本発明は、ガラス材表面に接触する物質の酸化反応の進行を抑制する酸化反応抑制ガラス材及び酸化反応抑制ガラス容器に関する。
従来、ガラス材は、気密性、耐熱性、成分の非吸着性、非溶出性、耐久性、耐腐食性に見られる安定した性質、さらには溶融、成形が容易である性質等を生かし、医薬品、試薬、食品、飲料品、酒類等の内容物を安定して保存できる容器として用いられてきた。これらに加えて、建材、乗用車、船舶、航空機等の窓材、電球、蛍光管、ブラウン管、ディスプレイ用パネル、レンズ等の光学関連材料、各種研究実験器具、琺瑯製品等に広く用いられている。
一般に、ソーダライムガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラス等のガラス材は、石英ガラスと比較しても安価であり、加工が容易である。通常ガラス材は、SiO2からなるシリカ成分によりガラス骨格が維持され、前記SiO2以外に、例えば、Na2O、CaO、Al2O3等の成分、着色目的からCu、Fe、Cr、Ni等の各種金属酸化物が配合されていることが知られている。そのため、ガラス材を成形し、製品化した際、当然ながらその表面には、シリカ成分の他にNaに見られるアルカリ金属等の元素が現出されている。
ところで、従前のガラス材を利用し、液晶基板(TFT−LCDモジュール)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等を製造する場合にあっては、非常に高度な表面の清浄度が要求される。そのため、ガラス材表面の構成成分の均質化を図る目的から、特にアルカリ金属を除去する脱アルカリの手法が広汎に用いられてきた。例えば、ソーダライムガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラス等の石英ガラス以外より得られたガラス製品に対して、亜硫酸ガスと水分を含む高湿度雰囲気中で白金触媒を用いることにより、当該ガラス製品表面からNa+を除去し、窒素イオンの照射によるスパッタリングを行う表面処理方法がある(特許文献1参照)。他に、アルカリ成分を含むシリケートガラス製品(ソーダライムガラス製品)に対して120℃以上の液体の水を接触させ、さらに酸処理を施す方法がある(特許文献2参照)。
また、従前のガラス材を容器として用いた場合、充填される内容物が受ける影響を制御するため、ガラス材の脱アルカリが所望され、その処理方法が開発されてきた。例えば、医薬製剤用のアンプルの容器素材として知られるアルミノ硼珪酸ガラスのガラス製品表面におけるAlの存在比率を制御するために、当該ガラス製品の表面を硝酸、弗酸等(混酸も含む)により洗浄し、内容物に対するAl3+の溶出量を抑制したガラス容器も開発されている(特許文献3参照)。また、ソーダライムシリカ系ガラスより成形されたびんの紫外線透過率を調整するために、容器形状に成形されたガラス材(ソーダライムガラス)の内表面にフロンもしくはフロンと空気の混合気体を導入後、徐冷を行う方法がある(特許文献4参照)。
上述のとおり、ソーダライムガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラス等の公知のガラス材を用い、当該ガラス材表面の制御を行う脱アルカリ化の方法は各種開発されているものの、脱アルカリ処理に要する時間が長く、スパッタリング、ガス導入等の専用設備が必要となる。このために、公知のガラス材を容器として利用する場合、出来上がるガラス材の品質を向上させようとすると、当該容器製造に要する時間、専用設備等により、その製造原価は上昇しがちとなる。したがって、これらの処理方法は、ガラスを容器として製造する場合には、利用されることは少なかった。また、成形されたガラス材にフロンを導入する方法は、脱アルカリ処理の一例として用いられているものの、当該ガラス材で発現する変化に関し、解析された知見は見当たらず、フロンの導入と脱アルカリ化との関連づけが曖昧なまま利用されているにすぎなかった。
特開平10−67544号公報
特開平11−171599号公報
特開2001−294447号公報
特開2002−249338号公報
その後、発明者らは、ガラス材の性質及び製造工程について鋭意研究を重ねた結果、従前より知られている成形されたガラス材にフロンを導入する方法において、フロンの導入と脱アルカリ化の進行との関連づけを明らかにするとともに、この他の脱アルカリ化処理の方法よりも簡便にガラス材表面に存在する原子組成を調整可能としたガラス材(ガラス容器)の製造に成功した。
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、ガラス原料よりガラス材を製造する際の製造工程を適切に制御し、ガラス材表面の原子組成を調整することにより、酸化反応に起因する酸化劣化を極力抑制した酸化反応抑制ガラス材及び酸化反応抑制ガラス容器を提供するものである。
すなわち、請求項1の発明は、ガラス原料を溶融後、溶融ガラスを所定形状に成形することにより得られるガラス材であって、前記ガラス材の表面から深さ方向にエッチングしながら行うX線光電子分光分析による測定において、Si(mol%)/Na(mol%)の値が30以上であり、かつSi(mol%)/Ca(mol%)の値が10以上を満たすシリカリッチ層が当該ガラス材の内表面に形成されていることを特徴とする酸化反応抑制ガラス材に係る。
請求項2の発明は、前記溶融ガラスを成形した後、得られたガラス成形物の温度が450℃ないし700℃に維持されているうちに、該ガラス成形物にフロンを送通し、その後に徐冷を行うことにより、前記シリカリッチ層を当該ガラス材の内表面に形成した請求項1に記載の酸化反応抑制ガラス材に係る。
請求項3の発明は、前記シリカリッチ層の厚さは少なくとも15nm以上である請求項1又は2に記載の酸化反応抑制ガラス材に係る。
請求項4の発明は、前記シリカリッチ層は当該ガラス材の一部分に設けられている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の酸化反応抑制ガラス材に係る。
請求項5の発明は、前記フロンは1,1−ジフルオロエタン又は1,1,1,2−テトラフルオロエタンである請求項2ないし4のいずれか1項に記載の酸化反応抑制ガラス材に係る。
請求項6の発明は、前記シリカリッチ層を内表面に形成したガラス材は、アルカリ水溶液を用いた洗浄に耐性を有する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の酸化反応抑制ガラス材に係る。
請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の酸化反応抑制ガラス材であって、前記溶融ガラスをプレスアンドブロー成形により容器形状に成形し、得られたガラス成形物の温度が450℃ないし700℃に維持されているうちに、該ガラス成形物に前記フロンを送通し、その後に徐冷を行うことにより、前記シリカリッチ層を当該酸化反応抑制ガラス材の内表面に形成した酸化反応抑制ガラス容器に係る。
請求項8の発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の酸化反応抑制ガラス材であって、前記溶融ガラスに窒素を送通しながらブローアンドブロー成形により容器形状に成形し、得られたガラス成形物の温度が450℃ないし700℃に維持されているうちに、該ガラス成形物に前記フロンを送通し、その後に徐冷を行うことにより、前記シリカリッチ層を当該酸化反応抑制ガラス材の内表面に形成した酸化反応抑制ガラス容器に係る。
請求項1の発明に係る酸化反応抑制ガラス材によると、X線光電子分光分析による測定において、Si(mol%)/Na(mol%)の値が30以上であり、かつSi(mol%)/Ca(mol%)の値が10以上を満たすシリカリッチ層が当該ガラス材の内表面に形成されているため、ガラス材の表面における酸化反応性を抑制することが可能となる。
請求項2の発明に係る酸化反応抑制ガラス材によると、溶融ガラスを成形した後、得られたガラス成形物の温度が450ないし700℃に維持されているうちに、該ガラス成形物にフロンを送通し、その後に徐冷を行うため、ガラス材の内表面にシリカリッチ層を簡便かつ短時間で形成することが可能となる。
請求項3の発明に係る酸化反応抑制ガラス材によると、シリカリッチ層の厚さを少なくとも15nm以上とするため、酸化反応抑制の効果を維持させることが可能となる。
請求項4の発明に係る酸化反応抑制ガラス材によると、シリカリッチ層は当該ガラス材の一部分に設けられているため、酸化反応性の抑制を所望する部分のみ、選択的にシリカリッチ層を形成することが可能となる。
請求項5の発明に係る酸化反応抑制ガラス材によると、フロンとして、1,1−ジフルオロエタン又は1,1,1,2−テトラフルオロエタンを徐冷前に送通するため、所望のシリカリッチ層の形成を促すことが可能となる。
請求項6の発明に係る酸化反応抑制ガラス材によると、アルカリ水溶液を用いた洗浄に耐性を有するため、当該ガラス材を回収及び洗浄により再利用する場合の利便性を確保することができる。
請求項7の発明に係る酸化反応抑制ガラス容器によると、溶融ガラス材料にプレスアンドブロー成形を行うため、いっそうのガラス容器の表面における酸化反応性を抑制することが可能となる。
請求項8の発明に係る酸化反応抑制ガラス容器によると、溶融ガラス材料に窒素を送通しながらブローアンドブロー成形を行うため、いっそうのガラス容器の表面における酸化反応性を抑制することが可能となる。
以下添付の図面に従って本発明を説明する。図1は本発明の一実施例に係る酸化反応抑制ガラス容器の斜視図及び断面図、図2は図1の酸化反応抑制ガラス容器の部分拡大模式図、図3は酸化反応抑制ガラス容器の製造に係る概略工程図、図4はプレスアンドブロー成形に用いる装置の構造断面図、図5はブローアンドブロー成形に用いる装置の構造断面図、図6はラジカル化剤の反応を表す模式図である。
本発明の酸化反応抑制ガラス材を説明するにあたり、容器形状に成形された酸化反応抑制ガラス容器を好適例として図1及び図2を用い説明する。ここで、本発明の酸化反応抑制ガラス材とは、酸化反応抑制ガラス容器を包含する成形物を意味し、容器形状を含めて種々の形状からなる成形物が相当する。図1(a)は、特に本発明の酸化反応抑制ガラス容器10を表す。図1(b)は、図1(a)中のX−X線における酸化反応抑制ガラス容器10の横断面を表す。符号11は当該ガラス容器10の表面、12は容器体、14は基層、15は口部、20はシリカリッチ層を表す。
図2(a)は、前出の図1(b)の一部Qをさらに拡大して示した模式図(概念図)である。図1に示すとおり、前記ガラス容器10全体は、所定形状(容器形状)に成形された容器体12からなり、該容器体12はびんの形状である。図2(a)において、シリカリッチ層20は、表面11から基層14方向に向かう内表面13に発達して形成された薄層状の構造である。とりわけ、図2(a)のシリカリッチ層20は、酸化反応抑制ガラス容器10(容器体12)の外側内表面13p及び内側内表面13qの両方に形成されている。また、図2(b)に図示する容器体12sにあっては、当該容器体12sの内側である内側内表面13qのみにシリカリッチ層20を形成した構造である。すなわち、図2(b)に図示する容器体12sは、請求項4に規定するとおり、ガラス材、特にガラス容器10の一部分である内側(内側内表面13q)のみにシリカリッチ層20を設けた構造である。
前記酸化反応抑制ガラス容器は、ガラス材料を溶融後、必要に応じて着色原料が添加され、適宜所定の容器形状に成形後、徐冷、検査等の工程を経て出来上がるガラス容器であり、とりわけ、請求項1に規定するとおり、本発明の酸化反応抑制ガラス材(酸化反応抑制ガラス容器)にあっては、存在する原子種において、Si原子を相対的に富むシリカリッチ層が当該ガラス材(ガラス容器)の内表面(図2参照)に形成されているガラス材(ガラス容器)である。
前記シリカリッチ層とは、後述する実施例から自明なとおり、ガラス材(ガラス容器)の表面から深さ方向にAr+によりエッチングしながらX線光電子分光分析による測定を行った場合、測定深度毎のガラス材(ガラス容器)中の原子存在比率において、Si原子とNa原子の存在比、すなわち、Si(mol%)/Na(mol%)の値が30以上であり、かつSi原子とCa原子の存在比、すなわち、Si(mol%)/Ca(mol%)の値が10以上を満たす原子存在比率からなる層を示すものである。
加えて、シリカリッチ層における前記原子存在比率(mol%同士による比較)が十分に満たされる層厚は、後述の実施例中、X線光電子分光分析装置の深さ方向のエッチングレートによる測定、さらに、酸、アルカリ等による浸食、使用時の衝撃等から、請求項3に規定されるように、ガラス材(ガラス容器)の最外表面から、少なくとも15nm以上とすることが望ましい。なお、前出の図2の模式図(概念図)を参照にすると、同模式図中シリカリッチ層20の層厚のように、表面11から基層14方向に向かう内表面13に少なくとも15nm以上形成される。
上記シリカリッチ層として示す原子存在比率とすることにより、本来ガラス材料中に存在するNa原子及びCa原子等の存在比率から相対的にガラス骨格の成分であるSi原子、O原子の存在比率が高まり、比してNa原子及びCa原子の存在比率が抑制された層が形成される。結果として、ガラス材(ガラス容器)の表面において、Na等の反応性の高い金属が低減されるため、当該ガラスに接触した分子からプロトンが奪われる反応等、酸化数の変化を伴う反応が抑制されると考えられる。
請求項2に規定する酸化反応抑制ガラス材について、特に酸化反応抑制ガラス容器としての製造工程を図3の概略工程図を用いて説明する。例えば、ソーダライムガラスからなるガラス容器の製造にあっては、珪砂、ソーダ灰、石灰石、カレット等のガラス原料、Cu、Fe、Cr、Ni等の金属酸化物が着色成分として溶融炉において溶融され(S1)、溶融ガラスとなる。なお、有色のガラス容器を製造する他の製法として、前記溶融炉には、カララントフォアハースが接続されること等により、当該溶融ガラスに着色成分を含有するフリット、ペレット等が添加される。むろん、酸化反応抑制ガラス容器の原料は、珪砂、ソーダ灰、石灰石、カレット等のソーダライムガラスのガラス原料に限られるものではなく、鉛ガラス、硼珪酸ガラス等のガラスの原料も製造に際しても同様に使用可能である。
前記溶融ガラスは、所定量ずつゴブ(gob)と称される塊に切り分けられ、ISマシン等の公知の成形機に送られ、適宜の容器形状に成形(Smd)される。前出のISマシンを用いる場合、前記Smdの成形においては、まず粗型を用いた一次成形(ブロー成形(S2)又はプレス成形(S3)のいずれか)が行われ(1段階目)、パリソン(parison)と呼ばれる中間成形体になる。続いて仕上げ型を用いた二次成形(ブロー成形(S4))において、前記パリソンは例えば容器形状のガラス成形物に成形される(2段階目)。なお、前記Smdの成形は、容器形状に応じて最適な成形方法が選択されるものであり、前記ブロー成形(S2,S4)には、通常空気が用いられる。また、前記Smdの成形は、1段階のみの成形として行うこともできる。
前記ガラス成形物が450ないし700℃、すなわち軟化点以下の温度帯に維持されている間に、フロンを当該ガラス成形物に送通する吹き付け(S5)が行われる。続いて、フロンの吹き付けを終えたガラス成形物は、徐冷炉で30分ないし2時間程度、あるいはそれ以上の適宜時間をかけて徐冷が行われ(S6)、各種製品検査等を経て製品である酸化反応抑制ガラス容器となる。
前記S5のフロンの吹き付けにより、完成したガラス容器の内表面(図2参照)には、上記詳述した原子存在比率を満たすシリカリッチ層が形成される。さらに、発明者は、後述の実施例に示すとおり、ガラス成形物がフロンに接触(曝露)する時間を長くすることにより、得られるガラス容器のシリカリッチ層が厚くなることを実証した。すなわち、酸化反応抑制効果が高まるものと示唆される。製造に当たり、フロンを吹き付ける(送通させる)手法は適宜である。例えば、ガラス容器の口部15(図1(a)参照)にノズル(図示せず)を接近させ、該ノズルよりフロンを導入(噴射)することにより送通する方法が検討される。
なお、フロンの吹き付け(送通)を前記ガラス成形物の内側(一部分)のみに行った場合、シリカリッチ層は当該容器の一部分である内側(図2参照、内側内表面13q)のみに形成される。通常、飲食物、酒類等の内容物を容器内に封入する場合、主として前記飲食物、酒類等と直に接触する箇所は、容器の内側の表面のみである。そのため、ガラス容器の表面全体にシリカリッチ層を形成する必要性は低い。従って、酸化反応抑制ガラス材をガラス容器として製造する場合、その製造に要する時間の低減、専用設備の簡素化等が可能となり、製造原価を圧縮することができる。
ただし、ガラス容器の使用目的に応じ、ガラス容器の表面全体にシリカリッチ層を形成することは、もちろん可能である。例えば、ガラス容器の表面全体にシリカリッチ層を形成する場合、チャンバー内にエアカーテン等による仕切りを設け、該仕切られた区画内にフロンを導入し、このチャンバー内へガラス成形物を搬送する方法も検討される。むろん、酸化反応抑制ガラス材にあっても、当該ガラス材の一部分もしくは当該ガラス材の表面全体にシリカリッチ層を形成することは可能である。
発明者らの検証の結果、シリカリッチ層の形成に有効性が確認されたフロンは、請求項5に規定されるとおり、1,1−ジフルオロエタン又は1,1,1,2−テトラフルオロエタンである。
請求項6に規定する酸化反応抑制ガラス材とは、シリカリッチ層を内表面に形成後、徐冷、製品検査等を終えて完成したガラス材であって、アルカリ水溶液を用いる洗浄に対して耐性を有するガラス材である。ガラス材が、特に酸化反応抑制ガラス容器である例について詳述する。
通常、アルカリ水溶液による洗浄は、回収されたガラス容器(リターナブルびん)に対して行われ、ガラス容器表面の有機物等の汚れを分解するものである。しかしながら、前記アルカリ水溶液は、約4%のNaOH水溶液であり、80℃前後に加温することにより反応性を高めた上で用いられる。そのため、ガラス容器表面の汚れのみならず、ガラス容器自体(リターナブルびん自体)も少なからず浸食を受けていた。
ところが、後述の実施例から明らかなとおり、フロンの送通に伴うシリカリッチ層が形成されたガラス容器にあっては、常温のアルカリ水溶液による洗浄時においては酸化反応性を抑制しつつ、また、加温されたアルカリ水溶液による洗浄時には酸化反応性に若干の変動を来すものの大きく悪化させることがない。さらに、シリカリッチ層が層厚に形成されているガラス容器にあっては、加温されたアルカリ水溶液による洗浄の影響をほとんど受けていないことが明らかとなった。
すなわち、シリカリッチ層を内表面に形成したガラス容器は、アルカリ水溶液(特に加温されたアルカリ水溶液)による洗浄に対して、浸食耐性を獲得したものと考えられる。その結果、本発明のガラス容器を例えばリターナブルびんとして再利用する場合、当該ガラス容器の機能低下はほとんど生じないと考えられ、再利用の利便性を確保できる。この現象は、アルカリ水溶液(NaOH水溶液)によりガラス容器表面の浸食が進行するものの、シリカリッチ層の存在により、ガラス容器の基層に含まれるNa、Ca等の原子種の現出が抑制されているものと推察される。なお、前記アルカリ水溶液は、NaOH水溶液のみに限られず、KOH水溶液等、強アルカリ性を示す水溶液を用いることができる。
上記のとおり、シリカリッチ層を有するガラス容器に対して導出されるアルカリ水溶液を用いた洗浄に対する浸食耐性の特性は、当然ながら、ガラス材に対しても同様に適用されるものと容易に推定される。
請求項7に規定する酸化反応抑制ガラス容器について、その製造工程を図3の概略工程図、図4の構造断面図を用いて説明する。同酸化反応抑制ガラス容器において、前記適宜の容器形状への成形(Smd)は、プレスアンドブロー成形であり、特に図3に示す一次成形としてプレス成形(S2)、さらに二次成形としてブロー成形(S4)の2段階によって行われるものである。
前出の一次成形に相当するプレス成形(S2)が例えばISマシン等の成形機により行われる場合、まず、図4(a)のとおり、成形機100に装着された粗型101(一次型)の中に、所定量ずつ切り分けられたゴブG1が注入される。次に、図4(b)のとおり、粗型101の上部にバッフル105が被せられ、前記ゴブG1はプランジャー102の上昇に伴い押圧(プレス)されながら、粗型101の内部形状101iに成形され、その結果、パリソンP1が得られる。
二次成形に相当するブロー成形において、図4(c)のとおり、前記パリソンP1は上下反転の後、仕上げ型111(二次型)内に配置される。次に、図4(d)のとおり、仕上げ型111の上部にブローヘッド115が装着され、該パリソンP1内に空気が送通(ブロー)される。この結果、パリソンP1は、仕上げ型111の内部形状111iに成形され、ガラス成形物M1が得られる。
図示を省略するが、前記ガラス成形物M1は、仕上げ型111から取り外され、450ないし700℃の温度帯に維持されている間に、当該ガラス成形物M1に対して前記フロンの吹き付け(S5)が行われる。以降、図3の概略工程図の徐冷(S6)が行われ、製品である酸化反応抑制ガラス容器となる。なお、前記図3中の溶融(S1)等の工程は共通であるため、その説明を省略する。図4中の符号113は口型、116は底型である。
酸化反応抑制ガラス容器の成形に際して図4に示したプレス成形を用いた場合、前記ゴブG1は、粗型101及び仕上げ型111等の金型との接触、プランジャー102の挿入接触により、ガラスの溶融温度から急冷される。この結果、ゴブG1、さらにはガラス成形物M1の表面において、急冷によるシリカ成分の固化、Na、Ca等の拡散成分の抑制が考えられる。
請求項8に規定する酸化反応抑制ガラス容器について、その製造工程を図3の概略工程図、図5の構造断面図を用いて説明する。同酸化反応抑制ガラス容器において、適宜の容器形状への成形(Smd)は、ブローアンドブロー成形であり、特に図3に示す一次成形としてブロー成形(S3)、さらに二次成形としてブロー成形(S4)の2回の成形時に空気に代えて窒素の導入によるブロー成形によって行われるものである。
前出の一次成形に相当するブロー成形(S2)が例えばISマシン等の成形機により行われる場合、まず、図5(a)のとおり、成形機200に装着されたの粗型201(一次型)の中に、所定量ずつ切り分けられたゴブG2が注入される。次に、図5(b)のとおり、粗型201の上部にバッフル205が被せられ、前記ゴブG2は、適宜の送気により粗型201に密着させられる。次に前記ゴブG2内に窒素が送通(ブロー)される。この結果、ゴブG2は粗型201の内部形状201iに成形され、その結果、パリソンP2が得られる。
二次成形に相当するブロー成形において、図5(c)のとおり、前記パリソンP2は上下反転の後、仕上げ型211(二次型)内に配置される。次に、図5(d)のとおり、仕上げ型211の上部にブローヘッド215が装着され、該パリソンP2内に窒素が送通(ブロー)される。この結果、パリソンP2は、仕上げ型211の内部形状211iに成形され、ガラス成形物M2が得られる。
前記ガラス成形物M2は、ガラス成形物M1と同様に、仕上げ型211から取り外され、450ないし700℃の温度帯に維持されている間に、当該ガラス成形物M2に対してフロンの吹き付け(S5)が行われる。以降、図3の概略工程図の徐冷(S6)が行われ、製品である酸化反応抑制ガラス容器となる。なお、前記図3中の溶融(S1)等の工程は共通であるため、その説明を省略する。図5中の符号213は口型、216は底型である。
酸化反応抑制ガラス容器の成形に際して図5に示した窒素を送通するブロー成形を用いた場合、前記ゴブG2及びパリソンP2は、粗型201及び仕上げ型211等の金型との接触、不活性な気体である窒素との接触により、ガラスの溶融温度から急冷される。この結果、ゴブG2、さらにはガラス成形物M2の表面において、ガラス骨格である「Si−O」結合の角度が変化しているものと考えられる。
既に述べたとおり、発明者らは、ガラス材(実施例ではガラス容器)の内表面にはシリカリッチ層が形成され、酸化反応の発現が抑制的であることを見出した。従来、飲料、酒類、食品、医薬品、試薬等の内容物中の芳香成分、アミノ酸、有機酸等の有機物、薬効成分等の各種分子に対し、同内容物中の溶存酸素が反応することにより、ガラス容器内において、酸化、分解等の反応が引き起こされてきた。その一方、本発明の酸化反応抑制ガラス容器を用いると、前記内容物を保存する際に生じる酸化反応は抑制される等の酸化劣化防止効果が得られ、当該内容物を酸化障害から保護する用途に役立つことが期待される。
なお、本発明の酸化反応抑制ガラス材を説明する際に、主に容器形状からなる酸化反応抑制ガラス容器を例示して説明したが、当然ながら容器形状以外の成形物も勘案されうる。例えば、溶融ガラスを圧延ローラー等により延伸することにより得られるガラス板状体等の成形物にフロンを送通させることにより、該板状体にシリカリッチ層を形成することも可能である。従って、上記説明における酸化反応抑制ガラス材とは、容器形状等の形状及びその成形方法に限定されるものではなく、適宜種々の形状の成形物が選択されうることは言うまでもない。
これまでに述べた酸化反応抑制ガラス材及び酸化反応抑制ガラス容器の酸化反応性を定量的に測定する方法は、被検体であるガラス材(ガラス容器)にヒドロキシアミン化合物等のラジカル化剤を接触させ、該ラジカル化剤から生じる不対電子を電子スピン共鳴装置(ESR)を用いて検出する酸化反応性評価方法である。一般的に、ラジカル化剤から生じる不対電子の測定は、他の増感物質を介在させ、吸光光度計等を用い間接的に測定されていた。しかしながら従来法の測定感度は、必ずしも鋭敏であるとは言えなかった。そのため、本発明のガラス材(ガラス容器)に用いた酸化反応性評価方法のように、微弱な差異を評価し分けるためにも電子スピン共鳴装置を用いることが好ましい。
前記ラジカル化剤は、1−hydroxy−2,2,5,5−tetramethyl−3−imidazoline−3−oxide(以下、HTIOと表記する。)が不対電子の離脱、分子の安定性、測定感度の鋭敏性等から好適である。図6(a)の模式図(反応図)から理解されるように、前記HTIOは水溶液として溶解後に前記ガラス材(ガラス容器)の表面に接触すると、酸化され、2,2,5,5−tetramethyl−3−imidazoline−3−oxide−1−oxy(以下、TIOOと表記する。)に変化する。前記HTIOは、ニトロキシルラジカルであるTIOOとなり、このとき生成する不対電子が電子スピン共鳴装置により測定される。
前記ラジカル化剤には、前記HTIOの他に4−Hydrazonomethyl−1−2,2,5,5−tetramethyl−3−imidazoline−3−oxide(以下、HHTIOと表記する。)も挙げられる。前記HHTIOの反応は、図6(b)に示すとおり、前記HHTIOから4−Hydrazonomethyl−2,2,5,5−tetramethyl−3−imidazoline−3−oxide−1−oxy(以下、HTIOOと表記する。)に変化する反応であり、前記HTIOの場合と同様に不対電子の発生が認められる。なお、発明者らの検証によると、前記HTIOをラジカル化剤として用いた際のシグナル検出の感度が最も良好であるため、前記HTIOがラジカル化剤として好ましい。
[実施例1]
実施例1においては、ISマシン(自動ガラス成びん機)を用いて製造された無色びん及び着色びん(有色透明)について、各びん毎の酸化反応性を測定した。
実施例1に用いた各びんは、いずれもソーダライムガラス原料からなり、ブローアンドブロー成形(図5参照、ただしブローには空気を用いた。)により成形され、以下の表1の分析値に示す成分組成からなる。表中、試料1−1はアンバー色びん、試料1−2は黒色びん、試料1−3はエメラルドグリーン色びん、試料1−4は無色透明びん(フリントガラスびん)、試料1−5は水色びんである。試料1−1ないし1−5の各びんとも入り目容量300mL、重量250gである。
試料1−1ないし試料1−5のそれぞれのびんにpH7.4に調整した0.1mol・L-1リン酸緩衝溶液を1800μLずつ添加した後、1×10-3mol・L-1の1−hydroxy−2,2,5,5−tetramethyl−3−imidazoline−3−oxide(HTIO)溶液を200μLずつ添加した。前記2種類の溶液の添加混合直後から計時を開始し、1分,5分,10分,20分,50分後に前記混合溶液を各試料のびんから100μLずつ、ヘマトクリット毛細管により分取した。本測定に際し、一連の処理は、蛍光灯照明、大気雰囲気のもと、温度25℃、相対湿度(RH)50%にて行われた。
ヘマトクリット毛細管に分取した前記各混合溶液を電子スピン共鳴装置(日本電子株式会社製 FR−30)に装填し、X−バンドESRスペクトルを測定した。同装置による測定条件は、microwave power:4mW、modulation frequency:9.3GHz、central magnetic field:337mT、modulation amplitude:0.1mT、sweep width:5mT、sweep time:1minとした。
試料1−1ないし試料1−5の各びんにより、開始から前記1分,5分,10分,20分,50分の時点で分取した溶液について、HTIOが酸化されてTIOOラジカルに変化した際に発生する不対電子をTIOOラジカル信号強度として上記測定条件に基づき測定し、ピーク面積の総和を求めた。
前記TIOOラジカル信号強度は、Mn2+を基準物質とし、同様の条件下で測定して得たピーク面積との積分値同士による対比を行い、Mn2+のピーク面積値に対するTIOOラジカルのピーク面積値の比率、すなわち、エリアシグナル/エリアマンガン(以降、S/M[−]と表記する。)として数値化した。図7のESRスペクトルは、基準物質Mn2+及びTIOOラジカルの信号強度を表す一例であり、当該ESRスペクトルは試料1−1における計時50分後のTIOOラジカルの信号強度を表す。
試料1−1ないし試料1−5の各ソーダライムガラス製のびんにおける酸化反応性(前記S/M[−]の値)は、図8のグラフに示されるとおり、びんの色調により大きく異なる。この中にあって、試料1−4の無色透明びん(フリントガラスびん)が低い酸化反応性を示していることは、上記表1の分析値から理解されるように着色成分である遷移元素の含有量が相対的に少ないためと考えられる。加えて、各ガラスびんとHTIO溶液との曝露時間に伴い、酸化反応性が増加することも判明した。
[実施例2]
実施例2においては、ISマシンによる成形直後のガラス成形物に対し、フロンの送通の有無によるガラス容器を試作し、その酸化反応性について測定した。
試料2−1は、前記試料1−1のアンバー色びんの製造中において、ISマシンによりびん形状に成形後、徐冷炉に搬送されるガラス成形物に対し、該ガラス成形物の温度が450ないし700℃に維持されている間に、ガラス成形物(びん形状)の口部から内部に向けて、0.5秒間、1,1−ジフルオロエタンを送通(約300mL送通)し、徐冷することにより試作した。試料1−1及び試料2−1は、ともに上記表1の分析値に示す成分組成であり、徐冷条件は、550℃で20分間とした。
前記試料1−1及び試料2−1の酸化反応性の測定は、実施例1の条件と同様であり、結果は、図9のグラフのとおりである。グラフから理解されるようにフロン(1,1−ジフルオロエタン)を徐冷前のガラス成形物に送通した試料2−1のアンバー色のびんは、フロンの送通がされていない試料1−1のアンバー色びんと比して、明らかに酸化反応性が抑制されていることが判明した。さらに、試料2−1の酸化反応性は、前出図8中の試料1−4の無色透明びん(フリントガラスびん)との比較からも経過時間による酸化反応性が抑制されていることを読み取ることができる。
また、他の試料のびんに対しても、フロン(1,1−ジフルオロエタン)を送通した結果、いずれの色のびんにおいても試料2−1と同様に酸化反応性の抑制を確認した。なお、フロンとして、1,1,1,2−テトラフルオロエタンを送通した場合、1,1−ジフルオロエタンと同様の酸化反応性の抑制を確認した。
[実施例3]
実施例3においては、前記試料1−1及び試料2−1のびん表面における原子存在比率について、X線光電子分光分析装置を用いて測定した。以下、同装置による測定については、ESCA測定と表記する。
前記試料1−1及び試料2−1のびんの内底面をX線光電子分光分析装置(株式会社島津製作所製:ESCA−K1)に設置し、次の分析条件の下で測定した。使用線源はMgKα線(10kV,30mA)、測定領域は約1.0mmとした。深さ方向状態の分析(ナロースキャン)は、F1s,Na1s,Si2p,O1s,Ca2pの分析を行った。また、深さ方向のエッチングの条件は、Ar+による2kV,20mA(scan width=2 )とした。エッチングレートは、SiO2膜換算で5.0nm/minであった。
発明者らは、前記試料1−1及び試料2−1について、その最表面のESCA測定の結果から検出されるスペクトル(図示せず)より、フロンの送通は、ガラス容器表面に存在する原子種を抑制するように作用していると推定した。そのため、さらに、深さ方向における原子存在比率の測定を試みた。ここで、試料2−1よりも、さらにフロン(1,1−ジフルオロエタン)の送通量を増やした試料2−2を試作し、多量にフロンを送通させること(フロン過剰送通)による作用について検証した。前記試料2−2は、試料2−1と同様の組成及び形状からなり、ガラス成形物(びん形状)の口部から内部に向けて、約3秒間、1,1−ジフルオロエタンを送通(約1000mLを送通)し、試料2−1と同様の条件において徐冷することにより試作した。図10は試料1−1、図11は試料2−1、図12は試料2−2に関し、前出のESCA測定の条件に基づき、Depth Profileのグラフとして示した。
図10ないし図12のグラフによると、O原子(O1s)の存在比率(mol%(もしくはatom%))は、各グラフとも深さに応じて差は生じていない。この場合の深さとは、Etching Time(min)に5.0(nm)を乗じた値である。しかしながら、フロン(1,1−ジフルオロエタン)を送通した試料2−1及び試料2−2では、明白に、ガラス容器の表面付近におけるNa原子(Na1s)及びCa原子(Ca2p)の存在比率は、試料1−1と比して低下している。また、試料2−1及び試料2−2では、相対的にSi原子(Si2p)の存在比率が高まっている。
図10ないし図12に示したDepth Profileのグラフにおいて、特にSi原子、Na原子及びCa原子の原子存在比率(mol%(もしくはatom%))に着目し、それぞれの深さにおいて、以下の数1及び数2のとおり、原子毎の原子存在比率の対比を行った。数1において、Si原子とNa原子の存在比、すなわち、Si(mol%)/Na(mol%)を求め、この値をRnとした。数2において、Si原子とCa原子の存在比、すなわち、Si(mol%)/Ca(mol%)を求め、この値をRcとした。
前記試料1−1、試料2−1、試料2−2のそれぞれについて、最表面から深さ方向にエッチングした際の原子存在比率(mol%(もしくはatom%))より、数1に基づきRn、数2に基づきRcを求めた。表2は、深さ(nm)方向におけるRnの値の変化を表す。表3は、深さ(nm)方向におけるRcの値の変化を表す。
上記表2から理解されるように、試料1−1のRnの値は、容器最表面からの深さに応じて大きな変化はない。しかし、試料2−1及び試料2−2について、深さが浅いほどRnの値は大きく、試料2−2は顕著である。特に試料2−1に着目すると、当該Rnの値は、深さ15〜20nm付近で変化する。同じく、表3から理解されるように、試料1−1のRcの値も、容器最表面からの深さに応じて大きな変化はない。しかし、試料2−1及び試料2−2については、深さが浅いほどRcの値は大きく、加えて全般に試料1−1と比して値が高い。表2と同様に試料2−2は顕著である。特に試料2−1に着目すると、当該Rcの値は、深さ20〜25nm付近で変化する。
この結果より、シリカリッチ層は、単にガラス容器の表面に留まるばかりではなく、ガラス容器の内部(基層)に向かう内表面に発達していることが断言できる。したがって、フロンの送通は、シリカリッチ層の形成に有効であることを実証した。また、フロンの送通量に応じ、シリカリッチ層の発達促進も明らかとなった。形成されるシリカリッチ層は、表2及び表3におけるRn及びRcの値、さらには、容器最表面からの深さを勘案し、Si原子とNa原子の存在比、すなわち、Si(mol%)/Na(mol%)の値(Rn)が30以上であり、かつSi原子とCa原子の存在比、すなわち、Si(mol%)/Ca(mol%)の値(Rc)が10以上を満たす原子存在比率からなる層とすることができる。これらの点から、発明者らは、Rn及びRcの値を加味し、シリカリッチ層の厚さを少なくとも15nm以上とすることが好適であると考える。
前記の実施例2及び実施例3とも、搬送されるガラス成形物に約0.5〜3秒間(概ね300〜1000mL)フロンを吹き付ける(送通)ことにより、酸化反応性の低減及び原子存在比率の変化に伴うシリカリッチ層の発達(形成)を確認した。これまでの結果より、発明者らは、処理に要する時間、専用設備等の製造にかかるコスト等の低減が可能であることを確信した。
[実施例4]
実施例4においては、ガラス容器を成形するにあたり、成形方法によって生じる酸化反応性の差について測定した。
前出のISマシン(自動ガラス成びん機)内にプレスアンドブロー成形用の成形型(図4参照)及びブローアンドブロー成形用の成形型(図5参照)を装着し、該ISマシンへ、ソーダライムガラス原料の溶融による溶融ガラス材料(ゴブ)を導入した。前記の両成形型を用い、ガラス成形物を成形後、フロンの送通を行わず徐冷し、ともに入り目容量300mL、重量250gのエメラルドグリーン色のびんを試作した。当該実施例において、試料4−1をプレスアンドブロー成形により試作したびんとし、試料4−2をブローアンドブロー成形により試作したびんとした。なお、実施例のとおり、ISマシン内に両成形型を装着し、単一の溶融ガラス材料を導入することにより、試料4−1及び試料4−2のびんの間では、ガラス材の組成、成分に差が生じないようにした。
出来上がった試料4−1及び試料4−2の酸化反応性の測定は、実施例1の条件と同様であり、結果は、図13のグラフのとおりである。グラフから理解されるようにプレスアンドブロー成形による試料4−1の酸化反応性は、ブローアンドブロー成形による試料4−1より低いことが判明した。すなわち、プレスアンドブロー成形は、ブローアンドブロー成形と比して、酸化反応性を抑制的に作用していることがわかる。
この点について、発明者らは、溶融ガラス材料が成形時に成形型と接触することにより急冷され、ガラス成形物のガラス骨格である「Si−O」結合の角度が変化し、これに伴い、最表面のNa、Ca等の存在比率が相対的に低下したものと類推する。特に、プレスアンドブロー成形による場合、図4において詳述のとおり、ゴブとなった溶融ガラス材料は、粗型とプランジャーの両方から押圧されるため、溶融ガラス材料の型との接触量が増し、急冷がより進行したものと考察する。この結果は、プレスアンドブロー成形を用い、成形後にフロンの送通を行い製造したガラス容器において、その酸化反応性はブローアンドブロー成形から製造したガラス容器よりもいっそう低減できることを示唆する。
[実施例5]
実施例5においては、ガラス容器を成形するにあたり、成形工程中、窒素の送通により生じる酸化反応性の差について測定した。
前記試料4−2のブローアンドブロー成形によるびんの試作と同形の成形型を用い、前記試料4−2の空気のみの送通(導入)によるブロー成形に代えて、窒素のみを送通(導入)するブロー成形を行い、フロンの送通を行わず徐冷し、前記試料4−2と同色同形のびんである試料5−1を作成した。なお、実施例のとおり、ISマシン内に両成形型を装着し、単一の溶融ガラス材料を導入することにより、試料4−2及び試料5−1のびんの間では、ガラス材の組成、成分に差が生じないようにした。
出来上がった試料4−2及び試料5−1の酸化反応性の測定は、実施例1の条件と同様であり、結果は、図14のグラフのとおりである。グラフから理解されるように窒素送通のブローアンドブロー成形による試料5−1の酸化反応性は、単に空気送通のみにより成形した試料4−2より低いことが判明した。すなわち、窒素を送通しながら行うブローアンドブロー成形は、空気送通のみのブローアンドブロー成形と比して、酸化反応性を抑制的に作用していることがわかる。
この点について、発明者らは、溶融ガラス材料が成形時に成形型と接触することにより急冷され、さらに不活性な気体である窒素との接触により、ガラス成形物のガラス骨格である「Si−O」結合の角度が変化し、これに伴い、最表面のNa、Ca等の存在比率が相対的に低下したものと類推する。この結果は、窒素を送通しながらブローアンドブロー成形を用い、成形後にフロンの送通を行い製造したガラス容器において、その酸化反応性は空気送通による成形から製造したガラス容器よりもいっそう低減できることを示唆する。
[実施例6]
実施例6においては、既に完成したガラス容器に対してアルカリ水溶液による洗浄を行った際に生じる酸化反応性の差について測定した。
前記試料2−1のフロン(1,1−ジフルオロエタン)を送通したアンバー色びん中に、アルカリ水溶液として1.0%NaOH水溶液を満量注入し、室温下10分間静置した。その後、このびんを蒸留水により洗浄し、乾燥機中で乾燥した。以上のアルカリ水溶液洗浄を施したびんを試料6−0とした。前記試料1−1、試料2−1、試料6−0の酸化反応性の測定は、実施例1の条件と同様であり、結果は、図15のグラフのとおりである。グラフから理解されるように、アルカリ水溶液(室温の1.0%NaOH水溶液)による洗浄においては、酸化反応性を抑制的に作用していることがわかる。
さらに発明者らは、アルカリ水溶液の温度、濃度及び接触時間を変化させて洗浄を行い、酸化反応性について測定した。ソーダライムガラス原料からなり、2段階のブロー成形(図5参照)により成形後、徐冷炉に搬送されるガラス成形物に対し、該ガラス成形物の温度が450ないし700℃に維持されている間に、ガラス成形物(びん形状)の口部から内部に向けて、0.5秒間、1,1−ジフルオロエタンを吹き付け(約300mL送通)、徐冷することにより試作した。徐冷条件は550℃で20分間とした。試作されたびんは入り目容量360mL、重量320gのフロン処理のエメラルドグリーン色びんである(成分組成は表1参照)。前記エメラルドグリーン色びんについて、以下の条件下でアルカリ水溶液による洗浄を行い、各試料を調整した。
試料6−1は前記試作のエメラルドグリーン色びんそのものとした。試料6−2は試料6−1に対して80℃に加温した0.7%NaOH水溶液を満量注入して10分間静置後、蒸留水により洗浄し乾燥した。試料6−3は試料6−2において静置時間のみを60分に変更した。試料6−4は試料6−2においてNaOH水溶液の濃度のみを4.0%に変更した。試料6−5は試料6−1に対して80℃に加温した4.0%NaOH水溶液を満量注入して60分間静置後、蒸留水により洗浄し乾燥した。
試料6−1ないし6−5の酸化反応性の測定は、実施例1の条件と同様とした。その結果は、図16のグラフのとおりである。グラフから理解されるように、NaOH水溶液の濃度、静置時間により、経過時間に伴い酸化反応性に若干の変動が生じている。しかしながら、いずれの試料においても試料6−1からの差は、概ね軽微であると考える。とりわけ、いずれの濃度とも80℃に加温したNaOH水溶液を用いているにもかかわらず、酸化反応性は低領域に抑制されている。
前記試料6−1ないし6−5の酸化反応性の測定結果より、フロンが送通により発達したシリカリッチ層はアルカリ水溶液の浸食性に対して耐性を有することを確信した。そこで、発明者らは、さらに浸食耐性を向上させるべく、シリカリッチ層を厚くするためにフロンの送通量を増加させ、検証することとした。前記のエメラルドグリーン色びんの試作において、1,1−ジフルオロエタンの吹きつけを3秒間(約1000mL送通)と変更することにより、フロン過剰送通処理のエメラルドグリーン色びんを試作した。他の条件及び容器形状については前記フロン処理のエメラルドグリーン色びんと同一とした。
試料6−6はフロン過剰のエメラルドグリーン色びんそのものとした。試料6−7は試料6−6に対して80℃に加温した0.7%NaOH水溶液を満量注入して10分間静置後、蒸留水により洗浄し乾燥した。試料6−8は試料6−7において静置時間のみを60分に変更した。試料6−9は試料6−7においてNaOH水溶液の濃度のみを4.0%に変更した。試料6−10は試料6−6に対して80℃に加温した4.0%NaOH水溶液を満量注入して60分間静置後、蒸留水により洗浄し乾燥した。
試料6−6ないし6−10の酸化反応性の測定は、実施例1の条件と同様とした。その結果は、図17のグラフのとおりである。グラフから理解されるように、いずれの試料もNaOH水溶液の濃度、静置時間による差がほとんど生じていないことが判明した。また実施例のとおり、80℃に加温したNaOH水溶液を用いているにもかかわらず、非アルカリ水溶液洗浄品(試料6−6)とそれ以外の試料の酸化反応性に変化が見られないことについて、発明者らは、前出の表2及び表3の結果より、シリカリッチ層が厚く形成されたことに起因し、Na,Ca等の原子種の現出が低減されているものと推定する。
本発明の一実施例に係る酸化反応抑制ガラス容器の斜視図及び断面図である。
図1の酸化反応抑制ガラス容器の部分拡大模式図である。
酸化反応抑制ガラス容器の製造に係る概略工程図である。
プレスアンドブロー成形に用いる装置の構造断面図である。
ブローアンドブロー成形に用いる装置の構造断面図である。
ラジカル化剤の反応を表す模式図である。
基準物質Mn2+及びTIOOラジカルの信号強度を表す一例のESRスペクトルである。
ガラス容器の色毎の酸化反応性に関するグラフである。
フロンの送通を伴うガラス容器の酸化反応性に関するグラフである。
フロン未送通のガラス容器に関するDepth Profileのグラフである。
フロン送通のガラス容器に関するDepth Profileのグラフである。
フロン過剰送通のガラス容器に関するDepth Profileのグラフである。
成形方法毎の酸化反応性の変化に関するグラフである。
窒素送通の酸化反応性の変化に関するグラフである。
アルカリ水溶液による酸化反応性に関する第1グラフである。
アルカリ水溶液による酸化反応性に関する第2グラフである。
アルカリ水溶液による酸化反応性に関する第3グラフである。
符号の説明
10 酸化反応抑制ガラス容器
11 表面
12,12s 容器体
13 内表面
14 基層
20 シリカリッチ層
100,200 成形機
101,201 粗型
102 プランジャー
111,211 仕上げ型
G1,G2 ゴブ
P1,P2 パリソン
M1,M2 ガラス成形物