JP2004036035A - 複合繊維および繊維構造体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】芯部を形成する熱可塑性樹脂が脂肪族ポリエステルであり、鞘部を形成する熱可塑性樹脂が繊維形成性のポリアミドである芯鞘複合繊維であって、鞘部を形成するポリアミドの皮膜厚さが0.4μm以上であることを特徴とする複合繊維。
【選択図】図4
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、脂肪族ポリエステルと繊維形成性のポリアミドからなる複合繊維に関するものであり、更に詳しくは、耐摩耗性が要求される用途、例えば外衣やパンスト、スポーツウェアなどの衣料用素材に好適に使用することができる芯鞘型の複合繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、自然環境の中で分解する繊維素材の開発が切望されている。例えば、従来の汎用プラスチックは石油資源を主原料としていることから、石油資源が将来枯渇すること、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。
【0003】
このため近年では脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。その中でも微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。
【0004】
また、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある。そのため、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス利用のプラスチックに注目が集まっている。
【0005】
これまで、バイオマス利用の生分解性プラスチックは、力学特性や耐熱性が低いとともに、製造コストが高いといった課題があり、汎用プラスチックとして使われることはなかった。一方、近年では力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
【0006】
ポリ乳酸は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。そのため、繊維としての商品開発も活発化してきている。
【0007】
しかしながら、汎用の衣料用繊維としてポリ乳酸を用いた場合、ポリエステルやナイロン繊維と比較すると、いくつかの欠点を有している。この内大きなものとして、耐熱性や耐摩耗性が低いことが指摘されている。これらの欠点を補うため、例えばポリ乳酸にナイロンやポリエステル等の耐熱・耐摩耗性に優れたプラスチックをブレンドすることが考えられる。しかし、前記ブレンド品は、均一にブレンドすることができないために、溶融紡糸では安定して繊維化することが困難であった。
【0008】
また、ポリ乳酸繊維の特性を向上させる手法として、汎用プラスチックとの複合紡糸がいくつか提案されている。例えば特開2000−54228号公報には、ポリアミド系重合体と脂肪族ポリエステルとから構成される複合繊維が記載されている。しかしながら、該複合繊維は脂肪族ポリエステル成分をアルカリ減量して新機能を持たせることを目的としているため、脂肪族ポリエステル成分が繊維表面に露出している。そのため、衣料用としては実用に耐える耐摩耗性を有していなかった。
【0009】
また、特開2000−136439号公報には、芳香族含有ポリエステルを芯線とし、脂肪族ポリエステルをスキン層とした複合繊維が記載されている。該複合繊維は、スキン層を形成する脂肪族ポリエステルを酵素により減量処理することで表面改質を行い、良好な風合いを可能にしている。しかしながら、酵素処理による改質では耐摩耗性は向上せず、むしろ悪化する傾向にあることがわかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、優れた力学特性、耐熱性、耐摩耗性を有する生分解性の脂肪族ポリエステルを主成分とする複合繊維を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、芯部Aを形成する熱可塑性樹脂が脂肪族ポリエステルであり、鞘部Bを形成する熱可塑性樹脂が繊維形成性のポリアミドである芯鞘複合繊維であって、鞘部Bを形成するポリアミドの皮膜厚さが0.4μm以上であることを特徴とする複合繊維により達成される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の複合繊維の芯部Aを形成する脂肪族ポリエステルとは、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結された熱可塑性重合体のことをいい、例えばポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。このうち、前記したように力学特性、耐熱性及び製造コストの面からポリ乳酸が好ましい。
【0013】
ここでポリ乳酸とは、−(O−CHCH3−CO)n−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。
【0014】
ただし、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体をブレンドして繊維に成型した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を飛躍的に高めることができるためより好ましい。
【0015】
また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよく、ポリ乳酸以外の熱可塑性重合体や粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。ただし、バイオマス利用、生分解性の観点から、重合体中の乳酸モノマー比率は50重量%以上とすることが必要である。乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。また、ポリ乳酸重合体の分子量は、重量平均分子量で5万〜50万であると、力学特性と成形性のバランスがよく好ましく、10万〜30万であると、より好ましい。
【0016】
本発明の複合繊維の鞘部Bを形成するポリアミドとは、アミド結合を有する熱可塑性重合体のことをいうが、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン46等を挙げることができる。また、ポリアミドはホモポリマーや前記ポリマーのブレンド物、共重合ポリマーであってもよく、さらには粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
【0017】
また、複合繊維の寸法安定性や耐摩耗性を向上させるために、該ポリアミドは結晶性であることが好ましい。なお、結晶性はDSC測定において融解ピークの有無をみることで判定できる(融解ピークが観測できれば結晶性と判断できる)。
【0018】
また、複合繊維の耐熱性を高めることと、複合繊維の主成分となる脂肪族ポリエステルの熱分解を極力抑制することを両立させるため、鞘部Bを形成するポリアミドの融点は、脂肪族ポリエステルの融点よりも0〜100℃高いことが好ましい。芯部と鞘部の融点は近いほど紡糸性に優れるため、ポリアミドの融点のより好ましい範囲は脂肪族ポリエステルの融点+80℃以下、さらに好ましくは+60℃以下である。
【0019】
また、高温多湿〜低温低湿のあらゆる環境下で安定した耐摩耗性を得るためには、前記の広範な環境変化においてもポリアミドの水分率が常に低く安定していることが好ましい。したがって、環境変化の激しい条件下で高い耐摩耗性が要求される場合は、ナイロン11やナイロン12、ナイロン610を用いるとよい。
【0020】
また、溶融紡糸の際には繊維表層から冷却が進むために紡糸張力が繊維表層に集中しやすいといった傾向がある。そのため、紡糸張力を芯・鞘各成分にできるるだけ均一にかけて断面方向の歪み差を小さくするため、芯成分の脂肪族ポリエステルよりも、鞘成分のポリアミドの方が溶融粘度が低いことが好ましい。また、その溶融粘度比の好ましい範囲は、脂肪族ポリエステル:ポリアミド=1:0.9〜1:0.3である。なお、溶融粘度測定時の温度は、紡糸温度近傍で行えばよく、脂肪族ポリエステルがポリ乳酸の場合は、200〜250℃で測定すればよい。
【0021】
さらに、外部との接触において滑性を高め、耐摩耗性を向上させるために、ポリアミド成分に滑剤を添加してもよい。滑剤としては流動パラフィンやパラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素系のワックス類、ステアリン酸や12−ヒドロキシステアリン酸、ステアリルアルコール等の脂肪酸・高級アルコール系ワックス類、ステアリン酸アミドやオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等のアミド系滑剤、ステアリン酸ブチルやステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート等のエステル系ワックス、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムやステアリン酸鉛等の金属石けんが適用できる。その中でも融点が100℃以上で、外部滑性に優れるアミド系滑剤や金属石けんの中から選ばれた滑剤が好ましい。また、これら滑剤を複数含有させてもよい。ポリアミドへの滑剤の添加量は、ポリアミドに対し0.05〜5重量%の範囲で、重合工程、乾燥、紡糸工程等いずれで添加してもよい。
【0022】
本発明の複合繊維は、主成分の脂肪族ポリエステルが芯部Aを形成し、その廻りに鞘部Bとしてポリアミドで覆われていることが重要である。また、ポリアミドで形成される皮膜厚さは、0.4μm以上であることで高い耐摩耗性が得られる。ポリアミドの皮膜厚さと耐摩耗性には明確な相関関係がみられ、皮膜が厚くなるほど耐摩耗性が向上する。そのため、ポリアミドの皮膜厚さは0.6μm以上が好ましく、0.8μm以上がより好ましい。一方、皮膜厚さの上限は特に限定されないが、脂肪族ポリエステルの特性を損なわないという点で10μm以下が好ましい。また、複合繊維の断面形状は、0.4μm以上の皮膜厚さを有していれば丸断面、多角断面、多葉断面、中空断面、その他公知の断面形状のいずれでもよく、芯鞘構造も単芯の他、2芯、3芯といった多芯構造であってもよい。本発明の好ましい断面形状の例を図1(a)〜(f)に示す。なお、皮膜厚さは前記の芯部Aと鞘部Bとの芯鞘複合比や、複合形態、単繊維の繊度を決定する要因である吐出量、紡糸速度、延伸倍率によって任意に決めることができる。
【0023】
なお、繊維は紡糸工程、仮撚加工や流体加工のような糸加工工程、ビーミング、製織、製編のような製布工程等、あらゆる工程で外力を受ける。それによって生ずる芯鞘複合の界面の剥離や、毛羽の発生を抑えるため、紡糸油剤として摩擦係数の低い脂肪酸エステルや鉱物油、ポリエーテルエステル等の平滑剤を主体とするものを用いるとよい。そうすることで、上記工程での工程通過性を大幅に向上させることができる。紡糸油剤の付着量は加工方法や用途によって適宜変更すればよいが、おおよそ繊維全重量に対して0.2〜2%の付着量にすることが好ましい。
【0024】
また、本発明の複合繊維の力学特性は、実用上問題のないレベルであればよく、例えば、衣料用途においては引張強度3cN/dtex以上、好ましくは4cN/dtex以上、伸度15〜60%、好ましくは20〜50%、初期引張抵抗度40cN/dtex以上、沸騰水収縮率2〜25%であればよい。また、本発明の目的である耐摩耗性は、繊維の摩擦切断回数が1000回以上であることが好ましい。ここで、繊維の摩擦切断回数の測定方法について詳述する。
【0025】
図2は繊維の摩擦切断回数の測定を行う装置の概略図であり、1:試験糸、2:セラミックスロッド(湯浅糸道工業(株)製バーガイド、YM−99C、HF仕上げ、直径6mm)、3:錘(試験糸に対し、0.9cN/dtex)、4:往復運動装置(東洋精機(株)製ラビングテスター)である。
【0026】
測定は、往復運動装置4に試験糸1を固定し、さらにHF仕上げのセラミックスロッド2に試験糸1を1/4回(接糸長約4.7mm)掛け、0.9cN/dtexの錘を吊す。往復運動装置4は、ストローク長35mmの間を毎分100往復(糸速度:約117mm/秒)で作動する。そしてセラミックスロッドとの摩擦により糸が切断するまでの往復回数を測定する。測定は5回行い、その平均値をその試験糸の摩擦切断回数とする。
【0027】
本発明者らが検討した結果、摩擦切断回数は1000回以上が要求され、より好ましくは2000回以上、さらにパンスト等、高耐久性が要求される用途では5000回を越えるレベルが必要とされる。
【0028】
ちなみに、汎用の合成繊維について本試験を実施すると、耐摩耗性の良好なナイロン6糸で6000回以上、ポリエステル糸で約3000回と良好な耐摩耗性を示す。それに対し、ポリ乳酸100%からなる繊維は僅か200〜300回で切断する。
【0029】
また、ポリ乳酸繊維で問題となっている高温力学特性についても、本発明の複合繊維は優れた性能を発揮する。通常、整経後に行う糊付け乾燥では張力を加えながら80℃程度の高温で乾燥を行う。この際、ポリ乳酸繊維は高温下での引張抵抗が小さく、糸が延びてしまうといった問題があった。本発明の複合繊維は、高温力学特性に優れたポリアミドを被覆しているため、加熱下でも強度特性に優れる。90℃加熱下での強度は0.8cN/dtex以上が好ましく、1cN/dtexがより好ましい。ちなみに、ポリ乳酸100%使いの繊維の90℃加熱下の強度は0.3〜0.5cN/dtexである。
【0030】
また、本発明の複合繊維は、繊維長手方向の太さ斑の指標であるウースター斑U%が2.0%以下であることが好ましい。これにより布帛の染め斑の発生を回避できるのみならず、布帛にした際の糸の収縮斑を抑制し、美しい布帛表面が得られる。ウースター斑U%はより好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0031】
また、繊維の形態は、長繊維、短繊維等特に制限はなく、長繊維の場合はマルチフィラメントでもモノフィラメントでもよい。
【0032】
また、本発明の繊維構造体の形態は、本複合繊維単独で、又は他の繊維と混用してシャツやブルゾン、パンツといった衣料用途の織物、編物、不織布の他、カップやパッド、ボード等の衣料資材、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリアや車両内装やベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、縫い糸、フェルト、不織布、フィルター、人工芝等の産業資材用途等、様々な繊維製品の形態を含む。他の繊維と混用する場合にはポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの繊維形成性重合体からなる合成繊維や、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、また、羊毛、絹、木綿、麻などの天然繊維が採用される。
【0033】
ただし、脂肪族ポリエステルの特徴を活かすためには本複合繊維の含有比率を20%以上にすることが好ましく、50%以上にすることがより好ましい。
【0034】
また、衣料用、産業資材用を問わず本発明の複合繊維からなる繊維構造体を用いる場合、JISで決められた各種染色堅牢度試験において実用レベルを満たすことが要求される。例えば、一般衣料用途に用いる場合は洗濯に対する染色堅牢度(JIS−L0844)や紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度(JIS−L0842)において3級以上が要求される。
【0035】
また、本発明の目的である耐摩耗性については、摩擦に対する染色堅牢度試験(JIS−L0849)の摩擦試験機II形(学振形)において、乾燥3級以上、湿潤2級以上であることが好ましく、乾燥、湿潤ともに3級以上であることがより好ましい。なお、ポリ乳酸100%からなる織物について染色堅牢度試験を実施すると、洗濯や耐光試験では3級をクリアするものの、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに1級と極めて悪いものとなる。
【0036】
次に、本発明の複合繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下に示す方法を採用することができる。
【0037】
まず、まず、前記したポリマーの中から芯部Aを形成する脂肪族ポリエステルと鞘部Bを形成するポリアミドを選択する。例えば、芯部Aに重量平均分子量が10万〜20万のポリL乳酸(融点:170℃)、鞘部Bにナイロン6(融点225℃)を配し、別々に溶融・計量し、紡糸ブロックに導き、紡糸ブロック温度210〜240℃で溶融紡糸し、紡出した糸条を冷却装置にて冷却した後、紡糸油剤を付与し紡糸速度1000〜7000m/分で巻き取る。次いで延伸機により延伸するか、又は仮撚加工機により延伸仮撚する。なお、紡糸と延伸を連続的に行うスピンドロー方式も好ましく用いられる。
【0038】
紡糸条件を決定する際には、前記した様に使用するポリマーの選択、ポリマー間の溶融粘度の比、紡糸油剤の選択が重要であると述べた。さらに芯鞘複合界面の耐剥離性(接着性)を向上させるためには紡糸速度が重要となる。芯部を構成する脂肪族ポリエステルと、鞘部を構成するポリアミドとは、PET/ポリアミド複合系と比較して親和性がよいため、界面剥離しにくいことがわかったが、さらに紡糸速度を高くすることで、耐剥離性が向上することがわかった。この機構は明らかではないが、高速紡糸することにより紡出糸の細化がより口金面に近い高温領域で起こるため、芯鞘成分間の構造歪みの差が小さくなること、また伸長配向により安定した繊維内部構造をとることが考えられる。
【0039】
好ましい紡糸速度は2800m/以上、より好ましくは4000m/分以上、さらに好ましくは5000m/分以上である。
【0040】
また、延伸温度は糸斑なく安定してできればよく、例えば芯成分がポリ乳酸の場合は80〜150℃、より好ましくは90〜120℃である。熱セット温度は所望の熱収縮率にするために適宜変更すればよく、高収縮糸タイプで20〜90℃、中収縮タイプで90〜120℃、低収縮タイプで120〜(芯部ポリマーの融点−10)℃で実施すればよい。なお、前記したように芯部Aをステレオコンプレックスにして高融点化するには、熱セット温度が高いほどよく、140〜200℃の範囲が好ましい。
【0041】
また、仮撚加工する場合には接触式の熱板使いで芯部ポリマーの融点より70〜5℃低い温度範囲で実施すればよく、捲縮特性の指標であるCR値を高くするには芯部ポリマーの融点より50〜5℃低い温度範囲、さらに好ましくは30〜5℃低い温度範囲である。非接触式ヒーターを用いた場合には擦過による糸切れが抑制されるため、さらに高温での処理が可能となる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0043】
A.脂肪族ポリエステルの重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0044】
B.熱可塑性重合体の融点
Perkin elmer社製DSC−7を用いて2nd runで融点を測定した。この時、試料重量を約10mg、昇温速度を16℃/分とした。
【0045】
C.熱可塑性重合体の溶融粘度
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、チッ素雰囲気下において温度240℃、貯留時間10分間、歪み速度1216sec−1で3回測定を行い平均値を溶融粘度とした。
【0046】
D.ポリアミド皮膜の厚さ
試料の繊維を包埋材で固定して切片を切り出し、脱包埋後、光学顕微鏡で拡大して写真撮影し、同一倍率で撮影したスケールを用いて鞘部の厚みを計測した。
【0047】
E.繊維摩耗試験
図2の摩擦切断回数測定装置を用い、往復運動装置4に試験糸1を固定し、さらに梨地仕上げのセラミックスロッド2(湯浅糸道工業(株)製バーガイド、YM−99C、HF仕上げ、直径6mm)に試験糸1を1/4回(接糸長約4.7mm)掛け、0.9cN/dtexの錘を吊す。往復運動装置4を毎分100往復(ストローク長:35mm、糸速度:約117mm/秒)で作動させ、セラミックスロッドとの摩擦により糸が切断するまでの往復回数を測定する。測定は5回行い、その平均値をその試験糸の摩擦切断回数とした。
【0048】
F.強度および伸度
JIS L1013の化学繊維フィラメント糸試験方法に準じて測定した。なお、つかみ間隔は200mm、引張速度は200mm/分として荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度を求めた。なお、測定時の温度は室温下(25℃)及び高温下(90℃加熱炉内で伸長)の2条件で実施した。
【0049】
G.沸騰水収縮率
沸騰水収縮率(%)=[(L0−L1)/L0)]×100(%)
L0:試料をカセ取りし、初荷重0.09cN/dtex下で測定した原長
L1:L0を測定したカセを荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、
1昼夜風乾後、初荷重0.09cN/dtex下でのカセ長
H.糸斑U%
Zellweger uster社製UT4−CX/Mを用い、糸速度:200m/分でU%(Normal)を測定した。
【0050】
I.CR値
捲縮糸をカセ取りし、実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L’0を測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当のカセを除き0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L’1を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
【0051】
CR(%)=[(L’0−L’1)/L’0]×100(%)
J.摩擦に対する染色堅牢度試験
およそ84dtexの試料を経糸及び緯糸として織密度110×90本/インチで平織物に製織し、140℃テンターで生機セット、次いで精練を行い織物を得た。この織物を分散染料Dianix Black BG−FS200 1%owf濃度で110℃×60分間染色後、グランアップINA−5 2g/リットル(三洋化成製)及び炭酸ナトリウム0.5g/リットルの濃度で80℃×20分ソーピング処理し、130℃で仕上げセットした。得られた染色布をJIS L0849に準じて摩擦試験機II形(学振形)を用いて処理し、乾燥試験、湿潤試験それぞれについて5段階で級判定を行った。
【0052】
実施例1
重量平均分子量18万のポリL乳酸(光学純度99%L乳酸、融点170℃、溶融粘度2000poise)を芯部Aとし、平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%含有した硫酸相対粘度ηr:2.2のナイロン6(融点225℃の結晶性ナイロン、溶融粘度850poise)を鞘部として、それぞれ別々に溶融し、紡糸温度240℃で図3に示す構造を有する口金装置(吐出孔直径0.3mm/孔深度0.6mm)を用い、芯鞘複合比(重量%)70:30で吐出し、糸条と直交する0.5m/秒の冷却風で冷却・固化し、口金下2mの位置で集束・給油し、ゴデーロール速度4000m/分で引き取り、110デシテックス、36フィラメントの芯鞘複合構造の未延伸糸を得た。また、延伸や仮撚での工程通過性を良好にするため紡糸線上に交絡ノズルを設置し、作動圧空圧0.2MPaで交絡を付与した。なお、紡糸油剤には平滑剤として脂肪酸エステル40%、鉱物油20%、さらに糊付着性や金属摩耗を防止するために多価アルコールエステルやポリオキシエチレン系ノニオン、アマイドノニオンを加えて100%原液を調整し、この原液を純水で薄めて15%水系エマルジョンとし、純油分として繊維に約0.8重量%付着させた。紡糸性は良好であり、50kgのサンプリングで糸切れは発生しなかった。
【0053】
さらに該未延伸糸を4ロール延伸機(供給ロール−加熱ロール−加熱ロール−室温ロール−巻取機)にて延伸速度800m/分、延伸倍率1.3倍、延伸温度90℃、熱セット温度125℃で延伸し、84デシテックス、36フィラメントの延伸糸を得た。延伸性は良好であり、糸切れや熱ロールへのラップは発生しなかった。得られた糸の断面形状は図1(a)に示す円形状であり、鞘部の皮膜厚ささは1.4μmであった。
【0054】
また、実施例1の強度は4.2cN/dtex、残留伸度35%、沸騰水収縮率9.5%、U%(ノーマルテスト)0.8であった。糸の摩擦切断回数は6300回であり、極めて良好な耐摩耗性を示した。また、摩擦に対する染色堅牢度試験においても乾燥、湿潤ともに4級であった。
【0055】
前記のごとく、実施例1は原糸の力学的特性、耐摩耗性、および布帛の耐摩耗性ともに十分実用に耐える特性を示しており、衣料用途にも好適に用いることができる。
【0056】
実施例2および実施例3
芯鞘複合比率を80/20及び90/10にした以外は実施例1と同様の方法で評価した。鞘の複合比率が20%の実施例2の皮膜厚さは0.9μmであり、糸摩擦切断回数は3200回、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに3級と十分実用に耐えうる耐摩耗性を示した。また、鞘の複合比率が10%の実施例3の皮膜厚さは0.45μmであった。糸摩擦切断回数は1210回、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥3級、湿潤2級であり、実施例1や実施例2と比較すると低いが、インナーやカーテン等、耐摩耗性があまり要求されない用途であれば展開可能なレベルであった。なお、実施例1の結果と併せ、ポリアミドの皮膜厚さと糸摩擦切断回数との関係を図4に示すが、ポリアミドの皮膜厚さと耐摩耗性には強い相関関係があることがわかる。
【0057】
比較例1
芯鞘複合比率を93/7にした以外は実施例1と同様の方法で評価した。比較例1の皮膜厚ささは0.3μmであった。強度や糸斑U%等は良好な値を示すが、耐摩耗性評価では糸摩擦切断回数410回、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに1級であり、実用性に乏しいものであった。
【0058】
比較例2
芯鞘複合比率を100/0(ポリL乳酸単独)にした以外は実施例1と同様の方法で評価した。比較例1は強度や糸斑U%等は良好なものの、耐摩耗性評価では糸摩擦切断回数270回、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに1級であり、実用性に乏しいものであった。
【0059】
実施例4
紡糸速度1000m/分で引き取り、未延伸糸の構成が235デシテックス、36フィラメントになるようにした以外は実施例2の紡糸条件に準じた。さらに該未延伸糸を延伸倍率2.8倍、延伸温度90℃、熱セット温度125℃で延伸し、84デシテックス、36フィラメントの延伸糸を得た。延伸による糸切れは発生しなかったが、加熱ロール上で糸揺れが発生した。得られた糸の鞘部の皮膜厚ささは実施例2と同様、0.9μmであった。実施例4の試料を糸摩擦試験に掛けると、実施例2よりも早い段階で芯・鞘界面の剥離が生じて白化するとともに、摩擦切断回数も1130回であった。染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに2級であり、衣料用途としては使用が困難であるが、カーテン等、耐摩耗の要求が低い用途では展開可能なレベルであった。
【0060】
実施例5
紡糸速度5000m/分で引き取り、未延伸糸の構成が100デシテックス、36フィラメントになるように吐出量を変更した以外は実施例2の紡糸条件に準じた。紡糸性は良好であり、50kgのサンプリングで糸切れは発生しなかった。 さらに該未延伸糸を延伸倍率1.2倍、延伸温度90℃、熱セット温度125℃で延伸し、84デシテックス、36フィラメントの延伸糸を得た。延伸による糸切れや加熱ロールへのラップは発生しなかった。得られた糸の鞘部の皮膜厚ささは実施例2と同様、0.9μmであった。実施例5の糸摩擦切断回数は4470回であり、同じ皮膜厚さである実施例2よりも優れていた。また、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤とも3級であり、十分実用に耐えうる耐摩耗性を示した。
【0061】
実施例6および実施例7
鞘部のポリアミドに硫酸相対粘度ηr2.7のナイロン6(溶融粘度1770poise)又はηr3.0のナイロン6(溶融粘度2270poise)を配した以外は実施例2と同様の方法で評価した。
【0062】
ηr2.7のナイロン6を配した実施例6の試料は実施例2対比、高強度でかつ高熱収縮率を示し、その他の物性はほぼ同レベルのものであった。また、糸摩擦切断回数は1595回、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥3級、湿潤2級であり、実施例2よりは低いが、実用に耐えうる耐摩耗性を示した。
【0063】
ηr2.9のナイロン6を配した実施例7の試料は実施例6よりもさらに高熱収縮率を示した。また、糸摩擦切断回数は980回、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤とも2級であり、実施例6よりもさらに低いが、用途によっては展開可能なレベルであった。
【0064】
実施例8
実施例1で用いた重量平均分子量18万のポリL乳酸(光学純度99%L乳酸、融点170℃、溶融粘度2000poise)と、重量平均分子量12万のポリD乳酸(光学純度99%D乳酸、融点170℃)とを1:1の重量比率でチップブレンドして2軸押出混練機で240℃で溶融混練し、引き続いて紡糸機内に設けた静止混練器(東レエンジニアリング社製“ハイミキサー”10段)を通過させてから紡糸パックに導き、芯成分(溶融粘度2070poise)とした。
【0065】
該芯成分を用いた以外は実施例2と同様の方法で紡糸した。さらに該未延伸糸を5ロール延伸機(供給ロール−加熱ロール−加熱ロール−加熱ロール−室温ロール−巻取機)にて延伸速度800m/分、延伸倍率1.3倍、延伸温度90℃、第1熱セット温度125℃、第2熱セット温度180℃で延伸し、84デシテックス、36フィラメントの延伸糸を得た。延伸性は良好であり、糸切れや熱ロールへのラップは発生しなかった。
【0066】
実施例8は、広角X線回折測定により芯成分のポリ乳酸がステレオコンプレックスを形成していることが確認された。また、DSCによる融点測定では、ポリL乳酸単独でみられる170℃近傍の融点ピークがほぼ消失しており、代わりにナイロン6の融点ピークと重なり合うように融点が出現した(ポリ乳酸のステレオコンプレックスの融点220℃、ナイロン6の融点230℃)。
【0067】
また、実施例8の90℃高温下での強度は1.8cN/dtexと、実施例2よりも40%向上していた。糸の摩擦切断回数は3675回、摩擦に対する染色堅牢度試験は乾燥、湿潤ともに3級であり、良好な耐摩耗性を示した。
【0068】
実施例9
鞘成分のポリアミドにナイロン11(融点186℃、溶融粘度1800poise)を用いた以外は実施例2と同様の方法で評価した。
【0069】
実施例9は実施例2対比、若干低強度であったが、糸摩擦切断回数は5050回、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに4級であり、極めて優れた耐摩耗性を示した。
【0070】
実施例10
紡糸油剤としてポリエーテルを98%含む原液を純水で薄めて15%水系エマルジョンとし、純油分として繊維に約0.8重量%付着させた以外は実施例2と同様の方法で評価した。紡糸、延伸性は良好であり、50kgのサンプリングで糸切れ、ラップ等は発生しなかった。
【0071】
実施例10の糸の摩擦切断回数は1940回であり、摩擦に対する染色堅牢度試験では乾燥3級、湿潤2級であった。したがって、実施例2よりも耐摩耗性は低下するが、用途によっては実用に耐えうる特性を示した。
【0072】
実施例11
滑剤として平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%、エチレンビスステアリン酸アミドを0.5重量%添加した硫酸相対粘度ηr:2.3のナイロン6(融点221℃、溶融粘度800poise)を鞘部とした以外は実施例2と同様の方法で評価した。
【0073】
実施例11の糸摩擦切断回数は4010回、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに4級であり、極めて優れた耐摩耗性を示した。
【0074】
実施例12
実施例2で得られた未延伸糸を加工速度600m/分、延伸倍率1.3倍、熱板温度160℃、D/Y比1.7で3軸ツイスター(ウレタンディスク)を用いて延伸仮撚加工を実施した。糸掛け性、工程通過性は良好であり、糸切れは発生しなかった。また、得られた糸の捲縮特性を示すCR値は20.8%であり、力学特性、捲縮特性ともに良好な仮撚加工糸が得られた。該仮撚加工糸について糸の摩擦切断回数を測定したところ、2030回であり、摩擦に対する染色堅牢度試験では乾燥、湿潤ともに3級であり、十分な耐摩耗性を有していた。
【0075】
【表1】
【0076】
【発明の効果】
本発明の複合繊維を使用することにより、脂肪族ポリエステルの欠点であった力学特性や耐熱性、耐摩耗性を大幅に向上させることができ、衣料用、産業用を含め、あらゆる用途での展開が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で好ましく用いられる複合糸の繊維横断面形状を示す図である。
【図2】繊維の摩擦切断回数の測定を行う装置の概略図である。
【図3】本発明の複合糸を製造するために好ましく用いられる口金の縦断面図で
ある。
【図4】ポリアミドの皮膜厚さと繊維摩擦切断回数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1:試験糸
2:セラミックスロッド(湯浅糸道工業(株)製バーガイド、YM−99C、HF仕上げ、直径6mm)
3:錘
4:往復運動装置(東洋精機(株)製ラビングテスター)
Claims (3)
- 芯部Aを形成する熱可塑性樹脂が脂肪族ポリエステルであり、鞘部Bを形成する熱可塑性樹脂が繊維形成性のポリアミドである芯鞘複合繊維であって、鞘部Bを形成するポリアミドの皮膜厚さが0.4μm以上であることを特徴とする複合繊維。
- 鞘部Bを形成する繊維形成性のポリアミドが結晶性であり、かつ融点が芯部Aの融点よりも0〜100℃高いことを特徴とする請求項1記載の複合繊維。
- 摩擦に対する堅牢度試験(摩擦試験機II形)において、乾燥3級以上、湿潤2級以上の染色堅牢度を有する請求項1または2記載の複合繊維を含む染色された繊維構造体。
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