本発明の複合繊維の芯部Aを形成する脂肪族ポリエステルとは、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結された熱可塑性重合体のことをいい、例えばポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。このうち、前記したように力学特性、耐熱性及び製造コストの面からポリ乳酸が好ましい。
ここでポリ乳酸とは、-(O-CHCH3-CO)n-を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。より好ましい光学純度は93%以上、さらに好ましい光学純度は97%以上である。なお、光学純度は前記した様に融点と強い相関が認められ、光学純度90%程度で融点が約150℃、光学純度93%で融点が約160℃、光学純度97%で融点が約170℃となる。
また、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体ポリマーをブレンドして繊維に成型した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を飛躍的に高めることができ、より好ましい。
また、ポリ乳酸中にはラクチド等の残存モノマーが存在するが、これら低分子量残留物は延伸や仮撚加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる。また、繊維の加水分解性を促進し、耐久性を低下させるため、これら低分子量残留物は好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。
また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。ただし、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリ乳酸繊維中の乳酸モノマー比率は50重量%以上とすることが必要である。乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。また、ポリ乳酸以外の熱可塑性重合体をブレンドしたりしてもよい。さらに改質剤として、粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。また、ポリ乳酸重合体の分子量は、重量平均分子量で5万〜35万であると、力学特性と成形性のバランスがよく好ましく、10万〜25万であると、より好ましい。
本発明のポリ乳酸の製造方法は、特に限定されない。具体的には、特開平6−65360号公報に開示されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を有機溶媒及び触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法である。また、特開平7−173266号に開示されている少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法である。さらには、米国特許第2,703,316号明細書に開示されている方法がある。すなわち、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法である。
本発明の複合繊維の鞘部Bを形成する熱可塑性樹脂は、融点200℃以上の結晶性ポリエステルであることが必要である。鞘部の融点を200℃以上とし、後述する鞘部の厚みを0.4μm以上とすることで、繊維の耐熱性を飛躍的に向上させることができるのである。結晶性ポリエステルとは、例えばジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステルであって、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分や、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分等を用いることができ、これらの酸成分は1種類でもよく、2種以上併用してもよい。また、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。これらのグリコール成分は1種類でもよく、2種類以上併用してもよい。ただし、前記した様に結晶性ポリエステルの融点は200℃以上であることが必須であり、芯成分との複合紡糸を容易にするため融点は205〜260℃であることが好ましい。より好ましくは210〜240℃である。また、耐熱性の向上とともに耐摩耗性を向上させるためには、結晶性ポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと記載)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと記載)を用いることが好ましい。その中でも、芯部を形成する脂肪族ポリエステルとの界面剥離を生じにくく、繰り返し屈曲に対する耐久性に優れるという点で、PTTを用いることが最も好ましい。PTTは、柔軟性とともに繊維長手方向での伸長回復性に優れるため複合界面で歪みエネルギーを蓄えにくいという特性をもつ。さらに仮撚加工により高い伸縮性や嵩高性を付与することが容易であるとともに、低温染色が可能なため、一般に加水分解しやすい脂肪族ポリエステルにダメージを与えず染色が可能であるという利点を有する。
なお、結晶性ポリエステルはホモポリマーでもよいが、前記ポリマーに柔軟性を付与するためにエラストマーをブレンドしたり、共重合ポリマーにすることも好ましい。さらには粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。なお、本発明における結晶性ポリエステルの融点とは、DSC測定での結晶融解のピーク温度であり、同時に結晶融解ピークの有無により、結晶性であるか否かの判定を行う。
また、芯部と鞘部との複合界面の接着性を高め、界面剥離を抑制するために、芯成分及び/又は鞘成分に相溶化剤が含有されていることが好ましい。相溶化剤としては、芯成分と鞘成分のいずれの成分とも相溶性のある化合物や、芯・鞘両成分の末端と反応して架橋構造をとる化合物等が好ましく用いられるが、これらに限られるものではない。例えば、前者の相溶化剤としては、芯・鞘各成分と基本構造が類似した部分を併せ持つ界面活性剤コポリマーや、ブロックコポリマー等が挙げられる。また、架橋構造を形成するものとして、両末端にエポキシ基を有するエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物やそれらのコポリマー、カルボジイミド化合物やそれらのコポリマー等が挙げられる。架橋剤を用いる場合は、架橋剤を芯・鞘各成分のいずれか、又は両成分に添加し、架橋剤が複合界面近傍に存在するそれぞれの成分の末端基と反応することで、界面接着性が向上する。また、芯成分にポリ乳酸を用いた場合には、オリゴマーの反応活性末端が封鎖されるため、ポリ乳酸中の反応活性末端が不活性化し、ポリ乳酸の加水分解を抑制することができる。この反応活性末端は水酸基、カルボキシル基があるが、カルボキシル基の封鎖性に優れているものとして、以下の化合物が挙げられる。本発明のカルボキシル基封鎖剤として好ましく用いられるエポキシ化合物としては、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
グリシジルエーテル化合物の例としては、ブチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、o−フェニルフェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、エチレンオキシドフェノールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどのビスフェノール類とエピクロルヒドリンとの縮合反応から得られるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールFジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールSジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などを挙げることができる。なかでも、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
グリシジルエステル化合物の例としては、安息香酸グリシジルエステル、p−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレン酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ビ安息香酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどを挙げることができる。なかでも、安息香酸グリシジルエステルやバーサティック酸グリシジルエステルが好ましい。
グリシジルアミン化合物の例としては、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロモアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、トリグリシジルシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
グリシジルイミド化合物の例としては、N−グリシジルフタルイミド、N−グリシジル−4−メチルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−3−メチルフタルイミド、N−グリシジル−3,6−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−4−エトキシフタルイミド、N−グリシジル−4−クロルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジクロルフタルイミド、N−グリシジル−3,4,5,6−テトラブロムフタルイミド、N−グリシジル−4−n−ブチル−5−ブロムフタルイミド、N−グリシジルサクシンイミド、N−グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N−グリシジル−1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド、N−グリシジルマレインイミド、N−グリシジル−α,β−ジメチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−エチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−プロピルサクシンイミド、N−グリシジルベンズアミド、N−グリシジル−p−メチルベンズアミド、N−グリシジルナフトアミド、N−グリシジルステラミドなどを挙げることができる。なかでも、N−グリシジルフタルイミドが好ましい。
脂環式エポキシ化合物の例としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、N−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−エチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−フェニル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−ナフチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−トリル−3−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミドなどを挙げることができる。
また、その他のエポキシ化合物として、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化鯨油などのエポキシ変性脂肪酸グリセリド、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノゾラック型エポキシ樹脂などを用いることができる。
本発明のカルボキシル基封鎖剤として好ましく用いられるオキサゾリン化合物の例としては、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2−ブトキシ−2−オキサゾリン、2−ペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘプチルオキシ−2−オキサゾリン、2−オクチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ノニルオキシ−2−オキサゾリン、2−デシルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−アリルオキシ−2−オキサゾリン、2−メタアリルオキシ−2−オキサゾリン、2−クロチルオキシ−2−オキサゾリン、2−フェノキシ−2−オキサゾリン、2−クレジル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−ブチル−2−オキサゾリン、2−ペンチル−2−オキサゾリン、2−ヘキシル−2−オキサゾリン、2−ヘプチル−2−オキサゾリン、2−オクチル−2−オキサゾリン、2−ノニル−2−オキサゾリン、2−デシル−2−オキサゾリン、2−シクロペンチル−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシル−2−オキサゾリン、2−アリル−2−オキサゾリン、2−メタアリル−2−オキサゾリン、2−クロチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−9,9′−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物なども挙げることができる。
本発明のカルボキシル基封鎖剤で用いることのできるオキサジン化合物の例としては、2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−エトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−プロポキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ブトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ペンチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ヘプチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−オクチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ノニルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−デシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロペンチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−アリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−メタアリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−クロチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどが挙げられ、さらには、2,2′−ビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−メチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−エチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−プロピレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−ブチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−ヘキサメチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−p−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−m−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−ナフチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−P,P′−ジフェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサジン化合物などが挙げられる。
上記オキサゾリン合物やオキサジン化合物の中では、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)が好ましい。
本発明の相溶化剤として好ましく用いられるカルボジイミド化合物とは、分子内に少なくともひとつの(−N=C=N−)で表されるカルボジイミド基を有する化合物であり、例えば適当な触媒の存在下に、有機イソシアネートを加熱し、脱炭酸反応で製造できる。
カルボジイミド化合物の例としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノ又はジカルボジイミド化合物、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましく、また、ポリカルボジイミドが好ましい。
上記のカルボキシル基封鎖剤は1種または2種以上の化合物を任意に選択して使用することができる。
カルボキシル基封鎖剤を添加する場合、添加する成分のカルボキシル基末端量に対して決めることが重要である。さらに、ラクチド等の残存オリゴマーも加水分解によりカルボキシル基末端を生じることから、ポリマーのカルボキシル基末端だけでなく残存オリゴマーやモノマー由来のものも併せたトータルカルボキシル末端量が重要である。例えば、架橋剤としてポリカルボジイミドを用いる場合、ポリカルボジイミドのカルボジイミド基当量としてトータルカルボキシル末端量の1〜5倍当量添加することで、フリーのポリカルボジイミド化合物を減じることができる。また、芯・鞘両成分のカルボキシル基末端の封鎖により形成される架橋構造により、界面接着性を飛躍的に向上させることができる。ポリカルボジイミド化合物の添加量は、より好ましくはトータルカルボキシル末端量の1.2〜3倍当量であり、さらに好ましくは1.3〜2.5倍当量である。
また、複合繊維のトータルカルボキシル末端濃度は、繊維全体に対し20当量/ton以下であると耐加水分解性を飛躍的に向上することができ好ましく、10当量/ton以下であるとより好ましい。
さらに、外部との接触において滑性を高め、耐摩耗性を向上させるために、結晶性ポリエステル成分に滑剤を添加してもよい。滑剤としては流動パラフィンやパラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素系のワックス類、ステアリン酸や12−ヒドロキシステアリン酸、ステアリルアルコール等の脂肪酸・高級アルコール系ワックス類、ステアリン酸アミドやオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等のアミド系滑剤、ステアリン酸ブチルやステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート等のエステル系ワックス、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムやステアリン酸鉛等の金属石けんが適用できる。その中でも融点が100℃以上で、外部滑性に優れるアミド系滑剤が好ましく、その中でも脂肪酸ビスアミド、およびアルキル置換型の脂肪酸モノアミドが最も好ましい。また、これら滑剤を複数含有させてもよい。結晶性ポリエステルへの滑剤の添加量は、結晶性ポリエステルに対し0.05〜5重量%の範囲で、重合工程、乾燥、紡糸工程等いずれで添加してもよい。
本発明の捲縮糸を構成する複合繊維は、主成分の脂肪族ポリエステルが芯部Aを形成し、その廻りに鞘部Bとして結晶性ポリエステルで覆われていることが重要である。また、結晶性ポリエステルで形成される皮膜厚さは、0.4μm以上であることで高い耐熱性が得られる。結晶性ポリエステルの皮膜厚さと耐熱性には明確な相関関係がみられ、皮膜が厚くなるほど耐熱性が向上する。そのため、結晶性ポリエステルの皮膜厚さは0.6μm以上が好ましく、0.8μm以上がより好ましい。さらに好ましくは1μm以上である。一方、皮膜厚さの上限は特に限定されないが、脂肪族ポリエステルの特性を損なわないという点で10μm以下が好ましい。また、複合繊維の断面形状は、0.4μm以上の皮膜厚さを有していれば丸断面、多角断面、多葉断面、中空断面、その他公知の断面形状のいずれでもよく、芯鞘構造も単芯の他、2芯、3芯といった多芯構造であってもよい。本発明の好ましい断面形状の例を図1(a)〜(f)に示す。なお、皮膜厚さは前記の芯部Aと鞘部Bとの芯鞘複合比や、複合形態、単繊維の繊度を決定する要因である吐出量、紡糸速度、延伸倍率によって任意に決めることができる。
本発明の捲縮糸は、後述する測定方法に基づく伸縮復元率(CR)が10〜50%であることが必要である。CRが10%以上の仮撚加工糸にすることで、繊維構造体にしたときに嵩高性や柔軟性、保温性の高い製品にすることができる。一方、CRが50%を越えると、繊維構造体にしたときに風合いが粗硬化するとともに、表面品位が悪化する傾向にある。したがって、高品位の布帛表面としつつ、加工糸としての嵩高性やストレッチ性を付与するためには、CRは15〜48%が好ましく、20〜45%がより好ましい。
また、繊維のストレッチ性の指標となる伸縮伸長率は、15〜100%であることが好ましい。この範囲とすることで、繊維構造体としても実用性の高いストレッチ性を付与することができる。伸縮伸長率は25%以上がより好ましく、35%以上であればさらに好ましい。
本発明の捲縮糸の沸騰水収縮率は2〜20%であることが必要である。沸騰水収縮率が2〜20%であれば、例えば織物や編物にした場合に粗硬化することなく、優れた風合いの製品にすることができる。また、精練や染色等での収縮を抑えることができるため、寸法変化が小さく、設計どおりの外観とすることができる。沸騰水収縮率は3〜16%が好ましく、4〜12%がより好ましい。
また、本発明の捲縮糸は、残留トルクが200T/m以下であることが好ましい。残留トルクが200T/m以下であれば、チーズから解舒した糸のビリを抑制し、走行安定性に優れるため、製編織性が向上する。更に、得られる繊維構造体の斜行や緯段、筋を抑制することができるため、高品位の最終製品の品位が優れるのである。残留トルクはより好ましくは150T/m以下、さらに好ましくは100T/m以下である。また、残留トルクは、20T/m以上であれば安定生産が可能であり、また最終製品の品位に与える影響も僅かであり好ましい。
また、本発明の捲縮糸は、鞘成分にPTTやPBTを用いた場合、ポリマー特性に起因する遅延収縮や糸斑が発生しやすい。そのため遅延回復率を5%以下にすることが好ましい。遅延収縮が大きいと、ドラムパッケージを変形させるため、パッケージ内層部の糸が圧迫され糸がダメージを受ける。また、糸長手方向の捲縮特性に斑が生じるため、シワ、シボ、ヨコヒケ状の欠点発生の原因になる。同様に、製編、製織を行った後に徐々に収縮が起こり、生機での寸法安定性が悪くなり、場合によっては、収縮応力の集中によりヨコヒケ状の欠点を発生させてしまう。また、パッケージからの糸の解除張力斑を引き起こすため、編物の場合はスジやヨコ段が、織物の場合はヨコ筋が発生し、品位が著しく低下する。これらの問題を解消するため、遅延回復率は3%以下にすることがより好ましく、2%以下がさらに好ましい。
遅延回復率を下げる方法については詳細後述するが、仮撚加工後、2ndヒーターで弛緩熱処理を行ったり、デリベリローラーと巻取機との間で弛緩処理することが有効である。
また、本発明の捲縮糸はビーミング、製織、製編のような製布工程等、あらゆる工程で外力を受ける。それによって生ずる芯鞘複合界面の剥離や、毛羽の発生を抑えるため、表面処理剤として摩擦係数の低い脂肪酸エステルや鉱物油、ポリエーテルエステル等の平滑剤を主体とするものを付着させることが好ましい。そうすることで、上記工程での工程通過性を大幅に向上させることができる。表面処理剤の付着量は加工方法や用途によって適宜変更すればよいが、おおよそ繊維全重量に対して0.2〜2%の付着量にすることが好ましい。
また、本発明の捲縮糸の力学特性は、実用上問題のないレベルであればよく、例えば、衣料用テキスタイルに用いる場合においては引張強度1.5cN/dtex以上、好ましくは2cN/dtex以上、より好ましくは2.5cN/dtex以上であり、伸度は15〜50%、好ましくは18〜45%、より好ましくは20〜40%であればよい。
また、ポリ乳酸繊維で問題となっている高温力学特性についても、本発明の捲縮糸は優れた性能を発揮する。通常、整経後に行う糊付け乾燥では張力を加えながら80℃程度の高温で乾燥を行う。この際、ポリ乳酸繊維は高温下での引張抵抗が小さく、糸が延びてしまうといった問題があった。本発明の捲縮糸は、高温力学特性に優れた結晶性ポリエステルを被覆しているため、加熱下でも強度特性に優れる。90℃加熱下での強度は0.8cN/dtex以上が好ましく、1cN/dtexがより好ましい。ちなみに、ポリ乳酸100%使いの繊維の90℃加熱下の強度は高々0.3cN/dtexである。
また、本発明の捲縮糸は、繊維長手方向の太さ斑の指標であるウースター斑U%が2%以下であることが好ましい。これにより布帛の染め斑を回避できるのみならず、布帛にした際の糸の収縮斑を抑制し、美しい布帛表面が得られる。ウースター斑U%はより好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下、最も好ましくは0.6%以下である。
また、必要に応じて交絡を入れてもよいが、CF値が高すぎると捲縮斑が生じ、繊維構造体にしたときに品位が低下する。そのため、CF値は1〜100が好ましく、5〜50がより好ましい。さらに好ましいCF値は10〜30である。
また、捲縮糸の形態は3本以上の繊維からなるマルチフィラメントであるが、本発明の捲縮糸を切断して短繊維として用いてもよい。
また、本発明の繊維構造体の形態は、本捲縮糸単独で、又は他の繊維と混用してシャツやブルゾン、パンツといった衣料用途の織物、編物、不織布の他、カップやパッド、ボード等の衣料資材、カーシートやカーテン、カーペット、マット、家具等のインテリアや車両内装やベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、縫い糸、フェルト、不織布、フィルター、人工芝等の産業資材用途等、様々な繊維製品の形態を含む。他の繊維と混用する場合にはポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの繊維形成性重合体からなる合成繊維や、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、また、羊毛、絹、木綿、麻などの天然繊維が採用される。ただし、脂肪族ポリエステルの特徴を活かすためには本複合繊維の含有比率を20%以上にすることが好ましく、50%以上にすることがより好ましい。
また、衣料用テキスタイル、その中でもアイロンプレスを受ける用途に本発明の繊維構造体は好適に用いられる。本発明の複合繊維からなる繊維構造体の耐熱性は、アイロン耐熱性試験で160℃以上であることが好ましい。160℃以上の耐熱性を有することで、低温〜中温でのアイロン掛けでも繊維構造体の風合い硬化や、色調変化がないものが得られる。ここで、アイロン耐熱性試験の方法について詳述する。
測定は市販の家庭用アイロンを用い、アイロン表面温度を所望の温度に安定化させた後、布帛にアイロン自重(面圧約8g/cm2)で10秒間プレスし、プレス後の外観変化により評価する。本発明者らがポリ乳酸繊維100%からなる布帛についてアイロン耐熱性試験を実施した結果、ポリ乳酸布帛の耐熱性は高々120℃程度であり、それを越えると繊維が軟化して扁平化し、「あたり」と呼ばれる光沢斑が発生する。さらにアイロンの温度を150℃にすると、部分融解により穴があいたり、粗硬感の強い布帛となってしまい、もはや実用性のないものとなってしまう。そのため、ポリ乳酸繊維100%使いでは実質アイロンを当てることができなかった。それに対し、本発明の捲縮糸からなる織物は、160℃以上の耐熱性を有し、低〜中温アイロンでは繊維の軟化、変形が起こらず、「あたり」等の欠点が全くみられないものである。
また、衣料用、産業資材用を問わず本発明の捲縮糸からなる繊維構造体を用いる場合、JISで決められた各種染色堅牢度試験において実用レベルを満たすことが要求される。例えば、一般衣料用途に用いる場合は洗濯に対する染色堅牢度(JIS−L0844)や紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度(JIS−L0842)において3級以上が要求される。
また、本発明の目的である耐摩耗性については、摩擦に対する染色堅牢度試験(JIS−L0849)の摩擦試験機II形(学振形)において、乾燥、湿潤ともに3級以上であることが好ましく、乾燥、湿潤ともに4級以上であることがより好ましい。なお、ポリ乳酸100%からなる織物について染色堅牢度試験を実施すると、洗濯や耐光試験では3級をクリアするものの、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに1級と極めて悪いものとなる。
ここで、本発明の捲縮糸の製造方法を図をもって説明する。
まず、前記したポリマーの中から芯部Aを形成する脂肪族ポリエステルと鞘部Bを形成する結晶性ポリエステルを選択する。例えば、芯部Aに光学純度97%のポリL乳酸(融点:170℃)、鞘部BにPTT(融点228℃)を用いる。このとき、芯部のポリL乳酸を紡糸線上で高度に配向させ、繊維の力学的特性を向上させるためには、PTTの重量平均分子量をポリL乳酸よりも低くする必要がある。PTTの重量平均分子量は、ポリL乳酸の重量平均分子量の1/2〜1/5にすることが好ましく、1/3〜1/5にすることがより好ましい。図3は本発明で好ましく用いられる紡糸装置の概略図であるが、まずホッパー1に投入されたポリ乳酸チップをエクストルーダー2で溶融・押し出して紡糸ブロック4に溶融ポリマーを移送する。同様に、ホッパー1’に投入されたポリトリメチレンテレフタレートチップをエクストルーダー2’で溶融・押し出して紡糸ブロック4に溶融ポリマーを位相する。さらに紡糸ブロック4に内蔵された紡糸パック5に送り、パック内でポリマーを濾過した後、紡糸口金6で芯鞘構造に貼り合わせ後、吐出して糸条を得る。紡出された糸条は冷却装置7によって一旦冷却・固化された後、給油ガイド9で油剤を付与され、交絡装置10で適度に交絡を与えられた後、ゴデットロール11及び12で引き取られ、巻取機13で巻き取られる。なお、繊維から昇華した低融点物を取り除くため、口金直下に吸引装置8を設けている。また、紡糸でのモノマー、オリゴマー析出を抑制し、紡糸性を向上させるために、必要に応じて口金下に2〜20cmの加熱筒やポリマ酸化劣化あるいは口金孔汚れ防止用の空気、スチーム、N2などの不活性ガス発生装置を設置してもよい。紡糸ブロックの温度は芯鞘各成分の高融点側の融点で決まるが、高融点側にPTTやPBTを用いた場合は240〜255℃で溶融紡糸すればよい。次いで延伸機により延伸した後仮撚加工するか、直接仮撚加工機により延伸仮撚する。なお、紡糸と延伸を連続的に行うスピンドローを行った後、仮撚加工する方式も好ましく用いられる。
溶融紡糸を行う際、混練時および溶融紡糸時の滞留時間が長いと、原料ポリマーや相溶化剤の熱劣化により、ポリマーが着色するという問題がある。そのため、滞留時間は短い程良く、30分以下とすることが好ましい。また、このときの溶融ポリマーの温度も流動性を確保しつつ、出きるだけ低温にすることが好ましい。なお、滞留時間とは、ポリマーの溶融から紡出までの滞留時間を指し、これは混練機のバレルとスクリューとの間隙やスクリューのスペック、混練機と紡糸パックとの間の配管サイズ、紡糸パック内の寸法等から見積もることができる。滞留時間はより好ましくは20分以下であり、さらに好ましくは15分以下である。同様に、相溶化剤の添加方法も工夫することが好ましい。相溶化剤は予め原料ポリマーに混練させてもよいが、滞留時間を抑制するためには溶融紡糸時に相溶化剤を直接添加することが好ましい。例えば、ポリ乳酸を混練機で溶融する際、サイドフィーダー等で相溶化剤を計量しながら添加することで、相溶化剤の溶融状態での滞留時間を短くすることができる。
紡糸油剤は、仮撚ヒーター汚れの防止や施撚体との滑り防止(糸掛け性、仮撚ヒーター上での撚数向上)、マルチフィラメント内での繊維マイグレーションを向上させることが重要である。そのためには耐熱性が良好であり、繊維−施撚体間摩擦係数が高く、繊維−繊維間摩擦係数が低い平滑剤を含有した油剤を用いることが好ましい。例えば、分子内に1個以上のヒドロキシル基を有するアルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを共重合した化合物およびそれらから誘導された化合物が好ましく用いられる。
アルコールとしては、炭素数1〜30の天然および合成の任意の一価アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソアミルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、イソトリデシルアルコール、イソセチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコールなど)、二価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコールなど)および三価以上のアルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ソルビトールなど)が挙げられる。
炭素数2〜4のアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド(以下EOと略記)、1,2−プロピレンオキサイド(以下POと略記)、1,2−ブチレンオキサイド(以下BOと略記)、テトラヒドロフラン(以下THFと略記)などが挙げられる。EOと他のアルキレンオキサイドとを共重合する場合、EOの比率は50〜80重量%であることが必要である。EO比率が50重量%未満では粘度が高くなりすぎ、80重量%を越えると耐熱性が乏しくなる。また、付加様式はランダム付加、ブロック付加のいずれでもよい。前記平滑剤の平均分子量は、平滑性および耐熱性の点で500〜20,000の範囲が好ましく、1,000〜10,000の範囲がより好ましい。
これら平滑剤の含有量は、油剤全体に対し55重量%以上に調整し、その他の成分としてイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、糊特性向上剤、制電剤、pH低下防止剤、耐水剤を適宜添加すればよい。
また、紡糸油剤は繊維全体に対して0.1〜3.0重量%付着されていることが好ましい。油剤の付着量を0.1重量%にすることで、上記特性が効果的に発揮される。一方、油剤の付着量が3重量%を越えると仮撚ヒーターやロール、施撚体の汚れがひどくなる。より好ましくは0.2〜2.0重量%であり、さらに好ましくは0.3〜1.0重量%である。
本発明で好ましく用いられる油剤は、ストレートで糸条に付着させてもよいが、より均一に付着させるために水に5〜50重量%、好ましくは5〜30重量%分散させてエマルジョン油剤として繊維に付着させることが好ましい。
交絡ノズル11は図1に示すように紡糸線上に設置してもよいし、ゴデットロール間または巻取機前に設置してもよい。交絡度を高くしたい場合は糸条張力の低いゴデットロール間や巻取機前に設置することが好ましく、交絡度を低くしたい場合は紡糸線上に設置することが好ましい。
また、芯鞘複合界面の接着性を向上させるためには、紡糸速度(図3では第1ゴデットロール12の周速度)が重要な条件となる。芯部を構成する脂肪族ポリエステルと、鞘部を構成する結晶性ポリエステルとは、比較的親和性がよく、さらに相溶化剤を添加することによって、より界面接着性を向上させることができる。さらに、本発明者らの検討によって、紡糸速度を高くすることで接着性が向上することがわかった。この機構はまだ明らかではないが、高速紡糸することにより紡出糸の細化がより口金面に近い高温領域で起こるため、芯鞘成分間の構造歪みの差が小さくなること、さらには伸長配向により安定した繊維内部構造を形成するためであると考えている。したがって、好ましい紡糸速度は2000m/以上、より好ましくは2500m/分以上、さらに好ましくは3000m/分以上である。一方、紡糸での工程安定性を考慮すると、紡糸速度は7000m/分以下であることが好ましい。上記範囲の紡糸速度で未延伸糸を製造することにより、未延伸糸の伸度は40〜180%となり、仮撚加工を行っても界面剥離を起こすことなく、良好な染色性を有する捲縮糸とすることができる。
また、本発明の複合繊維からなるマルチフィラメントは、鞘部BにPTTを用いた場合には、繊維内部歪が緩和(収縮)するためチーズ状パッケージに巻いた場合はサドル(耳立ち)やバルジ(ふくらみ)が発生しやすい。サドルやバルジが大きいと、パッケージの梱包が煩雑になるばかりか、解舒性が低下して工程通過性が低下する。そのため、サドルは6mm以下に、バルジ率は10%以下に抑えることが好ましい。より好ましくはサドルは0〜4mm、バルジ率は0〜6%である。
サドルやバルジを解消するためには、溶融紡糸し、巻き取るまでの間に繊維内部歪みを取り除く必要があるが、その方法としては弛緩状態で巻き取ることが有効である。また、そのときの巻取張力(最終ゴデットロールと巻取機との間の張力)は、逆巻きを防止するために0.04cN/dtex以上にすることが好ましく、繊維内部構造の歪みを解放するためには0.15cN/dtex以下にすることが好ましい。より好ましい巻取張力は0.05〜0.12cN/dtex、さらに好ましくは0.06〜0.1cN/dtexである。また、ローラーベイルもしくはドライブロールがパッケージに接触している線長に対する荷重(パッケージに対する圧力に相当。以下、面圧と称する)は、6〜30kg/mの範囲にすることが好ましい。面圧を6kg/m以上にすることで、パッケージに適度な硬度を与え、パッケージ崩れやサドルを抑制することができる。また、面圧を30kg/m以下にすることで、パッケージの潰れや、バルジを抑制することができる。より好ましい範囲は7〜22kg/m、さらに好ましくは8〜16kg/mである。また、綾角は5〜10°の範囲にすることで、パッケージ端面の糸落ちを抑制しつつ、高速解舒においても安定した解舒張力が得られるとともに、端面部への糸崩れを抑えることができる。より好ましくは5.5〜8°であり、さらに好ましくは5.8〜7°である。また、リボンを抑制するために綾角を変化させることが重要である。その手段として、綾角をある範囲(中心値±1.5°以内)で揺動させたり、ワインド比(スピンドル回転数とトラバース周期の比)が一定になるようにすることが好ましい。また、リボン発生帯領域で急激に綾角を変化させる方法も好ましく用いられ、これらの方法を組み合わせて行ってもよい。また、一般に脂肪族ポリエステルは曲げ剛性が低く、弾性体としての挙動が強いため、トラバース時における折り返しで、糸条を十分に追従させる工夫が必要となる。そのため、高速追従性の高い1軸〜3軸の羽根トラバース方式や、糸把持性の良好なマイクロカムトラバース、フリーレングスを短尺化できるスピンドルトラバースが好ましく用いられる。それぞれの特性を活かし、巻取速度2000〜4000m/分ではマイクロカムトラバース方式を、巻取速度が4000m/分を越える場合は1軸〜3軸の羽根トラバース方式を用いることがより好ましい。
巻取時の駆動方式は、ドライブローラーによる従動駆動が一般的であるが、スピンドル駆動方式や、さらに巻取機のローラーベイルを強制駆動する方法が好ましく用いられる。ローラーベイルを強制駆動する場合のパッケージ表面速度に対するローラーベイル速度は、常に0.05〜1%オーバーフィードする様に制御してリラックス巻取することにより、パッケージフォームを良好にすることができる。
次に、好ましい仮撚加工法を図5をもって説明する。まず、チーズ14から糸条15を引き出し、糸道ガイド16〜18を介して供給ローラー19に供給する。その後糸条15は施撚体23により撚りを施されながら第1ヒーター20にて熱処理され、糸道ガイド21を通して冷却板22にて構造固定される。このとき、冷却板22〜施撚体23の間で測定した張力を加撚張力(T1)とし、施撚体23〜延伸ローラー24までの間で測定した張力を解撚張力(T2)とした。構造固定された糸条15は延伸ローラー24を介して第2ヒーター25へと供給され、その後デリベリローラー26を介して糸道ガイド27、28を経て捲縮糸パッケージ29として巻き取られる。なお、第2ヒーター25は、用途に応じ、低収縮化が必須の場合に入れればよい。また、図5の装置には必要に応じ各種ガイド、張力制御装置、流体処理装置、給油装置などを配置すればよい。
第1ヒーター20の温度は90〜150℃の範囲であることが好ましい。第1ヒーターの温度が90℃以上であると、得られる捲縮糸を熱セットすることができ、捲縮特性(CR)、収縮特性(SW)共に優れたものが得られる。一方、150℃以下にすることで、第1ヒーター上での糸の軟化や強度低下を起こすことなく、良好な力学特性及び品位の捲縮糸が得られる。第1ヒーター20の温度は、上記理由から100〜145℃がより好ましく、110〜140℃であれば更に好ましい。
また、第1ヒーター20が非接触式であると、擦過抵抗による糸切れを抑制できるため、より好ましい。非接触ヒーターを第1ヒーター20に用いた場合は、ヒーター温度は150〜350℃であることが好ましい。第1ヒーター20の温度を150℃以上にすることで、本発明の捲縮糸の捲縮特性(CR)と収縮特性(SW)を同時に満足することができる。一方350℃以下にすることで、糸切れせずに安定して仮撚加工を行うことができる。よって、非接触式の場合ヒーター温度は160〜330℃がより好ましく、170〜300℃であればさらに好ましい。
また、仮撚加工での供給ローラー19と延伸ローラー24の速度比、すなわち加工倍率は、1.1〜1.8倍であることが好ましい。加工倍率が1.1倍以上であると、仮撚加工における加撚張力(T1)を高め、第1ヒーター20内での糸条に高い撚数を与えるため、捲縮特性(CR)に優れた捲縮糸となる。また、加工倍率を1.8倍以下にすることで、安定した仮撚加工を施すことが可能となり、毛羽の少ない品位に優れた捲縮糸を得ることができる。加工倍率はより好ましくは1.15〜1.7倍、更に好ましくは1.2〜1.6倍である。
また、高次工程において低い熱収縮率(SW)が要求される用途においては、前記した様に第2ヒーター25を設けることが必要となる。このとき、第2ヒーター25の温度は80〜140℃であることが好ましい。捲縮糸の熱収縮率(SW)は、第2ヒーターの温度設定と、後述するオーバーフィード率(以下、OF率1と記載)とにより制御することが可能であるが、第2ヒーター温度が80℃未満ではその効果は小さい。また、140℃以下にすることで、糸切れなく安定して加工することができる。また、同時に第2ヒーターの温度とOF率1の最適化により残留トルクを低く抑えることが可能となる。第2ヒーターの温度は90〜130℃であることがより好ましく、95℃〜120℃であればさらに好ましい。
また、下式より求まる前記OF率1は、10〜30%であることが好ましい。
OF率1(%)=(V1−V2)/V1×100
V1:延伸ローラー24の周速度
V2:デリベリローラー26の周速度
OF率が10%以上であれば得られる捲縮糸の熱収縮率(SW)を低下させ、寸法安定性を向上させることができるとともに、残留トルクを低下させ、さらには巻き取られた捲縮糸の遅延回復率を低下させることが可能となる。一方、OF率が30%以下であれば、ヒーターとの接触による糸切れや単繊維間融着を防止し、糸条の走行安定性を向上させることができる。OF率は12〜25%であればより好ましく、15〜20%であれば更に好ましい。
また、施撚体23の周速度(D)と、延伸ローラー24の速度(Y)の比(以下、D/Yと記載)は1.1〜2.0の範囲とすることが好ましい。D/Yを1.1以上にすることで、加撚張力と解撚張力のバランスがよく、毛羽、糸切れの無い仮撚加工を行うことができる。またD/Yを2.0以下にすることで、施撚体23の表面摩耗が抑制され、数百時間に及ぶ連続運転においても糸長手方向の斑がなく、糸の削れや、毛羽、糸切れのない仮撚加工が可能となる。D/Yはより好ましくは1.15〜1.8であり、さらに好ましくは1.2〜1.7である。
また、仮撚加工に施撚体22としてベルトニップ型摩擦仮撚具を好ましく用いることもできる。ベルトの回転方向に水平なベルト回転軸と、糸条が走行する方向に水平な糸条走行軸とのなす角度を2倍した角度(交差角度と呼ぶ)は特に限定されるものではないが、90〜120°の範囲であれば糸条に効率的に撚りを加えることができ、更にはベルトそのものの摩耗も低く抑えることが可能となるため好ましい。さらに、表面材質は特に限定されるものではないが、クロロピレンラバーやニトリルブチレンラバーを好ましく使用することができる。このときニトリルブチレンラバーであれば耐久性やコスト、柔軟性の点からより好ましい。また、ベルトニップ型摩擦仮撚具の表面硬度は60〜80度であればポリ乳酸の断面変形を低く抑え、糸条の削れを抑制することができ、ベルト本体の摩耗も改善されるためより好ましく、65〜75度の範囲であれば更に好ましい。
本発明の捲縮糸の製造方法において、デリベリローラー26のオーバーフィード率(以下、OF率2と記載)はOF率1の設定により適宜最適化する必要がある。第2ヒーターを用いず、弛緩熱処理を行わない場合はOF率2は高く設定することが必要であり、概ね10〜35%が好ましい。また、第2ヒーターを用い、弛緩熱処理を行った場合は、OF率2は0〜25%が好ましい。OF率2は、デリベリローラー26とチーズ29との間で糸条が弛むことなく、安定して巻き取ることができればよく、糸条張力が0.02〜0.10cN/dtexになる様に巻き取ることで、巻き取り糸の遅延回復率を低下させ、巻き締まりによる繊維物性の内外層差を低減できる。さらに、サドルやバルジを抑え、良好な巻き姿のパッケージが得られる。
OF率2(%)=(V2−V3)/V2×100
V2:デリベリローラーの周速度
V3:巻取周速度
上記方法にて得られた捲縮糸は、高次工程での工程通過性、例えば織編用に供する場合には繊維と糸道ガイド、編み針等との擦過をできるだけ抑制するため、追油を行うことが好ましい。適用する油剤としては、繊維−金属間摩擦係数の低減効果の高い平滑剤を含有した油剤を用いることが好ましい。例えば脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油等が好ましい。また、これらの平滑剤は単一成分で用いてもよいが、集束性や制電性、耐熱性を考慮して複数の成分を混合して用いるとよい。より好ましい平滑剤としては、脂肪酸エステルや鉱物油が選択できる。脂肪酸エステルは、特に限定されるものではないが、例えば、メチルオレート、イソプロピルミリステート、オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソトリデシルステアレート等の一価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルアジペート等の一価のアルコールと多価のカルボン酸のエステル、エチレングリコールジオレート、トリメチロールプロパントリカプリレート、グリセリントリオレート等の多価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ラウリル(EO)nオクタノエート等のアルキレンオキサイド付加エステル等が挙げられる。これら平滑剤の含有量は、油剤全体に対し55〜95重量%に調整し、その他の成分としてイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、浸透剤、表面張力低下剤、転相粘度低下剤、糊特性向上剤、制電剤、pH低下防止剤、耐水剤を適宜添加すればよい。
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
B.極限粘度[η]
オルソクロロフェノール(以下OCPと略記する)に試料ポリマを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて複数点の相対粘度ηrを求め、それを無限希釈度に外層して求めた。
C.融点
Perkin elmer社製DSC−7を用いて2nd runで融点を測定した。この時、試料重量を約10mg、昇温速度を10℃/分とした。
D.トータルカルボキシル末端濃度
精秤した試料をo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマーのカルボキシル基末端およびモノマー由来のカルボキシル基末端、オリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度が求まる。
E.残存ラクチド量
試料1gをジクロロメタン20mlに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加する。さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、島津社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線にてラクチド量を求めた。
F.結晶性ポリエステル皮膜の厚さ
捲縮糸を包埋材で固定して切片を切り出し、脱包埋後、光学顕微鏡で拡大して写真撮影し、同一倍率で撮影したスケールを用いて鞘部の厚みを計測した。なお、鞘部の厚さが均一な場合は等間隔に測定した3ヶ所の値の平均を、不均一な場合は最も薄い部分をその試料の皮膜の厚さとした。
G.強度および伸度
JIS L1013の化学繊維フィラメント糸試験方法(1998年)に準じて測定した。なお、つかみ間隔は200mm、引張速度は200mm/分として荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度として強度および伸度を求めた。なお、測定時の温度は室温下(25℃)及び高温下(90℃加熱炉内で伸長)の2条件で実施した。
H.沸騰水収縮率
沸騰水収縮率(%)=[(L0−L1)/L0)]×100(%)
L0:試料をカセ取りし、初荷重0.09cN/dtex下で測定した原長
L1:L0を測定したカセを荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、1昼夜風乾後、初荷重0.09cN/dtex下でのカセ長
I.糸斑U%
Zellweger uster社製UT4−CX/Mを用い、糸速度:200m/分、測定時間:1分間でU%(Normal)を測定した。
J.サドル及びバルジ率
5kg巻きパッケージにおいて、に示す未延伸糸パッケージの中央部の巻厚L1と、端面部の巻厚L2を測定し、L2からL1を引いた値をサドルの大きさとした。また、図2に示す未延伸糸パッケージの最内層の巻き巾L3及び、最大巻き巾を示すL4を測定し、次式によってバルジ率を算出した。
バルジ率(%)=[(L4−L3)/L3]×100
K.CR値
捲縮糸をカセ取りし、実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L0を測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当のカセを除き0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L1を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
CR(%)=[(L0−L1)/L0]×100(%)
L.遅延回復率(%)
巻き取り直後のパッケージから糸条を0.03cN/dtexの張力で検尺機にて20回巻回してカセ取りした後、10秒以内に0.015cN/dtexになるように荷重をかけ、1週間放置した時のカセ長L3を測定する。ついで荷重を取り除き、24時間放縮させた後、0.015cN/dtexになるように荷重をかけ、そのときのカセ長L4を測定する。このようにして測定された二つのカセ長L3とL4から、次式によって遅延回復率を算出する。なお、上記測定は全て、室温25±3℃環境下で実施した。
遅延回復率(%)=[(L3−L4)/L3]×100
M.伸縮伸長率
JIS L1090の合成繊維フィラメントかさ高加工糸試験方法(1998年)、5.7項C法(簡便法)に従い、図6に示す方法にて熱処理を行い、以下に示す式にて伸縮伸長率および伸縮弾性率を定義した。
伸縮伸長率(%)=[(L1−L0)/L0]×100%
伸縮弾性率(%)=[(L1−L2)/(L1−L0)]×100%
L0:繊維カセに1.8×10-3cN/dtex荷重を吊した状態で90℃熱水処理を20分間行い、1昼夜風乾した後のカセ長
L1:L0 測定後、L0測定荷重を取り除いて90×10-3cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長
L2:L1測定後、L1測定荷重を取り除いて2分間放置し、再び1.8×10-3cN/
dtex荷重を吊して30秒後のカセ長
N.残留トルク
捲縮糸に解舒撚り及び撚り戻りが発生しないように、セラミック製の棒ガイドを支点にV字に折り曲げ、その総試料長が1mとなるように、両上端を0.059cN/dtexの荷重下にて固定する。棒ガイドの試料部分に0.003cN/dtexの微荷重を掛け、棒ガイドから試料を取り外し、懸垂状態のまま自己旋回させる。旋回が停止したら検撚機にて検撚を行い、旋回数を測定した。試験回数を5回とし、その平均値を2倍することで試料1m当たりの残留トルクを求めた。
O.アイロン耐熱性試験
およそ84dtexの試料を経糸及び緯糸として織密度110×90本/インチ(2.54cm)で平織物に製織し、140℃テンターで生機セット、次いで精練を行い織物を得た。この織物を分散染料Dianix Black BG−FS200 1%owf濃度で110℃×60分間染色後、グランアップINA−5 2g/リットル(三洋化成製)及び炭酸ナトリウム0.5g/リットルの濃度で80℃×20分ソーピング処理し、130℃で仕上げセットした。
得られた染色布について、三洋電機(株)社製のスチームアイロンA−1Fを用い、アイロン表面温度が所定の温度に達したら布帛にアイロン自重(面圧約8g/cm2)で10秒間プレスし、プレス後の外観変化を評価した。
「変化なし」が「◎」、「若干のアタリ有」が「○」、「明確なアタリ有」が「△」、「繊維間で部分的に融着が発生」が「×」、「溶融による穴あき」が「××」とした。
P.染色堅牢度試験
L項と同様にして得られた染色布を洗濯に対する染色堅牢度JIS L0844(1998年)及びカーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験JIS L0842(1998年)に準じて級判定を行った。
Q.摩擦に対する染色堅牢度試験
L項と同様にして得られた染色布をJIS L0849(1998年)に準じて摩擦試験機II形(学振形)を用いて処理し、乾燥試験、湿潤試験それぞれについて5段階で級判定を行った。
実施例1
重量平均分子量16.5万、融点170℃、残留ラクチド量0.085重量%のポリL乳酸(光学純度97%L乳酸)に相溶化剤として(株)日清紡製ポリカルボジイミド“カルボジライト”HMV−8CAを1重量%添加、混合して芯部Aとし、平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%含有した極限粘度[η]0.92のPTT(融点228℃)を鞘部として、図3に示す紡糸機を用いてそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度250℃で図4に示す構造を有する口金装置(吐出孔直径0.25mm/孔深度0.75mm)を用い、芯鞘複合比(重量%)55:45で吐出した。溶融から吐出までの滞留時間は芯成分が約18分、鞘成分が約11分であった。吐出後の糸条は冷却チムニー7によって0.5m/秒の冷却風で冷却・固化され、口金下2mの位置で給油装置9で集束させながら油剤を付与され、交絡ノズル10にて作動圧空圧0.2MPaにて交絡を施し、周速度3000m/分の第1ゴデットロール11及び12にて引き取り、105デシテックス、36フィラメントの芯鞘複合構造の未延伸糸を5kg巻いたチーズパッケージとした。なお、巻取機13の周速度は約2940m/分とし、巻取張力が常に0.08cN/dtexになるように周速度を可変させた。巻き取り時の面圧は10kg/mとし、綾角は6°とした。また、紡糸油剤には平滑剤として重量平均分子量2000のポリエーテルを70重量%、重量平均分子量6000のポリエーテルを8重量%、エーテルエステルを12重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を10重量%として調整し、さらにこの油剤を濃度10重量%になるように水エマルジョンとして調整し、純油分として繊維に約0.8重量%付着させた。紡糸性は良好であり、未延伸糸50kgのサンプリングで糸切れは発生しなかった。また、パッケージのサドルは4mm、バルジは5%であり、良好なフォームであった。
さらに該未延伸糸を図5に示す3軸ツイスター(11枚構成、糸の供給方向から数えて第1、第2、第11番目をセラミックディスク、その他をウレタンディスクで構成)を備えた仮撚機を用いて加工速度500m/分、加工倍率1.45倍、第1ヒーター温度130℃、D/Y比1.35で延伸仮撚し、引き続き第2ヒーター温度120℃、OF率15%にて弛緩熱処理し、デリベリローラー出口のOF率を1%として84デシテックス、36フィラメントの捲縮糸を巻き取った。糸掛け性、工程通過性は良好であり、糸切れは発生しなかった。また、得られた糸の捲縮特性を示す伸縮復元率(CR)は30%、伸縮伸長率は50%であり、力学特性、捲縮特性ともに良好な仮撚加工糸が得られた。該仮撚加工糸についてアイロン耐熱性および耐摩耗性を評価したところ、極めて優れた特性を有していた。得られた糸の断面形状は図1(a)に示す円形状であり、鞘部の皮膜厚さは1.2μmであった。
また、実施例1の強度は2.8cN/dtex、残留伸度40%、U%(ノーマルテスト)0.6%、沸騰水収縮率4.8%、遅延回復率1.3%であった。また、得られた糸の捲縮特性を示す伸縮復元率(CR)は30%、伸縮伸長率50%、残留トルクは75T/mであり、極めて優れた力学特性を示すと共に、高い嵩高性、伸縮性、形態安定性を有していた。さらに織物にしたときのアイロン耐熱性は200℃でも表面変化がなく、極めて良好な耐熱性を示した。また、摩擦に対する染色堅牢度試験においても乾燥、湿潤ともに4級であった。
前記のごとく、実施例1は捲縮糸の力学的特性、及び布帛の耐熱性、耐摩耗性ともに十分実用に耐える特性を示しており、衣料用途に好適に用いることができる。
実施例2、実施例3および実施例4
芯鞘複合比率を70/30、80/20、及び88/12にした以外は実施例1と同様の方法で評価した。鞘の複合比率が30%の実施例2の皮膜厚さは1.2μmであり、アイロン耐熱性は200℃まで変化がなく、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに4級と実施例1と同様、優れた特性を示すと共に、捲縮特性も優れたものであった。また、鞘の複合比率が20%の実施例3の皮膜厚さは0.8μmであり、アイロン耐熱性は180℃まで変化がなく、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥3級、湿潤4級と十分実用に耐えうる耐熱性および耐摩耗性を示した。また、鞘の複合比率が12%の実施例4の皮膜厚さは0.45μmであった。アイロン耐熱性は160℃では変化がなく、200℃でも若干のアタリがみられる程度であった。また、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥3級、湿潤4級であり、実施例1と比較すると低いが、インナーやカーテン等、耐摩耗性があまり要求されない用途であれば展開可能なレベルであった。
比較例1
芯鞘複合比率を92/8にした以外は実施例1と同様の方法で評価した。比較例1の皮膜厚ささは0.3μmであった。強度や糸斑U%等は良好な値を示すが、アイロン耐熱性は160℃で若干のアタリがあり、180℃では繊維の変形により目立ったアタリが発生して面光沢が強い外観になるとともに、粗硬感のある風合いとなってしまった。また、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに2級であり、実用性に乏しいものであった。
比較例2
芯鞘複合比率を100/0(ポリL乳酸単独)にした以外は実施例1と同様の方法で評価した。比較例2は強度や糸斑U%等は良好なものの、アイロン耐熱性試験では160℃で部分的に融着が発生し粗硬感の強い風合いになるとともに、180℃では溶融して穴が開いてしまった。また、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥、湿潤ともに1級であり、実用性に乏しいものであった。
実施例5
極限粘度[η]0.88のポリブチレンテレフタレート(融点224℃)を鞘部に用いた以外は実施例2と同様の方法で評価した。実施例5は紡糸性、延伸性ともに良好であり、50kgの製糸でも糸切れは発生しなかった。また、強度や糸斑U%は良好であるが、捲縮特性は実施例2対比、やや劣るものであった。また、アイロン耐熱性は180℃まで変化がなく、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥3級、湿潤4級と十分実用に耐えうる耐熱性及び耐摩耗性を示した。
実施例6
鞘部にIPAを9mol%含有した共重合PET(融点230℃)を用いた以外は実施例2と同様の方法で評価した。実施例6は紡糸性、延伸性ともに良好であり、50kgの製糸でも糸切れは発生しなかった。また、強度や糸斑U%は良好であるが、捲縮特性は実施例2対比やや劣るとともに、沸騰水収縮率が高いものであった。アイロン耐熱性は180℃まで変化がなく、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥3級、湿潤4級と十分実用に耐えうる耐熱性及び耐摩耗性を示した。
実施例7
鞘部にDuPont社製生分解性ポリエステル“Biomax”4027(融点237℃)を用いた以外は実施例2と同様の方法で評価した。実施例6は紡糸性、延伸性ともに良好であり、50kgの製糸でも糸切れは発生しなかった。また、強度や糸斑U%は良好であるが、嵩高性や伸縮性が劣るため、用途が限定されるものであった。アイロン耐熱性は200℃でも変化がなく、摩擦に対する染色堅牢度は乾燥3級、湿潤4級と十分実用に耐えうる耐熱性及び耐摩耗性を示した。
比較例3
鞘部にDuPont社製生分解性ポリエステル“Biomax”4024(融点199℃)を用いた以外は実施例2と同様の方法で評価した。比較例3は紡糸性、延伸性ともに良好であり、50kgの製糸でも糸切れは発生しなかった。また、強度や糸斑U%も良好であった。しかしながらアイロン耐熱性試験では160℃でアタリにより面光沢が強い外観となり、実用性に乏しいものであった。
実施例8
実施例2で用いた重量平均分子量16.5万、融点170℃、残留ラクチド量0.085重量%のポリL乳酸(光学純度97%L乳酸)と、重量平均分子量20万のポリD乳酸(光学純度97%D乳酸、融点170℃)とを1:1の重量比率でチップブレンドして2軸押出混練機で240℃で溶融混練し、引き続いて紡糸機内に設けた静止混練器(東レエンジニアリング社製“ハイミキサー”10段)を通過させてから紡糸パックに導き、芯成分とした以外は実施例2と同様の方法で評価した(相溶化剤は無添加)。実施例8の試料は、DSCにおいてダブルピークの融点が検出された。ひとつは融点228℃近傍のピークであることからPTT結晶の融解ピークであり、もうひとつは融点220℃のポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶の融解ピークであると推定される。また、実施例8は実施例2と比較して強度がやや低いものの、捲縮特性、アイロン耐熱性及び摩擦に対する染色堅牢度ともに優れた特性を示した。
実施例9
芯成分に相溶化剤を含有させなかったこと以外は実施例2と同様の方法で評価した。実施例8は200℃のアイロン耐熱性試験において若干のアタリが発生した。また、耐摩耗性は実施例2よりはやや劣るものの、実用上問題のないレベルであった。
実施例10
芯成分に重量平均分子量16.5万、融点155℃、残留ラクチド量0.15重量%のポリL乳酸(光学純度91%L乳酸)に相溶化剤として(株)日清紡製ポリカルボジイミド“カルボジライト”HMV−8CAを1重量%添加、混合して芯部Aとした以外は実施例2と同様の方法評価した。実施例10の試料は160℃のアイロン耐熱性試験では若干のアタリが生じる程度であったが、180℃及び200℃では明瞭なアタリが発生しており、高温でのアイロン掛けはできないものであった。また、捲縮糸の力学特性、捲縮特性ともに実施例2対比やや劣るものであったが、耐摩耗性は実施例2同様、優れた特性を示した。
実施例11
鞘成分に平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%含有した極限粘度[ηr]1.35(重量平均分子量8.5万)のPTT(融点227℃)を用いた以外は実施例2と同様の方法で評価した。実施例11は捲縮特性は優れるものの、実施例2対比、強度が低く、糸斑U%も大きいものであった。また、200℃アイロン耐熱性試験において若干のアタリが発生するとともに、耐摩耗性は実施例2よりもやや劣るものであった。
比較例4
仮撚加工での第1ヒーター温度を75℃とした以外は実施例2と同様の方法で評価した。
比較例4は力学特性に優れるとともに、アイロン耐熱性、耐摩耗性ともに実用性のあるレベルであったが、伸縮復元率が9%と低く、嵩高性がほとんどないものであった。
比較例5
仮撚加工で第2ヒーターを通さず、OF率1を0%(定長)とした以外は実施例2と同様の方法で評価した。比較例5は遅延回復率が6.7%高いため、巻き取ったチーズパッケージが巻締まりにより変形して解舒性が悪いものであった。また、力学特性、アイロン耐熱性、耐摩耗性ともに実用性のあるレベルであったが、沸騰水収縮率が22%と高く、嵩高度も低いために織物にした際に粗硬感のあるペーパーライクなものしか得られなかった。
実施例12
仮撚加工での加工倍率を1.60倍とした以外は実施例2と同様の方法で評価した。実施例12は力学特性、嵩高性ともに優れた特性を示したが、残留トルクが205T/mと高いために該捲縮糸を単糸使いで織物を製造すると斜行が生じてしまうため、双糸使いに限定されるものであった。
実施例13
紡糸パック内の配管径を変更し、芯成分の滞留時間を40分とした以外は実施例2と同様の方法で評価した。実施例13はアイロン耐熱性および耐摩耗性は優れるものの、生機の色調がやや黄味の強いものであり、L*a*b*表色系におけるb*値も5.2であった。また、染色後の色調がくすんでおり、鮮明性の点で実施例2よりも劣り、衣料用では色限定されるものであった。
実施例14
第1ゴデットロール及び第2ゴデットロール周速度を1000m/分とし、巻取速度を995m/分で巻き取って未延伸糸の構成が174デシテックス、36フィラメントになるようにした以外は実施例2と同様の紡糸条件に準じた。さらに該未延伸糸を加工倍率2.4倍とした以外は実施例2と同様の条件で仮撚加工を行い、84デシテックス、36フィラメントの捲縮糸を得た。実施例14は仮撚時の加工張力が安定しないために頻繁に糸切れが発生した。また、得られた糸は力学特性、捲縮特性、アイロン耐熱性、耐摩耗性ともに実施例2対比、劣っており、用途がかなり限定されるものでしかなかった。
実施例15
第1ゴデットロール及び第2ゴデットロール周速度を2000m/分とし、巻取速度を1970m/分で巻き取って未延伸糸の構成が130デシテックス、36フィラメントになるようにした以外は実施例2と同様の紡糸条件に準じた。さらに該未延伸糸を加工倍率1.8倍で仮撚加工し、84デシテックス、36フィラメントの捲縮糸を得た。実施例15の試料は実施例14よりも力学特性、捲縮特性ともに優れるとともに、アイロン耐熱性、耐摩耗性ともに実用上問題のないレベルであった。
実施例16
第1ゴデットロール及び第2ゴデットロール周速度を4000m/分とし、巻取速度を3900m/分で巻き取って未延伸糸の構成が98デシテックス、36フィラメントになるようにした以外は実施例2と同様の紡糸条件に準じた。さらに該未延伸糸を加工倍率1.35倍で仮撚加工し、84デシテックス、36フィラメントの捲縮糸を得た。実施例16の試料は実施例2と同様、力学特性、捲縮特性、アイロン耐熱性、耐摩耗性の全てにおいて優れた特性を示すものであった。
実施例17
第1ゴデットロール及び第2ゴデットロール周速度を5000m/分とし、巻取速度を4875m/分で巻き取って未延伸糸の構成が90デシテックス、36フィラメントになるようにした以外は実施例2と同様の紡糸条件に準じた。さらに該未延伸糸を加工倍率1.25倍で仮撚加工し、84デシテックス、36フィラメントの捲縮糸を得た。実施例17の試料は糸斑U%が1.5%と若干悪いものの、実施例2と同様、力学特性、捲縮特性、耐摩耗性ともに優れていた。また、アイロン耐熱性は200℃で若干のアタリはあるものの、十分実用性のあるものであった。