JP4254368B2 - ポリ乳酸捲縮糸の製造方法、並びにカーペット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、先染め用ポリ乳酸捲縮糸の製造方法並びにカーペットに関する。更に詳しくは、該先染め用ポリ乳酸捲縮糸をチーズ状またはカセ状で染色した時に、強力の低下が少ないポリ乳酸捲縮糸の製造方法、並びに嵩高性に優れかつ耐摩耗性や耐ヘタリ性等の耐久性を有するカーペットに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリ乳酸繊維は、生分解性を有し、かつ非石油系原料から得られる繊維として、衣料用およびインテリア用繊維として有用されつつある。特に、従来のナイロンやポリプロピレン捲縮糸のような捲縮特性が得られれば、カーペット用途に広く拡大する素材として期待されている。
【0003】
すなわち、従来のポリ乳酸捲縮糸をカーペットに用いると、嵩高性に劣り、摩耗し易くかつヘタリ易いという欠点があり、限られた用途にしか実用できなかった。これは、ポリ乳酸捲縮糸の強力や捲縮特性がナイロンやポリプロピレン捲縮糸に比べ劣ることに加え、特に染色時に大幅な強力低下や捲縮特性低下があるため、タフトされたカーペットは嵩高性に劣り、摩耗し易くかつヘタリ易く、耐久性に劣るからであった。
【0004】
ポリ乳酸繊維の染色は、通常のポリエステル繊維と同様100℃以上、通常は110〜130℃での加圧高温染色が適用される。このため、主としてナイロンタフテッドカーペットで行われているような常圧の連続染色を行うことができず、一般に捲縮糸をチーズ状やカセ状で染色するバッチ式先染め染色が適用される。
【0005】
通常、ポリエステルやポリプロピレン捲縮糸のように染色し難い捲縮糸は、予め着色顔料をポリマに混ぜて溶融紡糸して得られる原着捲縮糸が製造される。ポリ乳酸繊維も同様にして原着捲縮糸を製造することができ、この場合は前記染色に伴う問題はない。しかし、ポリ乳酸繊維は染色すると発色性が良く、かつ光沢が良いという優れた特徴があるため、審美性、意匠性が評価されるカーペット用途では、染色した捲縮糸、即ち先染め捲縮糸を用いてカーペットを作りたいとの要望が強くある。従って、染色時の捲縮糸特性の低下を防ぎ、カーペットとした時の嵩高性と耐久性を改善したポリ乳酸捲縮糸の開発が要請されていた。
【0006】
ポリ乳酸捲縮糸およびそれを用いたカーペットとその製造法に関して、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4が開示されている。
【0007】
特許文献1は、カーマットやカーペットへの使用に適した嵩高性を有し、かつ生分解性能を有する、嵩高性を有する生分解性繊維及びその製造方法を課題とし、その解決手段として、各フィラメントがランダム方向に屈曲、あるいは互いに絡み合い、ループやタルミを有し、かつフィラメントの捲縮率が5〜20%の嵩高性を有する生分解繊維、およびその製造法、特に、延伸条件、および捲縮糸の加工条件等を特定した製造法について述べている。
【0008】
特許文献2は、高光沢、高発色性で、触感に優れ、かつ自然環境中で容易に分解する、カーペット用に好適なポリエステルマルチフィラメント捲縮糸とカーペットを提供することを課題とし、その解決手段として、融点が130℃以上の脂肪族ポリエステルからなるマルチフィラメント捲縮糸であって、該マルチフィラメント捲縮糸の沸騰水処理後の捲縮伸長率が3〜35%、平均単糸繊度が3〜35デシテックス、単糸横断面が4〜8葉断面である脂肪族ポリエステルマルチフィラメント捲縮糸と、該マルチフィラメント捲縮糸から構成されるカーペットについて開示している。
【0009】
特許文献3は、バルキー性と耐摩耐久性に優れ、かつ良好なカバーリング性によって軽量化を可能としたカ−ペットを与え得る脂肪族ポリエステル糸、およびこの脂肪族ポリエステル糸をフェースヤーンとして用いてなるカーペット等、特に自動車用としての優れた性能を有するカーペットを提供する課題とし、解決手段として、融点145℃以上の脂肪族ポリエステルを溶融紡糸してなる中空断面単糸の集合体であって、総繊度が500〜5000デシテックスの脂肪族ポリエステルマルチフィラメントより構成され、前記中空断面単糸は、その外輪郭と中空部輪郭との間隔よりなる厚さが3μ以上であることを特徴とするカーペット用脂肪族ポリエステル糸フェースヤーンとして用いるカーペットについて開示している。
【0010】
特許文献4は、環境と調和した、生分解性を有するカーペットを提供することを課題とし、解決方法として、カーペットの使用に適した嵩高性を有し、かつ生分解性能を有する生分解性繊維をパイルとして用い、さらに基布とバッキング材に生分解性を有する素材を使用したカーペットについて述べている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献4の技術には、従来のポリ乳酸捲縮糸およびそれを用いたカーペットの欠点、特に染色によって生ずる捲縮糸の強度や捲縮特性の低下と、それによるカーペットとしての嵩高性の欠如、耐摩耗性や耐ヘタリ性等の耐久性の改善については何も言及されてない。従って、カーペットの主力用途であって、嵩高性、耐ヘタリ性および耐摩耗性が必要とされる、例えばタイルカーペット、家庭用ロールカーペット、自動車用ラインマット、自動車用オプションマット等に満足して使用されるレベルではなかった。
【0012】
また、特許文献2の技術は、特殊な4〜8葉断面捲縮糸とすることによって、高光沢および好触感を有する高捲縮伸長率のポリ乳酸捲縮糸が得られるものの、耐久性の改善に関しては3デシテックス以上の単繊維繊度とすること、嵩高性およびバルキー性の改善に関しては、沸騰水処理後の捲縮伸長率を3.0%以上とする以外具体的な提案はなされていない。そのため、耐久性や嵩高性の改善に関しては、従来のポリ乳酸捲縮糸およびそれを用いたカーペットに比べ、著しい改善は得られなかった。
【0013】
一方、特許文献3の技術は、バルキー性と摩耗耐久性に優れ、かつ良好なカバーリング性を有するカーペット用脂肪族ポリエステル糸および該糸をフェースヤーンとして用いたカーペットであって、その好ましい態様として、着色剤、特にカーボンブラック系着色剤を含有せしめた原着脂肪族ポリエステル捲縮糸およびそれを用いたカーペットについて開示している。確かに原着脂肪族ポリエステル捲縮糸とすることによって、染色時の強力低下や捲縮特性の低下等は防げるものの、ポリ乳酸繊維の特徴である発色性および光沢の良さを活かした審美性、意匠性に優れたカーペットは得られにくかった。
【0014】
【特許文献1】
特開2002−105752号公報
【0015】
【特許文献2】
特開2002−180340号公報
【0016】
【特許文献3】
特開2002−227036号公報
【0017】
【特許文献4】
特開2002−248047号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来のポリ乳酸捲縮糸およびそれを用いたカーペットの欠点、特に染色によって生ずる捲縮糸の強度や捲縮特性の低下と、それによるカーペットとしての嵩高性の欠如、耐摩耗性や耐ヘタリ性等の耐久性を改良したカーペットを提供することにある。
【0019】
即ち、本発明の課題は、嵩高性および耐摩耗性や耐ヘタリ性等の耐久性の改善された先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸およびそれを用いたカーペットを提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するために、本発明のポリ乳酸捲縮糸を用いたカーペットは、特性が以下の(1)〜(4)を同時に満足し、単繊維断面形状がY型断面、かつ変形度が1.5〜3.5であるポリ乳酸捲縮糸を、パイルとして用いたことを特徴とする。
(1)強度:1.3〜3cN/dtex
(2)捲縮伸長率:5〜10%
(3)捲縮潜在化率:85〜95%
(4)110℃×30分の加圧熱水処理後の強力保持率が85〜100%
【0021】
また、本発明の先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸の製造方法は、相対粘度10〜22のポリ乳酸ポリマを、紡糸温度210〜230℃で溶融紡糸して、300〜1000m/minの速度で引き取り、次いで延伸温度90〜160℃で2〜6倍に熱延伸し、得られた熱延伸糸を連続して、高圧の加熱流体中で捲縮加工を施した後に、糸条温度40〜60℃で3〜6%ストレッチすることを特徴とする。また、前記加熱流体が空気であることでより効果が期待できる。
【0022】
更に、先染めカーペットは前記のポリ乳酸捲縮糸をパイルとして用いたことを特徴とする。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸は、ポリ乳酸ポリマを製糸して捲縮加工処理し、次いでチーズ状またはカセ状で染色してカーペット用として用いる捲縮糸である。
【0024】
該ポリ乳酸捲縮糸の原料とするポリ乳酸ポリマは、L−乳酸および/またはD−乳酸を主成分とする乳酸を重合してなるポリ乳酸である。ここでL−乳酸を主成分とするとは、構成成分の60重量%以上がL−乳酸よりなっていることを意味しており、40重量%を超えない範囲でD−乳酸を含有するポリエステルである。L−乳酸の場合も同様である。更には、構成するポリマの分子鎖の全繰返し単位の80重量%以上、特に90重量%以上、より好ましくは95重量%以上が乳酸であるポリ乳酸であり、本発明の構成要件および目的を損なわない範囲であれば他のポリマのブレンド、共重合、添加物を含んでいても良い。
【0025】
また、本発明におけるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。あるいは、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを可塑剤として用いることができる。更には、通常合成繊維に用いられる艶消し剤、難燃剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。しかし、本発明の先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸およびそれを用いた先染めカーペットは、ポリ乳酸の生分解性および非石油系原料であるという特徴を活かし、環境に優しい製品として好ましい用途に用いるため、石油系ポリマのブレンド、該成分の共重合等は極力避け、また各種添加剤も、重金属化合物や環境ホルモン物質は勿論、現時点でその懸念が予想される化合物の一切を用いないものとする。
【0026】
本発明の先染めポリ乳酸捲縮糸を用いたカーペットとは、捲縮糸を予め染色した後、タフティングするカーペットを意味し、タフティング後に染色するカーペットは除かれる。
【0027】
即ち、ポリ乳酸捲縮糸は100℃以上のバッチ式加圧高温浴槽を用いないと染色できないため、ナイロンのようなタフティング後に連続染色をすることができない。また、タフティング後にバッチ式の染色、例えばウィンス式染色等を行うことはできるが、この場合でも100℃以上で染色できる加圧高温設備は少ないため、工業的には採用することが難しい。従って、本発明のポリ乳酸捲縮糸は予めチーズ状またはカセ状で染色してからタフティングする先染めカーペットとして用いることを前提とし、以下の特性を有することが重要である。
(1)強度:1.3〜3cN/dtex
(2)捲縮伸長率:5〜10%
(3)捲縮潜在化率:85〜95%
(4)110℃×30分の加圧熱水処理後の強力保持率が85〜100%
本発明のポリ乳酸捲縮糸は強度が1.3〜3.0cN/dtex、好ましくは1.5〜3.0cN/dtexである。強度が1.3cN/dtex未満であると、カーペットにした時に耐摩耗性が劣り、使用時に捲縮糸の一部がすり切れてしまうことがある。強度は高いほど好ましいが、3cN/dtexを越えるものは現在の技術では達成できていないことから、上限として3cN/dtexを設定した。
【0028】
捲縮伸長率は、詳細な測定法は後述するが、捲縮糸の嵩高性を示すパラメータであり、捲縮糸を沸騰水処理して捲縮を発現させ、その捲縮の程度を示した値である。この本発明において捲縮伸長率は5〜10%である。5%未満であると捲縮が不十分であり、カーペットとしての嵩高性が不足し、かつ耐ヘタリ性が劣り、カーペット使用時に荷重が繰り返し、又は長時間かかった部分が寝てしまうという問題を生ずる。一方、10%を越えるものは延伸および捲縮処理温度が高くなるため、捲縮糸の強度が低下し耐摩耗性が悪くなる。
【0029】
また、捲縮潜在化率は85〜95%、好ましくは90〜95%である。捲縮潜在化率が85%未満の場合は、染色時の捲縮特性の低下が大きく、染色後の捲縮糸の捲縮伸長率が得られない。一方、潜在化率が95%を超えると捲縮の発現が悪く、本発明の捲縮伸長率が得られない。
【0030】
更に、110℃×30分処理後の加圧熱水処理後の強力保持率が85〜100%であることが非常に重要である。これは染色後の糸物性に相当し、85%未満の保持率では染色後の捲縮糸の強度が低く、カーペットとした時に耐摩耗性が劣り、使用時に捲縮糸の一部がすり切れ易くなる。染色時の強力低下は、大部分がポリ乳酸捲縮糸の加水分解と繊維分子構造の変化によって起こるものと推定される。従って、これらの強力低下はポリ乳酸捲縮糸の繊維構造を安定に形成させておくことにより、相当部分防げるものと解釈される。
【0031】
また、上記強力保持率が低い場合は、チーズ状やカセ状で染色したポリ乳酸捲縮糸の品質バラツキが大きくなり易く、タフトカーペットとした時に捲縮斑によるタテスジや染色斑によるタテスジを発生し易いことが分かっており、できるだけ高いことが望ましい。
【0032】
更に、前記ポリ乳酸捲縮糸の単繊維断面形状がY型断面、変形度が1.5〜3.5であることでより本発明の効果が期待できる。なお、ここでいう変形度とは、図2に示すようにY型断面の外接円の直径を(B)、内接円の直径を(A)とした場合の(B)/(A)として表したものである。
【0033】
上記(1)〜(4)の特性によって特定された本発明の先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸およびそれからなる先染めカーペットは、本発明の目的とする、先染め染色した捲縮糸の強度および捲縮特性に優れ、この捲縮糸を用いたタフティングカーペットは優れた嵩高性に優れ、ボリューム感に溢れたカーペットが得られる。また、耐摩耗性や耐ヘタリ性に優れ、耐久性が大幅に改善されたカーペットが得られる。そして、従来のポリ乳酸カーペットの致命的とも言える欠点が除かれたことにより、ポリ乳酸捲縮糸の特徴である、生分解性、非石油系原料であることに加え、高発色性と優れた光沢を活かし、審美性と意匠性に優れたポリ乳酸カーペットが製造できる。
【0034】
本発明の先染めポリ乳酸捲縮糸からなる先染めカーペットとは、ロールカーペット、タイルカーペット、自動車用ラインマットおよびオプションマット、家庭用ラグ、玄関マット等本発明の先染めポリ乳酸捲縮糸の特性が活かせる多くの用途に用いることができる。また、パイルの形態もループパイル、カットパイルいずれでも良く、タフテッドカーペットだけでなく、織物や編み物あるいは刺繍された敷物等にも適用できる。
【0035】
本発明の先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸およびそれを用いたカーペットは以下の方法で製造することができる。
【0036】
図1は本発明のポリ乳酸捲縮糸の製糸プロセスの一例を示したものである。
【0037】
本発明のポリ乳酸捲縮糸の製造方法において用いるポリ乳酸ポリマは、相対粘度が10〜22の高分子量ポリ乳酸ポリマである。相対粘度が10未満では本発明の先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸の特性が得られず、一方、22を越えると安定した製糸ができない。
【0038】
ポリ乳酸ポリマは、ポリマ中の水分が0.1重量%以下として溶融紡糸に供するため、通常90〜130℃で約8時間以上乾燥して水分を除去する。
【0039】
上記ポリ乳酸ポリマをエクストルーダー型押し出し機(1)に供給して210〜230℃の温度で溶融し、紡糸パック(2)を通して濾過し、口金(3)の細孔から紡糸する。口金孔は種々の異型断面形状の捲縮糸が得られるよう異型断面孔を有する口金を用いることが好ましい。口金孔の形状および寸法は、ポリ乳酸ポリマの溶融粘度、紡糸温度、紡糸後の冷却固化条件を考慮し、目的とする断面が得られるよう設計したものを用いる。本発明のポリ乳酸捲縮糸はカーペット用であることからY型、△型、扁平型を基本とし、それぞれの断面に突起がついたものや一部が欠けたもの、あるいは中空部を1ケ以上有する異型断面糸等であって、従来から知られているものから選ぶことができる。特に、本発明に適した断面形状は、Y型および△形状、およびそれらの中空であって、単糸断面の外接円の直径(B)と内接円の直径(A)の比(B)/(A)で表した変形度が1.5〜3.5の範囲の断面形状が好ましい。
【0040】
紡糸された糸条は、冷風装置(4)から吹き出された冷風によって冷却固化される。冷風の温度は10〜40℃である。
【0041】
冷却固化された糸条に油剤(5)を付与した後、所定の速度で回転する引き取りロ−ル(6)に捲回して引き取る。油剤は、平滑剤を主成分とし、界面活性剤、制電剤、極圧剤成分等を含むが、ポリ乳酸繊維に活性な成分を除いた油剤組成とすることが必要である。例えば、水エマルジョンに含まれる乳化成分は、ポリ乳酸繊維の繊維構造を変化させる作用があり、捲縮糸を製造した後に経時的に繊維構造が変化し、強度が低下してしまうという現象が起こることがある。従って、好ましい油剤組成は、例えば、平滑剤としてアルキルエーテルエステル、界面活性剤として高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、極圧剤として有機ホスフェート塩等を用いることが好ましい。
【0042】
本発明先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸の紡糸引き取り速度は、300〜1000m/minである。本発明のポリ乳酸捲縮糸の製造方法は1ステップで捲縮糸を製造する直接紡糸延伸・捲縮加工プロセスを特徴とするため、上記引き取り速度が好ましい。300m/min未満でも本発明にかかる捲縮糸は得られるが、生産効率が低いため好ましくない。引き取り速度が1000m/minを超えると、直接紡糸延伸・捲縮加工プロセスにおいて、捲縮加工速度が高速となり過ぎ、特に4000m/minを超えると、現在の実用プロセスでは製造が困難である。
【0043】
引き取られた未延伸糸は連続して延伸されるが、1段〜3段の多段熱延伸が採用される。延伸温度および延伸倍率は、延伸段数によって最適値が異なるが、延伸温度は90〜160℃、延伸倍率は2.0〜6.0倍の範囲である。延伸温度が90℃未満では充分な延伸ができず、強度および捲縮特性が得られず、160℃以上では安定した延伸が困難である。延伸倍率2.0倍未満では本発明捲縮糸の強度が得られず、6.0倍を超える繊維構造が破壊し糸切れが発生し、延伸が不可能となる。好ましい延伸条件は、2段延伸で延伸温度100〜120℃、延伸倍率2.2〜3.5倍である。より好ましくは、3段延伸で延伸温度120〜160℃、延伸倍率3.0〜6.0倍である。
【0044】
熱延伸された糸条は連続して捲縮加工プロセスで、加熱流体捲縮付与装置(9)に導入して捲縮が付与される。加熱流体捲縮付与装置は加熱高圧流体を糸条に噴射して単糸をランダムに捲縮させ、3次元ループやタルミを形成させる加熱流体噴射ノズル装置(10)、上記捲縮糸を更に加熱流体の下に圧縮熱処理を行うための圧縮熱処装置(11)、および捲縮加工された糸条を冷却するための回転移送装置(12)からなる。加熱流体噴射ノズルの処理流体としては加熱空気もしくは過熱蒸気が好ましく用いられる。通常糸条に付与する加熱流体の温度としては130℃〜200℃が好適である。また、圧縮熱処理装置は、薄いリングを間隔を持って重ね合わせた環状の装置であり、リング間の隙間よりエアー吸引することにより糸条をあたかも折り畳むがごとく堆積させ回転移送装置上へ安定して送り出す。そして、回転移送装置により、圧縮熱処理により堆積したプラグ状となっている糸条を、装置表面のパンチング孔でのエアー吸引により冷却する。
【0045】
次に、回転移送装置上の捲縮糸条は該装置上から順次引き取られ、回転速度の異なる2対のネルソン型ロールまたはセパレート型ロールに捲回されて捲縮を解きほぐされ、すなわちストレッチされる。この間のストレッチ率は3〜6%であり、糸条の温度は40〜60℃となるように回転移送装置の吸引風速を調整する。40℃未満の温度では、潜在捲縮とならずパッケージでの捲縮のヘタリや、染色時の強度低下が大きくなる。また、60度より高いと少しのストレッチにより捲縮が潜在化しすぎるため、染色後の捲縮発現が悪くカーペットの嵩高性が得難くなる。ストレッチ率についても、3%未満では、捲縮が完全に解れない事があり、一方、6%を越えると捲縮が潜在化し過ぎ、嵩高性が得難くなる。通常、このストレッチ張力を張力計(13)で連続して測定し、常時モニタリングして品質管理を行う。このストレッチ張力は前記捲縮加工プロセスにおける捲縮加工前の原糸の特性、捲縮処理条件および捲縮を解きほぐす条件等と密接に関係し、本発明のポリ乳酸捲縮糸の特性、特に捲縮伸長率や捲縮潜在化率、更には、110℃×30分の加圧熱水処理後の強力保持率に影響し、結果として本発明効果であり、先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸の嵩高性、耐摩耗性や耐ヘタリ性等の耐久性の改善にかかわっている。好ましいストレッチ張力は、5%ストレッチした時のストレッチ張力が0.05〜0.1cN/dtexである。
【0046】
次に、捲縮糸条は巻取り機にチーズ状に巻取られる。巻取り張力は通常0.02〜0.15cN/dtexの範囲の低張力である。
【0047】
得られた本発明のポリ乳酸捲縮糸は、チーズ状又はカセ状に巻き返された後染色される。染色機は通常ポリエステル繊維の染色に用いられる加圧高温染色機を用いることができ、染色温度100〜120℃、好ましくは105〜115℃で行われる。100℃未満の染色温度では、充分な染色ができない。一方、120℃を越える染色温度では、ポリ乳酸捲縮糸の加水分解や繊維構造の変化を生じ、強度低下や捲縮特性の低下を引き起こすため採用できない。
【0048】
染色したポリ乳酸捲縮糸はカーペットとしてタフティングされるが、基布としては通常のポリエステル、ポリプロピレン、レーヨン製の不織布、経糸および緯糸ともにポリプロピレンのスプリット糸またはフラットテープを用いたもの等を用いることができる。最も好ましい基布はポリ乳酸繊維の不織布であり、タフト糸と合わせポリ乳酸繊維からなるカーペットが得られ好ましい。また、基布として上記通常の繊維を用いた場合でも、基布とタフト糸が製品使用後簡単に分離できるようにしておけば、リサイクルに便利な環境に優しい好ましいカーペットとなる。
【0049】
また、本発明の先染めカーペット用ポリ乳酸捲縮糸を2本または3本用い、下撚り、上撚りを施し撚り捲縮糸とした後、100〜125℃で蒸気処理をして、撚り止めと捲縮糸の嵩高性および耐摩耗性や耐へたり性等を更に改善した捲縮糸となし、それをタフトして高級カーペットとして製造することもできる。
【0050】
なお、上記得られたカーペットは、必要に応じて、途中にスチーミング工程、ブラッシング工程、スプレー工程、シャーリング工程およびポリシャー工程などの加工工程を付加して、それぞれの処理をすることも可能である。
【0051】
かくして、前記本発明の先染めカーペット用捲縮糸およびそれを用いた先染めカーペットが得られる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明するが、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
[相対粘度]
オストワルド粘度計を用いて、オルソクロルフェノール10mlに対し、試料0.3gを溶解した溶液の相対粘度ηrを25℃で測定した。測定は2回行い、その平均値とした。
【0053】
ηr=t/t0
t:溶液の落下秒数
t0:溶媒(オルソクロルフェノールのみ)の落下秒数
[総繊度]:
JIS L1090により測定した。
[捲縮伸長率]
捲縮伸長率:温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中に24時間以上放置したチーズパッケージから解舒した捲縮糸を、無荷重状態で30分間沸騰水で浸漬処理した後、平衡水分率まで乾燥し、これを沸騰水処理後捲縮糸の試料とする。この試料に表示繊度(dtex)×0.0176mN(=1.8mg/dtex)の張力を与える初荷重をかけ30秒経過した後に、試料長50cm(L1)にマーキングをする。次いで、同試料に表示繊度(dtex)×0.882mN(90mg/dtex)の張力を与える定荷重をかけて30秒経過後に、伸びた試料長(L2)を測定する。次いで、下記式により、捲縮伸長率(%)を求める。
【0054】
捲縮伸長率(%)=[(L2−L1)/L1]×100
[変形度]:
単繊維を切断後、光学顕微鏡を用いて単繊維断面の外接円の直径(B)と内接円の直径(A)を測定し、次式により求めた。測定値は5個の平均値を用いた。
【0055】
変形度=(B)/(A)
[捲縮潜在化率]:
上記捲縮伸長率において沸騰水処理前の捲縮伸長率をL1、処理後の捲縮伸長率をL2として、下記式により、捲縮潜在化率(%)を求めた。
【0056】
捲縮潜在化率(%)=[(L2−L1)/L2]×100
[強度、強力および強力保持率]:
オリエンテック社製テンシロン引張り試験機を用い、試長250mm、引張速度300mm/minの条件で強力を測定した。
【0057】
強度は強力を測定したサンプルに対応するそれぞれの総繊度で除した値である。
【0058】
強力保持率は、染色を想定して、110℃×30分の加圧熱水処理を行った後の強力を測定して、下記式より求めた。、
強力保持率(%)=加圧熱処理後の強力/加圧熱処理前の強力×100
[耐摩耗性]:
テーバ形摩耗試験機(JIS L 1096の6.17.3に規定)によりH−18摩耗輪を使用し、それぞれの摩耗輪に1kgの荷重をかけ試験台を300回回転し試験片を摩耗させた後、その摩耗状態を目視評価により、最良(○○)、良好(○)、若干不良(△)および不良(×)の4段階に区分した。
[嵩高性]:
カーペットを真上から見たときに表糸の隙間から基布が最も見えにくいものを良好とし(○)、若干不良(△)、最も見やすいものを不良(×)とする官能評価により、3段階に区分した。
[実施例1〜5、および比較例1〜6]
相対粘度19のポリ乳酸ポリマチップを、図1のエクストルダー型紡糸機(1)で溶融し、吐出孔形状がY型である96ホールの口金(2)より吐出させた。このときの紡糸温度とY型断面の変形度は表1および表2に示した。
【0059】
冷却固化した糸条に油剤を付与(5)した後、表面速度700m/minで回転する引取りロール(6)に捲回して引取った。引き取り糸条は連続して75℃に加熱したフィードロール(7)に捲回させて予熱後、110℃に加熱したドローロール(8)との間で表1および表2に示した延伸倍率で延伸した。延伸糸条は捲縮加工装置(9)に導き、表1および表2に示した加熱圧空を噴射させて捲縮を付与した。次に、該捲縮糸を表1および表2に示したストレッチ率をかけて捲縮を解しつつストレッチ張力(13)を測定した後、張力0.055cN/dtexをかけて巻き取った。ストレッチ部の糸条温度は東京製綱製TH−B型糸温度計で測定し、表1および表2に示した。かくして2000デシテックス96フィラメントのポリ乳酸捲縮糸を得た。
【0060】
得られたポリ乳酸捲縮糸の特性として、捲縮糸の強度および110℃×30分の加圧熱水処理後の強力保持率、沸騰水処理後の捲縮伸長率、捲縮潜在化率の値とカーペットでの耐摩耗性および嵩高性を表1および表2に示した。
【0061】
比較例7は、実施例1において口金を変更して扁平率5.2の扁平断面形状に変更し、かつ捲縮加工後のストレッチ率を4%に変更したこと以外、実施例1と同様に製糸を行ったものである。
【0062】
以上の実施例および比較例によって得られた捲縮糸およびそれを用いたカーペットの特性を表1に示した。なお、カーペットは目付1100g(1/10ゲージ、ステッチ7.5、パイルハイ9.5)で作製した。
【0063】
本発明のポリ乳酸捲縮糸である実施例は、染色を想定した110℃×30分の加圧熱水処理を行っても捲縮糸の強度や捲縮特性の低下が少ないポリ乳酸捲縮糸が得られ、該捲縮糸を用いたカーペットは嵩高性に優れ、耐摩耗性や耐ヘタリ性等の耐久性に優れていることが判る。
【0064】
一方、比較例1はストレッチ率を8%と高くした結果、非常に潜在化した捲縮糸となり捲縮伸長率が低く、また耐摩耗性および嵩高性に劣る結果であった。比較例2は紡糸温度が高いため溶融粘度が低い条件で製糸した結果、捲縮糸は低強度であり、耐摩耗性に劣る結果であった。比較例3は変形度が大きいため嵩高性は高くなったが、強度および強力保持率が低く、変形度が高いために繊維断面が割繊し易く、耐摩耗性が悪い結果であった。また、比較例4は延伸温度が低く、強度は満足したものの、繊維が失透しており強力保持率が低かった。また、捲縮伸長率が低いため嵩高性・耐摩耗性とも悪い結果であった。比較例5は3段延伸で6.5倍に延伸し、糸条温度62℃でストレッチした結果、非常に潜在化した捲縮糸となり、捲縮伸長率は低くなった。また延伸倍率が高すぎるため繊維が失透しており強力保持率の低い捲縮糸であった。比較例6は捲縮加工後の冷却を強化した結果、他に比べ顕在捲縮糸となったが、巻き取りパッケージでの捲縮の緊張および加圧熱水処理での捲縮のヘタリが大きく、強力保持率が低く嵩高性・耐摩耗性とも悪い結果であった。比較例7は断面を扁平にしたものであるが、強度は高いが捲縮伸長率が低く、嵩高性が悪い結果であった。また、単繊維断面が細長いため繊維の割繊が発生し耐摩耗性も悪い結果であった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【発明の効果】
本発明は、従来のポリ乳酸捲縮糸およびそれを用いたカーペットに比べ、染色を行っても捲縮糸の強度や捲縮特性の低下が少ないポリ乳酸捲縮糸が得られ、該捲縮糸を用いたカーペットは嵩高性に優れ、耐摩耗性や耐ヘタリ性等の耐久性に優れたポリ乳酸カーペットを提供できる。そして、ポリ乳酸捲縮糸の特長である生分解性、非石油系素材であることおよび鮮明な発色や独特の光沢等によって発現する審美性等を活かして、意匠性に優れた新しいカーペットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のポリ乳酸捲縮糸の製造に用いた捲縮付与プロセスの概略図である。
【図2】ポリ乳酸捲縮糸のY型断面図である。
【符号の説明】
1:エクストルーダー型押し出し機
2:紡糸パック
3:口金
4:冷風装置
5:油剤付与
6:引き取りロール
7:フィードロール
8:ドローロール
9:加熱流体捲縮付与装置
10:加熱流体噴射ノズル装置
11:圧縮熱処理装置
12:回転移送装置
13:ストレッチ張力計
A:内接円直径
B:外接円直径
Claims (3)
- 特性が以下の(1)〜(4)を同時に満足し、単繊維断面形状がY型断面、かつ変形度が1.5〜3.5であるポリ乳酸捲縮糸を、パイルとして用いたことを特徴とするカーペット。
(1)強度:1.3〜3cN/dtex
(2)捲縮伸長率:5〜10%
(3)捲縮潜在化率:85〜95%
(4)110℃×30分の加圧熱水処理後の強力保持率が85〜100% - 請求項1に記載のカーペットに用いられるポリ乳酸捲縮糸の製造方法であって、相対粘度10〜22のポリ乳酸ポリマを、紡糸温度210〜230℃で溶融紡糸して、300〜1000m/minの速度で引き取り、次いで延伸温度90〜160℃で2.0〜6.0倍に熱延伸し、得られた熱延伸糸を連続して、高圧の加熱流体中で捲縮加工を施した後に、糸条温度40〜60℃で3〜6%ストレッチすることを特徴とするポリ乳酸捲縮糸の製造方法。
- 前記加熱流体が空気であることを特徴とする請求項2記載のポリ乳酸捲縮糸の製造方法。
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