本発明の実施の形態について図を引用しながら説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。図1は、プラスチック光ケーブルの製造工程図である。それぞれの工程については後で詳細に説明するものとし、ここでは工程の流れについてのみ説明する。まず、クラッド作製工程11により、管形状のクラッド12を作製する。クラッド12は、後で生成するプリフォーム21の外殻部分をなす部分である。
次に、クラッド12の中にコアを生成させる。本実施形態では2重構造のコアを生成させ、以降の説明においては、外側、つまりクラッド12の内面と接して生成される部分をアウターコアと称し、内側、つまりアウターコアの中に生成される部分をインナーコアと称する。まず、アウターコアを生成させるための重合性化合物(以降、アウターコア用モノマーと称する。)をクラッド12の中に入れる第1注入工程13と、注入されたアウターコア用モノマーを重合させて、断面円形の中央が空洞となるようにアウターコアを生成するためのアウターコア生成工程15がある。ところで、重合体へ重合性化合物が接触し、しみ込む等して重合体が膨潤、溶解することにより所定の反応が進む塊状重合の一種である界面ゲル重合反応が起こる場合には、この重合反応の進行により先に形成されていた重合体が溶解する。したがって、例えば後に述べるインナーコアの生成反応により、先に形成されたアウターコアがインナーコアと一体となって、アウターコアが認められなくなる場合がある。
そして、インナーコアを生成させるための重合性化合物(以降、インナーコア用モノマーと称する。)をアウターコアの中に入れる第2注入工程17と、インナーコアを生成するためのインナーコア生成工程20がある。このようにしてPOFのプリフォーム21が得られる。なお本実施形態では、アウターコアとインナーコアとをそれぞれ形成する重合性化合物は、アウターコア用モノマー、インナーコア用モノマーとして説明をするが、本発明では単量体に限定されるものではなく、2量体や3量体等の他、後述する各種の重合体を形成するための重合性化合物を含んでいる。
プリフォーム21は、延伸工程22により延伸されて、POF(plastic optical fiber)25となる。この延伸工程16では、円柱状のプリフォーム21が、加熱されて、長手方向に延伸される。なお、プリフォーム21は、POF25とされなくとも、この状態のままでも光伝送体としての機能を発現する。そして、POF25は、その外周を被覆材により被覆される被覆工程26を経る。なお、後で詳細に述べるが、被覆工程26では、通常は、先に一次被覆が実施され、この一次被覆の後に二次被覆が実施される。ただし、被覆層の数については1層または2層に限定されるものではない。被覆工程26を経たPOF25はプラスチック光ファイバ心線またはプラスチック光ファイバコード(ともに、plastic optical code)と称される。本発明においては、このファイバ心線が1本のままであって必要に応じてさらに被覆を施されたものをシングルファイバケーブルと称し、一方、ファイバ心線がテンションメンバ等とともに複数本組み合わされてさらなる被覆材を被されたものをマルチファイバケーブルと称することとし、プラスチック光ケーブル27(plastic optical cable)とは、これらのシングルファイバケーブルとマルチファイバケーブルとの両方を含む。
次に、本実施形態としてのPOF25及びその製造方法を説明する。図2は、本発明により製造されたプリフォーム21の一例の断面図であり、図3の(a)はプリフォーム21の断面円形の径方向における屈折率、(b)はプリフォーム21の断面円形の径方向における屈折率調整剤の含有率を示す図である。図2に示すプリフォーム21は、外殻部であるクラッド12と、コア31を有し、コア31は上記のように、クラッド12の内面に接するアウターコア32と、アウターコア32の内部のインナーコア33とを有している。そして、インナーコア33の中央部は空洞部34となっている。クラッド12は、外径及び内径が長手方向に一定で、厚みが均一の管形状となっている。クラッド12は、ポリマーの中でも屈折率が低いもので形成されており、本実施形態として例示するものはポリフッ化ビニリデン(以降、PVDFと称する。)を溶融押出成型により成型したものである。この溶融押出成型は、市販の溶融押出成型機を用いて実施している。ただし、クラッド12は、例えば回転重合により得られるPMMAであってもよいし、後に詳細に述べるような他の材料であってもよい。
アウターコア32は、クラッド12と同様に外径及び内径が長手方向に一定で、厚みが均一の管形状となっている。アウターコア32の材料は、クラッド12とインナーコア33との少なくとも一方との関係を考慮して選択される。本発明の本実施形態の例示としたアウターコア用モノマーはメチルメタクリレート(MMA)または全重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8)であり、したがって、これによって生成されたアウターコア32の材料はPMMAまたは全重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)となる。
なお、図2に示したプリフォーム21の中央部には空洞部34が形成されているが、この空洞部の断面円形の径と、この径のプリフォームの外径に対する比率とは、図2に示す様態に限定されるものではなく、製造条件に応じて変動する。
図3の(a)において、横軸はプリフォーム21の断面径方向を示し、縦軸は屈折率を示す。屈折率は、上方向が高い値であることを意味している。また、図3の(b)においては、横軸は(a)と同じであり、縦軸は屈折率調整剤の含有率を示している。(b)の縦軸では、上方向が高い値であることを意味しており、最も低い値はゼロである。(a)、(b)ともに、横軸の符号(A)で示される範囲は、図2におけるクラッド12に対応しており、符号(B)で示される範囲は図2におけるアウターコア32に対応しており、また、符号(C)で示される範囲は図2におけるインナーコア33に対応している。そして、符号(D)で示される範囲は、図2における空洞部34に対応する範囲であるので、値がないあるいはゼロとして示している。
インナーコア33は、図3の(a)に示されるように、アウターコア32との境界から空洞部34に向けて屈折率が連続的に高くなっている。クラッド12はアウターコア32よりも屈折率が低く、アウターコア32はインナーコア33よりも屈折率が低い。そして、本発明の実施形態として例示するものにおいては、製造されたプリフォーム21のインナーコア33の屈折率が、図3の(a)に示すように、断面円形の径の外側から空洞部34に向けて連続的に屈折率が高くなるように、インナーコア33の生成方法として後述のような回転ゲル重合法を適用している。なお、断面円形の径方向において、屈折率の最大値と最小値との差が0.001以上0.3以下であることが好ましい。本発明の実施形態として例示するもののインナーコア用モノマーはMMAまたは全重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8)であり、重合後のアウターコア32とインナーコア33とは主成分がPMMAまたは全重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)となる。したがって、図2では両者の境界は、説明の便宜上示されてはいるが、得られたプリフォーム21では、例えば回転ゲル重合反応等が生起進行する場合には図2のように明確でない場合や上記のように界面が消失する場合がある。
また、図3の(b)に示すように、本発明により得られるプリフォームは断面円形の径方向において、屈折率調整剤の含有率が中心に向かうほど高くなっている。具体的には、クラッド及びアウターコアには屈折率調整剤は含まれておらず、一方、インナーコアではその径方向の中央に向かうほど含有率が高くなるように含まれている。この屈折率調整剤の濃度分布により、図3(a)の範囲(B)及び(C)で示されるコアの屈折率が発現する。そして、屈折率調整剤のこの濃度分布は、後述する回転ゲル重合法により制御される。
ところで、プリフォーム21ならびにPOF25の屈折率分布係数は、以下の式(1)−1,(1)−2におけるgの値として知られている。以下の式(1)においては、Rはプリフォーム21またはPOF25のインナーコア33の外径、rは断面円形の中心から測定位置までの距離、n1は断面径方向における屈折率の最大値、n2は断面径方向における屈折率の最小値、Δは(n1−n2)/n1で表される値である。
n(r)=n1{1−(r/R)g ×Δ}1/2 (r≦Rのとき)・・・(1)−1
n(r)=n1(1−Δ) (r>Rのとき)・・・(1)−2
そして本実施形態の例示として示されるプリフォーム21ならびにPOF25の屈折率分布係数は0.5〜4であり、より好ましくは1.5〜3であり、理想的には2である。屈折率分布係数が4よりも大きいと、高次モード成分の遅延が大きくなることでパルスの歪みが大きくなり、100mで1ギガビット/秒の高速伝送が困難になるという問題があり、一方、0.5よりも小さいと高次モード成分が低次モード成分より速く伝搬することによってパルスの歪みの増大を招き、これにより高速伝送が困難になるという問題がある。そして、本実施形態においては、インナーコア33を生成する際に添加する屈折率調整剤の量や、後述するインナーコア生成反応の反応速度等を制御することにより、屈折率分布係数を上記範囲とした。
次にPOFについて説明する。図4は、上記のプリフォーム21を加熱延伸することにより得られるPOF25の断面図であり、図5の(a)は、POFの断面径方向における屈折率、(b)は断面径方向における屈折率調整剤の含有率を示す概略図である。図4に示すように、POFは、クラッド112と、クラッド112の内面にコア131とを有し、コア131はアウターコア132とインナーコア133とを有する。ただし、POF25は、プリフォーム21(図2参照)を加熱溶融して長手方向に延伸されるために空洞部がなくなっている。
図5の(a)及び(b)の縦軸及び横軸は、図3の(a)及び(b)とそれぞれ同様に示しているので説明を略す。そして、図5の(a)及び(b)においては、横軸の符号(E)で示される範囲は、図4におけるクラッド112に対応しており、符号(F)で示される範囲は図4におけるアウターコア32に対応し、符号(G)で示される範囲は図4におけるインナーコア133に対応している。このように、POFの断面径方向における屈折率はプリフォームと同様に、クラッド112が最も低く、アウターコア132、インナーコア133の順に高くなっている。そしてインナーコア133の屈折率はPOFの断面中心に向かうほど連続的に高くなっている。また、このようにして得られるPOF25の屈折率分布係数は、上記で得られたプリフォーム21(図2参照)とほぼ同じ値を示すようになる。プリフォームの屈折率分布については先に述べた通りである。
図5の(b)に示すように、本発明により得られるプリフォームを用いて得られるPOFは、断面円形の径方向において、屈折率調整剤の含有率が中心に向かうほど高くなっている。具体的には、クラッド及びアウターコアには屈折率調整剤は含まれておらず、一方、インナーコアではその径方向の中央に向かうほど含有率が高くなるように含まれている。この屈折率調整剤の濃度分布により、図5(a)の(B)及び(C)の範囲で示されるコアの屈折率が発現しており、この屈折率調整剤の濃度分布は、プリフォームの製造段階に概ね依存する。
次に、プリフォームの製造方法について図6〜図8を参照しながら詳細に説明する。図6は重合容器の断面図であり、図7は、回転重合装置の概略斜視図であり、図8は重合装置による重合反応についての説明図である。ただし、本発明は図6〜図8に示す重合装置及び重合容器に依存するものではなく、また、本実施形態は、本発明の一様態としての例示である。
所定の材料からなる栓37によりクラッド12の片端部を塞ぐ。この栓はコア31を形成する重合性化合物に溶解しない素材からなり、可塑剤等を溶出させるような化合物も含まないものとする。このような素材としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等があげられる。片端部を栓37で塞いだあとに、アウターコア用モノマーをはじめとするアウターコア用原料32aをクラッド12の中に注入する。そして、他方の端部も栓37で塞いだ後、回転させながらアウターコア用モノマーを重合させてアウターコア32(図2参照)を生成する。このアウターコア生成時においては、クラッド12は、図6に示されるような重合容器38の中に収容される。重合容器38は、円管状の容器本体38aとこの容器本体38aの両端をそれぞれ塞ぐ蓋38bとを有し、本実施形態においてはSUS製とされている。重合容器38は、図6に示すように、その内径がクラッド12の外径よりもわずかに大きいものであり、後に述べるような重合容器38の回転に同期してクラッド12が回転することができるようにされている。なお、クラッド12が重合容器38の回転に上記のように応じることができるように、重合容器38の内面等にクラッド12を支持する支持部材等を設けてもよい。
アウターコア生成工程15(図1参照)は、上記のような重合容器38が回転重合装置41にセットされて実施される。回転重合装置41は、図7に示すように、装置本体42の中に複数の回転部材43と、装置本体42の外側に駆動部46と、装置本体42内の温度を検知してその検知結果に応じて内部温度を制御するための温度コントローラ47とを有している。
回転部材43は、円柱形状であり、2本の周面で少なくともひとつの重合容器38を支持することができるように、長手方向が互いに概ね平行かつ略水平となっている。各回転部材43は、その一端が装置本体42の側面に回動自在に取り付けられており、駆動部46によりそれぞれ独立した条件で回転駆動される。駆動部46にはコントローラ(図示なし)が備えられており、このコントローラにより駆動部46の駆動が制御される。そして、所定の重合反応時においては、図8に示すように、隣り合う回転部材43の周面により形成される谷部に重合容器38は載せられて回転部材43の回転に応じて回転する。図8においては、回転部材43の回転軸を符号43aで示している。このように、ここに例示される本実施形態においては、重合容器38の回転はサーフェスドライブ式としているが、この回転方式については限定されるものではない。
なお、本実施形態では、図8に示すように、重合容器38の両端の蓋38bには磁石38cがそれぞれ備えられているとともに、隣り合う2本の回転部材43の間の下方にも磁石45が備えられている。これにより、回転時において重合容器38が回転部材43から浮くことを防止している。重合容器38の回転部材43からの浮きを防止する方法としては磁石を用いる上記方法に加えて、又は代えて、回転部材43と同様な回転手段を、セットされた重合容器38の上部に接するようにさらに設けて、同様に回転させ、これにより重合容器38の浮きを防止することもある。またこの方法の他に、例えば重合容器38に上方に押さえ手段等を設けて、重合容器38に所定の荷重をかける方法等もあるが、本発明は浮き防止方法に依存するものではない。
続いて、アウターコアの生成方法について説明する。アウターコア用モノマーを始めとするアウターコア用原料32aについては、それぞれ後で詳細に述べる。アウターコアは、クラッドとインナーコアとの間に存在し、インナーコア用モノマーの重合反応にも関与する。ただし、アウターコアは、インナーコアの生成条件によっては不要である場合もあるし、また、前述のようにインナーコアの生成過程においてインナーコアと一体化して消失する場合もある。使用するモノマー等のアウターコア用原料32aはろ過や蒸留等により、重合禁止剤や水分、不純物等を予め十分除去してから用いることが好ましい。さらにモノマーや重合開始剤を混合した後で、この混合物を超音波処理により溶存気体や揮発成分を除去することが好ましい。なお、第1注入工程13(図1参照)の前後では、必要に応じて、公知の減圧装置により、クラッド12や注入物を減圧処理してもよい。
その後クラッド12を装填した重合容器38を、その長手方向を略水平状態にして回転(水平回転)させながら重合を生起進行させるとアウターコアが生成する。このように、アウターコアは、クラッドの円管軸を回転中心にしながら重合する回転重合により生成される。なお、回転重合の前には、クラッドを立てた状態で予備重合をしてもよく、この予備重合の際には必要に応じて所定の回転機構により、クラッドの円管軸を回転中心として回転させる。このような回転重合においては、クラッド12の長手方向を概ね水平に保ちながら回転させるために、クラッド12の内面全体にアウターコアが生成しやすくなる。なお、本発明では、アウターコアの重合時においては、クラッド12の長手方向を水平とすることが、クラッド12の内面全体にアウターコアを形成する上で最も好ましいが、略水平であれば好適であり、回転軸の許容される角度は水平に対して概ね5°以内である。
アウターコアの原料について説明する。本発明においては、アウターコア用モノマーと、所定の重合開始剤(反応開始剤)とをアウターコアの原料として用いている。なお、アウターコア用モノマーとしては、ラジカル重合性化合物とアニオン重合性化合物とを用いることができ、重合開始剤は、所定の触媒に代えることができる。また、連鎖移動剤(分子量調整剤)をアウターコアの原料中に添加してもよい。
アウターコア用モノマーとしては、ここに例示した実施形態ではメチルメタクリレート(MMA)または全重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8)を用いており、これらはラジカル重合とアニオン重合とにより反応することができる化合物である。しかし、本発明はこれら以外のラジカル重合性化合物とアニオン重合性化合物とをアウターコア用モノマーとして用いることができ、好ましいものとしてはインナーコア用のモノマーとともに後で詳細に例示する。
アウターコアを生成するための重合開始剤または触媒は、アウターコア用モノマーに対して0.001〜5モル%となるように使用しており、この添加率を0.01〜0.1モル%とすることがより好ましい。重合開始剤または触媒の添加率を5モル%よりも多くすると注入したアウターコア用原料32aが沸騰したりあるいは気泡が発生したり、またあるいは発生した気泡が抜けにくくなる等の問題がある。一方、0.001モル%未満とすると十分な反応開始効果が得られない。
本発明の実施形態としてここに例示するものでは、重合開始剤としての2,4−ジメチルバレロニトリル(V−65)を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、使用するアウターコア用モノマーの種類に応じて、適宜重合開始剤または触媒を決定することができる。特に好ましい重合開始剤は、重合開始剤として市販されているもののうち、中低温用重合開始剤と分類されているものである。この中低温用重合開始剤とは、一般に、10時間半減期温度が40〜90℃であるような重合開始剤を指す。このような重合開始剤を用いることにより、例えば高温用重合開始剤を用いた時の反応最適温度が90〜130℃であった反応を概ね50〜80℃で実施することができるとともに、所定時間における転化率を好適に制御して所定の重合反応速度とすることができるので、従来法に比べてアウターコアの生成時間を短縮することができる。また、反応温度を低くするとともに反応時間を短縮することができるために、クラッドの劣化を防止することができる。なお重合開始剤または触媒の具体的例示については、インナーコア重合工程における重合開始剤または触媒とともにまとめて後述するものとする。
また、前記連鎖移動剤は、アウターコア用モノマーに対して0.05〜0.8モル%となるように使用されており、この添加率を0.05〜0.4モル%とすることがより好ましい。
連鎖移動剤は特に限定されるものではなく、使用するアウターコア用モノマーの種類に応じて決定される。具体的例示については、インナーコア重合工程における連鎖移動剤とともにまとめて後述するものとする。
ただし、本発明では、クラッドとアウターコアとの作製方法について上記の実施形態には限定されず、用いる材料に応じて適宜公知の方法を用いて作製することができる。例としては、クラッドとアウターコアとを同時一体押出により成型することもできる。また、他の方法としては、クラッドの代わりに所定の内径を有するガラス製等の管状部材を用い、この中空部にアウターコア用モノマーを注入して重合させてから、このガラス製管状部材をはずして、このアウターコアに対して別途作製された管状のクラッドを取り付けたり、あるいはこのアウターコアの外周面に所定の方法によりクラッドを生成させてもよい。
以上のようにしてアウターコアが形成されたクラッドを、回転重合装置35から取り出した後、本実施形態では、所定温度に設定された恒温槽等の加熱手段により所定時間の加熱処理をしている。
次に、インナーコアを生成させる。図9には、インナーコア生成開始時における重合容器の断面図であり、この重合容器はアウターコア生成時に用いたものと同様である。図9に示すように、インナーコア用モノマーをはじめとするインナーコア用原料33aをアウターコア32の中空部中に注入する。その後、注入口37に栓37をして塞ぎ、アウターコアが形成されたクラッドの長手方向を略水平状態とし、クラッド12の断面円形の中心が回転軸となるように回転させながら反応を開始し重合を進めるとインナーコアが生成する。
ここで、インナーコア用原料33aの注入、つまり、第2注入工程(図1参照)は、アウターコア用モノマーの重合反応による転化率が90%以上95%以下であるときになされることが好ましい。これにより、アウターコアの内壁にクラックが生じることを抑制することができる。発生したクラックが大きいあるいは深い場合には、プリフォームを延伸して得るPOF中に構造不整箇所が残り、伝送損失の低下の原因となることがある。
このクラック発生は、アウターコアの内壁付近にたまっていた歪みのエネルギーが緩和しないうちにインナーコア用原料33aと接触することにより発生するものと考えられる。したがって、アウターコア32が所定の硬さにまで硬くなる前に、つまりアウターコア用モノマーの重合転化率が概ね95%に達する前に、インナーコア用原料33aを注入した方がよいものとして実施した。また、アウターコア用モノマーの重合転化率が90%未満であるときにインナーコア用原料33aを注入すると、アウターコアがインナーコア用原料との接触によりだれてきてしまうという問題がある。このように、インナーコア用原料33aの注入のタイミングを、アウターコア用モノマーの重合転化率を基に制御することにより、コアの外径が長手方向に不均一になりにくく、かつ構造不整のないPOFを得ることができる確率を高めることができる。この方法は、本発明のような後述の回転ゲル重合においてのみ適用されるものではなく、管状の外側部材の中空部中に内側部材用の原料を入れてこの原料を反応させる種々の公知のプリフォーム製造方法にも適用することができる。
このクラックの発生現象は、クラッド12にアウターコア用原料を注入する場合にも確認されることがある。したがって、クラッドを回転重合で作製する場合には、上記のアウターコア32中にインナーコアを生成する場合と同様に、クラッドの転化率が90%以上95%以下であるときにアウターコア用原料を注入することが好ましい。また、クラッドが本実施形態のように溶融押出成型により作製されたときには、注入時におけるクラッドやインナーコア用原料の温度を制御する等して、クラッドの内部の歪みのエネルギーを予め緩和する等の対策を講じることが効果的である。
このように、アウターコアの形成直後、具体的には、アウターコアが形成された状態を目視で確認された状態であってアウターコア用モノマーの重合転化率が100%に達する前の所定転化率に達した状態から連続してインナーコアを形成させた場合には、アウターコアとインナーコアとを別途作成する場合に比べて、プリフォームの製造効率を向上させることができる他に、アウターコア内面への異物等の吸着、ヒートショック、結晶化等に起因してアウターコアにまれに発生しうるクラックを防止することができるという効果が得られる。
そして、インナーコア用モノマーの注入の前後では、必要に応じて、公知の減圧装置により、アウターコアが形成されたクラッドや注入物を減圧処理してもよい。
インナーコア用モノマーの重合は、アウターコア生成工程で用いた回転重合装置41(図7参照)を用い、アウターコア生成時と同様にクラッド12の長手方向が略水平で回転する状態となるように重合容器38を回転させて実施する。
インナーコア用モノマーが重合を開始すると、アウターコアの内壁がインナーコア用モノマーにより膨潤し、重合初期段階では膨潤層を形成する。この膨潤層は、ゲル状態となっており、そのため、重合速度が加速(ゲル効果と称する)する。このような現象から、本明細書中では、予め作製された管状部材を回転させながら、この管状部材と注入された重合性化合物との反応により膨潤層を形成して、この重合性化合物を重合する反応を回転ゲル重合法を称するものとする。この重合反応は、本実施形態のように、管状部材の長手方向が水平とされることがより好ましい。そして、重合は、アウターコアの内面から開始し、クラッド12の断面円形の中心に向かって進行する。このとき、膨潤層の内部へは、分子体積の小さい化合物ほど優先的に入り込むため、重合の進行と共に、共存する他の化合物と比べて分子体積の大きなドーパントが膨潤層から前記中心方向へと押し出される。この結果、形成されたインナーコアの中心部は、高屈折率のドーパントの濃度が高くなり、図3に示したように、断面円形の径方向における中心に向かって屈折率が徐々に高くなったプリフォームを得ることができる。
なお、上記膨潤層形成は、本実施形態においては、クラッドとアウターコアとの界面及びその周辺でも確認されている。したがって、例えばPVDFのクラッドとMMAのコアとを有するプリフォームを製造するときには、アウターとインナーとの両コアを段階的に生成させるような上記実施形態の製造方法でなくともよく、本発明は、例えば、クラッドの中に屈折率調整剤を混合させたコア用モノマーを注入して水平回転させながら重合し、一度にコアを生成する方法も含まれる。
なお、本実施形態においては、アウターコアとインナーコアとは、膨潤層を形成しながらプリフォームが作製されることから、アウターコアとインナーコアとは明確な境界を有するものではない。つまり、図2では説明の便宜上クラッドとコアとの境界を示しているが、このように、アウターコアとインナーコアとの材料の互いの親和性、または膨潤層形成の有無等の製造条件に応じて、得られたプリフォームにおけるアウターコアとインナーコアとの境界の明確度は異なったものとなる。また、本発明の回転ゲル重合法においては、ゲル層の形成により上記のようにアウターコアが消失する場合の他、アウターコアがインナーコアの生成前よりも小さな厚みとなる場合もある。
また、アウターコアの中空部でインナーコア用モノマーが重合しない状態としたまま、回転または水平回転させても良い。これにより、アウターコアの内壁が膨潤して、インナーコア用モノマーに溶解する。その結果、アウターコアの内面に存在する微細な凹凸部が積極的に削られ、この内面の平滑性が向上し、より良いインナーコア領域を形成させることができることがある。
以上のように、本発明では回転ゲル重合法を実施することにより、従来の製造方法、例えば、重合性化合物等の組成物の注入と重合とを繰り返し実施し、外側から順次円筒状に重合物を生成させる方法において発生していたような、アウターコアとインナーコアとの界面やインナーコア内における気泡の発生が抑制される。そして、本発明では、クラッドの長手方向を水平にして回転させながら、アウターコア及びインナーコアの重合生成を実施するので、各モノマーの重合生成における体積収縮に影響を抑制してクラッドの内面全体にコアを生成することができ、クラッド全体をPOFプリフォームとして利用することが可能になる。さらに、この回転ゲル重合法によると、加圧が不要であるので、反応操作が容易である。なお、本発明では、インナーコアの重合時においては、クラッドの長手方向が水平とすることが、アウターコアの内面全体にインナーコアを形成する上で最も好ましいが、略水平であれば好適であり、回転軸の許容される角度は水平に対して概ね5°以内である。
本実施形態における重合性化合物のそれぞれの転化率については、ガスクロマトグラフィによる残留モノマーの定量分析と目視評価とを実施して両者の関係を予め求めておき、この関係をもとに目視観察にて評価した。しかし、転化率の求め方は、周知の各種方法を用いることができる。
本発明者らは反応速度を転化率の経時変化で検討した結果、好ましい反応速度は、1時間あたりの転化率が5〜90%となる様に調整することが好ましく、より好ましくは10〜85%であり、さらに好ましくは20〜80%である。この範囲で重合が進行するように重合開始剤を選定したり重合温度を設定することが好ましい。転化率が90%となるための反応時間が概ね1時間に満たないほどに反応速度が速すぎると、径方向における良好な屈折率の分布が得られない。これは、例えばGI型とならず、屈折率が径方向において段階的に変化してしまったり、あるいは、中央部が極端に高い屈折率となったり、反応速度が速すぎて気泡が生じたりすることを意味する。また、反応時間1時間における転化率が100%であっても、この1時間以内における転化率が、時間に対して比例する値よりも大きい値をとるような反応系では、良好な屈折率の分布を生じ得ない。以上のように、本発明では、1時間あたりの転化率が5〜90%となるように調整された反応速度とすることが好ましい。
一方、反応時間が、例えば1時間での転化率が5%に満たないほどに遅すぎても、径方向における良好な屈折率の分布が得られない。この場合には、前述とは逆に、例えば、径方向において最も低い屈折率と最も高い屈折率との差が所定の値よりも小さくなったり、図3や図5に示したようなグラフにしたときの曲線形状が歪んだ屈折率分布となってしまう。
そして、本発明においては、設定された重合温度における重合開始剤の半減期の1〜3倍の時間、つまり前記半減期をTとするときに、T以上3T以内の時間で転化率が99%以上100%以下となるように制御することが好ましい。そして、重合開始から概ね2時間経過したときに加熱処理をして転化率が99%以上100以下とするとよい。反応速度がこれよりも大きすぎる場合も小さすぎる場合も、重合開始剤の利用効率や反応制御の観点で不適である。このような転化率と反応時間との好適な関係の反応進行範囲を、以降の説明において好適反応進行範囲と称するものとする。そして、この好適反応進行範囲を満足するために、本発明においては、上記のように回転ゲル重合法を実施して、かつ、インナーコア用モノマーの種類に応じて、重合開始剤と連鎖移動剤とを後述するようなものとしている。
本実施形態ではインナーコア用モノマーの重合反応とともに、アウターコアとインナーコア用モノマーとを反応させており、これらの反応はいずれも塊状重合反応とみなされる。なお、上記に示した実施形態では、クラッドとアウターコアとの反応及びアウターコアの重合も塊状重合反応とみなされる。これにより、コアでは、気泡の発生が抑制される。
上記のような回転ゲル重合法において、反応温度は用いる重合性化合物の沸点以下とすることが好ましい。本実施形態のように、重合性化合物としてMMAまたはMMA−d8を用いた場合には、反応温度は、30〜100℃とすることが好ましく、40〜80℃とすることがより好ましい。反応温度を所定の上限値よりも高い温度とすると沸騰したり気泡が発生する等の問題がある。また一方、所定の下限値よりも低い場合には反応に要する時間が長くなり、重合における体積収縮に対して重合物の生成状態の応答性が悪くなり、空気が重合物内部に抱き込まれたりする等の問題があり、これは延伸した後のPOFに気泡が生じる原因ともなることがある。
また、反応時間は、0.5〜20時間とすることが好ましく、1.5〜3時間とすることがより好ましい。20時間よりも長いと生産効率的に問題があり、0.5時間よりも短いと重合度が不均一となったり、気泡が発生したり、重合体が波うちの状態となって不均一な密度等という問題がある。
回転速度については、500〜4000rpmとすることが好ましく、1500〜3500rpmとすることがより好ましい。4000rpmよりも速くすることは、装置に対する運転負荷が大きくなり、装置運転に要する電気コストが高くなり、また振動の発生に対する装置設計の改善等を要することもあるので好ましくない。一方、500rpmよりも小さい回転速度とすると、回転軸を中心となるように重合反応を制御することが困難となる場合があり、これは、例えば中空部を形成したい場合にでも良好な中空部を形成できなかったり、あるいは重合体の均一化を損なう原因ともなる。
インナーコアの原料について説明する。本発明においては、インナーコア用モノマーと、所定の重合開始剤(反応開始剤)と、屈折率調整剤(ドーパント)とをインナーコアの原料として用いている。インナーコア用モノマーとしては、ラジカル重合性化合物とアニオン重合性化合物とを用いることができ、重合開始剤は、所定の触媒に代えることができる。また、連鎖移動剤(分子量調整剤)が、インナーコア用原料の中に必要に応じて添加されてもよい。
インナーコア用モノマーとしては、上記に例示された実施形態ではメチルメタクリレート(MMA)または全重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8)を用いており、これらはラジカル重合とアニオン重合とにより反応することができる化合物である。しかし、本発明はこれら以外のラジカル重合性化合物とアニオン重合性化合物とをインナーコア用モノマーとして用いることができ、具体的例示については、アウターコア用モノマーとともにまとめて後述するものとする。
インナーコアを生成するための重合開始剤または触媒は、インナーコア用モノマーに対して0.001〜5質量%となるように使用しており、この添加率を0.010〜0.1質量%とすることがより好ましい。重合開始剤または触媒の添加率を5質量%よりも多くすると沸騰や気泡が発生したり、溶存気体の除去等が困難となる場合がある。また5質量%未満とすると反応温度を上昇させたり反応時間が長くなる等の問題がある。
本実施形態では、重合開始剤としての2,4−ジメチルバレロニトリル(V−65)を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、使用するアウターコア用モノマーの種類に応じて、適宜重合開始剤または触媒を決定することができる。特に好ましい重合開始剤は、重合開始剤として市販されているもののうち、アウターコア重合方法において説明した中低温用重合開始剤である。このような重合開始剤を用いることにより、例えば高温用重合開始剤を用いた時の反応最適温度が80〜110℃あった反応を概ね40〜80℃で実施することができるとともに、好適反応進行範囲を満たすように反応速度と転化率とを制御することが容易となるので、従来法に比べてインナーコアの生成時間を短縮することができる。また、反応温度を低くしても反応時間を延長する必要がないために、クラッドの劣化を防止することができる。なお具体的な好ましい重合開始剤または触媒としては、以下のものを例示することができる。具体的例示については、アウターコア重合工程における重合開始剤または触媒とともにまとめて後述するものとする。
また、反応時間を短くするためには、ラジカル重合開始剤等を用いて、このラジカル重合開始剤を40〜90℃の範囲で2時間以内の半減期を有するものとすると特に効果がある。このラジカル重合開始剤として、重合させる化合物の沸点近傍における半減期が2時間よりも長いものを用いると、重合性化合物の沸騰を抑制するために加圧させる必要性が生じる場合がある。
また、前記連鎖移動剤は、インナーコア用モノマーに対して0.05〜0.80モル%となるように使用されており、この添加率を0.15〜0.4モル%とすることがより好ましい。
連鎖移動剤は特に限定されるものではなく、使用するインナーコア用モノマーの種類に応じて決定される。具体的例示については、アウターコア重合工程における連鎖移動剤とともにまとめて後述するものとする。
ドーパントの添加率は、インナーコア用モノマーに対して、0.01重量%以上25重量%以下とすることが好ましく、1重量%以上20重量%以下とすることがより好ましい。インナーコア用モノマーに対するドーパントの添加率を、0.01重量%未満とすると、断面円形の径方向における屈折率を所定の分布にすることができず、一方25重量%よりも大きいと、インナーコアのガラス転移点が低くなり耐熱性が損なわれるので不適である。
上記に例示した実施形態においては、ドーパントとしては高屈折率で分子体積が大きく、重合に関与しない低分子化合物としての硫化ジフェニルを用い、これを添加することによりコアの径方向における屈折率を変化させている。なお、ドーパントを用いずに、例えばインナーコア用モノマーを2種以上用いる等によっても、コア31(図2参照)の断面の径方向における屈折率を変化させることもできる。この場合の方法としては、例えば、共重合性である第1及び第2の化合物を用い、第2の化合物が第1の化合物よりも大きな屈折率のものとし、そして、第1化合物間の反応性と、第1と第2との化合物間の反応性との、両者の違いを利用して重合させる方法が挙げられる。なおドーパントの具体的例示については、重合開始剤や連鎖移動剤とともにまとめて後述するものとする。
また、本実施形態では、上記のような条件下で重合反応した後、さらに、所定条件での熱処理をして重合を進め、さらに、この重合完了後には所定の冷却速度で冷却する。
このようにして、コアおよびクラッドがプラスチックからなり、かつコアがアウターコアとインナーコアとの2重構造である、円柱状の光伝送体であるプリフォームを作製することができ、得られたプリフォームは延伸工程に供される。なお、得られるプリフォームは、断面円形の中央部に中空部を有するものとなる場合があるが、延伸工程における延伸によりこの中空部はなくなり、良好な伝送損失を有するPOFとなる。
プリフォームの延伸方法としては、特開平07−234322号公報等に記載される各種延伸方法を適用することができ、これにより、所望の直径、例えば200μm以上1000μm以下のPOFが得られる。
本発明においては、プリフォーム及びPOFを構成するクラッド及びコアの材料として特に好ましく用いられるものは、有機材料として光透過性が高いものである。ただし、コアを伝送する光がコアとクラッドとの界面で全反射するように、クラッドの材料は、コアの屈折よりも低い屈折率を有するようなポリマーとする。また、光学的異方性を生じないポリマーとすることが好ましい。さらに、コアとクラッドとは、互いに密着性に優れるポリマーとし、これらがタフネス等に示される機械的特性に優れ、耐湿熱性にも優れていることがより好ましい。
例としては、(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a),含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b)),スチレン系化合物(c),ビニルエステル類(d)、ポリカーボネート類の原料であるビスフェノールA等を重合性化合物として用いて重合させたものとすることができる。そして、クラッド形成ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)も好ましい。これらを原料として、各々を重合させたホモポリマー、あるいはこれらのうち2種以上を組み合わせて重合させた共重合体、および上記のホモポリマーや共重合体の各種組み合わせによる混合物も例として挙げることができる。混合物を用いる場合においては、上記沸点Tbは、混合物を構成する複数の原料化合物の沸点の中で最も低い温度、もしくは共沸混合物を成すことにより沸点が下がるときには沸点下降後の温度として定義される。また、混合物を原料として得られた共重合体及びブレンドポリマーの場合には、各共重合体またはブレンドポリマーのガラス転移点を上記Tgとして定義する。そして、これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル類または含フッ素ポリマーを成分として含むものが光伝送体を構成する上でより好ましい。次に、上記の例について、より詳細に示す。
上記の(a)フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、トリシクロ[5・2・1・02,6 ]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボニルメタクリレート等が挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニル等が挙げられる。
また、(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステルとしては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1 −トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレート等が挙げられる。
さらに、(c)スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。さらには、(d)ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテート等が挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではなく、重合性化合物の単独あるいは共重合体からなるポリマーの屈折率が、光伝送体に成型されたときに所定の屈折率分布を成型体のなかで有するように、種類や組成比を決定することが好ましい。
また、クラッドを形成する好ましいポリマーとしては、コアよりも低い屈折率を示す限りにおいて特に限定されず、上記の各種化合物や、その他に以下のものを例示することができる。例えば、メチルメタクリレート(MMA)とトリフルオロエチルメタクリレート(FMA)やヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート等のフッ化(メタ)アクリレートとの共重合体を挙げることができる。また、MMAと,tert−ブチルメタクリレートなどの分岐を有する(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボルニルメタクリレート、トリシクロデカニルメタクリレートなどの脂環式(メタ)アクリレートなどとの共重合体がある。さらにはポリカーボネート(PC)、ノルボルネン系樹脂(例えば、ZEONEX(登録商標:日本ゼオン(株)製))、ファンクショナルノルボルネン系樹脂(例えば、ARTON(登録商標:JSR製)など)、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など)を用いることもできる。また、フッ素樹脂の共重合体(例えば、PVDF系共重合体)や、テトラフルオロエチレンパーフルオロ(アルキルビニルエーテル(PFA)ランダム共重合体、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体などを用いることもできる。また、これらのポリマーの水素原子(H)を重水素原子(D)に置換して伝送損失の低減を図ることもできる。
さらに、光学部材を近赤外光用途に用いる場合は、光が通るコアを構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、特許3332922号公報や特開2003−192708号公報などに記載されているような、C−H結合の水素原子を重水素原子やフッ素などで置換したポリマーを用いることで、この伝送損失を生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。このようなポリマーとしては、例えば、重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などを例示することができる。なお、原料となる化合物は、重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は重合前に十分に除去されることが望ましい。
ラジカルを生成する重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物が挙げられる。また、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は、これらに限定されるものではなく、また、2種類以上を併用してもよい。
ポリマーとしたときの機械特性や熱物性などの各種物性値を全体にわたって均一に保つために、重合度の調整を行うことが好ましい。重合度の調整のためには、連鎖移動剤を使うことができる。連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択できる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子やフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は勿論これらに限定されるものではなく、これら連鎖移動剤は2種類以上を併用してもよい。
GI型POFは、伝送性能に優れているため、他の型のPOFよりも広帯域の光通信を行うことができ、高性能通信用途に好ましく用いることができる。屈折率の分布を付与する方法としては、コアとなるポリマーに、複数の重合単位を組み入れたり、それらのポリマーをさらに組合わせた共重合体を用いたり、または、ドーパントを添加する必要がある。
ドーパントは、上記のような重合性化合物とは異なる屈折率を有する化合物である。その屈折率差は0.005以上であることが好ましい。ドーパントは、これを含有するポリマーが無添加のポリマーと比較して、屈折率が高くなる性質を有する。これらは、特許3332922号公報や特開平5−173026号公報に記載されているような、モノマーの合成によって生成されるポリマーとの比較において、溶解性パラメータとの差が7(cal/cm3 )1/2 以内であると共に、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して屈折率が変化する性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものを、いずれも用いることができる。
また、ドーパントは重合性化合物であってもよい。重合性化合物のドーパントを用いた場合には、これを共重合成分として含む共重合体が、これを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものを用いることが好ましい。そして、上記性質を有し、ポリマーマトリクスとしての重合体と安定した共存が可能で、かつ、前述のコアあるいはクラッドの原料である重合性化合物の各種重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものを、ドーパントとして用いることができる。このように、ドーパントとして重合性化合物を用いる場合には、ポリマーマトリクスとの反応性及び安定性を考慮して選択することが好ましい。本実施の形態では、インナーコア用モノマーあるいはコア用モノマーにドーパントを含有させ、その重合工程において界面ゲル重合法により重合の進行方向を制御し、屈折率調整剤の濃度に傾斜を持たせ、コアに屈折率調整剤の濃度分布に基づく屈折率分布構造を形成する方法を例示しているが、それ以外にもプリフォーム形成後に屈折率調整剤を拡散させる方法も知られている(以下、屈折率の分布を有するコアを「屈折率分布型コア」と称する)。屈折率分布型コアを形成することにより、得られる光学部材は、広い伝送帯域を有する屈折率分布型プラスチック光学部材となる。
前記ドーパントとしては、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ビフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)などが挙げられ、中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOが好ましい。また、ドーパントは、例えばトリブロモフェニルメタクリレートのように重合性化合物でもよく、その場合、ポリマーマトリックスを形成する際に、重合性モノマーと重合性ドーパントとを共重合させるので、種々の特性(特に光学特性)の制御がより困難となるが、耐熱性の面では有利となる可能性がある。ドーパントの、コア部における濃度および分布を調整することによって、プラスチック光ファイバの屈折率を所望の値に変化させることができる。
その他、コア、クラッドもしくはそれらの一部には、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、コアもしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、前記原料となる各種重合性化合物に添加した後、重合することによって、コア、クラッドもしくはそれらの一部に含有させることができる。
POFは、曲げ、耐候性の向上,吸湿による性能低下抑制,引張強度の向上,耐踏付け性付与,難燃性付与,薬品による損傷からの保護,外部光線によるノイズ防止,着色などによる商品価値の向上などを目的として、通常、その表面に1層以上の保護層を被覆して使用される。
上述のように、本発明により得られるプリフォームを延伸してPOFとし、このPOFは第1の被覆工程を経て光ファイバ心線となり、1本の心線または複数本の心線を束ねた形態で第2の被覆工程により被覆をされて光ケーブルとなる。ただし、光ケーブルの中でもシングルファイバケーブルとする場合には、第2の被覆工程を経ることなく、第1被覆工程における被覆層を外表としたままで光ケーブルとして用いることもある。光ケーブルとされるときの被覆の形態としては、一本の前記心線と被覆材との界面、あるいは複数本束ねた状態の光ファイバ心線の外周と被覆材との界面が、すべて接するように被覆されている密着型の被覆と、被覆材と光ファイバ心線との界面に空隙を有するルース型被覆とがある。ルース型被覆では、たとえばコネクタとの接続部において被覆層を剥離した場合、その端面の空隙から水分が浸入して長手方向に拡散されるおそれがあるため、通常は密着型が好ましい。
しかし、被覆材と光ファイバ心線とが密着していないので、光ケーブルにかかる応力や熱等のダメージの多くを、被覆層により緩和させることができるという利点を有する。そのため、ルース型の被覆は、使用目的によっては好ましく用いることができる。ルース型被覆の場合のコネクタ接続部からの水分の伝播については、光ファイバ心線と被覆材との界面の空隙部に流動性を有するゲル状の半固体や粉粒体を充填することにより、防止することができる。さらに、これらの半固体や粉粒体に対して耐熱や機械的機能の向上などの他の異なる機能を付与させることにより、多機能な被覆層を形成した光ファイバケーブルを製造することができる。なお、ルース型の被覆とするには、クロスヘッドダイの押出し口ニップルの位置を調整し減圧装置による減圧度を加減することにより、前記空隙を有する層を形成することができる。この空隙層の厚みは前述のニップル厚みと空隙層とを加圧/減圧することにより調整することができる。
第1、第2の被覆工程で設けられる被覆材には、難燃剤や、紫外線吸収剤、酸化防止剤、昇光剤、滑材等を、光伝送特性に影響を及ぼさない条件範囲で添加してもよい。
なお、前記難燃剤としては、臭素を始めとするハロゲン含有の樹脂や添加剤、リン含有のものがあるが、燃焼時における毒性ガス低減等の安全性の観点では、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物が主流となりつつある。ただし、このような金属水酸化物は、その内部に水分を結晶水として有している。この水分は、これら金属水酸化物の製法過程における付着水に起因するものであり完全除去は不可能とされる。したがって、金属水酸化物による難燃性付与は、POFに接する被覆層には含有させず、ケーブルとしての外表となる被覆層に対してのみ行うことが望ましい。
また、光ケーブルに複数の他の機能を付与させるために、適宜機能性層としての被覆層をさらに積層させてもよい。例えば、前述の難燃化層以外に、POFの吸湿を抑制するためのバリア層や、POFに含有された水分を除去するための吸湿材料層等がある。このような吸湿材料層の付与方法としては、例えば、吸湿テープや吸湿ジェルを、所定の被覆層内や被覆層間に設ける方法がある。他の機能性層としては、可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層、外部からの応力を緩衝するための緩衝材としての発泡材料層、剛性を向上させるための強化層などがある。プラスチック光ケーブルの構造材(被覆材)としては、樹脂以外にも、高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線等の線材を熱可塑性樹脂に含有させたものが例示され、このような材料を用いると、得られるケーブルの力学的強度を補強することができることから好ましい。
前記抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられ、前記金属線としてはステンレス線、亜鉛合金線、銅線などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。その他に保護のための金属管の外装、架空用の支持線や、配線時の作業性を向上させるための機構を、プラスチック光ケーブルの外周部に組み込むことができる。
また、光ケーブルの形状は使用形態によって、光ファイバ心線を同心円上にまとめた集合型のものや、一列に並べたテープ型のもの、さらにそれらを押え巻やラップシースなどでまとめたものなど用途に応じてその形態が選ばれる。
本発明のプリフォームから得られた光ケーブルは、従来の光ケーブルに比べて、軸ずれに対する許容度が高いために、突き合せにより接合しても用いることができるが、より好ましくは、光ケーブルの端部に接続用光コネクタを備えて、互いの接続部を確実に固定することが好ましい。コネクタとしては一般に知られている、PN型、SMA型、SMI型などの市販の各種コネクタを利用することが可能である。
本発明のプリフォームから得られた光ケーブルは、種々の発光素子や受光素子、光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置等が組み合わされて好適に用いられる。この際には、必要に応じて他の光ファイバ等と組合わせてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線、車両や船舶などの内部配線、光端末とデジタル機器、デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LAN等をはじめとする、高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON.,VOL.E84−C,No.3,MARCH 2001,p.339−344 「High−Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3,No.6,2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開2003−152284号公報に記載の導波路面に対する発光素子の配置;特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号等の各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号等の各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号等の公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号等の各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号等に記載の光信号処理装置;特開2001−86537号等に記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号等に記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号等の各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用した、より高度な光伝送システムを構築することができる。以上の光伝送用途以外にも照明(導光)、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、実施例6は、実施例1に対する比較実験として行ったものである。