図1は、本発明の実施の第1の形態である電子写真感光体1の構成を簡略化して示す部分断面図である。電子写真感光体1は、導電性材料から成るシート状の導電性支持体11と、導電性支持体11上に積層される下引層12と、下引層12上に積層される層であって電荷発生物質を含有する電荷発生層13と、電荷発生層13の上にさらに積層される層であって電荷輸送物質を含有する電荷輸送層14とを含む。感光体1は、積層型感光体であり、電荷発生層13と電荷輸送層14とは、感光層15を構成する。
導電性支持体11は、感光体1の電極としての役割を果たすとともに他の各層12,13,14の支持部材としても機能する。導電性支持体11の形状は、シート状に限定されることなく、円筒状、円柱状、板状、フイルム状、ベルト状などであってもよい。
導電性支持体11を構成する導電性材料としては、(a)アルミニウム、ステンレス鋼、銅、ニッケルなどの金属材料、(b)ポリエステルフィルム、フェノール樹脂パイプ、紙管などの絶縁性物質の表面にアルミニウム、銅、パラジウム、酸化錫、酸化インジウムなどから成る導電性層を設けたものなどが挙げられる。導電性支持体11は、その体積抵抗が1010Ω・cm以下の導電性を有することが好ましい。導電性支持体11の表面には、前述の体積抵抗を調整する目的で酸化処理が施されてもよい。
導電性支持体11上に設けられる下引層12は、下記一般式(1)で表されるアミン化合物と、一般式(1)で表されるアミン化合物を結着する結着性材料とを含んで構成することができる。
前記一般式(1)において、符号R1およびR2は、それぞれアリール基、複素環基、アラルキル基、アルキル基、シクロアルキル基またはヘテロシクロアルキル基を示す。符号R1およびR2で示されるアリール基、複素環基、アラルキル基、アルキル基、シクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基は、それぞれ置換基を有してもよい。ここで、ヘテロシクロアルキル基とは、炭素原子間にヘテロ原子を有するシクロアルカンから炭素原子に結合する水素原子を1個除いてできる1価基のことである。
前記一般式(1)において、符号R1およびR2で示されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、ビフェニリル基、ターフェニル基などが挙げられ、これらの中でも、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基などの単環式または二環式のアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
前記一般式(1)において、符号R1およびR2で示される複素環基としては、ピロリル基、チエニル基、フリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、カルバゾリル基などの、ヘテロ原子として、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子など、好ましくは酸素原子、窒素原子または硫黄原子を有する5員、6員または縮合環、好ましくは5員の複素環基が挙げられる。
前記一般式(1)において、符号R1およびR2で示されるアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、1−ナフチルメチル基、2−(1−ナフチル)エチル基などの、アリール部分がフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、ビフェニリル基、ターフェニル基など、好ましくは単環式または二環式のアリール基、特に好ましくはフェニル基であるアラルキル基などが挙げられ、これらの中でも、アルキル部分の炭素原子数が1〜4であるアラルキル基が好ましく、ベンジル基、フェネチル基が特に好ましい。
前記一般式(1)において、符号R1およびR2で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基などの直鎖状アルキル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ネオペンチル基などの分岐鎖状アルキル基などが挙げられ、これらの中でも、炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましい。
前記一般式(1)において、符号R1およびR2で示されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などが挙げられ、これらの中でも、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基が好ましい。
前記一般式(1)において、符号R1およびR2で示されるヘテロシクロアルキル基としては、ピロリジニル基、ピペリジル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、イミダゾリジニル基、モルホリニル基などの、ヘテロ原子として、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子など、好ましくは酸素原子、窒素原子または硫黄原子を有する炭素原子数2〜6、好ましくは炭素原子数4または5のヘテロシクロアルキル基などが挙げられる。
前記一般式(1)において、符号R1およびR2で示されるアリール基、複素環基、アラルキル基、アルキル基、シクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基が有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、好ましくは炭素原子数1〜4のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、チエニル基、フリル基などの複素環基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、一置換または二置換の置換アミノ基などが挙げられる。これらの中でも、符号R1およびR2で示されるアリール基、複素環基およびアラルキル基が有してもよい置換基としては、炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましい。
前記一般式(1)において、符号R3は、アラルキル基、アルキル基、シクロアルキル基または水素原子を示す。符号R3で示されるアラルキル基、アルキル基およびシクロアルキル基は、それぞれ置換基を有してもよい。
前記一般式(1)において、符号R3で示されるアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、1−ナフチルメチル基、2−(1−ナフチル)エチル基などの、アリール部分がフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、ビフェニリル基、ターフェニル基など、好ましくは単環式または二環式のアリール基、特に好ましくはフェニル基であるアラルキル基などが挙げられ、これらの中でも、アルキル部分の炭素原子数が1〜4であるアラルキル基が好ましく、ベンジル基、フェネチル基が特に好ましい。
前記一般式(1)において、符号R3で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基などの直鎖状アルキル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ネオペンチル基などの分岐鎖状アルキル基などが挙げられ、これらの中でも、炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましい。
前記一般式(1)において、符号R3で示されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などが挙げられ、これらの中でも、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基が好ましい。
前記一般式(1)において、符号R3で示されるアラルキル基、アルキル基およびシクロアルキル基が有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、好ましくは炭素原子数1〜4のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、チエニル基、フリル基などの複素環基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、一置換または二置換の置換アミノ基などが挙げられる。これらの中でも、符号R3で示されるアラルキル基が有してもよい置換基としては、炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましい。
一般式(1)で表されるアミン化合物は、酸化防止剤として機能する。一般式(1)で表されるアミン化合物などの酸化防止剤は、帯電プロセスにおいて発生するオゾンおよび窒素酸化物などの酸化性ガスによる感光層の酸化を防止し、感光体の疲労劣化を抑制するために、通常、感光層の各層すなわち電荷輸送層および/または電荷発生層に添加される。しかしながら、酸化防止剤を電荷輸送層に添加すると、帯電性、感度および応答性などの電気特性の低下が生じ、使用開始初期から実使用上充分な電気特性を得られないという問題が生じる。また電荷発生層はたとえば0.05〜5μm程度と薄いので、酸化防止剤の添加量には限界があり、酸化防止剤を多量に添加すると、電荷発生物質による電荷の発生が阻害され、感度が低下するおそれがある。
これに対し、本実施の形態では、導電性支持体11と感光層15との間に下引層12を設け、この下引層12に一般式(1)で表されるアミン化合物を添加している。下引層12は、導電性支持体11から感光層15に電荷が流入することを抑制するバリア層として機能するものであり、感光体1における電荷輸送および電荷発生への寄与が小さい。このため、本実施の形態では、一般式(1)で表されるアミン化合物を感光層15に添加する場合に比べ、帯電性、感度および応答性などの電気特性を良好にすることができる。また一般式(1)で表されるアミン化合物を下引層12に添加することによって、感光層15を構成する材料を広い範囲から選択することが可能になるので、任意の特性を有する感光体1を容易に製造することができ、生産効率を向上させることができる。また製造原価を低減することもできる。
ただし、下引層12は感光層15の下層であり、酸化性ガスに曝露される層ではないので、下引層12に酸化防止剤を添加しても酸化性ガスによる感光体1の疲労劣化を充分に抑制できない可能性がある。しかしながら、本実施の形態において酸化防止剤として用いられる一般式(1)で表されるアミン化合物は、本実施の形態のように下引層12に添加される方が、感光層15に添加される場合よりも、酸化性ガスによる感光体1の疲労劣化に対して優れた抑制効果を発揮することができる。すなわち、本実施の形態では、帯電性、感度および応答性などの電気特性を低下させることなく、感光体1に耐オゾン性、耐窒素酸化物性などの耐酸化性ガス性を付与することができる。
したがって、本実施の形態のように下引層12に一般式(1)で表されるアミン化合物を含有させることによって、帯電性、感度および応答性などの電気特性に優れるとともに、耐酸化性ガス性に優れ、繰返し使用されても前述の良好な電気特性が低下しない特性安定性に優れる感光体1を実現することができる。すなわち、本実施の形態の感光体1は、コロナ放電帯電器などの帯電器から発生するオゾンおよび窒素酸化物などの酸化性ガスの影響を受けにくいという利点を有し、繰返し使用後においても実使用上充分な電気特性を有する。このような本実施の形態の感光体1を用いることによって、解像度が高く、また帯電プロセスにおいて発生するオゾンおよび窒素酸化物などの活性種による画像不良のない高品質の画像を長期間にわたって安定して提供することができる。また下引層12は、導電性支持体11と感光層15との接着層としての役割も果たすので、本実施の形態のように下引層12を設けることによって、感光層15の導電性支持体11からの剥離を抑え、感光体1の機械的耐久性を向上させることができる。
一般式(1)で表されるアミン化合物のうち、感光体1の疲労劣化を抑制するという観点から特に優れた化合物としては、前記一般式(1)において、R1およびR2が、それぞれ置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいアラルキル基であり、R3が、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜4のアルキル基または水素原子であるアミン化合物が挙げられ、その中でも、前記一般式(1)において、R1、R2およびR3のうちの少なくともいずれか1つが置換基を有してもよいアラルキル基であるアミン化合物が好ましい。これらの中でも、前記一般式(1)において、R1,R2およびR3がそれぞれ置換基を有してもよいアラルキル基であるアミン化合物が好ましく、後述する表1に示す例示化合物No.1およびNo.4がさらに好ましく、例示化合物No.1である下記構造式(1a)で表されるアミン化合物が特に好ましい。
これらのアミン化合物は、酸化性ガスによる感光体1の疲労劣化に対して特に優れた抑制効果を発揮する。したがって、これらのアミン化合物を用いることによって、耐酸化性ガス性に特に優れ、繰返し使用時において安定した電気特性を示す信頼性の高い感光体1が実現される。
一般式(1)で表されるアミン化合物の具体例としては、たとえば以下の表1に示す例示化合物No.1〜No.8を挙げることができるけれども、一般式(1)で表されるアミン化合物は、これらに限定されるものではない。
一般式(1)で表されるアミン化合物は、たとえば前述の表1に示す例示化合物No.1〜No.8からなる群から選ばれる1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
一般式(1)で表されるアミン化合物の使用量、すなわち下引層12における一般式(1)で表されるアミン化合物の含有量は、下引層12の固形分全量の0.1重量%以上、30重量%以下であることが好ましく、下引層12の固形分全量の1重量%以上、10重量%以下であることがさらに好ましい。一般式(1)で表されるアミン化合物の使用量を前記範囲に選択することによって、耐酸化性ガス性に特に優れる感光体1を実現することができる。
一般式(1)で表されるアミン化合物の使用量は、たとえば一般式(1)で表されるアミン化合物を電荷発生層に添加する場合には、電荷発生物質による電荷の発生が阻害されない程度に選択する必要がある。また電荷発生層は前述のように薄いので、一般式(1)で表されるアミン化合物を多量に添加することはできない。しかしながら、本実施の形態において一般式(1)で表されるアミン化合物が含有される下引層12は、たとえば0.1〜10μm程度の厚みを有し、かつ感光体1における電荷発生および電荷輸送への寄与が小さいので、本実施の形態では、帯電性、感度および応答性などの電気特性を低下させることなく、一般式(1)で表されるアミン化合物の含有量を前記範囲に選択することができる。
したがって、一般式(1)で表されるアミン化合物の含有量を前記範囲に選択することによって、帯電性、感度および応答性などの電気特性が良好であるとともに、耐酸化性ガス性に特に優れ、繰返し使用されても使用開始初期と同様に良好な電気特性を示す感光体1が実現される。なお、一般式(1)で表されるアミン化合物の使用量が下引層12の固形分全量の0.1重量%未満であると、感光体1の耐酸化性ガス性が充分に得られない可能性がある。一般式(1)で表されるアミン化合物の使用量が下引層12の固形分全量の30重量%を超えると、感光体1の帯電性、感度および応答性などの電気特性が低下し、繰返し使用によって帯電電位の大幅な低下および残留電位の大幅な上昇などが発生するおそれがある。
下引層12に含有され、一般式(1)で表されるアミン化合物を結着する結着性材料としては、たとえば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドなどの樹脂、セルロース、ニトロセルロースなどのセルロース類、ゼラチン、でんぷん、カゼインなどが挙げられる。これらの中でも、ポリアミド樹脂は、一般式(1)で表されるアミン化合物との相溶性に優れ、また導電性支持体11との接着性にも優れるので、好適に用いられる。ポリアミド樹脂の中でも、アルコール可溶性ナイロン樹脂が特に好適に用いられる。アルコール可溶性ナイロン樹脂としては、たとえば、N−メトキシメチル化ナイロンなどの変性ナイロン樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロンなどが共重合された共重合ナイロン樹脂などが挙げられる。
下引層12には、下引層12の体積抵抗値を調節するために、酸化チタン、酸化錫、酸化アルミニウムなどの導電性粒子を分散させてもよい。下引層12に導電性粒子を添加することによって、下引層12の体積抵抗値を調節し、感光体1の応答性を向上させることができる。なお、下引層12には、この分野で一般的に用いられる各種添加剤がさらに分散されてもよい。
下引層12は、たとえば適当な溶剤中に、一般式(1)で表されるアミン化合物および前述の結着性材料、ならびに必要に応じて前述の導電性粒子などの各種添加剤を加え、溶解および/または分散させて下引層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体11の表面に塗布することによって形成することができる。下引層用塗布液の塗布方法としては、スプレイ法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法、浸漬塗布法などを挙げることができる。
下引層用塗布液の溶剤には、水もしくは各種有機溶剤、またはこれらの混合溶剤が用いられる。その中でも、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類などの単独溶剤、水とアルコール類、2種類以上のアルコール類、アルコール類に、アセトンなどのケトン類、ジオキソランなどのエーテル類、ジクロロエタン、クロロホルム、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類などを混合したアルコール系混合溶剤などの混合溶剤が好適に用いられる。
下引層12の層厚は、0.1μm以上、10μm以下であることが好ましい。下引層12の層厚が0.1μmよりも小さいと、感光体1の疲労劣化を充分に抑制することができない可能性がある。また導電性支持体11から感光層15に電荷が流入し、感光体1の帯電保持能が低下するおそれがある。下引層12の層厚が10μmを超えると、感光体1の応答性が低下するおそれがある。
下引層12上に設けられる電荷発生層13は、電荷発生物質を含んで構成することができる。電荷発生物質としては、可視光などの光を吸収してフリー電荷を発生するものであれば特に制限されず、公知のものを使用でき、たとえば無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。無機顔料としては、セレンおよびその合金、ヒ素−セレン、硫化カドミウム、酸化亜鉛、アモルファスシリコン、ならびにその他の無機光導電体などが挙げられる。有機顔料としては、フタロシアニン系化合物、アゾ系化合物、キナクリドン系化合物、多環キノン系化合物およびペリレン系化合物などが挙げられる。有機染料としては、チアピリリウム塩およびスクアリリウム塩などが挙げられる。
これらの中でも、有機顔料および有機染料などの有機光導電性化合物が好適に用いられる。さらに有機光導電性化合物の中でも、フタロシアニン系化合物が好ましく、下記一般式(2)で表されるチタニルフタロシアニン化合物が特に好ましい。
前記一般式(2)において、X1,X2,X3およびX4は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基を示し、n,m,lおよびkは、それぞれ1〜4の整数を示す。
前記一般式(2)において、符号X1,X2,X3およびX4で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。符号X1,X2,X3およびX4で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基などの直鎖状アルキル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ネオペンチル基などの分岐鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基などが挙げられ、これらの中でも、炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましい。符号X1,X2,X3およびX4で示されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ヘキサノキシ基などの直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基、イソヘキサノキシ基などの分岐鎖状アルコキシ基などが挙げられ、これらの中でも、炭素原子数1〜4のアルコキシ基が好ましい。
フタロシアニン系化合物、好ましくは一般式(2)で表されるチタニルフタロシアニン化合物を用いることによって、導電性支持体11と感光層15との間に一般式(1)で表されるアミン化合物を含有する下引層12を設けることによる電気特性の低下を一層抑制し、感光体1の帯電性、感度および応答性などの電気特性を向上させることができる。特に、フタロシアニン系化合物、好ましくは一般式(2)で表されるチタニルフタロシアニン化合物を、後述する一般式(3)で表されるエナミン化合物と組合せて用いることによって、感度特性、帯電特性および画像再現性に特に優れる感光体1を実現することができる。
一般式(2)で表されるチタニルフタロシアニン化合物は、たとえばモーザ(Moser)
およびトーマス(Thomas)による「フタロシアニン化合物(Phthalocyanine
Compounds)」に記載されている方法などの従来公知の製造方法によって製造することができる。たとえば、一般式(2)で表されるチタニルフタロシアニン化合物のうち、前記一般式(2)においてX1,X2,X3およびX4がそれぞれ水素原子であり、n,m,lおよびkがそれぞれ4であるチタニルフタロシアニンは、フタロニトリルと四塩化チタンとを、加熱融解するかまたはα−クロロナフタレンなどの適当な溶剤中で加熱反応させてジクロロチタニウムフタロシアニンを合成した後、得られたジクロロチタニウムフタロシアニンを塩基または水で加水分解することによって製造することができる。またイソインドリンとテトラブトキシチタンなどのチタニウムテトラアルコキシドとを、N−メチルピロリドンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによって、チタニルフタロシアニンを製造することもできる。
電荷発生物質は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
電荷発生層13には、電荷発生物質として用いられる前述の列挙した顔料および染料の他に、化学増感剤または光学増感剤などの各種添加剤を添加してもよい。化学増感剤としては、たとえば、テトラシアノエチレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンなどのシアノ化合物、アントラキノン、p−ベンゾキノンなどのキノン類、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどのニトロ化合物などの電子受容性物質を用いることができる。光学増感剤としては、キサンテン系色素、チアジン色素、トリフェニルメタン系色素などの色素を用いることができる。
電荷発生層13の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長(Chemical
Vapor Deposition;略称CVD)法などの気相堆積法、または塗布方法などを適用する
ことができる。塗布方法を用いる場合には、前述の電荷発生物質をボールミル、サンドグラインダ、ペイントシェイカ、超音波分散機などによって粉砕して適当な溶剤に分散させ、必要に応じてバインダ樹脂と称される結着性を有する樹脂を加えて電荷発生層用塗布液を調製し、この塗布液を公知の塗布法で下引層12の表面に塗布し、乾燥または硬化させて成膜することによって、電荷発生層13を形成することができる。
電荷発生層13に用いられるバインダ樹脂としては、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアクリレートなどが挙げられる。
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤としては、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、シクロヘキサンなどの炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、エチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、モノクロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが挙げられる。これらの溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて混合溶剤として使用されてもよい。
前述の溶剤の中でも、電荷発生物質の粉砕および/またはミリング時の結晶転移、ならびに塗布液中での電荷発生物質の変質などに基づく感光体1の感度の低下などを抑制するという点を考慮すると、電荷発生物質の結晶転移および変質などを引起こしにくい、シクロヘキサノン、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルケトンおよびテトラヒドロキノンのいずれか1種または2種以上を用いることが好ましい。
電荷発生層用塗布液は、導電性支持体11の形状がシート状の場合には、ベーカアプリケータ、バーコータ、キャスティング、スピンコータなどを用いて下引層12の表面に塗布することができる。また導電性支持体11の形状が円筒状または円柱状である場合には、スプレイ法、垂直型リング法、浸漬塗布法などによって電荷発生層用塗布液を塗布することができる。
電荷発生層13の層厚は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上1μm以下である。電荷発生層13の層厚が0.05μm未満であると、光吸収の効率が低下し、感光体1の感度が低下するおそれがある。電荷発生層13の層厚が5μmを超えると、電荷発生層13内部での電荷移動が感光層15表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感光体1の感度が低下するおそれがある。
電荷発生層13上に設けられる電荷輸送層14は、電荷輸送物質と、電荷輸送物質を結着するバインダ樹脂とを含んで構成することができる。電荷輸送物質としては、電荷発生層13に含まれる電荷発生物質で発生した電荷を受け入れ、これを輸送する能力を有するものであれば特に制限されず、公知のものを使用でき、たとえばポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−g−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、9−(p−ジエチルアミノスチリル)アントラセン、1,1−ビス(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、ピラゾリン誘導体、フェニルヒドラゾン類、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン系化合物、テトラフェニルジアミン系化合物、スチルベン系化合物、3−メチル−2−ベンゾチアゾリン環を有するアジン化合物、エナミン系化合物などの電子供与性物質などが挙げられる。
これらの中でも、下記一般式(3)で表されるエナミン化合物が好ましい。
前記一般式(3)において、R4,R5,R6およびR7は、それぞれ水素原子、置換基を有してもよいアルコキシ基または置換基を有してもよいアルキル基を示し、R8およびR9は、それぞれ水素原子、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいアルキル基を示す。ただし、R4〜R7が結合するベンゼン環およびナフタレン環は、R4〜R7以外に他の置換基を有してもよい。
前記一般式(3)において、符号R4,R5,R6およびR7で示されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基などの直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基などの分岐鎖状アルコキシ基などが挙げられ、これらの中でも、炭素原子数1〜4のアルコキシ基が好ましい。
前記一般式(3)において、符号R4,R5,R6,R7,R8およびR9で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基などの直鎖状アルキル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ネオペンチル基などの分岐鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基などが挙げられ、これらの中でも、炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましい。
前記一般式(3)において、符号R8およびR9で示されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、ビフェニリル基、ターフェニル基などが挙げられ、これらの中でも、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基などの単環式または二環式のアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
前記一般式(3)において、符号R4〜R9で示されるアルコキシ基、アルキル基およびアリール基が有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、好ましくは炭素原子数1〜4のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、チエニル基、フリル基などの複素環基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基などが挙げられる。
前記一般式(3)において、R4〜R7が結合するベンゼン環およびナフタレン環がR4〜R7以外に有してもよい他の置換基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基などの対称ジアルキルアミノ基、エチルメチルアミノ基、イソプロピルエチルアミノ基などの非対称ジアルキルアミノ基などのジアルキルアミノ基、好ましくは炭素原子数2〜8の対称または非対称のジアルキルアミノ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、好ましくは炭素原子数1〜4のアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。
一般式(3)で表されるエナミン化合物を用いることによって、導電性支持体11と感光層15との間に一般式(1)で表されるアミン化合物を含有する下引層12を設けることによる電気特性の低下をさらに抑制し、感光体1の帯電性、感度および応答性などの電気特性を一層向上させることができる。特に、電荷輸送物質として一般式(3)で表されるエナミン化合物を用い、電荷発生物質として前述のフタロシアニン系化合物、好ましくは一般式(2)で表されるチタニルフタロシアニン化合物を用いることによって、感度特性、帯電特性および画像再現性に特に優れる感光体1を実現することができる。
一般式(3)で表されるエナミン化合物は、たとえば、2級アミン化合物とカルボニル化合物とを脱水縮合させてエナミン中間体を製造した後、フィルスマイヤー反応によるホルミル化またはフリーデル−クラフト反応によるアシル化などによってカルボニル基を導入し、得られたエナミン−カルボニル中間体にウィティッヒ−ホーナー反応などによって二重結合部分を導入することによって製造することができる。
電荷輸送物質は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
電荷輸送層14に含有される電荷輸送物質の含有量は、電荷輸送層14の固形分全量の30重量%以上80重量%以下であることが好ましい。電荷輸送物質の含有量が電荷輸送層14の固形分全量の30重量%未満であると、実使用上充分な感度および応答性が得られない可能性がある。電荷輸送物質の含有量が電荷輸送層14の固形分全量の80重量%を超えると、相対的に電荷輸送層14に含有されるバインダ樹脂の含有量が低下するので、電荷輸送層14の耐刷性が低下し、感光体1の機械的耐久性が充分に得られない可能性がある。
電荷輸送層14に含有され、電荷輸送物質を結着するバインダ樹脂としては、電荷輸送物質との相溶性に優れるものを用いることができ、たとえば、ポリカーボネートおよび共重合ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリケトン、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂およびポリスルホン樹脂、ならびにこれらの共重合樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリスチレン、ポリカーボネートおよび共重合ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルなどの樹脂は、体積抵抗率が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れており、また成膜性および電位特性などにも優れているので、好適に用いられる。バインダ樹脂は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
電荷輸送層14には、電荷輸送物質およびバインダ樹脂以外に、化学増感剤または光学増感剤などの各種添加剤が含有されてもよい。化学増感剤、光学増感剤などを電荷輸送層14に含有させることによって、感光体1の感度の向上させ、繰返し使用時の残留電位の上昇および疲労劣化などを一層抑制することができる。化学増感剤としては、たとえば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物、テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環または複素環ニトロ化合物などの電子受容性物質などを用いることができる。光学増感剤としては、たとえば、キサンテン系色素、チアジン色素、トリフェニルメタン色素などの色素、キノリン系顔料、銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物などを用いることができる。
電荷輸送層14は、前述の電荷発生層13を塗布によって形成する場合と同様にして形成することができる。たとえば、適当な溶剤に前述の電荷輸送物質およびバインダ樹脂、ならびに必要に応じて前述の化学増感剤および光学増感剤などの各種添加剤を溶解および/または分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗布液を電荷発生層13の表面に塗布して乾燥させることによって、電荷輸送層14を形成することができる。
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル類、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらの溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されてもよい。
電荷輸送層14の層厚は、10μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは15μm以上40μm以下である。電荷輸送層14の層厚が10μm未満であると、感光体1表面の帯電保持能が低下するおそれがある。電荷輸送層14の層厚が50μmを超えると、感光体1の解像度が低下するおそれがある。
感光層15は、電荷発生層13と電荷輸送層14とが積層されて構成される。このように、電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の層に担わせることによって、各層を構成する材料として電荷発生機能および電荷輸送機能それぞれに最適な材料を選択することが可能となるので、特に良好な感度特性、帯電特性および画像再現性を有する感光体1を得ることができる。
以下感光体1における静電潜像形成動作について簡単に説明する。感光体1に設けられる感光層15は、帯電器などでたとえば負に一様に帯電され、帯電された状態で電荷発生層13に吸収波長を有する光が照射されると、電荷発生層13中に電子および正孔の電荷が発生する。正孔は、電荷輸送層14に含まれる電荷輸送物質によって感光体1表面に輸送されて表面の負電荷を中和し、電荷発生層13中の電子は、正電荷が誘起された導電性支持体11の側に移動し、正電荷を中和する。このようにして、露光された部位の帯電量と露光されなかった部位の帯電量とに差異が生じ、感光層15に静電潜像が形成される。
以上に述べたように、本実施の形態では、感光層15は、電荷発生層13および電荷輸送層14が、この順序で下引層12に積層されて成る。感光層15は、以上の構成に限定されるものではなく、たとえば、電荷輸送層14および電荷発生層13がこの順序で下引層12に積層された構成であってもよい。
図2は、本発明の実施の第2の形態である電子写真感光体2の構成を簡略化して示す部分断面図である。本実施の形態の感光体2は、図1に示す実施の第1形態の感光体1に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。感光体2において注目すべきは、下引層12上に、電荷発生物質と電荷輸送物質との両方を含有する単一の層から成る感光層16が設けられていることである。すなわち、本実施の形態の感光体2は、単層型感光体である。
本実施の形態の単層型感光体2は、オゾン発生の少ない正帯電型画像形成装置用の感光体として好適である。また本実施の形態の単層型感光体2は、下引層12上に塗布されるべき層が感光層16の一層のみであるので、下引層12上に電荷発生層13および電荷輸送層14が積層される実施の第1形態の積層型感光体1に比べて製造原価および歩留が優れている。
また本実施の形態においても、下引層12には、前述の一般式(1)で表されるアミン化合物が含有される。したがって、本実施の形態の感光体2は、実施の第1形態の感光体1と同様に、帯電性、感度および応答性などの電気特性に優れるとともに、耐酸化性ガス性に優れ、繰返し使用されても前述の良好な電気特性が低下せず、繰返し使用後においても実使用上充分な電気特性を有する。
感光層16は、前述の電荷発生物質と電荷輸送物質とがバインダ樹脂に分散されて成る。感光層16は、実施の第1形態の感光体1に用いられるものと同様の電荷発生物質、電荷輸送物質およびバインダ樹脂などを用いて、実施の第1形態における電荷発生層13または電荷輸送層14と同様にして形成することができる。たとえば、バインダ樹脂を溶解した溶液中に電荷発生物質および電荷輸送物質を分散させたり、電荷輸送物質を含むバインダ樹脂中に電荷発生物質を顔料粒子の形で分散させたりして感光層用塗布液を調製し、この塗布液を実施の第1形態において電荷発生層13を形成する場合と同様の塗布方法で下引層12の表面に塗布して乾燥させることによって、単層の感光層16を形成することができる。
以下感光体2における静電潜像形成動作について簡単に説明する。感光体2に設けられる感光層16は、帯電器などでたとえば正に一様に帯電され、帯電された状態で電荷発生物質に吸収波長を有する光が照射されると、感光層16の表面近傍に電子および正孔の電荷が発生する。電子は、感光層16表面の正電荷を中和し、正孔は、負電荷が誘起された導電性支持体11の側に電荷輸送物質によって輸送され、導電性支持体11に誘起された負電荷を中和する。このようにして、露光された部位の帯電量と露光されなかった部位の帯電量とに差異が生じ、感光層16に静電潜像が形成される。
次に、本発明の電子写真感光体を備える本発明の画像形成装置について説明する。図3は、本発明の実施の第3の形態である画像形成装置100の構成を簡略化して示す配置側面図である。図3に示す画像形成装置100は、本発明の電子写真感光体として、前述の図1に示す実施の第1形態の感光体1と同様の層構成を有する円筒状の感光体10を搭載する。以下図3を参照して画像形成装置100の構成および画像形成動作について説明する。
画像形成装置100は、図示しない装置本体に回転自在に支持される前述の感光体10と、感光体10を回転軸線44まわりに矢符41方向に回転駆動させる図示しない駆動手段とを備える。駆動手段は、たとえば動力源としてモータを備え、モータからの動力を図示しない歯車を介して感光体10の芯体を構成する支持体に伝えることによって、感光体10を所定の周速度で回転駆動させる。
感光体10の周囲には、帯電器32と、露光手段30と、現像器33と、転写器34と、クリーナ36とが、矢符41で示される感光体10の回転方向の上流側から下流側に向かってこの順序で設けられる。クリーナ36は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
帯電器32は、感光体10の表面43を負または正の所定の電位に帯電させる帯電手段である。帯電器32は、たとえばコロナ放電帯電器などの非接触式の帯電手段である。
露光手段30は、たとえば半導体レーザなどを光源として備え、光源から画像情報に応じて出力されるレーザビームなどの光31で、帯電された感光体10の表面43を露光し、これによって感光体10の表面43に静電潜像を形成させる。
現像器33は、感光体10の表面43に形成された静電潜像を現像剤によって現像し、可視像であるトナー画像を形成する現像手段であり、感光体10に対向して設けられ感光体10の表面43にトナーを供給する現像ローラ33aと、現像ローラ33aを感光体10の回転軸線44と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持するとともにその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング33bとを備える。
転写器34は、感光体10の表面43に形成されたトナー画像を、感光体10の表面43から転写材である記録紙51上に転写させる転写手段である。転写器34は、たとえば、コロナ放電帯電器などの帯電手段を備え、記録紙51にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー画像を記録紙51上に転写させる非接触式の転写手段である。
クリーナ36は、トナー画像が転写された後の感光体10の表面43を清掃する清掃手段であり、感光体表面43に押圧され、転写器34による転写動作後に感光体10の表面43に残留するトナーおよび紙粉などの異物を前記表面43から剥離させるクリーニングブレード36aと、クリーニングブレード36aによって剥離されたトナーなどの異物を収容する回収用ケーシング36bとを備える。感光体1の表面43でトナー画像を形成するトナーはすべて記録紙51上に転写されるものではなく、わずかに感光体1の表面43に残留することがある。この感光体表面43に残留するトナーは、残留トナーと呼ばれ、残留トナーの存在は、形成される画像品質悪化の原因となるので、感光体表面43に押圧される前記クリーニングブレード36aによって、紙粉などの他の異物とともに感光体10表面43から除去清掃される。
また、感光体10と転写器34との間を通過した後に記録紙51が搬送される方向には、転写されたトナー画像を定着させる定着手段である定着器35が設けられる。定着器35は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ35aと、加熱ローラ35aに対向して設けられ加熱ローラ35aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ35bとを備える。
画像形成装置100による画像形成動作について説明する。まず、図示しない制御部からの指示に応じて、感光体10が駆動手段によって矢符41方向に回転駆動され、露光手段30からの光31の結像点よりも感光体10の回転方向の上流側に設けられる帯電器32によって、その表面43が正または負の所定電位に一様に帯電される。
次いで、制御部からの指示に応じて、露光手段30から、帯電された感光体10の表面43に対して光31が照射される。光源からの光31は、画像情報に基づいて、主走査方向である感光体10の長手方向に繰返し走査される。感光体10を回転駆動させ、光源からの光31を画像情報に基づいて繰返し走査することによって、感光体10の表面43に対して画像情報に対応する露光を施すことができる。この露光によって、光31が照射された部分の表面電荷が減少し、光31が照射された部分の表面電位と光31が照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、感光体10の表面43に静電潜像が形成される。また、感光体10への露光と同期して、記録紙51が、図示しない搬送手段によって矢符42方向から転写器34と感光体10との間の転写位置に供給される。
次いで、光源からの光31の結像点よりも感光体10の回転方向の下流側に設けられる現像器33の現像ローラ33aから、静電潜像の形成された感光体10の表面43にトナーが供給される。これによって、静電潜像が現像され、感光体10の表面43に可視像であるトナー画像が形成される。感光体10と転写器34との間に記録紙51が供給されると、転写器34によってトナーと逆極性の電荷が記録紙51に与えられ、これによって感光体10の表面43に形成されたトナー画像が記録紙51上に転写される。
トナー画像の転写された記録紙51は、搬送手段によって定着器35に搬送され、定着器35の加熱ローラ35aと加圧ローラ35bとの当接部を通過する際に加熱および加圧される。これによって、記録紙51上のトナー画像が記録紙51に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された記録紙51は、搬送手段によって画像形成装置100の外部へ排紙される。
一方、トナー画像が記録紙51に転写された後に、さらに矢符41方向に回転する感光体10は、その表面43がクリーナ36に備わるクリーニングブレード36aによって擦過され、清掃される。このようにしてトナーなどの異物が除去された感光体10の表面43は、除電ランプからの光によって電荷が除去される。これによって感光体10の表面43の静電潜像が消失する。その後、感光体10はさらに回転駆動され、再度感光体10の帯電から始まる一連の動作が繰返される。以上のようにして、連続的に画像が形成される。
画像形成装置100に備わる感光体10は、一般式(1)で表されるアミン化合物を下引層に含有するものであり、帯電性、感度および応答性などの電気特性に優れるとともに、耐酸化性ガス性に優れ、コロナ放電帯電器などの帯電器32から発生するオゾンおよび窒素酸化物などの酸化性ガスの影響を受けにくいという利点を有する。このため、感光体10は、繰返し使用されても前述の良好な電気特性が低下せず、繰返し使用後においても実使用上充分な電気特性を有する。したがって、解像度が高く、画像欠陥のない高品質の画像を長期間にわたって安定して形成することのできる耐久性に優れる画像形成装置100が実現される。
以上に述べたように、本実施の形態の画像形成装置100に備わる感光体10は、前述の図1に示す実施の第1形態の感光体1と同様の層構成を有する。感光体10は、以上の構成に限定されず、たとえば前述の図2に示す実施の第2形態の感光体2と同様の層構成を有してもよい。
本発明の画像形成装置は、以上に述べた図3に示す画像形成装置100の構成に限定されるものではなく、本発明に係る感光体を使用することのできるものであれば、他の異なる構成であってもよい。
たとえば、本実施形態の画像形成装置100では、帯電器32は、非接触式の帯電手段であるけれども、これに限定されることなく、たとえば帯電ローラなどの接触式の帯電手段であってもよい。また転写器34は、押圧力を用いずに転写を行なう非接触式の転写手段であるけれども、これに限定されることなく、押圧力を利用して転写を行なう接触式の転写手段であってもよい。接触式の転写手段としては、たとえば、転写ローラを備え、記録紙51の感光体10の表面43との当接面の反対側の表面から転写ローラを感光体10に対して押圧し、感光体10と記録紙51とを圧接させた状態で、転写ローラに電圧を印加することによって、トナー画像を記録紙51上に転写させるものなどを用いることができる。
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するけれども、本発明は以下の記載内容に限定されるものではない。
[製造例]
以下の実施例および比較例では、電荷輸送物質として下記構造式(3a)で表されるエナミン化合物を用いた。
以下、前記構造式(3a)で表されるエナミン化合物の製造方法について説明する。
〔構造式(3a)で表されるエナミン化合物の製造〕
(製造例1−1)エナミン中間体の製造
トルエン100mLに、下記構造式(4)で表されるN−(p−メトキシフェニル)−α−ナフチルアミン4.9g(1.0モル当量)と、下記構造式(5)で表されるジフェニルアセトアルデヒド4.1g(1.05モル当量)と、DL−10−カンファースルホン酸46mg(0.01モル当量)とを加えて加熱し、副生した水をトルエンと共沸させて系外に取除きながら、6時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を10分の1(1/10)程度に濃縮し、激しく撹拌されているヘキサン100mL中に徐々に滴下し、結晶を生成させた。生成した結晶を濾別し、冷エタノールで洗浄することによって、淡黄色粉末状化合物7.9gを得た。
得られた化合物を液体クロマトグラフィー−質量分析法(Liquid Chromatography−
Mass Spectrometry;略称LC−MS)で分析した結果、下記構造式(6)で表されるエ
ナミン中間体(分子量の計算値:427.20)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが428.5に観測されたことから、得られた化合物が下記構造式(6)で表されるエナミン中間体であることが確認された(収率:94%)。また、LC−MSの分析結果から、得られたエナミン中間体の純度は94%であることが判った。
以上のように、2級アミン化合物である前記構造式(4)で表されるN−(p−メトキシフェニル)−α−ナフチルアミンと、アルデヒド化合物である前記構造式(5)で表されるジフェニルアセトアルデヒドとの脱水縮合反応を行なうことによって、前記構造式(6)で表されるエナミン中間体を高収率で得ることができた。
(製造例1−2)エナミン−アルデヒド中間体の製造
無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)100mL中に、氷冷下、オキシ塩化リン3.4g(1.2モル当量)を徐々に加え、約30分間攪拌し、フィルスマイヤー試薬を調製した。この溶液中に、氷冷下、製造例1−1で得られた前記構造式(6)で表されるエナミン中間体7.9g(1.0モル当量)を徐々に加えた。その後、徐々に加熱して反応温度を80℃まで上げ、80℃を保つように加熱しながら3時間攪拌した。反応終了後、この反応溶液を放冷し、冷やした4規定(4N)−水酸化ナトリウム水溶液800mL中に徐々に加え、沈殿を生じさせた。生じた沈殿を濾別し、充分に水洗した後、エタノールと酢酸エチルとの混合溶媒で再結晶することによって、黄色粉末状化合物7.2gを得た。
得られた化合物をLC−MSで分析した結果、下記構造式(7)で表されるエナミン−アルデヒド中間体(分子量の計算値:455.19)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが456.5に観測されたことから、得られた化合物が下記構造式(7)で表されるエナミン−アルデヒド中間体であることが確認された(収率:85%)。また、LC−MSの分析結果から、得られたエナミン−アルデヒド中間体の純度は85%であることが判った。
以上のように、前記構造式(6)で表されるエナミン中間体に対して、フィルスマイヤー反応によるホルミル化を行なうことによって、前記構造式(7)で表されるエナミン−アルデヒド中間体を高収率で得ることができた。
(製造例1−3)構造式(3a)で表されるエナミン化合物の製造
製造例1−2で得られた前記構造式(7)で表されるエナミン−アルデヒド中間体7.0g(1.0モル当量)と、下記構造式(8)で表されるジエチルシンナミルホスホネート4.7g(1.2モル当量)とを、無水DMF80mLに溶解させ、その溶液中にカリウムt−ブトキシド2.15g(1.25モル当量)を室温で徐々に加えた後、50℃まで加熱し、50℃を保つように加熱しながら5時間撹拌した。反応混合物を放冷した後、過剰のメタノール中に注いだ。析出物を回収し、トルエンに溶解させてトルエン溶液とした。このトルエン溶液を分液ロートに移し、水洗した後、有機層を取出し、取出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、固形物を取除いた有機層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行なうことによって、黄色結晶7.9gを得た。
得られた結晶をLC−MSで分析した結果、前記構造式(3a)で表されるエナミン化合物(分子量の計算値:555.26)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが556.7に観測された。また、得られた結晶の重クロロホルム(化学式:CDCl3)中における核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;略称NMR)スペクトルを測定したところ、前記構造式(3a)で表されるエナミン化合物の構造を支持するスペクトルが得られた。LC−MSの分析結果およびNMRスペクトルの測定結果から、得られた結晶が前記構造式(3a)で表されるエナミン化合物であることが確認された(収率:92%)。また、LC−MSの分析結果から、得られた前記構造式(3a)で表されるエナミン化合物の純度は99%であることが判った。
以上のように、前記構造式(7)で表されるエナミン−アルデヒド中間体と、ウィッティッヒ(Wittig)試薬である前記構造式(8)で表されるジエチルシンナミルホスホネートとのウィッティッヒ(Wittig)−ホーナー(Horner)反応を行なうことによって、前記構造式(3a)で表されるエナミン化合物を高収率で得ることができた。
[実施例]
以下、外径30mm、長手方向の長さ346mmのアルミニウム製円筒状導電性支持体上に種々の条件にて下引層および感光層を形成し、実施例および比較例として準備した感光体について説明する。なお以下では、各条件において、後述する評価装置による耐酸化性ガス性の評価に供する感光体(以下、評価装置評価用感光体と称する)および実機による耐酸化性ガス性の評価に供する感光体(以下、実機評価用感光体と称する)の2種類の感光体をそれぞれ作製した。
(実施例1)
〔評価装置評価用感光体の作製〕
酸化チタン(商品名:TTO−D1(Al2O3およびZrO2で表面処理された樹枝状ルチル型、チタン成分85%)、石原産業株式会社製)3重量部と、アルコール可溶性ナイロン樹脂(商品名:CM8000、東レ株式会社製)3重量部と、酸化防止剤として前述の表1に示す例示化合物No.1のアミン化合物であるトリベンジルアミン0.3重量部(下引層の固形分全量の4.8重量%)とを、メタノール60重量部と1,3−ジオキソラン40重量部との混合溶剤に加え、ペイントシェイカにて10時間分散処理して下引層用塗布液を調製した。この塗布液を塗布槽に満たし、導電性支持体を浸漬した後引上げ、自然乾燥して層厚0.9μmの下引層を形成した。
次に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:S−LEC BL−2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、1,3−ジオキソラン1400重量部と、チタニルフタロシアニン(前記一般式(2)において、X1,X2,X3およびX4がそれぞれ水素原子であり、n,m,lおよびkがそれぞれ4であるもの)15重量部とを、ボールミルにて72時間分散処理して電荷発生層用塗布液を調製した。この塗布液を、下引層の場合と同様の浸漬塗布法にて先に形成した下引層上に塗布し、自然乾燥して層厚0.2μmの電荷発生層を形成した。
次に、電荷輸送物質として前述の製造例で製造した前記構造式(3a)で表されるエナミン化合物100重量部と、バインダ樹脂としてポリカーボネート樹脂J−500、G−400、GH−503(商品名、以上3種、出光興産株式会社製)、TS2020(商品名、帝人化成社製)のそれぞれ48重量部、32重量部、32重量部、48重量部とを混合し、テトラヒドロフラン980重量部に溶解して電荷輸送層用塗布液を調製した。この塗布液を、下引層と同様の浸漬塗布法にて先に形成した電荷発生層上に塗布し、温度130℃で1時間乾燥して層厚15μmの電荷輸送層を形成した。このようにして実施例1の評価装置評価用感光体を作製した。
〔実機評価用感光体の作製〕
電荷輸送層の形成に際し、層厚が28μmになるように電荷輸送層を形成すること以外は、評価装置評価用感光体と同様にして、実施例1の実機評価用感光体を作製した。
(実施例2)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物の配合量を0.7重量部(下引層の固形分全量の10重量%)に変更すること以外は、実施例1と同様にして、実施例2の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例3)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物の配合量を0.9重量部(下引層の固形分全量の13重量%)に変更すること以外は、実施例1と同様にして、実施例3の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例4)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物の配合量を0.006重量部(下引層の固形分全量の0.1重量%)に変更すること以外は、実施例1と同様にして、実施例4の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例5)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物に代えて、前述の表1に示す例示化合物No.2のアミン化合物であるフェニルアミン構造を有するアミン化合物を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例5の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例6)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物に代えて、前述の表1に示す例示化合物No.3のアミン化合物であるジアラルキルアミン構造を有するアミン化合物を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例6の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例7)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物に代えて、前述の表1に示す例示化合物No.4のアミン化合物であるトリフェネチルアミンを用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例7の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例8)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物に代えて、前述の表1に示す例示化合物No.5のアミン化合物であるアラルキルアミン−アリールアミン構造を有するアミン化合物を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例8の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例9)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物に代えて、前述の表1に示す例示化合物No.6のアミン化合物であるジアラルキルアミン−アリールアミン構造を有するアミン化合物を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例9の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例10)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物に代えて、前述の表1に示す例示化合物No.7のアミン化合物であるジアラルキルアミン構造を有するアミン化合物を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例10の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例11)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物に代えて、前述の表1に示す例示化合物No.8のアミン化合物であるジアラルキルアミン構造を有するアミン化合物を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例11の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例12)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物の配合量を2.8重量部(下引層の固形分全量の32重量%)に変更すること以外は、実施例1と同様にして、実施例12の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(実施例13)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物の配合量を0.0048重量部(下引層の固形分全量の0.08重量%)に変更すること以外は、実施例1と同様にして、実施例13の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(比較例1)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(比較例2)
下引層の形成に際して例示化合物No.1のアミン化合物を用いずに、電荷輸送層の形成に際して電荷輸送層用塗布液に例示化合物No.1のアミン化合物5重量部を添加すること以外は、実施例1と同様にして、比較例2の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(比較例3)
下引層の形成に際して例示化合物No.1のアミン化合物を用いずに、電荷発生層の形成に際して電荷発生層用塗布液に例示化合物No.1のアミン化合物7.5重量部を添加すること以外は、実施例1と同様にして、比較例3の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(比較例4)
下引層の形成に際して例示化合物No.1のアミン化合物を用いずに、電荷輸送層の形成に際して電荷輸送層用塗布液にヒンダードフェノール系酸化防止剤スミライザーBHT(商品名、住友化学工業株式会社製)5重量部を添加すること以外は、実施例1と同様に
して、比較例4の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
(比較例5)
下引層の形成に際し、例示化合物No.1のアミン化合物に代えて、下記構造式(9)で表されるヒンダードアミン系酸化防止剤を用いること以外は、実施例1と同様にして、比較例5の評価装置評価用感光体および実機評価用感光体をそれぞれ作製した。
以上のようにして作製した実施例1〜13および比較例1〜5の各感光体について、以下のようにして(a)耐酸化性ガス性および(b)電気特性の安定性を評価し、さらに(c)感光体性能の総合判定を行なった。
(a)耐酸化性ガス性
〔評価装置による評価〕
実施例1〜13および比較例1〜5の各評価装置評価用感光体(電荷輸送層の層厚:15μm)を試験用複写機にそれぞれ搭載し、温度25℃、相対湿度50%の常温/常湿(N/N:Normal Temperature/Normal Humidity)環境下において、帯電直後の感光体の表面電位V1(V)および帯電から3秒間経過後の感光体の表面電位V2(V)を測定した。試験用複写機には、感光体の帯電手段としてコロナ放電帯電器を備える市販の複写機AR−F330(商品名、シャープ株式会社製)の内部に、画像形成過程における感光体の表面電位を測定できるように表面電位計(商品名:CATE751、ジェンテック社製)を設けたものを用いた。測定された帯電直後の表面電位V1(V)および帯電から3秒間経過後の表面電位V2(V)を下記式(I)に代入し、電荷保持率DD(%)を算出し、これを初期電荷保持率DD0とした。
次いで、オゾン発生・制御装置(商品名:OES−10A、ダイレック株式会社製)を用い、各感光体をオゾン濃度が約7.5ppm(ダイレック株式会社製のオゾン濃度計MODEL1200(商品名)にて確認)に調整された密閉された容器中で20時間オゾンに曝露した。オゾンへの曝露後、各感光体を温度25℃、相対湿度50%の常温/常湿(N/N)環境下に2時間放置した後、オゾン曝露前と同様にして電荷保持率DD(%)を求め、これをオゾン曝露後の電荷保持率DD02とした。
オゾン曝露前の電荷保持率すなわち初期電荷保持率DD0からオゾン曝露後の電荷保持率DD02を差引いた値を、電荷保持率変化量ΔDD(=DD0−DD02)として求め
、耐酸化性ガス性の評価指標とした。
〔実機による評価〕
実施例1〜13および比較例1〜5の各実機評価用感光体(電荷輸送層の層厚:28μm)を、感光体の帯電手段としてコロナ放電帯電器を備える市販の複写機AR−F330(商品名、シャープ株式会社製)にそれぞれ搭載し、温度25℃、相対湿度50%の常温/常湿(N/N)環境下において、所定のパターンのテスト画像を記録用紙5万枚に実写させた。5万枚の実写が終了した時点から1時間複写機の動作を停止させた後、記録用紙にハーフトーン画像を複写させ、これを第1評価用画像とした。次いで、再び温度25℃、相対湿度50%のN/N環境下において所定のパターンのテスト画像を記録用紙5万枚に実写させ、5万枚の実写が終了した時点から1時間複写機の動作を停止させた後、記録用紙にハーフトーン画像を複写させ、これを第2評価用画像とした。
形成された第1評価用画像および第2評価用画像をそれぞれ目視によって観察し、複写機の動作停止時にコロナ放電帯電器に近接して配置されていた感光体の部位からトナー像が転写された部分に相当する記録用紙の部位の画質を、白抜けおよび黒帯などの画像欠陥の発生度合によって判定し、耐酸化性ガス性の評価指標とした。画質の判定基準は以下のようである。
◎:優。第1評価用画像および第2評価用画像のいずれにも画像欠陥が全く発生していない。
○:良。第1評価用画像および第2評価用画像のいずれか一方または両方に若干の画像欠陥が発生しているけれども、無視できる程度である。
△:可。第1評価用画像および第2評価用画像のいずれか一方または両方に若干の画像欠陥が発生しているけれども、実使用上問題がない程度である。
×:不可。第1評価用画像および第2評価用画像のいずれか一方または両方に多数の画像欠陥が発生し、実使用不可。
以上の電荷保持率変化量ΔDDの値と画質の判定結果とを合わせて、感光体の耐酸化性ガス性を評価した。耐酸化性ガス性の評価基準は以下のようである。
◎:優良。ΔDDが3.0%未満かつ画質が優(◎)。
○:良好。ΔDDが3.0%以上7.0%未満かつ画質が優(◎)、またはΔDDが7.0%未満かつ画質が良(○)。
△:実使用上問題なし。ΔDDが7.0%未満かつ画質が可(△)。
×:不良。ΔDDが7.0%以上、または画質が不可(×)。
(b)電気特性の安定性
実施例1〜13および比較例1〜5の各実機評価用感光体(電荷輸送層の層厚:28μm)を試験用複写機にそれぞれ搭載し、温度5℃、相対湿度20%の低温/低湿(L/L:Low Temperature/Low Humidity)環境下および温度35℃、相対湿度85%の高温/高湿(H/H:High Temperature/High Humidity)環境下のそれぞれの環境下において、以下のようにして電気特性の安定性を評価した。試験用複写機には、感光体の帯電手段としてコロナ放電帯電器を備える市販の複写機AR−F330(商品名、シャープ株式会社製)の内部に、画像形成過程における感光体の表面電位を測定できるように表面電位計(商品名:CATE751、ジェンテック社製)を設けたものを用いた。なお、複写機AR−F330は、感光体表面を負に帯電して電子写真プロセスを行なう負帯電型の画像形成装置である。
実施例1〜13および比較例1〜5の各感光体が搭載された試験用複写機を用い、帯電器による帯電動作直後の感光体の表面電位を帯電電位V0(V)として測定し、これを初期の帯電電位V01とした。またレーザ光によって露光を施した直後の感光体の表面電位を残留電位Vr(V)として測定し、これを初期の残留電位Vr1とした。
次いで、所定のパターンのテスト画像を記録用紙30万枚に連続して複写させた後、初期と同様にして帯電電位V0および残留電位Vrを測定し、これらを繰返し使用後の帯電電位V02および繰返し使用後の残留電位Vr2とした。初期の帯電電位V01と繰返し使用後の帯電電位V02との差の絶対値を、帯電電位変化量ΔV0(=|V01−V02|)として求めた。また初期の残留電位Vr1と繰返し使用後の残留電位Vr2との差の絶対値を、残留電位変化量ΔVr(=|Vr1−Vr2|)として求めた。帯電電位変化量ΔV0および残留電位変化量ΔVrを評価指標として、電気特性の安定性を評価した。
L/L環境下における電気特性の安定性の評価基準は以下のようである。
◎:優良。ΔV0が35V以下かつΔVrが55V以下。
○:良好。ΔV0が35V以下かつΔVrが55Vを超え80V以下、またはΔV0が35Vを超え75V以下かつΔVrが55V以下。
△:実使用上問題なし。ΔV0が35Vを超え75V以下かつΔVrが55Vを超え80V以下。
×:不良。ΔV0が75Vを超える、またはΔVrが80Vを超える。
H/H環境下における電気特性の安定性の評価基準は以下のようである。
◎:優良。ΔV0が15V以下かつΔVrが105V以下。
○:良好。ΔV0が15V以下かつΔVrが105Vを超え125V以下、またはΔV0が15Vを超え30V以下かつΔVrが105V以下。
△:実使用上問題なし。ΔV0が15Vを超え30V以下かつΔVrが105Vを超え125V以下。
×:不良。ΔV0が30Vを超える、またはΔVrが125Vを超える。
また、L/L環境下における評価結果とH/H環境下における評価結果とを合わせて、電気特性の安定性の総合評価を行なった。電気特性の安定性の総合評価の評価基準は以下のようである。
◎:優良。L/L環境下およびH/H環境下がいずれも優良(◎)。
○:良好。L/L環境下およびH/H環境下のいずれかが良好(○)かつ他方が優良(◎)または良好(○)。
△:実使用上問題なし。L/L環境下およびH/H環境下のいずれかが実使用上問題なし(△)かつ他方が不良(×)でない。
×:不良。L/L環境下およびH/H環境下のいずれか一方または両方が不良(×)。
(c)感光体性能の総合判定
耐酸化性ガス性の評価結果と電気特性の安定性の総合評価結果とを合わせて、感光体性能の総合判定を行なった。総合判定の判定基準は以下のようである。
◎:優良。耐酸化性ガス性および電気特性の安定性がいずれも優良(◎)。
○:良好。耐酸化性ガス性および電気特性の安定性のいずれかが良好(○)かつ他方が優良(◎)または良好(○)。
△:実使用上問題なし。耐酸化性ガス性および電気特性の安定性のいずれかが実使用上問題なし(△)かつ他方が不良(×)でない。
×:不良。耐酸化性ガス性および電気特性の安定性のいずれか一方または両方が不良(×)。
以上の評価結果を表2に示す。なお表2では、下引層をUC(Under Coat)層と略記し、電荷輸送層をCT(Charge Transport)層と略記し、電荷発生層をCG(Charge
Generation)層と略記する。
実施例1〜13と比較例1との比較から、下引層に一般式(1)で表されるアミン化合物が添加された実施例1〜13の感光体は、下引層に一般式(1)で表されるアミン化合物が添加されていない比較例1の感光体に比べ、耐酸化性ガス性および電気特性の安定性に優れ、繰返し使用されても良好な電気特性を示すことが判った。
実施例1〜13と比較例2,3との比較から、一般式(1)で表されるアミン化合物が電荷輸送層または電荷発生層に添加された比較例2および3の感光体は、耐酸化性ガス性は比較的良好であるけれども、実施例1〜13の感光体に比べ、L/L環境下およびH/H環境下のいずれにおいても、繰り返しの使用による帯電電位変化量ΔV0が大きく帯電性の安定性が悪く、また残留電位変化量ΔVrが大きく応答性の安定性が悪いことが判った。
実施例1〜13と比較例4との比較から、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤であるスミライザーBHTが電荷輸送層に添加された比較例4の感光体は、実施例1〜13の感光体に比べ、電荷保持率変化量ΔDDが大きく、また画質の評価が不可(×)であり、耐酸化性ガス性が不充分であることが判った。
実施例1〜13と比較例5との比較から、一般式(1)で表されるアミン化合物に該当しない前記構造式(9)で表されるヒンダードアミン系酸化防止剤を用いた比較例5の感光体は、実施例1〜13の感光体に比べ、電荷保持率変化量ΔDDが大きく、また画質の評価が不可(×)であり、耐酸化性ガス性が不充分であることが判った。また比較例5の感光体は、実施例1〜13の感光体に比べ、L/L環境下およびH/H環境下の双方において、繰り返し使用による帯電電位変化量ΔV0が大きく帯電性の安定性が劣ることが判った。
実施例1〜11と実施例12との比較から、下引層における一般式(1)で表されるアミン化合物の含有量が固形分全量の0.1〜30重量%の範囲内にある実施例1〜11の感光体は、下引層における一般式(1)で表されるアミン化合物の含有量が前記範囲を大きい方に外れる実施例12の感光体に比べ、L/L環境下およびH/H環境下のいずれにおいても、繰り返しの使用による帯電電位変化量ΔV0が小さく帯電性の安定性に優れ、また残留電位変化量ΔVrが小さく応答性の安定性に優れることが判った。さらに実施例1,2,5〜11と実施例3との比較から、アミン化合物の含有量が下引層の固形分全量の1〜10重量%の範囲内にある実施例1,2および5〜11の感光体は、アミン化合物の含有量が下引層の固形分全量の10重量%を超える実施例3の感光体に比べ、L/L環境下およびH/H環境下の双方において、繰り返しの使用による帯電電位変化量ΔV0が小さく帯電性の安定性に優れ、また残留電位変化量ΔVrが小さく応答性の安定性に優れることが判った。
また実施例1〜11と実施例13との比較から、下引層における一般式(1)で表されるアミン化合物の含有量が固形分全量の0.1〜30重量%の範囲内にある実施例1〜11の感光体は、下引層における一般式(1)で表されるアミン化合物の含有量が固形分全量の0.1〜30重量%の範囲を小さい方に外れる実施例13の感光体に比べ、電荷保持率変化量ΔDDが小さく、また画質の評価が優(◎)または良(○)であり、耐酸化性ガス性に優れることが判る。さらに実施例1,2,5〜11と実施例4との比較から、アミン化合物の含有量が固形分全量の1〜10重量%の範囲内にある実施例1,2および5〜11の感光体は、アミン化合物の含有量が下引層の固形分全量の1重量%未満である実施例4の感光体に比べ、より耐酸化性ガス性に優れることが判る。
実施例1と実施例5〜11との比較から、一般式(1)で表されるアミン化合物の中でも、前記構造式(1a)で表されるトリベンジルアミン構造を有するアミン化合物を用いることによって、耐酸化性ガス性および電気特性の安定性に特に優れる感光体が得られることが判る。
以上のように、下引層に一般式(1)で表されるアミン化合物を含有させることによって、帯電性および応答性などの電気特性に優れるとともに、耐酸化性ガス性に優れ、繰返し使用されても前述の良好な電気特性が低下しない特性安定性に優れる電子写真感光体を得ることができた。