JP2013047111A - カルシウムイオン溶出抑制ガラス容器 - Google Patents

カルシウムイオン溶出抑制ガラス容器 Download PDF

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Abstract

【課題】フロンガスを用いることに伴うガラス材表面の改質によりカルシウムイオンの溶出を抑制し、内容物への影響を低減するカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器を提供する。
【解決手段】ソーダライムガラス原料を溶融(S1)して得た溶融ガラスを所定の容器形状に成形(S1,S2,S3)してガラス成形物とし、ガラス成形物の温度を550℃ないし640℃とする温度域に制御し、当該温度域の間にガラス成形物の内部にフロンガスを注入(S5)し、その後に徐冷(S6)を行うことにより得た酸性液体の保存のためのガラス容器であって、フロンガスの注入量がガラス容器の内容量の0.02〜0.22体積%であり、ICP−AESを用いた測定方法によりガラス容器の内面から溶出するCa2+の溶出量の測定値が0.1ppm以下を満たすことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明はカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器に関し、特にガラス容器内面から溶出するカルシウムイオン量を抑制して内容物に与える変化を抑えることが可能なガラス容器に関する。
従来、ガラス材は、気密性、耐熱性、成分の非吸着性、非溶出性、耐久性、耐腐食性に見られる安定した性質、さらには溶融、成形が容易である性質等を生かし、医薬品、試薬、食品、飲料品、酒類等の内容物を安定して保存できる容器として用いられている。ガラス材として一般的な、ソーダライムガラス等のガラス材は、石英ガラスと比較しても安価である。通常ガラス材は、SiO2からなるシリカ成分によりガラス骨格が維持され、SiO2以外に、例えば、Na2O、CaO、Al23等をはじめとする各種金属酸化物が配合される。そのため、ガラス材を成形し、製品化した際、当然ながらその表面には、シリカ成分の他にNaに見られるアルカリ金属、アルカリ土類金属等の元素が現出していると考えられている。
従前のガラス材を容器として用いた場合、充填される内容物が受ける影響を制御するため、ガラス材の脱アルカリが所望され、その処理方法が開発されてきた。例えば、医薬製剤用のアンプルの容器素材として知られるアルミノ硼珪酸ガラスのガラス製品表面におけるAlの存在比率を制御するために、当該ガラス製品の表面を硝酸、弗酸等(混酸も含む)により洗浄し、内容物に対するAl3+の溶出量を抑制したガラス容器も開発されている(特許文献1参照)。また、ガラス容器の内表面をシリカリッチとするために、フロンガスを容器内に吹き込む方法も提案されている(特許文献2参照)
上述のとおり、アルミノ硼珪酸ガラス、ソーダライムガラス等のガラス材を用い、当該ガラス材表面の制御を行う脱アルカリ化の方法は各種開発されている。しかしながら、特許文献1に開示の手法の場合、酸を用いることから取り扱いは容易ではない。その中において、特許文献2の成形されたガラス材にフロンを導入する方法にあっては、Siと、NaやCaの割合を制御することにより酸化反応の抑制に一定の作用が発揮されることを明らかにした。
例えば、ガラス容器をウイスキー等の蒸留酒の保存に用いる場合、長期保管中に澱(おり)と称される沈殿物が容器内に生じることがある。この澱は主にシュウ酸カルシウムの結晶である。シュウ酸カルシウムの結晶成分はウイスキーに含まれるシュウ酸と水中のカルシウム(イオン)との結合により生成される。シュウ酸カルシウムは人体に無害ではあるものの、水に不溶であることから異物として認識されやすい。ウイスキー自体に含まれるカルシウムイオンは味覚を決定する重要な要素であるため、それ自体を低減することは難しい。そのため、ガラス容器の内表面から溶出するカルシウムイオンを低減することができれば、シュウ酸カルシウムの結晶生成の抑制が可能であると推察できる。
ところが、既存の脱アルカリ化ガラスにおいて、ガラス材表面から溶出するカルシウムイオンに着目した知見は見当たらない。そのため、実際にどのような条件下において、どれほどの抑制が可能であるかは正確には不明である。そこで、品質の安定を求める酒類の容器としてのガラス容器の有用性に着目し、特許文献2のガラス材へのフロン導入の作用をさらに発展的に解析することによりカルシウムイオンの溶出抑制につながるガラス容器の開発に至った。
特開2001−294447号公報 特開2005−170736号公報
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、フロンガスを用いることに伴うガラス材表面の改質によりカルシウムイオンの溶出を抑制し、内容物への影響を低減するガラス容器を提供する。
すなわち、請求項1の発明は、ソーダライムガラス原料を溶融して得た溶融ガラスを所定の容器形状に成形してガラス成形物とし、前記ガラス成形物の温度を550℃ないし640℃とする温度域に制御し、前記温度域の間に前記ガラス成形物の内部にフロンガスを注入し、その後に徐冷を行うことにより得た酸性液体の保存のためのガラス容器であって、前記フロンガスの注入量が前記ガラス容器の内容量の0.02〜0.22体積%であり、第十六改正日本薬局方一般試験法 7.容器・包装材料試験法 7.01注射剤用ガラス容器試験法(ii)第2法の溶出条件に基づいて前記ガラス容器に蒸留水を加えて試験水を調製し、JIS K0116(2003)に準拠しICP−AESを用いた測定方法により前記試験水を測定した場合において、前記ガラス容器の内面から溶出するCa2+の溶出量の測定値が0.1ppm以下を満たすことを特徴とするカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器に係る。
請求項2の発明は、前記フロンガスが1,1−ジフルオロエタンである請求項1に記載のカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器に係る。
請求項3の発明は、前記酸性液体が有機酸を含有する飲料である請求項1または2に記載のカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器に係る。
請求項4の発明は、前記飲料が酒類である請求項3に記載のカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器に係る。
請求項1の発明に係るカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器によると、ソーダライムガラス原料を溶融して得た溶融ガラスを所定の容器形状に成形してガラス成形物とし、前記ガラス成形物の温度を550℃ないし640℃とする温度域に制御し、前記温度域の間に前記ガラス成形物の内部にフロンガスを注入し、その後に徐冷を行うことにより得た酸性液体の保存のためのガラス容器であって、前記フロンガスの注入量が前記ガラス容器の内容量の0.02〜0.22体積%であり、第十六改正日本薬局方一般試験法 7.容器・包装材料試験法 7.01注射剤用ガラス容器試験法(ii)第2法の溶出条件に基づいて前記ガラス容器に蒸留水を加えて試験水を調製し、JIS K0116(2003)に準拠しICP−AESを用いた測定方法により前記試験水を測定した場合において、前記ガラス容器の内面から溶出するCa2+の溶出量の測定値が0.1ppm以下を満たすこととするため、フロンガスを用いることに伴うガラス材表面の改質によりカルシウムイオンの溶出を抑制し、内容物への影響を低減するガラス容器を実現することができた。
請求項2の発明に係るカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器によると、請求項1の発明において、前記フロンガスが1,1−ジフルオロエタンであるため、オゾン層破壊の影響の少ない種類である。
請求項3の発明に係るカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器によると、請求項1または2の発明において、前記酸性液体が有機酸を含有する飲料であるため、保存性能に優れ、低廉な飲料容器として好適となる。
請求項4の発明に係るカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器によると、請求項3の発明において、前記飲料が酒類であるため、長期保存中のカルシウムイオン溶出抑制効果に優れる。
ガラス容器の成形、加工工程を示す概略工程図である。 ガラス容器表面の光学顕微鏡による第1観察写真である。 ガラス容器表面の光学顕微鏡による第2観察写真である。 ガラス容器表面の光学顕微鏡による第3観察写真である。 ガラス容器表面の光学顕微鏡による第4観察写真である。 ガラス容器内表面の原子間力顕微鏡による第1撮像イメージデータである。 ガラス容器内表面の原子間力顕微鏡による第2撮像イメージデータである。 ガラス容器内表面の原子間力顕微鏡による第3撮像イメージデータである。 ガラス容器内表面の原子間力顕微鏡による第4撮像イメージデータである。
一般的なソーダライムガラスの組成は概ね次のとおり規定される。すなわち、SiO2は65ないし75重量%、CaOは5ないし15重量%、Na2Oは5ないし15重量%、K2Oは0ないし3重量%、及びその他Al23、MgO等を含有する組成である。ソーダライムガラスは安価であるため、最も広汎に利用され、主にガラス容器としての需要が多い。
ソーダライムガラスの組成から把握できるように、NaやCa等のアルカリ金属、アルカリ土類金属は一定量必ず含有される。これらの反応性に富む金属種は、背景技術にて述べたとおり、ガラス容器内表面に現出していると考えられる。そのため、極めて微量ではあるものの容器内充填物に対する影響が示唆される。後述するように、カルシウムイオンは有機酸との結合により塩を形成して析出することが多い。そこで、充填される内容物との関係を重視するとともに、ナトリウムイオンよりも特にカルシウムイオンの挙動に着目して、ガラス容器内表面から内部に充填されている内容物へ、容器を構成するガラス成分中に含有されるカルシウムがカルシウムイオン(Ca2+)としての溶出することの抑制効果を高めたガラス容器である。
前記のカルシウムイオン(Ca2+)の溶出量の評価に際し、第十六改正日本薬局方一般試験法 7.容器・包装材料試験法 7.01注射剤用ガラス容器試験法(ii)第2法を採用することとした。同法は医薬品を封入するガラス容器内表面からの成分溶出を把握する試験法として知られ、客観的な溶出量把握の手法として有用であるためである。ガラス容器内に蒸留水が加えられ、前記の第2法の溶出条件に基づいて試験水が調製される。
この試験水は、JIS K0116(2003)に準拠しICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置:Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定される。ICP−AESは対象とする元素を極めて鋭敏に測定できるため、本発明におけるガラス容器の内面から溶出するCa2+の溶出量の測定に好適であるとして採用した。
本来的には、Ca2+の濃度であるため、単位重量もしくは単位体積の蒸留水中に溶存するCa2+量(重量またはモル数)として規定される。ただし、非常に微量を対象としているためカルシウムの存在割合(ppm)として規定した。また、カルシウムイオンとカルシウム元素とは電子の質量差のみと考えられるため、数量を勘案するに際し双方を等価とした。
これより、カルシウムイオン溶出抑制ガラス容器の製造工程を図1の概略工程図を用いて説明する。ソーダライムガラスのガラス容器の原料である珪砂、ソーダ灰、石灰石、ガラスのカレット等、加えて必要によりCu、Fe、Cr、Ni等の金属酸化物が着色成分として溶融炉において溶融され(S1)、溶融ガラスとなる。なお、有色のガラス容器を製造する他の製法として、前記の溶融炉にカララントフォアハースが接続されること等により、当該溶融ガラスに着色成分を含有するフリット、ペレット等が添加される。
溶融ガラスは、所定量ずつゴブ(gob)と称される塊に切り分けられ、ISマシン等の公知の成形機に送られ、適宜の容器形状に成形され(Smd)、ガラス成形物となる。前出のISマシンを用いる場合、前記の成形工程(Smd)において、まず粗型を用いた一次成形としてブロー成形(S2)あるいはプレス成形(S3)のいずれかが行われ(1段階目)、パリソン(parison)と呼ばれる中間成形体になる。続いて仕上げ型を用いた二次成形となるブロー成形(S4)において、パリソンは容器形状のガラス成形物に成形される(2段階目)。なお、成形工程(Smd)における成形は、容器形状に応じて最適な成形方法が選択され、1段階のみの成形として行うこともできる。
容器形状となったガラス成形物は、表面温度550℃ないし640℃とする温度域、すなわちソーダライムガラスを採用した場合のガラス軟化点以下を維持するべく、当該温度域に制御される。この間は、成形工程(Smd)から次に述べるフロンガス注入、徐冷までに至る時間、距離の加減、途中の加熱等により最適に調整される。前出の表面温度550℃ないし640℃とする温度域は、後述する実施例におけるフロンガス注入時の温度とカルシウムイオンの溶出量との関係も勘案された範囲である。すなわち550℃ないし640℃の範囲内であればカルシウムイオンの溶出がより抑制され、特に、580℃ないし630℃であれば効果的であり、615℃付近が最も少なく適している。
そして、ガラス成形物が前記の温度域に制御されている間に、当該ガラス成形物の内部にフロンガスが注入される(S5)。ガラス成形物の内表面は注入されたフロンガスと接触する。使用するフロンガスは、モノクロロジフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタン、トリフルオロメタン、モノクロロジフルオロエタン、またはジフルオロエタン等である。ガラス成形物の開口部分は開放されているため、注入後のフロンガスは大気中に拡散する。そのため、オゾン層破壊の影響の少ない種類が望ましく選択される。この点から、請求項2の発明に規定するように、本工程中に用いられるフロンガスとして1,1−ジフルオロエタンが用いられる。
ガラス成形物(加熱されたガラス)に及ぼすフロンガスの作用の詳細について、現時点でも多くが未解明である。しかしながら、図2ないし図9の表面観察のとおり、ガラス表面の観察から表面領域の粗面化は明らかである。まず、図2ないし図5は光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープ)による観察である。図番順に後出の表1のフロンガス注入量(体積パーセント(以下、vol%と表記する。))に対応する。フロンガスの注入がなければ写真上、ガラス表面は平滑である(図2参照)。フロンガスの注入量が0.07,0.22,0.65vol%と増加するほどガラス表面に出現するしわが顕著であり、起伏が多くなる(図3,4,5の順に参照)。
次に、ガラス表面の変化の様子をさらに詳細に調査するべく原子間力顕微鏡(AFM)を用い観察した(図6,7,8,9参照)。各図とも、Park Systems社製XE−100−ASNを用い、ノンコンタクトモードによる観察の画像イメージである。図6,7はフロンガス未注入品であり、図8,9はフロンガス注入品である。図6,8のスキャンエリアは2μm×2μmであり、図7,9のスキャンエリアは0.5μm×0.5μmである。
図6,7のフロンガス未注入品では、ガラス表面の所々に高さ1ないし2nmの突起が存在するものの、全体的に凹凸は見られない。この突起は、水洗により減少したことから風化結晶と想定される。これに対し、図8,9のフロンガス注入品では、観察領域の一面に塊状の高さ10ないし20nmの突起が存在して表面の平滑さを喪失している。フロンガス注入品を水洗した後に再度AFM観察をしても表面の状態に変化が見られないことから、ガラス成形物内に導入されたフロンガスの作用に起因する可能性が濃厚である。
フッ素化合物であるフロンガスが前記の表面温度のガラス成形物に接することで熱分解してフッ化水素等が生じることを確認している。ハロゲン元素は反応性が高いことが知られているため、ガラスの骨格成分であるケイ素と酸素を除くアルカリ金属、アルカリ土類金属等の成分がフロンガス中のハロゲン元素と反応し、ガラス表面から脱離した可能性、ケイ素とフッ素の化合に伴う被膜形成や揮発等の可能性、あるいは、フロンガスに含まれる各元素がガラス成形物を構成するガラス骨格(ケイ素、酸素、金属元素)に作用して、結合角の変角を生じさせている可能性が示唆され、これらによる複合要因が推察される。
前記の温度域のガラス成形物に対してフロンガスを注入するに際し、当初、その注入量は当該ガラス成形物の内表面を覆うために十分な量としていた。そのため、容器状のガラス成形物内へのガス拡散を考慮して、ガラス成形物(つまりガラス容器)の内容積の1〜5vol%のフロンガス注入により試行していた。結果、予想通りフロンガス注入は、未注入と比較してカルシウムイオンの溶出量の抑制効果を大きく改善した。
ガラス容器からの金属イオンの溶出量はフロンガスの注入量と相関関係にあると推測し、カルシウムイオンの溶出量を最も少なくすることができるガス注入量の上限を模索した。ところが、当初の予想とは逆に、後記の実施例に開示するとおり、フロンガスの注入量が増すほど、カルシウムイオンの溶出量が増してしまうことを明らかにした。さらに、フロンガス注入時のガラス容器温度も影響を与えることも明らかにした。
カルシウムイオンの溶出量を抑制する場合、当初のフロンガス注入量よりも少量であっても有意な溶出抑制効果が確認できる。すなわち、ガラス容器の内容量の0.02〜0.22体積%(vol%)の極めて少量であるほどカルシウムイオンの溶出量抑制に十分な効果を明らかにした。背景技術にて提示した特許文献2よりフロンガスの送通に伴うガラス表面のシリカリッチ化の知見を得ていた発明者においても新たな発見である。ガラス容器表面に対するフロンガスの影響が、カルシウムイオンとナトリウムイオンとの間でどのように異なって作用するのかは現状未解明である。おそらく、イオン価数の違いからガラス構造内の結合態様が異なり、ガラス表面部分のガラス骨格からの脱離に差が生じた可能性が推察される。なお、注入するフロンガスは空気との混合気体であり、室温条件下における体積%の換算である(後述する実施例も同様である)。
これまで組成や加工法を主として説明したカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器は、専らカルシウムイオンと反応しやすい酸性液体の安定保存目的に用いられる。カルシウムイオンの溶出から酸性液体を安定保存する目的であれば、対象は限定されず、例えば、液状の医薬品、製剤、試薬、その他の薬液等が挙げられる。
その中においても、請求項3の発明に規定するように、酸性液体は有機酸を含有する飲料であり、その容器(主にガラス瓶)として用いられる。ソーダライムガラスから形成されることから安価であり、大量に消費される用途に適合する。すなわち、保存性能に優れ、低廉な飲料容器として好適である。この場合の飲料としては、果実飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等が例示される。有機酸はカルボキシル基等を含む酸類であり、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸等である。加えて、食品由来、食品の発酵代謝産物由来の各種の酸類も含まれる。
さらに、請求項4の発明に規定するように、酸性液体は有機酸を含有する飲料は酒類である。アルコール以外の成分の影響から酸性を呈する液体であり、容器への充填後、年単位で保存されることを勘案すると、長期保存中のカルシウムイオン溶出抑制効果への期待は高い。例えば、清酒やぶどう酒等の醸造酒、焼酎、泡盛、ウイスキー、ブランデー、紹興酒等の蒸留酒用の容器である。
多くの酒類にはシュウ酸や酒石酸等の有機酸が含まれる。これらの有機酸と、酒類自体に含まれるカルシウムイオン、ガラス容器表面から溶出するカルシウムイオンとの結合により、シュウ酸カルシウム、酒石酸カルシウム等のカルシウム塩が生成する場合がある。例えば、シュウ酸カルシウムは約1ppm以上のカルシウムイオン濃度になる場合に発生することが経験上明らかである。
ウイスキー等のアルコール度数の高い酒類では相対的に水の割合が少なくなる。溶解度の低いカルシウム塩は析出しやすく、容器中で澱(おり)と称される沈殿物となる。ウイスキー等の酒類中からカルシウム分を低減することは可能であるものの、味覚や芳香に与える影響を考慮すると必ずしも望ましいとはいえない。そこで、充填、保存に供されるガラス容器からのカルシウムイオン溶出の低減が重要となる。シュウ酸カルシウム等の澱自体は人体に影響ないものの、瓶等の容器に沈殿しているため異物として認識されやすい。そこで、より安心感を高めるためにも澱の抑制が望まれる。
後述する実施例(加速試験)からも明らかであるように、前述の溶出、測定方法に基づくガラス容器からのカルシウムイオン溶出量の測定値が0.1ppmを超える場合、澱(シュウ酸カルシウム)の発生抑制効果が不十分である。これに対し、カルシウムイオン溶出量の測定値が0.1ppm以下の場合、澱の発生抑制効果が確認される。特に、長期保存されるウイスキー等において相違が現れる。さらに、カルシウムイオン溶出量の測定値が0.05ppm以下、0.03ppm以下と低下するに伴い、よりいっそうの澱の発生抑制効果が明らかとなった。そこで、請求項1の発明に規定するように、ガラス容器の内面から溶出するCa2+の溶出量が0.1ppm以下を要件とし、好ましくは0.05ppm以下、より好ましくは0.03ppm以下として規定される。
[ガラス容器の成形、フロンガス注入]
発明者は、一般的なソーダライムガラス原料を用い、ISマシンによりウイスキー等の蒸留酒用酒瓶を成形、製瓶した。この瓶がガラス容器である。瓶1本当たりの内容積を660mL、700mL、及び500mLとする3種類を用意した。各瓶はいずれも無色透明であり原料組成は同一である。原料組成は、一般的なソーダライムガラスであり蛍光X線分析装置による計測より表1の配合となった。フロンガスには1,1−ジフルオロエタンを使用した。フロンガスの注入は、溶融ガラスのゴブを瓶形状に成形後、徐冷工程に入るまでの搬送路において瓶口部より空気とともに量を変えて注入した。なお、フロンガス未注入はフロンガスの注入を行うことなく徐冷した。
Figure 2013047111
[溶出量測定用の試験水の調製]
用意したガラス容器からの成分溶出については、前述の第十六改正日本薬局方一般試験法 7.容器・包装材料試験法 7.01注射剤用ガラス容器試験法(ii)第2法に従い、まず、蒸留水により当該ガラス容器の内面を軽く水洗した。続いて、ガラス容器の実容量の90%に相当する量の蒸留水を加え、注ぎ口に適宜栓をした。そして、蒸留水入りのガラス容器をオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)内に入れて121℃の温度下で1時間加熱し、常温まで放冷(冷却)した。こうして、ガラス容器からの溶出量測定用の試験水を調製した。
また、瓶にウイスキー等の蒸留酒を充填した後の保存期間を勘案して、風化促進試験(風化加速試験)も行った。前記のオートクレーブ加熱を経た蒸留水入りのガラス容器を室温50℃の恒温室内に静置し、同恒温室内の湿度を90%で12時間、2時間かけて湿度を下げ、湿度60%で8時間、また、2時間かけて湿度を上げ合計24時間静置して曝露した。この24時間曝露の3回の繰り返しが1年の経時劣化に相当する。そのため、9回繰り返せば3年経過と仮定することができる。
24時間曝露の3回の繰り返しが1年の経時劣化に相当可能とする根拠は、実際に約1年間保管していたガラス瓶のカルシウムイオン溶出量を測定した結果を考慮した条件である。この場合、製品の保管状況の違いによりカルシウムイオン溶出量も変動する可能性があるため、十分に余裕を持たせて上記の24時間曝露の3回の繰り返しと規定した。
[ICP−AESによる測定]
ガラス容器から蒸留水への溶出量の測定に際し、株式会社パーキンエルマージャパン製ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置),Optima2000DVを用い、JIS K0116(2003)の発光分光分析通則に規定された手法に基づいて、ナトリウム、カルシウム、ケイ素を測定した。各元素とイオンでは質量差は極めてわずかであるため同量とみなした。同分析装置を用いて各試料を測定した場合の定量検出限界について、カルシウムは0.001ppmとし、ナトリウム及びケイ素は0.01ppmとした。測定レンジ0.001ないし0.1ppmの範囲はアキシャル方向2波長の測定とし、0.01ないし2ppmの範囲はラジアル方向2波長の測定とした。なお、カルシウムについて0.1ppmを超える場合、0.01ないし2ppmの測定レンジを用いるため、0.1ppmを超える試料の定量検出限界は0.01ppmである。カルシウムの測定波長は393.366nm、396.847nmであり、ナトリウムの測定波長は589.592nm、588.995nmであり、ケイ素の測定波長は251.611nm、212.412nmである。測定値について検量線の相関係数r2=0.9990以上とし、定量下限値濃度での変動係数(CV)は10%以下である。
[フロンガスの注入量による影響評価]
発明者は、660mLの瓶を成形後、徐冷工程に入るまでの搬送路において、瓶表面温度が590℃〜600℃の時点で注入量を変えてフロンガスを注入し、瓶を製造した。ガラス容器内へのフロンガスの注入に際し、噴出圧力を得るため空気とフロンガスの混合気体とし、フロンガスの分圧を調整してフロンガスの注入量を制御した。当該製造では、0vol%(フロンガス未注入)、0.07vol%(0.47mL)、0.22vol%(1.42mL)、及び0.65vol%(4.26mL)とした。なお、フロンガスの注入量には不可避的に誤差も生じるため概算量となる(以下同様)。
4種類のフロンガス注入量ごとに4本ずつ前記の試験水の調製及び2年経過相当の風化促進試験行った。その上で、ナトリウム、カルシウム、及びケイ素の溶出量を前記のICP−AESにより測定した。結果は表2であり、溶出量(ppm)は、各注入量の4本の平均値とした。
Figure 2013047111
表2の結果から、フロンガス注入により、各元素の溶出抑制効果は顕著である。そのうち、ナトリウムとケイ素の溶出量は、フロンガスの注入量の増減にかかわらず概ね一定である。ところが、カルシウムの溶出量は、フロンガス未注入と比較して抑制されるものの、フロンガス注入量が多くなるほどカルシウムの溶出量は増加した。発明者は、当初、フロンガス注入量の増加と相関してカルシウム溶出量の減少を予想していた。そこで、フロンガス注入量を多くしてもカルシウム溶出量の減少幅が頭打ちになる時点を上限にしようと考えていた。しかし、結果は逆となった。このように、ナトリウムとカルシウムと元素の相違が溶出挙動に影響を与える理由については、現状解明されていない。おそらく、イオン化数の相違とフロンガスに含まれるハロゲン元素との反応性が影響していると考えられる。
表2の知見を得た発明者は、同表中のフロンガス注入量の0.22vol%に着目し、この量よりも少なくした注入量として実験を試みた。発明者は、700mLの瓶を成形後、徐冷工程に入るまでの搬送路において、瓶表面温度が590℃〜600℃の時点で注入量を変えてフロンガスを注入し、瓶を製造した。当該製造では、0vol%(フロンガス未注入)、0.02vol%(0.14mL)、0.04vol%(0.28mL)、0.08vol%(0.55mL)、及び0.21vol%(1.47mL)とした。
5種類のフロンガス注入量ごとに3本ずつ前記の試験水の調製の上、ナトリウム、カルシウム、及びケイ素の溶出量を前記のICP−AESにより測定した。ただし、当該測定においては風化促進試験を省略しており、試験水の調製直後の測定である。結果は表3であり、溶出量(ppm)は、各注入量の3本の平均値とした。
Figure 2013047111
全般傾向として、表中の極めて微量のフロンガス注入量であっても、各元素の溶出抑制効果は顕著である。ただし、フロンガス注入量が0.02vol%程度では、希薄過ぎて溶出抑制効果は低下した。そこで、フロンガス注入量の0.02vol%と0.04vol%の傾向から、フロンガス注入量の下限値を0.02vol%とした。
さらに、発明者は、フロンガス注入量の臨界部分の傾向を把握するため、改めて660mLの瓶を成形後、徐冷工程に入るまでの搬送路において、瓶表面温度が590℃〜600℃の時点で注入量を変えてフロンガスを注入し、瓶を製造した。当該製造では、0.01vol%(0.07mL)、0.02vol%(0.15mL)、0.04vol%(0.29mL)、及び0.13vol%(0.87mL)、及び0.26vol%(1.74mL)とした。
5種類のフロンガス注入量ごとに3本ずつ前記の試験水の調製の上、ナトリウム、カルシウム、及びケイ素の溶出量を前記のICP−AESにより測定した。ただし、当該測定においては風化促進試験を省略しており、試験水の調製直後の測定である。結果は表4であり、溶出量(ppm)は、各注入量の4本の平均値とした。
Figure 2013047111
表4において、フロンガス注入量0.01vol%の試料では、総じてフロンガスの注入量が少ない。このため、ガラス表面に対するフロンによる作用が十分に現れていない。つまり、フロン量が少なすぎると判断できる。フロンガス注入量が0.02vol%から0.13vol%では、一様にカルシウムの測定値は少ない。そして、フロンガス注入量が0.26vol%になると再びカルシウム測定値が増加した。表4における傾向によると、カルシウムの溶出についてはフロンガス注入量0.04vol%を底とするU字カーブを想定することができる。
前出の表3に加え表4の結果から、フロンガス注入量の下限はおそらく0.02vol%であると推定できる。表2、表3及び表4の結果から、フロンガス注入量0.21vol%や0.22vol%と、0.26vol%との間に測定値の乖離による断絶が存在する。従って、フロンガス注入量の上限はおそらく0.22vol%であると推定できる。
[フロンガス注入温度の評価]
フロンガスの注入量とともに、どの温度域においてフロンガスを注入すれば効果的であるかについても検証した。発明者は、500mLの瓶を成形後、徐冷工程に入るまでの搬送路において、瓶表面温度が580℃〜590℃の時点、590℃〜600℃の時点、及び600℃〜610℃の時点の3種類の温度域において、注入量を変えてフロンガスを注入し、瓶を製造した。当該製造に際し、各温度域とも、フロンガスの注入量を0.02vol%(0.08mL)とした。ガラス瓶表面温度の温度域の管理にはサーモビューアーを用いた。なお、製造条件やガス注入の条件により温度変動が生じるため、温度域とした。
温度域ごとに3本ずつ前記の試験水の調製の上、カルシウムの溶出量を前記のICP−AESにより測定した。ただし、当該測定においては風化促進試験を省略しており、試験水の調製直後の測定である。結果は表5であり、溶出量(ppm)は、各注入量の3本の平均値とした。
Figure 2013047111
表5の結果から、フロンガスを注入する際、低温度域側ではカルシウムの溶出抑制効果が薄いことがわかった。おそらく、フロンガスとの反応に必要な熱量が足りなく、十分な反応に至らなかったと考える。また、温度域が600℃〜610℃に達した時点でもカルシウムの溶出抑制効果が薄れた。これについては、より高温度におけるフロンガス注入となることから、フロンガスがガラス表面と過剰に反応した結果と考える。
表5の知見を踏まえ、温度域によるカルシウムの溶出抑制効果の相違、並びに実際に酸性液体(酒類よりウイスキーを選択)を充填した際の澱の発生について検証した。発明者は、500mLの瓶を成形後、徐冷工程に入るまでの搬送路において、瓶表面温度が566℃、586℃、615℃、626℃、640℃の5種類の温度において、0.03vol%(0.15mL)のフロンガス注入量として瓶を製造した。前記同様、ガラス瓶表面温度の温度域の管理にはサーモビューアーを用いた。ただし、ガラス瓶表面温度は変動幅があるため、各々の表示温度は目安値である。
5種類の温度において3本ずつ前記の試験水の調製の上、カルシウムの溶出量を前記のICP−AESにより測定した。ただし、当該測定においては風化促進試験を省略しており、試験水の調製直後の測定である。結果は表6であり、溶出量(ppm)は、各注入量の3本の平均値とした。
前記の5種類の温度においてフロンガスを注入して製造したガラス瓶を3本ずつ用意し、それぞれに市販のウイスキーを充填して静置し、3月ごと、2年にわたり瓶底を目視して澱発生の有無を確認した。2年経過時点で澱が生じなかった瓶(フロンガス注入時温度)については「○」、半年から2年未満に澱が生じた瓶について「△」、半年以内に澱が生じた瓶について「×」と評価した。同時に、フロンガス注入を行わずに製造した瓶も3本用意し、前記同様にウイスキーを充填して澱発生の有無を確認した。
Figure 2013047111
表6の結果を踏まえ、フロンガスの注入時温度とカルシウム溶出量の測定値との推移から、当該フロンガス注入量では615℃が最も溶出抑制効果が高い。また、前掲表5のフロンガス注入量0.02vol%の試料の場合と同様に、注入時温度615℃を底とするU字カーブの結果を示すことが判明した。そこで、カルシウムの溶出量の測定値が0.1ppm以下となることを基準にすると、フロンガスの注入時の温度は640℃付近を上限と推定することができる。さらに、澱発生の評価を加味すると、好ましくは630℃〜635℃を上限と推定することができる。また、フロンガス注入時の温度の下限については、温度測定の誤差や現実の製造設備、製造条件を勘案すると、550℃付近と推定することができる。
表6の結果において、カルシウムの溶出量の測定値が0.090ppm当たりでは2年間もウイスキーを保存する場合には完全に澱の発生を防ぐことはできなかった。しかし、フロンガス未注入品との相違から十分な澱抑制効果を発揮している。従って、カルシウム(Ca2+)の溶出量の測定値0.1ppm以下が一定の満たすべき基準となる。そして、好ましくは0.05ppm、より好ましくは0.03ppm以下に抑えることが、良好な溶出抑制効果からいっそう望ましい。
本発明のカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器は、フロンガスを加熱状態のガラス材表面に接触させて反応させることによりガラス材表面の改質が生じ、結果的にカルシウムイオンの溶出を極めて微量域に抑制することができる。そのため、ガラス容器に充填、保存する内容物がカルシウムイオンと反応する等の内容物への影響を低減することが可能である。従って、カルシウムイオンの影響を受けやすい内容物を保存するための新たな容器を提案することができる。

Claims (4)

  1. ソーダライムガラス原料を溶融して得た溶融ガラスを所定の容器形状に成形してガラス成形物とし、前記ガラス成形物の温度を550℃ないし640℃とする温度域に制御し、前記温度域の間に前記ガラス成形物の内部にフロンガスを注入し、その後に徐冷を行うことにより得た酸性液体の保存のためのガラス容器であって、
    前記フロンガスの注入量が前記ガラス容器の内容量の0.02〜0.22体積%であり、
    第十六改正日本薬局方一般試験法 7.容器・包装材料試験法 7.01注射剤用ガラス容器試験法(ii)第2法の溶出条件に基づいて前記ガラス容器に蒸留水を加えて試験水を調製し、JIS K0116(2003)に準拠しICP−AESを用いた測定方法により前記試験水を測定した場合において、前記ガラス容器の内面から溶出するCa2+の溶出量の測定値が0.1ppm以下を満たすこと
    を特徴とするカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器。
  2. 前記フロンガスが1,1−ジフルオロエタンである請求項1に記載のカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器。
  3. 前記酸性液体が有機酸を含有する飲料である請求項1または2に記載のカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器。
  4. 前記飲料が酒類である請求項3に記載のカルシウムイオン溶出抑制ガラス容器。
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