JP2005320585A - 濡れ性が制御された膜及びその形成方法並びに濡れ性制御膜被覆物品 - Google Patents

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Abstract


【課題】流体の流れ、流体の付着分布、流体の付着量等の流体制御のうち少なくとも一つを簡単に行える表面を備え、そのような流体制御が要求される或いは望ましい物品に形成可能である膜及び該膜の形成方法並びにかかる膜で被覆されることで所望の流体制御を行える物品を提供する。
【解決手段】濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域(f11〜f16、f21〜f25)を含む表面を有する濡れ性が制御された炭素膜(F1、F2)。該炭素膜で被覆された物品(板状体P、摺動部品SL)。該炭素膜の形成方法であって、該炭素膜を形成する物品を準備する工程と、該物品の少なくとも一部に表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分を形成することで濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜を形成する工程とを含む濡れ性が制御された炭素膜の形成方法。
【選択図】 図4

Description

本発明は表面の濡れ性が制御された膜及びその形成方法に関する。また、本発明はかかる膜で被覆された物品に関する。
流体、特に液体の流れを制御したり、流体の付着量を制御する等の簡単な手法例として、流体に接触する物品表面の濡れ性の制御、すなわち物品表面と流体との親和性の制御を挙げることができる。
かかる物品表面の濡れ性は従来次のような手法で制御されてきた。
流体と接触する面の疎水性或いは撥水性が要求され或いは望まれる物品、例えば、流体を流す流体通路を有する物品であって該流体通路の疎水性或いは撥水性が要求され或いは望まれる物品(各種流路用管体、流体通路を含む食品製造機器、医療機器、検査機器等の各種機器等)や、撥水性や疎水性を有することが望まれる各種厨房用機器(例えば鍋、フライパン等、特にその内面部分)、雨具類等については、撥水性や疎水性を与えるべき部分表面を例えばポエリトラフルオロエチレン等の撥水性や疎水性を有する物質でコーティングするなどの手法である。
また、撥水性を与える手法としてダイヤモンド状炭素(DLC)膜を物品表面に形成することも提案されている。例えば、特開平10−30679号公報では自動車用フロントガラス表面に、撥水性を有するDLC膜を形成することが提案されている。
流体と接触する面の親和性或いは親水性が要求され或いは望まれる物品では、親和性或いは親水性を与えるべき部分を例えば親和性や親水性を向上させ得るガスプラズマに暴露する処理も例示できる。
特開平10−30679号公報
しかし、これら従来の濡れ性制御処理は、物品表面に疎水性や撥水性を与えるか、又はその反対に親和性や親水性を与えるかの2者択一的な処理にすぎない。
同じ一つの面の中で疎水性や撥水性と親和性や親水性の双方を制御することができれば、換言すると、一つの面において該面各部の濡れ性が異なるように制御することができれば、そのように各部の濡れ性が制御された面は様々に応用できる。
例えば、液体を液体通路に沿って流す場合における液体の流速や流量の制御が該通路表面各部の濡れ性を制御することで可能になる。また、2種以上の液体の所定割合の混合においても、それら液体の合流部位より上流側の各液体の通路表面各部の濡れ性を制御することで各液体通路を流れる個々の液体の流速や流量を制御することができ、それにより液体合流部位において所望の液体混合状態を得ることも可能になる。
さらに、2種以上の液体の混合液を各部の濡れ性が制御された通路に流すことで分離することも可能になる。
また、機械部品等で他の物品と摺動する面を有するものの場合、該摺動面のうち一部には他の部分より潤滑剤(例えば潤滑オイル)を多量に存在させることが好ましい場合もあり得るが、その場合、該摺動面の各部の濡れ性を制御することでそれが可能になる。
しかしながら、従来、そのように一つの面の中で面各部の濡れ性が異なるように制御する概念、換言すれば、一つの面或いは物品面に疎水性や撥水性と親和性や親水性の双方を混在させる概念は無かった。
そこで本発明は流体の流れ、流体の付着分布、流体の付着量等の流体制御のうち少なくとも一つを簡単に行える表面を備え、そのような流体制御が要求される或いは望ましい物品に形成可能である膜及び該膜の形成方法を提供することを課題とする。
また本発明は、かかる膜で被覆されることで所望の流体制御を行える物品を提供することを課題とする。
ここで「流体」とは気体も含む概念であるが、中でも特に液体に注目している。
本発明者は前記課題を解決すべく研究を重ね次のことを知見するに至った。
先ず、炭素膜は物品の表面にプラズマCVD法等の膜形成技術を利用して容易に形成することができる。しかも、炭素膜はその表面の濡れ性を容易に制御することができる。
例えば、炭素膜表面に酸素を結合させれば炭素膜表面の親水性或いは親和性が増加する。かかる酸素の結合は、炭素膜表面を酸素プラズマに暴露させたり、炭素膜の形成を炭化水素化合物ガスと酸素ガスを含むガスのプラズマのもとで形成すること等により容易に得られる。
また、例えば、炭素膜表面にフッ素を結合させれば炭素膜表面の疎水性或いは撥水性がが増加する。フッ素結合は、炭素膜表面をフッ素含有ガスプラズマに暴露したり、炭素膜の形成を炭化水素化合物ガスとフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとで形成したり、フッ素結合の無い炭素膜の上にさらに炭化水素化合物ガスとフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとで炭素膜を形成すること等により容易に得られる。
また、炭素膜の表面をアルゴンガス等の不活性ガスのプラズマに暴露することでも炭素膜表面の濡れ性を制御できる。
本発明はかかる知見に基づき、濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する濡れ性が制御された炭素膜を提供する。
また本発明は、かかる濡れ性が制御された炭素膜で少なくとも一部が被覆された濡れ性制御膜被覆物品(濡れ性が制御された膜で被覆された物品)を提供する。
かかる濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜は、その濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を利用して、流体(代表的には液体)の流れの制御(例えば液体の流速や流量の制御)、2種以上の液体の混合制御、2種以上の液体からなる混合液の各液体への分離、流体の付着量制御、流体の付着量分布の制御等の流体制御のうち1又は2以上を実施することが可能である。
かかる炭素膜で少なくとも一部が被覆された物品では、該炭素膜で被覆された部分でそれに接触する流体(代表的には液体)の流れ制御、付着量制御、付着量分布制御等の流体制御のうち少なくとも一つを行える。
また本発明は、かかる炭素膜の形成方法として、
該炭素膜を形成する物品を準備する工程と、
該物品の少なくとも一部に表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分を形成することで濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜を形成する工程と
を含む濡れ性が制御された炭素膜の形成方法を提供する。
ここで、表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分の形成は隣り合う炭素膜部分が連続するように形成することができる。
また本発明は、かかる炭素膜の形成方法として、
該炭素膜を形成する物品を準備する工程と、
該物品の少なくとも一部に表面に酸素結合、フッ素結合の無いベース炭素膜を形成する工程と、
該ベース炭素膜表面の複数の面領域のそれぞれに濡れ性制御処理を施こす工程とを含み、
該ベース炭素膜表面の複数面領域のそれぞれに対する濡れ性制御処理は、
(1) 該面領域をそのままの状態に維持する処理、
(2) 該面領域を酸素ガスプラズマに暴露する処理、
(3) 該面領域を不活性ガスプラズマに曝す処理、
(4) 該面領域に炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとでフッ素含有炭素膜部分を形成する処理、
(5) 該面領域に炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとでフッ素含有炭素膜部分を形成し、該膜フッ素含有炭素膜部分をさらにフッ素含有ガスプラズマに暴露する処理
(6) 該面領域をフッ素含有ガスのプラズマに暴露する処理
から選ばれた処理である炭素膜の形成方法も提供する。
ここで、「酸素結合、フッ素結合の無いベース炭素膜」とは、酸素結合、フッ素結合が全く無い炭素膜のほか、たとえ酸素結合及び(又は)フッ素結合があったとしても、濡れ性制御の観点からすればそれは無視できる程度のものにすぎない炭素膜も含まれる。要するに「実質上酸素結合、フッ素結合が無いベース炭素膜」と言える場合である。
なお、「濡れ性」の程度は、炭素膜表面の水との接触角を測定することで知ることができる。
また、「物品」は、各種機器類それ自体、各種機器類の部品、試料用の試験片等のいずれであってもよい。
このように本発明によれば、流体の流れ、流体の付着分布、流体の付着量等の流体制御のうち少なくとも一つを簡単に行える表面を備え、そのような流体制御が要求される或いは望ましい物品に形成可能である濡れ性が制御された膜及び該膜の形成方法を提供することができる。
また本発明によると、かかる膜で被覆されることで所望の流体制御を行える濡れ性制御膜被覆物品を提供することができる。
<濡れ性が制御された膜及び該膜で被覆された物品>
本発明の実施形態に係る濡れ性が制御された膜は、濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する濡れ性が制御された炭素膜である。
また本発明の実施形態に係る濡れ性制御膜被覆物品は、かかる濡れ性が制御された炭素膜で少なくとも一部が被覆された物品である。
かかる物品はとしては、例えば、流体(代表的には液体)の通路や接触部を有し、該流体通路の流体に接触する面や流体接触部の少なくとも一部が流体制御のために前記炭素膜で被覆されている物品や、他の物品と摺動する面を有し、該摺動面の少なくとも一部が流体(代表的には液体、例えば潤滑剤)の付着量や付着量分布等の制御の目的で前記炭素膜で被覆されている物品(例えば機械部品)を例示できる。
さらに具体例として、流体に接触する面の少なくとも一部が流体制御のために前記炭素膜で被覆されている各種流路用管体、食品製造機器、医療機器、医療検査や環境試験等のための検査機器(例えば血液検査用バイオチップ)、洗浄用機器等の各種機器や機械類、それらの部品、部分等を挙げることができる。
炭素膜表面の濡れ性は酸素結合、フッソ結合等により制御できる。炭素膜表面の、濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域のそれぞれは、炭素のほか、フッ素、水素、酸素のうち少なくとも1種の元素を含んでいる場合を例示できる。
濡れ性が制御された炭素膜における濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域のそれぞれのより具体的な例として、
(1) 酸素結合、フッ素結合の無い炭素面領域、
(2) 結合酸素により濡れ性が制御された酸素結合炭素面領域、
(3) 酸素結合、フッ素結合の無い炭素面領域を不活性ガスプラズマに暴露することで濡れ性が制御された炭素面領域、
(4) 結合フッ素により濡れ性が制御されたフッ素結合炭素面領域
のいずれかを挙げることができる。
この場合、濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域のうち少なくとも一つは水素を含有していてもよい。
炭素膜表面の濡れ性は、該炭素膜の用途等に応じて、様々に変化させることができるが、全体にわたって濡れ性が次第に増加又は減少するように変化していてもよい。
また、「酸素結合、フッ素結合の無い」とは、酸素結合、フッ素結合が全く無い場合のほか、たとえ酸素結合及び(又は)フッ素結合があったとしても、濡れ性制御の観点からすれば無視できる程度のものにすぎない場合も含まれる。要するに実質上酸素結合、フッ素結合が無いと言える場合である。
また、濡れ性が制御された炭素膜は、該炭素膜の用途等に応じて、少なくとも一部は窒素を含有していてもよい。或いは、少なくとも一部は金属単体、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物のうち少なくとも1種の物質を含有していてもよい。窒素添加により膜硬度を向上させることができる。また、かかる金属化合物の添加によっても、膜硬度を向上させることができる。
いずれにしても、濡れ性が制御された炭素膜の代表例としてダイヤモンド状炭素(DLC)膜を挙げることができる。DLC膜は耐摩耗性に優れ、撥水性も有しており、また、DLC膜が形成される物品の部分が弾性(可撓性を含む)を有している場合、膜厚を調整することで該物品部分の弾性を損なわない膜とすることができる。
濡れ性制御膜被覆物品における濡れ性が制御された炭素膜で被覆された部分の材質は特に限定されない。例えば、物品の用途等に応じてゴム、樹脂等の有機高分子材料から形成されていてもよく、金属、セラミックから選ばれた少なくとも1種の材料から形成されていてもよい。ゴム、樹脂等の有機高分子材料からなる場合には弾性を有していてもよく、その場合には濡れ性が制御された炭素膜はその弾性を妨げない膜厚のDLC膜としてもよい。
かかるゴムとしては、天然ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を例示できる。
また、樹脂としては熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれでも採用でき、熱硬化性樹脂としては、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等を例示できる。
熱可塑性樹脂では、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチレート、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルホルマール、ポリ2塩化ビニル等)、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエーテル、ポリエステル系樹脂(ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体等)、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート、変性アクリル等)、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、66、610、11等)、セルロース系樹脂(エチルセルロース、酢酸セルロース、プロピルセルロース、酢酸・酪酸セルロース、硝酸セルロース等)、ポリカーボネート、フェノキシ系樹脂、ポリエステル、フッ素系樹脂(3フッ化塩化エチレン、4フッ化エチレン、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン、フッ化ビニリデン等の樹脂)、ポリウレタン等を例示できる。
また金属としては、ステンレス鋼、WC等の硬質金属炭化物、ハイス(高速度鋼)、アルミニウム、アルミニウム合金等を例示でき、セラミックとしては、アルミナ、窒化けい素、窒化アルミ、窒化シリコン等を例示できる。
<濡れ性が制御された炭素膜の形成方法>
本発明の1実施形態に係る濡れ性が制御された膜の形成方法は、濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜の形成方法であり、
該炭素膜を形成する物品を準備する工程と、
該物品の少なくとも一部に表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分を形成することで濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜を形成する工程と
を含む濡れ性が制御された炭素膜の形成方法である。
ここで「物品」は前記濡れ性制御膜被覆物品における物品と同様のものである。
また、表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分の形成は隣り合う炭素膜部分が連続するように形成することができる。
濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜(換言すれば前記の各炭素膜部分)の代表例としてダイヤモンド状炭素膜を挙げることができる。
いずれにしても、前記の表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分のそれぞれの代表例として、炭素のほか、フッ素、水素、酸素のうち少なくとも1種の元素を含むものを挙げることができる。
さらに具体的には、前記表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分それぞれの形成を、
(1) 表面に酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜部分の形成、
(2) 表面濡れ性が結合酸素により制御された酸素結合炭素膜部分の形成、
(3) 表面に酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜部分を形成し、該炭素膜部分表面を不活性ガスプラズマに暴露することによる表面濡れ性が制御された炭素膜部分の形成、
(4) 表面濡れ性が結合フッ素により制御されたフッ素結合炭素膜部分の形成
のいずれかにより行う場合を例示できる。
この場合も濡れ性が異なる炭素膜部分のうち少なくとも一つは水素を含有していてもよい。また、「酸素結合、フッ素結合の無い」とは、酸素結合、フッ素結合が全く無い場合のほか、たとえ酸素結合及び(又は)フッ素結合があったとしても、濡れ性制御の観点からすれば無視できる程度のものにすぎない場合も含まれる。要するに実質上酸素結合、フッ素結合が無いと言える場合である。
いずれにしても、表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分それぞれの形成は、例えば、前記物品の該炭素膜部分形成対象領域に対応する透孔が形成されたマスクを該物品に対し配置して行うことができる。
前記(1) の「表面に酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜部分」は、例えば、炭化水素化合物ガスプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)形成することができる。
前記(2) の「表面濡れ性が結合酸素により制御された酸素結合炭素膜部分」は、例えば、炭化水素化合物ガスプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)表面に酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜部分を形成し、該炭素膜部分表面を酸素ガスプラズマに暴露することで形成することができ、また、炭化水素化合物ガス及び酸素ガスを含むガスのプラズマのもとで形成することもできる。
前記(3) の「表面に酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜部分の表面を不活性ガスプラズマに暴露することによる表面濡れ性が制御された炭素膜部分の形成」においては、該不活性ガスとしてヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスから選ばれた少なくとも1種のガス、例えばアルゴンガスを挙げることができる。
また、該表面に酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜部分については炭化水素化合物ガスプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)形成する場合を例示できる。
前記(4) の「表面濡れ性が結合フッ素により制御されたフッ素結合炭素膜部分の形成」については次の手法を例示できる。
a)炭化水素化合物ガスプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)表面に酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜部分を形成し、該炭素膜部分表面をフッ素含有ガスプラズマに暴露する。
b)炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)形成する。
c)炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)フッ素結合炭素膜部分を形成し、該フッ素結合炭素膜部分の表面をさらにフッ素含有ガスプラズマに暴露する。
前記(2) の「表面濡れ性が結合酸素により制御された酸素結合炭素膜部分」は、炭化水素化合物ガス及び酸素ガスを含むガスのプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)形成し、且つ、透孔が形成されたマスクを前記物品の該酸素結合炭素膜部分形成対象領域に対し配置し、該透孔部分を該領域に沿って移動させつつ該プラズマ形成のための炭化水素化合物ガスの導入量及び酸素ガスの導入量の割合を連続的に変化させて形成してもよい。この方法によると、物品の酸素結合炭素膜部分形成対象領域に濡れ性( この場合、親和性或いは親水性) が連続的に変化する酸素結合炭素膜部分が形成される。
前記(4) の「表面濡れ性が結合フッ素により制御されたフッ素結合炭素膜部分」は、炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)形成し、且つ、透孔が形成されたマスクを前記物品の該フッ素結合炭素膜部分形成対象領域に対し配置し、該透孔部分を該領域に沿って移動させつつ該プラズマ形成のための炭化水素化合物ガスの導入量及びフッ素含有ガスの導入量の割合を連続的に変化させて形成してもよい。この方法によると、物品のフッ素結合炭素膜部分形成対象領域に濡れ性( この場合、疎水性或いは撥水性) が連続的に変化するフッ素結合炭素膜部分が形成される。
濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜の形成方法として次の方法も採用できる。すなわち、
該炭素膜を形成する物品を準備する工程と、
該物品の少なくとも一部に表面に酸素結合、フッ素結合の無いベース炭素膜を形成する工程と、
該ベース炭素膜表面の複数の面領域のそれぞれに濡れ性制御処理を施こす工程とを含み、
該ベース炭素膜表面の複数面領域のそれぞれに対する濡れ性制御処理は、
(1) 該面領域をそのままの状態に維持する処理、
(2) 該面領域を酸素ガスプラズマに暴露する処理、
(3) 該面領域を不活性ガスプラズマに曝す処理、
(4) 該面領域に炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)フッ素含有炭素膜部分を形成する処理、
(5) 該面領域に炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)フッ素含有炭素膜部分を形成し、該膜フッ素含有炭素膜部分をさらにフッ素含有ガスプラズマに暴露する処理
(6) 該面領域をフッ素含有ガスのプラズマに暴露する処理
から選ばれた処理である炭素膜の形成方法。
ここでも、「酸素結合、フッ素結合の無いベース炭素膜」とは、酸素結合、フッ素結合が全く無い炭素膜のほか、たとえ酸素結合及び(又は)フッ素結合があったとしても、濡れ性制御の観点からすればそれを無視できる程度のものにすぎない炭素膜も含まれる。要するに「実質上酸素結合、フッ素結合が無いベース炭素膜」と言えるものである。
前記ベース炭素膜は、例えば炭化水素化合物ガスのプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)形成することができる。
該ベース炭素膜及び前記(4) 、(5) のフッ素含有炭素膜部分の代表例としてダイヤモンド状炭素膜を挙げることができる。
前記ベース炭素膜表面の複数の面領域のそれぞれに対する濡れ性制御処理は、例えば、濡れ性制御処理対象面領域に対応する透孔が形成されたマスクを該ベース炭素膜表面に対し配置して行うことができる。
また、前記(4) や(5) の「面領域に炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとで(代表的にはプラズマCVD法により)フッ素含有炭素膜部分を形成する処理」は、透孔が形成されたマスクを前記物品の該フッ素含有炭素膜部分形成対象領域に対し配置し、該透孔部分を該領域に沿って移動させつつ該プラズマ形成のための炭化水素化合物ガスの導入量及びフッ素含有ガスの導入量の割合を連続的に変化させて行うこともできる。この方法によると、フッ素含有炭素膜部分形成対象領域に濡れ性( この場合、疎水性或いは撥水性) が連続的に変化するフッ素結合炭素膜部分が形成される。
前記(2) の「面領域を酸素ガスプラズマに曝す処理」、(3) の「面領域を不活性ガスプラズマに曝す処理」、(5) や(6) におけるフッ素含有ガスプラズマに曝す処理についても、例えば同様にマスクを用い、該マスクを移動させつつ導入する酸素ガス、不活性ガス、又はフッ素含有ガスの量を連続的に変化させて、濡れ性が連続的に変化した炭素膜部分を形成できる。
いずれにしても、前記濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜は、該炭素膜の用途等に応じて、該炭素膜表面の全体にわたって濡れ性が次第に増加又は減少するように形成してもよい。
なお、前記前記各種炭素膜部分における膜形成や、前記ベース炭素膜の形成等の膜形成は、種々の方法で行えるが、物品の膜形成対象面がゴム、樹脂等の比較的耐熱性に劣る場合には、比較低温で膜形成できるプラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が適している。プラズマCVD法によると、後述するように、物品の膜形成対象面にフッ素含有ガスプラズマ等で予め前処理するような場合には、その前処理と膜形成を同じプラズマCVD装置で行える利点がある。
前記の炭化水素化合物ガスとしては、プラズマCVD法による炭素膜形成に一般に用いられるメタン(CH4 )、エタン(C2 6 )、プロパン(C3 8 )、ブタン(C4 10)、アセチレン(C2 2 )、ベンゼン(C6 6 )、シクロヘキサン(C6 12)等の炭化水素化合物のガスを挙げることができる。必要に応じて、これらの炭化水素化合物ガスにキャリアガスとして水素ガス、不活性ガス等を混合してもよい。
また、フッ素含有ガスとしては、フッ素(F2 )ガス、3フッ化窒素(NF3 )ガス、6フッ化硫黄(SF6 )ガス、4フッ化炭素(CF4 )ガス、6フッ化2炭素(C2 6 )ガス、8フッ化4炭素(C4 8 )ガス、4フッ化ケイ素(SiF4 )ガス、6フッ化ケイ素(Si2 6 )ガス、 3フッ化塩素(ClF3 )ガス、フッ化水素(HF)ガス等を挙げることができる。
プラズマCVD法によりフッ素結合炭素膜部分(フッ素含有炭素膜部分)を形成するには、前記の炭化水素化合物ガスとフッ素含有ガスを同系統又は別系統からプラズマCVD装置の成膜室に導入すればよい。
いずれにしても、フッ素結合炭素膜部分(フッ素含有炭素膜部分)は、膜硬度、耐摩耗性、下地への膜密着性を向上させるためには、炭素、フッ素及び水素を含んでいることが望ましい。さらに言えば、FT−IR(フーリエ変換赤外線)分光分析によるスペクトルにおいて、C−F結合に由来する1000cm-1〜1300cm-1のピーク面積(IR・C−F)とC−H結合に由来する2800cm-1〜3100cm-1のピーク面積(IR・C−H)との比(IR・C−F)/(IR・C−H)が0より大きく、且つ、XPS(X線光電子分光分析)によるスペクトルにおいて、F1Sに由来するピーク強度とC1Sに由来するピーク強度との比(F1S/C1S)が0より大きく3より小さいことが望ましい。
ガスプラズマのもとで膜形成を行う際には、すなわち、前記の炭素膜部分における膜形成、前記ベース炭素膜の形成等の膜形成をガス(例えば炭化水素化合物ガスや、炭化水素化合物ガスとフッ素含有ガス)のプラズマのもとで行う際には、濡れ性制御等のためにガスのプラズマ化をガスに所定周波数(例えば13.56Mz)の基本高周波電力に所定変調周波数の振幅変調を施した高周波電力を印加して行ってもよい。
その場合、所定周波数(例えば13.56MHz)の基本高周波電力に該所定周波数の10万分の1〜10分の1の範囲の変調周波数で振幅変調を施した状態の高周波電力を採用することを例示できる。
成膜用ガスのプラズマ化のために供給する電力をこのような変調を施した高周波電力とすることにより、高密度のプラズマが得られ、これにより反応率が向上し、低温で成膜できる。また、このような変調を施すことにより、物品への膜密着性を向上させることができるとともに成膜速度を向上させることができる。
変調前の基本高周波電力の波形は、サイン波、矩形波、のこぎり波、三角波等のいずれでもよい。また、前記振幅変調は電力供給のオン・オフによるパルス変調とすることができ、この他パルス状の変調でもよい。
基本高周波電力としては、それには限定されないが、13.56MHz以上のものを挙げることができる。これより小さくなってくるとプラズマ密度が不足しがちになるからである。また、基本高周波電力の周波数は高周波電源コスト等からして例えば500MHz程度までとすればよい。
また、変調周波数として前記範囲のものを用いるのは、変調周波数が基本高周波電力の周波数の10万分の1より小さくなってくると成膜速度が低下するからであり、10分の1より大きくなってくるとマッチングがとり難くなり、膜厚均一性が低下するからである。
また、いずれにしても、変調のデューティ(オン時間/オン時間+オフ時間)は5%〜90%程度とすればよい。これは、5%より小さくなってくると成膜速度が低下するからであり、90%より大きくなってくると電力供給時間が長くなりすぎ変調高周波電力によるプラズマ密度向上効果が少なくなるからである。
濡れ性が制御された炭素膜を形成する物品の部分が膜の可撓性等の弾性を要求しないものであれば、該炭素膜は硬度を向上させてもよい。かかる硬度向上のために、濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜の形成において、該炭素膜の少なくとも一部に窒素を添加してもよいし、金属単体、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物のうち少なくとも1種の物質を添加してもよい。
かかる窒素の添加は、例えば、ガスプラズマのもとで前記の炭素膜部分の膜形成や前記ベース炭素膜形成を行う際に、炭化水素化合物ガスや、炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスに窒素含有ガス(N2 、アンモニア、ヒドラジン等)を加えることで行える。
また、金属単体、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物の添加は、例えば、ガスプラズマのもとで前記の炭素膜部分の膜形成や前記ベース炭素膜形成を行う際に、炭化水素化合物ガスや、炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを用いることに加え、後ほど表6に具体例を掲げるようなシリコン系化合物(SiH4 、TEOS等)、チタン化合物〔TiCl4 、ペンタエトキシチタニウムTi((C2 5 4 )、テトライソプロキシチタニウム(Ti(O−i−C3 7 4 )等〕などの金属化合物をそのまま、或いはこれに酸素等を反応させて用いればよい。
濡れ性が制御された炭素膜の形成においても、濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜で被覆される物品部分の材質は特に限定されない。例えば、物品用途等に応じてゴム、樹脂等の有機高分子材料から形成されていてもよく、金属、セラミックから選ばれた少なくとも1種の材料から形成されていてもよい。ゴム、樹脂等の有機高分子材料からなる場合には弾性を有していてもよく、その場合には被覆炭素膜はその弾性を妨げない膜厚のDLC膜としてもよい。
いずれにしても濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜の形成にあたっては、該炭素膜の形成に先立って、該炭素膜を形成する物品の部分を予めフッ素含有ガス、水素ガス、酸素ガスから選ばれた少なくとも1種のガスのプラズマに暴露すする前処理を施してもよい。
前記フッ素含有ガスとしては、前傾のものを例示できる。
炭素膜を形成する物品の部分を予めこのように前処理することで、被成膜面が清浄化され、又はさらに被成膜面の表面粗度が向上する。これらは、炭素膜の密着性向上に寄与し、高密着性炭素膜を得ることができる。
また、炭素膜を形成する物品の部分がゴム、樹脂等の有機材料からなる場合、フッ素含有ガスプラズマを採用するときは、これによって被成膜面がフッ素終端され、水素ガスプラズマを採用するときはこれによって被成膜面が水素終端される。フッ素−炭素結合及び水素−炭素結合は安定であるため、このような終端処理を施した面上に炭素膜を形成する場合は、膜中の炭素原子が物品部分のフッ素原子又は水素原子と安定に結合を形成する。そしてこれらのことから、その後形成する炭素膜と物品との密着性を向上させることができる。
また、酸素ガスプラズマを採用するときは、被成膜面に付着した有機物等の汚れを特に効率良く除去でき、これによりその後形成する炭素膜の密着性を向上させることができる。
プラズマによる前処理は同種類のプラズマを用いて或いは異なる種類のプラズマを用いて複数回行っても構わない。例えば、被成膜面を酸素ガスプラズマに曝した後、フッ素含有ガスプラズマ又は水素ガスプラズマに曝し、その上に炭素膜を形成するときには、被成膜面がクリーニングされた後、該面がフッ素終端又は水素終端されて、その後形成する炭素膜と該被成膜面との密着性は非常に良好なものとなる。
濡れ性が制御された炭素膜を形成する物品としては、例えば、流体通路を有する物品や他の物品と摺動する面を有する物品(例えば機械部品)を例示でき、前者物品については該流体通路の流体に接触する面の少なくとも一部に流体制御のために該炭素膜を形成し、後者物品については該摺動面の少なくとも一部に流体(例えば潤滑剤)の付着量や付着量分布等の制御の目的で該炭素膜を形成する例を挙げることができる。
なお、以上説明した炭素膜の形成方法は物品を中心にみれば、濡れ性が制御された炭素膜で被覆された物品の製造方法(濡れ性制御膜被覆物品の製造方法)である。
<炭素膜の形成装置(炭素膜被覆物品の製造装置)>
図1は表面濡れ性が制御された炭素膜の形成に用いることができる装置の1例の概略構成を示す図である。
図1の装置はプラズマCVD装置であり、圧力調整弁11を介して排気ポンプ12が接続された真空チャンバ1(成膜室の1例)を有し、チャンバ1内には電極2及びこれに対向する位置に電極3が設置されている。電極3は接地され、電極2にはマッチングボックス22を介して高周波電源23が接続されている。また、電極2にはその上に支持される被成膜物品Sを成膜温度に加熱するためのヒータ21が付設されている。また、チャンバ1にはガス供給部4が付設されて、チャンバ1内部に成膜用ガス等を導入できるようになっている。ガス供給部4には、マスフローコントローラ411、412・・・及び弁421、422・・・を介して接続された1又は2以上のガス源431、432・・・が含まれている。
この装置によると次のように膜形成できる。先ず、所定の材質の被成膜物品Sを、その被成膜面を電極3の方に向けて、チャンバ1内の高周波電極2上に設置し、排気ポンプ12の運転にてチャンバ1内部を所定の圧力まで減圧する。また、ガス供給部4からチャンバ1内にフッ素含有ガス、水素ガス及び酸素ガスのうち1種以上のガスを前処理用ガスとして導入するとともに高周波電源23からマッチングボックス22を介して電極2に高周波電力を供給し、これにより前記導入した前処理用ガスをプラズマ化し、該プラズマの下で物品Sの被成膜面S1の前処理を行う。なお、この表面処理(前処理)は行うことが望ましいが、必ずしも要しない。
次いで、必要に応じてチャンバ1内を再び排気し、さらに圧力を再調整してガス供給部4からチャンバ1内に所定のガスを導入する。
酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜を形成するときは、炭化水素化合物ガスを、炭素膜形成と同時にこれに酸素結合させるときは、炭素化合物ガス及び酸素ガスを、フッ素含有(フッ素結合)炭素膜を形成するときは炭素化合物ガス及びフッ素含有ガスを、フッ素・水素含有炭素膜を形成するときも炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガス(例えばフッ化炭素化合物ガス)を導入する。
また、窒素含有炭素膜を形成するときは窒素含有ガスも導入し、金属単体や金属酸化物等の金属化合物を含有する炭素膜を形成するときはそれら物質を形成するためのガスも導入する。
そして高周波電源23からマッチングボックス22を介して電極2に高周波電力を供給し、これにより前記導入したガスをプラズマ化し、該プラズマの下で物品Sの被成膜面S1に炭素膜を形成する。
物品Sの被成膜面の限られた領域や、先に形成した膜における限られた領域に膜形成する場合には、該領域に対応する透孔を形成したマスクを該被成膜面や先に形成した膜にあてがって、或いはさらに該マスクを移動させつつ膜形成すればよい。
フッ素・水素含有炭素膜を形成する場合、該炭素膜形成にあたり、炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガス(例えばフッ化炭素化合物ガス)の真空チャンバ1内への導入にあたって、両ガスの混合割合(導入流量割合)を調整することで、得られる炭素膜を、FT−IR(フーリエ変換赤外線)分光分析によるスペクトルにおいて、C−F結合に由来する1000cm-1〜1300cm-1のピーク面積(IR・C−F)とC−H結合に由来する2800cm-1〜3100cm-1のピーク面積(IR・C−H)との比(IR・C−F)/(IR・C−H)が0より大きく、且つ、XPS(X線光電子分光分析)によるスペクトルにおいて、F1Sに由来するピーク強度とC1Sに由来するピーク強度との比(F1S/C1S)が0より大きく3より小さい炭素膜(代表的にはDLC膜)とすることができる。
また、窒素含有炭素膜を形成する場合には、該炭素膜形成にあたり、前記炭化水素化合物ガス及び窒素含有ガスの真空チャンバ1内への導入にあたって、両ガスの混合割合(導入流量割合)を調整することで、C−N結合部分の量が制御された硬度の高い炭素膜(代表的にはDLC膜)を形成できる。
また、金属等含有炭素膜を形成する場合についてさらに説明すると、該炭素膜形成にあたり、前記炭化水素化合物ガス及び金属単体、金属酸化物等の金属化合物のうちの1又は2以上を形成するガスの真空チャンバ1内への導入にあたって、両ガスの混合割合(導入流量割合)を調整することで、かかる金属等が分散した高硬度の炭素膜(代表的にはDLC膜)を形成できる。
図2は表面濡れ性が制御された炭素膜の形成に用いることができる装置の他の例の概略構成を示す図である。
図2に示す成膜装置もプラズマCVD装置である。この装置は、図1に示す装置において、高周波電源23に任意波形発生装置24を接続したものである。その他の点は図1に示す装置と同様であり、図1に示す装置と同じ部品には同じ参照符号を付してある。
この装置を用いて被成膜物品Sに膜形成するにあたっては、高周波電源23及び任意波形発生装置24により形成したパルス変調高周波電力をマッチングボックス22を介して内部電極2に供給することにより成膜用ガスをプラズマ化する。
該パルス変調高周波電力は、13.56MHz以上の所定周波数の基本高周波電力に該所定周波数の10万分の1以上10分の1以下の範囲の変調周波数で変調を施した状態のものとする。また、デューティ比(オン時間/オン時間+オフ時間)は10%〜90%とする。その他の動作は、図1の装置を用いた成膜と同様である。
図2の装置を用いた成膜によっても、図1の装置におけると同様に炭素膜被覆物品が得られるのであるが、成膜用ガスのプラズマ化のために供給する電力をこのようなパルス変調を施した高周波電力とすることにより、高密度のプラズマが得られ、これにより反応率が向上し、低温で成膜できる。また、このような変調を施すことにより、物品表面での反応が進み、膜密着性を向上させることができるとともに成膜速度を向上させることができる。
図3は表面濡れ性が制御された炭素膜の形成に用いることができるプラズマCVD装置のさらに他の例の概略構成を示す図である。
図3に示すプラズマCVD装置は、シリンダ形のプラズマ生成室10及び同じくシリンダ形のプラズマ処理室20を備えている。これらで真空チャンバR(成膜室の例)が形成されている。両室10、20は中心軸線を同じくして上下に連設してある。
プラズマ生成室10はその外周壁に沿ってアンテナの形態のRFコイル110が配置してあり、このアンテナ110にはマッチングボックス130を介して13.56MHzの高周波電源(RF電源)140を接続してある。
プラズマ処理室20は室内下部に配置した被成膜物品Sを支持するホルダ200を備え、ホルダ200の下方に排気装置100を付設してある。
また、プラズマ生成室10にはガス導入管150が接続してあり、これに図示を省略したガス供給部が接続されている。また、プラズマ生成室10とプラズマ処理室20との境目よりやや下がった位置にガス導入管30が挿入設置されており、この導入管に無端リング形状のガス噴出管300が接続されている一方、該ガス導入管30には室外においてもう一つの図示を省略したガス供給部が接続されている。ガス噴出管300は物品Sに臨む位置に配置され、ホルダ200の方へ向けられた多数のガス噴出孔を等間隔で有している。なお、かかるガス噴出管300は必ずしも要しない。
ホルダ200は、必要に応じ、水冷用パイプ201を用いて冷却水を循環させることで水冷され、或いはホルダに内蔵したヒータHにて加熱される。
ホルダ200にはマッチングボックス410を介して高周波電源(RF電源)420が接続され、さらに、直流電源430又は440が接続される。切替えスイッチSWは必要に応じホルダ200に電源430又は440を切り替え接続できる。成膜の場合、ホルダ200に設置される物品S及び成膜種が導電性のときには、直流電源430又は440により入射プラズマをコントロールし、高速成膜が可能である。物品S及び成膜種が絶縁性のときは、高周波電源420を印加することで高速成膜が可能である。
高周波電源140と420はフエイズシフター500を介して接続されている。
この成膜装置を採用するときは、炭素膜形成のための成膜用ガスの一部をプラズマ処理室20内に導入するとともに残りはプラズマ生成室10内へ導入し、プラズマ生成室10において該室に導入したガスを高周波電源140からのアンテナ110への高周波電力供給による高周波誘導電界の形成によりプラズマ化し、該プラズマをプラズマ処理室20へ導入する。プラズマ処理室20へ供給されたプラズマは、プラズマ処理室20内のガスを分解して物品Sに炭素膜を形成する。
なお、電源420の出力を適当に選ぶことで、該電源からホルダ200に高周波電力を印加して、プラズマ処理室20内のガスを積極的に分解(プラズマ化)してもよい。これにより、プラズマ生成室10内のガスプラズマ化とプラズマ処理室20内のガスプラズマ化をそれぞれコントロールできる。
なお、成膜用ガスとして、金属単体、金属酸化物等の金属化合物のうちの1又は2以上を形成するガスを採用するときには、該ガスについてはプラズマ生成室10内に導入するとともに炭化水素化合物ガス、或いは炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガス(例えばフッ化炭素化合物ガス)についてはプラズマ処理室20内へ導入することができる。このようにすることで、例えば、炭素膜形成に直接的に携わるプラズマと、金属等のドープに携わるプラズマを別々にコントロールできるので、金属等のドープ量の制御、膜質の制御を独立して行える等の利点がある。
<前処理効果確認実験例>
次に、表面濡れ性が制御された炭素膜及び該炭素膜で被覆された物品の例について説明するが、その前に、前処理の効果等を確認する実験を行ったので、これらを説明する。
前処理効果を確認する実験は、図1の装置を用いて、被成膜物品表面に前処理を施さないでDLC膜を形成し(実験例X−1)、また、被成膜物品表面に前処理を施し、そのあと該処理面にDLC膜を形成し(実験例X−2〜X−5)、これらのDLC膜についてその密着性等を評価することで行った。被成膜物品はすべて材質をEPDM(エチレン・プロピレン ゴム)とし、サイズを直径20cm×厚さ10mmとした。装置の電極サイズは40cm×40cm(正方形)とした。
実験例X−1
・成膜条件
成膜用原料ガス メタン(CH4 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
成膜圧力 0.1Torr(13.3Pa)
成膜温度 室温
成膜速度 500Å/分
成膜時間 20分
実験例X−2
DLC膜形成に先立ち、物品に次の条件で水素ガスプラズマによる前処理を施し、そのあと前処理ガスを排気したのち、DLC膜を形成した。成膜条件は実験例X−1と同様とした。
・前処理条件
前処理用ガス 水素(H2 )、100sccm
高周波電力 13.56MHz、300W
処理圧力 0.1Torr(13.3Pa)
処理時間 5分
実験例X−3
DLC膜形成に先立ち、物品に次の条件でフッ素化合物ガスプラズマによる前処理を施し、そのあと前処理ガスを排気したのち、DLC膜を形成した。成膜条件は実験例X−1と同様とした。
・前処理条件
前処理用ガス 6フッ化硫黄(SF6 )、100sccm
高周波電力 13.56MHz、300W
処理圧力 0.1Torr(13.3Pa)
処理時間 5分
実験例X−4
DLC膜形成に先立ち、物品に次の条件で酸素ガスプラズマによる第1の前処理を施し、さらに水素ガスプラズマによる第2の前処理を施し、そのあと前処理ガスを排気したのち、DLC膜を形成した。成膜条件は実験例X−1と同様とした。
・第1前処理条件
前処理用ガス 酸素(O2 )、100sccm
高周波電力 13.56MHz、300W
処理圧力 0.1Torr(13.3Pa)
処理時間 5分
・第2前処理条件
前処理用ガス 水素(H2 )、100sccm
高周波電力 13.56MHz、300W
処理圧力 0.1Torr(13.3Pa)
処理時間 5分
実験例X−5
DLC膜形成に先立ち、物品に次の条件で酸素ガスプラズマによる第1の前処理を施し、さらにフッ素化合物ガスプラズマによる第2の前処理を施し、そのあと前処理ガスを排気したのち、DLC膜を形成した。成膜条件は実験例X−1と同様とした。
・第1前処理条件
前処理用ガス 酸素(O2 )、100sccm
高周波電力 13.56MHz、300W
処理圧力 0.1Torr(13.3Pa)
処理時間 5分
・第2前処理条件
前処理用ガス 6フッ化硫黄(SF6 )、100sccm
高周波電力 13.56MHz、300W
処理圧力 0.1Torr(13.3Pa)
処理時間 5分
次に、前記実験例X−1〜X−5により得られた各DLC膜被覆物品について該膜の密着性を評価した。膜密着性は、物品上の膜表面に円柱状の部材(直径5mm)を接着剤を用いて接合させ垂直方向に引っ張り、膜の剥離に要した引っ張り力で評価した。結果を次表に示す。
膜密着性
実験例X−1 2kg/mm2
実験例X−2 4kg/mm2
実験例X−3 4kg/mm2
実験例X−4 5kg/mm2
実験例X−5 5kg/mm2
このように、DLC膜形成に先立ち物品表面にプラズマによる前処理を施すことで膜密着性が向上することが分かる。
また、実験例X−1〜X−5により得られた各DLC膜被覆物品表面(DLC膜部分)の耐摩耗性を評価した。併せてDLC膜を形成していない同じ物品(未処理物品)表面の耐摩耗性も評価した。耐摩耗性は、3/8インチのSUJ−2(JIS G4805 高炭素クロム軸受鋼鋼材)からなるボールを用い、荷重50gf、摩擦速度0.1m/秒の条件で1km走行後の摩耗深さを測定するボールオンディスク法で評価した。結果を次表に示す。
摩耗深さ
実験例X−1 3μm
実験例X−2 1μm
実験例X−3 1μm
実験例X−4 1μm
実験例X−5 1μm
未処理物品 9μm
このように、DLC膜を被覆することで、耐摩耗性が向上し、前処理を施すことで一層耐摩耗性が向上することが分かる。前処理を施して形成したDLC膜で被覆された物品は、DLC膜被覆のない物品に比べ約9倍耐摩耗性が向上している。
<フッ素及び水素含有のDLC膜形成実験例>
次に、炭化水素化合物ガスとフッ化炭素化合物ガスによるフッ素及び水素含有のDLC膜を形成する場合に、両ガスの混合割合〔フッ化炭素化合物ガス/(炭化水素化合物ガス+フッ化炭素化合物ガス)〕が成膜速度、C−F結合、C−H結合、膜硬度、濡れ性等に及ぼす影響について調べた実験例1−1〜1−5及び比較実験例1について説明する。成膜物品はすべて材質をシリコーンゴムとし、サイズを直径20cm×厚さ10mmとした。装置の電極サイズは40cm×40cm(正方形)とした。
(実験例1−1〜1−5)
フッ素及び水素含有炭素膜の形成(前処理を行ったのち成膜)
・前処理:
前処理用ガス 水素(H2 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
前処理圧力 0.1Torr(13.3Pa)
処理時間 5分
・成膜:前処理用ガスを排気したのち成膜した。
成膜用ガス メタン(CH4 )ガス
6フッ化2炭素(C2 6 )ガス
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
成膜圧力 0.1Torr(13.3Pa)
成膜温度 室温
成膜時間 20分
ガス導入量は、フッ素の添加割合を変化させるため、6フッ化2炭素ガスについては25sccmの一定とし、メタンガスについては図5及び後掲の表1に示すように変化させた。両者の混合割合(導入流量比)を(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )とした。流量比は実験例1−1では0.2、実験例1−2では0.33、実験例1−3では0.5、実験例1−4では0.71、実験例1−5では0.83である。
(比較実験例1)
・前処理:実験例1−1〜1−5と同じ前処理を行った。
・成膜:前処理用ガスを排気したのち成膜した。
成膜用ガス メタン(CH4 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
成膜圧力 0.1Torr(13.3Pa)
成膜温度 室温
成膜時間 20分
図5に流量比を変化させたときの成膜速度の変化を示す。図5よりフッ化炭素化合物ガスを混合することによって成膜速度が最大3倍程度速くなることが分かる。しかし、流量比が1になるにつれて成膜速度が減少し、ほぼ1付近では物品がエッチングされる。したがって成膜は流量比0.9以下で行うことが好ましい。一般的に言っても、成膜速度の観点からは、流量比〔フッ化炭素化合物ガス/(炭化水素化合物ガス+フッ化炭素化合物ガス)〕が0.9以下で行うことが好ましい。
図6に流量比〔(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )〕を実験例1−1〜1−5と略同様に、0.214 、0.352 、0.521 、O.685 、0.845 と変化させ、それ以外の点は前記実験例1−1〜1−5と同じ条件で形成した炭素膜、並びに前記比較実験例1による炭素膜(フッ素を含有していないもの)のFT−IR分光分析によるスペクトルを示す。図6より炭化水素化合物ガスとフッ化炭素化合物ガスを採用して形成した炭素膜では、2800〜3100cm-1付近にC−H結合のピークが、1000〜1300cm-1付近にC−F結合のピークを観察でき、従って炭素、フッ素及び水素を含有し、C−F結合部分が存在する炭素膜が形成されていることが確認できる。
図7に流量比〔(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )〕を実験例1−1〜1−5と略同様に、0.214 、0.352 、0.521 、O.685 、0.845 と変化させ、それ以外の点は前記実験例1−1〜1−5と同じ条件で形成した炭素膜、並びに前記比較実験例1による炭素膜(フッ素を含有していないもの)のXPSによるスペクトルを示す。図7より285.6eV、287.6eV、289.6eV及び292.4eV付近に、C−C−F−、CF−、CF2 −、CF3 − のピークが確認され、これからもC−F結合部分を有する炭素膜が形成されていることが分かる。
次に図8に実験例1−1〜1−5の炭素膜並びに比較実験例1の炭素膜におけるFT−IR分光分析によるスペクトルにおけるC−F結合に由来する1000cm-1〜1300cm-1のピーク面積(IR・C−F)とC−H結合に由来する2800cm-1〜3100cm-1のピーク面積(IR・C−H)との比(IR・C−F)/(IR・C−H)と、XPS(X線光電子分光分析)によるスペクトルにおいて、F1Sに由来するピーク強度とC1Sに由来するピーク強度との比(F1S/C1S)の関係を示す。
図8より流量比〔(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )〕を変化させることによって(IR・C−F)及び(IR・C−H)が、従って比(IR・C−F)/(IR・C−H)が、また、F1S/C1Sが変化することが分かる。しかし、流量比が0.7以上になってくるとC−H結合の割合が非常に少くなることが分かる。一般的に言っても、流量比〔フッ化炭素化合物ガス/(炭化水素化合物ガス+フッ化炭素化合物ガス)〕が0.7以上になってくるとC−H結合の割合が少なくなってくる。
次に図9に実験例1−1〜1−5の炭素膜及び比較実験例1の炭素膜と摩擦係数の関係を示す。摩擦係数の測定は、往復摺動型摩擦摩耗試験機を用いた。荷重は10gで10往復させて測定した。図9から分かるように炭素膜中にフッ素を混入させることによって摩擦係数を最大60%程度まで低下させることができる。しかし、流量比が0.7以上では摩擦係数が増加することから、耐摩擦摩耗性を向上させるには流量比は0.7を超えない0.5付近までが望ましいと言える。一般的に言っても、耐摩擦摩耗性を向上させるには、流量比〔フッ化炭素化合物ガス/(炭化水素化合物ガス+フッ化炭素化合物ガス)〕が0.7を超えない0.5付近までが望ましいと言える。
図10に実験例1−1〜1−5の炭素膜及び比較実験例1の炭素膜の硬度( ビッカース硬度) の評価結果を示す。膜硬度は微小硬度計にて荷重10mg、変位量0.25μmで測定した。この図から流量比〔(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )〕が増加するにしたがって膜硬度が減少し、特に流量比が0.7以上ではその減少が大きい。したがって炭素膜と同等の硬度が必要な場合は、流量比0.5以下が望ましい。一般的に言っても、炭素膜と同等の硬度が必要な場合は、流量比〔フッ化炭素化合物ガス/(炭化水素化合物ガス+フッ化炭素化合物ガス)〕は0.5以下が望ましい。
また、実験例1−1〜1−5の炭素膜及び比較実験例1の炭素膜について物品への膜密着性について評価した。密着性はテープ剥離試験(JIS K5400−1990)の碁盤目法を用いて評価した。結果は下記の表1に示す。密着性は流量比が0.5までの炭素膜では高いが、ほとんどがフッ化物からなる膜では密着性が低いことがわかる。一般的に言っても密着性は、流量比〔フッ化炭素化合物ガス/(炭化水素化合物ガス+フッ化炭素化合物ガス)〕が0.5までの炭素膜では高いと言える。
また、実験例1−1〜1−5の炭素膜及び比較実験例1の炭素膜の撥水性について評価した。撥水性は各炭素膜上に純水の水滴を置きその接触角を測定することで評価した。なお、接触角は、空気中にある固体面上に液体があるとき、固体、液体、気体の3相の接触点で液体に引いた接線と固体面のなす角のうち液体を含む方の角をいい、大きいほど撥水性がよいことを示す。図11に各炭素膜における流量比〔(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )〕と接触角(撥水性)の関係を示す。図11に示すように、撥水性は流量比が大きくなるにつれて大きくなる。撥水性を向上させるためには流量比が0.7以上であることが望ましい。一般的に言っても撥水性を向上させるためには、流量比〔フッ化炭素化合物ガス/(炭化水素化合物ガス+フッ化炭素化合物ガス)〕が0.7以上であることが望ましい。
これらの結果から摩擦係数を向上させる場合と撥水性を向上させる場合には流量比を制御すればよいことが分かる。
以上説明した評価結果を表1にまとめて示す。
<表面濡れ性が制御された炭素膜、該炭素膜で被覆された物品、該炭素膜の形成方法>
図4は表面濡れ性が制御された炭素膜で被覆された物品、炭素膜表面の濡れ性制御態様、かかる炭素膜の形成方法を例示している。
図4(A)は濡れ性が6段階で制御された炭素膜F1で被覆された板状体Pを示している。炭素膜F1の表面はそれぞれが所定幅の面領域f11〜f16を含んでおり、該面領域の濡れ性はf11からf16へと順次低下している。すなわち、水との接触角で言えば、面領域の水との接触角がf11からf16へと順次増している。このタイプの物品は例えば図4(A)に示すように、炭素膜F1の表面に沿って、面領域f11側から面領域f16側へ液体を流すことで、該液体(例えば、血液、油、水)の進み具合を制御することができ、液体の進み具合の制御が要求される分野で利用できる。
また、図4(B)は他物品との摺動面が、濡れ性が5段階で制御された炭素膜F2で被覆された摺動部品SLを示している。炭素膜F2の表面はそれぞれが所定幅の面領域f21〜f25を含んでおり、該面領域の濡れ性の程度の関係は、f23>f22=f24>f21=f25となっている。この部品SLでは、中央の面領域f23に最も多く潤滑剤(流体)を保持することができ、該中央面領域から左右面領域へ次第に潤滑剤の保持量が少なくなる一方、外部からの面領域f21やf25を介しての液体(水等)の侵入を抑制できるものである。このタイプの物品は、例えば中央部に最も多量に潤滑剤を保持できることが望ましい、機器等における摺動部品として利用できる。
図4(A)の板状体Pや図4(B)の部品SL(以下、「物品」と総称することがある。)を得るには、例えば、図1に示すプラズマCVD装置における高周波電極2上に該物品をその被成膜面を電極3の方へ向けて配置し、さらに、図4(C)に示すように、前記面領域の大きさに相当する透孔mを形成したマスクMを被成膜面にあてがい、該透孔mを介して所定の濡れ性の炭素膜部分を形成すればよい。このようにしてそれぞれ所定の濡れ性の炭素膜部分を順次形成することで、全体として濡れ性が制御された炭素膜F1やF2を形成できる。f11〜f16、f21〜f25の面領域において、大きさの異なる面領域がある場合には、マスクをそれに応じた透孔を形成したものに取り替えて炭素膜部分を形成すればよく、面領域の大きさが同じであるときは、一つのマスクを順次ずらせて用いてもよい。
前記板状体Pを被覆する炭素膜F1であれば、その面領域f11〜f16は例えば次のようにして形成できる。
面領域f11:炭化水素化合物ガスのプラズマのもとで酸素、フッ素結合が実質上無い炭 素膜部分を形成し、該炭素膜部分を酸素ガスプラズマに暴露する。これに より最も濡れ性(親和性乃至親水性)が大きい酸素結合炭素膜部分を形成 する。
面領域f12:炭化水素化合物ガスのプラズマのもとで酸素、フッ素結合が実質上無い炭 素膜部分を形成し、該炭素膜部分を不活性ガス(例えばアルゴンガス)プ ラズマに暴露し、これにより次に濡れ性が大きい炭素膜部分を形成する。面領域f13:炭化水素化合物ガスのプラズマのもとで酸素、フッ素結合が実質上無い炭 素膜部分を形成し、これにより炭素膜部分自体の濡れ性の面領域を得る。面領域f14、f15:
炭化水素化合物ガスとフッ素含有ガスとを含むガスのプラズマのもとで各 面領域に対応させてフッ素結合炭素膜部分を形成し、且つ、両ガスの導入 流量比〔フッ素含有ガス/(炭化水素化合物ガスとフッ素含有ガス)〕を 順次増加させることで、フッ素結合割合が順次多くなった、従って濡れ性 が順次低下した(疎水性乃至撥水性が順次増加した)炭素膜部分を形成す る。
面領域f16:炭化水素化合物ガスとフッ素含有ガスとを含むガスのプラズマのもとでフ ッ素結合炭素膜部分を形成し、該炭素膜部分をフッ素含有ガスのプラズマ に暴露し、これにより最も濡れ性が小さい(疎水性乃至撥水性が最も大き い)炭素膜部分を形成する。
なお、必要に応じ、炭素膜部分の形成に先立って、板状体Pの被成膜面に前記の前処理を施してもよく、また、炭素膜部分のうち少なくとも一つには、既述のように、窒素或いは金属単体、金属酸化物等の金属化合物から選ばれた少なくとも1種の物質を添加してもよい。
前記摺動部品SLを被覆する炭素膜F2についても、その面領域f21〜f25は例えば次のようにして形成できる。
面領域f23:炭化水素化合物ガスのプラズマのもとで酸素、フッ素結合が実質上無い炭 素膜部分を形成し、該炭素膜部分を酸素ガスプラズマに暴露する。これに より最も濡れ性(親和性乃至親水性)が大きい酸素結合炭素膜部分を形成 する。
面領域f22、f24:
炭化水素化合物ガスのプラズマのもとで酸素、フッ素結合が実質上無い炭 素膜部分を形成し、これにより炭素膜部分自体の濡れ性の面領域を得る。面領域f21、f25:
炭化水素化合物ガスとフッ素含有ガスとを含むガスのプラズマのもとでフ ッ素結合炭素膜部分を形成し、これにより濡れ性が小さい(疎水性乃至撥 水性が大きい)炭素膜部分を形成する。
なお、この場合も、必要に応じ、炭素膜部分の形成に先立って、部品SLの被成膜面に前記の前処理をほどこしてもよく、また、炭素膜部分のうち少なくとも一つには、既述のように、窒素或いは金属単体、金属酸化物等の金属化合物から選ばれた少なくとも1種の物質を添加してもよい。
以上説明した炭素膜形成では、各面領域に対応する炭素膜部分を順次形成したが、先ず、物品の被成膜面の全体に炭化水素化合物ガスのプラズマのもとで酸素、フッ素結合が実質上無いベース炭素膜を形成し、このベース炭素膜の表面を前記所望の濡れ性とすべき複数の面領域に対応する面領域に分け、それぞれの面領域に対し、次のいずれかの濡れ性制御処理を施すことでも、所望の濡れ性が制御された炭素膜F1やF2を得ることができる。
(1) 該面領域をそのままの状態に維持する処理、
(2) 該面領域を酸素ガスプラズマに暴露する処理、
(3) 該面領域を不活性ガスプラズマに曝す処理、
(4) 該面領域に炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとでフ ッ素含有炭素膜部分を形成する処理、
(5) 該面領域に炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとでフ ッ素含有炭素膜部分を形成し、該膜フッ素含有炭素膜部分をさらにフッ素含有ガスプ ラズマに暴露する処理
(6) 該面領域をフッ素含有ガスのプラズマに暴露する処理
濡れ性が制御された炭素膜における濡れ性制御の態様は前記面領域f11〜f16、f21〜f25に限定されるものでなく、濡れ性制御炭素膜或いはこれを被覆する物品の用途等に応じて、他にも様々の制御態様を採用することができる。
例えば、炭素膜表面の全体にわたって濡れ性が連続的に増加又は減少するように変化している態様(図4(D)参照)、炭素膜表面の濡れ性が前記のように段階的に変化している場合において、さらに少なくとも一つの炭素膜部分において濡れ性が連続的に変化している態様、炭素膜表面に濡れ性が異なる面領域が分散している態様等である。
図4(D)のように濡れ性が連続的に変化している炭素膜は、例えば、被成膜物品の表面に透孔を設けたマスクをあてがい、このマスクを移動させつつ、(a) 炭化水素化合物ガス及び酸素ガスを含むガスのプラズマのもとで、且つ、該両ガスの導入割合を連続的に変化させつつ酸素結合(酸素含有)炭素膜を形成したり、(b) 炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとで、且つ、両ガスの導入割合を連続的に変化させつつフッ素係合(フッ素含有)炭素膜を形成することで得られる。
濡れ性が連続的に変化している炭素膜或いは炭素膜部分は濡れ性が異なる面領域が無限に存在しているに等しいと言える。
ここで、図4(A)に示すタイプの板状体を図1のタイプのプラズマCVD装置を用いて形成した実験例について説明する。
採用した板状体の材質、サイズ、成膜条件、成膜手順等は次のとおりである。
板状体:4インチシリコンウエハ
高周波電極2:40cm×40cmの四角形電極
先ず、前記実験例X−2における前処理条件と同条件でシリコンウエハの被成膜面に前理を施した(なお、前記実験例X−3〜X−5のいずれかにおける前処理条件で前処理を施してもよい)。
次に、前記実験例X−1と同じ成膜条件でシリコンウエハの被成膜面に全面的にDLC膜を形成した。
次に5mm幅の透孔を形成したマスクを該DLC膜にあてがい、前記実験例X−5における酸素プラズマによる前処理条件と同条件で該透孔から露出している第1のDLC膜部分を酸素プラズマに暴露して面領域f11を得た。
さらに、同マスクを5mmずらして露出させた第2のDLC膜部分を、実験例X−5における酸素プラズマによる前処理条件において酸素プラズマに代えてアルゴンガスプラズマを採用した点を除けば同条件で、該アルゴンガスプラズマに暴露して面領域f12を得た。
次いで、同マスクを5mmずらして露出させた第3のDLC膜部分はそのままの状態とし(面領域f13)、さらに同マスクを5mmずらして露出させた第4のDLC膜部分の上に、前記実験例1−3の成膜条件〔流量比(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )=0.5〕でフッ素含有炭素膜を形成し、さらにマスクを5mmずらして露出させた第5のDLC膜部分上に前記実験例1−5の成膜条件〔流量比(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )=0.83〕でフッ素含有炭素膜を形成して、面領域f14、f15を得た。
さらにマスクを5mmずらして露出させた第6のDLC膜部分上に前記実験例1−5の成膜条件でフッ素含有炭素膜を形成し、該炭素膜を、実験例X−3における前処理条件において6フッ化硫黄(SF6 )ガスプラズマに代えて6フッ化2炭素(C2 6 )ガスプラズマを採用した点を除けば同条件で、該6フッ化2炭素ガスプラズマに暴露して面領域f16を得た。
かくして、5mmピッチで濡れ性が変化した炭素膜を形成した。該炭素膜の各面領域における濡れ性は下記表のとおりである。接触各は水との接触角を示す。

面領域 f11 f12 f13 f14 f15 f16 処理 O2 暴露 Ar暴露 未処理 フッ素含有 フッ素含有 フッ素含有+
フッ素暴露
接触角 45° 60° 80° 90° 100° 107°
以上説明したフッ素含有炭素膜やフッ素含有炭素膜部分は硬度を向上させるために積層構造にしてもよい。積層構造にすることで硬度が向上することを確認した実験例2−1〜2−4について説明する。
成膜物品は既述の実験例1−1〜1−5の場合と同様にすべて材質をシリコーンゴムとし、サイズを直径20cm×厚さ10mmとした。装置の電極サイズは40cm×40cm(正方形)とした。いずれの実験においても前記実験例1−1等と同様に炭素膜形成に先立ち物品表面を水素ガスプラズマにより前処理した。
実験例2−1〜2−4
フッ素含有炭素膜の形成(前処理を行ったのち成膜)
・前処理:
前処理用ガス 水素(H2 )ガス 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
前処理圧力 0.1Torr(13.3Pa)
処理時間 5分
・成膜:前処理用ガスを排気したのち成膜した。
成膜用ガス メタン(CH4 )ガス
6フッ化2炭素(C2 6 )ガス
ガス導入量は、フッ素の添加割合を段階的に変化させるため、6フッ化2炭素ガスについては25sccmの一定とし、メタンガスについては下記表2に示すように変化させた。
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
成膜圧力 0.1Torr(13.3Pa)
成膜温度 室温
成膜時間 20分
上記表2において膜厚単位は〔nm〕であり、流量比は(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )で真空チャンバ1内への各ガスの導入流量比を示している。また、設定膜厚は成膜速度から算出した。炭素膜全体としてはいずれも膜厚400nmとした。また表2において実験例1−5は既述の実験例1−5による炭素膜であり、比較のため示したものである。
さらに、これら炭素膜について硬度及び密着性について評価した。硬度及び密着性の評価方法は前記実験例1−1〜1−5の場合と同様である。評価結果を下記表3に示す。
この結果から、炭素膜或いは炭素膜部部におけるフッ素量を傾斜させることで、硬度(従って耐摩耗性)を2.5倍以上に向上させることができ、膜密着性も向上することが分かる。物品表面にもっとも近い炭素層はDLC層にすることが望ましい。
また、炭素膜や炭素膜部分は、その原料ガスのプラズマ化を所定周波数の基本高周波電力に所定の変調周波数で振幅変調を施した高周波電力の印加により行えば、濡れ性(水との接触角)を制御できるので、そのような高周波電力を用いて膜形成してもよい。そのような高周波電力を用いることで濡れ性を制御できることを確認した実験例について説明する。
図2に示す装置を用い、前記実験例1−1(流量比(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )=0.2)、1−3(流量比0.5)、1−5(流量比0.83)において、ガスプラズマ化用電力として13.56MHzの基本高周波電力に周波数変調を施した状態のものを採用し、その際デューティはいずれも50%として炭素膜を形成する実験を行った。 図12は、その場合の変調周波数(Hz)と、その変調周波数のもとに形成された炭素膜のXPSによるスペクトルにおいて、F1Sに由来するピーク強度とC1Sに由来するピーク強度との比(F1S/C1S)との関係を示している。
図12より、すベての流量比に対して変調周波数が50HzのときにF1S/C1Sの値が最大値をとることが分かる。
次に図2に示す装置を用い、前記実験例1−5(流量比0.83)において、ガスプラズマ化用電力として13.56MHzの基本高周波電力に50Hzの周波数変調を施した状態のものを採用し、その際デューティを変化させ、該デューティと得られた炭素膜のF1S/C1S及び撥水性との関係について調べた。図13よりデューティが5%のときにF1S/C1Sが最大値を示し、撥水性を示す接触角もそのときに最大(104度)(実験例1−5の炭素膜では100度)になることが分かる。従って周波数変調を施した高周波電力を印加することによって撥水性を変化させることができると言える。
また、炭素膜や炭素膜部分は、窒素を添加することで硬度を向上させることができるので、窒素を添加してもよい。窒素添加により膜硬度が向上することを確認した実験を行ったので、それを説明する。
図1に示す装置を用い、前記実験例1−1、1−5において、成膜段階で成膜用ガスとして、メタン(CH4 )ガス及び6フッ化2炭素(C2 6 )ガスに加え、窒素ガスを50sccmを採用して炭素膜を形成する実験(実験例3−2、3−3)を行った。得られた炭素膜について膜硬度を評価した。結果を下記表4に示す。なお、表4には参考のため前記比較実験例1と、比較実験例1においてメタン(CH4 )ガスに加え、窒素ガスを50sccmを採用して形成した炭素膜(実験例3−1)についても示してある。
表4から分かるように、窒素を添加することで膜の硬度を1.2倍〜2.5倍程度に増加させることができる。膜に窒化物が形成されたと考えられる。
また、炭素膜や炭素膜部分は、金属単体、金属酸化物等の金属化合物を添加することで硬度を向上させることができるので、これらを添加してもよい。金属単体、金属酸化物等の金属化合物の添加により膜硬度が向上することを確認した実験を行ったので、それを説明する。
図3に示す装置を用い、成膜用ガスとして、メタン(CH4 )ガス及び6フッ化2炭素(C2 6 )ガスに加え、TEOS〔テトラエチル−O−シリケイト Si(C2 5 O)4 〕と酸素ガスを採用し、メタン(CH4 )ガス及び6フッ化2炭素(C2 6 )ガスについては図3に示す装置のプラズマ処理室20に導入し、TEOS及び酸素ガスについてはプラズマ生成室10に導入してシリコン酸化物を添加した炭素膜を形成した実験例4−2、4−3について説明する。また、成膜用ガスとして、メタン(CH4 )ガスに加え、TEOSと酸素ガスを採用し、メタン(CH4 )ガスについてはプラズマ処理室20に導入し、TEOS及び酸素ガスについてはプラズマ生成室10に導入して炭素膜を形成した参考実験例4−1も示す。
成膜物品はすべて材質をシリコーンゴムとし、サイズを直径20cm×厚さ10mmとした。装置の電極サイズは40cm×40cm(正方形)とした。
参考実験例4−1
前処理 前処理用の水素ガスを成膜室Rへ導入するようにし、実験例1−1〜1−5における前処理と同様の条件で前処理した。
成膜 前処理ガスを排気したのち成膜処理した。
成膜用ガス ・メタン(CH4 )ガス100sccmをプラズマ処理室20へ導入 ・TEOS 10sccm及び酸素ガス 90sccmをプラズマ生 成室10へ導入
高周波電力 ・プラズマ処理室20については、
周波数13.56MHz、300W
・プラズマ生成室10については、
周波数13.56MHz、500W
成膜圧力 0.01Torr(1.33Pa)
成膜温度 室温
成膜時間 20分
実験例4−2
前処理 参考実験例4−1と同様に前処理した。
成膜 前処理ガスを排気したのち成膜処理した。
成膜用ガス ・メタン(CH4 )ガス及び6フッ化2炭素(C2 6 )ガス(25 sccm)をプラズマ処理室へ導入
流量比〔(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )〕は0.2 ・TEOS 10sccm及び酸素ガス 90sccmをプラズマ生 成室へ導入
高周波電力 ・プラズマ処理室20については、
周波数13.56MHz、300W
・プラズマ生成室10については、
周波数13.56MHz、500W
成膜圧力 0.01Torr(1.33Pa)
成膜温度 室温
成膜時間 20分
実験例4−3
前処理 実験例4−2と同様に前処理した。
成膜 流量比〔(C2 6 )/(CH4 +C2 6 )〕を0.83にする以外は実験 例4−2と同じ条件で成膜した。
これら炭素膜の硬度について評価した。硬度評価方法は前記実験例1−1〜1−5の場合と同様である。評価結果を下記表5に示す。
なお、表5において比較実験例1、実験例1−1、1−5は既述の実験例であり、比較のため示したものである。
この結果から、炭素膜に金属化合物等をを添加することで膜硬度が2倍〜4倍程度まで増加し、既述のように窒素を添加した場合に比べても2倍弱程度の硬度が得られることが分かる。
膜硬度は既述のとおり金属単体、金属化合物の添加によっても向上する。これら添加のために採用できる原料や、組み合わせ使用する原料(原料1、原料2)と、これにより炭素膜中に生成される添加材料の例を表6にまとめて示す。
本発明に係る濡れ性が制御された炭素膜やそれで被覆された物品は、流体制御が要求される各種流路用管体、食品製造機器、医療機器、医療検査や環境試験等のための検査機器、洗浄用機器等の各種機器や機械類、それらの部品、部分等の分野で利用できる。
濡れ性が制御された炭素膜の形成に利用できる成膜装置の1例の概略構成を示す図である。 濡れ性が制御された炭素膜の形成に利用できる成膜装置の他の例の概略構成を示す図である。 濡れ性が制御された炭素膜の形成に利用できる成膜装置のさらに他の例の概略構成を示す図である。 表面濡れ性が制御された炭素膜で被覆された物品、炭素膜表面の濡れ性制御態様、かかる炭素膜の形成方法等を例示する図である。 成膜用ガスである炭化水素化合物ガスとフッ化炭素化合物ガスの導入流量比と成膜速度の関係を示す図である。 成膜用ガスである炭化水素化合物ガスとフッ化炭素化合物ガスの導入流量比とそれら流量比のもとに形成された炭素膜のFT−IR分光分析によるスペクトルを示す図である。 成膜用ガスである炭化水素化合物ガスとフッ化炭素化合物ガスの導入流量比とそれら流量比のもとに形成された炭素膜のXPSによるスペクトルを示す図である。 炭素膜におけるFT−IR分光分析によるスペクトルのピーク面積の比(IR・C−F)/(IR・C−H)と、XPSによる(F1S/C1S)の関係を示す図である。 成膜用ガスである炭化水素化合物ガスとフッ化炭素化合物ガスの導入流量比と 炭素膜の摩擦係数との関係を示す図である。 成膜用ガスである炭化水素化合物ガスとフッ化炭素化合物ガスの導入流量比と 炭素膜の硬度( ビッカース硬度) との関係を示す図である。 成膜用ガスである炭化水素化合物ガスとフッ化炭素化合物ガスの導入流量比と 炭素膜の撥水性(撥水角、接触角)との関係を示す図である。 ガスプラズマ化用高周波電力の変調周波数と、その変調周波数のもとに形成された炭素膜のXPSによる(F1S/C1S)との関係を示す図である。 ガスプラズマ化用高周波電力の周波数変調のデューティと、その変調周波数のもとに形成された炭素膜のXPSによる(F1S/C1S)及び撥水性との関係を示す図である。
符号の説明
11 圧力調整弁
12 排気ポンプ
1 真空チャンバ
2、3 電極
22 マッチングボックス
23 高周波電源
24 任意波形発生装置
S1 被成膜面
4 ガス供給部
411、412 マスフローコントローラ
421、422 弁
431、432 ガス源
5 炭素膜
R 成膜室
10 プラズマ生成室
20 プラズマ処理室
110 RFコイル
130 マッチングボックス
140 高周波電源
200 被成膜物品支持ホルダ
201 水冷用パイプ
H ヒータ
100 排気装置
150、30 ガス導入管
300 ガス噴出管
410 マッチングボックス
420 高周波電源
430、440 直流電源
SW 切替えスイッチ
500 フエイズシフター

Claims (20)

  1. 濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有することを特徴とする濡れ性が制御された炭素膜。
  2. 前記炭素膜表面の、濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域のそれぞれは、炭素のほか、フッ素、水素、酸素のうち少なくとも1種の元素を含んでいる請求項1記載の炭素膜
  3. 前記濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域のそれぞれは、
    (1) 酸素結合、フッ素結合の無い炭素面領域、
    (2) 結合酸素により濡れ性が制御された酸素結合炭素面領域、
    (3) 酸素結合、フッ素結合の無い炭素面領域を不活性ガスプラズマに暴露することで濡れ性が制御された炭素面領域、
    (4) 結合フッ素により濡れ性が制御されたフッ素結合炭素面領域
    のいずれかである請求項1記載の炭素膜。
  4. 前記濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域のうち少なくとも一つは水素を含有している請求項3記載の炭素膜。
  5. 炭素膜表面の全体にわたって濡れ性が次第に増加又は減少するように変化している請求項1から4のいずれかに記載の炭素膜。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載の炭素膜で少なくとも一部が被覆された濡れ性制御膜被覆物品。
  7. 前記物品の少なくとも前記炭素膜で被覆された部分は有機高分子材料から形成されている請求項6記載の物品。
  8. 前記物品の少なくとも前記炭素膜で被覆された部分は金属、セラミックから選ばれた少なくとも1種の材料から形成されている請求項6記載の物品。
  9. 流体通路を有し、該流体通路の流体に接触する面の少なくとも一部が前記炭素膜で被覆されている請求項6、7又は8記載の物品。
  10. 他の物品と摺動する面を有し、該摺動面の少なくとも一部が前記炭素膜で被覆されている請求項6、7又は8記載の物品。
  11. 濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する濡れ性が制御された炭素膜の形成方法であり、
    該炭素膜を形成する物品を準備する工程と、
    該物品の少なくとも一部に表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分を形成することで濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する炭素膜を形成する工程と
    を含むことを特徴とする濡れ性が制御された炭素膜の形成方法。
  12. 前記表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分のそれぞれは、炭素のほか、フッ素、水素、酸素のうち少なくとも1種の元素を含む請求項11記載の炭素膜の形成方法。
  13. 前記表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分それぞれの形成は、前記物品の該炭素膜部分形成対象領域に対応する透孔が形成されたマスクを該物品に対し配置して行う請求項11又は12記載の炭素膜の形成方法。
  14. 前記表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分それぞれの形成は、
    (1) 表面に酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜部分の形成、
    (2) 表面濡れ性が結合酸素により制御された酸素結合炭素膜部分の形成、
    (3) 表面に酸素結合、フッ素結合の無い炭素膜部分を形成し、該炭素膜部分表面を不活性ガスプラズマに暴露することによる表面濡れ性が制御された炭素膜部分の形成、
    (4) 表面濡れ性が結合フッ素により制御されたフッ素結合炭素膜部分の形成
    のいずれかにより行う請求項11記載の炭素膜の形成方法。
  15. 前記濡れ性が異なる炭素膜部分のうち少なくとも一つは水素を含有する請求項14記載の炭素膜の形成方法。
  16. 前記表面濡れ性が異なる少なくとも2種類の炭素膜部分それぞれの形成は、前記物品の該炭素膜部分形成対象領域に対応する透孔が形成されたマスクを該物品に対し配置して行う請求項14又は15記載の炭素膜の形成方法。
  17. 濡れ性が異なる少なくとも2種類の面領域を含む表面を有する濡れ性が制御された炭素膜の形成方法であり、
    該炭素膜を形成する物品を準備する工程と、
    該物品の少なくとも一部に表面に酸素結合、フッ素結合の無いベース炭素膜を形成する工程と、
    該ベース炭素膜表面の複数の面領域のそれぞれに濡れ性制御処理を施こす工程とを含み、
    該ベース炭素膜表面の複数面領域のそれぞれに対する濡れ性制御処理は、
    (1) 該面領域をそのままの状態に維持する処理、
    (2) 該面領域を酸素ガスプラズマに暴露する処理、
    (3) 該面領域を不活性ガスプラズマに曝す処理、
    (4) 該面領域に炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとでフッ素含有炭素膜部分を形成する処理、
    (5) 該面領域に炭化水素化合物ガス及びフッ素含有ガスを含むガスのプラズマのもとでフッ素含有炭素膜部分を形成し、該膜フッ素含有炭素膜部分をさらにフッ素含有ガスプラズマに暴露する処理
    (6) 該面領域をフッ素含有ガスのプラズマに暴露する処理
    から選ばれた処理であることを特徴とする濡れ性が制御された炭素膜の形成方法。
  18. 前記ベース炭素膜表面の複数の面領域のそれぞれに対する濡れ性制御処理は濡れ性制御処理対象面領域に対応する透孔が形成されたマスクを該ベース炭素膜表面に対し配置して行う請求項17記載の炭素膜の形成方法。
  19. 前記物品は流体通路を有し、該流体通路の流体に接触する面の少なくとも一部に前記炭素膜を形成する請求項11から18のいずれかに記載の炭素膜の形成方法。
  20. 前記物品は他の物品と摺動する面を有し、該摺動面の少なくとも一部に前記炭素膜を形成する請求項11から18のいずれかに記載の炭素膜の形成方法。
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