JP4114443B2 - 耐摩耗性に優れたポリ乳酸繊維およびその製造方法 - Google Patents
耐摩耗性に優れたポリ乳酸繊維およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性に優れ、且つ工程通過性が良好なポリ乳酸繊維、およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球規模での環境に対する意識が高まる中で、石油資源の大量消費によって生じる地球温暖化や、大量消費に伴う石油資源の枯渇が懸念されている。このような背景から、植物由来原料(バイオマス)からなり、使用後は自然環境中で最終的に水と二酸化炭素まで分解する、自然循環型の環境対応素材が切望されている。
【0003】
しかしながら、これまで、このようなバイオマス利用の生分解性ポリマーは、製造コストが高く、また力学特性や耐熱性が低いといった課題があり、汎用プラスチックに利用されることはなかった。これらを解決できるバイオマス利用の生分解性ポリマーとして、現在、最も注目されているのは脂肪族ポリエステルの一種であるポリ乳酸である。ポリ乳酸は植物から抽出したでんぷんを発酵することにより得られる乳酸を原料としたポリマーであり、バイオマス利用の生分解性ポリマーの中では力学特性、耐熱性、コストのバランスが最も優れている。そして、これを利用した樹脂製品、繊維、フィルム、シート等の開発が急ピッチで行われている。
【0004】
ポリ乳酸繊維の開発としては、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として衣料用途、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途、産業資材用途への応用も期待されている。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸繊維は表面摩擦係数が高いために、耐摩耗性が悪いという欠点があり、衣料、インテリア、車両内装用途等の耐摩耗性が要求される用途への展開が進んでいなかった。例えば、アウターウェア、ユニフォーム、スポーツウェア等の用途では、特に、日常生活において頻繁に摩擦を受ける肩、肘、膝、お尻等の部分で、毛羽立ちや白化、テカリ等の発生により品位が低下し、またインナーウェアへの色移りが生じる等の大きな問題があった。さらに、椅子貼りやカーペット等の用途でも、摩擦を繰り返すことで、毛羽が発生したり、繊維が擦り切れて破れを生じる等、耐久性が非常に悪く、また、ズボンや靴下等の着衣への色移りが生じる等の問題があった。
【0006】
このようなポリ乳酸繊維の耐摩耗性を評価するために、本発明者らはJIS L 0849で規定された学振形摩擦試験によって摩擦堅牢度を調べた。この評価方法は、染色された繊維製品を綿布で摩擦し、繊維製品から綿布への色移りを評価するものである。この結果、ポリエチレンテレフタレートやナイロンでは、一般的な染料を使う限り摩擦堅牢度は4級以上を達成するのに対して、ポリ乳酸の場合には1級と非常に低いレベルであることがわかった。そこで、従来のポリ乳酸繊維(比較例1)を綿布で摩擦した後の繊維の表面状態を電子顕微鏡(SEM)で調べたところ、摩擦によりポリマー削れが発生し、その削れたポリマーが綿布に付着することによって色移りが生じていることわかった。衣料用途では、一般に摩擦堅牢度は少なくとも3級以上を達成することが必要であるため、ポリ乳酸繊維をそのような用途で展開することは、実質的に極めて困難であった。
【0007】
また、ポリ乳酸繊維の表面摩擦係数が高いことにより、布帛の加工工程でも問題を生じている。例えば、布帛の裁断工程では、複数枚の布帛を重ねて裁断するが、この際、ポリ乳酸布帛の場合には、カッターと繊維との間で大きな剪断発熱が生じることにより布帛の切れ端同士が融着を起こしてしまう。さらに、ポリ乳酸布帛を縫製する際には、通常の縫製速度では、ミシン針と繊維との間での摩擦力が著しく大きくなり、摩擦発熱によって繊維の融着が発生して製品の品位の低下を招いたり、また、ミシン針にポリマーが付着するためにミシン針の交換が頻繁に必要となるため、実質的に低速でしか加工できず、生産性が著しく低下するという問題があった。
【0008】
さらに、ポリ乳酸繊維の表面摩擦係数が高いことによる影響は、上記のような繊維製品の耐摩耗性不良や布帛の加工工程の問題だけに留まらず、繊維を製造する際の工程通過性不良や品位の低下にも及んでいる。例えば、溶融紡糸過程では、通常、糸が1000〜7000m/分という高速で走行するため、糸とガイド類の摩擦が大きくなることにより毛羽や糸切れが発生し易くなってしまう。また、延伸工程では、糸がローラーに巻き付いたり糸切れが発生し易くなる。さらに、捲縮加工工程、特に仮撚工程では、糸とツイスターの間の摩擦力が過大となるため、糸切れが頻発し、実質的に加工困難となってしまうこともある。加えて、製織、製編の際には、糸と金属との摩擦だけでなく、糸と糸との摩擦により、毛羽の発生が著しく、工程通過性および布帛の品位が大きく低下するという問題があった。以上のように、ポリ乳酸繊維およびその繊維製品を製造するのに際しては、工程通過性が悪く生産性が低下すると同時に、得られる繊維および繊維製品は毛羽や摩耗の発生によって品位の低いものとなってしまうという致命的な問題点があった。
【0009】
これらの問題の原因であるポリ乳酸繊維の高摩擦係数は、ポリマー基質によるものであり、ポリ乳酸繊維では必然的に起こる問題であると考えられる。
【0010】
ところで、樹脂製品やフィルム、シート等の分野では、その製造工程において、チップや溶融ポリマーのアンチブロキング性、或いは金型やローラーからの成形体の剥離性を向上させるためにポリマーに滑剤を添加する場合がある。しかしながら、繊維の分野においては、滑剤のブレンド斑、熱分解、ブリードアウト等により繊維の物性斑や染色斑等による製品品質の低下が発生しやすいため、これまでこのような添加剤を用いることは避けられる傾向にあった。
【0011】
滑剤を添加した繊維については、極めて少ない例ではあるが、例えば、ポリ乳酸繊維に一般式RCONH2(ただしRはアルキル基)で表される脂肪酸モノアミドを添加し、撥水性を与えることによって加水分解速度を抑制することを目的とするものであるが(特許文献1参照)、本発明の目的であるポリ乳酸繊維の耐摩耗性および工程通過性の向上については全く記載が無い。念のため、本発明者らは脂肪酸モノアミドを添加したポリ乳酸繊維について追試を行ったが、ポリ乳酸繊維の耐摩耗性および製造する際の工程通過性を向上させることはできなかった(比較例4,5)。これは、脂肪酸モノアミドが、そのアミド基の反応性が高いために、溶融時にポリ乳酸と反応してしまい、結果的に滑剤として機能し得る脂肪酸モノアミドの繊維中に占める割合が少なくなることが原因であると推定された。また、脂肪酸モノアミドがポリ乳酸と反応すると、結果的にポリ乳酸の分子鎖が切断されるため、分子量が減少してしまい、繊維物性が低下する場合もあった。 さらに、脂肪酸モノアミドは昇華性が大きい、或いは耐熱性に劣るために、発煙による作業環境の悪化や、ブリードアウトによるガイド類やローラーの汚れ、また、操業性の低下を引き起こすこともあった。さらに、ブリードアウトした脂肪酸モノアミドが繊維表面で凝集することによって、繊維の物性斑や染色斑を招く場合もあった。
【0012】
これらの問題点のため、耐摩耗性および工程通過性が良好なポリ乳酸繊維が切望されていた。
【0013】
【特許文献1】
特開平8−183898号公報(第2−4頁)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を克服し、耐摩耗性に優れ、且つ工程通過性が良好なポリ乳酸繊維およびその製造方法を提供することを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5wt%含有することを特徴とするポリ乳酸繊維により達成される。
【0016】
また、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5wt%含有するポリ乳酸を溶融紡糸し、脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油から選ばれる平滑剤を少なくとも1種類含有する紡糸油剤を付与することを特徴とするポリ乳酸繊維の製造方法によって達成される。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明でいうポリ乳酸とは、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものを言い、L体あるいはD体の光学純度は90%以上であると、融点が高く好ましい。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していても、ポリ乳酸以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有していても良い。ポリ乳酸ポリマーの分子量は、重量平均分子量で5万〜50万であると、力学特性と成形性のバランスが良く好ましい。
【0019】
本発明でいう脂肪酸ビスアミドは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。また、本発明でいうアルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
【0020】
本発明では脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを用いるが、これらの化合物は、通常の脂肪酸モノアミドに比べてアミドの反応性が低く、溶融成形時においてポリ乳酸との反応が起こりにくい。また、高分子量のものが多いため、一般に耐熱性が良く、昇華しにくいという特徴がある。特に、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いためポリ乳酸と反応しにくく、また、高分子量であるため耐熱性が良く、昇華しにくいことから、より好ましい滑剤として用いることができる。
【0021】
本発明では、滑剤として脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5wt%含有することが重要である。該脂肪酸アミドの含有量を0.1wt%以上とすることで、繊維の表面摩擦係数が低減し、繊維製品に衣料用途等で要求される耐摩耗性と繰り返し使用での耐久性を付与することができる。さらに、布帛の加工工程での裁断カッターや高速のミシン針による布帛の融着を抑制し、工程通過性を向上できる。また、該脂肪酸アミドの含有量を5wt%以下とすることで、脂肪酸アミドを微分散することができ、繊維の物性斑や染色斑が発生するのを防ぐことができる。該脂肪酸アミドの含有量は、好ましくは0.5〜3wt%である。本発明では、該脂肪酸アミドが単一でも良いし、また複数の成分が混合されていても良く、混合されている場合には、その混合物が繊維全体に対して0.1〜5wt%含有していれば良い。
【0022】
本発明のポリ乳酸繊維は、平滑剤を含有する紡糸油剤が付与されていることが好ましい。平滑剤は、繊維と金属の摩擦係数を低減させるものとして、例えば脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油等が好ましい。また、これらの平滑剤は単一成分で用いても良いし、複数の成分を混合して用いても良い。特に、ポリ乳酸繊維に適した平滑剤としては、脂肪酸エステルや鉱物油がより好ましい。また、ポリエーテル系の平滑剤は、耐熱性には優れるが、繊維と金属の摩擦係数を上げる場合があるため、避けることが好ましい。
【0023】
本発明でいう脂肪酸エステルとは、特に限定されるものではないが、例えば、メチルオレート、イソプロピルミリステート、オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソトリデシルステアレート等の一価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルアジペート等の一価のアルコールと多価のカルボン酸のエステル、エチレングリコールジオレート、トリメチロールプロパントリカプリレート、グリセリントリオレート等の多価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ラウリル(EO)nオクタノエート等のアルキレンオキサイド付加エステル等が挙げられる。ポリ乳酸繊維に上記のような平滑剤を含有させた油剤を付与することによって、紡糸、延伸工程での糸切れや毛羽の発生、ローラーへの巻き付きを抑制することができる。また、従来のポリ乳酸繊維では工程通過性が悪かった仮撚加工についても、糸とツイスターの間の摩擦力が減少し、糸切れが抑制されることによって、工程通過性良く実施できる。さらに、製編織工程では、糸と金属、或いは糸同士の摩擦が少なくなり、毛羽の発生を抑制することによって品位の高い繊維製品を得ることができる。
【0024】
本発明では、油剤を構成する成分は平滑剤に加えて、油剤を水に乳化させ、低粘度化して糸条への付着、浸透性を向上させる乳化剤、また必要に応じて帯電防止剤、イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤を適宜配合したものを使用することができる。
【0025】
平滑剤の油剤全体に対する含有量は、好ましくは30〜95wt%である。平滑剤の油剤全体に対する含有量を30wt%以上とすることで、繊維の表面摩擦係数が大幅に低減し、繊維および繊維製品の工程通過性や品位を向上できる。また、含有量を95wt%以下とすることで、油剤の水への分散性を良くし、これを繊維に塗布した際の油剤の付着斑を抑制することができる。平滑剤の油剤全体に対する含有量は、より好ましくは55〜75wt%である。
【0026】
本発明のポリ乳酸繊維は、衣料、インテリア、車両内装といった色調が重要な用途でも幅広く使用するために、黄味の色調の指標であるb*値が−1〜5であることが好ましく、−1〜3であることがより好ましい。なお、従来技術である脂肪酸モノアミドを含有したポリ乳酸繊維は、b*値が高く、黄味が強い傾向になる場合がある。これは、耐熱性に劣る脂肪酸モノアミドの熱劣化に加えて、脂肪酸モノアミドが溶融成形時にポリ乳酸ポリマーのカルボニル基と反応し、ジアセトアミド基が形成されるためと考えられる。これに対して、本発明の脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは、耐熱性に優れており、またアミド基の反応性が低いため、繊維の着色は発生しにくいのである。
【0027】
本発明のポリ乳酸繊維では、工程通過性や製品の力学的強度を充分高く保つためには、強度は2.0cN/dtex以上であることが好ましい。また、本発明のポリ乳酸繊維の伸度は15〜70%であると、繊維製品にする際の工程通過性が向上し好ましい。本発明のポリ乳酸繊維では、沸収が0〜20%であれば繊維および繊維製品の寸法安定性が良く好ましい。また糸の太さ斑を表すU%は、1.5%以下であれば、染色斑が起こりにくく、高品位の染色繊維製品が得られるので好ましい。U%は、より好ましくは1.0%以下である。
【0028】
本発明のポリ乳酸繊維の繊度は、衣料用途として使用する場合には、マルチフィラメントの総繊度500dtex以下であることが好ましく、単糸繊度は0.1〜10dtexとすることが必要である。一般にポリ乳酸繊維の耐摩耗性不良は単糸繊度が小さい程顕著に現れるが、本発明のポリ乳酸繊維では、単糸繊度が小さくても十分な耐摩耗性を有するものである。
【0029】
本発明の耐加水分解性に優れたポリ乳酸繊維の断面形状については丸断面、中空断面、三葉断面等の多葉断面、その他の異形断面についても自由に選択することが可能である。また、繊維の形態は、長繊維、短繊維等特に制限は無く、長繊維の場合はマルチフィラメントでもモノフィラメントでも良い。
【0030】
本発明のポリ乳酸繊維の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5wt%含有するポリ乳酸を溶融紡糸し、脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油から選ばれる平滑剤を少なくとも1種類含有する紡糸油剤を付与することによって製造することができる。
【0031】
ポリ乳酸は公知の方法を用いて合成できるが、ポリ乳酸自体の色調が良好で、しかもラクチド等の残存オリゴマーやモノマーを減じるようにすることが好ましい。具体的手法は例えば特表平7−504939号公報記載のように、金属不活性化剤や酸化防止剤等を使用したり、重合温度の低温化、触媒添加率の抑制を行うことが好ましい。また、ポリマーを減圧処理したり、クロロホルム等で抽出することにより、残存オリゴマー、モノマー量を大幅に低減することもできる。
【0032】
ポリ乳酸繊維に脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを含有させる方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。まず混練工程として、ポリ乳酸と脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを乾燥した後、チッソシールされた押し出し混練機に供給して混練チップを作製する。次に、この混練チップを紡糸機に供することによって溶融紡糸を行う。混練工程では、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを高比率で含有した混練チップを作製し(マスターチップ化)、これを紡糸機に供する際に脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドが所望の含有量になるように通常のポリ乳酸チップをブレンドして希釈する方法も好適に用いられる。また、溶融紡糸工程では、紡糸パック内に静止混練器を設置することにより、ポリ乳酸と脂肪酸アミドをさらに微細に混練させることも可能である。脂肪酸アミドの凝集や、繊維表面へのブリードアウトはガイド類やローラーの汚れによる操業性の低下を引き起こしたり、繊維製品の物性斑や染色斑を引き起こすため、混練工程や溶融紡糸工程では、脂肪酸アミドをポリ乳酸に微分散させることが好ましい。
【0033】
また、混練と溶融紡糸を同一工程で行っても良く、例えば次のような方法を用いることもできる。第1の方法は、ポリ乳酸と脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを乾燥した後、チッソシールされた押し出し混練機に供給し、押し出し混練機により混練されたポリ乳酸と脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドの混練ポリマー融液を紡糸機に導き、紡糸パック内に設置された静止混練器によりさらに微細に混練し、口金から吐出し溶融紡糸をする方法である。また、第2の方法は、ポリ乳酸と脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを別々に溶融し、融液を紡糸機に導き、紡糸パック内に設置された静止混練器により微細に混練し、口金から吐出し溶融紡糸をする方法である。
【0034】
脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは、ブレンドポリマーの全量に対して0.1〜5wt%含有させれば良い。該脂肪酸アミドの含有量を0.1wt%以上とすることで、繊維の表面摩擦係数が低減し、布帛の加工工程での裁断カッターや高速のミシン針による布帛の融着を抑制し、工程通過性を向上できる。また、該脂肪酸アミドの含有量を5wt%以下とすることで、混練や紡糸の際に、過剰の脂肪酸アミドが溶融ポリマーからブリードアウトし、これが昇華或いは分解して発煙を引き起こすといった作業環境の悪化や、過剰の脂肪酸アミドの昇華物あるいは分解物によって押し出し混練機や溶融紡糸機が汚れる等の操業性の低下を防ぐことができる。
【0035】
また、該脂肪酸アミドの含有量が5wt%以下であれば、混練や紡糸の際に、溶融ポリマー内での脂肪酸アミドの凝集が少なく、脂肪酸アミドの熱劣化や、ポリ乳酸との反応が抑制され、b*値を5以下とできるため好ましい。加えて、紡糸工程で、脂肪酸アミドの溶融ポリマーからのブリードアウトが抑制されることによって、口金からのポリマーの吐出が安定し、糸斑が抑制されるため好ましい。該脂肪酸アミドの含有量は、好ましくは0.5〜3wt%である。なお、本発明では、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを用いるが、これらは従来技術の脂肪酸モノアミドに比べて、昇華しにくく、また耐熱性に優れるため、好ましい滑剤である。特に、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いためポリ乳酸と反応しにくく、また、高分子量であるため耐熱性が良く、昇華しにくいことから、繊維製品の耐摩耗性の向上が著しく、また混練、紡糸工程での発煙を抑制できる。加えて、脂肪酸アミドのポリマーからのブリードアウトが少なくなり、口金からのポリマー吐出が安定することによって、糸斑を抑制することができる。よって、これを染色した場合、染色斑が抑制され、品位の高い染色繊維製品を得ることができる。
【0036】
溶融紡糸によって口金から吐出された糸は、チムニーにより糸条を冷却固化させた後、給油ガイドやオイリングローラーにより平滑剤を含有する紡糸油剤を付与し、その後、糸条をローラーで引き取る。この時、特に2500m/分以上の高速で引き取る際には、繊維とガイド類との摩擦が大きくなるため、紡糸油剤の選定が非常に重要となる。ここで、紡糸油剤に含有される平滑剤は、繊維と金属の摩擦係数を低減させるものとして、脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油が好ましい。また、これらの平滑剤は単一成分で用いても良いし、複数の成分を混合して用いても良い。特に、ポリ乳酸繊維に適した平滑剤としては、脂肪酸エステルや鉱物油がより好ましい。また、ポリエーテル系の平滑剤は、耐熱性には優れるが、繊維と金属の摩擦係数を上げる場合があるため、避けることが好ましい。ポリ乳酸繊維に上記のような平滑剤を含有させた油剤を付与することによって、紡糸、延伸工程での糸切れや毛羽の発生、ローラーへの巻き付きを抑制することができる。また、従来のポリ乳酸繊維では工程通過性が悪かった仮撚加工についても、糸とツイスターの間の摩擦力が減少し、糸切れが抑制されることによって、工程通過性良く実施できる。さらに、製編織工程では、糸と金属、或いは糸同士の摩擦が少なくなり、毛羽の発生を抑制することによって品位の高い繊維製品を得ることができる。
【0037】
平滑剤の油剤全体に対する含有量は、好ましくは30〜95wt%、より好ましくは55〜75wt%である。平滑剤の油剤全体に対する含有量を30wt%以上とすることで、繊維の表面摩擦係数が大幅に低減し、繊維および繊維製品の工程通過性や品位を向上できる。また、含有量を95wt%以下とすることで、油剤の水への分散性を良くし、これを繊維に塗布した際の油剤の付着斑を抑制することができる。平滑剤の油剤全体に対する含有量は、より好ましくは55〜75wt%である。
【0038】
そして、長繊維の場合は引き取った糸条を一旦チーズパッケージとして巻き取り、その後これを延伸、熱処理する。この時、第1引き取りローラーの周速である紡糸速度は2500〜7000m/分とすると、糸斑が減少し好ましい。また、延伸温度は80〜150℃とすると糸斑が減少し好ましい。また、熱処理温度は120〜160℃とするとポリ乳酸繊維の沸収が低下し熱的な寸法安定性が向上するため好ましい。なお、産業資材用途のように高強度が必要とされる場合は、多段延伸を行っても良い。また、必要に応じ、仮撚加工や押し込み加工、機械捲縮等により、ポリ乳酸繊維に捲縮を施しても良い。また、溶融紡糸で一旦巻き取ることなく、そのまま延伸、熱処理する紡糸直接延伸法を採用することもできる。
【0039】
一方、短繊維の場合は引き取った糸条を合糸し、一旦バンカーに受けた後、さらにこれらを合糸しトウとした後、これに延伸、機械捲縮を施し、次工程に適した油剤を付与した後、カットする。延伸の際は、トウが太く熱伝達が悪いことを考慮し、スチーム延伸や液浴延伸を採用することが好ましい。この時の温度は75〜100℃とすることが好ましい。
【0040】
また、不織布とするときは、上記した短繊維を用いても良いし、いわゆるスパンボンドやメルトブロー等の紡糸と不織布形成工程が連続した方法を用いても良い。
【0041】
本発明のポリ乳酸繊維は、織物、編物、不織布等の様々は繊維構造体をとることができる。
【0042】
また、本発明のポリ乳酸繊維は、植物由来原料からなる物質と混用されていても良い。例えば絹、綿等の天然繊維やレーヨンやアセテート等の再生繊維と混繊したり、交織や交編したものが挙げられる。また、本発明の耐加水分解性に優れたポリ乳酸繊維をバインダーとして用い、パルプ等と混用した不織布や成形体等も挙げられる。
【0043】
本発明のポリ乳酸繊維は、シャツやブルゾン、パンツといった衣料用途のみならず、カップやパッド等の衣料資材用途、カーテンやカーペット、マット、壁紙、家具等のインテリア用途や車両部材用途、ベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、縫い糸の産業資材用途、フェルト、不織布、フィルター、人工芝等にも好適に用いることができる。
【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0045】
A.重量平均分子量
島津社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー「島津LC−10AD」を用いて、ポリスチレンを標準として測定した。
【0046】
B.TG(熱重量測定)
マックサイエンス社製「TG−DTA 2000S」を使用して、試料約10mgを30℃から10℃/分の昇温速度で加熱した時の、試料の重量減少率を測定した。
【0047】
C.強度および伸度
オリエンテック社製「テンシロンUTM−100III」を用いて、室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度として強伸度曲線を求めた。(JIS L 1013に準拠)
D.沸収
下記式から求めた。
【0048】
沸収(%)=[(L0−L1)/L0)]×100(%)
L0:延伸糸をかせ取りし初荷重0.088cN/dtex下で測定したかせの原長
L1:L0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.088cN/dtex下でのかせ長
E.U%
ツエルベガー社製「ウースターテスター1 MODEL C」を用いてノーマルモードで200m/分×1分間の測定により、糸の太さ斑を測定した。
【0049】
F.CR値
捲縮糸をかせ取りし、実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中15分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L’0を測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当の荷重を除き0.0018cN/dtex相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L’1を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
【0050】
CR(%)=[(L’0−L’1)/L’0]×100(%)
G.色調(b*値)
繊維サンプルを透明プレートに、下地の色がほぼ無視できる程度まで密に積層して巻き付け、ミノルタ社製「スペクトロフォトメーターCM−3700d」を用いてb*値を測定した。この時、光源としてはD65(色温度6504K)を用い、10°視野で測定を行った。
【0051】
H.耐摩耗性(乾摩擦堅牢度)
染色した布帛サンプルを綿布で100回往復摩擦した後の、綿布への色移り度合いをグレースケールを用いて1〜5級で判定した。(JIS L 0849に準拠)
I.SEM観察
日立社製「HITACHI S−3000N」を使用し、摩擦試験後の布帛の表面を観察した。
【0052】
J.染色斑
実施例、比較例で得られた染色布帛を目視評価した。○以上が合格。
【0053】
◎:染色斑は全く無し
○:若干染色斑有り
△:染色斑が目立つ
×:染色斑が多い
K.紡糸性
1tの紡糸テストで糸切れが発生した回数を調べた。糸切れ4回/t以下が合格。
【0054】
L.延伸性
延伸機に144錘仕掛け、3kg/錘の延伸を行い、下記式により延伸性を評価した。延伸優等率≧90%が合格。
【0055】
延伸優等率(%)=((仕掛け錘数−糸切れ錘−ローラーへの糸巻き付き発生錘)/仕掛け錘数)×100(%)
M.製織性
WJR(ウォータージェット製織機)を織機回転数600〜800rpmで使用した時の、糸切れによる織機停止の回数を調べた。織機停止6回/日・台以下が合格。
[製造例1](ポリ乳酸の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で140分間重合を行いポリ乳酸P1を得た。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は13.5万であった。
[製造例2](EBAを4wt%含有したポリ乳酸の製造)
P1とエチレンビスステアリン酸アミド(EBA)[日本油脂社製「アルフローH−50S」]を乾燥した後、P1:EBA=96:4(重量比)となるように加熱溶融したEBAを計量して連続的にP1に添加しながらシリンダー温度220℃の2軸混練押し出し機に供することで、EBAを4wt%含有したポリ乳酸P2を得た。
[製造例3](EBAを7wt%含有したポリ乳酸の製造)
P1:EBA=93:7(重量比)に変える以外は製造例2と同様にして、EBAを7wt%含有したポリ乳酸P3を得た。
[製造例4](KBAを4wt%含有したポリ乳酸の製造)
EBAをm−キシリレンビスステアリン酸アミド(KBA)[日本化成社製「スリパックスPXS」]に変える以外は製造例2と同様にして、KBAを4wt%含有したポリ乳酸P4を得た。
[製造例5](SSを4wt%含有したポリ乳酸の製造)
EBAをアルキル置換型モノアミドのN−ステアリルステアリン酸アミド(SS)[日本化成社製「ニッカアマイドS」]に変える以外は製造例2と同様にして、SSを4wt%含有したポリ乳酸P5を得た。
[製造例6](BAを4wt%含有したポリ乳酸の製造)
EBAをモノアミドのベヘニン酸アミド(BA)[日本油脂社製「アルフローB−10」]に変える以外は製造例2と同様にして、BAを4wt%含有したポリ乳酸P6を得た。
[製造例7](SAを4wt%含有したポリ乳酸の製造)
EBAをモノアミドのステアリン酸アミド(SA)[日本油脂社製「アルフローS−10」]に変える以外は製造例2と同様にして、SAを4wt%含有したポリ乳酸P7を得た。
【0056】
実施例1
重量比でP1:P2=3:1となるようにチップブレンド(EBA1wt%)しホッパー1に仕込み、このチップをエクストルーダー2で220℃で溶融した後、220℃に加熱されたスピンブロック3に設置された紡糸パック4に溶融ポリマーを導き、口金5から吐出した(図3)。紡出した糸条7をチムニー6により25℃の冷却風で冷却固化させた後、集束給油ガイド8により脂肪酸エステル系の平滑剤を40wt%(イソトリデシルステアレート20wt%+オクチルパルミテート20wt%)を含有する紡糸油剤(濃度15%)を繊維に対して1wt%塗布し、交絡ガイド9により糸に交絡を付与した。その後、周速3000m/分の非加熱の第1引き取りローラー10で引き取った後、非加熱の第2引き取りローラー11を介して巻き取り、巻取糸12を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、口金直下での発煙もほとんど無かった。
【0057】
得られた未延伸糸13をフィードローラー14を介して90℃の第1ホットローラー15で予熱した後、1.45倍に延伸し、130℃の第2ホットローラー16で熱セットを行い、コールドローラー17を介して巻き取り、84dtex、36フィラメント、丸断面の延伸糸18を得た(図4)。延伸性も良好であり、延伸優等率は98%以上、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。
【0058】
得られた繊維は、強度3.5cN/dtex、伸度38%、沸収7.0%、U%0.7%と良好な糸物性を示した。またb*値は1.2と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0059】
この繊維を経糸および緯糸に用いて平織物(織り密度:経95本/インチ、緯80本/インチ)を作製した。なお、経糸には300ターン/mのS撚りを施した。この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。さらに、この布帛に下記条件にて染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0060】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、摩擦試験後の布帛の表面をSEMにて観察した結果、糸の摩耗は殆ど起こっていなかった(図1)。さらに、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
<布帛加工条件>
・精練:ソーダ灰(1g/l)、界面活性剤(0.5g/l)、98℃×20分・中間セット:140℃×3分
・染色:Dianix Navy Blue ERFS 200(2%owf)、pH調整剤(0.2g/l)、110℃×40分
・ソーピング:界面活性剤(0.2g/l)、60℃×20分
・仕上げセット:140℃×3分
実施例2
P2のみ(EBAは4wt%)を用いて実施例1と同様に、溶融紡糸、延伸を行い84dtex、36フィラメントの三葉断面延伸糸を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。ただし、EBAの含有量が4wt%と実施例1に比べ多かったため、問題となるほどではないが、口金直下で発煙が見られた。また、延伸性も良好であり、延伸優等率は98%以上、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。得られた繊維は、強度3.1cN/dtex、伸度39%、沸収6.0%、U%1.5%と良好な糸物性を示した。ただし、延伸糸のb*値が実施例1に比べると高く、問題となるほどではないが若干黄味がかったものであった。
【0061】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。
【0062】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れていたが、糸のU%が実施例1に比べると大きいことと若干EBAの凝集があるためか、実施例1に比べると若干の染色斑が見られた。
【0063】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、5級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0064】
実施例3
P1とP2の仕込み比を重量比で12.3:1(EBAは0.3wt%)にして実施例1と同様に、溶融紡糸、延伸を行い84dtex、36フィラメントの延伸糸を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、延伸性も良好であり、延伸優等率は98%以上、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。得られた繊維は、強度3.6cN/dtex、伸度39%、沸収7.5%、U%0.7%と良好な糸物性を示した。また、b*値は0.8と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0065】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。
【0066】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトな優れた風合いを示した。ただし、EBAの含有量が実施例1に比べると少ないため、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が若干残っていた。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0067】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、3級と合格レベルではあるが、実施例1に比べると耐摩耗性は一歩譲るものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、実施例1に比べると裁断時の布帛裁断部での融着が若干発生し、またミシン針の汚れも若干有ったが、充分な工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、実施例1には一歩譲るものの、毛羽立ちや白化、テカリもは微少であり、充分な製品耐久性を示した。
【0068】
実施例4
引き取りローラーの周速を5000m/分、第1ホットローラーの温度を140℃、延伸倍率を1.65倍、第2ホットローラーの温度を150℃に変更して、実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行い84dtex、24フィラメントの延伸糸を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、延伸性も良好であり、延伸優等率は98%以上、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。得られた繊維は、強度5.0cN/dtex、伸度22%、沸収8.0%、U%0.7%と良好な糸物性を示した。また、b*値は1.1と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0069】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。
【0070】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0071】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0072】
実施例5
引き取りローラーの周速を1500m/分、また、延伸倍率を2.4倍にして実施例1と同様に、溶融紡糸、延伸を行い84dtex、36フィラメントの延伸糸を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、延伸性も良好であり、延伸優等率は98%以上、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。得られた繊維は、強度3.5cN/dtex、伸度41%、沸収7.0%、U%1.3%と良好な糸物性を示した。また、b*値は1.3と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0073】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。
【0074】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れていたが、糸のU%が実施例1に比べると大きいため、実施例1に比べると若干の染色斑が見られた。
【0075】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0076】
実施例6
P1とP2の仕込み比を重量比で1:1(EBAは2wt%)にして実施例1と同様に、溶融紡糸、延伸を行い84dtex、144フィラメントの延伸糸を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、延伸性も良好であり、延伸優等率は98%以上、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。得られた繊維は、強度3.4cN/dtex、伸度39%、沸収7.5%、U%0.9%と良好な糸物性を示した。また、b*値は1.2と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0077】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。
【0078】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0079】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0080】
実施例7
P2の代わりにP4を用いて実施例1と同様に、溶融紡糸、延伸を行い84dtex、12フィラメントの延伸糸を得た(KBAは1wt%)。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、口金直下での発煙も見られなかった。また、延伸性も良好であり、延伸優等率は98%以上、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。得られた繊維は、強度3.5cN/dtex、伸度39%、沸収7.0%、U%0.8%と良好な糸物性を示した。また、b*値は1.6と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0081】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。
【0082】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0083】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0084】
実施例8
P2の代わりにP5を用いて実施例1と同様に、溶融紡糸、延伸を行い84dtex、12フィラメントの延伸糸を得た(SSは1wt%)。紡糸性は良好であり、糸切れは1回/t、毛羽の発生は見られなかった。ただし、問題となるほどではないが、実施例1に比べると口金直下での発煙が見られた。また、延伸性は実施例1には一歩譲るものの、延伸優等率は97%、ガイド類への毛羽の付着は微少と充分なものであった。得られた繊維は、強度3.5cN/dtex、伸度39%、沸収7.0%、U%1.4%と良好な糸物性を示した。また、b*値は1.2と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0085】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。
【0086】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトな優れた風合いを示した。ただし、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が若干残っていた。また、発色性に優れていたが、実施例1に比べると若干の染色斑が見られた。これはSSがアルキル置換型脂肪酸モノアミドであるため、実施例1で用いたEBAのような脂肪酸ビスアミドに比べると、ポリ乳酸と反応し易いため滑剤効果が発現しにくいこと、また凝集し易いためと考えられる。
【0087】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、3級と合格レベルではあるが、実施例1に比べると耐摩耗性は一歩譲るものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、実施例1に比べると裁断時の布帛裁断部での融着が若干発生し、またミシン針の汚れも若干有ったが、充分な工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、実施例1には一歩譲るものの、毛羽立ちや白化、テカリもは微少であり、充分な製品耐久性を示した。
【0088】
【表1】
比較例1
P1のみ(ポリ乳酸のみ)を使用して実施例1と同様に、溶融紡糸、延伸を行い84dtex、36フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維は、強度3.6cN/dtex、伸度39%、沸収7.5%、U%0.7%であった。また、b*値は0.5と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0089】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製し、染色加工を施した。得られた布帛は、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感があり風合い的に実施例1に劣るものであった。
【0090】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、1級と耐摩耗性は劣悪であった。また、摩擦試験後の布帛の表面をSEMにて観察した結果、糸の摩耗が著しいものであった(図2)。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時に布帛裁断部での融着が激しく、またミシン針の汚れも著しく、劣悪な工程通過性であった。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリが著しく、劣悪な製品耐久性であった。
【0091】
比較例2
P1とP2の仕込み比を重量比で79:1(EBAは0.05wt%)にして実施例1と同様に、溶融紡糸、延伸を行い84dtex、36フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維は、強度3.6cN/dtex、伸度39%、沸収7.5%、U%0.7%であった。また、b*値は0.5と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0092】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製し、染色加工を施した。得られた布帛は、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感があり風合い的に実施例1に劣るものであった。
【0093】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、1級と耐摩耗性は劣悪であった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時に布帛裁断部での融着が激しく、またミシン針の汚れも著しく、劣悪な工程通過性であった。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリが著しく、劣悪な製品耐久性であった。
【0094】
比較例3
P2の代わりにP3(EBA7wt%)を用いて実施例2と同様に溶融紡糸、延伸を行い84dtex、36フィラメントの延伸糸を得た。EBAの含有量が7wt%と多すぎるため、口金直下で発煙が著しく、作業環境が悪化した。得られた繊維は、強度2.8cN/dtex、伸度40%、沸収5.0%、U%2.1%であった。しかも、延伸糸のb*値が6.1と着色が激しく、衣料用として使用困難なものであった。
【0095】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製し、染色加工を施した。得られた布帛は、染色斑が著しく、品位に劣るものであった。
【0096】
比較例4
P2の代わりにP6を用いて実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行い84dtex、36フィラメントの延伸糸を得た(BA1wt%)。しかし、BAの耐熱性、昇華性の問題から、口金直下で発煙が著しく、作業環境が極度に悪化した。得られた繊維は、強度3.7cN/dtex、伸度40%、沸収7.0%、U%1.8%であった。
【0097】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製し、染色加工を施した。得られた布帛は、染色斑が著しく、品位に劣るものであった。
【0098】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、1級と耐摩耗性は劣悪であった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時に布帛裁断部での融着が激しく、またミシン針の汚れも著しく、劣悪な工程通過性であった。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリが著しく、劣悪な製品耐久性であった。
【0099】
比較例5
P2の代わりにP7を用い、引き取りローラーの周速を800m/分、延伸倍率を4倍として実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行い84dtex、36フィラメントの延伸糸を得た(SA1wt%)。しかし、SAの耐熱性、昇華性の問題から、口金直下で発煙が著しく、作業環境が極度に悪化した。得られた繊維は、強度3.7cN/dtex、伸度41%、沸収7.0%、U%2.2%であった。
【0100】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製し、染色加工を施した。得られた布帛は、染色斑が著しく、品位に劣るものであった。
【0101】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、1級と耐摩耗性は劣悪であった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時に布帛裁断部での融着が激しく、またミシン針の汚れも著しく、劣悪な工程通過性であった。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリが著しく、劣悪な製品耐久性であった。
【0102】
なお、TG(熱重量測定)から、SAの加熱による減量率を求めたところ、250℃で4.1%も重量減少することがわかった。これに対して、脂肪酸ビスアミドであるEBAの場合は、250℃で0.5%しか重量減少せず、脂肪酸モノアミドに比べて脂肪酸ビスアミドは、耐熱性が良く、昇華しにくいことがわかった。
【0103】
【表2】
実施例9
紡糸油剤として脂肪酸エステル系の平滑剤を65wt%(イソトリデシルステアレート35wt%+オクチルパルミテート30wt%)含有する紡糸油剤(濃度15%)を用いて、実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行い84dtex、24フィラメントの延伸糸を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、延伸性も良好であり、延伸優等率は98%以上、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。得られた繊維は、強度3.5cN/dtex、伸度40%、沸収7.0%、U%0.7%と良好な糸物性を示した。また、b*値は1.2と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0104】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生は皆無であり、優れた製織工程通過性を示した。さらに、この時は実施例1に比べても製織性が良好であり、製織スピードを上げ生産性を高めることができた。
【0105】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0106】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0107】
実施例10
紡糸油剤として脂肪酸エステル系の平滑剤を50wt%(イソトリデシルステアレート25wt%+オクチルパルミテート25wt%)および鉱物油を20wt%含有する紡糸油剤(濃度15%)を用いて、実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行い84dtex、24フィラメントの延伸糸を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、延伸性も良好であり、延伸優等率は98%以上、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。得られた繊維は、強度3.5cN/dtex、伸度40%、沸収7.0%、U%0.7%と良好な糸物性を示した。また、b*値は1.2と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0108】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生は皆無であり、優れた製織工程通過性を示した。さらに、この時は実施例1に比べても製織性が良好であり、製織スピードを上げ生産性を高めることができた。
【0109】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0110】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0111】
実施例11
紡糸油剤として脂肪酸エステル系の平滑剤を15wt%(イソトリデシルステアレート15wt%)とポリエーテルを75wt%含有する紡糸油剤(濃度15%)を用いて、実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行い84dtex、24フィラメントの延伸糸を得た。実施例1〜10に比べると、紡糸、延伸での糸切れが増加し、さらにガイド類への毛羽の付着が増加したものの充分な紡糸、延伸性を示した。得られた繊維は、強度3.3cN/dtex、伸度32%、沸収7.0%、U%1.2%と良好な糸物性を示した。また、b*値は1.2と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0112】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生は実施例1〜10に比べると増加したもの、充分な工程通過性を示した。
【0113】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も少なく優れた品位であった。
【0114】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0115】
実施例12
紡糸油剤として脂肪酸エステル系の平滑剤を15wt%(イソトリデシルステアレート15wt%)とポリエーテルを75wt%含有する紡糸油剤(濃度15%)を用いて実施例4と同様に溶融紡糸、延伸を行い84dtex、24フィラメントの延伸糸を得た。実施例4に比べると、紡糸、延伸での糸切れが増加し、さらにガイド類への毛羽の付着が増加し不充分な紡糸、延伸性であった。得られた繊維は、強度3.0cN/dtex、伸度15%、沸収8.0%、U%1.2%であった。また、b*値は1.2と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0116】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生は実施例4に比べるとかなり増加し、不充分な工程通過性を示した。
【0117】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も少なく優れた品位であった。
【0118】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0119】
【表3】
実施例13
紡糸パック4に静止混練器(東レエンジニアリング社製「ハイミキサー」10段)を組み込み、実施例2と同様に溶融紡糸、延伸を行い84dtex、36フィラメントの延伸糸を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、延伸性も良好であり、延伸優等率は99%、ガイド類への毛羽の付着も見られなかった。得られた繊維は、強度3.5cN/dtex、伸度40%、沸収7.0%、U%0.8%と良好な糸物性を示した。また、b*値は3.0と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0120】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。
【0121】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0122】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0123】
実施例14
重量比でP1:P2=3:1となるようにチップブレンドし、ホッパー1に仕込み、このチップをエクストルーダー2で220℃で溶融した後、220℃に加熱されたスピンブロック3に設置された紡糸パック4に溶融ポリマーを導き、口金5から吐出した(図5)。紡出した糸条7をチムニー6により25℃の冷却風で冷却固化させた後、集束給油ガイド8により脂肪酸エステル系の平滑剤を40wt%(イソトリデシルステアレート20wt%+オクチルパルミテート20wt%)を含有する紡糸油剤(濃度15%)を繊維に対して1wt%塗布し、交絡ガイド9により糸に交絡を付与した。その後、周速3000m/分、95℃の第1ホットローラー19と周速4500m/分、135℃の第2ホットローラー20の間で延伸、熱処理を施した後に巻き取り、84dtex、36フィラメント、丸断面の巻取糸21を得た。紡糸性は良好であり、糸切れ、毛羽の発生は見られなかった。また、口金直下での発煙もほとんど無かった。
【0124】
得られた繊維は、強度3.5cN/dtex、伸度40%、沸収7.0%、U%0.7%と良好な糸物性を示した。またb*値は1.2と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0125】
この糸を用い、実施例1と同様に平織りを作製したが、この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。
【0126】
さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0127】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0128】
実施例15
実施例4で得た未延伸糸13に図6に示す装置で延伸仮撚を施した。この時、ヒーター23の温度は130℃、フィードローラー22と延伸ローラー26の間の延伸倍率は1.35倍、延伸ローラー26の速度は400m/分、セカンドヒーター27はの温度は150℃、延伸ローラー26とデリバリーローラー28の間のリラックス率を6%とし、仮撚回転子25としては3軸ツイスターを用いた。また、ヒーター23と仮撚回転子25の間には冷却板24を設けた。このようにして、109dtex、36フィラメントの捲縮糸29を得た。この捲縮糸は、CR値が20%であり、充分な捲縮特性を示した。また、強度は2.5cN/dtex、伸度25%、沸収6.2%であった。またb*値は1.3と黄味が殆どなく良好な色調であった。
【0129】
この繊維を経糸および緯糸に用いてツイル織物(織り密度:経95本/インチ、緯80本/インチ)を作製した。なお、経糸、緯糸とも300ターン/mのS撚りを施した。この時の撚糸工程、製織工程での糸切れや毛羽の発生はほとんど無く、優れた製織工程通過性を示した。さらに、この布帛に実施例1と同様に染色加工を施した。得られた布帛は、しなやかでソフトでありながら、ポリ乳酸繊維特有の機械的なきしみ感が少ない優れた風合いを示した。また、発色性に優れるとともに染色斑も無く優れた品位であった。
【0130】
さらに、これの摩擦堅牢度を測定したところ、4級と耐摩耗性に優れたものであった。また、この染色布帛を用い、工業裁断、工業縫製を行ったが、裁断時の布帛裁断部での融着が無く、ミシン針の汚れも微少なものであり、優れた工程通過性を示した。さらに、これを用いシャツを作製し1ヶ月間着用した耐久テストを行ったが、毛羽立ちや白化、テカリも無く、優れた製品耐久性を示した。
【0131】
【発明の効果】
本発明の耐摩耗性に優れ、且つ工程通過性が良好なポリ乳酸繊維により、ポリ乳酸繊維の適用展開範囲を大きく拡げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のポリ乳酸繊維の摩耗状態を示す図である。
【図2】従来のポリ乳酸繊維の摩耗状態を示す図である。
【図3】紡糸装置を示す図である。
【図4】延伸装置を示す図である。
【図5】紡糸直接延伸装置を示す図である。
【図6】延伸仮撚装置を示す図である。
【符号の説明】
1:ホッパー
2:押し出し混練機(エクストルーダー)
3:スピンブロック
4:紡糸パック
5:口金
6:チムニー
7:糸条
8:集束給油ガイド
9:交絡ガイド
10:第1引き取りローラー
11:第2引き取りローラー
12:巻取糸
13:未延伸糸
14:フィードローラー
15:第1ホットローラー
16:第2ホットローラー
17:コールドローラー
18:延伸糸
19:第1ホットローラー
20:第2ホットローラー
21:巻取糸
22:フィードローラー
23:ヒーター
24:冷却板
25:回転子
26:延伸ローラー
27:セカンドヒーター
28:デリバリーローラー
29:捲縮糸
Claims (9)
- 脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5wt%含有し、単糸繊度が0.1〜10dtexであることを特徴とするポリ乳酸繊維。
- 脂肪酸ビスアミドがエチレンビスステアリン酸アミドまたはm−キシリレンビスステアリン酸アミドであることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸繊維。
- アルキル置換型の脂肪酸モノアミドがN−ステアリルステアリン酸アミドであることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸繊維。
- 脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油から選ばれる平滑剤を少なくとも1種類含有する紡糸油剤が付与されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリ乳酸繊維。
- 繊維の色調の指標であるb*値が−1〜5であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリ乳酸繊維。
- 請求項1〜5のいずれか1項記載のポリ乳酸繊維を少なくとも一部に用いることを特徴とする繊維製品。
- 繊維製品が織物、編物、および不織布から選ばれた少なくとも1種であり、かつ摩擦堅牢度が3級以上であることを特徴とする請求項6記載の繊維製品。
- 繊維製品が衣料用途、衣料資材用途、インテリア用途、車両部材用途、および産業資材用途から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項6または7記載の繊維製品。
- 脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5wt%含有するポリ乳酸を溶融紡糸し、脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油から選ばれる平滑剤を少なくとも1種類含有する紡糸油剤を付与することを特徴とする単糸繊度が0.1〜10dtexであるポリ乳酸繊維の製造方法。
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