JP4660037B2 - 薄板用鋼板の溶製方法およびその鋳片 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、加工性、成形性に優れた低炭素薄鋼板の溶製方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
転炉や真空処理容器で精錬された溶鋼中には、多量の溶存酸素が含まれており、この過剰酸素は酸素との親和力が強い強脱酸元素であるAlにより脱酸されるのが一般的である。しかし、Alは脱酸によりアルミナ系介在物を生成し、これが凝集合体して粗大なアルミナクラスターとなる。このアルミナクラスターは鋼板製造時に表面疵発生の原因となり、薄鋼板の品質を大きく劣化させる。特に、炭素濃度が低く、精錬後の溶存酸素濃度が高い薄鋼板用素材である低炭素溶鋼では、アルミナクラスターの量が非常に多く、表面疵の発生率が極めて高く、アルミナ系介在物の低減対策は大きな課題となっている。
【0003】
これに対して、従来は特開平5−104219号公報の介在物吸着用フラックスを溶鋼表面に添加してアルミナ系介在物を除去する方法、或いは特開昭63−149057号公報の注入流を利用してCaOフラックスを溶鋼中に添加し、これによりアルミナ系介在物を吸着除去する方法が提案、実施されてきた。一方、アルミナ系介在物を除去するのではなく、生成させない方法として、特開平5−302112号公報にあるように溶鋼をMgで脱酸し、Alでは殆ど脱酸しない薄鋼板用溶鋼の溶製方法も開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したアルミナ系介在物を除去する方法では、低炭素溶鋼中に多量に生成したアルミナ系介在物を表面疵が発生しない程度まで低減することは非常に難しい。また、アルミナ系介在物を全く生成しないMg脱酸では、Mgの蒸気圧が高く、溶鋼への歩留まりが非常に低いため、低炭素鋼のように溶存酸素濃度が高い溶鋼をMgだけで脱酸するには多量のMgを必要とし、製造コストを考えると実用的なプロセスとは言えない。
【0005】
これらの問題を鑑み、本発明は溶鋼中の介在物を低減すると共に、凝集・合体を防止し溶鋼中に介在物を微細分散させることにより、確実に表面疵を防止できる薄鋼板用素材の低炭素溶鋼を溶製する方法を提示することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を要旨とする。即ち、(1)低炭素薄鋼板の溶製方法において、炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にAlとTiを添加せずLaを添加し、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.001質量%以上、0.02質量%以下に調整した溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素薄鋼板の溶製方法である。また、(2)低炭素薄鋼板の溶製方法において、真空脱ガス処理により炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にAlとTiを添加せずLaを添加し、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.001質量%以上、0.02質量%以下に調整した溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素薄鋼板の溶製方法である。また、(3)低炭素薄鋼板の溶製方法において、電磁攪拌、或いは電磁場を印加する機能を有する鋳型で鋳造することを特徴とする上記(1)又は(2)記載の低炭素薄鋼板の溶製方法である。また、(4)上記(1)から(3)の方法で溶製し、連続鋳造して得られた鋳片において、直径0.5μmから30μmの微細酸化物が鋳片内に1000個/mm3以上、100000個/mm3未満分散していることを特徴とする連続鋳造鋳片である。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の溶製法では、転炉や電気炉等の製鋼炉で精錬して、或いはさらに真空脱ガス処理等して、炭素濃度を0.01質量%以下とした溶鋼にLaを添加して、溶存酸素濃度を0.001〜0.02質量%になるように調整する。この溶製法の基本思想は、鋳造時にCと反応してCOガスを発生させない程度の溶存酸素を残し、この溶存酸素により溶鋼とランタンオキサイド系介在物の界面エネルギーを制御することにより、介在物同士の凝集合体を抑制し、微細なランタンオキサイド系介在物を溶鋼中に分散させることにある。
【0008】
転炉や真空処理容器で脱炭処理された溶鋼中には、多量の溶存酸素が含まれており、この溶存酸素は通常Alの添加により殆ど脱酸される((1)式の反応)ため、多量のアルミナ系介在物を生成する。
2Al+3O=Al2O3 (1)
このアルミナ系介在物は脱酸直後からお互いに凝集合体し、粗大なアルミナ系介在物となり、鋼板製造時に表面欠陥の原因となる。しかし、溶存酸素を残すようにLaを添加すれば、溶存酸素量に相当する分だけランタンオキサイド系介在物の生成量を低減することができる。さらに、本発明者らは、La添加後の溶存酸素濃度を変化させて、溶鋼中のランタンオキサイド系介在物の凝集挙動を実験的に評価したところ、Laで溶存酸素を殆ど脱酸した状態でもランタンオキサイド系介在物はアルミナ系介在物に比べて凝集合体が起こり難いこと、さらに溶存酸素濃度を0.001質量%以上にすると溶存酸素濃度の増加と共に、ランタンオキサイド系介在物がさらに微細化することを見いだした。この理由は、アルミナ系介在物からランタンオキサイド系介在物に組成を変化させること、さらに溶鋼中の溶存酸素濃度を高くすることの両効果により、介在物と溶鋼間の界面エネルギーが大きく低下し、介在物同士の凝集合体が抑制されたためである。本発明によって得られた鋳片内の介在物分散状態を評価したところ、直径0.5μmから30μmの微細酸化物を鋳片内に1000個/m3以上100000個/m3未満分散しており、このような酸化物分散状態を有する鋳片では圧延後に表面欠陥は発生しなかった。以上の結果から、本発明により介在物量を低減し、その上で介在物を溶鋼中に微細分散させることができるため、鋼板製造時に介在物は表面疵発生の原因とならず、薄鋼板の品質は大きく向上する。
【0009】
薄板用鋼板は、自動車用外板等の加工が厳しい用途に用いられるため、加工性を付加する必要から、C濃度を0.05質量%以下、好ましくは0.01質量%以下にするのが良い。
【0010】
脱炭処理後に多量の溶存酸素を含む溶鋼を脱酸せずにそのまま鋳造すると、凝固時にCO気泡が発生し、鋳造性が大きく低下する。このため、従来はAl等の脱酸材を脱炭処理後の溶鋼中に添加し、溶存酸素が殆ど残らない程度まで溶鋼を脱酸していた。しかし、加工性が求められる薄板用鋼板ではC濃度が低いため、或程度の溶存酸素が残っていても、鋳造時に(2)式で示されるCO気泡発生の反応は起こり難い。
C+O=CO (2)
CO気泡が発生しない限界溶存酸素濃度は、C濃度が0.04質量%で0.006質量%程度、C濃度が0.01質量%で0.01質量%程度となり、さらにC濃度の低い極低炭素鋼では0.015質量%程度まで溶存酸素を残してもCO気泡は発生しない。最近では、連続鋳造機に鋳型内電磁攪拌装置が装備されるようになっており、凝固時に溶鋼を攪拌すれば、より高い溶存酸素、例えば0.02質量%程度まで残してもCO気泡は鋳片に捕捉されない。このため、C濃度が0.01質量%以下の薄鋼板用の溶鋼では、0.02質量%程度まで溶存酸素を残して鋳造することができ、反対に溶存酸素濃度が0.02質量%を超えると薄鋼板用の溶鋼でもCO気泡が発生してしまう。
【0011】
また、溶存酸素濃度が低くなると溶鋼と介在物の界面エネルギーを大きく低下させることができず、ランタンオキサイド系介在物であっても介在物同士の凝集合体が徐々に進み、介在物が一部粗大化する。実験的な検討では、介在物の粗大化を防止するには、0.001質量%以上の溶存酸素が必要であった。
よって、溶存酸素濃度を0.001質量%から0.02質量%に限定した。
【0012】
Laの添加は介在物の微細化に効果的であるが、非常に強い脱酸材であるため、溶鋼中に多量に添加すると、溶存酸素濃度が大きく低下し、本発明の介在物微細化効果が損なわれる。このため、Laは溶鋼中の溶存酸素濃度を0.001質量%から0.02質量%残せる範囲内で添加する必要がある。溶鋼中へのLaの添加は必ずしも高純度のLaを使用する必要はなく、例えばミッシュメタルのような低純度のLa含有合金を使用して十分な効果が得られる。また、薄板用鋼板では、鋼板中の固溶Cを固定する必要から溶鋼中にTiを添加する場合がある。TiはLaと比べて脱酸力が弱いが、それでも溶鋼中に多量に添加すると溶存酸素濃度を低下させてしまう。
【0013】
本発明では、凝集合体し易いアルミナ系介在物を生成させないように、溶鋼中にAlを添加しない。
【0014】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明について説明する。
【0015】
実施例1
転炉での精錬と環流式真空脱ガス装置での処理により炭素濃度を0.003質量%とした300tの取鍋内溶鋼をLaで脱酸し、La濃度0.0002質量%で溶存酸素濃度を0.0014質量%とした。この溶鋼を連続鋳造法で厚み250mm、幅1800mmのスラブに鋳造した。鋳造した鋳片は8500mm長さに切断し、1コイル単位とした。このようにして得られたスラブは、常法により熱間圧延、冷間圧延し、最終的には0.7mm厚みで幅1800mmコイルの冷延鋼板とした。鋳片品質については、冷間圧延後の検査ラインで目視観察を行い、1コイル当たりに発生する表面欠陥の発生個数を評価した。その結果、表面欠陥は発生しなかった。
【0017】
比較例1
転炉での精錬と環流式真空脱ガス装置での処理により炭素濃度を0.003質量%とした取鍋内溶鋼をAlで脱酸し、Al濃度0.04質量%、溶存酸素濃度0.0002質量%とした。この溶鋼を連続鋳造法で厚み250mm、幅1800mmのスラブに鋳造した。鋳造した鋳片は8500mm長さに切断し、1コイル単位とした。このようにして得られたスラブは、常法により熱間圧延、冷間圧延し、最終的には0.7mm厚みで幅1800mmコイルの冷延鋼板とした。鋳片品質については、冷間圧延後の検査ラインで目視観察を行い、1コイル当たりに発生する表面欠陥の発生個数を評価した。その結果、スラブ平均で5個/コイルの表面欠陥が発生した。
【0018】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によると、溶鋼中の介在物を低減し、その上で溶鋼中に介在物を微細分散させることができるため、確実に表面疵を防止できる加工性、成形性に優れた薄鋼板用の低炭素溶鋼を溶製することが可能となる。
Claims (4)
- 低炭素薄鋼板の溶製方法において、炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にAlとTiを添加せずLaを添加し、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.001質量%以上、0.02質量%以下に調整した溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素薄鋼板の溶製方法。
- 低炭素薄鋼板の溶製方法において、真空脱ガス処理により炭素濃度を0.01質量%以下まで脱炭した後、該溶鋼にAlとTiを添加せずLaを添加し、溶鋼中の溶存酸素濃度を0.001質量%以上、0.02質量%以下に調整した溶鋼を鋳造することを特徴とする低炭素薄鋼板の溶製方法。
- 低炭素薄鋼板の溶製方法において、電磁攪拌、或いは電磁場を印加する機能を有する鋳型で鋳造することを特徴とする請求項1又は2に記載の低炭素薄鋼板の溶製方法。
- 請求項1から3のいずれかの方法で溶製し、連続鋳造して得られた鋳片において、直径0.5μmから30μmの微細酸化物が鋳片内に1000個/mm3以上、100000個/mm3未満分散していることを特徴とする連続鋳造鋳片。
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