに電子を導入するが、このとき電子は高周波の中心軸に沿って導入される。中心軸上の高周波電場は0なので、中心軸近傍ではイオンは高周波電場の影響を受けないか、受けても小さな値となる。さらに、永久磁石1802で生成された磁場が中心軸に平行に印加される。そこで、電子が中心軸から偏移しようとしても磁場により捕捉され、その軌道が中心軸から大きくずれることはない。これにより電子の加熱を回避する。この開示ではこのECD反応部をイオン源と飛行時間型質量分析装置に代表される他の質量分析手段との間に挿入することを想定しているので、線形イオントラップの1つのイオン導入口に四重極偏向器(1808)を挿入することにより電子源(1809)とイオン源(イオンの入射を矢印1806でしめしている)を結合する。反応による生成イオンは線形イオントラップから排出されて、矢印1807のように他の質量分析手段に導入される。(非特許文献4)
USP Application Publication No.2004/2045448 USP6,653,622 USP Application Publication No.2004/0232324 PCT/DK02/00195 USP6,800,851 特願平08-172023 特許03361528 Frank Kjeldsen et al. Chem. Phys. Lett. 2002 vol356 p2001-2006 R. W. Vachet, S. D. Clark, G. L. Glish: proceedings of the 43th ASMS conference on Mass Spectrometry and Allied Topics (1995)1111 Zubarev.R.A. et al. JASMS 2005 vol.16 p22-27 Takashi Baba et al. Analytical Chemistry 2004 vol.76,p4263-4266 アメリカ質量分析学会2003年(Th PJ1 165) J. C. Schwartz et al. J. Am. Soc. Mass Spectom. 2002 vol13 p659
本発明では線形イオントラップを採用したECD反応手段について課題とその解決手段を開示する。3次元イオントラップを用いず、線形イオントラップを採用する理由は、特許文献5及び非特許文献4に示されているように、3次元イオントラップにおいては電子がECDとして利用できるエネルギーでイオントラップに導入される効率が大変に低いからである。すなわちイオントラップ高周波振幅が0V付近を通過するごくわずかの時間に導入された電子のみが低エネルギーでトラップ内部に存在しうるためである。一方線形イオントラップにおいては、電子は高周波電圧の印加されない中心軸上にそって導入されるために、3次元トラップで問題となるイオントラップ高周波の位相の問題がなく、100%の電子を反応に関与させることができるため、原理的に反応効率が高いものと考えられるからである。
高周波電場と磁場を用いてECD反応の原理実験が報告されたけれども、3次元イオントラップおよび線形イオントラップを用いた両方式とも産業応用に耐えうるS/Nがよい高品質なスペクトルの高速取得には至っていない。現時点での報告では、3次元イオントラップにおいてはS/Nのよい信号がえられておらずノイズをのぞくデータ処理の後にECDフラグメントピーク様の信号が得られる程度であり、また線形イオントラップにおいては約30秒から600秒の多数のスペクトルの蓄積によりS/Nのよいスペクトルとなっている。実際の高スループットなタンパク質分析のためには、ECDとは相補的な情報が得られるCIDと同程度の時間、すなわち数10−数100ミリ秒での高品質なスペクトルが取得できることが望ましい。スペクトル高速化取得のためには、ECD反応の高速化、およびイオン利用効率の向上の2つの課題がある。
ECD反応の高速化のためには、反応装置を通過する電子電流の強度を向上させることが有効である。なぜなら、ECD反応効率は一般に電子の強度に比例するためである。強い電子電流を利用することができれば反応速度が増大し、高速なスペクトル取得につなげることができる。
また、ECD反応装置へのイオン導入効率が低いために、イオン利用効率が低くなっている。そのために長時間の積算が必要となり、高速なスペクトル取得が実現できていなかった。
しかし、両者は背反する相容れない側面を持つ。すなわち線形イオントラップを用いた方式における現実は、電子電流の強度の増加に対しイオンの導入効率が減少する傾向が見られている。それは、強い電子電流により壁電極などの表面状態が変化を受け、電子が表面に充電されてイオン制御ための電圧が適正に印加されないためである。非特許文献4においては典型的に電子照射によりイオンの導入効率が10分の1程度に減少する現象が観察されている。
本発明は、線形高周波イオントラップを用いたECD反応装置において、以上の課題を解決し、CIDと同等な高速なECD反応を実現できる反応装置、およびそれを備えた質量分析装置を開示する。合わせて、高速になったECDと、CIDを組み合わせて有効な解析情報を得る装置と操作方法を開示する。
スペクトル取得の高速化への課題のうちの1つ、すなわち強い電子電流を得るために、線形多重極電極と壁電極からなる線形イオントラップにその中心軸に平行な磁場を印加した線形結合型イオントラップと電子源を用い、とくに電子源の設置位置が壁電極に対し線形多重極電極の外側でありかつ線形多重極電極内部に印加されている磁力線を外側にたどっていったとき、その磁力線の延長上に電子源を設置する。
また、スペクトル取得の高速化への課題のうちの1つ、イオンの高い導入効率を得て、さらに電子電流のイオントラップ効率への影響を回避するために、線形高周波イオントラップへの電子の導入口とイオンの導入口を別とする。このとき、線形イオントラップのイオン導入側の壁電極はイオントラップ内部を通過する磁力線が分布する空間の内部に設置する。この配置により、ECD反応に寄与しなかった電子は壁電極の線形多重極イオントラップ側の面で吸収される。つまり、イオンは線形イオントラップ内部に導入される前には、電子が関与するイオン操作のための電圧の変動を受けることはない。さらに、イオントラップ内部の電子を吸収する面には金メッキなどを付して電子の吸収効率を上げ、さらに電子照射による表面の化学変化を避けて電気伝導性を確保することが有効となる。
特許文献5において、イオントラップ機能を持たないイオンガイドに電子を導入するときにフィラメントからなる電子源、もしくは円筒状のディスペンサーカソードからなる電子源がイオンガイドに印加されている磁力線の延長上に設置されている実施例が開示されている。電子源はイオンの導入を妨げないために、中心軸を囲む円、もしくは円筒形状となっている。しかし、この方式では原理的に高強度の電子線を得ることはできない。なぜなら、フィラメントもしくはディスペンサーカソードの表面で発生させた熱電子を真空中に引き出すための電極が存在しないからである。もし電子を引き出すために電子源を線形電極に対してバイアスすると、電子は加速されるので、低エネルギー電子を線形電極内に導入することはできない。さらに、この方式では電子源は高周波にさらされる。そこで、この方式では電子の加熱を免れず、1電子ボルト程度の電子エネルギーが必要なECDの実施は困難である。さらに、イオンガイドを用い、そのなかに捕捉した電子雲のなかをイオンが通過するだけではECD反応に十分な反応時間をとることができないことが報告されている(非特許文献5)。
一方、本開示ではイオントラップの壁電極が存在し、その外側に電子源が設置される。壁電極は高周波電場を遮蔽するので電子は電子源付近では高周波により加熱されることはない。また、壁電極、もしくはさらに設置した電子引き出し電極の設置により、熱電子は電子源から高効率に引き出され、その後イオントラップと壁電極もしくは引き出し電極との電位差により減速され、低エネルギー電子としてイオントラップ内部に導入される。また、イオンの導入口と電子の導入口を分離することにより、中心軸上に電子源を設置することができる。これは電子と線形多重極イオントラップに捕捉されている電子との重なりを大きくする効果があるのでECD反応効率の向上につながる。また、イオンを線形多重極電極内に保持する本開示では、イオンと電子との反応時間を十分にとることが可能である。以上のように本開示に示した磁場を印加したイオントラップ構造が強い電子電流をえるために本質的であることがわかる。
一方、非特許文献4においては、線形多重極イオントラップを用いた例を開示しているので、壁電極が存在し、その外部に電子源が設置されている。しかし、磁気シールドを用いて磁場の無い領域をつくり電子源をその内部に設置している。電子は静電レンズ系により集束されて導入することを試みるが、その導入効率は1−10%程度にとどまっている。本開示のように線形多重極電極内部に印加されている磁力線を外側にたどっていったとき、その磁力線の延長上に電子源を設置することにより、電子を磁力線に沿って運動させることができるので、電子はほぼ100%に近い効率で線形多重極電極内部の親イオンにまで到達することができる。以上のように、磁場中に電子源を設置することは明らかに電子強度をえるために本質的である。
以上の課題が解決されたとき、ECDスペクトルの取得時間が100分の1程度となる。なぜなら、反応速度が典型的に10倍、イオンの利用効率が典型的に10倍増加すると予想されるからである。その結果、1枚のECDスペクトルを取得するために時間は約300ミリ秒程度となり、CIDを用いた解離スペクトル取得とほぼ同程度となる。
ECDスペクトルとCIDスペクトルをほぼ同程度の時間で取得できるようになった場合、ECDとCIDの組み合わせによる相補的なデータを小型で安価な装置で取得するために、1つの線形多重極電極からなる反応装置の内部でECDとCIDを実施できるようにすることが有効となる。そのためには、CIDのためにおこなうイオンの共鳴振動をおこなう質量分解能を高く確保するために、CIDを実施している時間は磁場の印加を停止することが有効である。なぜなら、磁場により中心軸に垂直な面内のイオンの振動周波数が2つに分離するためである。つまり、ECDのための磁場は電磁石もしくはソレノイドコイルを用いて印加し、ECDを実施する期間は磁場を印加し、CIDを実施する期間は磁場の印加を停止する。
特許文献5,非特許文献4ともに、磁場を印加する手段として電磁石の利用、もしくはソレノイドコイルの利用を開示している。しかし、CIDを実施するために磁場印加の停止が必要なことには触れてはいない。
以下の発明の実施の形態において、具体的な課題を解決する手段の説明と実施形態の例を説明する。
本発明によれば、高周波イオントラップを用いたECD実施手段によるスペクトル取得を高速化し、CIDとの組み合わせを容易にする。結果、アミノ酸配列解析などが高速化し、タンパク質試料、翻訳後修飾を受けたタンパク質試料の構造解析が高速化する。
図1は本開示のECD反応装置、すなわちECDセルの実施例を説明する図である。線形多重極イオントラップ部分は線形四重極電極からなる線形多重極電極を構成する電極101−104と2つの壁電極105、106からなる。イオンは、その出し入れを示す矢印109のように線形多重極イオントラップの1つの口から導入される。磁場は円筒形状の永久磁石107でその内部に磁場を発生させる。電子はディスペンサーカソードからなる電子源108で発生させ、電子の入射を表す矢印110のようにイオンの導入口とは反対側の口から導入される。このとき、電子源は線形多重極電極とは反対側で壁電極に隣接して設置される。さらに図2は円筒磁石内部の磁力線と、電子源の設置位置を説明する図である。電子源108で発生させた熱電子は引き出し電極202に印加した電圧により、高強度で引き出され、電子電流となる。電子源201の電子発生部位が、壁電極105の外側であり、さらに円筒形状の磁石の内部を通過する磁力線の存在する領域の内側に設置されることを特徴とする。円筒形状の磁場の内部を通過する磁力線の存在する限界を図2では電子源設置限界として点線で示した。この線よりも壁電極側に電子源の電子発生部を設置させることにより電子の高効率な導入が可能となる。すなわち、磁力線に沿った螺旋運動をしながらイオントラップ内部に電子が輸送される。もし、この線よりも外側に電子発生部が設置されると、そこでの磁力線は円筒磁石107に向かうために、電子はイオントラップには向かわず、電子の高効率の導入はできない。電子源設置限界を決めるために、磁場は磁石の形状ごとにコンピュータで磁場を計算するか、もしくは実測をおこなう。
しかし、磁場の計算もしくは磁場の実測する手間を省き、設計を容易にするために、電子源側の壁電極202が円筒の端面の内部となるように円筒形状の磁石が設置され、さらに電子源108の電子発生部位が円筒形状の磁石の端面かそれよりも内側に設置されることで確実に電子源の電子発生部位を円筒形状の磁石の内部を通過する磁力線の存在する領域の内側に設置することが有効である。図3はこのような電子源の配置を説明した図である。
壁電極105に開口した電子導入口は電子源201の電子が発生する有効面を通過する磁力線が壁電極105を通過する大きさと同程度に開口する。これにより、電子をほぼ100%に線形多重極イオントラップ内部に導入することが可能となる。電子源は高温となるためそこから金属などの蒸着物質が飛散することがあり、それがイオントラップ内部に導入されてトラップの電位を変化させる可能性があるため、上記で説明した開口部の大きさ以上に大きな穴を開けることはイオントラップ性能に対して有効ではない。
さらに図2はイオン導入口をもつ壁電極106の有効な設置位置を説明している。すなわち、線形多重極電極が囲むイオントラップ領域を通過する磁力線が存在する限界を壁電極設置限界として図に示している。本開示では、壁電極106の内壁が壁電極設置限界より内側になるように設置して、磁場がその表面を通過するように設置し、さらに外壁が壁電極設置限界よりも外側になるように設置することを特徴としている。この設置位置により、電子源108で発生し線形多重極電極を通過した電子は壁電極106で捕捉されることになる。もし、壁電極の内壁が壁電極設置限界よりも外側に設置されたならば、電子は磁場に巻きついて円筒磁石107もしくは高周波多重極電極102,104に吸収されることになる。また、もし、壁電極の外壁が壁電極設置限界よりも内側に設置されると、電子は、壁電極106に開口したイオン導入口から外に漏れ出し、壁電極の外側で吸収されることになる。このことは壁電極外側の静電位を変化させる可能性があり、イオンを導入する効率に影響を与える可能性がある。また、この壁電極106には流入する電子電流を検知する電流計が接続されていることを特徴とする。壁電極106においてほぼ100%捕捉された電子電流はECD反応効率を最適化する上で重要なパラメータであり、この電極に電流計を接続することはその測定を可能にする。
また、壁電極106は金メッキなどを付し化学的に安定とし、電子照射による表面の変化を回避することがイオンの高効率な導入、および、電子強度の安定モニターに対して有効である。
なお、線形四重極高周波イオントラップにおけるイオン捕捉の原理と高周波電場による電子の影響の理論的考察については非特許文献4に記載されているため、ここでの記載は省略する。
図4は四重極偏向器を備えたECDセルの実施例を説明する図である。ECDセル部分の構成は図1と等しいので説明を省略する。本実施例では電子源側ではない壁電極106に隣接して四重極偏向器409−412を備えていることを特徴とする。本開示では、イオンはイオン源部で生成された親イオンが矢印415に示したように1つの壁電極106からECDセルに導入され,反応後生成イオンが416に示した矢印のように同一の開口から出し入れ、質量分析手段に導入される。イオン源部と質量分析手段が共存し得ない場合、たとえばESIイオン源とTOF質量分析手段が接続される場合には、矢印414で示したイオン源からのイオンの入射と、矢印417で示したような質量分析手段への入射は共存できない。そのために、四重極偏向器を導入している。四重極偏向器とは、図4に示すように4つの電極409−412からなり、その対向する電極対(409と411のペア、410と412のペア)に適当な異なる静電圧を印加することにより入射する荷電粒子の運動を90度偏向する原理である。これを設置することによりイオンをECDセルに導入するタイミングでは、イオン源から入射してくるイオン414を90度偏向してECDセルに導入し、またイオンを取り出すタイミングではECDセルから排出されたイオン416を90度偏向して417とし、質量分析手段に導入する。本方式のように四重極偏向器をECDセルに接続することによりECD機能を備えた質量分析装置を構成することができる。
図5は四重極偏向器とイオンガイドを備えたECDセルの実施例を説明する図である。すなわち、図4に示した四重極偏向器を備えたECDセルにおいて、ECDセルと四重極偏向器の間に高周波電圧を印加した高周波多重極電極513−516により生成される高周波イオンガイドを挿入している。
イオンガイドを導入する必然性は、他の質量分析手段への磁場の影響を回避する目的である。すなわち、ECDセルの磁場発生手段として永久磁石もしくは常時動作している電磁石もしくはソレノイドコイルを用いる場合、磁場がECDセル外部に漏れ出すことになる。磁場は他の分析手段とくにイオントラップへ影響を与え、質量分析を行うとき、親イオンを単離するとき、CIDを実施するときなど、そのイオンの振動周波数を変化させる可能性がある。そのために、常時磁場を発生させるECDセルを他の質量分析手段から離して設置するために、イオンガイドを挿入することにより四重極偏向器が設置されるイオン源と質量分析手段が設置されるラインとECDセルの間の距離を得る。この目的のために、典型的に四重極偏向器部分での磁場の強度が1mT以下まで減衰する長さとする。磁場の強度が1mTまで減衰すれば、イオンの振動周波数への影響が1%以下まで低減することができることがシミュレーションにより確認されており、質量分析装置の運転上、支障を与えない。
本実施例では、イオン源から発生されたイオンは矢印518のように四重極偏向器に導入され90度変更されて矢印519のようにイオンガイドの中を通過する。そのイオンは矢印520のようにECDセルに導入されてトラップされる。そこに、電子線を517のように照射して、ECD反応により解離イオンを生成する。解離イオンは矢印521のようにECDセルから取り出され、イオンガイドを通過して、四重極偏向器に至る。四重極偏向器で質量分析手段の設置されている方向に偏向され、522のように質量分析手段に導入される。
以上のECDセルに採用される磁場の発生手段を以下で説明する。
図6は円筒永久磁石601による磁場発生手段を説明する図であり、図1−4で採用し例示した方式である。磁化の方向を602で示した。その内部に発生する磁場は図2,3に示されている。磁場の発生手段として永久磁石を用いることの効果は、安価であること、電磁石やソレノイドコイルのように電流源やコイルの冷却系を必要としないことが上げられる。ECDセルをCIDを実施しないECD手段として用いる場合に有効な方法である。
図7は電磁石により円筒磁石を形成した磁場発生手段を説明する図である。円筒磁芯701-704、磁極709−710、コイル705−708からなる。各円筒磁芯発生するそれぞれ磁化の方向が平行となるようにコイルが巻かれる。それにより磁極にはちょうど円筒永久磁石と同様な磁化が発生し、図7の電磁石の中心軸に沿って内部に磁場が発生する。
また、図8はソレノイドによる磁場発生手段を説明する図である。真空槽803の外部に設置したソレノイド802により磁場を発生させることが特徴である。ソレノイドに電流を流すことにより中心軸付近に磁場を発生させる。ソレノイドは磁心を持たないことからECDに必要な磁場を発生させるためには大きな電流を必要とし、コイルの冷却が必須となる。真空外部にソレノイドを設置することにより、水冷のための手段との結合を容易にする。
以上の図7,8に示した電磁的磁場発生手段は、電流源や冷却手段を必要とするけれども、磁場の強度を変化させることができることが永久磁石との大きな違いである。CIDをECDセル内部で実施するためには、磁場の停止が必須であり、そのための手段を供給する。
図9はソレノイドによる磁場発生手段を備えた電子捕獲解離セルの実施例を説明する図であり、CID機能を備えていることを特徴としている。すなわち、図8のソレノイドを用いた磁場発生手段のなかに、線形四重極イオントラップ101−105と電子源108が設置されている。線形四重極電極にはその内部に双極交流電場が発生させるために交流電源913が接続されている。912はソレノイドに電流を供給する電流源であり、スイッチ操作をおこなうことができる。さらに、線形四重極イオントラップにはHeガスを導入するための配管911が設置されている。少量のHeガスの導入でその分圧を高くするために、線形四重極イオントラップに覆いを設けることが有効である(図9では簡略化のために図示していない)。
本ECDセル内部でCIDを行うためには、交流電源913で発生させる交流電圧の周波数は対象となるイオンに共鳴振動を励起させる値とする。とくに、そのとき、電磁石の動作を停止して磁場を印加しないことを特徴とする。この場合、イオンの共鳴周波数はいわゆる擬ポテンシャル内部での永年運動振動数に対応する周波数となる。その計算方法は本分野の技術者ならば基礎知識であるため、ここでの掲載は割愛する。
さらに、本ECDセルを用いて、ECDとCIDを任意に組み合わせてシーケンシャルに反応をすすめていくことも実施可能である。その際、ECDもしくはCIDによって生成された複数の解離イオンのうち、任意の1つを選び出してそれに対してさらにECDもしくはCIDを実施していく。この解離イオンの単離の操作を行うとき、目的イオン以外のイオンを永年運動の共鳴により排出することが行われる。この単離操作のとき、電磁石の動作を停止して磁場を印加しないことを特徴とする。この操作により、単一解離イオンの単離操作が可能となる。
さらに、本ECDセルを質量分析手段として用いることも可能である。すなわち、双極交流電場をトラップしているイオンに印加し、その周波数を走査させる。共鳴条件を満たしたイオンは順次、イオントラップからイオン排出口を通してECD装置外部に排出させる。このとき、電磁石の動作を停止して磁場を印加しないことを特徴とする。この磁場を切るという操作により、従来から知られている線形イオントラップ質量分析手段を実施可能となる。(特許文献6,7)
(ECD反応手段を備えた質量分析装置の実施形態1)
図10にはソレノイドによる磁場発生手段を備えた電子捕獲解離セルをECDおよびCIDの手段とし、さらに反応セルを質量分析手段として採用した質量分析装置の実施例を説明する図である。四重極偏向器の1つのイオン導入口にイオン源、他の口にイオン検出器を備えていることを特徴とする。
ECDおよびCID反応の手段は、線形多重極電極を構成する電極101−104、そこにイオントラップ高周波を印加するための高周波電源1027とイオンを共鳴させるための交流電源913、壁電極105,106、ソレノイドコイル802とその駆動電流源912、フィラメントからなる電子源1008、ヘリウムガス導入管911、そして四重極偏向器409−412からなる。本ECDおよびCID手段に加え、質量分析装置を形成するために、キャピラリー電極1023と細孔電極1022からなるESIイオン源と、イオンガイド1021を備えた差動排気部(真空ポンプによる排気を矢印1026で示した)と、イオン検出器1017と、装置を制御するコンピュータ1028からなる。
イオン源で発生させた親イオンはECD−CID反応部分を構成する線形イオントラップ電極101−104に対し、2つの壁電極の電圧を正にとることにより線形イオントラップ内部に捕捉することができる。もしくは、イオンガイドをイオントラップとして動作させ、排出されたイオンが壁電極106を通過するタイミングでは壁電極106への電圧を線形四重極電極101−104とほぼ同じかもしくは低い電圧値とし、イオンが線形四重極電極101−104に位置するタイミングにおいて、壁電極106へのバイアスを線形四重極電極101−104よりも高い値とすることにより、壁をつくり、イオンを捕捉することが可能となる。
図15は図10に示したECDを備えた質量分析装置の基本的な操作を説明する図である。試料イオンに含まれる全イオンを質量分析する操作であるMSモード、ECDを実施するECDモード、CIDを実施するCIDモード、ECDとCIDを組み合われたDCD+CIDモードについて説明する。
各モードを構成する2つの点線枠のうち、左の点線枠はイオン源を示し、イオン源で発生したイオンとして、A、B,C,D,Eの5種のイオンが含まれている例を示している。左の点線枠はECD−CID機能を備えた反応部分の操作を示す。
MSモードでは、試料イオンの質量スペクトルを得る。まず、イオン源で発生させたイオンはECD−CID反応部にトラップされる。磁場印加を停止した状態で、質量分析操作させて、試料イオンのスペクトルをえる。ここで得られた質量スペクトルを参照して、配列構造を解析する親イオンを選択する。ECD−CID反応部を構成する線形イオントラップ部分は、J. W. Hager, Rapid commun. Mass Spectorm.2002 vol16 p512-526 に示されている方法を一例とした線形イオントラップ質量分析手段として動作する。すなわち、質量選択的にイオンを線形イオントラップから排出し、そのイオンを四重極偏向器を通過させ、イオン検出器1017で検出する。
ECDモードを実施する方法を説明する。ECDモードでは単離された親イオンのECD反応による解離イオンスペクトルを得る。フィラメント1008には常に電流を流しておき、加熱状態にしておく。イオン源で発生させたイオンABCDEはECD−CID反応部に導入されて、単離される。図ではイオン種Dを単離した。この操作の際には、磁場の印加を停止する。単離したイオンに対し、ECDを実施する。ECDを実施する期間、ソレノイドに電流を供給する電流源912を動作させ、反応セル内部に磁場を発生させる。電子源の静電圧を線形四重極電極101−104よりも0V以上高い電位とすると、ECD手段に導入される。低エネルギー電子の導入によりECD反応が進行し、ECDによる解離イオンd1、d2、d3が生成される。再び、磁場の印加を停止して、質量分析操作を行い、解離イオンのスペクトルを得る。
CIDモードを実施する方法を説明する。ECDモードでは単離された親イオンのCID反応による解離イオンスペクトルを得る。CIDを実施する期間、ECD−CID反応手段にはヘリウムガスを導入する。このガスと振動する親イオンとの衝突によりCIDを発生させるためである。なお、ECDを実施する期間においても、Heガスを導入しておいてもよい。イオン源で発生させたイオンABCDEはECD−CID反応部に導入されて、単離される。図ではイオン種Dを単離した。この操作の際には、磁場の印加を停止する。単離したイオンに対し、CIDを実施する。CIDを実施する期間は、ソレノイドに電流を供給する電流源912を停止させる。以上の状況において、質量の分かっている選択された親イオンDの線形イオントラップ電極101−104内部での永年運動振動数に対応する周波数をもつ交流電圧を交流電源913を用いて印加する。もしくは、周波数を一定にしている交流電圧により共鳴振動が発生するように、高周波電源1027で発生させているイオントラップ高周波の振幅を設定する。以上により、CIDによる解離イオンD1、D2,D3が生成される。再び磁場の印加を停止し、質量分析操作をおこなう。解離イオンは質量選択的にECD−CID質量分析手段から排出され、イオン検出器で検出され質量スペクトルが得られる。
ECD−CIDモードを実施する方法を説明する。このモードではECDを実施して生成した解離イオン種にCIDを生成させ、複合的な解離イオンを生成させることを目的とする。本操作により、質量の等しいアミノ残基であるロイシンとイソロイシンの区別、もしくは、翻訳後修飾された分子を備えたECD解離イオンに対し、CIDを実施して、翻訳後修飾分子を分離し、翻訳後修飾分子の同定ができるようになる。ECDモードと同様にECD解離イオンを発生させる。その後、1つの解離イオンを単離し(図14ではd2イオンを模式的に単離している)、CIDを適用する。CIDによる解離イオンは質量分析操作により、質量選択的にECD−CID反応手段から排出され、イオン検出器で検出される。この単離、CID、質量分析の実施期間は磁場の印加を停止する。
図14には示していないけれども、容易にわかるように、以上の手続きを複数回繰り返すことにより、ECDとCIDを任意に組み合わせた多段解離イオンのスペクトルを取得することができる。
本実施形態では、イオン源と、質量分析手段をかねたECD−CID反応装置と、イオン検出器からなるシンプルな構成の実施例である。ただし、次に示すTOF質量分析手段を備えた実施形態のように、高質量分解能を有する質量スペクトルの取得は困難である。
(ECD反応手段を備えた質量分析装置の実施形態2)
図11はソレノイドによる磁場発生手段を備えた電子捕獲解離セルを電子捕獲解離手段と、線形イオントラップ質量分析手段質量分析手段と、飛行時間型質量分析手段とを備えた質量分析装置の実施例を説明する図である。ソレノイドが磁場発生手段でありさらに四重極偏向器を備えた形態のECD−CID反応装置に加え、四重極偏向器の1つのイオン導入口にイオン源と線形イオントラップ質量分析手段を備え、他の1つの口に質量分析手段を備えていることを特徴とする。質量分析手段としては質量分解能の高い飛行時間型質量分析手段(TOF−MS)を採用している。本実施形態は実施形態1にくらべ、得られるスペクトルの質量分解能が高いことにより、分子の同定能がより高くなることを特徴としている。本実施例はECD−CID反応装置と四重極変更器の間にイオンガイドを挿入し、ソレノイドコイルによる磁場がTOF−MSや線形イオントラップ部分(1018−1020)へ影響を与えることを回避している。
ECDおよびCID反応の手段は、線形多重極電極を構成する電極101−104、そこにイオントラップ高周波を印加するための高周波電源1027とイオンを共鳴させるための交流電源913、壁電極105,106、ソレノイドコイル802とその駆動電流源912、ディスペンサーカソード108と引き出し電極202からなる電子源、ヘリウムガス導入管911、そして四重極偏向器409−412からなる。本ECDおよびCID手段に加え、質量分析装置を形成するために、キャピラリー電極1023と細孔電極1022からなるESIイオン源と、イオンガイド1021を備えた差動排気部(真空ポンプによる排気を矢印1026で示した)と、線形四重極高周波質量分析手段1019と2つの壁電極1018,1020からなる線形イオントラップによるイオン単離手段と、ガスを導入したイオンガイド部(1135−1136)、TOF−MS(1130−1133)、および装置を制御するコンピュータ1028からなる。
本実施形態のイオン源、線形四重極高周波質量分析手段1019の操作と機能は実施形態1と同じである。ECD−CID反応部は、ECD反応、CID反応および、多段階反応を実施する際の解離イオンの単離の機能を担当し、実施形態1と異なり質量スペクトルを得るための質量分析操作は行わない。質量スペクトルを得るための質量分析操作はTOF−MS部分が担当する。
ECD−CID反応部で解離され、質量スペクトルとして測定されるイオンはECD−CID反応部から取り出され、四重極偏向器でTOF−MS部分に向けて偏向される。これらのイオンはガスを導入したイオンガイド部(1134−1135)に導入される。このイオンガイド部でガスとの衝突によりイオンは運動エネルギーを失い、結果として四重極電極の中心部に集束される。そのイオンは出口電極1136から出射されるとき、TOF−MSと出口電極1136との間の静電圧により加速されて、TOF−MSに導入される。このとき、一般には出口電極1136とTOF−MSとの間にはレンズ電極や進行方向を調整するために偏向電極が挿入される。図11には、レンズ電極と偏向電極は記載していない。
TOF−MSに導入されたイオンはプッシャー1132に印加したパルス電圧により加速されリフレクター1131を経由して、イオン検出器1133により検知される。プッシャーにパルス電圧を印加した時刻とイオンがイオン検出器で検知された時刻との間の時間を測定することにより、イオンの質量が計算される。本実施例で採用したTOF−MSは一般に用いられているTOF−MSの形態と等しいので、ここでは詳細な記載はしない。
図14は図11に示したECDを備えた質量分析装置の基本的な操作を説明する図である。試料イオンに含まれる全イオンを質量分析する操作であるMSモード、ECDを実施するECDモード、CIDを実施するCIDモード、ECDとCIDを組み合われたDCD+CIDモードについて説明する。
各モードを構成する4つの点線枠のうち、左の点線枠はイオン源を示し、イオン源で発生したイオンとして、A、B,C,D,Eの5種のイオンが含まれている例を示している。中央左の点線枠は線形イオントラップ質量分析部の動作を示す。中央右の点線枠はECD−CID機能を備えた反応部分の操作を示す。左の点線枠はTOF質量分析部分における質量分析により得られた質量スペクトルの模式図を示す。
MSモードでは、試料イオンの質量スペクトルを得る。まず、イオン源で発生させたイオンは線形イオントラップ質量分析手段にトラップされる。トラップされたイオンは直接TOF−MSへ導入され、質量分析操作させて、試料イオンのスペクトルをえる。ここで得られた質量スペクトルを参照して、配列構造を解析する親イオンを選択する。
ECDモードを実施する方法を説明する。ECDモードでは単離された親イオンのECD反応による解離イオンスペクトルを得る。ディスペンサーカソードは常にヒータ電流を流しておき、加熱状態にしておく。イオン源で発生させたイオンABCDEは線形イオントラップ質量分析手段に導入されて、単離される。図ではイオン種Dを単離した。単離したイオンは排出してCD−CID反応装置に導入し、ECDを実施する。ECDを実施する期間、ソレノイドに電流を供給する電流源912を動作させ、反応セル内部に磁場を発生させる。電子源の静電圧を線形四重極電極101−104よりも0V以上高い電位とすると、ECD手段に導入される。低エネルギー電子の導入によりECD反応が進行し、ECDによる解離イオンd1、d2、d3が生成される。解離イオンはECD−CID反応手段から排出し、TOF質量分析手段に導入し、TOF質量分析を適用して解離イオンのスペクトルを得る。
CIDモードを実施する方法を説明する。CIDモードでは単離された親イオンのCID反応による解離イオンスペクトルを得る。CIDを実施する期間、ECD−CID反応手段にはヘリウムガスを導入する。このガスと振動する親イオンとの衝突によりCIDを発生させるためである。なお、ECDを実施する期間においても、Heガスを導入しておいてもよい。イオン源で発生させたイオンABCDEは線形イオントラップ質量分析部に導入されて、単離される。図ではイオン種Dを単離した。単離したイオンはECD−CID反応部に導入する。このイオンに対し、CIDを実施する。CIDを実施する期間は、ソレノイドに電流を供給する電流源912を停止させる。以上の状況において、質量の分かっている選択された親イオンDの線形イオントラップ電極101−104内部での永年運動振動数に対応する周波数をもつ交流電圧を交流電源913を用いて印加する。もしくは、周波数を一定にしている交流電圧により共鳴振動が発生するように、高周波電源1027で発生させているイオントラップ高周波の振幅を設定する。以上により、CIDによる解離イオンD1、D2,D3が生成される。解離イオンはTOF質量分析手段に導入され質量スペクトルが得られる。なお、従来法どおり、CIDを線形イオントラップ質量分析手段において実施することも可能である。
ECD−CIDモードを実施する方法を説明する。このモードではECDを実施して生成した解離イオン種にCIDを生成させ、複合的な解離イオンを生成させることを目的とする。本操作により、質量の等しいアミノ残基であるロイシンとイソロイシンの区別、もしくは、翻訳後修飾された分子を備えたECD解離イオンに対し、CIDを実施して、翻訳後修飾分子を分離し、翻訳後修飾分子の同定ができるようになる。ECDモードと同様にECD解離イオンを発生させる。その後、1つの解離イオンを単離し(図14ではd2イオンを模式的に単離している)、CIDを適用する。この単離、CIDの実施期間は磁場の印加を停止する。CIDによる解離イオンはTOF質量分析手段の導入し質量分析操作により、質量スペクトルを得る。
また、図13は高度な質量分析操作を説明する図である。すなわち、ECD実施期間中、線形イオントラップ質量分析部をCID手段として動作させる方法である。ECDは反応速度が遅いといわれているため、長いECD実施期間が必要になる場合がある。このECD実施期間の間に複数のCIDスペクトルを取得することにより、分析のスループットを上げて分析能を向上させる。本実施形態の装置では、ECD反応部分が線形イオントラップ質量分析部とTOF質量分析部のラインから切り離し可能であることにより可能となる操作である。
図13に示したように、はじめにMSモード実施する。つづいて、ターゲットとした単離イオン(図ではDイオン種)をECD反応部に導入し、ECDを実施する。その間に、線形イオントラップをCID実施手段として動作させ、複数のCIDスペクトルを得る。図では、BイオンのCIDスペクトル、Eイオン、EイオンのCIDスペクトルを得ている。このCID期間中に電子が照射されECD解離イオンが多数生成される。最後にそのイオンがTOF−MSに導入されて、ECD解離スペクトルd1−d3が得られる。本実施形態は、TOF質量分析手段を備えた高い質量分解能をもち、しかも、ECDとCIDを実施可能な最も多機能な装置の例である。
(ECD反応手段を備えた質量分析装置の実施形態3)
図12は永久磁石による磁場発生手段を備えた電子捕獲解離セルを電子捕獲解離手段と、線形イオントラップ質量分析手段質量分析手段と、飛行時間型質量分析手段とを備えた質量分析装置の実施形態を説明する図である。永久磁石が磁場発生手段でありさらに四重極偏向器を備えた形態の電子捕獲解離装置に加え、四重極偏向器の1つのイオン導入口にイオン源と線形イオントラップ質量分析手段を備え、他の1つの口に質量分析手段を備えていることを特徴とする。本実施例は、永久磁石を採用し、安価で簡単な装置構成となることが特徴である。ただし、磁場の制御ができないため、ECD反応部でのCIDの実施は困難である。しかし、線形イオントラップ質量分析手段によりCIDの実施は可能である。つまり、CIDかECDを選択して実施できる質量分析装置の構成である。
装置構成の実施形態2との違いは、磁場発生手段としてソレノイドコイルに代えて永久磁石を採用していること、また、ECD反応部においてCIDを実施しないため、交流電源を備えていないことである。
図20は図12に示したECDを備えた質量分析装置の基本的な操作を説明する図である。試料イオンに含まれる全イオンを質量分析する操作であるMSモード、ECDを実施するECDモード、CIDを実施するCIDモード、ECDとCIDを組み合われたDCD+CIDモードについて説明する。
各モードを構成する4つの点線枠のうち、左の点線枠はイオン源を示し、イオン源で発生したイオンとして、A、B,C,D,Eの5種のイオンが含まれている例を示している。中央左の点線枠は線形イオントラップ質量分析部の動作を示す。中央右の点線枠はECD−CID機能を備えた反応部分の操作を示す。左の点線枠はTOF質量分析部分における質量分析により得られた質量スペクトルの模式図を示す。
MSモードでは、試料イオンの質量スペクトルを得る。まず、イオン源で発生させたイオンは線形イオントラップ質量分析手段にトラップされる。トラップされたイオンは直接TOF−MSへ導入され、質量分析操作させて、試料イオンのスペクトルをえる。ここで得られた質量スペクトルを参照して、配列構造を解析する親イオンを選択する。
ECDモードを実施する方法を説明する。ECDモードでは単離された親イオンのECD反応による解離イオンスペクトルを得る。ディスペンサーカソードは常にヒータ電流を流しておき、加熱状態にしておく。イオン源で発生させたイオンABCDEは線形イオントラップ質量分析手段に導入されて、単離される。図ではイオン種Dを単離した。単離したイオンは排出してCD−CID反応装置に導入し、ECDを実施する。電子源の静電圧を線形四重極電極101−104よりも0V以上高い電位とすると、ECD手段に導入される。低エネルギー電子の導入によりECD反応が進行し、ECDによる解離イオンd1、d2、d3が生成される。解離イオンはECD−CID反応手段から排出し、TOF質量分析手段に導入し、TOF質量分析を適用して解離イオンのスペクトルを得る。
CIDモードを実施する方法を説明する。CIDモードでは単離された親イオンのCID反応による解離イオンスペクトルを得る。イオン源で発生させたイオンABCDEは線形イオントラップ質量分析部に導入されて、単離される。図ではイオン種Dを単離した。単離したイオンに対し、線形質量分析手段内部でCIDが実施される。以上の状況において、質量の分かっている選択された親イオンDの線形イオントラップ電極101−104内部での永年運動振動数に対応する周波数をもつ交流電圧を交流電源913を用いて印加する。もしくは、周波数を一定にしている交流電圧により共鳴振動が発生するように、高周波電源1027で発生させているイオントラップ高周波の振幅を設定する。以上により、CIDによる解離イオンD1、D2,D3が生成される。解離イオンは質量選択的にECD−CID質量分析手段から排出され、TOF質量分析手段で検出され質量スペクトルが得られる。
ECD−CIDモードを実施する方法を説明する。このモードではECDを実施して生成した解離イオン種にCIDを生成させ、複合的な解離イオンを生成させることを目的とする。本操作により、質量の等しいアミノ残基であるロイシンとイソロイシンの区別、もしくは、翻訳後修飾された分子を備えたECD解離イオンに対し、CIDを実施して、翻訳後修飾分子を分離し、翻訳後修飾分子の同定ができるようになる。ECDモードと同様にECD解離イオンを発生させる。その後、1つの解離イオンを単離し(図ではd2イオンを模式的に単離している)、CIDを適用する。この単離、CIDの実施期間は磁場の印加を停止する。CIDによる解離イオンはTOF質量分析手段の導入し質量分析操作により、質量スペクトルを得る。
本実施形態は、電磁的な磁場発生手段を用いず、永久磁石を用いるのでコイルへの電源や、コイルの冷却設備を必要としない点で簡便となり、安価な装置を供給可能である。ECDとCIDの組み合わせを必要とする翻訳後修飾を対象としない、すなわちトップダウン的なタンパク質構造解析に適した構造である。
(ECD反応手段を備えた質量分析装置の実施形態4)
図16はイオン源と、線形質量分析手段と電子捕獲解離セルからなる質量分析装置の実施形態を説明する図である。イオン源と、線形イオントラップ質量分析手段と、請求項1記載の電子捕獲解離装置が直列に配置され、それらの要素の間に必要におうじてイオンガイドを挿入した装置構成を持つ電子捕獲解離機能を備えていることを特徴とする。
装置構成は、イオン源細管1623と細口電極1622からなるESIイオン源、線形高周波多重極電極1620と細口電極1621からなるイオンガイドを備えている。以上で発生され真空中に導入されたイオンは線形イオントラップ質量分析手段(1614−1616、1618,1619)に導入される。本質量分析質量分析手段は非特許文献6に示されている形態である。すなわち、線形四重極電極内部で共鳴振動させたイオンが四重極電極の動径方向に共鳴振動させられ、排出されて、イオン検出器1616および1618で検出される原理である。また、図16は動作原理の基礎に基づいた簡略化した記載となっている。本質量分析部分では、イオンの単離、CID反応、および、質量スペクトルを得るための質量分析操作をおこなう。本線形イオントラップ手段には、イオンガイド1613を介してECD−CID反応部分が接続される。
本実施例における基本的な解離と質量分析操作を示す。イオン源で発生させた試料イオンはイオンガイド1620を経て線形イオントラップ質量分析部に導入される。ここで、第1の質量分析操作を行って、試料イオンに含まれるイオンのスペクトルを得る。得られた質量スペクトルを参照し、解離反応により配列構造解析を行うイオンを選択する。再度イオンを導入し、線形イオントラップ質量分析手段により選択したイオンをイオンの共鳴振動により単離する。ここで、ECDを行う場合、単離したイオンはECD−CID手段に導入され、電子を照射してECD反応を発生させる。解離されたイオンはECD−CID手段から排出され、線形イオントラップ質量分析手段に再度導入される。ここで、共鳴振動による質量分析をおこない、質量スペクトルをえる。なお、線形イオントラップ質量分析手段において質量分析操作、単離操作、CID操作を行う場合は、ECD−CID部の磁場を停止させることが質量分解能を得るために有効である。
なお、本実施形態を用いて、線形イオントラップ質量分析手段をもちいてCIDのみを行うこと、および、ECDとCIDを組み合われて行うことは容易である。その基本的な操作手順は図13として説明した内容とほとんど一致する。質量分析手段がTOF質量分析手段ではなく、線形イオントラップ質量分析手段を用いる点が異なるのみである。
(リン酸修飾または糖鎖修飾されたたんぱく質の解析手順の実施形態)
ECDとCIDを組み合わせて翻訳後修飾されたタンパク質の質量分析的構造解析の手順を説明する。基本となる測定シーケンスを図21に示した。はじめにCIDをもちいて翻訳後修飾がされていることを判定し、修飾されている分子の大きさを得て、つづいてECDをもちいて修飾されている部位を同定する手順である。
図21に示したように、測定はまず、試料イオンのMSモードによる測定から開始する。本測定により、試料として質量分析装置に導入されたイオンの分布を知る。測定されたイオンの質量、および、液体クロマトグラフの溶出時間などを参照すれば、配列情報を含め、イオン種同定が可能である場合がある。その場合は、もはや解離反応によりイオン種同定を行う必要はない。溶出時間とイオン質量からなるイオン同定のデータベースを参照し、もし、すでに同定されている場合は、測定を終了する。同定されていない場合は、つぎの分析手続きに移る。
つづいて、選択されたイオン種に対し、CIDモードを適用する。CIDにより、翻訳後修飾されているイオンの場合は、ニュートラルロスが発生する。ニュートラルロスとは、反応前後において価数が変化することなく、分子を構成する一部が脱落することをいう。翻訳後修飾されている部位はCIDでは優先的に解離するために、ニュートラルロスが発生しやすくなっている。ニュートラルロスがこのニュートラルロスのうち、リン酸(PO)に対応する質量が脱落している場合はリン酸修飾されているものと判定できる。また、単糖の質量の組み合わせで説明できる場合は糖鎖修飾されているものと判定できる。一般に、高い確率でニュートラルロスが発生している場合は、簡単のため、翻訳後修飾された分子であると判定してもよい。高い確率でニュートラルロスが発生しない場合、普通にCIDスペクトルが取得されるので、これをもって、測定を終了する。
つづいて、ニュートラルロスと判定されたイオン種に対し、ECDモードを適用する。ECDは翻訳後修飾された部位を保存したままアミノ残基配列からなる主鎖を切断する。そのため、ECDスペクトルをみれば、通常のアミノ残基の配列からなるC,Zフラグメントに加え、翻訳後修飾された分子をともなった大きな値のC,Zフラグメント間の間隔が見出される。この大きな間隔をもたらした部位が翻訳後修飾を受けた部位であると判定できる。
(ECD反応手段の実施形態5)
図22、図24は電子強度をモニターする電極とガス室を備えたECD反応手段の実施形態の例であり、図25はそのようなECD反応手段を複数備えた質量分析装置の実施形態である。図22、図24では2001−4で示す線形四重極電極、2005で示す壁電極、2006で示す壁電極、2007で示す電子引き出し電極、2008で示すガス室、2009で示す電子源被い、2010で示すフィラメント、2011 ガス導入パイプ、2012で示す円筒磁石、および2013で示す電流モニター電極からなる。
電子モニターには、電子強度をモニターすること、および電子のエネルギーをモニターする機能が求められる。とくに電子のエネルギーをモニターするには高周波が印加されていない領域での検知が有効である。そのために、電子モニター電極2013を壁電極5の外側に設置した。電子モニター電極2013に電子を効率よく導くために電子が壁電極5の穴を通過させる。図23に示したような磁場配置を取ることにより電子を効率よく穴を通し、しかも電子モニター電極2013で効率よく捕捉することが可能になる。すなわち、円筒磁石2012に対し、2つの壁電極2005、2006をほぼ対象な位置に磁石の内部に設置する。さらに電子モニター電極2013を図23に示すような壁電極2005の穴を通過した磁力線が透過するように設置する。この設置方法により電子は効率よく電子モニター電極2013に捕捉される。
電子のエネルギーをモニタするためには図27の回路を用いる。2001−4で示す線形四重極電極、2005で示す壁電極、2012で示す円筒磁石、2013で示す電流モニター電極、2014で示す磁石の磁化の方向を示す矢印、2020-2023で示すイオンガイド電極、2022で示す電圧源、2023で示す電流計からなる。電流モニター電極2013に電源2022を用いて四重極電極2001-2004に対してバイアス電圧を印加する。その電圧値が電子のエネルギー(電子ボルト単位で表示)よりも高くなると電子が電流モニター電極で電流として検知されるようになる。そこで、バイアス電圧を変化させて電流値を電流計2023にて検知することにより電子のエネルギーとその強度が観測される。電子捕獲解離では電子の運動エネルギーは重要なパラメータなので装置のチューニングにはこの機構を備えることが有効である。
本実施例では電子源にはタングステンフィラメント2010を用いている。ECDセルの設置される真空度が10−6Torrよりも悪い真空度の場合ディスペンサーカソードの使用は困難となるので、フィラメントの利用が有効である。電子源部分の構成および駆動電源を図25、26に示した。2001−4で示す線形四重極電極、2006で示す壁電極、2007で示す電子引き出し電極、2010で示すフィラメント、2015,2016で示す電気抵抗器、2017で示す電流源、2018で示す電圧源、および2019で示す電子レンズ電極からなる。
フィラメント2010は電流源2017で通電加熱される。フィラメントには中央部分に折れ曲がりを設けている。この部分が高温となり電子はこの先端から強く発生させることができる。フィラメントにはその電気抵抗からフィラメントの長手方向に電位差が発生する。しかし、この形態を用いれば一点から電子が出るためにその運動エネルギーをそろえることが可能となる。フィラメントの中央部分の電位を電源2018を用いて制御するために、フィラメントの両端には電気抵抗器2015、2016を接続し、両者の間に電圧を印加する。この方式によりフィラメントの電子発生点の電位を電源2018の出力値と一致させることができる。
2つの実施形態 図25、図26のうち、図25は単純な構成からなる形態であり、フィラメント2010で発生させた熱電子を引き出し電極2007で引き出し、壁電極6の穴から導入できるようにしたものである。図26では、電子レンズ電極2019を採用している。この電極の形状は、磁力線がこの電極面にほぼ垂直になるような形状となっている。これによりレンズ電極2019の穴から出てきた電子は磁場と平行に加速される。これにより電子は磁場によるサイクロトロン運動が抑制され電子のイオントラップ中心部での透過率が大きくなる。
電子引き出し電極は長時間の電子照射による表面の改変を回避するために、レニウム、モリブデンもしくはレニウムモリブデン合金で作成することが好ましい。もしくは、その表面をグラファイト微粒子などでコーティングして改変を回避することが好ましい。同電極の表面の改変は金属としての表面特性が失われ絶縁体膜が構成されてそこに電子が充電されることにより電子の引き出し効果を著しく低下させる可能性がある。また、電子引き出し電極は、開口部を持つ平板又はメッシュ構造であってもよい。開口部をもつ平板構造は電子がメッシュと衝突して失われる効果がないため、簡便に電子発生効率の高い電子源を構成することができる。またメッシュ構造を採用すると、電子がメッシュに衝突して失われる影響はあるが電子の引き出し方向をほぼ磁力線と平行にすることができるので電子の導入効率の高い電子源を構成することができる。
図24はガス室の構成手段として円筒磁石2012を壁面として利用する形態である。この形態を取ることにより円筒磁石内部にガス室壁を設ける必要がないため、円筒磁石を小さくし、装置サイズと価格を低減することが可能となる。
図28は図22,24の実施形態の電子捕獲解離手段を複数備えた質量分析装置の実施形態の図である。複数の反応手段を備えることにより反応速度の倍化が可能となる。
操作は図12で説明した形態とほとんど等しいのでその詳細説明は前記(ECD反応手段を備えた質量分析装置の実施形態3)を参照する。なお、本実施例のように四重極偏向器409-412に設置する反応手段はECD実施手段に限らず、イオン源、CID実施手段、電子移動解離手段、イオン検出器など任意の質量分析関連手段を接続することが可能である。
(ECD反応手段の実施形態6)
電子捕獲解離反応部のガスセルに希ガスを導入すると、反応効率を向上させることができる。ガスセルに導入するガス種はヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガスを用いる。そのとき、ガスセル内部のそれらの分圧は0.1Paから10Paとし、照射する電子のエネルギーは2電子ボルトから10電子ボルトになるように設定する。このとき、大きな反応効率を得ることができ、高速のECDを実現することができる。図29は本発明の形態である結合型線形四重極高周波イオントラップ内に、試料イオンとして2価のサブスタンスPを導入し、さらに、ヘリウムガスを0.76Paの分圧で導入したときの電子捕獲解離スペクトルの測定例である。照射電子のエネルギーは5.6電子ボルトである。反応時間は20ミリ秒であり、十分な高速反応を実現している。ガスを導入しない場合の実施例である図30にくらべてスペクトルの質を表す反応効率と信号・ノイズ比が格段に向上している効果がわかる。その解離効率は、図31に示したようにHeガスを導入することにより約1桁向上させることができる。生体高分子配列解析に十分に適用な高速によるECDの実施にガスの導入が大きな効果を実現することを示している。従来のFT−ICRでは実現できないガス圧領域であり、高周波イオントラップでの新たな知見である。ガスの導入による反応効率向上の効果は線形イオントラップ構成に限らず、イオンガイドなどガスを導入できるECD反応を実現する装置の形態で実施可能である。
図32にはヘリウムガス圧0.47Paにおいて、電子のエネルギーを変化させたときの電子捕獲解離反応効率を測定した結果である。2電子ボルト以下の電子エネルギーにおいて観測された反応効率のピークが電子捕獲解離であり、2から12電子ボルトで観測された反応効率の分布が高温ECDと呼ばれるECD反応である。とくにガスによる顕著な反応が高温電子捕獲解離において観察された。この領域を利用することにより高い効率での電子捕獲解離が実現される。とくに高速でタンパクを分析するプロテオーム解析分野で有効である。また、とくに2から8電子ボルトの領域では、電子捕獲解離に特徴的なc、zフラグメントが生成され、従来の高温ECDで見られるようなb、yフラグメントが観測されない。このエネルギー領域を利用すればシンプルなスペクトルが取得可能であり、多量のデータが排出されるプロテオーム解析においてそのデータ処理に有利である。
電子捕獲解離セルの実施例を説明する図。 円筒磁石内部の磁力線と、電子源の設置位置を説明する図。 円筒磁石内部の磁力線と、電子源の設置位置を説明する図。 四重極偏向器を備えた電子捕獲解離セルの実施例を説明する図。 四重極偏向器とイオンガイドを備えた電子捕獲解離セルの実施例を説明する図。 円筒永久磁石による磁場発生手段を説明する図。 電磁石による磁場発生手段を説明する図。 ソレノイドによる磁場発生手段を説明する図。 ソレノイドによる磁場発生手段を備えた電子捕獲解離セルの実施例を説明する図。 ソレノイドによる磁場発生手段を備えた電子捕獲解離セルを電子捕獲解離手段、質量分析手段として採用した質量分析装置の実施例を説明する図。 ソレノイドによる磁場発生手段を備えた電子捕獲解離セルを電子捕獲解離手段と、線形イオントラップ質量分析手段質量分析手段と、飛行時間型質量分析手段とを備えた質量分析装置の実施例を説明する図。 永久磁石による磁場発生手段を備えた電子捕獲解離セルを電子捕獲解離手段と、線形イオントラップ質量分析手段質量分析手段と、飛行時間型質量分析手段とを備えた質量分析装置の実施例を説明する図。 四重極偏向器を備えた電子捕獲解離セルを電子捕獲解離手段とし、飛行時間型質量分析手段とを備えた質量分析装置の操作例を説明する図。 四重極偏向器を備えた電子捕獲解離セルを電子捕獲解離手段とし、線形イオントラップ質量分析手段質量分析手段と、飛行時間型質量分析手段とを備えた質量分析装置の操作例を説明する図。 電子捕獲解離セルを電子捕獲解離手段と質量分析手段として用いる質量分析装置の操作例を説明する図。 イオン源と、線形質量分析手段と電子捕獲解離セルからなる質量分析装置の実施例を説明する図。 磁石を備えた3次元イオントラップによる電子捕獲解離質量分析装置の公知例を説明する図。 磁石を備えた2次元イオントラップによる電子捕獲解離装置の公知例を説明する図。 フーリエ変換型質量分析装置における電子捕獲解離の公知例を説明する図。 四重極偏向器を備え、永久磁石による磁場発生手段による電子捕獲解離セルを電子捕獲解離手段とし、線形イオントラップ質量分析手段質量分析手段と、飛行時間型質量分析手段とを備えた質量分析装置の操作例を説明する図。 本発明の装置を用いて翻訳後修飾解析を実施するための測定手順を説明する図。 フィラメントを電子源として用い、ガスセルを備えた電子捕獲解離反応手段を説明する図。 円筒磁石内部の磁力線と、電子源の設置位置を説明する図。 フィラメントを電子源として用い、ガスセルを備えた電子捕獲解離反応手段を説明する図。 フィラメントを電子源として用いた場合の実施例を説明する図。 フィラメントを電子源として用いた場合の実施例を説明する図。 電子強度モニターを説明する図。 2つの反応セルを備えた実施形態を説明する図。 本発明を実施し、ガスを導入して電子捕獲解離を高効率化したスペクトルの測定例。 本発明を実施し、ガスを導入していない状況での電子捕獲解離スペクトルの一例。 本発明を実施したとき、ヘリウムガスの導入圧力と電子捕獲解離効率増加効果の結果。 本発明を実施したとき、電子エネルギーと電子捕獲解離効率増加効果の結果。
符号の説明
101 線形多重極電極を構成する電極、102 線形多重極電極を構成する電極、103 線形多重極電極を構成する電極、104 線形多重極電極を構成する電極、105 壁電極、106 壁電極、107 円筒磁石、108 電子源、109 イオンの出し入れを示す矢印、110 電子の入射を表す矢印、
202 電子引き出し電極、
409 四重極偏向器を構成する電極、410 四重極偏向器を構成する電極、411 四重極偏向器を構成する電極、412 四重極偏向器を構成する電極、413 電子の導入を示す矢印、414 四重極偏向器へのイオンの導入を示す矢印、415 電子捕獲解離部分へのイオンの導入を示す矢印、416 電子捕獲解離部分からイオンを取り出すことを示す矢印、417 四重極偏向器からイオンを取り出すことを示す矢印、
513 イオンガイドを構成する電極、514 イオンガイドを構成する電極、515 イオンガイドを構成する電極、516 イオンガイドを構成する電極、517 電子の導入を示す矢印、518 四重極偏向器へのイオンの導入を示す矢印、519 イオンガイドを通過して電子捕獲解離部分へイオンを導入することを示す矢印、520 電子捕獲解離部分へイオンを導入することを示す矢印、521 電子捕獲解離部分からイオンを排出することを示す矢印、522 四重極偏向器からイオンを取り出すことを示す矢印、
601 永久磁石による円筒磁石、602 磁化の向きを示す矢印、
701 円筒磁芯、702 円筒磁芯、703 円筒磁芯、704 円筒磁芯、705 コイル、706 コイル、707 コイル、708 コイル、709 磁極、710 磁極、
802 ソレノイドコイル、803 真空槽壁、
911 ガス導入管、912 電流源、913 交流電源、
1009 電子源(フィラメント)、1017 イオン検出器、1020 壁電極、1021 イオンガイド、1022 イオン源電極、1023 イオン源細管、1024 差動真空排気を示す矢印、1026 差動真空排気を示す矢印、1027 イオントラップ高周波電源、1028 コンピュータ、
1119 線形イオントラップ質量分析手段を構成する線形四重極電極、 1118線形イオントラップ質量分析手段を構成する壁電極、
1125 差動排気をあらわす矢印、1130 飛行時間型質量分析手段、1131 リフレクター、1132 プッシャー、1133 イオン検出器、1134 ガスを導入したイオンガイドを構成する四重極高周波電極、1135 ガスを導入したイオンガイドを構成する入り口電極、1136 ガスを導入したイオンガイドを構成する出口電極、
1201 線形四重極電極、1205 壁電極、1206 壁電極、1207 円筒永久磁石、1208 高周波電源、1209 電子源、1210 電子引き出し電極、1212 イオンガイド、1213 四重極偏向器、1218 壁電極、1219 線形高周波四重極質量分析手段、1220 壁電極、1221 イオンガイド、1222 イオン源細口電極、1223 イオン源細管、1224 差動排気を示す矢印、1225 差動排気を示す矢印、1226 差動排気を示す矢印、1229 コンピュータ、1230 飛行時間型質量分析手段、1231 リフレクター、1232 プッシャー、1233 イオン検出器、1234 イオンガイド、1235 レンズ電極、1236 レンズ電極、
1614 線形イオントラップ質量分析手段を構成する壁電極、1615 線形イオントラップ質量分析手段を構成する線形四重極電極、1616 イオン検出器、1618 イオン検出器、1619 線形イオントラップ質量分析手段を構成する壁電極、1620 イオンガイドを構成する線形多重極電極、1621 細口電極、1624 差動排気を示す矢印、1625 差動排気を示す矢印、1626 差動排気を示す矢印、1627 差動排気を示す矢印、
1701 リング電極、1702 エンドキャップ電極、1703 エンドキャップ電極、1704 永久磁石リング、1705 永久磁石リング、1706 永久磁石リング、1708 イオン検出器、1709 電子源(フィラメント)、1710 イオン源、
1801 高周波多重極電極、1802 永久磁石、1803 壁電極、1804 高周波電源、1805 双極交流電源、1806 イオンの導入を示す矢印、1807 イオンの取り出しを示す矢印、1808 四重極偏向器、1809 電子源、
1901 FT-ICRセルを構成する電極、1902 FT-ICRセルを構成する電極、1903 FT-ICRセルを構成する電極、1904 FT-ICRセルを構成する電極、1905 壁電極、1906 壁電極、1907 電子源、1908 磁力線を示す矢印、1909 線形四重極質量分析手段、1910 壁電極、1911 壁電極、1912 線形四重極質量分析手段へのイオンの導入を示す矢印、1913 FT−ICRへのイオンの導入を示す矢印、
2001−4 線形四重極電極、2005 壁電極、2006 壁電極、2007 電子引き出し電極、2008 ガス室、2009 電子源被い、2010 フィラメント、2011 ガス導入パイプ、2012 円筒磁石、2013 電流モニター電極、2014 磁石の磁化の方向を示す矢印、2015,2016 電気抵抗器、2017 電流源、2018 電圧源、2019 電子レンズ電極、2020-2023 イオンガイド電極、2022 電圧源、2023 電流計。

Claims (28)

  1. 高周波電場が印加される線形多重極電極と、前記線形多重極電極の軸方向の両端に配置
    され前記線形多重極電極の軸上に穴を具備し直流電圧が印加されて壁電場を生成する壁電
    極を有する線形イオントラップと、
    前記線形多重極電極の軸と同軸を含む磁場を発生し、前記線形イオントラップを取り囲む
    筒型の磁場発生手段と、
    前記線形多重極電極とは前記壁電極を挟んで反対側に設けられた電子源とを有し、
    前記電子源の電子発生部位が、前記磁場発生手段の発生する磁場の内部に設置されている
    ことを特徴とする電子捕獲解離反応装置。
  2. 請求項1に記載の電子捕獲解離装置において、前記電子源の電子発生部位が前記筒型の磁
    場発生手段の端面かそれよりも内側に設置されることを特徴とする電子捕獲解離反応装置
  3. 請求項1に記載の電子捕獲解離装置において、前記磁場の磁力線が前記電子源側ではない
    前記壁電極を通過するように設置されていることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  4. 請求項3に記載の電子捕獲解離装置において、さらに前記電子源側ではない壁電極に流
    入する電子電流を検知する電流計が接続されていることを特徴とする電子捕獲解離反応装
    置。
  5. 請求項1に記載の電子捕獲解離反応装置において、さらに前記電子源側ではない壁電極に
    隣接して四重極偏向器を備えた電子捕獲解離装置。
  6. 請求項5に記載の電子捕獲解離装置において、前記電子源側ではない壁電極と前記四重極
    偏光器との間にイオンガイドを備えたことを特徴とする電子捕獲解離装置。
  7. 請求項6に記載のイオンガイドの長さが、電子捕獲解離反応部分が発生する磁場の強度が
    1mT以下まで減衰する長さであることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  8. 請求項1記載の電子捕獲解離装置において、前記磁場発生手段は、永久磁石であることを
    特徴とした電子捕獲解離装置。
  9. 請求項1記載の電子捕獲解離装置において、前記磁場発生手段は、電磁石であることを特
    徴とする電子捕獲解離装置。
  10. 請求項1記載の電子捕獲解離装置において、前記磁場発生手段は、真空外部に設置したソ
    レノイドであることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  11. 請求項8乃至10に記載の電子捕獲解離装置を用いた電子捕獲解離装置の操作方法であっ
    て、前記線形多重極電極が線形四重極電極であり、前記線形四重極電極に双極交流電場を
    印加してイオンの衝突解離反応を発生させるとき、前記双極交流電場の周波数は、前記イ
    オンに共鳴振動を励起させる値であり、前記磁場発生手段の動作を停止して磁場を印加し
    ないことを特徴とする衝突解離機能を備えた電子捕獲解離装置の操作方法。
  12. 請求項8乃至10に記載の電子捕獲解離装置を用いた電子捕獲解離装置の操作方法であっ
    て、前記線形多重極電極が線形四重極電極であり、前記線形四重極電極に双極交流電場を
    印加してトラップされたイオンを前記電子捕獲解離装置の外部に排出させるとき、前記磁
    場発生手段の動作を停止して磁場を印加しないことを特徴とする電子捕獲解離装置の操作
    方法。
  13. 請求項5に記載の電子捕獲解離装置と、前記四重極偏向器の第1の口にイオン源、第2の
    口にイオン検出器を備えていることを特徴とする質量分析装置。
  14. 請求項5に記載の電子捕獲解離装置と、前記四重極偏向器の第1の口にイオン源と線形イ
    オントラップ質量分析手段とを備え、第2の口に第2の質量分析手段を備えていることを
    特徴とする質量分析装置。
  15. 請求項13又は14記載の質量分析装置を用いた質量分析装置の操作方法であって、前記
    線形多重極電極が線形四重極電極であり、前記線形四重極電極に双極交流電場を印加して
    トラップされたイオンを電子捕獲解離装置から排出させ、排出された前記イオンを検知す
    る質量分析操作を行うとき、前記磁場発生手段の動作を停止して磁場を印加しないことを
    特徴とする質量分析装置の操作方法。
  16. 請求項13又は14記載の質量分析装置において、前記電子捕獲解離装置で電子捕獲解離
    反応を行っている間に、前記線形イオントラップ質量分析手段で衝突解離反応を行い、衝
    突解離反応により生成されたイオンを、前記四重極偏向器を用いて前記第2の質量分析手
    段に導入することを特徴とする質量分析装置の操作方法。
  17. イオン源と、線形イオントラップ質量分析手段と、請求項1記載の電子捕獲解離装置がほ
    ぼ直列に配置されていることを特徴とする質量分析装置。
  18. 請求項17に記載の質量分析装置において、さらにイオンガイドを有することを特徴と
    する質量分析装置。
  19. 請求項1に記載の電子捕獲解離反応装置において、前記電子源が、屈曲したフィラメントであることを特徴とする電子捕獲解離反応装置。
  20. 請求項19に記載の電子捕獲解離反応装置において、前記電子源と前記壁電極との間に電子引き出し電極を有していることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  21. 請求項20に記載の電子捕獲解離装置において、前記引き出し電極が、開口部を持つ平板又はメッシュ構造をしていることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  22. 請求項20に記載の電子捕獲解離装置において、前記電子引き出し電極が、レニウム、モリブデンもしくはレニウムモリブデン合金でできていることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  23. 請求項20に記載の電子捕獲解離装置において、前記電子引き出し電極が、グラファイト微粒子でコーティングされていることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  24. 請求項19に記載の電子捕獲解離装置において、さらに前記電子源と反対側に設けられた前記壁電極の穴を通過した電子を捕捉して電流検知する電極を有していることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  25. 請求項20に記載の電子捕獲解離装置において、前記電子源と前記引き出し電極との間に、さらに電子を加速させる電子レンズ電極を有していることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  26. 請求項19に記載の電子捕獲解離装置において、前記線形イオントラップは、前記筒型の磁場発生手段の内側に、ガス室を形成していることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  27. 請求項26に記載の電子捕獲解離装置において、前記ガス室に導入されるガスは、希ガスであり、前記ガス室内部は、0.1Pa以上10Pa以下に設定されていることを特徴とする電子捕獲解離装置。
  28. 請求項27に記載の電子捕獲解離装置において、前記電子源の電子エネルギーは、2電子ボルト以上10電子ボルト以下であることを特徴とする電子捕獲解離装置。
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