JP4945939B2 - 高分子電解質膜 - Google Patents

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Description

本発明は、耐水性、耐メタノール性に優れ、かつ、高プロトン伝導性および低メタノール透過性を有する、固体高分子型燃料電池用として好適な高分子電解質膜に関するものである。
燃料電池は水素と酸素を反応させ、電気エネルギーを取り出す装置であり、二酸化炭素の発生を伴わないクリーンな電力源として注目され、次世代を担う有望な技術として期待されている。前記燃料電池は広範に開発されていると共に、一部では実用化され始めているが、代表的なものとして固体高分子型燃料電池(PEFC)が挙げられ、特に、燃料としてメタノールを用いるものをダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)と呼ぶ。
前記固体高分子型燃料電池は一対の電極の間にイオン透過可能な高分子電解質膜を挟持させた構成となっている。ここで、電極は、ガス拡散の促進と集(給)電を行う電極基材(ガス拡散電極あるいは集電体とも云う)と、実際に電気化学的反応場となる電極触媒層とから構成されている。例えば、固体高分子型燃料電池のアノード電極では、水素ガスなどの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトンと電子を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質膜を介してカソード電極へと伝導する。このため、高分子電解質膜には、プロトン伝導性が良好なことが要求される。特に、固体高分子型燃料電池の中でも、メタノールなどの有機溶媒を燃料とするDMFC用電解質膜においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFC用の電解質膜に要求される性能に加えて、燃料のメタノール水溶液透過抑制も要求される。電解質膜のメタノール透過は、メタノールクロスオーバー(MCO)、ケミカルショートとも呼ばれ、電池出力およびエネルギー効率が低下するという問題を引き起こす。
前記高分子電解質膜としてはパーフルオロアルキレンスルホン酸系高分子電解質膜(例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)が広く利用されているが、これらは非常に高価であり、さらにメタノールクロスオーバーが大きいという問題があった。
一方、前記パーフルオロアルキレンスルホン酸系高分子電解質膜に対して、廉価な高分子電解質膜として分子構造にフッ素を含まない炭化水素系電解質膜をスルホン化してプロトン伝導性を付与したものが知られている。前記炭化水素系電解質膜は、分子構造にパーフルオロアルキレン鎖を含まないので出発原料が安価であり、低コストで合成することができる。1950年代には、スチレン系の陽イオン交換樹脂が検討された。しかしながら、通常燃料電池に使用する際の形態である膜としての強度が十分ではなかったため、十分な電池寿命を得るには至らなかった。また、スルホン化芳香族ポリエーテルエーテルケトンを電解質に用いた燃料電池の検討もなされている。例えば、有機溶媒に難溶性の芳香族ポリエーテルエーテルケトン(以降、PEEKと略称することがある。)が、高度にスルホン化することにより有機溶媒に可溶となり成膜が容易になることが知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、これらのスルホン化PEEKは、同時に親水性も向上し、水溶性となったり、あるいはメタノールクロスオーバーの増加などを引き起こす。燃料電池は、通常燃料と酸素の反応により水を副生するか、あるいはDMFCにおいては燃料自体がメタノール水溶液であることから、かかる強度が低下し、又は水溶性となったスルホン化PEEKはそのまま燃料電池用電解質へ利用するには適さない。また、芳香族ポリエーテルスルホンであるPSF(UDELP−1700)のスルホン化物も知られている(非特許文献2参照)。しかし、教示されたスルホン化PSFは完全にな水溶性であり、電解質として適用ができない。
「ポリマー」(Polymer), 1987, vol. 28, 1009. 「ジャーナル オブ メンブレン サイエンス」(Journal of Membrane Science), 83 (1993) 211−220.
これら従来の技術においては、得られる電解質が高価であったり、耐水性、耐メタノール性が不足して強度が不十分かあるいはメタノールクロスオーバーが大きい等の問題点があった。
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、耐水性、耐メタノール性、高プロトン伝導性、低メタノール透過性を有する高分子電解質膜を提供せんとするものである。
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の高分子電解質膜は、スルホン化されたプロトン伝導性高分子からなる電解質膜であって、該プロトン伝導性高分子が下記構造式(3)で表される基本構造を含み、下記数式(1)で定義した該プロトン伝導性高分子の吸水膜スルホン酸基体積密度が1.65mmol/cm以上、6.0mmol/cm以下であり、かつ下記数式(5)で定義した該プロトン伝導性高分子の含水率が7wt%以上、20wt%以下であり、かつ絶乾膜スルホン酸基重量密度が1.92mmol/g未満であることを特徴とするものである。
構造式(3)
Figure 0004945939
[構造式(3)中、E は芳香族環を有する2価の基であり、Ar およびAr は置換されていてもよい2価のアリーレン基、Wはカルボニル基を表す。E 、Ar 、Ar はそれぞれが2種類以上の基を表してもよい。]
数式(1)
(吸水膜スルホン酸基体積密度)=(絶乾膜スルホン酸基体積密度)
/{1+(吸水率)/100×(絶乾膜密度)}
数式(1)において、絶乾膜スルホン酸基重量密度、絶乾膜スルホン酸基体積密度、吸水率は、それぞれ下記数式(2)〜(4)で定義した。
数式(2)
(絶乾膜スルホン酸基重量密度)=(スルホン酸基モル数)/(絶乾膜重量)
数式(3)
(絶乾膜スルホン酸基体積密度)=(絶乾膜スルホン酸基重量密度)×(絶乾膜密度)
数式(4)
(吸水率)=(膜中の水重量)/(絶乾膜重量)×100
数式(5)
(含水率)=(膜中の水重量)/(吸水膜重量)×100
本発明によれば、耐水性、耐メタノール性、高プロトン伝導性、低メタノール透過性を有する固体高分子型燃料電池用として好適な高分子電解質膜を提供することができる。
本発明は、前記課題、つまり耐水性、耐メタノール性、高プロトン伝導性、低メタノール透過性を有する高分子電解質膜について、鋭意検討し、プロトン伝導性高分子として、スルホン化された高分子であって、かつ、吸水膜スルホン酸基体積密度が特定な範囲にあるスルホン化されたプロトン伝導性高分子で電解質膜を構成してみたところ、意外にも、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
本発明の高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性高分子は、スルホン化された、つまりスルホン酸基を有するプロトン伝導性高分子であって、かかるスルホン酸基によって、初めて高いプロトン交換能および高いプロトン伝導性を有する高分子電解質膜を提供し得たものである。
本発明においては、スルホン酸基密度として特定の範囲のプロトン伝導性高分子を用いる。かかるプロトン伝導性高分子の調製には、スルホン酸基を有したモノマー単位を所望のスルホン酸基密度となるように共重合したり、グラフト化したりする方法や高分子(当然スルホン酸基を既に有している高分子も含まれる)を所望のスルホン酸基密度となるようスルホン化する方法などが採用される。
かかる高分子をスルホン化する方法、すなわち、高分子にスルホン酸基を導入する方法としては、例えば、特開平2−16126号公報あるいは特開平2−208322号公報等に記載の方法などを用いることができる。具体的には、例えば、高分子電解質をクロロホルムでクロロスルホン酸のようなスルホン化剤と反応させたり、濃硫酸や発煙硫酸中で反応することによりスルホン化する方法である。所望のスルホン酸基密度とするには高分子の種類に合わせてスルホン化の時間や温度、濃度などの条件を適宜選択すればよい。
本発明のスルホン化されたプロトン伝導性高分子は、下記数式(1)で定義した吸水膜スルホン酸基体積密度が1.65mmol/cm以上、6.0mmol/cm以下であることが必須である。
数式(1)
(吸水膜スルホン酸基体積密度)=(絶乾膜スルホン酸基体積密度)
/{1+(吸水率)/100×(絶乾膜密度)}
かかる数式(1)において、絶乾膜スルホン酸基重量密度、絶乾膜スルホン酸基体積密度、吸水率は、それぞれ下記数式(2)〜(4)で定義される。
数式(2)
(絶乾膜スルホン酸基重量密度)=(スルホン酸基モル数)/(絶乾膜重量)
数式(3)
(絶乾膜スルホン酸基体積密度)=(絶乾膜スルホン酸基重量密度)×(絶乾膜密度)
数式(4)
(吸水率)=(膜中の水重量)/(絶乾膜重量)×100
絶乾膜スルホン酸基密度とは、単位質量若しくは単位体積あたりの絶乾膜に導入されたスルホン酸基のモル数量であるが、本発明においては、これらを区別するために、それぞれ絶乾膜スルホン酸基重量密度、絶乾膜スルホン酸基体積密度と呼び、数式(2)、(3)で定義する。この値が大きいほどスルホン化の度合いが高いことを示す。
数式(2)の絶乾膜スルホン酸基重量密度は、H−NMRスペクトロスコピー、元素分析あるいは中和滴定等により確認することができる。試料の純度によらずスルホン酸基密度の測定が可能であることから、H−NMRスペクトロスコピーが好ましい方法である。しかし、スペクトルが複雑でスルホン酸基密度の算出が困難な場合には、測定の容易さから元素分析にて求めることが簡便である。
また、数式(3)の絶乾膜スルホン酸基体積密度を求めるには、スルホン化された高分子の密度を知る必要があるが、これは以下のような方法によって測定可能である。精度の点からは(I)による測定が好ましいが、(II)、(III)の方法が簡便である。
(I)装置による測定
ユアサアイオニクス株式会社製 ポリマー密度測定装置“ULTRAPYCNOMETER 1000”にて求める。
(II)重量および体積による測定
電解質膜を四角形に切り取り、100℃で24時間真空乾燥後の重量(W)、厚み(t)、両辺の長さ(L1、L2)を測長し、数式(5)で計算して密度dを求める。
数式(5)
d=W/(t×L1×L2)
(III)原子団寄与法による測定
原子団寄与法による密度決定方法は、例えば、Krevelenの方法[D. W. Van. Krevelen, “Properties of Polymers” 2nd. Ed., Elsevier, Amsterdam, 1976, Chap. 4]を用いることができる。
プロトン伝導度は電解質膜中のスルホン酸基から遊離したプロトンのモル濃度とプロトンの拡散係数の積に比例するため、スルホン酸基体積密度は重要なパラメータである。ここで、電解質膜は燃料電池用途に用いる場合には、吸水した状態であるため、好ましいスルホン酸基密度の定義は、単位体積あたりの吸水した状態の電解質膜に対するスルホン酸基密度である。本発明ではこれを吸水膜スルホン酸基体積密度と呼び、前記数式(1)で定義した。
吸水膜スルホン酸基体積密度は、数式(1)の定義から明らかなように、絶乾膜スルホン酸基体積密度が大きく、吸水率が小さいときに大きな値を持つ。しかしながら、従来のスルホン酸基を有する高分子電解質を単独で高分子固体電解質として用いた場合、吸水膜スルホン酸基体積密度を1.65mmol/cm以上6.0mmol/cm以下とすることができなかった。この原因は、絶乾膜スルホン酸基体積密度を大きくした場合、高分子電解質の親水性が増加することによって、高分子電解質が膨潤して吸水率が大きく増加してしまうからである。また、吸水膜スルホン酸基体積密度が小さい従来の高分子電解質膜を用いた場合、高プロトン伝導性と低メタノール透過性の両立が不可能であった。
そこで、本発明者らは上記問題点を解決するために、種々の高分子膜について、分子構造と伝導度や吸水率等の関係について研究した結果、次のような知見を得た。
(A)絶乾膜スルホン酸基体積密度を増加させていくと、吸水率が増加し、これに伴ってプロトン伝導度とメタノールクロスオーバーがともに大きくなる。ここで、ある絶乾膜スルホン酸基体積密度まではプロトン伝導度が増加するが、この限界の絶乾膜スルホン酸基体積密度をこえるとプロトン伝導度は逆に低下する。一方、メタノールクロスオーバーはこの限界の絶乾膜スルホン酸基体積密度をこえても増加を続ける。
(B)絶乾膜スルホン酸基体積密度と吸水率の関係は、高分子電解質の種類によって異なるが、アルキル基、、アリール基、シクロアルキル基等の疎水基を多く有する高分子は、絶乾膜スルホン酸基体積密度の増加に対する吸水率の増加が小さい傾向がある。また、熱処理を行なった高分子電解質膜や、架橋性高分子を添加した高分子電解質膜は、吸水率の増加がより小さくなる。
すなわち、上記(A)の知見から、プロトン伝導性についての挙動は、絶乾膜スルホン酸基体積密度の増加により、電解質膜中の遊離プロトンの数が増加すると同時に膜中の含水量が増加するため、プロトンの膜中濃度は膜の膨潤が小さいときは増加傾向にあり、膨潤が大きくなると低下すると考えられる。一方、メタノールクロスオーバーは、膜中のメタノール濃度と拡散係数の積に比例し、これらはいずれも吸水率に比例するため、絶乾膜スルホン酸基体積密度の増加に伴って、メタノールクロスオーバーは増加すると考えられる。この考察から、高プロトン伝導度と低メタノールクロスオーバーを両立するためには、絶乾膜スルホン酸基体積密度が高く、かつ吸水率が小さいことが必要であるといえるが、これはすなわち、先に定義した吸水膜スルホン酸基体積密度が高いことを意味する。
上記(B)の知見は、非常に重要な知見であり、本発明者らはさらに実験を重ね、吸水膜スルホン酸基体積密度が、1.65mmol/cm以上6.0mmol/cm以下であるものが特にプロトン伝導度が高く、メタノールクロスオーバーが低いことを究明した。さらに好ましくは1.75mmol/cm以上6.0mmol/cm以下である。すなわち、吸水膜スルホン酸基体積密度が前記範囲にある場合は、メタノールクロスオーバーとプロトン伝導度の比が0.6以下という優れたものとして得られるのである。
また、含水率が7wt%以上20wt%以下の範囲にあるものは、耐水性に非常に優れているため必要である。さらに好ましくは7wt%以上17wt%以下である。
さらに、30wt%メタノール水溶液に対する膨潤率が、好ましくは1.15以下、より好ましくは1.10以下であるものは、耐メタノール性に優れているため好ましい。さらに好ましくは1.05以下である。また、耐メタノール性を考慮すると、メタノールとの親和性がやや高いフッ素系高分子よりも、親和性のより低い炭化水素系高分子を用いることが好ましい。
以下に好適な高分子電解質膜の製造方法の例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性高分子としては疎水基を多く有し、かつスルホン酸基を有する高分子が好ましい。疎水基を多く有するプロトン伝導性高分子は絶乾膜スルホン酸基体積密度が高い場合においても吸水率を低く抑制できることから、メタノールクロスオーバー低減に有効である。しかしながら、メタノールクロスオーバーをさらに低減させるためには、該プロトン伝導性高分子を用いて高分子電解質膜を製膜する際にさらなる緻密化や分子鎖拘束が必要である。そのためには、例えば、熱処理による緻密化や、架橋処理等による分子鎖拘束が有効である。
まず、疎水基を多く有し、かつスルホン酸基を有する高分子の構造について以下に詳述する
本発明の高分子の基本構造としては、構造式(3)で表される構造を挙げることができる。
構造式(3)
Figure 0004945939
構造式(3)中、Eは芳香族環を有する2価の基であり、好ましい構造としては構造式(2)、(4)、(5)のような構造を挙げることができる。ArおよびArは置換されていてもよい2価のアリーレン基、Wはカルボニル基を表す。E、Ar、Ar それぞれが2種類以上の基を表してもよい。ここで、芳香族環を有する2価の基として、特に好ましい基は構造式(5)で表される基であるが、この基は極めて高い効果を有する燃料遮断性付与成分であり、燃料クロスオーバーを大きく抑制することができることを発明者らは見出した。以下に構造式(4)、(5)の構造について詳述する。
構造式(2)
Figure 0004945939
構造式(2)式中、R は水素原子、ハロゲン原子、1価の有機基またはスルホン酸基を表し、aは0〜4の整数を表す。ここで、1価の有機基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルキルアリール基、ハロゲン化アリール基を挙げることができる。これらの基を導入することにより高い耐水性が得られる。また、高分子電解質材料中にR および/またはaの異なるものを2種以上含んでいてもよい。
構造式(4)
Figure 0004945939
構造式(4)中、R,Rは水素原子、ハロゲン原子、1価の有機基またはスルホン酸基を表す。ここで、R,Rとして用いられる1価の有機基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルキルアリール基、ハロゲン化アリール基を挙げることができる。また、b,cは0〜4の整数を表す。高分子電解質材料中にR,R,bおよび/またはcの異なるものを2種以上含んでいてもよい。Zは直接結合、−O−、−S−、−Se−、−CQ−、アルキレン基、アリーレン基、アルキリデン基、またはシクロアルキリデン基を表す。ここで、QおよびQは同一または異なり、水素原子、ハロゲン基、ハロ置換アルキル基またはアリール基を表し、QおよびQのいずれかは水素原子、ハロゲン基、ハロ置換アルキル基から選ばれた少なくとも1種である。原料入手の容易さおよび製膜性付与効果の大きさの点で、Zは直接結合または−CQ−を表し、ここでQおよびQは同一または異なり、水素原子、ハロ置換アルキル基またはアリール基を表し、QおよびQのいずれかは水素原子、ハロ置換アルキル基から選ばれた少なくとも1種であることがさらに好ましい。
構造式(5)
Figure 0004945939
構造式(5)中、Ar〜Arはアリール基またはアリーレン基を表し、置換基を有していてもよい。Ar〜Arは任意の1ヶ所以上で結合していてもよく、高分子電解質材料中にAr〜Arの異なるものを2種以上含んでいてもよい。ここで、Ar〜Arの具体例としては、フェニル基、アルキルフェニル基、アリールフェニル基、ハロ置換フェニル基、ハロ置換アルキルフェニル基、ナフチル基、アルキルナフチル基、ハロ置換ナフチル基、アントラシル基などのアリール基、およびこれらに対応するアリーレン基などが挙げられる。溶媒に対する溶解性、高分子量ポリマー重合の容易さおよび入手の容易さからさらに好ましいAr〜Arはフェニル基、アルキルフェニル基、アリールフェニル基、ナフチル基などのアリール基およびこれらに対応するアリーレン基である。構造式(5)で表される基の中でも、燃料クロスオーバー抑制効果および工業的入手の容易さの点から、下記式構造式(6)で示される基がより好ましく、さらに好ましくは下記構造式(7)で示される基である。構造式(6)または構造式(7)中、点線は結合していても結合していなくてもよく、R〜Rはハロゲン原子、1価の有機基またはスルホン酸基を表し、dおよびeは0〜4の整数を表し、fおよびgは0〜5の整数を表し、高分子電解質材料中にR〜Rおよび/またはd〜gの異なるものを2種以上含んでいてもよい。構造式(6)または構造式(7)中、R〜Rとして用いられる1価の有機基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、ハロ置換アルキル基、アルキルアリール基、ハロ置換アリール基が挙げられる。
構造式(6)
Figure 0004945939
構造式(7)
Figure 0004945939
高プロトン伝導性と低メタノール透過性を得るためには、構造式(3)で示される高分子の絶乾膜スルホン酸基体積密度は0.5mmol/cm以上、1.92mmol/cm 未満とすることが好ましく、より好ましくは1.5mmol/cm以上、1.92mmol/cm 未満である。
次に本発明のプロトン伝導性高分子の分子鎖を拘束する方法について説明する。もちろんかかる説明により限定されるものではない。
プロトン伝導性高分子の分子鎖が拘束された状態を実現するための方法としては、該プロトン伝導性高分子を架橋することが可能な物質を導入し分子鎖どうしで架橋させたり、該プロトン伝導性高分子とは別の分子鎖拘束用高分子と混合する方法などがある。拘束用高分子としては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ビニル重合系高分子、メラミン系高分子、フェノール樹脂系高分子、オルガノポリシロキサン、チタニア、ジルコニア、アルミナなどの無機系高分子などが挙げられる。該拘束用高分子は架橋高分子が好ましい。また複数種類の拘束用高分子を同時に使用してもかまわない。該拘束用高分子が架橋高分子である場合、前記プロトン伝導性ポリマーの分子鎖との絡み合いを大きくすることができ、大きな分子鎖拘束効果を発揮し、特に高プロトン伝導度と低燃料クロスオーバーの両立に有利である。ここで、プロトン伝導性高分子と拘束用高分子の比率は、重量比で0.05以上、20以下が好ましい。この比率が0.05未満の場合は十分なプロトン伝導度が得られない傾向があり好ましくない。また20を超えると十分な燃料クロスオーバー低減効果が得られない傾向があり好ましくない。
次に、架橋処理を行なった高分子電解質の製膜方法の例について説明する。本発明の高分子電解質の製膜方法は溶液状態より製膜する方法、溶融状態より製膜する方法、等が挙げられる。高分子電解質膜の原料、すなわちプロトン伝導性高分子および前記拘束用高分子のうちの少なくとも1つまたはその前駆体(モノマー、オリゴマーなど)を溶液状態または溶融状態として用いる。高分子電解質が架橋高分子からなる場合は、前駆体を用いて製膜することが好ましい。
溶液状態より製膜する方法では、たとえば、該溶液を平板またはフィルム上に適当なコーティング法で塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法が例示できる。コーティング法としてはスプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法が適用できるがこれらに限定されるものではない。製膜に用いる溶媒は、原料を溶解し、その後に加熱や減圧によって除去し得るものであるならば特に制限はないく、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはメタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール系溶媒が好適に用いられる。膜厚は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚みにより制御できる。
溶融状態より製膜する場合は、溶融プレス法あるいは溶融押し出し法等が可能である。また原料として前駆体を用いる場合には、室温で溶融している場合があるので、その場合は平板またはフィルム上へのコーティングなども可能となる。
前駆体を製膜した場合には、熱、光、エネルギー線などを加えることにより反応を完結させ、前駆体を高分子へと転化させる。
次に、本発明のプロトン伝導性高分子の熱処理して製膜する方法について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
スルホン酸基を有する重合体を膜へ転化する方法としては、該重合体の溶液を乾燥して溶媒を除去し、スルホン酸基のプロトンを金属で置換して−SOM型(Mは金属)とした後、高温で熱処理し、再度プロトン置換して膜とする方法が挙げられる。−SOM型の高分子は−SOH型の高分子よりも分解反応の活性化エネルギーが高く、より高温での熱処理が可能となるため、溶媒除去や分子鎖の構造安定化による膜の緻密化をより効果的に行なうことができる。この方法で製膜することによって、本発明で規定した吸水膜スルホン酸基体積密度が得られ、高プロトン伝導度と低燃料クロスオーバーが両立可能となる。
前記の金属Mはスルホン酸と塩を形成しうるものであればよいが、強い静電相互作用によって膜の緻密化をはかるためには2価以上の金属を用いることが好ましく、2価以上の金属の中でも直径の大きな金属、すなわち、周期表5族以上の金属は多くのスルホン酸基と相互作用することができるため、より好ましい。さらに、2価5族以上の金属の中でBaを用いることがもっとも好ましい。また、スルホン酸基を−SOM型にする方法としては例えば、−SOH型のポリマーをMの塩またはMの水酸化物の水溶液に浸漬する方法を例示することができる。
前記熱処理の温度としては、得られる膜の燃料遮断性の点で200〜500℃が好ましく、250〜400℃がより好ましく、300〜350℃がさらに好ましい。200℃以上とするのは、本発明で規定する吸水膜スルホン酸基体積密度を得る上で好ましい。一方、500℃以下することで、ポリマーが分解するのを防ぐことができる。また、熱処理時間としては、得られる膜の含水率、プロトン伝導性および生産性の点で1分〜24時間が好ましく、3分〜1時間がより好ましく、5分〜30分がさらに好ましい。熱処理時間が短すぎると、緻密化の効果が薄く本発明の吸水膜スルホン酸基体積密度が得られない場合があり、長すぎるとポリマーの分解が起きプロトン伝導性が低下する場合があり、また生産性が低くなる。
本発明の高分子電解質材料からなる高分子電解質膜の膜厚としては、通常3〜2000μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには3μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには2000μmより薄い方が好ましい。膜厚のより好ましい範囲は5〜1000μm、さらに好ましい範囲は10〜500μmである。膜厚は、種々の方法で制御できる。例えば、溶媒キャスト法で製膜する場合は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができるし、また、例えばキャスト重合法で製膜する場合は板間のスペーサー厚みによって調製することもできる。
また、本発明の高分子電解質を製造する際に、通常の高分子化合物に使用される可塑剤、安定剤あるいは離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内であれば使用することができる。
本発明の新規の固体高分子電解質膜は高プロトン伝導性、低メタノール透過性であり、しかも十分な耐水性、耐熱性を有し、燃料電池用電解質膜として好適に用いることができる。
以下実施例を以て本発明をより具体例に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.プロトン伝導度の測定方法
電解質膜を25℃の純水に24時間浸漬した後、25℃、相対湿度50〜80%の雰囲気中に取り出し、定電位交流インピーダンス法で抵抗を測定して求めた。
北斗電工製電気化学測定システムHAG5010(HZ−3000 50V 10A Power Unit, HZ−3000 Automatic Polarization System)およびエヌエフ回路設計ブロック製周波数特性分析器(Frequency Response Analyzer)5010を使用し、25℃において、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、ナイキスト(Nykist)図からプロトン伝導度を求めた。交流振幅は500mVとした。サンプルは幅10mm程度、長さ10〜30mm程度の膜を用いた。サンプルは測定直前まで水中に浸漬したものを用いた。電極として直径100μmの白金線(2本)を使用した。電極はサンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
B.メタノール透過量の測定方法
膜状の試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、20℃において1Mメタノール水溶液を用いて測定した。
H型セル間にサンプル膜を挟み、一方のセルには純水(60mL)を入れ、他方のセルには30重量%メタノール水溶液(60mL)を入れた。セルの容量は各80mLであった。また、セル間の開口部面積は1.77cmであった。20℃において両方のセルを撹拌した。1時間、2時間および3時間経過時点で純水中に溶出したメタノール量を島津製作所製ガスクロマトグラフィ(GC−2010)で測定し定量した。グラフの傾きから単位時間あたりのメタノール透過量を求めた。
C.30wt%メタノール水溶液膨潤率の測定方法
電解質膜を60℃で30wt%メタノール水溶液に12時間浸漬した後、浸漬後と浸漬前のサンプル膜の長さの比を求めた。
D.吸水率および含水率の測定方法
高分子電解質材料を20℃の水に12時間浸漬した後、水中から取り出し、過剰な表面付着水をできるだけ素早くガーゼで拭き取って除去してから、あらかじめ重量Gpを測定してある密閉型試料容器に入れ、クリンプし、できるだけ素早く試料と密閉型試料容器の合計重量Gwを測定した。次に、試料の入った密閉型試料容器に小さな穴を開け、真空乾燥機にて110℃で24時間真空乾燥した後、できるだけ素早く試料と密閉型試料容器の合計重量Gdを測定した。
乾燥試料重量mは、
m=Gd−Gp
により求め、
また、全水分量Wは、
W=Gw−Gd
により求めた。
吸水率Rは、
R=W/m×100
により求め、
含水率Lは、
L=W/(m+W)×100
によって求めた。
E.吸水膜スルホン酸基体積密度の測定方法
(I)絶乾膜スルホン酸基重量密度
精製、乾燥後の電解質ポリマーを、元素分析により測定した。C、H、Nの分析は、全自動元素分析装置varioEL、Sの分析はフラスコ燃焼法・酢酸バリウム滴定した。それぞれのポリマーの組成比から絶乾膜スルホン酸基重量密度(mmol/g)を算出した。
(II)絶乾膜密度
ユアサアイオニクス株式会社製 ポリマー密度測定装置“ULTRAPYCNOMETER 1000”によって絶乾膜密度(g/cm)を測定した。
(III)絶乾膜スルホン酸基体積密度
(I)で求めた絶乾膜スルホン酸基重量密度に(II)で求めた絶乾膜密度を乗じて絶乾膜スルホン酸基体積密度(mmol/cm)を求めた。
(IV)吸水膜スルホン酸基体積密度
前記(II)、(III)、およびDで求めた絶乾膜密度、絶乾膜スルホン酸基体積密度、および吸水率を次式に代入して吸水膜スルホン酸基体積密度(mmol/cm)を求めた。
(吸水膜スルホン酸基体積密度)=(絶乾膜スルホン酸基体積密度)
/{1+(吸水率)/100×(絶乾膜密度)}
F.膜厚の測定方法
接触式膜厚計にて測定した。
比較例5
(1)スルホン化ポリフェニレンオキシドの合成
室温、窒素雰囲気下で三菱エンジニアリングプラスチック社製ポリフェニレンオキシド(YPX−100L)(商品名)(100g)をクロロホルム(1000g)に溶解させた後、撹拌しながらクロロスルホン酸(34mL)をゆっくり滴下した。滴下終了後室温で30分間撹拌を続けた。析出したポリマーを濾別後、ミルで粉砕し、水で十分に洗浄後、真空乾燥し、目的のスルホン化ポリフェニレンオキシドを得た(絶乾膜スルホン酸基重量密度:2.98mmol/g)。得られたスルホン化ポリフェニレンオキシドをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、15重量%溶液とした。
(2)5−トリメトキシシリルペンタン酸トリメチルシリルの合成
滴下ロートおよび撹拌翼を備えた300mL三ツ口フラスコにトリメトキシシラン(東京化成工業、35.50g)を入れた。さらに塩化白金酸六水和物(和光純薬工業、7.3mg)を2−プロパノール(0.2mL)に溶かした溶液を加えた。滴下ロートに4−ペンテン酸トリメチルシリル(50.06g)を入れ、室温で撹拌しながら滴下した。途中で発熱が見られたので三ツ口フラスコを氷浴に漬けて冷却した。再度フラスコを室温にもどした後一晩放置した。減圧蒸留により精製し5−トリメトキシシリルペンタン酸トリメチルシリル(32.2g)を無色透明液体として得た。(ガスクロ純度96.8%)
(3)シラン化合物の加水分解
(3a) Gelest社製1,8−ビス(トリメトキシシリル)オクタン(1.35g)に0℃で1M塩酸(0.68g)を添加し、室温にて30分間攪拌し、無色透明の加水分解物を得た。
(3b) 前記(2)で得た5−トリメトキシシリルペンタン酸トリメチルシリル(1.0g)に0℃で1M塩酸(0.37g)を添加し、室温にて30分間攪拌し、無色透明の加水分解物を得た。
(4)高分子電解質膜の作製
前記(3a)および(3b)の加水分解物および前記(1)のスルホン化ポリフェニレンオキシドDMAc溶液(19.5g)を混合した。この液をガラス板上にキャストし、100℃、3時間加熱して溶媒を除去した。さらに、飽和塩化バリウム水溶液浸漬によりBa置換後、窒素ガス雰囲気下、200〜300℃まで1時間かけて昇温し、300℃で10分間加熱する条件で熱処理した後、放冷した。1N塩酸に3日間以上浸漬してプロトン置換した後に、大過剰量の純水に3日間以上浸漬して充分洗浄した。
得られた膜は、膜厚は232μmであった。
比較例6
(1)未スルホン化ポリマーの合成
炭酸カリウム35g、
ヒドロキノン11g、
4,4'−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール35g、
および4,4'−ジフルオロベンゾフェノン44g
を用いて、N−メチルピロリドン(NMP)中、160℃で重合を行った。
重合後、水洗し、多量のメタノールで再沈することで精製を行い、下記構造式(8)で示されるポリマーを定量的に得た。その重量平均分子量は11万であった。
構造式(8)
Figure 0004945939
(2)スルホン化
室温、N雰囲気下で、上記で得られた重合体10gをクロロホルムに溶解させた後、激しく撹拌しながらクロロスルホン酸12mLをゆっくり滴下し、5分反応させた。白色沈殿を濾別し、粉砕し、水で十分洗浄した後、乾燥し、目的のスルホン化ポリマーを得た。
得られたスルホン化ポリマーの絶乾膜スルホン酸基重量密度は1.92mmol/gであった。
(3)製膜
上記のスルホン化ポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒とする溶液とし、当該溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて4時間乾燥して溶媒を除去した。さらに、飽和塩化バリウム水溶液浸漬によりBa置換後、窒素ガス雰囲気下、200〜300℃まで1時間かけて昇温し、300℃で10分間加熱する条件で熱処理した後、放冷した。1N塩酸に3日間以上浸漬してプロトン置換した後に、大過剰量の純水に3日間以上浸漬して充分洗浄した。
得られた膜は、膜厚76μmであり、無色透明の柔軟な膜であった。
[実施例
(1)ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンの合成
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1gを発煙硫酸(50%SO)150mL中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、下記構造式(9)で示されるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。(収量181g、収率86%)。
構造式(9)
Figure 0004945939
(2)電解質ポリマーの合成
炭酸カリウム6.9g、4,4'−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール14.1g、および4,4'−ジフルオロベンゾフェノン4.4g、および上記(1)で得たジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン8.4gを用いて、N−メチルピロリドン(NMP)中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行い、下記構造式(10)で示されるスルホン化ポリマーを得た。
構造式(10)
Figure 0004945939
(式中、*はその位置で上式の右端と下式の左端とが結合していることを表す。)
得られたポリマーは、重量平均分子量19万、絶乾膜スルホン酸基重量密度1.70mmol/gであった。
(3)製膜
上記(2)で得られたポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒とする溶液とし、当該溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて4時間乾燥して溶媒を除去した。さらに、飽和塩化バリウム水溶液浸漬によりBa置換後、窒素ガス雰囲気下、200〜300℃まで1時間かけて昇温し、300℃で10分間加熱する条件で熱処理した後、放冷した。1N塩酸に3日間以上浸漬してプロトン置換した後に、大過剰量の純水に3日間以上浸漬して充分洗浄した。
得られた膜は膜厚81μmであり、淡褐色透明の柔軟な膜であった。
[実施例
炭酸カリウム6.9g、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン6.7g、4,4'−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール7.0g、および4,4'−ジフルオロベンゾフェノン4.4g、および実施例中(1)で得たジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン8.4gを用いて、N−メチルピロリドン(NMP)中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行い、下記構造式(11)で示されるスルホン化ポリマーを得た。
構造式(11)
Figure 0004945939
(式中、*はその位置で上式の右端と下式の左端とが結合していることを表す。)
得られたポリマーは、重量平均分子量28万、絶乾膜スルホン酸基重量密度1.71mmol/gであった。
次に、得られたポリマーを、実施例と同様の方法で製膜した。得られた膜は膜厚81μmであり、淡褐色透明の柔軟な膜であった。
[実施例
炭酸カリウム6.9g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン13.5g、および4,4'−ジフルオロベンゾフェノン4.4g、およびビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)ジフェニルメタン0.8g、および上記(1)で得たジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン8.4gを用いて、N−メチルピロリドン(NMP)中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行い、下記構造式(12)で示されるスルホン化ポリマーを得た。
構造式(12)
Figure 0004945939
(式中、*はその位置で上式の右端と下式の左端とが結合していることを表す。)
得られたポリマーは、重量平均分子量18万、絶乾膜スルホン酸基重量密度1.67mmol/gであった。
次に、得られたポリマーを、実施例と同様の方法で製膜した。得られた膜は膜厚69μmであり、淡褐色透明の柔軟な膜であった。
[実施例
炭酸カリウム6.9g、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン6.7g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン6.5g、および4,4'−ジフルオロベンゾフェノン4.4g、およびビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)ジフェニルメタン0.8g、および実施例中(1)で得たジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン8.4gを用いて、N−メチルピロリドン(NMP)中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行い、下記構造式(13)で示されるスルホン化ポリマーを得た。
構造式(13)
Figure 0004945939
(式中、*はその位置で上式の右端と下式の左端とが結合していることを表す。)
得られたポリマーは、重量平均分子量26万、絶乾膜スルホン酸基重量密度1.69mmol/gであった。
次に、得られたポリマーを、実施例と同様の方法で製膜した。得られた膜は膜厚72μmであり、淡褐色透明の柔軟な膜であった。
[比較例1]
デュポン社製ナフィオン(登録商標)膜(Nafion(登録商標)117)を用いた。膜厚は210μmであった。
[比較例2]
アルドリッチ社製ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(3.0g)を濃硫酸150ml中に溶解させ、撹拌しながら室温で4日間反応を行った。得られた混合物を多量のエーテル中に投入し、白色沈殿を濾別し、洗浄した後、乾燥してポリマーを得た(絶乾膜スルホン酸基重量密度:2.66mmol/g)。得られたスルホン化ポリエーテルエーテルケトンをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、15重量%溶液とした。前記スルホン化ポリエーテルエーテルケトン溶液をガラス板上にキャストし、100℃、3時間加熱して固体電解質膜を作製した。膜厚は102μmであった。
[比較例3]
アルドリッチ社製ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)(3.0g)を濃硫酸150ml 中に溶解させ、撹拌しながら室温で10日間反応を行った。得られた混合物を多量のエーテル中に投入し、白色沈殿を濾別し、洗浄した後、乾燥してポリマーを得た(絶乾膜スルホン酸基重量密度:2.48mmol/g)。得られたスルホン化ポリエーテルエーテルスルホンをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、15重量%溶液とした。前記スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン溶液をガラス板上にキャストし、100℃、3時間加熱して固体電解質膜を作製した。膜厚は105μmであった。
[比較例4]
比較例5に記載のスルホン化ポリフェニレンオキシド溶液をガラス板上にキャストし、100℃、3時間加熱して固体電解質膜を作製した。膜厚は143μmであった。
実施例1〜4および比較例1〜に対応する電解質膜について測定した吸水膜スルホン酸基密度、含水率、伝導度、MCO、MCO/伝導度比および30wt%メタノール膨潤率を表1に示した。
Figure 0004945939
比較例5の吸水膜スルホン酸基体積密度は1.52mmol/cmという大きな値であり、含水率は50.0wt%であった。また、MCO/伝導度比は0.51という小さな値を示し、Nafion(登録商標)よりも伝導度とMCOのバランスがよかった。また、30wt%メタノール膨潤率は1.3であり、Nafion(登録商標)と近い値であった。
比較例6の吸水膜スルホン酸基体積密度は1.61mmol/cmという大きな値であり、含水率は29.1wt%であった。また、MCO/伝導度比は0.58という小さな値を示し、Nafion(登録商標)よりも伝導度とMCOのバランスがよかった。さらに、30wt%メタノール膨潤率は1.15であり、Nafion(登録商標)よりも耐メタノール性に優れていた。
実施例の吸水膜スルホン酸基体積密度は1.67mmol/cmという非常に大きな値であり、含水率は17.5wt%であった。また、MCO/伝導度比は0.29という非常に小さな値を示し、Nafion(登録商標)よりも伝導度とMCOのバランスが大幅に優れていた。さらに、30wt%メタノール膨潤率は1.1であり、Nafion(登録商標)よりも耐メタノール性に優れていた。
実施例の吸水膜スルホン酸基体積密度は1.74mmol/cmという非常に大きな値であり、含水率は20.0wt%であった。また、MCO/伝導度比は0.34という非常に小さな値を示し、Nafion(登録商標)よりも伝導度とMCOのバランスが大幅に優れていた。また、30wt%メタノール膨潤率は1.25であり、Nafion(登録商標)と同等の値であった。
実施例の吸水膜スルホン酸基体積密度は1.70mmol/cmという非常に大きな値であり、含水率は16.3wt%であった。また、MCO/伝導度比は0.20という非常に小さな値を示し、Nafion(登録商標)よりも伝導度とMCOのバランスが大幅に優れていた。さらに、30wt%メタノール膨潤率は1.05であり、Nafion(登録商標)よりも耐メタノール性に優れていた。
実施例の吸水膜スルホン酸基体積密度は1.75mmol/cmという非常に大きな値であり、含水率は18.8wt%であった。また、MCO/伝導度比は0.23という非常に小さな値を示し、Nafion(登録商標)よりも伝導度とMCOのバランスが大幅に優れていた。また、30wt%メタノール膨潤率は1.10であり、Nafion(登録商標)よりも耐メタノール性に優れていた。
比較例1の吸水膜スルホン酸基体積密度は1.11mmol/cmであり、含水率は24.4wt%であった。また、MCO/伝導度比は1.04であった。30wt%メタノール膨潤率は1.2であった。
比較例2の吸水膜スルホン酸基体積密度は0.89mmol/cmであり、含水率は69.1wt%であった。また、MCO/伝導度比はNafion(登録商標)と同等であったもの、30wt%メタノールに浸漬したところ、大きく膨潤した後、半溶解した。
比較例3の吸水膜スルホン酸基体積密度は0.67mmol/cmであり、含水率は74.6wt%であった。また、MCO/伝導度比はNafion(登録商標)より悪く、30wt%メタノールに溶解してしまった。
比較例4の吸水膜スルホン酸基体積密度は1.14mmol/cmであり、含水率は64.5wt%であった。また、MCO/伝導度比はNafion(登録商標)よりもやや小さかった。30wt%メタノール膨潤率は1.7であり、Nafion(登録商標)よりも大きかった。

Claims (6)

  1. スルホン化されたプロトン伝導性高分子からなる電解質膜であって、該プロトン伝導性高分子が下記構造式(3)で表される基本構造を含み、下記数式(1)で定義した該プロトン伝導性高分子の吸水膜スルホン酸基体積密度が1.65mmol/cm 以上、6.0mmol/cm以下であり、かつ下記数式(5)で定義した該プロトン伝導性高分子の含水率が7wt%以上、20wt%以下であり、かつ絶乾膜スルホン酸基重量密度が1.92mmol/g未満であることを特徴とする高分子電解質膜。
    構造式(3)
    Figure 0004945939
    [構造式(3)中、E は芳香族環を有する2価の基であり、Ar およびAr は置換されていてもよい2価のアリーレン基、Wはカルボニル基を表す。E 、Ar 、Ar はそれぞれが2種類以上の基を表してもよい。]
    数式(1)
    (吸水膜スルホン酸基体積密度)=(絶乾膜スルホン酸基体積密度)
    /{1+(吸水率)/100×(絶乾膜密度)}
    数式(1)において、絶乾膜スルホン酸基重量密度、絶乾膜スルホン酸基体積密度、吸水率は、それぞれ下記数式(2)〜(4)で定義した。
    数式(2)
    (絶乾膜スルホン酸基重量密度)=(スルホン酸基モル数)/(絶乾膜重量)
    数式(3)
    (絶乾膜スルホン酸基体積密度)=(絶乾膜スルホン酸基重量密度)×(絶乾膜密度)
    数式(4)
    (吸水率)=(膜中の水重量)/(絶乾膜重量)×100
    数式(5)
    (含水率)=(膜中の水重量)/(吸水膜重量)×100
  2. 構造式(3)中、E は構造式(2)、(4)、および/または(5)で表わされることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
    構造式(2)
    Figure 0004945939
    [構造式(2)式中、R は水素原子、ハロゲン原子、1価の有機基またはスルホン酸基を表し、aは0〜4の整数を表す。1価の有機基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルキルアリール基、ハロゲン化アリール基を挙げることができる。]
    構造式(4)
    Figure 0004945939
    [構造式(4)式中、R ,R は水素原子、ハロゲン原子、1価の有機基またはスルホン酸基を表す。R ,R として用いられる1価の有機基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルキルアリール基、ハロゲン化アリール基を挙げることができる。また、b,cは0〜4の整数を表す。Zは直接結合、−O−、−S−、−Se−、−CQ −、アルキレン基、アリーレン基、アルキリデン基、またはシクロアルキリデン基を表す。ここで、Q およびQ は同一または異なり、水素原子、ハロゲン基、ハロ置換アルキル基またはアリール基を表し、Q およびQ のいずれかは水素原子、ハロゲン基、ハロ置換アルキル基から選ばれた少なくとも1種である。]
    構造式(5)
    Figure 0004945939
    [構造式(5)式中、Ar 〜Ar はアリール基またはアリーレン基を表し、置換基を有していてもよい。Ar 〜Ar は任意の1ヶ所以上で結合していてもよい。]
  3. 該プロトン伝導性高分子の30wt%メタノール水溶液膨潤率が1.15以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質膜。
  4. 該プロトン伝導性高分子を膜へ転化する方法として、該高分子の溶液を乾燥して溶媒を除去し、スルホン酸基のプロトンを金属で置換して−SOM型(Mは2価以上の金属)とした後、高温で熱処理し、再度プロトン置換して膜とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質膜。
  5. 金属Mが周期表の5族の金属であることを特徴とする請求項4に記載の高分子電解質膜。
  6. 該プロトン伝導性高分子が、炭化水素系高分子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜。
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