JP2006083450A - 微細構造体およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】複数の金属の粒子が表面に存在する構造体の製造方法であって、マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を一方の表面に有するアルミニウム基板の前記マイクロポアの底部に金属を充填する充填工程と、前記充填工程の後、前記アルミニウム基板を、前記陽極酸化皮膜が形成された前記表面と反対側の表面から、前記マイクロポアの前記底部に達するまで溶解させ、前記マイクロポアに充填された前記金属を露出させて前記構造体を得る溶解工程とを具備する、構造体の製造方法、および、それにより得られる構造体。
【選択図】図3
Description
例えば、自己規制的に規則的な構造が形成される方法として、電解液中でアルミニウムに陽極酸化処理を施して得られる酸化アルミニウム膜(陽極酸化皮膜)が挙げられる。陽極酸化皮膜には、数nm程度から数百nm程度の直径を有する複数の微細孔(マイクロポア)が規則的に形成されることが知られている。この陽極酸化皮膜の自己規則化を用い、完全に規則的な配列を得ると、理論的には、マイクロポアを中心に底面が正六角形である六角柱のセルが形成され、隣接するマイクロポアを結ぶ線が正三角形を成すことが知られている。
例えば、非特許文献1には、マイクロポアを有する陽極酸化皮膜が記載されている。また、非特許文献2には、陽極酸化皮膜には、酸化の進行に伴って、細孔が自然形成されることが記載されている。また、非特許文献3では、多孔質酸化皮膜をマスクとしてSi基板上にAuドットアレイを形成することも提案されている。
ラマン散乱は、入射光(光子)が粒子に当たって散乱する際に、粒子と非弾性衝突を起こして、エネルギーを変化させる散乱である。ラマン散乱光は、分光分析の手法として用いられるが、分析の感度および精度の向上のため、測定に用いる散乱光の強度を増強させることが課題となっている。
ラマン散乱光を増強させる現象としては、表面増強共鳴ラマン散乱(SERRS:Surface−Enhanced Resonance Raman Scattering)現象が知られている。この現象は、金属電極、ゾル、結晶、蒸着膜、半導体等の表面上に吸収されたある種の分子の散乱が、溶液中に比べて増強される現象であり、特に、金または銀で、1011〜1014倍の顕著な増強効果が見られる。SERRS現象の発生メカニズムは、現時点では解明されていないが、後述する表面プラズモン共鳴が影響を与えていると考えられている。特許文献2においても、ラマン散乱強度を増強させる手段として、プラズモン共鳴の原理を利用することを目的としている。
プラズモン共鳴が起きている表面近傍の領域、具体的には、表面から200nm以内程度の領域では、数桁倍(一例では、108〜1010倍)に及ぶ電場の増強が見られ、各種の光学効果に顕著な高揚が観察される。例えば、金等の薄膜を蒸着したプリズムに臨界角以上の角度で光を入射すると、薄膜表面の誘電率変化を、表面プラズモン共鳴現象による反射光強度の変化として、高感度で検出することができる。
具体的には、表面プラズモン共鳴現象を応用したSPR装置を用いると、生体分子間の反応量および結合量の測定や速度論的解析が、ノンラベルかつリアルタイムで可能となる。SPR装置は、免疫応答、シグナル伝達、タンパク質、核酸等の様々な物質間の相互作用の研究に応用され、最近では、SPR装置で微量ダイオキシンを分析する論文も発表されている(非特許文献4参照。)。
ここで、金属粒子による局在プラズモン共鳴を利用する場合、金属粒子が近接して存在すると、金属粒子間のギャップで電場強度が増強され、プラズモン共鳴がより発生しやすい状態が実現するとの研究報告がある(非特許文献5参照。)。即ち、局所プラズモン共鳴を利用したデバイスでは、金属粒子を近接させて存在させることが重要な要件となる。例えば、金属粒子を接触させずに、200nm以内の間隔で隣接して存在させることが重要である。
しかしながら、本発明者が研究した結果、陽極酸化皮膜の最も内側には絶縁性のバリヤー皮膜が存在するため、電着法による場合、バリヤー皮膜により金属の析出が抑制され、内部に金属が充填されにくいマイクロポアもある程度の頻度で生じることが分かった。したがって、マイクロポアの充填を均一に行うことは困難であること、即ち、マイクロポアにより金属の充填量にばらつきがあることが分かった。
しかしながら、本発明者が研究した結果、このコロイド法による場合、内部にコロイド粒子が充填されないマイクロポアが生じたり、マイクロポア以外の部分にコロイド粒子が付着したりして、マイクロポアの充填を均一に行うことは困難であることが分かった。そして、局在プラズモン共鳴を利用したデバイスとして用いると、感度は高いものの、再現性および安定性が十分ではないことが分かった。
マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を一方の表面に有するアルミニウム基板の前記マイクロポアの底部に金属を充填する充填工程と、
前記充填工程の後、前記アルミニウム基板を、前記陽極酸化皮膜が形成された前記表面と反対側の表面から、前記マイクロポアの前記底部に達するまで溶解させ、前記マイクロポアに充填された前記金属を露出させて前記構造体を得る溶解工程と
を具備する、構造体の製造方法。
また、本発明の構造体の製造方法は、本発明の構造体の製造に好適に用いられる。
<アルミニウム基板>
本発明の構造体の製造方法に用いられるアルミニウム基板は、マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を一方の表面に有する。このようなアルミニウム基板は、アルミニウム基板の一方の表面に陽極酸化処理を施して得ることができる。
陽極酸化処理に供されるアルミニウム基板は、特に限定されず、従来公知のアルミニウム基板を用いることができる。例えば、純アルミニウム板、アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板、低純度のアルミニウム(例えば、リサイクル材料)に高純度アルミニウムを蒸着させた基板が挙げられる。
アルミニウム基板は、アルミニウム純度が、99.5質量%以上であるのが好ましく、99.9質量%以上であるのがより好ましく、99.99質量%以上であるのが更に好ましい。アルミニウム純度が上記範囲であると、ポア配列の規則性が十分となる。
熱処理を施す場合は、200〜350℃で30秒〜2分程度施すのが好ましい。これにより、後述する陽極酸化処理により生成するマイクロポアの配列の規則性が向上するため、光透過性を利用する用途において、本発明の構造体を光が通過する際に乱反射が起こりにくくなる。
熱処理後のアルミニウム基板は、急速に冷却するのが好ましい。冷却する方法としては、例えば、水等に直接投入する方法が挙げられる。
脱脂処理は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、アルミニウム表面に付着した、ほこり、脂、樹脂等の有機成分等を溶解させて除去し、有機成分を原因とする後述の各処理における欠陥の発生を防止することを目的として行われる。
脱脂処理には、従来公知の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。
各種アルコール(例えば、メタノール)、各種ケトン、ベンジン、揮発油等の有機溶剤を常温でアルミニウム表面に接触させる方法(有機溶剤法);石けん、中性洗剤等の界面活性剤を含有する液を常温から80℃までの温度でアルミニウム表面に接触させ、その後、水洗する方法(界面活性剤法);濃度10〜200g/Lの硫酸水溶液を常温から70℃までの温度でアルミニウム表面に30〜80秒間接触させ、その後、水洗する方法;濃度5〜20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を常温でアルミニウム表面に30秒間程度接触させつつ、アルミニウム表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して電解し、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;各種公知の陽極酸化処理用電解液を常温でアルミニウム表面に接触させつつ、アルミニウム表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して、または、交流電流を流して電解する方法;濃度10〜200g/Lのアルカリ水溶液を40〜50℃でアルミニウム表面に15〜60秒間接触させ、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;軽油、灯油等に界面活性剤、水等を混合させた乳化液を常温から50℃までの温度でアルミニウム表面に接触させ、その後、水洗する方法(乳化脱脂法);炭酸ナトリウム、リン酸塩類、界面活性剤等の混合液を常温から50℃までの温度でアルミニウム表面に30〜180秒間接触させ、その後、水洗する方法(リン酸塩法)。
鏡面仕上げ処理は、アルミニウム基板の表面の凹凸をなくして、電着法等による粒子形成処理の均一性や再現性を向上させるために行われる。アルミニウム基材の表面の凹凸としては、例えば、アルミニウム基板が圧延を経て製造されたものである場合における、圧延時に発生した圧延筋が挙げられる。
本発明において、鏡面仕上げ処理は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、機械研磨、化学研磨、電解研磨が挙げられる。
機械研磨としては、例えば、各種市販の研磨布で研磨する方法、市販の各種研磨剤(例えば、ダイヤ、アルミナ)とバフとを組み合わせた方法が挙げられる。具体的には、研磨剤を用いる方法を、用いる研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行う方法が好適に例示される。この場合、最終的に用いる研磨剤としては、#1500のものが好ましい。これにより、光沢度を50%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに50%以上)とすることができる。
また、リン酸−硝酸法、Alupol I、Alupol V、Alcoa R5、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好適に挙げられる。中でも、リン酸−硝酸法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好ましい。
化学研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
また、米国特許第2708655号明細書に記載されている方法が好適に挙げられる。
また、「実務表面技術」,vol.33,No.3,1986年,p.32−38に記載されている方法も好適に挙げられる。
電解研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
なお、光沢度は、圧延方向に垂直な方向において、JIS Z8741−1997の「方法3 60度鏡面光沢」の規定に準じて求められる正反射率である。具体的には、変角光沢度計(例えば、VG−1D、日本電色工業社製)を用いて、正反射率70%以下の場合には入反射角度60度で、正反射率70%を超える場合には入反射角度20度で、測定する。
アルミニウム基材にマイクロポアを形成させる陽極酸化処理(以下「本陽極酸化処理」ともいう。)の前に、本陽極酸化処理のマイクロポアの生成の起点となる窪みを形成させておくのが好ましい。
自己規則化法は、陽極酸化皮膜のマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、規則的な配列をかく乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。具体的には、高純度のアルミニウムを使用し、電解液の種類に応じた電圧で、長時間(例えば、数時間から十数時間)かけて、低速で陽極酸化皮膜を形成させ、その後、脱膜処理を行う。
この方法においては、ポア径は電圧に依存するので、電圧を制御することにより、ある程度所望のポア径を得ることができる。
0.3mol/L硫酸、10℃、25V、750分(非特許文献6)
0.3mol/Lシュウ酸、17℃、40V、600分;その後、ポアワイド処理(6重量%リン酸および1.8重量%クロム酸含有液、60℃、840分)(非特許文献7)
0.3mol/Lシュウ酸、17℃、40〜60V、36分;その後、ポアワイド処理(5重量%リン酸、30℃、70分)(非特許文献8)
0.04mol/Lシュウ酸、3℃、80V、膜厚3μm;その後、ポアワイド処理(5重量%リン酸、30℃、70分)(非特許文献8)
0.3mol/Lリン酸、0℃、195V、960分;その後、ポアワイド処理(10重量%リン酸、240分)(非特許文献1)
自己規則化陽極酸化皮膜は、アルミニウム部分に近くなるほど規則性が高くなってくるので、一度脱膜して、アルミニウム部分に残存した陽極酸化皮膜の底部分を表面に出して、規則的な窪みを得る。したがって、脱膜処理においては、アルミニウムは溶解させず、酸化アルミニウムである陽極酸化皮膜のみを溶解させる。
自己規則化陽極酸化皮膜の膜厚は、10〜50μmであるのが好ましい。
また、脱膜処理は、0.5〜10時間であるのが好ましく、2〜10時間であるのがより好ましく、4〜10時間であるのが更に好ましい。
物理的方法としては、例えば、プレスパターニングを用いる方法が挙げられる。具体的には、複数の突起を表面に有する基板をアルミニウム表面に押し付けて窪みを形成させる方法が挙げられる。例えば、特開平10−121292号公報に記載されている方法を用いることができる。
また、アルミニウム表面にポリスチレン球を稠密状態で配列させ、その上からSiO2を蒸着した後、ポリスチレン球を除去し、蒸着されたSiO2をマスクとして基板をエッチングして窪みを形成させる方法も挙げられる。
粒子線法は、アルミニウム表面に粒子線を照射して窪みを形成させる方法である。粒子線法は、窪みの位置を自由に制御することができるという利点を有する。
粒子線としては、例えば、荷電粒子ビーム、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)、電子ビームが挙げられる。
粒子線法としては、例えば、特開2001−105400号公報に記載されている方法を用いることもできる。
ブロックコポリマー法は、アルミニウム表面にブロックコポリマー層を形成させ、熱アニールによりブロックコポリマー層に海島構造を形成させた後、島部分を除去して窪みを形成させる方法である。
ブロックコポリマー法としては、例えば、特開2003−129288号公報に記載されている方法を用いることができる。
レジスト干渉露光法は、アルミニウム表面にレジストを設け、レジストに露光および現像を施して、レジストにアルミニウム表面まで貫通した窪みを形成させる方法である。
レジスト干渉露光法としては、例えば、特開2000−315785号公報に記載されている方法を用いることができる。
更には、製造コストを考慮すると、自己規則化法が最も好ましい。また、マイクロポアの配列を自由に制御することができる点では、FIB法も好ましい。
上述したように、好ましくはアルミニウム表面に窪みを形成させた後、本陽極酸化処理により、マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を形成させる。
本陽極酸化処理は、従来公知の方法を用いることができる。
電解液の濃度は、0.01〜1mol/Lであるのが好ましく、0.1〜0.5mol/Lであるのがより好ましい。電解液の温度は、0〜20℃であるのが好ましく、0〜18℃であるのがより好ましい。電解電圧は、所望のポア間隔やポア径に応じて適宜選択することができるが、下記式(1)または(2)により算出される電圧とするのが好ましい。
電圧[V]=(所望のポア径[nm]−12)/0.6[nm/V] (2)
更に、直流電圧を一定としつつ、断続的に電流のオンおよびオフを繰り返す方法、直流電圧を断続的に変化させつつ、電流のオンおよびオフを繰り返す方法も好適に用いることができる。これらの方法によれば、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、特に電着法により充填する際に、均一性が向上する点で、好ましい。
上述した電圧を断続的に変化させる方法においては、電圧を順次低くしていくのが好ましい。これにより、陽極酸化皮膜の抵抗を下げることが可能になり、後に電着処理を行う場合に、均一化することができる。
陽極酸化皮膜の膜厚は、粒子形成処理のしやすさの点で、ポア径の0.5〜10倍であるのが好ましく、1〜8倍であるのがより好ましく、1〜5倍が更に好ましい。
ポア径は、後に電着法により充填を行う場合には、10nm以上であるのが好ましく、コロイド塗布により充填を行う場合には、100nm以上であるのが好ましい。
したがって、例えば、前記陽極酸化皮膜の膜厚が0.1〜1μmであり、マイクロポアの平均ポア径が0.01〜0.5μmであるのは、好ましい態様の一つである。
図1に示されるように、アルミニウム基板10は、その一方の表面に陽極酸化皮膜12を有する。陽極酸化皮膜12は、多孔質層14とバリヤー層16とからなっている(「新アルマイト理論」,カロス出版,1997年,p.16参照。)。
ポアワイド処理は、本陽極酸化処理後、アルミニウム基板を酸水溶液またはアルカリ水溶液に浸せきさせることにより、陽極酸化皮膜を溶解させ、マイクロポアのポア径を拡大する処理である。
これにより、陽極酸化皮膜のマイクロポアの底部のバリヤー層を溶解させることにより、マイクロポア内部に選択的に電着させることが可能となる。
ポアワイド処理にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜35℃であるのが好ましい。
具体的には、例えば、50g/L、40℃のリン酸水溶液、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または0.5g/L、30℃の水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸せき時間は、8〜60分であるのが好ましく、10〜50分であるのがより好ましく、15〜30分であるのが更に好ましい。
また、ポアワイド処理後において、ポア径の変動係数は、10〜80%であるのが好ましい。80%以下であると、電着法、コロイド塗布法等によって、マイクロポアの内部に金属を充填させて金属粒子を設ける際に、均一性が高くなる。また、ポア径の変動係数を10%未満にするのは、アルミニウム純度が極めて高い超高純度材(例えば、99.999質量%以上)を用いるなどする必要がある。
また、ポアワイド処理後において、マイクロポアの平均ポア密度は、50〜1500個/μm2であるのが好ましい。50個/μm2以上であると、単位面積あたりの金属粒子の数が多くなり、信号強度がより安定性する。また、再現性も高くなる。1500個/μm2以下であると、マイクロポアの平均ポア径を10nm以上としやすい。
本発明の構造体の製造方法においては、上述したマイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を一方の表面に有するアルミニウム基板の前記マイクロポアの底部に金属を充填する(充填工程)。
金属は、自由電子を有する金属結合からなる元素であり、特に限定されないが、プラズモン共鳴が確認されている金属であるのが好ましい。中でも、金、銀、銅、ニッケル、白金が、プラズモン共鳴が起こりやすいことが知られており(現代化学,2003年9月号,p.20〜27(非特許文献9))、これらが好ましい。特に、電着やコロイド粒子の作製が容易である金、銀が好ましい。
例えば、電着法;金属コロイド粒子の分散液を、基板に塗布し乾燥させる方法(コロイド塗布法)が好適に挙げられる。金属は、単一粒子または凝集体であるのが好ましい。
電着法は、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、金電着法の場合、1g/LのHAuCl4と7g/LのH2SO4を含有する30℃の分散液に、基板を浸せきさせ、11Vの定電圧(スライダックで調整)で、5〜6分間電着処理する方法が挙げられる。
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム基板に対して電着法を行うと、マイクロポアの底部から金属の析出が始まる。
金属コロイド粒子は、平均粒径が1〜200nmであるのが好ましく、1〜100nmであるのがより好ましく、2〜80nmであるのが更に好ましい。
分散液に用いられる分散媒としては、水が好適に用いられる。また、水と混合しうる溶剤、例えば、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、1−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、メチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のアルコールと、水との混合溶媒も用いることができる。
金コロイド粒子の分散液としては、例えば、特開平2001−89140号公報および特開平11−80647号公報に記載されているものを用いることができる。また、市販品を用いることもできる。
銀コロイド粒子の作製方法としては、例えば、通常の低真空蒸発法による微粒子の作製方法、金属塩の水溶液を還元する金属コロイド作製方法が挙げられる。これらの金属粒子の平均粒径は好ましくは1〜200nmであり、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは2〜80nmである。
銀コロイド粒子を用いる方法は、銀コロイド粒子を溶媒に分散させた分散液を、陽極酸化皮膜上に塗布し、または浸せきさせた後、溶媒で適宜洗浄することにより行う。
溶媒としては、水、有機溶媒、これらの混合溶媒が挙げられる。中でも、水が好ましい。有機溶媒としては、水と混合しうるものが好ましく、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、1−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、メチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のアルコールがより好ましい。
図2においては、図1に示されたアルミニウム基板10の多孔質層14のマイクロポアに金属18が充填されている。図2に示される各マイクロポアは、充填の程度がそれぞれ異なっている。
本発明の構造体の製造方法においては、上述した充填工程の後、アルミニウム基板を、陽極酸化皮膜が形成された表面と反対側の表面から、マイクロポアの底部に達するまで溶解させ、マイクロポアに充填された金属を露出させて、複数の金属の粒子が表面に存在する構造体を得る(溶解工程)。
溶解工程は、アルミニウム基板を溶解させる工程と、バリヤー層を溶解させる工程とに分けて行うのが好ましい態様の一つである。
アルミニウム基板を溶解させる方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、非特許文献2に記載されている方法を用いることができる。具体的には、例えば、アルミニウム基板の陽極酸化皮膜が形成された表面と反対側の表面に、昇汞(塩化水銀(II)、HgCl2)の水溶液を塗布する方法が挙げられる。
具体的には、例えば、クロム酸濃度18g/l、リン酸濃度72g/L、液温50℃の酸性水溶液に数分から30分間程度浸せきさせる方法;リン酸濃度5質量%、液温30℃の酸性水溶液に10〜30分間浸せきさせる方法;:水酸化ナトリウム濃度1質量%、液温30℃のアルカリ性水溶液に1〜10分間浸せきさせる方法が挙げられる。ここで、アルカリ性水溶液を用いる場合、水和生成物が析出するため、その後、水和生成物を溶解させる。水和生成物を溶解させる方法は、特に限定されず、例えば、硫酸濃度30質量%、液温60℃の水溶液に0.5〜2分間浸せきさせる方法が挙げられる。
上述したようにして得られる本発明の構造体は、複数の金属の粒子が表面に存在している。
図3は、本発明の構造体を示す模式的な断面図である。図3に示される構造体1においては、図2に示されたアルミニウム基板10およびバリヤー層16が溶解されて除去されており、金属18が裏面(図3中、下側の面)から露出している。バリヤー層16を溶解させる際には、多孔質層14も溶解しうる。図3においては、多孔質14のバリヤー層16側の部分も一部溶解しており、溶解された部分がフラットになっている。
したがって、金属の間隔は一概には決定することができないが、概して、1〜400nmの範囲であるのが好ましく、5〜300nmであるのがより好ましく、10〜200nmであるのが更に好ましい。上記範囲であると、ラマン増強効果が大きくなる。
ここで、「金属の間隔」は、隣接する金属の表面同士の最短距離である。
ラマン増強効果は、金属に吸着した分子のラマン散乱強度が105〜106倍程度増強される現象であり、表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)と呼ばれている。そして、上記非特許文献9には、金、銀、銅、白金、ニッケル等の金属粒子を用いた局在プラズモン共鳴により、ラマン増強効果が得られることが記載されている。
本発明においては、たとえマイクロポアの充填が均一に行われなくても、複数の金属の粒子が表面に均一に存在した構造体が得られる。これは、マイクロポアへの金属の充填がマイクロポアの底部から始まるため、ほぼすべてのマイクロポアの底部には金属が充填され、それが表面に露出するからである。
したがって、本発明の構造体は、プラズモン共鳴デバイスとしてラマン分光分析用試料台に用いると、信号強度が十分に大きくなり、かつ、再現性に優れる。
具体的には、フローインジェクション法(フロー法)によって、反応させた溶液を透明容器に瞬時に導入することによって、一部のビタミンや生体試料等の変質しやすい物質等の構造変化等を、超高感度レーザーラマン分析により、容易に分析することができる。また、反応生成物の極微量分析が可能となる。
フローインジェクション法については、例えば、岡山大学理学部名誉教授 桐榮恭二「フローインジェクション分析法を考える」,1999年1月公表,http://www.tokyokasei.co.jp/kikou/bun/kikou101.htmlによれば下記のような特徴があるとされる。本発明の構造体をフローインジェクション法に利用することにより、このような利点が得られる。
(2)簡単な操作:試料を注入するだけの簡単な操作で質の高い分析が可能である。熟練を要さず、初心者でも簡単に扱うことができる。
(3)試料・試薬の少量化:通常、FIAでは試料は100μL程度で十分である。また、試薬も1回の測定に換算すると1mL程度と手分析法の1/10〜1/100の量である。したがって、廃液量も少なくて済み、環境への負荷も大幅に軽減することができ、ゼロエミッションの観点からも好ましい分析方法として評価される。
(4)高感度・高精度:FIAでは高性能な送液ポンプを使うことにより、精密に制御された反応場を創り出すことが可能で、分析の高感度化、高精度化を達成することができる。
(実施例1〜19)
1.構造体の作製
高純度アルミニウム(和光純薬工業社製、純度99.99質量%、厚さ0.4mm)製の基板に、鏡面仕上げ処理、窪みの形成、本陽極酸化処理、ポアワイド処理、充填処理および溶解処理をこの順に施し、各構造体を得た。
以下、各処理について説明する。
研磨布を用いた研磨、バフ研磨および電解研磨をこの順に行うことにより、鏡面仕上げ処理を施した。バフ研磨後には水洗を行った。
研磨布を用いた研磨は、研磨盤(Struers Abramin、丸本工業社製)および耐水研磨布(市販品)を用い、耐水研磨布の番手を#200、#500、#800、、#1000および#1500の順に変更しつつ行った。
バフ研磨は、スラリー状研磨剤(FM No.3(平均粒径1μm)およびFM No.4(平均粒径0.3μm)、いずれもフジミインコーポレーテッド社製)を用いて行った。
電解研磨は、下記組成の電解液(温度70℃)を用いて、陽極を基板、陰極をカーボン電極とし、130mA/cm2の定電流で、2分間行った。電源としては、GP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。
・85質量%リン酸(和光純薬工業社製試薬) 660mL
・純水 160mL
・硫酸 150mL
・エチレングリコール 30mL
窪みの形成は、下記方法により行った。形成された窪みは、後述する陽極酸化処理においてマイクロポア形成の開始点となる。
<自己規則化法>
濃度0.3mol/Lのリン酸水溶液(液温5℃)を用い、電圧120V、電流密度20mA/dm2の条件で、6時間、基板の表面に自己規則化陽極酸化処理を行い、厚さ60μm、平均ポア径300nmの陽極酸化皮膜を形成させた。自己規則化陽極酸化処理においては、冷却装置としてNeoCool BD36(ヤマト科学社製)、かくはん加温装置としてペアスターラー PS−100(EYELA社製)、電源としてGP0650−2R(高砂製作所社製)を用いた。
なお、マイクロポアの平均ポア径は、SEM表面写真を画像解析することにより測定した。画像解析の方法を以下に示す。
画像処理ソフト(Image Factory、旭ハイテック社製)を用いて、2値化(大津の方法)を実行し、その後、2値化画像の形状解析を、黒穴埋め、黒膨張および黒収縮の順に実行した。ついで、写真に写し出された長さを計測バーを使って入力した。更に、形状特徴を抽出し、等価円直径を出力して、等価円直径分布から平均ポア径を算出した。
なお、脱膜処理後の陽極酸化皮膜の膜厚は、0.1μm以下であった。
本陽極酸化処理は、0.3mol/Lリン酸水溶液(液温5℃)を用い、電圧120V、電流密度20mA/dm2の条件で、基板の表面に陽極酸化処理を1分間行い、陽極酸化皮膜を形成させることにより行った。
ポアワイド処理は、基板を、濃度50g/Lのリン酸水溶液(液温30℃)に、20分間浸せきさせることにより行った。
ポアワイド処理後、走査型電子顕微鏡(JSM−T220A、日本電子社製)を用いて、金蒸着等の導電性処理を施すことなく、観察した。ポアワイド処理後のマイクロポアの平均ポア径、平均ポア密度およびポア径の変動係数を、SEM表面写真を画像解析することにより測定した。画像解析の方法を以下に示す。
画像処理ソフト(Image Factory、旭ハイテック社製)を用いて、2値化(大津の方法)を実行し、その後、2値化画像の形状解析を、黒穴埋め、黒膨張および黒収縮の順に実行した。ついで、写真に写し出された長さを計測バーを使って入力した。更に、形状特徴を抽出し、黒カウントおよび等価円直径を出力して、黒カウント数から平均ポア密度を算出し、等価円直径分布から平均ポア径および標準偏差を算出した。更に、標準偏差を平均ポア径で除して、ポア径の変動係数を求めた。
結果を第1表に示す。
充填処理としては、以下の充填処理1および2のいずれかを行った。
<充填処理1(金電着法)>
1g/LのHAuCl4と7g/LのH2SO4とを含有する30℃の分散液に、基板を浸せきさせ、11Vの定電圧(スライダックで調整)で、5〜6分間電着処理した。
30質量%の硫酸鉄(II)(FeSO4・7H2O)水溶液に40質量%のクエン酸水溶液を添加して混合させた。ついで、20℃に保持しつつかくはんしながら、10質量%の硝酸銀および硝酸パラジウムの水溶液(モル比9:1)を200mL/minの速度で添加して混合し、その後、遠心分離により水洗を繰り返し、最終的に3質量%になるように純水を加え、銀コロイド粒子分散液を得た。銀コロイド粒子の粒径は、TEMで測定した結果、約9〜12nmであった。
得られた銀コロイド粒子分散液100gにイソプロピルアルコールを加え、超音波を用いて分散させ、ついで、孔径1μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して銀コロイド粒子塗布液(濃度9×10-15mol/L)を得た。
得られた銀コロイド粒子塗布液に、基板を1分間浸せきさせた後、水洗し、1100℃に設定したオーブン中で乾燥させた。
基板の陽極酸化皮膜が形成された表面と反対側の表面(以下「裏面」という。)を、30質量%硫酸水溶液(液温60℃)に1分間浸せきさせて、表面の自然酸化アルミニウム皮膜を溶解させた。
ついで、基板の裏面に、昇汞の飽和水溶液(液温:室温)を塗布し、空気中に放置して水酸化アルミニウムの白粉を生じさせ、その後、基板を水に浸せきさせた。この操作をアルミニウム基板が完全に溶解するまで繰り返した。
その後、基板の裏面を、5質量%リン酸水溶液(液温30℃)に10分間浸せきさせ、陽極酸化皮膜のバリアー層を溶解させ、充填された金属を露出させた。
充填処理として、以下の充填処理3および4のいずれかを行い、かつ、溶解処理を行わなかった以外は、実施例1〜19と同様の方法により、各構造体を得た。
0.05質量%のHAuCl4水溶液1.5mLに1質量%のクエン酸水溶液1.5mLを添加して、アルコールランプを用いて室温から徐々に加熱し、赤紫色に変化した状態で加熱を停止し、室温まで冷却して得た金コロイド粒子分散液(金コロイド粒子の平均粒径120nm)に、基板を1分間浸せきさせた後、水洗し乾燥させた。
30g/LのAgCNと、24g/Lの銀と、50g/LのKCNと、15g/LのK2CO3とを含有する分散液(液温20℃、pH11)に、基板を1分間浸せきさせ、対極としてカーボンを用い、電流密度0.5A/dm2の条件で、5〜6分間電着処理した。
3×10-7mol/Lのローダミン6G水溶液(関東化学(株)製試薬)および0.1mol/LのNaCl水溶液(関東化学(株)製試薬)を構造体の金属が露出している方の表面に塗布した後、ラマン分光分析装置(T64000、堀場製作所製)を用いて、励起波長488nm、ラマンシフト測定範囲1800〜800cm-1の条件で、1660cm-1におけるラマン散乱強度を測定した。
測定されたラマン散乱強度の値を、通常のスライドガラスを用いてレーザー出力を最大にして測定した場合の1660cm-1におけるラマン散乱強度の値で除して、増強倍率を算出し、ラマン増強効果を評価した。なお、高感度となった場合には、レーザー出力を下げ、かつ、ローダミン6G水溶液を水で希釈して、増強倍率を計算した。
結果を第1表に示す。
◎:増強倍率が106以上
◎○:増強倍率が105以上106未満
○:増強倍率が103以上105未満
△:増強倍率が101以上103未満
各実施例について、5個の検体のラマン散乱強度を測定し、信号強度の平均値lavgと標準偏差σとから、下記式により変動係数CVを求めた。
結果を第1表に示す。
1cm×1cm×10cmのガラス製容器の内壁に、接着剤(アロンアルファ、東亞合成社製)を用いて、実施例1〜3で得られた構造体を、その裏面が内側になるように(即ち、構造体の粒子が後述する水溶液と接触するような向きで)接着させ、光透過型ラマン散乱の検出器とした。このガラス製容器の長手方向に平行になるように前後にチューブを連通させた。
チュービングポンプ(ISO−313S、アズワン社製)を用いて、流量600mL/min(容器内流速10cm/sec)で、3×10-7mol/Lのローダミン6G水溶液(関東化学(株)製試薬)をガラス製容器の中を通過させ、フロー法によりラマン散乱強度を測定し、上記と同様の方法により、ラマン増強効果を評価した。
比較例10として、構造体を接着させなかった以外は、上記と同様の方法により、ラマン散乱強度を測定し、ラマン増強効果を評価した。
また、実施例1〜3について、上記と同様の方法により、ラマン増強効果の安定性を評価した。
結果を第2表に示す。
○:増強倍率が103以上
×:増強効果なし
10 アルミニウム基板
12 陽極酸化皮膜
14 多孔質層
16 バリヤー層
18 金属
Claims (4)
- 複数の金属の粒子が表面に存在する構造体の製造方法であって、
マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を一方の表面に有するアルミニウム基板の前記マイクロポアの底部に金属を充填する充填工程と、
前記充填工程の後、前記アルミニウム基板を、前記陽極酸化皮膜が形成された前記表面と反対側の表面から、前記マイクロポアの前記底部に達するまで溶解させ、前記マイクロポアに充填された前記金属を露出させて前記構造体を得る溶解工程と
を具備する、構造体の製造方法。 - 前記金属が金または銀である、請求項1に記載の構造体の製造方法。
- 請求項1または2に記載の構造体の製造方法により得られる構造体。
- 請求項3に記載の構造体を用いたラマン分光分析用試料台。
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