JP4457881B2 - 希土類磁石 - Google Patents

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Description

本発明は、希土類磁石、特に表面上に保護層を設けた希土類磁石に関するものである。
近年、25MGOe以上の高エネルギー積を示す永久磁石として、いわゆるR−Fe−B系磁石(RはNdなどの希土類元素を示す。)が開発されており、例えば特許文献1では焼結により形成されるR−Fe−B系磁石が、また特許文献2では、高速急冷により形成されるものが開示されている。しかしながら、R−Fe−B系磁石は、主成分として比較的容易に酸化される希土類元素及び鉄を含有するため、その耐食性が比較的低く、そのことに起因して、製造時及び使用時に磁石としての性能が劣化すること、及び/又は、製造された磁石の信頼性が比較的低いこと等の課題があった。このようなR−Fe−B系磁石の耐食性を改善することを目的として、これまでに、例えば、特許文献3〜9に記載されているように、種々の保護膜をその磁石表面に形成する提案がなされている。
より具体的には、例えば特許文献5において、R−Fe−B系磁石の耐酸化性の改善を意図して、R(RはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)8原子%〜30原子%、B2原子%〜28原子%、Fe42原子%〜90原子%を主成分とし主相が正方晶相からなる永久磁石体表面に、耐酸化性化成被膜と樹脂層を順次積層被覆してなる永久磁石が提案されている。
特開昭59−46008号公報 特開昭60−9852号公報 特開昭60−54406号公報 特開昭60−63901号公報 特開昭60−63902号公報 特開昭61−130453号公報 特開昭61−166115号公報 特開昭61−166116号公報 特開昭61−270308号公報
しかしながら、本発明者らは、上記特許文献1〜9に記載のものを始めとする従来の希土類元素を含有する希土類磁石について詳細に検討を行ったところ、このような従来の希土類磁石は、十分な耐食性を有していないことを見出した。すなわち、従来のSiO2膜若しくはNiめっきなどを保護層として設けた希土類磁石は、大気中の酸素若しくは水などに対する耐性、つまり耐酸化性の改善を目的としたものであり、その他の物質に対する耐性を考慮していないことが明らかになった。このような耐酸化性の改善のみを目的として得られる従来の希土類磁石は、実際の使用環境において必ずしも耐食性に十分優れているものとはいえない。
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、十分に優れた耐食性を有する希土類磁石を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、その磁石素体の表面上に、耐硫化性を有するように形成されたAl、Ta、Zr、Hf、Nb、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Fe、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb及びInからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含有する保護層とを備えることを特徴とする。ここで、希土類磁石が「耐硫化性を有する」か否かについては、例えば、以下のようにして行われる「耐油試験」により判断される。すなわち、「耐油試験」は、まず、希土類磁石を150℃の試験油(新日本石油株式会社製、API SL/EC ILSAC GF−3 SAE5W−30)中に500時間浸漬する。その後、該希土類磁石を試験油から取り出し、磁石素体中に硫黄が存在しているか否かを確認する。その結果、磁石素体中に本来磁石素体が含有している量以上の硫黄の存在が認められなければ「耐硫化性を有する」こととする。
かかる本発明の希土類磁石は、その使用環境において硫化物が存在していてもその硫化物による腐食を十分に抑制することができる。また、Al、Ta、Zr、Hf、Nb、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Fe、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb又はInの酸化物はいずれも、酸素若しくは水(水蒸気)による腐食よりも、硫化物による腐食の方が容易に発生すると考えられるため、硫化物による腐食を十分に抑制することにより、酸素若しくは水による腐食を十分に抑制することができる。さらに、希土類磁石の用途のなかで、希土類磁石が比較的苛酷な雰囲気に晒されるものとしては、自動車用モーター、特殊モーター、サーボモーター、リニアアクチュエーター、ボイスコイルモーター、装置用モーター及び工業用モーターなどであることを考慮すると、硫化物、酸素及び水による腐食を十分に抑制される希土類磁石であれば、十分に優れた耐食性を有することとなる。
また、上述した酸化物は化学的安定性が比較的高いものと考えられるので、これらの酸化物を用いた保護層は、その形成過程及び/又は使用中において、ピンホール等の欠陥の発生を十分に抑制することができる。このことにも起因して、本発明の希土類磁石は十分な耐食性を有していると推定される。ただし、本発明の希土類磁石が十分に優れた耐食性を有している要因はこれらに限定されない。
本発明の希土類磁石において、保護層は酸化物を含有する単層の酸化物層であってもよく、磁石素体と保護層との積層方向に沿って形成された複数の層からなり、保護層のうちの1層以上がAl、Ta、Zr、Hf、Nb、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Fe、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb及びInからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含有する酸化物層であってもよい。保護層が複数の層からなることにより、磁石素体と保護層との密着性の向上、磁石素体及び保護層間の反応の抑制、並びに/又は磁石素体の表面粗さの制御等が可能となるので、本発明の希土類磁石に磁気特性の向上及び劣化の更なる抑制等の効果を更に付与することができる。
また、本発明の希土類磁石が複数の保護層を備える場合において、それら保護層のうち少なくとも上記磁石素体から最も遠い位置に形成された層が上述した酸化物層であると好ましい。保護層をかかる構成にすることにより、該酸化物層が、保護層に含まれる他の層の腐食をも十分に防止することができる。その結果、本発明の希土類磁石は、それらの層の有する機能を損ない難くなるので、その寿命が一段と長くなる傾向にある。
さらに、それら保護層のうち少なくとも磁石素体に隣接して形成された層が金属からなると好ましい。保護層をかかる構成にすることにより、磁石素体と保護層との密着性が一層高くなるので、磁石素体から保護層が剥離することにより発生しうる腐食、それに起因する磁気特性の低下などを更に抑制することが可能となる。
本発明の希土類磁石において、保護層が磁石素体の表面全体を被覆していると好ましい。かかる構成を備えることにより、本発明の希土類磁石は、より幅広い用途に用いることができる。
本発明の希土類磁石は、保護層のうちの上記酸化物層の酸素含有量が、その酸化物における酸素の化学量論量よりも少ないと好ましい。すなわち、例えば、酸化物層に用いられる酸化物が単独酸化物であって、その酸化物を構成する金属元素がn価のものである場合、その酸化物における金属元素及び酸素の化学量論比は2:nとなる。かかる場合に、保護層のうちの酸化物層の酸素含有量が金属元素含有量のn/2倍よりも少ないと好ましい。酸化物層がこのような組成を有することにより、本発明の希土類磁石は一層耐食性に優れたものとなる。
かかる酸化物層を備える本発明の希土類磁石が一層耐食性に優れたものとなる要因は明らかにされていないが、本発明者らは現在のところ以下のように考えている。ただし要因はこれらに限定されない。すなわち、酸化物層中の酸素含有量が、その酸化物中の酸素の化学量論量以上になると、例えば硫化物が存在するような雰囲気において酸化物自体が不安定となり、より安定化するために酸素を放出すると推定される。このことにより、酸化物層を形成した際には発生していなかった酸素欠陥が生じることとなり、それに起因して酸化物層内にピンホール及び/又はクラックが発生するため、結果として耐食性が低下するものと推定される。一方、酸化物層中の酸素含有量がその酸化物中の酸素の化学量論量よりも少ないと、上述したような酸素の放出がないためにピンホールやクラックは発生し難いので、かかる酸化物層を備える希土類磁石は十分に優れた耐食性を有するものと考えられる。
また、従来の希土類磁石においては、磁石素体の表面上に酸化物を構成材料とする酸化物層を設けても、その酸化物層と磁石素体との密着性が比較的良好ではなかったため、酸化物層の剥離が容易に発生し、その結果、耐食性が低下する傾向にあった。一方、上述の酸化物層を備える本発明の希土類磁石においては、酸化物層中に含有される酸素の量を化学量論量よりも少なくすることにより、酸化物層と磁石素体との密着性が改善され、その結果、耐食性が向上する傾向にあると考えられる。
同様の観点から、上記酸素含有量が、その酸化物における酸素の化学量論量に対して94%超100%未満に相当する量であると、より好ましい。この酸素含有量がその酸化物における酸素の化学量論量に対して94%以下に相当する量であると、例えば希土類磁石が硫化物を含む雰囲気中に配置された場合に、その酸化物層内に雰囲気中の硫黄成分が一層取り込まれる傾向にあると推測される。その結果、硫黄成分を取り込んだ酸化物はより安定化するものの、耐食性は低下する傾向にある。耐食性の低下要因としては、酸化物層中に取り込まれた硫黄成分の磁石素体への移動、あるいは硫黄成分を取り込んだことによる成膜時からの酸化物層の状態の変化に伴う内部応力の発生などが考えられるが、要因はこれらに限定されない。
本発明の希土類磁石は、保護層に含有される酸化物が酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化バリウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化鉄、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化カルシウム(カルシア)、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化ランタン、酸化鉛及び酸化インジウムからなる群より選ばれる1種の酸化物であると、成膜及び組成制御の容易さ等の観点から好ましく、同様の観点から、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム及び酸化ニオブからなる群より選ばれる1種の酸化物であるとより好ましい。
本発明の希土類磁石は、保護層のうちの酸化物層が、磁石素体に隣接して形成されている場合において、磁石素体に隣接した面を含む第1部分層と、上記面と反対側の面を含む第2部分層とを有し、その第1部分層中の酸素の含有割合が、第2部分層中の酸素の含有割合よりも少ないと好ましい。
このような酸化物層は、磁石素体に隣接している第1部分層で金属成分が多く含まれる傾向にあるので、磁石素体と保護層との密着性が高くなる傾向にある。また、第2部分層は、金属酸化物としての組成(構造)を有することとなるので、より優れた耐食性をも併せ持つ傾向にある。
本発明の希土類磁石に備えられる保護層中の酸化物層は、気相成長法(ドライプロセス)により形成されるものであると好ましい。例えば、上述したR−Fe−B系の希土類磁石の磁石素体は、図5に模式的に示すように、主として、主相50と、希土類元素を比較的多く含む希土類リッチ相60と、ホウ素を比較的多く含むホウ素リッチ相70とを含んで構成される。このうち希土類リッチ相60はその大部分が主相50の粒子間に存在していると考えられる。かかる構成を有する磁石素体の表面上に、酸性水溶液を用いて保護層を形成する場合、酸化還元電位(標準電極電位)が極めて低い希土類元素を比較的多く含有する希土類リッチ相60は、磁石素体の表面に存在する部分から酸性水溶液に接触して、主相50あるいはホウ素リッチ相70と局部電池を形成すると考えられる。その結果、希土類リッチ相60は磁石素体の表面に存在するものから順に溶出していき、主相50の粒界腐食のような現象を引き起こしてしまい、磁石素体が磁石として十分に機能しなくなる傾向にあると推定される。したがって、保護層の形成の際には、水溶液を用いる必要のない気相成長法を採用することが好ましい。
本発明の希土類磁石は、更に耐食性を高める観点及び十分な磁気特性を確保する観点から、その保護層の膜厚が0.01〜20μmであると好ましく、酸化物層の膜厚が0.01〜20μmであると好ましい。同様の観点から、保護層が0.1〜20μmの膜厚を有するとより好ましく、酸化物層が0.01〜10μmの膜厚を有するとより好ましい。
本発明によれば、十分に優れた耐食性を有する希土類磁石を提供することができる。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
図1は、本発明に係る希土類磁石の第1実施形態を示す模式斜視図であり、図2は図1の希土類磁石をI−I線により切断した際に現れる断面を模式的に表した図である。図1、2から明らかなとおり、第1の実施形態の希土類磁石100は磁石素体10と、その磁石素体10の表面の全体を被覆して形成される保護層20とから構成されるものである。
(磁石素体)
磁石素体10は、R、鉄(Fe)及びホウ素(B)を含有するものである。Rは1種以上の希土類元素を示すものであり、具体的には、長周期型周期表の3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイドからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。ここで、ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)を指す。
上述した元素の磁石素体10中の組成は、該磁石素体10を焼結法により製造する場合、以下に説明するようなものであると好ましい。
Rとしては、上述したもののうち、Nd、Pr、Ho、Tbのうち1種以上の元素を含むと好ましく、さらに、La、Sm、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb、Yのうち1種以上の元素を含んでも好ましい。
磁石素体10中のRの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、8〜40原子%であると好ましい。Rの含有割合が8原子%未満では、結晶構造がα−鉄と同一構造の立方晶組織となるため、高い保磁力(iHc)を有する希土類磁石100が得られない傾向にある。また、Rの含有割合が40原子%を超えると、Rリッチな非磁性相が多くなり、希土類磁石100の残留磁束密度(Br)が低下する傾向にある。
磁石素体10中のFeの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、42〜90原子%であると好ましい。Feの含有割合が42原子%未満であると希土類磁石100のBrが低下する傾向にあり、90原子%を超えると希土類磁石100のiHcが低下する傾向にある。
磁石素体10中のBの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、2〜28原子%であると好ましい。Bの含有割合が2原子%未満であると結晶構造が菱面体組織となるため、希土類磁石100のiHcが不十分となる傾向にあり、28原子%を超えるとBリッチな非磁性相が多くなるため、希土類磁石100のBrが低下する傾向にある。
また、Feの一部をコバルト(Co)で置換して磁石素体10を構成してもよい。このような構成にすることにより、希土類磁石100の磁気特性を損なうことなく温度特性を改善できる傾向にある。この場合、置換後のFeとCoの含有割合は、原子基準でCo/(Fe+Co)が0.5以下であると好ましい。これよりもCoの置換量が多いと希土類磁石100の磁気特性が低下してしまう傾向にある。
さらに、Bの一部を炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)及び銅(Cu)からなる群より選ばれる1種以上の元素で置換して磁石素体10を構成してもよい。かかる構成にすることにより、希土類磁石100の生産性が向上し、その生産コストを削減できる傾向にある。この場合、これらC、P、S及び/若しくはCuの含有量は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して4原子%以下であると好ましい。C、P、S及び/若しくはCuの含有量が4原子%よりも多いと、希土類磁石100の磁気特性が劣化する傾向にある。
また、希土類磁石100の保磁力の向上、生産性の向上及び低コスト化の観点から、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)及び/又はハフニウム(Hf)等のうちの1種以上の元素を添加して、磁石素体10を構成してもよい。この場合、上記元素の添加量は磁石素体10を構成する全原子の量に対して10原子%以下とすると好ましい。これらの元素の添加量が10原子%を超えると希土類磁石100の磁気特性が低下する傾向にある。
磁石素体10中には、不可避的不純物として、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び/又はカルシウム(Ca)等が、磁石素体10を構成する全原子の量に対して3原子%以下の範囲内で含有されていてもよい。
磁石素体10は、図5に示すように、実質的に正方晶系の結晶構造を有する主相50と、希土類元素を比較的多く含む希土類リッチ相60と、ホウ素を比較的多く含むホウ素リッチ相70とを含有して形成されている。磁性相である主相50の粒径は1〜100μm程度であると好ましい。希土類リッチ相60及びホウ素リッチ相70は非磁性相であり、主に主相50の粒界に存在している。これら非磁性相60、70は、磁石素体10中に通常、0.5体積%〜50体積%程度含有されている。
磁石素体10は、例えば以下に述べるような焼結法により製造される。まず、上述した元素を含有する所望の組成物を鋳造し、インゴットを得る。続いて、得られたインゴットを、スタンプミル等を用いて粒径10〜100μm程度に粗粉砕し、次いで、ボールミル等を用いて0.5〜5μm程度の粒径に微粉砕して粉末を得る。
次に、得られた粉末を、好ましくは磁場中にて成形して成形体を得る。この場合、磁場中の磁場強度は10kOe以上であると好ましく、成形圧力は1〜5トン/cm程度であると好ましい。
続いて得られた成形体を、1000〜1200℃で0.5〜5時間程度焼結し、急冷する。なお、焼結雰囲気は、Arガス等の不活性ガス雰囲気であると好ましい。そして、好ましくは不活性ガス雰囲気中で、500〜900℃にて1〜5時間熱処理(時効処理)を行うことにより上述したような磁石素体10が得られる。
(保護層)
保護層20は、磁石素体10の表面上に耐硫化性を有するように形成されたものであり、Al、Ta、Zr、Hf及びNbからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物、又は、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Fe、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb及びInからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物、すなわち、Al、Ta、Zr、Hf、Nb、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Fe、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb及びInからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含有する。
本実施形態においては、保護層20は単層の酸化物層である。したがって、本実施形態における酸化物層は露出された状態になっており、希土類磁石100の周囲の雰囲気に晒されていると共に、磁石素体10に隣接している。
上述したように保護層20は、耐硫化性を有するように形成されたものであり、より具体的には、上記「耐油試験」により耐硫化性を有していることを確認されていれば、希土類磁石を形成する度に耐油試験を行う必要はない。すなわち、特定の保護層の形成方法を用いて、磁石素体10の表面上に保護層20を形成した後、その保護層20を備えた希土類磁石100が、耐油試験により「耐硫化性を有する」ものであることが確認されていれば、同様の保護層の形成方法を用いて得られる希土類磁石は耐油試験を行わなくても「耐硫化性を有して」いるものと認められる。
また、本実施形態の希土類磁石100が耐硫化性を有するように形成される方法としては、例えば、保護層20の構成材料である酸素の含有量を調整する、保護層20の膜厚を調整する、若しくは保護層20の形成方法を調整する、などの方法を挙げることができるが、これらに限定されない。
保護層20の構成材料は、Al、Ta、Zr、Hf及びNbからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物、又は、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Fe、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb及びInからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物、すなわち、Al、Ta、Zr、Hf、Nb、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Fe、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb及びInからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物からなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含有する。これらの元素の酸化物はいずれも、酸素若しくは水(水蒸気)などの含酸素化合物による腐食に対しては比較的強い耐性を有している。一方、上記元素の酸化物はいずれも、HS等の硫化物による腐食に対する耐性が、酸素若しくは水による腐食に対する耐性と比較して弱いものと考えられる。したがって、上述した「耐油試験」を行って、耐硫化性を有していることが確認された希土類磁石100は、硫化物よる腐食のみでなく、酸素若しくは水による腐食をも十分に抑制することができる。
また、希土類磁石の用途は、ラインプリンター、自動車用スターター及びモーター、特殊モーター、サーボモーター、磁気記録装置用ディスク駆動、リニアアクチュエーター、ボイスコイルモーター、装置用モーター、工業用モーター、スピーカー及び核磁気共鳴診断用磁石などである。特に自動車用モーター等のオイルが飛沫するような環境で使用する場合においては、保護層が耐酸化性を有しているのみでは、十分に耐食性に優れた希土類磁石を得ることが困難である。かかる観点においても、本実施形態の希土類磁石100は、耐硫化性を有しているので、十分に優れた耐食性を備えたものである。
さらに、Al、Ta、Zr、Hf、Nb、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Fe、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb又はInの酸化物は化学的安定性が比較的高いものと考えられる。よってこれら金属酸化物を用いた保護層20内に、ピンホール等の欠陥は発生し難い。このことにも起因して、本実施形態の希土類磁石100は十分な耐食性を有していると推定される。
本実施形態の保護層(以下、本実施形態において場合によっては「酸化物層」ともいう。)20の構成材料は、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム及び酸化ニオブからなる群より選ばれる1種の酸化物であると好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化バリウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化鉄、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化カルシウム(カルシア)、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化ランタン、酸化鉛及び酸化インジウムからなる群より選ばれる1種の酸化物であっても好ましい。すなわち、保護層20の構成材料は酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化バリウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化鉄、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化カルシウム(カルシア)、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化ランタン、酸化鉛及び酸化インジウムからなる群より選ばれる1種の酸化物であると好ましい。また、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム及び酸化ニオブからなる群より選ばれる1種の酸化物であるとより好ましい。保護層20がこのような単独酸化物から構成されると、保護層の形成及び組成制御を容易に行うことができる傾向にあると共に、化学的安定性がより高くなる傾向にある。
保護層20は結晶質であってもよく、非晶質であってもよく、それらの状態が混在した状態であってもよい。
本実施形態において、酸化物層20中の酸素含有量が、その酸化物における酸素の化学量論量よりも少ないと好ましい。以下、酸化物層20の構成材料が酸化アルミニウムの単独酸化物である場合を例に挙げて説明する。酸化アルミニウムにおける「酸素の化学量論量」とは、化学量論組成の酸化アルミニウム、すなわちAlにおける酸素含有量であるので、アルミニウムの含有量に対して酸素の含有量が、原子基準で1.5倍となる。本実施形態においては、この酸素含有量がアルミニウムの含有量に対して原子基準で1.5倍未満となると好ましい。
また、酸化物層20の構成材料がチタンとジルコニウムの複合酸化物である際には、その複合酸化物における「酸素の化学量論量」とは、チタンとジルコニウムとを1:1(原子基準)で含有している場合には、化学量論組成のその複合酸化物、すなわちTiZrOにおける酸素含有量である。したがって、この複合酸化物における「酸素の化学量論量」は、そのチタンとジルコニウムの合計含有量に対して原子基準で2倍となり、酸素含有量がこれより少なくなると好ましい。
さらに、酸化物層20が酸化チタン(化学量論組成:TiO)及び酸化タンタル(化学量論組成:Ta)を構成材料とし、その構成材料中にチタン及びタンタルがn:m(原子基準)で含有されている場合は、上記「酸素の化学量論量」は、チタン及びタンタルの合計含有量に対して、原子基準で(2n+5m/2)/(n+m)倍となり、酸素含有量がこれより少なくなると好ましい。
一般に、酸化物に限らず多くの化合物、特に固体化合物は、化学量論組成である場合に、その化学的安定性が高くなる(例えば、腐食が発生し難いなど)と考えられている。しかしながら、このことは、単結晶や多結晶などの、結晶構造を有するバルク状の化合物材料について該当するものであると考えられる。言い換えると、その化合物が非晶質である場合、あるいはその化合物が結晶相を有していても薄膜である場合は、その化合物が化学量論組成であるからといって、必ずしも化学的に高い安定性を示すとは限らない。特に、その化合物からなる固体(層)が他の固体(層)と界面を形成する場合、さらに、その化合物からなる固体(層)が別の固体(層)に挟まれている場合等は、その化合物の組成が化学量論組成であるよりも、多少偏倚している方が、化学的に高い安定性を示すことが比較的多いと考えられる。
本実施形態においても同様のことがいえ、現在のところ、本発明者らは、その要因を以下のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。
酸化物層中の酸素含有量が化学量論量以上になると、例えば、その酸化物層を備えた希土類磁石が硫化物の存在する雰囲気に置かれると、酸化物層を構成する酸化物自体が化学的に不安定となり、より安定化するために酸素を放出すると推定される。このことにより、酸化物層を磁石素体の表面上に形成した際には発生していなかった酸素欠陥が、その酸化物層中に生じることとなり、それに起因して該酸化物層内にピンホール及び/又はクラックが発生すると考えられる。その結果、希土類磁石の耐食性が低下するものと推定される。
一方、本実施形態の希土類磁石100においては、酸化物層20中の酸素含有量がその酸化物中の酸素の化学量論量よりも少ないため、上述したような酸素の放出がないと考えられる。したがって、酸化物層20中にピンホールやクラックは発生し難く、その結果、かかる酸化物層20を備える希土類磁石100は十分に優れた耐食性を有するものと推定される。
本実施形態における酸化物層20中の酸素含有量は、酸化物層20を構成する酸化物における酸素の化学量論量に対して94%超100%未満に相当する量であるとより好ましい。この酸素含有量が、その酸化物における酸素の化学量論量に対して94%以下に相当する量であると、酸素欠陥が過剰に存在し化学的安定性が低下する傾向にあるため、その欠陥を補充すべく雰囲気中の成分、例えば硫黄成分が酸化物層中にアニオン成分として取り込まれる傾向にあると考えられる。その結果、硫黄成分を取り込んだ酸化物層20はより安定化するものの、耐食性は低下する傾向にある。耐食性の低下要因としては、酸化物層20中に取り込まれた硫黄成分の磁石素体10への移動、あるいは硫黄成分を取り込んだことによる成膜時からの酸化物層20の状態の変化に伴う内部応力の発生などが考えられるが、要因はこれらに限定されない。
また、酸化物層20が、磁石素体10に隣接した面32を含む第1部分層と、上記面32と反対側の面34を含む第2部分層とを有し、その第1部分層中の酸素の含有割合が、第2部分層中の酸素の含有割合よりも少ないと好ましい。ここで、「第1部分層」及び「第2部分層」は、それぞれの部分層の酸素の含有割合が、厚さ方向でほぼ一定であるような層であってもよい。
酸化物層20中の酸素の組成分布をこのように調整することにより、保護層20が単層であっても、磁石素体10と保護層20との密着性を十分に確保することができる。しかも、希土類磁石100の十分に優れた耐食性をも確保することが可能となる。すなわち、酸化物層20において、磁石素体10と隣接する面32を含む第1部分層では、金属酸化物を構成する金属原子の含有割合が比較的高くなっているため、金属成分を主成分とする磁石素体10との密着性を十分に高くできる傾向にある。一方、硫化物などの腐食要因物質が存在する雰囲気と接している酸化物層20の面34を含む第2部分層では、酸素を比較的多く含有することにより金属酸化物としての組成(構造)を有することとなるので、十分に優れた耐食性を有する傾向にある。
なお、この場合、第1部分層と第2部分層との間に更に別の部分層を有していてもよく、その別の部分層における酸素の含有割合は特に限定されない。したがって、その別の部分層中の酸素の含有割合が第2部分層よりも多くてもよく、第1部分層よりも少なくてもよく、第1及び第2部分層における酸素の含有割合の間になるような数値であってもよい。また、第1部分層及び第2部分層の好適な厚さは、磁石素体10や酸化物層20の構成材料などにより異なるので、一義的には決定されない。
さらに、酸化物層20中の酸素の含有割合が、磁石素体10に近い側(磁石素体10に隣接する面32側)から、磁石素体10から離れた側(露出した面34側)に向かうにつれて、すなわち、酸化物層20の厚さ方向外側に向かうにつれて、連続的に変化していてもよい。例えば、酸化物層20の厚さ方向外側に向かうにつれて、酸素の含有割合が、連続的に減少していてもよい。
この場合、希土類磁石100の耐食性を更に高める観点から、酸化物層20中の表面34及びその付近における酸素含有量が、その酸化物層20を構成する酸素の化学量論量に対して94%超100%未満に相当する量であると、より好ましい。また、磁石素体10との界面32側の酸化物層20の表面及びその付近においては、酸素含有量を少なくするほど、磁石素体10との密着性を高めることができるので、より好ましい。
酸化物層20中の酸素などの各構成材料の含有量はEPMA(X線マイクロアナライザー法)、XPS(X線光電子分光法)、AES(オージェ電子分光法)若しくはEDS(エネルギー分散型蛍光X線分光法)等の公知の組成分析法を用いて確認することができる。さらに、エッチング等の公知の手法を用いて露出させた希土類磁石100中の各層を、あるいは、希土類磁石100を切断することにより現れる断面を、上記の組成分析法を用いて分析することにより、上述の各層の構成材料の組成分布を把握することができる。
本実施形態の希土類磁石100においては、耐食性の向上の観点及び十分な磁気特性の確保の観点から、その保護層20の膜厚が0.01〜20μmであると好ましく、0.1〜20μmであるとより好ましく、更に生産コスト等の観点から0.3〜10μmであると、一層好ましい。
保護層(酸化物層)20の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法若しくは溶射法等の気相成長法、塗布法若しくは溶液析出法等の液相成長法、あるいはゾルゲル法等の公知の成膜技術を用いることができる。これらのなかで、磁石素体10の構成材料の溶出に伴う希土類磁石100の機能低下を防止する観点、及び酸化物層20中の酸素含有量をより容易に制御できる観点から、気相成長法(ドライプロセス)を用いると好ましく、反応性真空蒸着法、反応性スパッタ法、反応性イオンプレーティング法、プラズマCVD法、熱CVD法若しくはCat−CVD法を用いるとより好ましい。
さらに保護層20をより低コストで形成する観点から、一度に大面積を均一に形成できる方法を用いると好ましい。そのような保護層20の形成方法としては、スパッタ法、CVD法等が挙げられる。これらの方法は、フラットパネルディスプレイの分野で大面積の層を均一に形成する成膜技術が確立されているので、それらを応用して適用することができる。
一方、真空蒸着法は一般的に蒸着源が点源であるため、一度に大面積の層を均一に形成する必要のあるディスプレイの形成に用いるには不利な面があるものの、本実施形態の希土類磁石100は比較的小型であるため、ディスプレイの形成と比較すると容易に保護層20を形成することができる。しかしながら、真空蒸着法は、そもそも一度に成膜できる面積が小さいため、保護層20の形成コストが高くなる傾向にある。真空蒸着法を用いる場合において、保護層20の形成コストを下げるには、成膜速度を上げる必要がある。しかしながら、成膜速度が高くなるとスプラッシュ等の粗大粒子が発生し、それに起因して、均一な表面を有する保護層20が得られない傾向にある。
また、イオンプレーティング法は、減圧容器中で、陽極としてコーティング材(本実施形態においては保護膜20の構成材料)、陰極として被コーティング基板(本実施形態においては磁石素体10)を配置し、反応性ガスの存在下若しくは非存在下で、陽極を加熱することによりコーティング材を原子状、分子状又は微粒子状にし、それを熱電子等でイオン化したものを陰極の被コーティング基板に付着させる手法である。
イオンプレーティング法において、イオン化する物質の加熱方法としては、るつぼ方式若しくは直接抵抗加熱方式の抵抗加熱法、高周波誘導加熱法、又は電子線加熱法などを用いることができる。これらのうち抵抗加熱法は、蒸気圧の低い無機化合物を成膜するには適さない傾向にある。また、電子線加熱法は、様々な材料を蒸発することができるが、成膜速度が高くなるとスプラッシュ等の粗大粒子が発生し、それに起因して、均一な表面を有する保護層20が得られない傾向にある。
さらにイオンプレーティング法は、蒸着源が点源であるため、上記真空蒸着法と同様に比較的低コストで保護層20を形成することが困難である傾向にある。そこで、イオンプレーティング法を用いて、比較的低コストで保護層20を形成するには、「月刊ディスプレイ」の1999年9月号、第28頁に提案されている圧力勾配型ホローカソード型プラズマガンによる高密度プラズマを利用した成膜装置を用いればよい。この方法はイオンプレーティング法の1種であり、特開平2−209475号公報に記載されているようなシート状プラズマを用いるので、比較的低コストで大面積の層を均一に形成することができる。しかも、この方法はプラズマガンのイオン化率が従来のものと比較して極めて高いため、蒸発粒子のイオン化率が高くなり、基板温度が比較的低温であっても膜密度を高く維持することができ、表面形状を含めた結晶性及び反応性等の膜質改善効果が得られる、などの効果を奏することができる傾向にある。
保護層20を形成する際の成膜温度は特に限定されないが、成膜時の熱履歴が磁石素体10の磁気特性を劣化させない程度であると好ましい。そのような観点から、成膜温度が500℃以下であると好ましく、300℃以下であるとより好ましい。
保護層20を形成する際の雰囲気ガスの組成は特に限定されないが、酸化物層中の酸素含有量をその酸化物中の酸素の化学量論量よりも少なくする場合は、成膜速度、基板温度あるいは雰囲気ガス中の酸素濃度を調整すると好ましい。例えば、酸化物層の構成材料として酸化アルミニウムを用いる場合、成膜速度が0.4nm/秒以上となるように成膜条件を調整すると、得られる酸化物層中の酸素含有量は、Al含有量に対して、原子基準で1.5倍未満となる傾向にある。ここでいう成膜条件とは、例えば、上述のイオンプレーティング法の場合、イオン化する物質の加熱条件などをいう。また、抵抗加熱法及び高周波誘導加熱法においては投入電力、電子線加熱法においては電子線の電流量などがその成膜条件に該当する。
また、保護層20を形成する際に、まず酸化物を構成する金属元素を形成した後、高温酸化法、プラズマ酸化法、陽極酸化法等の後処理により酸素量を制御してもよい。
次に、本発明の希土類磁石の第2の実施形態を、その希土類磁石の模式断面図である図3を参照しながら説明する。
本発明の第2の実施形態の希土類磁石200は、磁石素体10と、その磁石素体10の表面の全体を被覆して形成される保護層20とから構成されるものである。さらに保護層20は、磁石素体10との界面側から、機能層22及び酸化物層24をこの順に積層して形成されている。
ここで、酸化物層24は、上述した第1の実施形態における酸化物層20と同様の構成材料を含有するものである。また、機能層24は、磁石素体10と保護層20との密着性の向上、それらの層間の反応性の防止及び磁石素体10の表面粗さの制御等の機能を、希土類磁石200に付与するために設けられるものである。
本実施形態の希土類磁石200においては、酸化物層24を雰囲気に晒されるように設けており、更に、その酸化物層24によって機能層22及び磁石素体10が被覆されて、雰囲気から完全に遮断されているので、希土類磁石200は一層優れた耐食性を有する傾向にある。特に、機能層22が、比較的容易に腐食する材料から構成されている場合は、酸化物層24によりその機能層22を被覆して形成していないと、機能層22の腐食により、希土類磁石200としての磁気特性等が低下する傾向にあるので、かかる酸化物層24を設けることがより好ましい。
また、機能層22が金属からなる層であると、磁石素体10との密着性を一層高めることができ、結果として磁気特性及び耐食性の更なる向上に繋がるので好ましい。そのような金属としては、例えばAl、Cr、Si、Ti及びNiなどが挙げられる。これらは1種を単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
あるいは、磁石素体10と保護層20との密着性を高める機能層22の構成材料としては、磁石素体10の構成材料の熱膨張係数と比較的近い熱膨張係数を有する材料を選択すると好ましい。かかる材料は、希土類磁石200が高温に曝されたり、又は、高温及び低温の雰囲気に繰り返し曝される熱衝撃を受けたりしても、より優れた密着性を維持することができる。そのような材料としては、上記金属の他に、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられるが、上述した熱膨張係数を有するものであればよい。
磁石素体10と保護層20との間の反応を防止する機能層22の構成材料としては、Al、Ni、Cr、Si、Ti等の金属、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂、無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物等の無機化合物等を用いるとよい。これらのうち、金属を機能層22の構成材料として用いる場合は、磁石素体10の構成材料と合金を形成して磁気特性を低下させないようなものが好ましい。また、樹脂を用いる場合は、機能層22の成膜時に、HO、O等の残留不純物を含まないものであると好ましく、また、高温雰囲気下で形状が安定である熱硬化性樹脂等であると好ましい。
さらに、上記無機化合物は、酸化物層24の構成材料(元素)を含んでいてもよく、あるいは酸化物層24とは異なる構成材料であってもよい。特に、その無機化合物が酸化物層24の構成材料を含む場合には、磁石素体10の構成材料との反応が起こらないように、含まれる酸素、炭素及び/又は窒素の組成範囲を調整したものであればよい。
磁石素体10の表面粗さを制御する機能層22の構成材料としては、上述した密着性を高める機能層の構成材料と同様であればよい。磁石素体10の表面が粗いと、保護層20による被覆性が低下し、例えばピンホール等が発生しやすくなる傾向にある。したがって、上述した材料を磁石素体10の表面上に付与してその表面をある程度平坦にすることにより、保護層20の機能をより効果的かつ確実に引き出すことが可能となる傾向にある。
上述の材料を用いて磁石素体10の表面をある程度平坦にするには、非晶質の状態若しくはそれに近い状態に調製したその材料を用いて機能層22を形成するとよい。このような材料として、例えば、SiOを用いるとより好ましい。SiOは、成膜時に基板表面での流動性が大きく、凹部を選択的に被覆する効果が得られやすいこと、及び、高温状態から徐冷されても結晶化し難い性質を有することにより、好適に用いることができる。
本実施形態の希土類磁石200においては、十分な磁気特性の確保等の観点から、その保護層20の膜厚が0.01〜20μmであると好ましく、0.1〜20μmであるとより好ましく、更に生産コスト等の観点から0.3〜10μmであると一層好ましい。また、酸化物層24の膜厚は、耐食性の向上の観点から、0.01〜20μmであると好ましく、0.01〜10μmであるとより好ましく、更に生産コスト等の観点から0.01〜5μmであると、一層好ましい。
次に、本発明の希土類磁石の第3の実施形態を、その希土類磁石の模式断面図である図4を参照しながら説明する。
本発明の第3の実施形態の希土類磁石300は、磁石素体10と、その磁石素体10の表面の全体を被覆して形成される保護層20とから構成されるものである。さらに保護層20は、磁石素体10との界面側から、第1機能層22、第2機能層26及び酸化物層24をこの順に積層して形成されている。
これらのうち、酸化物層24の構成材料としては第2の実施形態におけるものと同様のものを用いることができ、第1機能層22の構成材料としては、第2の実施形態における機能層22と同様のものを用いることができる。
第2機能層26は、保護層20の耐食効果を更に向上させるべく、酸化物層24の構成材料と同じ材料であって異なる組成比のものを用いてもよく、酸化物を構成材料とするが、酸化物層24に用いた金属元素とは異なる金属元素を用いたものであってもよい。また、第2機能層26は、第1機能層22の有する機能を更に向上させるべく、第1機能層22の構成材料と同じ材料であって異なる組成比のものを用いてもよい。さらに、第2機能層26は、酸化物層24及び第1機能層22とは異なる機能を有していてもよい。より具体的には、第1機能層の構成材料としてAl、Ni、Si、Ti若しくはCrなどの金属を用いる場合、その金属元素を含有する酸化物を第2機能層26の構成材料として用いると好ましい。こうすることにより、第2機能層26は、第1機能層22と酸化物層24との間の密着性(結合性)を向上させる機能を有することとなる。
以上、本発明の希土類磁石の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の別の実施形態の希土類磁石の形状は、図示したような直方体に限定されず、用途に応じた形状を有していればよい。具体的に、ハードディスク装置の駆動部分若しくは自動車用モータに用いられる場合は、円弧状切片の断面を有する柱形であってもよい。また、工業用加工機械に用いられる場合は、リング状や円板状の形状であってもよい。
また、別の実施形態の磁石素体10の構成材料としては、1種以上の希土類元素とCoとを含有するもの、あるいは1種以上の希土類元素とFeと窒素(N)とを含有するものなどが挙げられる。具体的には、例えば、Sm−Co系若しくはSm−Co17系(数字は原子比を表す。)などのSmとCoとを含有するもの、あるいは、Nd−Fe−B系などのNdとFeとBとを含むものなどが挙げられる。
さらに、本発明の希土類磁石は、酸化物層を複数層備え、それらの酸化物層が連続して積層されていてもよく、間に別の層を設けた状態で積層されていてもよい。例えば、上述した第1の実施形態において説明した、酸素含有量が酸化物層20の厚さ方向外側に向かうにつれて減少している保護層20は、酸化物中の金属元素と酸素との含有比が異なる、連続して積層された複数の酸化物層であって、その複数の層のうちのある層の酸素含有量が、その層より外側にある層の酸素含有量よりも少なくなっている複数の層からなるものと見てもよい。
また、本発明の第2実施形態の希土類磁石200が備える磁石素体10を形成した後、磁石素体10の表面粗さを低減する機能層22を設ける前に、硝酸等を用いる化成処理を磁石素体10の表面に施して、その表面の突起を化学エッチングしてもよい。さらに、逆スパッタ法等を用いて加速した原子又はイオンを磁石素体10の表面に衝突させて、その表面の突起を物理エッチングしてもよい。その場合には、機能層22をプラズマ中で表面反応を起こすような反応性ガスを導入することにより形成してもよい。さらにはこれらの方法を組み合わせてもよい。これらの方法を用いることにより、磁石素体10の表面粗さを一層低減することが可能となり、上述した機能層22の形成とあいまって、保護層20の機能を相乗的に発揮できる傾向にある。
さらに、保護層20の形成方法において、保護層20を磁石素体10の表面の全体を被覆するように設けるために、いわゆるバレル蒸着を用いて保護層20を形成すると好ましい。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、粉末冶金法によって作製した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比を表す。)の組成をもつ焼結体に対し、Arガス雰囲気中で600℃、2時間熱処理を施した。次いで、熱処理後の焼結体を56×40×8(mm)の大きさに切断加工し、さらにバレル研磨処理により面取りを行って磁石素体を得た。
次に、得られた磁石素体を、アルカリ性の脱脂液を用いて洗浄した後、3%硝酸水溶液を用いて磁石素体の表面を活性化し、さらに十分に水洗した。続いて、水洗後の磁石素体を真空成膜チャンバー内に固定し、1×10−3Pa以下の真空度が得られるまで真空排気した。
次いで、気相成長法である真空蒸着法を用いて、酸化アルミニウム(アルミナ)を構成材料とする保護層を、その膜厚が5μmとなるように磁石素体表面上に形成した。保護層の形成は、酸化アルミニウム粒子(粒子径2〜3mm程度)に電子ビームを照射し、溶解と同時に蒸発させることにより行なった。電子ビームを発生させる際の印可電圧は5kV、電流値は200mAであった。また、保護層を形成する間、真空成膜チャンバー内に酸素ガスを1.0sccmの流量で流通させ、該チャンバー内の圧力を1×10−2Paに維持した。この際の磁石素体の表面温度は200℃になるように調整し、0.4nm/秒の成膜速度を維持した。このようにして膜厚5μmの酸化アルミニウム保護層を備える実施例1の希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石が備える保護層の蛍光X線分析を行なったところ、保護層中の酸素含有量は、Alにおける酸素の化学量論量に対して98.5%に相当する量であった。この実施例1の希土類磁石について上述の耐油試験を行ったところ、磁石素体中に硫黄の存在は認められなかった。また、この実施例1の希土類磁石を、水蒸気雰囲気、120℃、0.2×10Paの加湿高温環境中に24時間保持したところ、希土類磁石の磁束の劣化は初期値に対して2%未満であった。
(実施例2)
保護層形成時の条件を、電子ビーム発生時の電流値を300mAとすることにより成膜速度を0.8nm/秒とした以外は実施例1と同様にして、膜厚5μmの酸化アルミニウム保護層を備える実施例2の希土類磁石を得た。得られた希土類磁石が備える保護層の蛍光X線分析を行なったところ、保護層中の酸素含有量は、Alにおける酸素の化学量論量に対して95.5%に相当する量であった。この実施例2の希土類磁石について上述の耐油試験を行ったところ、磁石素体中に硫黄の存在は認められなかった。また、この実施例2の希土類磁石を、実施例1におけるものと同様の条件で加湿高温環境中に24時間保持したところ、希土類磁石の磁束の劣化は初期値に対して2%未満であった。
(実施例3)
まず、実施例1と同様にして磁石素体を得た。得られた磁石素体を、アルカリ性の脱脂液を用いて洗浄した後、3%硝酸水溶液を用いて磁石素体の表面を活性化し、さらに十分に水洗した。続いて、水洗後の磁石素体を常圧熱CVD装置の所定位置に配置した。常圧熱CVD装置としては、蒸着源となる金属アルコキシド及び水蒸気を窒素ガスなどのキャリアガスによって反応炉内に導入し、配置した磁石素体上に蒸着源に由来する金属酸化物保護層を形成できるよう構成されているものを用いた。
蒸着源としてZr(O−t−C及び80℃に加熱した水を用いた。200cm/分の流量の窒素ガスをキャリアガスとして、それらの蒸着源を300℃に加熱した磁石素体に30分間供給し、これにより膜厚0.5μmの酸化ジルコニウム保護層を備える実施例3の希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石が備える保護層の蛍光X線分析を行ったところ、保護層内の酸素含有率は、ZrOにおける酸素の化学量論量に対して99.2%に相当する量であった。この実施例3の希土類磁石について上述の耐油試験を行ったところ、磁石素体中に硫黄の存在は認められなかった。また。この実施例3の希土類磁石を水蒸気雰囲気、120℃、0.2×10Paの加湿高温環境中に24時間保持したところ、希土類磁石の磁束の劣化は初期値に対して2%未満であった。
(実施例4)
まず、実施例3と同様にして常圧CVD装置への磁石素体の配置まで行った。蒸着源としてMo(O−C、Ti(O−i−C及び60℃に加熱した水を用いた。200cm/分の流量の窒素ガスをキャリアガスとして、それらの蒸着源を200℃に加熱した磁石素体に10分間供給し、これにより膜厚0.01μmの酸化モリブデン及び酸化チタンの混合保護層を備える実施例4の希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石が備える保護層の蛍光X線分析を行ったところ、保護層内の金属原子組成はMoが0.9%、Tiが99.1%であった。また保護層内の酸素含有率は、上述の金属原子組成で存在するMoO及びTiOにおける酸素の化学量論量に対して99.5%に相当する量であった。この実施例4の希土類磁石について上述の耐油試験を行ったところ、磁石素体中に硫黄の存在は認められなかった。また。この実施例4の希土類磁石を水蒸気雰囲気、120℃、0.2×10Paの加湿高温環境中に24時間保持したところ、希土類磁石の磁束の劣化は初期値に対して2%未満であった。
(実施例5)
まず、実施例3と同様にして常圧CVD装置への磁石素体の配置まで行った。蒸着源としてW(O−C及び80℃に加熱した水を用いた。200cm/分の流量の窒素ガスをキャリアガスとして、それらの蒸着源を300℃に加熱した磁石素体に30分間供給した。次いで、蒸着源としてTa(O−C及び80℃に加熱した水を用い、200cm/分の流量の窒素ガスをキャリアガスとして、それらの蒸着源を200℃に加熱した磁石素体に15分間供給した。これにより磁石素体側から膜厚0.03μmの酸化タングステン保護層及び膜厚0.02μmの酸化タンタル保護層を積層して備える実施例5の希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石が備える保護層の組成を調べるため、実施例1と同様にして得られる磁石素体に上記と同様の条件で酸化タングステン保護層のみを積層して得られる希土類磁石、及び、実施例1と同様にして得られた磁石素体に、酸化タングステン保護層を積層せずに、上述と同様の条件で酸化タンタル保護層のみを直接積層して得られる希土類磁石をそれぞれ準備した。これらの希土類磁石の蛍光X線分析を行ったところ、酸化タングステン保護層内の酸素含有率は、WOにおける酸素の化学量論量に対して98.3%に相当する量であり、酸化タンタル保護層内の酸素含有率は、Taにおける酸素の化学量論量に対して99.7%に相当する量であった。この実施例5の希土類磁石について上述の耐油試験を行ったところ、磁石素体中に硫黄の存在は認められなかった。また。この実施例5の希土類磁石を水蒸気雰囲気、120℃、0.2×10Paの加湿高温環境中に24時間保持したところ、希土類磁石の磁束の劣化は初期値に対して2%未満であった。
(実施例6)
まず、実施例1と同様にして磁石素体を得た。得られた磁石素体を、アルカリ性の脱脂液を用いて洗浄した後、3%硝酸水溶液を用いて磁石素体の表面を活性化し、さらに十分に水洗した。続いて、水洗後の磁石素体を真空成膜チャンバー内に固定し、1×10−3Pa以下の真空度が得られるまで真空排気した。次いで、気相成長法である真空蒸着法を用いて、金属アルミニウム層を、その膜厚が5μmとなるように磁石素体表面上に形成した。金属アルミニウム層の形成は、金属アルミニウム蒸着源に電子ビームを照射して行った。
続いて、金属アルミニウム層を積層した磁石素体を上述と同様の常圧熱CVD装置の所定位置に配置した。蒸着源としてHf(O−t−C及び60℃に加熱した水を用いた。200cm/分の流量の窒素ガスをキャリアガスとして、それらの蒸着源を250℃に加熱した磁石素体に20分間供給し、これにより金属アルミニウム層上に膜厚0.05μmの酸化ハフニウム保護層を備える実施例6の希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石が備える保護層の蛍光X線分析を行ったところ、保護層内の酸素含有率は、HfOにおける酸素の化学量論量に対して98.5%に相当する量であった。この実施例6の希土類磁石について上述の耐油試験を行ったところ、磁石素体中に硫黄の存在は認められなかった。また。この実施例6の希土類磁石を水蒸気雰囲気、120℃、0.2×10Paの加湿高温環境中に24時間保持したところ、希土類磁石の磁束の劣化は初期値に対して2%未満であった。
(比較例1)
保護層形成時の条件を、酸素を流通させず、電子ビーム発生時の電流値を400mAとすることにより成膜速度を1.0nm/秒とした以外は実施例1と同様にして、比較例1の希土類磁石を得た。得られた希土類磁石が備える保護層の蛍光X線分析を行なったところ、保護層中の酸素含有量は、Alにおける酸素の化学量論量に対して93.0%であった。また、この比較例1の希土類磁石について上述の耐油試験を行ったところ、磁石素体中に硫黄の存在が認められた。また、この比較例1の希土類磁石を、実施例1におけるものと同様の条件で加湿高温環境中に24時間保持したところ、希土類磁石の磁束の劣化は初期値に対して5%を越える値であった。
(比較例2)
保護層形成時の条件を、酸素を5.0sccmの流量で流通させ、電子ビーム発生時の電流値を150mAとすることにより成膜速度を0.1nm/秒とした以外は実施例1と同様にして、比較例2の希土類磁石を得た。得られた希土類磁石が備える保護層の蛍光X線分析を行なったところ、保護層中の酸素含有量は、Alにおける酸素の化学量論量に対して115.0%であった。この比較例2の希土類磁石について上述の耐油試験を行ったところ、磁石素体中に硫黄の存在が認められた。また、この比較例1の希土類磁石を、実施例1におけるものと同様の条件で加湿高温環境中に24時間保持したところ、希土類磁石の磁束の劣化は初期値に対して5%を越える値であった。
(比較例3)
まず、実施例1と同様にして得られた磁石素体を、アルカリ性の脱脂液を用いて洗浄した後、3%硝酸水溶液を用いて磁石素体の表面を活性化し、さらに十分に水洗した。続いて、その磁石素体の表面上に、膜厚10μmのニッケル膜を、電気めっき法により形成し保護層とした。電気めっき法には、ニッケル源として硫酸ニッケル1.0モル/L、導電性塩として塩化ニッケル0.25モル/L、pH安定剤としてホウ酸0.6モル/Lを含み、導電率が58mS/cmのめっき浴を用いた。めっき時の電流密度は平均して1A/dm以下であった。この比較例3の希土類磁石について上述の耐油試験を行ったところ、磁石素体中に硫黄の存在が認められた。また、この比較例3の希土類磁石を、実施例1におけるものと同様の条件で加湿高温環境中に24時間保持したところ、希土類磁石の磁束の劣化は初期値に対して5%を越える値であった。
(保護層の耐油試験評価)
保護層としての酸化物層中の酸素含有量と保護層自体の耐硫化性(化学的安定性)との相関を調べるために、以下のような評価実験を行った。
まず、成膜条件を制御することにより酸素含有量を種々調整した酸化アルミニウムからなる酸化物層をそれぞれ単独で基板上に形成した。これらの酸化物層において、O/Alは、原子基準でおよそ1.4〜1.7の範囲内に設定した。なお、酸化物層が化学量論組成の酸化アルミニウム(Al)から構成されている場合、O/Alは原子基準で1.5である。したがって、上述の酸化物層におけるO/Alは、化学量論組成であるAlにおけるO/Alに対して原子基準で93.33〜113.33%の範囲内に設定したこととなる。
次いで、基板上に形成された酸化物層の耐油試験を行なった。耐油試験後の基板を十分にアセトンを用いて洗浄した後、耐油試験前後における酸化物層の組成を蛍光X線分析により測定した。その結果、耐油試験前のO/AlがAlにおけるO/Alに対して原子基準で94%以下であったものは、耐油試験後にその酸化物層中から硫黄成分が検出された。また、耐油試験前のO/AlがAlにおけるO/Alに対して原子基準で100%以上であったものは、耐油試験後にその酸化物層中から硫黄成分は検出されなかったが、酸素含有量の減少が確認された。これらに対し、耐油試験前のO/AlがAlにおけるO/Alに対して原子基準で94%超100%未満であったものは、耐油試験後に硫黄成分が検出されず、しかもO/Alの変化もほとんど認められなかった。
本発明の第1の実施形態の希土類磁石を示す概略斜視図である。 本発明の第1の実施形態の希土類磁石を示す概略断面図である。 本発明の第2の実施形態の希土類磁石を示す概略断面図である。 本発明の第3の実施形態の希土類磁石を示す概略断面図である。 R−Fe−B系磁石の相構成を示す模式拡大図である。
符号の説明
10…磁石素体、20…保護層、100…希土類磁石。

Claims (12)

  1. 希土類元素を含有する磁石素体と、その磁石素体の表面上に、耐硫化性を有するように形成されたAl、Ta、Zr、Hf、Nb、Si、Ti、Mg、Cr、Ni、Ba、Mo、V、W、Zn、Sr、Fe、Bi、B、Ca、Ga、Ge、La、Pb及びInからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含有する酸化物層を有する保護層と、を備える希土類磁石であって、
    前記酸化物層中の酸素含有量が、前記酸化物における酸素の化学量論量に対して94%超100%未満に相当する量であることを特徴とする希土類磁石。
  2. 前記保護層が単層の前記酸化物層であることを特徴とする請求項1記載の希土類磁石。
  3. 前記保護層が、前記磁石素体と前記保護層との積層方向に沿って形成された複数の層からなり、前記保護層のうちの1層以上は前記酸化物層であることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石。
  4. 前記保護層のうち少なくとも前記磁石素体から最も遠い位置に形成された層が前記酸化物層であることを特徴とする請求項3に記載の希土類磁石。
  5. 前記保護層のうち少なくとも前記磁石素体に隣接して形成された層が、金属からなることを特徴とする請求項3又は4に記載の希土類磁石。
  6. 前記保護層が前記磁石素体の表面全体を被覆していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の希土類磁石。
  7. 前記酸化物は、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化バリウム、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化鉄、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化カルシウム、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化ランタン、酸化鉛及び酸化インジウムからなる群より選ばれる1種の酸化物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の希土類磁石。
  8. 前記酸化物は、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム及び酸化ニオブからなる群より選ばれる1種の酸化物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の希土類磁石。
  9. 前記酸化物層が、前記磁石素体に隣接して形成され、且つ、
    前記磁石素体に隣接した面を含む第1部分層と、前記面と反対側の面を含む第2部分層と、を有し、
    前記第1部分層中の酸素の含有割合が、前記第2部分層中の酸素の含有割合よりも少ないことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の希土類磁石。
  10. 前記酸化物層が気相成長法により形成されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の希土類磁石。
  11. 前記保護層は0.01〜20μmの膜厚を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の希土類磁石。
  12. 前記酸化物層は0.01〜20μmの膜厚を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の希土類磁石。
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