JP2005075648A - Ito焼結体の製造方法 - Google Patents
Ito焼結体の製造方法Info
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Abstract
【課題】使用済みのスパッタリングターゲットから回収された高密度ITO焼結体や製造工程で不良品となった高密度ITO焼結体等を原料として、不純物の混入が無く、安価な方法で、再び、高純度・高密度のITO焼結体を作製することが可能なITO焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】原料であるITO焼結体を、内側の表面が樹脂製の粉砕容器に入れ、表面が樹脂製のボールを用いて湿式ボールミル粉砕することにより、不揮発性不純物の混入のない、90%体積粒径が3.0μm以下のスラリーを容易に作製することを可能とし、該スラリーを乾燥して粉末を得た後、該粉末を所定の形状に成形し、焼結することにより、高純度・高密度のITO焼結体を製造する。
【選択図】 なし
【解決手段】原料であるITO焼結体を、内側の表面が樹脂製の粉砕容器に入れ、表面が樹脂製のボールを用いて湿式ボールミル粉砕することにより、不揮発性不純物の混入のない、90%体積粒径が3.0μm以下のスラリーを容易に作製することを可能とし、該スラリーを乾燥して粉末を得た後、該粉末を所定の形状に成形し、焼結することにより、高純度・高密度のITO焼結体を製造する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明導電膜製造の際に使用されるITOスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ITO(Indium Tin Oxide)の薄膜は高導電性、高透過率であり、微細加工が容易に行えることから、フラットパネルディスプレイ用表示電極、太陽電池用窓材、帯電防止膜等に用いられている。このようなITO薄膜はスプレー熱分解法、CVD法等の化学的成膜法と、蒸着法、スパッタリング法等の物理的成膜法で製造されているが、これまで大面積化が容易でかつ高性能の膜が得られるスパッタリング法が主に用いられている。スパッタリング法によるITO薄膜の製造に用いるスパッタリングターゲットには、金属インジウムおよび金属スズからなる合金ターゲット(ITターゲット)、或いは酸化インジウムと酸化スズからなる複合酸化物ターゲット(ITOターゲット)がある。しかしITターゲットに比べ、ITOターゲットでは得られる膜の抵抗値および透過率の経時変化が少なく、成膜条件の制御が容易であるため、スパッタリング法によるITO薄膜の成膜ではITOターゲットを用いる方法が主流となっている。
【0003】
しかし、ITOターゲットをアルゴンガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気中で連続してスパッタリングした場合、積算スパッタリング時間の増加と共にターゲット表面にはノジュールと呼ばれる黒色の付着物が析出する。インジウムの低級酸化物と考えられているこの黒色の付着物は、ターゲットのエロージョン部の周囲に析出するため、スパッタリング時の異常放電の原因となりやすく、またそれ自身が異物(パーティクル)の発生源となることが知られており、パーティクルによる歩留まり低下が、特に近年、低価格が進んだLCDなどでは大きな問題となっている。このノジュール低減のためには、ITOターゲットの高密度化が有効であり、高密度ITOターゲットとして、焼結体密度:99.5%(7.120g/cm3)以上のものが通常使用されている。
【0004】
また、この様に広く用いられているITOターゲットは、高価な希少金属であるインジウムとスズの酸化物粉末を焼結して製造されるが、高価な原料及び複雑な焼結体製造プロセスのため、ターゲットの価格は高価であり、ターゲット製造コストの低減が強く求められている。このような高価な希少金属を用いるITOターゲットにおいては、次のようなリサイクル工程が確立されている。例えば、焼結時にクラックが入ったもの、或いはスパッタリング使用後の焼結体は、酸への再溶解の後、精製し、さらに酸化物とすることによって再生リサイクルされている(例えば特許文献1,2,3参照)。しかしこのような方法では、リサイクルに手間がかかるため、コストの低いリサイクル方法では無かった。
【0005】
一方、ITO焼結体を粉砕した粉末からITO焼結体を作製するリサイクル方法が提案されている(例えば特許文献4,5参照)。
【0006】
特許文献4には、ITO焼結体を1.0mm以下に粗粉砕した粒を、粉砕メディアとしてジルコニアボールを用いたボールミル粉砕により、0.5mm以下の粉砕粉末として回収し、焼結する方法が開示されている。しかし、この方法では、ITO焼結体を乳鉢、ロールクラッシャーまたはジョークラッシャー等により予め粗粉砕する必要があり、複数の粉砕工程が存在するコスト高なプロセスである。また、これら粗粉砕工程およびその後のジルコニアボールによるボールミル粉砕工程における不純物混入は避けられず、高純度のスパッタリングターゲットとして使用することが困難であるという問題を有し、また得られる焼結体密度も低いものである。
【0007】
特許文献5では、ITO焼結体を自生粉砕という粉砕方法によって平均粒径が3μm以下、実質的には平均粒径が1.2〜2.3μmの粉砕粉末として回収し、焼結する方法が提案されている。自生粉砕とは原料自体、即ちこの場合はITOの焼結体自体を粉砕媒体として用いる粉砕方法で、具体的には粉砕メディア(ボール)無しのボールミルにITO焼結体と水をいれ回転粉砕する方法である。この方法では不純物混入の問題は回避できるが、自生粉砕技術で得られる粉砕粉末は十分な焼結性を有する粉末では無いため、得られるITO焼結体の焼結密度もホットプレスという特殊な焼結方法を用いても理論密度の97〜98%、通常の酸素中焼結では78〜90%程度であり、ITOスパタリングターゲットのリサイクル技術としてはまだ十分ではなかった。
【0008】
また、このようなリサイクル粉を熱処理によって比表面積が2.5〜7.0m2/gに調整した粉末を用い、鋳込み法によって成形することにより焼結体密度99.8%(7.10g/cm3)の高密度な焼結体を得ることも提案されている(例えば特許文献6参照)。しかし、この焼結体密度99.8%(7.10g/cm3)も、特許文献4の真密度7.156g/cm3を用いれば、焼結体の相対密度は99.2%で、近年求められている高密度ITOターゲットとしては不十分であり、さらにリサイクル粉の熱処理工程が必要であり、コスト増の要因でもあった。
【0009】
さらに、これら自生粉砕技術で原料として使用されるITO焼結体の密度は70〜85%の低密度な焼結体、あるいは、ホットプレスと大気焼成により作製された焼結体を混合したものであり、原料として用いられるITO焼結体が限定され、近年市場に多く流通している高密度ITOターゲット(99.5%;7.120g/cm3)でも原料として使用できる新しい粉砕プロセスの開発が必要とされていた。
【0010】
【特許文献1】
特開平03−075223号公報(第1〜2頁)
【特許文献2】
特開平03−075224号公報(第2頁)
【特許文献3】
特開平03−082720号公報(第1〜2頁)
【特許文献4】
特開平11−100253号公報(第2〜3頁)
【特許文献5】
特開平07−316798号公報(第2〜4頁)
【特許文献6】
特開平11−228219号公報(第2頁、表1)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、不純物混入が無く、安価な方法で使用済みのスパッタリングターゲットや製造工程で不良品とされたものなどの高密度ITO焼結体から、再びITOスパッタリングターゲットを製造するための高密度ITO焼結体の製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、使用済みのスパッタリングターゲットから回収された高密度ITO焼結体や製造工程で不良品となった高密度ITO焼結体等を原料(原料ITO焼結体)とし、これを粉砕して得られる粉末から、再度、高純度・高密度のITO焼結体(再生ITO焼結体)を作製し、それを用いてITOスパッタリングターゲットを製造する方法について鋭意検討を行った結果、原料ITO焼結体を湿式ボールミル粉砕して得られたスラリー(粉砕スラリー)の粒径と、該粉砕スラリーを乾燥して得られる粉末(粉砕粉末)を、成形、焼結して得られる再生ITO焼結体の密度との間に密接な相関があること、特に、90%体積粒径が3.0μm以下になるように粉砕した粉砕スラリーから得られる粉砕粉末を用いることにより、高密度の再生ITO焼結体が製造可能であることを見出した。また、この様な90%体積粒径が3.0μm以下の粉砕スラリーは、例えば、略円筒状の粉砕容器内に原料ITO焼結体、水、及び粉砕メディアを混在させ、該粉砕容器を円筒の中心軸を軸として回転させることにより粉砕を行い、粉砕された粉末を粉砕スラリーとして分取する湿式ボールミル粉砕によって得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ITO焼結体(原料ITO焼結体)を湿式ボールミル粉砕することによりスラリー(粉砕スラリー)を作製し、該スラリー(粉砕スラリー)から得られるITO粉末(粉砕粉末)を用いて所定の形状の成形体を作製し、該成形体を焼結することを特徴とするITO焼結体の製造方法である。なお、前記スラリー(粉砕スラリー)の90%体積粒径は3.0μm以下であることが好ましい。また、本発明のITO焼結体の製造方法において、原料ITO焼結体を湿式ボールミル粉砕する際に使用する粉砕メディアとしては、表面が樹脂製である粉砕メディアを使用することが好ましい。
【0014】
本発明のITO焼結体の製造方法で使用する原料ITO焼結体は、実質的にインジウム、錫及び酸素からなる焼結体であり、不可避不純物を含む焼結体であっても良い。また、本発明で使用する原料ITO焼結体は、形成される薄膜の抵抗率を調整するためや、エッチング特性等を変更するために添加されたマグネシウム(Mg)やゲルマニウム(Ge)等の元素を含むITO焼結体であっても良い。ただし、このようなITO焼結体を原料とする場合には、同一組成の焼結体同士を原料とし、異なる組成の焼結体が混在しないように、原料及びプロセスを十分に管理する必要がある。そうすることにより、このようなITO焼結体を原料として得られた粉末から再び同様のITO焼結体を製造することができる。
【0015】
なお、本発明で言う湿式ボールミル粉砕とは、粉砕容器内に、粉砕される焼結体(被粉砕焼結体)、水、及び粉砕メディアを混在させた状態で回転粉砕を行うものであるが、通常のボールミル粉砕とは異なり、一度の粉砕で、投入した被粉砕焼結体の全量に相当する粉砕粉末を得るのでは無く、投入した被粉砕焼結体の一部、例えば投入した被粉砕焼結体に対して重量で5〜20%に相当する粉砕粉末を水と共に抜き取り、粉末とならなかった焼結体は粉砕容器内に残して次の粉砕の被粉砕焼結体の一部とする粉砕方法である。2回目以降の粉砕においては、抜き取った粉砕粉末の量に相当する焼結体及び水を粉砕容器内に追加投入し、回転粉砕をはじめる時点において、粉砕容器内の被粉砕焼結体、水、及び粉砕メディアの量が常に一定の状態となるようにして粉砕を行うものである。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明で原料として用いるITO焼結体は、形状や組成、焼結体密度等は特に限定されるものではなく、例えば焼成などの製造工程において割れ、クラックなどの発生により商品価値が無くなったものや、使用済みのITOスパッタリングターゲットのターゲット材をバッキングプレートから剥離して得られたITO焼結体から付着物およびボンディング材を除去したもの等をあげることができる。したがって、現在、ITOスパッタリングターゲットの主流製品に用いられている焼結体密度99.5%以上(7.120g/cm3以上)の高密度ITO焼結体も本発明の原料として使用することが可能である。
【0018】
本発明では、上述のITO焼結体、水及び粉砕メディアを粉砕容器内に入れ湿式ボールミル粉砕を行う。特に、ITO焼結体の粉砕をこの湿式ボールミル粉砕により行うことで、効果的に粗粒の発生を押さえることが出来、焼結性の良い粉末を得ることが出来る。これは、粉砕容器内に粉砕メディアが存在することで、ITO焼結体同士が直接衝突し、割れや欠けが生じることで発生する粗い焼結体粉の生成を抑制し、かつ粉砕メディアによって焼結体が不規則な配置となることで、焼結体同士が擦れ合うことによる微粉の生成効率が向上するためであると考えられる。また、使用する粉砕メディアは、その表面が比重1未満の樹脂製であることが好ましく、例えば、ナイロンやウレタン等の樹脂ライニングを施した金属又はセラミックスのボールなどが使用可能である。表面が樹脂製の粉砕メディアを使用することで、焼結体と粉砕メディアが衝突し、割れや欠けが生じることで発生する粗い焼結体粉の生成を抑制することが可能となる。
【0019】
具体的には、例えば、厚さ10mm前後の板状のITO焼結体を原料ITO焼結体として使用することが可能であり、必要に応じて、適当な大きさに切断又は破断した後、水及び粉砕メディアとともに粉砕容器内に投入して粉砕を行う。この際、投入する原料ITO焼結体の重量で8割以上の焼結体片が、その最大長が粉砕メディアの直径の2倍以上であるような大きさのものとなるようにすることが好ましい。なお、大きな原料ITO焼結体を切断又は破断せずに粉砕容器内に投入して粉砕処理を行った場合でも、粉砕の初期に、大きな原料ITO焼結体は破断されて焼結体片となり、短時間で上記の状態が達成されるので、投入時に適当な大きさに切断又は破断するかどうかは、取扱いの容易さ等を考慮して適宜定めれば良い。
【0020】
粉砕容器内に投入する原料ITO焼結体が占める体積(かさ)は、粉砕容器内の容積に対して40%以下とすることが好ましく、より好ましくは30%以下である。ITO焼結体は密度が高く重いために、粉砕容器に多くの焼結体を入れ回転した場合、重心の移動による慣性力が大きくなり回転粉砕することが困難となる。また、投入するITO焼結体が少ない場合は、最終的に得られる粉砕粉末が少なくなり、製造効率が悪くなるため、原料ITO焼結体が占める体積(かさ)の下限としては10%以上であることが望ましい。さらに、投入する粉砕メディアが占める体積(かさ)は、原料ITO焼結体の体積(かさ)以下であることが好ましく、より好ましくは原料ITO焼結体の体積(かさ)の1/2以下である。粉砕メディアが多い場合、得られる粉砕粉末が少なくなり、製造効率が悪くなる。また、粉砕メディアが少ない場合は粗粒が発生するために、粉砕メディアが占める体積(かさ)の下限としては、原料ITO焼結体の体積(かさ)の1/5以上であることが望ましい。原料ITO焼結体と粉砕メディアの占める体積(かさ)は、粉砕容器内の容積に対して50%以下となることが好ましい。また、粉砕容器は、その内側の表面が比重1未満の樹脂製であることが好ましく、例えば、ナイロンやウレタン等の樹脂製の容器、あるいはナイロンやウレタン等の樹脂ライニングを施した金属製の容器などが使用可能である。内側の表面が樹脂製である粉砕容器を用いることにより、表面が樹脂製である粉砕メディアを用いることと合わせると、粉砕により発生する不純物は樹脂のみとなり、混入した樹脂は水に浮くために粉砕スラリーから容易に除去することが出来る。仮に、微量の樹脂が残ったとしても脱脂・焼結時に揮発し焼結体中に残留することが無いために、高純度のITO焼結体を容易に得ることが可能となる。
【0021】
次に、ITO焼結体、粉砕メディア、及び水が入った粉砕容器を回転させ粉砕を行なうが、焼結性の良い原料粉末を得るために、この時の粉砕時間としては12hr以上であることが好ましく、さらに好ましくは24hr以上である。
【0022】
本発明においては、このようにして得られる粉砕スラリーの90%体積粒径は3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下である。また、良好な焼結性を得るために、50%体積粒径としては1.0μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.90μm以下である。90%体積粒径が3.0μmより大きいものでは、成形、焼結した時のITO焼結体の密度が上がらない。なお、粉砕スラリーの粒径は、スラリーを水等の媒体に分散処理したサンプルを、遠心沈降型、或いは循環タイプのレーザー光反射型の粒度分布測定装置で測定することができる。
【0023】
次に、得られた粉砕スラリーを乾燥し、粉砕粉末を得る。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥時の凝集を押さえるために出来るだけ低温で行なう方が望ましい。例えば、予め粉砕スラリーを遠心分離やフィルタープレス等の方法で脱水処理を行なった後、80〜200℃程度に加熱乾燥する方法が挙げられる。また、乾燥後の粉末は凝集しているために、ボールミル等の粉砕機で解砕処理を行うことが望ましい。
【0024】
本発明においては、粉砕粉末の成形法は特に限定されないが、プレス成形する方法、或いはスラリーを鋳込みによって成形する方法等が適用できる。例えば、プレス法により成形体を製造する場合には、所定の金型に粉末を充填した後、粉末プレス機を用いて100〜300kg/cm2の圧力でプレスを行なう。粉砕粉末の成形性が悪い場合には、必要に応じて、パラフィンやポリビニルアルコール等の有機系化合物を主成分とするバインダーを粉末中に添加してもよい。
【0025】
鋳込み法により成形体を製造する場合には、上記により得られた粉砕粉末にバインダー、分散剤、水を添加し、ボールミル等により混合することにより鋳込み成形用スラリーを作製する。混合時間は、十分な混合効果を得るためには、3時間以上が好ましく、より好ましくは5時間以上である。
【0026】
鋳込み成形用スラリーの粘度は、上述した分散剤、バインダー、水の配合量によって決定されるが、強度の高い成形体、かつ鋳型への良好な着肉特性を得るために、好ましくは100〜5000センチポイズであり、さらに好ましくは500〜2500センチポイズである。
【0027】
続いて、上述のようにして得られた鋳込み成形用スラリーを用いて鋳込み成形を行なうが、鋳型に注入する前に、スラリーの脱泡を行なうことが好ましい。脱泡は、例えば、ポリアルキレングリコール系の消泡剤をスラリーに添加して真空中で脱泡処理を行なえばよい。
【0028】
鋳込み成形に使用する鋳型としては、多孔質樹脂型や石膏型など特に制限なく使用することができ、成形圧力としては、3〜25kg/cm2が生産性の点で好ましい。
【0029】
続いて、プレス法によって製造したプレス成形体、または鋳込み法によって製造した乾燥処理後の成形体に対して、必要に応じて冷間等方圧プレス(CIP)により圧密化処理を行なうこともできる。この際CIPの圧力は十分な圧密効果を得るために1ton/cm2以上であることが好ましく、2ton/cm2以上であることがさらに好ましい。
【0030】
次に、成形体中に残存する水分およびバインダー等の有機物を除去するために、300〜500℃の温度で脱ワックス処理を行なう。脱ワックス処理の際の昇温速度は、分散剤およびバインダーがガス化する過程でのクラックを防止するために、5℃/時間以下とすることが好ましく、3℃/時間以下とすることがさらに好ましい。成形体をプレス法によって製造した場合、特にバインダー等の有機物を添加していない場合には、脱ワックス処理を省略してもよい。
【0031】
このようにして得られた成形体を焼成炉により焼結を行なう。焼結方法はいかなる方法でも良いが、生産設備のコスト等を考慮すると大気中焼結或いは酸素雰囲気中焼結が望ましく、特にITO焼結体の高密度化のためには酸素雰囲気中焼結とすることが望ましい。しかしこの他HP法、HIP法、酸素雰囲気加圧焼結法等の他の焼結法を用いることができることは言うまでもない。また焼結条件も特に限定されないが、高密度とするためには焼結温度は1500〜1650℃であることが望ましい。また焼結時の雰囲気としては大気或いは純酸素雰囲気であることが好ましい。また焼結時間は5時間以上、好ましくは5〜30時間であることが望ましい。
【0032】
このようにして得られた焼結体の密度は、理論密度の99.5%以上が容易に達成される。
【0033】
尚、本発明におけるITO焼結体の真密度は、酸化インジウム及び酸化スズの混合比(In2O3:SnO2=90:10)によって計算される加重平均値7.156g/cm3を用いた。
【0034】
上記により得られたITO焼結体を、所定の形状に整形した後、必要に応じて表面研磨を施し、さらに、必要に応じて、インジウム半田等で例えば無酸素銅からなるバッキングプレートに接合することによりITOスパッタリングターゲットを製造することができる。
【0035】
【実施例】
本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
実施例1
焼結体密度99.5%(7.120g/cm3)以上の使用済みのITOスパッタリングターゲットを180℃に加熱してターゲット材であるITO焼結体をバッキングプレートから剥離した。剥離した焼結体からブラスト処理により表面上の付着物を除去した後、平面研削により裏面のボンディング材を除去した。得られた厚さ約6mmの板状のITO焼結体を最大長が5cm程度の焼結体片に破砕して原料ITO焼結体とした。該原料ITO焼結体5kgに、純水を1kg、鉄心入りのナイロンボール(15mmφ)を1.5kg添加し、硬質ナイロン製の容積10Lの略円筒形の粉砕容器(ポット)に入れ24時間ボールミル粉砕処理を行った後、得られた粉砕スラリーをポットより抜き取った。なお、粉砕開始時での原料ITO焼結体の体積(かさ)は粉砕容器の体積に対して約24%、粉砕メディアの体積は9%、ポットから抜き取られた粉砕スラリーの重量は1.3kg(水:1kg、粉砕粉末:0.3kg)であった。次に、原料ITO焼結体0.3kg、純水1kgを前記ポットに追加投入し、同一条件でボールミル粉砕を行い、1回目と同様に、得られた粉砕スラリーを抜き取った。以下、同様にして、原料ITO焼結体と純水の追加投入、ボールミル粉砕、粉砕スラリーの抜き取りを繰り返した。
【0037】
得られた粉砕スラリーの粒度分布の測定は、分散剤としてヘキサメタりん酸ナトリウムを0.25wt%添加した純水で適量希釈し、ホモジナイザーにより3分間超音波を照射分散処理した後、レーザー光反射型粒度分布測定機(ベックマン・コールター社製、型式LS130)により測定を行った。
【0038】
上記の粉砕により得られた粉砕スラリーの粒度分布は、各バッチ間で実質的に同一であり、その90%体積粒径(D90)は1.55μm、50%体積粒径(D50)は0.85μmであった。このときの粒度分布を図1に示す(図中◆印で示すプロファイル)。
【0039】
湿式ボールミル粉砕により得られた粉砕スラリーは、数時間静置後、表面に浮いている不純物を除去した後、遠心分離により脱水処理を行った後、オーブンに入れ100℃で20時間乾燥を行った。得られた乾燥粉末を乾式ボールミル粉砕により解砕処理を行った。
【0040】
この解砕処理を行った粉末にポリカルボン酸系分散剤を1.1%(粉末重量に対して)、ポリアクリル酸系バインダー1.0%(粉末重量に対して)、イオン交換水20.9%(粉末重量に対して)を加えて16時間ボールミル混合を実施し、鋳込み用スラリーを作製した。
【0041】
続いて、上記スラリーにポリアルキレングリコール系消泡剤を添加し、真空中で脱泡処理を実施した。これを180mm×260mm×11mmtの鋳込み成形用鋳型に注入し20kg/cm2の成形圧力により加圧鋳込み成形を行ない、乾燥処理を施し成形体を作製した。
【0042】
次に、得られた成形体に3ton/cm2の圧力でCIP処理を施した後、下記条件にて脱脂を行なった後、下記条件にて1550℃と1600℃の2種類の焼成を行ないITO焼結体を得た。得られた焼結体は、JIS−R1634−1998に準拠して、アルキメデス法にて密度測定を行なった。焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
(脱ワックス条件)
脱ワックス温度:450℃
昇温速度:3℃/hr
保持時間:3hr
降温速度:10℃/hr
(焼成条件)
昇温速度:50℃/hr
焼成温度:1550℃、1600℃
焼成時間:5hr
降温速度:100℃/hr
上記により得られた1600℃焼成のITO焼結体を加工研削後、バッキングプレートにボンディングして、4“×7”サイズのITOスパッタリングターゲットを作製した。作製されたITOスパッタリングターゲットをライフエンドまで放電し、ノジュールの発生状況の確認を行った結果、ノジュールの発生は認められず、優れたITOスパッタリングターゲットが得られた。
【0043】
【表1】
実施例2
ITO焼結体を粉砕するときの湿式ボールミル粉砕時の処理時間を48hrとした以外は、実施例1と同様の方法でITO焼結体を作製した。このとき、各バッチで抜き取られた粉砕スラリーは約1.4kgであった。
【0044】
このとき得られた粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)は1.43μm、50%体積粒径(D50)は0.82μmであった。このときの粒度分布を図1に示す(図中黒四角印で示すプロファイル)。また、このときの焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
【0045】
実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様にノジュールの発生状況の確認を行った結果、ノジュールの発生は認められず、優れたITOスパッタリングターゲットが得られた。
【0046】
実施例3
ITO焼結体を粉砕するときの湿式ボールミル粉砕時のナイロンボールを800gとした以外は、実施例1と同様の方法でITO焼結体を作製した。このときの粉砕メディアの体積は粉砕容器の容積に対して約5%であった。このとき、各バッチで抜き取られた粉砕スラリーは約1.5kgであった。
【0047】
このとき得られた粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)は1.98μm、50%体積粒径(D50)は0.99μmであった。このときの粒度分布を図1に示す(図中黒三角印で示すプロファイル)。また、このときの焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
【0048】
実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様にノジュールの発生状況の確認を行った結果、ノジュールの発生はほとんど認められず、優れたITOスパッタリングターゲットが得られた。
【0049】
比較例1
ITO焼結体を粉砕するときの湿式ボールミル粉砕時に粉砕メディアを入れなかった以外は、実施例1と同様の方法でITO焼結体を作製した。このとき、各バッチで抜き取られた粉砕スラリーは約1.6kgであった。
【0050】
このとき得られた粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)は4.62μm、50%体積粒径(D50)は1.31μmであった。このときの粒度分布を図1に示す(図中◇印で示すプロファイル)。また、このときの焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
【0051】
実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様にノジュールの発生状況の確認を行った結果、多くのノジュールが認められた。
【0052】
比較例2
ITO焼結体を粉砕するときの湿式ボールミル粉砕時の処理時間を48hrとした以外は、比較例1と同様の方法でITO焼結体を作製した。このとき、各バッチで抜き取られた粉砕スラリーは約1.6kgであった。
【0053】
このとき得られた粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)は4.42μm、50%体積粒径(D50)は1.20μmあった。このときの粒度分布を図1に示す(図中□印で示すプロファイル)。また、このときの焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
【0054】
実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様にノジュールの発生状況の確認を行った結果、多くのノジュールが認められた。
【0055】
表1より、粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)が3.0μm以下である実施例1〜3では、焼結温度が1550℃及び1600℃のいずれの場合にも、焼結体密度99.5%以上の高密度のITO焼結体が得られているのに対し、粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)が3.0μmを超える比較例1、2ではいずれも99.5%の焼結体密度を達成することができず、特に1550℃の比較的低温の焼結では、98%の焼結体密度さえ達成することができないことが分かる。
【0056】
なお、粉砕メディアを用いない比較例1、2では、平均粒径が約1μmの分布と平均粒径が約4μmの分布を有する2つの成分が併存していることが認められ、その結果、粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)が大きくなっていることが分かる。平均粒径が約4μmの分布を有する成分は、粉砕時間を延長してもあまり低減されず、その平均粒径もほとんど変化しないことから、粉砕時間を延長しても、90%体積粒径(D90)を効果的に低減することができないことが認められる。
【0057】
【発明の効果】
使用済みのスパッタリングターゲットから回収された高密度ITO焼結体や製造中に不良品となった高密度ITO焼結体等を原料として、これを粉砕して得られる粉末から、再度、高密度のITO焼結体を作製するに際して、原料のITO焼結体を湿式ボールミル粉砕することにより、粗粒成分の発生を効果的に抑制することができ、90%体積粒径が3.0μm以下のスラリーを容易に作製することが可能となり、この90%体積粒径が3.0μm以下のスラリーを乾燥して得られた粉砕粉末を成形して焼結することにより高密度のITO焼結体を得ることができる。なお、原料のITO焼結体の湿式ボールミル粉砕において、表面が樹脂製のボールを用いることにより、粗粒成分の発生をさらに効果的に抑制することができ、さらに焼結性に優れた粉砕粉末を得ることができる。また、原料のITO焼結体の湿式ボールミル粉砕において、表面が樹脂製のボールを用いるとともに、内側の表面が樹脂製の粉砕容器を用いることにより、粉砕により発生する不純物は樹脂のみとなり、混入した樹脂は水に浮くために粉砕スラリーから容易に除去することが出来る。仮に、微量の樹脂が残ったとしても脱脂・焼結時に揮発し焼結体中に残留することが無いために、高純度のITO焼結体を安価に作製することができる。
【0058】
さらに、こうして得られた高純度でかつ高密度なITO焼結体をターゲット材としてスパッタリングターゲットを製造することにより、ノジュールの発生の少ない優れたスパッタリングターゲットを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例及び比較例における粉砕スラリーの粒度分布を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明導電膜製造の際に使用されるITOスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ITO(Indium Tin Oxide)の薄膜は高導電性、高透過率であり、微細加工が容易に行えることから、フラットパネルディスプレイ用表示電極、太陽電池用窓材、帯電防止膜等に用いられている。このようなITO薄膜はスプレー熱分解法、CVD法等の化学的成膜法と、蒸着法、スパッタリング法等の物理的成膜法で製造されているが、これまで大面積化が容易でかつ高性能の膜が得られるスパッタリング法が主に用いられている。スパッタリング法によるITO薄膜の製造に用いるスパッタリングターゲットには、金属インジウムおよび金属スズからなる合金ターゲット(ITターゲット)、或いは酸化インジウムと酸化スズからなる複合酸化物ターゲット(ITOターゲット)がある。しかしITターゲットに比べ、ITOターゲットでは得られる膜の抵抗値および透過率の経時変化が少なく、成膜条件の制御が容易であるため、スパッタリング法によるITO薄膜の成膜ではITOターゲットを用いる方法が主流となっている。
【0003】
しかし、ITOターゲットをアルゴンガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気中で連続してスパッタリングした場合、積算スパッタリング時間の増加と共にターゲット表面にはノジュールと呼ばれる黒色の付着物が析出する。インジウムの低級酸化物と考えられているこの黒色の付着物は、ターゲットのエロージョン部の周囲に析出するため、スパッタリング時の異常放電の原因となりやすく、またそれ自身が異物(パーティクル)の発生源となることが知られており、パーティクルによる歩留まり低下が、特に近年、低価格が進んだLCDなどでは大きな問題となっている。このノジュール低減のためには、ITOターゲットの高密度化が有効であり、高密度ITOターゲットとして、焼結体密度:99.5%(7.120g/cm3)以上のものが通常使用されている。
【0004】
また、この様に広く用いられているITOターゲットは、高価な希少金属であるインジウムとスズの酸化物粉末を焼結して製造されるが、高価な原料及び複雑な焼結体製造プロセスのため、ターゲットの価格は高価であり、ターゲット製造コストの低減が強く求められている。このような高価な希少金属を用いるITOターゲットにおいては、次のようなリサイクル工程が確立されている。例えば、焼結時にクラックが入ったもの、或いはスパッタリング使用後の焼結体は、酸への再溶解の後、精製し、さらに酸化物とすることによって再生リサイクルされている(例えば特許文献1,2,3参照)。しかしこのような方法では、リサイクルに手間がかかるため、コストの低いリサイクル方法では無かった。
【0005】
一方、ITO焼結体を粉砕した粉末からITO焼結体を作製するリサイクル方法が提案されている(例えば特許文献4,5参照)。
【0006】
特許文献4には、ITO焼結体を1.0mm以下に粗粉砕した粒を、粉砕メディアとしてジルコニアボールを用いたボールミル粉砕により、0.5mm以下の粉砕粉末として回収し、焼結する方法が開示されている。しかし、この方法では、ITO焼結体を乳鉢、ロールクラッシャーまたはジョークラッシャー等により予め粗粉砕する必要があり、複数の粉砕工程が存在するコスト高なプロセスである。また、これら粗粉砕工程およびその後のジルコニアボールによるボールミル粉砕工程における不純物混入は避けられず、高純度のスパッタリングターゲットとして使用することが困難であるという問題を有し、また得られる焼結体密度も低いものである。
【0007】
特許文献5では、ITO焼結体を自生粉砕という粉砕方法によって平均粒径が3μm以下、実質的には平均粒径が1.2〜2.3μmの粉砕粉末として回収し、焼結する方法が提案されている。自生粉砕とは原料自体、即ちこの場合はITOの焼結体自体を粉砕媒体として用いる粉砕方法で、具体的には粉砕メディア(ボール)無しのボールミルにITO焼結体と水をいれ回転粉砕する方法である。この方法では不純物混入の問題は回避できるが、自生粉砕技術で得られる粉砕粉末は十分な焼結性を有する粉末では無いため、得られるITO焼結体の焼結密度もホットプレスという特殊な焼結方法を用いても理論密度の97〜98%、通常の酸素中焼結では78〜90%程度であり、ITOスパタリングターゲットのリサイクル技術としてはまだ十分ではなかった。
【0008】
また、このようなリサイクル粉を熱処理によって比表面積が2.5〜7.0m2/gに調整した粉末を用い、鋳込み法によって成形することにより焼結体密度99.8%(7.10g/cm3)の高密度な焼結体を得ることも提案されている(例えば特許文献6参照)。しかし、この焼結体密度99.8%(7.10g/cm3)も、特許文献4の真密度7.156g/cm3を用いれば、焼結体の相対密度は99.2%で、近年求められている高密度ITOターゲットとしては不十分であり、さらにリサイクル粉の熱処理工程が必要であり、コスト増の要因でもあった。
【0009】
さらに、これら自生粉砕技術で原料として使用されるITO焼結体の密度は70〜85%の低密度な焼結体、あるいは、ホットプレスと大気焼成により作製された焼結体を混合したものであり、原料として用いられるITO焼結体が限定され、近年市場に多く流通している高密度ITOターゲット(99.5%;7.120g/cm3)でも原料として使用できる新しい粉砕プロセスの開発が必要とされていた。
【0010】
【特許文献1】
特開平03−075223号公報(第1〜2頁)
【特許文献2】
特開平03−075224号公報(第2頁)
【特許文献3】
特開平03−082720号公報(第1〜2頁)
【特許文献4】
特開平11−100253号公報(第2〜3頁)
【特許文献5】
特開平07−316798号公報(第2〜4頁)
【特許文献6】
特開平11−228219号公報(第2頁、表1)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、不純物混入が無く、安価な方法で使用済みのスパッタリングターゲットや製造工程で不良品とされたものなどの高密度ITO焼結体から、再びITOスパッタリングターゲットを製造するための高密度ITO焼結体の製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、使用済みのスパッタリングターゲットから回収された高密度ITO焼結体や製造工程で不良品となった高密度ITO焼結体等を原料(原料ITO焼結体)とし、これを粉砕して得られる粉末から、再度、高純度・高密度のITO焼結体(再生ITO焼結体)を作製し、それを用いてITOスパッタリングターゲットを製造する方法について鋭意検討を行った結果、原料ITO焼結体を湿式ボールミル粉砕して得られたスラリー(粉砕スラリー)の粒径と、該粉砕スラリーを乾燥して得られる粉末(粉砕粉末)を、成形、焼結して得られる再生ITO焼結体の密度との間に密接な相関があること、特に、90%体積粒径が3.0μm以下になるように粉砕した粉砕スラリーから得られる粉砕粉末を用いることにより、高密度の再生ITO焼結体が製造可能であることを見出した。また、この様な90%体積粒径が3.0μm以下の粉砕スラリーは、例えば、略円筒状の粉砕容器内に原料ITO焼結体、水、及び粉砕メディアを混在させ、該粉砕容器を円筒の中心軸を軸として回転させることにより粉砕を行い、粉砕された粉末を粉砕スラリーとして分取する湿式ボールミル粉砕によって得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ITO焼結体(原料ITO焼結体)を湿式ボールミル粉砕することによりスラリー(粉砕スラリー)を作製し、該スラリー(粉砕スラリー)から得られるITO粉末(粉砕粉末)を用いて所定の形状の成形体を作製し、該成形体を焼結することを特徴とするITO焼結体の製造方法である。なお、前記スラリー(粉砕スラリー)の90%体積粒径は3.0μm以下であることが好ましい。また、本発明のITO焼結体の製造方法において、原料ITO焼結体を湿式ボールミル粉砕する際に使用する粉砕メディアとしては、表面が樹脂製である粉砕メディアを使用することが好ましい。
【0014】
本発明のITO焼結体の製造方法で使用する原料ITO焼結体は、実質的にインジウム、錫及び酸素からなる焼結体であり、不可避不純物を含む焼結体であっても良い。また、本発明で使用する原料ITO焼結体は、形成される薄膜の抵抗率を調整するためや、エッチング特性等を変更するために添加されたマグネシウム(Mg)やゲルマニウム(Ge)等の元素を含むITO焼結体であっても良い。ただし、このようなITO焼結体を原料とする場合には、同一組成の焼結体同士を原料とし、異なる組成の焼結体が混在しないように、原料及びプロセスを十分に管理する必要がある。そうすることにより、このようなITO焼結体を原料として得られた粉末から再び同様のITO焼結体を製造することができる。
【0015】
なお、本発明で言う湿式ボールミル粉砕とは、粉砕容器内に、粉砕される焼結体(被粉砕焼結体)、水、及び粉砕メディアを混在させた状態で回転粉砕を行うものであるが、通常のボールミル粉砕とは異なり、一度の粉砕で、投入した被粉砕焼結体の全量に相当する粉砕粉末を得るのでは無く、投入した被粉砕焼結体の一部、例えば投入した被粉砕焼結体に対して重量で5〜20%に相当する粉砕粉末を水と共に抜き取り、粉末とならなかった焼結体は粉砕容器内に残して次の粉砕の被粉砕焼結体の一部とする粉砕方法である。2回目以降の粉砕においては、抜き取った粉砕粉末の量に相当する焼結体及び水を粉砕容器内に追加投入し、回転粉砕をはじめる時点において、粉砕容器内の被粉砕焼結体、水、及び粉砕メディアの量が常に一定の状態となるようにして粉砕を行うものである。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明で原料として用いるITO焼結体は、形状や組成、焼結体密度等は特に限定されるものではなく、例えば焼成などの製造工程において割れ、クラックなどの発生により商品価値が無くなったものや、使用済みのITOスパッタリングターゲットのターゲット材をバッキングプレートから剥離して得られたITO焼結体から付着物およびボンディング材を除去したもの等をあげることができる。したがって、現在、ITOスパッタリングターゲットの主流製品に用いられている焼結体密度99.5%以上(7.120g/cm3以上)の高密度ITO焼結体も本発明の原料として使用することが可能である。
【0018】
本発明では、上述のITO焼結体、水及び粉砕メディアを粉砕容器内に入れ湿式ボールミル粉砕を行う。特に、ITO焼結体の粉砕をこの湿式ボールミル粉砕により行うことで、効果的に粗粒の発生を押さえることが出来、焼結性の良い粉末を得ることが出来る。これは、粉砕容器内に粉砕メディアが存在することで、ITO焼結体同士が直接衝突し、割れや欠けが生じることで発生する粗い焼結体粉の生成を抑制し、かつ粉砕メディアによって焼結体が不規則な配置となることで、焼結体同士が擦れ合うことによる微粉の生成効率が向上するためであると考えられる。また、使用する粉砕メディアは、その表面が比重1未満の樹脂製であることが好ましく、例えば、ナイロンやウレタン等の樹脂ライニングを施した金属又はセラミックスのボールなどが使用可能である。表面が樹脂製の粉砕メディアを使用することで、焼結体と粉砕メディアが衝突し、割れや欠けが生じることで発生する粗い焼結体粉の生成を抑制することが可能となる。
【0019】
具体的には、例えば、厚さ10mm前後の板状のITO焼結体を原料ITO焼結体として使用することが可能であり、必要に応じて、適当な大きさに切断又は破断した後、水及び粉砕メディアとともに粉砕容器内に投入して粉砕を行う。この際、投入する原料ITO焼結体の重量で8割以上の焼結体片が、その最大長が粉砕メディアの直径の2倍以上であるような大きさのものとなるようにすることが好ましい。なお、大きな原料ITO焼結体を切断又は破断せずに粉砕容器内に投入して粉砕処理を行った場合でも、粉砕の初期に、大きな原料ITO焼結体は破断されて焼結体片となり、短時間で上記の状態が達成されるので、投入時に適当な大きさに切断又は破断するかどうかは、取扱いの容易さ等を考慮して適宜定めれば良い。
【0020】
粉砕容器内に投入する原料ITO焼結体が占める体積(かさ)は、粉砕容器内の容積に対して40%以下とすることが好ましく、より好ましくは30%以下である。ITO焼結体は密度が高く重いために、粉砕容器に多くの焼結体を入れ回転した場合、重心の移動による慣性力が大きくなり回転粉砕することが困難となる。また、投入するITO焼結体が少ない場合は、最終的に得られる粉砕粉末が少なくなり、製造効率が悪くなるため、原料ITO焼結体が占める体積(かさ)の下限としては10%以上であることが望ましい。さらに、投入する粉砕メディアが占める体積(かさ)は、原料ITO焼結体の体積(かさ)以下であることが好ましく、より好ましくは原料ITO焼結体の体積(かさ)の1/2以下である。粉砕メディアが多い場合、得られる粉砕粉末が少なくなり、製造効率が悪くなる。また、粉砕メディアが少ない場合は粗粒が発生するために、粉砕メディアが占める体積(かさ)の下限としては、原料ITO焼結体の体積(かさ)の1/5以上であることが望ましい。原料ITO焼結体と粉砕メディアの占める体積(かさ)は、粉砕容器内の容積に対して50%以下となることが好ましい。また、粉砕容器は、その内側の表面が比重1未満の樹脂製であることが好ましく、例えば、ナイロンやウレタン等の樹脂製の容器、あるいはナイロンやウレタン等の樹脂ライニングを施した金属製の容器などが使用可能である。内側の表面が樹脂製である粉砕容器を用いることにより、表面が樹脂製である粉砕メディアを用いることと合わせると、粉砕により発生する不純物は樹脂のみとなり、混入した樹脂は水に浮くために粉砕スラリーから容易に除去することが出来る。仮に、微量の樹脂が残ったとしても脱脂・焼結時に揮発し焼結体中に残留することが無いために、高純度のITO焼結体を容易に得ることが可能となる。
【0021】
次に、ITO焼結体、粉砕メディア、及び水が入った粉砕容器を回転させ粉砕を行なうが、焼結性の良い原料粉末を得るために、この時の粉砕時間としては12hr以上であることが好ましく、さらに好ましくは24hr以上である。
【0022】
本発明においては、このようにして得られる粉砕スラリーの90%体積粒径は3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下である。また、良好な焼結性を得るために、50%体積粒径としては1.0μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.90μm以下である。90%体積粒径が3.0μmより大きいものでは、成形、焼結した時のITO焼結体の密度が上がらない。なお、粉砕スラリーの粒径は、スラリーを水等の媒体に分散処理したサンプルを、遠心沈降型、或いは循環タイプのレーザー光反射型の粒度分布測定装置で測定することができる。
【0023】
次に、得られた粉砕スラリーを乾燥し、粉砕粉末を得る。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥時の凝集を押さえるために出来るだけ低温で行なう方が望ましい。例えば、予め粉砕スラリーを遠心分離やフィルタープレス等の方法で脱水処理を行なった後、80〜200℃程度に加熱乾燥する方法が挙げられる。また、乾燥後の粉末は凝集しているために、ボールミル等の粉砕機で解砕処理を行うことが望ましい。
【0024】
本発明においては、粉砕粉末の成形法は特に限定されないが、プレス成形する方法、或いはスラリーを鋳込みによって成形する方法等が適用できる。例えば、プレス法により成形体を製造する場合には、所定の金型に粉末を充填した後、粉末プレス機を用いて100〜300kg/cm2の圧力でプレスを行なう。粉砕粉末の成形性が悪い場合には、必要に応じて、パラフィンやポリビニルアルコール等の有機系化合物を主成分とするバインダーを粉末中に添加してもよい。
【0025】
鋳込み法により成形体を製造する場合には、上記により得られた粉砕粉末にバインダー、分散剤、水を添加し、ボールミル等により混合することにより鋳込み成形用スラリーを作製する。混合時間は、十分な混合効果を得るためには、3時間以上が好ましく、より好ましくは5時間以上である。
【0026】
鋳込み成形用スラリーの粘度は、上述した分散剤、バインダー、水の配合量によって決定されるが、強度の高い成形体、かつ鋳型への良好な着肉特性を得るために、好ましくは100〜5000センチポイズであり、さらに好ましくは500〜2500センチポイズである。
【0027】
続いて、上述のようにして得られた鋳込み成形用スラリーを用いて鋳込み成形を行なうが、鋳型に注入する前に、スラリーの脱泡を行なうことが好ましい。脱泡は、例えば、ポリアルキレングリコール系の消泡剤をスラリーに添加して真空中で脱泡処理を行なえばよい。
【0028】
鋳込み成形に使用する鋳型としては、多孔質樹脂型や石膏型など特に制限なく使用することができ、成形圧力としては、3〜25kg/cm2が生産性の点で好ましい。
【0029】
続いて、プレス法によって製造したプレス成形体、または鋳込み法によって製造した乾燥処理後の成形体に対して、必要に応じて冷間等方圧プレス(CIP)により圧密化処理を行なうこともできる。この際CIPの圧力は十分な圧密効果を得るために1ton/cm2以上であることが好ましく、2ton/cm2以上であることがさらに好ましい。
【0030】
次に、成形体中に残存する水分およびバインダー等の有機物を除去するために、300〜500℃の温度で脱ワックス処理を行なう。脱ワックス処理の際の昇温速度は、分散剤およびバインダーがガス化する過程でのクラックを防止するために、5℃/時間以下とすることが好ましく、3℃/時間以下とすることがさらに好ましい。成形体をプレス法によって製造した場合、特にバインダー等の有機物を添加していない場合には、脱ワックス処理を省略してもよい。
【0031】
このようにして得られた成形体を焼成炉により焼結を行なう。焼結方法はいかなる方法でも良いが、生産設備のコスト等を考慮すると大気中焼結或いは酸素雰囲気中焼結が望ましく、特にITO焼結体の高密度化のためには酸素雰囲気中焼結とすることが望ましい。しかしこの他HP法、HIP法、酸素雰囲気加圧焼結法等の他の焼結法を用いることができることは言うまでもない。また焼結条件も特に限定されないが、高密度とするためには焼結温度は1500〜1650℃であることが望ましい。また焼結時の雰囲気としては大気或いは純酸素雰囲気であることが好ましい。また焼結時間は5時間以上、好ましくは5〜30時間であることが望ましい。
【0032】
このようにして得られた焼結体の密度は、理論密度の99.5%以上が容易に達成される。
【0033】
尚、本発明におけるITO焼結体の真密度は、酸化インジウム及び酸化スズの混合比(In2O3:SnO2=90:10)によって計算される加重平均値7.156g/cm3を用いた。
【0034】
上記により得られたITO焼結体を、所定の形状に整形した後、必要に応じて表面研磨を施し、さらに、必要に応じて、インジウム半田等で例えば無酸素銅からなるバッキングプレートに接合することによりITOスパッタリングターゲットを製造することができる。
【0035】
【実施例】
本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
実施例1
焼結体密度99.5%(7.120g/cm3)以上の使用済みのITOスパッタリングターゲットを180℃に加熱してターゲット材であるITO焼結体をバッキングプレートから剥離した。剥離した焼結体からブラスト処理により表面上の付着物を除去した後、平面研削により裏面のボンディング材を除去した。得られた厚さ約6mmの板状のITO焼結体を最大長が5cm程度の焼結体片に破砕して原料ITO焼結体とした。該原料ITO焼結体5kgに、純水を1kg、鉄心入りのナイロンボール(15mmφ)を1.5kg添加し、硬質ナイロン製の容積10Lの略円筒形の粉砕容器(ポット)に入れ24時間ボールミル粉砕処理を行った後、得られた粉砕スラリーをポットより抜き取った。なお、粉砕開始時での原料ITO焼結体の体積(かさ)は粉砕容器の体積に対して約24%、粉砕メディアの体積は9%、ポットから抜き取られた粉砕スラリーの重量は1.3kg(水:1kg、粉砕粉末:0.3kg)であった。次に、原料ITO焼結体0.3kg、純水1kgを前記ポットに追加投入し、同一条件でボールミル粉砕を行い、1回目と同様に、得られた粉砕スラリーを抜き取った。以下、同様にして、原料ITO焼結体と純水の追加投入、ボールミル粉砕、粉砕スラリーの抜き取りを繰り返した。
【0037】
得られた粉砕スラリーの粒度分布の測定は、分散剤としてヘキサメタりん酸ナトリウムを0.25wt%添加した純水で適量希釈し、ホモジナイザーにより3分間超音波を照射分散処理した後、レーザー光反射型粒度分布測定機(ベックマン・コールター社製、型式LS130)により測定を行った。
【0038】
上記の粉砕により得られた粉砕スラリーの粒度分布は、各バッチ間で実質的に同一であり、その90%体積粒径(D90)は1.55μm、50%体積粒径(D50)は0.85μmであった。このときの粒度分布を図1に示す(図中◆印で示すプロファイル)。
【0039】
湿式ボールミル粉砕により得られた粉砕スラリーは、数時間静置後、表面に浮いている不純物を除去した後、遠心分離により脱水処理を行った後、オーブンに入れ100℃で20時間乾燥を行った。得られた乾燥粉末を乾式ボールミル粉砕により解砕処理を行った。
【0040】
この解砕処理を行った粉末にポリカルボン酸系分散剤を1.1%(粉末重量に対して)、ポリアクリル酸系バインダー1.0%(粉末重量に対して)、イオン交換水20.9%(粉末重量に対して)を加えて16時間ボールミル混合を実施し、鋳込み用スラリーを作製した。
【0041】
続いて、上記スラリーにポリアルキレングリコール系消泡剤を添加し、真空中で脱泡処理を実施した。これを180mm×260mm×11mmtの鋳込み成形用鋳型に注入し20kg/cm2の成形圧力により加圧鋳込み成形を行ない、乾燥処理を施し成形体を作製した。
【0042】
次に、得られた成形体に3ton/cm2の圧力でCIP処理を施した後、下記条件にて脱脂を行なった後、下記条件にて1550℃と1600℃の2種類の焼成を行ないITO焼結体を得た。得られた焼結体は、JIS−R1634−1998に準拠して、アルキメデス法にて密度測定を行なった。焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
(脱ワックス条件)
脱ワックス温度:450℃
昇温速度:3℃/hr
保持時間:3hr
降温速度:10℃/hr
(焼成条件)
昇温速度:50℃/hr
焼成温度:1550℃、1600℃
焼成時間:5hr
降温速度:100℃/hr
上記により得られた1600℃焼成のITO焼結体を加工研削後、バッキングプレートにボンディングして、4“×7”サイズのITOスパッタリングターゲットを作製した。作製されたITOスパッタリングターゲットをライフエンドまで放電し、ノジュールの発生状況の確認を行った結果、ノジュールの発生は認められず、優れたITOスパッタリングターゲットが得られた。
【0043】
【表1】
実施例2
ITO焼結体を粉砕するときの湿式ボールミル粉砕時の処理時間を48hrとした以外は、実施例1と同様の方法でITO焼結体を作製した。このとき、各バッチで抜き取られた粉砕スラリーは約1.4kgであった。
【0044】
このとき得られた粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)は1.43μm、50%体積粒径(D50)は0.82μmであった。このときの粒度分布を図1に示す(図中黒四角印で示すプロファイル)。また、このときの焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
【0045】
実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様にノジュールの発生状況の確認を行った結果、ノジュールの発生は認められず、優れたITOスパッタリングターゲットが得られた。
【0046】
実施例3
ITO焼結体を粉砕するときの湿式ボールミル粉砕時のナイロンボールを800gとした以外は、実施例1と同様の方法でITO焼結体を作製した。このときの粉砕メディアの体積は粉砕容器の容積に対して約5%であった。このとき、各バッチで抜き取られた粉砕スラリーは約1.5kgであった。
【0047】
このとき得られた粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)は1.98μm、50%体積粒径(D50)は0.99μmであった。このときの粒度分布を図1に示す(図中黒三角印で示すプロファイル)。また、このときの焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
【0048】
実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様にノジュールの発生状況の確認を行った結果、ノジュールの発生はほとんど認められず、優れたITOスパッタリングターゲットが得られた。
【0049】
比較例1
ITO焼結体を粉砕するときの湿式ボールミル粉砕時に粉砕メディアを入れなかった以外は、実施例1と同様の方法でITO焼結体を作製した。このとき、各バッチで抜き取られた粉砕スラリーは約1.6kgであった。
【0050】
このとき得られた粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)は4.62μm、50%体積粒径(D50)は1.31μmであった。このときの粒度分布を図1に示す(図中◇印で示すプロファイル)。また、このときの焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
【0051】
実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様にノジュールの発生状況の確認を行った結果、多くのノジュールが認められた。
【0052】
比較例2
ITO焼結体を粉砕するときの湿式ボールミル粉砕時の処理時間を48hrとした以外は、比較例1と同様の方法でITO焼結体を作製した。このとき、各バッチで抜き取られた粉砕スラリーは約1.6kgであった。
【0053】
このとき得られた粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)は4.42μm、50%体積粒径(D50)は1.20μmあった。このときの粒度分布を図1に示す(図中□印で示すプロファイル)。また、このときの焼結体密度の測定結果を、粉砕条件及び得られた粉砕スラリーの粒径(D90、D50)とともに表1に示す。
【0054】
実施例1と同様にしてITOスパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様にノジュールの発生状況の確認を行った結果、多くのノジュールが認められた。
【0055】
表1より、粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)が3.0μm以下である実施例1〜3では、焼結温度が1550℃及び1600℃のいずれの場合にも、焼結体密度99.5%以上の高密度のITO焼結体が得られているのに対し、粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)が3.0μmを超える比較例1、2ではいずれも99.5%の焼結体密度を達成することができず、特に1550℃の比較的低温の焼結では、98%の焼結体密度さえ達成することができないことが分かる。
【0056】
なお、粉砕メディアを用いない比較例1、2では、平均粒径が約1μmの分布と平均粒径が約4μmの分布を有する2つの成分が併存していることが認められ、その結果、粉砕スラリーの90%体積粒径(D90)が大きくなっていることが分かる。平均粒径が約4μmの分布を有する成分は、粉砕時間を延長してもあまり低減されず、その平均粒径もほとんど変化しないことから、粉砕時間を延長しても、90%体積粒径(D90)を効果的に低減することができないことが認められる。
【0057】
【発明の効果】
使用済みのスパッタリングターゲットから回収された高密度ITO焼結体や製造中に不良品となった高密度ITO焼結体等を原料として、これを粉砕して得られる粉末から、再度、高密度のITO焼結体を作製するに際して、原料のITO焼結体を湿式ボールミル粉砕することにより、粗粒成分の発生を効果的に抑制することができ、90%体積粒径が3.0μm以下のスラリーを容易に作製することが可能となり、この90%体積粒径が3.0μm以下のスラリーを乾燥して得られた粉砕粉末を成形して焼結することにより高密度のITO焼結体を得ることができる。なお、原料のITO焼結体の湿式ボールミル粉砕において、表面が樹脂製のボールを用いることにより、粗粒成分の発生をさらに効果的に抑制することができ、さらに焼結性に優れた粉砕粉末を得ることができる。また、原料のITO焼結体の湿式ボールミル粉砕において、表面が樹脂製のボールを用いるとともに、内側の表面が樹脂製の粉砕容器を用いることにより、粉砕により発生する不純物は樹脂のみとなり、混入した樹脂は水に浮くために粉砕スラリーから容易に除去することが出来る。仮に、微量の樹脂が残ったとしても脱脂・焼結時に揮発し焼結体中に残留することが無いために、高純度のITO焼結体を安価に作製することができる。
【0058】
さらに、こうして得られた高純度でかつ高密度なITO焼結体をターゲット材としてスパッタリングターゲットを製造することにより、ノジュールの発生の少ない優れたスパッタリングターゲットを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例及び比較例における粉砕スラリーの粒度分布を示す図である。
Claims (3)
- ITO焼結体を湿式ボールミル粉砕することによりスラリーを作製し、該スラリーから得られるITO粉末を用いて所定の形状の成形体を作製した後、該成形体を焼結することを特徴とするITO焼結体の製造方法。
- スラリーの90%体積粒径が3.0μm以下であることを特徴とする請求項1記載のITO焼結体の製造方法。
- ITO焼結体を湿式ボールミル粉砕する際に使用する粉砕メディアとして、表面が樹脂製である粉砕メディアを使用することを特徴とする請求項1又は2記載のITO焼結体の製造方法。
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