JP2006063009A - 抗腫瘍リポソーム製剤およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
リポソーム構造の安定化と抗がん性化合物の保持安定性を図り、抗がん剤の効率的送達を達成する、安全性の高い抗腫瘍リポソーム製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、平均粒径が0.05〜0.7μmであってリン脂質膜内またはその内部水相に抗が
ん性化合物を含む少なくとも1種以上の薬物を含有し、実質的に有機溶剤を含まないリポソームを含む抗腫瘍リポソーム製剤である。該リポソームは、必要であればヒドロキシル基を有する少なくとも1種の化合物が存在してもよい条件下で、リン脂質膜を構成する脂
質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製される。
【選択図】なし
Description
超臨界二酸化炭素を用いて製造する方法が開示されており、親水性薬効成分や親油性薬効成分をリポソームに内包する皮膚外用剤の製造例が示されている。しかし、親水性薬効成分として、水溶性電解質の例は示されているが、同法により水溶性非電解質をリポソームに効率よく内包できるか不明であった。
。
特にクロロホルム、ジクロロメタンといったクロル系溶剤が使用されている(例えば特許文献3)。したがって、どうしても残存する溶剤の毒性が残る。したがってリポソーム製剤または造影物質を効率よく封入して安定的に保持でき、かつ安全性に問題のないリポソームの作製方法が望まれている。
在する条件下で、リン脂質膜を構成する脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製され、平均粒径が0.05〜0.7μmであってリン脂質膜内
またはその内部水相に少なくとも1種以上の薬物を含有し、実質的に有機溶剤を含まないことを特徴とするリポソームである。
さらに平均粒径は0.1〜0.2μmであることが望ましい。
前記リン脂質膜が、転移温度を有するリン脂質を少なくとも含むことが望ましい。
徴としている。
前記薬物が抗がん性化合物であり、シクロホスファミド、メクロレタミン、カルバジルキノン、メルファラン、チオテパ、ブスルファン、ニムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、ダカルバジン、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、フルオロウラシル、フトラフール、フロクスウリジン、シタラビン、アンシタビン、テガフール、ドキシフルリジン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、シネルビンA、アクラシノマイシンA、アドリア
マイシン、ペプロマイシン、ドキソルビシン、シスプラチン、ミトキサントロン、エピルビシン、ピラルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、リン酸エストラムスチン、ミトタン、ポルフィリン、タキソールから少なくとも1種選ばれる。
また前記薬物がポルフィリンまたはその誘導体であり、がんの光線力学療法に用いられ
てもよい。
該抗腫瘍リポソーム製剤は、さらに造影剤を含有してもよい。
また抗腫瘍リポソーム製剤は、患者に投与した後に、温熱療法を適用することを特徴としている。
の化合物が存在する条件下で、脂質膜成分として、少なくとも転移温度を有するリン脂質を含むリン脂質類とともに、カチオン性脂質およびステロール類から少なくとも1種選ば
れる化合物、さらには必要に応じて親油性の薬物を超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素に溶解もしくは分散させた後、少なくとも1種以上の薬物を含む溶液もしくは懸濁液を導入することによりミセルを形成させ、次いで水を加えて二酸化炭素を排出して、該化合物を内部に含有するリポソームを作製することを含む製造方法である。
前記の薬物の溶液または懸濁液には、製剤助剤が含まれていてもよい。
[発明の具体的説明]
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤は、平均粒径が0.05〜0.7μmであってリン脂質膜内ま
たはその内部水相に少なくとも1種以上の薬物を含有し、実質的に有機溶剤を含まないことを特徴とするリポソームを含有する。
抗がん性化合物
本発明のリポソームに内包される抗がん性化合物は、がんの化学療法に用いられている化学物質であればよく、特に限定されるものではない。そうした抗がん性化合物として、具体的には以下の化学物質が例示される:
シクロホスファミド、メルファラン、クロラムブチル、メクロレタミン、カルバジルキノン、チオテパ、ブスルファン、ニムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、ダカルバジンなどのアルキル化剤;メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、5−フルオロウラシル、フトラフール、フロクスウリジン、シタラビン、アンシタビン、ゲムシタビン、テガフール、カルモフール、UFT、ドキシフルリジンなどの代謝拮抗物質;アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、シネルビンA、アクラシノマイシンA、アドリアマイシン、ペプロマイ
シン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシンなどの抗生物質;ビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセルなどの微小管作用薬;ビ
ンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、タキソールなどの植物成分;イリノテカン、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、ネダプラチン、ミトタン、ポルフィリンなど。
リポソーム
上記抗がん性化合物は、本発明の抗腫瘍リポソーム製剤では、標的の臓器、組織のがん病巣へ選択的に効率よく送達されるようにマイクロキャリヤーとしてのリポソームに封入した形態で使用される。本発明のリポソームは、平均粒径が0.05〜0.7μmであって、リ
ン脂質膜内またはその内部水相に抗がん性化合物または他の薬物を含有し、好ましくはリン脂質膜が、実質的に一枚膜もしくは数枚膜からなるリポソームである。
グリコール基を有する少なくとも1種の化合物が存在する条件下で、リン脂質膜を構成す
る脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製される。リポソームのリン脂質膜を構成する脂質膜成分として、一般にリン脂質および/または糖脂質が好ましく使用される。さらに下記の脂質膜安定化物質もその成分として含められる。本発明のリポソームを構成する脂質膜成分の主たる成分として、大豆、卵黄などから得られるレシチン、リゾレシチンおよび/またはこれらの水素添加物、水酸化物の誘導体などの中性リン脂質を挙げることができる。
ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)などを挙げることができる。
ルミン(DOGS)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、N−[1−(2、3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N、N、N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、2、3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミン−カルボキサミド)エチ
ル]−N、N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)お
よびN−[1−(2、3−ジミリスチルオキシ)プロピル]−N、N−ジメチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド(DMRIE)などが挙げられる。
ルなどのグリセロ脂質、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4などのスフィンゴ糖脂質などを挙げることができる。
は0.2〜1重量部、より好ましくは0.3〜0.8重量部の割合が望ましい。0.05重量部より少ないと混合脂質の分散性を向上させるステロール類による安定化が発揮されず、2重量部よ
り多すぎるとリポソームの形成が阻害されるか、形成されても不安定となる。
ピナコールなどが挙げられる。グリコール類の使用量は、脂質全質量に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の割合が望ましい。
EG化リポソームには免疫系から認識されにくくなる効果が期待できる。さらにリポソームは親水的傾向を持つことにより血中安定性を増して、長時間にわたり血液中の濃度を維持できることが明らかになっている(Biochim. Biophys. Acta., 1066, 29-36(1991))。リポソームの血中滞留性を向上させるために、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質をリポソームの脂質膜に含有させる手法が開示された(特開2002-37883号公報)。そのようなリポソームでは経時安定性も改善されていることが示されている。あるいは後述するようにリポソーム膜に向腫瘍性またはがん細胞認識性を付与する機能性物質を導入してもよい。
する場合の使用量は、該リポソームを構成する脂質に対して0.1〜30質量%、好ましくは1〜15質量%程度含むのがよい。
ルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数である。また、Yは、水素原子、アルキル基または機能性官能基を表す。
%、より好ましくは0.1〜10モル%である。0.001モル%未満では期待される効果が小さくなる。
するための高純度ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が開示されている。そうしたリポソームを作製する際にモノアシル体の含量が低いポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を使用すると、リポソーム分散液の経時安定性が良好であったことが記載されている。
公報には、粒径3μm以上のリポソームを排除することにより、肺の毛細血管におけるリ
ポソームの不都合な滞留が回避されると記載されている。しかし、0.05〜3μmの粒径範囲にあるリポソームは、必ずしも自然に向腫瘍性とはならない。
、その平均粒径を0.1〜0.2μm 、より好ましくは0.11〜0.13μmとすることが望ましい。
固形がん組織にある新生血管壁の孔は、正常組織の毛細血管壁窓(fenestra)の孔サイズ、0.03〜0.08μm に比べて異常に大きく、概ね0.1μm 〜0.2μm の大きさの分子でも血管壁から漏れ出る。EPR効果は、がん組織にある新生血管壁では、正常組織の微小血管壁より透過性が高いことによるものである。
図られねばならない。つまりリポソーム粒子が、血中に長くとどまって、がん細胞近くの血管を何度も通過することが必要である。優れた薬物送達性を獲得するために有効とされる上記EPR効果を生じさせるためには、リポソームは、リポソーム構造の安定化および封入物質の保持安定性という、キャリヤーとしての担持効率を改善させた上で、血中安定性、血中滞留性といった特性をも有することが求められる。また平均粒径を0.2μm以上に大きくすると、肝臓Kupffer細胞の食作用により取り込まれる可能性が高くなり、肝臓の
その細胞部位に集積する。このためリポソームの平均粒径を0.11〜0.13μm の範囲に揃えることにより、がん組織へ選択的にリポソーム製剤を集中させることが可能となる。
リポソームの製造方法
本発明のリポソームの製造方法は、ポリエチレングリコール基を有する少なくとも1種
の化合物が存在してもよい条件下で、脂質膜成分として、少なくとも転移温度を有するリン脂質を含むリン脂質類とともに、カチオン性脂質およびステロール類から少なくとも1
種選ばれる化合物、さらには必要に応じて親油性の薬物を超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素に溶解もしくは分散させた後、少なくとも1種以上の薬物を含む溶液もしくは懸濁液を導入することによりミセルを形成させ、次いで水を加えて二酸化炭素を排出して、該化合物を内部に含有するリポソームを作製することを特徴としている。
リポソームを作製する方法として、これまで種々の方法が提案されている。作製方法が異なると、最終的にできあがったリポソームの形態および特性もまた著しく異なることが多い(特開平6-80560号公報)。そのため所望するリポソームの形態、特性に応じて製造方
法を適宜選択することが行なわれている。一般にリポソームは、リン脂質、ステロールといった脂質膜成分を、ほとんど例外なくまず有機溶媒、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、エチルエーテル、四塩化炭素、酢酸エチル、ジオキサン、THFなどとともに容器中で混合、溶解することから始めて調製される。特にクロル系溶媒がよく用いられている。このようなリポソームの調製品は、必ず有機溶媒を含んでいる。残存するこれらの有機溶媒を除去するために、多段階の工程および長時間の処理を要しているのが現状である。そうした残留する有機溶媒、特にクロル系有機溶媒については、生体に及ぼす悪影響、例えば副作用が懸念される。
やすく、不活性なガスゆえ残存しても人体に無害であり、高純度流体が安価で容易に入手できるなどの理由により好適である。この方法により作製されたリポソームは、後記するようにリポソーム内へ抗がん性化合物を封入するのに種々の好ましい特性および利点を有している。
範囲である。
実際に溶解助剤として使用できるヒドロキシル基含有化合物として、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール基を有する化合物、グリコール、グリコールエーテル(ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル類も含む)、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロック共重合物、グリコール以外の多価アルコールまたは低級アルコールから少なくとも1つ選ばれる化合物である。リン脂質、コレステロールなどと
いった脂質膜成分と親和性を示し、これらと容易に混合するものが望ましい。さらに、脂質膜成分を極性の液体二酸化炭素中に良好に分散させ、溶解させるためには、適度の親水性と疎水性を兼ね備えた両親媒性のものが好適である。
が好適である。そのオキシエチレン単位が10〜3500、好ましくは100〜2000のポリエチレ
ングリコールが適する。
質量%、好ましくは、0.1〜0.8質量%の割合で溶解助剤として使用するのがよい。
た化合物を上記リン脂質とともに混合して溶解、分散させる。あるいは予めこれらの化合物を加えた圧力容器に液体二酸化炭素を加え、次いで温度、圧力を調整して超臨界状態にして混合してもよい。
しくは0.5〜1.0μmの孔径を有する濾過膜を通す。リポソームは、限外ろ過、遠心分離、
ゲルクロマトグラフィー、透析などの常套技術により分離することができる。その後、調製物は保存のため凍結乾燥に付してもよい。このような乾燥製剤は使用直前に水性媒体中に再懸濁して分散液とする。再構成後のリポソームの浸透圧モル濃度は、典型的には250
〜500 mosmol/L、好ましくは290〜350 mosmol/Lである。
抗腫瘍リポソーム製剤
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤は、血中安定性が改善された上記のリポソームを用いることにより薬物の血中滞留性を向上させて、効率的な送達ならびにターゲティングの実現を図っている。本発明のリポソームは、その脂質膜内またはその内部水相に少なくとも1
種以上の薬物を含有する。その薬物には、抗がん性化合物、造影剤、中性子捕捉療法用物質、光線力学療法用物質、製剤助剤などが含まれる。好ましい態様は、前記リポソームの脂質膜内部の水相およびリポソームを懸濁する水性媒体中に製剤助剤を含有している。この「製剤助剤」とは、リポソーム製剤の製剤化に際し、抗がん性化合物などとともに添加される物質であり、これまでの抗がん剤およびリポソーム製剤の製造技術に基づいて各種の物質が所望により使用される。具体的には生理学的に許容される各種の緩衝剤、EDTANa2−Ca、EDTANa2などといったエデト酸系のキレート化剤、薬理的活性物質(例えば血管拡張剤、凝固抑制剤など)、さらに必要に応じて、浸透圧調節剤、安定化剤、抗酸化剤(例えばα‐トコフェロール、アスコルビン酸)、粘度調節剤、保存剤などが挙げられる。好ましくは、水溶性アミン系緩衝剤およびキレート化剤をともに含めるのがよい。pH緩衝剤としては、アミン系緩衝剤および炭酸塩系緩衝剤が好ましく用いられるが、特に好ましくはアミン系緩衝剤であり、中でもトロメタモールが望ましい。キレート化剤は好ましくは、EDTANa2−Ca(エデト酸カルシウム2ナトリウム)である。
法による透過型電子顕微鏡(TEM)による観察において、レプリカが概ね1つの層とし
て認められるリン脂質二重層によりリポソームが構成されているものを一枚膜リポソームという。すなわち、観察したカーボン膜に残された粒子の跡について段差がないものが一枚膜と判定され、2つ以上の段差が認められるものは「多重層膜」と判定される。2枚もしくは3枚の膜で構成されるリポソームは、一枚膜リポソームより強度が増している。「実質的に」とは、本発明の抗腫瘍リポソーム製剤において、このような一枚膜のリポソームまたは数枚膜で構成されるリポソームを、リポソーム製剤中に含まれる全リポソームのうち、少なくとも80%、好ましくは90%以上含むことを意味する。
封入容量を提供するという利点がある。本発明の抗腫瘍リポソーム製剤に好ましく使用されるリポソームは、粒径が0.7〜1μm のLUVと、粒径が0.05μm 未満の小さい一枚膜リ
ポソームであるSUV(Small unilamellar vesicles)との中間に位置する。このため、保持容積もSUVより大きくなり、水溶性の抗がん性化合物のトラップ効率、換言すると内包効率も、後述するように格段に優れたものとなる。また、MLV、LUVと違い、細網内皮系細胞に取り込まれて急速に血流から消失することもない。反面、抗がん性化合物の内包効率が良好な一枚膜または数枚膜のリポソームでも、内包する抗がん性化合物の重量が相対的に多過ぎるとリポソームの安定性は低下する。特にイオン強度の急激な変化には脆弱である傾向が観察されていた。本発明の製剤に用いられるリポソームは、比較的小さい粒径に調整されている。さらにリポソーム膜にポリアルキレンオキシド基を有する化合物(例えばリン脂質)、ステロール類、グリコールから選ばれる少なくとも1種の化合物を含有させて、脂質膜の安定化を図っている。その結果、そうしたリポソームは、塩ショックに対しても安定的であることが判明した。
ルーダーに通すことにより、平均粒径として0.7μm 以下のリポソームを効率よく調製す
ることができる。押出しろ過法については、例えばBiochim. Biophys.Acta 557巻,9ペー
ジ(1979)に記載されている。このような「押出し」操作を取り入れることにより、上記サイジングに加えて、リポソーム外に存在する抗がん性化合物の濃度の調整、リポソーム分散液の交換、望ましくない物質の除去も併せて可能になるという利点もある。
、比較的多量の脂質を注入することが必要となり、結果的に抗がん性化合物などの送達効率が悪くなる。この点、一枚膜もしくは数枚膜のリポソームは、その脂質量の割に保持容積および内包効率に優れることからも有利である。反対に、リポソーム膜脂質に対する親水性抗がん性化合物の封入重量比が8を超えると、リポソームは構造的にも不安定となり、リポソーム膜外への抗がん性化合物の拡散、漏出は、貯蔵中または生体内に注入された後でも避けられない。また、疎水性の抗がん性化合物である場合には、リポソーム膜脂質に対して、0.2〜2、好ましくは0.5〜1の重量比で含有されていることが望ましい。
浸透圧効果による不安定化に基づき、早くも短時間に封入成分が減少していくことが記載されている(特表平9−505821号公報)。
がん治療への抗腫瘍リポソーム製剤の利用
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤は、注射剤または点滴注入剤として、非経口的に、具体
的には血管内投与、好ましくは静脈内投与により患者に投与される。比較的高濃度のリポソーム製剤を大量に短時間で投与する必要がある場合、このようなボーラス注入を可能とする要件は、製剤の流動性と低い粘度である。注入抵抗を少なくして患者の苦痛を軽減し、血管外漏出の危険を回避するため、本発明のリポソーム分散液の粘度(オストワルド法で測定した場合)は、37℃で、20 mPa・s以下、好ましくは18 mPa・s以下、より好ましくは15 mPa・s以下である。
リポソームの製剤を患者に投与した後、レーザー光線を照射することにより励起した光増感性物質が発生するフリーラジカル、活性酸素が、がん細胞を殺傷する作用を利用するものである。ポルフィリン系のPDT用光増感物質として、ポルフィリン、ヘマトポルフィリンIX、フォトフリンII、verteporfin、purlytin、lutetium texaphyrinなどが挙げられる。これらをリポソームに内包させて、患者に投与して使用する。あらかじめ患者に光増感剤を含むリポソーム製剤を静注し、がん組織と正常組織における薬物濃度差が最大となる48〜72時間後に、光増感剤の励起波長と一致する波長のレーザー光をリポソームが集積した患部に照射する。PDTで使用するレーザーは、レーザーメスのほぼ1/100と低出
力なうえ、光増感物質は、がん組織に多く集積するため正常組織への障害を最小限に抑え、がん病巣のみを選択的に壊死させることができる。
知られている。本発明の抗腫瘍リポソーム製剤をがん患者に投与した後、この温熱療法を施行する。身体の表面に近いがんは目的の温度まで比較的容易に温めることができるが、身体の奥深いところにあるがんは脂肪、空気、骨が邪魔をして十分に温めることが難しい場合が多い。がん組織の中に数本の電極針を刺し入れて加温する方法も試みられる。
ームに内包させる化合物は、ホウ素化合物またはガドリニウム化合物が好ましい。正常組織よりもがん組織に集合しやすいホウ素化合物は、熱中性子を照射されると核反応10B(n,α)7Liを起こす。その結果、α粒子を放出し、そのα粒子が近傍のがん細胞を殺傷
する。周知のようにα線は極短飛程であっても、著しいがん細胞殺傷作用を発揮し、昔から放射線療法に利用されている。腫瘍集積性のホウ素化合物として、ボロカプテイト(BSH)、パラボロノフェニルアラニン(BPA)が例示される。ガドリニウム化合物の場合には、長飛程のγ線を放出し、同様にがん細胞殺傷作用を発揮する。がん細胞の殺傷に必要な腫瘍内ガドリニウム濃度は、150μgGd/g湿組織と推定されている。なおガドリ
ニウム化合物のうち、ガドペンテト酸は、MRI(Magnetic resonance imaging)造影剤として唯一実用化されている水溶性キレート物質である。したがってこのようなガドリニウム化合物を内包させたリポソームの製剤を中性子捕獲療法に利用する場合、MRI造影との併用も想定される。有効ながんの種類、必要な投与量、照射方法などの基礎的データが集積されている。
[発明の効果]
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤は、抗がん性化合物などをマイクロキャリヤーのリポソームに担持させることによってターゲティング性を付与し、リポソームの平均粒径を0.05〜0.7μmに揃えることによりがん病巣への送達効果を増強している。
[実施例]
以下、本発明を具体な例を示してさらに詳細に説明する。以下の実施例中で用いる装置名、示された使用材料、その濃度、使用量、処理時間、処理温度等の数値的条件、処理方法などはこの発明の範囲内の好適例にすぎない。
リポソームの粒径
粒径(粒子径)は、抗がん性化合物などを内包するリポソームを含む分散液を液体窒素にて急速に凍結し、その後破砕した界面をカーボン蒸着し、形成されたこのカーボンを透過型電子顕微鏡で観察すること(凍結破砕TEM法)により測定した。
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)86mgと、コレステロール38.4mg、PEG−リン脂質(日本油脂株式会社製、SUNBRIGHT DSPE-020CN)19.2mg、アドリアマイシン45mgの混合物をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を60℃に加熱し、次いで液体二酸化炭素13gを加えた。撹拌を行いながら、50kg/cm2であったオート
クレーブ内の圧力を、オートクレーブ内の体積を減ずることにより、120kg/cm2にまで上
げて、二酸化炭素を超臨界状態にし、撹拌しながら脂質類を分散・溶解させた。さらに撹拌しながら、生理食塩水5mLを定量ポンプで連続的に50分間かけて注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、抗がん性化合物を含有するリポソームの分散液を得た。得られた分散液を60℃まで加熱し、アドバンテック社製のセルロース系フィルター、1.0μmおよび0.45μmで加圧濾過した。
Claims (15)
- ポリエチレングリコール(PEG)基を有する少なくとも1種の化合物が存在する条件
下で、リン脂質膜を構成する脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製され、平均粒径が0.05〜0.7μmであってリン脂質膜内またはその
内部水相に少なくとも1種以上の薬物を含有し、実質的に有機溶剤を含まないことを特徴とするリポソーム。 - 前記リン脂質膜が、実質的に一枚膜もしくは数枚膜からなることを特徴とする請求項1に記載のリポソーム。
- 平均粒径が0.1〜0.2μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のリポソーム
。 - 前記リン脂質膜が、転移温度を有するリン脂質を少なくとも含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリポソーム。
- 前記のポリエチレングリコール基を有する化合物が、PEG-リン脂質であることを特
徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリポソーム。 - 前記薬物が抗がん性化合物であり、シクロホスファミド、メクロレタミン、カルバジルキノン、メルファラン、チオテパ、ブスルファン、ニムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、ダカルバジン、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、5−フルオロウラシル、フトラフール、フロクスウリジン、シタラビン、アンシタビン、テガフール、ドキシフルリジン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシン、クロモマイシンA3、シネルビンA、アクラシノマイシンA、アドリ
アマイシン、ペプロマイシン、シスプラチン、ミトキサントロン、エピルビシン、ピラルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、リン酸エストラムスチン、ミトタン、ポルフィリン、タキソールから少なくとも1種選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリポソーム。 - 前記抗がん性化合物が、アドリアマイシン、ビラルビシン、ビンクリスチン、タキソール、シスプラチン、マイトマイシン、5−フルオロウラシルから少なくとも1種選ばれることを特徴とする請求項6に記載のリポソーム。
- 前記薬物が、ホウ素化合物またはガドリニウム化合物であり、中性子捕捉療法に用いられることことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリポソーム。
- 前記薬物が、ポルフィリンまたはその誘導体であり、がんの光線力学療法に用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリポソーム。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のリポソームを含んでなる抗腫瘍リポソーム製剤。
- さらに造影剤を含有することを特徴とする請求項10に記載の抗腫瘍リポソーム製剤。
- 患者に投与した後に、温熱療法を適用することを特徴とする請求項10に記載の抗腫瘍リポソーム製剤。
- ポリエチレングリコール基を有する少なくとも1種の化合物が存在する条件下で、脂質
膜成分として、少なくとも転移温度を有するリン脂質を含むリン脂質類とともに、カチオ
ン性脂質およびステロール類から少なくとも1種選ばれる化合物、さらには必要に応じて
親油性の薬物を超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素に溶解もしくは分散させた後、少なくとも1種以上の薬物を含む溶液もしくは懸濁液を導入することによりミセルを形成させ、次いで水を加えて二酸化炭素を排出して、該化合物を内部に含有するリポソームを作製することを含む前記リポソームの製造方法。 - 前記のポリエチレングリコール基を有する化合物を、超臨界状態もしくは亜臨界状態にする二酸化炭素に対して0.01〜1質量%の割合で溶解助剤として用いることを特徴とする
請求項13に記載のリポソームの製造方法。 - 前記の薬物の溶液または懸濁液には、製剤助剤が含まれていることを特徴とする請求項13または14に記載のリポソームの製造方法。
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