JP2006117446A - チタン酸バリウム粉末およびその製造方法 - Google Patents

チタン酸バリウム粉末およびその製造方法 Download PDF

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智志 和田
Takuya Hoshina
拓也 保科
Hiroaki Yasuno
宏明 安野
Masanori Oishi
真徳 大石
Hirobumi Kakemoto
博文 掛本
Takaaki Tsurumi
敬章 鶴見
Yoshitake Terashi
吉健 寺師
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Abstract

【課題】 本発明は、新規なチタン酸バリウム粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のチタン酸バリウム粉末は、平均粒子径が50〜215nmの範囲内にあり、比誘電率が、1800以上の範囲内にある。格子内水酸基の存在量は、赤外線吸収測定法または熱重量分析法の検出限界内である。Ba/Ti原子比は、有効数字3桁で1.00である。粒子は、内部が正方晶構造からなり、表面層が立方晶構造からなり、内部と表面層の間に、正方晶性(c/a比)が連続的に変化する構造変化層が存在する。本発明のチタン酸バリウム粉末の製造方法は、次の工程よりなる。蓚酸バリウムチタニル4水和物を空気中で加熱する第1の工程と、第1の工程により得られた生成物を減圧下で加熱する第2の工程と、第2の工程により得られた生成物を空気中で加熱する第3の工程である。
【選択図】 図9

Description

本発明は、誘電材料、圧電材料、半導体、その他各種電子材料の原料として用いられる有用なチタン酸バリウム粉末およびその製造方法に関する。
近年、電子デバイスの急速な小型化、高性能化、高信頼化に伴い、これを構成する素子や、それらの出発原料の微細化が求められてきている。例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC)に現在使用されている誘電体の厚さは700〜800nm程度であり、その原料となるBaTiO3微粒子の粒子径は300〜400nmであると報告されている。微細化技術はデバイス・機器の小型軽量化ばかりでなく、新材料、高機能材料創成さらには新しく生産方式まで一変させる可能性を有し、今後の大きなブレイクスルーテクノロジーとなる。
近年セラミックスも様々な形態となってデバイス化されている。近い将来、微粒子をその状態で用いたデバイスも開発されるだろうと期待できる。高周波で利用が期待されている微粒子とポリマーのコンポジット誘電体がその一例である。
従来の合成法の中で、不純物や欠陥のないチタン酸バリウム粒子を合成できる蓚酸バリウムチタニルの熱分解法を改良した合成方法が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、前述した従来のチタン酸バリウム粒子を合成する方法においては、平均粒子径が17〜22nmのチタン酸バリウム粒子を合成したに過ぎなかった。平均粒子径の範囲が狭いものであった。
そして、不純物や欠陥のないチタン酸バリウム粒子を合成できる方法を改良し更に発展させ、広い範囲にわたる平均粒子径を持つチタン酸バリウム粒子を合成する方法が報告されている(例えば、非特許文献1〜4参照。)。
なお、発明者らにより本発明に関連した報告がされている(非特許文献5,6参照)。
特開2003-26423号公報 日本セラミックス協会2003年年会講演予稿集、日本セラミックス協会2003年年会、3月22日-3月24日、八王子、東京 Annual Meeting Abstract, 105th Annual Meeting & Exposition, April 27 - April 30, 2003, Nashville, TN S. WADA, H. YASUNO, T. HOSHINA, S.-M. NAM, H. KAKEMOTO and T. TSURUMI, "Preparation of nm-sized Barium Titanate Fine Particles and Their Powder Dielectric Properties," Japanese Journal of Applied Physics, 42[9B] 6188-6195 (2003). Abstract Book of 106th Annual Meeting & Exposition of the American Ceramic Society, America Ceramic Society, April 18-21, 2004, Indianapolis, p.192-193. 第17回秋季シンポジウム講演予稿集、日本セラミックス協会、9月17日-9月19日、北陸先端科学技術大学院大学、p.66. 第17回秋季シンポジウム講演予稿集、日本セラミックス協会、9月17日-9月19日、北陸先端科学技術大学院大学、p.89.
しかしながら、前述した従来のチタン酸バリウム粒子の合成方法は、減圧下において高温で加熱する工程を含んでいる。このような条件で加熱することは、実験室レベルでは比較的容易であるが、工業生産レベルでは大きな設備と高額な設備費がかかる。したがって、この合成方法によりチタン酸バリウム粒子を工業的に大量生産することは、生産コストが非常に高くなるという問題がある。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規なチタン酸バリウム粉末を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規なチタン酸バリウム粉末の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のチタン酸バリウム粉末は、平均粒子径が50〜215nmの範囲内にあり、比誘電率が1800以上の範囲内にある。
ここで、チタン酸バリウム粉末は、格子内水酸基の存在量が、赤外線吸収測定法または熱重量分析法の検出限界内であることが好ましい。また、Ba/Ti原子比が、有効数字3桁で1.00であることが好ましい。また、相対密度が、97%以上の範囲内にあることが好ましい。また、立方晶に対する正方晶の質量比が、1.6〜3.1の範囲内にあることが好ましい。また、正方晶性(c/a比)が、1.0000〜1.0075の範囲内にあることが好ましい。また、粒子は、内部が正方晶構造からなり、表面層が立方晶構造からなり、前記内部と前記表面層の間に、正方晶性(c/a比)が連続的に変化する構造変化層が存在することが好ましい。ここでa,cとは、格子定数のことである。
本発明のチタン酸バリウム粉末の製造方法は、次の工程よりなる。(イ)バリウムおよびチタンを含む化合物を、空気中で加熱する第1の工程。(ロ)前記第1の工程により得られた生成物を、減圧下で加熱する第2の工程。(ハ)前記第2の工程により得られた生成物を、空気中で加熱する第3の工程。
ここで、チタン酸バリウム粉末の製造方法において、第1の工程の加熱温度は300〜550℃の範囲内にあり、第2の工程の加熱温度は600〜680℃の範囲内にあり、第3の工程の加熱温度は700〜1000℃の範囲内にあることが好ましい。また、チタン酸バリウム粉末の製造方法において、化合物は、蓚酸バリウムチタニル4水和物であることが好ましい。
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明は、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径が50〜215nmの範囲内にあり、チタン酸バリウム粉末の比誘電率が1800以上の範囲内にあるので、新規なチタン酸バリウム粉末を提供することができる。
本発明は、チタン酸バリウム粉末の製造方法が、バリウムおよびチタンを含む化合物を空気中で加熱する第1の工程、第1の工程により得られた生成物を減圧下で加熱する第2の工程、および第2の工程により得られた生成物を空気中で加熱する第3の工程からなるので、新規なチタン酸バリウム粉末の製造方法を提供することができる。
以下、チタン酸バリウム粉末およびその製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
まず、チタン酸バリウム粉末について説明する。
チタン酸バリウムの平均粒子径は、50〜215nmの範囲内にあることが好ましい。平均粒子径が50nm以上であると、チタン酸バリウム粒子における自発分極の大きさが、通常単結晶で報告されている自発分極に近い大きさを持つことができるという利点がある。平均粒子径が215nm以下であると、チタン酸バリウム粒子における自発分極が、室温における熱振動により等価な6方位間を高速でフリッピング(熱揺らぎ)することができるという利点がある。
チタン酸バリウムの比誘電率は、1800以上の範囲内にあることが好ましい。比誘電率が1800以上であると、高誘電率材料として広い範囲で利用できるという利点がある。
チタン酸バリウムの格子内に含まれる不純物の濃度は、1質量%以下であることが好ましい。不純物の濃度が1質量%以下であると、チタン酸バリウムの誘電率の起源であるイオン分極(格子振動)において、その振動を妨げる抵抗成分が少なくなるという利点がある。
チタン酸バリウムの格子内水酸基の存在量は、赤外線吸収測定法または熱重量分析法の検出限界内にあることが好ましい。水酸基の存在量が、赤外線吸収測定法または熱重量分析法の検出限界内であると、チタン酸バリウム結晶の格子内には不純物が存在しないことになり、格子振動を妨げる障害がなくなるという利点がある。
赤外線吸収測定法の検出限界とは、具体的には0.1%程度であると考えられる。熱重量分析法の検出限界とは、具体的には0.001%程度であると考えられる。
チタン酸バリウムのBa/Ti原子比は、有効数字3桁で1.00であることが好ましい。具体的には、波長分散型X線蛍光分析の測定精度から、チタン酸バリウムの格子内のBa/Ti原子比は0.995〜1.004の範囲にあることが好ましい。チタン酸バリウムのBa/Ti原子比が、この範囲にあると、チタン酸バリウム結晶格子内において、バリウム欠損やチタン欠損という格子振動の伝搬を阻害する箇所が十分に少なく、正常な格子振動とほぼ同様な振動状態を得られるという利点がある。
チタン酸バリウムの相対密度は、97%以上の範囲にあることが好ましい。相対密度が97%以上であると、チタン酸バリウム結晶内において格子振動の伝搬を阻害する空孔やボイドと呼ばれる空隙部分が少なく、正常な格子振動とほぼ同様な振動状態を得られるという利点がある。
チタン酸バリウムにおいて、立方晶に対する正方晶の質量比は、1.6〜3.1の範囲内にあることが好ましい。質量比が1.6〜3.1の範囲内にあると、粒子表面での表面立方晶厚みを8nm以下にできるという利点がある。
チタン酸バリウムにおいて、正方晶性(c/a比)は、1.0000〜1.0075の範囲内にあることが好ましい。正方晶性(c/a比)が1.0000〜1.0075の範囲内にあると、正方晶から立方晶への相転移による巨大誘電率の発現を引き起こせるという利点がある。
つぎに、チタン酸バリウム粉末の製造方法について説明する。
チタン酸バリウム粉末の製造方法は、次の工程よりなる。
第1の工程は、バリウムおよびチタンを含む化合物を、空気中で加熱する工程である。
第1の工程では、チタンイオンの価数を+4に保ったまま、CO2やH2O等の含有物を放出できると考えられる。
第1の工程では、バリウムおよびチタンを含む化合物として、蓚酸バリウムチタニル4水和物(例えばBaTiO(C2O4)2・4H2O)を好適に用いることができる。
第1の工程では、雰囲気が空気であることが好ましい。雰囲気が空気であると、純酸素の場合と比べて、雰囲気作りが容易である、製造コストを安く抑えることができる、可燃性などの事故を引き起こす要因を抑えられるという利点がある。
第1の工程の雰囲気は空気に限定されない。このほか、酸素、合成空気などを採用することができる。
第1の工程の加熱温度は300〜550℃の範囲にあることが好ましい。加熱温度が300℃以上であると、蓚酸バリウムチタニル4水和物の熱分解により、余分な水分や蓚酸を除去できるという利点がある。加熱温度が550℃以下であると、中間生成物が更に分解して、炭酸バリウムと酸化チタンという結晶材料に変換することを抑制できるという利点がある。
第1の工程の加熱時間は0.5〜5時間の範囲にあることが好ましい。加熱時間が0.5時間以上であると、蓚酸バリウムチタニル4水和物の熱分解を行うことができるという利点がある。加熱時間が5時間以下であると、中間生成物が更に分解して、炭酸バリウムと酸化チタンという結晶材料に変換することを抑制できるという利点がある。
第2の工程は、前記第1の工程により得られた生成物を、減圧下で加熱する工程である。
第2の工程では、減圧下でCO2を低温で放出できるため、低温でのチタン酸バリウムの生成とその粒成長を抑制できるため、チタン酸バリウムナノ粒子を生成できると考えられる。
第2の工程では、減圧下で加熱する。雰囲気は空気であり、圧力は13.3〜0.133Pa(1.0×10-1 〜1.0×10-3 Torr)の範囲にあることが好ましい。圧力が0.133Pa以上であると、高真空でないため、装置を簡略化できるという利点がある。圧力が13.3Pa以下であると、通常の大気中よりも300℃以上低い温度でチタン酸バリウム粒子を合成できるという利点がある。
第2の工程の加熱温度は600〜680℃の範囲内にあることが好ましい。加熱温度が600℃以上であると、CO2を完全に脱離させ、チタン酸バリウム単相のナノ粒子を生成できるという利点がある。加熱温度が680℃以下であると、チタン酸バリウムナノ粒子の粒成長を抑制できるという利点がある。
第2の工程の加熱時間は0.5〜5時間の範囲にあることが好ましい。加熱時間が0.5時間以上であると、CO2を完全に脱離させ、チタン酸バリウム単相のナノ粒子を生成できるという利点がある。加熱時間が5時間以下であると、チタン酸バリウムナノ粒子の粒成長を抑制できるという利点がある。
第3の工程は、前記第2の工程により得られた生成物を、空気中で加熱する工程である。
第3の工程では、空気中で行うことで、チタンイオンの再酸化を行うことで、チタンイオンの価数を+4に制御できると考えられる。
第3の工程では、雰囲気が空気であることが好ましい。雰囲気が空気であると、純酸素の場合と比べて、雰囲気作りが容易である、製造コストを安く抑えることができる、可燃性などの事故を引き起こす要因を抑えられるという利点がある。
第3の工程の雰囲気は空気に限定されない。このほか、酸素、合成空気などを採用することができる。
第3の工程の加熱温度は700〜1000℃の範囲内にあることが好ましい。加熱温度が700℃以上であると、チタンイオンの再酸化を十分に行えるという利点がある。加熱温度が1000℃以下であると、チタン酸バリウムの粒子径を430nm以下に押さえるという利点がある。
第3の工程の加熱時間は0.5〜5時間の範囲にあることが好ましい。加熱時間が0.5時間以上であると、チタンイオンの再酸化を十分に行えるという利点がある。加熱時間が5時間以下であると、チタン酸バリウムの粒子径を430nm以下に押さえるという利点がある。
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径が50〜215nmの範囲内にあり、チタン酸バリウム粉末の比誘電率が1800以上の範囲内にあるので、微粒で高誘電率の新規なチタン酸バリウム粉末を提供することができる。このように微粒化し、高誘電率化したチタン酸バリウム粉末を用いると、微粒子とその状態で用いた微粒子-ポリマーコンポジット誘電体等のデバイスに応用できる。
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、チタン酸バリウム粉末の製造方法が、バリウムおよびチタンを含む化合物を空気中で加熱する第1の工程、第1の工程により得られた生成物を減圧下で加熱する第2の工程、および第2の工程により得られた生成物を空気中で加熱する第3の工程からなるので、新規なチタン酸バリウム粉末の製造方法を提供することができる。また、高温で加熱する第3の工程を空気中で行うことができるので、チタン酸バリウム粒子を工業的に大量生産する場合、大きな設備と高額な設備費を必要とせず、生産コストを低く抑えることができる。
なお、本発明は前述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
試料の作製
本実施例で作製したチタン酸バリウム微粒子はつぎの方法で合成された。まず、原料として、蓚酸バリウムチタニル4水和物(BaTiO(C2O4)2・4H2O)を使用した。この原料は、Ba/Ti原子比が1.000であり、この中の不純物として考えられるSr、Si、Al、Na、Feがそれぞれ0.01%未満という非常に高純度の原料である。なお、原料粒子は、1次粒子が凝集した粒子で、その凝集粒子の大きさは約200μmである。この原料を用いて、蓚酸バリウムチタニルの3段階熱分解法を用いて、チタン酸バリウム粒子の合成を行った。
蓚酸バリウムチタニル4水和物50gを図1の装置を用いて、空気中、昇温速度3℃/minで500℃まで反応管中にある原料を石英製の棒状のロッドを用いて手で撹拌しながら加熱した。このときの温度は図1に示される熱電対1を用いて測定した。そして500℃に達した後、その温度で3時間保持した。ここまでが第1段階加熱の条件である。
その後、第2段階では、さらに真空排気(2.66Pa(2×10-2Torr))しながら(図2参照)、 4℃/minで650℃まで昇温後、3時間保持した。このときの温度もまた、図2中にある熱電対1を用いて測定した。なお、第1段階と第2段階での温度の測定位置は同じである。
その後、第3段階では、さらに図1の装置を用いて、空気中、4℃/minで700℃まで昇温後、3時間保持した。その後、電気炉の電源を切り室温まで徐令した。このときの温度もまた、図1中にある熱電対1を用いて測定した。
また、様々な粒子径を持つチタン酸バリウム粒子を作製するために、この第3段階での温度を760℃、800℃、850℃、900℃、1000℃に変えて、微粒子を作製した。
以降、各微粒子の名称を簡単のため、A-2(第3段階700℃処理)、A-3(第3段階760℃処理)、A-4(第3段階800℃処理)、A-5(第3段階850℃処理)、A-6(第3段階900℃処理)、A-7(第3段階1000℃処理)と呼ぶことにする。
これ以外にも、蓚酸バリウムチタニルの2段階熱分解法(非特許文献3等)を用いて、チタン酸バリウム粒子の合成を行った。
原料である蓚酸バリウムチタニル4水和物は前述のものを用いた。蓚酸バリウムチタニル4水和物50gを図1の装置を用いて、空気中、昇温速度3℃/minで500℃まで反応管中にある原料を石英製の棒状のロッドを用いて手で撹拌しながら加熱した。このときの温度は図1に示される熱電対1を用いて測定した。そして500℃に達した後、その温度で3時間保持した。ここまでが第1段階加熱の条件である。
その後、第2段階では、さらに真空排気(2.66Pa(2×10-2Torr))しながら(図2参照)、4℃/minで650℃まで昇温後、1時間保持した。その後、電気炉の電源を切り、排気しながら室温まで徐令した。この操作により、25g近いチタン酸バリウム粒子を合成した。このときの温度もまた、図2中にある熱電対1を用いて測定した。なお、第1段階と第2段階での温度の測定位置は同じである。
また、様々な粒子径を持つチタン酸バリウム粒子を作製するために、この第2段階での温度を840℃、860℃に変えて、微粒子を作製した。
以降、各微粒子の名称を簡単のため、A-1(第2段階650℃処理)、B-1(第2段階840℃処理)、B-2(第2段階860℃処理)と呼ぶことにする。
平均粒子径
測定方法
本実施例で作製したチタン酸バリウム粒子の粒子径については、透過型電子顕微鏡観察を行うことにより、決定した。まず、各チタン酸バリウム微粒子を1-プロパノール10ml中に数十mgほど加え、超音波ホモジナイザーを用いて十分に撹拌した。この低濃度の懸濁液を試料ホルダーである銅メッシュに滴下し、乾燥したものを試料とした。この試料を透過型電子顕微鏡にセットし、その明視野像を試料ごとに10枚近く撮影した。代表的なA-1、A-2、A-4、A-5、A-6、A-7の電子顕微鏡写真を図3に示す。それぞれの写真から、各試料について100個以上の粒子径を測定し、それを平均化したものを平均粒子径と定義した
測定結果
これらの測定結果をまとめたものが表1である。
Figure 2006117446
3段階熱分解法を用いて作製したチタン酸バリウム微粒子において、その形状はほぼ球状で、最も粒子径の小さな試料A-2の平均粒子径は40nmであり、一方最も粒子径の大きな試料A-7の平均粒子径は430nmであった。このことから、第3段階での熱処理温度の増加とともに平均粒子径は単調に増加することがわかる。
このことを確認するために、40nm〜430nmまでの大きさのチタン酸バリウム粒子の (111)面のX線回折ピークを測定した結果を図4に示す。表1の粒子径の増加とともに、図4のピークの半価幅が減少、すなわち結晶子径が単調に増大することが明らかとなった。
また、A-1、B-1、B-2についても同様な測定を行った結果、A-1の平均粒子径は17nm、B-1の平均粒子径は59nm、B-2の平均粒子径は68nmであることが明らかとなった。
不純物
測定方法
本実施例で作製したチタン酸バリウム粒子中に含まれる不純物については、赤外線吸収測定法、及び熱重量分析法を行うことにより、決定した。
赤外線吸収法では、まず各試料を100℃の乾燥機で一晩乾燥させた後、KBr粉末で1質量%の濃度で試料を加え、瑪瑙乳鉢を用いて十分に混合した後、ハンドプレス成型器を用いて、測定用のペレットを作製した。一方、試料を加えないKBr粉末のみでもペレットを作製し、これを参照試料として、各試料の赤外線吸収スペクトルを測定した。
また、熱重量分析法では、各試料を20mg正確に秤量した後、熱天秤の白金パンにセットし、室温から1000℃まで、昇温速度5℃/min、窒素中で測定を行った。
測定結果
赤外線吸収スペクトルでは、特に水酸基が格子内に存在するかどうかについて詳細に検討した。比較のため、格子内水酸基を1質量%近く含んでいる水熱法で合成した粒子径約100nmのチタン酸バリウム粒子を用いた。本実施例ではこの試料をH-1と命名する。
図5はA-1とH-1の全体的な赤外線吸収スペクトルを示す。両者とも不純物として、水酸基と炭酸基の2種類のみが存在し、それ以外には不純物は存在しない。チタン酸バリウムは大気中にさらすだけで、表面に水酸基や炭酸基が吸着することが知られており、表面吸着種と格子内不純物とを分離する必要がある。
図6はA-1とH-1の水酸基に関する赤外線吸収スペクトルを示す。KAPPHANとWEBER(S. KAPPHAN and G. WEBER, Ferroelectrics 37 (1981) 673.)はチタン酸バリウム単結晶に水素ラジカルを打ち込み、格子内に意図的に水酸基を導入したときの赤外線吸収スペクトルを測定した結果、3510cm-1付近に鋭い吸収帯が現れることを報告した。
図6では、A-1のスペクトルにおいて3440cm-1付近にピークを持つ非常にブロードな吸収帯のみが観察されるのに対し、H-1のスペクトルでは3440cm-1付近のブロードな吸収帯に加え、3510cm-1付近に鋭い吸収帯が存在する。3440cm-1付近のブロードな吸収帯は表面に吸着した水酸基によるものであることが知られており、表面の吸着サイトにおけるダングリングボンドの数により水酸基と表面の結合エネルギーが変わるため、このようなブロードな吸収帯を示す。従って、H-1には格子内水酸基が存在するのに対し、A-1ではその存在が観察されない。
チタン酸バリウム微粒子A-2〜A7、B-1、B-2についても、水酸基に関する赤外線吸収スペクトルを測定した。いずれの粒子においても、格子内水酸基は観察されなかった。従って、本実施例で合成したチタン酸バリウムには水熱法で観察される格子内水酸基は検出できないことが明らかとなった。
また、熱重量分析では不純物の存在量とその存在場所を推定することができる。そこで、ほぼ同じ100nmの粒子径を持つH-1とA-1を用いて熱重量分析を行った。A-1の結果を図7に示す。一般に、表面に吸着した化学種は、表面の吸着サイトにおけるダングリングボンドの数により表面との結合エネルギーが変わるため、広い温度範囲にわたって脱離することが知られている。そのため200℃付近までは物理吸着した化学種が急激に脱離した後、200℃から600℃まで、徐々に脱離が進行し、これにともない連続的な重量減少が起きる。これを考慮して図7を見ると、A-1では200℃から連続的な重量減少が起きており、特にある温度での急激な脱離は観察されない。チタン酸バリウム微粒子A-2〜A7、B-1、B-2についても、熱重量分析を行った。熱処理操作により、いずれの粒子においても重量減少はA-1より小さくなった。また、熱処理温度の増加とともに、重量減少は小さくなる傾向を示した。
これに対してH-1では260℃から400℃にかけて1%近い急激な重量減少が起こっており、このことはこの温度範囲で格子内の不純物が急激に脱離したことを示す。この温度前後での赤外線吸収スペクトルを測定すると、3510cm-1付近の吸収帯が消失していることから、この減少が格子内水酸基によるものであることが明らかとなった。また、炭酸基に関しては処理温度の増加とともに、赤外線吸収スペクトルの吸収帯の強度が単調に減少することから、炭酸基に関しては表面吸着種であることが明らかとなった。
以上、2種類の測定方法を組み合わせることで、本実施例で作製したチタン酸バリウム微粒子において、その格子内には不純物が検出でき難いことを明らかにした。一方、水熱法で作製した試料には格子内水酸基が1質量%近く存在することがわかった。
欠陥
測定方法
本実施例では、不純物による欠陥とチタン酸バリウムが持つ物理的な欠陥とを分けて考えている。前述の不純物の説明で、不純物による欠陥はほぼ無視できることを明らかにした。ここでは、チタン酸バリウム自体が持つ欠陥について検討する。このため、2つの方法を用いて検討した。1つはX線蛍光分析測定であり、もう1つは密度測定である。
X線蛍光分析測定では、試料粉末を両面テープに固定し、真空中におき、波長分散型X線蛍光分析により測定した。
一方、比重瓶法(ピクノメータ)により密度測定を行った。この方法では測定精度を上げるために大型の比重瓶を(50ml)を使用した。なお試料粉末は、測定前に一晩100℃で乾燥させた。この方法により測定した絶対密度だけでは比較が困難であるため、以下の方法で理論密度を算出した。まず、XRD測定より、結晶系と格子定数を測定した。これにより、チタン酸バリウム単位格子の体積を計算する。また、チタン酸バリウム単位格子中にはチタン原子1個、バリウム原子1個、酸素原子3個が含まれているため、単位格子の重さを計算する。従って、単位格子の重さを単位格子体積で割ることで理論密度を計算できる。それぞれの絶対密度を理論密度で割り、100を掛けることで相対密度を計算した。これにより、空孔などの物理的欠陥を推測した。
測定結果
波長分散型X線蛍光分析による測定は、3桁の有効数字を持っており、本実施例で作製したすべてのチタン酸バリウム微粒子(A-1、A-2、A-3、A-4、A-5、A-6、A-7、B-1、B-2)において1.00という値を得ることができた。従って、組成ずれについては考慮しないこととした。
ピクノメータにより、測定した各粒子の絶対密度、および理論密度を用いて計算した相対密度を表2に示す。
Figure 2006117446
表2より、いずれの粒子も、絶対密度で5.87g/cm3以上、相対密度で98%以上と、非常に緻密な粒子であることがわかる。一方、水熱法で作製したH-1は、その粒子径が100nmであったが、その相対密度は94.3%と低い値を示した。
以上の結果から、本実施例で作製したチタン酸バリウム粒子は、3桁の有効数字で組成的なずれを持たず、また98%以上の高い相対密度を持っている。
比誘電率
測定方法
粉体の比誘電率を正確に測定する技術はその困難さのため、これまで確立されなかった技術である。発明者は、この技術を開発し、公開した(S. WADA, T. HOSHINA, H. KAKEMOTO and T. TSURUMI, "Preparation of nm-ordered Barium Titanate Fine Particles using the 2-step Thermal Decomposition of Barium Titanyl Oxalate and Their Dielectric Properties," the Proceedings of the 12th IEEE International Symposium on Applications of Ferroelectrics, Nara, p. 263-p.266 (2002).)。
本実施例では、この粉体誘電率測定方法において、以下に示す幾つかの改良を行った。まず、本方法においてチタン酸バリウムは有機溶媒と混合し、懸濁液(スラリー)を作製する。公開した方法では有機溶媒として、1-プロパノール(比誘電率:約20)を使用していたが、本実施例では有機溶媒として、プロピレンカーボネート(比誘電率:約66)を使用した。これらのチタン酸バリウム粒子をプロピレンカーボネート溶媒中に、ほぼ10vol%になるような容量比で混合し、24時間以上ボールミル混合をすることで、スラリーを作製した。更に、スラリーの測定は恒温槽を用い、20.0℃で常に行い、また測定する周波数として従来の5MHzから20MHzへとより高周波数側にシフトした。
また、本方法で使用する有限要素法のモデルとして、公開した方法では立方体を要素として用い、1つのチタン酸バリウム粒子を1つの立方体で置き換えていたのに対し、本実施例では、四面体を要素として用い、1つのチタン酸バリウム粒状粒子を、多数の四面体を組み合わせて球に非常に近い多面体構造として置き換えた。これら一連の改良により、測定精度、計算精度ともに二桁近く向上させることができた。
粉体の比誘電率を測定する方法について具体的に説明する。
まず、分散媒の選択をする。スラリーを作製する際の分散媒は、ある程度誘電率の高いものを選ばなければならない。また、BaTiO3と反応することのない良質な分散媒である必要がある。このことを踏まえ、分散媒はプロピレンカーボネート脱水(ACROS)(誘電率ε=66.6)にした。
つぎに、スラリーを作製する。それぞれの微粒子を200℃で24h乾燥させた後、プロピレンカーボネート脱水を加え、体積分率を10vol%にしたものを24hボールミルにかけた。また、余ったスラリーを蒸発皿にとり正確な体積分率を求めた。
つぎに、スラリーの誘電率を測定する。スラリーの誘電率測定装置は、Agilent4294Aインピーダンスアナライザー、Agilent16452リキッドテストフィクスチャー(測定セル)、同軸ケーブルから成り、四端子測定が可能である。測定セルは水分の付着を極力避けるため、十分に乾燥させた後使用した。この装置を用いて、20.0℃、40Hz〜110MHzにおけるスラリーのインピーダンスと位相を測定した。また、恒温槽と冷却装置を用いて温度制御を行った。
なお、測定セルの補正にはオープン、ショート補正を行い、測定値の確度を上げるための基準物質として誘電率の分かっているシクロヘキサン脱水(関東化学)を測定した。
測定したインピーダンスと位相からスラリーのキャパシタンスを求め、周波数に対してプロットした。低周波と高周波において見かけの誘電率が変化している。低周波側の変化は電極分極現象、高周波側の変化は測定系の電気的共振によるものであり、どちらもスラリーの誘電率変化を表しているわけではない。スラリーの誘電率計算に用いた値は前後でそのような変化を受けない20MHzの値を用いた。なお、厳密な温度制御を行った今回の測定の精度は3桁目まで保証された。
つぎに、有限要素法によるモデル計算について説明する。
まず、スラリーのモデル化をする。粒子を球として分散媒中に存在するモデルを考える。粒子同士は最近接距離=粒子半径、として分散しており、分散量10vol%が厳密に守られている。これらの配置はすべてプログラム上で行った。
つぎに、有限要素法による計算を行う。有限要素法解析ソフト「ANSYS Emag ver6.1(サイバネットシステム)」を用い、静電場解析(要素タイプ:静電場、3D四面体)を行った。境界条件としてブロック上面をV1、下面をV0として、解析を実行した。得られた解析結果から、要素に蓄えられた電気エネルギーの総和Wを求め、次式を用いて電気容量Cを計算し、これを規格化して誘電率とした。
W=0.5C(V1-V0)2
微粒子部分の誘電率を適当に変え、プロピレンカーボネート中にその粒子が分散している場合、スラリーの誘電率がどのような値になるのかというシミュレーションを行った。
分散媒中に微粒子が120個分散させたモデルで計算を行った。メッシュを切るほどシミュレーションの値は小さくなるのだが(五回計算した平均値)、120個というのは十分にその平均値が飽和したため決定した個数である。なお、本実施例で使用したElementsは126530、Nodesは177127であった。
このようにして行ったシミュレーション結果と測定したスラリーの誘電率から各チタン酸バリウム微粒子の誘電率を求めた。
:測定結果
チタン酸バリウムスラリーを用いた比誘電率の測定結果は、77.8 (A-1)、82.1 (A-2)、85.9 (A-3)、89.3 (A-4)、90.8 (A-5)、88.7 (A-6)、88.5 (A-7)、86.0 (B-1)、91.5 (B-2)である。なお、この値は実験値であり、計算値ではない。チタン酸バリウムスラリー(A-1〜A-7)を用いた比誘電率の測定結果を、図8に示す。横軸に平均粒子径を、縦軸にスラリーの比誘電率を示す。図8より、215nm以上の粒子径を持つチタン酸バリウム粒子スラリーの比誘電率は88.5付近でほぼ一定であるのに対し、215nm以下の領域では粒子径の減少とともにスラリーの比誘電率が上昇し、140nmの平均粒子径でその比誘電率は約90.8まで上昇する。140nm以下では、粒子径の減少とともに比誘電率は減少し、17nmの粒子径でその比誘電率は約77.8まで減少する。
続いて、このスラリーの測定結果をもとに、有限要素法を用いてチタン酸バリウム粒子の比誘電率を計算した。計算した比誘電率の値は、表1に示すように230(A-1)、450(A-2)、2000(A-3)、2800(A-4)、5000(A-5)、1800(A-6)、1600(A-7)、2100(B-1)、15000(B-2)である。チタン酸バリウム粒子(A-1〜A-7)の計算結果を図9に示す。横軸に平均粒子径を、縦軸に計算した粒子の比誘電率を示す。図9より、平均粒子径が430nmから粒子径の減少とともに粒子の比誘電率は僅かに増加する傾向を示すが215nmから比誘電率が急激に増大し、140nmの平均粒子径でその比誘電率は5000まで上昇する。その後、140nm以下でその比誘電率は急激に減少し、17nmの平均粒子径でその比誘電率は230まで減少する。
立方晶に対する正方晶の比率(正方晶/立方晶)
測定方法
立方晶に対する正方晶の比率(正方晶/立方晶)の測定方法は、つぎの通りである。高角側までのXRD測定により、十分に高いミラー指数まで網羅した強度の高いデータを正確に測定した。リートベルト法を用いて、このデータの解析を行った。最初に、粒子の構造について、単相モデル(立方晶または正方晶)、2相モデル(立方晶と正方晶)、多相モデル(立方晶、正方晶、c/a比が傾斜した正方晶)の3種類のモデルを用いて解析を行った。その結果を図10に示す。まず、単相モデルでは図10(a)に示されるように、正確なフィッティングができず、信頼性因子を十分に下げることはできなかった。これに対し、多相モデルでは図10(b)に示されるように、ほぼ完全に実験結果をフィッティングすることができ、チタン酸バリウム粒子は図11に示すような多相モデルでよく説明できることがわかった。
すなわち、チタン酸バリウム粒子は、内部が正方晶構造からなり、表面層が立方晶構造からなり、前記内部と前記表面層の間に、正方晶性(c/a比)が連続的に変化する構造変化層が存在すると考えられる。
しかしながら、多相モデルを用いるためには部分プロファイル緩和法という特殊な技法を用いることが必要であり、これを用いたフィッティングでは1試料の解析に数日以上の長時間が要求される。これに対して、2相モデルを用いた場合は、多相モデルに比べて、信頼性因子は少し悪くなるものの、ほぼ同様なフィッティング結果を短時間で得ることが可能であった。このため、チタン酸バリウム粒子は、本来は図11に示す多相構造を持つと考えられるものの、立方晶と正方晶の2相構造でも十分に近似できることが明らかとなった。そこで、リートベルト法において、正方晶構造に帰属できるすべてのチタン酸バリウム粒子が、内部の正方晶構造と表面層の立方晶構造の2相構造であるとの仮定をし、解析を行った。その結果、リートベルト法より得られた立方晶と正方晶の質量%において、正方晶の質量%を立方晶の質量%で割った値を、立方晶に対する正方晶の比率、すなわち(正方晶/立方晶)という物理量として取り扱うこととした。
測定結果
立方晶に対する正方晶の比率(正方晶/立方晶)の測定結果は、表1に示すとおりである。空気中で作製した一連のA-2〜A-7についてみてみると、粒径の減少とともに正方晶/立方晶が単調に減少していることがわかる。この値と平均粒子径から、表面層である立方晶の厚さを計算すると、A-2〜A-7においては比誘電率が最大値を示す140nmにおいて、約8nmであり、粒径の減少とともに表面立方晶厚さが単調に減少することがわかった。
一方、真空中で作製された一連のB-1,B-2についてみてみると、A-2〜A-7と同様に粒子径の減少に伴い、正方晶/立方晶が単調に減少していることが観察されるものの、粒子径が近似したもの同士でみてみると、真空中で作製したB-1,B-2の正方晶/立方晶の比は、空気中で作製したA-2〜A-7の正方晶/立方晶の比に比べて、実験誤差以上の有意差で大きいことが明らかとなった。このことは言い換えると、真空中で作製したB-1,B-2の表面立方晶厚さは、空気中で作製したA-2〜A-7の表面立方晶厚さに比べて、はるかに薄いことを示唆する。従って、これまで、多くの研究者により、粒子の比誘電率に責任のある因子として、粒子密度、不純物濃度、チタン酸バリウムにおけるBa/Ti原子比、正方晶構造におけるc/a比などが考えられてきたが、例えこれらの値が同じであったとしても、合成法の違いによる表面立方晶厚さ、すなわち粒子中の正方晶/立方晶の比が、比誘電率に大きく影響することが明らかとなった。
正方晶性(c/a比)
測定方法
正方晶性(c/a比)は、前述した2相構造を用いたリートベルト解析により解析することにより求めた。図12に、リートベルト法を用いて解析した結晶構造の格子定数の粒子径依存性を示す。粒子径が減少するにつれ、格子定数の中のa軸は増加し、一方c軸は減少する傾向を示す。このc軸長さをa軸長さで割ることにより、c/a比を計算した。また、リートベルト解析より、粒子径が40nmと17nmの間にサイズによる正方晶-立方晶相転移が存在することが明らかとなった。また、図13は同じ試料のラマン散乱測定結果を示す。ラマン観察により決定された動的な対称性はすべての粒子径において正方晶構造であることが明らかとなった。特に、17nmの粒子において、X線を用いた構造解析ではその平均構造は立方晶構造に帰属されるものの。ラマンによる動的・局所的な構造は正方晶に帰属された。この現象は、チタン酸バリウム単結晶において、温度を上げていったときの正方晶-立方晶相転移近傍で観察される現象と同じである。
測定結果
正方晶性(c/a比)の測定結果は、表1に示すとおりである。表1からわかるように、正方晶性(c/a比)は、チタン酸バリウムにおいて、粒子径の減少とともに単調に減少し、40nmと17nmの間で1、すなわち立方晶に正方晶から相転移することがわかる。また、粒子の比誘電率と正方晶性との関係を見てみると、A5〜A7では正方晶性が小さくなるに連れ、比誘電率が増大する傾向が認められる。そして、空気中で作製したA-2〜A-7においては、正方晶性が1.0064で比誘電率は最大値5000を示す。その一方で、真空中で作製したA-1,B-1,B-2においては、更に小さな正方晶性1.0050で比誘電率は最大値15000を示す。
この結果は、粒子の比誘電率を決める因子として、正方晶性だけを考えても意味がないことを意味する。前述したように、粒子の比誘電率には正方晶/立方晶の比もまた大きく影響する。従って、以上のデータからチタン酸バリウム粒子において、最大の比誘電率を得るためには、(1)正方晶/立方晶の比をできるだけ大きく、すなわち表面立方晶厚さをできるだけ薄くすること、そのためには、正方晶/立方晶の比は、2.3以上になっている必要があること、(2) 前述の条件(1)を満足した上で、表1より正方晶性が小さい方が高い比誘電率を示すことから、正方晶性をできるだけ1に近づけることの2点を満足することが最も重要なポイントとなる。このための前提条件として、粒子密度がほぼ100%に近いこと、不純物濃度がほぼ0に近いこと、粒子中のBa/Ti原子比ができるだけ1に近いことなどの条件が満足されている必要がある。これらの前提条件が満たされない場合には、チタン酸バリウム粒子において、その比誘電率の粒子径は図9に示すような極大を取らず、粒子径の減少とともに単調に減少する。
これらのモデルは、粒子以外に、セラミックスについても適応できる。セラミックスにおいては、粒子における表面立方晶厚さに相当する物理量として、粒子同士の接触面である粒界相の厚さ、すなわち粒界立方晶厚さがこれに相当することになる。従って、チタン酸バリウムセラミックスにおいて、最大の比誘電率を得るために指針は、粒子における指針において表面立方晶厚さを粒界立方晶厚さに置き換えること以外は、粒子における指針と完全に同じとなる。
以上のことから、チタン酸バリウム格子に含まれる不純物が測定限界以下であり、かつ化学組成でBa/Ti原子比が有効数字3桁で1.00であり、相対密度が97%以上あるチタン酸バリウム粒子においては、大きな比誘電率を持つ高誘電体材料となることが明らかとなった。
3段階熱分解法における、第1段階システムおよび第3段階システムを示す図である。 3段階熱分解法における第2段階システムを示す図である。 A-1からA-7までのTEM明視野像を示す写真である。 A-1からA-7までの(111)面のXRDピークを示す図である。 A-1とH-1の赤外線吸収スペクトルを示す図である。 A-1とH-1の水酸基に関する赤外線吸収スペクトルを示す図である。 A-1の熱重量分析測定結果を示す図である。 A-1からA-7までのスラリー比誘電率と粒子径との関係を示す図である。 A-1からA-7までの粒子の比誘電率と粒子径との関係を示す図である。 A-5の(002)面および(200)面測定結果とリートベルト法を用いたフィッティング結果を示す図であり、(a)正方晶単相モデルでのフィッティング結果と、(b)部分プロファイル緩和した正方晶と立方晶との多相モデルでのフィッティング結果である。 A-5における粒子の構造モデルを示す図である。 A-1からA-7までの結晶系および格子定数と粒子径との関係を示す図である。 A-1からA-7までのラマン散乱スペクトルを示す図である。
符号の説明
1‥‥熱電対、2‥‥電気炉、3‥‥温度調節計、4‥‥ロータリーポンプ、5‥‥ピラニーゲージ

Claims (10)

  1. 平均粒子径が、50〜215nmの範囲内にあり、
    比誘電率が、1800以上の範囲内にある
    チタン酸バリウム粉末。
  2. 格子内水酸基の存在量が、赤外線吸収測定法または熱重量分析法の検出限界内である
    請求項1記載のチタン酸バリウム粉末。
  3. Ba/Ti原子比が、有効数字3桁で1.00である
    請求項1記載のチタン酸バリウム粉末。
  4. 相対密度が、97%以上の範囲内にある
    請求項1記載のチタン酸バリウム粉末。
  5. 立方晶に対する正方晶の質量比が、1.6〜3.1の範囲内にある
    請求項1記載のチタン酸バリウム粉末。
  6. 正方晶性(c/a比)が、1.0000〜1.0075の範囲内にある
    請求項1記載のチタン酸バリウム粉末。
  7. 粒子は、内部が正方晶構造からなり、
    表面層が立方晶構造からなり、
    前記内部と前記表面層の間に、正方晶性(c/a比)が連続的に変化する構造変化層が存在する
    請求項1記載のチタン酸バリウム粉末。
  8. 次の工程よりなるチタン酸バリウム粉末の製造方法。
    (イ)バリウムおよびチタンを含む化合物を、空気中で加熱する第1の工程。
    (ロ)前記第1の工程により得られた生成物を、減圧下で加熱する第2の工程。
    (ハ)前記第2の工程により得られた生成物を、空気中で加熱する第3の工程。
  9. 請求項8記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法において、
    第1の工程の加熱温度は300〜550℃の範囲内にあり、
    第2の工程の加熱温度は600〜680℃の範囲内にあり、
    第3の工程の加熱温度は700〜1000℃の範囲内にある。
  10. 請求項8記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法において、
    化合物が、蓚酸バリウムチタニル4水和物である。
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