JP2005061426A - メカニカルシール及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】メカニカルシールにおける密封環同士の摺動特性を向上させ、摩擦抵抗が小さく、安価で耐用寿命に優れたメカニカルシールを提供する。
【解決手段】回転体12の側に取付けられた回転密封環4のシール面、もしくは上記回転体12を収納するハウジング13の側に取付けられた固定密封環7の対向シール面、又はこれら両者のシール面に、例えばダイヤモンドライクカーボンのような硬質炭素薄膜の被覆10を形成する。
【選択図】 図1
【解決手段】回転体12の側に取付けられた回転密封環4のシール面、もしくは上記回転体12を収納するハウジング13の側に取付けられた固定密封環7の対向シール面、又はこれら両者のシール面に、例えばダイヤモンドライクカーボンのような硬質炭素薄膜の被覆10を形成する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、相対的に回転する軸とハウジング間から、油や水、水蒸気や冷媒ガスなどの液体や気体が漏れるのを防止するのに用いられるメカニカルシールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、ウォーターポンプのように水中で用いられるメカニカルシールにおいては、回転軸側に取り付けられる回転密封環には炭化珪素、回転軸の周囲に位置するハウジングの側に取り付けられる固定密封環にはカーボン材を使用するのが一般的である。
すなわち、回転密封環に炭化珪素を用いるのは、高温高圧の水蒸気に曝されても腐食されないことと、硬度が高く耐摩耗静に優れることによる。また、固定密封環にカーボン材を用いるのは、自己潤滑性に優れ、潤滑状態が悪化した場合にも異常摩耗や異音発生(いわゆる、「鳴き」)を抑制するためである。
【0003】
なお、回転密封環、固定密封環の両方に、炭化珪素を用いる場合もあるが、この場合には密閉液体による潤滑状態が悪化した場合の異音発生を防止するため、ポーラス状の炭化珪素を適用する必要がある(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−323142号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、炭化珪素は、メカニカルシール用の摺動材として好適な材料ではあるものの、高価な材料であるため、特に上記特許文献1に記載されているように、回転密封環、固定密封環の両方に適用した場合には、材料コストが高騰してしまうという問題点がある。また、炭化珪素を用いた摺動材は成熟技術となっており、これ以上摩擦抵抗を低減することは、技術的に困難なものとなっている。
【0006】
本発明は、従来のメカニカルシール用摺動材料における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、密封環同士の摺動特性に優れ、摩擦抵抗が小さく、耐用寿命に優れたメカニカルシールを廉価に提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、メカニカルシールの密封環に好適な摺動材料について種々検討すると共に、これら摺動材料の摺動面に介在することになる密封液体との組合せなどについて銑意検討を重ねた結果、互いに摺動する両密閉環のうちの少なくとも一方の摺動面に硬質炭素薄膜による被覆を施すことによって、耐摩耗性と低摩擦抵抗を両立させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のメカニカルシールは、上記知見に基づくものであって、ハウジングとこのハウジング内に回転可能に収納された回転体の間からの液体や気体の流出及び流入を防止するためのメカニカルシールにおいて、回転体の側に取付けられて一端側にシール面を備えた回転密封環と、ハウジングの側に取付けられて上記回転密封環のシール面に摺接する対向シール面を備えた固定密封環を有し、上記回転密封環のシール面と固定密封環の対向シール面の少なくとも一方のシール面が、例えばダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」と称する)などの硬質炭素薄膜により被覆されていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明のメカニカルシールの製造方法においては、上記密封環のシール面、すなわち両密封環のシール面及び対向シール面の少なくとも一方のシール面への硬質炭素薄膜の被覆に際して、PVD法を用いて硬質炭素薄膜を成膜するようにしたことを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0011】
図1(a)及び(b)は、本発明のメカニカルシールを自動車用エンジンの水冷系統に用いられるウォーターポンプに装着した例を示すものであって、本発明のメカニカルシール1は、先端部にインペラ11を取付けたシャフト(回転体)12と、当該シャフト12を収納するポンプハウジング13の間に装着されて、ハウジング外の冷却水(不凍液)がハウジング13の内部(シャフト12との間)に流れ込まないようにシールしている。
【0012】
上記メカニカルシール1は、図1(b)に拡大して示すように、ステンレス鋼製のスリーブ2と合成ゴム製のガスケット3を介して上記シャフト12に取付けられたマッチリング(回転密封環)4と共に、同じくステンレス鋼製のカートリッジ5と合成ゴム製のベローズ6を介して上記ハウジング13に取付けられたシールリング(固定密封環)7を備えており、当該シールリング7は、ばね用ステンレス鋼から成るコイルスプリング8によってマッチリング4に圧接され、シャフト12と一体的に回転するマッチリング4のシール面に、シールリング7の対向シール面が摺接することによって内外の流通が遮断され、冷却水がシールできるようになっている。
【0013】
そして、上記両シール面、すなわちマッチリング4のシール面及びシールリング7の対向シール面の少なくとも一方、この例ではマッチリング4のシール面に硬質炭素薄膜10が成膜してあり、これによって両シール面の摩擦係数が低下し、摩擦抵抗が少なくなって摩耗量が減少し、耐用寿命が向上することになる。
もちろん、シールリング7の対向シール面に硬質炭素膜を形成することも、これら双方のシール面に成膜することも可能であって、同様の効果が得られることになる。
【0014】
上記した硬質炭素薄膜としては、例えば炭素原子を主として構成されるDLC材料を用いることができ、例えばCVD法(化学気相蒸着法)やPVD法(物理気相蒸着法)により成膜することができる。
このDLC材料は、非晶質のものであって、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCなどを好適に用いることができる。
【0015】
一般に、硬質炭素薄膜に含まれる水素量は、成膜方法により左右されるが、少なくとも一方のシール面において、硬質炭素薄膜の水素原子の含有量を0.5原子%以下とすることが望ましい。
すなわち、硬質炭素被膜中の水素原子の含有量が増加すると摩擦係数が増加し、水素原子含有量が0.5原子%を超えると、摺動時の摩擦係数を十分に低下させることが難しくなる傾向があることによる。
【0016】
そして、このような水素原子含有量の低い硬質炭素薄膜は、例えばスパッタリング法やイオンプレーティング法など、水素や水素含有化合物を実質的に使用しないPVD法によって成膜することによって得られる。
この場合、成膜時に水素を含まないガスを用いるだけでなく、場合によっては反応容器や基材保持具のベーキングや、基材表面のクリーニングを十分に行ったうえで成膜することが被膜中の水素量を減らすために望ましい。
【0017】
また、上記硬質炭素薄膜の表面粗さについては、Rz(最大高さ粗さ)で2μm以下とすることが望ましく、これによって、両密封環の摺動状態が長期に亘って安定に維持されるようになる。すなわち、最大高さ粗さRzが2μmを超えると、相手摺接部材に対する攻撃性が増して、摩擦係数が増大し易くなる傾向があることによる。
なお、硬質炭素薄膜の表面粗さについては、成膜前の素材表面粗さによってほぼ決定され、成膜面の表面粗さが実質的に硬質炭素薄膜の表面粗さとなることから、成膜前の素材表面粗さをRzで2μm以下とすれば、Rz=2μm以下の表面粗さを備えた硬質炭素薄膜を得ることができる。
【0018】
本発明のメカニカルシールにおいて、密封環の材料としては、基本的に従来と同様に炭化珪素やカーボン材を用いることもできるが、少なくとも一方のシール面に硬質炭素薄膜を成膜するようにしているので、密封環同士の摩擦特性(低摩擦性、耐摩耗性)が向上することから、上記材料に限定されることなく、密封しようとする流体の特性に応じた種々のより安価な材料を用いることができるようになり、大幅なコスト削減が可能になる。
【0019】
例えば、回転密封環に硬質炭素薄膜を被覆する場合の基材としては、ある程度の硬度と耐食性を備えていればよいので、ステンレス鋼の他、露出面の全面を硬質炭素薄膜によって被覆すれば、アルミニウム合金や鋼などを用いることができるようになり、さらなるコスト低減が可能になることから好ましい。
一方、固定密封環の基材としては、回転密封環よりも低硬度で、耐食性、耐摩耗性、低摩擦性に優れていることが要求されるので、カーボン材の他には、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリーテルイミド(PEI)などの樹脂、特に耐摩耗性を確保するために、これら樹脂をガラス繊維や炭素繊維で補強した繊維強化樹脂材の使用が好ましい。
このように、回転密封環よりも低硬度の基材を固定密封環に用いた場合には、回転密封環により高度の高い水素原子含有量0.5原子%以下の硬質炭素薄膜を被覆すること、及び/又は固定密封環にやや低硬度となる水素原子含有量0.5原子%以下の硬質炭素薄膜を被覆することが耐摩耗性を確保する上でより好ましい。
【0020】
本発明のメカニカルシールを水や油、水蒸気や冷媒ガスなど、液体や気体のシールに用いる場合には、当該液体中に脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体、さらにはジチオリン酸亜鉛などを含有させることが望ましく、このような摩擦調整剤が両密封環のシール面間に介在することによって、摩擦特性をさらに改善することができる。
【0021】
上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪酸アミン化合物、及びこれらの任意混合物を挙げることができる。炭素数が6〜30の範囲外のときは、摩擦低減効果が十分に得られない可能性がある。
【0022】
炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
なお、上記アルキル基及びアルケニル基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0023】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭素数6〜30の炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステルなどを例示でき、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレートなどを特に好ましい例として挙げることができる。
上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0024】
なお、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量については、特に制限はないが、液体全量基準で、0.05〜3.0%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0%、特に好ましくは0.5〜1.4%であることがよい。上記含有量が0.05%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0%を超えると液体に対する溶解性や貯蔵安定性が著しく悪化し、沈殿物が発生し易くなるので、好ましくない。
【0025】
また、上記液体には、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有することが好適である。
上記ポリブテニルコハク酸イミドとしては、次の一般式(1)及び(2)
【0026】
【化1】
【0027】
【化2】
で表される化合物が挙げられる。これら一般式におけるPIBは、ポリブテニル基を示し、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られる。上記数平均分子量が900未満の場合は清浄性効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性に劣り易いため、望ましくない。
また、上記一般式におけるnは、清浄性に優れる点から1〜5の整数、より望ましくは2〜4の整数であることがよい。更に、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50ppm以下、より望ましくは10ppm以下、特に望ましくは1ppm以下まで除去してから用いることもよい。
【0028】
さらに、上記ポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0029】
一方、上記ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記般式(1)又は(2)で表される化合物に、ホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性又は酸変性化合物を例示できる。その中でもホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドが最も好ましいものとして挙げられる。
【0030】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル等が挙げられる。具体的には、上記ホウ酸として、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸などが挙げられる。また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、具体的には、例えばメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが好適例として挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリププロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、好ましくは、0.2〜1である。
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、例えばぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルポン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる
【0031】
なお、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量は特に制限されないが、0.1〜15%が望ましく、より望ましくは1.0〜12%であることが好ましい。0.1%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0032】
さらにまた、上記密封液体は、次の一般式(3)
【0033】
【化3】
で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することが好適である。
上記式(3)中のR4、R5、R6及びR7は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0034】
上記R4、R5、R6及びR7としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等のアルキル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オレイル基等のオクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基、プロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基、等が例示できる。
なお、R4、R5、R6及びR7がとり得る上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造をが含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。また、上記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分柱状の炭素数1〜18のアルキル基である場合若しくは炭素数6〜18のアリール基、又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0035】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0036】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、液体全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることが好ましく、また0.06%以下であることがより好ましく、更にはジチオリン酸亜鉛が含有されないことが特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛の含有量がリン元素換算量で0.1%を超えると、DLC部材と鉄基部材との摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害されるおそれがある。
【0037】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法としては、従来方法を任意に採用することができ、特に制限されないが、具体的には、例えば、上記R4、R5、R6及びR7に対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五二硫化りんと反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なることは言うまでもない。
本発明においては、上記一般式(3)に包含される2種以上のジチオリン酸亜鉛を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0038】
【実施例】
以下、本発明を実施例と比較例によって、更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
(試験片の作製)
〔1〕ディスク試験片A
オーステナイト系ステンレス鋼SUS304材から、直径24mm、厚さ2mmの円盤を切り出し、上面側を摺接面として表面粗さRzが2μm程度になるように仕上げたのち、PVDアーク式イオンプレーティング法によって、水素原子の含有量が0.1原子%、ヌープ硬度Hk=2170kg/mm2、厚さ:0.5μmのDLC薄膜を成膜してディスク試験片Aとした。
【0040】
〔2〕ディスク試験片B
まず、平均粒子径が0.6μmの炭化珪素微粉末100重量部に対し、炭化硼素粉末を0.2重量部、カーボンブラック粉末2重量部、アルミナ粉末1重量部、ポリビニルアルコール3重量部を添加し、これらの配合物に水を加えて40%濃度のスラリーとし、ボールミル中で10時間撹拌混合した後、スプレードライヤにより平均粒径80μm程度の造粒粉を得た。そして、この造粒紛を成形型に充填して、120MPaでプレスし円盤状に成形した後、アルゴンガス雰囲気中で2100℃×2時間焼成した。焼成後の炭化珪素製ディスクをさらに研磨して直径24mm、厚さ2mmとし、上面側を摺接面としてその表面粗さRzを2μm程度に仕上げた。
次に、PVDアーク式イオンプレーティング法によって、水素原子の含有量が0.1原子%、ヌープ硬度Hk=2170kg/mm2、厚さ:0.5μmのDLC薄膜を成膜してディスク試験片Bとした。
【0041】
〔3〕ディスク試験片C
上記ディスク試験片Bと同様の炭化珪素製ディスクを焼成(24mmφ×2mmt、Rz=2μm)したのち、DLC薄膜を成膜することなくディスク試験片Cとした。
【0042】
〔4〕円柱試験片A
カーボン材を切削加工した直径18mm、長さ22mm、表面粗さRzが2μmの円柱材をそのまま円柱試験片Aとした。
【0043】
〔5〕円柱試験片B
カーボン材を切削加工した直径18mm、長さ22mm、表面粗さRzが2μmの円柱材の表面に、PVDアーク式イオンプレーティング法によって、水素原子の含有量が約20原子%、ヌープ硬度Hk=1580kg/mm2、厚さ:0.5μmのDLC薄膜を成膜して円柱試験片Bとした。
【0044】
(試験液の調整)
〔1〕試験液A
自動車用不凍液(日産純正LLC)に、エステル系無灰摩擦調整剤としてグリセリンモノオレートを1.5%、ポリブテニルコハク酸イミドを10%添加したものを試験液Aとした。
【0045】
〔2〕試験液B
自動車用不凍液(日産純正LLC)に、添加剤を加えることなく、そのまま試験液Bとした。
【0046】
(性能評価)
上記ディスク試験片A〜Cと円柱試験片A及びBを組合わせた摩耗試験を上記試験液A又はBを用いて下記に示す試験条件のもとに実施した。
【0047】
図2は、この摩耗試験に使用したSRV試験機の概要を示すものであって、当該SRV試験機は、上面にディスク試験片Sd(ディスク試験片A〜C)を固定するディスク試験片ホルダー11と、円柱試験片Sc(円柱試験片A、B)を固定する円柱試験片ホルダー12から主に構成され、円柱試験片ホルダー12は、ディスク試験片ホルダー11に固定されたディスク試験片Sdに対して、所定の荷重を負荷しながら、円柱状試験片Scを摺動させるようになっている。なお、両試験片Sd及びScの摺接面には、試験液滴下ノズル13を介して上記試験液A又はBが供給されるようになっている。
なお、図2において、符号14は、円柱試験片Scをホルダー12に固定するためのねじである。
【0048】
上記SRV試験機を用いて、負荷荷重:100N、振幅:±1mm、周波数:50Hz、試験温度:80℃、試験時間:2時間の試験条件のもとに摩耗試験を実施し、2時間後の摩擦係数及び円柱試験片Scの摩耗量を測定した。この結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明のメカニカルシールにおいては、回転密封環のシール面及び該シール面に摺接する固定密封環の対向シール面のうち、少なくとも一方のシール面に硬質炭素薄膜を被覆するようにしているので、両シール面の摩擦性能改善され、摩擦抵抗及び摩耗量が減少し、優れたシール性能を長期にわたって発揮することができると共に、安価な材料を使用することによって大幅なコスト削減が可能になるという優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a) 本発明のメカニカルシールをウォーターポンプに適用した例を示す断面説明図である。
(b) 図1(a)に示したメカニカルシールの拡大断面図である。
【図2】本発明の実施例において摩耗試験に用いたSRV試験機の構造を示す概略図である。
【符号の説明】
1 メカニカルシール
4 マッチリング(回転密封環)
7 シールリング(固定密封環)
10 硬質炭素薄膜
12 シャフト(回転体)
【発明の属する技術分野】
本発明は、相対的に回転する軸とハウジング間から、油や水、水蒸気や冷媒ガスなどの液体や気体が漏れるのを防止するのに用いられるメカニカルシールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、ウォーターポンプのように水中で用いられるメカニカルシールにおいては、回転軸側に取り付けられる回転密封環には炭化珪素、回転軸の周囲に位置するハウジングの側に取り付けられる固定密封環にはカーボン材を使用するのが一般的である。
すなわち、回転密封環に炭化珪素を用いるのは、高温高圧の水蒸気に曝されても腐食されないことと、硬度が高く耐摩耗静に優れることによる。また、固定密封環にカーボン材を用いるのは、自己潤滑性に優れ、潤滑状態が悪化した場合にも異常摩耗や異音発生(いわゆる、「鳴き」)を抑制するためである。
【0003】
なお、回転密封環、固定密封環の両方に、炭化珪素を用いる場合もあるが、この場合には密閉液体による潤滑状態が悪化した場合の異音発生を防止するため、ポーラス状の炭化珪素を適用する必要がある(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−323142号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、炭化珪素は、メカニカルシール用の摺動材として好適な材料ではあるものの、高価な材料であるため、特に上記特許文献1に記載されているように、回転密封環、固定密封環の両方に適用した場合には、材料コストが高騰してしまうという問題点がある。また、炭化珪素を用いた摺動材は成熟技術となっており、これ以上摩擦抵抗を低減することは、技術的に困難なものとなっている。
【0006】
本発明は、従来のメカニカルシール用摺動材料における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、密封環同士の摺動特性に優れ、摩擦抵抗が小さく、耐用寿命に優れたメカニカルシールを廉価に提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、メカニカルシールの密封環に好適な摺動材料について種々検討すると共に、これら摺動材料の摺動面に介在することになる密封液体との組合せなどについて銑意検討を重ねた結果、互いに摺動する両密閉環のうちの少なくとも一方の摺動面に硬質炭素薄膜による被覆を施すことによって、耐摩耗性と低摩擦抵抗を両立させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のメカニカルシールは、上記知見に基づくものであって、ハウジングとこのハウジング内に回転可能に収納された回転体の間からの液体や気体の流出及び流入を防止するためのメカニカルシールにおいて、回転体の側に取付けられて一端側にシール面を備えた回転密封環と、ハウジングの側に取付けられて上記回転密封環のシール面に摺接する対向シール面を備えた固定密封環を有し、上記回転密封環のシール面と固定密封環の対向シール面の少なくとも一方のシール面が、例えばダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」と称する)などの硬質炭素薄膜により被覆されていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明のメカニカルシールの製造方法においては、上記密封環のシール面、すなわち両密封環のシール面及び対向シール面の少なくとも一方のシール面への硬質炭素薄膜の被覆に際して、PVD法を用いて硬質炭素薄膜を成膜するようにしたことを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0011】
図1(a)及び(b)は、本発明のメカニカルシールを自動車用エンジンの水冷系統に用いられるウォーターポンプに装着した例を示すものであって、本発明のメカニカルシール1は、先端部にインペラ11を取付けたシャフト(回転体)12と、当該シャフト12を収納するポンプハウジング13の間に装着されて、ハウジング外の冷却水(不凍液)がハウジング13の内部(シャフト12との間)に流れ込まないようにシールしている。
【0012】
上記メカニカルシール1は、図1(b)に拡大して示すように、ステンレス鋼製のスリーブ2と合成ゴム製のガスケット3を介して上記シャフト12に取付けられたマッチリング(回転密封環)4と共に、同じくステンレス鋼製のカートリッジ5と合成ゴム製のベローズ6を介して上記ハウジング13に取付けられたシールリング(固定密封環)7を備えており、当該シールリング7は、ばね用ステンレス鋼から成るコイルスプリング8によってマッチリング4に圧接され、シャフト12と一体的に回転するマッチリング4のシール面に、シールリング7の対向シール面が摺接することによって内外の流通が遮断され、冷却水がシールできるようになっている。
【0013】
そして、上記両シール面、すなわちマッチリング4のシール面及びシールリング7の対向シール面の少なくとも一方、この例ではマッチリング4のシール面に硬質炭素薄膜10が成膜してあり、これによって両シール面の摩擦係数が低下し、摩擦抵抗が少なくなって摩耗量が減少し、耐用寿命が向上することになる。
もちろん、シールリング7の対向シール面に硬質炭素膜を形成することも、これら双方のシール面に成膜することも可能であって、同様の効果が得られることになる。
【0014】
上記した硬質炭素薄膜としては、例えば炭素原子を主として構成されるDLC材料を用いることができ、例えばCVD法(化学気相蒸着法)やPVD法(物理気相蒸着法)により成膜することができる。
このDLC材料は、非晶質のものであって、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCなどを好適に用いることができる。
【0015】
一般に、硬質炭素薄膜に含まれる水素量は、成膜方法により左右されるが、少なくとも一方のシール面において、硬質炭素薄膜の水素原子の含有量を0.5原子%以下とすることが望ましい。
すなわち、硬質炭素被膜中の水素原子の含有量が増加すると摩擦係数が増加し、水素原子含有量が0.5原子%を超えると、摺動時の摩擦係数を十分に低下させることが難しくなる傾向があることによる。
【0016】
そして、このような水素原子含有量の低い硬質炭素薄膜は、例えばスパッタリング法やイオンプレーティング法など、水素や水素含有化合物を実質的に使用しないPVD法によって成膜することによって得られる。
この場合、成膜時に水素を含まないガスを用いるだけでなく、場合によっては反応容器や基材保持具のベーキングや、基材表面のクリーニングを十分に行ったうえで成膜することが被膜中の水素量を減らすために望ましい。
【0017】
また、上記硬質炭素薄膜の表面粗さについては、Rz(最大高さ粗さ)で2μm以下とすることが望ましく、これによって、両密封環の摺動状態が長期に亘って安定に維持されるようになる。すなわち、最大高さ粗さRzが2μmを超えると、相手摺接部材に対する攻撃性が増して、摩擦係数が増大し易くなる傾向があることによる。
なお、硬質炭素薄膜の表面粗さについては、成膜前の素材表面粗さによってほぼ決定され、成膜面の表面粗さが実質的に硬質炭素薄膜の表面粗さとなることから、成膜前の素材表面粗さをRzで2μm以下とすれば、Rz=2μm以下の表面粗さを備えた硬質炭素薄膜を得ることができる。
【0018】
本発明のメカニカルシールにおいて、密封環の材料としては、基本的に従来と同様に炭化珪素やカーボン材を用いることもできるが、少なくとも一方のシール面に硬質炭素薄膜を成膜するようにしているので、密封環同士の摩擦特性(低摩擦性、耐摩耗性)が向上することから、上記材料に限定されることなく、密封しようとする流体の特性に応じた種々のより安価な材料を用いることができるようになり、大幅なコスト削減が可能になる。
【0019】
例えば、回転密封環に硬質炭素薄膜を被覆する場合の基材としては、ある程度の硬度と耐食性を備えていればよいので、ステンレス鋼の他、露出面の全面を硬質炭素薄膜によって被覆すれば、アルミニウム合金や鋼などを用いることができるようになり、さらなるコスト低減が可能になることから好ましい。
一方、固定密封環の基材としては、回転密封環よりも低硬度で、耐食性、耐摩耗性、低摩擦性に優れていることが要求されるので、カーボン材の他には、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリーテルイミド(PEI)などの樹脂、特に耐摩耗性を確保するために、これら樹脂をガラス繊維や炭素繊維で補強した繊維強化樹脂材の使用が好ましい。
このように、回転密封環よりも低硬度の基材を固定密封環に用いた場合には、回転密封環により高度の高い水素原子含有量0.5原子%以下の硬質炭素薄膜を被覆すること、及び/又は固定密封環にやや低硬度となる水素原子含有量0.5原子%以下の硬質炭素薄膜を被覆することが耐摩耗性を確保する上でより好ましい。
【0020】
本発明のメカニカルシールを水や油、水蒸気や冷媒ガスなど、液体や気体のシールに用いる場合には、当該液体中に脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体、さらにはジチオリン酸亜鉛などを含有させることが望ましく、このような摩擦調整剤が両密封環のシール面間に介在することによって、摩擦特性をさらに改善することができる。
【0021】
上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪酸アミン化合物、及びこれらの任意混合物を挙げることができる。炭素数が6〜30の範囲外のときは、摩擦低減効果が十分に得られない可能性がある。
【0022】
炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
なお、上記アルキル基及びアルケニル基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0023】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭素数6〜30の炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステルなどを例示でき、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレートなどを特に好ましい例として挙げることができる。
上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0024】
なお、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量については、特に制限はないが、液体全量基準で、0.05〜3.0%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0%、特に好ましくは0.5〜1.4%であることがよい。上記含有量が0.05%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0%を超えると液体に対する溶解性や貯蔵安定性が著しく悪化し、沈殿物が発生し易くなるので、好ましくない。
【0025】
また、上記液体には、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有することが好適である。
上記ポリブテニルコハク酸イミドとしては、次の一般式(1)及び(2)
【0026】
【化1】
【0027】
【化2】
で表される化合物が挙げられる。これら一般式におけるPIBは、ポリブテニル基を示し、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られる。上記数平均分子量が900未満の場合は清浄性効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性に劣り易いため、望ましくない。
また、上記一般式におけるnは、清浄性に優れる点から1〜5の整数、より望ましくは2〜4の整数であることがよい。更に、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50ppm以下、より望ましくは10ppm以下、特に望ましくは1ppm以下まで除去してから用いることもよい。
【0028】
さらに、上記ポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0029】
一方、上記ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記般式(1)又は(2)で表される化合物に、ホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性又は酸変性化合物を例示できる。その中でもホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドが最も好ましいものとして挙げられる。
【0030】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル等が挙げられる。具体的には、上記ホウ酸として、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸などが挙げられる。また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、具体的には、例えばメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが好適例として挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリププロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、好ましくは、0.2〜1である。
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、例えばぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルポン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる
【0031】
なお、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量は特に制限されないが、0.1〜15%が望ましく、より望ましくは1.0〜12%であることが好ましい。0.1%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0032】
さらにまた、上記密封液体は、次の一般式(3)
【0033】
【化3】
で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することが好適である。
上記式(3)中のR4、R5、R6及びR7は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0034】
上記R4、R5、R6及びR7としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等のアルキル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オレイル基等のオクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基、プロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基、等が例示できる。
なお、R4、R5、R6及びR7がとり得る上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造をが含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。また、上記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分柱状の炭素数1〜18のアルキル基である場合若しくは炭素数6〜18のアリール基、又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0035】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0036】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、液体全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることが好ましく、また0.06%以下であることがより好ましく、更にはジチオリン酸亜鉛が含有されないことが特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛の含有量がリン元素換算量で0.1%を超えると、DLC部材と鉄基部材との摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害されるおそれがある。
【0037】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法としては、従来方法を任意に採用することができ、特に制限されないが、具体的には、例えば、上記R4、R5、R6及びR7に対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五二硫化りんと反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なることは言うまでもない。
本発明においては、上記一般式(3)に包含される2種以上のジチオリン酸亜鉛を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0038】
【実施例】
以下、本発明を実施例と比較例によって、更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
(試験片の作製)
〔1〕ディスク試験片A
オーステナイト系ステンレス鋼SUS304材から、直径24mm、厚さ2mmの円盤を切り出し、上面側を摺接面として表面粗さRzが2μm程度になるように仕上げたのち、PVDアーク式イオンプレーティング法によって、水素原子の含有量が0.1原子%、ヌープ硬度Hk=2170kg/mm2、厚さ:0.5μmのDLC薄膜を成膜してディスク試験片Aとした。
【0040】
〔2〕ディスク試験片B
まず、平均粒子径が0.6μmの炭化珪素微粉末100重量部に対し、炭化硼素粉末を0.2重量部、カーボンブラック粉末2重量部、アルミナ粉末1重量部、ポリビニルアルコール3重量部を添加し、これらの配合物に水を加えて40%濃度のスラリーとし、ボールミル中で10時間撹拌混合した後、スプレードライヤにより平均粒径80μm程度の造粒粉を得た。そして、この造粒紛を成形型に充填して、120MPaでプレスし円盤状に成形した後、アルゴンガス雰囲気中で2100℃×2時間焼成した。焼成後の炭化珪素製ディスクをさらに研磨して直径24mm、厚さ2mmとし、上面側を摺接面としてその表面粗さRzを2μm程度に仕上げた。
次に、PVDアーク式イオンプレーティング法によって、水素原子の含有量が0.1原子%、ヌープ硬度Hk=2170kg/mm2、厚さ:0.5μmのDLC薄膜を成膜してディスク試験片Bとした。
【0041】
〔3〕ディスク試験片C
上記ディスク試験片Bと同様の炭化珪素製ディスクを焼成(24mmφ×2mmt、Rz=2μm)したのち、DLC薄膜を成膜することなくディスク試験片Cとした。
【0042】
〔4〕円柱試験片A
カーボン材を切削加工した直径18mm、長さ22mm、表面粗さRzが2μmの円柱材をそのまま円柱試験片Aとした。
【0043】
〔5〕円柱試験片B
カーボン材を切削加工した直径18mm、長さ22mm、表面粗さRzが2μmの円柱材の表面に、PVDアーク式イオンプレーティング法によって、水素原子の含有量が約20原子%、ヌープ硬度Hk=1580kg/mm2、厚さ:0.5μmのDLC薄膜を成膜して円柱試験片Bとした。
【0044】
(試験液の調整)
〔1〕試験液A
自動車用不凍液(日産純正LLC)に、エステル系無灰摩擦調整剤としてグリセリンモノオレートを1.5%、ポリブテニルコハク酸イミドを10%添加したものを試験液Aとした。
【0045】
〔2〕試験液B
自動車用不凍液(日産純正LLC)に、添加剤を加えることなく、そのまま試験液Bとした。
【0046】
(性能評価)
上記ディスク試験片A〜Cと円柱試験片A及びBを組合わせた摩耗試験を上記試験液A又はBを用いて下記に示す試験条件のもとに実施した。
【0047】
図2は、この摩耗試験に使用したSRV試験機の概要を示すものであって、当該SRV試験機は、上面にディスク試験片Sd(ディスク試験片A〜C)を固定するディスク試験片ホルダー11と、円柱試験片Sc(円柱試験片A、B)を固定する円柱試験片ホルダー12から主に構成され、円柱試験片ホルダー12は、ディスク試験片ホルダー11に固定されたディスク試験片Sdに対して、所定の荷重を負荷しながら、円柱状試験片Scを摺動させるようになっている。なお、両試験片Sd及びScの摺接面には、試験液滴下ノズル13を介して上記試験液A又はBが供給されるようになっている。
なお、図2において、符号14は、円柱試験片Scをホルダー12に固定するためのねじである。
【0048】
上記SRV試験機を用いて、負荷荷重:100N、振幅:±1mm、周波数:50Hz、試験温度:80℃、試験時間:2時間の試験条件のもとに摩耗試験を実施し、2時間後の摩擦係数及び円柱試験片Scの摩耗量を測定した。この結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明のメカニカルシールにおいては、回転密封環のシール面及び該シール面に摺接する固定密封環の対向シール面のうち、少なくとも一方のシール面に硬質炭素薄膜を被覆するようにしているので、両シール面の摩擦性能改善され、摩擦抵抗及び摩耗量が減少し、優れたシール性能を長期にわたって発揮することができると共に、安価な材料を使用することによって大幅なコスト削減が可能になるという優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a) 本発明のメカニカルシールをウォーターポンプに適用した例を示す断面説明図である。
(b) 図1(a)に示したメカニカルシールの拡大断面図である。
【図2】本発明の実施例において摩耗試験に用いたSRV試験機の構造を示す概略図である。
【符号の説明】
1 メカニカルシール
4 マッチリング(回転密封環)
7 シールリング(固定密封環)
10 硬質炭素薄膜
12 シャフト(回転体)
Claims (9)
- ハウジングと該ハウジングに回転自在に収納された回転体の間からの流体の流出又は流入を防止するメカニカルシールにおいて、一端側にシール面を有し上記回転体に取付けられた回転密封環と、当該回転密封環のシール面に摺接する対向シール面を有し上記ハウジングに取付けられた固定密封環を備え、上記回転密封環のシール面と固定密封環の対向シール面の少なくとも一方のシール面が硬質炭素薄膜により被覆されていることを特徴とするメカニカルシール。
- 少なくとも一方のシール面において、上記硬質炭素薄膜の水素含有量が0.5原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
- 上記硬質炭素薄膜の表面粗さRzが2μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のメカニカルシール。
- 上記流体が液体であって、該液体が脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のメカニカルシール。
- 上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤が炭素数6〜30の炭化水素基を有し、液体中にその全量基準で0.05〜3.0%含まれていることを特徴とする請求項4に記載のメカニカルシール。
- 上記液体がポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有していることを特徴とする請求項4又は5に記載のメカニカルシール。
- 上記ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量が液体全量基準で0.1〜15%であることを特徴とする請求項6に記載のメカニカルシール。
- 上記潤滑油組成物がジチオリン酸亜鉛を含有し、その含有量が液体全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つの項に記載のメカニカルシール。
- 請求項1〜8のいずれか1つの項に記載のメカニカルシールを製造するに際し、PVD法によって硬質炭素薄膜を形成することを特徴とするメカニカルシールの製造方法。
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