以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項に「ステアリングシステムが操作部材と転舵装置との機械的な連結の有無を切り換え可能に構成され、切換装置作動制御部がそれらの機械的な連結の有無によって規制状態切換装置の作動を制御する」という技術的特徴と、「操舵操作規制装置が弾性反力付与機構と操作範囲制限機構との少なくとも一方を有する」という技術的特徴と、「切換装置作動制御部によって実現されるべき規制状態と、規制状態判定部によって判定された実際の規制状態とが一致するか否かを判定する」という技術的特徴とを付加したものが請求項1に相当し、請求項1に(2)項ないし(4)項の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項2に(5)項および(6)項の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項2に(7)項および(8)項の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1に(2)項、(3)項および(9)項の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(2)項,(3)項および(10)項の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項6に(11)項の技術的特徴を付加したものが請求項7に、請求項6または請求項7に(12)項の技術的特徴を付加したものが請求項8に、請求項1ないし請求項8のいずれか1つに(13)項の技術的特徴を付加したものが請求項9に、請求項9に(14)項の技術的特徴を付加したものが請求項10に、請求項1ないし請求項10のいずれか1つに「規制装置作動確認部によって操舵操作規制装置の作動が異常であると判定された場合にその異常を運転者に報知する」という技術的特徴を付加したものが請求項11に、それぞれ相当する。
(1)操舵操作がなされる操作部材と、その操作部材と機械的に分離した状態での操舵操作に応じた車輪の転舵が可能な転舵装置とを備えたステアリングシステムであって、
操舵操作を規制する操舵操作規制装置であって、自身の作動によって規制状態を規制がなされる規制実行状態と規制がなされない規制解除状態との間で切り換える規制状態切換装置を有する操舵操作規制装置と、
当該ステアリングシステムを制御する制御装置であって、前記規制状態切換装置の作動を制御する切換装置作動制御部と、前記操舵操作規制装置による規制状態を判定する規制状態判定部とを有する制御装置と
を備えたことを特徴とするステアリングシステム。
本項に記載のステアリングシステムは、いわゆるステアバイワイヤ式のステアリングシステムであり、操舵操作に応じて転舵装置を電気的に制御し、その転舵装置の駆動力によって車輪を転舵するものである。したがって、操作部材と転舵装置とが機械的に分離されており、操作部材は転舵装置からの規制を受けない。そのため、本項のシステムでは、上記操舵操作規制装置によって操舵操作を規制することにより、例えば、操舵操作に対する手応えを生じさせて、操作感を向上させている。操舵操作の規制は、例えば、操作位置,操作速度等に応じてその操作の向きと逆向きの力、つまり操作反力を付与することや、操作部材を操作可能な範囲である操作範囲を制限すること等によって行うことができる。また、操舵操作規制装置は、規制状態切換装置を備えており、規制を行うか否かを切り換えることができる。そのため、システムの異常時等、必要に応じて、操舵操作の規制状態を切り換えて、その状況に適切な規制状態を実現することにより、操作感を向上させることができるのである。
さらに、本項のステアリングシステムは、規制状態を判定する規制状態判定部を有する制御装置を備えており、規制状態切換装置による規制状態の切換が正常になされなかった場合であっても、その規制状態判定部によって操舵操作規制装置の実際の規制状態を認識することができるため、ステアリングシステムのフェールセーフ性を向上させることができる。具体的には、例えば、規制状態判定部の判定結果に基づいて、操舵操作規制装置の異常等を検知すること等が可能である。なお、規制状態判定部は、例えば、操舵操作等によって操作部材の操作位置を変化させる力、言い換えれば操作部材を変位させる力が加えられた場合に、実際に操作部材の変位が規制されたか否かを判定することによって規制状態を判定する態様とすることができる。
操舵操作規制装置は、特に限定されないが、例えば、弾性反力付与機構,粘性反力付与機構,操作範囲制限機構等を備えるものとすることができる。粘性反力付与機構は、流体の粘性抵抗によって反力を操作部材に付与するものである。弾性反力付与機構,操作範囲制限機構については後に詳述する。規制状態切換装置は、例えば、操作部材と操舵操作規制装置との間の機械的な連結の有無を切り換えるものや、操舵操作によって操作部材の操作位置が設定された位置まで変化した際に、それ以上の操作位置の変化を禁止するか否かを切り換えるものとすることができる。
本項に記載のステアリングシステムは、例えば、操作部材になされた操舵操作の前記転舵装置への機械的な伝達の有無を切り換える操舵操作伝達切換機構を備える態様のものとすることができる。また、転舵装置の態様は、例えば、車輪を転舵する動力源を備えた態様とすることができる。なお、本項に記載の操作部材は、例えば、操舵操作によって一体的に変位させられる部分とすることができ、具体的には、例えば、ステアリングホイールとステアリングシャフトとによって構成することができる。
(2)前記操舵操作規制装置が、規制実行状態において前記操作部材にそれの操作位置に応じた大きさの弾性反力を操作反力として付与するとともに、規制解除状態において前記操作部材に弾性反力を付与しない構造とされた弾性反力付与機構を有し、
前記規制状態切換装置が、前記弾性反力付与機構による規制状態を切り換える弾性反力付与切換機構を有する(1)項に記載のステアリングシステム。
本項に記載の弾性反力付与機構は、例えば、弾性体を備えるものとすることができ、操舵操作に応じて弾性体が変形することにより発生した弾性力によって操作部材に弾性反力を付与するように構成することができる。また、本項に記載の弾性反力付与機構は、例えば、規制実行状態において、操作部材が中立位置に位置している状態でその操作部材に弾性反力が付与されず、一方、操作部材が中立位置以外の操作位置であって車両を旋回させる操作位置である旋回操作位置に位置している状態で操作部材の操作位置を中立位置に近づける向きの弾性反力が付与される態様とすることができる。しかし、例えば、転舵装置の駆動力無しに操作力によって車輪を転舵する場合には、操舵操作をできるだけ軽くするために弾性反力が付与されないことが望ましく、規制解除状態にされることが望ましい。すなわち、本項に記載のステアリングシステムは、状況に応じて弾性反力付与機構による規制状態を切り換えることにより、操作性を向上させることができる。
本項に記載の弾性反力付与機構の態様は、特に限定されないが、例えば、操舵操作に応じて弾性体としてのスプリングを伸縮させることにより,あるいは捩ることにより弾性力を発生させるといった態様とすることができる。弾性体は、例えば、ばね材,ゴム材,気体等によって構成することができる。本項に記載の弾性反力付与切換機構の態様は、特に限定されないが、例えば、弾性体を備え、操作部材と弾性体との直接的・間接的な係合の有無を切り換える態様、あるいは弾性体とそれを支持する車体との直接的・間接的な係合の有無を切り換える態様等とすることができ、それらの態様を採用することによって操舵操作が弾性体を変形させるように作用するか否かを切り換えることで規制状態を切り換えることができる。具体的には、例えば、操作部材が回転操作された場合に、一端部が操作部材に連結され、他端部が車体に固定された「ばね」が捩られるといった構成の弾性反力付与機構において、「ばね」の一端部と操作部材との連結の有無を切り換える態様、あるいは「ばね」の他端部の固定の有無を切り換えることによって、操舵操作に応じて「ばね」が捩られるか否かを切り換えて規制状態を切り換える態様とすることができる。
弾性反力規制状態判定部により、弾性反力付与機構による実際の規制状態を知ることができる。そのため、例えば、弾性反力規制状態判定部の判定結果に基づいて、弾性反力付与機構や弾性反力有無切換機構が正常に作動しているか否か等を調べることができる。
本項に記載の態様は、例えば、操舵操作がなされない状況下で規制状態を判定するのに好適な態様である。規制解除状態では、操作部材の操作位置がどのような位置であっても弾性反力は付与されないが、規制実行状態では、操作部材の操作位置に応じた弾性反力が付与される。そのため、例えば、モータ反力付与機構によって弾性反力が作用する向きと逆向きに操作部材を変位させる場合、あるいは、規制実行状態において弾性反力が付与される操作位置に操作部材を保持する場合には、規制実行状態においてモータ反力付与機構によって操作部材に付与すべき力の大きさが、規制解除状態において付与すべき力の大きさよりも弾性反力の分だけ大きくなる。逆に、弾性反力が作用する向きと同じ向きに操作部材を変位させる場合には、規制実行状態においてモータ反力付与機構によって操作部材に付与すべき力の大きさが、規制解除状態において付与すべき力の大きさよりも、弾性反力の影響で小さくなる。すなわち、操作部材の操作位置とモータ反力付与機構によって操作部材に付与される力の大きさとから、弾性反力が操作部材に付与されているか否かが判断できるのである。弾性反力が付与されている場合は規制実行状態と判定され、弾性反力が付与されていない場合は規制解除状態と判定される。
(5)前記モータ駆動力依拠判定部が、操舵操作がなされない状態において、前記モータ反力付与機構を作動させて前記操作部材の操作位置を設定操作位置を超えて変化させた際に、前記モータ反力付与機構によって前記操作部材に付与された力の大きさが、設定された大きさを超えたか否かに基づいて前記弾性反力付与機構による規制状態を判定するように構成された(4)項に記載のステアリングシステム。
本項に記載の態様は、例えば、メンテナンス時,走行開始前等に規制状態を判定する態様である。本項に記載の弾性反力付与機構は、例えば、操作部材の操作位置が中立位置から遠ざかるに従い、操作部材に付与される弾性反力が増加する態様とすることができる。その態様において、操作位置が比較的中立位置に近い場合は、操作部材に付与される弾性反力は小さく、操作位置が比較的中立位置から遠い場合には操作部材に付与される弾性反力が大きくなる。すなわち、設定操作位置を、弾性反力の有無が容易に判断できる程度の大きさの弾性反力を規制実行状態において発生し得る操作位置とすれば、より確実に規制状態を判定することができるのである。
(6)前記モータ駆動力依拠判定部が、前記操作部材に付与された力の大きさが、前記設定された大きさとしての、規制実行状態において前記操作部材に付与した際にその操作部材の操作位置を前記設定操作位置まで変化させることが可能な力の大きさを、超えたか否かに基づいて前記弾性反力付与機構による規制状態を判定するように構成された(5)項に記載のステアリングシステム。
規制実行状態において、操作部材の操作位置を設定操作位置まで変化させることが可能な力の大きさは、例えば、測定等によって予め知ることができる。規制解除状態においては弾性反力が付与されないため、その大きさの力によって、操作位置を設定操作位置を超えて変化させることが可能である。一方、規制実行状態においては弾性反力が付与されるため、モータ反力付与機構によって操作部材に付与された力の大きさが、上記力の大きさを超えないと設定操作位置を超えて変化させることができない。そのことから、モータ反力付与機構によって操作部材に付与された力の大きさが、上記力の大きさを超えたか否かによって弾性反力の有無を判断することができ、弾性反力付与機構による規制状態を判定することができる。なお、操作部材の操作位置は、設定操作位置を設定量(詳しくは、設定された操作位置変化量)超えて変化させることが望ましい。それは、規制実行状態であれば、設定操作位置を超える量が大きいほど操作部材に付与される弾性反力が大きくなることによって、モータ反力付与機構によって操作部材に付与される力の大きさと上記設定された大きさとの差が大きくなるため、判定が容易になるからである。
(7)前記モータ駆動力依拠判定部が、操舵操作がなされない状態において、前記モータ反力付与機構を作動させて前記操作部材に設定された大きさの力を付与し、その力の付与の下で前記操作部材の操作位置が設定操作位置を超えて変化するか否かに基づいて前記弾性反力付与機構による規制状態を判定するように構成された(4)項に記載のステアリングシステム。
(8)前記モータ駆動力依拠判定部が、前記設定された大きさの力として、規制解除状態において前記操作部材の操作位置を変化させることが可能な大きさで、かつ、規制実行状態において前記操作部材に付与した際にその操作部材の操作位置が前記設定操作位置まで変化させることができない大きさの力を、前記モータ反力付与機構によって前記操作部材に付与するように構成された(7)項に記載のステアリングシステム。
上記2つの項について説明する。上記(7)項に記載の態様は、例えば、メンテナンス時,走行開始前等に規制状態を判定するといった態様である。上記2つの項に記載の弾性反力付与機構は、例えば、操作部材の操作位置が中立位置から遠ざかるに従い、操作部材に付与される弾性反力が増加する態様とすることができる。その態様において、操作位置が比較的中立位置に近い場合は、操作部材に付与される弾性反力は小さく、操作位置が比較的中立位置から遠い場合には操作部材に付与される弾性反力が大きくなる。そのような態様において、例えば、(8)項に記載の大きさの力を操作部材に付与すれば、規制解除状態であれば操作部材は止まることなく変位可能であるが、規制実行状態であれば弾性反力が作用するため操作部材の変位は設定操作位置の手前で制止され、操作部材の操作位置を設定操作位置を超えて変化させることができない。そのような現象に基づけば、比較的容易に弾性反力付与機構による規制状態を判定することができる。
設定操作位置を、例えば、操作部材の操作位置を変化させ得る大きさの弾性反力が付与される操作位置とすれば、操作部材がその設定操作位置に位置した際にモータ反力付与機構による力の付与を停止すれば、規制実行状態において操作部材は弾性反力によって変化前の操作位置に変位させられるが、規制解除状態では変位させられない。本項の態様は、そのことを利用するものであり、容易に弾性反力付与機構による規制状態を判定することができる。
(10)当該ステアリングシステムが、モータを有してそのモータの駆動力によるモータ反力を前記操作部材に操作反力を付与するモータ反力付与機構を備え、前記制御装置が、操舵操作に応じた大きさのモータ反力を付与させるべく前記モータ反力付与機構を制御するモータ反力制御部を有し、
前記弾性反力規制状態判定部が、設定された操舵操作の状態において、実際に前記操作部材に付与されている操作反力の大きさとモータ反力の大きさとに基づいて、前記弾性反力付与機構による規制状態を判定する操作反力依拠判定部を有する(3)項ないし(9)項のいずれかに記載のステアリングシステム。
例えば、操作反力として弾性反力とモータ反力とが操作部材に付与されている場合には、規制実行状態において「操作反力の大きさ」が「弾性反力の大きさとモータ反力の大きさとの和」になる。一方、規制解除状態において、「操作反力の大きさ」が「モータ反力の大きさ」と等しくなる。すなわち、操作反力の大きさと、モータ反力の大きさとを比較することにより規制状態を判定することができるのである。具体的には、例えば、「操作反力の大きさ」と「モータ反力の大きさ」との差が、設定値以内であれば規制解除状態であると判定することができる。なお、モータ反力の大きさは、例えば、反力モータに供給されている電力の電流値に基づいて取得することができる。また、操作反力の大きさは、例えば、操作部材,あるいは操作部材と弾性反力付与装置等とを連結する部分の変形量(例えば、トルク等)を検出することにより取得することができる。
(11)前記操作反力依拠判定部が、判定時において実際に付与されている操作反力とモータ反力との差と、規制実行状態において前記操作部材が判定時における前記操作部材の操作位置に位置した場合に付与される弾性反力とを比較して、前記弾性反力付与機構による規制状態を判定するように構成された(10)項に記載のステアリングシステム。
本項に記載の態様は、「操作反力の大きさ」および「モータ反力の大きさ」に加え、「弾性反力の大きさ」も利用して規制状態を判定するものである。すなわち、操作反力の大きさが、弾性反力の大きさとモータ反力の大きさとの和になっているか否かによって規制状態を判定することができる。具体的には、例えば、「操作反力の大きさ」と「弾性反力の大きさとモータ反力の大きさとの和」との差が、設定値以内であれば規制実行状態であると判定することができる。なお、操作部材に付与される弾性反力の大きさは、例えば、操作位置と弾性反力の大きさとの関係を予め調べておき、制御装置の記憶部に記録しておくこと等により、規制実行状態であれば付与されるであろう弾性反力の大きさを操作位置に応じて取得することができる。
(12)前記操作反力依拠判定部が、中立位置以外の操作位置に前記操作部材が保持された操作状態と、操作位置が中立位置から遠ざかる向きに変化する操作状態との少なくとも一方の操作状態において、前記弾性反力付与機構による規制状態を判定するように構成された(10)項または(11)項に記載のステアリングシステム。
中立位置以外の操作位置に前記操作部材が保持された操作状態や、操作位置が中立位置から遠ざかる向きに変化する操作状態では、例えば、トルク等を測定し易いため、すなわち、操作反力を取得し易いため、規制状態の判定が容易になる。
(13)前記操舵操作規制装置が、規制実行状態において前記操作部材の操作位置を設定範囲に制限するとともに、規制解除状態において前記操作部材の操作位置が前記設定範囲を超えることを許容する操作範囲制限機構を有し、
前記規制状態切換装置が、前記操作範囲制限機構による規制状態を切り換える操作範囲制限切換機構を有し、
かつ、前記規制状態判定部が、前記操作部材の操作位置が前記設定範囲を超えるか否かに基づいて前記操作範囲制限機構による規制状態を判定する操作範囲規制状態判定部を有する(1)項ないし(12)項のいずれかに記載のステアリングシステム。
いわゆるステアバイワイヤ式のステアリングシステムでは、操作部材と転舵装置とが機械的に分離しているため、操作部材の操作位置の変化が規制されない場合が多い。しかし、操作位置が設定された操作位置まで変化すれば、車輪の転舵量が最大になるようにされており、それ以上の操作は意味をなさない場合が多い。また、ステアリングシステムが弾性反力付与機構を備えている場合は、その弾性反力付与機構によって操作範囲が制限される場合がある。しかしながら、操舵操作を制限することによって弾性反力付与機構にダメージが発生しないようにすることが望ましい。そのような理由から、操作範囲制限機構によって、操作範囲を制限することが望ましいのである。
本項に記載の操作範囲制限機構は、設定範囲内における操作部材の操作位置の変化を許容する一方、操作位置が設定範囲を超えることを禁止するものである。その操作範囲制限機構の態様は、特に制限されないが、例えば、操作部材が回転操作される場合には、操作部材の設定角度を超える回転を禁止する機構とすることができる。その回転を禁止する機構は、例えば、操作部材が設定角度まで回転した際に、操作部材の一部分と係合することによって操作部材の回転を止める機構、すなわち、操作部材のストッパとして機能する機構を採用することができる。その場合には、本項の操作範囲制限切換機構を、例えば、ストッパを移動させて操作部材の一部分と係合するか否かを変更する機構として、操作部材の設定角度を超える回転を禁止するか否かを切り換える態様のものとすることができる。
本項に記載の態様は、例えば、操舵操作がなされない状態、具体的には、例えば、メンテナンス時,走行開始前等に規制状態を判定する場合に好適な態様である。本項に記載の態様は、例えば、モータ反力付与機構の駆動力によって操作部材の操作位置を変化させることにより、操作部材の操作位置が実際に設定範囲を超えるか否かを確かめることで、規制状態を判定するといった態様が相当する。
(15)当該ステアリングシステムが、モータを有してそのモータの駆動力によるモータ反力を前記操作部材に操作反力を付与するモータ反力付与機構を備え、前記制御装置が、前記操作部材の操作位置が前記設定範囲外まで変化することを抑制するためのモータ反力を付与することによって操作範囲を制限するモータ範囲制限を行うように前記モータ反力付与機構を制御するモータ範囲制限制御部を有し、
前記操作範囲規制状態判定部が、前記モータ範囲制限制御部による前記モータ範囲制限が行われない場合に、判定を行うように構成された(13)項または(14)項に記載のステアリングシステム。
モータ範囲制限は、通常、モータの駆動力によって操作範囲を制限するものである。そのモータ範囲制限により、例えば、操作範囲制限機構による操作範囲の制限がなされる直前に、予備的に操作範囲の制限を行うことができる。また、モータ範囲制限により、例えば、操作範囲制限機構による操作範囲の制限が解除された状態で、設定範囲外において操作範囲の制限を行うこともできる。本項に記載のモータ範囲制限制御部は、操作範囲制限機構による操作範囲の制限がなされる前に予備的にモータ範囲制限が行われるように制御するものである。しかし、規制状態を判定する際には、操作範囲制限機構によって操作範囲が制限される前にモータ範囲制限が行われると、規制解除状態であっても操作位置が設定範囲外の位置まで変化しにくくなる。そのため、操作位置が設定範囲外の位置まで変化し易いように、モータ範囲制限が行われない状態で判定を行うことにより、規制状態の判定を行い易くなるのである。
操作範囲制限機構の規制状態が規制解除状態である場合には、操舵操作は設定範囲に制限されず、不必要な操舵操作がなされる可能性がある。そこで、設定範囲から設定量(詳しくは、設定された操作位置変化量)以上超えた操作位置でモータ範囲制限を行うことにより、不必要な操舵操作を低減させることができる。また、設定範囲内でモータ範囲制限を行う場合に比較して、操作位置が設定範囲外の位置まで変化し易いため、規制状態の判定を行い易くなるのである。
(17)前記制御装置が、前記切換装置作動制御部による制御状態と前記規制状態判定部の判定結果とに基づいて前記操舵操作規制装置の作動の良否を確認する規制装置作動確認部を有する(1)項ないし(16)項のいずれかに記載のステアリングシステム。
本項に記載の態様は、例えば、切換装置作動制御部による制御によって実現されるべき目的の規制状態と、規制状態判定部によって判定された実際の規制状態とが合致するか否かによって、操舵操作規制装置の作動の良否を確認することができる。それら2つの規制状態が合致しない場合は、規制状態切換装置、あるいは操舵操作規制装置の操舵操作を規制する部分(例えば、弾性反力付与機構、操作範囲制限機構等)に異常があると判断することができる。そして、その異常に素早く対処することができ、ステアリングシステムのフェールセーフ性を向上させることができる。
(18)前記規制装置作動確認部が、切換装置作動制御部による制御状態が規制実行状態を実現する制御状態である場合と規制解除状態を実現する制御状態である場合との両方において、前記操舵操作規制装置の作動の良否の確認を行うように構成された(17)項に記載のステアリングシステム。
操舵操作規制装置の作動の良否の確認は、いずれの規制状態であっても行うことができる。しかし、規制実行状態と規制解除状態との一方においてだけ確認するよりも、両方の状態それぞれについて確認した方が、より正確に操舵操作規制装置の作動の良否を確認することができる。
(19)前記規制装置作動確認部が、前記切換装置作動制御部に規制状態の切り換えを要求するとともに、その要求の前後において、前記操舵操作規制装置の作動の良否の確認を行うように構成された(17)項または(18)項に記載のステアリングシステム。
本項に記載の態様は、より積極的に規制実行状態と規制解除状態との両方の規制状態において確認を行う態様である。一方の規制状態において確認を行った直後に、切換要求を行い、他方の規制状態において確認を行うことにより、可及的に短時間の間に両方の規制状態において確認を行うことができる場合がある。
以下、本発明の一実施例およびその変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、決して下記の実施例に限定されるものではなく、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
1. ステアリングシステムの概要.
図1に、請求可能発明の一実施例であるステアリングシステムを概略的に示す。本システムは、操作部10と、転舵部12とが機械的に分離され、ステアリングホイール14に加えられる操作力によらずに、転舵部12に設けられた動力源の動力によって転舵車輪16(以下、単に「車輪16」という場合がある)を転舵するステアリングシステムである。また、本システムは、異常が発生した場合等に必要に応じて、操作部10と、転舵部12とを機械的に連結する連結部18を備えている。そのため、例えば、転舵部12の動力源を使用できない場合等には、連結部18によって操作力を転舵部12に伝達することができる。
操作部10には、ステアリングホイール14と、そのステアリングホイール14を操作可能に支持するステアリング操作装置20(以後、「操作装置」と略記する場合がある)とが設けられている。操作装置20は、後方端部(車両後方側、つまり運転者側の端部)にステアリングホイール14が取り付けられたシャフト22を回転可能に保持している。また、操作装置20は、シャフト22にばね反力を付与することにより操舵操作を規制する「ばね反力規制装置24」を備えている。そのばね反力規制装置24は、後に詳述するが、規制が実行される状態である規制実行状態において操舵操作を規制し、規制が解除された状態である規制解除状態において操舵操作を規制しない構造とされている。さらに、操作装置20は、シャフト22の回転範囲を規制することにより、ステアリングホイール14の操作範囲を規制する「操作範囲規制装置30」を備えている。その操作範囲規制装置30は、後に詳述するが、規制実行状態において操作範囲を規制し、規制解除状態において操作範囲を規制しない構造とされている。さらにまた、操作装置20は、シャフト22にモータ反力を付与する反力モータ36,および,シャフト22の回転位置を検出して操作位置を取得するための操作位置センサ38を備えている。
連結部18は、操作力が入力される入力プーリ40,操作力が出力される出力ローラ42,および,入力プーリ40と出力ローラ42との間の操作力の伝達の有無を切り換え可能にそれらを連結する電磁クラッチ44(操舵操作伝達切換装置の一種である)を備えている。入力プーリ40は、シャフト22の概ね前方端部に相対回転不能に固定された出力プーリ46(図2参照)とベルト50によって接続されており、ステアリングホイール14になされた操舵操作に応じて回転させられるようにされている。電磁クラッチ44は、電力が供給されない消磁状態において入力プーリ40と出力ローラ42とを連結し、すなわち、操舵部10と転舵部12とを連結状態にする一方、励磁状態においてその連結を解除し、すなわち、操舵部10と転舵部12とを非連結状態にするものとなっている。出力ローラ42は、伝達ケーブル52を介して転舵部12の入力ローラ54と接続されており、操作力を転舵部12に出力するようにされている。なお、伝達ケーブル52は、ガイドチューブ56にガイドされており、そのガイドチューブ56の中を滑らかに摺動することができるようにされている。
転舵部12には、車輪16を転舵させる転舵装置60が設けられている。その転舵装置60は、ハウジング62と、そのハウジング62を車幅方向に貫通した状態で支持された転舵ロッド64とを備えている。その転舵ロッド64は両端部の各々において、ボールジョイント66を介してタイロッド70と連結されている。そのタイロッド70は、車輪16を回転可能に保持するステアリングナックル72に固定されたナックルアーム74に連結されている。すなわち、転舵装置60は、転舵ロッド64を左右に駆動することによって、ステアリングナックル72を回転させ、車輪16の転舵を行うのである。
本実施例において、転舵装置60は、転舵モータ76によって転舵ロッド64を駆動する第1駆動部80と、操作力によって転舵ロッド64を駆動する第2駆動部82とを備えている。第2駆動部82は、操舵部10と連結部18を介して連結されたピニオンギヤと、そのピニオンギヤと噛み合うように転舵ロッド64に形成されたラックギヤとを含んで構成されており、ピニオンギヤが回転することによって転舵ロッド64を左右に駆動する。そのピニオンギヤは、入力ローラ54に相対回転不能に接続されており、電磁クラッチ44が消磁状態(連結状態)の際に、操舵操作に応じて回転させられるが、電磁クラッチ44が励磁状態(非連結状態)の際には回転駆動力が作用しない状態にされている。なお、通常時には、電磁クラッチ44が励磁状態とされており、操舵操作は第2駆動部に伝達されない。
なお、転舵装置60には、ピニオンギヤの回転位置を取得するためのセンサが転舵位置センサ88として設けられている。ピニオンギヤは、転舵ロッド64が軸方向に移動するのに伴い回転させられるため、そのピニオンギヤの回転位置を取得すれば転舵ロッド64の移動量、すなわち、車輪16の転舵位置を取得することができるのである。
2. 操作装置の詳細.
図2に、操作装置20を車両の側方から見た断面図を示す。操作装置20は、概して円筒状をなすハウジング100を備えており、そのハウジング100は、車両後方側(図において右側)の第1ハウジング102と車両前方側の第2ハウジング104とが組み付けられて構成されている。第1ハウジング102は、概して円筒状をなし、その両端部において軸受を介してステアリングシャフト22を回転可能かつ軸方向に移動不能に保持している。
ばね反力規制装置24は、第1ハウジング102に配設されており、規制実行状態においてシャフト22にばね反力を付与する「ばね反力付与機構106(弾性反力付与機構の一種である)」と、ばね反力機構26による操舵操作の規制状態を規制実行状態と規制解除状態との間で切り換える「ばね反力付与切換機構108(弾性反力付与切換機構の一種である)」とを含んで構成されている。ばね反力付与機構106は、後述するように、第1ハウジング102に対して相対回転可能にされており、相対回転可能な状態ではシャフト22にばね反力を付与しない。そのばね反力付与機構106は、ばね反力付与切換機構108によって相対回転が禁止されることにより、シャフト22にばね反力を付与する状態にされる。なお、図2は、ばね反力付与切換機構108によってばね反力付与機構106の回転が禁止され、ばね反力を付与する状態を示している。
「ばね反力付与切換機構108」は、ばね反力付与機構106の外周部に押し付けられた状態において摩擦力によってばね反力付与機構106の回転を禁止する制動部材110と,第1ハウジング102の外周部に配設されて制動部材110をばね反力付与機構106に接近・離間させる電磁アクチュエータ112とを含んで構成されている。制動部材110は、第1ハウジング102の内周面とばね反力付与機構106の外周面との間に、ばね反力付与機構106に接近・離間可能に配置されている。また、ばね反力付与機構106は円筒状をなしており、制動部材110は、矩形の平板がばね反力付与機構106の外周に沿って湾曲させらた形状をなしており、ばね反力付与機構106の外周部に密着しやすくされている。さらに、制動部材110のばね反力付与機構106側の面には、摩擦係数が大きな摩擦材によって形成されたライニング113(例えば、ドラムブレーキに使用されるものと同様な材質のもの)が配設されており、摩擦力によってばね反力付与機構106の回転を強固に禁止できるようにされている。
電磁アクチュエータ112は、その先端部に制動部材110が固定されたプランジャ114,電力を供給された励磁状態において磁気を発生させてプランジャ114をばね反力付与機構106に接近する向きに移動させる電磁コイル116,およびプランジャ114をばね反力付与機構106から離間する向きに付勢する離間スプリング118を含んで構成されている。プランジャ114は、第1ハウジング102を貫通して設けられており、励磁状態の電磁コイル116の磁気によって先端に固定された制動部材110をばね反力付与機構106に押し付け、一方、電磁コイル116が消磁状態の際に、離間スプリング118の付勢力によって制動部材110をばね反力付与機構106から離間させる。なお、図2には、電磁コイル116が励磁状態とされ、制動部材110がばね反力付与機構106に押し付けられた状態が示されている。
「ばね反力付与機構106」は、概して円筒状をなすばね機構ハウジング120,そのばね機構ハウジング120内にそれと相対回転不能かつ軸方向に相対移動可能に配設されたスライド部材122(変位体の一種である),およびそのスライド部材122とばね機構ハウジング120の両端部の各々の内壁(係止体の一種である)とに挟まれた2つの圧縮コイルスプリング124(弾性体の一種である)を含んで構成されている。ばね機構ハウジング120は、その両端部において、軸受を介してシャフト22に、回転可能かつ軸方向に移動不能に支持されている。すなわち、ばね機構ハウジング120の第1ハウジング102に対する相対回転は、電磁コイル116が励磁状態の場合に禁止され、電磁コイル116が消磁状態の場合に許容されるのである。
ばね機構ハウジング120の内周壁部には、軸方向に延びた2つの凸条130が設けられており、一方、スライド部材122の外周部には、軸方向に延びた2つの被係止溝132が設けられている。それら2つの被係止溝132の各々に2つの凸条130がそれぞれ緩やかに嵌められており、ばね機構ハウジング120に対するスライド部材122の、相対回転が禁止されるとともに、軸方向への相対移動が許容されている。スライド部材122の内周部は、ベアリングボールを保持するボールナットとされており、スライド部材122はそのボールナットにおいてシャフト22の外周部に設けられたボールねじと螺合させられている。
そして、ばね機構ハウジング120の回転が禁止された状態において、シャフト22が操舵操作に応じて回転させられると、スライド部材122が軸方向に変位させられることにより、いずれか一方のスプリング124が収縮させられるとともに他方のスプリング124が伸長させられて、スライド部材122を中立位置に位置させる向きの付勢力が発生するのである。その付勢力がシャフト22を中立位置に戻す向きに作用することにより、ばね反力がステアリングホイール14に付与される。一方、ばね機構ハウジング120の回転が許容された状態では、シャフト22が回転させられると、ばね機構ハウジング120およびスライド部材122がシャフト22とともに回転させられ、シャフト22とスライド部材122とが相対回転しないため、スライド部材122は軸方向に変位せず、付勢力は発生しない。すなわち、ばね反力がステアリングホイール14に付与されない。
すなわち、本実施例において、ばね反力付与切換機構108が作動状態にされて、ばね反力付与機構106の回転が禁止されることによって、操舵操作がなされた際に前記変位体たるスライド部材122とシャフト22とが相対回転する状態にされ、ステアリングホイール14にばね反力が付与される規制実行状態になるのである。また、逆に、ばね反力付与切換機構108が非作動状態にされて、ばね反力付与機構106の回転が許容されることによって、スライド部材122とシャフト22とが相対回転しない状態にされると、ステアリングホイール14にばね反力が付与されない規制解除状態になるのである。
なお、スライド部材122が軸方向に変位して付勢力が発生した状態でばね機構ハウジング120の回転が許容された場合には、スライド部材122に作用するスプリング124の弾性力によってばね反力付与機構106が回転させられて、スライド部材122が中立位置に復帰する。すなわち、本実施例では、規制解除状態において、スライド部材122が中立位置に位置する状態、具体的には、スライド部材122に作用する2つのスプリング124の弾性力が釣り合って弾性反力が発生しない状態となる。
第2ハウジング104には、反力モータ36,操作範囲規制装置30等が配設されている。第2ハウジング104内には、シャフト22の前方端部が第1ハウジング102から延び出している。そのシャフト22の前方端部には、連結部18に操舵操作を出力するための出力プーリ46,および反力モータ36によって駆動される被駆動ギヤ150が、シャフト22に対して相対回転不能に固定されている。反力モータ36は、第2ハウジング104の前方端部の穴に嵌合するとともに、反力モータ36のモータ軸が第2ハウジング104内に設けられたブラケット152によって軸受を介して回転可能に保持されている。また、そのモータ軸には、駆動ギヤ154が相対回転不能に取り付けられており、その駆動ギヤ154と被駆動ギヤ150とが噛み合わされている。本実施例において、反力モータ36,駆動ギヤ154,および被駆動ギヤ150を含んで、モータ反力付与機構が構成されている。
「操作範囲規制装置30」は、規制実行状態において設定回転位置を超えるシャフト22の回転範囲を制限する「回転範囲制限機構158(操作範囲制限機構の一種である)」と、回転範囲制限機構158による回転範囲の規制状態を規制実行状態と規制解除状態との間で切り換える「範囲制限切換機構160(操作範囲制限切換機構の一種である)」とを含んで構成されている。回転範囲制限機構158は、シャフト22の前方端部に相対回転不能に固定されたシャフト側ギヤ162,およびシャフト側ギヤ162に噛み合わされてシャフト側ギヤ162の回転を減速する減速ギヤ164を備えている。シャフト側ギヤ162は、シャフト22の内周部に相対回転不能に嵌合した嵌合軸165に固定されている。減速ギヤ164は、第2ハウジング104の前方端部に軸受を介して回転可能に保持された回転軸168に相対回転不能に固定されている。また、回転範囲制限機構158は、減速ギヤ164の前方側の側面に設けられた係合突起166と、第2ハウジング104の内部に延び出した状態において減速ギヤ164の回転に伴い所定の回転位置まで変位した係合突起166を係止する係止ロッド170とを備えている。すなわち、回転範囲制限機構158は、規制実行状態において、係合突起166を係止ロッド170によって係止することにより、ギヤ162,164を介してシャフト22の回転範囲を超える回転を禁止するのである。
範囲制限切換機構160は、第2ハウジング104の前方端面に配設されて係止ロッド170を軸方向に駆動する電磁アクチュエータ172を含んで構成されている。電磁アクチュエータ172の構造は、寸法等が異なるが電磁アクチュエータ112とほぼ同様であり、内部構造の図示および説明を省略する。範囲制限切換機構160は、電磁アクチュエータ172が励磁状態となる際に、係止ロッド170を減速ギヤ164に接近する向きに移動させて、係合突起166を係止することが可能な状態とし、一方、電磁アクチュエータ172が消磁状態となる際に、係止ロッド170を減速ギヤ164から離間する向きに移動させて係合突起166を係止しない状態にするのである。すなわち、範囲制限切換機構160は、係止ロッド170の延び出しの有無を変化させることによって、規制実行状態と規制解除状態とを切り換えることができるのである。なお、本実施例において、シャフト22が設定された角度回転させられた際に、回転範囲制限機構158によって係合突起166が係止されるように、ギヤ162,164の歯数および減速ギヤ164における係合突起166の配設角度位置が設定されている。
なお、本実施例において、ばね反力規制装置24による操舵操作の規制を「ばね反力規制」と称する場合がある。また、ばね反力規制装置24による操舵操作の規制状態を「ばね反力規制状態」と称する場合がある。また、操作範囲規制装置30による操作範囲の規制を「操作範囲規制」と称する場合がある。また、操作範囲規制装置30による操作範囲の規制状態を「操作範囲規制状態」と称する場合がある。
本システムでは、前記電磁クラッチ44によって、操作部10と転舵部12とが非連結状態にされた場合には、比較的少ない操作量でも転舵モータ76によって車輪16を大きく転舵することができるため、ステアリングホイール14が不必要な操作位置まで回転しないように操作範囲が制限されることが望ましい。一方、操作部10と転舵部12とが連結状態にされた場合には、比較的弱い操作力で車輪16を転舵しなければならず、車輪16を大きく転舵するために多くの操作量が必要となるため、操作範囲の制限を解除することが望ましい。そこで、「操作範囲規制状態」が、操作部10と転舵部12とが非連結状態にされた場合に規制実行状態にされ、操作部10と転舵部12とが連結状態にされた場合に規制解除状態にされる。
操作位置センサ38は、絶対回転位置を取得するアブソリュートエンコーダによって構成されており、回転軸168の絶対回転位置を取得するように第2ハウジング104の前方端面に配設されている。回転軸168は、減速機構160を介してシャフト22に接続されており、回転軸168の絶対回転位置を取得することによって、シャフト22およびステアリングホイール14の絶対回転位置、つまり、操作位置を取得することができるのである。
本実施例において、シャフト22のステアリングホイール14側の端部には、ステアリングホイール14に付与される反力を取得するための操作反力センサ180が設けられている。すなわち、シャフト22の端部に、その肉厚が他と比べて薄くされて比較的捻れやすい低剛性部182が設けられており、その低剛性部182の外周面に操作反力センサ180が配設されているのである。また、本実施例において、その操作反力センサ180は、低剛性部182の捻れ量を検出する歪みゲージによって構成されており、その操作反力センサ180によって検出された低剛性部182の捻れ量に基づいて、ステアリングホイール14に付与される操作反力が取得されるのである。
本実施例において、ステアリングホイール14と一体的に回転するシャフト22に、ばね反力(弾性反力の一種である)およびモータ反力が付与され、また、シャフト22の絶対回転位置が操作位置として取得されている。すなわち、本実施例において、ステアリングホイール14およびシャフト22によって操作部材が構成されている。なお、単に、ステアリングホイール14によって前記操作部材が構成されていると捉えることもでき、その場合には、シャフト22は、操作部材と、ばね反力付与機構106および反力モータ36とを連結する連結部材として捉えることができる。
3. 電子制御ユニット.
本ステアリングシステムは、自身が備えるステアリング電子制御ユニット200(ステアリングECU、以下、単に「ECU200」という場合がある)によって制御される。ECU200は、コンピュータを主体として、各種モータ,各種電磁アクチュエータ等を駆動する駆動回路等を含んで構成されている。ECU200には、操作位置センサ38,転舵位置センサ88,操作反力センサ180,車速度センサ202等の各種センサが接続されている。また、ECU200には、運転者に対して各種の情報を表示するモニタ190が接続されている。さらに、ECU200には、駆動回路を介して、反力モータ36、転舵モータ76、電磁クラッチ44,ばね反力付与切換機構108,範囲制限切換機構160等が接続されている。
図3に、ECU200の機能ブロック図を示す。なお、ECU200の構成部分がこの図に示すように明確に分かれているわけではないが、ECU200の機能を理解し易くするためにこのような図とした。本実施例において、ECU200は、ROM(リードオンリメモリ),RAM(ランダムアクセスメモリ)等の記憶装置を含んで構成された「記憶部240」を備えており、その記憶部240には、各種のプログラムおよび各種のデータが記録されている。また、ECU200は、「転舵装置制御部250」を備えており、その転舵装置制御部250によって転舵モータ76を制御して車輪16を転舵する。さらに、ECU200は、「モータ反力制御部252」を備えており、そのモータ反力制御部252によって反力モータ36を制御してステアリングホイール14にモータ反力を付与する。さらにまた、ECU200は、規制状態の切り換えを制御する「切換装置作動制御部254」を備えている。その切換装置作動制御部254は、ばね反力付与切換制御部256および範囲制限切換制御部258を備えており、それらによってばね反力付与切換機構108および範囲制限切換機構160を制御して、それぞれ「ばね反力規制状態」および「操作範囲規制状態」を切り換える。
さらにまた、ECU200は、規制状態が切換装置作動制御部254によって切り換えられた規制状態であるか否かを確認する「規制装置作動確認部270」を備えている。その規制装置作動確認部270は、「ばね反力規制確認部272」および「操作範囲規制確認部274」を備えており、それらによってばね反力規制装置24および操作範囲規制装置30の作動確認を行う。さらにまた、ECU200は、車両の特定の運転状態、例えば、特定の操作状態や特定の速度状態を認識する運転状態認識部276を備えている。さらにまた、ECU200は、規制実行状態であるとすればステアリングホイール14に付与されるばね反力の大きさを、推定する「ばね反力推定部278」を備えている。
さらに、また、ECU200は、実際の規制状態を判定する「規制状態判定部280」を備えている。その規制状態判定部280は、ばね反力規制状態を判定する「ばね反力規制状態判定部282」と、操作範囲規制状態を判定する「操作範囲規制状態判定部284」とを備えている。ばね反力規制状態判定部282は、反力モータ36の駆動力によってステアリングホイール14を変位させて規制状態を判定するモータ駆動力依拠判定部286と、ステアリングホイール14に付与された操作反力の大きさに基づいて規制状態を判定する操作反力依拠判定部288とを備えている。また、操作範囲規制状態判定部284は、反力モータ36の駆動力によってステアリングホイール14を設定範囲外に回転させることができるか否かによって規制状態を判定するモータ駆動時変位依拠判定部294を備えている。
ECU200のコンピュータの記憶部240には、車輪転舵制御プログラム,反力制御プログラム,規制状態切換プログラム,規制装置作動確認プログラム,規制状態判定プログラム等の種々のプログラムおよびデータ等が記憶されている。そして、ECU200は、それら各種のプログラムをコンピュータによって実行することにより、上記の記憶部240以外の各種機能部が有する機能を発揮する構造とされている。「車輪転舵制御プログラム」は、操舵操作に応じた車輪16の転舵を行うプログラムである。また、「反力制御プログラム」は、反力モータ36の制御を行うプログラムである。さらに、また、「規制状態切換プログラム」は、操舵操作規制装置たるばね反力規制状態および操作範囲規制状態を切り換えるプログラムである。さらに、また、「規制装置作動確認プログラム」は、規制状態切換プログラムの制御によって目的の制御状態が実現されているか否かを確認するプログラムである。さらに、また、「規制状態判定プログラム」は、実際の規制状態を判定するプログラムであり、その判定結果に基づいて規制装置作動確認プログラムの確認処理が行われる。
例えば、ECU200は、車輪転舵制御プログラムを実行することによって、転舵装置制御部250の機能を発揮させるのである。同様に、反力制御プログラム,規制状態切換プログラム,規制装置作動確認プログラム,規制状態判定プログラム等の各々を実行することによって、それぞれ、モータ反力制御部252,切換装置作動制御部254,規制装置作動確認部270,規制状態判定部280等の機能を発揮させる。すなわち、本実施例において、ECU200が各種プログラムを実行することによって行われる処理が、それらプログラムに対応する各種機能部によって行われる処理なのである。また、逆に、各種機能部によって行われる処理は、ECU200が、その機能部に対応するプログラムを実行することによって行われるのである。
4. 車輪転舵制御,反力制御,および規制状態の切り換え.
ECU200は、「車輪転舵制御プログラム」を実行することにより、すなわち、「転舵装置制御部250」によって、操舵操作に応じた車輪16の転舵を行う。具体的には、転舵装置制御部250は、操作位置センサ38の検出信号に基づいて取得された操作位置から目標転舵位置を決定する。そして、転舵位置センサ88の検出信号に基づいて取得された実転舵位置と、目標転舵位置との偏差を減少させるように転舵モータ76に電力を供給し、車輪16の転舵を行う。なお、通常時は、電磁クラッチ44に励磁電力を供給して、操作部10と転舵部12とが非連結状態になるように制御している。
また、ECU200は、「反力制御プログラム」を実行することにより、すなわち、「モータ反力制御部252」によって、ばね反力の有無に拘わらずステアリングホイール14に適切な大きさの反力が付与されるように駆動回路を介して反力モータ36を制御する。基本的には、モータ反力制御部252は、操舵位置,操舵速度,車速度等に応じて予め設定された目標反力を記憶部240から読み出して取得し、ステアリングホイール14に目標反力が付与されるように反力モータ36を制御する。しかしながら、ばね反力の有無によって、反力モータ36によって発生させるべきモータ反力の大きさが異なる。そのため、モータ反力制御部252は、モータ反力とばね反力との合計が目標反力となるように反力モータ36を制御するのである。すなわち、モータ反力制御部252は、ばね反力規制実行状態において、つまり、ばね反力が付与されている場合には、モータ反力の大きさを、目標反力からばね反力の大きさを引いた大きさにする制御である「第1制御」を行う一方、ばね反力規制解除状態において、つまり、ばね反力が付与されていない場合には、モータ反力の大きさを、目標反力と等しい大きさにする制御である「第2制御」を行う。
なお、本実施例において、ばね反力の大きさは検出されておらず、「ばね反力推定部278」によってばね反力の大きさが操舵位置に応じて推定される。具体的には、操舵位置と弾性体の変形量との関係に基づいて推定されたばね反力推定値が、ECU200の記憶部240に記憶されており、操舵位置に応じたばね反力推定値が読み出され、そのばね反力推定値がばね反力の大きさとして取得されるのである。すなわち、ばね反力推定部278は、ECU200の、ばね反力推定値が記録された記憶部240と、操舵位置に応じたばね反力推定値を読み出す部分を含んで構成されている。
また、モータ反力制御部252は、反力モータ36を制御することにより、反力モータ36の駆動力による操作範囲規制装置30と同様な操作範囲の制限であるモータ範囲制限を行う機能も有している。そのモータ範囲制限は、本実施例において、通常時には、ステアリングホイール14の操作位置が、操作範囲規制装置30によって規制される設定範囲よりも狭い範囲である予備制限範囲を超えた際に、ステアリングホイール14の操作位置の増加を抑制する反力を付与することによって操作範囲を制限する態様とされている。その通常時のモータ範囲制限によって、操作位置が操作端に接近していることを運転者に自然に気付かせることができる。なお、モータ範囲制限は、解除することができ、また、制限範囲を変更することもできる。
さらにまた、ECU200は、「規制状態切換プログラム」を実行することにより、すなわち、「切換装置作動制御部254」によって、「切換要求」に応じて、ばね反力規制状態と操作範囲規制状態とを切り換える。「切換要求」には、ばね反力規制状態と操作範囲規制状態との各々を、規制実行状態にする切換要求である「規制実行要求」(ばね反力規制実行要求、操作範囲規制実行要求)と、規制解除状態にする切換要求である「規制解除要求」(ばね反力規制解除要求、操作範囲規制解除要求)とがある。その「切換要求」は、規制装置作動確認プログラムや,その他各種のプログラムによって行われ、具体的には、それらのプログラムが実行されて行われる処理において、それらの「規制実行要求フラグ」(ばね反力規制実行要求フラグ、操作範囲規制実行要求フラグ),「規制解除要求フラグ」(ばね反力規制解除要求フラグ、操作範囲規制解除要求フラグ)がON・OFFされることによってなされる。規制状態切換プログラムは、各種プログラムのフラグを参照するようにされており、その要求に従い、ばね反力規制状態あるいは操作範囲規制状態を切り換える処理を行うのである。
規制状態切換プログラムの処理により、すなわち、切換装置作動制御部254により、ばね反力規制状態が規制実行状態に切り換えられる際に、ステアリングホイール14の操作位置が中立位置(車両を直進させる操作位置)に位置した状態で切り換えられるように制御される。ばね反力付与機構106は規制解除状態において、ばね反力が発生しない状態になっているため、中立位置に位置した状態のステアリングホイール14と、ばね反力が発生しない状態のばね反力付与機構106とを連係させることにより、ステアリングホイール14に、中立位置でばね反力が付与されず、操作位置が中立位置から遠ざかるにつれて付与されるばね反力が増加するように、適切に連係させることができる。
なお、規制状態切換プログラムは、規制状態を切り換える際に、自身の「制御状態フラグ」(ばね反力規制制御状態フラグ、操作範囲規制制御状態フラグ)の値を、「規制実行制御状態」,「切換制御状態」,「規制解除制御状態」のいずれかを示す値にすることによって、現在の制御状態を明らかにするとともに、規制状態の切り換えが完了したことを示すのである。具体的には、例えば、規制実行状態への切り換えを開始する際に制御状態フラグを切換制御状態に変更し、規制実行状態への切り換えが完了した際に制御状態フラグを規制実行制御状態に変更する。規制解除状態への切り換えの際も同様である。その制御状態フラグを参照することによって、他のプログラムが現在の規制状態を推測することができる。そのため、例えば、「ばね反力規制実行要求」がなされた際に、ステアリングホイール14が中立位置に位置しておらず、切り換えが完了するまで時間がかかる場合であっても、他のプログラムは、規制状態切換プログラムの制御状態フラグを参照することによって、切換制御が完了したことを認識することができる。
ところで、本実施例において、何らかの異常によって車両を起動しても転舵装置60,ばね反力付与切換機構108等を電気的に制御できない場合に備えて、動力停止状態のままで操作力によって車輪を転舵することができるようにされている。具体的には、車両の動力停止時には、電磁クラッチ44が消磁状態とされ、ステアリングホイール14と転舵装置60とが機械的に連結されている。また、ステアリングホイール14と転舵装置60とが機械的に連結された状態において、ばね反力が付与されないように、また、操作範囲が制限されないようにするため、車両の動力停止時に、ばね反力規制状態および操作範囲規制状態が規制解除状態にされている。そのため、車両が正常である場合には、車両の起動後に、ステアリングホイール14と転舵装置60とが非連結状態にされるとともに、ばね反力規制状態および操作範囲規制装置30が規制実行状態にされる。
5. 規制装置作動確認.
上述のように、規制状態切換プログラムの「制御状態フラグ」を参照することによって規制状態を推測するだけでは、実際に規制状態が制御状態フラグの示す状態になっているかどうかは不明である。例えば、規制状態の切換制御を行っても、ばね反力規制装置24,操作範囲規制装置30等の異常によって、実際に規制状態が切り換わらない虞があるのである。そういった異常が発生した場合には、制御状態と、実際の規制状態とが合致しなくなる。そこで、ECU200は、「規制装置作動確認プログラム」を実行することにより、「規制状態判定プログラム」の処理によって判定された実際の規制状態と、制御状態とが合致しているか否かによって、規制状態の切り換えが正常に行われているかを確認する。すなわち、ECU200は、「規制装置作動確認部270」によって、「規制状態判定部280」による実際の規制状態の判定結果と、切換装置作動制御部254の制御状態とが合致しているか否かによって、規制状態の切り換えが正常に行われているか否かを確認するのである。そのため、規制状態に関する異常を検知することができ、ステアリングシステムのフェールセーフ性を向上させることができる。
規制装置作動確認部270,および規制状態判定部280の機能を詳細に説明するために、図4〜図13に、規制装置作動確認プログラムおよび規制状態判定プログラムのフローチャートを示し、そのフローチャートに沿って規制装置作動確認プログラム等について詳細に説明する。なお、規制装置作動確認プログラム等は、短時間毎に繰り返し実行される。
5.1. 規制装置作動確認プログラムのメインルーチン.
図4に、「規制装置作動確認プログラム」のメインルーチンを示す。切換装置の作動確認は、車両の起動時に行われる「起動時規制装置作動確認」(以後、「起動時作動確認」と称する場合がある)と、起動後、運転中に行われる「運転時規制装置作動確認」(以後、「運転時作動確認」と称する場合がある)とが行われる。
ステップ1(以後、ステップ1を「S1」と略記し、他の符号についても同様とする)において、起動時作動確認がすでに完了したか否かが判定され、まだ完了していない場合にはS2の処理が実行され、完了した場合にはS3の処理が実行される。S2の起動時作動確認は、起動時に1回行われるようにされ、その後にはS3の運転時作動確認が行われるようにされているのである。なお、起動時作動確認および運転時作動確認については後に詳述する。
S4の判定により、起動時作動確認において異常がなければ本ルーチンの一回の実行が終了し、S4において異常が検知された場合にはS5の異常時処理が行われる。そのS5の異常時処理では、切り換えの異常が発生したことがモニタ190を通じて運転者に報知されるとともに、切換装置作動制御部254に制御状態フラグを実際の規制状態に合致するように変更することが要求される。それは、前述のように、モータ反力制御部252が制御状態フラグを参照して第1制御と第2制御とを切り換えているため、つまり、「ばね反力」の大きさの分だけモータ反力を減少させるか否かを変更しているため、制御状態フラグが実際の規制状態に合致していない場合には、ステアリングホイール14に付与されるモータ反力の大きさが不適切になるためである。制御状態フラグを実際の規制状態に合致するように変更する要求がなされると、切換装置作動制御部254は、規制状態切換プログラムの処理により、その要求に応えて制御状態フラグを変更する。また、切換装置作動制御部254および他の機能部は、ばね反力付与機構106,操作範囲規制装置30のうちの異常が発生したものの規制状態の切り換え、あるいは切り換えの要求を行わないようにする。
起動時作動確認が完了した後は、S3の運転時作動確認が行われ、S4,S5において、異常が検知された場合には異常時処理が行われる。
5.2. 起動時作動確認.
図5に、起動時作動確認を行う「起動時作動確認ルーチン」を示す。起動時作動確認では、後に詳述する「操作範囲規制確認」と「ばね反力規制確認」とが行われる。S11の判定において、ステアリングホイール14が中立位置に位置していない場合は、S12において、モータ反力制御部252に対して、ステアリングホイール14を中立位置に位置させる要求がなされる。そして、モータ反力制御部252の制御によってステアリングホイール14が中立位置に位置させられる。S11の判定において、ステアリングホイール14が中立位置に位置している場合には、S13の処理が行われる。S13の判定により、操作範囲規制確認が完了していない場合にS14の操作範囲規制確認が行われ、操作範囲規制確認が完了した場合にS15のばね反力規制確認が行われる。
そして、S16の判定により、ばね反力規制確認が完了した後に、S17において起動時作動確認完了処理が行われる。その完了処理において、ステアリングホイール14の操作位置を最初の位置に戻す要求がモータ反力制御部252になされるとともに、起動時作動確認が完了したことを示すフラグがON状態にされる。そのフラグが参照されて、図4におけるS1において起動時確認が完了済みであるか否かが判定されるのである。なお、そのフラグは起動時確認が開始する際にOFFにされている。なお、起動時作動確認において設定時間経過しても確認結果が得られない等の場合には、図示を省略したエラー処理が行われるようにされている。本実施例において、完了を示すフラグのON・OFF処理、およびエラー処理については、本発明との関連性が小さいため特に言及しない場合もあるが、他の処理(確認処理、規制状態判定処理)でも同様に行われるものとする。
なお、「作動確認」の一種である「操作範囲規制確認」(図7,8参照)および「ばね反力規制確認」(図10,11参照)では、それぞれ「規制状態判定」の一種である「起動時操作範囲規制状態判定」(図6参照)および「起動時ばね反力規制状態判定」(図9参照)が行われる。規制装置作動確認では、制御状態と規制状態判定結果とが合致しているか否かによって、正常か否かを判定するからである。本実施例において、理解を容易にするために、それぞれ「規制状態判定」の説明を行ってから、「作動確認」の説明を行うこととする。
5.2.1 起動時操作範囲規制状態判定.
図6に起動時操作範囲規制状態判定を行う起動時操作範囲規制状態判定プログラムのフローチャートを示し、説明する。起動時操作範囲規制状態判定プログラムは、規制状態判定プログラムの一種であり、本実施例において、規制状態判定プログラムは、規制装置作動確認プログラムの実行時に要求される規制状態の判定を行うプログラムである。その場合には、規制装置作動確認プログラムのサブルーチン的な位置づけにあると捉えることもできる。しかしながら、規制装置作動確認プログラムと無関係に規制状態判定プログラムを実行して規制状態を判定することが可能である。なお、その他の規制状態判定プログラムについても同様なことが言える。
S20において、後述する「起動時操作範囲規制確認」(図7,図8)によって、規制状態の判定を行う要求がなされているか否かが判定され、要求がなされていない場合はS21以下の処理がスキップされてプログラムの一回の実行が終了し、要求がなされている場合にはS21以下の処理が行われる。本実施例の起動時操作範囲規制状態判定では、ステアリングホイール14が反力モータ36の駆動力によって回転させられる。その際には、ばね反力は不要であるので、ばね反力規制解除状態で行われる。そのため、S21においてばね反力規制制御状態フラグが参照され、ばね反力規制解除状態でない場合には、S22において規制解除要求がなされ、本プログラムの一回の実行が終了する。一方、ばね反力規制解除状態である場合には、規制解除要求が解除された後、S23,S24において、モータ反力制御部252に、ステアリングホイール14の操作位置を操作範囲規制装置30によって操作範囲制限がなされる設定範囲を超えて変化させる要求である操作位置変化要求を行う。
その後、モータ反力制御部252によってステアリングホイール14が回転させられる。S25において操作位置と操作速度とが取得され、S26において、ステアリングホイール14の操作位置が、操作範囲制限がなされる規制位置を超えた場合(詳しくは設定量超えた場合)に、S27において操作範囲規制解除状態であると判定される。一方、S26において操作位置が規制位置を超えていない場合(詳しくは設定量超えていない場合)は、S28において操作位置が規制位置またはその近傍でほぼ一定になっている場合に、操作範囲規制によってステアリングホイール14の規制位置を超える変位が禁止されていると判断され、S29において操作範囲規制実行状態であると判定される。それ以外の状態では、ステアリングホイール14は規制位置を超えない操作位置を変位している状態と判断され、本プログラムの1回の実行が終了する。
判定結果が得られると、S30において起動時操作範囲規制状態判定完了処理が行われる。すなわち、モータ反力制御部252に、ステアリングホイール14の操作位置を中立位置に戻すように要求し、また、規制状態判定が完了したことを示すフラグがON状態にされる。そのフラグが後述するS45において参照されて、規制状態判定が完了したか否かが判定されるのである。
5.2.2 起動時の操作範囲規制確認.
図7,図8に、図5におけるS14の起動時の操作範囲規制確認の詳細を示す。操作範囲規制確認において、操作範囲規制装置30の制御状態が、規制解除制御状態で行われる「規制解除制御時確認」と、規制実行制御状態で行われる「規制実行制御時確認」とが行われる。規制解除制御時確認は、S42〜S49の処理によって行われ、規制実行制御時確認は、S51〜S57の処理によって行われる。S41の判定により、規制解除制御時確認が未完了の場合は、規制解除制御時確認が行われ、規制解除制御時確認が完了した後は、S42〜S50の処理がスキップされて、規制実行制御時確認が行われる。
操作範囲規制確認における「規制解除制御時確認」について詳細に説明する。規制解除制御時確認は、制御状態が操作範囲規制解除状態である場合に、規制状態判定を行い、判定結果が規制解除状態になるか否かによって操作範囲規制装置30が正常か否かを判定する。そのため、S42において、操作範囲規制装置30の制御状態が規制解除制御状態であるか否かが判定され、規制解除制御状態でない場合には、S43において、規制状態を規制解除状態に切り換える要求が行われる。具体的には、「操作範囲規制解除要求フラグ」をON状態にするのである。なお、操作範囲規制解除要求フラグがすでにON状態である場合には、その状態が継続される。一方、規制状態切換プログラムの処理において、すなわち、切換装置作動制御部254によって、それらのフラグが参照されて規制状態の切換制御が開始されるとともに、前述の制御状態フラグが「切換制御状態」にされる。また、規制状態の切り換えが完了した後には制御状態フラグが「規制解除制御状態」にされる。
S42において、操作範囲規制装置30の制御状態が規制解除制御状態であると判定されると、S44において図6の「起動時操作範囲規制状態判定」を行う要求がなされる。具体的には、S44において、起動時操作範囲規制状態判定を要求するフラグをON状態にする処理がなされ、そのフラグがすでにON状態である場合はその状態が維持される。起動時操作範囲規制状態判定の処理において、判定を要求するフラグが参照されており、ON状態である場合は判定処理が実行される。そして、S45の判定で、起動時操作範囲規制状態判定が完了していれば、規制状態の判定を要求するフラグがOFF状態にされた後、S46〜S48において操作範囲規制装置30の作動確認が行われる。すなわち、S46において、判定結果と切換装置作動制御部254の制御状態とが合致している場合は、S47において操作範囲規制の解除は正常になされていると判定され、合致してない場合はS48において異常であると判定される。S49において操作範囲規制解除制御時確認完了処理が行われ、解除時確認が完了したことを示すフラグがON状態にされる。そのフラグが参照されて、S41において確認が完了したか否かが判定されるのである。
「規制実行制御時確認」について詳細に説明する。規制解除制御時確認が完了した後、S50において、操作範囲規制実行要求がなされる。図8のS51において操作範囲規制制御状態フラグが参照され、規制実行制御状態である場合に、S52の起動時操作範囲規制状態判定要求がなされる(S44と同様な処理である)。その判定要求により、すでに説明した起動時操作範囲規制状態判定(図6)が、再び行われる。なお、上述のS44における判定要求の際には、操作範囲規制についての制御状態フラグが規制解除制御状態であったが、このS52における判定要求の際には、制御状態フラグが規制実行制御状態となっている。
S52の規制状態の判定が完了した場合にS53の判定がYESとなり、S54〜S56において、S46〜S48と同様な判定が行われ、規制実行制御時確認が完了する。その後、S57において、起動時操作範囲規制確認が完了したことを示すフラグがON状態にされる。そのフラグが参照され、図5のS13の判定がなされるのである。
5.2.3 起動時ばね反力規制状態判定.
図5に示したS15の「ばね反力規制確認」で行われる「起動時ばね反力規制状態判定」について説明する。図9に、「起動時ばね反力規制状態判定」を行う起動時ばね反力規制状態判定プログラムのフローチャートを示す。起動時ばね反力規制状態判定は、図10,図11に示す「起動時ばね反力規制確認」による規制状態の判定を行う要求がなされている場合に実行される(S60)。また、起動時ばね反力規制状態判定は、反力モータ36の駆動力によって、ステアリングホイール14の操作位置を中立位置から設定操作位置(例えば、操作角が10度程度)を超えて変化させ、その際の駆動力の大きさに基づいて、ばね反力規制状態を判定する。そのため、S62において、ステアリングホイール14の操作位置を設定操作位置を超えて変化させる要求である操作位置変化要求を行う。すでに要求がなされていた場合には、S61の判定により、S62がスキップされる。なお、モータ反力制御部252は、操作位置変化要求に応えてステアリングホイール14の操作位置を変化させる。S63において、操作位置、操作速度、モータ駆動力の大きさが取得される。具体的には、操作位置センサ38の検出結果に基づいて操作位置が取得され、その操作位置の変化速度に基づいて操作速度が取得され、反力モータ36に供給される電流値に基づいてモータ駆動力の大きさが取得される。
S64において、操作位置が設定操作位置を超えたか否か、詳しくは、設定操作位置を設定量(例えば、設定操作角度)以上超えたか否かが判定される。S64の判定において、操作位置が設定操作位置を超えていない場合は、操作位置が変化している途中であるため、本プログラムの1回の実行が終了する。一方、S64の判定において、操作位置が設定操作位置を超えている場合は、S65において、モータ駆動力の大きさが設定駆動力の大きさを超えているか否かが判定される。そして、モータ駆動力の大きさが、設定駆動力よりも大きい場合はばね反力規制実行状態であると判定され(S66)、設定駆動力以下の場合はばね反力規制解除状態であると判定される(S67)。
ここで、設定駆動力の大きさについて説明する。設定駆動力の大きさは、ばね反力規制実行状態においてステアリングホイール14の操作位置を設定操作位置まで変化させることが可能な力の大きさに設定されている。言い換えれば、ばね反力規制解除状態においてステアリングホイール14の操作位置を設定操作位置を超えて変化させることが可能であるが、ばね反力規制実行状態において操作位置を設定操作位置を超えて変化させることができない大きさに設定されているのである。具体的には、本実施例では、規制解除状態においてステアリングホイール14の操作位置を変化させる際に抵抗となる抵抗力(例えば、摩擦による抵抗)と、規制実行状態においてステアリングホイール14の操作位置が設定操作位置に位置した場合に付与されるばね反力の大きさとの和になるように設定されているのである。そのため、規制実行状態において操作位置が設定操作位置を超える場合には、モータ駆動力の大きさが、上記抵抗力とばね反力との和に逆らって操作位置を変化させることができる大きさ、すなわち、設定駆動力よりも大きくなる。一方、規制解除状態においては、モータ駆動力の大きさが、抵抗力よりも大きければ、設定駆動力よりも小さくとも操作位置を変化させることができるのである。なお、設定駆動力の大きさは、上記の大きさよりも設定量小さく設定することもできる(例えば、2割減)。
判定結果が得られた後、S68において、ばね反力規制状態判定完了処理が行われる。すなわち、モータ反力制御部252に、ステアリングホイール14の操作位置を中立位置に戻す要求がなされ、また、判定が完了したことを示すフラグがON状態にされる。
5.2.4 起動時のばね反力規制確認.
図10に、図5におけるS15の起動時の「ばね反力規制確認」の詳細を示す。その「ばね反力規制確認」で行われる処理は、上述の「ばね反力規制状態判定」以外は、前述の「操作範囲規制確認」と同様であるため、概略のみ説明する。ばね反力規制確認において、ばね反力規制装置24の制御状態が規制解除制御状態で行われる「規制解除制御時確認(S72〜S79)」と、規制実行制御状態で行われる「規制実行制御時確認(S80〜S87)」とが行われる。それらの確認において、制御状態と判定結果とが合致するか否かによって、規制の実行・解除が正常であるか異常であるかが判定される。以上で、図4に示したS2の起動時作動確認の説明を終了する。
5.3. 運転時作動確認.
以下に、図4に示したS3の「運転時作動確認」(図14,15参照)を説明する。前述の「起動時作動確認」では、反力モータ36によってステアリングホイール14の操作位置を変化させていたが、この運転時作動確認は、操舵操作によって操作位置が変化した際に作動確認を行う処理である。また、運転時作動確認では、起動時作動確認と同様に、「ばね反力規制確認」および「操作範囲規制確認」が行われる。そして、ばね反力規制確認および操作範囲規制確認の各々において、「運転時ばね反力規制状態判定」(図12参照)および「運転時操作範囲規制状態判定」(図13参照)が行われる。本実施例において、理解を容易にするために、ばね反力規制状態判定および操作範囲規制状態判定の説明を行った後に、ばね反力規制確認および操作範囲規制確認について説明する。
5.3.1 運転時ばね反力規制状態判定.
図12に、「運転時ばね反力規制状態判定」を行う運転時ばね反力規制状態判定プログラムのフローチャートを示す。運転時ばね反力規制状態判定は、操舵操作によって、ステアリングホイール14の操作位置が、設定操作位置を超えた操作範囲である設定旋回操作範囲に保持された状態である設定旋回保舵状態と、設定旋回操作範囲において中立位置から遠ざかる方向に操作された状態である設定旋回増舵状態との少なくとも一方の状態が維持された際の、操作反力の大きさとモータ駆動力の大きさとに基づいて規制状態を判定する処理である。すなわち、規制実行状態において、操作反力の大きさがモータ駆動力の大きさとほぼ等しく、規制解除状態において、操作反力の大きさがモータ駆動力の大きさとばね反力の大きさとの和とほぼ等しくなることに基づいて規制状態を判定することができるのである。
運転時ばね反力規制状態判定は、図14,図15に示す「運転時作動確認」による規制状態の判定要求がなされた場合に実行される(S100)。S101において、操作位置、操作方向、操作反力、モータ駆動力が取得される。操作方向は、操作位置の変化に基づいて取得され、操作反力は操作反力センサ180の検出値に基づいて取得される。続いて、S102の判定により、操作位置が設定操作位置を超えている場合にS103の処理が行われる。超えていない場合には、本プログラムの1回の処理が終了する。
S103において、操作状態が、設定旋回保舵状態と設定旋回増舵状態との少なくとも一方の状態である設定旋回保舵・増舵操作状態であるか否かが判定される。設定旋回保舵・増舵操作状態は、運転状態認識部276によって認識される。その運転状態認識部276の処理、すなわち、運転状態認識プログラムがECUで実行されて行われる設定旋回保舵・増舵操作状態を認識する処理について説明する。運転状態認識部276は、短時間毎に操作位置を取得し、その操作位置が、設定された時間連続的に、設定旋回操作範囲に保持され、あるいは、設定旋回操作範囲において中立位置から遠ざかる向きに変化した場合に、設定旋回保舵・増舵操作状態であると認識する。なお、設定操作位置は、規制実行状態において、ある程度大きな弾性反力がステアリングホイール14に付与される操作位置に設定することが望ましい(例えば、操作角が30度程度)。規制実行状態と規制解除状態との弾性反力の差が大きいほど、正確に判定できるからである。
S103において設定旋回保舵・増舵操作状態であると認識された場合に、S104において弾性反力推定値が取得される。すなわち、前述のように、ばね反力推定部278によって操作位置に応じた弾性反力の推定値が記憶部240から読み出されるのである。弾性反力推定値が取得されると、S105において、次式が満たされるか否かが判定される。
[式1] |(操作反力−モータ反力)|<第1設定値
すなわち、規制解除状態であれば、操作反力からモータ反力を引いた値が、ほぼ0になるため、式1の左辺が0に近い値になるのである。第1設定値は、弾性反力値に比較して小さな値であって、誤差等を考慮した大きさに設定されている。よって、式1が満たされる場合は、規制解除状態であると判断できる。
式1を満たさない場合は、S106において式2が満たされるか否かが判定される。
[式2] |(操作反力−モータ反力)−弾性反力推定値|<第2設定値
すなわち、規制実行状態であれば、操作反力からモータ反力を引いた値が弾性反力推定値とほぼ等しい大きさとなるため、式1の左辺が0に近い値になるのである。第2設定値は、弾性反力推定値に比較して小さな値であって、誤差等を考慮した大きさに設定されている。よって、式2が満たされる場合は、規制実行状態であると判断できる。
なお、式1および式2の両方を満たさない場合は、規制状態の切換異常ではなく、ばね反力の大きさが不十分である場合や、規制解除状態における操作抵抗が大きすぎる場合等、規制状態の切換以外の何らかの異常が発生していると判断され、S107において異常時処理が行われる。その異常時処理によって、規制状態の判定が中止され、モニタ190を通じて運転者に異常が発生した旨が報知される。
本プログラムが繰り返し実行されるに伴い、S105等の判定が繰り返し行われ、(a)式1が満たされた状態が一定時間維持されれば判定結果が「ばね反力規制解除状態」にされ、(b)式2が満たされた状態が一定時間維持されれば判定結果が「ばね反力規制解除状態」にされる。具体的には、S105において式1が満たされている場合は、S108においてカウンタCaが1増加させられるとともにカウンタCbが0にされる。一方、式1が満たされず、かつ、式2が満たされている場合は、S109においてカウンタCaが0にされるとともにカウンタCbが1増加させられる。その後、S110,S111においてカウンタの値が調べられ、カウンタCaが設定値Naを超えた場合は「判定結果が規制解除状態」にされ(S112)、カウンタCbが設定値Nbを超えた場合は「判定結果が規制実行状態」にされる(S113)。すなわち、本プログラムは一定時間T毎に実行されており、例えば、カウンタCaが設定値Naを超えた場合は、式1が満たされた状態が「一定時間T×設定値Na」時間維持されているのである。なお、いずれのカウンタも設定値を超えていない場合は本プログラムの1回の実行が終了する。
判定結果が得られると、S114において規制状態判定完了処理が行われる。その完了処理において、各種カウンタがリセットされ(0にされ)、判定が完了した旨を示すフラグがON状態にされる。
なお、運転時ばね反力規制状態判定では、S105,S106において、式1,式2が満たされるか否かを判定し、式1,式2を満たさない場合はS107の異常時処理が行われた。その規制状態判定を簡便にすることもできる。例えば、式2を省略し、式1を満たす場合は規制解除状態、式1を満たさない場合は規制実行状態と判定するようにすることもできる。また、式1を省略し、式2を満たすか否かによって判定することもできる。式1,式2のいずれかの条件を省略した場合は、S107の異常時処理も省略される。
5.3.2 運転時操作範囲規制状態判定.
図13に、「運転時操作範囲規制状態判定」を行う運転時操作範囲規制状態判定プログラムのフローチャートを示す。運転時操作範囲規制状態判定は、操舵操作によって操作位置が設定範囲を超えて変化するか否かによって規制状態を判定する。その運転時操作範囲規制状態判定は、図14,図15に示す「運転時作動確認」による規制状態の判定要求がなされた場合に実行される(S120)。S121において、操作位置および操作速度が取得される。S122の判定により、操作位置が規制位置を超えていた場合には、すなわち、操作位置が規制位置よりも中立位置から遠い場合には、操作範囲が操作範囲規制装置30によって規制されていないと判断され、S123において判定結果が規制解除状態にされる。なお、誤差等を考慮して、操作位置が規制位置を設定量(例えば、操作角で5度程度)以上超えていた場合に、規制解除状態とされることが望ましい。
S122の判定により、操作位置が規制位置を超えない場合はS124の判定が行われる。S124において、操作位置が規制位置,あるいはその近傍の操作位置において設定時間停止していた場合には、操作範囲が操作範囲規制装置30によって規制されていると判断され、S128において判定結果が規制実行状態にされる。具体的には、S124の判定条件が、満たされない場合はカウンタCが0にされ、満たされる場合はカウンタCが1増加させられる。S127において、カウンタCが設定値Ncを超えた場合は、ステアリングホイール14の操作位置が規制位置に位置して停止した状態が設定時間継続しており、操舵操作が規制されていると判断されるのである。一方、S127において、カウンタCが設定値Ncを超えない場合は、本プログラムの1回の実行が終了する。
判定結果が得られると、S129において運転時操作範囲規制状態判定完了処理が行われる。その完了処理において、カウンタがリセットされ(0にされ)、判定が完了したことを示すフラグがON状態にされる。
5.3.3 運転時作動確認の詳細.
図14,15に運転時作動確認のフローチャートを示す。S141において操作位置、車速度が取得され、S142,S143においてタイマ1,2がスタートさせられる。運転時作動確認において、「ばね反力規制確認」がS144〜S152の処理によってなされ、「操作範囲規制確認」がS153〜S166の処理によってなされる。また、それらばね反力規制確認および操作範囲規制確認の各々において、規制実行制御状態の際に作動確認を行う「規制実行制御時確認」と規制解除制御状態の際に作動確認を行う「規制解除制御時確認」とが行われる。なお、規制解除制御時確認は設定時間間隔(例えば、30分程度)をおいて行われ、規制解除制御時確認が行われていない間に規制実行制御時確認が行われる。「規制解除制御時確認」は、ばね反力規制、あるいは操作範囲規制を解除する制御を行わねばならず、頻繁に行わないことが望ましいのである。そのため、タイマ1,2によって、それぞれ、ばね反力規制確認,操作範囲規制確認における規制解除制御時確認を実行させる時間間隔が計測される。
5.3.4 運転時のばね反力規制確認.
S144において、タイマ1の計測時間が設定時間T1を経過し、かつ、ばね反力規制および操作範囲規制が規制実行制御状態である場合に、S145においてばね反力規制を解除する要求がなされる。タイマ1の条件は、設定時間間隔をおいて、規制解除制御時確認を行うようにするために設定されている。また、本実施例において、操作範囲制御解除状態では、ばね反力規制が解除されないようにされている。それは、操作範囲規制およびばね反力規制が解除されて、それらを補う反力モータ36の負担が過大にならないようにするためである。S144の判定がNOとされた場合に、例えば、タイマ1の計測時間が設定時間T1を経過していない場合や、ばね反力規制が解除制御状態である場合等に、S146以下の処理が実行される。
S146の判定により、ばね反力規制状態が切り換え中である場合は、S147〜S152の処理がスキップされる。切り換え中でない場合は、S147において、運転時ばね反力規制状態判定要求がなされる。具体的には、規制状態の判定要求を示すフラグがON状態にされ、すでにON状態であった場合は、その状態が維持される。なお、そのフラグの状態は、図12のS100において参照され、規制状態の判定が実行される。運転時ばね反力規制状態判定は、上述のように、設定された操舵操作がなされた際に、規制状態を判定する処理である。その規制状態判定が完了するまで、S148の判定により、S149〜S152の処理がスキップされる。一方、規制状態判定が完了した場合に、S149〜S151において、ばね反力規制確認がなされ、判定結果と制御状態とが合致している場合に正常とされ、合致していない場合に異常とされる。なお、S149〜S151におけるばね反力規制確認は、ばね反力規制装置24の制御状態が規制実行制御状態である場合には「規制実行制御時確認」となり、規制解除制御状態である場合には「規制解除制御時確認」となる。
ばね反力規制装置24の作動確認が完了すると、S152において、ばね反力規制確認完了処理が行われる。その完了処理において、上記S149〜S151におけるばね反力規制確認で、「規制解除制御時確認」がなされた場合には、ばね反力規制状態を実行状態にする要求が行われるとともに、タイマ1がリセットされる。
5.3.5 運転時の操作範囲規制確認.
運転時の「操作範囲規制確認」において、上述の「ばね反力規制確認」とよく似た処理が行われるが、操作範囲規制を解除する条件が多くなる。すなわち、S153およびS154の条件を満たした場合に、S155において操作範囲規制解除要求がなされるのである。以下に、詳細に説明する。S153において、タイマ2の計測時間が設定時間T2を経過し、かつ、操作範囲規制およびばね反力規制が規制実行制御状態である場合に、S154の判定がなされる。タイマ2の条件は、規制解除制御時確認が、設定時間間隔をおいて行われるようにするために設定されている。なお、本実施例において、ばね反力規制解除制御状態である場合に操作範囲規制が解除されないようにされている理由は、上述のばね反力規制確認と同様である。
S154において、車両の速度状態が低速度維持状態であって、かつ、操作量が大きな状態である場合に、条件が満たされる。それらの状態は運転状態認識部276によって認識され、すなわち、ECU200が運転状態認識プログラムを実行することによって認識処理が行われる。その運転状態認識部276による速度状態および操作状態の認識処理について説明する。その認識処理において、現時点から第1設定時間前までの間の平均車速度が取得され、その平均車速度がしきい車速度(例えば、徐行程度の車速度,時速20km程度等)よりも小さい状態がしきい設定時間維持された場合に低速度維持状態であると認識される。また、操作量が大きな状態は、現時点から第2設定時間前までの間にしきい操作位置を超える操作が設定回数以上なされた場合に、操作量が大きな状態であると認識される。すなわち、低速度維持状態かつ操作量が大きな状態においては、操舵操作によってステアリングホイール14の操作位置が、操作範囲が規制される規制位置を超えて変化する可能性が高く、規制解除制御時確認を行いやすいのである。
S153,S154のいずれかにおいて、条件が満たされない場合は、S155,S156の処理がスキップされる。一方、S153,S154の条件が満たされると、S155,S156の処理が実行される。S155において、規制解除制御時確認を行うために操作範囲規制解除要求がなされる。S156において、モータ範囲制限の範囲を拡大する要求がなされる。前述のように、モータ範囲制限は、操作範囲規制装置30による操作範囲制限がなされる設定範囲内において、反力モータ36の駆動力によって行われるようにされている。しかし、そのままでは、モータ範囲制限によって、ステアリングホイール14の操作位置が設定範囲外に位置するまで変化しにくくなる。そのため、設定範囲内においてモータ範囲制限が行われないようにすることにより、ステアリングホイール14の操作位置が設定範囲外に位置するまで変化しやすくするのである。また、モータ範囲制限が、操作範囲制限がなされる規制位置よりも設定量(例えば、操作角で10度程度)中立位置から遠ざかる位置において行われるようにすることにより、解除された操作範囲規制を補い、操作位置が規制位置を大きく超えないようにする。すなわち、モータ範囲制限が行われる制限範囲を拡大させることによって、規制解除制御時確認を行いやすくするとともに、操舵操作によって操作位置が規制位置を超えて必要以上に変化することが防止されるのである。なお、S155,S156の処理がなされると、本運転時作動確認の一回の実行が終了する。また、切換装置作動制御部254によって、制御状態フラグが「切換制御状態」に変更されるとともに、操作範囲規制状態の切換が開始される。さらに、モータ反力制御部252によるモータ範囲制限の制限範囲が変更される。
S157において、制御状態フラグが参照され、制御状態が切換制御状態である場合は規制状態が切り換え中であると判定され、本運転時作動確認の一回の実行が終了する。S157の判定は、例えば、S155の規制解除要求がなされた直後は制御状態フラグが切換制御状態となり、YESとされる。規制状態の切り換えが要求されていない状態、あるいは、切り換えが完了した後には、制御状態フラグが、規制実行制御状態または規制解除制御状態とされ、S157の判定がNOとされ、S158以下の処理が行われる。
S158において、S147と同様な処理によって運転時操作範囲規制状態判定要求がなされる。「運転時操作範囲規制状態判定」は先に説明したように、ステアリングホイール14の操作位置が、操作範囲制限がなされる規制位置で停止した場合に規制実行状態であると判定し、規制位置を超えて変化した場合に規制解除状態であると判定する。その判定が完了すると、S160〜S162において、判定結果と制御状態とが合致している場合に正常とされ、合致していない場合に異常とされる。なお、S160〜S162における操作範囲規制確認は、操作範囲規制が実行状態である場合には「規制実行制御時確認」となり、操作範囲規制が解除状態である場合には「規制解除制御時確認」となる。
作動確認が完了すると、S163において、操作範囲規制確認完了処理が行われる。上記S160〜S162における操作範囲規制確認において、「規制解除制御時確認」がなされた場合には、その完了処理で、操作範囲規制状態を実行状態にする要求が行われるとともに、タイマ2がリセットされる。
ところで、「運転時操作範囲規制状態判定」において、運転中の操舵操作によってステアリングホイール14の操作位置が規制位置まで、あるいは規制位置を超えて変化するとは限らず、すぐに判定結果を得ることができない場合がある。そのため、一旦S153,S154の条件を満たして操作範囲規制が解除状態にされたとしても、判定結果が得られないまま、運転状況が変化して低速度維持状態または操作量が大きな状態でなくなる可能性がある。そういった場合にまで、操作範囲規制を解除状態にしておくのは望ましくないため、S164の判定において一定の条件を満たす場合に、S165,S166において操作範囲規制の実行要求と、モータ範囲制限の制限範囲を縮小する要求とを行う。具体的には、S164において、操作範囲規制が解除状態である場合に、運転状態認識部276によって中高速度維持状態または操作量が小さな状態であると認識されると、「規制解除制御時確認」を中断して、「規制実行制御時確認」を行うのである。その際にタイマ2はリセットされないため、その後S153,S154の条件が満たされれば、すぐに操作範囲規制が解除されて「規制解除制御時確認」が行われるようにされている。
以上、本実施例に述べた処理によって、車両の起動時または運転時に、ばね反力規制装置24と、操作範囲規制装置30とによって適切な規制状態が実現されているか否かが確認される。なお、起動時,運転時のばね反力規制確認および操作範囲規制確認の各々において、規制実行制御時確認および規制解除制御時確認が行われている。すなわち、起動時,運転時のばね反力規制確認および操作範囲規制確認は、「切換装置作動制御部254による制御状態が規制実行状態を実現する制御状態である場合と規制解除状態を実現する制御状態である場合との両方において、前記操舵操作規制装置の作動の良否の確認を行う」態様の一例なのである。また、上記確認において、切換要求の前後に作動の良否の確認が行われている。
なお、本実施例において、「ばね反力規制確認部272」は、ECU200によって規制装置作動確認プログラムが実行されて行われる処理のうちの起動時,運転時のばね反力規制確認を行う機能を有している。以下同様に、また、「操作範囲規制確認部274」は、規制装置作動確認プログラムが実行されて行われる処理のうちの、起動時,運転時の操作範囲規制確認を行う機能を有している。また、本実施例において、「モータ駆動力依拠判定部286」は、ECU200によって起動時ばね反力規制状態判定プログラムが実行されて行われる処理を行う機能を有している。以下同様に、また、「操作反力依拠判定部288」は、運転時ばね反力規制状態判定プログラムが実行されて行われる処理を行う機能を有している。さらにまた、「操作範囲規制状態判定部284」は、運転時操作範囲規制状態判定プログラムが実行されて行われる処理を行う機能を有している。さらにまた、「モータ駆動時変位依拠判定部294」は、起動時操作範囲規制状態判定プログラムが実行されて行われる処理を行う機能を有している。
6. 変形例.
上記実施例の「起動時ばね反力規制状態判定」において、反力モータ36の駆動力によって、ステアリングホイール14の操作位置を中立位置から設定操作位置を超えて変化させ、その際の駆動力の大きさに基づいて、ばね反力規制状態が判定されていた。その判定に代えて、反力モータ36によってステアリングホイール14に設定された大きさの力を付与した際に、ステアリングホイール14の操作位置が設定操作位置を超えて変化するか否かに基づいて、ばね反力規制状態を判定することもできる。また、その判定に代えて、あるいは、その判定とともに、反力モータ36の駆動力によってステアリングホイール14の操作位置を少なくとも設定操作位置まで変化させた後に、反力モータ36による力の付与を停止した場合に、ステアリングホイール14の操作位置が変化する前の操作位置に近づく向きに変化するか否かに基づいて前記弾性反力付与機構による規制状態を判定することもできる。
上記実施例の「起動時ばね反力規制状態判定」において、ステアリングホイール14の操作位置を設定操作位置を超えて変化させた際の駆動力の大きさが、設定駆動力を超えているか否かに基づいて、ばね反力規制状態が判定されていた。その判定に代えて、反力モータ36の駆動力の大きさと設定駆動力との差が設定以内であるか否かによって、ばね反力規制状態を判定することもできる。さらにまた、反力モータ36の駆動力によって、ステアリングホイール14の操作位置を中立位置から変化させて設定操作位置を超える際の、あるいは、ステアリングホイール14の操作位置を設定操作位置に保持した際の、反力モータ36の駆動力の大きさが、設定駆動力を超えているか否かに基づいて、あるいは、反力モータ36の駆動力の大きさと設定駆動力との差が設定以内であるか否かによって、ばね反力規制状態を判定することもできる。
10:操作部 12:転舵部 14:ステアリングホイール 16:転舵車輪 18:連結部 20:ステアリング操作装置 22:シャフト 24:ばね反力規制装置 30:操作範囲規制装置 36:反力モータ 38:操作位置センサ 44:電磁クラッチ 60:転舵装置 76:転舵モータ 106:ばね反力付与機構(弾性反力付与機構) 108:ばね反力規制切換機構(弾性反力付与切換機構) 122:スライド部材(変位体) 124:圧縮コイルスプリング(弾性体) 158:回転範囲制限機構(操作範囲制限機構) 160:範囲制限切換機構(操作範囲制限切換機構) 180:操作反力センサ 200:ステアリング電子制御ユニット[ECU] 252:モータ反力制御部 254:切換装置作動制御部 270:規制装置作動確認部 280:規制状態判定部 286:モータ駆動力依拠判定部 288:操作反力依拠判定部 294:モータ駆動時変位依拠判定部