JP2005235413A - 高分子固体電解質膜の製造方法、高分子固体電解質膜、および燃料電池 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 多孔質膜23上に高分子固体電解質樹脂22を含む液体を均一な大きさの液滴としてインクジェット9で吐出し、これによって微小領域で均一に含侵させるとともに、この吐出を広範囲にわたって行う。高分子固体電解質樹脂22が均一に含侵された高分子固体電解質膜2を得ることができ、これを用いた燃料電池1の性能を安定させることができる。
【選択図】 図3
Description
例えば高分子電解質形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell, PEFC)は、低い温度で動作が可能で起動時間が短く、小型化も可能である。この高分子電解質形燃料電池は、高分子固体電解質膜を空気側電極と燃料側電極とで挟んだ構造の膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)を備え、空気側電極に空気(酸素)を供給し、燃料側電極にメタノールや改質した水素などの燃料を供給することにより、各電極で電気化学的反応が起こり、電力が発生する。
さらに、高分子固体電解質樹脂を含む液体の多孔質膜表面に対する静止接触角が大きい場合、広い面積に塗布を行っても液体が玉状になり、表面上で不均一に点在してしまう。その状態で溶媒が蒸発すると高分子固体電解質樹脂も表面に点在して残存し、結果として含侵状態にむらが発生する。特に、基材の多孔質膜としてフッ素を含むフィルムを用いると、この現象は顕著に発生する。
この発明によれば、液滴吐出装置により高分子固体電解質樹脂を含む液体が、均一な大きさの微小な液滴の状態で吐出されて多孔質膜表面に着液するため、微小領域で高分子固体電解質樹脂の多孔質膜への塗布および含侵が均一に行われる。そして、このような微小領域への均一な含侵を、液滴吐出装置の位置をずらしながら繰り返して広い範囲にわたって行うことにより、多孔質膜の広い領域にわたって高分子固体電解質樹脂の均一な含侵を行うことができる。従って、高分子固体電解質膜の場所による性能のばらつきがなくなり、燃料電池の性能が安定する。
この発明によれば、液滴吐出装置が、圧電素子の振動により高分子固体電解質樹脂を含む液体を吐出するので、微量の吐出が可能となり、微小領域での高分子固体電解質樹脂の含侵がより一層均一となるとともに、高分子固体電解質膜のばらつきが抑制され、燃料電池の性能がより一層安定する。
また、液滴吐出装置が圧電素子の振動で液体流路を圧縮することにより液滴を吐出するので、例えば液体を加熱することによって液滴を吐出させる方式に比べて、高分子固体電解質樹脂を含む液体を加熱する必要がなく、高分子固体電解質樹脂を含む液体の性能劣化が低減され、高分子固体電解質膜の性能が良好に確保される。高分子固体電解質樹脂として、例えばパーフルオロスルホン酸系の物質が含有される場合では、高温に加熱すると安定性やイオン透過性の面で困難性があるので、本発明のように液体流路を圧縮して吐出する方式は特に有用である。
この発明によれば、特に高分子固体電解質樹脂の溶媒の蒸発速度が早い場合、再度、高分子固体電解質樹脂の溶媒を同じ場所に吐出することにより、高分子固体電解質樹脂が溶媒を介して多孔質膜に含侵されるまでの時間を確保することができる。従って、より深さ方向にも均一に含侵を行うことができる。
この発明によれば、高分子固体電解質樹脂の多孔質膜への含侵速度と比較して溶媒の揮発速度が速い場合でも、高分子固体電解質樹脂への溶媒の補充が十分できて、より深さ方向の含侵を均一に行うことができる。
この発明によれば、液滴が吐出されて着液し含侵が行われる面側の雰囲気と比較して、着液面の反対の面側の雰囲気が低圧であるため、圧力差によって高分子固体電解質樹脂を含む液体が着液面から多孔質膜中を反対の面側まで拡散する速度が早まり、より均一な含侵が可能となる。
また、着液面側とその反対の面側の雰囲気の圧力差を適切に調整することにより、厚みの厚い多孔質膜であっても、短時間に効率よく確実に高分子固体電解質樹脂を含侵することができる。
この発明によれば、高分子固体電解質膜が前述の高分子固体電解質膜の製造方法によって製造されているので、前述の効果と同様の効果が得られ、高分子固体電解質樹脂が多孔質膜中に均一に含侵されるため、燃料電池の性能が安定する。
この発明によれば、燃料電池が前述の高分子固体電解質膜を備えて構成されているので、前述の高分子固体電解質膜の製造方法による効果と同様の効果が得られ、高分子固体電解質樹脂が多孔質膜中に均一に含侵されるため、燃料電池の性能が安定する。
図1には本発明の一実施形態にかかる燃料電池1の側断面図が示されている。この図1において、燃料電池1は、直接メタノール型燃料電池(DMFC)であり、燃料電池セル10がケース11に収納されて構成されている。なお、本実施形態では、説明を簡略化するため、図1に示すように単一の燃料電池セル10で構成した燃料電池1を図示するが、もちろん燃料電池1を、この燃料電池セル10を複数枚積層したスタック構造としてもよい。
図3には、高分子固体電解質膜2の概略断面図が示されている。高分子固体電解質膜2は、プロトン伝導性高分子で構成される高分子固体電解質樹脂22が、多孔質膜23である延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(Poly Tetra Fluoro Ethylene, PTFE)フィルムの多孔空隙部24に含侵されることにより構成される。高分子固体電解質樹脂22としては、例えばナフィオン膜(デュポン社商標)等のパーフルオロスルホン酸系ポリマー、フッ素系ポリマー、炭化水素系ポリマーなどが採用できる。また場合によってはこの高分子固体電解質樹脂22に、電子導電性の生じない範囲で白金などの触媒やカーボン粉末、各種セラミックス粉末などを加えてもよい。
ここで、高分子固体電解質膜2、アノード電極3、およびカソード電極4は、一体的に形成されて膜電極接合体20が構成されている。高分子固体電解質膜2は、後述する製造方法によって製造する。
燃料拡散層5および空気拡散層6は、メッシュの金属フォーム(例えばスチールウール等)からなる多孔性膜であり、供給される燃料および酸素をそれぞれ拡散してアノード電極3およびカソード電極4に導く。なお、これら燃料拡散層5および空気拡散層6は、それぞれ、アルミニウム、ステンレス鋼等であってもよく、またスポンジチタン等の多孔性金属材料、カーボンペーパ紙にカーボンを担持したものやカーボンクロス等であってもよい。
また、集電体7,8には、それぞれ図示しないリード線が接続されており、外部の負荷に接続されている。
高分子固体電解質膜2は、高分子固体電解質樹脂22を含む液体を液滴吐出装置としてのインクジェット9で多孔質膜23上に吐出し、含侵することによって製造される。図4には、高分子固体電解質膜2の製造方法のフローチャートが示されている。また、図5には、高分子固体電解質樹脂22を含む液体を吐出するインクジェット9の吐出ヘッド90の拡大図が示されている。
また、液体の多孔質膜23の表面に対する濡れ性を向上させるために、液体に界面活性剤を添加することも可能である。濡れ性の向上により、液体の空隙部24への浸透および含侵がより効率的に行われる。
インクジェット9は、図5に示されるような吐出ヘッド90を備え、この吐出ヘッド90は、図示しない移動機構により多孔質膜23に対して三次元に移動可能に設けられている。吐出ヘッド90は、高分子固体電解質樹脂22を含む液体を蓄積するインク室91と、インク室91から高分子固体電解質樹脂22を含む液体を多孔質膜23に吐出する複数のノズル92と、インク室91とノズル92とを連通するとともにその流路が収縮可能な複数(ノズル92と同数)の圧力発生室93と、圧力発生室93を圧縮して流路を収縮させる圧電振動子94とを備えている。
このような吐出ヘッド90では、圧電振動子94に所定の電圧を印加して振動させると、圧電振動子94が圧力発生室93の外壁を押圧して圧力発生室93を収縮させる。これにより、圧力発生室93内の高分子固体電解質樹脂22を含む液体が押し出され、ノズル92から液滴となって吐出される。
なお、吐出工程において、ノズル92の目詰まりを防止したり、乾燥などにより液体の性状が変化するのを防止するために多孔質膜23上以外の部分に液体を吐出する、いわゆる捨て打ちする場合には、吐出された液体を回収して、再び調製工程を行って適切な性状の液体を作成して再利用してもよい。
CH3OH+H2O→CO2+6H++6e− …(1)
プロトンH+は、高分子固体電解質膜2を透過してカソード電極4側に移動することにより、集電体7,8の両端に電圧が生じる。プロトンH+がカソード電極4側に到達すると、外部の付加を通って仕事をした後にカソード電極4に到達した電子e−とがカソード電極4の触媒によって空気室41内の空気中の酸素O2と反応して式(2)の還元反応が生じる。
O2+4H++4e−→2H2O …(2)
アノード電極3側で生成された二酸化炭素CO2は、水または消費されずに残った少量のメタノールを含む水溶液とともに燃料排出口112から排出される。また、カソード電極4側で生成された水は、水蒸気として空気孔113から排出される。
ステップS1では、前述と同様に高分子固体電解質樹脂22を含む液体の調製を行う。それぞれの液体は、別のインク室に蓄積する。ステップS2では、高分子固体電解質樹脂22を含む液体の吐出を行う。次に、ステップS3で、高分子固体電解質樹脂22を含む液体が吐出された位置と同じ位置に、高分子固体電解質樹脂22の溶媒のみを吐出する。高分子固体電解質樹脂22の溶媒を含む液体の吐出は、高分子固体電解質樹脂22が多孔質膜23に完全に含侵する迄、ステップS4からステップS5、ステップS3を繰り返して行うことができる。また、含侵に必要な高分子固体電解質樹脂22を補充するためにステップS5からステップS2まで戻ってステップを繰り返すことも可能である。
含侵後は、ステップS6で溶媒を揮発させるための乾燥を行って高分子電解質膜2を得る。
なお、先に溶媒を吐出させた後に高分子固体電解質樹脂22を含む溶液を吐出する等、フローチャートには示さない組み合わせによる吐出も可能である。また、含侵を促進させるために着液面側の反対の面側の雰囲気を低圧にすることも可能である。さらに、高分子固体電解質樹脂22を含む溶液をインクジェット9で吐出し、溶媒のみをピペットにて人手により吐出させてもよい。
(1)多孔質膜23上に高分子固体電解質樹脂22を含む液体を均一な大きさの液滴としてインクジェット9で吐出し、これによって微小領域で均一に含侵させるとともに、この吐出を広範囲にわたって行うことにより、高分子固体電解質樹脂22が均一に含侵された高分子固体電解質膜2を得ることができ、これを用いた燃料電池1の性能を安定させることができる。
さらに、高分子固体電解質樹脂22の含侵を促進するために高分子固体電解質樹脂22の溶媒を含む液体を追加吐出する場合でも、溶媒の必要量をコントロールでき、無駄がない。
(6)また、高分子固体電解質樹脂22を含む液滴は、
動エネルギを持って多孔質膜23表面に着液するため、多孔質膜23中への含侵が効率よく行われる。
吐出工程で使用される液滴吐出装置は、図5に示されるような構造のものに限らず、例えば図9に示されるような構造であってもよい。図9において、インクジェット(液滴吐出装置)9の吐出ヘッド90は、それぞれ適宜孔が穿設された板状部材を積層することにより液体の流路を形成する構造となっており、図5のインクジェット9と同様にインク室91、ノズル92、圧力発生室93および圧電振動子94を備えている。圧電振動子94は、略矩形板状に形成され、その長手方向が圧力発生室93の外壁に沿ってそれぞれ固定されている。この圧電振動子94の両面には駆動電極941が形成されている。駆動電極941間に電圧を印加すると、圧電振動子94が長手方向に収縮するが、一方の面が圧力発生室93の外壁に固定されているので、収縮が阻害され、その結果圧電振動子94および圧力発生室93の外壁が圧力発生室93に向かって撓み、圧力発生室93を圧縮する。この圧縮により、圧力発生室93内の高分子固体電解質樹脂22を含む液体がノズル92から吐出される。
このような構成の液滴吐出装置においても、圧電振動子94の変位によって高分子固体電解質樹脂22を含む液体を吐出するため、加熱などが不要となり、高分子固体電解質樹脂22を含む液体の性能劣化を確実に防止できる。また、圧電振動子94の変位によって高分子固体電解質樹脂22を含む液体の吐出量を制御しているため、微小吐出が可能となり、高分子固体電解質樹脂22の含侵を均一に行える。
したがって、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
Claims (7)
- 高分子固体電解質樹脂を含む多孔質膜で構成される高分子固体電解質膜の製造方法であって、
前記高分子固体電解質樹脂を溶媒中に分散させて得られる液体を、液滴吐出装置により
前記多孔質膜上に吐出して前記高分子固体電解質膜を形成する工程を備えたことを特徴と
する高分子固体電解質膜の製造方法。 - 請求項1に記載の高分子固体電解質膜の製造方法において、
前記液滴吐出装置は、前記高分子固体電解質樹脂を含む液体を収納する液体収納室と、
この液体収納室に連通し、前記多孔質膜上に前記高分子固体電解質樹脂を含む液体を吐出するノズルと、
前記液体収納室と前記ノズルとの間の液体流路の途中に、圧電素子の振動により前記液体流路を圧縮して前記ノズルから前記高分子固体電解質樹脂を含む液体を吐出する吐出機構とを備えたことを特徴とする高分子固体電解質膜の製造方法。 - 請求項1または請求項2に記載の高分子固体電解質膜の製造方法において、
前記溶媒を前記液滴吐出装置により前記多孔質膜上に吐出する工程を備えたことを特徴とする高分子固体電解質膜の製造方法。 - 請求項3に記載の高分子固体電解質膜の製造方法において、
前記高分子固体電解質樹脂を含む液体の吐出の後に複数回の前記溶媒の吐出を行う工程を複数回繰り返すことを特徴とする高分子固体電解質膜の製造方法。 - 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高分子固体電解質膜の製造方法において、
前記多孔質膜の着液面側の雰囲気よりも反対の面側の雰囲気を低圧にして前記液体を前記着液面側から反対の面側に浸透させることを特徴とする高分子固体電解質膜の製造方法。 - 請求項1から請求項5のいずれかの高分子固体電解質膜の製造方法によって製造されたことを特徴とする高分子固体電解質膜。
- 請求項6に記載の高分子固体電解質膜と、この高分子固体電解質膜の両表面に形成された電極とを備えた膜電極接合体と、
この膜電極接合体の一方の前記電極面に対向して設けられるとともに、前記電極表面に空気を供給する空気拡散層と、
前記膜電極接合体の他方の前記電極面に対向して設けられるとともに、前記電極表面に燃料を供給する燃料拡散層と、
これら前記空気拡散層および前記燃料拡散層の外側にそれぞれ設けられるとともに、前記電極間で発生した電気エネルギを取り出す集電体とを備えたことを特徴とする燃料電池。
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