以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる中空糸膜束は、ポリビニルピロリドンを含有するポリスルホン系樹脂で構成されているところに特徴を有する。本発明におけるポリスルホン系樹脂とは、スルホン結合を有する樹脂の総称であり特に限定されないが、例を挙げると
で示される繰り返し単位をもつポリスルホン樹脂やポリエーテルスルホン樹脂がポリスルホン系樹脂として広く市販されており、入手も容易なため好ましい。
本発明に用いられるポリビニルピロリドンは、N−ビニルピロリドンをビニル重合させた水溶性の高分子化合物であり、BASF社より「コリドン」、ISP社より「プラスドン」、第一工業製薬社より「ピッツコール」の商品名で市販されており、それぞれ各種の分子量の製品がある。一般には、親水性の付与効率では低分子量のものが、一方、溶出量を低くする点では高分子量のものを用いるのが好適であるが、最終製品の中空糸膜束の要求特性に合わせて適宜選択される。単一の分子量のものを用いても良いし、分子量の異なる製品を2種以上混合して用いても良い。また、市販の製品を精製し、例えば分子量分布をシャープにしたものを用いても良い。
本発明においては、過酸化水素含有量が300ppm以下のポリビニルピロリドンを用いて選択透過性中空糸膜束を製造するのが好ましい。原料として用いるポリビニルピロリドン中の該過酸化水素含有量を300ppm以下にすることで、製膜後の中空糸膜束中の過酸化水素溶出量を容易に5ppm以下に抑えることができ、本発明の中空糸膜束の品質安定化が達成できるので好ましい。原料として用いるポリビニルピロリドン中の過酸化水素含有量は250ppm以下がより好ましく、200ppm以下がさらに好ましく、150ppm以下がよりさらに好ましい。
上記した原料として用いるポリビニルピロリドン中に過酸化水素が存在すると、ポリビニルピロリドンの酸化劣化の引き金となっているものと考えられ、酸化劣化の進行に伴い爆発的に増加し、さらにポリビニルピロリドンの酸化劣化を促進するものと考えられる。従って、過酸化水素含有量を300ppm以下にするということは、選択透過性中空糸膜の製造工程でポリビニルピロリドンの酸化劣化を抑える第一の手段である。また、原料段階でのポリビニルピロリドンの搬送や保存時の劣化を抑える手段を取る事も有効であり推奨される。例えば、アルミ箔ラミネート袋を用いて遮光し、かつ窒素ガス等の不活性ガスで封入するとか、脱酸素剤を併せて封入し保存することが好ましい実施態様である。また、該包装体を開封し小分けする場合の計量や仕込みは、不活性ガス置換をして行い、かつその保存についても上記の対策を取るのが好ましい。また、中空糸膜束の製造工程においても、原料供給系での供給タンク内を不活性ガスに置換する等の手段をとることも好ましい実施態様として推奨される。また、再結晶法や抽出法で過酸化水素量を低下させたポリビニルピロリドンを用いることも排除されない。
本発明の選択透過性中空糸膜の製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば特開2000−300663号公報で知られるような方法で製造できる中空糸膜タイプのものが好ましい。例えば、該特許文献に開示されているポリエーテルスルホン(4800P、住友化学社製)16質量部とポリビニルピロリドン(K−90、BASF社製)5質量部、ジメチルアセトアミド74質量部、水5質量部を混合溶解し、脱泡したものを製膜溶液として、50%ジメチルアセトアミド水溶液を芯液として使用し、これを2重管オリフィスの外側、内側より同時に吐出し、50cmの空走部を経て、75℃、水からなる凝固浴中に導き中空糸膜を形成し、水洗後まきとり、60℃で乾燥する方法が例示できる。
本発明におけるポリスルホン系樹脂に対するポリビニルピロリドンの膜中の構成割合は、中空糸膜に十分な親水性や、高い含水率を付与できる範囲であれば良く、ポリスルホン系樹脂が99〜80質量%、ポリビニルピロリドンが1〜20質量%である事が好ましい。ポリスルホン系樹脂に対してポリビニルピロリドンの割合が少なすぎる場合、膜の親水性付与効果が不足する可能性があるため、該割合は、1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、2.5質量%以上がよりさらに好ましい。一方、該割合が多すぎると、親水性付与効果が飽和し、かつポリビニルピロリドンおよび/または酸化劣化物の膜からの溶出量が増大し、後述するポリビニルピロリドンの膜からの溶出量が10ppmを超える場合がある。したがって、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、よりさらに好ましくは13質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
本発明においては、中空糸膜束よりのポリビニルピロリドンの溶出が10ppm以下で、かつ過酸化水素の溶出が5ppm以下であることが好ましい。
ポリビニルピロリドンの溶出量が10ppmを超えた場合は、この溶出するポリビニルピロリドンによる長期透析時の副作用や合併症が起こる可能性がある。該特性を満足させる方法は限定無く任意であるが、例えば、ポリスルホン系樹脂に対するポリビニルピロリドンの構成割合を上記した範囲にしたり、中空糸膜束の製膜条件を最適化する等により達成できる。より好ましいポリビニルピロリドンの溶出量は8ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下、よりさらに好ましくは4ppm以下である。該ポリビニルピロリドンの溶出量は、透析型人工腎臓装置製造承認基準の溶出試験法に準じた方法で抽出された抽出液を用いて定量し求めたものである。すなわち、乾燥状態の中空糸膜束から任意に中空糸膜を取り出し1.0gをはかりとる。これに100mlのRO水を加え、70℃で1時間抽出を行うことにより得られた抽出液について定量する。
該ポリビニルピロリドンの溶出量を減ずる方策は、限定無く任意であるが、例えば、ポリスルホン系樹脂に対するポリビニルピロリドンの構成割合や中空糸膜の製膜条件を最適化する等により達成できる。特に、洗浄方法の最適化が重要である。
本発明のポリスルホン系選択透過性中空糸膜は、該中空糸膜を用いて作成した膜面積1.5m2(中空糸膜内径基準)の血液浄化器の血液接触側にヘパリン加ヒト全血を150mL/minの流量で灌流した際、60分後の血小板保持率が70%以上98%以下であることが好ましい。
血液適合性を示す指標として、血液と接触した際の血小板の粘着を評価する方法がある。従来、血液適合性向上のために、血小板粘着量を減少させること(血小板保持率を向上させること)を目標に検討がなされてきているが、生体にとって異物である材料との接触による血液成分の活性化は、その程度の差はあってもある意味で不可避であると考えられる。血小板保持率が非常に高い膜では、見かけの血液適合性は良好であると判断されてしまうが、見方を変えた場合、異物である材料との接触で活性化された血小板までもが血液中に放出されてしまっている可能性がある。このような観点から、さらに鋭意検討を行った結果、実は血小板の保持率は70%〜98%であることが好ましいということがわかり、本発明に到った。血小板保持率がこの範囲よりも小さいと血小板の粘着量が多くなり、血栓ができやすくなったり、血液浄化機能が低下したりすることがある。したがって、血小板保持率は75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。また、この範囲よりも大きいと活性化された血小板までも血液中に放出されるため、生体内を循環する血球や血漿などの血液成分が刺激され、生体内の血液全体が活性化された状態となり、凝血傾向や、場合によっては塞栓を生じる危険性も否定できない。したがって、血小板保持率は97%以下がより好ましく、96%以下がさらに好ましく、95%以下がよりさらに好ましい。
本発明における血小板保持率とは、次の方法によって血液灌流前後の血液中の血小板数から算出した値を示す。
(1)採血バッグに、濃度が5U/mLとなるよう予めヘパリンカルシウムを入れておき、健康な成人の血液をひじの内側の静脈からこの採血バッグに採取する。血液灌流に先立ち、血液成分の分析用に血液のサンプリングを行う。
(2)膜面積1.5m2の中空糸膜モジュールの血液側、透析液側を生理食塩水でプライミングし、このモジュールの血液側に上記ヘパリン加ヒト全血を150mL/minの流量で灌流する。この際、採血バッグから流れ出た血液はモジュールの血液側を通過し、採血バッグに戻るように回路を組む。
(3)37℃の環境下で60分の血液灌流を行った後、血液のサンプリングを行い、血液成分の分析を行う。
(4)灌流前後の血液中の血小板数から、次の式により血小板保持率を算出する。
(血小板保持率)[%]=100×[{(灌流後の血液中の血小板数)×(灌流前の血液のヘマトクリット)}/(灌流後の血液のヘマトクリット)]÷(灌流前の血液中の血小板数)
また、血液適合性の指標としては、血液浄化膜に血液を接触させて灌流した際の血小板第4因子(以下PF4と略記する)の上昇率がある。血液が異物と接触した際には、血球の粘着、活性化などが惹起され、同時に凝固系も活性化して最終的に血栓が生成する。このステップにおける血小板の活性化度合いを示すのがPF4濃度であり、血液灌流前後のPF4の濃度比(PF4上昇率)が低いということは血小板の活性化を招きにくいということであり、血液適合性に優れていることを意味する。本発明の血液浄化膜におけるPF4上昇率は好ましくは5倍以下、より好ましくは3倍以下であり、さらに好ましくは2倍以下である。下限は1.0倍である。
さらに、血液適合性の性能保持性の指標としてC特性値が知られている。C特性値とは、血液を使用して測定した透水性の、血液灌流開始15分後の値に対する血液灌流開始120分後の値のパーセンテージであり、この値が小さいことは血液成分の吸着などによって性能が経時的に低下することを意味する。性能保持性の観点から、本発明の中空糸型血液浄化膜におけるC特性値は70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。通常の血液透析においては、3〜5時間程度の治療時間が一般的であり、C特性値がこれ以下である場合には性能保持性が低いため、十分な治療効果を得られないことがある。また、血液灌流中の血液成分の吸着により透水性は経時的に低下していくので、C特性値が高いということは血液成分の吸着が低いと見ることもでき、血液適合性を示す値と考えることもできる。
本発明者等は、上記の血小板保持率は、中空糸膜のカチオン性染料の吸着率と相関があることを見出した。
材料表面の血液適合性を考える上で重要な指標として挙げられるのが、例えば、荷電状態、親水性−疎水性バランス、非特異的な吸着能などである。本発明の中空糸膜はカチオン性染料の吸着率が40%〜70%であることが好ましいが、ここで言うカチオン性染料の吸着率は、上記荷電状態、親水性−疎水性バランス、非特異的な吸着能を示す指標として考えることができる。カチオン性染料の吸着率が40%〜70%の範囲にある時に、膜表面性状が最適化され、生体適合性に優れた膜が得られるものと考えられる。カチオン性染料の吸着率がこの範囲よりも小さいと陰性荷電が少なくなり過ぎてしまうため、表面が陰性に荷電している血小板との静電的な相互作用が大きくなって血小板が粘着しやすくなることがある。したがって、カチオン性染料の吸着率は43%以上がより好ましく、46%以上がさらに好ましい。また、この範囲よりも大きいと疎水性相互作用、非特異的な吸着が多くなって種々の血液成分の吸着を招きやすくなるため、経時的な血液浄化機能の低下が起こることがある。したがって、カチオン性染料の吸着率は68%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましく、63%以下がよりさらに好ましい。
本発明におけるカチオン性染料吸着率とは、次の方法によってカチオン性染料溶液灌流前後の溶液中のカチオン性染料濃度から算出した値を示す。
(1)カチオン性染料を0.5ppmの濃度になるよう水に溶解してカチオン性染料溶液を調製する。
(2)膜と接触する前のカチオン性染料溶液をサンプリングしておく。
(3)カチオン性染料溶液1000mLを測り採り、膜面積1.5m2の中空糸膜モジュールの血液側、透析液側を満たす。
(4)モジュール充填後、余ったカチオン性染料溶液をプールし、モジュールの血液側に200mL/minの流量で灌流する。この際、溶液プールから流れ出た溶液はモジュールの血液側を通過し、プールに戻るように回路を組む。
(5)5分の灌流を行った後、モジュールに充填されたカチオン性染料溶液と、プールされたカチオン性染料溶液を併せ、サンプリングを行う。
(6)カチオン性染料溶液の紫外吸収スペクトルの最大吸収波長(λmax)の吸光度(Absλmax)から、検量線を作成し、膜接触前後のカチオン性染料溶液のカチオン性染料濃度を測定する。
(7)次の式からカチオン性染料吸着率を算出する。
(カチオン性染料吸着率)[%]=100×(灌流後の溶液のカチオン性染料濃度)/灌流前の溶液のカチオン性染料濃度)
本発明においてカチオン性染料とは、例えばメチレンブルー、クリスタルバイオレット、トルイジンブルー、アズールなど特に制限されないが、比較的安価で入手しやすく、有害性が低いことからメチレンブルーが好ましい。
上記の血液適合性、性能安定性に寄与するのは、主として血液接触面最表層のポリビニルピロリドンであると考えられる。本発明の血液浄化膜において、血液接触表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量は好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは15〜40重量%である。ポリビニルピロリドン含有量がこれより低くても高くても、血液成分の過剰な吸着を招く可能性がある。また、ポリビニルピロリドン含有量がこれよりも高いと、血液との接触で多くのポリビニルピロリドンが溶出する可能性があり、安全性の観点から問題となることがある。
架橋などの処理によって構造の一部を改変したポリビニルピロリドンは、本来そのポリビニルピロリドンが持つ特性と微妙に異なる挙動を示すことが考えられる。血液接触使用時の性能保持性を確保するために、本発明の中空糸型血液浄化膜に含まれるポリビニルピロリドンは実質的に不溶化されていないことが好ましく、具体的には不溶成分の含有量が膜全体に対して2重量%未満であることが好ましい。不溶成分の含有量は、膜10gを取り、100mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液を遠心分離機で1500rpm、10分間かけた後上澄みを除去する。残った不溶物に再度、100mlのジメチルホルムアミドを添加して、撹拌をおこなった後、同条件で遠心分離操作をおこない、上澄みを除去する。再び、100mlのジメチルホルムアミドを添加して撹拌し、同様の遠心分離操作をおこなった後、上澄みを除去する。残った固形物を蒸発乾固して、その量から不溶物の含有量を求めた。
血液適合性には、微細な表面形状などの物理的な特性も深く関わっている。本発明の血液浄化膜は、膜の血液接触表面が網目構造であることが好ましい。ここで言う網目構造とは、膜が材料の微小な粒子状構造体を構成成分として成るのではなく、フィブリル状の微小な構造体によって構成されていることを意味する。微小粒子集合体から成る表面は、血球と点で接触するため、血球への刺激が大きく、活性化を招く可能性がある。また、平滑な血液接触面では血球との接触面積が大きくなるため、血球の活性化を招く原因となる可能性があることは既に述べた通りである。これらの表面構造と比較して、網目構造は線で血球と接触するため、血球への刺激、接触面積とも好適であり、血液適合性に優れていると考えられる。
本発明が意図する血液適合性に優れた血液浄化膜を得るための具体的な手段としては、以下に記すような手法が例示される。これらの手法を適当に組み合わせることによって血液適合性に優れた血液浄化膜を得ることができる。
1.ポリスルホン系樹脂の還元粘度の最適化
使用するポリスルホン系樹脂の還元粘度は0.15〜0.6であることが好ましい。詳細な機構は不明であるが、このような還元粘度のポリスルホン系樹脂を使用することで凝固浴内での凝固が適度に制御され、血液接触面でのポリビニルピロリドンの含量が前述の好ましい範囲になるのに好適であると考えられる。還元粘度のより好ましい範囲は0.2〜0.6、さらに好ましくは0.3〜0.6、よりさらに好ましくは0.35〜0.58である。このような還元粘度を有するポリスルホン系樹脂としては、住友化学社製のポリエーテルスルホン、スミカエクセル(登録商標)3600P(還元粘度0.36)、4800P(同0.48)、5200P(同0.52)などを用いるのが好ましい。
2.ノズル吐出直後の中空形成剤とドープの吐出線速度の最適化
中空糸膜を製造する際には、ドープを中空形成剤とともに二重管型のノズルから吐出し、空走部分を経て凝固浴に導き凝固させるのが一般的であることは既に述べた。この際、ノズルから吐出された直後の中空形成剤吐出線速度とドープ吐出線速度が、中空形成剤吐出線速度>ドープ吐出線速度の関係にあると中空糸膜内表面と中空形成剤の界面にてずり応力が働き、摩擦が生じ、適度な荷電が付与されるので好ましい。好ましい条件については後述する。
3.製膜時の非伝導体との摩擦
製膜工程において、走行する中空糸膜と非伝導体とを接触させることにより中空糸膜が静電気を帯びて、本発明の意図する好ましい特性を付与するのに有用である。走行中の中空糸膜と非伝導体の接触は、具体的には、製膜機台の中空糸膜接触部分に非伝導体を使用するのが好ましい。ここで言う中空糸膜接触部分とは、例えば、ガイド、ローラーなどが例示される。使用できる非伝導体は、例えば、エボナイト、テフロン(登録商標)、セラミック、あるいはこれらをコーティングした金属材料などが例示される。
4.ミスト状の水の吹き付け
ミスト状の水は微弱に帯電しているので、製膜された血液浄化膜にミスト状の水を吹き付けることにより膜が静電気を帯びて、本発明の意図する好ましい特性を付与するのに有用である。上記の操作は、静電気付与による好ましい特性の実現と同時に、洗浄操作としても位置付けることができる。具体的には、例えば、中空糸膜紡糸工程において、走行中の中空糸膜に水を噴霧して洗浄を行った後乾燥工程を経て巻取る方法、紡糸工程を経て得られた中空糸膜を糸束としてこれに水を噴霧し、洗浄を行う方法などが例示される。
5、アルカリ土類金属含有水の使用
中空形成剤、凝固槽、洗浄槽等の中空糸膜の製造工程で使用する水に含まれるアルカリ土類金属の量が所定範囲にあることが好ましい。詳細な機構は不明であるが、2価陽イオンとして存在するアルカリ土類金属が、微弱に陰性荷電したポリビニルピロリドンのカルボニル基や水酸基、エーテル結合などの酸素原子を緩やかに架橋するように機能し、膜内におけるポリビニルピロリドンの静的および/または動的存在状態を最適化しているものと推定される。これによって親水性付与剤としてのポリビニルピロリドンの機能が最適化されると同時に溶出が抑制され、かつ、中空糸膜表面の荷電状態の最適化に寄与するものと考えられる。含まれるアルカリ土類金属の総量は、好ましくは0.02〜1ppm、さらに好ましくは0.03〜0.5ppmである。このような水を得るための手法は特に限定されない。製膜に使用する水は不純物除去のためにRO膜などで精製するのが好ましいが、例えば、精製後の水に金属塩を添加する方法が例示される。また、精製のプロセスで不純物混入回避を徹底するため、RO膜に供給する原水としてイオン交換水を使用する方法もあるが、例えば、あえてこの原水に通常の上水を使用し、得られる水に微量のアルカリ土類金属を残存させる方法も例示される。精製後の水に金属塩を添加する方法においては、該金属イオン調整水を限外濾過して不純物を除去して使用するのが好ましい。
6、中空糸膜の過乾燥の回避
また、カチオン性染料の吸着率は、中空糸膜内表面の最表層に存在するポリビニルピロリドンの劣化反応も重要な要因である。該最表層ポリビニルピロリドンの劣化反応は中空糸膜の乾燥工程において、過乾燥状態になると加速的に進行する。例えば、最表層のポリビニルピロリドン含有量が高い状態で中空糸膜を過乾燥するとポリビニルピロリドンの劣化反応が進行する。最表層のポリビニルピロリドンが高い場合は、本来は親水性が高くメチレンブルーの吸着は抑制され、血液適合性は良好であるはずであるが、該最表層のポリビニルピロリドンが劣化すると、カチオン染料の吸着率が高くなり、血液適合性が低下することを経験的に見出している。その理由は明確ではないが、ポリビニルピロリドン中のピロリドン環が開環しカルボキシル基が生成し、内表面の陰性荷電バランスが変化することによりカチオン性染料の吸着率が増大するものと推察している。
上記過乾燥による劣化反応は、中空糸膜の乾燥終了時の含水率の影響を大きく受ける。含水率が1質量%未満になると劣化反応が加速的に増大する。従って、乾燥は含水率が1質量%以上で停止するのが好ましい。
上記の中空糸膜の過乾燥抑制は、後述する中空糸膜からの抽出液のUV吸光度を本発明で規制された好ましい範囲に制御することや部分固着抑制に対しても大きく影響することより二重の効果を奏することになるのでその効用は大きい。
7.ポリビニルピロリドンの架橋の回避
ポリビニルピロリドンが架橋されることで、ポリビニルピロリドンが本来持つ特性と微妙に異なる挙動を示すことが考えられるので、血液接触使用時の性能保持性を確保するために、本発明の中空糸型血液浄化膜に含まれるポリビニルピロリドンは実質的に不溶化されていないことが好ましいことは既に述べた。具体的にポリビニルピロリドンの架橋を回避する手段としては、次のような手法が例示される。
血液浄化膜の滅菌には、γ線などの高エネルギー線照射が利用されているが、ポリビニルピロリドンは、γ線照射によって架橋することが知られている。照射するγ線は20〜60kGyが好ましい。γ線量が少なすぎると、滅菌効果が不足することがある。また、γ線量が多すぎると、膜素材が劣化することがある。γ線架橋による不溶成分の含有量を本発明が意図する範囲に制御するには、γ線照射する際に膜の含水率が好ましくは0.8〜5.0質量%、さらに好ましくは1.0〜4.0質量%、特に好ましくは1.5〜3.5質量%である、実質的にドライ膜であることが好ましい。前述した中空糸膜の過乾燥を回避する要件を考慮すると含水率の下限は1質量%であることがより好ましい。膜の含水率がこの範囲にあれば、γ線照射時のポリビニルピロリドンの劣化・分解の抑制および架橋抑制の両方の効果を得ることができる。また、30〜80質量%のグリセリンを含浸させておくこともγ線照射時の架橋を抑制するための好ましい態様である。ここで言う実質的にドライ膜であるとは、水あるいは水系溶媒に浸漬されておらず、膜を取出した時に水あるいは水系溶媒の滴下が見られず、膜表面を濾紙などで払拭した際に、払拭材(濾紙など)に水あるいは水系溶媒の移動が目視で確認できない膜であることを意味する。
血液浄化器用の中空糸膜は、上記の内表面側の特性と共に、外表面側の特性も重要である。
本発明においては、上記したポリビニルピロリドンの中空糸膜の外表面最表層における含有量が25〜50質量%であるのが好ましい。外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量が25質量%未満では膜全体、特に膜内表面のポリビニルピロリドンの含有量が低くなりすぎ、血液適合性や透過性能の低下が起こる可能性がある。また乾燥膜の場合、プライミング性が低下することがある。血液透析器を血液浄化療法に使用する時には、生理食塩水などを血液透析器の中空糸膜内外部に流すことにより、湿潤化および泡抜きを行う必要がある。このプライミング操作において、中空糸膜の真円度や端部の潰れ、変形、膜素材の親水性などが、プライミング性に影響を与えると考えられるが、ポリスルホン系樹脂とポリビニルピロリドンからなる中空糸膜であって乾燥膜血液浄化器の場合には、中空糸膜の親疎水バランスがプライミング性に大きく影響する。したがって、外表面最表層におけるポリビニルピロリドンの含有量は27質量%以上がより好ましく、29質量%以上がさらに好ましく、31質量%以上がよりさらに好ましい。また、外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量が50質量%を超すと透析液に含まれるエンドトキシン(内毒素)が血液側へ浸入する可能性が高まり、発熱等の副作用を引き起こすことに繋がるとか、膜を乾燥させた時に膜外表面に存在するポリビニルピロリドンが介在し中空糸膜同士がくっつき(固着し)、血液浄化器組み立ての作業性が悪化する等の課題を引き起こす可能性がある。したがって、47質量%以下がより好ましく、43質量%以下がさらに好ましく、41質量%以下がよりさらに好ましい。
上述した中空糸膜の内表面最表層および外表面最表層におけるポリビニルピロリドンの含有量および細孔径を上記した範囲にする方法として、例えば、製膜溶液中のポリスルホン系樹脂に対するポリビニルピロリドンの含有量を65:35〜90:10にしたり、中空糸膜の製膜条件を最適化する等により達成できる。また、製膜された中空糸膜を洗浄することも有効な方法である。製膜条件としては、ノズル出口のエアギャップ部の湿度調整、延伸条件、凝固浴の温度、凝固液中の溶媒と非溶媒との組成比等の最適化が、また、洗浄方法としては、温水洗浄、アルコール洗浄および遠心洗浄等が有効である。該方法の中で、製膜条件としては、エアギャップ部の湿度および外部凝固液中の溶媒と非溶媒との組成比の最適化が、洗浄方法としてはアルコール洗浄が特に有効である。
エアギャップ部は外気を遮断するための部材で囲むのが好ましく、エアギャップ内部の湿度は、製膜溶液組成とノズル温度、エアギャップ長、外部凝固浴の温度、組成により調整するのが好ましい。例えば、ポリエーテルスルホン/ポリビニルピロリドン/ジメチルアセトアミド/RO水=10〜25/0.5〜12.5/52.5〜89.5/0〜10.0からなる製膜溶液を30〜60℃のノズルから吐出し、50〜1000mmのエアギャップを通過し、濃度0〜70質量%、温度50〜80℃の外部凝固浴に導く場合、エアギャップ部の絶対湿度は0.01〜0.3kg/kg乾燥空気となる。エアギャップ部の湿度をこのような範囲に調整することで、外表面開孔率および外表面平均孔面積、外表面ポリビニルピロリドン含有量を適正な範囲にコントロールすることが可能となる。
エアーギャップ長は100〜900mmがより好ましく、200〜800mmがさらに好ましい。エアギャップ長が長すぎると、糸切れ、糸揺れによる融着が発生しやすくなり紡糸安定性が低下することがある。また、エアギャップ長が短すぎると、相分離の進行が不十分になるため均一な細孔径が得られなくなることがある。
中空糸膜を紡糸する際には、ドープを中空形成剤とともに二重管型のノズルから吐出し、空走部分を経て凝固浴に導き凝固させる。ノズルから吐出された直後の中空形成剤吐出線速度とドープ吐出線速度が、中空形成剤吐出線速度>ドープ吐出線速度の関係にあると中空糸内表面と中空形成剤の界面にてずり応力が働き、摩擦が生じ、適度な荷電が付与されるので好ましい。中空形成剤吐出線速度はドープ吐出線速度の3倍〜10倍の大きさであることがより好ましい。3倍未満であると中空糸内表面と中空形成剤の界面での応力が小さく適度に荷電をコントロールできない可能性がある。10倍を超えると紡糸口金の圧損が大きくなり吐出むらが発生し膜の形状が不均一になることがある。また、ドープ吐出速度は10000cm/min以下であることが好ましい。これ以上のドープ吐出速度の場合、紡糸口金の圧損が大きくなり吐出むらが発生し紡糸が不安定になったり、膜構造も不均一となる可能性がある。
吐出線速度と線速度比は次の式で算出できる。
(吐出直後の吐出線速度)(cm/min)=(吐出量)(ml/min)/(吐出孔面積)(cm2)
(線速度比)=(中空形成剤の吐出線速度)/(ドープの吐出線速度)
内部凝固液としては、0〜80質量%のジメチルアセトアミド(DMAc)水溶液が好ましい。より好ましくは、20〜70質量%、さらに好ましくは25〜60質量%、よりさらに好ましくは35〜50質量%である。内部凝固液濃度をこの範囲で制御することにより、溶質透過性とポリビニルピロリドンおよびエンドトキシンカット性を両立する細孔径を得ることが可能となる。また、詳細な理由はわからないが、ジメチルアセトアミドと水との混合溶液を用いることにより、ポリスルホン系樹脂とポリビニルピロリドンのモビリティに変化が生じ、製膜後の中空糸膜の血液接触側表面の親疎水比が適度にバランスするものと考えられる。内部凝固液濃度が低すぎると、血液接触面の緻密層が厚くなるため、溶質透過性が低下する可能性がある。また内部凝固液濃度が高すぎると、緻密層の形成が不完全になりやすくポリビニルピロリドンや膜中に含まれるエンドトキシン(フラグメント)が血液側に溶出しやすくなり、生体(血液)適合性が低下することがある。
外部凝固液は、10〜80℃、0〜40質量%のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)またはDMAc水溶液を使用するのが好ましい。外部凝固液の温度、濃度が高すぎる場合は、透析液側表面開孔率および透析液側表面平均孔面積が大きくなりすぎ、透析使用時エンドトキシン(フラグメント)の血液側への逆流入が増大する可能性がある。また、外部凝固液の温度、濃度が低すぎる場合には、製膜溶液から持ち込まれる溶媒を希釈するために大量の水を使用する必要があり、また廃液処理のためのコストが増大する。そのため、外部凝固液の温度、濃度はより好ましくは20〜80℃、0〜35質量%、さらに好ましくは30〜80℃、0〜30質量%、よりさらに好ましくは40〜80℃、5〜30質量%、特に好ましくは50〜80℃、10〜30質量%である。
本発明の中空糸膜の製造において、完全に中空糸膜構造が固定された後に実質的に延伸をかけないことが好ましい。実質的に延伸を掛けないとは、外部凝固液から引き出した中空糸膜をその後の工程において走行する中空糸膜に弛みが生じない程度の張力のみを与えて走らせ、最終的に綛に巻き取ることを意味する。完全に膜構造が固定された中空糸膜に延伸をかけると、孔の変形や、潰れ、裂け、配向が起こり、ポリビニルピロリドンの溶出が増加したり、エンドトキシンが血液側に浸出しやすくなることがある。製膜工程中の接触部材との摩擦や液抵抗により、走行中の中空糸膜には伸びが発生するため全てのローラー速度を等速にして製膜することは困難である。弛みが生じない程度の張力とは、具体的にはノズルから吐出された製膜溶液に弛みや過度の緊張が生じないように紡糸工程中のローラー速度をコントロールすることを意味する。ここで言う延伸比とはローラー間の速度比である。ローラー間の延伸比の好ましい範囲は、0.01〜1.5%である。より好ましい範囲は、0.05〜1%、さらに好ましい範囲は0.1〜0.7%である。
吐出線速度/凝固浴第一ローラー速度比(ドラフト比)は0.7〜1.8が好ましい範囲である。前記比が0.7未満では、走行する中空糸膜に弛みが生じることがあり生産性の低下に繋がることがあるので、ドラフト比は0.8以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましく、0.95以上がよりさらに好ましい。ドラフト比が1.8を超える場合には、中空糸膜の緻密層が裂けるなど膜構造が破壊されることがある。そのため、ドラフト比は、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下、よりさらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.4以下である。ドラフト比をこの範囲に調整することにより細孔の変形や破壊を防ぐことができ、膜孔への血中タンパクの目詰まりを防ぎ経時的な性能安定性やシャープな分画特性を発現することが可能となる。
適度な陰性荷電を持たせるためには、膜表面の静電気を少なくすることが好ましい。膜表面の静電気は主に乾燥や摩擦により発生する。中空糸膜の乾燥を防ぐ方法として、乾燥工程で絶乾しないことやグリセリン処理をすることが挙げられる。グリセリン処理に用いるグリセリン水溶液の濃度は10〜70質量%が好ましく、15〜65質量%がより好ましい。また、別の手段として、乾燥時のエアーを除電することが有効である。除電処理はプラスとマイナスを発生する除電機器を用いて、膜の帯電量に応じた中空糸膜の耐電極性とは反対極性のイオンを与えることによって膜の静電気を中和することによって行われる。帯電量に応じた反対極性のイオンを供給する方法としては、Ion Current Control方式を取り入れた除電機器を用いた方法を用いて中空糸膜を直接除電することができる。Ion Current Control方式とは、帯電物と除電機器のアース電極との電位差によって生じるイオン電流をセンシングすることで、帯電物の帯電状況を把握し、その帯電量に応じた反対極性のイオンを供給するように、プラス、マイナスそれぞれの電極針に高電圧をかける時間(パルス幅)を制御するものである。静電気を起こす摩擦を防ぐ方法として、紡糸機のローラーやガイドの素材を適正化することも効果的である。ローラーやガイドの素材としては、テフロン(登録商標)、ベークライト、ステンレス、プラスチックなどがあるが、中空糸型膜との摩擦を最小限にするステンレスが適している。またそれらの形状は中空糸との摩擦を最小限にするために、接触部が滑らかな曲線になっていることが好ましい。また、アースをつけることも好ましい。このように静電気や摩擦が起こらないような工程管理をすることにより、ポリスルホン系樹脂が本来もっている陰性荷電を適度にコントロールすることができる。
本発明においては、選択透過性中空糸膜束からの過酸化水素の溶出量は5ppm以下であることが好ましい。4ppm以下がより好ましく、3ppm以下がさらに好ましい。該過酸化水素の溶出量が5ppmを超えた場合は、前記したように該過酸化水素によるポリビニルピロリドンの酸化劣化のために保存安定性が悪化し、例えば、長期保存した場合にポリビニルピロリドンの溶出量が増大することがある。保存安定性としては、該ポリビニルピロリドンの溶出量の増加が最も顕著な現象であるが、その他、ポリスルホン系高分子の劣化が引き起こされて中空糸膜が脆くなるとか、モジュール組み立てに用いるポリウレタン系接着剤の劣化を促進しウレタンオリゴマー等の劣化物の溶出量が増加し、安全性の低下に繋がる可能性がある。長期保存における過酸化水素の酸化作用により引き起こされる劣化起因の溶出物量の増加は透析型人工腎臓装置製造承認基準により設定されているUV(220−350nm)吸光度の測定により評価できる。
過酸化水素の溶出量も透析型人工腎臓装置製造承認基準の溶出試験法に準じた方法で抽出された抽出液を用いて定量したものである。
本発明においては、前記したポリスルホン系選択透過性中空糸膜束の長手方向に10個に分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出量が全ての部位で5ppm以下であることが好ましい実施態様である。先述したように、過酸化水素は中空糸膜束の特定部位に存在しても、その個所より中空糸膜束素材の劣化反応が開始され中空糸膜束の全体に伝播していくため、モジュールと用いられる中空糸膜束の長さ方向の存在量が全領域に渡り、一定量以下を確保する必要がある。すなわち、特定部位の過酸化水素により開始されたポリビニルピロリドンの酸化劣化が連鎖的に中空糸膜束の全体に広がって行き、劣化により過酸化水素量がさらに増大すると共に、劣化したポリビニルピロリドンは分子量が低下するために、中空糸膜束より溶出し易くなる。この劣化反応は連鎖的に進行する。従って、該中空糸膜束は長期保存すると、過酸化水素やポリビニルピロリドンの溶出量が増大し血液浄化器用として使用する場合の安全性の低下に繋がることがある。
過酸化水素の溶出量を上記の規制された範囲に制御する方法としては、例えば、前記したごとく原料として用いるポリビニルピロリドン中の過酸化水素量を300ppm以下にすることが有効な方法であるが、該過酸化水素は上記した中空糸膜束の製造過程でも生成するので、該中空糸膜束の製造条件を厳密に制御する必要がある。特に、該中空糸膜束を製造する際の紡糸溶液の溶解工程および乾燥工程での生成の寄与が大きいので、乾燥条件の最適化が重要である。特に、この乾燥条件の最適化は、中空糸膜束の長手方向の溶出量変動を小さくすることに関して有効な手段となる。
紡糸溶液の溶解工程に関しては、例えば、ポリスルホン系樹脂、ポリビニルピロリドン、溶媒からなる紡糸溶液を撹拌、溶解する際、ポリビニルピロリドン中に過酸化水素が含まれていると、溶解タンク内に存在する酸素の影響および溶解時の加熱の影響により、過酸化水素が爆発的に増加することがわかった。したがって、溶解タンクに原料を投入する際には、予め不活性ガスにて置換された溶解タンク内に原料を投入するのが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが好適に用いられる。また、溶媒、場合によっては非溶媒を添加することもあるが、これら溶媒、非溶媒中に溶存している酸素を不活性ガスで置換して用いるのも好適な実施態様である。
また、過酸化水素の発生を抑制する他の方法として、製膜溶液を溶解する際、短時間に溶解することも重要な要件である。そのためには、通常、溶解温度を高くすることおよび/または撹拌速度を上げればよい。しかしながら、そうすると温度および撹拌線速度、剪断力の影響によりポリビニルピロリドンの劣化・分解が進行してしまう。事実、発明者らの検討によれば、製膜溶液中のポリビニルピロリドンの分子量は溶解温度の上昇に従い、分子量のピークトップが分解方向に移動(低分子側にシフト)したり、または低分子側に分解物と思われるショルダーが現れる現象が認められた。以上より、原料の溶解速度を向上させる目的で温度を上昇させることは、ポリビニルピロリドンの劣化分解を促進し、ひいては選択透過性中空糸膜中にポリビニルピロリドンの分解物をブレンドしてしまうことから、例えば、得られた中空糸膜を血液浄化に使用する場合、血液中に分解物が溶出するなど、製品の品質安全上、優れたものとはならなかった。そこで、ポリビニルピロリドンの分解を抑制する目的で低温で原料を混合することを試みた。低温溶解とはいっても氷点下となるような極端な条件にするとランニングコストもかかるため、通常5℃以上70℃以下が好ましい。60℃以下がより好ましい。しかし、単純に溶解温度を下げると溶解時間の長時間化によるポリビニルピロリドン劣化分解、操業性の低下や設備の大型化を招くことになり工業的に実施する上では問題がある。特に、ポリビニルピロリドンは低温溶解をしようとするとポリビニルピロリドンが継粉になり、それ以上溶解することが困難となったり、均一溶解に長時間を要するという課題を有する。
低温で時間をかけずに溶解するための溶解条件について検討を行った結果、溶解に先立ち紡糸溶液を構成する成分を混練した後に溶解させることが好ましいことを見出し本発明に到達した。該混練はポリスルホン系高分子、ポリビニルピロリドンおよび溶媒等の構成成分を一括して混練しても良いし、ポリビニルピロリドンとポリスルホン系高分子とを別個に混練しても良い。前述のごとくポリビニルピロリドンは酸素との接触により劣化が促進され過酸化水素の発生につながるので、該混練時においても不活性ガスで置換した雰囲気で行う等、酸素との接触を抑制する配慮が必要であり別ラインで行うのが好ましい。混練はポリビニルピロリドンと溶媒のみとしてポリスルホン系高分子は予備混練をせずに直接溶解タンクに供給する方法も本発明の範疇に含まれる。
該混練は溶解タンクと別に混練ラインを設けて実施し混練したものを溶解タンクに供給してもよいし、混練機能を有する溶解タンクで混練と溶解の両方を実施しても良い。前者の別個の装置で実施する場合の、混練装置の種類や形式は問わない。回分式、連続式のいずれであっても構わない。スタティックミキサー等のスタティックな方法であっても良いし、ニーダーや攪拌式混練機等のダイナミックな方法であっても良い。混練の効率より後者が好ましい。後者の場合の混練方法も限定なく、ピンタイプ、スクリュータイプ、攪拌器タイプ等いずれの形式でもよい。スクリュータイプが好ましい。スクリューの形状や回転数も混練効率と発熱とのバランスより適宜選択すれば良い。一方、混練機能を有する溶解タンクを用いる場合の溶解タンクの形式も限定されないが、例えば、2本の枠型ブレードが自転、公転するいわゆるプラネタリー運動により混練効果を発現する形式の混練溶解機が推奨される。例えば、井上製作所社製のプラネタリュームミキサーやトリミックス等が本方式に該当する。
混練時のポリビニルピロリドンやポリスルホン系高分子等の樹脂成分と溶媒との比率も限定されない。樹脂/溶媒の質量比で0.1〜3が好ましい。0.5〜2がより好ましい。
前述のごとくポリビニルピロリドンの劣化を抑制し、かつ効率的な溶解を行うことが本発明の技術ポイントである。従って、少なくともポリビニルピロリドンが存在する系は窒素雰囲気下、70℃以下の低温で混練および溶解することが好ましい実施態様である。ポリビニルピロリドンとポリスルホン系樹脂を別ラインで混練する場合にポリスルホン系樹脂の混練ラインに本要件を適用してもよい。混練や溶解の効率と発熱とは二律背反現象である。該二律背反をできるだけ回避した装置や条件の選択が本発明の重要な要素となる。そういう意味で混練機構における冷却方法が重要であり配慮が必要である。
引き続き前記方法で混練されたものの溶解を行う。該溶解方法も限定されないが、例えば、攪拌式の溶解装置による溶解方法が適用できる。低温・短時間(3時間以内)で溶解するためには、フルード数(Fr=n2d/g)が0.7以上1.3以下、攪拌レイノルズ数(Re=nd2ρ/μ)が50以上250以下であることが好ましい。ここでnは翼の回転数(rps)、ρは密度(Kg/m3)、μは粘度(Pa・s)、gは重力加速度(=9.8m/s2)、dは撹拌翼径(m)である。フルード数が大きすぎると、慣性力が強くなるためタンク内で飛散した原料が壁や天井に付着し、所期の製膜溶液組成が得られないことがある。したがって、フルード数は1.25以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましく、1.15以下がよりさらに好ましい。また、フルード数が小さすぎると、慣性力が弱まるために原料の分散性が低下し、特にポリビニルピロリドンが継粉になり、それ以上溶解することが困難となったり、均一溶解に長時間を要することがある。したがって、フルード数は0.75以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。
本願発明における製膜溶液は所謂低粘性流体であるため、撹拌レイノルズ数が大きすぎると、撹拌時、製膜溶液中への気泡のかみこみによる脱泡時間の長時間化や脱泡不足が起こるなどの問題が生ずることがある。そのため、撹拌レイノルズ数はより好ましくは240以下、さらに好ましくは230以下、よりさらに好ましくは220以下である。また、撹拌レイノルズ数が小さすぎると、撹拌力が小さくなるため溶解の不均一化が起こりやすくなることがある。したがって、撹拌レイノルズ数は、35以上がより好ましく、40以上がさらに好ましく、55以上がよりさらに好ましく、60以上が特に好ましい。さらに、このような紡糸溶液で中空糸膜を製膜すると気泡による曳糸性の低下による操業性の低下や品質面でも中空糸膜への気泡の噛み込みによりその部位が欠陥となり、膜の気密性やバースト圧の低下などを引き起こして問題となることがわかった。紡糸溶液の脱泡は効果的な対処策だが、紡糸溶液の粘度コントロールや溶剤の蒸発による紡糸溶液の組成変化を伴うこともありうるので、行う場合には慎重な対応が必要となる。
さらに、ポリビニルピロリドンは空気中の酸素の影響により酸化分解を起こす傾向にあることから、紡糸溶液の溶解は不活性気体封入下で行うのが好ましい。不活性気体としては、窒素、アルゴンなどが上げられるが、窒素を用いるのが好ましい。このとき、溶解タンク内の残存酸素濃度は3%以下であることが好ましい。窒素封入圧力を高めてやれば溶解時間短縮が望めるが、高圧にするには設備費用が嵩む点と、作業安全性の面から大気圧以上2kgf/cm2以下が好ましい。
その他、本願発明に用いるような低粘性製膜溶液の溶解に用いられる撹拌翼形状としては、ディスクタービン型、パドル型、湾曲羽根ファンタービン型、矢羽根タービン型などの放射流型翼、プロペラ型、傾斜パドル型、ファウドラー型などの軸流型翼が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以上のような低温溶解方法を用いることにより、ポリビニルピロリドンの劣化分解が抑制された安全性の高い中空糸膜を得ることが可能となる。さらに付言すれば、製膜には原料溶解後の滞留時間が24時間以内の紡糸溶液を使用することが好ましい。なぜなら、製膜溶液が保温されている間に熱エネルギーを蓄積し、原料劣化を起こす傾向が認められたためである。
過酸化水素の溶出量を上記の規制された範囲に制御する方法としては、乾燥工程においても酸素との接触を低減することが重要である。例えば、不活性ガスで置換した雰囲気で乾燥することが挙げられるが、経済性の点で不利である。経済性のある乾燥方法として、減圧下でマイクロ波を照射して乾燥する方法が有効であり推奨される。被乾燥物から液体を除去して所謂乾燥を行うことにおいて、減圧およびマイクロ波を照射することはそれぞれ単独では公知である。しかし、減圧することとマイクロ波を照射することを同時に行うことは、マイクロ波の特性を勘案すると通常併用しがたい組合せである。本願発明者らは、ポリビニルピロリドンの酸化劣化の防止と中空糸膜からの溶出物量の低減による安全性の向上、生産性の向上を達成するべく、この困難性を伴う組み合わせを採用し、乾燥条件の最適化により経済的にも有利である方法により課題解決可能であることを見出した。
該乾燥方法の乾燥条件としては、20kPa以下の減圧下で出力0.1〜100kWのマイクロ波を照射することが好ましい実施態様である。また、該マイクロ波の周波数は1,000〜5,000MHzであり、乾燥処理中の中空糸膜束の最高到達温度が90℃以下であることが好ましい実施態様である。減圧という手段を併設すれば、それだけで水分の乾燥が促進されるので、マイクロ波の照射出力を低く抑え、照射時間も短縮できる利点もあるが、温度の上昇も比較的低くすることができるので、全体的には中空糸膜束の性能低下に与える影響が少ない。さらに、減圧という手段を伴う乾燥は、乾燥温度を比較的下げることができるという利点があり、特にポリビニルピロリドンの劣化分解を著しく抑えることができるという有意な点がある。適正な乾燥温度は20〜80℃で十分足りるということになる。より好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは20〜50℃、よりさらに好ましくは30〜45℃である。
減圧を伴うということは、中空糸膜束の中心部および外周部に均等に低圧が作用することになり、水分の蒸発が均一に促進されることになり、中空糸膜の乾燥が均一になされるために、乾燥の不均一に起因する中空糸膜束の障害を是正することになる。それに、マイクロ波による加熱も、中空糸膜束の中心および外周全体にほぼ等しく作用することになるから、均一な加熱において、相乗的に機能することになり、中空糸膜束の乾燥において、特有の意義があることになる。減圧度についてはマイクロ波の出力、中空糸膜束の有する総水分含量および中空糸膜束の本数により適宜設定すれば良いが、乾燥中の中空糸膜束の温度上昇を防ぐため、減圧度は20kPa以下、より好ましくは15kPa以下、さらに好ましくは10kPa以下で行う。20kPa以上では水分蒸発効率が低下するばかりでなく、中空糸膜束を構成するポリマーの温度が上昇してしまい劣化してしまう可能性がある。また、減圧度は高い方が温度上昇抑制と乾燥効率を高める意味で好ましいが、装置の密閉度を維持するためにかかるコストが高くなるので0.1kPa以上が好ましい。より好ましくは0.25kPa以上、さらに好ましくは0.4kPa以上である。
乾燥時間短縮を考慮すると、マイクロ波の出力は高い方が好ましいが、例えばポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜束では過乾燥や過加熱によるポリビニルピロリドンの劣化・分解が起こったり、使用時の濡れ性低下が起こるなどの問題があるため、出力はあまり上げないのが好ましい。また0.1kW未満の出力でも中空糸膜束を乾燥することは可能であるが、乾燥時間が伸びることによる処理量低下の問題が起こる可能性がある。減圧度とマイクロ波出力の組合せの最適値は、中空糸膜束の保有水分量および中空糸膜束の処理本数により異なるものであって、試行錯誤のうえ適宜設定値を求めるのが好ましい。
例えば、本発明の乾燥条件を実施する一応の目安として、中空糸膜束1本当たり50gの水分を有する中空糸膜束を20本乾燥した場合、総水分含量は50g×20本=1,000gとなり、この時のマイクロ波の出力は1.5kW、減圧度は5kPaが適当である。
より好ましいマイクロ波出力は0.1〜80kW、さらに好ましいマイクロ波出力は0.1〜60kWである。マイクロ波の出力は、例えば、中空糸膜束の総数と総含水量により決まるが、いきなり高出力のマイクロ波を照射すると、短時間で乾燥が終了するが、中空糸膜が部分的に変性することがあり、縮れのような変形を起こすことがある。マイクロ波を使用して乾燥するという場合に、例えば、中空糸膜に保水剤のようなものを用いた場合に、高出力やマイクロ波を用いて過激に乾燥することは保水剤の飛散による消失の原因にもなる。それに特に減圧の条件を伴うと、中空糸膜への影響を考えれば、従来においては減圧下でマイクロ波を照射することは意図していなかった。本発明の減圧下でマイクロ波を照射するということは、水性液体の蒸発が比較的温度が低い状態において活発になるため、高出力マイクロ波および高温によるポリビニルピロリドンの劣化や中空糸膜の変形等の中空糸膜の損傷を防ぐという二重の効果を奏することになる。
本発明は、減圧下におけるマイクロ波により乾燥をするという、マイクロ波の出力を一定にした一段乾燥を可能としているが、別の実施態様として、乾燥の進行に応じて、マイクロ波の出力を順次段階的に下げる、いわゆる多段乾燥を好ましい態様として包含している。そこで、多段乾燥の意義を説明すると次のようになる。減圧下で、しかも30〜90℃程度の比較的低い温度で、マイクロ波で乾燥する場合に、中空糸膜束の乾燥の進み具合に合わせて、マイクロ波の出力を順次下げていくという多段乾燥方法が優れている。乾燥する中空糸膜の総量、工業的に許容できる適正な乾燥時間などを考慮して、減圧の程度、温度、マイクロ波の出力および照射時間を決めればよい。多段乾燥は、例えば、2〜6段という任意に何段も可能であるが、生産性を考慮して工業的に適正と許容できるのは、2〜3段乾燥にするのが適当である。中空糸膜束に含まれる水分の総量にもよるが、比較的多い場合に、多段乾燥は、例えば、90℃以下の温度における、5〜20kPa程度の減圧下で、一段目は30〜100kWの範囲で、二段目は10〜30kWの範囲で、三段目は0.1〜10kWというように、マイクロ波照射時間を加味して決めることができる。マイクロ波の出力を、例えば、高い部分で90kW、低い部分で0.1kWのように、出力の較差が大きい場合には、その出力を下げる段数を例えば4〜8段と多くすればよい。本発明の場合に、減圧というマイクロ波照射に技術的な配慮をしているから、比較的マイクロ波の出力を下げた状態でもできるという有利な点がある。例えば、一段目は10〜20kWのマイクロ波により10〜100分、二段目は3〜10kWで5〜80分、三段目は0.1〜3kW程度で1〜60分という段階で乾燥する。各段のマイクロ波の出力および照射時間は、中空糸膜に含まれる水分の総量の減り具合に連動して下げていくことが好ましい。この乾燥方法は、中空糸膜束に非常に温和な乾燥方法であり、先行技術においては期待できないことから、本発明の作用効果を有意にしている。
別の態様を説明すると、中空糸膜束の水分総量が比較的少ないという、いわゆる含水率が400質量%以下の場合には、12kW以下の低出力マイクロ波による照射が優れている場合がある。例えば、中空糸膜束総量の水分量が1〜7kg程度と比較的少量の場合には、80℃以下、好ましくは60℃以下の温度における、3〜10kPaの減圧下において、12kW以下の出力の、例えば1〜5kWのマイクロ波で10〜240分、0.5〜1kW未満のマイクロ波で1〜240分、より好ましくは3〜240分、0.1〜0.5kW未満のマイクロ波で1〜240分照射するという、乾燥の程度に応じてマイク口波の照射出力および照射時間を調整すれば乾燥が均一に行われる。減圧度は各段において、一応0.1〜20kPaという条件を設定しているが、中空糸膜の水分含量の比較的多い一段目を例えば0.1〜5kPaと減圧を高め、マイクロ波の出力を10〜30kWと高める、ニ段目、三段目を5〜20kPaの減圧下で0.1〜5kWによる一段よりやや高い圧力下でマイクロ波を照射するという、いわゆる各段の減圧度を状況に応じて適正に調整して変えることなどは、中空糸膜束の水分総量および含水率の低下の推移を考慮して任意に設定することが可能である。各段において、減圧度を変える操作は、本発明の減圧下でマイクロ波を照射するという意義をさらに大きくする。勿論、マイクロ波照射装置内におけるマイクロ波の均一な照射および排気には常時配慮する必要がある。
中空糸膜束の乾燥を、減圧下でマイクロ波を照射して乾燥することと、通風向きを交互に逆転する乾燥方法を併用することも乾燥において工程が煩雑にはなるが、有効な乾燥方法である。マイクロ波照射方法および通風交互逆転方法も、一長一短があり、高度の品質が求められる場合に、これらを併用することができる。最初の段階で、通風交互逆転方法を採用して、平均含水量が20〜60質量%程度に進行したら、次の段階で減圧下でマイクロ波を照射して乾燥することができる。この場合に、マイクロ波を照射して乾燥してから、次に通風向きを交互に逆転する通風乾燥方法を併用することもできる。これらは、乾燥により製造される中空糸膜の品質、特に中空糸膜における長さ方向において部分固着がないポリスルホン系選択透過性中空糸膜束の品質を考慮して決めることができる。これらの乾燥方法を同時に行うこともできるが、装置の煩雑さ、複雑さ、価格の高騰などの不利な点があるため実用的ではない。しかし、遠赤外線等の有効な加熱方法を併用することは本発明の乾燥方法の範囲からは排除しない。
乾燥中の中空糸膜束の最高到達温度は、不可逆性のサーモラベルを中空糸膜束を保護するフィルム側面に貼り付けて乾燥を行い、乾燥後に取り出し表示を確認することで測定することができる。この時、乾燥中の中空糸膜束の最高到達温度は90℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下に抑える。さらに好ましくは70℃以下である。最高到達温度が90℃を超えると、膜構造が変化しやすくなり性能低下や酸化劣下を起こしてしまう場合がある。特にポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜束では、熱によるポリビニルピロリドンの分解等が起こりやすいので温度上昇をできるだけ防ぐ必要がある。減圧度とマイクロ波出力の最適化と断続的に照射することで温度上昇を防ぐことができる。また、乾燥温度は低い方が好ましいが、減圧度の維持コスト、乾燥時間短縮の面より30℃以上が好ましい。
マイクロ波の照射周波数は、中空糸膜束への照射斑の抑制や、細孔内の水を細孔より押出す効果などを考慮すると1,000〜5,000MHzが好ましい。より好ましくは1,500〜4,000MHz、さらに好ましくは2,000〜3,000MHzである。
該マイクロ波照射による乾燥は中空糸膜束を均一に加熱し乾燥することが重要である。上記したマイクロ波乾燥においては、マイクロ波の発生時に付随発生する反射波による不均一加熱が発生するので、該反射波による不均一加熱を低減する手段を取る事が重要である。該方策は限定されず任意であるが、例えば、特開2000−340356号公報において開示されているオーブン中に反射板を設けて反射波を反射させ加熱の均一化を行う方法が好ましい実施態様の一つである。
中空糸膜束の含水率が10〜20質量%まで低下した後は、遠赤外線照射により中空糸膜束を乾燥するのが好ましい。マイクロ波を照射したり、加熱(通風)乾燥を行う方が被乾燥物を速く乾燥するという意味では好ましいが、ポリビニルピロリドンを含む分離膜の場合、ポリビニルピロリドンが乾燥の進行、すなわち中空糸膜中の水分含量の低下に伴い、熱による劣化分解を受けやすくなる問題がある。したがって、乾燥の最終段階(低水分含量)においては、より低いエネルギーでマイルドに乾燥するのが好ましい実施態様である。また、遠赤外線は、電磁波の一種であり、マイクロ波と同様に被乾燥物の内部まで浸透するため、低エネルギーでも被乾燥物を均一に斑なく乾燥できるという特徴を有するため好ましい。
遠赤外線の照射波長は1〜30μmであることが好ましい。水や有機物は波長3〜12μmの遠赤外線の吸収率が高いため、遠赤外線の波長が短すぎても長すぎても、被乾燥物の温度が上がり難くなるため、乾燥時間が延びるなど乾燥にかかるコストが増大することがある。したがって、照射する遠赤外線の波長は1.5〜26μmがより好ましく、2〜22μmがさらに好ましく、2.5〜18μmがよりさらに好ましい。
遠赤外線を照射するための放射媒体としては、表面に酸化金属の被膜を有するステンレス媒体を使用するのが好ましい実施態様である。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼粉体にAl2O3、Fe2O3、TiO2、CaO、MgO、K2O、Na2O等の酸化金属をコーティングした遠赤外線放射体を用いるのが、安価で効率的に遠赤外線を取り出すことができるため、より好ましい実施態様である。
一方、マイクロ波乾燥終了後に行う遠赤外線照射による乾燥の場合は、マイクロ波乾燥の場合と異なり、減圧下で照射しても放電現象は発生しないので、マイクロ波乾燥の場合より減圧度を高めて行うことができる。乾燥効率の点より5kPa以下が好ましく、4kPa以下がより好ましく、3kPa以下がさらに好ましく、2kPa以下がよりさらに好ましい。遠赤外線照射の照射エネルギーは、オーブンの中心部に設けた熱電対で検出される温度で80℃以下になるように制御するのが好ましい。70℃以下で制御するのがより好ましい。この遠赤外線照射による輻射線は、水に吸収されエネルギーに変換される割合が高く、熱効率に優れたものであり、かつ乾燥の推移に従った温度制御も適性にできるという、安全性を備えた利点を有する。この遠赤外線照射による乾燥方法、中空糸膜束の色彩、表面粗さ、屈曲、亀裂、平滑および柔軟な感触などを含む表面効果を保つために乾燥仕上げという点で有意義である。
本発明における好ましい乾燥方法の具体的な態様は、中空糸膜束に(1)マイクロ波照射と遠赤外線照射を同時にする乾燥工程、(2)マイクロ波照射をする乾燥工程、および(3)遠赤外線照射をする乾燥工程という複数の乾燥工程の態様を包含する。本発明の適正な乾燥方法は、まず(A)中空糸膜束に(1)マイクロ波照射と遠赤外線照射を同時にする乾燥工程を採用し、中空糸膜束の含水率が一定値に下がった状態で、(3)遠赤外線照射をする乾燥工程を採用する乾燥方法が一般的である。別の乾燥方法の態様は、(B)中空糸膜束に、(2)マイクロ波照射をする乾燥工程を採用し、中空糸膜束の含水率が一定値に下がった状態で、(3)遠赤外線照射をする乾燥工程を採用する乾燥方法である。勿論この各乾燥工程には適正な温度制御、および減圧下で行う場合の圧力制御、および通風排気を必要な場合にそれを採用することは必須の要件である。
理論的には、(1)乾燥工程と(2)乾燥工程を併用すること、(3)乾燥工程と(1)乾燥工程を併用すること、(2)乾燥工程に(3)乾燥工程を併用することなど、本件発明の乾燥方法を実施する乾燥装置の現場の操作上のことであり、実施可能ではあるが、(A)、(B)の乾燥方法に比べて、その実用上の成果は十分に吟味していない。
このように、遠赤外線照射はマイクロ波照射終了後に照射を開始してもよいし、マイクロ波照射時にも照射し、マイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥とを同時進行で実施してもよい。マイクロ波と遠赤外線照射を同時に行うことにより、マイクロ波照射により励起され中空糸膜表面に移動してきた水の蒸発が遠赤外線照射により加速されるため乾燥効率向上に繋がる。また、この表面水分の効率的な蒸発により、表面水分により誘導されるポリビニルピロリドンの中空糸膜表面の濃度変動が抑制され、部分固着発生抑制に繋げられるので好ましい。上述のごとくマイクロ波乾燥についても減圧下で実施するのが好ましいので、減圧下でマイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥とを同時進行で実施して、前記の含水率になった時点でマイクロ波照射を中止し、減圧状態を維持したまま遠赤外線照射を続行し、さらなる乾燥を続ける方法が好ましい。この折に、マイクロ波の照射終了後に系の減圧度を下げて、コンディショニングを行った後に、再度減圧度を上げて遠赤外線照射を開始してもよい。従って、本発明においては、加熱オーブン内に遠赤外線ヒーターが取り付けられており、かつ加熱オーブン内を減圧(真空)にできる排気系が取り付けられたマイクロ波乾燥機を用いて乾燥することが好ましい実施態様である。
マイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥による、減圧下、および温度という条件を加えて乾燥する場合に、一般には、例えば減圧高温下で高出力のマイクロ波を短時間に加えると、含水率の低下が促進されるが、水分の偏在、ポリビニルピロリドンの偏在が、マイクロ波の加熱にも関係するので、突沸のような現象を誘発し、これが中空糸膜束の材質や多孔構造を傷めることになり、バースト圧に対処できる構造を保証することが出来なくなるおそれがある。本発明は、マイクロ波と遠赤外線の出力を適性に調整して、温度、圧力の環境も調整することにより、特にマイクロ波による中空糸膜束の内、外の全体的な乾燥を促進する一方で、遠赤外線による、特に中空糸膜束の表面を含む全体の乾燥を促進することになり、このマイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥は相乗的な乾燥効果を上げることになる。
本発明においては、乾燥終了後に乾燥系内を常圧に戻す折に窒素ガス等の不活性ガスを用いることが好ましい実施態様である。乾燥終了直後は、中空糸膜束の温度が高いため、乾燥庫内を常圧に戻す際、空気等の酸素を含む気体を送入すると、ポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜の場合、ポリビニルピロリドンが酸素と熱の影響により酸化劣化を受けることがある。したがって、乾燥終了後に乾燥庫内を常圧に戻す際に、不活性ガスを送入することにより中空糸膜束中のポリビニルピロリドンの酸化劣化が抑制される。
中空糸膜束の乾燥は、マイクロ波、遠赤外線を使用して、時間的に無制限に乾燥に供することが品質に良い影響を与えることにはならない。中空糸膜束を構成するポリスルホン系樹脂の、又はポリビニルピロリドン材料の熱劣化や、酸素、水、蒸気などの環境劣化の影響も考えられるからである。したがって、工業的な生産ということからすれば、乾燥時間にも自ずと許容される適正な時間を考慮する必要がある。本発明者等は、マイクロ波、遠赤外線という比較的過酷な乾燥条件に供する中空糸膜の品質を保護するという観点から、さらに工業的生産性という観点から考えれば、乾燥開始から終了するまでの乾燥時間は3時間以内が好ましい。より好ましくは2.5時間以内、さらに好ましくは2時間以内である。
さらに、中空糸膜は絶乾しないのが好ましい。絶乾してしまうと、ポリビニルピロリドンの劣化が増大し、過酸化水素の生成が大幅に増大することがある。また、使用時の再湿潤化において濡れ性が低下したり、ポリビニルピロリドンが吸水しにくくなるため中空糸膜から溶出しやすくなる可能性がある。乾燥後の中空糸膜の含水率は1質量%以上飽和含水率未満が好ましい。1.5質量%以上がより好ましい。中空糸膜の含水率が高すぎると、保存時菌が増殖しやすくなったり、中空糸膜の自重により糸潰れが発生したり、モジュール組み立て時に接着剤の接着障害が発生する可能性があるため、中空糸膜の含水率は10質量%以下が好ましく、より好ましくは7質量%以下である。なお、本発明でいう含水率とは、中空糸膜束の質量(g)を測定し、その後減圧下(−750mmHg以下)で真空乾燥を12時間実施し、乾燥後の質量(g)を測定する。乾燥前後の差を減量(g)として乾燥後質量(g)を基準にして%で求める。以下の式で含水率は決定する。
(減量/乾燥後質量)×100=含水率(質量%)
また、上記のごとく原料ポリビニルピロリドンより混入したり、中空糸膜束の製造工程において生成した過酸化水素を、洗浄により除去する方法も前記した特性値を規制された範囲に制御する方法として有効である。
本発明においては、前述したポリビニルピロリドンの溶出量と内毒素であるエンドトキシンの血液側への浸入を阻止したり、中空糸膜束を乾燥する際の中空糸膜束同士の固着を阻止する等の特性をバランスするために中空糸膜束の外表面におけるポリビニルピロリドンの存在割合を特定範囲にすることが好ましい。該要求に答える方法として、例えば、ポリスルホン系樹脂に対するポリビニルピロリドンの構成割合を前記した範囲にしたり、中空糸膜束の製膜条件を最適化する等により達成できる。また、製膜された中空糸膜束を洗浄することも有効な方法である。製膜条件としては、ノズル出口のエアギャップ部の湿度調整、延伸条件、凝固浴の温度、凝固液中の溶媒と非溶媒との組成比等の最適化が、また、洗浄工程の導入が有効である。
本発明においては、上述のごとく、過酸化水素の溶出量を低減したり、中空糸膜束の外表面におけるポリビニルピロリドンの存在割合を特定範囲にするための手段として中空糸膜束の製造過程において、前記の乾燥工程の前に洗浄工程を導入することが重要である。例えば、水洗浴を通過した中空糸膜束は、湿潤状態のまま綛に巻き取り、3,000〜20,000本の束にする。ついで、得られた中空糸膜束を洗浄し、過剰の溶媒、ポリビニルピロリドンを除去する。中空糸膜束の洗浄方法として、本発明では、70〜130℃の熱水、または室温〜50℃、10〜40vol%のエタノールまたはイソプロパノール水溶液に中空糸膜束を浸漬して処理するのが好ましい。
(1)熱水洗浄の場合は、中空糸膜束を過剰のRO水に浸漬し70〜90℃で15〜60分処理した後、中空糸膜束を取り出し遠心脱水を行う。この操作をRO水を更新しながら数回繰り返して洗浄処理を行う。
(2)加圧容器内の過剰のRO水に浸漬した中空糸膜束を121℃で2時間程度処理する方法をとることもできる。
(3)エタノールまたはイソプロパノール水溶液を使用する場合も、(1)と同様の操作を繰り返すのが好ましい。
(4)遠心洗浄器に中空糸膜束を放射状に配列し、回転中心から40℃〜90℃の洗浄水をシャワー状に吹きつけながら30分〜5時間遠心洗浄することも好ましい洗浄方法である。
前記洗浄方法を2つ以上組み合わせて行ってもよい。いずれの方法においても、処理温度が低すぎる場合には、洗浄回数を増やす等必要になりコストアップに繋がることがある。また、処理温度が高すぎるとポリビニルピロリドンの分解が加速し、逆に洗浄効率が低下することがある。上記洗浄を行うことにより、外表面ポリビニルピロリドンの存在率の適正化を行い、固着抑制や溶出物の量を減ずることが可能となるとともに、過酸化水素溶出量の低減にも繋がる。
上記方法で得られたポリスルホン系選択透過性中空糸膜束は乾燥状態で3ヶ月以上保存した後に、透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度が全ての部位で0.10以下であるのが好ましい。該評価は乾燥状態のサンプルを、湿度50%RHに調湿されたドライボックス中(雰囲気は空気)に室温で3ヶ月間保存した後、前記した方法でUV(220〜350nm)吸光度を測定した。中空糸膜束の製造工程、輸送および在庫の保管等で乾燥状態の中空糸膜束を保管することを考慮すると上記特性の付与が好ましい。
本発明においては、上記特性を有したポリスルホン系選択透過性中空糸膜束が充填されてなる血液浄化器であることが好ましい。該血液浄化器は、上記方法で得た選択透過性中空糸膜束を血液浄化器用ハウジングに装填し、その両端を樹脂で固定化した形状のものが好ましい。
該血液浄化器の形状の一例を図1に示す。
血液浄化器1は、筒状のハウジング2内に選択透過性中空糸膜束3を装填し、該中空糸膜束3の両端部をハウジング2の両端部に接着剤等により固定4し、ハウジング2の両端部をキャップ5a,5bにより被覆してなる。そして、ハウジング2の側部で一方の端部近傍には、ハウジング2内に透析液を導入する透析液導入口6aを、他方の端部近傍には、透析液を排出する透析液排出口6bをそれぞれ突出形成してある。また、一方のキャップ5aにはハウジング2内に血液を導入する血液導入口7aを、他方のキャップ5bには血液を排出する血液排出口7bをそれぞれ突出形成してある。
そして、血液は、矢印Aに示すように、血液導入口7aからキャップ5aと選択透過性中空糸膜束3の一方の端面とにより形成される空間内に入り、選択透過性中空糸膜束3の中空糸の中を通り、選択透過性中空糸束3の他方の端面とキャップ5bとにより形成される空間内に入り、血液排出口7bから矢印Bに示すように排出される。一方、透析液は、矢印Cに示すように、透析液導入口6aからハウジング2内に入り、選択透過性中空糸膜束3の中空糸の外側を流れ、矢印Dに示すように、透析液排出口6bから排出される。このとき、透析される血液の流れと透析液の流れとは逆方向の所謂対向流とする。この間に、選択透過性中空糸膜内を流れる血液中の老廃物が中空糸膜を通して外側の透析液中に透析される。
前記ハウジングやキャップの素材としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン等が挙げられる。また、両端部固定に用いられる接着剤の材料としてはポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂等が挙げられる。
両端部固定に用いられる接着剤の固定部への注入方法は限定されいが、注入すべきモジュールを回転させることにより発生する遠心力を利用して注入する遠心接着法が推奨される。該遠心接着法の方法も限定されない。たとえば、乾燥された選択透過性中空糸膜束が装填されたハウジングの両端に目止め治具を取り付け、遠心接着機にセットする。遠心接着機を所定の回転数で回転させながら、室温付近の温度で透析液導入口6aおよび6bより所定量の未硬化の接着剤樹脂を注入した後、遠心接着機の温度を注入接着剤樹脂の硬化温度に上昇させ、硬化を終了させるか、あるいは少なくとも樹脂の流動性がなくなるまでプレ硬化させて遠心接着機を停止する。後者の場合は静置状態で加温をしてポスト硬化を行い硬化を終了させる。この遠心接着法は選択透過性中空糸膜膜束の接着部の内側を可撓性樹脂層で覆って接着界面の選択透過性中空糸膜を補強した2層遠心接着法であってもよい。
上記遠心接着法の場合、選択透過性中空糸膜束内の空間全体に接着剤が均一に注入されることが重要である。この注入が不均一になり接着剤の注入量が不充分な箇所が生ずると接着不良に繋がる。特に、選択透過性中空糸膜同士が固着した部分があると接着剤の浸透が阻害される。従って、この固着部分の解きほぐしをするために、例えば、選択透過性中空糸膜束端面にノズルより空気を吹き付ける、いわゆる整糸処理等が実施されている。確かに、本整糸処理は固着中空糸膜の解きほぐしには効果があるが、この処理により端面部の選択透過性中空糸膜束の変形が起こり傾き中空糸膜の発生に繋がるので好ましくない。
本発明の選択透過性中空糸膜束は乾燥時の部分固着が抑制されているので整糸処理をしなくても接着剤の注入の均一性が確保されるという特徴を有する。従って、整糸処理は不要である。ただし、接着剤の注入の均一性確保は重要であるので、下記対応等を実施することが好ましい。例えば、接着剤として低粘度の銘柄を選択することが好ましい。二液混合2分後の粘度が2000mPa・s以下が好ましい。1600mPa・s以下がより好ましい。また、モジュール組み立てに用いるハウジングに乾燥選択透過性中空糸膜束を挿入する時の中空状の包装体で拘束される選択透過性中空糸膜束の充填密度を低くすることが好ましい。
充填する中空糸膜束の中空糸膜本数、長さは、市場要求や中空糸膜束特性により適宜設定される。ハウジングの長さや径は該充填する選択透過性中空糸膜束の大きさに見合うように設定される。
該血液浄化器を滅菌後室温で1年以上保存した後に、透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度が全ての部位で0.10以下であるのが好ましい。2年以上経過しても該特性が維持されるのがより好ましい。血液浄化器の保障期間は3ヵ年に設定されているので少なくとも3年間該特性が維持されるのが特に好ましい。1年経過でUV(220〜350nm)吸光度が0.06以下が維持されれば3年間の維持が可能であることを経験的に確認している。
血液浄化器用の選択透過性中空糸膜は、滅菌処理が不可欠である。滅菌処理方法としては、その信頼性や簡便性よりγ線や電子線を照射する放射線滅菌法が好ましい。しかし、放射線照射により、ポリビニルピロリドンの劣化により過酸化水素が発生すると共に放射線照射時に存在する過酸化水素によりその生成が促進されるので前記のような抑制処置が必要であると共に、長手方向に10個に分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出が全ての部位で3ppm以下である選択透過性中空糸膜束を放射線照射処理することが好ましい実施態様である。このことにより、本発明の第一の要件である選択透過性中空糸膜束を長手方向に10個に分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出が全ての部位で5ppm以下とすることが達成可能となる。従って、本発明においては、γ線や電子線照射により滅菌した後においても、選択透過性中空糸膜束を長手方向に10個に分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出が全ての部位で5ppm以下が維持されることが好ましい。
本発明においては、前述のごとくポリビニルピロリドンは非架橋であることが好ましい。ポリビニルピロリドンの架橋反応は選択透過性中空糸膜中の水分により促進される。従って、上記滅菌処理は実質的に乾燥状態の選択透過性中空糸膜において実施するのが好ましい。該方法で実施する場合は、放射線照射によるポリビニルピロリドンの劣化反応が促進されるので上記特性を付与するには、該劣化反応を抑制する対策が必要となる。
該手段は限定されないが、滅菌処理時に選択透過性中空糸膜を取り巻く雰囲気の酸素濃度が1.0容量%以下の状態で放射線および/または電子線照射するのが好ましい。0.5容量%以下がより好ましく、0.1容量%以下がさらに好ましい。1.0容量%を越えた場合は、ポリビニルピロリドンの劣化による過酸化水素生成が増大して前記特性が満たされなくなることがある。
また、選択透過性中空糸膜をモジュールに装填し、かつモジュールを包装袋で密封した状態で放射線および/または電子線照射するのが好ましい。該方法により、滅菌処理操作が簡便化されると共に滅菌処理の効果が持続される。
選択透過性中空糸膜を取り巻く雰囲気の酸素濃度を上記範囲にする方法は限定されない。例えば、選択透過性中空糸膜をモジュールに装填して、モジュール内を不活性ガスで置換する方法が挙げられる。また、モジュールを脱酸素剤と共に包装袋で密封して行ってもよい。特に、後者が好適である。
上記方法で実施する場合の脱酸素剤は、包装袋内の酸素を吸収し実質的な脱酸素状態を形成するために用いるものである。従って、脱酸素機能を有するものであれば限定されない。例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、亜二チオン酸塩、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、没食子酸、ロンガリット、アスコルビン酸および/またはその塩、ソルボース、グルコース、リグニン、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシアニソール、第一鉄塩、鉄粉等の金属粉等を酸素吸収主剤とする脱酸素剤があげられ、適宜選択できる。また、金属紛主剤の脱酸素剤には、酸化触媒として、必要に応じ、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化ニッケル、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化鉄等の金属ハロゲン化合物等の1種または2種以上を加えても良い。また、脱臭、消臭剤、その他の機能性フィラーを加えることも何ら制限を受けない。また、脱酸素剤の形状は特に限定されず、例えば、粉状、粒状、塊状、シート状等の何れでも良く、また、各種の酸素吸収剤組成物を熱可塑性樹脂に分散させたシート状またはフイルム状脱酸素剤であっても良い。
本発明において用いられる包装袋は、上記脱酸素剤で脱酸素される空間を形成すると共に、該脱酸素された状態を長期に渡り維持する機能が必要である。従って、酸素ガスの透過度の低い材料で構成されることが必要である。酸素透過度が10cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下が好ましい。8cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下がより好ましく、6cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下がさらに好ましく、4cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下がよりさらに好ましい。
酸素透過度が10cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)を超えた場合は、包装袋で密封していても、外部より包装袋を通じて酸素ガスが通過し、包装袋内の酸素濃度が増大し実質的な脱酸素状態を維持することができなくなることがある。
また、前述のごとく、本発明においては、血液浄化器に充填されている中空糸膜は特定の含水率を保持する必要がある。従って、本発明における包装袋は水蒸気透過度の低い材料で構成することが好ましい。50g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下が好ましい。40g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下がより好ましく、30g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下がさらに好ましく、20g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下がよりさらに好ましい。
50g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)を超えた場合は、包装袋で密封していても、包装袋を通じて水蒸気が通過するために、中空糸膜の乾燥が進行し上記前記の好ましい含水率が維持できなくなることがある。
本発明において用いられる上記した包装袋の素材や構成は、上記した特性を有すれば限定なく任意である。アルミ箔、アルミ蒸着フイルム、シリカおよび/またはアルミナ等の無機酸化物蒸着フイルム、塩化ビニリデン系ポリマー複合フイルム等の酸素ガスと水蒸気の両方の不透過性素材を構成材とするのが好ましい実施態様である。また、該包装袋における密封方法も何ら制限はなく任意であり、ヒートシール法、インパルスシール法、溶断シール法、フレームシール法、超音波シール法、高周波シール法等が挙げられ、該シール性を有するフイルム素材と前記した不透過性素材とを複合した構成の複合素材が好適である。特に、酸素ガスおよび水蒸気をほぼ実質的に遮断できるアルミ箔を構成層とした外層がポリエステルフイルム、中間層がアルミ箔、内層がポリエチレンフイルムよりなる不透過性とヒートシール性との両方の機能を有したラミネートシートを適用するのが好適である。
上記方法で実施する場合は、血液浄化器に充填されている中空糸膜周辺の雰囲気が実質的な脱酸素状態に保たれ必要がある。従って、血液浄化器の開口部は開口状態である必要がある。
また、上記方法で実施する場合は、中空糸膜中の含水率や、包装袋内の湿度を最適化するのが好ましい。
含水率は前述のごとく0.8〜5.0質量%が好ましい。また、包装袋内の湿度は、室温における相対湿度を40%RH超にするのが好ましい。包装袋内空間の相対湿度は、50〜90%RH(25℃)がより好ましく、60〜80%RH(25℃)がさらに好ましい。
包装袋内空間の相対湿度が40%RH(25℃)以下になるとγ線照射等の放射線照射をした場合に、脱酸素された状態においても、極微量に存在する酸素ガスにより中空糸膜成分、特に、ポリビニルピロリドンの酸化劣化が起こり、過酸化水素が発生し前述のような好ましくない現象の発生に繋がる。逆に、相対湿度が90%RH(25℃)を超えた場合は、包装袋内で結露が生じ、血液浄化器の品位が低下することがある。
本発明でいう相対湿度とは、25℃における水蒸気分圧(p)と25℃における飽和水蒸気圧(P)を用いて相対湿度(%RH)=p/P×100の式で表される。測定は温湿度測定器(おんどとりRH型、T&D社製)のセンサーを包装袋内に挿入シールして行った。
包装袋内空間の相対湿度を40%RH(25℃)超にすることにより、ポリビニルピロリドンの劣化が抑制される理由は不明であるが、以下のごとく推定している。ポリビニルピロリドンの劣化は酸素の存在により促進される。本発明においては、包装袋内は酸化を抑制する状態、すなわち、実質的な無酸素状態に保たれているが、完全な無酸素状態は困難であり、極微量の酸素ガスが存在している。従って、中空糸膜表面に存在するポリビニルピロリドンが包装袋内空間に存在するこの微量酸素ガスとの接触により劣化反応が促進される。そのために、ポリビニルピロリドンの劣化反応は中空糸膜表面に存在するポリビニルピロリドンで反応が開始される。理由は不明であるが、中空糸膜中の含水率を高めることにより、上記劣化反応が抑制されることを経験的に認知している。中空糸膜中に存在するポリビニルピロリドンは、局在化して存在している。そのために、包装袋内の相対湿度が高くなると、この包装袋内に存在する水蒸気が中空糸膜表面のポリビニルピロリドンの局在部分に選択的に吸着され、この吸着された水によりポリビニルピロリドンの劣化反応が抑制されるものと考えられる。従って、湿度アップにより、大きな抑制効果が発現するものと推察される。一方、ポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜は調湿機能、すなわち、吸、放湿特性を有することが知られている(例えば、特開2004−97918号公報)。従って、包装袋内の相対湿度が低い場合は、中空糸膜表面に存在するポリビニルピロリドンに吸着されている水分は包装袋内空間に放出され、特に、上記劣化を受ける極表面に存在するポリビニルピロリドンの吸着水分量が低い状態になり劣化が促進されるものと推察される。これらの現象の相乗効果により、包装袋内の相対湿度がポリビニルピロリドンの劣化反応の抑制に大きく影響するものと推察している。
包装袋内の湿度を上記範囲にする方法は限定されない。例えば、(1)血液浄化器を包装袋で密封する折に湿度を制御した気体を包装袋内に注入あるいは、調湿した環境で密封する、(2)選択透過性中空糸膜の含水率により調整する、(3)水分を放出する脱酸素剤を使用する、(4)脱酸素剤と共に調湿剤を同時に密封する等の方法が挙げられる。
上記調湿剤は、吸、放湿機能により包装袋内空間の相対湿度を上記範囲にする特性を有しておれば制限されない。調湿剤としては、B型シリカゲルが広く使用されているが限定はされない。例えば、B型シリカゲルと類似の調湿剤としては、シリカゲルの細孔分布をシャープにしたり、あるいはさらにアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物よりなる調湿剤補助剤を複合することにより吸、放湿特性を改善した改良型のB型シリカゲル、メソポーラスシリカアルミナゲル、メソポーラス中空繊維状アルミニウムシリケート、ゼオライト等の多孔質無機粒子が挙げられる。また、アクリル酸ナトリウム架橋ポリマーやポリエチレングリコール鎖、ポリビニルピロリドン鎖等を共重合、ブレンドあるいはアロイ化した等の吸水性高分子よりなる粒子、該吸水性高分子を無機マイクロカプセルと複合した複合粒子等であってもよい。該調湿剤の形状は特に限定されず、例えば、粉状、粒状、塊状、シート状等の何れでも良い。粉状、粒状のものは、透湿性の包装材で包装して用いるのが好ましい。また、フィルム、シート、紙、不織布、織布等と複合した複合体として用いてもよい。この場合、複合基材は親水性材料よりなることが好ましい。また、調湿剤粒子を親水性のバインダーと複合し、ポリエステルやポリオレフィン等の汎用素材よりなる基材と複合してもよい。吸水性高分子よりなる調湿剤の場合は、該高分子を直接フィルムやシートとして用いてもよい。また、繊維として、紙、不織布、織布等の形状にして用いてもよい。また、発泡剤を用いて発泡シートやホームの形状として用いてもよい。例えば、塩化アンモニウム等の無機塩調湿剤を吸水性シート(紙、不織布、織布)に含浸した調湿シート、水および界面活性剤等をポリアクリル酸ナトリウムをメタ珪酸アルミン酸マグネシュウム等の無機架橋剤で架橋した網目構造吸水性高分子で固定化したシート状含水ゲル等が好適に使用できる。
上記調湿剤は、事前に相対湿度80〜90%RHの環境でシーズニングしてから使用するのが好ましい。
該血液浄化器用として用いる場合は、バースト圧が0.5MPa以上の中空糸膜束よりなることおよび該血液浄化器の透水率が150ml/m2/hr/mmHg以上であることが好ましい。バースト圧が0.5MPa未満では後述するような血液リークに繋がる潜在的な欠陥を検知することができなくなる可能性がある。また、透水率が150ml/m2/hr/mmHg未満では透析効率が低下する可能性がある。透析効率を上げるためには細孔径を大きくしたり、細孔数を増やしたりするが、そうすると膜強度が低下したり欠陥ができるといった問題が生じやすくなる。従って、外表面の孔径を最適化することにより支持層部分の空隙率を最適化し、溶質透過抵抗と膜強度をバランスさせたものであることが好ましい。より好ましい透水率の範囲は200ml/m2/hr/mmHg以上、さらに好ましくは250ml/m2/hr/mmHg以上、よりさらに好ましくは300ml/m2/hr/mmHg以上である。また、透水率が高すぎる場合、血液透析時の除水コントロールがしにくくなるため、2000ml/m2/hr/mmHg以下が好ましい。より好ましくは1800ml/m2/hr/mmHg以下、さらに好ましくは1500ml/m2/hr/mmHg以下、よりさらに好ましくは1300ml/m2/hr/mmHg以下である。
通常、血液浄化に用いるモジュールは、製品となる最終段階で、中空糸膜やモジュールの欠陥を確認するため、中空糸膜内部あるいは外部をエアによって加圧するリークテストを行う。加圧エアによってリークが検出されたときには、モジュールは不良品として、廃棄あるいは、欠陥を修復する作業がなされる。このリークテストのエア圧力は血液透析器の保証耐圧(通常500mmHg)の数倍であることが多い。しかしながら、特に高い透水性を持つ中空糸型血液浄化膜の場合、通常の加圧リークテストで検出できない中空糸膜の微小な傷、つぶれ、裂け目などが、リークテスト後の製造工程(主に滅菌や梱包)、輸送工程、あるいは臨床現場での取り扱い(開梱や、プライミングなど)時に、中空糸膜の切断やピンホールの発生につながり、ひいては治療時に血液がリークするトラブルの元になるので改善が必要である。該トラブルはバースト圧を前記特性にすることで回避ができる。
また中空糸膜束の偏肉度が、上記した潜在的な欠陥の発生抑制に対して有効である。
本発明におけるバースト圧とは、中空糸膜をモジュールにしてからの中空糸膜束の耐圧性能の指標で、中空糸膜束内側を気体で加圧し、加圧圧力を徐々に上げていき、中空糸膜が内部圧に耐えきれずに破裂(バースト)したときの圧力である。バースト圧は高いほど使用時の中空糸膜束の切断やピンホールの発生が少なくなるので0.5MPa以上が好ましく、0.55MPa以上がさらに好ましく、0.6MPa以上がよりさらに好ましい。バースト圧が0.5MPa未満では潜在的な欠陥を有している可能性がある。また、バースト圧は高いほど好ましいが、バースト圧を高めることに主眼に置き、膜厚を上げたり、空隙率を下げすぎると所望の膜性能を得ることができなくなることがある。したがって、血液透析膜として仕上げる場合には、バースト圧は2.0MPa未満が好ましい。より好ましくは、1.7MPa未満、さらに好ましくは1.5MPa未満、よりさらに好ましくは1.3MPa未満、特に好ましくは1.0MPa未満である。
本発明における偏肉度とは、中空糸膜束モジュール中の100本の中空糸膜束断面を観察した際の膜厚の偏りのことであり、最大値と最小値の比で示す。100本の中空糸膜の最小の偏肉度は0.6以上であることが好ましい。100本の中空糸膜に1本でも偏肉度0.6未満の中空糸膜が含まれると、その中空糸膜が臨床使用時のリーク発生となることがあるので、該偏肉度は平均値でなく、100本の最小値を表す。偏肉度は高い方が、膜の均一性が増し、潜在欠陥の顕在化が抑えられバースト圧が向上するので、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上、よりさらに好ましくは0.85以上である。偏肉度が低すぎると、潜在欠陥が顕在化しやすく、前記バースト圧が低くなり、血液リークが起こりやすくなる。
該偏肉度を0.6以上にするための達成手段は、例えば、製膜溶液の吐出口であるノズルのスリット幅を厳密に均一にすることが好ましい。中空糸膜束の紡糸ノズルは、一般的に、紡糸溶液を吐出する環状部と、その内側に中空形成剤となる芯液吐出孔を有するチューブインオリフィス型ノズルが用いられるが、スリット幅とは、前記紡糸溶液を吐出する外側環状部の幅をさす。このスリット幅のばらつきを小さくすることで、紡糸された中空糸膜束の偏肉を減らすことができる。具体的にはスリット幅の最大値と最小値の比が1.00以上1.11以下とし、最大値と最小値の差を10μm以下とすることが好ましく、7μm以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは5μm以下、よりさらに好ましくは3μm以下である。また、ノズル温度を最適化するのが好ましい実施態様である。ノズル温度は20〜100℃が好ましい。20℃未満では室温の影響を受けやすくなりノズル温度が安定せず、紡糸溶液の吐出斑が起こることがある。そのため、ノズル温度は30℃以上がより好ましく、35℃以上がさらに好ましく、40℃以上がよりさらに好ましい。また100℃を超えると紡糸溶液の粘度が下がりすぎ吐出が安定しなくなることがあるし、ポリビニルピロリドンの熱劣化・分解が進行する可能性がある。よって、ノズル温度は、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、よりさらに好ましくは70℃以下である。
さらに、バースト圧を高くする方策として、中空糸膜束表面の傷や異物および気泡の混入を少なくし潜在的な欠陥を低減するのも有効な方法である。傷発生を低減させる方法としては、中空糸膜束の製造工程のローラーやガイドの材質や表面粗度を最適化する、モジュールの組み立て時に中空糸膜束をモジュール容器に挿入する時に容器と中空糸膜束との接触あるいは中空糸膜束同士のこすれが少なくなるような工夫をする等が有効である。本発明では、使用するローラーは中空糸膜束がスリップして中空糸膜束表面に傷が付くのを防止するため、表面が鏡面加工されたものを使用するのが好ましい。また、ガイドは中空糸膜束との接触抵抗をできるだけ避ける意味で、表面が梨地加工されたものやローレット加工されたものを使用するのが好ましい。中空糸膜束をモジュール容器に挿入する際には、中空糸膜束を直接モジュール容器に挿入するのではなく、中空糸膜束との接触面が例えば梨地加工されたフィルムを中空糸膜束に巻いたものをモジュール容器に挿入し、挿入した後、フィルムのみモジュール容器から抜き取る方法を用いるのが好ましい。
中空糸膜束への異物の混入を抑える方法としては、異物の少ない原料を用いる、製膜用の紡糸溶液をろ過し異物を低減する方法等が有効である。本発明では、中空糸膜束の膜厚よりも小さな孔径のフィルターを用いて紡糸溶液をろ過してからノズルより吐出するのが好ましく、具体的には均一溶解した紡糸溶液を溶解タンクからノズルまで導く間に設けられた孔径10〜50μmの焼結フィルターを通過させる。ろ過処理は少なくとも1回行えば良いが、ろ過処理を何段階かにわけて行う場合は後段になるに従いフィルターの孔径を小さくしていくのがろ過効率およびフィルター寿命を延ばす意味で好ましい。フィルターの孔径は10〜45μmがより好ましく、10〜40μmがさらに好ましい。フィルター孔径が小さすぎると背圧が上昇し、定量性が落ちることがある。また、気泡混入を抑える方法としては、製膜用のポリマー溶液の脱泡を行うのが有効である。紡糸溶液の粘度にもよるが、静置脱泡や減圧脱泡を用いることができる。この場合、溶解タンク内を−100〜−750mmHgに減圧した後、タンク内を密閉し5分〜30分間静置する。この操作を数回繰り返し脱泡処理を行う。減圧度が低すぎる場合には、脱泡の回数を増やす必要があるため処理に長時間を要することがある。また減圧度が高すぎると、系の密閉度を上げるためのコストが高くなることがある。トータルの処理時間は5分〜5時間とするのが好ましい。処理時間が長すぎると、減圧の影響によりポリビニルピロリドンが分解、劣化することがある。処理時間が短すぎると脱泡の効果が不十分になることがある。
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
1、透水率の測定
透析器の血液出口部回路(圧力測定点よりも出口側)を鉗子により封止し、全ろ過とする。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃恒温槽で保温した透析器へ純水を送り、透析液側から流出した濾液量をメスシリンダーで測定する。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とする。ここでPiは透析器入り口側圧力、Poは透析器出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水率(mL/hr/mmHg)を算出する。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならない。また回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定する。中空糸膜束の透水率は膜面積と透析器の透水率から算出する。
UFR(H)=UFR(D)/A
ここでUFR(H)は中空糸膜束の透水率(mL/m2/hr/mmHg)、UFR(D)は透析器の透水率(mL/hr/mmHg)、Aは透析器の膜面積(m2)である。
2、膜面積の計算
透析器の膜面積は中空糸膜の内径基準として求める。
A=n×π×d×L
ここで、nは透析器内の中空糸膜本数、πは円周率、dは中空糸膜の内径(m)、Lは透析器内の中空糸膜の有効長(m)である。
3、バースト圧
約10,000本の中空糸膜束よりなるモジュールの透析液側を水で満たし栓をする。血液側から室温で乾燥空気または窒素を送り込み1分間に0.5MPaの割合で加圧していく。圧力を上昇させ、中空糸膜束が加圧空気によって破裂(バースト)し、透析液側に満たした液に気泡が発生した時点の空気圧をバースト圧とする。
4、偏肉度
中空糸膜100本の断面を200倍の投影機で観察する。一視野中、最も膜厚差がある一本の糸断面について、最も厚い部分と最も薄い部分の厚みを測定する。
偏肉度=最薄部/最厚部
偏肉度=1で膜厚が完璧に均一となる。
5、ポリビニルピロリドンの溶出量
透析型人工腎臓装置製造基準に定められた方法で抽出し、該抽出液中のポリビニルピロリドンを比色法で定量した。
乾燥中空糸膜モジュールの場合には、中空糸膜束1gに純水100mlを加え、70℃で1時間抽出する。得られた抽出液2.5ml、0.2モルクエン酸水溶液1.25ml、0.006規定のヨウ素水溶液0.5mlをよく混合し、室温で10分間放置した、後に470nmでの吸光度を測定した。定量は標品のポリビニルピロリドンを用いて上記方法に従い測定する事により求めた検量線にて行った。
湿潤中空糸膜モジュールの場合は、モジュールの透析液側流路に生理食塩水を500mL/minで5分間通液し、ついで血液側流路に200mL/minで通液した。その後血液側から透析液側に200mL/minでろ過をかけながら3分間通液した後にフリーズドライして乾燥膜を得て、該乾燥膜を用いて上記定量を行った。
6、UV(220−350nm)吸光度
透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた方法で抽出した抽出液を分光光度計(日立製作所製、U−3000)を用いて波長範囲200〜350nmの吸光度を測定し、この波長範囲での最大の吸光度を求めた。
該測定は、中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり全サンプルについて測定した。
湿潤中空糸膜モジュールの場合は、ポリビニルピロリドン溶出量の測定と同様に処理することにより得た乾燥膜を用いて測定した。
7、過酸化水素の定量
透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた方法で抽出した抽出液2.6mlに塩化アンモニウム緩衝液(PH8.6)0.2mlとモル比で当量混合したTiCl4の塩化水素溶液と4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシノールのNa塩水溶液との混合液を加え、さらに0.4mMに調製した発色試薬0.2mlを加え、50℃で5分間加温後、室温に冷却し508nmの吸光度を測定した。標品を用いて同様に測定して求めた検量線を利用して定量値を求めた。
該測定は、中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり全サンプルについて測定した。
湿潤中空糸膜モジュールの場合は、ポリビニルピロリドン溶出量の測定と同様に処理することにより得た乾燥膜を用いて測定した。また、湿潤状態の中空糸膜束について定量する場合は、フリーズドライ法で乾燥して得た乾燥膜について測定した。
8、血液リークテスト
クエン酸を添加し、凝固を抑制した37℃の牛血液を、血液浄化器に200mL/minで送液し、20mL/minの割合で血液をろ過する。このとき、ろ液は血液に戻し、循環系とする。60分間後に血液浄化器のろ液を採取し、赤血球のリークに起因する赤色を目視で観察する。この血液リーク試験を各実施例、比較例ともに各30本の血液浄化器を用い、血液リークしたモジュール本数を調べた。
9、中空糸膜束の保存安定性
各実施例および比較例で得られた乾燥状態の中空糸膜束を、湿度50%RHに調湿されたドライボックス中(雰囲気は空気)で3ヶ月間保存した後に、透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた方法でUV(220−350nm)吸光度を測定した。該保存によるUV(220−350nm)吸光度の増加度で安定性を判定した。該増加度は中空糸膜束を長手方向に10個に等分し、それぞれのサンプルについて測定し、その最大値で判定した。最大値が0.10を超えないものを合格とした。
10、血小板保持率
次の方法によって血液灌流の前後の血液中の血小板数から算出した値を示す。
(1)採血バッグに、濃度が5U/mLとなるよう予めヘパリンカルシウムを入れておき、健康な成人の血液をひじの内側の静脈からこの採血バッグに採取する。血液灌流に先立ち、血液成分の分析用に血液のサンプリングを行う。
(2)膜面積1.5m2の中空糸膜モジュールの血液側、透析液側を生理食塩水でプライミングし、このモジュールの血液側に上記ヘパリン加ヒト全血を150mL/minの流量で灌流する。この際、採血バッグから流れ出た血液はモジュールの血液側を通過し、採血バッグに戻るように回路を組む。
(3)37℃の環境下で60分の血液灌流を行った後、血液のサンプリングを行い、血液成分の分析を行う。
(4)灌流前後の血液中の血小板数から、次の式により血小板保持率を算出する。
(血小板保持率)[%]=100×[{(灌流後の血液中の血小板数)×(灌流前の血液のヘマトクリット)}/(灌流後の血液のヘマトクリット)] ÷(灌流前の血液中の血小板数)
11、カチオン性染料の吸着率
カチオン性染料吸着率とは、次の方法によってカチオン性染料溶液灌流前後の溶液中のカチオン性染料濃度から算出した値を示す。カチオン性染料としてはメチレンブルーを使用した。
(1)メチレンブルーを0.5ppmの濃度になるよう水に溶解してメチレンブルー溶液を調製する。
(2)膜と接触する前のメチレンブルー溶液をサンプリングしておく。
(3)メチレンブルー溶液1000mLを測り採り、膜面積1.5m2の中空糸型膜モジュールの血液側、透析液側を満たす。
(4)モジュール充填後、余ったメチレンブルー溶液をプールし、モジュールの血液側に200mL/minの流量で灌流する。この際、溶液プールから流れ出た溶液はモジュールの血液側を通過し、プールに戻るように回路を組む。
(5)5分の灌流を行った後、モジュールに充填されたメチレンブルー溶液と、プールされたメチレンブルー溶液を併せ、サンプリングを行う。
(6)メチレンブルー水溶液の紫外吸収スペクトルの最大吸収波長490nmの吸光度から、検量線を作成し、膜接触前後のメチレンブルー溶液の濃度を測定する。
(7)次の式からメチレンブルー吸着率を算出する。
(メチレンブルー吸着率)[%]=100×(灌流後の溶液のメチレンブルー濃度)/灌流前の溶液のメチレンブルー濃度)
12、PF4上昇率
ロシュ・ダイアグノスティクス社製のEIA(サンドイッチ法)による血小板第4因子(PF4)測定試薬を用いて、同社発行の日本標準商品分類番号:877422(承認番号:16200EZY0045300,2002年改訂版)記載の測定方法に準拠して測定した。
13、C特性値
中空糸膜モジュールを使用し、ヘマトクリット35質量%の牛血液を200mL/minの流量で中空糸膜の内側に灌流した。同時に、中空糸膜内側から中空糸膜外側に向かって20mL/minの流量で濾過を行った。灌流・濾過開始15分後の膜間圧力と濾過液量から、牛血液系での透水率(以下MFRと略記する。)を算出した。この値を(A)とし、灌流・濾過開始120分後、同様の操作により求めたMFRの値(B)とから、100(%)×(B)/(A)の計算によりC特性値を算出した。
14、エンドトキシン透過
エンドトキシン濃度200EU/Lの透析液をモジュールの透析液入り口より流速500ml/minで送液し、中空糸膜の外側から内側へエンドトキシンを含有する透析液をろ過速度15ml/minで2時間ろ過を行い、中空糸膜の外側から中空糸膜の内側へろ過された透析液を貯留し、該貯留液のエンドトキシン濃度を測定した。エンドトキシン濃度はリムルスESIIテストワコー(和光純薬工業社製)を用い、取り説の方法(ゲル化転倒法)に従って分析を行った。
15、中空糸膜の内径、膜厚の測定
中空糸型膜を長さ方向に対して垂直に鋭利な剃刀でカットし、断面を倍率200倍で顕微鏡で観察する。内径値と外径値をそれぞれn=5で測定し、平均値を算出する。
膜厚[μm]={(外径)−(内径)}/2
16、血液浄化器の保存安定性
γ線照射後の血液浄化器を室温で一年間保存した後、前記した方法でUV(220−350nm)吸光度を測定した。該保存によるUV(220−350nm)吸光度の増加度で安定性を判定した。該増加度は中空糸膜束を長手方向に10個に等分し、それぞれのサンプルについて測定し、その最大値で判定した。最大値が0.10を超えないものを合格とした。
17、中空糸膜の含水率
中空糸膜の含水率は、乾燥前の中空糸膜束より一部を切り出して質量(g)を測定し、その後減圧下(−750mmHg以下)で真空乾燥を12時間実施し、乾燥後の中空糸膜の質量(g)を測定する。乾燥前後の質量差を減量(g)として乾燥後質量(g)を基準にして%で求める。以下の式で含水率を決定する。
(減量/乾燥後重量)×100=含水率(質量%)
ここで、中空糸膜の質量は1〜2gの範囲内とすることで、2時間後に絶乾状態(これ以上質量変化がない状態)にすることができる。
18、親水性高分子の内外表面の最表層における含有量
ポリビニルピロリドンの含有量は、X線光電子分光法(ESCA法)で求めた。
中空糸膜1本を内表面の一部が露出するようにカミソリで斜めに切断し、内外表面が測定できるように試料台にはりつけてESCAで測定を行った。測定条件は次に示す通りである。
測定装置:アルバック・ファイ ESCA5800
励起X線:MgKα線
X線出力:14kV,25mA
光電子脱出角度:45°
分析径:400μmφ
パスエネルギー:29.35eV
分解能:0.125eV/step
真空度:約10-7Pa以下
窒素の測定値(N)と硫黄の測定値(S)から、次の式により表面でのポリビニルピロリドン含有量を算出した。
<ポリビニルピロリドン添加PES(ポリエーテルスルホン)膜の場合>
ポリビニルピロリドン含有量(Hポリビニルピロリドン)[質量%]
=100×(N×111)/(N×111+S×232)
<ポリビニルピロリドン添加PSf(ポリスルホン)膜の場合>
ポリビニルピロリドン含有量(Hポリビニルピロリドン)[質量%]
=100×(N×111)/(N×111+S×442)
19、中空糸膜全体でのポリビニルピロリドン構成割合
中空糸膜を、真空乾燥器を用いて、80℃で48時間乾燥させ、その10mgをCHNコーダー(ヤナコ分析工業社製、MT−6型)で分析し、得られた窒素含有量(質量%)からポリビニルピロリドンの構成割合(質量%)を下記式で計算し求めた。
ポリビニルピロリドンの構成割合=窒素含有量×111/14
(実施例1)
2本の枠型ブレードが自転、公転するいわゆるプラネタリー運動により混練効果を発現する形式の混練溶解機に、ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(登録商標)4800P)1質量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K90)0.144質量部およびジメチルアセトアミド(DMAc)1質量部を仕込み、2時間攪拌し混練をおこなった。引き続き3.02質量部のDMAcとRO水0.16質量部の混合液を1時間を要して添加した。攪拌機の回転数を上げてさらに1時間攪拌を続行し均一に溶解した。このとき、混練および溶解は窒素雰囲気下で行なった。混練および溶解時の温度は40℃を超えないように冷却した。最終溶解時の攪拌のフルード数および撹拌レイノルズ数はそれぞれ1.0および100であった。ついで真空ポンプを用いて系内を−500mmHgまで減圧した後、溶媒等が蒸発して製膜溶液の組成が変化しないように、直ぐに系内を密閉し15分間放置した。この操作を3回繰り返して製膜溶液の脱泡を行った。脱泡が完了した後、系内は再度窒素置換を行い弱加圧状態で維持した。なお、上記ポリビニルピロリドンは、過酸化水素含有量130ppmのものを用いた。得られた製膜溶液を30μm、15μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、75℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め−700mmHgで30分間脱気処理した50℃の53質量%DMAc水溶液とともに吐出、紡糸管により外気と遮断された400mmの乾式部を通過後、60℃の20質量%DMAc水溶液中で凝固させ、湿潤状態のまま綛に捲き上げた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均60μmであり、最大61μm、最小59μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.03、ドラフト比は1.04であった。吐出直後の線速度は中空形成剤、製膜溶液それぞれ17790cm/min、484cm/minであった。線速度比は3.6であった。紡糸工程で用いた水は全てRO水に硝酸カルシウム、硝酸マグネシウムを添加してカルシウム含量を0.04ppm、マグネシウム含量を0.04ppmとなるよう調製し、さらに限外濾過膜を通した水を使用した。紡糸工程中、中空糸膜束が接触するローラーは全て表面が鏡面加工されたもの、ガイドは全て表面が梨地加工されたものを使用した。これらのガイドおよびローラーはテフロン(登録商標)で表面加工したものを用いた。また、巻き取り直前の走行中の中空糸膜束にミスト状の水を噴霧した。該中空糸膜約10,000本の束の周りに中空糸束側表面が梨地加工されたポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、27cmの長さに切断し(以下バンドルと称する)、121℃の水中で30分間×3回洗浄し、過剰のポリビニルピロリドンと溶媒、膜中に含まれるエンドトキシン(フラグメント)を除去した。
得られた湿潤中空糸膜束をマイクロ波発振器を加熱オーブンの側壁に設置し、マイクロ波が水平方向に発振でき、かつ、オーブン中に反射板を設置し均一加熱ができるような構造を有し、遠赤外線ヒーターおよびオーブンを減圧にするための排気系を有したマイクロ波乾燥機に導入し、以下の条件で乾燥した。7kPaの減圧下、1.5kWの出力で30分間中空糸膜束を加熱した後、マイクロ波照射を停止すると同時に減圧度1.5kPaに上げ3分間維持した。つづいて減圧度を7kPaに戻し、かつマイクロ波を照射し0.5kWの出力で10分間中空糸膜束を加熱した後、マイクロ波を切断し減圧度を上げ0.7kPaを3分間維持した。さらに減圧度を7kPaに戻し、0.2kWの出力で8分間マイクロ波の照射を行い中空糸膜束を加熱した。マイクロ波切断後、減圧度を0.5kPaに上げ遠赤外線のみ照射し10分間維持することにより中空糸膜束の乾燥を終了した。なお、乾燥中は全期間に渡り乾燥オーブンの中心部に設けた熱電対で検出される温度で50℃になるように遠赤外線ヒーターの出力調整をした。また、上記マイクロ波乾燥機のマイクロ波発振器の導波管はマイクロ波の進行方向に向かい断面積が段々大きくなる構造で、かつ導波管出口に円錐形の反射板が円錐の頂点が導波管内部に向く方向で設置された構造で照射されるマイクロ波のEr/Eiは0.05であった。
この際の中空糸膜束表面の最高到達温度は65℃であった。乾燥前の中空糸膜束の含水率は330質量%、1段目終了後の中空糸膜束の含水率は34質量%、2段目終了後の中空糸膜束の含水率は11質量%、3段目終了後の中空糸膜束の含水率は3.0質量%であった。得られた中空糸膜の内径は200.1μm、膜厚は28.5μm、ポリエーテルスルホンに対するポリビニルピロリドンの質量割合は3.0質量%であった。これらの製造条件の一部を表1に示す。
得られた中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり、過酸化水素を定量した。過酸化水素は全部位において低レベルで安定していた。得られた中空糸膜束を乾燥状態で保存した。3ヶ月保存後においても中空糸膜束の透析型人工腎臓装置製造承認基準であるUV(220−350nm)吸光度の最大値は0.04であり、基準値の0.10以下が維持されており保存安定性は良好であった。該定量値を表3、4に示した。
得られた中空糸膜束を充填率60容量%でモジュールハウジングに装填し、端部をウレタン樹脂で接着し、樹脂を一部切断して中空糸膜端部を開口させて血液浄化器を組み立てた。中空糸膜束のモジュールハウジングへの装填は、モジュールハウジングに上記バンドルを挿入し、該バンドルよりポリエチレン製のフィルムを抜き取ることによって行った。該作業は徐電ブロワーで除電処理しながら行った。得られた血液浄化器のリークテストを行った結果、中空糸膜同士の固着に起因するような接着不良は認められなかった。該血液浄化器を汎用タイプの脱酸素剤(王子タック株式会社製タモツ(登録商標))2個および細孔容積1.05cc/g、表面積320m2/g、粒径8メッシュのシリカゲルに塩化カルシウムを10質量%担持させた改良シリカゲルBを紙パックに封入した調湿剤とともに外層がポリエステルフイルム、中間層がアルミ箔、内層がポリエチレンフイルムよりなる酸素透過率および水蒸気透過率がそれぞれ1cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下、5g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下のアルミラミネートシートよりなる包装袋にて熱シール法でシールし密封した。調湿剤は、事前に相対湿度85%RHの環境で24時間シーズニングしたものを用いた。包装体を室温で3日間保存した後に、25kGyのγ線を照射し滅菌を行った。滅菌処理品と同時に密封した包装体の包装袋内の酸素濃度を測定したところ、0.1容量%以下になっており実質的な無酸素状態になっていた。
血液浄化器は複数個作製し、完成した血液浄化器の2個を壊し、中空糸膜を取り出し10本束ねマイクロモジュールを作成し、血液適合試験およびカチオン性染料吸着率を測定した。カチオン性染料吸着率は適度な値を有しており、陰性荷電制御が適性であり、血液適合性は良好であった。
血液浄化器に、0.1MPaの圧力で加圧空気を充填し、10秒間の圧力降下が30mmAq以下のリークテスト合格品を以後の試験に用いた。また、血液浄化器より中空糸膜を取り出し、外表面を顕微鏡にて観察したところ傷等の欠陥は観察されなかった。また、クエン酸加新鮮牛血を血液流量200mL/min、ろ過速度10mL/min・m2で血液浄化器に流したが、血球リークはみられなかった。中空糸膜外側から中空糸膜内側にろ過されたエンドトキシンは検出限界以下であり、問題ないレベルであった。
また、本実施例で得られた血液浄化器の保存安定性は良好であり、1年間保存後の中空糸膜束の透析型人工腎臓装置製造承認基準であるUV(220−350nm)吸光度の最大値は0.04であり、基準値の0.10以下が維持されていた。
これらの評価結果を表5示す。
(比較例1および2)
実施例1において、中空形成剤吐出線速度をそれぞれ12100および53240cm/minに変え、線速度比をそれぞれ2.5および11.0とし、紡糸工程のガイドおよびローラー表面のテフロン(登録商標)加工を省略し、金属製のものを用い、紡糸工程の巻き取り時のミスト水の噴霧およびモジュールハウジングへの中空糸膜束の装填作業時の徐電処理を省略するように変更する以外は、実施例1と同様の方法で比較例1および2の中空糸膜束および血液浄化器を得た。該製造方法の条件、中空糸膜および血液浄化器の評価結果をそれぞれ表2〜5に示す。
両比較例で得られた中空糸膜束は血液適合性が劣っていた。比較例1で得られた中空糸膜束は、吐出直後の線速度の比が2.5倍と低く、ドープと中空形成剤界面での摩擦が十分でない等、適度な陰性荷電にコントロールすることが出来なかったことの寄与が大きかったと考えられる。一方、比較例2で得られた中空糸膜束は、吐出直後の線速度の比が11.0倍と高く、ドープと中空形成剤界面での摩擦が過剰であり、適度な陰性荷電にコントロールすることが出来なかったうえに、安定した紡糸ができなかったため、均一な中空糸膜が得られず、内表面の状態が悪くなったことの寄与が大きかったと考えられる。
(比較例3)
比較例1において、中空糸膜の製造に用いた水はすべてRO水を使用し、カルシウム含量およびマグネシウム含量の調整、限外濾過膜での処理は行わず、かつ脱酸素剤を密封することなく滅菌処理するように変更する以外は、比較例1と同様にして中空糸膜束および血液浄化器を得た。使用した水のカルシウム含量、マグネシウム含量はいずれも0.005ppm以下であった。得られた中空糸膜束および血液浄化器の特性を表3および4に示す。本比較例で得られた中空糸膜は、中空糸膜の製造に用いた水のカルシウムおよびマグネシウム含有量の調整を行わなかったために、比較例1よりも血液適合性が悪化した。中空糸膜の荷電状態が悪化したことにより引き起こされたものと考えられる。また、滅菌処理時にポリビニルピロリドンの劣化がおこり過酸化水素が増大するために血液浄化器の保存安定性が劣っていた。該製造方法の条件、中空糸膜および血液浄化器の評価結果をそれぞれ表2〜5に示す。
(比較例4)
実施例1において、過酸化水素含有量が500ppmのポリビニルピロリドンを原料とし、混練および溶解温度を85℃とし、原料供給系や溶解槽の窒素ガス置換を取り止め、中空糸膜束の洗浄回数を1回とし、かつ該湿潤状態の中空糸膜束の乾燥を常圧下でマイクロ波を照射し含水率が0.5質量%になるまで乾燥するように変更した以外は、実施例1と同様にして中空糸膜束を得た。また、実施例1と同様の方法で血液浄化器を得て、γ線を照射して滅菌処理を行った。得られた中空糸膜束および血液浄化器の特性を表3および4に示す。
本比較例で得られた中空糸膜束は、過酸化水素溶出量はレベルが高かった。そのため、保存安定性に劣っていた。また、UV(220−350nm)吸光度は、サンプリング個所による変動が大きく部分固着が発生し、モジュール組み立ての作業性がさらに悪化した。中空糸膜の洗浄の弱化と常圧マイクロ波乾燥により引き起こされたものと考えられる。
また、血液浄化器は、血液適合性が劣っていた。原因は、血液と接触する内表面のポリビニルピロリドン含有量が高いこと、乾燥時にポリビニルピロリドンが劣化したこと等により、中空糸膜内表面の陰性荷電バランスが変化することによりカチオン性染料吸着率が低くなったために引き起こされた可能性が高い。
(実施例2)
ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(登録商標)4800P)1質量部ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)0.21質量部、DMAc1.5質量部を2軸のスクリュータイプの混練機で混練した。得られた混練物をDMAc2.57質量部および水0.28質量部を仕込んだ攪拌式の溶解タンク内に投入し、3時間攪拌し溶解した。混練および溶解は内温が30℃以上に上がらないように冷却した。ついで真空ポンプを用いて系内を−700mmHgまで減圧した後、溶媒等が揮発して製膜溶液組成が変化しないように直ぐに溶解タンクを密閉し10分間放置した。この操作を3回繰り返して製膜溶液の脱泡を行った。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量100ppmのものを用い、原料供給系の供給タンクや前記の溶解タンクを窒素ガス置換した。また、溶解時のフルード数および撹拌レイノルズ数はそれぞれ1.1および120であった。得られた製膜溶液を15μm、15μmの2段のフィルターに通した後、70℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め−700mmHgで2時間脱気処理した50℃の50質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された350mmのエアギャップ部を通過後、60℃の水中で凝固させた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均45μmであり、最大45.5μm、最小44.5μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.02、ドラフト比は1.06であった。吐出直後の線速度は中空形成剤、製膜溶液それぞれ17790cm/min、4840cm/minであった。線速度比は3.6であった。紡糸工程で用いた水は全てRO水に硝酸カルシウム、硝酸マグネシウムを添加してカルシウム含量を0.04ppm、マグネシウム含量を0.04ppmとなるよう調製し、さらに限外濾過膜を通した水を使用した。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜束は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後巻き上げた。紡糸工程中、中空糸膜束が接触するローラーは全て表面が鏡面加工されたもの、ガイドは全て表面が梨地加工されたものを使用した。これらのガイドおよびローラーはテフロン(登録商標)で表面加工したものを用いた。また、巻き取り直前の走行中の中空糸膜束にミスト状の水を噴霧した。該中空糸膜約10,000本の束の周りに実施例1と同様のポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、30℃の40vol%イソプロパノール水溶液で30分×2回浸漬洗浄した。
得られた湿潤中空糸膜束を実施例1と同様の方法で乾燥した。乾燥後の含水率は2.8質量%であった。得られた中空糸膜束の内径は199.5μm、膜厚は28.5μmであった。
得られた乾燥中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり、過酸化水素溶出量を定量した。該過酸化水素溶出量は全部位において低レベルで安定しており、保存安定性に優れていた。
このようにして得られた中空糸膜束を用いて、実施例1と同様の方法で血液浄化器を組み立てた。リークテストを行った結果、中空糸膜同士の固着に起因するような接着不良は認められなかった。該血液浄化器を実施例1と同様の方法で滅菌処理を行った。γ線照射後の血液浄化器より中空糸膜束を切り出し、溶出物試験に供したところ、ポリビニルピロリドン溶出量は4ppm、過酸化水素溶出量の最大値は2ppmであり問題ないレベルであった。また、本実施例で得られた血液浄化器の保存安定性は良好であり、1年保存後の中空糸膜束の透析型人工腎臓装置製造承認基準であるUV(220−350nm)吸光度の最大値は0.06であり、基準値の0.1以下が維持されていた。また血液浄化器より中空糸膜束を取り出し、外表面を顕微鏡にて観察したところ傷等の欠陥は観察されなかった。牛血液を用いた血液リークテストでは血球リークはみられなかった。また、実施例1の中空糸膜と同様に、カチオン性染料吸着率は適度な値を有しており、陰性荷電制御が適性であり、血液適合性は良好であった。
以上の本実施例の製造条件、得られた中空糸膜および血液浄化器の評価結果を表1および3〜5に示す。
(比較例5)
ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(登録商標)5200P)16質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)5.4質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)75.6質量%、水3質量%を攪拌機を有した溶解タンクに直接仕込み、75℃で溶解した。このとき、溶解のフルード数および撹拌レイノルズ数はそれぞれ1.0および120で行った。ついで真空ポンプを用いて系内を−500mmHgまで減圧した後、溶媒等が揮発して製膜溶液組成が変化しないように直ぐに系内を密閉し15分間放置した。この操作を3回繰り返して製膜溶液の脱泡を行った。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量450ppmのものを用い、原料供給系での供給タンクや前記の溶解タンクを窒素ガス置換しなかった。この製膜溶液を30μmのフィルターに通した後、60℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め−700mmHgで2時間脱気処理した50℃の30質量%DMAc水溶液を用いて同時に吐出、紡糸管により外気と遮断された600mmの乾式部を通過後、濃度10質量%、60℃のDMAc水溶液中で凝固させた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均100μmであり、最大110μm、最小90μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.22、ドラフト比は2.4であった。吐出直後の線速度は中空形成剤、製膜溶液それぞれ12100cm/min、4840cm/minであった。線速度比は2.5であった。また、中空糸膜の製造に用いた水はすべてRO水を使用し、カルシウム含量およびマグネシウム含量の調整、限外濾過膜での処理は行わなかった。使用した水のカルシウム含量、マグネシウム含量はいずれも0.005ppm以下であった。紡糸工程のガイドおよびローラー表面のテフロン(登録商標)加工を省略し、金属製のものを用いた。また、紡糸工程の巻き取り時のミスト水の噴霧を省略した。得られた中空糸膜束は40℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後、湿潤状態のまま巻き上げ比較例4と同様にして乾燥した。得られた中空糸膜束の内径は198.0μm、膜厚は32.5μmであった。本比較例で得られた中空糸膜束の過酸化水素およびポリビニルピロリドン溶出量はレベルが高く、かつ過酸化水素溶出量のサンプリング個所による変動が大きい。
このようにして得られた中空糸膜束を用いて、比較例1と同様の方法で、血液浄化器の組み立ておよび滅菌処理を行った。血液浄化器より中空糸膜束を切り出し、溶出物試験に供したところ、ポリビニルピロリドン溶出量は12ppm、過酸化水素溶出量の最大値は20ppmであった。本比較例で得られた中空糸膜束は過酸化水素溶出量が高いため、保存安定性が劣っていた。本比較例で得られた血液浄化器に充填されている中空糸膜束は約3ヵ月の保存で既に透析型人工腎臓装置製造承認基準であるUV(220−350nm)吸光度の最大値を0.10以下に維持することができなくなった。該血液浄化器に、0.1MPaの圧力で加圧空気を充填し、10秒間の圧力降下が30mmAq以下のモジュールを試験に用いた。牛血液を用いた血液リークテストではモジュール30本中、2本に血球リークがみられた。偏肉度が小さいことと外表面孔径が大きすぎることより、ピンホールの発生及び/または破れが発生したものと思われる。
また、得られた血液浄化器は、血液適合性が劣っていた。本比較例で得られた中空糸膜束は、比較例1と同様に、吐出直後の線速度の比が2.5倍と低く、ドープと中空形成剤界面での摩擦が十分でなく、かつ中空糸膜の製造に用いた水のカルシウムおよびマグネシウム含有量の調整を行わなかったために適度な荷電に制御することが出来なかったことの寄与が大きかったと考えられる。分析結果を表3〜5に示した。
(実施例3)
実施例2と同様の方法で、ポリスルホン(アモコ社製P−3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−60)9質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)68質量%、水5質量%よりなる製膜溶液を調製した。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量100ppmのものを用いた。得られた製膜溶液を15μm、15μmの2段のフィルターに通した後、40℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め減圧脱気した60℃の55質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された600mmのエアギャップ部を通過後、50℃の水中で凝固させた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均60μmであり、最大61μm、最小59μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.03、ドラフト比は1.01であった。吐出直後の線速度は中空形成剤、製膜溶液それぞれ17790cm/min、4840cm/minであった。線速度比は3.6であった。紡糸工程で用いた水は全てRO水に硝酸カルシウム、硝酸マグネシウムを添加してカルシウム含量を0.04ppm、マグネシウム含量を0.04ppmとなるよう調製し、さらに限外濾過膜を通した水を使用した。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜束は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後巻き上げた。該中空糸膜約10,000本の束を純水に浸漬し、121℃×1時間オートクレーブにて洗浄処理を行った。引き続き実施例1と同様にして乾燥した。紡糸工程中の糸道変更のためのローラーは表面が鏡面加工されたものを使用し、固定ガイドは表面が梨地処理されたものを使用した。これらのガイドおよびローラーはテフロン(登録商標)で表面加工したものを用いた。また、巻き取り直前の走行中の中空糸膜束にミスト状の水を噴霧した得られた中空糸膜束の内径は201.0μm、膜厚は44.0μmであった。表3、4より明らかなごとく、過酸化水素溶出量は全部位において低レベルで安定していた。従って、該中空糸膜束の保存安定性は良好であった。
このようにして得られた中空糸膜束を用いて、血液浄化器を組み立てた。リークテストを行った結果、中空糸膜同士の固着に起因するような接着不良は認められなかった。該血液浄化器の滅菌処理を行った。該滅菌処理は脱酸素剤として水分放出型である(三菱ガス化学社製エージレスZ−200PT(登録商標))に切換え、かつ調湿剤の使用を取り止める以外は、実施例1と同様の方法で実施した。血液浄化器より中空糸膜束を切り出し、溶出物試験に供したところ、ポリビニルピロリドン溶出量は5ppm、過酸化水素溶出量の最大値は3ppmであり問題ないレベルであった。該血液浄化器に、0.1MPaの圧力で加圧空気を充填し、10秒間の圧力降下が30mmAq以下のリークテスト合格品を以後の試験に用いた。また、血液浄化器より中空糸膜束を取り出し、外表面を顕微鏡にて観察したところ傷等の欠陥は観察されなかった。また、クエン酸加新鮮牛血を血液流量200mL/min、ろ過速度10mL/minで血液浄化器に流したが、血球リークはみられなかった。中空糸外側から中空糸内側にろ過されたエンドトキシンは検出限界以下であり、問題ないレベルであった。また、本実施例で得られた血液浄化器の保存安定性は良好であり、1年保存後の中空糸膜束の透析型人工腎臓装置製造承認基準であるUV(220−350nm)吸光度の最大値は0.05であり、基準値の0.1以下が維持されていた。リークテストを行った結果、中空糸同士の固着に起因するような接着不良は認められなかった。また、実施例1の中空糸膜と同様に、カチオン性染料吸着率は適度な値を有しており、陰性荷電制御が適性であり、血液適合性は良好であった。
以上の本実施例で得られた中空糸膜および血液浄化器の評価結果を表2〜4に示す。
(実施例4)
実施例2と同様の方法で、ポリスルホン(アモコ社製P−1700)17質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−60)5質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)73質量%、水5質量%よりなる製膜溶液を調製した。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量120ppmのものを用いた。得られた製膜溶液を15μm、15μmの2段のフィルターに通した後、40℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として減圧脱気された60℃の35質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された600mmのエアギャップ部を通過後、50℃の水中で凝固させた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均60μmであり、最大61μm、最小59μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.03、ドラフト比は1.01であった。吐出直後の線速度は中空形成剤、製膜溶液それぞれ17790cm/min、4840cm/minであった。線速度比は3.6であった。紡糸工程で用いた水は全てRO水に硝酸カルシウム、硝酸マグネシウムを添加してカルシウム含量を0.04ppm、マグネシウム含量を0.04ppmとなるよう調製し、さらに限外濾過膜を通した水を使用した。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜束は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後巻き上げた。紡糸工程中、中空糸膜束が接触するローラーは全て表面が鏡面加工されたもの、ガイドは全て表面が梨地加工されたものを使用した。これらのガイドおよびローラーはテフロン(登録商標)で表面加工したものを用いた。また、巻き取り直前の走行中の中空糸膜束にミスト状の水を噴霧した。該中空糸膜約10,000本の束を純水に浸漬し、121℃×1時間オートクレーブにて洗浄処理を行い、実施例1と同様の方法で乾燥を行った。含水率は3.8質量%であった。
乾燥処理中の中空糸膜束の最高到達温度は56℃であった。紡糸工程中の糸道変更のためのローラーは表面が鏡面加工されたものを使用し、固定ガイドは表面が梨地処理されたものを使用した。得られた中空糸膜束の内径は200.5μm、膜厚は43.2μmであった。表3、4より明らかなごとく、過酸化水素溶出量は全部位において低レベルで安定しており、保存安定性に優れていた。
このようにして得られた中空糸膜束を用いて、実施例1と同様にして血液浄化器を組み立てた。リークテストを行った結果、中空糸膜同士の固着に起因するような接着不良は認められなかった。該血液浄化器を実施例3と同様の方法で滅菌処理を行った。γ線照射後の血液浄化器より中空糸膜束を切り出し、溶出物試験に供したところ、ポリビニルピロリドン溶出量5ppm、過酸化水素溶出量の最大値は3ppmであり問題ないレベルであった。該血液浄化器に、0.1MPaの圧力で加圧空気を充填し、10秒間の圧力降下が30mmAq以下のリークテスト合格品を以後の試験に用いた。また、血液浄化器より中空糸膜束を取り出し、外表面を顕微鏡にて観察したところ傷等の欠陥は観察されなかった。また、クエン酸加新鮮牛血を血液流量200mL/min、ろ過速度10mL/minで血液浄化器に流したが、血球リークはみられなかった。中空糸外側から中空糸内側にろ過されたエンドトキシンは検出限界以下であり、問題ないレベルであった。また、本実施例で得られた血液浄化器の保存安定性は良好であり、1年間保存後の中空糸膜束の透析型人工腎臓装置製造承認基準であるUV(220−350nm)吸光度の最大値は0.06であり、基準値の0.10以下が維持されていた。また、実施例1の中空糸膜と同様に、カチオン性染料吸着率は適度な値を有しており、陰性荷電制御が適性であり、血液適合性は良好であった。
評価結果を表5に示す。
(比較例6)
実施例1の方法において、製膜溶液のポリビニルピロリドン量およびDMAc量を0.6および74.9質量%に変更し、乾燥上がりの含水率を1.5質量%として、かつ滅菌処理時に調湿剤を併用せずに脱酸素剤のみを密封するように変更する以外は、実施例1と同様にして比較例6の中空糸膜および血液浄化器を得た。製造条件、得られた中空糸膜および血液浄化器の評価結果を表2〜4に示す。
本比較例で得られた中空糸膜束は血液適合性が劣っていた。内表面のポリビニルピロリドン含有量が低いために親−疎水性バランスが適性でなく、カチオン性染料吸着率がいっそう高く、内表面は物質が吸着しやすい状態であり、血液適合性に劣る結果となったと考えられる。また、本比較例で得られた乾燥上がりの中空糸膜束は過酸化水素溶出量は全部位において低レベルで安定していたが、滅菌処理において、調湿剤を併用しなかったために包装袋内の空間湿度が40%RHと低く、γ線照射によりポリビニルピロリドンの劣化が起こり、過酸化水素溶出量が増大するために、血液浄化器の保存安定性が劣っていた。
上記実施例および比較例の結果で得られたメチレンブルー吸着率と血小板保持率およびPF4上昇率との関係を表す模式図を図5に示す。これらの図より、本発明の限定範囲が臨界的な範囲であることが理解できる。
従来、中空糸膜束において、過酸化水素の挙動に着目した品質管理の手法は全く知られていない。中空糸膜束の品質の良さという点については多くの観点から検討することができるが、例えば、中空糸膜束を長手方向に27cmに切断し、それをほぼ2.7cmずつ10等分して、それぞれの部位で過酸化水素の溶出量を測定する。最大溶出量、最小溶出量をもとに、較差Aが求められる。そして、それを平均することにより平均溶出量を算定する。また、最大溶出量または最小溶出量と、平均溶出量の較差の最大値Bを品質のバラツキ度の程度とする。図2は、実施例1のバラツキの状態を示す。比較例4の場合も同様に求めることができる。このようにして算定した値を表2に纏める。
過酸化水素溶出量が、特に5ppm程度を境界にして、中空糸膜束の品質のバラツキ度の関係を調べると、図3のようになる。過酸化水素溶出量が多くなると、中空糸膜束の10等分における各部位の過酸化水素溶出量にアンバランスが生じるため、各部位の溶出量の較差が大きくなる。そうすると、同じ材料で、過酸化水素の溶出に違いがあるということは、その分、中空糸膜の性能、機能にも影響するから、品質の管理上好ましくない。中空糸膜束の各部位にアンバランスがないということは、中空糸膜の品質においても優れていることが理解できる。そして、5ppm程度の範囲は、バラツキ度を抑制するという点で、臨界的な範囲であることが理解できる。
図4は、中空糸膜束より溶出するポリビニルピロリドンの溶出量を10ppm以下に抑え、かつ中空糸膜束からの過酸化水素の溶出量を5ppm以下に抑えた中空糸膜束を3ヶ月保存した場合のUV吸光度の挙動を示す。過酸化水素の溶出量を5ppm以下に抑えたものは、長期間保存してもUV吸光度を0.1以下に抑えることができるため、中空糸膜束中の過酸化水素存在量を5ppm以下に抑えることは品質の安定に著しく寄与すると言える。
また、上記実施例および比較例の結果で得られた吐出線速度比と血小板保持率との関係を表す模式図を図5に示す。これらの図より、本発明の限定範囲が臨界的な範囲であることが理解できる。