JP2005174911A - プロトン伝導体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】有酸性基固体高分子におけるイオン性液体の保持能力を向上させ、プロトン伝導度に優れたプロトン伝導体とする。
【解決手段】スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基等の酸性基を有する有酸性基固体高分子を、メタノール以外の有機溶媒に溶解する。この溶液に対し、イオン性液体を添加してキャスト液とする。該キャスト液を、PTFE(含フッ素高分子材)からなるシート部材14と枠体16の開口22によって形成されるキャビティにキャスティングした後、溶媒を除去する。
【選択図】図1

Description

本発明は、水素燃料電池や直接メタノール型燃料電池等の燃料電池、又は、水を電気分解して水素と酸素を発生させる電気分解装置等の電気化学セルの電解質として使用し得るプロトン伝導体及びその製造方法に関する。
例えば、燃料電池では、水素を含有する燃料ガスが供給されるアノード側電極と、空気等の酸素含有ガスが供給されるカソード側電極との間に電解質が介装されている。この電解質は、燃料ガス中の水素がアノード側電極上で電離することによって生成した水素イオン(プロトン)をカソード側電極側に移動させる役割を担う。換言すれば、燃料電池においては、電解質はプロトン伝導体である。
この種のプロトン伝導体としては、パーフルオロスルホン酸高分子膜を湿潤化したものが広汎に知られているが、この膜におけるプロトン伝導度は、該膜が乾燥するほど低下する。このため、燃料電池の発電特性を維持するべく、燃料ガスや酸素含有ガスに水蒸気を含ませて膜に継続的に水分を補給するとともに、燃料電池の内部に冷却媒体を供給して運転温度を80〜90℃に保持することによって、該膜が乾燥することを回避するようにしている。
しかしながら、この場合、ガスに水蒸気を含ませるための加湿器や、燃料電池を効率よく冷却させるべく多量の冷却媒体を循環させるための大規模な冷却システムが必要である。このため、燃料電池システム全体が大型化するという不具合がある。
このような不具合を解消するべく、近年、高温環境下又は低湿環境下においても優れたプロトン伝導性を示すプロトン伝導体を作製する試みがなされつつある。このようなプロトン伝導体を電解質として燃料電池を構成する場合、加湿器や冷却システムが不要となるので、燃料電池システムを簡素な構成で且つ小型化することができるという利点がある。
このような観点から、非特許文献1には、1−ブチル,3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(BMITF)や、1−ブチル,3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMIBF4)等のイオン性液体を、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸膜に吸収させてプロトン伝導膜とすることが提案されている。なお、非特許文献1においては、液体であるBMITFやBMIBF4にナフィオンを浸漬することによって、これらの液体をナフィオンに含浸させるようにしている。このようにして得られたプロトン伝導性膜におけるイオン性液体の含浸量は、ナフィオンの重量に対して概ね40〜60重量%である。
一方、特許文献1には、5重量%のパーフルオロスルホン酸と15重量%水−メタノール溶媒とを含むナフィオン溶液と、該溶液中のパーフルオロスルホン酸の重量に対して10〜30重量%の1−ブチル,3−メチルイミダゾリウムビス[トリフルオロメチル]スルホニル)イミド(EMITFSI)又は1−エチル,3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(EMITf)とを混合、撹拌した後、耐熱ガラス製シャーレ上にキャスティングし、80〜150℃で乾燥、熱処理して、プロトン伝導膜を得ることが開示されている。
マークドイル(Marc Doyle)ら、「パーフルオロ化イオノマー膜−イオン液体複合物を基材とする高温プロトン伝導膜(High-Temperature Proton Conducting Membranes Based on Perfluorinated Ionomer Membrane-Ionic Liquid Composites)」、ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサイアティ(Journal of The Electrochemical Society)、2000年1月、第147巻34頁〜37頁 特開2003−123791号公報
周知のように、燃料電池を運転した際にはカソード側電極で水が生成する。この水は、空気排出流路や、電解質を介してアノード側電極に移動した場合には燃料ガス排出流路を経て、燃料電池の系外へと排出される。
ところで、非特許文献1記載の技術で得られたプロトン伝導膜には、イオン性液体の保持力が小さく、このため、該プロトン伝導膜を電解質とする燃料電池では、運転時に発生した水にイオン性液体が同伴され、系外に排出されてしまう。その結果、電解質のプロトン伝導度が低下し、燃料電池の発電性能が劣化する。
これに対し、特許文献1記載の発明によれば、プロトン伝導膜におけるイオン性液体の保持力が比較的大きくなる。従って、イオン性液体が排出されてしまうことを抑制することができる。
しかしながら、この場合、プロトン伝導度を向上させるべく、30重量%以上のイオン性液体をナフィオンに添加してキャスト液を耐熱ガラス上にキャスティングすると、得られた膜全体に微細な亀裂が発生する。このような亀裂が生じた膜を電解質とした場合、カソード側電極に供給された酸素と、アノード側電極に供給された燃料ガスとが亀裂を介して混合されてしまい、電極反応が起こり難くなるという不具合が惹起される。
しかも、イオン性液体の添加量が多くなると、得られた膜の強度が低下する傾向にある。このため、得られた膜をガラス製シャーレから剥離させる際に該膜が小片状に割れてしまうことがある。
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、多量のイオン性液体を保持する能力に優れ、このために電気化学セルの特性を確保することが可能であり、しかも、製造することが容易なプロトン伝導体及びその製造方法を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するために、本発明は、酸性基を有する有酸性基固体高分子からなるマトリックスに、カチオンとアニオンとがイオン結合し、且つ室温で液体であるイオン性液体が保持されたプロトン伝導体であって、
前記イオン性液体が、前記マトリックスの重量に対し30〜90重量%の割合で保持され、
水中に浸漬して24時間経過後の前記マトリックスにおける前記イオン性液体の保持率が50%以上であることを特徴とする。
すなわち、本発明に係るプロトン伝導体は、多量のイオン性液体を保持し、しかも、水に接触した際や、高温時や低湿度時であってもその保持能力に優れる。このプロトン伝導体においては、イオン性液体を介してプロトンが移動するので、イオン性液体が多量に保持されることによって、プロトン伝導度が著しく向上する。また、イオン性液体が流出し難いので、プロトン伝導度が低下することを長期間にわたって回避することができる。
さらに、高温時や低湿時であってもプロトン伝導度に優れるので、例えば、このプロトン伝導体を電解質として燃料電池を構成した場合、該燃料電池に冷却システムや加湿器等を付設する必要がない。このため、燃料電池システムを簡素な構成とすることができるとともに、小型化することができる。
有酸性基固体高分子の好適な例としては、酸性基としてスルホン酸基、リン酸基又はホスホン酸基を有する高分子を挙げることができる。
一方、イオン性液体の好適な例としては、含窒素有機カチオンと、アニオンとがイオン結合をなす物質を挙げることができる。
また、本発明は、酸性基を有する有酸性基固体高分子を、溶媒の1〜20重量%の割合で溶解して溶液を調製する工程と、
カチオンとアニオンとがイオン結合し、且つ室温で液体であるイオン性液体を、前記有酸性基固体高分子の30〜90重量%の割合で前記溶液に添加する工程と、
前記溶液をキャスティングすることによってプロトン伝導体を得る工程と、
を有し、
前記溶媒として、少なくとも、メタノール以外の有機溶媒を含むものを使用することを特徴とする。
すなわち、メタノール以外の有機溶媒を使用することによって、イオン性液体を多量に保持し、しかも、その保持能力に優れる上記のプロトン伝導体を容易且つ簡便に得ることができる。
溶媒には、水が含まれていてもよい。この場合、水の割合を20重量%までとし、有機溶媒としては、沸点が80℃以上である液体を使用することが好ましい。このような有機溶媒を使用することによって、キャスティングの際に水が凝集してプロトン伝導体に亀裂が生じることを回避することができる。
キャスティングを行う際には、含フッ素高分子材製外枠と含フッ素高分子材製シートとを有するキャスト容器を使用することが好ましい。得られたプロトン伝導体はこのような外枠やシートから比較的剥離し易く、従って、プロトン伝導体に傷等が生じることを回避することができるからである。
なお、この場合、含フッ素高分子材製外枠と前記含フッ素高分子材製シートとを分離して、含フッ素高分子材製外枠からプロトン伝導体を取り出すことが好ましい。これにより、プロトン伝導体に傷等が生じることを一層確実に回避することができる。
有機溶媒は、有酸性基固体高分子の種類に応じて適したものを選定するようにしてもよい。例えば、有酸性基固体高分子がパーフルオロスルホン酸基高分子であるとき、有機溶媒として、プロパノール又はブタノールを使用することが好ましい。
また、有酸性基固体高分子が有酸性基炭化水素系高分子であるとき、有機溶媒として、N−メチル−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、又はジメチルスルホキシドを使用することが好ましい。
本発明によれば、イオン性液体を有酸性基固体高分子に多量に保持することができ、しかも、該有酸性基固体高分子におけるイオン性液体の保持能力が著しく優れている。このため、水に接触してもイオン性液体が流出し難い。また、高温時や低湿度時においてもイオン性液体の保持能力に優れるので、そのような環境下であってもプロトン伝導度が確保される。
このようなプロトン伝導体を電解質とする電気化学セル、例えば、燃料電池では、長期間にわたって発電性能を確保することができる。
以下、本発明に係るプロトン伝導体及びその製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
本実施の形態に係るプロトン伝導体は、酸性基を有する有酸性基固体高分子をマトリックスとし、該マトリックスにイオン性液体が保持されたものである。
ここで、酸性基とは、「該酸性基が結合した高分子に酸性を呈させる基」を意味する。すなわち、有酸性基固体高分子は、酸性を示す。また、イオン性液体とは、カチオンとアニオンとがイオン結合をなし、且つ常温で液体である化合物を意味し、常温溶融塩や室温溶融塩とも指称される。
マトリックスである有酸性基固体高分子はブレンステッド酸であればよく、特に限定されるものではないが、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基を酸性基として有する高分子を好適な例として挙げることができる。
有酸性基固体高分子の具体例としては、下記の化学式(1)に示されるパーフルオロスルホン酸高分子、化学式(2)に示されるポリスチレンスルホン酸高分子が挙げられる。
Figure 2005174911
Figure 2005174911
又は、下記の化学式(3)、(4)に示される高分子であってもよい。
Figure 2005174911
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化学式(3)、(4)において、X1、X2、X3は、S、SO2、O、CO、CH2のいずれかである。X2およびX3は、互いに同一のものであってもよいし、相違するものであってもよい。一方、Y1、Y2、Y3、Y4の少なくとも1つは、SO3H、OPO(OH)2又はPO(OH)2のいずれかである。Y1とY2、Y3とY4は、高分子の主鎖結合に関与していない位置であれば、どの位置に結合していてもよい。なお、以下の説明において、官能基が同一である場合には同一の記号で表すものとする。
有酸性基固体高分子のその他の好適な例としては、下記の化学式(5)、(6)に示される物質が挙げられる。
Figure 2005174911
Figure 2005174911
化学式(5)、(6)において、l、mは1〜10の整数であり、同数であってもよいし、別の数であってもよい。また、X4の構造は、下記のいずれかである。
Figure 2005174911
Figure 2005174911
ここで、Z1、Z2は、H、SO3H、OPO(OH)2又はPO(OH)2の中から互いに独立して選定された官能基である。
有酸性基固体高分子のまた別の好適な例としては、下記の化学式(7)、(8)に示される物質が挙げられる。
Figure 2005174911
化学式(7)において、X5はSO3Hであり、X6はH又はSO3Hのいずれか一方である。また、Y5、Y6は、H、CH3、C25、F、Cl、Brの中から互いに独立して選定された官能基である。
Figure 2005174911
化学式(8)において、X7は(CH2mSO3H(m=1〜10の整数)であり、X8は、(CH2mSO3H(m=1〜10の整数)、NH2、H、CH3、C25、C65(フェニル基:以下、Phとも表記する)のいずれかである。また、Y7、Y8は、H、CH3、C25、Phの中から互いに独立して選定された官能基である。
一方、イオン性液体としては、有機カチオンとアニオンとが互いにイオン結合をなし、且つ室温で液体であるものが選定される。有機カチオンの具体例としては、芳香族カチオンの1種であり、化学式(9)に示されるピリジニウム塩類カチオンが挙げられる。
Figure 2005174911
化学式(9)において、例えば、Rがn−ブチル基又はn−ヘキシル基である場合、それぞれ、1−ブチルピリジニウムカチオン、1−ヘキシルピリジニウムカチオンとなる。
有機カチオンのその他の例としては、化学式(10)に示されるイミダゾリウム塩類カチオン、化学式(11)に示されるピラゾリウム塩類カチオン、化学式(12)に示されるピロリジニウム塩類カチオン等の複素環系カチオンが挙げられる。
Figure 2005174911
Figure 2005174911
Figure 2005174911
イミダゾリウム塩類カチオンの具体例としては、R1、R2がそれぞれエチル基、メチル基である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンや、R1、R2がそれぞれブチル基、メチル基である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンが挙げられる。
また、ピラゾリウム塩類カチオンの具体例としては、R1、R2がそれぞれメチル基、水素である1−メチルピラゾリウムカチオン、R1、R2がそれぞれ水素、メチル基である3−メチルピラゾリウムカチオンが挙げられる。
そして、ピロリジニウム塩類カチオンの具体例としては、R1、R2がそれぞれ水素、エチル基であるN−メチルピロリジニウムカチオン、R1、R2がそれぞれメチル基、n−プロピル基であるN−メチル−N−プロピルピロリジニウムカチオンが挙げられる。
有機カチオンは、脂肪族系カチオンであってもよい。脂肪族系カチオンの好適な例としては、化学式(13)に示されるエチルアンモニウムカチオンや、化学式(14)に示されるN,N−ジメチル−N−エチル−N−プロピルアンモニウムカチオンが挙げられる。
Figure 2005174911
Figure 2005174911
以上のような有機カチオンとイオン結合をなすアニオンは、有機アニオンであってもよいし、無機アニオンであってもよい。有機アニオンとしては、例えば、トリフルオロメタンスルホネートアニオン(CF3SO3 -)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン((CF3SO22-)、トリフルオロボラン(BF4 -)等の含フッ素アニオンが挙げられる。
勿論、フッ素が含有されていない有機アニオンであってもよい。そのような有機アニオンとしては、メタンスルホネートアニオン(CH3SO3 -)、アセテートアニオン(CH3COO-)が挙げられる。
また、無機アニオンの好適な例としては、硝酸塩アニオン(NO3 -)、リン酸塩アニオン(H2PO4 -)、硫酸塩アニオン(HSO4 -)が挙げられる。
イオン性液体は、有酸性基固体高分子の重量に対し、30〜90重量%の割合で保持されている。30重量%未満であるとプロトン伝導度が不十分となる。また、90重量%を超えると、プロトン伝導体(膜)としての強度が小さくなり、耐久性等が乏しくなる。
ここで、本実施の形態においては、マトリックスがイオン性液体の保持能力に優れる。このため、イオン性液体がマトリックスから離脱することが抑制されるので、プロトン伝導体は、長期間にわたって優れたプロトン伝導度を示す。
プロトン伝導体におけるイオン性液体の保持能力は、該プロトン伝導体を水中に24時間浸漬し、浸漬前後のプロトン伝導体の重量変化から求められた保持率によって評価することができる。本実施の形態におけるプロトン伝導体の保持率は、50%以上であり、90%、100%を示すものもある。
このように構成されたプロトン伝導体を燃料電池の電解質とした場合、該燃料電池のアノード側電極に水素を含有する燃料ガスが供給されるとともに、カソード側電極に酸素を含有する酸素含有ガスが供給される。この際、アノード側電極では、水素がプロトンと電子とに電離する。
このうち、電子は、燃料電池系外に取り出されて外部負荷を付勢する直流の電気エネルギとして使用された後、カソード側電極に到達する。一方、プロトンは、プロトン伝導体の一端面に到達し、スルホン酸基等の酸性基に存在するプロトンと置換される。この置換によって放出されたプロトンは、イオン性液体を介して若干移動した後、該酸性基の近傍に存在する別の酸性基のプロトンと置換される。
このようにしてプロトンが逐次的に置換・放出され、これによりプロトンがプロトン伝導体中を移動する。プロトンは、最終的に、プロトン伝導体の他端面まで移動し、カソード側電極に到達して、電子と、カソード側電極に供給された酸素含有ガス中の酸素とともに反応し、水を生成する。
この水は、電解質であるプロトン伝導体と接触する。しかしながら、該プロトン伝導体を構成するマトリックスが著しく優れたイオン性液体保持能力を有するので、接触した水によってマトリックスからイオン性液体が奪われることが著しく抑制される。換言すれば、水がプロトン伝導体に接触しても、有酸性基固体高分子からイオン性液体が流出することを回避することができる。
すなわち、本実施の形態に係るプロトン伝導体によれば、水に接触した場合であっても、イオン性液体が流出することが抑制されるので、プロトン伝導度を維持することができる。
しかも、このプロトン伝導体は、プロトンを移動させる媒体であるイオン性液体を保持しているので、燃料電池の運転温度を100℃以上とする場合や、低湿度環境下で運転する場合においても、プロトン伝導度が低下しない。すなわち、燃料電池を高温低湿度状態で運転する場合のプロトン伝導度を、低温多湿度状態で運転する際のプロトン伝導度と略同等とすることができる。このため、該プロトン伝導体を電解質として燃料電池を構成した場合、保湿器等を付設する必要がない。従って、燃料電池システムの小型化を図ることもできる。
なお、このプロトン伝導体を、水を電気分解して水素及び酸素を発生させる水素酸素発生装置等、燃料電池以外の電気化学セルの電解質として採用することができることは勿論である。
次に、上記したプロトン伝導体の製造方法につき説明する。本実施の形態に係る製造方法は、有酸性基固体高分子を溶媒に添加して溶液を調製する第1工程と、該溶液に対してイオン性液体を添加する第2工程と、該溶液をキャスティングする第3工程とを有する。
先ず、第1工程において、上記したような有酸性基固体高分子を溶媒に添加する。ここで、溶媒としては、メタノール以外の有機溶媒を使用する。メタノールを使用した場合、低沸点であるので、第3工程時に有酸性基固体高分子の凝集が生じ、プロトン伝導体に亀裂が生じることがある。
溶媒として、水と有機溶媒との混合液体を使用することもできる。この場合、水の割合は20重量%以下とする。20重量%を超えると、第3工程において水が凝集するので、得られる膜(プロトン伝導体)が不均質なものとなる。なお、有機溶媒としては、後述する理由から、沸点が水より高いものが好ましい。
そのような有機溶媒の好適な例としては、有酸性基固体高分子がパーフルオロスルホン酸高分子であるとき、プロパノール又はブタノールを挙げることができる。なお、プロパノール又はブタノールは、どのような構造異性体であってもよい。また、プロパノールとブタノールとの混合物であってもよい。
また、プロパノール又はブタノールに対し、少量のN−メチル−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド又はジメチルスルホキシドが添加された混合液体であってもよい。
また、有酸性基固体高分子が有酸性基炭化水素系高分子であるときには、極性が高く有酸性基固体高分子を容易に溶解するN−メチル−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、又はジメチルスルホキシド(DMSO)等が好適である。
有酸性基固体高分子は、上記したような溶媒の重量に対し、1〜20重量%の割合で添加される。1重量%未満であると、第3工程において、膜の成形時に除去する溶媒の量が多くなるために長時間が必要となる。また、20重量%よりも多いと、第2工程でイオン性液体が添加された際に凝集が生じる。
その一方で、酸エステル法、ハロゲン化物法又は中和法等によってイオン性液体を調製する。
このうち、酸エステル法は、イオン性液体となるときにカチオンとなる構造を有する塩基と、イオン性液体となるときにアニオンとなる構造を有する酸のエステルとを反応させる方法であり、例えば、次の化学反応式(A)に従って反応を進行させることができる。
Figure 2005174911
また、ハロゲン化物法は、イオン性液体となるときにカチオンとなる構造を有するハロゲン化物のハロゲンアニオンを、イオン性液体となるときにアニオンとなる構造を有する金属塩中のアニオンとイオン交換する方法である。具体例として、次の化学反応式(B)に示される反応が挙げられる。
Figure 2005174911
そして、中和法は、イオン性液体となるときにカチオンとなる構造を有する塩基と、イオン性液体となるときにアニオンとなる構造を有する酸との中和反応からイオン性液体を得る方法である。その具体例としては、次の化学反応式(C)に示される反応が挙げられる。
Figure 2005174911
このようにして得られたイオン性液体を、第2工程において、有酸性基固体高分子を溶解した溶液に添加することにより、キャスト液を調製する。この際の添加割合は、有酸性基固体高分子の重量に対して30〜90重量%とする。なお、10分程度撹拌するようにしてもよい。
このキャスト液を、第3工程において、図1に示すキャスト容器10にキャスティングする。
この場合、キャスト容器10は、ステンレス製の下ベース部材12と、含フッ素高分子材としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるシート部材14と、PTFEからなる枠体16と、ステンレス製の上ベース部材18とを有し、これら下ベース部材12、シート部材14、枠体16及び上ベース部材18は、ボルト穴20に通される図示しないボルトによって互いに連結される。また、枠体16と上ベース部材18には、開口22、24がそれぞれ設けられている。
前記キャスト液は、開口22を介して、シート部材14と枠体16の開口24とで形成されるキャビティに導入される。勿論、導入量は、液面が上ベース部材18の開口22に到達しないように設定される。
キャスト液は、キャスト容器10ごと加熱炉に導入され、溶媒を除去するための熱処理が施される。熱処理の条件は、有酸性基固体高分子の種類に応じて適宜設定すればよい。例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸の場合、35〜45℃を4〜6時間保持した後、140〜160℃で0.5〜1.5時間保持すればよい。また、炭化水素系酸性高分子の場合、80℃で8時間保持した後、100℃で8時間真空乾燥すればよい。
この際、前記溶媒に含まれる有機溶媒が、その沸点が水に比して著しく低いものであると、有機溶媒が先に蒸発する傾向が顕著となる。この場合、溶媒の主成分が水となるので、PTFE製のシート部材14上で凝集が生じてしまう。その結果、得られる膜に亀裂が生じることがある。このような事態が生じることを回避するべく、有機溶剤としては、沸点が水に比して高いものを使用することが好ましい。沸点が水に比して低いものを使用する場合、沸点が80℃以上であるものを選定することが好ましい。
このようにして溶媒を除去した後、キャスト容器10のボルトを緩めて、下ベース部材12と上ベース部材18とを取り外す。次に、シート部材14の一端部を引っ張って枠体16から離脱させれば、開口22に付着した膜(プロトン伝導体)が露呈する。PTFEをはじめとする含フッ素高分子は、この離脱に際し、膜から容易に剥離する。すなわち、膜がシート部材14に同伴されて引っ張られることはない。このため、膜に傷や切れ目を発生させることなくシート部材を膜から離脱させることができる。
該膜の端部を枠体16の開口22から切り離せば、傷や割れ目のない膜が得られるに至る。
このように、本実施の形態においては、PTFE製のシート部材14及び枠体16とで形成されるキャビティでキャスティングを行うようにしている。このため、傷や割れ目のない膜を容易且つ簡便に得ることができる。
容積500mlのナスフラスコ中で、1−エチルイミダゾール19.2g(0.2モル)を、200mlの1,1,1−トリクロロエタン200mlに溶解した。この溶液に対し、メチルトリフルオロメタンスルホネート32.1g(0.2モル)を1時間以上にわたって滴下した。これにより、化学反応式(A)が進行した。
Figure 2005174911
還流を2時間行い、分液によって生成物を分離し、100mlの1,1,1−トリクロロエタンで2回洗浄した。その後、減圧乾燥を行い、イオン性液体である1−エチル,3−メチルイミダゾリウムトルフルオロメタンスルホネート(EMI−Tf)を47g(0.18モル)得た。
次に、純水10重量%とプロパノール90重量%とからなる溶媒に、パーフルオロスルホン酸高分子であるナフィオンを、溶媒の重量に対して5重量%となるように溶解した。この溶液に対し、上記したEMI−Tfをナフィオンの重量に対して30重量%、40重量%、60重量%、80重量%の割合でそれぞれ添加し、10分間撹拌してキャスト液とした。
このキャスト液を、図1に示すキャスト容器10にキャスティングし、加熱炉内において、40℃で5時間保持した後、150℃で1時間保持して溶媒を除去した。これにより、枠体16の開口22に付着した膜を得た。この膜を端部から切り離し、縦30mm、横30mm、厚み50μmの膜を得た。
容積500mlのナスフラスコ中で、1−エチル,3−メチルイミダゾリウムクロライド12g(0.082モル)を、100mlの純水に溶解した。この溶液を70℃に加熱したものに対し、リチウムビス[(トリフルオロメチル)スルホニル]イミド23.50g(0.082モル)を200mの純水に溶解した溶液を緩慢に滴下した。これにより、化学反応式(B)が進行した。
Figure 2005174911
滴下後に分液し、生成物を60mlの純水で2回洗浄した。その後、減圧乾燥を行い、イオン性液体である1−エチル,3−メチルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメチル)スルホニル]イミド(EMI−TFSI)を29.3g(0.074モル)得た。
以降は実施例1と同様にして、ナフィオンの重量に対して30重量%、40重量%、60重量%、80重量%の割合のEMI−TFSIが該ナフィオンに保持された縦30mm、横30mm、厚み50μmの膜を得た。
比較例1
実施例1と同様にして、ナフィオンの重量に対して10重量%、20重量%、92重量%の割合のEMI−Tfが該ナフィオンに保持された縦30mm、横30mm、厚み50μmの膜を得ることを試みた。しかしながら、EMI−Tfの添加量を92重量%とした場合においては、流動性が消失せず、固体状の膜が得られなかった。
比較例2
実施例2に準拠して、ナフィオンの重量に対して20重量%、92重量%の割合のEMI−TFSIが該ナフィオンに保持された縦30mm、横30mm、厚み50μmの膜を得ることを試みた。しかしながら、EMI−TFSIの添加量を92重量%とした場合においては、比較例1と同様に流動性が消失せず、固体状の膜が得られなかった。
比較例3
溶媒を純水50重量%、プロパノール50重量%としたことを除いては実施例1又は実施例2に準拠して、ナフィオンの重量に対するEMI−Tf又はEMI−TFSIの割合が40重量%、60重量%、80重量%である膜を作製することを試みた。しかしながら、この場合、加熱炉による熱処理を施して得られた膜には収縮や亀裂が発生していた。すなわち、均質な膜が得られなかった。
比較例4
乾燥重量を測定した縦30mm、横30mm、厚み50μmのナフィオンを、EMI−TFSI20mlが入れられたガラス製シャーレに40℃で24時間浸漬することにより、該ナフィオンにEMI−TFSIを含浸させた。このナフィオンを取り出して表面の余剰のEMI−TFSIを拭き取り、重量を測定した。この重量測定から、ナフィオンの重量に対して40重量%のEMI−TFSIが含浸されていることが認められた。
次に、以上の膜と、市販のナフィオン膜とから、図2に示すように、10mm×30mmの試験片30を切り出し、作用電極32、第1参照電極34、第2参照電極36及び対電極38を取り付け、交流複素インピーダンス法にて温度140℃におけるプロトン伝導度を測定した。なお、測定器としては、ソーラトロン社製のインピーダンスアナライザS−1260を使用した。
なお、プロトン伝導度は、次の計算式(i)によって求めた。ここで、計算式(i)中、δはプロトン伝導度(S/cm)、Rは抵抗(Ω)、lは電極間距離(cm)、mは試験片30の幅寸法(cm)、nは試験片30の厚み(cm)である。
Figure 2005174911
各膜におけるプロトン伝導度を図3に併せて示す。この図3から、実施例1、2の膜(プロトン伝導体)が、優れたプロトン伝導度を示すものであることが明らかである。
特に、イオン性液体の割合をナフィオンの重量に対して80重量%と著しく大きくした場合、イオン性液体の割合が30重量%の場合に比してプロトン伝導度が5倍又は10倍と著しく向上することが諒解される。
次に、実施例2において作製したEMI−TFSIの割合がナフィオンの重量に対して40重量%の膜の重量W1を測定した。この膜を50mlの純水中に浸漬し、室温で24時間撹拌した。その後、膜を純水から取り出し、真空中、100℃で6時間乾燥して膜の重量W2を測定した。これらW1、W2から、下記の計算式(ii)に従い、EMI−TFSIの保持率を算出した。保持率は100%であり、EMI−TFSIが全く流出していないことが認められた。
Figure 2005174911
比較例4(浸漬法)において作製した膜についても同様にして保持率を算出したところ、保持率は僅かに5%であった。すなわち、EMI−TFSIの大部分が流出していた。
この結果から、実施例2の膜におけるイオン性液体の保持能力が、従来の浸漬法によって作製された膜に比して著しく優れていることが明らかである。
本発明に係るプロトン伝導体は、燃料電池や電気分解装置等の電気化学セルの電解質として好適である。
本実施の形態に係るプロトン伝導体を作製する際に使用されるキャスト容器の全体概略斜視図である。 本実施の形態に係るプロトン伝導体のプロトン伝導度を測定するための試験片と電極とを示す全体概略斜視図である。 実施例1、2及び比較例1、2、4の各膜(プロトン伝導体)におけるイオン性液体のナフィオンに対する割合とプロトン伝導度との関係を示す図表である。
符号の説明
10…キャスト容器 12、18…ベース部材
14…シート部材 16…枠体
22、24…開口 30…試験片

Claims (9)

  1. 酸性基を有する有酸性基固体高分子からなるマトリックスに、カチオンとアニオンとがイオン結合し、且つ室温で液体であるイオン性液体が保持されたプロトン伝導体であって、
    前記イオン性液体が、前記マトリックスの重量に対し30〜90重量%の割合で保持され、
    水中に浸漬して24時間経過後の前記マトリックスにおける前記イオン性液体の保持率が50%以上であることを特徴とするプロトン伝導体。
  2. 請求項1記載のプロトン伝導体において、前記有酸性基固体高分子が、酸性基としてスルホン酸基、リン酸基又はホスホン酸基を有する高分子であることを特徴とするプロトン伝導体。
  3. 請求項2記載のプロトン伝導体において、前記イオン性液体は、含窒素有機カチオンと、アニオンとがイオン結合をなす物質であることを特徴とするプロトン伝導体。
  4. 酸性基を有する有酸性基固体高分子を、溶媒の1〜20重量%の割合で溶解して溶液を調製する工程と、
    カチオンとアニオンとがイオン結合し、且つ室温で液体であるイオン性液体を、前記有酸性基固体高分子の30〜90重量%の割合で前記溶液に添加する工程と、
    前記溶液をキャスティングすることによってプロトン伝導体を得る工程と、
    を有し、
    前記溶媒として、少なくとも、メタノール以外の有機溶媒を含むものを使用することを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
  5. 請求項4記載の製造方法において、前記溶媒として、20重量%までの水を含み、且つ前記有機溶媒として、沸点が80℃以上の液体を使用することを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
  6. 請求項4又は5記載の製造方法において、前記溶液を、含フッ素高分子材製外枠と含フッ素高分子材製シートとを有するキャスト容器にキャスティングすることを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
  7. 請求項6記載の製造方法において、前記含フッ素高分子材製外枠と前記含フッ素高分子材製シートとを分離して、前記含フッ素高分子材製外枠から前記プロトン伝導体を取り出すことを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
  8. 請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法において、前記有酸性基固体高分子がパーフルオロスルホン酸基高分子であるとき、前記有機溶媒としてプロパノール又はブタノールを使用することを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
  9. 請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法において、前記有酸性基固体高分子が有酸性基炭化水素系高分子であるとき、前記有機溶媒としてN−メチル−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、又はジメチルスルホキシドを使用することを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
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