本発明は、弾性反力を操作部材に付与する弾性反力付与機構を備えたステアリングシステムに関する。
例えば、いわゆるステアバイワイヤ式のステアリングシステムは、操作部材と転舵装置とが機械的に分離されており、操舵操作に対する転舵装置からの反力が操作部材に伝達されない。そのため、反力付与機構を設けることによって操舵操作に対する反力を付与し、操舵操作の手応えを運転者が感じられるようにすることが多い。下記特許文献には、弾性反力付与機構を備えたステアバイワイヤ式のステアリングシステムが記載されている。弾性反力付与機構は、操作部材と連係して作動し、操舵操作に応じて自身が備える弾性体が変形することによって弾性反力を発生させる構造とされている。また、下記特許文献1に記載のステアリングシステムは、緊急時等、必要に応じて操作部材に加えられた操作力による車輪の転舵を可能とするために、操作部材と転舵装置との間に操作力の伝達の有無を切り換える伝達切換機構たる電磁クラッチが設けられており、その電磁クラッチによって操作力が転舵装置に伝達されるか否かを切り換えることができるようにされている。
特開2001−106111号公報
特開平10−71957号公報
上記特許文献1に記載されたステアリングシステムは、常に弾性反力が付与される構造にされているため、弾性反力が不要な状況に適切に対処することが困難である。例えば、転舵装置の電気的な制御に問題が生じた場合等、転舵装置の駆動力なしに操作力によって転舵を行う場合には、操舵操作が重くなるため、弾性反力が付与されないことが望ましいのであるが、そういった状況であっても弾性反力が付与されてしまうのである。そのような状況に適切に対処するためには、例えば、ステアリングシステムを、操作部材と弾性反力付与機構との連係が有る状態と、連係が無い状態とに切り換えることができる構造にし、必要に応じて弾性反力を付与しないようにすることが考えられる。ところが、連係が無い状態から連係が有る状態に切り換える際に、操作部材と弾性反力付与機構とを適切に連係させることができない場合がある。そのような場合には、操作部材の操作位置に応じた適切な大きさの弾性反力が付与されない可能性があり、操作感が悪化する虞がある。そのような問題は、従来から検討されてきた弾性反力付与機構を備えたステアリングシステムの操作性やフェールセーフ性を向上させる等、実用性を向上させる上で障害となり得る問題の一例であり、弾性反力付与機構を備えたステアリングシステムには種々の観点からの改良の余地がある。すなわち、弾性反力付与機構を備えたステアリングシステムに種々の改良を施すことによって、ステアリングシステムの実用性を向上させることができる。本発明は、そういった実情を鑑みてなされたものであり、より実用的なステアリングシステムを得ることを課題としてなされたものである。
上記課題を解決するために、本発明のステアリングシステムは、(a)弾性体を備え、連係状態において操舵操作に応じた弾性反力を付与する一方、非連係状態において操舵位置に拘わらず弾性体の変形量が設定変形量になるとともに操作部材に弾性反力を付与しない構造とされた弾性反力付与機構と、(b)操作部材と弾性反力付与機構との関連状態を非連係状態と連係状態との間で切り換える関連状態切換機構と、(c)非連係状態から連係状態への切り換えが、操舵位置が弾性体の設定変形量に対応して設定された設定操舵位置となる場合に行われるように、関連状態切換機構を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする。
本発明のステアリングシステムは、制御装置によって関連状態切換機構を適切に制御することにより、弾性体が操舵位置に応じた変形量になるように操作部材と弾性反力付与機構とを連係させることができる。そのため、非連係状態から連係状態への切り換え後であっても、操舵位置に応じた適切な大きさの弾性反力を操作部材に付与することができるのである。なお、本発明のステアリングシステムの各種態様およびそれらの作用および効果については、以下の、〔発明の態様〕の項において詳しく説明する。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(5)項が請求項4に、それぞれ相当する。
(1)操舵操作がなされる操作部材と、その操作部材になされた操舵操作に応じて車輪を転舵する転舵装置とを備えたステアリングシステムであって、
弾性体を備え、前記操作部材と連係する状態である連係状態においてその操作部材の操舵位置に応じた前記弾性体の変形によって発生する弾性力を前記操作部材に作用させて弾性反力を付与する一方、前記操作部材と連係しない状態である非連係状態において操舵位置に拘わらず前記弾性体の変形量が設定変形量になるとともに前記操作部材に弾性反力を付与しない構造とされた弾性反力付与機構と、
前記操作部材と前記弾性反力付与機構との関連状態を非連係状態と連係状態との間で切り換える関連状態切換機構と、
非連係状態から連係状態への切り換えが、操舵位置が前記弾性体の前記設定変形量に対応して設定された設定操舵位置となる場合に行われるように、前記関連状態切換機構を制御する制御装置と
を備えたことを特徴とするステアリングシステム。
本項に記載の弾性反力付与機構は、操舵操作に応じて弾性体が変形することにより弾性反力を発生させる。そのため、操舵位置に応じた適切な大きさの弾性反力を付与するためには、弾性体が操舵位置に応じた変形量になるように、操作部材と弾性反力付与機構とを連係させることが望ましい。しかしながら、非連係状態から連係状態への切り換えの際に、必ずしも弾性体が操舵位置に応じた変形量になっているとは限らず、弾性体の変形量が操舵位置に応じた変形量でなかった場合には、操作部材と弾性反力付与機構とを適切に連係させることができない場合があり、操作部材に付与される弾性反力が不適切な大きさになる虞がある。
本項の弾性反力付与機構は、非連係状態において、弾性体の変形量が設定変形量になる構造とされている。そのため、非連係状態から連係状態への切り換えの際に、操舵位置が弾性体の設定変形量に対応した設定操舵位置となるようにすれば、弾性体が操舵位置に応じた変形量になるように操作部材と弾性反力付与機構とを連係させることができる。すなわち、本項に記載のステアリングシステムは、制御装置によって関連状態切換機構を適切に制御することにより、弾性体が操舵位置に応じた変形量になるように操作部材と弾性反力付与機構とを連係させることができる。そのため、非連係状態から連係状態への切り換え後であっても、操舵位置に応じた適切な大きさの弾性反力を操作部材に付与することができるのである。なお、連係状態は、例えば、操舵位置に応じて弾性体が変形させられて弾性力を発生し、その弾性力によって操作部材に弾性反力が付与される状態である。また、非連係状態は、例えば、操舵位置に拘わらず弾性体が設定変形量となり、操作部材に弾性反力が付与されない状態である。
本項に記載の操舵位置は、例えば、操作部材の操作位置,車輪の転舵位置等とすることができる。本項に記載の弾性反力付与機構の態様は、特に限定されないが、例えば、操舵操作に応じて弾性体としてのスプリングを伸縮させることにより,あるいは捩ることにより弾性力を発生させるといった態様とすることができる。弾性体は、例えば、ばね材,ゴム材,気体等によって構成することができる。本項に記載の関連状態切換機構の態様は、特に限定されないが、例えば、操作部材と弾性体との直接的・間接的な係合の有無を切り換える態様、あるいは弾性体と車体との直接的・間接的な係合の有無を切り換える態様等の態様とすることができ、それらの態様を採用することによって操舵操作が弾性体を変形させるように作用するか否かを切り換えることができ、すなわち連係状態であるか否かを切り換えることができる。具体的には、例えば、操作部材が回転操作された場合に、一端部が操作部材に連結され、他端部が車体に固定された「ばね」が捩られるといった構成の弾性反力付与機構において、「ばね」の一端部と操作部材との連結の有無を切り換える態様、あるいは「ばね」の他端部の固定の有無を切り換えることによって、操舵操作に応じて「ばね」が捩られるか否かを切り換える態様とすることができる。なお、後者の態様のように、操作部材と弾性体とが直接的・間接的に連結されていたとしても、操舵操作によって弾性体が変形させられない状態は連係状態とは言えず、非連係状態となる。
本項に記載のステアリングシステムは、例えば、いわゆるパワーステアリング式のステアリングシステムに適用することができる。また、本項に記載のステアリングシステムは、例えば、いわゆるステアバイワイヤ式のステアリングシステム、すなわち、操作部材と転舵装置とが機械的に分離されて、操作力によらずに、操舵操作に応じて転舵装置の動力源に駆動力を発生させることによって車輪の転舵を行うステアリングシステムに好適である。なお、以下の説明は、本項に記載のステアリングシステムが、ステアバイワイヤ式のステアリングシステムに適用された場合について行うこととする。
(2)前記弾性反力付与機構が、前記弾性体の前記設定変形量が弾性反力が生じない状態となる変形量に設定されたものであり、
前記制御装置が、操舵位置が前記設定操舵位置としての車両直進時の操舵位置である直進操舵位置となる場合に前記切り換えが行われるように、前記関連状態切換機構を制御するものである(1)項に記載のステアリングシステム。
通常、操作部材には、直進操舵位置となる場合に弾性反力が付与されず、車両を左右いずれかの方向に旋回させる操舵位置となる場合に、操作部材を直進操舵位置に変位させる向きの弾性反力が付与されることが望ましい。本項に記載の弾性反力付与機構は、非連係状態において弾性体の変形量が弾性反力が生じない変形量とされているため、操舵位置が直進操舵位置となった場合に操作部材と弾性反力付与機構との連係を生じさせることにより、直進操舵位置において弾性反力が生じないように操作部材と弾性反力付与機構とを連係させることができる。
(3)前記制御装置が、操舵位置が前記直進操舵位置に維持された状態である直進維持状態を認識する直進状態認識部を備え、その直進状態認識部によって直進維持状態が認識された場合に前記切り換えが行われるように、前記関連状態切換機構を制御するものである(2)項に記載のステアリングシステム。
非連係状態から連係状態に切り換える際には、操作部材の操舵位置が直進維持状態であること、例えば、操作部材の操舵位置が安定的に直進操舵位置に位置していることが望ましい。本項に記載の態様は、直進状態認識部を備えており、直進操舵位置が維持されている状態を認識することができるため、比較的容易に操作部材と弾性反力付与機構とを適切に連係させることができる。また、直進状態認識部は、例えば、走行中や、停車中に直進維持状態を認識するように構成すること等ができる。具体的には、例えば、直線的な道路を直進走行している状態や、操舵位置が直進操舵位置に位置した状態で停車している状態等の状態において直進維持状態を認識するようにすることができる。
本項に記載の制御装置は、非連係状態から連係状態への切り換えが開始されてから完了するまでの間に、操舵操作がなされて操舵位置が直進操舵位置から外れた場合に、開始した切り換えを中止するように制御する態様とすることができる。その態様において、切換途中に操舵操作がなされて、操舵位置が直進操舵位置でない状態で、操作部材と弾性力付与機構とが連係状態になることを防止することができる。すなわち、操舵位置が直進操舵位置に位置しているのに、操作部材に弾性反力が付与されるといった、操作部材と弾性力付与機構とが不適切な連係状態になることを防止することができる。
(4)前記制御装置が、起動時に前記弾性反力付与機構が非連係状態とされた車両において、車両の起動後で最初に直進維持状態が認識された際に前記切り換えが行われるように、関連状態切換機構を制御するものである(3)項に記載のステアリングシステム。
本項に記載の態様は、例えば、車両の動力停止時に前記弾性反力付与機構が非連係状態とされているステアリングシステムに適用されてもよく、車両の動力停止時に前記弾性反力付与機構が連係状態とされているが起動時に関連状態切換機構によって一旦非連係状態とされるステアリングシステムに適用されてもよい。車両の起動後で最初に直進維持状態が認識された際に切り換えを行うことにより、車両の起動後に比較的速やかに操作部材と弾性反力付与機構とを連係させることができる。
(5)当該ステアリングシステムが、
モータを有し、そのモータの駆動力によって前記操作部材にモータ反力を付与するモータ反力付与機構を備え、
前記制御装置が、連係状態において、設定された反力から前記弾性反力を除いた大きさの反力がモータ反力として付与され、非連係状態において、前記設定された反力がモータ反力として付与されるように前記モータ反力付与機構を制御するモータ反力制御部を備えた(1)項ないし(4)項のいずれかに記載のステアリングシステム。
本項に記載の態様では、モータ反力付与機構のモータ反力の大きさを弾性反力の有無に応じて増減させることによって、適切な大きさに設定された反力が操作部材に付与される。そのため、弾性反力の有無に拘わらず、運転者は快適に操舵操作を行うことができる。すなわち、本項に記載の態様は、操作部材と弾性反力付与機構との関連状態を、操舵操作がなされている「走行中に」切り換えるのに特に好適な態様である。なお、本項に記載の態様では、例えば、連係状態において、弾性反力が付与されることによってモータ反力が小さくなるようにすることができ、非連係状態よりもモータの消費電力が少なくなるようにすることができる。また、本項に記載のモータ反力制御部は、例えば、操作部材と弾性反力付与機構とを連結する部材の変形量を検出するセンサの検出値に基づいて弾性反力を取得する態様とすることや、操舵位置と弾性体の変形量との関係を予め設定しておくことによって操舵位置に基づいて弾性反力の推定値を取得する態様とすることもできる。
(6)当該ステアリングシステムが、前記操作部材の操作位置を検出する操作位置センサと、車輪の転舵位置を検出する転舵位置センサとの少なくとも一方を備え、
前記制御装置が、前記操作位置センサと前記転舵位置センサとの前記少なくとも一方によって検出された操作位置と転舵位置との少なくとも一方に基づいて操舵位置を取得するものである(1)項ないし(5)項のいずれかに記載のステアリングシステム。
操作位置は、例えば、直進操舵位置からの操作部材の操作方向および操作量を示す位置とすることができ、具体的には、例えば、操作部材の直進操舵位置からの変位量に基づいて取得することができる。また、転舵位置は、例えば、車輪の転舵方向および転舵量を示す位置とすることができ、具体的には、例えば、転舵装置の転舵ロッドの位置から取得することができる。操作位置と転舵位置とは、多少のタイムラグがあったとしても、基本的に合致するため、それらの少なくとも一方に基づいて操舵位置を取得することができる。
なお、何らかの異常によって操作位置と転舵位置とがずれている場合、具体的には、例えば、操作部材が中立位置に位置しているのに車両が旋回するような場合、あるいは操作部材が中立位置から変位した操作位置に位置しているのに車両が直進するような場合には、転舵位置に基づいて操舵位置が取得される。運転者にとっては、直進走行状態において、操作部材の操作位置がずれていることよりも、操作部材に付与される弾性反力の大きさがずれていることの方が、不快感が大きいと考えられるからである。すなわち、転舵装置に基づいて操舵位置を取得する態様は、運転者の触覚的、体感的な感覚を重視した態様であると言える。また、転舵位置に基づいて操舵位置が取得される態様は、車両の運転が開始された後に弾性反力付与機構を連係させる場合に適している。
(7)当該ステアリングシステムが、
操作部材になされた操舵操作の前記転舵装置への機械的な伝達の有無を切り換える操舵操作伝達切換機構を備え、
前記転舵装置が、車輪を転舵する動力源を備え、
前記制御装置が、前記関連状態切換機構を制御することにより、前記操舵操作伝達切換機構による伝達の有無の切換によって操舵操作が前記転舵装置に伝達されない状態になる場合には前記操作部材と前記弾性反力付与機構とを連係状態にする一方、操舵操作が伝達される状態になる場合には非連係状態にするものである(1)項ないし(6)項に記載のステアリングシステム。
本項に記載のステアリングシステムは、いわゆるステアバイワイヤ式のステアリングシステムに好適な態様である。また、本項に記載のステアリングシステムは、操舵操作伝達切換機構を備えており、例えば、転舵装置の電気的な制御に問題が生じる等の異常が発生した場合等には、操舵操作を転舵装置に伝達して、運転者の操作力によって車輪の転舵を行うことができる。その場合には、転舵装置の駆動力なしに操作力によって転舵を行うため、操舵操作が重くなってしまうが、本項に記載のステアリングシステムは、弾性反力が付与されないように、操作部材と弾性反力付与機構との連係を解除することによって、運転者の負担を減少させることができるのである。
(8)当該ステアリングシステムが、
前記操舵操作伝達切換機構によって、車両の動力停止時には操舵操作が前記転舵装置に伝達される状態にし、車両の動力起動後に操舵操作が前記転舵装置に伝達されない状態にするように構成され、
前記制御装置が、前記操舵操作伝達切換機構による操舵操作の伝達状態の切り換えに伴い、車両の動力停止時に前記操作部材と前記弾性反力付与機構とを非連係状態にし、車両の動力起動後に前記操作部材と前記弾性反力付与機構とを連係状態になるように、前記関連状態切換機構を制御するものである(7)項に記載のステアリングシステム。
本項に記載の態様では、車両の動力停止時に操作部材と転舵装置とを連結しておくことによって、例えば、何らかの異常によって車両を起動しても転舵装置,関連状態切換機構等を電気的に制御できない事態が生じたとしても、操作力によって車輪を転舵することができる。その場合に、操作部材と弾性反力付与機構とが非連係状態にされていれば、連係状態にされている場合に比べて、操舵操作に対する反力を低減させることができ、操舵操作時の運転者の負担を低減することができる。なお、本項に記載の態様では、特に異常がなければ、車両の起動後に操作部材と弾性反力付与機構とを連係状態にすることが望ましい。
(9)前記弾性反力付与機構が、操舵操作に応じて変位することによって前記弾性体の一部分を変位させる変位体を備えた(1)項ないし(8)項のいずれかに記載のステアリングシステム。
(10)前記関連状態切換機構が、電磁アクチュエータを備え、その電磁アクチュエータによって、前記操作部材の変位方向において前記操作部材に対して前記変位体を相対変位させるか否かを切り換えることによって、前記操作部材と前記弾性反力付与機構との関連状態を切り換えるように構成された(9)項に記載のステアリングシステム。
上記2つの項に記載の態様は、弾性反力付与機構および関連状態切換機構の具体的な構成の一例を示す態様である。上記(9)項に記載の弾性反力付与機構は、例えば、操作部材と一体的に変位体を変位させる態様や、操作部材の変位の方向や種類を変換して変位体を変位させる態様等の態様とすることができる。後者の態様において、操作部材の変位の種類を変換することにより、例えば、操作部材の回転変位を変位体の直線的な変位に変換することや、その逆の変換を行うことができる。上記(10)項に記載の関連状態切換機構は、例えば、変位体が操作部材と一体的に変位するように連結することによって連係を生じさせる態様、あるいは操作部材の変位の方向や種類を変換して変位体を変位させる場合に、操作部材の変位方向における変位体の変位を禁止することによって連係を生じさせる態様等の態様とすることができる。
(11)前記弾性反力付与機構が、前記弾性体の前記一部分とは異なる部分を係止することによって、前記一部分に対して係止された部分を相対変位させる係止体を備えた(9)項または(10)項に記載のステアリングシステム。
(12)前記関連状態切換機構が、電磁アクチュエータを備え、その電磁アクチュエータによって前記係止体によって前記弾性体を係止するか否かを切り換えることによって、前記操作部材と前記弾性反力付与機構との関連状態を切り換えるように構成された(11)項に記載のステアリングシステム。
上記2つの項に記載の態様について説明する。上記(11)項に記載の弾性反力付与機構は、例えば、弾性体たるばね部材の一端部が操作部材と連結され、他端部が係止体によって係止された態様とすることができる。上記(12)項に記載の関連状態切換機構は、係止体によって弾性体を係止するか否かを切り換えることによって操作部材と弾性反力付与機構との連係を切り換える態様である。
以下、本発明の一実施例およびその変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、決して下記の実施例に限定されるものではなく、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
1. ステアリングシステムの概要.
図1に、請求可能発明の一実施例であるステアリングシステムを概略的に示す。本システムは、操作部10と、転舵部12とが機械的に分離され、操作部材としてのステアリングホイール14に加えられる操作力によらずに、転舵部12に設けられた動力源の動力によって転舵車輪16(以下、単に「車輪16」という場合がある)を転舵するステアリングシステムである。また、本システムは、異常が発生した場合等に必要に応じて、操作部10と、転舵部12とを機械的に連結する連結部18を備えている。そのため、例えば、転舵部12の動力源を使用できない場合等には、連結部18によって操作力を転舵部12に伝達することができる。
操作部10には、ステアリングホイール14と、そのステアリングホイール14を操作可能に支持するステアリング操作装置20(以後、「操作装置」と略記する場合がある)とが設けられている。操作装置20は、後方端部(車両後方側、つまり運転者側の端部)にステアリングホイール14が取り付けられたシャフト22,そのシャフト22にばね反力を付与するばね反力機構24,そのばね反力機構24によるばね反力の付与の有無を切り換えるばね反力有無切換機構26,シャフト22にモータ反力を付与する反力モータ30,および,シャフト22の回転位置を検出して操作位置を取得するための操作位置センサ32を備えている。
連結部18は、操作力が入力される入力プーリ40,操作力が出力される出力ローラ42,および,入力プーリ40と出力ローラ42との間の操作力の伝達の有無を切り換え可能にそれらを連結する電磁クラッチ44(操舵操作伝達切換機構の一種である)を備えている。入力プーリ40は、シャフト22の概ね前方端部に相対回転不能に固定された出力プーリ46(図2参照)とベルト50によって接続されており、ステアリングホイール14になされた操舵操作に応じて回転させられるようにされている。電磁クラッチ44は、電力が供給されない消磁状態において入力プーリ40と出力ローラ42とを連結し、すなわち、操舵部10と転舵部12とを連結状態にする一方、励磁状態においてその連結を解除し、すなわち、操舵部10と転舵部12とを非連結状態にするものとなっている。出力ローラ42は、伝達ケーブル52を介して転舵部12の入力ローラ54と接続されており、操作力を転舵部12に出力するようにされている。なお、伝達ケーブル52は、ガイドチューブ56にガイドされており、そのガイドチューブ56の中を滑らかに摺動することができるようにされている。
転舵部12には、車輪16を転舵させる転舵装置60が設けられている。その転舵装置60は、ハウジング62と、そのハウジング62を車幅方向に貫通した状態で支持された転舵ロッド64とを備えている。その転舵ロッド64は両端部の各々において、ボールジョイント66を介してタイロッド70と連結されている。そのタイロッド70は、車輪16を回転可能に保持するステアリングナックル72に固定されたナックルアーム74に連結されている。すなわち、転舵装置60は、転舵ロッド64を左右に駆動することによって、ステアリングナックル72を回転させ、車輪16の転舵を行うのである。
本実施例において、転舵装置60は、転舵モータ76によって転舵ロッド64を駆動する第1駆動部80と、操作力によって転舵ロッド64を駆動する第2駆動部82とを備えている。第2駆動部82は、操舵部10と連結部18を介して連結されたピニオンギヤと、そのピニオンギヤと噛み合うように転舵ロッド64に形成されたラックギヤとを含んで構成されており、ピニオンギヤが回転することによって転舵ロッド64を左右に駆動する。そのピニオンギヤは、入力ローラ54に相対回転不能に接続されており、電磁クラッチ44が消磁状態(連結状態)の際に、操舵操作に応じて回転させられるが、電磁クラッチ44が励磁状態(非連結状態)の際には回転駆動力が作用しない状態にされている。なお、通常時には、電磁クラッチ44が励磁状態とされており、操舵操作は第2駆動部に伝達されない。
なお、転舵装置60には、ピニオンギヤの回転位置を取得するためのセンサが転舵位置センサ88として設けられている。ピニオンギヤは、転舵ロッド64が軸方向に移動するのに伴い回転させられるため、そのピニオンギヤの回転位置を取得すれば転舵ロッド64の移動量、すなわち、車輪16の転舵位置を取得することができるのである。
2. 操作装置の詳細.
図2に、操作装置20を車両の側方から見た断面図を示す。操作装置20は、概して円筒状をなすハウジング100を備えており、そのハウジング100は、車両後方側(図において右側)の第1ハウジング102と車両前方側の第2ハウジング104とが組み付けられて構成されている。第1ハウジング102は、概して円筒状をなし、その両端部において軸受を介してステアリングシャフト22を回転可能かつ軸方向に移動不能に保持している。また、第1ハウジング102内には、ばね反力機構24が配設されている。そのばね反力機構24は、後述するように、第1ハウジング102に対して相対回転可能にされており、相対回転可能な状態ではシャフト22にばね反力を付与しない。そのばね反力機構24は、ばね反力有無切換機構26によって相対回転が禁止されることにより、シャフト22にばね反力を付与する状態にされる。なお、図2は、ばね反力有無切換機構26によってばね反力機構24の回転が禁止され、ばね反力を付与する状態を示している。
ばね反力有無切換機構26は、ばね反力機構24の外周部に押し付けられた状態において摩擦力によってばね反力機構24の回転を禁止する制動部材110と,第1ハウジング102の外周部に配設されて制動部材110をばね反力機構24に接近・離間させる電磁アクチュエータ112とを含んで構成されている。制動部材110は、第1ハウジング102の内周面とばね反力機構24の外周面との間に、ばね反力機構24に接近・離間可能に配置されている。また、ばね反力機構24は円筒状をなしており、制動部材110は、矩形の平板がばね反力機構24の外周に沿って湾曲させらた形状をなしており、ばね反力機構24の外周部に密着しやすくされている。さらに、制動部材110のばね反力機構24側の面には、摩擦係数が大きな摩擦材によって形成されたライニング113(例えば、ドラムブレーキに使用されるものと同様な材質のもの)が配設されており、摩擦力によってばね反力機構24の回転を強固に禁止できるようにされている。
電磁アクチュエータ112は、その先端部に制動部材110が固定されたプランジャ114,電力を供給された励磁状態において磁気を発生させてプランジャ114をばね反力機構24に接近する向きに移動させる電磁コイル116,およびプランジャ114をばね反力機構24から離間する向きに付勢する離間スプリング118を含んで構成されている。プランジャ114は、第1ハウジング102を貫通して設けられており、励磁状態の電磁コイル116の磁気によって先端に固定された制動部材110をばね反力機構24に押し付け、一方、電磁コイル116が消磁状態の際に、離間スプリング118の付勢力によって制動部材110をばね反力機構24から離間させる。なお、図2には、電磁コイル116が励磁状態とされ、制動部材110がばね反力機構24に押し付けられた状態が示されている。
ばね反力機構24は、概して円筒状をなすばね機構ハウジング120,そのばね機構ハウジング120内にそれと相対回転不能かつ軸方向に相対移動可能に配設されたスライド部材122(変位体の一種である),およびそのスライド部材122とばね機構ハウジング120の両端部の各々の内壁(係止体の一種である)とに挟まれた2つの圧縮コイルスプリング124(弾性体の一種である)を含んで構成されている。ばね機構ハウジング120は、その両端部において、軸受を介してシャフト22に、回転可能かつ軸方向に移動不能に支持されている。すなわち、ばね機構ハウジング120の第1ハウジング102に対する相対回転は、電磁コイル116が励磁状態の場合に禁止され、電磁コイル116が消磁状態の場合に許容されるのである。
ばね機構ハウジング120の内周壁部には、軸方向に延びた2つの凸条130が設けられており、一方、スライド部材122の外周部には、軸方向に延びた2つの被係止溝132が設けられている。それら2つの被係止溝132の各々に2つの凸条130がそれぞれ緩やかに嵌められており、ばね機構ハウジング120に対するスライド部材122の、相対回転が禁止されるとともに、軸方向への相対移動が許容されている。スライド部材122の内周部は、ベアリングボールを保持するボールナットとされており、スライド部材122はそのボールナットにおいてシャフト22の外周部に設けられたボールねじと螺合させられている。
そして、ばね機構ハウジング120の回転が禁止された状態において、シャフト22が操舵操作に応じて回転させられると、スライド部材122が軸方向に変位させられることにより、いずれか一方のスプリング124が収縮させられるとともに他方のスプリング124が伸長させられて、スライド部材122を中立位置に位置させる向きの付勢力が発生するのである。一方、ばね機構ハウジング120の回転が許容された状態では、シャフト22が回転させられると、ばね機構ハウジング120およびスライド部材122がシャフト22とともに回転させられ、シャフト22とスライド部材122とが相対回転しないため、スライド部材122は軸方向に変位せず、付勢力は発生しない。
すなわち、本実施例において、ばね反力有無切換機構26が作動状態にされて、ばね反力機構24の回転が禁止されることによって、操舵操作がなされた際に前記変位体たるスライド部材122とシャフト22とが相対回転する状態にされ、ステアリングホイール14とばね反力機構24とが連係状態にされている。また、逆に、ばね反力有無切換機構26が非作動状態にされて、ばね反力機構24の回転が許容されることによって、スライド部材122とシャフト22とが相対回転しない状態にされ、ステアリングホイール14とばね反力機構24とが非連係状態にされている。
なお、スライド部材122が軸方向に変位して付勢力が発生した状態でばね機構ハウジング120の回転が許容された場合には、スライド部材122に作用するスプリング124の弾性力によってばね反力機構24が回転させられて、スライド部材122が中立位置に復帰する。すなわち、本実施例では、非連係状態において、スライド部材122が中立位置に位置する状態、具体的には、スライド部材122に作用する2つのスプリング124の弾性力が釣り合って弾性反力が発生しない状態となるのであるが、その弾性反力が発生しない状態における2つのスプリング124の変形量が、非連係状態のばね反力機構24において弾性体の変形量が操舵位置に拘わらず定められた変形量になるように設定された変形量である「設定変形量」とされている。
本実施例において、ばね反力機構24が、連係状態においてステアリングホイール14に弾性反力を付与する一方、非連係状態において弾性体たるスプリング124の変形量が設定変形量になるとともにステアリングホイール14に弾性反力を付与しない構造とされた「弾性反力付与機構」として機能している。また、ばね反力有無切換機構26が、ステアリングホイール14とばね反力機構24との関連状態を非連係状態と連係状態との間で切り換える「関連状態切換機構」として機能している。また、本実施例において、スライド部材122のボールナットおよびシャフト22のボールねじを含んで、操舵操作によって回転させられるシャフト22の回転変位を、スライド部材122の直線的な変位に変換する運動変換機構が構成されている。
第2ハウジング104には、反力モータ30,ステアリングホイール14の操作範囲を制限するエンドストッパ機構140等が配設されている。第2ハウジング104内には、シャフト22の前方端部が第1ハウジング102から延び出している。そのシャフト22の前方端部には、連結部18に操舵操作を出力するための出力プーリ46,および反力モータ30によって駆動される被駆動ギヤ150が、シャフト22に対して相対回転不能に固定されている。反力モータ30は、第2ハウジング104の前方端部の穴に嵌合して相対回転不能に固定されるとともに、反力モータ30のモータ軸が第2ハウジング104内に設けられたブラケット152によって軸受を介して回転可能に保持されている。また、そのモータ軸には、駆動ギヤ154が相対回転不能に取り付けられており、その駆動ギヤ154と被駆動ギヤ150とが噛み合わされている。本実施例において、反力モータ30,駆動ギヤ154,および被駆動ギヤ150を含んで、前記モータ反力付与機構が構成されている。
エンドストッパ機構140は、シャフト22の回転を減速する減速機構160と、その減速機構160を介してシャフト22を係止する係止機構161とを含んで構成されている。減速機構160は、シャフト22の前方端部に相対回転不能に固定されたシャフト側ギヤ162,およびシャフト側ギヤ162に噛み合わされてシャフト側ギヤ162の回転を減速する減速ギヤ164とを備えている。シャフト側ギヤ162は、シャフト22の内周部に相対回転不能に嵌合した嵌合軸165に固定されている。減速ギヤ164は、第2ハウジング104の前方端部に軸受を介して回転可能に保持された回転軸168に相対回転不能に固定されている。減速ギヤ164の前方側の側面には、係止機構161と係合する係合突起166が設けられている。
係止機構161は、第2ハウジング104の内部に延び出した状態において減速ギヤ164の回転に伴い所定の回転位置まで変位した係合突起166を係止する係止ロッド170と、第2ハウジング104の前方端面に配設されて係止ロッド170を軸方向に駆動する電磁アクチュエータ172とを備えている。電磁アクチュエータ172の構造は、寸法等が異なるが電磁アクチュエータ112とほぼ同様であり、内部構造の図示および説明を省略する。係止機構161は、電磁アクチュエータ172が励磁状態となる際に、係止ロッド170を減速ギヤ164に接近する向きに移動させて、係合突起166を係止することが可能な状態とし、一方、電磁アクチュエータ172が消磁状態となる際に、係止ロッド170を減速ギヤ164から離間する向きに移動させて係合突起166を係止しない状態にするのである。
なお、本実施例において、シャフト22が設定された角度回転させられた際に、係止機構161によって係合突起166が係止されるように、減速機構160の減速比および減速ギヤ164における係合突起166の配設角度位置が設定されている。すなわち、エンドストッパ機構140は、シャフト22の回転角度を設定範囲内に制限することによって、ステアリングホイール14の操作範囲を制限する操作範囲制限機構として機能しているのである。また、係止機構161の電磁アクチュエータ172によって係止ロッド170の延び出しの有無を変化させ、係合突起166を係止することが可能な状態である操作範囲制限状態と、係合突起166を係止しない状態である範囲制限解除状態とを切り換えることができる。
ところで、前記電磁クラッチ44によって、操作部10と転舵部12とが非連結状態にされた場合には、比較的少ない操作量でも転舵モータ76によって車輪16を大きく転舵することができるため、ステアリングホイール14が不必要な操作位置まで回転しないように操作範囲が制限されることが望ましい。一方、操作部10と転舵部12とが連結状態にされた場合には、比較的弱い操作力で車輪16を転舵しなければならず、車輪16を大きく転舵するために多くの操作量が必要となるため、操作範囲の制限を解除することが望ましい。そこで、エンドストッパ機構140は、操作部10と転舵部12とが非連結状態にされた場合に操作範囲制限状態にされ、操作部10と転舵部12とが連結状態にされた場合に範囲制限解除状態にされる。
操作位置センサ32は、絶対回転位置を取得するアブソリュートエンコーダによって構成されており、回転軸168の絶対回転位置を取得するように第2ハウジング104の前方端面に配設されている。回転軸168は、減速機構160を介してシャフト22に接続されており、回転軸168の絶対回転位置を取得することによって、シャフト22およびステアリングホイール14の絶対回転位置、つまり、操作位置を取得することができるのである。
本実施例において、ステアリングホイール14と一体的に回転するシャフト22に、ばね反力(弾性反力の一種である)およびモータ反力が付与され、また、シャフト22の絶対回転位置が操作位置として取得されている。すなわち、本実施例において、ステアリングホイール14およびシャフト22によって操作部材が構成されている。なお、単に、ステアリングホイール14によって前記操作部材が構成されていると捉えることもでき、その場合には、シャフト22は、操作部材と、ばね反力機構24および反力モータ30とを連結する連結部材として捉えることができる。
3. 電子制御ユニット.
本ステアリングシステムは、自身が備えるステアリング電子制御ユニット200(ステアリングECU、以下、単に「ECU200」という場合がある)によって制御される。ECU200は、コンピュータを主体として、各種モータ,各種機構等を駆動する駆動回路等を含んで構成されている。ECU200には、操作位置センサ32,転舵位置センサ88,車速度センサ202等の各種センサが接続されている。また、ECU200には、駆動回路270(図4参照)を介して、反力モータ30、転舵モータ76、電磁クラッチ44,ばね反力有無切換機構26,エンドストッパ機構140等が接続されている。ECU200のコンピュータの記憶部には、車輪転舵制御プログラム,反力制御プログラム,ばね機構関連状態切換プログラム(以後、「関連状態切換プログラム」と称する場合がある)等の種々のプログラムおよびデータ等が記憶されている。車輪転舵制御プログラムは、操舵操作に応じた車輪16の転舵を行うプログラムである。また、反力制御プログラムは、反力モータ30の制御を行うとともに、設定された条件下でばね反力機構24の関連状態の切換要求を行うことにより、モータ反力およびばね反力の大きさを調節するプログラムである。さらに、関連状態切換プログラムは、反力制御プログラムの切換要求に応じて、ばね反力有無切換機構26を制御することにより、適切な連係が生じるようにばね反力機構24の関連状態の切り換えを行うプログラムである。
4. 車輪転舵制御および反力制御.
ECU200は、車輪転舵制御プログラムを実行することにより、操舵操作に応じた車輪16の転舵を行う。具体的には、車輪転舵制御プログラムは、操作位置センサ32の検出信号に基づいて取得された操作位置から目標転舵位置を決定する。そして、転舵位置センサ88の検出信号に基づいて取得された実転舵位置と、目標転舵位置との偏差を減少させるように駆動回路270を介して転舵モータ76に電力を供給し、車輪16の転舵を行う。なお、通常時は、電磁クラッチ44に励磁電力を供給して、操作部10と転舵部12とが非連結状態になるように制御している。
また、ECU200は、反力制御プログラムを実行することにより、ばね反力の有無に拘わらずステアリングホイール14に適切な大きさの反力が付与されるように駆動回路270を介して反力モータ30を制御する。基本的には、反力制御プログラムは、操舵位置,操舵速度,車速度等に応じて予め設定された目標反力を記憶部から読み出して取得し、ステアリングホイール14に目標反力が付与されるように反力モータ30を制御する。しかしながら、ばね反力の有無によって、反力モータ30によって発生させるべきモータ反力の大きさが異なる。そのため、反力制御プログラムは、モータ反力とばね反力との合計が目標反力となるように反力モータ30を制御するのである。すなわち、反力制御プログラムは、連係状態において、つまり、ばね反力が付与されている場合には、モータ反力の大きさを、目標反力からばね反力の大きさを引いた大きさにする制御である第1制御を行い、一方、非連係状態において、つまり、ばね反力が付与されていない場合には、モータ反力の大きさを、目標反力と等しい大きさにする制御である第2制御を行うのである。
なお、本実施例において、ばね反力の大きさは検出されておらず、ばね反力の大きさが操舵位置に応じて推定される。具体的には、操舵位置と弾性体の変形量との関係に基づいて推定されたばね反力推定値が、ECU200の記憶部に記憶されており、操舵位置に応じたばね反力推定値が読み出され、そのばね反力推定値がばね反力の大きさとして取得されるのである。
反力制御プログラムは、また、必要に応じてステアリングホイール14に付与するばね反力の有無を切り換える要求である切換要求を行うとともに、ばね反力の有無の切り換えが完了した際に、制御の態様を第1制御と第2制御との間で変更する。例えば、本実施例において、車両の動力停止時には、ばね反力有無切換機構26が非作動状態となり、ばね反力機構24は非連係状態にされている。そのため、車両の動力起動後に、ばね反力有無切換機構26を作動状態にして、ばね反力機構24を連係状態にする必要がある。そういった場合に、反力制御プログラムは、ばね反力機構24を連係状態にすることを要求する切換要求である「接続要求」を行うのである。また、逆に、ばね反力が付与されないようにする場合には、ばね反力機構24を非連係状態にすることを要求する切換要求である「切離し要求」を行う。具体的には、反力制御プログラムが、「接続要求」を示す接続要求フラグ、あるいは「切離し要求」を示す切離し要求フラグをON・OFFし、それらのフラグの状態に応じて後述する関連状態切換プログラムが切り換えを行うのである。なお、接続要求フラグ、切離し要求フラグは、切換えが完了するまでON状態のままにされる。
ところで、本実施例において、何らかの異常によって車両を起動しても転舵装置60,ばね反力有無切換機構26等を電気的に制御できない場合に備えて、動力停止状態のままで操作力によって車輪を転舵することができるようにされている。具体的には、車両の動力停止時には、電磁クラッチ44が消磁状態とされ、ステアリングホイール14と転舵装置60とが機械的に連結されている。また、ステアリングホイール14と転舵装置60とが機械的に連結された状態において、ばね反力が付与されないように、また、操作範囲が制限されないようにするため、車両の動力停止時に、ばね反力機構24が非連係状態にされ、エンドストッパ機構142が範囲制限解除状態にされている。そのため、車両が正常である場合には、車両の起動後に、ステアリングホイール14と転舵装置60とが非連結状態にされるとともに、ばね反力機構24が連係状態にされ、エンドストッパ機構142が操作範囲制限状態にされる。
ところが、車両の動力起動時において、ステアリングホイール14の操作位置と転舵装置60の転舵位置とは適切に対応した状態にされているが、ステアリングホイール14がどのような操作位置に位置しているかは車両の動力停止時の操作位置に依拠しており、定まっていない。一方、ばね反力機構24は、非連係状態において弾性力が発生しない状態となっており、もし、ステアリングホイール14が左右いずれかに操作された状態のままでばね反力機構24が連係状態にされると、ステアリングホイール14とばね反力機構24とが適切に連係されず、連係状態にされた際にステアリングホイール14が位置していた操作位置において弾性反力が付与されず、ステアリングホイール14が車両を直進させる操作位置に位置した際にばね反力が付与されるといった状態となり、操作感が悪化する虞がある。以上のことから、本実施例において、車両の動力起動直後には、後に詳述する関連状態切換プログラムの制御によって、操舵位置が適切な位置となる状態においてばね反力機構24を連係状態に切り換えることにより、ステアリングホイール14とばね反力機構24とを適切に連係させることが必要なのである。なお、ばね反力機構24が非連係状態にされている際には、上述の第2制御が行われ、反力モータ30によってステアリングホイール14に目標反力が付与されるように制御される。
5. 関連状態の切り換え.
関連状態切換プログラムは、反力制御プログラムからの切り換え要求に応じてばね反力機構24の関連状態を連係状態と非連係状態との間で切り換える。図3に、関連状態切換プログラムのフローチャートを示し、そのフローチャートに沿って関連状態切換プログラムについて詳細に説明する。なお、関連状態切換プログラムは、短時間毎に繰り返し実行される。また、非連係状態から連係状態への切り換えを「ばね反力機構24の接続」、連係状態から非連係状態への切り換えを「ばね反力機構24の切離し」と表現する場合がある。
関連状態切換プログラムが行う処理について概説すると、「接続要求」を受けた場合には、操舵位置が、前記設定操舵位置としての直進操舵位置に設定時間保たれた場合にばね反力機構24の接続を開始する。また、接続を開始してからばね反力機構24の回転が強固に禁止されるまでに、すなわち、接続が完了するまでに、操舵操作がなされた場合には、適切に連係されなかったと判断して一旦非連係状態に戻し、再度設定時間直進操舵位置が保たれた場合にばね反力機構24を接続するといった処理を行う。一方、「切離し要求」を受けた場合には、ばね反力機構24を切り離す処理を行う。
ステップ1(以後、ステップ1を「S1」と略記し、他の符号についても同様とする)において、反力制御プログラムによって「接続要求」がなされたか否かが判断される。すなわち、接続要求フラグがON状態であれば、接続要求がなされていると判定し、OFF状態であれば接続要求がなされていないと判定する。「接続要求」がなされた場合には、S2〜S15においてばね反力機構24を接続する処理が行われる。まず、S2において操舵位置が取得される。本実施例において、操舵位置は転舵位置に基づいて取得される。通常、操舵操作によって操作位置が変化するのに伴い転舵位置が変化させられており、それらが合致するまでに多少のタイムラグが生じるが、たとえ走行状態であっても直進状態がある程度継続すれば、そのようなタイムラグを考慮する必要性が低くなる。また、車両が停車した状態であれば、なおのことタイムラグを考慮する必要性が低くなる。そのことから、操舵位置は、操作位置と転舵位置との少なくとも一方に基づいて取得することができる。なお、転舵位置に基づいて操舵位置を取得することにより、本実施例のように、ステアリングホイール14の絶対的な操作位置を検出することが可能なセンサが設けられておらず、操作位置に基づいて車両の動力起動時にステアリングホイール14の直進操作位置が認識できない場合、例えば、ステアリングホイール14の操作位置の変化、つまり相対的な相対位置を検出するセンサしか設けられていない場合であっても、直進操舵位置を認識することができるのである。
S3〜S5において、直進操舵位置が保たれた状態が認識される。具体的には、操舵位置が、車両を直進させる位置である直進操舵位置および直進操舵位置から左右方向に設定された狭い範囲の操舵位置である直進操舵位置範囲(例えば、ステアリングホイール14の回転角度で表せば、±2°程度の範囲)内に位置している場合には、本プログラムが実行される度にカウンタCが1ずつ加算される(S4)。逆に、上記直進操舵位置範囲内に位置していない場合には、カウンタCが0にされる(S5)。すなわち、ステアリングホイール14の操舵位置が直進操舵位置に保たれていれば、時間とともにカウンタCが連続的に増加するようにされているのである。
本実施例では、S6〜S10において、直進操舵位置が予め設定された時間である「しきい直進継続時間」保たれた場合に、直進維持状態であると認識され、ばね機構接続指令がなされる。具体的には、S6において、カウンタCが設定値N以下である場合に、直進操舵位置が「しきい直進継続時間」保たれていないと判定される。それは、カウンタCが、設定値Nを超えた場合に、つまり、本プログラムがN回実行されるのに要した時間がしきい直進継続時間を超えるように設定値Nが設定されているからである。カウンタCが設定値N以下である場合は、S7の処理が実行されて、フラグFがON状態であるか否かが判定される。そのS7において、後述するように、ばね反力機構24の接続が開始されていない状態ではフラグFはOFF状態であるため、判定がNOとなり、本プログラムの1回の実行が終了する。一方、カウンタCが設定値Nを超えた場合に、つまり、本プログラムがN回実行されるのに要した時間直進操舵位置が継続していた場合に、直進操舵位置が「しきい直進継続時間」保たれたと判定され、すなわち直進維持状態であると判定される(S6)。そして、S8ではS7と同様にばね反力機構24の接続が開始されていない状態ではフラグFはOFF状態であるため、判定がNOとされ、S9において、駆動回路に接続指令がなされてばね反力有無切換機構26の電磁アクチュエータ112に励磁電力が供給された後に、S10において、ばね反力機構24の接続が開始され、かつ、未完了の状態であることを示すフラグFがON状態にされる。
ところで、ばね反力有無切換機構26によるばね反力機構24の回転の禁止、すなわちばね反力機構24の接続は比較的短時間で完了するが、万が一、ばね反力機構24の接続が完了するまでに操舵操作がなされると、ステアリングホイール14とばね反力機構24とが適切に接続されない虞がある。すなわち、操舵位置が直進操舵位置に位置した状態と、ばね反力機構24のばね反力が付与されない状態とが合致しない状態でステアリングホイール14とばね反力機構24とが連係する虞があるのである。
以上のような理由から、S11〜S13において、ばね反力機構24の接続が完了するまで、直進操舵位置が保たれているか否かが監視され、直進操舵位置が保たれていた場合に切換が完了したことを反力制御プログラムに通知するようにされている。具体的には、S11において、カウンタCが、設定値M(M>N)以下であると判定された場合には、本プログラムの1回の実行が終了する。一方、S11において、カウンタCが、設定値M(M>N)を超えたと判定された際に、つまり、接続指令を行ってから、本プログラムが(M−N)回実行されるのに要した時間、すなわち、予め設定された接続が完了するまでの時間である接続完了時間の間、直進操舵位置が継続していた場合に、反力機構24の接続が正常に完了したと判定されて、反力制御プログラムに対して切換完了の通知,および反力制御変更要求がなされ(S12)、切換が未完了であることを示すフラグFがOFFにされる(S13)。
一方、接続が未完了の状態で操舵操作がなされて直進操舵位置でなくなった場合には、S6,S7,S14,S15において、ばね反力機構24の接続を一旦中止してばね反力機構24を切り離す処理が行われる。具体的には、操舵操作がなされると操舵位置が直進操舵位置から外れて、S3,S5においてカウンタCが0にされるため、S6においてカウンタCが設定値N以下と判定される。その後S7において、フラグFがON状態であるか否かが判定されるが、カウンタCが設定値Nを超えた際にS10においてフラグFがON状態にされているため、判定がYESとなり、S14において切離し指令がなされてばね反力有無切換機構26が非作動状態とされ、ばね反力機構24が切り離される。そして、ばね反力機構24の接続の中止に伴い、フラグFがOFFにされる(S15)。
ばね反力機構24の接続が中止された後には、再度直進維持状態が認識された際にばね機構接続指令がなされ、切換が完了するまで上述した処理が繰り返される。
次に、関連状態切換プログラムが、反力制御プログラムによってなされた「切離し要求」を受けた場合の処理について説明する。S16において、反力制御プログラムの切離し要求フラグがON状態の場合に、「切離し要求」がなされていると判定される。なお、「切離し要求」がなされていない場合は、本プログラムの1回の実行が終了する。「切離し要求」がなされたと判定されると、S17において、ばね反力機構24の切離し指令が駆動回路になされ、ばね反力有無切換機構26の電磁アクチュエータ112への電力の供給が停止し、ばね反力機構24が非連係状態にされる。その後、反力制御プログラムに切換完了通知,および反力制御変更要求がなされ(S12)、切換が未完了であることを示すフラグFがOFFにされる(S13)。
以上に述べた関連状態切換プログラムによるステアリングホイール14とばね反力機構24との関連状態の切り換えは様々な状況で実行することが可能である。また、関連状態切換プログラムは、「接続要求」を受けてから、最初に直進維持状態が認識された際に切換えが行われるようにされている。そのため、車両の起動後に関連状態の切り換えが行われる際には、車両の起動後で最初に直進維持状態が認識された際に切換えが行われる態様の実施例となるのである。
なお、上述のように、関連状態切換プログラムによって切換完了通知および反力制御変更要求が行われた際には、反力制御プログラムは、切換完了通知を受けて接続要求,あるいは切離し要求を解除するとともに、反力制御変更要求をトリガーとして、ばね反力の有無に応じて反力モータ30の制御の態様を変更する。具体的には、接続が完了した場合には、接続要求を解除するとともに、反力モータ30の制御を第2制御から第1制御へと変更することにより、モータ反力とばね反力とを合わせた反力が目標反力になるようにする。一方、切離しが完了した場合には、切離し要求を解除するとともに、反力制御変更要求を受けて、反力モータ30の制御を第1制御から第2制御へと変更することにより、モータ反力の大きさが目標反力と等しい大きさになるようにする。
また、反力制御変更要求をトリガーとして反力モータ30の制御を変更することによって、ばね反力機構24の関連状態が切り換えられたタイミングに合わせて、適切なタイミングで反力モータ30の制御を変更することができる。例えば、「接続要求」を行ったとしてもすぐに関連状態が切り換えられるとは限らないため、制御を変更するタイミングが早いとステアリングホイール14に目標反力よりも大きな反力が付与されてしまうが、反力制御変更要求を受けることによって切り換えられたタイミングを認識することができ、適切なタイミングで反力モータ30の制御を変更することができるのである。すなわち、反力制御プログラムは、関連状態切換プログラムに対して切換要求を行うとともに、切り換えが完了した際に関連状態切換プログラムによってなされる制御変更要求をトリガーとすることにより、上記第1制御と第2制御とを適切なタイミングで切り換えて、弾性反力の有無に拘わらずステアリングホイール14に目標反力を付与するのである。なお、本実施例において、例えば、反力制御プログラムは、車両の動力起動後に、操作部10と転舵部12との連結が解除されるのに伴って、ばね反力機構24の接続要求を行い、また、車両の動力停止時に、操作部10と転舵部12とが連結されるのに伴って、ばね反力機構24の切離し要求を行う。
6. ECUの機能ブロック図.
図4に、ECU200の機能ブロック図を示す。なお、ECU200の構成部分がこの図に示すように明確に分かれているわけではないが、ECU200の機能の理解を容易にするためにこのような図とした。本実施例において、ECU200は、転舵装置制御部250,モータ反力制御部252,操作伝達切換制御部254,関連状態切換制御部256,操作範囲制限制御部258,および駆動回路270を備えている。転舵装置制御部250は、駆動回路270を介して転舵モータに電力を供給して車輪16を転舵するものであり、ECU200の車輪転舵制御プログラムを実行する部分を含んで構成されている。モータ反力制御部252は、駆動回路270を介して反力モータ30に電力を供給してモータ反力の大きさを変化させるものであり、ECU200の反力制御プログラムを実行する部分を含んで構成されている。操作伝達切換制御部254は、駆動回路270を介して電磁クラッチ44への電力の供給をON・OFFすることにより、操舵操作の伝達の有無の切換を行う機能を有している。関連状態切換制御部256は、駆動回路270を介してばね反力有無切換機構26の電磁アクチュエータ112への電力の供給をON・OFFすることにより、ばね反力機構24を連係状態と非連係状態との間で切り換える機能を有しており、ECU200の関連状態切換プログラムを実行する部分を含んで構成されている。なお、関連状態切換制御部256は、「操舵位置が弾性体の設定変形量に対応して設定された設定操舵位置となる場合に行われるように、関連状態切換機構たるばね反力有無切換機構26を制御する制御装置」として機能している。また、関連状態切換制御部256は、直進状態認識部272を備えている。その直進状態認識部272は、車両が直進維持状態であることを認識する機能を有しており、ECU200の関連状態切換プログラムのS3〜S6を実行する部分を含んで構成されている。操作範囲制限制御部258は、駆動回路270を介してエンドストッパ機構140の電磁アクチュエータ172への電力の供給をON・OFFすることにより、ステアリングホイール14の操作範囲を制限するか否かを切り換える機能を有している。
請求可能発明の実施例であるステアリングシステムの概略を示す図である。
上記ステアリングシステムの操作装置を側方から見た断面図である。
上記ステアリングシステムのECUによって実行されるばね機構関連状態切換プログラムのフローチャートを示す図である。
上記ステアリングシステムのECUの機能を模式的に示すブロック図である。
符号の説明
10:操作部 12:転舵部 14:ステアリングホイール 16:転舵車輪 18:連結部 20:ステアリング操作装置 22:シャフト 24:ばね反力機構(弾性反力付与機構) 26:ばね反力有無切換機構(関連状態切換機構) 30:反力モータ 32:操作位置センサ 44:電磁クラッチ(操舵操作伝達切換機構) 60:転舵装置 76:転舵モータ 88:転舵位置センサ 112:電磁アクチュエータ 120:ばね機構ハウジング 122:スライド部材(変位体) 124:圧縮コイルスプリング(弾性体) 140:エンドストッパ機構 161:係止機構 200:ステアリング電子制御ユニット[ECU] 252:モータ反力制御部 254:操作伝達切換制御部 256:関連状態切換制御部(制御装置) 272:直進状態認識部