近年、透過電子顕微鏡の用途や観察の目的が多様化しており、その目的に適用した透過電子顕微鏡の操作が要求される。例えば、半導体デバイスの製造において、歩留まりの向上のため、製作される過程の半導体試料を走査電子顕微鏡によって観察し、欠陥部分の解析を行ってきた。しかしながら、半導体デバイスにおける回路の集積度が高くなり、各回路パターンの微細化が進んでいる。その結果、走査電子顕微鏡の分解能では半導体デバイスの検査を行うことができなくなりつつある。
そのため、走査電子顕微鏡に代わり、より高い分解能で像の観察ができる透過電子顕微鏡を用いた検査が注目されている。透過電子顕微鏡で半導体デバイスの検査を行う場合には、半導体試料を集束イオンビーム装置に導入し、欠陥検査箇所を含む部分に集束イオンビームを照射して削りだし、薄い半導体デバイス試料を作成する。通常半導体デバイス試料は複数作成され、各試料は、試料ホルダーの先端に設けられた円形のメッシュ上に載置される。
メッシュMは図1(a)の立面図に示すように、格子状に設けられているが、メッシュMの上面は、図1(b)の断面図に示すように、薄い炭素の支持膜Cで覆われている。メッシュMは導電性に優れた銅などの金属で形成され、炭素の支持膜Cは試料Sを保持するために設けられている。
薄い炭素の支持膜Cは、導電性を有しており電子ビームが照射されても帯電の恐れがなく、また、電子ビームの透過能にも優れているので、試料S部分を透過した電子ビームが支持膜Cによって吸収される割合は極めて少ない。したがって、支持膜Cが電子ビームの照射により加熱されて変形したり破壊されたりすることはない。
上記した複数の半導体デバイス試料Sは、電子ビームが透過しないメッシュM部分を避け、メッシュによって囲まれた炭素膜だけの領域(カーボングリッド)Gに接着される。このようにして、試料Sをメッシュ上に載置した後、メッシュMは、図示していない試料ホルダーに取り付けられ、試料ホルダーを保持する試料ステージによって透過電子顕微鏡の試料室に装填される。このような前処理が終了した後、透過電子顕微鏡による試料Sの観察が行われる。
各試料Sを観察する場合、まず、透過電子顕微鏡の倍率を低倍率に設定し、低倍像によって、メッシュM全体から個々の試料の位置を特定する。次に、位置を特定した個々の試料の中で、詳細に観察したい部分を観察視野の中心(通常は光軸上)に移動させる。その後倍率を上げ、フォーカスを適切に調節して観察部分の像を得る。一つの試料に関して、第1の観察部分の像の観察、撮影が終了した後は、同一試料内で次に観察したい部分に視野を移動させ、透過電子顕微鏡像の観察、撮影を行う。このような観察動作を繰り返し行い、一つの試料について全ての観察箇所の像の観察、撮影が終了したならば、再び透過電子顕微鏡の倍率を低倍率に戻し、メッシュM全体から、別の試料の位置を探し出して、上記のような観察動作を実行する。
上記した半導体デバイス試料の検査目的で多数の試料像を取得する以外に、別の目的で多数の試料像を取得する必要がある透過電子顕微鏡像の観察方法も存在する。その内の一つとして、タンパク質やウィルスなどの粒子の構造を決定する方法であるシングルパーティクル法を挙げることができる。この方法では、様々な方向を向いた粒子の透過像を多数取得し、コンピュータによってこれらの透過像から、元の粒子の三次元形状を計算する。
この方法の概念図を図2に示す。図2では、上下2つの粒子について三次元形状を推定する様子を示している。上下2つの例において、図2(a)に示すような透過像(粒子の影)Psを多数取得し、これらの像から元の粒子の三次元形状Poを、図2(b)に示すような形で推定する。タンパク質やウィルスなどの粒子の形状を解析する場合、必要とされる透過電子顕微鏡像の分解能は、Åのオーダーとなる。そのためには、透過電子顕微鏡として高分解能のタイプを用いなければならない。
さて、オペレータは、粒子の透過像を撮影するための試料の前処理を行う。この前処理には、図3の一部斜視図に示すようなマイクログリッドと呼ばれる支持膜Gが使用される。この支持膜Gは、炭素やシリコンなどを材料とした薄い膜にレーザビームなどを照射して、規則正しく円形の穴Ghを開けたものである。通常広く使用されている穴Ghの直径は1μm程度で、穴Ghが開けられる周期は2μm程度である。このような支持膜Gに、観察対象の粒子が包埋された氷を張る。この支持膜に氷を張るための温度としては、−270℃程度の極低温が用いられる。
この冷却されたマイクログリッドGは、図4に示すようなメッシュM上に載せられる。図4において、(a)はメッシュ全体の図であり、直径が3mmの円盤状に作成されている。この円盤状のメッシュMの一部を拡大した斜視図が(b)に示されている。通常使用されているメッシュMは、導電性に優れた銅などの金属に規則正しい正方形の穴Mhが開けられて形成されており、穴のあいている周期は数十μm〜数百μmであり、穴Mhの直径は、穴のあいている周期によって異なる。
冷却されたマイクログリッドGが載せられメッシュMは、透過電子顕微鏡の試料室に装填されるが、この試料室は、マイクログリッドGに張られた氷が溶けないように、試料ホルダーの先端部が液体ヘリウム温度に冷却される構造となっている。なお、試料を冷却して氷の状態にし、更に試料を電子ビームの照射による加熱作用によっても溶けないように、試料室の構造を試料ホルダーの先端部が常に冷却されるようにする理由は、観察対象の粒子が熱により変形してしまい、元の状態を維持できなくなることを防止するためである。
マイクログリッドGが載せられたメッシュMが試料室に装填された後、オペレータは、まず低倍率で試料像を観察し、全体的によい厚みの氷が張っているマイクログリッドの穴Ghが多いグリッドスクエアGs(=図4に示すメッシュMの四角い穴Mh)を探す。このとき、氷の厚さの良し悪しは、透過電子顕微鏡像中のグリッドスクエア部分Gs(=Mh)の像の明るさで判断する。
適切な明るさのグリッドスクエアGsが見いだされると、個々のマイクログリッドの穴Ghが識別できる程度の倍率に透過電子顕微鏡の光学系を設定し、個々のマイクログリッドGの穴に張っている氷の厚みをその穴の部分の輝度から判断し、透過電子顕微鏡の倍率を撮影に適した高めの倍率にして、非点やフォーカスを調整した上で、良い厚さの氷のある穴を撮影する。後の解析のために、このとき同じ箇所を複数のデフォーカス値で撮影する。この撮影が終了すると、オペレータは、良い厚さの氷のある他の穴について、上記したと同じ手順により像の撮影を繰り返し、この操作を全体的によい厚さの氷があるグリッドスクエアGs全てに対して繰り返す。
上記した手順で撮影した多数の像には、1枚の像につきいくつかの観察対象の粒子を含む。これらの像信号は、デジタイズされ、コンピュータに像データが転送されて、それぞれの像から一つ一つの粒子を抜き出して解析を行う。なお、図5(a)にメッシュMの全体を、図5(b)にはメッシュMの拡大図を、図5(c)にマイクログリッドGを示している。マイクログリッドGの穴Gh1は氷がない状態、Gh2は最適な厚さの氷、Gh3は薄すぎる氷、Gh4は厚すぎる氷が張られている。
上記した半導体デバイス試料の観察操作や、シングルパーティクル法のために多数の透過電子顕微鏡像を取得する操作は、主としてオペレータが手動で行っており、煩わしい作業であるため、操作を自動化することが望まれている。自動的に目的観察位置の透過電子顕微鏡像を取得するようにした例として、特許文献1、特許文献2を参照することができる。
特開2002−25491号公報
特開2000−100366号公報
上記背景技術の項で説明したように、半導体デバイス試料の検査や、シングルパーティクル法のために多数の透過電子顕微鏡像を取得する操作は、主としてオペレータが手動で行っており、煩わしい作業であるため、操作を自動化することが望まれている。自動的に目的観察位置の透過電子顕微鏡像を取得するようにした公知例として、特許文献1、特許文献2を挙げたが、いずれの特許文献に記載の方式も、基本的には、試料の広い観察領域全てについて高倍観察が必要であり、操作が一部自動化されているにしても、目的とする高倍の像取得に至るまで長時間を要することになる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、広い観察領域の中で目的とする観察領域を短時間に自動的に見いだし、所望の透過電子顕微鏡像を取得することができる透過電子顕微鏡システムを実現する。
請求項1の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、透過型電子顕微鏡の像倍率を所定の比較的低い倍率である第1の倍率に設定し、この倍率で観察対象の試料が部分的に載せられたメッシュを移動させて各視野の像を取得し、取得した多数の画像データをつなぎ合わせて、観察領域であるメッシュ全域の画像を表示させ、観察領域全域の像からより高い第2の倍率で観察すべき観察箇所を任意に指定できるように構成し、メッシュの移動や電子ビームの偏向により、指定された各観察箇所を自動的に順々に透過電子顕微鏡像の視野にして撮像し、第2の高い倍率で指定された観察箇所の像をディスプレイ上に表示し、あるいは、各試料箇所の画像データを記憶するように構成したことを特徴としている。
請求項2の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1の発明において、試料を、メッシュの上に設けられたカーボングリッドの上に載せられ、メッシュを移動ステージ上に取り付けたことを特徴としている。
請求項3の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1の発明において、試料は、メッシュの上に設けられたマイクログリッドに、試料となる粒子を包埋した氷を張るようにして作成されることを特徴としている。
請求項4の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1〜3の発明において、観察領域全域の像からより高い倍率で観察すべき試料箇所を画像処理により判断させるように構成したことを特徴としている。
請求項5の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項5の発明において、観察領域全域の像からより高い倍率で観察すべき試料箇所を画像処理により判断させ、判断された試料位置の像観察を順次自動的に行わせるように構成したことを特徴としている。
請求項6の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1〜5の発明において、観察領域全域の像からより高い倍率で観察すべき試料箇所を観察する前に、各観察ごとあるいは一定の距離試料を移動させて観察するごと、観察領域に隣接した被観察領域に電子ビームを偏向し、偏向位置において電子ビームのフォーカス調整等の処理を行わせるように構成したことを特徴としている。
請求項7の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1〜6の発明において、コンピュータはメッシュで囲まれた各グリッドスクエアの平均輝度値を計算し、設定された2種の閾値の間の輝度値を有したグリッドスクエアを観察領域としたことを特徴としている。
請求項8の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項7の発明において、コンピュータはメッシュで囲まれた各グリッドスクエアの平均輝度値を計算し、設定された2種の閾値の間の輝度値を有したグリッドスクエアを観察領域とすると共に、観察領域に含まれるグリッドスクエアのいずれかを特定することにより、当該グリッドスクエアを観察対象から外し、観察領域から外れていた観察領域のいずれかを特定することにより、当該グリッドスクエアを観察領域に加えるように構成したことを特徴としている。
透過型電子顕微鏡の像倍率を所定の比較的低い倍率である第1の倍率に設定し、この倍率で観察対象の試料が部分的に載せられたメッシュを移動させて各視野の像を取得し、取得した多数の画像データをつなぎ合わせて、観察領域であるメッシュ全域の画像を表示させ、観察領域全域の像からより高い第2の倍率で観察すべき観察箇所を任意に指定できるように構成し、メッシュの移動や電子ビームの偏向により、指定された各観察箇所を自動的に順々に透過電子顕微鏡像の視野にして撮像し、第2の高い倍率で指定された観察箇所の像をディスプレイ上に表示し、あるいは、各試料箇所の画像データを記憶するように構成したことを特徴としている。このように構成したので、透過電子顕微鏡のオペレータは、像の撮影の諸条件を最初に設定するのみで、自動的に有用な視野の像を効率よく取得でき、オペレータの負担を軽減することができる。
請求項2の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1の発明において、試料を、メッシュの上に設けられたカーボングリッドの上に載せ、メッシュを移動ステージ上に取り付けたことを特徴としている。その結果、試料の周囲の部材を導電性の部材を用いたので、半導体デバイス試料などの分析・観察を試料周囲が帯電することなく、自動的に有用な視野の像を効率よく取得実行することができる。
請求項3の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1の発明において、試料は、メッシュの上に設けられたマイクログリッドに、試料となる粒子を包埋した氷を張るようにして作成されており、高分解能な画像をオペレータの介在を最小として収集することができる。試料粒子を破壊することなく観察や撮像ることを特徴としている。
請求項4の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1〜3の発明において、観察領域全域の像からより高い倍率で観察すべき試料箇所を画像処理により判断させるように構成したことを特徴としており、自動的に目的とする試料を探し出し、試料の観察・画像データの取得を行うことできる。
請求項5の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項4の発明において、観察領域全域の像からより高い倍率で観察すべき試料箇所を画像処理により判断させ、判断された試料位置の像観察を順次自動的に行わせるように構成したことを特徴としているので、自動的に目的とする試料を探し出し、試料の観察・画像データの取得を行うことできる。
請求項6の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1〜5の発明において、観察領域全域の像からより高い倍率で観察すべき試料箇所を観察する前に、各観察ごとあるいは一定の距離試料を移動させて観察するごと、観察領域に隣接した被観察領域に電子ビームを偏向し、偏向位置において電子ビームのフォーカス調整等の処理を行わせるように構成したことを特徴としており、自動的に目的とする試料を探し出し、試料の観察・画像データの取得を行うことできると共に、多数の試料の観察を行うことから、その観察の途中で電子ビームのフォーカス調整を行うので、常に高分解能の画像データを得ることができる。
請求項7の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項1〜6の発明において、コンピュータはメッシュで囲まれた各グリッドスクエアの平均輝度値を計算し、設定された2種の閾値の間の輝度値を有したグリッドスクエアを観察領域としたことを特徴としている。したがって、観察すべきグリッドスクエアを自動的に選択することができる。
請求項8の発明に基づく透過電子顕微鏡システムは、請求項7の発明において、コンピュータはメッシュで囲まれた各グリッドスクエアの平均輝度値を計算し、設定された2種の閾値の間の輝度値を有したグリッドスクエアを観察領域とすると共に、観察領域に含まれるグリッドスクエアのいずれかを特定することにより、当該グリッドスクエアを観察対象から外し、観察領域から外れていた観察領域のいずれかを特定することにより、当該グリッドスクエアを観察領域に加えるように構成したことを特徴としている。したがって、コンピュータが自動的に選択した観察領域の再選択を簡単に行うことができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図6は本発明に基づく透過電子顕微鏡システム構成図であり、1は透過電子顕微鏡本体である。詳細に各構成が示されていないが、透過電子顕微鏡1の内部の下方には、試料像を画像信号として取り込むCCDカメラ2が配置されている。透過電子顕微鏡本体1の内部には、電子ビームを発生して加速させる電子銃、電子ビームを集束して試料に照射するためのコンデンサレンズ、更には対物レンズや投影レンズなどを含む、通常透過電子顕微鏡が有する電子光学系や、電子光学系の各レンズ等を制御する電源、試料ステージや試料移動機構、試料移動機構の制御部などの透過電子顕微鏡構成要素3が設けられている。
CCDカメラ2で取り込まれた画像信号は、画像取り込み用ケーブル4を介してコンピュータ5に接続されている。コンピュータ5と透過電子顕微鏡本体1内部の構成要素3の内、制御電源や制御部などの各制御要素との間は通信ケーブル6で接続されている。コンピュータ5内には、画像信号取り込み用インターフェースと、透過電子顕微鏡本体1の構成要素3中の制御要素との通信用のインターフェイスが備えられている。また、コンピュータ5にはディスプレイ7が接続されている。
更に、コンピュータ5内では本発明を実施するソフトウェアが動作し、CCDカメラ2で得られた映像信号に対して、画像処理により試料の位置決めを行ったり、画像・透過電子顕微鏡の構成要素3の設定条件・取得時刻などの付帯データをハードディスクなどの媒体に保存する。また、コンピュータ5は、ハードディスクなどの記憶媒体に保存されたデータをディスプレイ7に一覧表示して、オペレータに提供する。このような構成で半導体デバイス試料の検査を行う例について説明する。
まず、この実施の形態の概略を説明すると、最初に、図5(a)に示すような、メッシュM全体の中での試料の位置を特定するため、モンタージュ法を用いてメッシュ全体の画像を得る。オペレータは、半導体デバイス試料の検査を行うフローの開始時には、透過電子顕微鏡の倍率をそのために使用する低い倍率に設定し、フォーカス調整をしておく。メッシュの中で試料がどこにあるか求まったら、個々の試料全体を観察するのに適切な倍率で個々の試料の像を得る。更に、個々の試料それぞれに対して、その試料のどの部分を詳細に観察するかを決定し、決定された試料位置を高い倍率で撮影する。以下、図7のフロー図を参照して詳細に説明する。
ステップ1では、検査に必要なパラメータをオペレータがコンピュータ5のキーボードなどを用いて入力する。指定できるパラメータの例として、例えば、画像・透過電子顕微鏡の設定条件・取得時刻などの付帯データの内どれを保存するか、透過電子顕微鏡の倍率、その他の透過電子顕微鏡の条件などがある。なお、この段階で、透過電子顕微鏡像の観察のための試料作成処理が終了している。
すなわち、半導体デバイス試料を集束イオンビーム装置に導入し、欠陥検査箇所を含む部分に集束イオンビームを照射して削りだし、薄い半導体デバイス試料を作成する。通常半導体デバイス試料は複数作成され、各複数の半導体デバイス試料は、電子ビームが透過しないメッシュ部分を避け、メッシュによって囲まれた炭素膜だけの領域Mh(カーボングリッドGs)に接着される。このようにして、試料をメッシュ上に貼付した後、メッシュは試料ホルダーが載せられた試料ステージによって透過電子顕微鏡の試料室に装填されている。
ステップ2では、コンピュータ5は、透過電子顕微鏡本体1内の構成要素3の内、比較的低い倍率で像を取得できるように各レンズ系を制御すると共に、メッシュが取り付けられた試料ホルダーの移動の量やX、Y方向の移動回数、電子光学系の偏向系による電子ビームの偏向量を設定する。この場合、試料ホルダーの移動や電子ビームの偏向により、多数の透過電子顕微鏡像を取得することになるが、その理由は、倍率を低くしても、例えば、通常200メッシュと呼ばれているメッシュでも、その直径は3mmであり、そのようなメッシュ全体を1視野とすることができないことによる。
図8は、メッシュMに対して設定される視野V1〜Vnを示している。この各視野Vの大きさは、設定された透過電子顕微鏡の倍率により決定されるもので、コンピュータ5は、倍率とメッシュの大きさが設定されると視野VのX、Y方向の長さを計算で求め、各視野において像の撮影が終了すると、1視野分の長さに対応した距離分、試料ホルダーを移動させて隣接視野を光軸の中心に移動させる。なお、視野の移動は、試料自体の機械的な移動だけではなく、偏向収差の影響が少ない範囲であれば、電子ビームの偏向により隣接視野の移動を行い、機械的な視野移動と電子ビームの偏向移動を組み合わせることによって、より短時間に全視野V1〜Vnの像の撮影を行うことができる。なお、電子ビームの偏向は、試料の移動誤差の補正にも用いることができる。
第3ステップでは、CCDカメラ2からの各視野Vの画像信号をコンピュータ5に取り込み、取り込み時刻や試料位置(視野位置)などの付随データと共にハードディスクなどの媒体に保存する。この結果、全視野V1〜Vnの画像信号がコンピュータ5内のハードディスクに取り込まれる。
第4ステップでは、メッシュM全域で画像信号が得られたかどうかをコンピュータ5が判断する。既にメッシュ全域で画像が取り込まれていれば、ステップ5に進む。逆にまだ取り込まれていない領域(視野)が残っていれば、ステップ2に戻り、取り残された領域にステージを移動させ、その領域の画像を取り込む。
ステップ5では、試料位置解析が行われる。コンピュータ5は、ステップ3において得られた画像に対して画像処理を施し、メッシュの中でどの位置に試料があるかを判断する。また、メッシュ全域と、コンピュータ5が判断した試料の位置の両者を重ねて俯瞰する画像をディスプレイ7に表示する。
ステップ6では、コンピュータ5が透過電子顕微鏡本体1内の構成要素3の内の電子光学系を制御して倍率を変更する。この倍率は、後述するステップ10の操作を行うのに適切な高い倍率である。なお、この倍率の具体的な値は、ステップ1でオペレータが指定する。この倍率を変更した際、必要に応じて電子ビームのフォーカス調整がコンピュータ5の制御の下に自動的に行われる。この自動フォーカス調整は、既知の方法によって行うことができ、その詳細な説明は省略する。
また、フォーカス調整を行う際には、電子ビームを若干偏向して電子ビームを隣接する試料がないカーボングリッドに照射して行うことが望ましい。このような電子ビームの照射により、試料に必要以上の電子ビームを照射することが防止でき、試料が電子ビームの照射によって過度に加熱され、破壊や変形することを防止できる。なお、自動的なフォーカス調整を異なったカーボングリッドに電子ビームを偏向して行うようにしたが、同じカーボングリッド内であっても、電子ビーム照射により、試料に熱の影響を及ぼすことが極めて少ない領域があれば、そのような領域で自動フォーカス調整を行うことができる。
ステップ7は視野移動を行うステップであり、コンピュータ5は構成要素3に含まれるステージ移動機構を制御して、ステージ(ステージに取り付けられた試料ホルダー上のメッシュ)を移動させ、更に電子ビームの偏向系を制御して、ステップ5で得た試料位置を含む視野を自動的に設定する。視野移動は、ステップ5で得た全ての試料位置に対して行われ、各試料位置を含む視野において、カメラ2により、透過電子顕微鏡像が取得される。
ステップ8では、ステップ7で移動された各視野において、カメラ2からの画像信号をコンピュータ5に取り込み、取り込み時刻や試料位置などの付随データと共に、ハードディスクなどの媒体に保存する。
ステップ9では、コンピュータ5は、ステップ5で判断した全ての試料位置において、画像信号を取得したかどうかを判断する。既に全ての試料位置において画像信号を取り込んでいれば、ステップ10に進む。その一方、取り込むべき試料位置が残っていれば、ステップ7に戻り、残された試料位置で画像信号の取得を行う。
ステップ10においては、試料中の観察位置を指定する。コンピュータ5は、ステップ8で得られた個々の試料の画像をディスプレイ上に表示する。オペレータは、個々の試料に対して、その試料の中で詳細な観察をすべき箇所をマウスによるクリックなどで指定する。もしくは、ステップ1で設定された内容にしたがって、個々の試料中のどの部分を詳細に観察するかをコンピュータが自動的に判断する。
ステップ11で、コンピュータ5は、透過電子顕微鏡本体1内の構成要素3中の電子光学系を制御し、倍率を調整する。この倍率は、試料の観察位置を詳細に観察するために適切な高い倍率であり、ステップ1でオペレータが指定するパラメータの一つである。
ステップ12においては、観察視野の移動とオートフォーカス動作を実行する。コンピュータ5は、構成要素3中のステージ駆動機構や電子ビームの偏向系を制御し、ステップ10で指定された観察位置を臨む視野を自動で設定し、オートフォーカス動作を実行する。このフォーカス調整を行う際には、電子ビームを若干偏向して電子ビームを試料が貼付されたカーボングリッドと隣接する試料がないカーボングリッド領域に照射して行うことが望ましい。このような電子ビームの照射により、試料に必要以上の電子ビームを照射することが防止でき、試料が電子ビームの照射によって過度に加熱され、破壊や変形することを防止できる。なお、電子ビームの調整を行う場所は、試料が貼付されたカーボングリッドと隣接する試料がないカーボングリッド領域に限定されず、隣接していないカーボングリッドを選択してもよく、また、試料が貼付されたカーボングリッド中の試料から離れた領域で行っても良い。
ステップ13においては、ステップ12で視野の移動が行われた都度、カメラ2からの画像信号をコンピュータ5に取り込み、取り込み時刻や試料位置などの付随データと共に、ハードディスクなどの記憶媒体に保存する。
ステップ14においては、ステップ13で指定した試料領域の全てについて、所定の画像信号を取り込んだかどうかの判断が行われる。既に全ての試料位置において画像信号を取り込んでいれば、ステップ15に進む。一方、まだ取り込むべき試料位置が残っていれば、ステップ12に戻る。
ステップ15においては、ステップ13において取り込まれた画像信号に基づき、指定した試料位置の透過電子顕微鏡像がディスプレイ7に表示される。この際、ディスプレイ7に表示される画像としては、複数の指定試料位置において取得された各画像の縮小画像が撮影時刻などのデータと共に表示される。オペレータは、このような画像を観察し、表示画像の間引きを行ったり、特定の縮小画像をクリックすることによって、その縮小画像の元画像のみをディスプレイ7に表示したりする。また、特定の画像データが取得された試料位置を透過電子顕微鏡の視野に移動させ、同じ視野の生の像をディスプレイ7上に表示させることもできる。このような操作をオペレータが行うことにより、半導体デバイス試料の微細な欠陥部分の詳細な検査を行うことができる。
次に、本発明の2番目の実施の形態について説明する。この実施の形態では、タンパク質やウィルスの構造を決定するために最適な透過電子顕微鏡システムの一つを示している。シングルパーティクル法に本発明を適用している。この方法を実施するためのシステム構成は、1番目の実施の形態で用いた、図6に示すシステム構成と同じである。この構成によりシングルパーティクル法を実施するためのフローを図8に示すフロー図を参照して説明する。
まず、ステップ1として、コンピュータ5に、目的とする透過電子顕微鏡像を撮影するために必要なパラメータがオペレータによって、キーボードなどを用いてコンピュータ5に入力される。入力するパラメータの例としては、例えば以下に(1)〜(6)に示すようなものがある。
(1)として撮影を行う際の倍率。(2)として撮影を行うときの画像記録媒体。例えば、スロースキャンCCDカメラなどを通じて直接デジタル画像をコンピュータ5に取り込むか、フィルムを感光させるかなど。(3)として、フォーカスを合わせた後に、どのデフォーカス値で撮影を行うか。例えば、個々の撮影位置ごとに、1μmのアンダーフォーカス、1.5μmのアンダーフォーカス、2μmのアンダーフォーカス、2.5μmのアンダーフォーカスの4つのデフォーカス値で撮影を行いたい場合には、それらの値を指定する。
(4)として、マイクログリッドの穴の内部の輝度が、どの程度であるときに、良い厚みの氷だと判断するかの値。(5)として、自動的なフォーカス合わせを行う頻度。(6)として、一枚の像の撮影にかける電子ビームの露光時間。
以上のようなパラメータが入力された後、ステップ2として、像の撮影を行うグリッドスクエアGsの指定が行われる。この指定は、コンピュータ5によって、透過電子顕微鏡本体1内部の構成要素3(電子光学系やステージの移動機構などの機械系の構成要素が含まれている。)を制御することによって、試料全体の像をモンタージュ法によりディスプレイ7上に表示する。
このモンタージュ法により試料全体の像を表示させる方法は、第1の実施の形態で説明したと同様な方法が用いられる。すなわち、コンピュータ5は、透過電子顕微鏡本体1内の構成要素3の内、比較的低い倍率で像を取得できるように各レンズ系を制御すると共に、メッシュが取り付けられた試料ホルダーの移動の量やX、Y方向の移動回数、電子光学系の偏向系による電子ビームの偏向量を設定する。この場合、試料ホルダーの移動や電子ビームの偏向により、多数の透過電子顕微鏡像を取得することになるが、その理由は、倍率を低くしても、例えば、通常200メッシュと呼ばれているメッシュでも、その直径は3mmであり、そのようなメッシュ全体を1視野とすることができないことによる。
この実施の形態でも、図7に示すように、メッシュMに対して視野V1〜Vnが設定される。この各視野Vの大きさは、設定された透過電子顕微鏡の倍率により決定されるもので、コンピュータ5は、倍率とメッシュの大きさが設定されると視野VのX、Y方向の長さを計算で求め、各視野において像の撮影が終了すると、1視野分の長さに対応した距離分、試料ホルダーを移動させて隣接視野を光軸の中心に移動させる。なお、視野の移動は、試料自体の機械的な移動だけではなく、偏向収差の影響が少ない範囲であれば、電子ビームの偏向により隣接視野の移動を行い、機械的な視野移動と電子ビームの偏向移動を組み合わせることによって、より短時間に全視野V1〜Vnの像の撮影を行うことができる。なお、電子ビームの偏向は、試料の移動誤差の補正にも用いることができる。
このように、モンタージュ法により試料全体の像をディスプレイ7上に表示することができる。オペレータは、ディスプレイ上の像を観察し、多数存在するグリッドスクエアGsの中で、像の撮影を行うグリッドスクエアGsを指定する。この指定は、例えば、図8によって説明する以下のような方法を用いることができる。
この方法では、コンピュータ5はディスプレイ7上に試料全体の像を表示する。コンピュータ5は同時に、2つの閾値を設定できるインターフェイス11をオペレータが使用できるように構成されている。インターフェイス11として、2つの閾値を設定するための2つのガイドレールL1,L2を移動するスライドSR1,SR2がディスプレイ上に表示されている。オペレータは、スライダSR1,SR2をそれぞれマウスでクリックし、ガイドレールL1,L2上を移動させることによって、2つの閾値を指定する。
コンピュータ5は、試料全体の像において、個々のグリッドスクエアGsごとに平均輝度を計算し、その輝度値がオペレータの指定した2つの閾値の中に入っているものは、撮影対象となるグリッドスクエアと判断し、試料全体の像の該当するグリッドスクエアにマークXを表示する。オペレータは、このようにして、コンピュータ5が撮影領域として判断した各領域(グリッドスクエアGs)を認識することができる。
ここで、インターフェイス11のスライドSR1,SR2をガイドレール上で移動させれば、オペレータが像の観察とその画像データの収集を希望する平均輝度値を有したグリッドスクエアGsを選択することができる。更に、試料全体の像中の個々のグリッドスクエアをマウスなどのポインティングデバイスによって指し示すことで、Xマークが付されたグリッドスクエアは観察対象から外され、逆に、Xマークが付されていないグリッドスクエアには、Xマークが付されて観察対象とすることができる。このような構成とすることにより、コンピュータにより一律に選ばれたグリッドスクエアについて、オペレータが希望するグリッドスクエアについてのみ詳細な観察対象とすることができる。
ステップ3では、粒子解析と解析結果の保存である。コンピュータ5は、ステップ2で指定したグリッドスクエアの画像を収集中である旨表示し、その間透過型電子顕微鏡の試料ステージを操作して試料の移動を行い、指定された解析対象のグリッドスクエアの一つを透過型電子顕微鏡の光軸上に配置する。コンピュータは、光軸上に配置されたグリッドスクエア内の個々のマイクログリッドの穴を認識し、それぞれの位置と穴の中の平均輝度を計測する。
計測された平均輝度が、オペレータが指定した閾値(ステップ1で指定された値)内にあるものについて、その穴の部分をオペレータがステップ1で事前に指定した倍率で撮影を行う。撮影媒体としては、ステップ1でオペレータが事前に指定した媒体が使用される。例えば、スロースキャンCCDカメラが指定されていた場合には、コンピュータは、透過型電子顕微鏡に組み込まれたカメラ2から像信号を取り込み、ハードディスクに保存する。また、オペレータがフィルムを指定した場合、コンピュータは、透過型電子顕微鏡に付属している写真撮影装置でフィルムを感光させる。このようにして像の撮影が行われる。
像の撮影は、ステップ1でオペレータが設定した全てのでフォーカス値に対して行われる。なお、撮影の直前に自動フォーカス合わせを行うかどうかは、ステップ1でオペレータが指定したフォーカス合わせの頻度に依存する。例えば、オペレータが1箇所の撮影につき1回フォーカス合わせを行うように指定した場合、コンピュータは、1箇所の撮影ごとに1回のフォーカス合わせを自動的に行う。
オペレータが、5μmの距離を超える位置を撮影するごとに、1回のフォーカス合わせを行うように指定した場合、コンピュータシステムは、フォーカス合わせを行った後、その位置から半径5μm以内の距離にある撮影対象のマイクログリッドの穴の撮影を全て終えるまで、改めてフォーカス合わせは行わない。このような撮影動作の途中でも、システムはオペレータからの一時停止や中止の指示を受け付けることができ、これらの指示があった場合は、動作を一時停止したり中止したりする。
また、システムは、撮影中の像のドリフト(試料移動)を測定する。ドリフトの測定は、例えば、像をカメラから取り込んでその1秒後にもう一度取り込み、これらの2枚の像の間の移動量を画像処理などを用いて計測することで可能となる。コンピュータシステムは、ドリフトの速度と方向をこのようにして測定し、ドリフトが収まるまで撮影動作を一時的にストップするか、透過型電子顕微鏡のステージに高速で高精度の移動機構(例えばピエゾ素子)が組み込まれている場合には、このドリフトを打ち消す方向にステージを移動させ、ドリフトの影響を解消させる。