JP2005139515A - 耐摩耗性硬質皮膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】 高荷重負荷製品や部品に対し最も課題である、密着性を改善した耐酸化性を有する高硬度皮膜を提供する。
【解決手段】 被処理物である基材表面に、Cr又はTiの窒化物からなる第1層と、その上にCr若しくはTiとAlCrSiとの混合物の窒化物又は酸素を含有した窒化物からなる第2層と、さらにその上にAlCrSiの酸素を含有した窒化物からなる第3層と、から構成される硬質層が被覆されていることを特徴とする耐摩耗性硬質皮膜、並びに、該耐摩耗性硬質皮膜を表面に設けた耐摩耗性硬質被覆工具および工作機械。
【選択図】 図2

Description

本発明は、物理蒸着法を用いて基材上に成膜した密着性を飛躍的に向上させ長寿命とした耐摩耗性硬質皮膜に関する。
従来、イオンプレーティングに代表される物理蒸着法を用いて基板上に高硬度皮膜を形成する技術が開発され、TiN皮膜はその中でも最も実用化が進んでおり、工具、金型、眼鏡等の装飾品等に適用されている。しかし、この皮膜は500℃以上になると、皮膜の酸化が始まるため、高温に曝される部品、工具、金型等には適用出来ない。そこで、この改善策として、TiAlN皮膜が開発され、この皮膜では約800℃までの高温中でも酸化が抑制され使用が可能となったが、それ以上であると上記TiNと同様酸化による皮膜劣化で適用が困難である。さらに高温で使用可能な皮膜として、特許文献1に記載されたAl−Cr−Nや、特許文献2に記載されたAl-Cr-Si-N又はN+Oなどが考案され、これらの皮膜ではさらに高温での使用が可能である。
しかしながら、密着性の点で問題があり、高荷重が負荷する製品、部品に対しては耐摩耗性の点で課題が残っていた。
特開平10−25566号公報 特開2002−337007号公報
本発明者らは、上記問題点に鑑み、従来技術の課題を解決するため研究を進め、従来技術を飛躍的に向上した、密着性に優れかつ高耐酸化性の長寿命皮膜を開発すべく、鋭意検討した。すなわち、本発明は、高荷重負荷製品、部品に対し最も課題である、密着性を改善した耐酸化性・高硬度皮膜を提供することを目的とする。
本発明者らは、例えばドライ加工に使用するコーティング工具のごとく高温且つ高面圧状態に置かれる皮膜において、その皮膜自体の耐酸化性或いは硬度は無論であるがそれらの特性の向上のみでは、皮膜の微視的な剥離が生じ結果的にそれらの優れた特性を生かしきれないうちに寿命となることを発見した。そこで、この観点に立ち、本発明は、密着性を改善し、耐酸化・高硬度皮膜自体の特性を最大限に生かすことを特徴とする。
すなわち、本発明は、被処理物である基材表面に、Cr又はTiの窒化物からなる第1層(下地層)と、その上にCr若しくはTiとAlCrSiとの混合物の窒化物又は酸素を含有した窒化物からなる第2層(混合層)と、さらにその上にAlCrSiの酸素を含有した窒化物からなる第3層(上層)と、から構成される硬質層が被覆されていることを特徴とする耐摩耗性硬質皮膜を提供するものである。
より具体的には、本発明では密着性を改善するため、基材上にCr又はTiの窒化物を厚さ0.1〜2μm厚さ被覆し、さらにその上に後述する上層(第3層)組成と上記Cr若しくはTiの窒化物下地層(第1層)との混合組成の窒化物又は酸素含有する窒化物を0.1〜1μm被覆し、さらにその上にAl,Cr,Siの酸素を含有する窒化物を被覆することを特徴とする。上述の基材上のCr又はTiの窒化物である下地層(第1層)と上層(第3層)皮膜との間の混合組成皮膜(第2層)に関しては、その皮膜形成中に反応ガスを窒素のみの場合と窒素に酸素を0.1容量%〜5容量%添加したチャンバー内雰囲気でコーティングする2種類の方法をとることが可能である。
さらに上層(第3層)のAlCrSiは酸素含有窒化物である。この場合の酸素含有窒化物層は、窒素に酸素を0.1容量%〜5容量%添加したチャンバー内雰囲気でコーティングするものである。
以上により、本発明では、耐摩耗性硬質皮膜の密着性が飛躍的に向上する。
上層(第3層)の組成は金属成分のみで、Siが1原子%以上20原子%以下、残りのAl,Crが Al/Cr原子%比で0.3〜3とすることが好ましい。
上記皮膜の形成方法としては、アークイオンプレーティング法などの物理蒸着法により形成することができる。
以上説明したように、本発明皮膜は密着性に優れ且つ高温での耐酸化性にも優れており、耐摩耗性は極めて良好であり、被覆した部材、製品の長寿命化が達成できる。よって、工具、金型や眼鏡等の装飾品の表面処理に幅広く適用が可能である。
以下、本発明を実施する最良の形態によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施の形態によって何ら限定されるものではない。
以下、本実施の形態による密着性に優れかつ耐酸化性高硬度皮膜について図面を参照しながら説明する。
初めに、本発明がなされた経緯について説明すると以下のとおりである。
TiAlN皮膜は、高温大気中で使用されると800℃程度で皮膜が酸化され皮膜強度及び密着性が低下する。この酸化状態を分析すると、皮膜成分のAl及びTiが酸化されており、特にTiの酸化物は非常にポーラスであるため酸素の進入が容易であり厚くなる。このため、上述の皮膜強度及び密着性が低下し、皮膜の剥離に繋がる。一方、AlCrN皮膜はこの点を改善した皮膜であり、ポーラスで厚く形成するTi成分に代えCrとし、酸素の進入を防止し酸化皮膜を極薄く生成させこの酸化層によりその後の酸化を防止することにより、耐酸化性を向上している。しかしこの皮膜は、Al,Crの酸化物が脆いため、高荷重が負荷する例えば工具に使用した場合、剥離が生じ耐摩耗性の点で問題がある。
さらに、密着性を改善するため、例えばTi窒化物の下地層を形成し、その上にTiAlN層を設けることにより密着性を改善する方法が考案されているが、この方法に於いても高荷重が付加する条件下では十分でなく寿命の点で問題がある。
これらの現象を基に、以下本発明の詳細な内容を説明する。
先ず、密着性を改善する方法について説明する。
基材例えば高速度工具鋼上にTi又はCrの窒化物、その上に上層組成と上記Cr若しくはTiの窒化物下地層との混合組成の窒化物又は酸素を含有する窒化物を被覆し、さらにその上にAl,Cr,Siの酸素を含有する窒化物を被覆することを特徴とする。混合層及び上層を被覆する場合は、酸素を0.1容量%〜5容量%添加した窒素雰囲気で実施する。
ここで、図2に示す混合組成層20を設けることにより、下地層21と上層コーティング22との密着性が改善される。また、この混合層20を酸素を含有する窒化物とすることによて、より一層の密着力向上が可能である。また、上層22のAlCrSiの窒化物に酸素を含有することにより、その下の混合層20との密着が改善される。下地層21の厚さは、0.1〜2μmの範囲、混合層20の厚さは、0.1〜1μmの範囲が良好である。
次に、耐酸化性向上について説明する。
上層皮膜に関し、大気からの酸素の進入を抑制する、すなわち耐酸化性を高めるため、Al,Cr,Siの窒化物に酸素を加え、高温酸化雰囲気に曝された場合、その初期段階においてAl,Cr,Siの緻密な複合酸化皮膜、特にAlリッチの緻密な酸化物を形成し、その後の酸素の進入を防止し、酸化層厚さを極めて薄く保つことが可能となる。また、酸素添加により、皮膜の靭性が向上し、高温・高面圧下での耐割れ性が向上し、皮膜の微細欠落が防止できる。
上層の組成は金属成分のみで、Siが1原子%以上20原子%以下、残りのAl,Crが Al/Cr原子%比で0.3〜3とすることが好ましい。
上記皮膜の形成方法としては、アークイオンプレーティング法などの物理蒸着法により形成することができる。
図1は、その密着性に優れかつ耐酸化性硬質皮膜を基材表面に形成するためのアークイオンプレーティング装置1を示す。このアークイオンプレーティング装置1は、大気と気密なチャンバー2を設け、その側面部には、下地コーティング用蒸着ターゲット3−1及び上層コーティング用蒸着ターゲット3−2を配設し、チャンバー2の室内16にはテーブル状のホルダー7が配設されている。ホルダー7は、回転軸9を介してモータ8と連結され、ホルダー7はその周方向に回転が可能である。そして、ターゲット3−1、3−2には、直流電源12−1、12−2が接続され、ターゲット3−1、3−2は電源11の―側と接続され、ホルダー7は電源11の−側に接続されている。
チャンバー2の室内16には、室内16を真空にするための真空ポンプ4が制御バルブ13を介して接続され、また、室内16の不活性ガスを供給するためのアルゴンのガス源5が制御バルブ15を介して接続され、さらに、室内16に窒素のガス源6−1が制御バルブ14−1を介して接続され、窒素又は窒素+酸素を供給するためのガス源6−2が制御バルブ14−2を介して接続されている。
本実施形態では、ターゲット3−1はAl,Cr,Siからなり、また、基材10はSKH−54を用いた。そして、ホルダー7上に基材10を載置し、制御バルブ13〜15のうち、初めに制御バルブ13を開き、室内16を真空排気し、次に制御バルブ15を開き、 室内16にアルゴンガスを供給するとともに、室内16を3Pa程度の圧力とする。次にモータ8によりホルダー7を回転させる。次いで、遮断バルブ15を閉じて、バルブ14−1を開き窒素ガスを供給し、チャンバー内16を窒素とする。
ターゲット3−1(Cr又はTi)と直流電圧を印加させて陰極アーク放電によりターゲット3−1物質を蒸発、イオン化し、直流負バイアス電圧を付加した基材10表面に雰囲気の窒素との反応による窒化物を形成する。引き続き、バルブ6−2より酸素含有窒素を供給し、ターゲット3−2(AlCrSi)とターゲット3−1を同時に蒸発させ上述と同様に被覆する。この場合バルブ6−2の酸素含有窒素ガス供給のない、ガス源6−1の窒素のみのケースもある。さらに、ターゲット3−2(AlCrSi)のみの蒸着をする。この場合は、酸素含有窒素雰囲気である。なお、基材は、上述真空排気後には記載しないヒーターにより、400℃程度に加熱保持しておく。以上により、基板10の表面に密着性に優れた耐高温酸化性硬質皮膜が形成される。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものでない。
実施例1〜6、比較例1〜5および従来例1
図1に示すアークイオンプレーティング装置により、各種合金ターゲットを用い、高速度工具鋼(SKH-54)ホブ基材上にTiN又はCrNと、TiN又はCrNと上層皮膜の両者成分の混合層を合わせて1μmの皮膜と、AlCrSiN上層硬質皮膜をそれぞれのケースで総厚4μm成膜した。成膜条件は、下記表1に示すとおりとした。
Figure 2005139515
その後、切削速度150m/min、送り量2.0mm/revでS55C材を無潤滑で切削し摩耗量を測定した。摩耗量の測定は、切削後の逃げ面摩耗幅を測定することにより行った。
各実施例1〜6と各比較例1〜5及び従来例1の結果を下記表2に示すが、本発明の皮膜は摩耗量が小さく耐摩耗性に優れていることが判明した。
Figure 2005139515
ここで、密着性向上について説明する。
基材上に下地層として、TiN又はCrNを施工し、その上に耐摩耗コーティングを施工することは通常実施されているが、この場合の密着力は、上層の耐摩耗コーティングと下地層の密着性が重要であり、いくら上層コーティングの特性が優れていても、上述下地層と上層コーティングの密着性が小さい場合は、表面保護の目的を十分果たすことができない。本発明は、ここに着目したもので、下地層と上層の間に傾斜組成化した混合層を設けることにより、両者間の密着性を向上させるものである。この場合、上層コーティングに酸素が含有することにより、その直下の混合層も酸素を添加した方がさらに両者間の密着性を向上させ、皮膜の長寿命化が達成できる。一方、下地層のCrN又はTiN層への酸素添加は、基材との密着性を低下させるため好ましくない。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。
例えば、上記コーティング層の形成に当たっては、物理蒸着法が適用され、その金属蒸発方法であるスパッタリングによるもの、アーク放電によるもの等があるがこれらの方法には制約はない。
本発明の高硬度皮膜は、密着性に優れかつ高耐酸化性の長寿命皮膜であり、高荷重負荷製品、部品に対し最も課題である、密着性を改善したものである。よって、工具、金型、眼鏡等や装飾品等の皮膜として用いることができ、特に高温に曝される部品、工具、金型等には好適であり、産業上の意義は極めて大きい。
本発明の実施の形態による耐摩耗性硬質皮膜を基材に形成するためのアークイオンプレーティング装置の概略図である。 本発明の耐摩耗性硬質皮膜の断面を示す図である。
符号の説明
1 アークイオンプレーティング装置
2 チャンバー
3−1、3−2 ターゲット
4 真空ポンプ
5 ガス源(Ar)
6−1 ガス源(N2
6−2 ガス源 (N2+O2
7 ホルダー
8 モータ
9 回転軸
10 基材
11 電源
13、14−1、14−2、15 制御弁
20 混合層
21 下地層
22 上層

Claims (8)

  1. 被処理物である基材表面に、Cr又はTiの窒化物からなる第1層と、その上にCr若しくはTiとAlCrSiとの混合物の窒化物又は酸素を含有した窒化物からなる第2層と、さらにその上にAlCrSiの酸素を含有した窒化物からなる第3層と、から構成される硬質層が被覆されていることを特徴とする耐摩耗性硬質皮膜。
  2. 上記耐摩耗性硬質皮膜の第2層である酸素含有窒化物層において、成膜時のチャンバー内酸素量が0.1〜5.0容量%の条件で成膜したことを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性硬質皮膜。
  3. 上記耐摩耗性硬質皮膜の第3層である酸素含有窒化物層において、成膜時のチャンバー内酸素量が0.1〜5.0容量%の条件で成膜したことを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性硬質皮膜。
  4. 上記耐摩耗性硬質皮膜の第3層である酸素含有窒化物層において、
    NおよびOを除く成分が、Siが1原子%以上30原子%以下、 残りのAlおよびCrが Al/Cr原子%比で0.3以上3以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性硬質皮膜。
  5. 上記耐摩耗性硬質皮膜の第2層である酸素含有窒化物層において、皮膜厚さが0.1〜2μmであることを特徴とする耐摩耗性硬質皮膜。
  6. 請求項1〜5の上記皮膜を物理蒸着法により形成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐摩耗性硬質皮膜。
  7. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐摩耗性硬質皮膜を表面に設けたことを特徴とする耐摩耗性硬質被覆工具。
  8. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐摩耗性硬質皮膜を表面に設けた工具を取り付けたことを特徴とする工作機械。
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