JP2007169828A - ポリアミド複合繊維、その製造方法、布帛および繊維製品 - Google Patents

ポリアミド複合繊維、その製造方法、布帛および繊維製品 Download PDF

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Abstract

【課題】極細繊維への分割性が優れたポリアミド複合繊維の提供。
【解決手段】ポリアミド、イとポリ乳酸、ロとからなり、繊維の横断面においてボリアミド、イが複数のセグメントに分割された複合繊維であって、繊維の外表面が実質的にポリアミド、イで覆われ、かつ単糸繊度(X)(dtex)と分割されたポリアミドセグメントの繊度(Y)(dtex)が、1≦X≦10、Y≦0.5、0.015X+0.035≦Y≦0.3Xの関係をすべて満足するポリアミド複合繊維。この複合繊維は、布帛、繊維製品に利用することができ、ソフト性に優れ、良好な洗濯堅牢度を有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、極細繊維への分割性が優れたポリアミド複合繊維、このボリアミド複合繊維を生産性良く製造する方法、この複合繊維から形成されたソフト性に優れ、かつ濃色に染色した場合にも良好な洗濯堅牢度を有する布帛、およびこの布帛からなる各種衣料品、資材用品、インテリア用品などに好適な繊維製品に関するものである。
合成繊維の一つであるポリアミド繊維は、高強度、耐摩耗性、ソフト性、染色鮮明性などの優れた特徴を持っている。そのため、パンティストッキング、タイツなどのレッグウェア、ランジェリー、ファンデーションなどのインナーウェア、スポーツウェア、カジュアルウェアなどの衣料用途に好まれて用いられてきている。
しかしながら、ポリアミド繊維は、元来その表面と内部構造が均一かつ単純であることから、単なる丸断面フィラメント糸ではペーパーライクな触感であり、地厚感やソフト性が不十分という欠点を有している。
これらの問題を解決すべく、特許文献1のようにポリアミド以外のポリマーと複合し、製織や編成をおこなった後に分割を行い、極細繊維にしてソフト性やマイクロパウダータッチを付与したり、繊維内部に空隙を持たせることにより保温性といった機能を高める技術(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この場合には、極細繊維にすることにより染料の洗濯堅牢度が悪化するため、濃色への展開には制約があるという問題があった。
一方、近年では脂肪族ポリエステルなど、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。その中でも微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。中でも力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。ポリ乳酸は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。また、優れた製糸性、アルカリ原料速度が速いなどの特徴を持っているため、繊維としての商品開発も活発化してきている。
また、ポリ乳酸繊維の特性を向上させる手法として、汎用プラスチックとの複合紡糸もいくつか検討されており、例えばポリアミド系重合体と脂肪族ポリエステルとから構成され、アルカリ減量によりハリ、腰などを付与する複合繊維(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、この複合繊維は、脂肪族ポリエステルが繊維の表面に露出しているために、製糸工程でのガイド類との擦過により糸切れが生じたり、製織工程での毛羽が発生したりして、生産性の面で満足できるものではなかった。
特開昭51−130317号公報 特開2000−54228号公報([0014]段落)
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
したがって、本発明の目的は、極細繊維への分割性が優れたポリアミド複合繊維、このボリアミド複合繊維を生産性良く製造する方法、この複合繊維から形成されたソフト性に優れ、かつ濃色に染色した場合にも良好な洗濯堅牢度を有する布帛、およびこの布帛からなる繊維製品を提供することにある。
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリアミドとポリ乳酸とからなり、繊維の横断面においてボリアミドが複数のセグメントに分割された複合繊維であって、繊維の外表面が実質的にポリアミドで覆われ、かつ単糸繊度(X)(dtex)と分割されたポリアミドセグメントの繊度(Y)(dtex)が、1≦X≦10、Y≦0.5、0.015X+0.035≦Y≦0.3Xの関係をすべて満足することを特徴とするポリアミド複合繊維が提供される。
なお、本発明のボリアミド複合繊維においては、
前記ポリアミドが相対粘度(ηr)2.2以上2.8以下のナイロン6であること、および
前記ポリ乳酸中に無機マグネシウム化合物がポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル(マグネシウム換算)含有されていること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
また、上記のボリアミド複合繊維は、溶融紡糸された複合繊維糸条を1000m/分以上の速度で引取り、一旦巻き取ることなく延伸および130℃以上の熱処理を連続して行い、3000m/分以上の高速で巻き取る方法、或いは溶融紡糸された複合繊維糸条を3000m/分以上の高速で引取り、実質的に延伸することなく巻き取る方法により、生産性良く製造することができる。
さらに、本発明の布帛は、上記のポリアミド複合繊維を少なくとも主体として構成された布帛であって、加熱アルカリ水溶液によりポリ乳酸が溶出処理されていることを特徴とし、酸性染料で染色され、Lab表色系での明度(L値)が40以下であることが好ましい。
さらにまた、本発明の繊維製品は、上記の布帛を用いて構成したことを特徴とする。
本発明によれば、ポリ乳酸とポリアミドからなる複合繊維を生産性よく製造し、これを布帛とした後にポリ乳酸溶出処理してポリアミドを複数のセグメントに分割することにより、ソフト性に優れ、かつ濃色に染色した場合にも良好な洗濯堅牢度を有する布帛を提供することができる。そして、この布帛は各種衣料品、資材用品、インテリア用品に好適に使用することができる。
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のポリアミド複合繊維はポリアミドおよびポリ乳酸の2種類より構成されるものであるが、図1に示したように、その横断面においては、ポリアミドがポリ乳酸により複数のセグメントに分割されていることが必要である。これにより、ポリアミド複合繊維を用いて布帛を仕立てた後、アルカリ溶出処理によりポリ乳酸を溶出した際に、残存したポリアミドが複数の細い繊維に分割されるため、目的とするソフト性が得られる。
図1は本発明のボリアミド複合繊維の断面の数例を示すものであり、(a)は丸形断面の複合繊維断面において、ボリアミド成分イが芯成分であるポリ乳酸成分ロにより8個のセグメントに分割されたケースを、(b)は同じくボリアミド成分イが芯成分であるポリ乳酸成分ロにより16個のセグメントに分割されたケースを、(c)は同じくボリアミド成分イが芯成分であるポリ乳酸成分ロにより4個のセグメントに分割されたケースを、(d)は三角断面の複合繊維断面において、ボリアミド成分イが芯成分であるポリ乳酸成分ロにより8個のセグメントに分割されたケースを、それぞれ示している。
また、本発明のポリアミド複合繊維の横断面の形状は、図1に示したとおり、その外表面が実質的にポリアミドで覆われていることが必要である。図2に示したように、例えボリアミド成分イが芯成分であるポリ乳酸成分ロにより8個のセグメントに分割されていたとしても、ポリ乳酸ロが露出した横断面を有する複合繊維では、製糸工程において糸道ガイドが擦過することなどにより、ポリアミドとポリ乳酸の界面が割れて糸切れの原因となるばかりか、整経、製織、編成などの後工程において毛羽が発生するため適さない。
ここで、実質的にポリアミドで覆われているとは、外表面においてポリ乳酸の占める割合が5%未満程度であり、ポリ乳酸が糸道ガイドなどとの擦過による影響を受けないことをいう。
さらに、本発明のポリアミド複合繊維の単糸繊度X(dtex)と分割されたポリアミドセグメントの繊度(Y)(dtex)は、1≦X≦10、Y≦0.5、0.015X+0.035≦Y≦0.3Xの関係をすべて満足することが必要である。
図3は、ポリアミド複合繊維の単糸繊度(X)と分割されたポリアミドセグメントの繊度(Y)の関係を示すグラフであるが、グラフ中で上記関係を満足する領域は破線で囲まれる部分である。図3のグラフ中の○および×で示される点は後述する実施例および比較例での値であり、横に付された数字は実施例および比較例の番号を示す。
本発明の好適範囲を0.015X+0.035≦Y≦0.3Xとした理由は、ポリアミド複合繊維の製糸性、ポリアミドの分割数、ポリ乳酸を溶出した後の布帛のソフト性などを総合的に考慮し、生産性と性能を両立するためである。0.015X+0.035>Yとした場合には、ポリ乳酸成分の比率が極度に多くなり、溶出した後の布帛強度が実用に耐えられなくなるか、ポリアミドの分割数が極度に多くなり、紡糸口金が複雑になり過ぎて、詰まりの発生や糸切れが多くなる。また、Y>0.3Xとした場合には、分割前の単糸繊度の割には分割後のポリアミド繊維の単糸繊度が太く、ポリ乳酸成分の比率を充分とれないために、紡糸時にポリアミドが選択的に配向することができず、布帛の洗濯堅牢度が悪化する。
なお、上記式は種々の実験結果より導き出したものである。
本発明の好適範囲として1≦X≦10としているのは、単糸繊度(X)が1未満では、単糸繊度が細くなり過ぎて製糸工程での糸切れ、毛羽などが発生し生産性が低下するためであり、単糸繊度(X)が10を超えると、分割後のポリアミド繊度を充分に細くするには分割数を極端に多くするか、ポリアミドの複合比率を極端に少なくしなければならず、コスト、製糸性の面で実用性に乏しいためである。
一方、Y≦0.5の理由としては、分割後のポリアミド繊度(Y)が0.5を超えると、本発明が目的とするソフト性が得られず、従来品と比べて何ら特徴の無いものとなるためである。
本発明のポリアミド複合繊維の一部を構成するポリ乳酸とは、-(O-CHCH-CO)n-を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよく、ポリ乳酸以外の熱可塑性重合体などを含有していてもよい。
本発明のポリアミド複合繊維を構成するポリ乳酸には、無機マグネシウム化合物をポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル(マグネシウム換算)含有されていることが好ましい。かかる範囲とすることにより、無機マグネシウム化合物を含まないポリ乳酸に較べて、苛性アルカリ(アルカリ金属水酸化物の水溶液)中でのポリ乳酸のアルカリ加水分解速度が速くなることを本発明者らは見いだした。ポリ乳酸に無機マグネシウム化合物を含有することにより、苛性アルカリ(アルカリ金属水酸化物の水溶液)中での加水分解速度が速くなる理由としては、詳細は解明されていないが、研究の結果から、アルカリ金属水酸化物の水溶液中でポリ乳酸の減量処理を行う時に、ポリ乳酸に含有されるマグネシウムと水分が化合し、アルカリ性である水酸化マグネシウムとなり、これがポリ乳酸をアルカリ加水分解することにより、減量が進むことが推定される。このマグネシウムはポリ乳酸中で陽イオン状態あるいは塩として存在する。なお、ナトリウム、カルシウム、リチウム、バリウムなどのマグネシウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属においてもマグネシウムと同様にアルカリ加水分解作用を有し、特に原子番号の大きなアルカリ金属を使用するとアルカリ作用が高くなるが、マグネシウムが溶融紡糸する場合の製糸性が良く生産性に適していることから、本発明においては無機マグネシウム化合物を使用することが重要である。
マグネシウムがポリ乳酸100gに対して0.5ミリモル未満では、苛性アルカリへの加水分解速度がマグネシウムを含まないポリ乳酸と比べて僅かに速くなるだけで、減量工程時間の短縮となる効果は低い。また、マグネシウムがポリ乳酸100gに対して25ミリモルより多量であっても、効果は同程度であり経済的観点からはあまり好ましくない。
ポリ乳酸に無機マグネシウム化合物を含有せしめる方法としては、ポリ乳酸ペレットに無機マグネシウム化合物をブレンドし溶融する方法、ポリ乳酸ペレットへ高濃度の無機マグネシウム化合物を含有するマスタペレットを本発明で規定する範囲内となる量でブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリ乳酸へ無機マグネシウム化合物を添加し混練する方法、ポリ乳酸の重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へ無機マグネシウム化合物を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
本発明でいう無機マグネシウム化合物は、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムおよびこれらの混合物などが挙げられ、これらは通常、粉末状で用いることができる。水酸化マグネシウムの場合、例えばポリ乳酸に含有させたペレットとして保管した場合、保管中に加水分解が進みやすくなるなど、取り扱い性の点から、注意が必要であり、水酸化物以外のマグネシウム化合物を用いることが好ましい。なかでも酸化マグネシウムを用いることが好ましい。
本発明のポリアミド複合繊維の一部を構成するポリ乳酸には、本発明の効果を損なわない範囲で上記樹脂以外の成分を含有してもよい。例えば、可塑剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、酸化防止剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤あるいは着色顔料などとして無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加してもよい。
紫外線安定化剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系薬剤を好ましく用いることができる。この際の配合量はポリ乳酸に対して0.005〜1.0重量%が好ましい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、硫黄系、リン系、あるいはこれらを複合したものを好ましく用いることができる。その際、配合量はポリ乳酸に対して0.01〜1重量%が好ましい。
本発明のポリアミド複合繊維の一部を構成するポリアミドとは、アミド結合を有する熱可塑性重合体のことをいうが、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン46などを挙げることができる。また、前記ポリマーのブレンド物、共重合ポリマーであってもよいが、なかでも繊維形成性、製造コスト、汎用性および芯部のポリ乳酸との融点や溶融粘度が近いことなどから、相対粘度が2.2以上2.8以下であるナイロン6が好ましい。また、ボリアミドには、本発明の効果を損なわない範囲で可塑剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、酸化防止剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤あるいは着色顔料などとして無機微粒子や有機化合物などを必要に応じて添加してもよい。
本発明のポリアミド複合繊維の断面形状は、ポリアミドが実質的に外表面を完全に覆っている必要があるが、外形は丸断面、多角断面、多葉断面、その他公知の断面形状のいずれでもよい。
次に、本発明のポリアミド複合繊維の製造方法について説明する。
本発明のポリアミド複合繊維は、ポリ乳酸およびポリアミドをそれぞれ別個に溶融した後に同一の紡糸口金に導いて、ポリアミドがポリ乳酸により複数のセグメントに分割され、かつポリアミドが外表面を実質的に覆うように複合し、吐出させることにより得られる。吐出された糸条は、一旦巻き取ることなく直接紡糸延伸法で製造することが重要である。具体的には、吐出された糸条を冷却風で冷却した後、給油装置にて給油をおこない、流体交絡装置に糸条を通して交絡を生じさせる。しかる後に1000m/分以上の速度で引き取り、130℃以上に加熱したローラーとの間で延伸、熱固定を行い3000m/分以上の速度で巻取る。このように直接紡糸延伸法により高速で引き取ることにより、紡糸時の応力がポリアミドに選択的に集中し、ポリアミドの配向が進んで繊維構造が安定化し、極細繊維で問題となる洗濯堅牢度の悪化を克服することができるのである。
また、冷却、給油後、3000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく実質延伸しないで3000m/分以上の速度で紡糸引取る高速法によって、POYを製糸し、その後、必要に応じて仮撚加工など高次加工を施してもよい。
ここで、実質延伸しないでとは、理想的には延伸倍率が1倍であることを意味するが、ローラー間での糸のタルミによる巻き付きを無くすことなどを目的として、糸の物性にほとんど影響しない程度のストレッチをかけることまでを妨げるという趣旨ではなく、1〜1.2倍程度の延伸倍率で有れば差し支えは無いということを意味する。
仮撚加工する場合には接触式の熱板使いでポリ乳酸の融点−70℃〜融点−5℃の温度で実施すればよく、捲縮特性の指標である伸縮復元率(JIS L1090に定める)を高くするにはポリ乳酸の融点−50℃〜融点−5℃、さらに好ましくは融点−30℃〜融点−5℃の温度である。流体噴射加工する場合には常法で実施すればよく、例えば本発明で用いられるポリアミド複合繊維どうし、もしくは本発明で用いられるポリアミド複合繊維と他の糸をフィード差を付けて送り出し、流体噴射ノズルを通過させて複合、捲縮付与することによりフィード差による糸条ループが形成される。
本発明の布帛は、上記ポリアミド複合繊維を常法によって製織、あるいは編成することにより得られるが、布帛を形成する際にはポリアミド複合繊維を主要な構成成分として形成する必要がある。すなわち、ポリアミド複合繊維のみを用いて布帛とするか、布帛が複数種の繊維よりなる場合は、布帛を構成する複数の繊維の中でもポリアミド複合繊維の混率を1番目もしくは2番目に高くする必要がある。複数種の繊維よりなる布帛の例として、ストレッチ性を持たせるためにポリウレタンなどの弾性繊維と混合したニットや、複合フィラメント糸をタテ糸またはヨコ糸のみに用いた織物、さらには他の合成繊維あるいは綿などの天然繊維と合撚、複合加工する方法などが挙げられる。
本発明の布帛は、上記ボリアミド複合繊維を主体として構成された布帛を加熱アルカリ水溶液により溶出処理してポリ乳酸を除去することにより得られる。
布帛としては、パンスト、タイツ、靴下などの丸編み、下着、水着向けのトリコット、さらにはスポーツウェア、外衣向けの織物などが挙げられる。丸編み、トリコットなどの場合には、編成、熱セットを施した後に溶出処理を行い、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。また、織物の場合には整経、糊付け、製織を行った後に溶出処理を行い、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。また、これらの前工程として仮撚りや流体噴射加工などを行い繊維に嵩高性を持たせることも可能である。
本発明の布帛は、ポリアミドを染色する際に一般的に用いられる酸性染料で染色されるが、極細繊維特有の洗濯した際の色落ちが少なく、良好な洗濯堅牢度を有している。具体的にはLab表色系での明度(L値)が40以下の濃色であっても良好な洗濯堅牢度を有している。良好な洗濯堅牢度を有している理由としては、紡糸時にポリアミドが選択的に配向するために、安定した繊維構造を有していることが挙げられる。
ポリ乳酸の溶出処理は10〜100g/l、好ましくは20〜80g/lのアルカリ溶液中で行うことが望ましい。アルカリ溶液は通常、水酸化ナトリウム溶液を用い、60〜120℃の温度で処理する。100℃以下の場合は常圧下でバッチ式の処理槽にて布帛を攪拌・流動させながら処理し、100℃を超える場合は加圧下で同様に処理を行う。処理時間はポリ乳酸が完全に溶出されるまでの時間おこなえばよいが、コストの面から3時間以内で完全に溶出されるのが好ましい。
このように、布帛を構成した後にポリ乳酸を溶出処理してポリアミド部分を分割することにより、目的とするソフトな風合いが発現される。
本発明の布帛は衣料品、資材用品、インテリア用品などに好適である。衣料品としては、スキーウェア、スノボウェア、登山服、水着、ランニングウェア、レオタード、スパッツなどのスポーツウェア、ジャンパー、ブルゾン、ダウンジャケット、コート、レインウェア、ウィンドブレーカーなどのアウターウェア、ランジェリー、ファンデーションなどのインナーウェア、パンティストッキング、タイツ、靴下などのレッグウェア、Tシャツ、Yシャツ、ブラウス、ポロシャツ、キャミソールなどのシャツ類、スカート、パンツなどのボトム、帽子、手袋、スカーフ、裏地などが挙げられる。
資材用品としては、日傘、ビーチパラソル、雨傘など傘、テント地、自動車カバー、スクリーン、布団カバー、枕カバー、椅子張り、カーシート、カバン、合成皮革基布などが挙げられる。
インテリア用品としてはカーテン、レース、クッション、暗幕などが挙げられる。
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.ポリアミド相対粘度(ηr)
(a)試料を秤量し、98重量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下秒数(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98重量%濃硫酸の25℃での落下秒数(T2)を(2)項と同様に測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下式により算出する。測定温度は25℃とする。
(ηr)=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}。
B.繊度
JIS L 1013 7.3正量繊度試験に準じて測定を行った。試験回数は5回とし、その平均値を算出して繊度を求めた。また、分割されたポリアミドの繊度については、光学顕微鏡で観察した断面形状を印刷し、切り抜き重量法により単糸繊度との比率を求めることにより算出した。
C.製糸性
ポリアミド複合繊維を製糸するときの、1t当たりの製糸糸切れについて、次の基準をもって製糸性を示した。
◎:糸切れ1回未満、
○:糸切れ1以上2回未満、
△:糸切れ2以上4回未満、
×:糸切れ4回以上。
D.布帛の引裂強力
JIS L−1096 D法に準じてペンジュラム法で測定した。10N以上で充分な引裂強力を有すると判断した。
E.ソフト性
検査者(30人)の触感によって布帛のソフト性を次の基準で相対評価した。
◎:ソフト感が非常によい、
○:ソフト感がややよい、
△:ソフト感があまりない、
×:ソフト感がない。
F.明度(L値)
白板上に布帛を静置し、色差計Σ80(日本電色工業(株)製)により測定した。測定は5回おこない、その平均値をL値として求めた。
G.洗濯堅牢度
JIS L−0844 A−2法に準じて試験を行い、グレースケールにてなど級判定を行った。4級以上で充分な堅牢度を有すると判断した。
(実施例1)
平均2次粒子径が0.9μmの酸化マグネシウムをポリ乳酸100gに対して15ミリモル含有した重量平均分子量18万のポリL乳酸(光学純度99%L乳酸、融点170℃)と、硫酸相対粘度ηr:2.6のナイロン6(融点225℃)とを、それぞれ210℃、250℃で別々に溶融し、お互いの重量比が50/50となるように計量して紡糸口金に導き、図1(a)に示すようにポリアミドがポリ乳酸により8分割され、かつ繊維外表面がポリアミドで覆われるように複合した後、12ヶの丸孔より溶融吐出した(紡糸温度250℃)。
続いて、糸条を冷却風で冷却し、給油、交絡を行った後、非加熱ローラーで引き取り、170℃の加熱ローラーとの間で1.5倍に延伸して巻き取り速度4000m/分で巻き取りを行い、78デシテック12フィラメントのポリアミド複合繊維を得た。
上記ポリアミド複合繊維をタテ糸およびヨコ糸に用いて、タテ密度120本/インチ、ヨコ密度90本/インチのタフタ織物を製織した。製織したタフタ織物を50g/lの水酸化ナトリウム溶液中で浴比1:40、98℃、180分間の条件で処理を行い、ポリ乳酸成分の溶出処理を行った。つづいて酸性染料Xylene Fast Blue P 2%owfを用い、98℃にて45分間染色処理を施した後、170℃で仕上げセットして布帛を作成した。
布帛の引裂強力、ソフト性、明度(L値)、洗濯堅牢度を測定した結果、さらには複合フィラメント糸を製糸した際の紡糸糸切れについて評価した結果を表1に示した。
(実施例2)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を40/60とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例3)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を65/35とし、ポリアミドの分割数を16とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例4)
ポリアミドの分割数を10とし、フィラメント数を8とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例5)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を70/30とし、ポリアミドの分割数を16とし、フィラメント数を8とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例6)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を20/80とし、ポリアミドの分割数を4とし、フィラメント数を52とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例7)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を70/30とし、ポリアミドの分割数を4とし、フィラメント数を52とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例8)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を15/85とし、ポリアミドの分割数を4とし、フィラメント数を36とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例9)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を30/70とし、ポリアミドの分割数を10とし、フィラメント数を18とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例10)
ナイロン6相対粘度(ηr)を2.1とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例11)
ナイロン6相対粘度(ηr)を3.2とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例12)
ナイロン6相対粘度(ηr)を3.2とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例13)
酸化マグネシウムの添加量をポリ乳酸100gに対して30ミリモルとした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例14)
ポリ乳酸への酸化マグネシウム添加を無添加とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例15)
染色の際の染料濃度を1%owfとした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(実施例16)
実施例1と同様に溶融吐出した糸条を冷却風で冷却し、給油、交絡を行った後、非加熱ローラーで引き取り、実質的に延伸することなく巻き取り速度4000m/分で巻き取りを行い、95デシテックス12フィラメントのポリアミド複合繊維を得た。
上記ポリアミド複合繊維を用いて石川製作所製IVF−610仮撚加工機にて熱板温度160℃、加工速度400m/分で1.2倍に延伸しながらフリクション仮撚加工を行い、78デシテックス24フィラメントの仮撚糸を得た。得られた仮撚糸を用いて実施例1と同様の方法にて布帛を得た。評価結果を表1に併せて示した。
(比較例1)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を30/70とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表2に示した。
(比較例2)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を70/30とし、ポリアミドの分割数を20とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表2に併せて示した。
(比較例3)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を60/40とし、ポリアミドの分割数を10とし、フィラメント数を8とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表2に併せて示した。
(比較例4)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を70/30とし、ポリアミドの分割数を20とし、フィラメント数を8とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表2に併せて示した。
(比較例5)
ポリアミドの分割数を4とし、フィラメント数を96とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表2に併せて示した。
(比較例6)
ポリ乳酸/ナイロン6の比率を20/80とし、ポリアミドの分割数を2とし、フィラメント数を68とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表2に併せて示した。
(比較例7)
断面形状を図2に示すように、ポリ乳酸が表面に露出するようにした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド複合繊維および布帛を得た。評価結果を表2に併せて示した。
(比較例8)
実施例1と同様に溶融吐出した糸条を冷却風で冷却し、給油を行った後、600m/分で巻き取り未延伸糸を得た。続いて、得られた未延伸糸を延伸機に仕掛けて、熱板にて120℃の熱をかけながらローラー間で3.0倍に延伸し、速度500m/分で巻き取って78デシテックス12フィラメントのポリアミド複合繊維を得た。
得られたポリアミド複合繊維を用いて実施例1と同様の方法にて布帛を得た。評価結果を表2に併せて示した。
Figure 2007169828
Figure 2007169828
表1,2の結果から明らかなように、本発明のポリアミド複合繊維は、製糸性が良好であるために生産性に優れるとともに、布帛とした後ポリ乳酸溶出処理してポリアミドを複数のセグメントに分割することにより、ソフト性の発現に極めて顕著な効果を奏することが判る。また、濃色に染色した場合にも良好な洗濯堅牢度を有することが判る。
本発明により得られる布帛は、ソフト性に優れ、かつ濃色に染色した場合にも良好な洗濯堅牢度を有するため、各種衣料品、資材用品、インテリア用品に好適に使用することができる。
(a)〜(d)は本発明のボリアミド複合繊維の数例を示す断面図。 本発明の条件を満たさない比較用複合繊維の断面図。 単糸繊度(X)と分割後のポリアミド繊度(Y)の関係を示すグラフ。
符号の説明
イ:ポリアミド成分
ロ:ポリ乳酸成分

Claims (8)

  1. ポリアミドとポリ乳酸とからなり、繊維の横断面においてボリアミドが複数のセグメントに分割された複合繊維であって、繊維の外表面が実質的にポリアミドで覆われ、かつ単糸繊度(X)(dtex)と分割されたポリアミドセグメントの繊度(Y)(dtex)が、1≦X≦10、Y≦0.5、0.015X+0.035≦Y≦0.3Xの関係をすべて満足することを特徴とするポリアミド複合繊維。
  2. 前記ポリアミドが相対粘度(ηr)2.2以上2.8以下のナイロン6であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド複合繊維。
  3. 前記ポリ乳酸中に無機マグネシウム化合物がポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル(マグネシウム換算)含有されていることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド複合繊維。
  4. 溶融紡糸された複合繊維糸条を1000m/分以上の速度で引取り、一旦巻き取ることなく延伸および130℃以上の熱処理を連続して行い、3000m/分以上の高速で巻き取ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリアミド複合繊維の製造方法。
  5. 溶融紡糸された複合繊維糸条を3000m/分以上の高速で引取り、実質的に延伸することなく巻き取ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリアミド複合繊維の製造方法。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項記載のポリアミド複合繊維を少なくとも主体として構成された布帛であって、加熱アルカリ水溶液によりポリ乳酸が溶出処理されていることを特徴とする布帛。
  7. 酸性染料で染色され、Lab表色系での明度(L値)が40以下であることを特徴とする請求項6記載の布帛。
  8. 請求項6または7記載の布帛を用いて構成したことを特徴とする繊維製品。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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