JP2005060734A - 溶鋼中介在物の改質剤および低炭素鋼鋳片の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】溶鋼の炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にTiを添加して脱酸し、それから金属Siが5〜25質量%、少なくともLa、Ce、Ndが40〜95質量%、Feが0〜55質量%で、残部が不可避的不純物元素からなる介在物改質剤を添加した溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素鋼鋳片の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、加工性、成形性に優れ、表面疵も発生し難い低炭素鋼鋳片の製造方法と溶鋼中介在物の改質剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
転炉や真空処理容器で精錬された溶鋼中には、多量の溶存酸素が含まれており、この過剰酸素は酸素との親和力が強い強脱酸元素であるAlにより脱酸されるのが一般的である。しかし、Alは脱酸によりアルミナ系介在物を生成し、これが凝集合体して数100μm以上の粗大なアルミナクラスターとなる。このアルミナクラスターは鋼板製造時に表面疵発生の原因となり、薄鋼板の品質を大きく劣化させる。特に、炭素濃度が低く、精錬後の溶存酸素濃度が高い薄鋼板用素材である低炭素溶鋼では、アルミナクラスターの量が非常に多く、表面疵の発生率が極めて高く、アルミナ系介在物の低減対策は大きな課題となっている。
【0003】
これに対して、従来は特許文献1の介在物吸着用フラックスを溶鋼表面に添加してアルミナ系介在物を除去する方法、或いは特許文献2の注入流を利用してCaOフラックスを溶鋼中に添加し、これによりアルミナ系介在物を吸着除去する方法が提案、実施されてきた。一方、アルミナ系介在物を除去するのではなく、生成させない方法として、特許文献3にあるように溶鋼をMgで脱酸し、Alでは殆ど脱酸しない薄鋼板用溶鋼の溶製方法や、特許文献4のようにAlを添加せずにTiで脱酸した薄鋼板も開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−104219号公報
【特許文献2】
特開昭63−149057号公報
【特許文献3】
特開平5−302112号公報
【特許文献4】
特開平8−239731号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の特許文献1〜特許文献2に開示されている様な、アルミナ系介在物を除去する方法では、低炭素溶鋼中に多量に生成したアルミナ系介在物を表面疵が発生しない程度まで低減することは非常に難しい。
また、特許文献3に開示されている様な、アルミナ系介在物を全く生成しないMg脱酸では、Mgの蒸気圧が高く、溶鋼への歩留まりが非常に低いため、低炭素鋼のように溶存酸素濃度が高い溶鋼をMgだけで脱酸するには多量のMgを必要とし、製造コストを考えると実用的なプロセスとは言えない。
さらに、特許文献4に開示されている様な、Tiで脱酸する場合には、溶鋼中に生成した固相状態のTi酸化物が鍋ノズルやタンディッシュノズルの内面に地金と共に付着堆積し、通常のAl脱酸よりもかえってノズル詰まりを助長するといった問題があった。
これらの問題を鑑み、本発明は溶鋼中介在物の凝集合体とノズルへの付着を防止し、鋼板中に介在物を微細分散させることにより、確実に表面疵を防止できる、溶鋼中介在物の改質剤および低炭素鋼鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を要旨とする。即ち、
(1)金属Siが5〜25質量%、少なくともLa、Ce、Ndが40〜95質量%、Feが0〜55質量%で、残部が不可避的不純物元素からなる組成であることを特徴とする溶鋼中介在物の改質剤。
(2)溶鋼の炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にTiを添加して脱酸し、その後、(1)記載の溶鋼中介在物の改質剤を添加した溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素鋼鋳片の製造方法。
(3)溶鋼の炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にAlを添加して予備脱酸処理を行い、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.01質量%以上0.04質量%以下とし、次いでTiを添加して脱酸し、その後、(1)記載の溶鋼中介在物の改質剤を添加した溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素鋼鋳片の製造方法。
(4)溶鋼の炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にAlを添加し3分以上攪拌して予備脱酸処理を行い、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.01質量%以上0.04質量%以下とし、次いでTiを添加して溶鋼中のTi濃度を0.003質量%以上0.4質量%以下とし、その後、(1)記載の溶鋼中介在物の改質剤を添加し、少なくともLa、Ce、Ndの溶鋼中濃度を0.001質量%以上0.03質量%以下とした溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素鋼鋳片の製造方法。
(5)溶鋼の炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭するに際し、真空脱ガス装置を用いることを特徴とする(2)〜(4)のいずれか1項に記載の低炭素鋼鋳片の製造方法。
(6)溶鋼を鋳造するに際し、電磁攪拌機能を有する鋳型で鋳造することを特徴とする(2)〜(5)のいずれか1項に記載の低炭素鋼鋳片の製造方法。
(7)溶鋼を鋳造するに際し、1300℃における粘性が4poise以上のモールドフラックスを用いて鋳造することを特徴とする(2)〜(6)のいずれか1項に記載の低炭素鋼鋳片の製造方法。
(8)溶鋼を鋳造するに際し、連続鋳造することを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の低炭素鋼鋳片の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
転炉や真空処理容器で脱炭処理された溶鋼中には、多量の溶存酸素が含まれており、この溶存酸素は通常Alの添加により殆ど脱酸される(下記(1)式の反応)ため、多量のアルミナ系介在物を生成する。
2Al+3O=Al2O3 (1)
これらの介在物は脱酸直後からお互いに凝集合体し、数100μm以上の粗大なアルミナクラスターとなり、鋼板製造時に表面欠陥の原因となる。
そこで、アルミナクラスターを生成させないために、脱炭処理後の溶存酸素をAl以外の脱酸剤と改質剤で脱酸することに着目した。
【0008】
本発明方法として、転炉や電気炉等の製鋼炉で精錬して、或いはさらに真空脱ガス処理等を行って、炭素濃度を0.01質量%以下とした溶鋼にTiを添加して脱酸し、その後金属Siが5〜25質量%、少なくともLa、Ce、Ndが40〜95質量%、Feが0〜55質量%で、残部が不可避的不純物元素からなる改質剤を添加した溶鋼を鋳造する方法を考案した。
ここで、少なくともLa、Ce、Ndというのは、La、Ce、Ndの1種以上という意味である。以降も同様の意味で用いている。
【0009】
本発明者らは、溶鋼へ添加する脱酸剤として、AlまたはTiや、これに少なくともLa、Ce、Ndを添加したものを適宜組み合わせて、これらの介在物の凝集挙動を実験的に評価したところ、アルミナ系介在物、Ti酸化物系介在物、アルミナ系介在物とTi酸化物系介在物からなる複合介在物、或いはアルミナと少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物(例えば、アルミナ−La酸化物系複合介在物、アルミナ−Ce酸化物−Nd酸化物系複合介在物、アルミナ−La酸化物−Ce酸化物−Nd酸化物系複合介在物等)は比較的容易に凝集合体し、るつぼ壁にも付着し易いのに対し、Ti酸化物と少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物(例えば、Ti酸化物−La酸化物系複合介在物、Ti酸化物−Ce酸化物−Nd酸化物系複合介在物、Ti酸化物−La酸化物−Ce酸化物−Nd酸化物系複合介在物等)は凝集合体し難く、且つるつぼ壁にも付着せず、溶鋼中に微細分散することを見いだした。この理由は、アルミナ系介在物、Ti酸化物系介在物、アルミナ系介在物とTi酸化物系介在物からなる複合介在物、或いはアルミナと少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物に比べて、Ti酸化物と少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物の方が、介在物と溶鋼間の界面エネルギーの低下が大きく、介在物同士の凝集合体と耐火物への付着を抑制したためである。これらの知見を基に、溶存酸素をTiで脱酸し、さらに少なくともLa、Ce、Ndを添加することによりTi酸化物系介在物をTi酸化物と少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物に改質し、溶鋼中に介在物を微細に分散させることに成功した。
【0010】
しかし、実機設備を用いて少なくともLa、Ce、Ndからなる合金を溶鋼中に添加する試験を実施したところ、合金をベルトコンベヤーでホッパーまで輸送する際、合金をホッパーに挿入する際、或いは合金を溶鋼に添加する際に、合金同士が衝突することによる発火現象が観察された。そこで、少なくともLa、Ce、Ndからなる合金に他の金属を含有させた介在物改質剤を種々作製し、JIS−G−0566の火花試験法を用いて発火を抑制する成分を検討した。
本発明者らは、少なくともLa、Ce、Ndからなる合金に金属Siを5質量%以上含有させると火花の発生が急激に減少すること、また金属Siをさらに増加させ25質量%まで含有させると火花の発生は全くなくなり、これを超えて添加しても火花抑制効果はほとんど変わらないことを見いだした。よって、介在物改質剤中の金属Si含有率は5〜25質量%である。
但し、溶鋼中のSi濃度が増加すると、得られた鋼板の加工性が低下するため、介在物改質剤中の金属Si含有率に応じて、介在物改質剤の添加量を適宜考慮することが重要である。
【0011】
また、介在物改質剤中の、少なくともLa、Ce、Ndの含有率は40〜95質量%である。これは、少なくともLa、Ce、Ndの含有率が95質量%超では相対的に金属Siの含有率が5質量%未満となり火花発生を抑制できないため、40質量%未満では介在物改質剤の改質効果が大きく低下するためである。
さらに、介在物改質剤中のFe含有率は0〜55質量%とする。介在物改質剤中のFeはLa、Ce、Ndの含有率を相対的に減少させることにより、火花発生を抑制する効果がある。上記の通り、介在物改質剤中の金属Si含有率の下限が5質量%であり、また、少なくともLa、Ce、Ndの含有率の下限が40質量%であるため、介在物改質剤中のFe含有率の上限は55質量%となる。一方、金属Siの火花発生抑制効果が得られている条件では、Fe含有率を0質量%としても良い。
但し、Fe含有率が高くなり過ぎると、Feが溶解するために溶鋼から熱を奪うことにより、改質剤が冷却剤として作用し、溶鋼の温度を低下させるといった問題が生じる。従って、介在物改質剤中のFe含有率に応じて、介在物改質剤の添加量を適宜考慮することが重要である。
【0012】
上記成分の介在物改質剤は、発火現象を抑制して、または全く発火することなく、溶鋼中に添加することが可能である。合わせて、少なくともLa、Ce、Ndを、そのまま溶鋼に添加した場合と比べて、介在物改質効果が損なわれることがないため、溶存酸素をTiで脱酸し、その後上記改質剤を添加することにより、製品鋼材の材質低下なく、溶鋼中に介在物を微細に分散させ、ノズル付着をも解消できる結果、確実に表面疵を防止できる。
【0013】
本発明方法の別の形態として、転炉や電気炉等の製鋼炉で精錬して、或いはさらに真空脱ガス処理等して、炭素濃度を0.01質量%以下とした溶鋼にAlを添加して予備脱酸処理を行い、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.01質量%以上0.04質量%以下とし、次いでTiを添加して脱酸し、それから金属Siが5〜25質量%、少なくともLa、Ce、Ndが40〜95質量%、Feが0〜55質量%で、残部が不可避的不純物元素からなる改質剤を添加した溶鋼を鋳造する方法を考案した。
この方法は、製造コストの面からより実用的なプロセスを考え、脱炭処理後の溶存酸素を全部Alで脱酸するのではなく、溶存酸素を残すようにAlを添加して予備脱酸を行い、害にならない程度までアルミナ系介在物量を短時間で浮上除去し、その後改めてAl以外の元素を用いて脱酸することを考案し、品質向上と製造コスト低減を両立させるものである。
【0014】
上述したように、本発明者らは、Ti酸化物と少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物は凝集合体し難く、るつぼ壁にも付着せず、溶鋼中に微細分散することを明らかにした。これらの知見を基に、脱炭処理後の溶存酸素をTiだけで脱酸するのではなく、溶存酸素の一部をまずAlで予備脱酸し、害にならない程度までアルミナ系介在物を短時間で攪拌等により浮上除去した後、改めて残った溶存酸素をTiで脱酸し、さらに前述した介在物改質剤を添加することにより、アルミナ系介在物を含まないTi酸化物と少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物を生成させ、溶鋼中に介在物を微細分散させることに成功した。このことで、溶鋼中介在物の凝集合体を防止し、鋼板中に介在物を微細分散させることにより、確実に表面疵を防止できる。ここで、上記記載のAl予備脱酸後の害にならない程度のアルミナ系介在物濃度は、鋼板の表面疵を防止できれば特に規定するものではないが、通常は例えば全Al濃度で高々50ppm程度以下である。
【0015】
La、CeとNdはTiに比べて非常に脱酸能が高いため、Ti添加後に生成したTi酸化物系介在物を少量のCe、LaもしくはNdで還元し、Ti酸化物と少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物に改質することは容易である。しかし、Al予備脱酸後の溶存酸素が0.04質量%を超えると、Ti添加後に多量のTi酸化物系介在物が生成するため、少なくともLa、Ce、Ndを添加しても一部未改質のTi酸化物系介在物が残留し、粗大なチタニアクラスターとなりやすい。一方、Al添加量を増大させ予備脱酸後の溶存酸素濃度を低下させると、多量のアルミナ系介在物を生成するため、これを分離除去することが困難になる。そこで、粗大化し易いアルミナ系介在物をできるだけ低減する条件から、Al脱酸後の溶存酸素濃度は0.01質量%以上にすることが好ましい。したがって、本発明では、Al予備脱酸後の溶存酸素濃度を0.01質量%以上0.04質量%以下の範囲に制御することが好ましい。
【0016】
さらに、本発明方法の詳細な形態として、転炉や電気炉等の製鋼炉で精錬して、或いはさらに真空脱ガス処理等して、炭素濃度を0.01質量%以下とした溶鋼にAlを添加し3分以上攪拌して予備脱酸処理を行い、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.01質量%以上0.04質量%以下とし、次いでTiを添加して溶鋼中のTi濃度を0.003質量%以上0.4質量%以下とし、それから金属Siが5〜25質量%、少なくともLa、Ce、Ndが40〜95質量%、Feが0〜55質量%で、残部が不可避的不純物元素からなる改質剤を添加した溶鋼を鋳造する方法を考案した。
実験的な検討では、予備脱酸におけるAl添加後の溶存酸素濃度を0.01質量%以上とし、且つAl添加後の攪拌時間を3分以上確保することで、殆どのアルミナ系介在物を浮上除去できることを明らかにした。特に、真空脱ガス装置を用いた場合は、Al添加後の攪拌方法として還流することが一般的である。
【0017】
予備脱酸後に、少量のTiを添加して脱酸すると、TiはAl等に比べて脱酸力が弱いため、一部溶存酸素が溶鋼中に残存する。C濃度が0.01質量%以下の薄鋼板用の溶鋼では、溶存酸素濃度が0.02質量%を超えると鋳造時にCO気泡が発生することから、溶鋼中のTi濃度は溶存酸素濃度が0.02質量%以下になるように添加する必要があり、平衡計算からTi濃度を算出すると0.003質量%以上となる。一方、Tiは脱酸力が比較的弱い方であるが、それでも溶鋼中に多量に添加すると、溶鋼中の溶存酸素濃度が大きく低下するため、その後に介在物改質剤を添加してもTi酸化物と少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物に改質することが難しくなり、本発明の介在物微細化効果が損なわれる。このため、Ti濃度は数ppm程度の溶存酸素を残せるように、0.4質量%以下にする必要がある。以上から、Ti濃度は0.003質量%以上0.4質量%以下にすることが望ましい。
【0018】
介在物改質剤を添加することは、介在物の微細化に効果的であるが、改質剤中のLa、Ce、Ndは非常に強い脱酸材であるため、耐火物やモールドフラックスと反応して、溶鋼を汚染させると共に、耐火物やモールドフラックスを劣化させる。このため、改質剤の添加量は、生成したTi酸化物系介在物を改質するに必要な量以上であって、且つLa、Ce、Ndが耐火物やモールドフラックスと反応して溶鋼を汚染させない量以下である。実験的検討では、少なくともLa、Ce、Ndの溶鋼中濃度の適正範囲は、0.001質量%以上0.03質量%以下である。また、介在物改質剤の添加は、必ずしも真空脱ガス装置内で添加する必要はなく、Ti添加後から鋳型内に流入するまでの間で添加すれば良く、例えばタンディッシュ内で添加することも可能である。
【0019】
最近では、連続鋳造機に鋳型内電磁攪拌装置が装備されるようになっており、鋳造時に溶鋼を電磁攪拌すれば、鋳片表層の凝固シェルへの介在物捕捉を抑制できる。本発明では、溶鋼中の介在物は微細に分散しており、鋳片に捕捉されても表面欠陥にはならないが、例えばモールドフラックス、耐火物、スラグ等の外来系介在物が混入した場合には、電磁攪拌を行うことに、これらの外来系介在物の捕捉を確実に防止できる。このため、本発明の効果を安定的に得られると言う観点で、電磁攪拌を実施することが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の溶鋼を鋳造する場合、鋳造時間の経過と共にTi酸化物と少なくともLa酸化物、Ce酸化物、Nd酸化物からなる複合介在物がモールドフラックス中に吸収され、それと共に、モールドフラックスの粘性が低下する可能性がある。モールドフラックスの粘性低下は、フラックス巻き込みを助長し、モールドフラックス起因の欠陥を引き起こす原因となる。このため、本発明の溶鋼を鋳造する場合、介在物吸収による粘性低下を考慮して、モールドフラックスの粘性を予め高めに設計しておくことが有効である。実験によれば、1300℃におけるモールドフラックスの粘性を4poise以上にしておけば、モールドフラックス起因の欠陥は発生しなかった。モールドフラックスはモールドと鋳型間の潤滑機能を有しており、その機能が損なわれない程度であれば、特に粘性の上限値を規定するものではない。
【0021】
本発明は、インゴット鋳造および連続鋳造でも可能であり、連続鋳造であれば通常の250mm厚み程度のスラブ連続鋳造に適用されるだけでなく、連続鋳造機の鋳型厚みがそれより薄い、例えば150mm以下の薄スラブ連続鋳造に対しても十分な効果が発現し、極めて表面疵の少ない鋳片を得ることができる。
本発明での低炭素というのは、炭素濃度の上限は特に規定するものではなく、他の鋼種と比較して相対的に炭素濃度が低いという意味であるが、特に、薄板用鋼板は、自動車用外板等の加工が厳しい用途に用いられるため、加工性を付加する必要から、C濃度を0.05質量%以下、好ましくは0.01質量%以下にするのが良い。C濃度の下限値は特に規定するものではない。
【0022】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明について説明する。
実施例1:転炉での精錬と環流式真空脱ガス装置での処理により炭素濃度を0.003質量%とした300tの取鍋内溶鋼をTiで脱酸し、その後金属Siが10質量%、La、Ce、Ndの合計が80質量%、Feが10質量%からなる改質剤(残部に微量の不可避的不純物元素を含む)を添加して、Ti濃度を0.05質量%、Ce、La、Ndの合計濃度を0.008質量%とした。この溶鋼を連続鋳造法で厚み250mm、幅1800mmのスラブに鋳造した。鋳造の際に使用したモールドフラックスの粘性は6poiseであった。タンディッシュノズルや鍋ノズルの閉塞はなく、安定鋳造であった。鋳造した鋳片は8500mm長さに切断し、1コイル単位とした。このようにして得られたスラブは、常法により熱間圧延、冷間圧延し、最終的には0.7mm厚みで幅1800mmコイルの冷延鋼板とした。鋳片品質については、冷間圧延後の検査ラインで目視観察を行い、1コイル当たりに発生する表面欠陥の発生個数を評価した。その結果、表面欠陥は発生しなかった。
【0023】
実施例2:転炉での精錬と真空脱ガス装置での処理により炭素濃度を0.003質量%とした300tの取鍋内溶鋼に予備脱酸Alを100kg添加して3分間環流させ、溶存酸素濃度0.02質量%の溶鋼とした。さらに、この溶鋼にTiを添加して3分間環流し、その後金属Siが15質量%、La、Ce、Ndの合計が70質量%、Feが15質量%からなる改質剤(残部に微量の不可避的不純物元素を含む)を添加し、Ti濃度を0.03質量%、Ce、La、Ndの合計濃度を0.007質量%にした溶鋼を溶製した。この溶鋼を連続鋳造法で厚み250mm、幅1800mmのスラブに鋳造した。鋳造の際に使用したモールドフラックスの粘性は6poiseであった。タンディッシュノズルや鍋ノズルの閉塞はなく、安定鋳造であった。鋳造した鋳片は8500mm長さに切断し、1コイル単位とした。このようにして得られたスラブは、常法により熱間圧延、冷間圧延し、最終的には0.7mm厚みで幅1800mmコイルの冷延鋼板とした。鋼板品質については、冷間圧延後の検査ラインで目視観察を行い、1コイル当たりに発生する表面欠陥の発生個数を評価した。その結果、表面欠陥は発生しなかった。
【0024】
実施例3:転炉での精錬と真空脱ガス装置での処理により炭素濃度を0.005質量%とした300tの取鍋内溶鋼に予備脱酸Alを150kg添加して5分間環流させ、溶存酸素濃度0.012質量%の溶鋼とした。さらに、この溶鋼にTiを添加して4分間環流し、その後金属Siが12質量%、La、Ce、Ndの合計が88質量%からなる改質剤(残部に微量の不可避的不純物元素を含む)を添加し、Ti濃度を0.045質量%で、Ce、La、Ndの合計濃度を0.01質量%にした溶鋼を溶製した。この溶鋼を電磁攪拌機能を有する鋳型を用いて、連続鋳造法で厚み70mm、幅1800mmの薄スラブに鋳造した。鋳造の際に使用したモールドフラックスの粘性は15poiseであった。タンディッシュノズルや鍋ノズルの閉塞はなく、安定鋳造であった。このようにして得られた薄スラブは、常法により熱間圧延、冷間圧延し、最終的には0.7mm厚みで幅1800mmコイルの冷延鋼板とした。鋼板品質については、冷間圧延後の検査ラインで目視観察を行い、1コイル当たりに発生する表面欠陥の発生個数を評価した。その結果、表面欠陥は発生しなかった。
【0025】
比較例1:転炉での精錬と環流式真空脱ガス装置での処理により炭素濃度を0.003質量%とした取鍋内溶鋼をAlで脱酸し、Al濃度0.04質量%、溶存酸素濃度0.0002質量%とした。この溶鋼を連続鋳造法で厚み250mm、幅1800mmのスラブに鋳造した。鋳造後半で、タンディッシュノズルが閉塞傾向となり、湯面変動が発生した。鋳造した鋳片は8500mm長さに切断し、1コイル単位とした。このようにして得られたスラブは、常法により熱間圧延、冷間圧延し、最終的には0.7mm厚みで幅1800mmコイルの冷延鋼板とした。鋳片品質については、冷間圧延後の検査ラインで目視観察を行い、1コイル当たりに発生する表面欠陥の発生個数を評価した。その結果、スラブ平均で5個/コイルの表面欠陥が発生した。
【0026】
比較例2:転炉での精錬と真空脱ガス装置での処理により炭素濃度を0.003質量%とした取鍋内溶鋼をTiで脱酸し、Ti濃度0.04質量%、溶存酸素濃度0.004質量%とした。この溶鋼を連続鋳造法で厚み250mm、幅1800mmのスラブに鋳造した。鋳造後半で、鍋ノズルが閉塞し、50t程度の溶鋼を鍋ごと転炉に返送した。鋳造した鋳片は8500mm長さに切断し、1コイル単位とした。このようにして得られたスラブは、常法により熱間圧延、冷間圧延し、最終的には0.7mm厚みで幅1800mmコイルの冷延鋼板とした。鋳片品質については、冷間圧延後の検査ラインで目視観察を行い、1コイル当たりに発生する表面欠陥の発生個数を評価した。その結果、スラブ平均で7個/コイルの表面欠陥が発生した。
【0027】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によると、溶鋼中の介在物を微細分散させ、ノズル閉塞をも抑制することができるため、確実に表面疵を防止できる加工性、成形性に優れた低炭素鋼鋳片を製造することが可能となる。
Claims (8)
- 金属Siが5〜25質量%、少なくともLa、Ce、Ndが40〜95質量%、Feが0〜55質量%で、残部が不可避的不純物元素からなる組成であることを特徴とする溶鋼中介在物の改質剤。
- 溶鋼の炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にTiを添加して脱酸し、その後、請求項1記載の溶鋼中介在物の改質剤を添加した溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素鋼鋳片の製造方法。
- 溶鋼の炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にAlを添加して予備脱酸処理を行い、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.01質量%以上0.04質量%以下とし、次いでTiを添加して脱酸し、その後、請求項1記載の溶鋼中介在物の改質剤を添加した溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素鋼鋳片の製造方法。
- 溶鋼の炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にAlを添加し3分以上攪拌して予備脱酸処理を行い、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.01質量%以上0.04質量%以下とし、次いでTiを添加して溶鋼中のTi濃度を0.003質量%以上0.4質量%以下とし、その後、請求項1記載の溶鋼中介在物の改質剤を添加し、少なくともLa、Ce、Ndの溶鋼中濃度を0.001質量%以上0.03質量%以下とした溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素鋼鋳片の製造方法。
- 溶鋼の炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭するに際し、真空脱ガス装置を用いることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の低炭素鋼鋳片の製造方法。
- 溶鋼を鋳造するに際し、電磁攪拌機能を有する鋳型で鋳造することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の低炭素鋼鋳片の製造方法。
- 溶鋼を鋳造するに際し、1300℃における粘性が4poise以上のモールドフラックスを用いて鋳造することを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の低炭素鋼鋳片の製造方法。
- 溶鋼を鋳造するに際し、連続鋳造することを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の低炭素鋼鋳片の製造方法。
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