JP2006207290A - 木造建物の制振装置及び木造建物の制振方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 並行する2本の柱材A、Bと、これらの2本の柱材A、Bにそれぞれ接合した、上下に並行する2本の横架材C、Dと、に生じた振動を減衰するための木造建物の制振装置1であって、一方の柱材Aと一方の横架材Cとに架け渡して設置するダンパー体2と、一方の柱材Aの剛性を高めるために、この柱材Aに設ける剛性補強材3と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】図1
Description
(1)図12(a)に示すように、筋交いTを用いた場合には、剛性は高くなるが、エネルギー吸収性能が低く振動が建物に直に伝わる。このため、建物が損傷しやすく、振動が大きくなると破壊に至る可能性が高い。
(2)図12(b)に示すように、ダンパーVで振動の減衰を図る場合には、柱材Aの剛性が低いと、ダンパーVの力によって柱材Aが変形してしまう。このため、ダンパーVが変形しにくくなり、すなわち、ダンパーVが振動時のエネルギーを吸収しにくくなって十分な制振効果が得られない。
(1)剛性補強材によって柱材の剛性、特に曲げ剛性が高められるため、振動により柱材と横架材とが相対変位した際には、ダンパー体またはダンパー体の減衰材が効率よく変形することとなる。したがって、ダンパー体のエネルギー吸収性能が高められるため、十分な制振効果を得ることができる。
(2)ダンパー体を、外筒内に内筒を挿入するとともに、外筒と内筒との間に粘弾性材を介在させて構成したダンパー本体と、外筒及び内筒の自由端部にそれぞれ、ピン接合によって取り付けた一対の取付け部材と、から構成することにより、柱材と横架材との相対変位時にダンパー体の追随性が向上するため、エネルギー吸収性能がより高められる。
(3)柱材はダンパー体の力によって変形しやすいため、剛性補強材を、柱材の奥行き方向軸周りの断面二次モーメントを高めるような形状に形成する、より具体的には柱材の幅方向に広がるように形成することにより、柱材の変形を効果的に防止することができる。
制振装置1は、図1に示すように、木造建物の骨組を構成する、並行する2本の柱材A、Bと、これらの2本の柱材にそれぞれ接合した上下に並行する2本の横架材、例えば梁材C、土台材Dと、に生じた振動を減衰するためのものである。
制振装置1は、振動時の層間変位が比較的大きくなるような柱材と横架材との接合構造である場合、例えば、柱材A、Bと横架材C、Dとが嵌合接合されている場合に特に有効である。
具体例として、柱材A、Bはそれぞれ、高さ方向両端部にほぞA1、B1を有し、このほぞA1、B1を横架材C、Dに設けたほぞ穴(図示せず)に嵌め込むことにより、横架材C、Dと接続されている場合、さらには、柱材AまたはBの幅方向側面と横架材CまたはDの高さ方向側面とにかけて取り付けたL字状の接合具Eによって柱材A、Bがそれぞれ、横架材C、Dと接合されている場合である。
なお、柱材A、B及び横架材C、Dは、ここでは断面四角形状を有しているが、制振装置1の設置にあたって断面形状を特に問わない。
制振装置1は、一方の柱材AまたはB(横架材C、D間に位置する柱材AまたはB部分)と一方の横架材CまたはD(柱材A、B間に位置する横架材CまたはD部分)とに架け渡して設置するダンパー体2と、このダンパー体2が設置される柱材AまたはBに設ける剛性補強材3と、とから構成する。
ダンパー体2は、図2、3に示すように、振動時に減衰力を発生する減衰材を有し、減衰材が変形して長さ方向に可変する棒状のダンパー本体20と、このダンパー本体20の長さ方向両端部にそれぞれ、ピン接合によって回動可能に取り付けた柱材取付け部材21及び横架材取付け部材22と、を備えた方杖型のダンパーで構成する。
ダンパー本体20は、外筒201内に内筒202を挿入すると共に、外筒201と内筒202との間に、減衰材としての粘弾性材203を介在させて構成する。すなわち、ダンパー体2は粘弾性ダンパーである。
柱材取付け部材21及び横架材取付け部材22はそれぞれ、内筒202及び外筒201(または外筒201及び内筒202)の自由端部にピン接合によって取り付ける。また、柱材取付け部材21及び横架材取付け部材22はそれぞれ、先端側に取付け板210を一体的に有して構成する。
なお、ダンパー本体20は、粘弾性ダンパーの他、減衰材として摩擦材を用いた摩擦ダンパーで構成してもよい。
ダンパー体2は、一方の柱材、例えば柱材Aと一方の横架材、例えば梁材Cとに架け渡して設置する。ダンパー体2の設置は、柱材取付け部材21を、柱材Bと対向する柱材Aの幅方向側面部A2に取り付け、横架材取付け部材22を、梁材Cの高さ方向側面部、ここでは下面部C1に取り付けて行う。より具体的には、柱材取付け部材21及び横架材取付け部材22の取付け板210をそれぞれ、柱材A及び梁材Cにビス4によって取り付ける。ビス4を用いることにより、釘やボルトを用いた場合と比較して、ダンパー体2の取付けに緩みが生じ難くなる。
柱材取付け部材21及び横架材取付け部材22とダンパー本体20とはピン結合されているため、ダンパー体2は、実質的に柱材A及び梁材Cにそれぞれ、ピン結合によって取り付けられることとなる。
柱材A、Bと横架材C、Dとで構成される枠内空間を犠牲にしてもよい場合には、柱材取付け部材21を柱材Aの土台材D寄りに取り付け、かつ、横架材取付け部材22を梁材Cの柱材B寄りに取り付けることができる(図4(c)参照)。
あるいは、ダンパー体2は、柱材A、B間(図4(d)参照)、または横架材C、D間(図4(e)参照)に架け渡して設置してもよい。
なお、ダンパー体2のダンパー本体20は、柱材及び横架材への取付け位置に応じてあらかじめ長さを設定しておく。
剛性補強材3は、ダンパー体2が設置される柱材、例えば柱材Aの剛性を高めるために、この柱材Aに設ける(図1参照)。
柱材Aは、振動時にダンパー体2の引張力または圧縮力を受けるため、幅方向に撓みまたは湾曲変形しやすい。したがって、このような変形を防止または抑制するためには、剛性補強材3を、柱材Aの奥行き方向軸周りの断面二次モーメントを高めるような形状に形成することが好ましい。すなわち、剛性補強材3を柱材Aの幅方向に広がるように形成することが効果的である。その一方で、柱材Aの剛性を高めるためには、剛性補強材3を柱材Aのほぼ高さ方向にわたって設けることが好ましい。そこで、より具体的にここでは、剛性補強材3を、金属製の帯状に形成し、ほぼ高さ方向にわたって柱材Aの奥行き方向側面部A3に取り付ける。
このような構成により、建物の施工時の邪魔にならず、かつ、剛性補強材3自体の重量を抑えつつ、柱材Aの剛性を効果的に高めることができる。
剛性補強材3の柱材Aへの取付けにあたっては、ダンパー体2の柱材A及び梁材Cへの取付けと同様に、ビス(図示せず)を用いることができる。ビスは、あまり間隔をあけずに剛性補強材3のほぼ高さ方向わたって複数設けることが効果的である。
したがって、ダンパー体2の小型化を図ることができ、柱材A、Bと横架材C、Dとで構成される枠内空間が、建物の出入り口等の開口部に利用される場合であっても、制振装置1を適用することできる。
剛性補強材3は、図6に示すように、合板耐力壁で構成することもできる。この場合には、剛性補強材3を、柱材Aに取り付けると共に、横架材C、Dの隣接スパンにわたって取り付ける。より具体的には、柱材Aの奥行き方向側面部A3、横架材C、Dの奥行き(幅)方向側面部にかけて取り付ける。さらには、横架材C及びDに接合して柱材A、B間に設けた間柱Sに取り付けてもよい。
このような構成により、優れた制振性能を発揮できるため、振動時の層間変形をより小さく抑えることができる。
ここで、実施例として、帯状の剛性補強材3を有する制振装置1を設置した試験体(制振構造)を用いて、試験体の層せん断力f−層間変位uの関係を測定する実験を行った。
試験体は、前述したような、並行する2本の柱材A、Bと、柱材A、Bとそれぞれ接合した、上下の横架材C、Dと、から構成した(図1参照)。
実験には、図7に示すように、動的アクチュエータGと可動台Hとを備えた動的載荷装置Iを用い、試験体を可動台Hに固定載置するとともに、梁材Cの中央部に取り付けた治具JをタイロッドKで反力柱Lと接続した。そして、動的アクチュエータGを作動させて可動台Hを揺らし、試験体に幅方向の動的載荷を加えることにより実験を行った。載荷にあたっては、試験体の層間変形角が順に1/480、1/360、1/240、1/180、1/120、1/240、1/90、1/60、1/120、1/45、1/30radとなるように、かつ、各層間変形角で3回ずつの正負交番繰返しとした。試験体に働く層せん断力fは、タイロッドKに生じる軸力から算出した。試験体の層間変位uは、梁材Cと土台材Dとの試験体幅方向の層間変位とした。
また、比較例として、剛性補強材3は設置せずにダンパー体2のみを設置(ダンパー体2の取付け位置は実施例と同様)した試験体を用い、同様の実験を行った。
実施例の測定結果を図8(a)に、比較例の測定結果を図8(b)にそれぞれ示す。
図8に示すように、実施例は比較例に比べ、幅の広い紡錘型の履歴であることが見てとれることから、制振装置1は、ダンパーのみで構成した従来型の制振手段と比較してエネルギー吸収性能に優れることが確認された。
なお、比較例は、扁平型の履歴であることが見てとれ、エネルギー吸収性能が明らかに悪かったため、試験体の層間変形角が1/120radの場合のみで測定した。
次に、実施例として、合板耐力壁の剛性補強材3を有する制振装置1を設置した試験体(制振構造)を用いて、層間変位uの時刻歴を測定する実験を行った。
試験体は、図9に示すように、柱材B及び梁材C、土台材Dをほぼ正方形状に組み付けて構成した枠体を、梁材M及び土台材Nによって奥行き方向に3つ連結することによりほぼ立方体状に形成すると共に、奥行き方向中間部の枠体を構成する柱材B、B間をほぼ三等分するように、梁材C及び土台材Dに柱材A、Aを接合して構成した。そして、ダンパー体2を、それぞれの柱材Aと、これらの柱材Aに接合した梁材Cとに架け渡して設け、剛性補強材3を、一対の柱材A、A、梁材C及び土台材Dにかけて取り付けた。なお、柱材AとB、梁材CとM、土台材DとNはそれぞれ、ほぼ等しい断面形状を有している。
このような試験体上に天板Oを介して錘Pを固定載置すると共に、試験体を振動台Q上に固定載置し、動的アクチュエータRによって振動台Qを加速度600cm/s2で試験体の幅方向に揺らして(実際の地震の加振波を再現)、試験体上に錘Pに慣性力を加えることにより実験を行った。層間変位uは、梁材Cと土台材Dとの試験体幅方向の層間変位とした。
また、比較例として、図10に示すように、柱材A、B間に間柱Sを設けると共に、梁材Cの柱材A寄りと土台材Dの柱材B寄りとにかけて木製の筋交いTを架け渡した試験体を用い、同様の実験を行った。
実施例の測定結果を図11(a)に、比較例の測定結果を図11(b)にそれぞれ示す。なお、図11中の破線は、層間変形角1/120rad(層間変位約23mm)を表す。
図11に示すように、実施例は比較例に比べ、加振直後の最大層間変位が小さく、かつ、層間変位がほぼ23mm内で安定するまでの時間も短い、すなわち振動の減衰が早いことが見てとれる。したがって、制振装置1は、筋交い等で構成した従来型の振動低減手段と比較して、高い制振効果が得られると共に、建物の剛性を向上させることができることが確認された。
2 ダンパー体
3 剛性補強材
20 ダンパー本体
21 柱材取付け部材
22 横架材取付け部材
201 外筒
202 内筒
203 粘弾性材
A 柱材(一方の柱材:他方の柱材)
B 柱材(他方の柱材:一方の柱材)
C 梁材(一方の横架材:他方の横架材)
D 土台材(他方の横架材:一方の横架材)
Claims (8)
- 並行する2本の柱材と、これらの2本の柱材にそれぞれ接合した、上下に並行する2本の横架材と、に生じた振動を減衰するための木造建物の制振装置であって、
一方の柱材と一方の横架材とに架け渡して設置するダンパー体と、
一方の柱材の剛性を高めるために、この柱材に設ける剛性補強材と、を備えたことを特徴とする、
木造建物の制振装置。 - 前記ダンパー体は、
外筒内に内筒を挿入すると共に、内筒と外筒との間に粘弾性材を介在させて構成したダンパー本体と、
内筒及び外筒の自由端部にそれぞれ、ピン接合によって取り付けた柱材取付け部材及び横架材取付け部材と、を有し、
柱材取付け部材を一方の柱材に取り付け、横架材取付け部材を一方の横架材に取り付けることにより設置することを特徴とする、請求項1に記載の木造建物の制振装置。 - 横架材取付け部材は、一方の横架材における他方の柱材寄りに取り付けることを特徴とする、請求項2に記載の木造建物の制振装置。
- 前記剛性補強材は、一方の柱材のほぼ高さ方向にわたって設けることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の木造建物の制振装置。
- 前記剛性補強材は、一方の柱材の奥行き方向軸周りの断面二次モーメントを高めるような形状に形成することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の木造建物の制振装置。
- 前記剛性補強材は、柱材の幅方向に広がるように形成することを特徴とする、請求項5に記載の木造建物の制振装置。
- 前記剛性補強材は、板状または帯状に形成し、一方の柱材の奥行き方向側面部に取り付けることを特徴とする、請求項6に記載の木造建物の制振装置。
- 並行する2本の柱材と、これらの2本の柱材にそれぞれ接合した、並行する2本の横架材と、に生じた振動を減衰するための木造建物の制振方法であって、
一方の柱材と一方の横架材とにダンパー体を架け渡して設置すると共に、
一方の柱材の剛性を高めるために、この柱材に剛性補強材を設けることを特徴とする、
木造建物の制振方法。
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