JP2005210095A - 希土類磁石の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】十分に優れた耐食性を有し、しかも十分に均一な膜厚を有する希土類磁石を形成可能な希土類磁石の製造方法を提供することができる。
【解決手段】希土類磁石の製造方法は、1種以上の気体分子を固体触媒に接触させて生成した気体分子に由来する反応性化学種を、希土類元素を含有する磁石素体の表面に接触させて、磁石素体の表面上に、反応性化学種に由来する保護層を形成するものである。
【選択図】図4
【解決手段】希土類磁石の製造方法は、1種以上の気体分子を固体触媒に接触させて生成した気体分子に由来する反応性化学種を、希土類元素を含有する磁石素体の表面に接触させて、磁石素体の表面上に、反応性化学種に由来する保護層を形成するものである。
【選択図】図4
Description
本発明は、希土類磁石の製造方法、特に表面上に保護層を設けた希土類磁石の製造方法に関するものである。
近年、25MGOe以上の高エネルギー積を示す永久磁石として、いわゆるR−Fe−B系磁石(RはNdなどの希土類元素を示す。)が開発されており、例えば特許文献1では焼結により形成されるR−Fe−B系磁石が、また特許文献2では、高速急冷により形成されるものが開示されている。しかしながら、R−Fe−B系磁石は、主成分として比較的容易に酸化される希土類元素及び鉄を含有するため、その耐食性が比較的低く、そのことに起因して、製造時及び使用時に磁石としての性能が劣化すること、及び/又は、製造された磁石の信頼性が比較的低いこと等の課題があった。このようなR−Fe−B系磁石の耐食性を改善することを目的として、これまでに、種々の保護膜をその磁石素体表面に形成する提案がなされている。
例えば、特許文献1〜4には、比較的均一な膜厚を有する保護膜を磁石素体表面に形成することによる、密着性及び耐食性に優れた希土類磁石の提供を意図して、保護膜の形成方法にプラズマ化学気相成長(CVD)法を採用した希土類磁石の製造方法が開示されている。
より具体的には、例えば特許文献3には、腐食性薬品等を使用、残留させる湿式めっき処理に代えて、密着性、防蝕性にすぐれた耐食性薄膜を、磁石材料表面に均一厚みで設けることが可能なFe−B−R径永久磁石の製造方法の提供を意図して、R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)8原子%〜30原子%、B2原子%〜28原子%、Fe42原子%〜90原子%を主成分とし主相が正方晶相からなる永久磁石体表面に、気相めっき処理にて耐食性気相めっき層を被着したことを特徴とする耐食性の優れた永久磁石の製造方法が提案されている。この特許文献3のなかには、上記気相めっき処理方法の具体例として、プラズマCVD法が例示されている。プラズマCVD法はCVD法の一種であり、基体(例えば磁石素体)の表面に存在する一つ一つの原子に対して活性反応種が結合して薄膜(例えば保護層)を形成するので、十分に緻密で、しかも基体との密着性の高い薄膜が得られる薄膜形成法として広く知られている。
特開平4−247879号公報
特開平5−205922号公報
特開平7−74043号公報
特開2000−256878号公報
しかしながら、本発明者らは、上記特許文献1〜4に記載のものを始めとする従来の希土類磁石の製造方法、特にプラズマCVD法を用いた希土類磁石の製造方法について詳細に検討を行ったところ、このような従来の希土類磁石の製造方法では、十分な耐食性を備えた希土類磁石を形成することが困難であることを見出した。すなわち、プラズマCVD法により得られた希土類磁石に対して、JIS−C−0023に規定されている塩水噴霧試験を行うと、その希土類磁石の磁石素体に腐食が認められることを本発明者らは見出した。
ここで、「塩水噴霧試験」とは、例えば35℃程度の温度条件下、5±1質量%NaCl水溶液(pH=6.5〜7.2)を、微細な湿った濃い霧状態で24時間試料に接触させ、試料の腐食状態を確認することによって行われる。塩水噴霧試験によって磁石素体に腐食が認められる要因としては、保護層(耐酸化めっき層)におけるピンホールの生成などが考えられる。希土類磁石の保護層にピンホールが生成すると、そのピンホールから雰囲気中の腐食要因物質が侵入し、磁石素体を腐食させる因子となる。特に希土類磁石は極めて容易に腐食するので、塩水噴霧試験によって磁石素体に腐食が認められるような従来の希土類磁石は、実際の使用環境において、耐食性に十分優れているものとはいえない。
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、十分に優れた耐食性を有し、しかも十分に均一な膜厚を有する希土類磁石を形成可能な希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の希土類磁石の製造方法は、1種以上の気体分子を固体触媒に接触させて得られた気体分子に由来する反応性化学種を、希土類元素を含有する磁石素体の表面に接触させて、その磁石素体の表面上に反応性化学種に由来する保護層を形成することを特徴とする。
また、本発明の希土類磁石の製造方法は、1種以上の気体分子を処理容器内に導入する第1工程と、気体分子を処理容器内に配置された固体触媒の表面まで輸送する第2工程と、気体分子を固体触媒の表面に接触させて、気体分子に由来する反応性化学種を生成する第3工程と、反応性化学種を、処理容器内に配置された希土類元素を含有する磁石素体の表面まで輸送する第4工程と、反応性化学種を磁石素体の表面に接触させて、磁石素体の表面上に反応性化学種に由来する保護層を形成する第5工程とを含むことを特徴とする。
かかる本発明の希土類磁石の製造方法によって得られた希土類磁石に対して上述の塩水噴霧試験を行っても、従来の希土類磁石で発生したような磁石素体の腐食は認められない。その要因は明らかにされていないが、本発明者らは現在のところ以下のように考えている。ただし要因はこれらに限定されない。
従来の希土類磁石の製造方法に用いられていたプラズマCVD法は、反応室内において発生させたプラズマ中の低速電子と気相中の気体分子とを衝突させることにより、その気体分子を励起させ反応性化学種(励起活性種)を生成した後、その反応性化学種を磁石素体の表面と反応させ保護層を形成するものである。すなわち、プラズマCVD法において、不安定な反応性化学種は反応室内の気相中で生成するため、その気相と接触する表面であれば、磁石素体の表面以外の、例えば、反応室内の壁面等にも薄膜を形成し得る。そして、磁石素体の表面以外の部分に形成された薄膜は、薄膜の内部応力、反応室の大気開放時における水分等との反応等に起因して剥離して浮遊微粒子となると考えられる。この浮遊微粒子が、保護層を形成されていない磁石素体の表面上に落下すると推定される。その結果、浮遊粒子が落下した磁石素体の表面部分上には保護層が適切に形成されないため、その部分を中心にして保護層にピンホールが形成されると考えられる。
一方、本発明の希土類磁石の製造方法によると、反応性化学種は固体触媒の表面上で生成する。その固体触媒が容器内に配置されている場合、反応性化学種が生成すべき固体触媒の部分は、容器内の壁面等には接していない(接していると、反応性化学種が固体触媒のその部分の表面と接触できない)ので、生成した反応性化学種が直ちに容器内の壁面等に接することは十分に抑制されると考えられる。
また、本発明の希土類磁石の製造方法により得られた希土類磁石は、従来のCVD法と同じ原理で磁石素体の表面上に保護層を形成するので、十分に緻密で、しかも磁石素体との密着性が十分に高い保護層を得ることができる。さらには、本発明の希土類磁石の製造方法は、プラズマを用いていないので、プラズマ中の励起活性種により磁石素体と形成された保護層とが損傷することは十分に抑制されている。したがって、得られる希土類磁石は、磁石素体の損傷に伴う磁気特性の劣化や磁石素体と保護層との密着性の劣化を一層防止することができる。
さらに、従来のプラズマCVD法を用いて希土類磁石を形成する場合、励起活性種は、3次元空間にあるプラズマ中の低速電子と気相中の気体分子とを衝突させることにより生成する。また、上述したように、生成した励起活性種は、その一部が反応室内の壁面等に付着し、その後浮遊微粒子となる場合もある。したがって、反応室内に導入した気体分子のうち保護層の形成に用いられるものの割合(以下、「気体利用効率」という。)は、気相中に低速電子と気体分子との衝突確率に依存するため、それほど高くなく、10〜20%程度である。その結果、保護層の成膜速度をより上昇させるためには、気体分子を大量に使用する必要があり、希土類磁石の製造コストが高くなる傾向にある。一方、本発明の希土類磁石の製造方法においては、処理容器内に導入された気体分子が固体触媒の表面まで輸送され、その固体触媒との接触のみによって反応性化学種を生成する。しかも固体触媒上で生成した反応性化学種は、磁石素体の表面まで輸送される。その結果、気体利用効率は、プラズマCVD法を用いた場合と比較して、一層高いものとなるので、その製造コストは十分に抑制される。
本発明の希土類磁石の製造方法によると、十分に優れた緻密性を有する保護層が得られるので、保護層の膜厚を薄くできる傾向にあり、しかもその保護層に用いる窒化ケイ素等の構成材料は、希土類磁石の磁気特性(保磁力、残留磁束密度など)に影響を及ぼし難いものであるため、十分に優れた耐食性を有するとともに、保護層を設けたことによる磁石素体の磁気特性の低下を十分に抑制することも可能となる。さらに、十分に優れた耐食性を付与することにより、得られる希土類磁石の磁気特性が経時劣化することも十分に防止できる。
また、本発明の希土類磁石の製造方法により得られる保護層は、その構成材料として、窒化ケイ素、炭化ケイ素、水素化アモルファスシリコン、水素化多結晶シリコン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム及び炭化ジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上の材料を含有すると好ましい。そのような保護層は、一層希土類磁石の耐食性を高めることができる。
より耐食性の高い希土類磁石の保護層を得る観点及び保護層の成膜性の容易さの観点から、上記気体分子としてケイ素原子を有する分子、アルミニウム原子を有する分子、ジルコニウム原子を有する分子及びチタニウム原子を有する分子からなる群より選ばれる1種以上の分子を用いると好ましく、窒素原子を有する分子、炭素原子を有する分子及び酸素原子を有する分子からなる群より選ばれる1種以上の分子を更に用いるとより好ましい。同様な観点から、ケイ素原子を有する分子として水素化ケイ素分子を用いると更に好ましく、シラン(SiH4)又はジシラン(Si2H6)を用いると特に好ましい。また、窒素原子を有する分子としてはアンモニア分子を用いると更に好ましく、炭素原子を有する分子としてはアセチレン分子を用いると更に好ましい。
同様の観点から、アルミニウム原子を有する分子として、トリメチルアルミニウムを用いると好ましく、ジルコニウム原子を有する分子として、ジルコニウムアルコキシドを用いると好ましく、チタニウム原子を有する分子として、チタニウムアルコキシドを用いると好ましい。
本発明の希土類磁石の製造方法に用いる固体触媒は、その構成材料としてタングステン、タンタル、モリブデン及びイリジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属を含有すると好ましい。これらの材料を用いると、比較的高効率で上述したような気体分子を反応性化学種に転化させることができる。
本発明によれば、十分に優れた耐食性を有し、しかも十分に均一な膜厚を有する希土類磁石を形成可能な希土類磁石の製造方法を提供できる。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
まず、本発明の好適な実施形態の希土類磁石の製造方法により得られる希土類磁石について説明する。
図1は、本実施形態に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、図2は図1の希土類磁石をI−I線により切断した際に現れる断面を模式的に表した図である。図1、2から明らかなとおり、この実施形態の希土類磁石100は磁石素体10と、その磁石素体10の表面の全体を被覆して形成される保護層20とから構成されるものである。
磁石素体10は、R、鉄(Fe)及びホウ素(B)を含有するものである。Rは1種以上の希土類元素を示すものであり、具体的には、長周期型周期表の3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイドからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。ここで、ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)を指す。
上述した元素の磁石素体10中の組成は、該磁石素体10を焼結法により製造する場合、以下に説明するようなものであると好ましい。
Rとしては、上述したもののうち、Nd、Pr、Ho、Tbのうち1種以上の元素を含むと好ましく、さらに、La、Sm、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb、Yのうち1種以上の元素を含んでも好ましい。
磁石素体10中のRの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、8〜40原子%であると好ましい。Rの含有割合が8原子%未満では、結晶構造がα−鉄と同一構造の立方晶組織となるため、高い保磁力(iHc)を有する希土類磁石100が得られない傾向にある。また、Rの含有割合が30原子%を超えると、Rリッチな非磁性相が多くなり、希土類磁石100の残留磁束密度(Br)が低下する傾向にある。
磁石素体10中のFeの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、42〜90原子%であると好ましい。Feの含有割合が42原子%未満であると希土類磁石100のBrが低下する傾向にあり、90原子%を超えると希土類磁石100のiHcが低下する傾向にある。
磁石素体10中のBの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、2〜28原子%であると好ましい。Bの含有割合が2原子%未満であると結晶構造が菱面体組織となるため、希土類磁石100のiHcが不十分となる傾向にあり、28原子%を超えるとBリッチな非磁性相が多くなるため、希土類磁石100のBrが低下する傾向にある。
また、Feの一部をコバルト(Co)で置換して磁石素体10を構成してもよい。このような構成にすることにより、希土類磁石100の磁気特性を損なうことなく温度特性を改善できる傾向にある。この場合、置換後のFeとCoの含有割合は、原子基準でCo/(Fe+Co)が0.5以下であると好ましい。これよりもCoの置換量が多いと希土類磁石100の磁気特性が低下してしまう傾向にある。
さらに、Bの一部を炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)及び銅(Cu)からなる群より選ばれる1種以上の元素で置換して磁石素体10を構成してもよい。かかる構成にすることにより、希土類磁石100の生産性が向上し、その生産コストを削減できる傾向にある。この場合、これらC、P、S及び/若しくはCuの含有量は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して4原子%以下であると好ましい。C、P、S及び/若しくはCuの含有量が4原子%よりも多いと、希土類磁石100の磁気特性が劣化する傾向にある。
また、希土類磁石100の保磁力の向上、生産性の向上及び低コスト化の観点から、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)及び/又はハフニウム(Hf)等のうちの1種以上の元素を添加して、磁石素体10を構成してもよい。この場合、上記元素の添加量は磁石素体10を構成する全原子の量に対して10原子%以下とすると好ましい。これらの元素の添加量が10原子%を超えると希土類磁石100の磁気特性が低下する傾向にある。
磁石素体10中には、不可避的不純物として、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び/又はカルシウム(Ca)等が、磁石素体10を構成する全原子の量に対して3原子%以下の範囲内で含有されていてもよい。
磁石素体10は、図3に示すように、実質的に正方晶系の結晶構造を有する主相50と、希土類元素を比較的多く含む希土類リッチ相60と、ホウ素を比較的多く含むホウ素リッチ相70とを含有して形成されている。磁性相である主相50の粒径は1〜100μm程度であると好ましい。希土類リッチ相60及びホウ素リッチ相70は非磁性相であり、主に主相50の粒界に存在している。これら非磁性相60、70は、磁石素体10中に通常、0.5体積%〜50体積%程度含有されている。
保護層20は、磁石素体10の表面上に形成されたものであり、その構成材料としては、本発明の希土類磁石の製造方法に用いることができる材料であれば、特に限定されない。保護層20の構成材料としては、例えば、窒化ケイ素(SiNxなど)、炭化ケイ素(SiCなど)、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)、水素化多結晶シリコン(p−Si:H)等が挙げられる。また、酸化ケイ素(SiO、SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化アルミニウム(Al4C3)、酸化チタン(TiO、Ti2O3、TiO2)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、窒化ジルコニウム(ZrN)及び炭化ジルコニウム(ZrC)なども保護層20の構成材料として用いることができる。それらのなかでも、保護層20が、窒化ケイ素、炭化ケイ素、水素化アモルファスシリコン及び水素化多結晶シリコンからなる群より選ばれる1種以上の材料を含有すると、希土類磁石100は、より緻密な保護層20を形成し、一層耐食性に優れた希土類磁石となる傾向にあるので好ましい。
保護層20は結晶質であってもよく、非晶質であってもよく、それらの状態が混在した状態であってもよい。
本実施形態の希土類磁石100においては、耐食性の向上の観点及び十分な磁気特性の確保の観点から、その保護層20の膜厚が0.1〜20μmであると好ましく、更に生産コスト等の観点から0.3〜10μmであると、より好ましい。
次に、本実施形態の好適な希土類磁石100の製造方法について説明する。本実施形態の好適な希土類磁石100の製造方法においては、まず磁石素体10を用意した後、その表面上に保護層20を形成することにより、希土類磁石100が得られる。
磁石素体10は、例えば以下に述べるような焼結法により製造されることによって用意される。まず、上述した元素を含有する所望の組成物を鋳造し、インゴットを得る。続いて、得られたインゴットを、スタンプミル等を用いて粒径10〜100μm程度に粗粉砕し、次いで、ボールミル等を用いて0.5〜5μm程度の粒径に微粉砕して粉末を得る。
次に、得られた粉末を、好ましくは磁場中にて成形して成形体を得る。この場合、磁場中の磁場強度は10kOe以上であると好ましく、成形圧力は1〜5トン/cm2程度であると好ましい。
続いて得られた成形体を、1000〜1200℃で0.5〜5時間程度焼結し、急冷する。なお、焼結雰囲気は、Arガス等の不活性ガス雰囲気であると好ましい。そして、好ましくは不活性ガス雰囲気中で、500〜900℃にて1〜5時間熱処理(時効処理)を行うことにより上述したような磁石素体10が得られる。
また、磁石素体10は、上述した以外にも、例えば公知の超急冷法、温間脆性加工法、鋳造法、メカニカルアロイング法によっても用意され得る。さらに、磁石素体10は、市販のものを用意してもよい。
続いて、得られた磁石素体10の表面上に保護層20が形成される。図4に本実施形態に係る希土類磁石の保護層を形成するための装置(以下、「保護層形成装置」という。)200の正面模式図を示す。図4に示す保護層形成装置200は、その内部で磁石素体10に対して後述の処理がなされる処理容器210と、処理容器210内に、反応性化学種を生成し得る気体分子からなる原料ガスを供給するガス導入ノズル220と、導入された原料ガスが、その表面付近を通過するように処理容器210内に設けられた固体触媒230と、気体分子の固体触媒230との接触により生成した反応性化学種がその後に通過する位置に磁石素体10を保持するホルダー240とを備えている。
処理容器210は、その容器内の圧力を調整するための排気孔211を備えている。この処理容器210は、ステンレス又はアルミニウム等の材質で形成されており、電気的には接地されている。排気孔211は、その出口付近にターボ分子ポンプ等の真空ポンプを備えており、例えば成膜中の処理容器210内圧力を100Pa程度に調整することができる。
ガス導入ノズル220は、保護層20の形成に用いられる気体分子からなる原料ガスを貯蔵するボンベ(図示せず。)に接続されている。このガス導入ノズル220は、その先端にガス導入器222が設けられており、原料ガスはそのガス導入器に備えられたガス吹き出し孔223から処理容器210内に導入される。
ホルダー240は、処理容器210の下壁部から内部に突出して設けられた部材であり、上面に磁石素体10を保持するようになっている。磁石素体10の保持方法は、従来公知の方法であればよく、例えばホルダー240上に載置するだけでもよく、ホルダ240ーの上面に設けられた接着材などの固定部材によって固定されてもよい。このホルダー240は、磁石素体10の表面で、その表面にある原子(イオン)と反応性化学種とを、及び反応性化学種同士をより効率よく結合させるために、磁石素体10を加熱する加熱機構としても機能している。つまり、ホルダー240内には、磁石素体240を所定温度に加熱するためのヒータ241が設けられている。
固体触媒230は、その形状として、気体分子及び/又は反応性化学種が、その固体触媒230と接触しながら通過できるものであれば特に限定されず、例えば、フィラメントを網目状に組んだものであってもよく、ハニカム状であってもよい。固体触媒230の構成材料としては、気体分子を反応性化学種に転化できるものであれば、特に限定されない。気体分子の種類にもよるが、反応性化学種は通常、固体触媒上で1000℃以上の温度で生成する。したがって、固体触媒の触媒活性及び耐熱性を確保する観点から、その構成材料として、高融点材料であるタングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ランタン(Rh)、ルテニウム(Ru)、ジルコニウム(Zr)及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属を含有すると好ましく、タングステン、タンタル、モリブデン及びイリジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属を含有するとより好ましい。固体触媒230には、触媒ヒータ233が設けられている。触媒ヒータ233は固体触媒230を通電してジュール熱を発生させることにより、固体触媒230を加熱するよう構成されている。固体触媒230は金属を含有しているので、触媒ヒータとしては、固体触媒230に所定の交流電流を流す交流電源であってもよく、市販のヒータを用いてもよい。
なお、固体触媒230と装置内に配置された磁石素体10との間の距離は、原料ガスの供給量、磁石素体10の構成材料などを考慮して調整できる。すなわち、この距離が長くなるほど、原料ガスが拡散してしまう傾向にあり、短くなるほど磁石素体10が過熱される傾向にあるので、それらを考慮して、上記距離を設定するのが好ましい。
次に、磁石素体10の表面上への保護層20の形成方法を、より詳しく説明する。
まず、1種以上の気体分子を含有する原料ガスを処理容器210内に導入する(第1工程)。原料ガスとしては、固体触媒230上で反応性化学種を生成できる気体分子を含有するものであれば特に限定されない。気体分子は、目的とする構成材料を含有する保護層20が得られるように選択される。例えば、保護層の構成材料としてSi3N4などの窒化ケイ素が含有される場合は、ケイ素原子を有する気体分子として、シラン、ジシラン若しくはトリシランなどの水素化ケイ素分子あるいはSiF2などのフッ化ケイ素分子を用いることができる。また、窒素原子を有する原子としては、アンモニアなどの分子を用いることができる。
あるいは、保護層の構成材料としてSiCなどの炭化ケイ素が含有される場合は、ケイ素原子を有する気体分子として上述と同様のものを用い、炭素原子を有する気体分子としてアセチレン、メタン、エタン、プロパン、若しくはアセトンなどの分子を用いることができる。あるいはCF4などのハロゲン化炭素分子を用いてもよい。さらに、保護層の構成材料として水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)が含有される場合は、ケイ素原子を有する気体分子として上述と同様のものを用いることができる。この場合、更に、水素分子などのケイ素原子を有する気体分子以外の分子を原料ガスに混合させると、より容易にかつ確実にa−SI:Hを含有する保護層20を形成できる傾向にあるので好ましい。
保護層20の構成材料として酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム等のアルミニウム化合物を含有する場合は、アルミニウム原子を有する気体分子を用いればよく、その具体例としてはトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物が挙げられる。これらのなかでは、保護層の形成しやすさ等の観点から、トリメチルアルミニウムが好ましい。
保護層20の構成材料として酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、炭化ジルコニウム等のジルコニウム化合物を含有する場合は、ジルコニウム原子を有する気体分子を用いればよく、その具体例としてはジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシドなどのジルコニウムアルコキシドが挙げられる。
保護層20の構成材料として酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン等のチタン化合物を含有する場合は、チタン原子を有する気体分子を用いればよく、その具体例としてはチタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシドなどのチタンアルコキシドが挙げられる。
保護層20の構成材料として酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの酸化物を含有する場合は、酸素原子を有する気体分子が用いられ、その具体例としては酸素(O2)、水蒸気(H2O)などが挙げられる。
次いで、上述したような気体分子を含有する原料ガスを処理容器210内に配置された固体触媒230の表面まで輸送する(第2工程)。その輸送手段としては、通常用いられるガス輸送手段を採用すればよい。例えば、排気孔211から真空ポンプを用いて処理容器210内を減圧状態にするなどして、ガス導入器222内と処理容器210内との間に差圧を設けてることができる。これにより、ガス吹き出し孔223から上述した気体分子を含有する原料ガスを吹き出させ、その原料ガスを固体触媒230に輸送することができる。この手段を用いると、ガス吹き出し孔223から吹き出される原料ガスが拡散することなく固体触媒230に輸送される傾向にあるので、気体利用効率が一層高くなる傾向がある。
なお、処理容器210内の圧力としては、プロセスの安定性、および、成膜効率の観点から、0.1〜200Paであると好ましい。
次に、気体分子を含有する原料ガスをタングステン等の上記固体触媒230の表面に接触させて、気体分子に由来する反応性化学種を生成する(第3工程)。固体触媒230は触媒ヒータ233によって、反応性化学種を生成するのに十分な温度に加熱されている。具体的には、気体分子としてシラン、アンモニア又はアセチレンを用いる場合は、1000℃以上に固体触媒230が加熱されていれば、反応性化学種を生成可能となる。この際、固体触媒230まで輸送された気体分子が全て反応性化学種に転化される必要はないが、気体利用効率を一層高くするためには、可能な限り多くの気体分子を固体触媒230と接触させることが好ましい。同時に、生産効率を高くするためには低電力で容易に昇温可能な形状であることが好ましい。そのような観点から、固体触媒230の形状としては線材であると好ましく、それらが反応容器210の内部に多数配置されていると好ましい。
固体触媒230上での反応性化学種の生成機構は明らかにされていない。現在のところ、例えばシラン(SiH4)とアンモニア(NH3)とを気体分子に用いた場合、SiH4は、固体触媒230上での接触分解反応により、Si*、SiH*、SiH2 *、SiH3 *及びH*に分解され、NH3は、N*、NH*、NH2 *及びH*に分解され、それぞれが反応性化学種になると考えられている。
続いて、固体触媒230上で生成した反応性化学種を磁石素体10の表面まで輸送する(第4工程)。輸送方法としては、例えば、上述したガス吹き出し孔223からの原料ガスの吹き出し圧力(ガス導入器222と処理容器210との差圧)を調整することにより、その原料ガスの吹き出す勢いを利用することもできる。この方法は、固体触媒230から磁石素体10の表面までの間に何ら障害物がないため、生成した反応性化学種が磁石素体10の表面以外の壁面等に吸着することなく、該表面に到達できる観点から好ましい。また、固体触媒230と磁石素体10との間に、開口部を有する仕切板を設置し、その固体触媒230側の圧力を磁石素体10側の圧力よりも高くするような差圧を設けることにより、その仕切板の開口部から反応性化学種を固体触媒10に吹き付けることができる。このような方法は、反応性化学種が、固体触媒230から磁石素体10へと比較的迅速に輸送され、拡散し難い傾向にある。したがって、反応性化学種が、処理容器210の壁面等に吸着し難く、浮遊微粒子を形成し難いので、耐食性、密着性により優れた希土類磁石を得ることができる傾向にある。
そして、輸送されてきた反応性化学種を、ホルダー上に配置された磁石素体10の表面に接触させて、所望の膜厚の保護層20を形成する(第5工程)ことにより、希土類磁石100が得られる。この際、保護層20をより容易に磁石素体10上に形成させる観点及び保護層20と磁石素体10との密着性を一層高める観点から、磁石素体10は、ヒータ241により、50〜500℃程度加熱されていると好ましい。
保護層20は、例えば、気体分子として上述したシラン(SiH4)とアンモニア(NH4)とを用いると、以下のようにして形成されると考えられる。上述したようにSiH4とNH3は固体触媒230との接触により、Si*、SiH*、SiH2 *、SiH3 *、N*、NH*、NH2 *、H*等の反応性化学種に分解していると考えられる。これらの反応性化学種のうち、Si*、SiH*、SiH2 *、SiH3 *と、N*、NH*、NH2 *とが磁石素体10の表面上に吸着し、互いに反応して窒化ケイ素(SiNxなど)を含有する保護層20が形成されると考えられる。こうなると、水素(H*)が余剰となるが、水素はH2、すなわち水素分子(水素ガス)となって、排気孔211から排出されるか、若しくは、保護層20中に水素原子として少量取り込まれている。
本実施形態の希土類磁石の製造方法は、いわゆるCat−CVD法(触媒化学気相成長法)、あるいは、熱フィラメントCVD法を用いたものである。したがって、この方法により形成された本実施形態の希土類磁石100は、CVD法の利点である緻密性に優れた保護層20を備えることとなる。しかも、プラズマによる磁石素体10への損傷もなく、浮遊微粒子の発生によるピンホールの形成も十分に抑制されると考えられるので、希土類磁石100は、磁石素体10と保護層20との密着性に十分に優れたものであり、しかも耐食性に十分優れたものとなる。
また、本実施形態の希土類磁石の製造方法を用いると、従来のプラズマCVD法等を用いた場合と比較して、気体利用効率が向上するので、希土類磁石100の製造コストを十分に低減することが可能となる。
さらに、従来のプラズマCVD法により得られたものと比較して、原料ガスに水素原子を有する気体分子が含有されていても、得られる保護層20中に、水素原子を比較的少量しか含まないため、保護層20の脆弱性がより抑制され、そのような観点からも耐食性に一層優れたものとなる。
希土類磁石の用途は、ラインプリンター、自動車用スターター及びモーター、特殊モーター、サーボモーター、磁気記録装置用ディスク駆動、リニアアクチュエーター、ボイスコイルモーター、装置用モーター、工業用モーター、スピーカー及び核磁気共鳴診断用磁石などである。特に自動車用モーター等のオイルが飛沫するような環境で使用する場合においては、保護層が耐酸化性を有しているのみでは、十分に耐食性に優れた希土類磁石を得ることが困難である。かかる観点においても、本実施形態により得られた希土類磁石100は、硫化物、水分、塩水などの種々の腐食要因物質に対する耐性を有しているので、十分に優れた耐食性を備えたものである。
以上、本発明の希土類磁石の製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、保護層20は、磁石素体10に直接積層されなくてもよく、磁石素体10を用意した後に、1層以上の機能層をその磁石素体10の表面上に形成して、その後に、保護層20を最も外側にある機能層の表面上に形成してもよい。機能層は、磁石素体10と保護層20との間の密着性を高める機能、磁石素体10と保護層20との間の過剰な反応を防止する機能、磁石素体10の表面粗さを制御する機能などを有するものが好ましい。その構成材料としては、例えば、Al、Cr、Si、Ti及びNi等の金属、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられ、その形成方法としては、従来公知の気相成長法(蒸着法、スパッタ法等)、若しくは液相成長法(ゾルゲル法、MOD法等)などを採用することができる。
さらに、保護層と同様の構成材料を含有する機能層を、保護層と磁石素体との間に備えてもよい。
また、保護層は、その構成材料を、磁石素体と保護層との積層方向に連続的に変化させて形成してもよい。その形成方法としては、上述した原料ガス中の各気体分子の組成比を、保護層の成膜中に徐々に変化させる方法などが挙げられる。
さらに、本発明の希土類磁石の製造方法に用いる保護層形成装置としては、従来公知のCat−CVD法用の装置を用いてもよい。
(実施例1)
粉末冶金法によって作製した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比)の組成を有する焼結体を、アルゴンガス雰囲気中、600℃で2時間、熱処理した後、56×40×8(mm)の大きさに加工し、さらにバレル研磨処理により面取りを行って磁石素体を得た(第1工程)。
粉末冶金法によって作製した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比)の組成を有する焼結体を、アルゴンガス雰囲気中、600℃で2時間、熱処理した後、56×40×8(mm)の大きさに加工し、さらにバレル研磨処理により面取りを行って磁石素体を得た(第1工程)。
次いで、この磁石素体を、アルカリ性脱脂液で洗浄した後、硝酸溶液により表面の活性化を行い、その後十分に水洗した。続いて、その磁石素体を処理容器としての真空成膜チャンバー内のホルダー上に、ガス吹き出し孔と対向するように載置・固定し、1×10−3Pa以下の到達真空度が得られるまで真空排気した。なお、保護層形成装置として図4に示したものと同様の構成を備える装置を用いている。
次いで、固体触媒としてタングステンフィラメント(太さ0.5mmφ)を網目状に組んだものを、ガス吹き出し孔と磁石素体の固定されたホルダーとの間に、網目がガス吹き出し孔に対向するように設置し、1350℃に加熱し、その温度で維持した。さらに、磁石素体の固体されたホルダーに内蔵されているヒータにより、磁石素体を200℃まで加熱し、その温度で維持した。
次に、ガス吹き出し孔から、シラン(SiH4)を5sccmの流量で、アンモニアガス(NH3)を200sccmの流量でタングステンフィラメントに向けて導入した。この際、真空チャンバー内の圧力が4.0Paとなるように、排気孔の先端にある真空ポンプを用いて調製した。以上の操作により、磁石素体上への保護層の形成が開始された。
保護層は、その膜厚が5μmになるまで積層され、実施例1の希土類磁石を得た。モニター用として、Si基板上に上述と同様の操作により形成された保護層の屈折率を測定したところ、2.0の値が得られ、窒化ケイ素からなる保護層(SiNx)であることが確認できた。
(実施例2)
粉末冶金法によって作製した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比)の組成を有する焼結体を、アルゴンガス雰囲気中、600℃で2時間、熱処理した後、56×40×8(mm)の大きさに加工し、さらにバレル研磨処理により面取りを行って磁石素体を得た(第1工程)。
粉末冶金法によって作製した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比)の組成を有する焼結体を、アルゴンガス雰囲気中、600℃で2時間、熱処理した後、56×40×8(mm)の大きさに加工し、さらにバレル研磨処理により面取りを行って磁石素体を得た(第1工程)。
次いで、この磁石素体を、アルカリ性脱脂液で洗浄した後、硝酸溶液により表面の活性化を行い、その後十分に水洗した。続いて、その磁石素体を処理容器としての真空成膜チャンバー内のホルダー上に、ガス吹き出し孔と対向するように載置・固定し、1×10−3Pa以下の到達真空度が得られるまで真空排気した。なお、保護層形成装置として図4に示したものと同様の構成を備え、更にホルダー240と固体触媒230との間に別のガス吹き出し孔を、ホルダー240に向けてガスが吹き出すように設けた装置を用いた。
次いで、固体触媒としてイリジウムフィラメント(太さ0.254mmφ)を網目状に組んだものを、ガス吹き出し孔と磁石素体の固定されたホルダーとの間に、網目がガス吹き出し孔に対向するように設置した。この際、イリジウムフィラメント及び磁石素体間の距離は40mmとした。次にイリジウムフィラメントを1000℃に加熱し、その温度で維持した。さらに、磁石素体の固体されたホルダーに内蔵されているヒータにより、磁石素体を200℃まで加熱し、その温度で維持した。
次に、図4の符号223に相当するガス吹き出し孔から、窒素(N2)をキャリアガスとしたトリメチルアルミニウム(TMA)を1sccmの流量でイリジウムフィラメントに向けて導入し、酸素(O2)ガスを1.5sccmの流量で、上述の別のガス吹き出し孔から導入した。この際、真空チャンバー内の圧力が100Paとなるように、排気孔の先端にある真空ポンプを用いて調製した。以上の操作により、磁石素体上への保護層の形成が開始された。
保護層は、その膜厚が5μmになるまで積層され、実施例2の希土類磁石を得た。形成された保護層をX線回折法(XRD)及びフーリエ変換赤外吸収分光法(FTIR)により観察したところ、酸化アルミニウム(アルミナ)を含有する保護層であることが確認できた。
(比較例1)
真空成膜チャンバーへの磁石素体の固定を実施例1と同様に行なった。次いでプラズマCVD法を用いて保護層を膜厚5μmとなるように磁石素体表面に形成した。この際、原料ガスとしては、流量50sccmのSiH4(20体積%)ガスとArガスとの混合ガス、及び流量200sccmのNH3ガスを用い、そのガスを真空成膜チャンバー内に導入し、該チャンバー内のガス圧力を20Paに維持して、所定膜厚になるまで保護層を成膜した。これにより、比較例1の希土類磁石を得た。この時の磁石素体の表面温度は200℃を保った。また、プラズマは13.56MHzの高周波電源を用い、投入パワー300Wで放電させた。
真空成膜チャンバーへの磁石素体の固定を実施例1と同様に行なった。次いでプラズマCVD法を用いて保護層を膜厚5μmとなるように磁石素体表面に形成した。この際、原料ガスとしては、流量50sccmのSiH4(20体積%)ガスとArガスとの混合ガス、及び流量200sccmのNH3ガスを用い、そのガスを真空成膜チャンバー内に導入し、該チャンバー内のガス圧力を20Paに維持して、所定膜厚になるまで保護層を成膜した。これにより、比較例1の希土類磁石を得た。この時の磁石素体の表面温度は200℃を保った。また、プラズマは13.56MHzの高周波電源を用い、投入パワー300Wで放電させた。
モニター用としてSi基板上に上述と同様の操作により形成された保護層の屈折率を測定したところ、2.0の値が得られ、窒化ケイ素からなる保護層(SiNx)であることが確認できた。
<耐食性評価>
得られた実施例1、2及び比較例1の希土類磁石について、水蒸気雰囲気、120℃、0.2×106Paにおける24時間の加湿高温試験、およびJIS−C−0023による24時間の塩水噴霧試験を行い、耐食性を評価した。外観を肉眼で検査し、発錆の有無で合否を判定した。
得られた実施例1、2及び比較例1の希土類磁石について、水蒸気雰囲気、120℃、0.2×106Paにおける24時間の加湿高温試験、およびJIS−C−0023による24時間の塩水噴霧試験を行い、耐食性を評価した。外観を肉眼で検査し、発錆の有無で合否を判定した。
その結果、加湿高温試験においては、実施例1、2及び比較例1の希土類磁石について、いずれも発錆が認められなかったが、塩水噴霧試験においては、実施例1、2の希土類磁石については発錆が認められなかったが、比較例1の希土類磁石は発錆が認められた。
さらに、上記耐食性評価試験を行なった後、保護層の状態を確認した。まず、SEMによる保護層の表面観察を行ったところ、比較例1の希土類磁石においては保護層に部分的に膜剥離が認められた。この要因としては、チャンバー内壁に付着した膜が剥離し、パーティクルとして磁石素体に付着して保護膜の欠陥を生じさせたため、あるいは、保護層自体の内部応力によりチッピングが発生しているためと推定される。
さらに、保護層の組成を水素前方散乱分析(HFS)により確認したところ、実施例1の希土類磁石に備えられた保護層は、H原子濃度が0.8原子%であったのに対し、比較例1の希土類磁石に備えられた保護層は、H原子濃度が17.4原子%であることがわかった。
10…磁石素体、20…保護層、100…希土類磁石、200…保護層形成装置、210…処理容器、211…排気孔、220…ガス導入ノズル、222…ガス導入器、223…ガス吹き出し孔、230…固体触媒、233…触媒ヒータ、240…ホルダー、241…ヒータ。
Claims (12)
- 1種以上の気体分子を固体触媒に接触させて生成した前記気体分子に由来する反応性化学種を、希土類元素を含有する磁石素体の表面に接触させて、前記磁石素体の表面上に前記反応性化学種に由来する保護層を形成すること、を特徴とする希土類磁石の製造方法。
- 1種以上の気体分子を処理容器内に導入する第1工程と、
前記気体分子を前記処理容器内に配置された固体触媒の表面まで輸送する第2工程と、
前記気体分子を前記固体触媒の表面に接触させて、前記気体分子に由来する反応性化学種を生成する第3工程と、
前記反応性化学種を、前記処理容器内に配置された希土類元素を含有する磁石素体の表面まで輸送する第4工程と、
前記反応性化学種を前記磁石素体の表面に接触させて、前記磁石素体の表面上に前記反応性化学種に由来する保護層を形成する第5工程と、
を含むことを特徴とする希土類磁石の製造方法。 - 前記保護層が、その構成材料として、窒化ケイ素、炭化ケイ素、水素化アモルファスシリコン、水素化多結晶シリコン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム及び炭化ジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上の材料を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記1種以上の気体分子として、ケイ素原子を有する分子、アルミニウム原子を有する分子、ジルコニウム原子を有する分子及びチタニウム原子を有する分子からなる群より選ばれる1種以上の分子を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記1種以上の気体分子として、窒素原子を有する分子、炭素原子を有する分子及び酸素原子を有する分子からなる群より選ばれる1種以上の分子を更に用いることを特徴とする請求項4記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記ケイ素原子を有する分子として、水素化ケイ素分子を用いることを特徴とする請求項4又は5に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記アルミニウム原子を有する分子として、トリメチルアルミニウムを用いることを特徴とする請求項4又は5に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記ジルコニウム原子を有する分子として、ジルコニウムアルコキシドを用いることを特徴とする請求項4又は5に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記チタニウム原子を有する分子として、チタニウムアルコキシドを用いることを特徴とする請求項4又は5に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記窒素原子を有する分子として、アンモニア分子を用いることを特徴とする請求項5〜9のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記炭素原子を有する分子として、アセチレン分子を用いることを特徴とする請求項5〜9のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記固体触媒が、その構成材料として、タングステン、タンタル、モリブデン及びイリジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属を含有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
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