以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項に「運転者によって操作部材が中立位置以外の位置まで操舵操作された状態において変位禁止状態を実現する」という技術的特徴を付加したものが請求項1に相当し、請求項1に「中立位置以外の位置において操作部材が設定時間以上運転者によって保持された状態において変位禁止状態を実現する」という技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項1に(2)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項3に「運転者によって操作部材が中立位置以外の位置まで操舵操作されるとともに、その中立位置以外の位置において操作部材が設定時間以上運転者によって保持されたことを条件として、変位禁止状態を実現する」という技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項4に「さらに、車両の速度が設定速度より小さいことを条件として、変位禁止状態を実現する」という技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項3に「運転者によって操作部材が中立位置以外の位置まで操舵操作された後に、その中立位置以外の位置において運転者が操作部材から手を離したことを条件として、変位禁止状態を実現する」という技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに(3)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項7に、請求項1ないし請求項7のいずれか1つに(4)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項8に、請求項1ないし請求項8のいずれか1つに(5)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項9に、請求項1ないし請求項9のいずれか1つに(6)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項10に、それぞれ相当する。
(1)操舵操作がなされる操作部材と、その操作部材と機械的に分離した状態において操舵操作に応じた車輪の転舵を行う転舵装置とを備えたステアリングシステムであって、
前記操作部材の操作位置を中立位置に向かって変化させる弾性力を発生させる弾性力発生機構と、
前記操作部材の操作位置の変化の抵抗となる抵抗力を発生させる抵抗力発生機構と、
前記操作部材の操作位置が前記弾性力によって中立位置に向かって変化することを禁止する状態である変位禁止状態を実現すべく、前記抵抗力発生機構を制御する抵抗力発生機構制御装置と
を備えた車両用ステアリングシステム。
本項に記載のステアリングシステムは、いわゆるステアバイワイヤ式のステアリングシステムであり、操舵操作に応じて転舵装置を電気的に制御し、その転舵装置の駆動力によって車輪を転舵するものである。したがって、操作部材と転舵装置とが機械的に分離されており、操作部材は転舵装置からの反力を受けない構造とされている。そのため、本項のシステムでは、上記弾性力発生機構によって操作部材の操作位置を中立位置に向かって変化させる弾性反力を付与することにより、例えば、切り増し操作される際に手応えを生じさせて、操作感を向上させている。しかしながら、中立位置以外の操作位置に位置する操作部材には弾性反力が常に付与されるため、運転者が操作部材の操作位置が変化しないように保舵していないと、操作部材の操作位置が変化、すなわち、操作部材が変位してしまう。そういった問題点について改良をすることによって、より実用的なステアリングシステムが得られるのである。
本項に記載のステアリングシステムは、抵抗力発生機構と抵抗力発生機構制御装置とを備えており、抵抗力発生機構の抵抗力によって操作部材の変位を禁止することができる。すなわち、抵抗力発生機構を制御することにより、中立位置以外の操作位置に位置する操作部材を保舵することができるのである。そのため、弾性反力が付与されることによる弊害が生じる状況において上記変位禁止状態を実現することにより、例えば、中立位置以外の操作位置に位置する操作部材を保舵する運転者の負担を減少させて、操作性を向上させることができるのである。具体的には、例えば、中立位置以外の操作位置に位置する操作部材の変位が禁止されることにより、運転者が操作部材を弾性力の作用に抗して保舵しなくても済むようにすることにより、あるいは運転者が操作部材を保舵しなくても済むようにすることにより、運転者の負担を減少させることができるのである。なお、抵抗力発生機構制御装置は、変位禁止状態において、例えば、運転者の操舵操作によって操作部材を変位させることができる大きさの抵抗力を発生させるように抵抗力発生機構を制御するようにされていてもよく、運転者の操舵操作によっても操作部材を変位させることができない大きさの抵抗力を発生させるように抵抗力発生機構を制御するようにされていてもよい。
本項に記載の弾性反力付与機構は、例えば、ばね材,ゴム材,気体等の弾性体を備えるものとすることができ、操舵操作に応じて弾性体が変形することにより発生した操作部材の操作量に応じた大きさの弾性力の作用によって操作部材に弾性反力を付与するように構成することができる。
本項に記載の抵抗力発生機構は、例えば、摩擦力,粘性抵抗力,駆動力等によって操作位置の変化の抵抗となる力を発生させる機構とすることができる。具体的には、例えば、ブレーキ,ダンパ,モータ,クラッチ等を備えた機構とすることができる。本項の抵抗力発生機構がブレーキを備えている場合は、例えば、操作部材あるいは操作部材に連結された部材に摩擦力を作用させて、車体あるいは車体に設けられた部材との相対変位を禁止するものとすることができる。また、本項の抵抗力発生機構がダンパを備えている場合は、例えば、電場や磁場の作用によって粘性が変化する流体を採用したものとすることができる。さらにまた、本項の抵抗力発生機構がモータを備えている場合は、例えば、電磁式モータの駆動力によって弾性力を打ち消すものとすることができる。さらにまた、本項の抵抗力発生機構がクラッチを備えている場合は、例えば、操作部材と、車体あるいは車体に設けられた部材や装置との連結を、接続・切断するものとすることができる。
また、本項に記載の抵抗力発生機構は、通常時(すなわち、変位禁止状態以外の状態の時)において操作部材に操作反力を付与することが可能な機構であってもよく、また、操作部材に操作反力を付与することが不可能な機構であってもよい。具体的には、例えば、前者は、制動力を制御可能なブレーキ、粘性を変化させることが可能な流体ダンパ、電磁式モータ等を備えた機構とすることができる。また、例えば、後者は、制動状態と非制動状態とを切り換えることが可能なブレーキ等を備えた機構とすることができる。
本項に記載の抵抗力発生機構制御装置は、例えば、弾性力の大きさに応じた大きさの抵抗力を発生させるように抵抗力発生機構を制御するものであってもよく、弾性力の大きさとは無関係に一定の大きさの抵抗力を発生させるように抵抗力発生機構を制御するものであってもよい。前者の態様は、抵抗力発生機構として、弾性力の大きさに応じて抵抗力の大きさを変更することが可能な機構、例えば、操作部材に操作反力を付与することが可能な機構を採用することができる。また、後者の態様は、抵抗力発生機構として、抵抗力を発生する状態と抵抗力を発生しない状態(または、抵抗力が小さな状態)とを切り換えることが可能な機構、例えば、操作部材に操作反力を付与することが可能な機構や、操作部材に操作反力を付与することが不可能な機構を採用することができる。
(2)前記抵抗力発生機構制御装置が、操作位置を一定に維持すべき条件である保舵条件を満たす場合に、前記変位禁止状態を実現すべく前記抵抗力発生機構を制御するものである(1)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、弾性反力が付与されることによる弊害が生じる状況において、保舵条件が満たされるようにすることができる。そのため、例えば、車速度が比較的低速(停車も含む)で、操作位置が中立位置以外のある操作位置に維持されると予測される状態である操作位置維持状態において保舵条件が満たされるようにすることができる。その場合の操作位置維持状態は、例えば、車速度が比較的低速(停車も含む)で、操作位置が中立位置以外のある操作位置に保舵されている状態や、また、例えば、交差点での右折待ち状態が検知されるように、車速が0で、操作部材が右方向のある操作位置で保舵され、右ウインカーが点灯している状態とすることができる。また、例えば、運転者が操作部材から手を離した状態、つまり、運転者が操作部材を保持していない状態である非保持状態において保舵条件が満たされるようにすることができる。その非保持状態は、例えば、操作部材に配設されて運転者が操作部材に手を触れているか否かを検出する感圧センサの検出結果に基づいて、運転者が操作部材に手を触れていないと認識された状態や、また、例えば、操作部材と弾性力発生機構とを連結する部材の変形を検出する歪みゲージ等の検出結果に基づいて、運転者が操作部材に力を加えていないと認識された状態とすることができる。
本項に記載の抵抗力発生機構は、上述の、操作部材に操作反力を付与することが可能な機構とされたものである。そのため、抵抗力発生機構制御装置によって抵抗力発生機構を制御することにより、通常時において抵抗力発生機構と弾性力発生機構とによって操作部材に操作反力を付与し、変位禁止状態を実現すべき場合において抵抗力発生機構によって弾性力の作用を打ち消す抵抗力を発生させて操作部材の変位を禁止することができる。すなわち、本項に記載の態様は、ステアリングシステムが操作反力を付与するために抵抗力発生機構を備えていた場合は、その機構によって変位禁止状態を実現することができ、操作部材の変位を禁止するために新たな機構を追加しなくてもよいというメリットがある。
(4)前記抵抗力発生機構が、電磁式モータを備え、その電磁式モータの駆動力に依拠する前記抵抗力を発生させるものである(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
抵抗力発生機構が電磁式モータを備えていれば、その駆動力を変化させることによって抵抗力を変化させることが比較的容易であり、抵抗力発生機構制御装置による抵抗力発生機構の制御が比較的容易となる。
(5)前記抵抗力発生機構制御装置が、前記変位禁止状態において、前記弾性力と釣り合う大きさの前記抵抗力を発生させるように前記抵抗力発生機構を制御するものである(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の抵抗力発生機構制御装置は、前述の弾性力と同程度の大きさの抵抗力を発生させるように抵抗力発生機構を制御するようにされたものである。抵抗力発生機構によって弾性力と釣り合う大きさの抵抗力を発生させれば、操作部材が中立位置に変位することを禁止することができる。また、変位禁止状態において操舵操作がなされた場合は、操作部材が容易に変位するため、急な操作を要する場合にも対応することができる。
(6)前記抵抗力発生機構制御装置が、前記変位禁止状態において操舵操作がなされた場合に、その変位禁止状態を解除すべく前記抵抗力発生機構を制御するものである(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
操舵操作がなされるということは、操作部材の変位を禁止する必要が無いということである。従って、操舵操作がなされたことを、変位禁止状態を解除するトリガーとして利用すれば、適切なタイミングで変位禁止状態を解除することができる。また、操舵操作がなされた場合に変位禁止状態を解除すれば、例えば、運転者がスイッチを切り換える等によって変位禁止状態を解除する手間が省けるため、車両の運転が容易になる。なお、操舵操作がなされたことは、例えば、操作部材の操作位置が変化したこと,運転者によって操作部材に力が加えられたこと等に基づいて検知することができる。
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、決して下記の実施例に限定されるものではなく、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
1. ステアリングシステムの概要.
図1に、請求可能発明の一実施例であるステアリングシステムを概略的に示す。本システムは、操作部10と、転舵部12とが機械的に分離され、操作部材としてのステアリングホイール14に加えられる操作力によらずに、転舵部12に設けられた動力源の動力によって転舵車輪16(以下、単に「車輪16」という場合がある)を転舵するステアリングシステムである。また、本システムは、異常が発生した場合等に必要に応じて、操作部10と、転舵部12とを機械的に連結する連結部18を備えている。そのため、例えば、転舵部12の動力源を使用できない場合等には、連結部18によって操作力を転舵部12に伝達することができる。
操作部10には、操作部材たるステアリングホイール14と、そのステアリングホイール14を操作可能に支持するとともに操作反力を付与する操作反力付与装置20とが設けられている。操作反力付与装置20は、後方端部(車両後方側、つまり運転者側の端部)にステアリングホイール14が取り付けられたシャフト22,そのシャフト22に弾性力を作用させる弾性力発生機構24,シャフト22にモータ反力を付与する反力モータ30,流体の粘性抵抗によってシャフト22に粘性反力を付与する流体ダンパ32,および,操作位置(ステアリングホイール14の操舵角)を取得するための操作位置センサ36を備えている。
連結部18は、操作力が入力される入力プーリ40,操作力が出力される出力ローラ42,および,入力プーリ40と出力ローラ42との間の操作力の伝達の有無を切り換え可能にそれらを連結する電磁クラッチ44(操舵操作伝達切換機構の一種である)を備えている。入力プーリ40は、シャフト22の概ね前方端部に相対回転不能に固定された出力プーリ46とベルト50によって接続されており、ステアリングホイール14になされた操舵操作に応じて回転させられるようにされている。電磁クラッチ44は、電力が供給されない消磁状態において入力プーリ40と出力ローラ42とを連結し、すなわち、操舵部10と転舵部12とを連結状態にする一方、励磁状態においてその連結を解除し、すなわち、操舵部10と転舵部12とを非連結状態にするものとなっている。出力ローラ42は、伝達ケーブル52を介して転舵部12の入力ローラ54と接続されており、操作力を転舵部12に出力するようにされている。なお、伝達ケーブル52は、ガイドチューブ56にガイドされており、そのガイドチューブ56の中を滑らかに摺動することができるようにされている。
転舵部12には、車輪16を転舵させる転舵装置60が設けられている。その転舵装置60は、ハウジング62と、そのハウジング62を車幅方向に貫通した状態で支持された転舵ロッド64とを備えている。その転舵ロッド64は両端部の各々において、ボールジョイント66を介してタイロッド70と連結されている。そのタイロッド70は、車輪16を回転可能に保持するステアリングナックル72に固定されたナックルアーム74に連結されている。すなわち、転舵装置60は、転舵ロッド64を左右に駆動することによって、ステアリングナックル72を回転させ、車輪16の転舵を行うのである。
本実施例において、転舵装置60は、転舵モータ76によって転舵ロッド64を駆動する第1駆動部80と、操作力によって転舵ロッド64を駆動する第2駆動部82とを備えている。第2駆動部82は、操舵部10と連結部18を介して連結されたピニオンギヤと、そのピニオンギヤと噛み合うように転舵ロッド64に形成されたラックギヤとを含んで構成されており、ピニオンギヤが回転することによって転舵ロッド64を左右に駆動する。そのピニオンギヤは、入力ローラ54に相対回転不能に接続されており、電磁クラッチ44が消磁状態(連結状態)の際に、操舵操作に応じて回転させられるが、電磁クラッチ44が励磁状態(非連結状態)の際には回転駆動力が作用しない状態にされている。
なお、本実施例において、通常時には、電磁クラッチ44が励磁状態とされており、操舵操作は第2駆動部に伝達されない。また、異常時や車両の動力停止時には、電磁クラッチ44が消磁状態とされ、ステアリングホイール14と転舵装置60とが機械的に連結され、操舵操作が第2駆動部に伝達されるようにされている。そして、車両の起動後に、異常がなければ、ステアリングホイール14と転舵装置60とが非連結状態にされる。
転舵装置60には、ピニオンギヤの回転位置を取得するためのセンサが転舵位置センサ88として設けられている。ピニオンギヤは、転舵ロッド64が軸方向に移動するのに伴い回転させられるため、そのピニオンギヤの回転位置を取得すれば転舵ロッド64の移動量、すなわち、車輪16の転舵位置を取得することができるのである。
2. 操作反力付与装置.
図2に操作反力付与装置20の断面を示す。この図において、図の右側が車両後方側、つまり運転者側であり、操作反力付与装置20の後方端部に図示を省略するステアリングホイール14(操作部材)が取り付けられる。なお、以下の説明において、車両前方側を「前」,車両後方側を「後」と呼び分けることとする。操作反力付与装置20は、弾性力発生機構24の弾性機構ハウジング100と一体的に形成された取付ブラケット102において、インストゥルメントパネルのリインフォースメントに取り付けられる。
3. 流体ダンパ.
操作反力付与装置20の後方には、シャフト22の回転速度に応じた粘性抵抗力、つまりステアリングホイール14になされた操舵操作の速度に応じた粘性抵抗力を発生する流体ダンパ32が設けられている。その流体ダンパ32は、シャフト22に相対回転不能に固定された円板状の回転板110,回転板110を覆うダンパ・ハウジング112,およびそのダンパ・ハウジング112内に充填された抵抗力発生流体たるシリコンオイル114を含んで構成されている。ダンパ・ハウジング112は、外形形状が概ね短円筒状をなし、固定部材120によって反力モータ30に相対回転不能に固定されている。そのダンパ・ハウジング112の中央に設けられた軸方向の軸穴を挿通させられたシャフト22が、軸受130を介して回転可能に保持される構造となっている。なお、軸穴には、内周面に沿って環状のシールリング134が嵌められており、ダンパ・ハウジング112の内部が液密に保たれている。回転板110は、内周部がボス部とされ、そのボス部においてシャフト22に外嵌する状態でシャフト22に固定されている。
回転板110は、シャフト22と一体的に回転し、操作時にダンパ・ハウジング112に対して相対回転するようにされている。すなわち、回転板110は、シャフト22を介して間接的にステアリングホイール14に連結され、ステアリングホイール14と連係して動くようにされているのである。すなわち、流体ダンパ32は、ステアリングホイール14と一体的に回転する回転板110と、車体に固定されたダンパ・ハウジング112との相対回転によってシリコンオイル114の粘性抵抗力を発生させる機構である。
4. 反力モータ.
反力モータ30は、ディスク状の電機子をロータとするいわゆるプリントモータと呼ばれる電磁式モータであり、扁平な形状をなしている。反力モータ30は、モータハウジング262を有し、出力軸としての概ね円筒形状をなす短いモータ軸264が、モータハウジング262の中央に形成された軸保持穴270において、軸受272を介して、モータハウジング262に回転可能に保持されている。本反力モータ30では、2枚のロータ274が、互いに離間する状態で、モータ軸264の外周部に相対回転不能に固定して設けられている。ロータ274は、一般的なプリントモータが備えるものと同様のものであるため説明は簡単なものに留めるが、コイル線を形成するように打ち抜かれた銅薄板が絶縁板を介して積層され、形成されたコイル線のいくつかのものどうしが電気的な導通を確保されることで、平板に形成されたコイルを有する構造とされている。2枚のロータ274の間には、ステータとしての比較的薄い環状をなす永久磁石280が、2つのロータ274のそれぞれと小さい隙間を有する状態で、自身の外周がモータハウジング262に固定されて保持されている。この永久磁石280も、通常のプリントモータが備えるものと同様のものである。2枚のロータ274の各々への通電は、各々のロータ274の表面に形成されたコイル線の一部分をコミュテータとして、各々2つのブラシ282によって行われる。
反力モータ30は、弾性力発生機構24に固定されている。詳しく言えば、自身のモータハウジング262と弾性力発生機構24の前端部の外面とが固定部材290によって接続されることで、弾性力発生機構24に固定されている。なお、モータハウジング262の後方側面と、流体ダンパ32のダンパ・ハウジング112の前方側面とが固定部材120によって接続されており、流体ダンパ32は反力モータ30および弾性力発生機構24と相対回転不能に固定されている。反力モータ30はモータハウジング262が固定される一方、モータ軸264には、シャフト22が、相対回転不能な状態で嵌入させられている。このような構造により、反力モータ30が回転することで、厳密に言えば、ロータ274が回転することで、シャフト22が回転するようにされている。つまり、反力モータ30の回転力(トルク)は、シャフト22に接続されたステアリングホイール14の回転力として伝達される。運転者のステアリングホイール14の回転操作とは反対の方向に回転力を与えることで、操作反力が付与され、運転者の回転操作と同方向に回転力を与えることで、運転者の操作が助勢されるのである。
本反力モータ30は、ロータ274がコアを有していないため、比較的イナーシャが小さく、また、ロータ274への非通電時において永久磁石280の磁力がロータ274に作用することがなく、ステアリング操作におけるフィーリングに殆ど悪影響を与えない。また、2つのロータ274は、互いのトルクリップルが打ち消されるように位相をずらして設けられているため、円滑な回転が担保されている。つまり、本反力モータ30を用いることにより、操作フィーリングが良好な操作装置が実現するのである。さらに、本反力モータ30は、2つのロータ274が冗長化された状態にあり、一方の失陥によっても、モータの機能を喪失することがなく、信頼性が高いモータとされている。
5. 弾性力発生機構.
弾性力発生機構24は、ステアリングホイール14が中立位置からいずれかの方向に回転操作させられると、その操作角度に応じてステアリングホイール14の操作位置を中立位置に向かって変化させる弾性力を発生させる機構であり、ステアリングホイール14にシャフト22を介して連結されている。そのシャフト22は、後方端部を除き中空とされており、後端部である小径部326の外周には、セレーションが形成され、その小径部326が、ステアリングホイール14のボス部と嵌合するようにされている。弾性力発生機構24の弾性機構ハウジング100は、円筒形状をなしており、両端部の各々に端部部材328が、固定的に付設されている。シャフト22は、それら両端の端部部材328の各々に、軸受330を介して相対回転可能に保持されている。なお、シャフト22は、弾性機構ハウジング100内の部分にベアリングボールが嵌り込む雄ねじ332が形成され、ボールねじとして機能するものとなっている。
弾性機構ハウジング100内には、シャフト22を挿通させる状態で前後に移動する移動体としてのスライド部材334が設けられている。スライド部材334の外周部にはキー336が付設されており、そのキー336は、ハウジング312の内周面に形成されたキー溝338と緩やかに嵌合している。このキー336およびキー溝338により、スライド部材334は、弾性機構ハウジング100との相対回転を禁止される。また、スライド部材334の内周部には、ねじ溝に沿って周回するベアリングボールが保持されており、スライド部材334は、ボールナットとして機能するものとされている。このスライド部材334の内周部は、シャフト22の雄ねじ332と噛合しており、シャフト22とスライド部材334とでボールねじ機構が構成されている。ステアリングホイール14の回転操作に応じて回転軸としてのシャフト22が回転させられれば、その回転に応じてスライド部材334は、シャフト22に規定される軌道に沿って前後方向に移動する。ちなみに、車両が左旋回するようにステアリングホイール14を操作すれば、スライド部材334は、図に示す中立位置から前方へ移動し、右旋回するように操作すれば、後方に移動する。なお、スライド部材334の移動量は、ステアリングホイール14の操作量に応じたものとなる。
弾性機構ハウジング100内部の両端部の各々には、弾性体である圧縮コイルスプリング340を支持する支持部材342が配設されている、支持部材342は、円筒部344とシャフト22を挿通させる挿通穴が形成された底部346とからなる有底円筒形状をなし、底部346の外面を端部部材328に当接する状態で配設されている。一方、スライド部材334は、両端部の各々に、比較的短い長さの円筒部348が形成されている。スライド部材334の前後方向の移動は、自身の円筒部348の端部が支持部材342の円筒部344の開口端部に当接することによって規制される。
2つのスプリング340の各々は、図に示す中立位置において、ともに縮められており、伸長方向の弾性力を発生するものとされている。したがって、それらの弾性力は、スライド部材334を付勢する付勢力として作用することになる。ステアリングホイール14を回転操作した場合にその操作角に応じて、スライド部材334が移動させられるため、移動方向側のスプリング340による付勢力が反対側のスプリング340による付勢力より大きくなる。この付勢力の差が、スライド部材334の移動に対する弾性抵抗力を発生させ、その弾性抵抗力がステアリング操作に対する抵抗力として作用することで、弾性力発生機構24は、弾性抵抗力発生機構として機能するものとなっている。また、上記2つのスプリング340の構成が同じものとされていることで、スライド部材334が図に示す中立位置に位置する状態において、2つのスプリング340の各々の付勢力は釣り合うものとなっている。ステアリングホイール14が操作されていない状態において、それら付勢力の釣合いによりステアリングホイール14は中立位置に保持される。
6. センサ.
操作位置センサ36は、抵抗式のセンサとされている。弾性機構ハウジング100には、図面上方のキー336が移動するキー溝338に連続する長穴380が軸方向に延びた状態で設けられている。一方、図面上方に位置するキー336のシャフト22と反対側には導電性のばね部材382が取り付けられており、そのばね部材382は長穴380を貫通して操作位置センサ36に接触させられている。そのばね部材382は、キー336がスライド部材334とともに軸方向に移動するのに伴い、操作位置センサ36と接触しつつ摺動させられる。操作位置センサ36は、ばね部材382の位置の変化に応じて、抵抗値が変化することに基づいて操作位置を検出するのである。また、ステアリングホイール14が中立位置に位置する際の抵抗値は既知であり、操作位置センサ36は絶対位置センサとして機能する。
本実施例において、シャフト22のステアリングホイール14側の端部には、運転者によってステアリングホイール14に加えられる力を取得するためにシャフト22の撓みを検出するシャフト撓みセンサ390が設けられている。すなわち、シャフト22の端部に、肉厚が他と比べて薄くされて比較的撓みやすい低剛性部392が設けられており、その低剛性部392の外周にシャフト撓みセンサ390が配設されているのである。そのシャフト撓みセンサ390は、本実施例において、低剛性部392の撓み量(曲げ方向、捻れ方向の撓み)を検出する歪みゲージを複数備えており、それら複数の歪みゲージが低剛性部392の外周に等角度間隔に配置されている。そして、それら複数の歪みゲージの検出信号に基づいて低剛性部392の捻れ量,曲がり量を取得することができる。すなわち、低剛性部392の捻れ量に基づいて「操作トルク」が取得され、曲がり量に基づいて「曲げ力」が取得される。「操作トルク」は、運転者の操作力のうち、ステアリングホイール14を回転させるように作用する力であり、「曲げ力」は、操作力のうち、ステアリングホイール14を回転させる以外に作用する力であり、ステアリングホイール14の回転軸線と交差する方向に作用する力である。その曲げ力が低剛性部392に作用するのは、運転者がステアリングホイール14を保舵し、あるいは操舵操作する際に、純粋にステアリングホイール14を回転させるように力を加えることは困難であり、通常、回転させるだけでなく、ステアリングホイール14を下向き,横向き等に移動させる力が加わるからである。
また、ステアリングホイール14の円環部には、全周にわたって感圧センサ396が配設されており、運転者がステアリングホイール14を握ったことが検知される。感圧センサ396は、例えば、静電容量式触覚センサ,感圧導電性エラストマーセンサ等のセンサとすることができる。
7. 電子制御ユニット.
本ステアリングシステムは、自身が備えるステアリング電子制御ユニット400(ステアリングECU、以下、単に「ECU400」という場合がある)によって制御される。ECU400は、コンピュータを主体として、各種モータ,各種電磁アクチュエータ等を駆動する駆動回路等を含んで構成されている。ECU400には、操作位置センサ36,転舵位置センサ88,シャフト撓みセンサ390,車速度センサ402等の各種センサが接続されている。さらにまた、ECU400には、運転者に対して各種の情報を表示するモニタ404が接続されている。ECU400の駆動回路には、反力モータ30、転舵モータ76、電磁クラッチ44等が接続されている。なお、ECU400は、図示を省略するものを含め、各種装置,各種センサからの信号に基づいて、イグニッションスイッチ(IGN)406のON/OFF,ブレーキ,ウインカ等の状態を取得することができる。
図3に、ECU400の機能ブロック図を示す。なお、ECU400の構成部分がこの図に示すように明確に分かれているわけではないが、ECU400の機能を理解し易くするためにこのような図とした。本実施例において、ECU400は、ROM(リードオンリメモリ),RAM(ランダムアクセスメモリ)等の記憶装置を含んで構成された「記憶部410」を備えており、その記憶部410には、各種のプログラムおよび各種のデータが記録されている。例えば、車輪転舵制御プログラム,操作反力制御プログラム,起動時操作位置制御プログラム,停止時転舵位置制御プログラム,保舵条件判定プログラム等のプログラムが記憶されている。そして、ECU400は、それら各種のプログラムをコンピュータによって実行することにより、以下に述べる各種の機能部が有する機能を発揮する構造とされている。すなわち、本実施例において、ECU400が各種プログラムを実行することによって行われる処理が、それらプログラムに対応する各種機能部によって行われる処理なのである。また、逆に、各種機能部によって行われる処理は、ECU400が、その機能部に対応するプログラムを実行することによって行われるのである。
ECU400は、「転舵装置制御部412」を備えている。ECU400は、転舵装置制御部412により、すなわち、「車輪転舵制御プログラム」を実行することにより、転舵モータ76を制御して操舵操作に応じた車輪16の転舵を行うのである。具体的には、転舵装置制御部412は、操作位置センサ36の検出信号に基づいて取得された操作位置から目標転舵位置を決定する。そして、転舵位置センサ88の検出信号に基づいて取得された実転舵位置と、目標転舵位置との偏差を減少させるように転舵モータ76に電力を供給し、車輪16の転舵を行う。
また、ECU400は、「操作反力制御部420」を備えている。ECU400は、操作反力制御部420により、すなわち、「操作反力制御プログラム」を実行することにより、反力モータ30を制御してステアリングホイール14に適切な操作反力を付与する。その操作反力制御部420は、反力モータ30の駆動力を決定する「モータ駆動力制御部422」と、操作位置に基づいて弾性力発生機構24が発生する弾性力を推定する「弾性力推定部424」と、操作速度に基づいて流体ダンパ32が発生する粘性抵抗力を推定する「粘性抵抗力推定部426」とを備えている。ここで、弾性力および粘性抵抗力の推定について説明する。予め試験測定によって操作位置に対応した弾性力値と操作速度に対応した粘性抵抗力値とが取得され、その操作位置等と測定値との関係が記憶部410に記憶されている。弾性力推定部424および粘性抵抗力推定部426の各々は、現時点での操作位置,操作速度に対応する弾性力値,粘性抵抗力値を記憶部410から読み出して、それらが現時点の弾性力,粘性抵抗力の大きさであると推定するのである。
モータ駆動力制御部422は、通常時において反力モータ30の駆動力を決定する「通常時駆動力決定部430」と、ステアリングホイール14の変位を禁止するための駆動力を決定する「変位禁止時駆動力決定部432」とを備えている。通常時駆動力決定部430は、極短時間毎に、操作位置,操作速度,車速度等に応じて予め設定された目標反力を記憶部410から読み出して取得し、ステアリングホイール14に目標反力が付与されるように反力モータ30の駆動力を決定する。その際には、モータ駆動力と、弾性力推定部424によって推定された弾性力と、粘性抵抗力推定部426によって推定された粘性抵抗力との合計が目標反力となるように反力モータ30の駆動力の大きさが決定されるのである。
一方、変位禁止時駆動力決定部432は、極短時間毎に、弾性力推定部424によって推定された弾性力に応じて反力モータ30の駆動力の大きさを決定する。具体的には、ステアリングホイール14の変位を禁止するために、反力モータ30の駆動力の大きさが、弾性力と逆向きで同じ大きさになるように、すなわち、弾性力と釣り合うように決定される。また、操作位置の微少な変化に伴い駆動力が微調整され、ステアリングホイール14の変位が禁止される。すなわち、操作反力制御部420は、反力モータ30の駆動力の大きさが、変位禁止時駆動力決定部432によって決定された駆動力の大きさになるように制御することにより、ステアリングホイール14の変位を禁止する制御である変位禁止制御を行い、変位禁止状態を実現するのである。なお、反力モータ30の駆動力の大きさは弾性力と釣り合うように制御されているため、運転者によって操舵操作がなされた際にはステアリングホイール14が比較的容易に変位する。
また、ECU400は、IGN406のON/OFF時、つまり、車両の動力(エンジン等)起動時あるいは動力停止時に操作位置や転舵位置の制御を行う「動力起動・停止時処理部440」を備えている。その動力起動・停止時処理部440は、動力起動時にステアリングホイール14の操作位置を制御する「起動時操作位置制御部442」と、動力停止時に車輪16の転舵位置を制御する「停止時転舵位置制御部444」とを有している。起動時操作位置制御部442の処理は、ECU400によって、「起動時操作位置制御プログラム」が実行されることによって行われる。また、停止時転舵位置制御部444の処理は、ECU400によって、「停止時転舵位置制御プログラム」が実行されることによって行われる。なお、それらのプログラムの詳細は後述する。
また、ECU400は、運転時にステアリングホイール14を保舵すべき条件が満たされたことを判定する「運転時保舵条件判定部450」を備えている。その運転時保舵条件判定部450の処理は、ECU400によって、「保舵条件判定プログラム」が実行されることによって行われる。運転時保舵条件判定部450は、ステアリングホイール14が運転者によって保持されていない状態である非保持状態を認識する「非保持状態認識部452」と、車両が旋回状態のまま停車(あるいは比較的低速走行)している状態等を認識する「操作位置維持状態認識部454」とを有している。なお、保舵条件判定プログラムや非保持状態認識部452等の詳細は後述する。
なお、本実施例において、車両の動力停止時には、ステアリングホイール14と転舵装置60とが機械的に連結されている。そして、IGN406がONにされて動力が起動した場合には、ECU400の制御により、起動時操作位置制御プログラムが実行される前に、電磁クラッチ44が励磁状態とされ、ステアリングホイール14と転舵装置60とが非連結状態にされる。また、IGN406がOFFにされて動力が停止した場合には、ECU400の制御により、停止時転舵位置制御プログラムが実行された後に、電磁クラッチ44が消磁状態とされてステアリングホイール14と転舵装置60とが連結状態にされる。
8. 起動時操作位置制御プログラム.
図4に「起動時操作位置制御プログラム」のフローチャートを示す。起動時操作位置制御プログラムは、動力起動直後に、ECU400によって、定められた処理が完了するまで極短時間毎に繰り返し実行される。動力起動直後は、転舵装置制御部412による転舵モータ76の制御によって車輪16が転舵されないようにされており、その前に起動時操作位置制御部442による処理、すなわち起動時操作位置制御プログラムが実行されて所定の処理が行われる。ステップ11(以後、ステップ11を「S11」と略記し、他のステップについても同様とする)において、操作位置センサ36,転舵位置センサ88の各々の検出信号に基づいて、それぞれステアリングホイール14の操作位置,車輪16の転舵位置が取得される。また、ステアリングホイール14の操作位置の変化に基づいて、操作速度が取得される。
S12において、取得された操作位置と転舵位置とが合致しているか否かが判定される。操作位置と転舵位置とが合致していない場合には、S13〜S16において、ステアリングホイール14の操作位置を反力モータ30の駆動力によって変化させ、転舵位置と等しくなるようにする処理が行われる。具体的には、S13において、ステアリングホイール14の操作位置が変化していない場合に、S14〜S16の処理が行われる。S14の判定において、ステアリングホイール作動報知が行われていない場合に、S15においてステアリングホイール作動報知が開始される。そのステアリングホイール作動報知において、ブザー,モニタ404等によって運転者の操作無しにステアリングホイール14が作動することが運転者に報知されるとともに、ステアリングホイール14に触れないように注意が促される。その後、S16において、操作反力制御部420に、ステアリングホイール14の操作位置を、転舵位置と合致する操作位置まで変化させる要求がなされる。その要求を受けた操作反力制御部420により、反力モータ30が駆動され、ステアリングホイール14の操作位置が、転舵位置と合致する操作位置まで変化させられる。
反力モータ30によってステアリングホイール14が変位させられ、S12において、操作位置と転舵位置とが合致したと判断された場合には、S17において、操作反力制御部420にステアリングホイール14の変位を禁止する制御を行うように要求する「変位禁止要求フラグ」がON状態にされる。操作反力制御部420は、その「変位禁止要求フラグ」を参照しており、そのフラグがON状態であった場合に、反力モータ30の駆動力の大きさが、変位禁止時駆動力決定部432によって決定された大きさになるように反力モータ30を制御する。そのため、弾性力が反力モータ30の駆動力によって打ち消されてステアリングホイール14に作用しなくなり、ステアリングホイール14の操作位置が変化しない状態にされる。その後、S18の起動時制御完了処理において、ステアリングホイール作動報知が解除されるとともに、変位禁止要求フラグがOFF状態にされ、起動時操作位置制御が完了したことを示すフラグがON状態にされる。そのフラグがON状態にされると、転舵装置制御部412,操作反力制御部420等によって、通常の制御が開始される。なお、操作反力制御部420は、変位禁止要求フラグがOFF状態にされても変位禁止制御を継続して行い、運転者によって操舵操作がなされると変位禁止制御が解除され、通常の制御が行われるようにされている。
上記起動時操作位置制御のS17における変位禁止制御要求は、起動時操作位置制御が完了した後に反力モータ30の駆動力が0にされ、弾性力によってステアリングホイール14が中立位置に戻らないようにするためになされている。それは、起動時に車輪16の転舵位置が直進位置ではない場合には、中立位置に位置するステアリングホイール14が転舵位置に合致する操作位置まで変化させられ、弾性力の作用を受けるからである。すなわち、起動時操作位置制御において、ステアリングホイール14が、転舵位置と合致する操作位置に位置させられた状態が、「操作位置を一定に維持すべき」状態の一例である。
9. 保舵条件判定プログラム.
図5に、保舵条件判定プログラムのフローチャートを示す。その保舵条件判定プログラムは、起動時操作位置制御が完了した後、動力が停止するまで、ECU400によって極短時間毎に繰り返し実行される。ECU400は、保舵条件判定プログラムを実行することにより、すなわち、運転時保舵条件判定部450により、運転時(停車状態含む)に、操作位置を一定に維持すべき条件である保舵条件が満たされたか否かを判定する。操作反力制御部420は、保舵条件が満たされた場合に、通常時制御から変位禁止制御への切り換えを行う。以下に、保舵条件判定プログラムについて詳細に説明する。
S31において、操作位置,操作速度,車速度,操作力,および感圧検出値が取得される。車速度は車速度センサ402の検出信号に基づいて、操作力はシャフト撓みセンサ390の検出信号に基づいて、感圧検出値は感圧センサ396の検出信号に基づいて、それぞれ取得される。操作力は、前述のように、運転者がステアリングホイール14を回転させようとする操作トルク、およびステアリングホイール14を握って操作する際(保舵操作も含む)に、ステアリングホイール14をその回転軸線と交差する方向へ移動させるように作用する力であって、結果的に低剛性部392を曲げるように作用する力である「曲げ力」が取得される。なお、操作トルクは、運転者がシャフト22を回転させる力と、操作反力とによってシャフト22の低剛性部392が捻られた量に基づいて取得される。
S32において、車速度が設定速度(例えば、10km/h)より小さい場合に、S33において非保持状態であるか否かが判定される。その非保持状態は、ステアリングホイール14が運転者によって保持されていない状態(運転者がステアリングホイール14から手を離した状態)である。運転者によってステアリングホイール14が保持されている場合には、例えば、運転者がステアリングホイール14を握っていることが感圧センサ396によって検出され、感圧検出値が変化する。また、例えば、シャフト22の低剛性部392に加わる曲げ力がシャフト撓みセンサ390によって検出される。さらにまた、例えば、操作トルクや操作位置の変化の状態(例えば、操作トルクの変化速度,ステアリングホイール14の角加速度等)が、弾性力と粘性抵抗力との作用によってステアリングホイール14が中立位置に復帰する場合と異なった挙動をする。以上のような事象のうちの少なくとも1つの事象に基づいて、運転者によってステアリングホイール14が保持されていないと判定された場合に、非保持状態であると認識される。そして、S33において、非保持状態であると判定された場合はS34においてカウンタCaが1増加させられ、非保持状態でないと判定された場合はS35においてカウンタCaが0にされる。
さらに、S36において操作位置維持状態であるか否かが判定される。操作位置維持状態は、現時点においてステアリングホイール14が位置する操作位置に、その後も維持されると予測される状態である。具体的には、例えば、ステアリングホイール14が右方向のある操作位置に保舵された状態で、右折のウインカがON状態にされて停車している場合は、交差点等で右折待ちをしており、例えば、信号が変わるまでの間はその操作位置に維持されると予測される。すなわち、操作位置維持状態であると認識される。また、例えば、現時点から設定時間前までの間の平均時速が比較的低速(例えば、10km/h以下)で、また、現時点から設定時間前までの間に操舵操作がなされる頻度(ステアリングホイール14の操作位置が設定量以上変化した回数,設定量以上変化している時間の合計等)が少なく、かつ、ステアリングホイール14の操作位置が左右いずれかのある操作位置に保舵されていた場合には、渋滞等の要因によってカーブを旋回する途中で徐行や停車をしているような状態であると考えられ、その後もその状態が維持される可能性が高い。すなわち、操作位置維持状態であると認識することができる。以上のような事象のうちの少なくとも1つの事象に基づいて、操作位置維持状態が認識されるのである。そして、S36において、操作位置維持状態であると認識された場合には、S37においてカウンタCbが1増加させられ、一方、操作位置維持状態でないと判定された場合は、S38においてカウンタCbが0にされる。なお、S32において車速度が設定速度以上であった場合は、S39においてカウンタCa,Cbの両者が0にされる。
本保舵条件判定プログラムが極短時間毎に繰り返し実行され、車速度が設定速度より小さい状態で、非保持状態,あるいは操作位置維持状態が維持された状態が設定時間継続すると、カウンタCaが設定値Naを超え、あるいはカウンタCbが設定値Nbを超えて、S40の判定がYESになり、S41において操作反力制御部420に変位禁止制御を要求する「変位禁止要求フラグ」がON状態にされる。一方、カウンタCa,Cbのいずれもが、それぞれ設定値Na,Nbを超えていない場合は、S40の判定がNOになり、S42において変位禁止要求フラグがOFF状態にされる。
操作反力制御部420は「変位禁止要求フラグ」を参照しており、そのフラグがON状態である場合には、操作反力制御部420によって変位禁止制御がなされる。なお、操作反力制御部420は、変位禁止制御において操舵操作がなされると、変位禁止制御から通常時制御に切り換える。その際に、変位禁止制御において操舵操作がなされたことは、操作位置が設定量以上変化したこと,操作トルクの大きさが設定値を超えたこと等に基づいて認識される。すなわち、操作反力制御部420は、通常時制御を行っている状態において、変位禁止要求フラグがON状態になると変位禁止制御を行う一方、変位禁止制御を行っている状態において操舵操作がなされた場合には、変位禁止要求フラグがON状態であるか否かにかかわらず変位禁止制御から通常時制御に切り換えるようにされているのである。なお、操作反力制御部420を、変位禁止制御を行っている状態において、変位禁止要求フラグがOFF状態になると通常時制御を行うようにすることもできる。
10. 動力停止時転舵位置制御プログラム.
図6に、動力停止時転舵位置制御プログラムのフローチャートを示す。動力停止時転舵位置制御プログラムは、動力停止直後に、ECU400によって、定められた処理が完了するまで極短時間毎に繰り返し実行される。動力停止後において、転舵装置制御部412は操作位置に応じて車輪16を転舵しないようにされており、手を離されたステアリングホイール14が弾性力の作用によって中立位置に復帰しても、車輪16は転舵されない。そのため、動力停止後には、ステアリングホイール14が概ね中立位置に位置して停止した後に、車輪16の転舵位置を操作位置に対応する位置に位置させる処理が行われる。そうすることによって、動力起動前に、既に操作位置と転舵位置とが合致した状態を実現することができるのである。
S51において、後の処理でステアリングホイール14が中立位置に位置していない場合等にスタートさせられるタイマが参照され、そのタイマが停止している場合、または、タイマの計測時間が後述する設定時間Bを超えた場合に判定がYESとされてS52の処理が行われる。一方、S51において、タイマの計測時間が、設定時間B以下である場合に判定がNOとされて、本プログラムの一回の実行が終了する。S52において、ステアリングホイール14の操作位置および操作速度が取得され、S53において、ステアリングホイール14が停止したか否か、および、その操作位置が設定操作位置Aよりも中立位置に近いか否が判定される。設定操作位置Aは、中立位置の近傍の操作位置(例えば、中立位置から3度程度)になるように設定されており、S53の条件が満たされない場合は、ステアリングホイール14がまだ停止していないか、あるいは中立位置に位置していないとみなされて、S54においてタイマがスタートさせられる。タイマがスタートさせられた後、その計測時間が設定時間B以下の間は、S51の判定がNOとされてS52〜S57の処理がスキップされる。一方、計測時間が設定時間Bを超えると判定がYESになり、S52において再度操作位置が取得される。なお、設定時間Bは、手を離された操作位置に拘わらず、ステアリングホイール14が中立位置に復帰することができるように設定されている。
S53において、ステアリングホイール14が中立位置あるいはその近傍の操作位置に停止していると判定されると、S55において操作位置と転舵位置とが合致しているか否かが判定される。合致していない場合は、S56において転舵位置を操作位置に合致させるべく、転舵装置制御部412に車輪16を転舵させる要求がなされる。なお、すでに要求がなされていた場合は、その状態が継続される。その後、車輪16が転舵され、S55において操作位置と転舵位置とが合致すると判定された場合に、S57の完了処理が行われる。その完了処理において、タイマが停止させられるとともに計測時間が0にリセットされ、また、ハンドルロック等の処理がなされる。ハンドルロックは、盗難防止等の目的で、動力停止時においてステアリングホイール14が回転しないように機械的にロックするものである。また、完了処理において、電磁クラッチ44が消磁状態にされ、操作部10と転舵部12とが連結状態にされる。
なお、転舵位置を操作位置に合致させる際に、車両の停車状況によっては、車輪16が縁石等に当たって目的の転舵位置まで転舵させることができない場合がありうる。そういった場合には、図示を省略したエラー処理によって、例えば、車輪16の転舵が設定時間以上行われていること、転舵モータ76の負荷が設定値を超えていること等に基づいて、転舵の障害物があると判断される。その場合には、車輪16を元の転舵位置に戻す処理がなされてから、本プログラムの実行が終了するようにされている。なお、動力停止時において、仮に操作位置と転舵位置とが合致しない状態になったとしても、動力起動直後に行われる起動時操作位置制御によって、運転開始前に操作位置が転舵位置に合致させられる。
本実施例において、操作反力制御部420は、例えば、保舵条件判定プログラムによって変位禁止要求フラグがON状態にされた場合に変位禁止制御を行うようにされている。その様な場合の他に、例えば、運転者がスイッチを入れることでも変位禁止制御が行われるようにされている。ステアリングホイール14には保舵スイッチ500が取り付けられており、操作反力制御部420は、その保舵スイッチ500が設定時間(例えば、2秒程度)押し続けられた場合に変位禁止制御を行うようにされているのである。また、前述したように、変位禁止制御を行っている状態において操舵操作がなされた場合は、通常時制御を行うようにされている。
本実施例において、反力モータ30を含んで「ステアリングホイール14の操作位置の変化の抵抗となる抵抗力を発生させる抵抗力発生機構」が構成されている。また、ECU400の操作反力制御部420を含んで「変位禁止状態を実現すべく抵抗力発生機構を制御する抵抗力発生機構制御装置」が構成されている。なお、本実施例の流体ダンパ32は、粘性抵抗力を発生する機構であるが、ステアリングホイール14の変位を禁止できる態様ではないため、本発明における「抵抗力発生機構」には該当しない。逆に、流体ダンパ32を、例えば、抵抗力発生機構制御装置の制御によって、流体の粘度を変化させ、ステアリングホイール14の変位を禁止することができる態様とすることができる。その態様の流体ダンパは本発明における「抵抗力発生機構」に該当する。
本実施例において、反力モータ30の駆動力によってステアリングホイール14の変位が禁止されていたが、例えば、電磁クラッチ44をOFF状態にし、ステアリングホイール14を転舵装置60に連結することによってステアリングホイール14の変位を禁止することもできる。その場合には、反力モータ30に電力を供給することなしに変位禁止状態を実現することができ、比較的長い時間変位禁止状態が継続する場合等に好適である。その態様において、転舵装置60に連結された電磁クラッチ44が、本発明にいう「抵抗力発生機構」に該当する。
本実施例において、起動時操作位置制御と停止時転舵位置制御とが行われたが、いずれか一方だけ行われるようにすることもできる。
10:操作部 12:転舵部 14:ステアリングホイール 16:転舵車輪 18:連結部 20:操作反力付与装置 22:シャフト 24:弾性力発生機構 30:反力モータ 32:流体ダンパ 36:操作位置センサ 44:電磁クラッチ 60:転舵装置 88:転舵位置センサ 340:圧縮コイルスプリング(弾性体) 390:シャフト撓みセンサ 396:感圧センサ 400:ステアリング電子制御ユニット(ECU) 402:車速度センサ 420:操作反力制御部 422:モータ反力制御部 430:通常時駆動力制御部 432:変位禁止時駆動力制御部 450:運転時保舵条件判定部 452:非保持状態認識部 454:操作位置維持状態認識部