JP4604797B2 - ポリ乳酸繊維パッケージ、および製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高温力学特性、耐摩耗性、ソフト性に優れたポリ乳酸繊維およびそのパッケージ、製造方法に関するものである。
最近、地球的規模での環境問題に対して、自然環境の中で分解するポリマー素材の開発が切望されており、脂肪族ポリエステル等、様々なポリマーの研究・開発、また実用化の試みが活発化している。そして、微生物により分解されるポリマー、すなわち生分解性ポリマーに注目が集まっている。
一方、従来のポリマーはほとんど石油資源を原料としているが、石油資源が将来的に枯渇するのではないかということ、また石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。しかし、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料としてポリマーが合成できれば、二酸化炭素循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるのみならず、資源枯渇の問題も同時に解決できる可能性がある。このため、植物資源を原料とするポリマー、すなわちバイオマス利用ポリマーに注目が集まっている。
上記2つの点から、バイオマス利用の生分解性ポリマーが大きな注目を集め、石油資源を原料とする従来のポリマーを代替していくことが期待されている。しかしながら、バイオマス利用の生分解性ポリマーは一般に力学特性、耐熱性が低く、また高コストとなるといった課題があった。これらを解決できるバイオマス利用の生分解性ポリマーとして、現在、最も注目されているのはポリ乳酸である。ポリ乳酸は植物から抽出したでんぷんを発酵することにより得られる乳酸を原料としたポリマーであり、バイオマス利用の生分解性ポリマーの中では力学特性、耐熱性、コストのバランスが最も優れている。そして、これを利用した繊維の開発が急ピッチで行われている。
しかし、このように最も有望なポリ乳酸でさえ、従来のポリマーに比べるといくつかの欠点を有している。このうち大きなものとして、高温力学特性が悪いことが挙げられる。このため、ポリ乳酸繊維の高温力学特性を向上させるための方法として溶融高速紡糸を実施し延伸する方法が、特許文献1に記載されている。
一方、近年の製品の風合いに対する要望は高く、ソフトな風合いを向上させるために単糸繊度を細くすることがよく用いられている。しかし、特許文献1には単糸繊度3デシテックス以下の単糸繊度の小さいポリ乳酸繊維の製造例については記載されておらず、この特許文献1記載の方法を単純に適用して溶融紡糸し高速製糸して、単糸繊度の小さいポリ乳酸繊維を得ようとして工業的に安定した品位で生産を行なおうとすると、毛羽の発生やパッケージ形状が悪化したり、紙管が潰され巻き取り機からの抜き取りが出来なくなる等、安定して生産するためには様々の問題を発生することが分かった。このため、ポリ乳酸繊維を安定して生産させるための製造方法を構築する必要があった。
また、ポリ乳酸繊維は表面摩擦係数が高いために、耐摩耗性が悪いという欠点があり、衣料、インテリア、車両内装用途等の耐摩耗性が要求される用途への展開が進んでいなかった。例えば、アウターウェア、ユニフォーム、スポーツウェア等の用途では、特に、日常生活において頻繁に摩擦を受ける肩、肘、膝、お尻等の部分で毛羽立ちや白化、テカリ等の発生により品位が低下し、またインナーウェアへの色移りが生じる等の大きな問題があった。さらに、椅子貼りやカーペット等の用途でも、摩擦を繰り返すことで、毛羽が発生したり、繊維が擦り切れて破れを生じる等、耐久性が非常に悪く、また、ズボンや靴下等の着衣への色移りが生じる等の問題があった。
特開2000−248426号公報 特開2003−293221号公報
そこで本発明は、本発明は、優れた高温力学特性を有し、ソフト性、耐摩耗性に優れ、生産性が高いポリ乳酸繊維パッケージ、製造方法を提供するものである。
上記課題を解決するため、本発明は主として次の構成を有する。
すなわち、本発明は
(1)単糸繊度が0.1〜3dtexであり、L体またはD体のポリ乳酸分子鎖が単独で3らせん構造を形成しており、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを繊維全体に対して0.5〜1.5wt%含有しているポリ乳酸繊維からなり、巻硬度が70〜90、巻量が3.0〜10.0kgであることを特徴とするポリ乳酸繊維パッケージ、
(2)ポリ乳酸ペレットと脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを繊維全体に対して0.5〜1.5wt%含有する様に混和させた後、溶融し、紡糸張力が0.1〜1.0cN/dtex以下、紡糸速度3500〜6000m/minで製糸して巻き取るポリ乳酸繊維パッケージの製造方法であって、ポリ乳酸繊維が、単糸繊度が0.1〜3dtexであり、L体またはD体のポリ乳酸分子鎖が単独で3 1 らせん構造を形成しており、ポリ乳酸繊維パッケージの巻量が3.0〜10.0kgであることを特徴とするポリ乳酸繊維パッケージの製造方法、
(3)ポリ乳酸繊維パッケージの巻硬度が70〜90であることを特徴とする上記(2)記載のポリ乳酸繊維パッケージの製造方法である。
本発明のポリ乳酸繊維、ポリ乳酸繊維パッケージにより、高温力学特性および耐摩耗性が向上しかつ柔らかい触感の布帛を得ることが出来る。また、本発明のポリ乳酸繊維、ポリ乳酸繊維パッケージの製造方法によれば生産性良好で、高温力学特性および耐摩耗性が向上しかつ柔らかい触感の布帛を与えるポリ乳酸繊維、パッケージを得ることができる。
本発明で言うポリ乳酸とは乳酸を重合したものを言い、L体あるいはD体の光学純度は90%以上であると、融点が高く好ましい。ここで、ポリL乳酸(PLLA)とはL体光学純度90%以上からなるポリ乳酸を指し、ポリD乳酸(PDLA)とはD体純度90%以上からなるポリ乳酸を示す。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していても、ポリ乳酸以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有していても良い。ただし、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリマーとして乳酸モノマーは50重量%以上とすることが重要である。乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。また、ポリ乳酸ポリマーの分子量は、重量平均分子量で5万〜50万であると、力学特性と製糸性のバランスが良く好ましい。
本発明のポリ乳酸繊維は、L体またはD体のポリ乳酸分子鎖が単独で31 らせん構造を形成していることが重要である。以下に31 らせん構造について詳述する。まず、通常のポリ乳酸繊維中の分子鎖の構造について説明する。ポリ乳酸繊維中では通常、α晶という結晶形が生成しているが、α晶中での分子鎖の形態は103 らせん構造を採っていることが J. Biopolym,vol.6, 299(1968).等に記載されている。ここで、103らせん構造とは、図1に示すように10個のモノマーユニット当たり3回回転するらせん構造を意味している。一方、超高分子量ポリ乳酸(粘度平均分子量56万〜100万)のクロロホルム/トルエン混合溶媒からの溶液紡糸(紡糸速度1〜7m/分)により得られた繊維を融点以上の超高温(204℃)で超高倍率延伸(12〜19倍、延伸速度1.2m/分以下)して得られたポリ乳酸繊維中には、β晶という通常のα晶とは異なる結晶が生成することが Macromolecules, vol.23, 642(1990).等記載されている。ここでβ晶とは、3個のモノマーユニット当たり1回回転するらせん構造(31 らせん構造、図1)から形成されていることが該文献等に記載されている。ところで、この31 らせん構造は、見方を変えると9個のモノマーユニット当たり3回回転するらせん構造であり、103 らせん構造を若干引き伸ばした緊張型の形態と言える。また発明者らの固体13 C−NMRによる解析では、従来のポリ乳酸繊維では103 らせん構造に対応する170.2ppm付近のピークしか観測されないが、本発明のポリ乳酸繊維ではそれより低磁場である171.6ppm付近にピークが観測されることが分かった。これは、従来ポリ乳酸繊維の103 らせん構造とは明らかにコンフォメーションすなわち構造の異なるらせん構造が生成しているのである。そして、これは広角X線回折(WAXD)測定からβ晶類似のパターンが観測されたことから、31 らせん構造が形成されていることが確認されたのである。すなわち、固体13 CNMRにおいて、171.6ppm付近にピークが観測されれば、31 らせん構造が生成していることを意味していることを発明者らは発見したのである。そして、本発明のポリ乳酸繊維では単純に分子配向が高いのみならず、緊張型である31 らせん構造を有しているため引っ張りに対し強い抵抗力を発揮し、室温だけでなく90℃以上の高温下でも充分な力学特性を示すものと考えられる。31 らせん構造は繊維中の少なくとも一部に含まれていれば良いが、固体13 C−NMRスペクトルにおいて、31 らせん構造に対応するピークの面積強度(31 比)が165〜175ppmに観測されるピークの面積強度の5%以上であると、90℃での強度を1.0cN/dtex以上とすることができ好ましい。また、31 らせん構造は必ずしも結晶化している必要はないが、WAXDで確認できるほど結晶化していると90℃での強度を1.5cN/dtex以上とすることもでき好ましい。ここで、L体またはD体のポリ乳酸分子鎖が単独で3らせん構造を形成しているとは、PLLA部あるいはPDLA部が独立に3らせん構造を形成している状態を意味しており、いわゆるステレオコンプレックスのようにPLLA部とPDLA部が1対となって3らせん構造を形成している状態とは区別されるものである。
本発明のポリ乳酸は脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを繊維全体に対して0.5〜1.5wt%含有することが重要である。該脂肪族アミドの含有量が0.5wt%未満では、ポリ乳酸を布帛とした場合耐摩耗性が十分ではない。該脂肪族アミドの含有量が1.5wt%を越えると、効果は同程度であり経済的観点から好ましくないばかりでなく、特に原糸の製造工程において、濾過圧力が安定しないなどの問題を引き起こし生産性が低下する問題が発生する。
本発明でいう脂肪酸ビスアミドは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
また、本発明でいうアルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
本発明の脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを用いるが、これらの化合物は、通常の脂肪酸モノアミドに比べてアミドの反応性が低く、溶融成形時においてポリ乳酸との反応速度がおこりにくい。また、高分子量のものが多いため、一般に耐熱性が良く、昇華しにくいという特徴がある。特に、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いためポリ乳酸と反応しにくく、また、高分子量であるため耐熱性が良く、昇華しにくいことから、より好ましい滑剤として用いることが出来る。
本発明のポリ乳酸繊維は、単糸繊度が0.1〜3dtexであることが重要である。0.1dtex未満の場合、単独紡糸では、製糸性が低下したり、製品としたときの摩耗性(耐久性)が悪くなる。3dtexを越えると、布帛としたときソフト性に不十分となる。好ましくは0.5〜2.5dtexである。
本発明のポリ乳酸繊維の断面形状については丸断面、中空断面、三葉断面等の多葉断面、その他の異形断面についても自由に選択することが可能である。
本発明のポリ乳酸繊維は、ポリ乳酸ペレットと脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを繊維全体に対して0.5〜1.5wt%含有する様に混和させた後、溶融紡糸する。
脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを混和する方法としては、例えば、ポリ乳酸チップへ脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミド粉末をブレンドし溶融する方法、ポリ乳酸チップへ高濃度の脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリ乳酸へ脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを添加し混練する方法、ポリ乳酸の重合前あるいは重合中の段階で減量あるいは反応系へ脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
このように、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを混和させた後、溶融紡糸することにより製造される。
上記溶融紡糸の方法としては、例えば、ポリ乳酸を紡糸温度210〜250℃で口金より吐出し、冷却風により糸を冷却固化させる。その後、繊維用油剤を付与し、必要に応じて交絡した後、高速で引き取り、そのまま巻き取り、配向結晶化したポリ乳酸繊維を得る。
本発明のポリ乳酸繊維の製造方法における繊維用油剤について、ポリ乳酸繊維は摩擦係数が高いため、高速紡糸工程、仮撚加工や流体加工のような糸加工工程、ビーミング、製織、製編のような製布工程での毛羽が発生し易いという問題がある。このため、繊維用油剤としては、ポリエーテル主体のものを避け、脂肪酸エステル等の平滑剤を主体とするものを用いると、ポリ乳酸繊維の摩擦係数を低下させることができ、上記工程での毛羽を大幅に抑制でき、好ましい。
本発明のポリ乳酸繊維においては、単糸繊度が極めて小さいため、引き取り条件を制御することにより、ポリ乳酸繊維を良好な状態で巻き取り、パッケージとすることができる。すなわちポリ乳酸繊維の製造方法における引き取りについて、紡糸張力が高くなりすぎないように引き取ることが重要であり、0.1〜1.0cN/dtexとなるように引き取ることが好ましい。1.0cN/dtexを越えると、引き取りから巻き取りまでの間に繊維内部構造の歪みが緩和されないまま巻き取られ、巻き取られた後に歪みが緩和されるために、膨れなどパッケージ形状の悪化や、巻き締まりによりワインダーからパッケージが抜き取れなくなるなど生産性を著しく低下させる。0.1cN/dtex未満の場合、僅かな随伴気流で糸斑が生じやすくなったり、糸切れが多くなるなど生産性を著しく低下させる。好ましくは、0.3〜0.8cN/dtexである。
上記紡糸張力は、給油条件により制御可能である。すなわち、溶融吐出後、繊維が十分冷却された状態で給油することが好ましく、給油装置が可動な装置を使用することが好ましく、紡糸口金から給油位置までの距離により紡糸張力の調整を行うことができる。
本発明のポリ乳酸繊維は、L体またはD体のポリ乳酸分子鎖が単独で31 らせん構造を形成していることが必要であり、また、巻き取ったポリ乳酸繊維の(200)面方向の結晶サイズが6nm以上および/または結晶配向度が0.90以上、U%が2.0%以下となることが好ましい。このようなポリ乳酸繊維を得るためには引き取り速度(紡糸速度)等の紡糸条件を高速で行うことが重要であり、紡糸速度3500〜6000m/minとすることが重要である。3000m/min未満の場合、3らせん構造が生成されず、高温力学特性が悪化する。6000m/minを越えると、ポリマーの曳糸性が低下し、製糸での糸切れが増加する。好ましくは、3500〜5500m/minである。これにより、延伸・熱処理過程で31 らせん構造が生成しやすくなるのみならず、高温での延伸が安定し糸斑を抑制できる。
本発明のポリ乳酸繊維のパッケージは、巻硬度70〜90であることが重要である。90を越えると、糸端面部が反る現象(耳立ち)が発生し、巻き取り時の張力変動が高くなり糸切れなど製糸性が悪くなるため好ましくない。70未満の場合、取り扱い時に糸層が崩れやすくなるなどの取り扱いの問題、加工時にパッケージからの糸のかいじょ不良が発生し加工時の糸切れが生じやすくなる。上記巻硬度のパッケージは、引き取り時の紡糸張力、紡糸速度を前記したような条件で行うことにより、得ることができる。なお、上記巻硬度は後述する方法により測定することができる。
本発明のポリ乳酸繊維のパッケージは、チーズ状パッケージであることが好ましく、そのバルジ率が10%以下であることが好ましい。バルジ率とは、パッケージの膨れ度合いを表し、(中層巻幅−表層巻幅)/表層巻幅×100(%)で算出される。10%を越えると、パッケージを梱包する際、糸層と梱包材料に擦れが生じ、糸端面部のフィラメント切れが発生し加工時の糸切れを生じさせる、糸層が崩れやすくなるなどパッケージ品質が低下する。さらに好ましくは8%以下である。
本発明のポリ乳酸繊維のパッケージの巻量は、3.0〜10.0kgである。2.0kg未満の場合、巻き取りの切り替え回数が増加し生産性が低下する。10.0kgを越えると製品梱包や製品を例えば整経時にクリールにかけるときなど作業者に負担がかかる。さらに好ましくは、3.0〜8.5kgである。
本発明のポリ乳酸繊維のパッケージを構成するボビンの素材は特に限定しないが、紙管であることが好ましい。
本発明のポリ乳酸繊維は、ポリ乳酸繊維を繊維製品にする際の工程通過性や製品の力学的強度を充分高く保つためには、25℃での強度は2cN/dtex以上とすることが好ましい。25℃での強度は、より好ましくは3.5cN/dtex以上、さらに好ましくは5cN/dtex以上である。
本発明のポリ乳酸繊維は、25℃での伸度が15〜70%であると、ポリ乳酸繊維を繊維製品にする際の工程通過性が向上し好ましい。さらに本発明のポリ乳酸繊維では高温力学特性が大幅に向上するのであるが、工程通過性を考慮すると、90℃での強度は1.0cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは1.3cN/dtex以上、さらに好ましくは1.5cN/dtex以上である。また、本発明のポリ乳酸繊維では、90℃で0.7cN/dtex応力下での伸びを15%以下とすることも可能である。ここで、90℃で0.7cN/dtex応力下での伸びとは、90℃で繊維の引っ張り試験を行い、強伸度曲線図において、応力0.7cN/dtexでの伸度を読むことにより得ることができる。そして、この90℃で0.7cN/dtex応力下での伸びが15%以下であれば、高温での寸法安定性を向上でき、ポリ乳酸繊維の糊付け乾燥での伸びを抑制し、さらに仮撚での工程通過性、捲縮特性が向上できるのである。90℃で0.7cN/dtex応力下での伸びは、好ましくは10%以下、より好ましくは6%以下である。
ところで、ポリ乳酸繊維の糸斑が大きいと、繊維製品の品位が劣るばかりか、高次加工工程において毛羽・弛み等を発生しやすく種々の問題が発生してしまう。特に、マルチフィラメントで用いる用途では染色や機能物質を後加工される場合が多いが、糸斑が大きいと染色斑や加工斑が発生し易いのである。このため、本発明のポリ乳酸繊維では、繊維製品の品位や染色斑を考慮すると、糸の太さ斑の指標であるウースター斑(U%)は2%以下であることが好ましい。U%は、より好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.2%以下である。なお、前記した Macromolecules, vol.23, 642(1990).記載の溶液紡糸した繊維を融点以上の超高温(204℃)で超高倍率延伸(12〜19倍)して得られたポリ乳酸繊維では、U%は10%以上と実用的な糸とはならないのである。これは、以下の理由によるのである。まず未延伸糸を溶液紡糸するが、一般に溶液紡糸では溶媒が繊維表面から抜けていくため繊維表面に凹凸が発生し、これが糸斑につながってしまう。さらに、融点以上の超高温延伸を行っているために、延伸過程で糸の部分的な融解が発生し、均一な延伸が不可能であり糸斑が大きくなってしまうのである。加えて、延伸倍率12倍以上の超高倍率延伸であるため、延伸が不安定になりやすく糸斑が大きくなってしまうのである。さらに、紡糸速度、延伸速度が遅すぎるため延伸中に外乱を受けやすく糸斑を助長しているのである。
本発明のポリ乳酸繊維は、沸騰水収縮率(沸収)が0〜20%であれば繊維および繊維製品の寸法安定性が良く好ましい。沸収は好ましくは2〜10%である。
そして、この高速紡糸により配向結晶化したポリ乳酸繊維を、延伸糸とする場合は、延伸温度90℃以上で延伸し、熱セットする。延伸温度は130℃以上とすると31 らせん構造が生成しやすく好ましく、糸の部分融解を考慮すると160℃以下とすることが好ましい。また、熱セット温度は得られた繊維の沸収を低下させるためには、130℃以上とすることが好ましく、糸の部分融解を考慮すると160℃以下とすることが好ましい。また、延伸倍率は1.2〜3.0倍とすると、31 らせん構造を形成させることと糸斑を抑制することが両立でき、好ましい。3.5倍以上の延伸倍率は、繊維の変形が大きすぎ延伸が不均一になり易く、糸斑が大きくなってしまうので避けることが好ましい。
この方法により、従来のポリ乳酸繊維に比べ高温力学特性が大幅に向上する理由は良くわからないが、高速紡糸により生成した繊維構造を再延伸により破壊しながら再構築することで、従来のポリ乳酸繊維とも高速紡糸ポリ乳酸繊維とも異なる構造が発現していると考えられる。
本発明のポリ乳酸繊維における、仮撚り加工製造方法において、熱板温度を100〜160℃で加工することが好ましい。均一な捲縮特性を考慮すると、110〜140℃がさらに好ましい。これまで、ポリ乳酸繊維は、熱板上で糸が急激に軟化するため、糸に撚りがかからず捲縮特性が劣るばかりか、熱板上で糸が破断してしまい、仮撚そのものが困難であった。3らせん構造が生成したポリ乳酸繊維により、高温での仮撚り加工が安定して行えるのである。さらに、加撚と解撚の張力比が1.5〜2.5となるように仮撚り条件を決定することが好ましい。延伸倍率は1.2〜3.0倍とすることが均一な捲縮を形成させることが両立でき、好ましい。
本発明のポリ乳酸繊維は、シャツやブルゾン、パンツといった衣料用途のみならず、カップやパッド等の衣料資材用途、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリア用途や車両内装用途、ベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、縫い糸等の産業資材用途、この他フェルト、不織布、フィルター、人工芝等にも好適に用いることができる。
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.ポリ乳酸の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にTHF(テトロヒト゛ロフラン)を混合し測定溶液とした。これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)Waters2690を用いて25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
B.強度
所定の温度下(25℃、90℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
C.固体13 C−NMR
Chemagnetics社製CMX-300 infinity型NMR装置を用い、以下の条件により13 C核のCP/MAS NMRスヘ゜クトルを測定し、エステル結合のカルボニル炭素部分の解析を行った。そして、カーブフィッティングにより、103 らせん構造に帰属される170.2ppm付近のピークと31 らせん構造に帰属される171.6ppm付近のピークとをピーク分割し、165〜175ppmに観測されるピークの面積強度全体に対する171.6ppm付近
のピークの面積強度比(31 比)を求めた。
171.6ppm付近のピークが観測されれば、31 らせん構造有りとした。
装置 : Chemagnetics社製CMX-300 infinity
測定温度 : 室温
基準物質 : Siゴム(内部基準:1.56ppm)
測定核 : 75.1910MHz
パルス幅 : 4.0μsec
パルス繰り返し時間 : ACQTM=0.06826sec PD=5sec
データ点 : POINT=8192 SAMPO=2048
スペクトル幅 : 30.003kHzパルスモード : 緩和時間測定モード
コンタクトタイム: 5000μsec
D.製糸性
紡糸工程において発生する糸切れの回数を数え、1tの繊維を製糸する間の糸切れ回数を次の基準で評価した。
◎:糸切れ1回未満、○:糸切れ1以上3回未満、△:糸切れ3以上6回未満、×:糸切れ6回以上。
E.巻硬度(パッケージ硬度)
巻き取り後24時間以上経過したパッケージを用いてASKER社製 HARDNESS TESTER "Type C" で測定した。で測定し、その測定個所は巻幅の中央で行い、10パッケージの平均値で示した。
F.耐摩耗性(乾摩擦堅牢度)
分散染料(Dianix Navy Blue ERFS 200,2%owf)で染色した筒編み地を綿布で100回往復摩擦した後の、綿布への色移り度合いをグレースケールを用いて1〜5級で判定した。(JIS L 0849に準拠)
G.ソフト性
検査者(5人)の触感によって筒編地のソフト性を次の基準で相対評価した。
◎:ソフト感が非常によい。○:ソフト感がややよい。△:ソフト感があまりない。×:ソフト感がない。
実施例1
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で180分間重合を行った。得られたPLLAの重量平均分子量は19万、光学純度は99%L乳酸であった。
得られたポリL乳酸と日本油脂製のエチレンビスステアリン酸アミド(“アロフロ−H−50S”)粉末を0.75重量%ブレンドし、220℃で溶融、孔径0.15mm丸型の吐出孔を有する紡糸口金から吐出し、一方向からの冷却風によって冷却し、脂肪酸エステルを主体とする繊維用油剤を、紡糸口金より800mmの位置で、繊維に対して1重量%塗布する給油をし、交絡を付与したのち、第1ゴデッドローラ(非加熱ローラー)に紡糸速度4500m/min、表1記載の紡糸張力で引取り、引き続き、第2ゴデッドローラ(非加熱ローラー)を介して、巻き取り、60デシテックス40フィラメントのポリ乳酸繊維糸条、7.5kg巻きのチーズ状パッケージを得た。(25℃での強度2.7cN/dtex、25℃での伸度52%、U%0.8、沸騰水収縮率15%、3比15%)
次に得られたポリ乳酸繊維糸条を筒編機(釜径3.5インチ、針本数240本、英光産業(株)製NE450W)に仕掛けて1本給糸で筒編み地を作成した。
実施例2
孔径0.10mm丸型の吐出孔を有する紡糸口金、環状方向からの冷却風によって冷却、紡糸口金より600mmの位置で給油した以外は、実施例1と同様に紡糸して、60デシテックス120フィラメントのポリ乳酸繊維糸条、チーズ状パッケージを得、筒編み地を作成した。
実施例3
孔数の異なる口金を用いた以外は実施例1と同様に紡糸して、60デシテックス30フィラメントのポリ乳酸繊維糸条、チーズ状パッケージを得、筒編み地を作成した。
実施例4
紡糸速度5000m/minとした以外は実施例1と同様に紡糸して、60デシテックス40フィラメントのポリ乳酸繊維糸条、チーズ状パッケージを得、筒編み地を作成した。
比較例1
紡糸速度2200m/minとした以外は実施例1と同様に紡糸して、60デシテックス40フィラメントのポリ乳酸繊維糸条、チーズ状パッケージを得、筒編み地を作成した。
比較例2
孔径0.30mmの紡糸口金を用い、紡糸口金より1800mmの位置で給油した以外は実施例1と同様に紡糸して、60デシテックス15フィラメントのポリ乳酸繊維糸条、チーズ状パッケージを得、筒編み地を作成した。
比較例3
エチレンビスステアリン酸アミド(“アロフロ−H−50S”)粉末を含まない以外は実施例1と同様に紡糸して、60デシテックス40フィラメントのポリ乳酸繊維糸条、チーズ状パッケージを得、筒編み地を作成した。
比較例4
エチレンビスステアリン酸アミド(“アロフロ−H−50S”)粉末を0.3重量%とした以外は実施例1と同様に紡糸して、60デシテックス40フィラメントのポリ乳酸繊維糸条、チーズ状パッケージを得、筒編み地を作成した。
比較例5
エチレンビスステアリン酸アミド(“アロフロ−H−50S”)粉末を2.0重量%とした以外は実施例1と同様に紡糸して、60デシテックス40フィラメントのポリ乳酸繊維糸条、チーズ状パッケージを得、筒編み地を作成した。
比較例6
紡糸口金より1800mmの位置で給油した以外は、実施例1と同様に紡糸した。しかし、チーズ状パッケージは巻き締まりが発生し、ワインダーから抜き取ることができなかった。すなわち、製品となるパッケージが得られることができず生産性に劣る結果となった。
実施例1〜4および比較例1〜5で、ポリ乳酸繊維製造した際の紡糸張力、製糸性、およびポリ乳酸繊維糸条の強度、さらにはポリ乳酸繊維パッケージの硬度、バルジ率、筒編み地の耐摩耗性、ソフト性について評価した結果を表1、表2に示した。
表1、表2の結果から明らかなように、本発明によると、高温力学特性、耐摩耗性、ソフト性に優れたポリ乳酸繊維を得ることができる。しかも、そのポリ乳酸繊維を製糸性よく、良好なパッケージを得ることができ生産性に優れていることがわかる。
Figure 0004604797
Figure 0004604797
ポリ乳酸分子鎖のらせん構造を示す図である。

Claims (3)

  1. 単糸繊度が0.1〜3dtexであり、L体またはD体のポリ乳酸分子鎖が単独で3らせん構造を形成しており、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを繊維全体に対して0.5〜1.5wt%含有しているポリ乳酸繊維からなり、巻硬度が70〜90、巻量が3.0〜10.0kgであることを特徴とするポリ乳酸繊維パッケージ
  2. ポリ乳酸ペレットと脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを繊維全体に対して0.5〜1.5wt%含有する様に混和させた後、溶融し、紡糸張力が0.1〜1.0cN/dtex以下、紡糸速度3500〜6000m/minで製糸して巻き取るポリ乳酸繊維パッケージの製造方法であって、ポリ乳酸繊維が、単糸繊度0.1〜3dtexであり、L体またはD体のポリ乳酸分子鎖が単独で3 1 らせん構造を形成しており、ポリ乳酸繊維パッケージの巻量が3.0〜10.0kgであることを特徴とするポリ乳酸繊維パッケージの製造方法。
  3. ポリ乳酸繊維パッケージの巻硬度が70〜90であることを特徴とする請求項2記載のポリ乳酸繊維パッケージの製造方法
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