以下に、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る車両操作装置が搭載された車両(詳しくは、運転席周辺)を概略的に示している。車両は、運転者Hが着座するシートSを搭載しており、同シートSの側方には、運転者Hの肘を支えるためのアームレスト10が設けられている。
アームレスト10は、その基端部にて、シートSの背当て部分に内蔵されたアームレストアクチュエータ11を介して、シートSに組み付けられている。アームレストアクチュエータ11は、後述する電気制御装置60によってその駆動が制御されて、アームレスト10の車両前方への変位および基端部を中心とする回動を禁止または許可するものである。そして、アームレストアクチュエータ11は、通常使用時において、アームレスト10の車両前方への変位および基端部を中心とする回動を禁止するように駆動するようになっている。また、アームレスト10の基端部には、アームレストアクチュエータ11と連結するための長穴12が形成されており、長穴12はアームレストアクチュエータ11の図示省略するシャフトおよび同シャフト先端部に一体的に形成されたストッパーを収容するようになっている。
また、アームレスト10の先端部には、運転者Hが車両の加速、制動、操舵を操作するための車両操作装置Aが組み付けられている。車両操作装置Aは、図1および図2に示すように、運転者Hによって前後左右に傾動操作されるジョイスティック20を備えている。ジョイスティック20は、図2に詳細に示すように、円柱棒状のロッド20aと、ロッド20aの上部外周に固定された円柱状の把持部20bとを備えている。また、ロッド20aは、略中央部分に球状部20cが形成されており、この球状部20cによって車体に対して、前後方向および左右方向に傾動可能に支持されている。
また、車両操作装置Aは、車両の始動時にジョイスティック20を初期位置に復帰させるとともに、車両の走行時にジョイスティック20の車両左右方向の傾動に対する反力(ジョイスティック20の中立位置から車両左右方向に傾動させようとする運転者Hの操作力に抗する力)を発生する左右方向反力発生機構30を備えている。この左右方向反力発生機構30は、ガイドプレート31、回転軸32、第1ギア33、第2ギア34、電動モータ35および操作位置センサ36を備えている。
ガイドプレート31は、L字状に屈曲された板状体からなり、回転軸32に固定された面が鉛直になるように配置される。そして、ガイドプレート31の水平方向に配置される面には、ロッド20aの直径よりもわずかに大きい幅を有し、車両前後方向に長手方向を有する長孔31aが設けられている。そして、長孔31a内をロッド20aが貫通している。回転軸32は、その軸線が車両前後方向に沿うとともに、ジョイスティック20の球状部20cの中心を通るように車体に対して回転可能に支持され、略中央部に第1ギア33を一体的に備えている。この第1ギア33は、電動モータ35の回転軸に固定された第2ギア34に歯合している。
電動モータ35は、ジョイスティック20の左右方向での通常ストローク範囲すなわち車両を操舵するためのストローク範囲内にて所定の反力を発生するようになっている。操作位置センサ36は、回転軸32の端部位置にて車体側に固定され、回転軸32の回転角をジョイスティック20の左右方向のストローク位置として検出する。この操作位置センサ36の出力であるストローク位置の値は、ジョイスティック20が左右方向の中立位置にあるときに「0」となるように調整されている。
さらに、車両操作装置Aは、車両の始動時にジョイスティック20を初期位置に復帰させるとともに、車両の走行時にジョイスティック20の車両前後方向の傾動に抗する反力(ジョイスティック20の中立位置から車両前後方向に傾動させようとする運転者Hの操作力に抗する力)を発生する前後方向反力発生機構40も備えている。この前後方向反力発生機構40も、上記左右方向反力発生機構30と同様に構成されていて、ガイドプレート41、回転軸42、第3ギア43、第4ギア44、電動モータ45および操作位置センサ46を備えている。
ガイドプレート41は、L字状に屈曲された板状体からなり、回転軸42に固定された面が鉛直面となるように配置され、水平方向に配置される面に、ロッド20aの直径よりやや大きい幅を有し車両左右方向に長手方向を有する長孔41aが設けられている。そして、長孔41a内をロッド20aが貫通している。また、回転軸42は、その軸線が車両左右方向に沿うとともに、ジョイスティック20の球状部20cの中心を通るように車体に対して回転可能に支持され、略中央部に第3ギア43を一体的に備えている。この第3ギア43は電動モータ45の回転軸42に固定された第4ギア44に歯合している。
電動モータ45は、ジョイスティック20の前後方向での通常ストローク範囲すなわち車両を加速や制動するためのストローク範囲内にて所定の反力を発生するようになっている。具体的に説明すると、電動モータ45は、通常ストローク範囲内でジョイスティック20がストロークする場合には、そのストローク量に応じて適度の反力を発生して、運転者Hのジョイスティック操作性を向上する。
また、電動モータ45は、ジョイスティック20が通常ストローク範囲を決定する予め決定されたしきい値までストロークした場合には、所定量だけ大きな反力を発生し、運転者Hの操作によって、ジョイスティック20が容易に通常ストローク範囲を超えないすなわちオーバーストロークとならないようにする。このため、通常、運転者Hがジョイスティック20を操作する場合には、通常ストローク範囲内にてそのストロークが許容される。また、例えば、車両衝突が発生した場合のように、運転者Hが車両前方への変位するような場合には、ジョイスティック20は通常ストローク範囲を超えてオーバーストローク範囲までストロークすることができる。
操作位置センサ46は、回転軸42の端部位置にて車体側に固定され、回転軸42の回転角をジョイスティック20の前後方向のストローク位置として検出する。この操作位置センサ46の出力であるストローク位置の値は、ジョイスティック20が中立位置にあるときに「0」となるように調整されている。
また、車両には、シートベルト装置50が搭載されている。シートベルト装置50は、シートベルト51、タングプレート52、バックル53、ショルダーベルトアンカ54を備えるとともに、プリテンショナ機構およびフォースリミッタ機構を内蔵したリトラクタ55を備えている。プリテンショナ機構は、車両の前面衝突時の初期にシートベルト51を瞬時に巻き取り、運転者Hの身体をしっかりと拘束する機構である。フォースリミッタ機構は、車両の前面衝突時に運転者Hが衝撃の反動で前方へ移動したときに、シートベルト51の拘束力を少し緩めて、運転者Hの胸部に係る荷重を低減可能な機構である。
次に、運転者Hによる車両操作装置Aの操作状態に応じて車両の加速、制動、操舵を統括的に制御するとともに、車両の衝突時にアームレストアクチュエータ11およびリトラクタ55の作動を統括的に制御する電気制御装置60を説明する。電気制御装置60は、図1に示すように、前後加速度センサ61および横加速度センサ62と、これら各センサ61,62に接続された電気制御ユニット63を備えている。
前後加速度センサ61は、車両の略中央部分に組み付けられて、車両の前後方向に発生した加速度(減速度)を検出し、同検出した加速度(減速度)を電気制御ユニット63に供給する。横加速度センサ62は、車両の略中央部分に組み付けられて、車両の左右方向に発生した加速度(減速度)を検出し、同検出した加速度(減速度)を電気制御ユニット63に供給する。
電気制御ユニット63は、CPU、ROM、RAMなどを主要構成部品とするマイクロコンピュータによって構成されている。そして、電気制御ユニット63は、後述するように、図3に示すプログラムを実行して、運転者Hによるジョイスティック20の操作量に応じて車両の走行状態を制御したり、車両に発生した衝突に対応してアームレストアクチュエータ11やリトラクタ55の作動を制御したりする。このため、電気制御ユニット63には、前後加速度センサ61および横加速度センサ62に加えて、車両操作装置Aの操作位置センサ36,46、エンジン制御装置64、ブレーキ制御装置66、ステアリング制御装置68が接続されている。なお、電気制御ユニット63は、本明細書においてその詳細な説明を省略するが、運転者Hのジョイスティック20の操作量に応じて所定の反力を発生するように、車両操作装置Aの電動モータ35,45の作動量を適宜制御するようになっている。
エンジン制御装置64は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品として構成されており、ジョイスティック20の車両後方へのストローク位置に基づいて、車両のエンジンシステムを制御する。すなわち、電気制御ユニット63は、操作位置センサ46によって検出されたジョイスティック20の車両後方へのストローク位置を表す加速ストローク位置情報を取得し、同加速ストローク位置情報に対応した加速度Aを計算する。そして、電気制御ユニット63は、計算した加速度Aをエンジン制御装置64に供給する。
エンジン制御装置64は、取得した加速度Aに基づいて、車両の加速度が加速度Aとなるようにスロットルアクチュエータ65を駆動させて、車両を加速制御する。ここで、ジョイスティック20は、車両の前後方向において、その中立位置を境に後方側にストロークするに従って車両の加速度Aを大きくし、中立位置側にストロークするに従って車両の加速度Aを小さくするように設定されており、中立位置においては、加速度を「0」にするように設定されている。
ブレーキ制御装置66も、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品として構成されており、ジョイスティック20の車両前方へのストローク位置に基づいて、車両のブレーキシステムを制御する。すなわち、電気制御ユニット63は、操作位置センサ46によって検出されたジョイスティック20の車両前方へのストローク位置を表す制動ストローク位置情報を取得し、同制動ストローク位置情報に対応した制動力Bを計算する。そして、電気制御ユニット63は、計算した制動力Bをブレーキ制御装置66に供給する。
ブレーキ制御装置66は、取得した制動力Bに基づいて、車両に制動力Bが発生するようにブレーキアクチュエータ67を駆動させて、車両を制動制御する。ここで、ジョイスティック20は、車両の前後方向において、その中立位置を境に前方側にストロークするに従って車両の制動力Bを大きくし、中立位置側にストロークするに従って車両の制動力Bを小さくするように設定されており、中立位置においては、制動力を「0」にするように設定されている。
ステアリング制御装置68も、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品として構成されており、ジョイスティック20の車両左右方向へのストローク位置に基づいて、車両のステアリングシステムを制御する。すなわち、電気制御ユニット63は、操作位置センサ36によって検出されたジョイスティック20の車両左右方向へのストローク位置を表す操舵ストローク位置情報を取得し、同操舵ストローク位置情報に対応した操舵角θを計算する。そして、電気制御ユニット63は、計算した操舵角θをステアリング制御装置68に供給する。
ステアリング制御装置68は、取得した操舵角θに基づいて、車両の転舵輪が操舵角θとなるようにステアリングアクチュエータ69を駆動させて、車両を左右方向に操舵制御する。ここで、ジョイスティック20は、車両の左右方向において、その中立位置を境に車両右側にストロークするに従って操舵角θを右側に大きくし、中立位置を境に車両左側にストロークするに従って操舵角θを左側に大きくするように設定されており、中立位置においては、操舵角θを「0」にするように設定されている。
次に、上記のように構成した実施形態の動作を説明する。図示しない車両のイグニッションスイッチがオン状態とされると、電気制御ユニット63は、図3に示すプログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行する。このプログラムは、ステップS10にて開始され、電気制御ユニット63は、ステップS11にて、衝突フラグGaFが”0”であるか否かを判定する。この衝突フラグGaFは、”1”により車両に衝突が発生したことを表し、”0”によりそれ以外を表すものである。そして、衝突フラグGaFは、プログラム実行初期において、図示しない初期化処理によって”0”に設定されている。このため、プログラム実行開始直後においては、衝突フラグGaFが”0”であるため、電気制御ユニット63は、「Yes」と判定してステップS12に進む。
ステップS12においては、電気制御ユニット63は、前後加速度センサ61および横加速度センサ62からの検出値に基づいて、車両の減速度Gが衝突を判定するために予め設定された減速度のしきい値Gaよりも小さいか否かを判定する。すなわち、走行中の車両に衝突が発生したときには、車両に制動力を付与して停車する場合に比して、大きな減速度が発生する。このため、しきい値Gaを適宜設定することにより、車両に衝突が発生したか否かを判定することができる。これにより、電気制御ユニット63は、車両の減速度Gがしきい値Gaよりも小さければ、車両に衝突が発生していないため、「Yes」と判定してステップS13〜ステップS16の通常処理を実行する。
すなわち、ステップS13においては、電気制御ユニット63は、操作位置センサ36,46によって検出されたジョイスティック20のストローク位置情報(加速ストローク位置情報、制動ストローク位置情報、操舵ストローク位置情報)を取得する。続くステップS14にて、電気制御ユニット63は、前記ステップS13にて取得した各ストローク位置情報に基づいて、加速度A、制動力Bおよび操舵角θを算出し、同算出した加速度A、制動力Bおよび操舵角θを図示しないRAMに一時的に記憶しておく。
そして、電気制御ユニット63は、ステップS15において、前記ステップS14にてRAMに一時的に記憶した加速度A、制動力Bおよび操舵角θをそれぞれエンジン制御装置64、ブレーキ制御装置66およびステアリング制御装置68に供給する。このように、加速度A、制動力Bおよび操舵角θがエンジン制御装置64、ブレーキ制御装置66およびステアリング制御装置68に供給されると、これら制御装置64,66,68がそれぞれ通常処理を実行し、車両は加速、制動および操舵される。
すなわち、運転者Hの操作により、ジョイスティック20が中立位置よりも車両後方の部分にストロークすると、操作位置センサ46がそのストローク位置を検出するとともに加速ストローク位置情報を電気制御ユニット63に供給する。電気制御ユニット63は、加速ストローク位置情報を取得するとともに同加速ストローク情報に対応した加速度Aを計算し、同加速度Aを表す情報をエンジン制御装置64に供給する。エンジン制御装置64は、供給された加速度Aを表す情報を取得すると、スロットルアクチュエータ65に対して、加速度Aに対応したスロットル開度を確保するためのスロットル開成信号を供給する。これにより、スロットルアクチュエータ65はスロットル開成信号に基づいてスロットルを所定量だけ開成することにより、車両は運転者Hによって操作されたジョイスティック20のストローク位置に応じて加速する。
また、運転者Hの操作により、ジョイスティック20が中立位置よりも車両前方の部分にストロークすると、操作位置センサ46がそのストローク位置を検出するとともに制動ストローク位置情報を電気制御ユニット63に供給する。電気制御ユニット63は、制動ストローク位置情報を取得するとともに同制動ストローク位置情報に対応した制動力Bを計算し、同制動力Bを表す情報をブレーキ制御装置66に供給する。ブレーキ制御装置66は、供給された制動力Bを表す情報を取得すると、ブレーキアクチュエータ67に対して、制動力Bに対応した制動力を確保するための制動制御信号を供給する。これにより、ブレーキアクチュエータ67は制動制御信号に基づいてキャリパ内のピストンを駆動して制動することにより、車両は運転者Hによって操作されたジョイスティック20のストローク位置に応じて減速する。
また、運転者Hの操作により、ジョイスティック20が車両に対して中立位置よりも左右側の部分にストロークすると、操作位置センサ36がそのストローク位置を検出するとともに操舵ストローク位置情報(左旋回または右旋回)を電気制御ユニット63に供給する。電気制御ユニット63は、操舵ストローク位置情報を取得するとともに同操舵ストローク位置情報に対応した操舵角θを計算し、同操舵角θを表す情報をステアリング制御装置68に供給する。ステアリング制御装置68は、供給された操舵角θを表す情報を取得すると、ステアリングアクチュエータ69に対して、転舵輪の操舵角を操舵角θとするための操舵制御信号を供給する。これにより、ステアリングアクチュエータ69は操舵制御信号に基づいて転舵輪を操舵角θとなるように操舵駆動することにより、車両は運転者Hによって操作されたジョイスティック20のストローク位置に応じて左旋回または右旋回する。
前記ステップS15の処理後、ステップS16に進み、プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短時間後にふたたびプログラムの実行をステップS10にて開始し、車両の衝突が検出されない限り、ステップS12における「No」との判定のもとに、ステップS11〜ステップS16までの通常処理が繰り返し実行される。
一方、車両が前方に存在する障害物(例えば、先行車両など)に衝突すると、減速度Gがしきい値Gaよりも大きくなることにより、電気制御ユニット63は、ステップS12にて「Yes」と判定する。そして、電気制御ユニット63は、前記ステップS12の判定処理後ステップS17に進み、衝突フラグGaFを“1”に設定して、ステップS18以降の処理を実行する。
ステップS18においては、電気制御ユニット63は、リトラクタ55内のプリテンショナ機構およびフォースリミッタ機構を起動する。このように、プリテンショナ機構が起動することにより、シートベルト51がリトラクタ55内に引き込まれて、運転者Hはシートベルト51によってシートSに固定されて、前方へ飛び出さないように保護される。そして、フォースリミッタ機構を起動することにより、運転者Hが衝撃の反動で前方へ移動したときに、シートベルト51の拘束力を少し緩めて、運転者Hの胸部にかかる荷重を低減する。
前記ステップS18の処理後、ステップS19にて、電気制御ユニット63は、衝突によって車両に生じる減速度の方向を検出する。この方向の検出は、前後加速度センサ61および横加速度センサ62が検出する前後方向および左右方向の減速度のベクトルに基づいて検出される。そして、電気制御ユニット63は、減速度の方向を検出すると、ステップS20に進む。
ステップS20においては、電気制御ユニット63は、前記ステップS19の検出処理によって検出された減速度の方向が車両の前後方向に略一致するか否かを判定する。すなわち、衝突によって車両に発生した減速度の方向が車両の前後方向と略一致していれば、電気制御ユニット63は「Yes」と判定して、ステップS21に進む。一方、車両に発生した減速度の方向が車両の前後方向と略一致していないすなわち車両の側方に障害物が衝突していれば、電気制御ユニット63は「No」と判定して、ステップS23に進む。
ステップS21においては、電気制御ユニット63は、ジョイスティック20がオーバーストローク範囲までストロークしているか否かを判定する。具体的に説明すると、前記ステップS18の処理によりリトラクタ55が起動し、運転者Hはフォースリミッタ機構によって、車両前方へ若干量だけ変位する。このとき、運転者Hは、通常、ジョイスティック20を強く握っており、運転者Hの身体の前方への変位に伴って、ジョイスティック20も前方へストロークされる。このように、ジョイスティック20が前方へストロークされた場合には、通常ストローク範囲を超えてオーバーストロークとなる場合がある。
このようなジョイスティック20のオーバーストロークは、操作位置センサ46によって検出されて、電気制御ユニット63に供給される。そして、ジョイスティック20が前方へ通常ストローク範囲を超えてオーバーストロークしていれば、電気制御ユニット63は「Yes」と判定してステップS22に進む。一方、ジョイスティック20がオーバーストロークしていなければ、電気制御ユニット63は「No」と判定してステップS23に進む。
ステップS22においては、電気制御ユニット63は、アームレストアクチュエータ11に対して、車両前方への変位および基端部を中心とする回動を禁止するための駆動状態を解除する駆動解除信号を出力する。具体的に説明すると、アームレスト10は、通常は、アームレストアクチュエータ11の駆動によって、シートSに対して、変位不能かつ回動不能に固定されている。ところで、車両に衝突が発生すると、上述したように、運転者Hは車両前方へ若干量変位するとともにジョイスティック20がオーバーストロークする。このとき、運転者Hの腕には、ジョイスティック20から反力が作用する。
この反力を抑制するために、電気制御ユニット63は、アームレストアクチュエータ11に対して駆動解除信号を供給し、アームレスト10の車両前方への変位および基端部を中心とする回動を許容させる。アームレストアクチュエータ11は、駆動解除信号を取得すると、その駆動を解除し、アームレスト10の車両前方への変位および基端部を中心とする回動を許容する。これにより、アームレスト10は、運転者Hの車両前方への変位に伴って車両前方へ変位可能となり、運転者Hの腕に作用する反力を抑制することができる。また、アームレスト10は、運転者Hの前傾に伴って基端部を中心として回動可能となり、運転者Hの腕に作用する反力を抑制することができる。
前記ステップS22の処理後、ステップS23においては、電気制御ユニット63は、ブレーキ制御装置66に対して、ブレーキ指示値Fを供給する。このブレーキ指示値Fは、予め設定してマップ化されたデータから求められるものであり、このマップデータは、電気制御ユニット66の図示しないROMに記憶されている。ブレーキ指示値Fは、前後加速度センサ61および横加速度センサ62が検出する車両の加速度(減速度)に基づいて車両速度を求め、車両速度が大きくなるに従ってブレーキ指示値Fも大きくなるように設定することができる。また、一律に、ブレーキ出力の最大値に設定することもできる。そして、ブレーキ制御装置66は、ブレーキ指示値Fを取得すると、同指示値Fに応じた制動力Bが発生するようにブレーキアクチュエータ67を制御して車両を制動する。なお、このように車両を制動する際には、電気制御ユニット63は、ジョイスティック20のストローク位置に関係なく、ブレーキ指示値Fに基づいて車両を制動する。
前記ステップS23の処理後、ステップS24においては、電気制御ユニット63は、アクセルを全閉して、車両が加速しないようにする。具体的に説明すると、電気制御ユニット63は、エンジン制御装置64に対して、エンジンのスロットルを全閉するように指示する。エンジン制御装置64は、同指示に従って、スロットルアクチュエータ65を駆動させてスロットルを閉じさせる。これにより、車両は、ジョイスティック20のストローク位置に関係なく、加速が禁止される。
次に、電気制御ユニット63は、ステップS24において、前記ステップS14にてRAMに一時的に記憶した操舵角θをステアリング目標値θとしてステアリング制御装置68に供給する。これにより、ステアリング制御装置68は、ステアリング目標値θすなわち操舵角θでステアリングアクチュエータ69を駆動させ続けることができる。これは、衝突判定時の操舵角θをステアリング目標値θとして維持することにより、衝突直前の衝突回避動作を維持させるためである。
ステップS24の処理後、ステップS16にて、電気制御ユニット63は、プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短時間後、ふたたびステップS10にてプログラムの実行を開始する。このとき、衝突後におけるプログラムに実行であれば、衝突フラグGaFが“1”に設定されているため、電気制御ユニット63は、ステップS11にて「No」と判定し、ステップS19以降の処理を実行する。なお、衝突発生後、2回目以降にプログラムを実行する場合には、ステップS18は省略される。
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、衝突検知手段としての前後加速度センサ61および横加速度センサ62によって車両の衝突が検知されると、電気制御ユニット63はアームレストアクチュエータ11の駆動を禁止して、アームレスト10を運転者Hから退避させることができる。このため、車両衝突時に、アームレスト10に組み付けられたジョイスティック20も運転者Hから退避し、運転者Hの変位を阻害することを防止することができる。したがって、運転者Hが操作しているジョイスティック20から運転者に作用する衝突による反力を効果的に低減することができて、運転者Hを保護することができる。
また、車両衝突時、特に車両の衝突部位が車両前面である車両衝突時には、運転者Hの変位方向に併せて、アームレスト10を車両前方に変位させて退避させることができる。これにより、ジョイスティック20から運転者Hに作用する反力をより確実に低減することができる。また、車両前面で衝突が発生した場合には、運転者Hは、フォースリミッタ機構によって若干量だけ車両前方へ変位する。この運転者Hの変位に併せて、アームレスト10を車両前方へ変位させることにより、運転者Hの上体とジョイスティック20を操作する腕との位置関係を維持した状態を確保することができる。このため、運転者Hの腕に無用な負荷をかけることなく、また、窮屈な姿勢への変化を効果的に抑制することができる。
また、車両の衝突を検知するとともにジョイスティック20がオーバーストローク範囲までストロークすることにより、アームレスト10を車両前方へ変位可能として退避させる。このため、例えば、衝突発生直後において、運転者Hは、ジョイスティック20を握ることにより姿勢を良好に保つことができる。また、衝突によって運転者Hが車両前方へ変位し、ジョイスティック20がオーバーストローク範囲までストロークしたときに、アームレスト10を退避することができるため、ジョイスティック20から運転者Hに作用する反力を低減することができる。
また、電気制御ユニット63は、アームレストアクチュエータ11の駆動を解除してアームレスト10を回動可能とすることにより、運転者Hから退避させることができる。これにより、車両衝突時に、シートベルト51によってシートSに拘束された運転者Hの姿勢すなわち前傾姿勢に対応して、アームレスト10を退避することができる。このため、ジョイスティック20から運転者Hに作用する反力を低減することができる。また、運転者Hの上体の変位と連携させることにより、運転者Hの上体と腕との位置関係を維持した状態でアームレスト10を退避することができ、運転者Hの腕に無用な負荷をかけることなく、また、窮屈な姿勢への変化を効果的に抑制することができる。
さらに、ジョイスティック20が車両前後方向の変位方向を含む面内にてアームレスト10を回動可能とすることができる。これにより、例えば、車両衝突により運転者Hが前方へ若干量だけ変位した場合には、ジョイスティック20を握っている手が容易に車両前方へ抜けやすくでき、運転者に作用する反力を低減することができる。
上記実施形態においては、ジョイスティック20の通常ストローク範囲を電動モータ45の所定量だけ大きな反力によって規定するように実施した。これに代えて、通常ストローク範囲を、図4に示すように、金属薄板や樹脂板などの規制板31bのせん断荷重によって規定して実施することも可能である。この場合には、ジョイスティック20の通常操作時においては、規制板31bのせん断荷重によって通常ストローク範囲が規定される。そして、車両に衝突が発生して運転者Hが車両前方へ変位した場合には、ジョイスティック20が規制板31bのせん断荷重にうち勝ってオーバーストロークする。これにより、電気制御ユニット63がオーバーストロークを検知し、アームレスト10を変位および回動可能とすることができて、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、上記実施形態においては、ジョイスティック20の通常ストローク範囲を電動モータ45の所定量だけ大きな反力によって規定するように実施した。これに代えて、通常ストローク範囲をジョイスティック20の球状部20cと車体側との摩擦力によって規定して実施することも可能である。この場合には、ジョイスティック20の通常操作時においては、球状部20cと車体との間の摩擦力によって通常ストローク範囲が規定される。そして、車両に衝突が発生して運転者Hが車両前方へ変位した場合には、ジョイスティック20が摩擦力にうち勝ってオーバーストロークする。これにより、電気制御ユニット63がオーバーストロークを検知し、アームレスト10を変位および回動可能とすることができて、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、上記実施形態においては、電気制御ユニット63がジョイスティック20のオーバーストロークを検知すると、アームレストアクチュエータ11に駆動解除信号を供給して、アームレスト10の変位および回動を許容するように実施した。これに代えて、例えば、衝突形態に応じて、アームレスト10を車両前方への変位のみを許容したり、基端部を中心とした回動のみを許容したりすることも可能であることはいうまでもない。
また、アームレスト10を車両前方への変位のみ許容する場合には、さらに、上記実施形態のアームレストアクチュエータ11に代えて、リトラクタ55のフォースリミッタ機構と連動してアームレスト10を変位させることも可能である。この変形例を、図5から図7を用いて詳細に説明する。
この変形例においては、図5に示すように、リトラクタ55のフォースリミッタ機構によるシートベルト51の送り出しに連動して、アームレスト10の車両前方への変位を制御するアームレスト変位制御機構80がシートベルト51に取り付けられている。そして、アームレスト変位制御機構80は、ケーブルKを介して、アームレスト10に連結されている。なお、ケーブルKは、例えば、シートSの背当て部分に設けられた図示しないガイドなどを利用して配設されている。
アームレスト変位制御機構80は、図6に三面図にて示すように、シートベルト51を変位自在に収容するケース81と、同ケース81内に組み付けられたプレート82、偏心ローラ83および慣性レバー88を備えている。プレート82は、ケース81の内壁面とシートベルト51との間に変位不能に固着されている。偏心ローラ83は、シートベルト51およびプレート82に対向する位置に配置されており、車両の前後方向に設けられたシャフト84に、軸線が所定量だけ偏心した状態で組み付けられている。
また、シャフト84には、第1傘歯車85が同軸的かつ一体的に組み付けられており、同第1傘歯車85には、第2傘歯車86が歯合している。この第2傘歯車86には、シャフト87がその一端部にて同軸的にかつ一体的に固着されており、シャフト87の他端部には、慣性レバー88がシャフト87の軸線に対して略直角(図6においては鉛直上方)となるように固着されている。慣性レバー88は、先端部分に所定重量とされたマス88aが取り付けられており、マス88aには、一端部がケース81の内壁面に固着されたバネ89が接続されている。これにより、慣性レバー88は、通常時においては、バネ89の付勢力によって鉛直上方に立設した状態が維持されるようになっている。
このように構成されたアームレスト変位制御機構80においては、通常状態すなわち車両に衝突が発生していない状態では、慣性レバー88が立設した状態に維持されるとともに、シートベルト51とプレート82および偏心ローラ83との間に隙間を有した状態が維持される。このため、シートベルト51は、アームレスト変位制御機構80に対して、自由に変位することができる。
一方、車両に衝突が発生した状態では、マス88aに大きな慣性力が作用するため、慣性レバー88がバネ89の付勢力にうち勝って、図7に示すように、車両前方へ回動する。この慣性レバー88の回動に伴って、シャフト87および第2傘歯車86が回動し、第2傘歯車86に歯合した第1傘歯車85が回動する。この第1傘歯車85の回動に伴ってシャフト84および偏心ローラ83が回動する。このように、偏心ローラ83が回動すると、シートベルト51は、プレート82と偏心ローラ83によって挟持される。
このように、シートベルト51がプレート82と偏心ローラ83によって挟持された状態で、リトラクタ55のフォースリミッタ機構によってシートベルト51が所定量送り出されると、同シートベルト51の送り出しに連動して、一体的にアームレスト変位制御機構80も送り出し方向へ前記所定量だけ変位する。このアームレスト変位制御機構80の変位により、ケーブルKは緩んだ状態とされて、アームレスト10が前記所定量と略同等量だけ車両前方へ変位可能な状態とされる。そして、運転者Hがジョイスティック20を握った状態でフォースリミッタ機構により車両前方へ変位すると、アームレスト10は、運転者Hの変位に伴って車両前方へ変位する。
このようにして、アームレスト10が車両前方へ変位することにより、運転者Hとアームレスト10は、互いに相対変位なく車両前方へ変位する。これにより、ジョイスティック20から運転者Hの腕に作用する反力を抑制することができ、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、フォースリミッタ機構を利用することにより、構造を簡単とすることができて、製造コストを低減することもできる。
また、アームレスト10をその基端部を中心とする回動のみを許容する場合には、さらに、上記実施形態のアームレストアクチュエータ11に代えて、アームレスト10をシートSに回動ロック機構を備えたピボットによって組み付け、ジョイスティック20のオーバーストロークを機械的に回動ロック機構に伝達して実施することも可能である。具体的に説明すると、アームレスト10に内蔵されて、ジョイスティック20のロッド20aと回動ロック構造(例えば、アームレスト10の角度を調整することが可能なチルト機構など)とを連結するリンク機構を設けておく。さらに、回動ロック構造が解除された際に、アームレスト10を下方へ回動させるバネを回動ロック構造に設けておく。
これにより、車両に衝突が発生して、ジョイスティック20がオーバーストロークすると、リンク機構によって回動ロック機構のロックが解除されることにより、アームレスト10はその基端部を中心として回動することができる。このとき、バネによって、アームレスト10は、下方に速やかに回動する。これにより、運転者Hの前傾に伴い、ジョイスティック20から運転者Hの腕に作用する反力を抑制することができ、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、リンク機構は、ケーブルに代えて実施することも可能である。
さらに、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変形が可能であることはいうまでもない。例えば、上記実施形態および変形例においては、アームレスト10がシートSに上下動不能に組み付けられて実施したが、運転者Hの体格に応じて、上下方向に調整可能として実施することも可能である。これにより、運転者Hのジョイスティック20の操作性を向上することができて好適である。
また、上記実施形態および変形例においては、アームレスト10をシートSの一側(車両の中心側)にのみ設けて実施したが、例えば、車両走行中の運転者Hの運転姿勢を良好に保つための把持部を設けたアームレストをシートSの他側に設けたり、助手席側に設けて実施することも可能である。この場合においては、車両に衝突が発生した場合に、把持部から運転者Hの腕に反力が作用する可能性があるため、他側に設けたアームレストも、上記実施形態および変形例と同様にして、車両前方へ変位するようにしたり回動したりするように設けられる。これにより、運転者Hの走行中の運転姿勢を良好に保つことができるとともに、運転者Hの腕に対する反力を抑制することができる。
さらに、電気制御ユニット63は、車両に衝突が発生した場合に、電動モータ35,45の作動を停止させて、車両の衝突後にジョイスティック20に反力を発生させないように実施することも可能である。これにより、車両の衝突時にジョイスティック20が極めて容易に運転者Hの変位方向へストロークすることができ、アームレスト10の車両前方への変位や回動による運転者Hの腕に対する反力の抑制効果に加えて、さらに良好に反力を抑制することができる。
10…アームレスト、11…アームレストアクチュエータ、20…ジョイスティック、50…シートベルト装置、51…シートベルト、55…リトラクタ、60…電気制御装置、61…前後加速度センサ、62…横加速度センサ、63…電気制御ユニット、80…アームレスト変位制御機構、82…プレート、83…偏心ローラ、88…慣性レバー、A…車両操作装置、S…シート、H…運転者