JP2005029902A - ポリ乳酸繊維 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の課題は、従来一般に認識されていなかったポリ乳酸繊維の欠点である経時的劣化による強度低下、およびそれぞれの用途で有用とされる初期物性の低下を防ぐことにより、長期間使用したり、あるいは保管しておいても初期物性を維持した安定なポリ乳酸繊維を提供することにある。
【解決手段】本発明の課題は、平滑剤成分および活性剤成分を含む油剤が、飽和成分のみを有する化合物からなる油剤を0.01〜2.0重量%付着させたポリ乳酸繊維、とすることによって達成される。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明の課題は、平滑剤成分および活性剤成分を含む油剤が、飽和成分のみを有する化合物からなる油剤を0.01〜2.0重量%付着させたポリ乳酸繊維、とすることによって達成される。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリ乳酸繊維に関するものであり、特に製品を長期間使用したり保管しても経時的な劣化が少なく、初期の物性を維持できるポリ乳酸繊維およびそれを用いたポリ乳酸繊維製品を提供するものである。特に、優れたカーペット用捲縮糸および産業資材用高強度糸に適したポリ乳酸繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリ乳酸繊維は、生分解性を有し、かつ非石油系原料から得られる繊維として、衣料用ばかりでなく、インテリア用および産業資材用繊維として有用されつつある。インテリア用としては従来のナイロンやポリプロピレン繊維捲縮糸のような優れた捲縮特性が得られるようになれば、カーペット用途に広く拡大する素材として期待されている。また、産業資材用途では、より高強度およびあるいは低収縮性の改良によって用途拡大が期待されている。そのため、ポリ乳酸繊維の物性改良についての製糸技術の検討がなされ、種々の改良技術が提案されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸繊維の物性改良を進めるため、比較的過酷な製糸条件を適用して限界的な物性を引き出すことに挑戦している過程で、従来一般に認識されていなかったポリ乳酸繊維特有の重大な問題が顕在化し、その解決なしには広く用途展開することが困難であることが分かった。その問題とは、即ち、製糸して得られたポリ乳酸繊維製品が、長期間保管しているうちに著しく強度低下し、また、それぞれの用途で必要とする特性、機能を著しく低下することであった。そして、更に、保管条件が高温かつ高湿の下では比較的短期間でも著しい劣化が生じることから、早急な本質的改善が迫られていた。
【0004】
特に、カーペット用等に用いられる捲縮糸の場合は、捲縮加工工程における高温度の加工処理によって形成された繊維構造が、また産業資材用の高強度糸の場合は、高温延伸および高温での熱固定処理、さらには高延伸倍率によって形成された繊維構造が、いずれも経時的劣化を引き起こし易いことが明らかになったのである。ポリ乳酸繊維は、本来生分解性を有するとはいうものの、製品としての機能を維持することが必要な期間は劣化しないことが必要である。しかし、上記の通り、製品設計の意図とは異なり、保管中に著しい劣化を起こす場合があるのである。
【0005】
従来のポリ乳酸繊維に関する改善技術においては、かかる経時的劣化に注目し、その改善を図ったものは見あたらない。
【0006】
本発明は、ポリ乳酸繊維に特定の油剤成分を付与することによって上記経時劣化を解決するものであるが、従来技術には同じ目的で改善が図られた例はない。しかし、本発明の手段と一見類似した技術として、ポリ乳酸繊維の油剤の効果に着目している例、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3がある。
【0007】
また、本発明手段と類似した油剤成分に着目している例、例えば特許文献4がある。
【0008】
特許文献1は、「コストが高くなく、かつ安全性な抗菌性成形品を提供することを課題とし、ポリ乳酸系重合体からなる成型品であり、成型品には親水性の界面活性剤が付与され、静菌活性値が2.2以上であることを特徴とする抗菌性成型品」とすることによって解決されるとしている。しかし該技術は経時劣化防止の効果はなく、本発明のポリ乳酸繊維の経時劣化防止を目的とした本発明とは明らかに異なるものである。
【0009】
特許文献2は、「生分解性があり、かつ高強度で、優れた耐摩耗性を有する品質の安定したポリ乳酸系繊維とその製造方法を適用すること」を課題とし、「ポリ乳酸系重合体からなり、強度が4.0g/d以上、繊維/繊維の耐摩耗性が5000回以上である耐摩耗性ポリ乳酸系繊維」とすることによって解決されるとしている。そして、具体的な方法として、「未延伸糸の水分率を3%以下に調整した後、熱延伸することを開示し、更に、「非水系油剤を用いる」ことも述べられている。しかしながら、該技術は目的とする高強度と耐摩耗性という繊維の初期特性を向上させるための技術であり、ポリ乳酸繊維の経時的劣化防止を目的とした本発明とは明らかに異なるものである。
【0010】
特許文献3は、「カーマットやカーペットへの使用に適した嵩高性を有する生分解性繊維およびその製造方法」を課題とし、「脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性重合体からなるマルチフィラメントであって、各フィラメントがランダム方向に屈曲、あるいは互いに絡み合い、ループやタルミを有し、かつマルチフィラメントの捲縮率が5〜25%である、嵩高性を有する生分解性繊維」とすることによって解決されるとしている。即ち、該技術はカーペット用としての捲縮特性、即ち初期特性の優れたポリ乳酸繊維捲縮糸およびその製造方法に関する技術であり、ポリ乳酸繊維の経時的劣化防止を目的とした本発明とは明らかに異なるものである。また、「紡糸油剤としては、繊維に平滑性や帯電防止性を付与するものであり、鉱物油、有機酸、エーテル類等を含む公知のものが挙げられる。紡糸油剤の付与量は特に限定するものではなく、繊維質量に対し、0.5〜1.0重量%とすることが好ましい。」と記載されており、一般的な油剤を用いるにとどまっている。
【0011】
特許文献4は、「耐熱性を有し、低価格であるノンコートエアバック用基布を提供すること」を課題とし、カバーファクターが2000以上、通気量0.5cc/cm2/sec未満の高密度織物に付着している油分が0.1%重量未満であり、油剤成分として、分子量600〜1000のエチレンオキサイドを20〜50%含有する二価脂肪酸エステル化合物(A)、分子量が1000〜5000のポリエーテル系高分子活性剤(B)、および分子量600〜1000のジエチレンオキサイドを25〜55重量%含有するポリアルキレングリコールエステル化合物(C)であるノンコートエアバック用基布」とすることによって解決されるとされている。しかしながら、該技術はウォータージェット製織時に充分洗浄されやすいことを特徴とした技術であり、更には高密度織物はナイロン66、ナイロン6、ナイロン46またはポリエチレンテレフタレート繊維からなり、ポリ乳酸繊維の経時的劣化防止を目的とした本発明とは明らかに異なるものである。
【0012】
【特許文献1】
特開2000−239969号公報
【0013】
【特許文献2】
特開2000−136435号公報
【0014】
【特許文献3】
特開2002−105752号公報
【0015】
【特許文献4】
特許第3334252号
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、従来一般に認識されていなかったポリ乳酸繊維の欠点である経時的劣化による強度低下や、それぞれの用途で必要とされる初期物性の低下を防ぐことにより、長期間使用したり、保管しておいても初期物性を維持した安定なポリ乳酸繊維を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明のポリ乳酸繊維は飽和結合のみを有する化合物からなる平滑剤成分と飽和結合のみを有する化合物からなる活性剤成分とを主成分とする油剤が、0.01〜2.0重量%付着していることを特徴とする。
【0018】
そして、本発明のポリ乳酸繊維に於いては、次の(1)〜(5)がそれぞれ好ましい態様として挙げられる。
(1)前記油剤が、非水系油剤であること。
(2)前記平滑剤成分の飽和結合のみを有する化合物が高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)であり、また前記活性剤の主成分である飽和結合のみを有する化合物がポリエーテル系高分子活性剤(b)、およびエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)であること。
(3)前記高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)が炭素数10〜30の高級脂肪酸と炭素数10〜30の一価の高級飽和アルコールまたは2〜6価の多価アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a1)、また前記ポリエーテル系高分子活性剤(b)が分子量が1000〜5000のポリエ−テル系高分子活性剤(b1)、および前記エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)が分子量600〜1000のエチレンオキサイドを25〜55重量%含有するポリオキシポリオールエステル化合物(c1)であり、前記(a1)を40〜70重量%、前記(b1)を5〜30重量%、前記(c1)を10〜50重量%の割合で混合した化合物からなること。
(4)ポリ乳酸繊維が以下の(イ)〜(ニ)の特性を有する捲縮糸であることを特徴とする。
【0019】
(イ)強度=1.0〜3.0cN/dtex
(ロ)捲縮伸長率=3〜15%
(ハ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
【0020】
(ニ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の捲縮伸長率の保持率が90〜100%。
(5)ポリ乳酸繊維が以下の(イ)〜(ハ)の特性を有する高強度繊維であること。
【0021】
(ホ)強度=3.0〜8.0cN/dtex
(ヘ)乾熱収縮率=1〜10%
(ト)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のポリ乳繊維は、ポリ乳酸ポリマを溶融紡糸して延伸および/あるいは更に捲縮加工して得られ、その目的からマルチフィラメント繊維が好ましい。
【0023】
該ポリ乳酸繊維の原料とするポリ乳酸ポリマは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主成分とする乳酸を重合してなるポリ乳酸である。ここでL−乳酸を主成分とするとは、構成成分の60重量%以上がL−乳酸よりなっていることを意味しており、40重量%を超えない範囲でD−乳酸を含有するポリエステルである。D−乳酸を主成分とする、との場合はその逆である。更には、構成するポリマの分子鎖の全繰返し単位の80重量%以上、特に90重量%以上、より好ましくは95重量%以上が乳酸であるポリ乳酸であり、本発明の構成要件および目的を損なわない範囲であれば他のポリマのブレンド、共重合、添加物を含んでいても良い。
【0024】
また、本発明におけるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。あるいは、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを可塑剤として用いることができる。
【0025】
上記から選ばれる本発明におけるポリ乳酸ポリマは、融点が130℃以上で、重量平均分子量が10万以上、好ましくは15〜30万の高分子量ポリ乳酸ポリマである。
【0026】
また本発明のポリ乳酸繊維には、通常合成繊維に用いられる艶消し剤、難燃剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。しかし、本発明のポリ乳酸繊維は、その生分解性および非石油系原料であるという特徴を活かし、環境に優しい製品として好ましい用途に用いるため、石油系ポリマのブレンド、該成分の共重合等は極力避け、また各種添加剤も、重金属化合物や環境ホルモン物質は勿論、現時点でその懸念が予想される化合物の一切を用いないことが好ましい。
【0027】
本発明のポリ乳酸繊維は、飽和結合のみを有する化合物からなる平滑剤成分および活性剤成分を主成分とする油剤が、0.01〜2.0重量%付着していることを特徴とする。
【0028】
一般に繊維用油剤は、平滑剤、活性剤、極圧剤、制電剤、乳化剤等を主成分とし、更に酸化防止剤、シリコーンやワックス等を添加剤成分とし、用途や目的に応じて化合物を選択し、かつ適切な配合比率を選んで組成を決定する。
【0029】
しかるに、ポリ乳酸繊維は、通常の方法で油剤を付与して製造した繊維を長期間、例えば6ケ月以上、常温・常湿の雰囲気下に保管しておくと、強度低下が生じ、かつ捲縮伸長率、摩擦特性、耐摩耗性、熱寸法安定性等が著しく低下することが分かった。さらに、この初期特性の大幅な低下は、従来から一般的に使用されていた油剤を用いたときに生じることが分かった。かかる経時的劣化は、特定の製糸条件で製造されて形成された繊維構造を有するポリ乳酸繊維を、数ケ月以上の長期間放置した場合に顕著に起こる現象であるため、従来殆んど認識されておらず、従って対策がなされていなかったのである。現時点で分かっていることは、高温で捲縮加工された捲縮加工糸や、高温かつ高倍率で延伸され、また高温熱固定処理された産業資材用高強力糸や低収縮糸等で経時劣化が生じ易く、また、高温・高湿度雰囲気下で顕著に起こること等であり、その劣化メカニズムについては正確に分かっていない。また、経時劣化による強度低下にもかかわらず分子鎖切断は僅少であることから、加水分解のような化学劣化よりは繊維構造の変化による強度低下と推定されている。また、劣化した繊維フィラメントの表面は、繊維軸に直角方向にクラック状の縞模様や、顕著な場合には亀裂や凹凸が観察され、強度低下、摩擦特性の変化、耐摩耗性等の低下を生じる原因となっている。
【0030】
本発明者らは、かかる経時劣化現象を促進しているのが特定の油剤成分であると推定し、油剤単成分および一般に混合して用いられる油剤組成について、経時的な強度低下をパラメーターに評価したところ、飽和結合のみを有する化合物からなる平滑剤成分と飽和結合のみを有する化合物からなる活性剤成分とを主成分とする油剤を用いたときには共通して強度低下が少ないことを見いだした。
【0031】
一方、不飽和結合を有する化合物からなる平滑剤成分を有する油剤を用いた場合は、強度低下を起こすことが分かった。
【0032】
例えば、一般に平滑剤成分として有用とされる、オレイン酸などの高級不飽和脂肪酸、オレイルアルコールなどの高級不飽和アルコール、あるいはイソ18〜24アルコールオレートなどの高級不飽和脂肪酸エステル、また、活性剤として一般的に用いられるオレイルアルコールエチレンオキサイドなど高級不飽和アルコールアルキレンオキサイドEO付加物など不飽和成分を含有する化合物がポリ乳酸繊維に付与されると、経時的劣化が生じることが確認された。
【0033】
本発明のポリ乳酸繊維に用いられる油剤として適正な油剤成分および組成は具体的には、高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)を主成分とする平滑剤と、ポリエーテル系高分子活性剤(b)、およびエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)等を主成分とする活性剤、とを主成分とする油剤であって、いずれの油剤成分も不飽和結合を含まない化合物である。また、酸化防止剤、シリコーンおよびワックス等の添加剤成分を、必要に応じて微量添加することが行われる。
【0034】
本発明におけるポリ乳酸繊維用油剤を更に具体的に述べると、高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)は炭素数10〜30高級脂肪酸と炭素数10〜30高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a1)、ポリエーテル系高分子活性剤(b)は分子量が1000〜5000のポリエーテル系高分子活性剤(b1)、およびエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)は分子量600〜1000のエチレンオキサイドを25〜55重量%含有するポリオキシポリオールエステル化合物(c1)であることが好ましく、前記(a1)を40〜70重量%、前記(b1)を5〜30重量%、前記(c1)を10〜50重量%の割合で混合した混合物であって、いずれの油剤成分も不飽和結合を含まない化合物が好ましい。
【0035】
更に具体的に述べると、高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a1)はイソオクチルアルコールステアリン酸エステル、イソオクチルアルコールパルミチン酸エステル、ラウリルアルコールラウリン酸エステル、トリデシルアルコールステアリン酸エステルなどの一価の高級アルコールと高級飽和脂肪酸とのエステル化合物、イソC24アルコール/チオジプロピオン酸エステル、イソステアリルアルコール/チオジプロピオン酸エステル、炭素数11〜15のアルコールEO付加物などの一価の高級アルコールと2塩基酸とのエステル化合物、また、ネオペンチルグリコールジイソステアリン酸エステル、トリメチロールプロパントリイソステアリン酸エステル、トリメチロールプロパントリラウリン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラペラルゴン酸エステル、ソルビタンテトライソステアリン酸エステルなどの多価アルコールと高級飽和脂肪酸とのエステル化合物等である。
【0036】
ポリエーテル系高分子活性剤(b1)とは、分子量が1000〜5000、好ましくは2000〜3000の、例えば高級アルコールアルキレンオキサイド付加物および多価アルコールアルキレンオキサイド付加物から選ばれた化合物に、モノカルボン酸および/またはジカルボン酸を反応して得られる非イオン活性剤である。
【0037】
また、上記多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物とは、例えば多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加したものであって、例えば硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、ソルビトールエチレンオキサイド付加物およびトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、などがある。中でも硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、ソルビトールエチレンオキサイド付加物および高級アルコールアルキルレンオキサイド付加物が好適である。
【0038】
更に、上記モノカルボン酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、デヘニン酸およびイソステアリン酸などがある。
【0039】
また、上記ジカルボン酸の具体例としては、マレイン酸、チオジプロピオン酸、セバシン酸、テレフタル酸およびアジピン酸等があるが、中でもマレイン酸、アジピン酸およびチオジプロピオン酸が好ましい。
【0040】
エチレンオキサイド(EO)および/またはプロピレンオキサイド(PO)付加ポリオキシポリオールエステル(c1)とは、分子量が600〜1000であり、ブタノールEO/PO付加物、イソオクチルアルコールEO/PO付加物、ステアリルアルコールEO/PO付加物、炭素数12〜14のアルコールEO付加物など飽和アルコールのアルキレンオキサイド化合物、トリメチロールプロパンEO付加物ジステアリン酸エステルなどの多価アルコールアルキレンオキサイド付加物と飽和脂肪酸とのエステル化合物、トリメチロールプロパンEO/PO付加物、ペンタエリスリトールEO/PO付加物、ソルビタンEO/PO付加物など多価アルコールアルキレンオキサイド付加物などがある。
【0041】
上記した本発明における油剤は水系エマルジョンとして用いることもできるが、非水系油剤として用いることが好ましい。希釈剤としては炭素数11〜15の鉱物油が用いられるが、好ましい希釈剤としては炭素数12〜13の鉱物油である。水系エマルジョンとして用いる場合は、不飽和基を含まないという制約の下で最適な乳化剤を選ぶことが難しいからである。
【0042】
上記油剤成分は通常低分子鉱物油または水で希釈し、混合した溶液として使用される。
【0043】
本発明において、油剤のポリ乳酸繊維への付着量は0.01〜2.0重量%である。好ましくは0.03〜1.0重量%、より好ましくは0.05〜0.5重量%である。0.01%未満では、繊維油剤として期待される機能が得られない。一方、2.0重量%以上付与すると、コストがかかるため好ましくないことは勿論であるが、前記した通り、油剤付与に伴う経時劣化のメカニズムが未解明であるため、油剤付与に伴う危険を避ける意味で多量に付与しないことが好ましい。
【0044】
次に、本発明のポリ乳酸繊維の典型的な態様の一つは、以下の(イ)〜(ニ)の特性を有する捲縮糸である。
(イ)強度=1.0〜3.0cN/dtex
(ロ)捲縮伸長率=3〜15%
(ハ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
(ニ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の捲縮伸長率の保持率が90〜100%。
【0045】
強度は1.0〜3.0cN/dtexであり、カーペット用捲縮糸として必要十分なレベルである。1.0cN/dtex未満では、強度が低すぎ、摩耗し易く耐久性が不十分である。一方、強度は高い方が好ましいが、現在の技術では3.0cN/dtexを越えるポリ乳酸捲縮糸を得ることは困難である。
【0046】
捲縮伸長率は3〜15%、好ましくは5〜15%であり、カーペット用捲縮糸として十分な嵩高性と風合いを有する。3%未満では嵩高性に劣り、15%を越えると捲縮が強すぎフェルトライクとなるため好まれない。
【0047】
本発明のポリ乳酸繊維からなる捲縮糸は、経時劣化が殆んどなく、20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率および捲縮伸長率の保持率が90〜100%である。90%未満の捲縮糸は、更に高温・高湿の保管条件下においては品質低下が無視できないレベルになるため、避けなければならない。強度保持率および捲縮伸長率保持率が90%未満となった捲縮糸のフイラメント表面には、亀裂や凹凸を観察することができる。
【0048】
別の態様として、本発明のポリ乳酸繊維に適した産業資材用途に用いられる高強度繊維は以下の(ホ)〜(ト)の特性を有する。
(ホ)強度=3.0〜8.0cN/dtex
(ヘ)乾熱収縮率=1〜10%
(ト)20℃、65%雰囲気中で3ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
【0049】
強度は3.0〜8.0cN/dtex、好ましくは5.0〜8.0cN/dtexの高強度である。3.0cN/dtex未満では産業資材用途に広く展開することが困難である。強度は高い程好ましいが、現状技術では8.0cN/dtexを越えるポリ乳酸繊維を実用的に製造することは困難である。
【0050】
乾熱収縮率は1〜10%、好ましくは1〜5%と、比較的低収縮率の範囲がよい。一般に産業資材用途で低収縮糸を用いられる用途では、収縮率は低いほど好ましいが、1%未満の低収縮率は達成が困難である。10%以上の高収縮率は比較的容易に製造できるものの、特定の用途に限って用いられるだけで、一般的にはあまり用いられない。
【0051】
本発明のポリ乳酸繊維は、経時劣化が殆んどなく、20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後のポリ乳酸繊維の特性は、殆ど初期物性を維持している。例えば、強度では強度保持率90〜100%である。90%未満の場合、よりより過酷な高温・高湿の保管条件下では更に低下が著しくなるため、避けなければならない。90%未満のポリ乳酸繊維は実質的に産業資材用途に適用できない。
【0052】
次に、本発明のポリ乳酸繊維について、カーペット用捲縮糸および産業資材用高強度糸の製造法を例を以下に該述する。
【0053】
まず、カーペット用捲縮糸について記述する。ポリ乳酸ポリマは、ポリマの水分率を0.4%以下とした後、溶融紡糸に供する。
【0054】
上記ポリ乳酸ポリマをエクストルーダー型押し出し機に供給して210〜240℃の温度で溶融し、紡糸パックを通して濾過し、口金細孔から紡糸する。口金孔は種々の異型断面形状の捲縮糸が得られるよう異型断面孔を有するの口金が用いられる。口金孔の形状および寸法は、ポリ乳酸ポリマの溶融粘度、紡糸温度、紡糸後の冷却固化条件を考慮し、目的とする断面が得られるよう設計したものを用いる。本発明における捲縮糸はY型、△型、扁平型を基本とし、それぞれの断面に突起がついたものや一部が欠けたもの、あるいは中空部を1以上有する異型断面糸等であって、従来から知られているものから選ぶことができる。特に、本発明に適した断面形状は、Y型および△形状、およびそれらの中空であって、単糸断面の外接円の直径(B)と内接円の直径(A)の比(B/A)で表した変形度が1.5〜5.5の範囲の断面形状が好ましい。
【0055】
紡糸された糸条は冷風または温風を吹きつけられ冷却固化される。風の温度は10〜80℃、好ましくは15〜60℃である。
【0056】
冷却固化した糸条に本発明で特定した油剤をオイリングローラー、給油ガイド、あるいはミスト噴射装置などを用い一定量付与した後、所定の速度で回転する引き取りロールに捲回して引き取る。
【0057】
上記引き取りロールの好ましい速度は300〜3000m/minである。本発明における捲縮糸の製造方法は1ステップで捲縮糸を製造する直接紡糸延伸・捲縮加工プロセスを特徴とするため、上記引き取り速度が好ましい。300m/minでも本発明にかかる捲縮糸は得られるが、生産効率が低いため好ましくない。引き取り速度が3000m/minを超えると、直接紡糸延伸・捲縮加工プロセスにおいて、延伸速度および捲縮加工速度が高速となり過ぎ、特に捲縮加工速度が4000m/minを超えると、現在の実用プロセスでは製造が困難である。
【0058】
引き取られた未延伸糸は連続して延伸されるが、1段または2段の多段熱延伸法が採用される。延伸倍率は1.5〜5.0倍の範囲である。熱延伸が終了した糸条は連続して捲縮加工プロセスで、加熱流体捲縮付与装置に導入して捲縮が付与される。加熱流体捲縮付与装置は加熱高圧流体を糸条に噴射して単糸をランダムに捲縮させ、3次元ループやタルミを形成させる加熱流体噴射ノズル装置、上記捲縮糸を更に加熱流体の下に圧縮熱処理を行うための圧縮熱処装置、および捲縮加工された糸条を冷却するための回転移送装置からなる。加熱流体噴射ノズルの処理流体としては加熱空気もしくは過熱蒸気が好ましく用いられる。通常糸条に付与する加熱流体の温度としては110℃〜180℃が好ましい。また、圧縮熱処理装置で糸条を堆積させ回転移送装置上へ安定して取り出す。そして、回転移送装置により、圧縮熱処理により堆積したプラグ状の糸条を、装置表面のパンチング孔でのエアー吸引により冷却する。
【0059】
次に、回転移送装置上の捲縮糸条は該装置上から順次引き取られ、回転速度の異なる2対のネルソンタイプロールまたはセバレート型ロールに捲回されて捲縮を解きほぐされる。このストレッチは糸条の温度が30〜60℃で行う。通常、この時の張力をストレッチ張力として常時モニタリングして品質管理を行う。このストレッチ張力は前記捲縮加工プロセスにおける捲縮加工前の原糸の特性、捲縮処理条件および捲縮を解きほぐす条件等と密接に関係し、本発明に係る捲縮糸の特性が決定される。好ましいストレッチ張力は、0.01〜0.2cN/dtexであり、更に好ましくは0.03〜0.1cN/dtexである。
【0060】
次に、捲縮糸条は巻き取り機にチーズ状に巻取られる。巻取り張力は通常0.1cN/dtex以下の低張力である。
【0061】
かくして、製造された捲縮糸は前記捲縮糸の特性を有する。
【0062】
次に産業資材用高強度糸について記述する。溶融紡糸に供するポリ乳酸ポリマの水分率は、水分率が0.05%以下となるよう乾燥して用いる。
【0063】
紡糸温度は200〜250℃で行い、通常円断面糸を製糸するが、用途に応じて扁平断面や中空断面糸を製糸する場合は前記捲縮糸の製糸と同様に異型断面口金を用い、紡糸条件を考慮して行う。
【0064】
口金直下には加熱筒を取り付けて、口金面から10〜50cmの雰囲気を180〜280℃に加熱し、紡出糸条を該徐冷ゾーンを通過させた後、冷風または温風で冷却固化させる。風の温度は10〜80℃、好ましくは20〜60℃である。
【0065】
冷却固化した糸条に本発明で特定した油剤をオイリングローラー、給油ガイド、あるいはミスト噴射装置などを用い一定量付与した後、所定の速度で回転する引き取りロールに捲回して引き取る。引き取りロールの好ましい速度は300〜3000m/minである。本発明のポリ乳酸繊維からなる産業資材用高強度糸の製造は、1ステップ法の直接紡糸延伸プロセスで行うため、品質および生産効率を含め工業的に最も適当な引き取り速度である。
【0066】
引き取られた未延伸糸は連続して延伸されるが、高強度糸を製造するため通常は2段以上の多段熱延伸法が適用される。延伸倍率は2.0〜8.5倍で、未延伸糸の配向の程度に応じて延伸倍率が設定される。通常、限界延伸倍率の85〜93%に設定することにより、本発明のポリ乳酸繊維の強度および伸度が得られる。多段延伸に用いられるロールはネルソンタイプが好ましく、順次表面速度を高く設定したロールに捲回して延伸する。ロールの温度も順次高く設定し、最終熱延伸および熱固定温度は、120〜170℃である。最終延伸ロールの後にはリラックスロールを設置して、1〜10%の弛緩処理を行う。弛緩処理された糸条は巻き取り機で巻き取る。巻き取り張力は通常0.2cN/dtex以下で行う。
【0067】
かくして、製造されたポリ乳酸繊維は、前記高強度糸の特性を有する。
【0068】
【実施例】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明するが、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0069】
[油分付着量]試料10gにn−へキサン120mlを添加して油剤成分を溶解させ、油剤が溶解したn−へキサンを採取しn−へキサンを回収した後、真空乾燥し残留重量を測定した。
【0070】
[相対粘度]オストワルド粘度計を用いて、オルソクロルフェノール10mlに対し、試料0.3gを溶解した溶液の相対粘度ηrを25℃で測定した。測定は、2回行い、その平均値を求めた。
ηr=t/t0
t:溶液の落下秒数
t0:溶媒(オルソクロルフェノールのみ)の落下秒数
【0071】
[繊度]JIS L1090により測定した。
【0072】
[強度]オリエンテック社製テンシロン引張り試験機を用い、試長250mm、引張速度300mm/分の条件で強力を測定した。
強度は強力を測定したサンプルに対応するそれぞれの総繊度で除した値である。
【0073】
[強度保持率]20℃、65%RHの温湿度調整室に6ケ月乾保管した後に測定した強度を初期の強度で除し、%表示した値である
[捲縮伸長率]温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中で24時間以上調整したチーズパッケージから解舒した捲縮糸を、無荷重状態で30分間沸騰水で浸漬処理した後、平衡水分率まで乾燥し、これを沸騰水処理後捲縮糸の試料とする。この試料に表示dtex×0.0176mN(1.8mg/dtex)の張力を与える初荷重をかけ30秒経過した後に、試料長50cm(L1)にマークをつける。次いで、同試料に表示dtex×0.882mN(90mg/dtex)の張力を与える定荷重をかけて30秒経過後に、伸びた試料長(L2)を測定する。次いで、下記式により、捲縮伸長率(%)を求める。測定は2回行い、その平均値を求める。
捲縮伸長率(%)=[(L2−L1)/L1]×100
【0074】
[捲縮伸長率保持率]20℃、65%RHの温湿度調整室に6ケ月乾保管した後に測定した捲縮伸長率を初期の捲縮伸長率の値で除し、%表示した値である。
【0075】
[変形度]単繊維を切断後、光学顕微鏡を用いて単繊維断面の外接円の直径(B)と内接円の直径(A)を測定し、次式により求めた。単繊維5本測定して、その平均値を求めた。
変形度=(B)/(A)
【0076】
[乾熱収縮率] 試長約50cmのループ状サンプルに表示dtex×0.45mNの荷重をかけ、試料長L1を測定する。次いで、荷重を外し同試料を150℃のオーブン内で30分間処理した後、1時間以上放置する。試料に再び表示dtex×0.45mNの荷重をかけて試長L2を測定する。測定は2回行い、その平均値を求める。
乾熱収縮率(%)=[(L1−L2)/L1]×100
【0077】
[フィラメント表面観察]マルチフィラメントの任意の位置の全単繊維をイオンコーター(Eiko Engineering社製 IB−3)を用い金蒸着し、作成したサンプルをSEM(トプコン株式会社製 ABT−55)を用いて観察、下記のように区分した。
◎ : クラックなし
○ : クラック僅かにある
▲ : 亀裂・凹凸が全面にあり
【0078】
[毛羽の発生状況]巻き上がったドラムサンプルの表面および測面を目視にて観察し、下記のように表示した。
◎ : 毛羽が殆ど見られない
○ : 毛羽が僅かに見られる
▲ : 毛羽が多発
【0079】
(実施例1〜7、および比較例1〜5)
実施例1:重量平均分子量が18600、L−乳酸単位98%含有のポリ乳酸のチップをエクストルダー型紡糸機で溶融し、吐出孔形状がY型である96ホールの口金より吐出させた。このとき、紡糸温度は225℃とし、口金直下冷却条件をコントロールすることで、変形度1.6のY型断面のポリ乳酸マルチフィラメントを得た。
【0080】
冷却固化された未延伸糸に、オイリングローラーを用い種々の本発明油剤を付与し、ネルソン型の引取りロールに捲回して700m/分の速度で引取った。油剤の組成は表1に示した。引き取り糸は引き続き75℃に加熱されたフィードロールに捲回して予熱した後、110℃に加熱された延伸ロールとの間で2.5倍に延伸した。次いで延伸糸条は捲縮加工装置に送り、150℃に加熱された圧空によって捲縮加工処理した。次に捲縮加工糸にストレッチをかけて捲縮を解きほぐした後、0.05cN/dtexの巻取張力で巻き取った。かくして表2の実施例1に示したポリ乳酸捲縮糸を得た。
【0081】
実施例2〜7:油剤の種類および付着量を変更した以外は実施例1と同様にして製造したポリ乳酸捲縮糸である。
比較例1〜5:本発明における油剤とは異なる油剤種類および油剤付着量のポリ乳酸捲縮糸の特性を示したものである。
【0082】
上記得られた種々のポリ乳酸捲縮糸の特性およびその製造条件、そして、20℃、65%RHの温湿度調整室に6ケ月間保管した後の捲縮糸の特性を測定して表3に示した。
【0083】
本発明のポリ乳酸捲縮糸は、6ケ月保管後も初期特性と殆ど変化しなかったが、比較例に示したポリ乳酸捲縮糸は、6ケ月保管後は著しく初期特性を低下させるものがあった。
【0084】
(実施例8〜15、および比較例6〜10)
実施例8:重量平均分子量が200000、L−乳酸単位98%含有のポリ乳酸のチップをエクストルダー型紡糸機で溶融し、孔経0.5mmφ、192ホールの口金から紡出した。口金直下には、長さ30cmの加熱筒を取り付け、加熱筒内雰囲気温度を220℃に制御した。紡出糸は該加熱雰囲気中を通過させた後、20℃の冷風を35m/分の速度で吹きつけ冷却固化した。冷却長は150cmとし、ユニフロー型冷却装置を用いた。
【0085】
次いで、冷却固化した紡出糸条に油剤を付与し、所定速度で回転するネルソン型の引き取りロール(1FR)に捲回して、引き取った。油剤組成は表1に示した。付着量は、最終製品繊維の付着量が本発明の特定した範囲となるよう調整して付与した。
【0086】
引き取った糸条は連続して順次回転速度を速めた給糸ロール(2FR)、第1延伸ロール(1DR)、第2延伸ロール(2DR)に捲回して、プレストレッチ(1FR〜2FR間)、1段延伸(2FR〜1DR間)、2段延伸(1DR〜2DR間)をおこなった後、リラックスロール(RR)との間で弛緩処理(2DR〜RR間)をして、巻き取り機で巻き取った。各ロールは全てネルソン型ロールを用い、ロール温度、ロール速度、延伸倍率等は表4の実施例8に示した通りに設定して製糸した。
【0087】
実施例9〜15は、油剤の種類および付着量を変更した以外実施例1と同様にして製造したポリ乳酸繊維である。また、実施例15は、本発明で特定した繊維物性の範囲内で製糸条件を変更して製造した以外、実施例8と同様にして得たものである。
【0088】
比較例6〜10は、油剤、油剤付着量の少なくとも一つが本発明で特定した範囲外で製造されたポリ乳酸繊維である。
【0089】
上記実施例および比較例で得られた種々のポリ乳酸繊維の物性およびその製造条件、そして、20℃、65%RHの温湿度調整室に6ケ月間保管した後のポリ乳酸繊維の特性を測定して表5に示した。
【0090】
本発明のポリ乳酸繊維は、6ケ月保管後も初期物性と殆ど変化しなかったが、比較例に示したポリ乳酸繊維は6ケ月保管後は著しく初期物性を低下させるものがあった。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【発明の効果】
本発明は、ポリ乳酸繊維を長期間使用したり保管しても経時的な劣化が少なく、初期の物性を維持できる安定なポリ乳酸繊維およびポリ乳酸繊維製品を提供できる。
【0097】
上記効果により、特にカーペット用ポリ乳酸捲縮糸および産業資材用高強度ポリ乳酸繊維として広く用途展開することが可能である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリ乳酸繊維に関するものであり、特に製品を長期間使用したり保管しても経時的な劣化が少なく、初期の物性を維持できるポリ乳酸繊維およびそれを用いたポリ乳酸繊維製品を提供するものである。特に、優れたカーペット用捲縮糸および産業資材用高強度糸に適したポリ乳酸繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリ乳酸繊維は、生分解性を有し、かつ非石油系原料から得られる繊維として、衣料用ばかりでなく、インテリア用および産業資材用繊維として有用されつつある。インテリア用としては従来のナイロンやポリプロピレン繊維捲縮糸のような優れた捲縮特性が得られるようになれば、カーペット用途に広く拡大する素材として期待されている。また、産業資材用途では、より高強度およびあるいは低収縮性の改良によって用途拡大が期待されている。そのため、ポリ乳酸繊維の物性改良についての製糸技術の検討がなされ、種々の改良技術が提案されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸繊維の物性改良を進めるため、比較的過酷な製糸条件を適用して限界的な物性を引き出すことに挑戦している過程で、従来一般に認識されていなかったポリ乳酸繊維特有の重大な問題が顕在化し、その解決なしには広く用途展開することが困難であることが分かった。その問題とは、即ち、製糸して得られたポリ乳酸繊維製品が、長期間保管しているうちに著しく強度低下し、また、それぞれの用途で必要とする特性、機能を著しく低下することであった。そして、更に、保管条件が高温かつ高湿の下では比較的短期間でも著しい劣化が生じることから、早急な本質的改善が迫られていた。
【0004】
特に、カーペット用等に用いられる捲縮糸の場合は、捲縮加工工程における高温度の加工処理によって形成された繊維構造が、また産業資材用の高強度糸の場合は、高温延伸および高温での熱固定処理、さらには高延伸倍率によって形成された繊維構造が、いずれも経時的劣化を引き起こし易いことが明らかになったのである。ポリ乳酸繊維は、本来生分解性を有するとはいうものの、製品としての機能を維持することが必要な期間は劣化しないことが必要である。しかし、上記の通り、製品設計の意図とは異なり、保管中に著しい劣化を起こす場合があるのである。
【0005】
従来のポリ乳酸繊維に関する改善技術においては、かかる経時的劣化に注目し、その改善を図ったものは見あたらない。
【0006】
本発明は、ポリ乳酸繊維に特定の油剤成分を付与することによって上記経時劣化を解決するものであるが、従来技術には同じ目的で改善が図られた例はない。しかし、本発明の手段と一見類似した技術として、ポリ乳酸繊維の油剤の効果に着目している例、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3がある。
【0007】
また、本発明手段と類似した油剤成分に着目している例、例えば特許文献4がある。
【0008】
特許文献1は、「コストが高くなく、かつ安全性な抗菌性成形品を提供することを課題とし、ポリ乳酸系重合体からなる成型品であり、成型品には親水性の界面活性剤が付与され、静菌活性値が2.2以上であることを特徴とする抗菌性成型品」とすることによって解決されるとしている。しかし該技術は経時劣化防止の効果はなく、本発明のポリ乳酸繊維の経時劣化防止を目的とした本発明とは明らかに異なるものである。
【0009】
特許文献2は、「生分解性があり、かつ高強度で、優れた耐摩耗性を有する品質の安定したポリ乳酸系繊維とその製造方法を適用すること」を課題とし、「ポリ乳酸系重合体からなり、強度が4.0g/d以上、繊維/繊維の耐摩耗性が5000回以上である耐摩耗性ポリ乳酸系繊維」とすることによって解決されるとしている。そして、具体的な方法として、「未延伸糸の水分率を3%以下に調整した後、熱延伸することを開示し、更に、「非水系油剤を用いる」ことも述べられている。しかしながら、該技術は目的とする高強度と耐摩耗性という繊維の初期特性を向上させるための技術であり、ポリ乳酸繊維の経時的劣化防止を目的とした本発明とは明らかに異なるものである。
【0010】
特許文献3は、「カーマットやカーペットへの使用に適した嵩高性を有する生分解性繊維およびその製造方法」を課題とし、「脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性重合体からなるマルチフィラメントであって、各フィラメントがランダム方向に屈曲、あるいは互いに絡み合い、ループやタルミを有し、かつマルチフィラメントの捲縮率が5〜25%である、嵩高性を有する生分解性繊維」とすることによって解決されるとしている。即ち、該技術はカーペット用としての捲縮特性、即ち初期特性の優れたポリ乳酸繊維捲縮糸およびその製造方法に関する技術であり、ポリ乳酸繊維の経時的劣化防止を目的とした本発明とは明らかに異なるものである。また、「紡糸油剤としては、繊維に平滑性や帯電防止性を付与するものであり、鉱物油、有機酸、エーテル類等を含む公知のものが挙げられる。紡糸油剤の付与量は特に限定するものではなく、繊維質量に対し、0.5〜1.0重量%とすることが好ましい。」と記載されており、一般的な油剤を用いるにとどまっている。
【0011】
特許文献4は、「耐熱性を有し、低価格であるノンコートエアバック用基布を提供すること」を課題とし、カバーファクターが2000以上、通気量0.5cc/cm2/sec未満の高密度織物に付着している油分が0.1%重量未満であり、油剤成分として、分子量600〜1000のエチレンオキサイドを20〜50%含有する二価脂肪酸エステル化合物(A)、分子量が1000〜5000のポリエーテル系高分子活性剤(B)、および分子量600〜1000のジエチレンオキサイドを25〜55重量%含有するポリアルキレングリコールエステル化合物(C)であるノンコートエアバック用基布」とすることによって解決されるとされている。しかしながら、該技術はウォータージェット製織時に充分洗浄されやすいことを特徴とした技術であり、更には高密度織物はナイロン66、ナイロン6、ナイロン46またはポリエチレンテレフタレート繊維からなり、ポリ乳酸繊維の経時的劣化防止を目的とした本発明とは明らかに異なるものである。
【0012】
【特許文献1】
特開2000−239969号公報
【0013】
【特許文献2】
特開2000−136435号公報
【0014】
【特許文献3】
特開2002−105752号公報
【0015】
【特許文献4】
特許第3334252号
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、従来一般に認識されていなかったポリ乳酸繊維の欠点である経時的劣化による強度低下や、それぞれの用途で必要とされる初期物性の低下を防ぐことにより、長期間使用したり、保管しておいても初期物性を維持した安定なポリ乳酸繊維を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明のポリ乳酸繊維は飽和結合のみを有する化合物からなる平滑剤成分と飽和結合のみを有する化合物からなる活性剤成分とを主成分とする油剤が、0.01〜2.0重量%付着していることを特徴とする。
【0018】
そして、本発明のポリ乳酸繊維に於いては、次の(1)〜(5)がそれぞれ好ましい態様として挙げられる。
(1)前記油剤が、非水系油剤であること。
(2)前記平滑剤成分の飽和結合のみを有する化合物が高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)であり、また前記活性剤の主成分である飽和結合のみを有する化合物がポリエーテル系高分子活性剤(b)、およびエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)であること。
(3)前記高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)が炭素数10〜30の高級脂肪酸と炭素数10〜30の一価の高級飽和アルコールまたは2〜6価の多価アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a1)、また前記ポリエーテル系高分子活性剤(b)が分子量が1000〜5000のポリエ−テル系高分子活性剤(b1)、および前記エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)が分子量600〜1000のエチレンオキサイドを25〜55重量%含有するポリオキシポリオールエステル化合物(c1)であり、前記(a1)を40〜70重量%、前記(b1)を5〜30重量%、前記(c1)を10〜50重量%の割合で混合した化合物からなること。
(4)ポリ乳酸繊維が以下の(イ)〜(ニ)の特性を有する捲縮糸であることを特徴とする。
【0019】
(イ)強度=1.0〜3.0cN/dtex
(ロ)捲縮伸長率=3〜15%
(ハ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
【0020】
(ニ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の捲縮伸長率の保持率が90〜100%。
(5)ポリ乳酸繊維が以下の(イ)〜(ハ)の特性を有する高強度繊維であること。
【0021】
(ホ)強度=3.0〜8.0cN/dtex
(ヘ)乾熱収縮率=1〜10%
(ト)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のポリ乳繊維は、ポリ乳酸ポリマを溶融紡糸して延伸および/あるいは更に捲縮加工して得られ、その目的からマルチフィラメント繊維が好ましい。
【0023】
該ポリ乳酸繊維の原料とするポリ乳酸ポリマは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主成分とする乳酸を重合してなるポリ乳酸である。ここでL−乳酸を主成分とするとは、構成成分の60重量%以上がL−乳酸よりなっていることを意味しており、40重量%を超えない範囲でD−乳酸を含有するポリエステルである。D−乳酸を主成分とする、との場合はその逆である。更には、構成するポリマの分子鎖の全繰返し単位の80重量%以上、特に90重量%以上、より好ましくは95重量%以上が乳酸であるポリ乳酸であり、本発明の構成要件および目的を損なわない範囲であれば他のポリマのブレンド、共重合、添加物を含んでいても良い。
【0024】
また、本発明におけるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。あるいは、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを可塑剤として用いることができる。
【0025】
上記から選ばれる本発明におけるポリ乳酸ポリマは、融点が130℃以上で、重量平均分子量が10万以上、好ましくは15〜30万の高分子量ポリ乳酸ポリマである。
【0026】
また本発明のポリ乳酸繊維には、通常合成繊維に用いられる艶消し剤、難燃剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。しかし、本発明のポリ乳酸繊維は、その生分解性および非石油系原料であるという特徴を活かし、環境に優しい製品として好ましい用途に用いるため、石油系ポリマのブレンド、該成分の共重合等は極力避け、また各種添加剤も、重金属化合物や環境ホルモン物質は勿論、現時点でその懸念が予想される化合物の一切を用いないことが好ましい。
【0027】
本発明のポリ乳酸繊維は、飽和結合のみを有する化合物からなる平滑剤成分および活性剤成分を主成分とする油剤が、0.01〜2.0重量%付着していることを特徴とする。
【0028】
一般に繊維用油剤は、平滑剤、活性剤、極圧剤、制電剤、乳化剤等を主成分とし、更に酸化防止剤、シリコーンやワックス等を添加剤成分とし、用途や目的に応じて化合物を選択し、かつ適切な配合比率を選んで組成を決定する。
【0029】
しかるに、ポリ乳酸繊維は、通常の方法で油剤を付与して製造した繊維を長期間、例えば6ケ月以上、常温・常湿の雰囲気下に保管しておくと、強度低下が生じ、かつ捲縮伸長率、摩擦特性、耐摩耗性、熱寸法安定性等が著しく低下することが分かった。さらに、この初期特性の大幅な低下は、従来から一般的に使用されていた油剤を用いたときに生じることが分かった。かかる経時的劣化は、特定の製糸条件で製造されて形成された繊維構造を有するポリ乳酸繊維を、数ケ月以上の長期間放置した場合に顕著に起こる現象であるため、従来殆んど認識されておらず、従って対策がなされていなかったのである。現時点で分かっていることは、高温で捲縮加工された捲縮加工糸や、高温かつ高倍率で延伸され、また高温熱固定処理された産業資材用高強力糸や低収縮糸等で経時劣化が生じ易く、また、高温・高湿度雰囲気下で顕著に起こること等であり、その劣化メカニズムについては正確に分かっていない。また、経時劣化による強度低下にもかかわらず分子鎖切断は僅少であることから、加水分解のような化学劣化よりは繊維構造の変化による強度低下と推定されている。また、劣化した繊維フィラメントの表面は、繊維軸に直角方向にクラック状の縞模様や、顕著な場合には亀裂や凹凸が観察され、強度低下、摩擦特性の変化、耐摩耗性等の低下を生じる原因となっている。
【0030】
本発明者らは、かかる経時劣化現象を促進しているのが特定の油剤成分であると推定し、油剤単成分および一般に混合して用いられる油剤組成について、経時的な強度低下をパラメーターに評価したところ、飽和結合のみを有する化合物からなる平滑剤成分と飽和結合のみを有する化合物からなる活性剤成分とを主成分とする油剤を用いたときには共通して強度低下が少ないことを見いだした。
【0031】
一方、不飽和結合を有する化合物からなる平滑剤成分を有する油剤を用いた場合は、強度低下を起こすことが分かった。
【0032】
例えば、一般に平滑剤成分として有用とされる、オレイン酸などの高級不飽和脂肪酸、オレイルアルコールなどの高級不飽和アルコール、あるいはイソ18〜24アルコールオレートなどの高級不飽和脂肪酸エステル、また、活性剤として一般的に用いられるオレイルアルコールエチレンオキサイドなど高級不飽和アルコールアルキレンオキサイドEO付加物など不飽和成分を含有する化合物がポリ乳酸繊維に付与されると、経時的劣化が生じることが確認された。
【0033】
本発明のポリ乳酸繊維に用いられる油剤として適正な油剤成分および組成は具体的には、高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)を主成分とする平滑剤と、ポリエーテル系高分子活性剤(b)、およびエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)等を主成分とする活性剤、とを主成分とする油剤であって、いずれの油剤成分も不飽和結合を含まない化合物である。また、酸化防止剤、シリコーンおよびワックス等の添加剤成分を、必要に応じて微量添加することが行われる。
【0034】
本発明におけるポリ乳酸繊維用油剤を更に具体的に述べると、高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)は炭素数10〜30高級脂肪酸と炭素数10〜30高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a1)、ポリエーテル系高分子活性剤(b)は分子量が1000〜5000のポリエーテル系高分子活性剤(b1)、およびエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)は分子量600〜1000のエチレンオキサイドを25〜55重量%含有するポリオキシポリオールエステル化合物(c1)であることが好ましく、前記(a1)を40〜70重量%、前記(b1)を5〜30重量%、前記(c1)を10〜50重量%の割合で混合した混合物であって、いずれの油剤成分も不飽和結合を含まない化合物が好ましい。
【0035】
更に具体的に述べると、高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a1)はイソオクチルアルコールステアリン酸エステル、イソオクチルアルコールパルミチン酸エステル、ラウリルアルコールラウリン酸エステル、トリデシルアルコールステアリン酸エステルなどの一価の高級アルコールと高級飽和脂肪酸とのエステル化合物、イソC24アルコール/チオジプロピオン酸エステル、イソステアリルアルコール/チオジプロピオン酸エステル、炭素数11〜15のアルコールEO付加物などの一価の高級アルコールと2塩基酸とのエステル化合物、また、ネオペンチルグリコールジイソステアリン酸エステル、トリメチロールプロパントリイソステアリン酸エステル、トリメチロールプロパントリラウリン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラペラルゴン酸エステル、ソルビタンテトライソステアリン酸エステルなどの多価アルコールと高級飽和脂肪酸とのエステル化合物等である。
【0036】
ポリエーテル系高分子活性剤(b1)とは、分子量が1000〜5000、好ましくは2000〜3000の、例えば高級アルコールアルキレンオキサイド付加物および多価アルコールアルキレンオキサイド付加物から選ばれた化合物に、モノカルボン酸および/またはジカルボン酸を反応して得られる非イオン活性剤である。
【0037】
また、上記多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物とは、例えば多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加したものであって、例えば硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、ソルビトールエチレンオキサイド付加物およびトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、などがある。中でも硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、ソルビトールエチレンオキサイド付加物および高級アルコールアルキルレンオキサイド付加物が好適である。
【0038】
更に、上記モノカルボン酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、デヘニン酸およびイソステアリン酸などがある。
【0039】
また、上記ジカルボン酸の具体例としては、マレイン酸、チオジプロピオン酸、セバシン酸、テレフタル酸およびアジピン酸等があるが、中でもマレイン酸、アジピン酸およびチオジプロピオン酸が好ましい。
【0040】
エチレンオキサイド(EO)および/またはプロピレンオキサイド(PO)付加ポリオキシポリオールエステル(c1)とは、分子量が600〜1000であり、ブタノールEO/PO付加物、イソオクチルアルコールEO/PO付加物、ステアリルアルコールEO/PO付加物、炭素数12〜14のアルコールEO付加物など飽和アルコールのアルキレンオキサイド化合物、トリメチロールプロパンEO付加物ジステアリン酸エステルなどの多価アルコールアルキレンオキサイド付加物と飽和脂肪酸とのエステル化合物、トリメチロールプロパンEO/PO付加物、ペンタエリスリトールEO/PO付加物、ソルビタンEO/PO付加物など多価アルコールアルキレンオキサイド付加物などがある。
【0041】
上記した本発明における油剤は水系エマルジョンとして用いることもできるが、非水系油剤として用いることが好ましい。希釈剤としては炭素数11〜15の鉱物油が用いられるが、好ましい希釈剤としては炭素数12〜13の鉱物油である。水系エマルジョンとして用いる場合は、不飽和基を含まないという制約の下で最適な乳化剤を選ぶことが難しいからである。
【0042】
上記油剤成分は通常低分子鉱物油または水で希釈し、混合した溶液として使用される。
【0043】
本発明において、油剤のポリ乳酸繊維への付着量は0.01〜2.0重量%である。好ましくは0.03〜1.0重量%、より好ましくは0.05〜0.5重量%である。0.01%未満では、繊維油剤として期待される機能が得られない。一方、2.0重量%以上付与すると、コストがかかるため好ましくないことは勿論であるが、前記した通り、油剤付与に伴う経時劣化のメカニズムが未解明であるため、油剤付与に伴う危険を避ける意味で多量に付与しないことが好ましい。
【0044】
次に、本発明のポリ乳酸繊維の典型的な態様の一つは、以下の(イ)〜(ニ)の特性を有する捲縮糸である。
(イ)強度=1.0〜3.0cN/dtex
(ロ)捲縮伸長率=3〜15%
(ハ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
(ニ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の捲縮伸長率の保持率が90〜100%。
【0045】
強度は1.0〜3.0cN/dtexであり、カーペット用捲縮糸として必要十分なレベルである。1.0cN/dtex未満では、強度が低すぎ、摩耗し易く耐久性が不十分である。一方、強度は高い方が好ましいが、現在の技術では3.0cN/dtexを越えるポリ乳酸捲縮糸を得ることは困難である。
【0046】
捲縮伸長率は3〜15%、好ましくは5〜15%であり、カーペット用捲縮糸として十分な嵩高性と風合いを有する。3%未満では嵩高性に劣り、15%を越えると捲縮が強すぎフェルトライクとなるため好まれない。
【0047】
本発明のポリ乳酸繊維からなる捲縮糸は、経時劣化が殆んどなく、20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率および捲縮伸長率の保持率が90〜100%である。90%未満の捲縮糸は、更に高温・高湿の保管条件下においては品質低下が無視できないレベルになるため、避けなければならない。強度保持率および捲縮伸長率保持率が90%未満となった捲縮糸のフイラメント表面には、亀裂や凹凸を観察することができる。
【0048】
別の態様として、本発明のポリ乳酸繊維に適した産業資材用途に用いられる高強度繊維は以下の(ホ)〜(ト)の特性を有する。
(ホ)強度=3.0〜8.0cN/dtex
(ヘ)乾熱収縮率=1〜10%
(ト)20℃、65%雰囲気中で3ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
【0049】
強度は3.0〜8.0cN/dtex、好ましくは5.0〜8.0cN/dtexの高強度である。3.0cN/dtex未満では産業資材用途に広く展開することが困難である。強度は高い程好ましいが、現状技術では8.0cN/dtexを越えるポリ乳酸繊維を実用的に製造することは困難である。
【0050】
乾熱収縮率は1〜10%、好ましくは1〜5%と、比較的低収縮率の範囲がよい。一般に産業資材用途で低収縮糸を用いられる用途では、収縮率は低いほど好ましいが、1%未満の低収縮率は達成が困難である。10%以上の高収縮率は比較的容易に製造できるものの、特定の用途に限って用いられるだけで、一般的にはあまり用いられない。
【0051】
本発明のポリ乳酸繊維は、経時劣化が殆んどなく、20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後のポリ乳酸繊維の特性は、殆ど初期物性を維持している。例えば、強度では強度保持率90〜100%である。90%未満の場合、よりより過酷な高温・高湿の保管条件下では更に低下が著しくなるため、避けなければならない。90%未満のポリ乳酸繊維は実質的に産業資材用途に適用できない。
【0052】
次に、本発明のポリ乳酸繊維について、カーペット用捲縮糸および産業資材用高強度糸の製造法を例を以下に該述する。
【0053】
まず、カーペット用捲縮糸について記述する。ポリ乳酸ポリマは、ポリマの水分率を0.4%以下とした後、溶融紡糸に供する。
【0054】
上記ポリ乳酸ポリマをエクストルーダー型押し出し機に供給して210〜240℃の温度で溶融し、紡糸パックを通して濾過し、口金細孔から紡糸する。口金孔は種々の異型断面形状の捲縮糸が得られるよう異型断面孔を有するの口金が用いられる。口金孔の形状および寸法は、ポリ乳酸ポリマの溶融粘度、紡糸温度、紡糸後の冷却固化条件を考慮し、目的とする断面が得られるよう設計したものを用いる。本発明における捲縮糸はY型、△型、扁平型を基本とし、それぞれの断面に突起がついたものや一部が欠けたもの、あるいは中空部を1以上有する異型断面糸等であって、従来から知られているものから選ぶことができる。特に、本発明に適した断面形状は、Y型および△形状、およびそれらの中空であって、単糸断面の外接円の直径(B)と内接円の直径(A)の比(B/A)で表した変形度が1.5〜5.5の範囲の断面形状が好ましい。
【0055】
紡糸された糸条は冷風または温風を吹きつけられ冷却固化される。風の温度は10〜80℃、好ましくは15〜60℃である。
【0056】
冷却固化した糸条に本発明で特定した油剤をオイリングローラー、給油ガイド、あるいはミスト噴射装置などを用い一定量付与した後、所定の速度で回転する引き取りロールに捲回して引き取る。
【0057】
上記引き取りロールの好ましい速度は300〜3000m/minである。本発明における捲縮糸の製造方法は1ステップで捲縮糸を製造する直接紡糸延伸・捲縮加工プロセスを特徴とするため、上記引き取り速度が好ましい。300m/minでも本発明にかかる捲縮糸は得られるが、生産効率が低いため好ましくない。引き取り速度が3000m/minを超えると、直接紡糸延伸・捲縮加工プロセスにおいて、延伸速度および捲縮加工速度が高速となり過ぎ、特に捲縮加工速度が4000m/minを超えると、現在の実用プロセスでは製造が困難である。
【0058】
引き取られた未延伸糸は連続して延伸されるが、1段または2段の多段熱延伸法が採用される。延伸倍率は1.5〜5.0倍の範囲である。熱延伸が終了した糸条は連続して捲縮加工プロセスで、加熱流体捲縮付与装置に導入して捲縮が付与される。加熱流体捲縮付与装置は加熱高圧流体を糸条に噴射して単糸をランダムに捲縮させ、3次元ループやタルミを形成させる加熱流体噴射ノズル装置、上記捲縮糸を更に加熱流体の下に圧縮熱処理を行うための圧縮熱処装置、および捲縮加工された糸条を冷却するための回転移送装置からなる。加熱流体噴射ノズルの処理流体としては加熱空気もしくは過熱蒸気が好ましく用いられる。通常糸条に付与する加熱流体の温度としては110℃〜180℃が好ましい。また、圧縮熱処理装置で糸条を堆積させ回転移送装置上へ安定して取り出す。そして、回転移送装置により、圧縮熱処理により堆積したプラグ状の糸条を、装置表面のパンチング孔でのエアー吸引により冷却する。
【0059】
次に、回転移送装置上の捲縮糸条は該装置上から順次引き取られ、回転速度の異なる2対のネルソンタイプロールまたはセバレート型ロールに捲回されて捲縮を解きほぐされる。このストレッチは糸条の温度が30〜60℃で行う。通常、この時の張力をストレッチ張力として常時モニタリングして品質管理を行う。このストレッチ張力は前記捲縮加工プロセスにおける捲縮加工前の原糸の特性、捲縮処理条件および捲縮を解きほぐす条件等と密接に関係し、本発明に係る捲縮糸の特性が決定される。好ましいストレッチ張力は、0.01〜0.2cN/dtexであり、更に好ましくは0.03〜0.1cN/dtexである。
【0060】
次に、捲縮糸条は巻き取り機にチーズ状に巻取られる。巻取り張力は通常0.1cN/dtex以下の低張力である。
【0061】
かくして、製造された捲縮糸は前記捲縮糸の特性を有する。
【0062】
次に産業資材用高強度糸について記述する。溶融紡糸に供するポリ乳酸ポリマの水分率は、水分率が0.05%以下となるよう乾燥して用いる。
【0063】
紡糸温度は200〜250℃で行い、通常円断面糸を製糸するが、用途に応じて扁平断面や中空断面糸を製糸する場合は前記捲縮糸の製糸と同様に異型断面口金を用い、紡糸条件を考慮して行う。
【0064】
口金直下には加熱筒を取り付けて、口金面から10〜50cmの雰囲気を180〜280℃に加熱し、紡出糸条を該徐冷ゾーンを通過させた後、冷風または温風で冷却固化させる。風の温度は10〜80℃、好ましくは20〜60℃である。
【0065】
冷却固化した糸条に本発明で特定した油剤をオイリングローラー、給油ガイド、あるいはミスト噴射装置などを用い一定量付与した後、所定の速度で回転する引き取りロールに捲回して引き取る。引き取りロールの好ましい速度は300〜3000m/minである。本発明のポリ乳酸繊維からなる産業資材用高強度糸の製造は、1ステップ法の直接紡糸延伸プロセスで行うため、品質および生産効率を含め工業的に最も適当な引き取り速度である。
【0066】
引き取られた未延伸糸は連続して延伸されるが、高強度糸を製造するため通常は2段以上の多段熱延伸法が適用される。延伸倍率は2.0〜8.5倍で、未延伸糸の配向の程度に応じて延伸倍率が設定される。通常、限界延伸倍率の85〜93%に設定することにより、本発明のポリ乳酸繊維の強度および伸度が得られる。多段延伸に用いられるロールはネルソンタイプが好ましく、順次表面速度を高く設定したロールに捲回して延伸する。ロールの温度も順次高く設定し、最終熱延伸および熱固定温度は、120〜170℃である。最終延伸ロールの後にはリラックスロールを設置して、1〜10%の弛緩処理を行う。弛緩処理された糸条は巻き取り機で巻き取る。巻き取り張力は通常0.2cN/dtex以下で行う。
【0067】
かくして、製造されたポリ乳酸繊維は、前記高強度糸の特性を有する。
【0068】
【実施例】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明するが、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0069】
[油分付着量]試料10gにn−へキサン120mlを添加して油剤成分を溶解させ、油剤が溶解したn−へキサンを採取しn−へキサンを回収した後、真空乾燥し残留重量を測定した。
【0070】
[相対粘度]オストワルド粘度計を用いて、オルソクロルフェノール10mlに対し、試料0.3gを溶解した溶液の相対粘度ηrを25℃で測定した。測定は、2回行い、その平均値を求めた。
ηr=t/t0
t:溶液の落下秒数
t0:溶媒(オルソクロルフェノールのみ)の落下秒数
【0071】
[繊度]JIS L1090により測定した。
【0072】
[強度]オリエンテック社製テンシロン引張り試験機を用い、試長250mm、引張速度300mm/分の条件で強力を測定した。
強度は強力を測定したサンプルに対応するそれぞれの総繊度で除した値である。
【0073】
[強度保持率]20℃、65%RHの温湿度調整室に6ケ月乾保管した後に測定した強度を初期の強度で除し、%表示した値である
[捲縮伸長率]温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中で24時間以上調整したチーズパッケージから解舒した捲縮糸を、無荷重状態で30分間沸騰水で浸漬処理した後、平衡水分率まで乾燥し、これを沸騰水処理後捲縮糸の試料とする。この試料に表示dtex×0.0176mN(1.8mg/dtex)の張力を与える初荷重をかけ30秒経過した後に、試料長50cm(L1)にマークをつける。次いで、同試料に表示dtex×0.882mN(90mg/dtex)の張力を与える定荷重をかけて30秒経過後に、伸びた試料長(L2)を測定する。次いで、下記式により、捲縮伸長率(%)を求める。測定は2回行い、その平均値を求める。
捲縮伸長率(%)=[(L2−L1)/L1]×100
【0074】
[捲縮伸長率保持率]20℃、65%RHの温湿度調整室に6ケ月乾保管した後に測定した捲縮伸長率を初期の捲縮伸長率の値で除し、%表示した値である。
【0075】
[変形度]単繊維を切断後、光学顕微鏡を用いて単繊維断面の外接円の直径(B)と内接円の直径(A)を測定し、次式により求めた。単繊維5本測定して、その平均値を求めた。
変形度=(B)/(A)
【0076】
[乾熱収縮率] 試長約50cmのループ状サンプルに表示dtex×0.45mNの荷重をかけ、試料長L1を測定する。次いで、荷重を外し同試料を150℃のオーブン内で30分間処理した後、1時間以上放置する。試料に再び表示dtex×0.45mNの荷重をかけて試長L2を測定する。測定は2回行い、その平均値を求める。
乾熱収縮率(%)=[(L1−L2)/L1]×100
【0077】
[フィラメント表面観察]マルチフィラメントの任意の位置の全単繊維をイオンコーター(Eiko Engineering社製 IB−3)を用い金蒸着し、作成したサンプルをSEM(トプコン株式会社製 ABT−55)を用いて観察、下記のように区分した。
◎ : クラックなし
○ : クラック僅かにある
▲ : 亀裂・凹凸が全面にあり
【0078】
[毛羽の発生状況]巻き上がったドラムサンプルの表面および測面を目視にて観察し、下記のように表示した。
◎ : 毛羽が殆ど見られない
○ : 毛羽が僅かに見られる
▲ : 毛羽が多発
【0079】
(実施例1〜7、および比較例1〜5)
実施例1:重量平均分子量が18600、L−乳酸単位98%含有のポリ乳酸のチップをエクストルダー型紡糸機で溶融し、吐出孔形状がY型である96ホールの口金より吐出させた。このとき、紡糸温度は225℃とし、口金直下冷却条件をコントロールすることで、変形度1.6のY型断面のポリ乳酸マルチフィラメントを得た。
【0080】
冷却固化された未延伸糸に、オイリングローラーを用い種々の本発明油剤を付与し、ネルソン型の引取りロールに捲回して700m/分の速度で引取った。油剤の組成は表1に示した。引き取り糸は引き続き75℃に加熱されたフィードロールに捲回して予熱した後、110℃に加熱された延伸ロールとの間で2.5倍に延伸した。次いで延伸糸条は捲縮加工装置に送り、150℃に加熱された圧空によって捲縮加工処理した。次に捲縮加工糸にストレッチをかけて捲縮を解きほぐした後、0.05cN/dtexの巻取張力で巻き取った。かくして表2の実施例1に示したポリ乳酸捲縮糸を得た。
【0081】
実施例2〜7:油剤の種類および付着量を変更した以外は実施例1と同様にして製造したポリ乳酸捲縮糸である。
比較例1〜5:本発明における油剤とは異なる油剤種類および油剤付着量のポリ乳酸捲縮糸の特性を示したものである。
【0082】
上記得られた種々のポリ乳酸捲縮糸の特性およびその製造条件、そして、20℃、65%RHの温湿度調整室に6ケ月間保管した後の捲縮糸の特性を測定して表3に示した。
【0083】
本発明のポリ乳酸捲縮糸は、6ケ月保管後も初期特性と殆ど変化しなかったが、比較例に示したポリ乳酸捲縮糸は、6ケ月保管後は著しく初期特性を低下させるものがあった。
【0084】
(実施例8〜15、および比較例6〜10)
実施例8:重量平均分子量が200000、L−乳酸単位98%含有のポリ乳酸のチップをエクストルダー型紡糸機で溶融し、孔経0.5mmφ、192ホールの口金から紡出した。口金直下には、長さ30cmの加熱筒を取り付け、加熱筒内雰囲気温度を220℃に制御した。紡出糸は該加熱雰囲気中を通過させた後、20℃の冷風を35m/分の速度で吹きつけ冷却固化した。冷却長は150cmとし、ユニフロー型冷却装置を用いた。
【0085】
次いで、冷却固化した紡出糸条に油剤を付与し、所定速度で回転するネルソン型の引き取りロール(1FR)に捲回して、引き取った。油剤組成は表1に示した。付着量は、最終製品繊維の付着量が本発明の特定した範囲となるよう調整して付与した。
【0086】
引き取った糸条は連続して順次回転速度を速めた給糸ロール(2FR)、第1延伸ロール(1DR)、第2延伸ロール(2DR)に捲回して、プレストレッチ(1FR〜2FR間)、1段延伸(2FR〜1DR間)、2段延伸(1DR〜2DR間)をおこなった後、リラックスロール(RR)との間で弛緩処理(2DR〜RR間)をして、巻き取り機で巻き取った。各ロールは全てネルソン型ロールを用い、ロール温度、ロール速度、延伸倍率等は表4の実施例8に示した通りに設定して製糸した。
【0087】
実施例9〜15は、油剤の種類および付着量を変更した以外実施例1と同様にして製造したポリ乳酸繊維である。また、実施例15は、本発明で特定した繊維物性の範囲内で製糸条件を変更して製造した以外、実施例8と同様にして得たものである。
【0088】
比較例6〜10は、油剤、油剤付着量の少なくとも一つが本発明で特定した範囲外で製造されたポリ乳酸繊維である。
【0089】
上記実施例および比較例で得られた種々のポリ乳酸繊維の物性およびその製造条件、そして、20℃、65%RHの温湿度調整室に6ケ月間保管した後のポリ乳酸繊維の特性を測定して表5に示した。
【0090】
本発明のポリ乳酸繊維は、6ケ月保管後も初期物性と殆ど変化しなかったが、比較例に示したポリ乳酸繊維は6ケ月保管後は著しく初期物性を低下させるものがあった。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【発明の効果】
本発明は、ポリ乳酸繊維を長期間使用したり保管しても経時的な劣化が少なく、初期の物性を維持できる安定なポリ乳酸繊維およびポリ乳酸繊維製品を提供できる。
【0097】
上記効果により、特にカーペット用ポリ乳酸捲縮糸および産業資材用高強度ポリ乳酸繊維として広く用途展開することが可能である。
Claims (6)
- 飽和結合のみを有する化合物からなる平滑剤成分と、飽和結合のみを有する化合物を主成分とする活性剤成分とを主成分とする油剤が、0.01〜2.0重量%付着していることを特徴とするポリ乳酸繊維。
- 前記油剤が、非水系油剤であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸繊維。
- 前記平滑剤を構成する飽和結合のみを有する化合物が高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)であり、また前記活性剤の主成分である飽和結合のみを有する化合物がポリエーテル系高分子活性剤(b)、およびエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)であることを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸繊維。
- 前記高級脂肪酸と高級アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a)が炭素数10〜30の高級脂肪酸と炭素数10〜30の一価の高級飽和アルコールまたは2〜6価の多価アルコールからなる高級脂肪酸エステル化合物(a1)であり、かつ前記ポリエーテル系高分子活性剤(b)が分子量が1000〜5000のポリエーテル系高分子活性剤(b1)、および前記エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加ポリオキシポリオールエステル化合物(c)が分子量600〜1000のエチレンオキサイドを25〜55重量%含有するポリオキシポリオールエステル化合物(c1)であり、前記油剤が前記(a1)を40〜70重量%、前記(b1)を5〜30重量%、前記(c1)を10〜50重量%の割合で含有してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸繊維。
- 以下の(イ)〜(ニ)の特性を有する捲縮糸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸繊維。
(イ)強度=1.0〜3.0cN/dtex
(ロ)捲縮伸長率=3〜15%
(ハ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
(ニ)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の捲縮伸長率の保持率が90〜100%。 - 以下の(ホ)〜(ヘ)の特性を有する高強度繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸繊維。
(ホ)強度=3.0〜8.0cN/dtex
(ヘ)乾熱収縮率=1〜10%
(ト)20℃、65%雰囲気中で6ケ月保管した後の強度保持率が90〜100%。
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