上記目的を達成するために、この発明の一の局面による窒化物系半導体発光ダイオード素子は、p型の窒化物系半導体層に接触するように形成され、1.0nm以下の厚みを有するAlおよびAlSi合金のいずれか一方からなる第1金属層と、第1金属層上に形成されたAgからなる第2金属層とを含むオーミック電極を備えている。
この一の局面による窒化物系半導体発光ダイオード素子では、上記のように、AlおよびAlSi合金のいずれか一方からなる第1金属層の厚みを、1.0nm以下に設定することによって、p型の窒化物系半導体層と第1金属層との接触をオーミック接触に近づけることができる。これにより、AlまたはAlSi合金からなる第1金属層を含むオーミック電極において、第1金属層をp型の窒化物系半導体層に接触するように形成したとしても、p型の窒化物系半導体層に対するオーミック電極として十分に機能させることができる。この場合、第1金属層の構成材料であるAlまたはAlSi合金は、p型の窒化物系半導体層との付着力が強いので、p型の窒化物系半導体層からオーミック電極の一部が剥離するのを抑制することができる。これにより、p型の窒化物系半導体層とオーミック電極との接触面積が小さくなるのを抑制することができるので、接触抵抗の増加に起因するオーミック性の劣化を抑制することができる。また、p型の窒化物系半導体層に接触するように形成されるAlまたはAlSi合金からなる第1金属層を含むオーミック電極を用いる場合、組立工程時に加熱されたとしても、オーミック性が劣化することがない。また、第1金属層の構成材料であるAlやAlSi合金は、400nm領域の光に対する反射率が高いので、オーミック電極での光吸収の増大を抑制することができる。また、第1金属層上に形成される第2金属層の構成材料であるAgは、400nm領域の光に対して非常に高い反射率を有するので、光が第1金属層を通過して第2金属層に入射したとしても、オーミック電極での光吸収の増大を抑制することができる。このように、一の局面による窒化物系半導体発光ダイオード素子では、オーミック性の劣化や光吸収の増大を抑制することができるので、光出力特性を向上させることができる。
上記一の局面による窒化物系半導体発光ダイオード素子において、好ましくは、オーミック電極は、反射電極として機能するとともに、オーミック電極で反射された光は、オーミック電極とは反対側から出射される。このように構成すれば、オーミック電極で光を反射させるとともに、その反射された光をオーミック電極とは反対側から出射させる窒化物系半導体発光ダイオード素子において、容易に、オーミック性の劣化や光吸収の増大を抑制することができる。
この場合、好ましくは、基板と、基板上に形成されたn型の窒化物系半導体層と、n型の窒化物系半導体層上に形成された発光層とをさらに備え、p型の窒化物系半導体層は、発光層上に形成され、オーミック電極により反射された光は、基板側から出射される。このように構成すれば、基板上にn型の窒化物系半導体層、発光層、p型の窒化物系半導体層およびオーミック電極が順次形成されるとともに、発光層で生成された光を基板側から出射させる窒化物系半導体発光ダイオード素子において、容易に、オーミック性の劣化や光吸収の増大を抑制することができる。
上記一の局面による窒化物系半導体発光ダイオード素子において、好ましくは、第2金属層は、100nm以上の厚みを有する。このように構成すれば、400nm領域の光に対する第2金属層の反射率を高くすることができるので、光吸収が増大するのをより抑制することができる。
上記一の局面による窒化物系半導体発光ダイオード素子において、好ましくは、オーミック電極は、第2金属層上に形成され、TiAg合金およびTiのいずれか一方からなる第3金属層をさらに含む。このように構成すれば、TiAg合金またはTiからなる第3金属層により、たとえば、フォトリソグラフィ工程において、Agからなる第2金属層がアルカリ性の現像液と反応して表面の状態が劣化するのを抑制することができる。これにより、TiAg合金またはTiからなる第3金属層により、オーミック電極の耐薬品性を向上させることができる。この場合、第3金属層の構成材料としてTiAg合金を用いれば、TiAg合金は、第2金属層の構成材料であるAgを含むので、第2金属層との付着力を向上させながら、第2金属層との反応を抑制することができる。
この場合、好ましくは、オーミック電極上に形成されたパッド電極をさらに備え、パッド電極は、オーミック電極を構成する第3金属層に接触するように形成されたTiからなる第4金属層を含む。このように構成すれば、第4金属層が第3金属層と同じTiを含むので、オーミック電極に対するパッド電極の付着力を向上させることができる。このため、TiAg合金またはTiからなる第3金属層を含むようにオーミック電極を構成したとしても、オーミック電極からパッド電極が剥離するのを抑制することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子の構造を示した断面図である。図1を参照して、まず、第1実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子の構造について説明する。なお、第1実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子は、400nm領域の光を出射する。
第1実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子では、図1に示すように、サファイア基板1上に、約2.5μmの厚みを有するn型GaN層2が形成されている。n型GaN層2上には、約100nmの厚みを有するMQW構造の活性層3が形成されている。この活性層3は、InGaNからなる複数の井戸層(図示せず)とGaNからなる複数の障壁層(図示せず)とが交互に積層されたMQW構造を有する。活性層3上には、約300nmの厚みを有するp型GaN層4が形成されている。なお、サファイア基板1は、本発明の「基板」の一例である。また、n型GaN層2、活性層3およびp型GaN層4は、それぞれ、本発明の「n型の窒化物系半導体層」、「発光層」および「p型の窒化物系半導体層」の一例である。
また、p型GaN層4の上面からn型GaN層2の途中の深さまでの所定領域が除去されることにより、n型GaN層2の表面の一部が露出されている。そして、p型GaN層4およびn型GaN層2の上面と、p型GaN層4およびn型GaN層2の間に位置するp型GaN層4、活性層3およびn型GaN層2の側面とを覆うように、約300nmの厚みを有するSiO2膜からなる絶縁膜5が形成されている。この絶縁膜5は、p型GaN層4上の所定領域に位置する開口部5aと、n型GaN層2の露出した表面上の所定領域に位置する開口部5bとを有する。
ここで、第1実施形態では、開口部5a内に露出されたp型GaN層4上に、p型GaN層4側から順に、約1.0nmの厚みを有するAl膜6a、約100nmの厚みを有するAg膜6bおよび約10nmの厚みを有するTiAg合金膜6cが形成されている。なお、Al膜6aは、400nm領域の光に対して約90%の反射率を有するとともに、p型GaN層4上に島状(図示せず)に形成されている。また、Ag膜6bは、400nm領域の光に対して約92%の反射率を有する。また、TiAg合金膜6cのTiに対するAgの含有率は、約10%である。そして、Al膜6a、Ag膜6bおよびTiAg合金膜6cによって、反射電極としての機能を有するp側オーミック電極6が構成されている。なお、p側オーミック電極6は、本発明の「オーミック電極」の一例である。また、Al膜6a、Ag膜6bおよびTiAg合金膜6cは、それぞれ、本発明の「第1金属層」、「第2金属層」および「第3金属層」の一例である。
また、第1実施形態では、p側オーミック電極6上の所定領域に、p側オーミック電極6側から順に、約30nmの厚みを有するTi膜7a、約100nmの厚みを有するPt膜7bおよび約300nmの厚みを有するAu膜7cが形成されている。これらのTi膜7a、Pt膜7bおよびAu膜7cによって、p側パッド電極7が構成されている。なお、p側パッド電極7は、本発明の「パッド電極」の一例である。また、Ti膜7aは、本発明の「第4金属層」の一例である。
また、n型GaN層2の露出した表面上の開口部5bに対応する領域には、n型GaN層2側から順に、約10nmの厚みを有するAl膜8a、約50nmの厚みを有するPt膜8bおよび約300nmの厚みを有するAu膜8cが形成されている。そして、Al膜8a、Pt膜8bおよびAu膜8cによって、n側オーミック電極8が構成されている。
そして、図1に示した第1実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子では、活性層3で生成された光は、サファイア基板1側から矢印A方向に出射される。なお、矢印A方向とは反対方向に進む光は、p側オーミック電極6のAl膜6aおよびAg膜6bにより反射された後、サファイア基板1側から矢印A方向に出射される。
図2は、p側オーミック電極を構成するAl膜の厚みを3段階(約0.3nm以下、約1.0nmおよび約1.5nm)に変化させた場合の電流−電圧特性を示した図である。次に、図2を参照して、第1実施形態の窒化物系半導体発光ダイオード素子のp側オーミック電極の構成において、Al膜の厚みを変化させて電流−電圧特性を測定した結果について説明する。なお、図2の電流−電圧特性は、半導体特性測定器の1つであるカーブトレーサを用いて測定した。
図2に示すように、Al膜の厚みが約0.3nm以下であれば、電流−電圧特性が実質的に線形(直線的)になることが判明した。その一方、Al膜の厚みが約1.0nmおよび約1.5nmの場合には、電流−電圧特性が非線形となることが判明した。ただし、Al膜の厚みが約1.0nmの場合の電流−電圧特性は、線形の電流−電圧特性に近い特性を有する。このため、p型GaN層に接触するように形成されるAl膜を含むp側オーミック電極において、Al膜の厚みを約1.0nm以下に設定すれば、p型GaN層に対するオーミック電極として十分に機能させることができると考えられる。
ここで、第1実施形態では、図1に示したように、p側オーミック電極6を構成するAl膜6aの厚みが約1.0nmであるので、p側オーミック電極6を、p型GaN層4に対するオーミック電極として十分に機能させることができると考えられる。
図3は、p側オーミック電極を構成するAg膜の厚みを6段階(約10nm、約20nm、約50nm、約100nm、約200nmおよび約400nm)に変化させた場合の400nm領域の光に対するAg膜の反射率を示したグラフである。次に、図3を参照して、Ag膜の厚みを変化させて400nm領域の光に対するAg膜の反射率を測定した結果について説明する。
図3に示すように、Ag膜の厚みが約100nm以上であれば、約92%以上の高い反射率を得ることができることが判明した。具体的には、Ag膜の厚みが約100nm、約200nmおよび約400nmの場合の反射率は、それぞれ、約92%、約97%および約97%であった。その一方、Ag膜の厚みが約10nm、約20および約50nmの場合の反射率は、それぞれ、約68%、約82%および約85%であった。この結果から、Ag膜を含むp側オーミック電極において、Ag膜の厚みを約100nm以上に設定すれば、Ag膜の約92%以上の高い反射率によりp側オーミック電極での光吸収の増大を抑制することができると考えられる。
ここで、第1実施形態では、図1に示したように、p側オーミック電極6を構成するAg膜6bの厚みが約100nmであるので、p側オーミック電極6での光吸収の増大を抑制することができると考えられる。
第1実施形態では、上記のように、p側オーミック電極6を構成するAl膜6aの厚みを、約1.0nmに設定することによって、p型GaN層4とAl膜6aとの接触をオーミック接触に近づけることができる。これにより、Al膜6aを含むp側オーミック電極6において、Al膜6aをp型GaN層4に接触するように形成したとしても、p型GaN層4に対するオーミック電極として十分に機能させることができる。この場合、p側オーミック電極6を構成するAl膜6aは、p型GaN層4との付着力が強いので、p型GaN層4からp側オーミック電極6の一部が剥離するのを抑制することができる。これにより、p型GaN層4とp側オーミック電極6との接触面積が小さくなるのを抑制することができるので、接触抵抗の増加に起因するオーミック性の劣化を抑制することができる。また、p型GaN層4に接触するように形成されるAl膜6aを含むp側オーミック電極6を用いる場合、組立工程時に加熱されたとしても、オーミック性が劣化することがない。また、p側オーミック電極6を構成するAl膜6aは、400nm領域の光に対する反射率(約90%)が高いので、p側オーミック電極6での光吸収の増大を抑制することができる。また、Al膜6a上に形成されるAg膜6bの厚みを約100nmに設定することによって、400nm領域の光に対するAg膜6bの反射率が約92%と高くなるので、光がAl膜6aを通過してAg膜6bに入射したとしても、p側オーミック電極6での光吸収の増大を抑制することができる。このように、第1実施形態では、オーミック性の劣化や光吸収の増大を抑制することができるので、光出力特性を向上させることができる。
また、第1実施形態では、p側オーミック電極6を構成するAg膜6b上に、Ag膜6bとともにp側オーミック電極6を構成するTiAg合金膜6cを形成することによって、TiAg合金膜6cにより、たとえば、フォトリソグラフィ工程において、Ag膜6bがアルカリ性の現像液と反応して表面の状態が劣化するのを抑制することができる。これにより、TiAg合金膜6cにより、p側オーミック電極6の耐薬品性を向上させることができる。この場合、TiAg合金膜6cは、Ag膜6bの構成材料であるAgを含むので、Ag膜6bとの付着力を向上させながら、Ag膜6bとの反応を抑制することができる。また、TiAg合金膜6cに接触するように形成されるTi膜7aを含むp側パッド電極7を設けることによって、Ti膜7aがTiAg合金膜6cと同じTiを含むので、p側オーミック電極6に対するp側パッド電極7の付着力を向上させることができる。このため、TiAg合金膜6cを含むようにp側オーミック電極6を構成したとしても、p側オーミック電極6からp側パッド電極7が剥離するのを抑制することができる。
図4〜図17は、図1に示した第1実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子の製造プロセスを説明するための断面図である。次に、図1および図4〜図17を参照して、第1実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子の製造プロセスについて説明する。
まず、図4に示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて、サファイア基板1上に、約2.5μmの厚みを有するn型GaN層2、約100nmの厚みを有するMQW構造の活性層3および約300nmの厚みを有するp型GaN層4を順次成長させる。なお、活性層3を成長させる際には、InGaNからなる複数の井戸層(図示せず)とGaNからなる複数の障壁層(図示せず)とを交互成長させる。この後、p型GaN層4上の所定領域に、レジスト11を形成する。
次に、図5に示すように、CF4ガスによるRIE(Reactive Ion Etching)法を用いて、レジスト11をマスクとして、p型GaN層4の上面からn型GaN層2の途中の深さまでの所定領域を除去することにより、n型GaN層2の表面の一部を露出させる。この後、レジスト11を除去する。
次に、図6に示すように、プラズマCVD法を用いて、全面を覆うように、約300nmの厚みを有するSiO2膜からなる絶縁膜5を形成した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて、p型GaN層4上に位置する絶縁膜5の所定領域に、開口部5aを形成する。
次に、図7に示すように、全面を覆うように、ポジ型レジスト12を形成する。この後、ポジ型レジスト12上に、ネガ型レジスト13を形成する。
次に、図8に示すように、p側オーミック電極6(図1参照)に対応する電極パターンを有するフォトマスク(図示せず)を用いて露光することにより、ネガ型レジスト13に電極パターンを転写した後、現像する。これにより、ネガ型レジスト13に、p側オーミック電極6の電極パターンに対応する開口部13aが形成される。
次に、図9に示すように、全面露光することにより、ポジ型レジスト12にネガ型レジスト13の電極パターンを転写した後、現像する。これにより、ポジ型レジスト12に、p側オーミック電極6(図1参照)の電極パターンに対応する開口部12aが形成される。この際、ポジ型レジスト12の開口部12aは、所定の角度傾斜した内側面を有するように形成される。このため、ネガ型レジスト13の開口部13aの端部13bは、ポジ型レジスト12の開口部12aの上端部から突出するオーバーハング部となる。
次に、図10に示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、ネガ型レジスト13の上面およびp型GaN層4の開口部5aに対応する領域上に、p型GaN層4側から順に、約1.0nmの厚みを有するAl膜6a、約100nmの厚みを有するAg膜6bおよび約10nmの厚みを有するTiAg合金膜6cを堆積する。なお、Al膜6aは、約1.0nmの小さい厚みであるため、島状(図示せず)に形成される。この際、ネガ型レジスト13の開口部13aの端部13bがポジ型レジスト12の開口部12aの上端部から突出するオーバーハング部となっているので、開口部12aの内側面上には、Al膜6a、Ag膜6bおよびTiAg合金膜6cが堆積されない。この後、レジスト剥離液を用いて、ポジ型レジスト12およびネガ型レジスト13を除去する。この際、ネガ型レジスト13の上面上に堆積されたAl膜6a、Ag膜6bおよびTiAg合金膜6cも除去される。これにより、図11に示すように、p型GaN層4上の開口部5aに対応する領域にのみ、p型GaN層4側から順に、Al膜6a、Ag膜6bおよびTiAg合金膜6cからなるp側オーミック電極6が形成される。
次に、図12に示すように、図7〜図9に示したプロセスと同様のプロセスを用いて、全面を覆うように、p側パッド電極7(図1参照)の電極パターンに対応する開口部14aおよび15aをそれぞれ有するポジ型レジスト14およびネガ型レジスト15を形成する。この際、ポジ型レジスト14の開口部14aは、所定の角度傾斜した内側面を有するように形成されるとともに、ネガ型レジスト15の開口部15aの端部15bは、ポジ型レジスト14の開口部14aの上端部から突出するオーバーハング部となる。
次に、図13に示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、ネガ型レジスト15の上面およびp側オーミック電極6の所定領域上に、p側オーミック電極6側から順に、約30nmの厚みを有するTi膜7a、約100nmの厚みを有するPt膜7bおよび約300nmの厚みを有するAu膜7cを堆積する。この後、レジスト剥離液を用いて、ポジ型レジスト14およびネガ型レジスト15を除去する。この際、ネガ型レジスト15の上面上に堆積されたTi膜7a、Pt膜7bおよびAu膜7cも除去される。これにより、図14に示すように、p側オーミック電極6上の所定領域にのみ、Ti膜7a、Pt膜7bおよびAu膜7cからなるp側パッド電極7が形成される。
次に、図15に示すように、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて、n型GaN層2の露出した表面上に位置する絶縁膜5の所定領域に、開口部5bを形成する。
次に、図16に示すように、図7〜図9に示したプロセスと同様のプロセスを用いて、全面を覆うように、n側オーミック電極8(図1参照)の電極パターンに対応する開口部16aおよび17aをそれぞれ有するポジ型レジスト16およびネガ型レジスト17を形成する。この際、ポジ型レジスト16の開口部16aは、所定の角度傾斜した内側面を有するように形成されるとともに、ネガ型レジスト17の開口部17aの端部17bは、ポジ型レジスト16の開口部16aの上端部から突出するオーバーハング部となる。
次に、図17に示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、ネガ型レジスト17の上面およびn型GaN層2の露出した表面の開口部5bに対応する領域上に、n型GaN層2側から順に、約10nmの厚みを有するAl膜8a、約50nmの厚みを有するPt膜8bおよび約300nmの厚みを有するAu膜8cを堆積する。この後、レジスト剥離液を用いて、ポジ型レジスト16およびネガ型レジスト17を除去する。この際、ネガ型レジスト17の上面上に堆積されたAl膜8a、Pt膜8bおよびAu膜8cも除去される。これにより、図1に示したように、n型GaN層2の露出した表面上の開口部5bに対応する領域にのみ、Al膜8a、Pt膜8bおよびAu膜8cからなるn側オーミック電極8が形成される。このようにして、第1実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子が形成される。
次に、上記の製造プロセスに沿って実際に作製した第1実施形態の窒化物系半導体発光ダイオード素子について、約20mAの電流を流した場合の光出力を測定した結果について説明する。なお、比較例として、図28に示した従来の窒化物系半導体発光ダイオード素子についても光出力を測定した。その結果、第1実施形態の窒化物系半導体発光ダイオード素子では、約5.5mWの光出力が得られたのに対して、従来の窒化物系半導体発光ダイオード素子では、約3.1mWの光出力しか得られなかった。すなわち、第1実施形態の窒化物系半導体発光ダイオード素子では、従来の窒化物系半導体発光ダイオード素子の光出力に対して、約1.8倍の光出力が得られた。この結果から、約1.0nmの厚みを有するとともに、p型GaN層4に接触するように形成されるAl膜6aを含むp側オーミック電極6を用いることによって、光出力特性を向上させることができることが確認できた。
(第2実施形態)
図18は、本発明の第2実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子の構造を示した断面図である。図18を参照して、この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、p型GaN層側から順に、AlSi合金膜、Ag膜およびTi膜によって構成されるp側オーミック電極を用いる場合について説明する。なお、第2実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子は、上記第1実施形態と同様、400nm領域の光を出射する。
この第2実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子では、図18に示すように、n型GaN基板21上に、約2.5μmの厚みを有するn型GaN層22が形成されている。n型GaN層22上には、約100nmの厚みを有するMQW構造の活性層23が形成されている。この活性層23は、上記第1実施形態の活性層3と同様、InGaNからなる複数の井戸層(図示せず)とGaNからなる複数の障壁層(図示せず)とが交互に積層されたMQW構造を有する。活性層23上には、約300nmの厚みを有するp型GaN層24が形成されている。なお、n型GaN基板21は、本発明の「基板」の一例である。また、n型GaN層22、活性層23およびp型GaN層24は、それぞれ、本発明の「n型の窒化物系半導体層」、「発光層」および「p型の窒化物系半導体層」の一例である。p型GaN層24上には、約300nmの厚みを有するSiO2膜からなるとともに、所定領域に開口部25aを有する絶縁膜25が形成されている。
ここで、第2実施形態では、開口部25a内に露出されたp型GaN層24上に、p型GaN層24側から順に、約0.3nmの厚みを有するAlSi合金膜26a、約300nmの厚みを有するAg膜26bおよび約30nmの厚みを有するTi膜26cが形成されている。なお、AlSi合金膜26aは、p型GaN層24上に島状(図示せず)に形成されているとともに、AlSi合金膜26aのAlに対するSiの含有率は、約1%である。そして、AlSi合金膜26a、Ag膜26bおよびTi膜26cによって、反射電極としての機能を有するp側オーミック電極26が構成されている。なお、p側オーミック電極26は、本発明の「オーミック電極」の一例である。また、AlSi合金膜26a、Ag膜26bおよびTi膜26cは、それぞれ、本発明の「第1金属層」、「第2金属層」および「第3金属層」の一例である。
また、第2実施形態では、p側オーミック電極26上の所定領域に、p側オーミック電極26側から順に、約30nmの厚みを有するTi膜27a、約100nmの厚みを有するPt膜27bおよび約300nmの厚みを有するAu膜27cが形成されている。これらのTi膜27a、Pt膜27bおよびAu膜27cによって、p側パッド電極27が構成されている。なお、p側パッド電極27は、本発明の「パッド電極」の一例である。また、Ti膜27aは、本発明の「第4金属層」の一例である。
また、n型GaN基板21の裏面上の所定領域には、n型GaN基板21の裏面側から順に、約10nmの厚みを有するAl膜28a、約50nmの厚みを有するPt膜28bおよび約300nmの厚みを有するAu膜28cが形成されている。そして、Al膜28a、Pt膜28bおよびAu膜28cによって、n側オーミック電極28が構成されている。このn側オーミック電極28は、光の出射の妨げにならないように、n型GaN基板21の裏面上の端部近傍に形成されている。
そして、図18に示した第2実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子では、活性層23で生成された光は、n型GaN基板21側から矢印A方向に出射される。なお、矢印A方向とは反対方向に進む光は、オーミック電極26のAlSi合金膜26aおよびAg膜26bにより反射された後、n型GaN基板21側から矢印A方向に出射される。
第2実施形態では、上記のように、p側オーミック電極26を構成するAlSi合金膜26aの厚みを、約0.3nmに設定することによって、図2に示したように、電流−電圧特性が実質的に線形となるので、p型GaN層24とAlSi合金膜26aとの接触をオーミック接触に近づけることができる。これにより、AlSi合金膜26aを含むp側オーミック電極26において、AlSi合金膜26aをp型GaN層24に接触するように形成したとしても、p型GaN層24に対するオーミック電極として十分に機能させることができる。この場合、p側オーミック電極26を構成するAlSi合金膜26aは、上記第1実施形態のAl膜6aと同様、p型GaN層24との付着力が強いので、p型GaN層24からp側オーミック電極26の一部が剥離するのを抑制することができる。これにより、上記第1実施形態と同様、p型GaN層24とp側オーミック電極26との接触面積が小さくなるのを抑制することができるので、接触抵抗の増加に起因するオーミック性の劣化を抑制することができる。また、p型GaN層24に接触するように形成されるAlSi合金膜26aを含むp側オーミック電極26を用いる場合、上記第1実施形態のp側オーミック電極6と同様、組立工程時に加熱されたとしても、オーミック性が劣化することがない。また、p側オーミック電極26を構成するAlSi合金膜26aおよびAg膜26bは、400nm領域の光に対する反射率が高いので、p側オーミック電極26での光吸収の増大を抑制することができる。特に、第2実施形態では、Ag膜26bの厚みを約300nmに設定することによって、図3に示したように、400nm領域の光に対するAg膜26aの反射率が約97%と非常に高くなるので、p側オーミック電極26での光吸収の増大をより抑制することができる。
また、第2実施形態では、p側オーミック電極26を構成するAg膜26b上に、Ag膜26bとともにp側オーミック電極26を構成するTi膜26cを形成することによって、上記第1実施形態と同様、Ti膜26cにより、p側オーミック電極26の耐薬品性を向上させることができる。また、Ti膜26cに接触するように形成されるTi膜27aを含むp側パッド電極27を設けることによって、Ti膜27aとTi膜26cとが同じTiで構成されているので、p側オーミック電極26に対するp側パッド電極27の付着力を向上させることができる。このため、Ti膜26cを含むようにp側オーミック電極26を構成したとしても、上記第1実施形態と同様、p側オーミック電極26からp側パッド電極27が剥離するのを抑制することができる。
図19〜図27は、図18に示した第2実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子の製造プロセスを説明するための断面図である。次に、図18〜図27を参照して、第2実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子の製造プロセスについて説明する。
まず、図19に示すように、MOCVD法を用いて、n型GaN基板21上に、約2.5μmの厚みを有するn型GaN層22、約100nmの厚みを有するMQW構造の活性層23および約300nmの厚みを有するp型GaN層24を順次成長させる。なお、活性層23を成長させる際には、InGaNからなる複数の井戸層(図示せず)とGaNからなる複数の障壁層(図示せず)とを交互成長させる。
次に、プラズマCVD法を用いて、p型GaN層24上に、約300nmの厚みを有するSiO2膜からなる絶縁膜25を形成した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて、絶縁膜25の所定領域に、開口部25aを形成する。
次に、図20に示すように、図7〜図9に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、全面を覆うように、p側オーミック電極26(図18参照)の電極パターンに対応する開口部31aおよび32aをそれぞれ有するポジ型レジスト31およびネガ型レジスト32を形成する。この際、ポジ型レジスト31の開口部31aは、所定の角度傾斜した内側面を有するように形成されるとともに、ネガ型レジスト32の開口部32aの端部32bは、ポジ型レジスト32の開口部32aの上端部から突出するオーバーハング部となる。
次に、図21に示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、ネガ型レジスト32の上面およびp型GaN層24の開口部25aに対応する領域上に、p型GaN層24側から順に、約0.3nmの厚みを有するAlSi合金膜26a、約300nmの厚みを有するAg膜26bおよび約30nmの厚みを有するTi膜26cを堆積する。なお、AlSi合金膜26aは、約0.3nmの小さい厚みであるため、島状(図示せず)に形成される。この後、レジスト剥離液を用いて、ポジ型レジスト31およびネガ型レジスト32を除去する。この際、ネガ型レジスト32の上面上に堆積されたAlSi合金膜26a、Ag膜26bおよびTi膜26cも除去される。これにより、図22に示すように、p型GaN層24上の開口部25aに対応する領域にのみ、p型GaN層24側から順に、AlSi合金膜26a、Ag膜26bおよびTi膜26cからなるp側オーミック電極26が形成される。
次に、図23に示すように、図7〜図9に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、全面を覆うように、p側パッド電極27(図18参照)の電極パターンに対応する開口部33aおよび34aをそれぞれ有するポジ型レジスト33およびネガ型レジスト34を形成する。この際、ポジ型レジスト33の開口部33aは、所定の角度傾斜した内側面を有するように形成されるとともに、ネガ型レジスト34の開口部34aの端部34bは、ポジ型レジスト33の開口部33aの上端部から突出するオーバーハング部となる。
次に、図24に示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、ネガ型レジスト34の上面およびp側オーミック電極26の所定領域上に、p側オーミック電極26側から順に、約30nmの厚みを有するTi膜27a、約100nmの厚みを有するPt膜27bおよび約300nmの厚みを有するAu膜27cを堆積する。この後、レジスト剥離液を用いて、ポジ型レジスト33およびネガ型レジスト34を除去する。この際、ネガ型レジスト34の上面上に堆積されたTi膜27a、Pt膜27bおよびAu膜27cも除去される。これにより、図25に示すように、p側オーミック電極26上の所定領域にのみ、Ti膜27a、Pt膜27bおよびAu膜27cからなるp側パッド電極27が形成される。
次に、図26に示すように、図7〜図9に示した第1実施形態と同様のプロセスを用いて、n型GaN基板21の裏面上に、n側オーミック電極28(図18参照)の電極パターンに対応する開口部35aおよび36aをそれぞれ有するポジ型レジスト35およびネガ型レジスト36を形成する。この際、ポジ型レジスト35の開口部35aは、所定の角度傾斜した内側面を有するように形成されるとともに、ネガ型レジスト36の開口部36aの端部36bは、ポジ型レジスト35の開口部35aの上端部から突出するオーバーハング部となる。
次に、図27に示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、ネガ型レジスト36の上面およびn型GaN基板21の裏面の所定領域上に、n型GaN基板21の裏面側から順に、約10nmの厚みを有するAl膜28a、約50nmの厚みを有するPt膜28bおよび約300nmの厚みを有するAu膜28cを堆積する。この後、レジスト剥離液を用いて、ポジ型レジスト35およびネガ型レジスト36を除去する。この際、ネガ型レジスト36の上面上に堆積されたAl膜28a、Pt膜28bおよびAu膜28cも除去される。これにより、図18に示したように、n型GaN基板21の裏面上の所定領域にのみ、Al膜28a、Pt膜28bおよびAu膜28cからなるn側オーミック電極28が形成される。このようにして、第2実施形態による窒化物系半導体発光ダイオード素子が形成される。
次に、上記の製造プロセスに沿って実際に作製した第2実施形態の窒化物系半導体発光ダイオード素子について、上記第1実施形態と同様の光出力測定を行った結果、上記第1実施形態と同様、約5.5mWの光出力を得られた。この結果から、約0.3nmの厚みを有するとともに、p型GaN層24に接触するように形成されるAlSi合金膜26aを含むp側オーミック電極26を用いることによって、上記第1実施形態と同様、光出力特性を向上させることができることが確認できた。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1および第2実施形態では、p側オーミック電極を構成するとともに、p型GaN層に接触するように形成されるAl膜6aおよびAlSi合金膜26aの厚みを、それぞれ、約1.0nmおよび約0.3nmに設定したが、本発明はこれに限らず、p側オーミック電極を構成するとともに、p型GaN層に接触するように形成される第1金属層の厚みが1.0nm以下であればよい。ただし、第1金属層の厚みが小さくなり過ぎると、p型GaN層に対する付着力が弱くなるので、第1金属層の厚みは、0.3nm以上1.0nm以下に設定するのが好ましい。
また、上記第1および第2実施形態では、p側オーミック電極を構成するAg膜の厚みをそれぞれ約100nmおよび約300nmに設定したが、本発明はこれに限らず、Ag膜の厚みが約100nm以上であればよい。このような厚みに設定すれば、400nm領域の光に対するAg膜の反射率を約92%以上と高くすることができる。
また、上記第1実施形態では、p側オーミック電極を構成するTiAg合金膜のTiに対するAgの含有率を、約10%に設定したが、本発明はこれに限らず、Tiに対するAgの含有率を、固溶限界(約12%)になるまで高くしてもよい。
また、上記第2実施形態では、p側オーミック電極を構成するAlSi合金膜のAlに対するSiの含有率を、約1%に設定したが、本発明はこれに限らず、Alに対するSiの含有率を、固溶限界(約1.65%)になるまで高くしてもよい。