本発明は、芯成分が脂肪族ポリエステル樹脂と熱可塑性ポリアミド樹脂とが均一にブレンドされたポリマーアロイからなり、かつ繊維表面に鞘成分として熱可塑性ポリアミド樹脂を有する、耐摩耗性が極めて良好な芯鞘型複合繊維に関するものである。
最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、非石油由来の繊維素材の開発が切望されている。従来の汎用プラスチックは石油資源を主原料としていることから、石油資源が将来枯渇すること、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。
二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある。このため近年では、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス利用のプラスチックに注目が集まっており、脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。バイオマス由来のプラスチックの中でも、特に微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。
これまで、バイオマス利用の生分解性プラスチックは、力学特性や耐熱性が低いとともに、製造コストが高いといった課題があり、汎用プラスチックとして使われることはなかった。しかしながら近年では力学特性や耐熱性が比較的高く、かつ製造コストも比較的低いバイオマス利用のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、石油由来の汎用プラスチックと比較するとやはり高価であり、脂肪族ポリエステル樹脂の生分解性などの特徴を活かせ、かつ価格の通る、ごく少量の用途にしか応用されていないのが現実であった。しかしながら最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。
ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル繊維の開発は、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として衣料用途、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途、産業資材用途への応用も期待されている。そしてポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂を、上記の大型の用途へできる限り適用し、石油由来の素材を非石油由来の素材へ置き換えることによって、石油資源枯渇、および地球温暖化の問題を和らげられる可能性がある。
しかしながら、衣料用途や産業資材用途に適応する場合には、脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸は耐摩耗性が低く耐久性に乏しいこと、捲縮が発現し難く低品位となり易いことが大きな問題となる。
例えば、耐摩耗性の低いポリ乳酸繊維を衣料用途に用いた場合、擦過等により容易に色移りが生じたり、酷い場合には繊維がフィブリル化して白ぼけし品位の低下が著しい。また皮膚に過度の刺激を与える等の問題も生じ易く、実用上の耐久性に乏しいことがわかってきている。
また、特に強い擦過を受ける自動車内装用のカーペット等に用いた場合、ポリ乳酸の削れが容易に生じるとともに、酷い場合には穴が開くこともある。さらに脂肪族ポリエステル(特にポリ乳酸)の特徴である加水分解し易い性質が逆に弱点となり、上記の様なフィブリル化や削れは経時的に悪化する傾向にある。これは製品寿命が短いことを意味し、製品展開を図る上での致命的な欠点となる。
一方、脂肪族ポリエステル(特にポリ乳酸)繊維は仮撚加工糸、エアースタッファ捲縮糸などの捲縮糸としても、低捲縮となり易く、捲縮がへたり易い(捲縮の堅牢度が低い)ことがわかってきている。このため、例えば自動車用のカーペット等の繊維構造体として用いる場合、ボリューム感の無い製品しか得ることが出来ず、従来の合成繊維からなる製品と比べると、明らかに見劣りするものしか得られていなかった。このように脂肪族ポリエステル(特にポリ乳酸)繊維が捲縮発現性に劣るのは、従来の石油系由来のポリマーに比べて極端に結晶性が乏しいためである。このため、ポリ乳酸繊維に捲縮加工を施す際に、高捲縮を発現させようとして高温熱処理、高リラックス処理などの条件を採用すると、単糸間の融着や強度低下が起こってしまって、実用に耐えないものとなる問題を抱えている。
以上のことから、脂肪族ポリエステル(特にポリ乳酸)繊維を大型の用途に展開していくためには、耐摩耗性、捲縮特性を飛躍的に向上させることが望まれている。
例えば、耐摩耗性を改善する方法としては、脂肪酸ビスアミド等の滑剤を添加して繊維表面の摩擦係数を低下せしめることで、摩耗を抑制したポリ乳酸繊維が開示されている(特許文献1〜4参照)。
しかしながら、これらの繊維は与えられる力が小さい場合には有効であるが、例えば、カーペットの様に強い踏込力がかかる場合には、繊維間凝着を十分に抑制することができないため、ポリ乳酸の破壊が生じてしまい、用途が限定されるものであった。
一方、鞘成分に耐摩耗性の高いポリアミドを配置することによって、耐摩耗性を改善した脂肪族ポリエステル繊維が開示されている(特許文献5)。確かに特定厚さの鞘成分を有することにより、耐摩耗性を飛躍的に向上させることが出来るものの、脂肪族ポリエステルとポリアミドの親和性が低いため芯鞘複合界面の接着性が不十分であり、容易に鞘割れを生じてしまう技術であった。ひとたび鞘割れが生じると、剥き出しになったポリ乳酸の削れが進行して耐摩耗性が悪化し易かった。さらにこの繊維に捲縮加工、染色加工を施すと、それぞれの工程において繊維の熱収縮が起こり、鞘成分と芯成分の収縮差に起因して鞘割れが起こることが判明している。このため捲縮糸としては耐摩耗性を十分に発揮できないだけでなく、白ぼけして低品位となり易かった。
さらに、ポリアミドと脂肪族ポリエステルとのブレンドにより、樹脂組成物の力学特性を向上させる技術が開示されている(特許文献6)。特許文献6に記載の方法によれば、ポリアミドの補強効果により強度等の力学特性や耐熱性、耐摩耗性が向上するとあるが、該方法ではポリアミドのブレンド比が5〜40%と少量成分であるために、脂肪族ポリエステルが海成分を形成し易く、繊維表面の脂肪族ポリエステルが容易に破壊されてしまって、耐摩耗性向上効果はさほど高くないことが判明している。
また、ポリアミドにポリエステルをブレンドし、ポリアミドの膨潤による寸法変化を抑制して高伸度ポリアミド繊維を得る技術が開示されている(特許文献7)。特許文献7に記載の方法で得られる繊維はポリアミドが海成分を形成していることから、耐摩耗性の向上したポリ乳酸繊維が得られる。しかしながら脂肪族ポリエステルとポリアミドが非相溶であり、これらの相の界面接着性は低いため容易にフィブリル化して白惚けが生じることが判明している。そして該繊維は、島成分である脂肪族ポリエステルが部分的に繊維表面に露出しており、露出した脂肪族ポリエステルとポリアミドが剥離すると、そこが起点となって繊維全体の削れが進行し易く、ポリアミドの耐摩耗性を十分に生かし切れていなかった。
特許文献6、7に記載の技術では、繊維表面に脂肪族ポリエステルが露出しているため、捲縮処理時に繊維が高温熱源に接触すると、脂肪族ポリエステルが融着してしまい、工程通過性が著しく悪化するというデメリットがあった。そして仮に捲縮度の高い捲縮糸としても、その捲縮はへたり易く、特に高い外力を長期間に渡って受ける用途では、耐久性に劣る問題があった。
特開2004−91968号公報(第4〜5頁)
特開2004−204406号公報(第4〜5頁)
特開2004−204407号公報(第4〜5頁)
特開2004−277931号公報(第5〜6頁)
特開2004−36035号公報(特許請求の範囲)
特開2003−238775号公報(第3頁)
特開2005−206961号公報(特許請求の範囲)
本発明は、上記課題を解決し、耐摩耗性、捲縮特性に優れ、高品位かつ耐久性に優れる繊維構造体を与える脂肪族ポリエステル繊維、およびそれからなる繊維構造体を提供することを課題とする。
本発明者が上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の断面構造を有する芯鞘型複合繊維とすることで、脂肪族ポリエステル繊維の耐摩耗性を飛躍的に向上でき、該芯鞘型複合繊維の捲縮特性をも向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、芯成分が脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)とのポリマーアロイを含んでなり、鞘成分が熱可塑性ポリアミド樹脂(C)を含んでなることを特徴とする芯鞘型複合繊維、および該繊維を少なくとも一部に含むことを特徴とする繊維構造体によって達成することができる。
本発明により耐摩耗性が格段に向上した繊維、およびそれからなる繊維構造体が得られる。また該繊維は高捲縮であり、かつ捲縮のへたり難い捲縮糸とすることが出来るため、一般衣料用途や産業資材用途に最適であり、特に、家庭用や自動車内装用のカーペット用途などの極めて高い耐摩耗性が要求される用途にも好適に用いられる芯鞘型複合繊維、捲縮糸、およびそれらを用いてなる繊維構造体を提供することができる。
本発明でいう脂肪族ポリエステル樹脂(A)(以下、成分Aと記す場合もある)とは、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結されたポリマーのことをいう。本発明で用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)としては結晶性であることが好ましく、融点が150℃以上230℃以下であることがより好ましい。本発明で用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)が結晶性を有するとは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の昇温速度16℃/分での示差走査熱量計(DSC)測定で得た示差熱量曲線が、吸熱ピークを有し、かつその融解ピークの熱容量が10J/g以上である場合、結晶性を有すると定義する。結晶性が高いほど好ましいことから、20J/g以上であることがより好ましく、30J/g以上であることがさらに好ましい。本発明に用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)が結晶性を有することで、芯鞘型複合繊維の結晶性が高くなり、耐摩耗性、耐熱性に優れたものとなるため好ましい。
また、本発明で用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)の種類としては、例えばポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。このうち、原料が植物由来であるため樹脂に含まれる炭素がもともと大気中に存在する二酸化炭素に由来し、燃焼時に発生する二酸化炭素を大気に放出させても地球温暖化の弊害を招き難い点でポリ乳酸が最も好ましい。
上記ポリ乳酸は、−(O-CHCH3-CO)n−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体(D−乳酸)のみからなるポリD乳酸と、L体(L−乳酸)のみからなるポリL乳酸、およびD−乳酸とL−乳酸の両者を含んでなるポリ乳酸がある。本発明におけるポリD乳酸とはD−乳酸を80重量%以上含んでなるポリ乳酸であると定義し、ポリL乳酸とはL−乳酸を80重量%以上含んでなるポリ乳酸であると定義する。ポリL乳酸に含まれるD−乳酸の重量分率(以下、単にD体分率と記載することがある)、ポリD乳酸に含まれるL−乳酸の重量分率(以下、単にL体分率と記載することがある)が高いと、ポリL乳酸、ポリD乳酸の結晶性が低くなり、融点が低下する傾向にある。融点は繊維の耐熱性を維持するために150℃以上であることが好ましいため、ポリL乳酸中のD体分率は10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることが好ましい。同様の理由により、ポリD乳酸中のL体分率は10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることが好ましい。
ただし、上記のように2種類の光学異性体のポリマーが単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体のポリマーをブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を220〜230℃まで高めることができ、好ましい。この場合、成分Aは、ポリL乳酸とポリD乳酸の混合物を指し、そのブレンド比は40/60〜60/40であると、ステレオコンプレックス結晶の比率を高めることができ、最良である。
また、ポリ乳酸中には低分子量残留物として残存ラクチドが存在するが、これら低分子量残留物は、延伸や仮撚加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる。また、繊維や繊維成型品の加水分解を促進し、耐久性を低下させる。そのため、ポリ乳酸中の残存ラクチド量は好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.03重量%以下である。
また、成分Aは、例えばポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合したものであっても良い。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、およびヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸、ジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。この中でも、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)(以下、成分Bと記す場合もある)との相溶性が良いポリアルキレンエーテルグリコールが好ましい。このような共重合成分の共重合割合は融点降下による耐熱性低下を損なわない範囲で、ポリ乳酸に対して0.1〜10モル%であることが好ましい。成分Aには、さらに改質剤として粒子、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等の添加物が含まれていても良い。
また、ポリ乳酸重合体の分子量は、耐摩耗性を高めるためには高い方が好ましいが、分子量が高すぎると、溶融紡糸での成形性や延伸性が低下する傾向にある。重量平均分子量は耐摩耗性を保持するために8万以上であることが好ましく、10万以上がより好ましい。さらに好ましくは12万以上である。また、分子量が35万を越えると、前記したように延伸性が低下するため、結果として分子配向性が悪くなり強度が低下する。そのため、重量平均分子量は35万以下が好ましく、30万以下がより好ましい。さらに好ましくは25万以下である。上記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。
本発明の成分Aに好ましく用いられるポリ乳酸の製造方法は、特に限定されないが、具体的には、乳酸を有機溶媒および触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法(特開平6−65360号公報参照。)、少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法(特開平7−173266号公報参照。)、さらには、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法(米国特許第2,703,316号明細書参照。)が挙げられる。
本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)とは、アミド結合を有するポリマーのことをいうが、本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の種類としては、例えばポリカプラミド(ナイロン6)や、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)等を挙げることができる。
また、成分Aがポリ乳酸である場合、相溶性を高くするために、成分Bの分子鎖同士の凝集性を低くすること、すなわち、メチレン鎖長を長くしても良く、その点でナイロン11やナイロン12、ナイロン610、ナイロン510も好ましく用いられ、これらの中でも環境負荷低減素材を提供するという点で、非石油由来のセバシン酸をモノマーとする、ナイロン610、ナイロン510が好ましく用いられる。なお、成分Bはホモポリマーであっても共重合ポリマーであっても良い。
成分Bの融点は150℃以上250℃以下であることが好ましい。一般に脂肪族ポリエステルは、融点を有する場合、その融点は通常200℃以下であるなど、耐熱性が高いとはいえず、溶融貯留時250℃を越えると急激に物性が悪化する傾向にあるため、ブレンドする成分Bの融点が250℃以下であることが好ましい。より好ましくは成分Bの融点は225℃以下である。一方、繊維の耐熱性、あるいは捲縮や染色などの堅牢度を考慮すると、成分Bの融点の下限は150℃以上であることが好ましい。より好ましくは成分Bの融点は175℃以上である。成分Bは前記したように、共重合ポリマーであっても良いが、芯鞘型複合繊維の結晶性が高いほど耐摩耗性、耐熱性に優れたものとなるため好ましく、用いられる成分Bは結晶性であることが好ましい。
本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)が結晶性を有するとは、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の昇温速度16℃/分での示差走査熱量計(DSC)測定で得た示差熱量曲線が、吸熱ピークを有し、かつその融解ピークの熱容量が10J/g以上である場合、結晶性を有すると定義する。結晶性が高いほど好ましいことから、20J/g以上であることがより好ましく、30J/g以上であることがさらに好ましい。
成分Bの融点が上記範囲にあり、かつ結晶性が高いほど本発明の繊維の耐摩耗性、耐熱性、沸騰水処理後の捲縮伸長率が優れたものとなるため好ましく、成分Bとしては、ナイロン6(融点225℃)、ナイロン610(融点225℃)、ナイロン510(融点218℃)、ナイロン11(融点185℃)、ナイロン12(融点180℃)であることが好ましい。より結晶性が高く耐摩耗性が高くなるだけでなく、低価格で用途による縛りがなく汎用的に幅広く用いられ易い点でナイロン6が最も好ましい。
また成分Bには、粒子、難燃剤、帯電防止剤や等の添加物が含まれていても良い。
本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド(C)とは、アミド結合を有するポリマーのことをいうが、本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の種類としては、例えばポリカプラミド(ナイロン6)や、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)等を挙げることができる。また、環境負荷低減素材を提供するという点で、非石油由来のセバシン酸をモノマーとする、ナイロン610、ナイロン510も好ましく用いられる。また、成分Cはホモポリマーであっても共重合ポリマーであっても良い。
また、前記成分Bと同様に、芯鞘型複合繊維の製造工程において脂肪族ポリエステルの劣化を抑制し、かつ芯鞘型複合繊維の耐熱性、捲縮や染色などの堅牢度を考慮すると、成分Cの融点は150℃以上250℃以下であることが好ましい。より好ましくは、175℃以上225℃以下である。
成分Cは前記したように、共重合ポリマーであっても良いが、芯鞘型複合繊維の結晶性が高いほど耐摩耗性も向上する傾向にあるため、用いられる成分Cは結晶性であることが好ましい。
成分Cの融点が上記範囲にあり、かつ結晶性が高いほど本発明の繊維の耐摩耗性、耐熱性、沸騰水処理後の捲縮伸長率が優れたものとなるため好ましく、成分Bとしては、ナイロン6(融点225℃)、ナイロン610(融点225℃)、ナイロン510(融点218℃)、ナイロン11(融点185℃)、ナイロン12(融点180℃)であることが好ましい。より結晶性が高く耐摩耗性が高くなるだけでなく、低価格であり汎用性が高いため用途による縛りがなく幅広く応用可能である点でナイロン6が最も好ましい。
また成分Cは、粒子、難燃剤、帯電防止剤や滑剤等の添加物が含まれていても良い。
成分Cの溶融粘度(ηc)は10〜300Pa・sec−1であることが好ましく、20〜250Pa・sec−1であることがより好ましく、30〜200Pa・sec−1であることがさらに好ましい。成分Cの溶融粘度と高くすることによって、芯鞘型複合繊維の分子配向や結晶性が高くなり、耐摩耗性が高くなるため好ましい。また紡糸工程において芯成分のポリマーアロイ由来のバラス効果を抑制でき工程通過性が高くなるという製法上のメリットもある。一方で、成分Cの溶融粘度が高すぎると、紡糸工程において芯鞘複合異常を生じて鞘成分を均一被覆できずに、繊維横断面、繊維の長手方向において鞘成分の厚みにバラツキを生じて耐摩耗性が悪化することがある。以上のことから、成分Cの溶融粘度は上記範囲であることが好ましい。なお、溶融粘度ηの測定方法の詳細については後述するが、測定温度240℃、剪断速度1216sec−1で測定したときの溶融粘度を意味している。
そして成分Bと、成分Cの融点が近いほど、溶融紡糸時にそれぞれのポリマーが熱劣化を起こしにくい紡糸温度を選定することができ、得られる繊維が耐摩耗性に優れるため好ましい。このため、成分Bと成分Cの融点の差は30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維は、成分Aの含有量(繊維総重量に対する成分Aの重量%)が高いほど、環境負荷低減素材となることから、成分Aの含有量が高いことが好ましい。20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることが特に好ましい。一方で、耐摩耗性、捲縮の堅牢度、あるいは耐熱性といった特性に優れる点で、成分Aの含有量は80重量%以下であることが好ましく、75重量%以下であることがより好ましく、70重量%以下であることが特に好ましい。芯鞘型複合繊維の成分Aの含有量(繊維総重量に対する成分Aの重量%)は、実施例に記載の手法により算出することができる。すなわち、芯鞘型複合繊維から成分Aのみを溶出した後の繊維の重量と、もとの芯鞘型複合繊維の重量の差を成分Aの重量と見なし、該重量の差をもとの芯鞘型複合繊維の重量で除することにより算出する。
本発明の芯鞘型複合繊維は、鞘成分として熱可塑性ポリアミド(C)を含み、芯成分は脂肪族ポリエステル(A)と熱可塑性ポリアミド(B)とのポリマーアロイを含んで構成され、かつ成分Aおよび成分Bは相互に入り組んだいわゆる海島、あるいは海海構造をとることで、鞘成分と芯成分との界面(以下、芯鞘界面と記載することがある。)の剥離が抑えられ、耐摩耗性が十分に高い繊維となるのである。このため、上記のごとく芯鞘型複合繊維の成分Aの含有量を20重量%以上としても、耐摩耗性、耐熱性が高いため好ましいのである。ここで、芯成分を構成する熱可塑性ポリアミド(B)は、海を形成することが好ましい。さらに芯成分(ポリマーアロイ)中の脂肪族ポリエステル(A)の比率を高めるためには、溶融紡糸時における脂肪族ポリエステル(A)の溶融粘度を熱可塑性ポリアミド(B)よりも高くすることが肝要である。
本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分を構成する、成分Aと成分Bとのブレンド比率(重量比)は、成分A/成分B=95/5〜20/80であることが好ましい。芯成分に成分Bを有し、少なくとも芯鞘界面の一部に成分Bが存在することにより、芯鞘界面での接着性が向上して界面剥離を抑えることができるため、好ましい。芯鞘複合繊維の場合、芯鞘界面での剥離が生じるとフィブリル化しやすくなる。一旦フィブリル化が始まると、繊維の摩耗速度が急激に速くなる。このため、繊維の耐摩耗性を高くするためには芯鞘界面の剥離を無くすことが重要なのである。芯成分において成分Bを多く含むほど、本発明にて好ましいとされる、後述のポリマーアロイ構造(a)あるいは(c)の構造となりやすく、繊維の耐摩耗性が優れるため好ましい。このため芯成分における成分Bのブレンド比率が高いことが好ましい。しかし一方で、本発明の芯鞘型複合繊維は環境負荷を低減する性能を兼ね備えた素材であるためには、できるだけ植物由来の成分Aを多く含むことが好ましく、すなわち成分Bの比率を低くすることが好ましい。芯鞘界面の接着性が向上して耐摩耗性に優れ、かつ環境負荷が低い素材である、この両方を満たすために、成分A/成分Bは80/20〜25/75であることがより好ましく、70/30〜30/70であることがさらに好ましく、60/40〜35/65であることが特に好ましい。
本発明の芯成分における成分A/成分Bのブレンド比率(重量比)については、溶融紡糸に供する際の成分Aと成分Bの重量比率により算出することができる。しかしながら製造時の成分Aと成分Bのブレンド比率(重量比)が不明である場合には、簡易的に下記式を用いて算出することもできる。すなわち、本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分は成分Aと成分Bとその他の少量成分を含むことがあるが、かかる場合であっても、芯成分が実質的に成分Aと成分Bの2成分のみからなるものとみなすことができ、成分A/成分Bのブレンド比率(重量比)を算出することができる。まず、芯鞘型複合繊維横断面スライスを透過型電子顕微鏡(TEM)にて4万倍で観察し、芯成分を構成する成分Aの総面積(Aa)と成分Bの総面積(Ab)とを求める。成分Aの比重を1.26、成分Bの比重を1.14として、下記の式を用いて算出した。
成分A/成分B=(Aa×1.26)/(Ab×1.14)。
また、横断面において鞘成分と、芯成分との境界線が判別しにくい場合は、横断面において、最外層に存在する成分Aと外接し、成分Aを内部のみ含む繊維横断面と相似形の図形を境界線として、鞘成分と芯成分とを判別した。
また芯成分の単繊維横断面におけるポリマーアロイ構造として、下記の(a)〜(c)が挙げられ、いずれのポリマーアロイ構造であっても、芯成分中の成分Bと、鞘成分の成分Cとの間で相互作用する効果によって良好な耐摩耗性が発現する。但しその中でも芯成分の成分Bと鞘成分の成分Cが連続相を形成し、耐摩耗性が飛躍的に優れる繊維となる点で、芯成分のポリマーアロイ構造は(a)または(c)であることが好ましく、(a)であることが特に好ましい。
(a)成分Aが島成分、成分Bが海成分(海島構造)
(b)成分Bが島成分、成分Aが海成分(海島構造)
(c)成分Aと成分Bがともに海成分(海海構造)。
ここで、本発明にて好ましいポリマーアロイ構造である(a)成分Aが島成分、成分Bが海成分の海島構造について、図6のTEM写真を用いて説明する。図6では染色された成分が、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を示し、染色されていない成分が、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を示している。図6のように、連続した領域である成分Bにより、成分Aが複数の略円形領域に分離されている構造を(a)成分Aが島成分、成分Bが海成分の海島構造であると定義する。なお、島成分である成分Aの内部に、成分Bが島成分(略円形を呈する)として存在する、いわゆる海島湖構造も、本発明の海島構造に含むものとする。ポリマーアロイ構造(b)成分Aが海成分、成分Bが島成分の海島構造は、連続した領域である成分Aにより、成分Bが複数の略円形領域に分割された構造である。また本発明のポリマーアロイ構造(c)成分A、成分Bともに海成分の海海構造とは、成分A、成分Bが共に略円形を呈しておらず、島成分と海成分の判別が付かない構造であると定義する。
芯成分のポリマーアロイ構造は、前記した成分Aと成分Bのブレンド比率(重量比)や、後述する成分Aの溶融粘度(ηa)と、成分Bの溶融粘度(ηb)との粘度比と密接に関わっており、それぞれを適切な範囲とすることによって芯成分のアロイ構造を制御できる。
また、特に好ましいポリマーアロイ構造である(a)の構造とするには、成分Aの溶融粘度ηaを高くし、成分Bの溶融粘度ηbを低くすることが好ましい。これはポリマーアロイ構造が成分Aと、成分Bの溶融粘度のバランスに影響されるためである。ポリマーアロイ構造は、溶融状態で剪断変形を与えられた時に形成されるが、剪断変形によって生じる剪断応力が最も低くなる構造が形成されやすい。これは系全体のエネルギーレベルが低くなり、安定であるためである。これは、剪断が直に加えられる成分である海成分は溶融粘度が低い成分で形成されやすく、逆に溶融粘度の高い成分は島成分を形成し易いことを意味する。すなわち、本発明にて、特に好ましいポリマーアロイ構造である(a)とするには、溶融粘度の比(ηb/ηa)が小さいことが好ましく、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。但し、あまりに溶融粘度の比が小さくなると、島成分の直径が粗大化する傾向にあるため、溶融粘度の比(ηb/ηa)は0.10以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.20以上であることがさらに好ましい。なお、溶融粘度ηの測定方法の詳細については後述するが、測定温度240℃、剪断速度1216sec−1で測定したときの溶融粘度を意味している。
本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分が海島構造を呈する場合、島成分の直径は0.001〜2μmであることが好ましい。島成分の直径の上限を2μmとすることで、成分Aと成分Bとで形成される界面の面積が飛躍的に増加し、繊維の耐摩耗性が飛躍的に向上するため好ましい。一方、島成分の直径があまりに小さいと、成分Aと成分Bが分子レベル相溶化して結晶性を阻害し合い、繊維の耐摩耗性、耐熱性、染色堅牢度が低下することがある。この点から島成分の直径の下限は0.001以上であることが好ましい。これらのことから島成分の直径は0.005〜1μmが好ましく、0.01〜0.8μmがより好ましい。さらに好ましくは0.02〜0.5μmである。
なお、本発明での島成分の直径とは、実施例にて詳述するように、該芯鞘型複合繊維の横断面スライスを透過型電子顕微鏡(TEM)(4万倍)により観察し、芯鞘型複合繊維1試料あたり100個の島について島成分の直径を計測した(島を円と仮定し、島の面積から換算される直径を島成分の直径とした)。該島成分の直径分布を上記範囲とすることにより、繊維の耐摩耗性、耐熱性、染色堅牢度が向上する。
また、本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分を構成する素材はポリマーアロイであるため、1分子鎖中に脂肪族ポリエステルブロックとポリアミドブロックが交互に存在するブロック共重合体とは異なり、脂肪族ポリエステル分子鎖(成分A)と、ポリアミド分子鎖(成分B)は実質的に独立に存在していることが重要である。この状態の違いは、配合前後の熱可塑性ポリアミド樹脂の融点降下、すなわちポリマーアロイ中の熱可塑性ポリアミド樹脂由来の融点が配合前の熱可塑性ポリアミド樹脂の融点からどの程度降下したかを観測することにより見積もることができる。熱可塑性ポリアミド樹脂の融点降下が3℃以下であれば、脂肪族ポリエステルとポリアミドはほとんど共重合されておらず(エステル−アミド交換がほとんど起こっておらず)、実質的に脂肪族ポリエステル分子鎖とポリアミド分子鎖は独立に存在するポリマーアロイの状態である。
このように成分Aと成分Bが実質的に独立に存在していることによって、鞘成分を形成する熱可塑性ポリアミド樹脂(C)と、芯成分を形成する熱可塑性ポリアミド樹脂(B)とが相互作用を起こしやすく、鞘成分と芯成分の界面の接着性が向上するため好ましい。これにより鞘成分である熱可塑性ポリアミド樹脂(C)が本来有する特性が、繊維の特性へ反映されて耐摩耗性が飛躍的に向上する。したがって、本発明では熱可塑性ポリアミド(B)の融点降下は2℃以下であることが好ましい。
また、上記の島成分はそれぞれ繊維軸方向に筋状に細長い形態であることが好ましい。島成分が筋状であることにより、一つの島成分が海成分と接着している複合界面の面積が大きくなり、フィブリル化を抑制できるため好ましい。また島成分が細長い筋を形成することで、強度が高くなるメリットがある。島成分が筋状である場合、繊維軸方向に完全に平行であることが最も好ましいが、本発明においては繊維軸から5°以下傾斜したものは、繊維軸方向に筋状に細長い形態であると定義する。
本発明の芯鞘型複合繊維は、鞘成分として熱可塑性ポリアミド(C)を有することが必要である。鞘成分として熱可塑性ポリアミド(C)を有することで、繊維の表面が実質的にポリアミドのみで形成されるため耐摩耗性が飛躍的に高くなるため好ましい。また本発明の芯鞘型複合繊維は前記したように、芯成分中に鞘成分と化学構造の近い、すなわち親和性の高い、熱可塑性ポリアミド(B)を含むため、加工時や染色時、あるいは製品使用時に掛かる擦過で鞘割れが起こることが無く、耐摩耗性に優れるため好ましい。
特に鞘成分と芯成分の界面における接着性を高まる点で、成分Bと成分Cは同種類のモノマーを主たる成分とするポリアミドであることが好ましい。例えば、成分Bがナイロン6の共重合ポリマーである場合、成分Cはナイロン6の共重合ポリマー、あるいはナイロン6のホモポリマーであることが好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維の耐摩耗性が優れる点で、鞘成分の厚みは0.4μm以上であることが好ましい。鞘成分の厚みを厚くすることによって、耐摩耗性に優れる繊維となるため好ましい。また紡糸工程において、芯成分のポリマーアロイ由来のバラス効果を抑制でき工程通過性が高くなるという製法上のメリットもある。以上のことから鞘成分の厚みは0.4μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.7μm以上であり、さらにより好ましくは1μm以上である。あまり鞘の厚みが厚いと繊維全体に占める鞘成分の割合が大きくなってしまって、繊維総重量に対する成分Aの比率が少なくなってしまって本発明の本意である環境負荷低減素材を提供する目的から外れてしまう場合がある。このため鞘成分の厚みは10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらにより好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維は、耐摩耗性に優れた繊維となる点で、長手方向全てにおいて繊維表面が実質的に鞘成分で構成されてなり、特に成分Aが繊維表面に露出していないことが好ましい。繊維表面が実質的に鞘成分で被覆されていることによって、耐摩耗性が飛躍的に向上するのである。ここで、繊維表面が実質的に鞘成分で被覆されているとは実施例に記載の手法で繊維の横断面を観察した際、横断面の輪郭すべてにおいて厚み0.1μm以上の鞘成分が被覆されていることを意味する。長手方向全てにおいて実質的に成分Aが繊維表面に露出していない芯鞘複合繊維となり易い点で、成分Cの溶融粘度、鞘成分の厚みは前記の範囲とすることが好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維は昇温速度16℃/分で測定した示差熱量曲線の融解ピークの熱容量の総和が50J/g以上であることが好ましく、より好ましくは55J/g以上であり、さらに好ましくは60J/g以上であり、特に好ましくは65J/g以上であり、70J/g以上であることが最良である。融解ピークの熱容量の総和が50J/g以上である場合、繊維は高度に発達した結晶を多数含むものであり、耐摩耗性、耐熱性、染色や捲縮の堅牢性などが優れるものとなるため好ましい。このような融解ピークを示すために、成分A、成分B、成分Cとして結晶性の高いポリマーを用いることが好適である。また上記したように繊維横断面における島成分の直径が前記の範囲とすることが好ましい。すなわち本発明の芯鞘型複合繊維は、脂肪族ポリエステル(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)、熱可塑性ポリアミド樹脂(C)を含んでなるため、異種ポリマーで形成された複合界面を多数有している。ポリマーの結晶は同種のポリマー鎖がよりあつまった三次元規則構造であるため、複合界面の面積があまりに多いと同種ポリマー同士の接触頻度が低下して結晶性が低下することがあるのである。このため島成分の直径を前記した範囲とすることが好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維は、より耐摩耗性に優れた繊維となる点で滑剤を含むことが好ましい。滑剤を含むことにより繊維の表面摩擦抵抗を下がり、繊維に摩擦力が加わりにくくなるため耐摩耗性が向上する。本発明の滑剤としては成分A、成分B、成分Cのそれぞれとの親和性が高いほど繊維に滑剤が担持され易く、滑剤の効果を長期に渡って維持し易いため好ましい。また滑剤の耐熱性が高いほど、溶融紡糸工程において揮発してしまうことがなく、やはり繊維に担持され易く、滑剤の効果を長期に渡って発揮できるため好ましい。成分A、成分B、成分Cとの親和性、耐熱性の両観点から滑剤としては、脂肪酸ビスアミド、アルキル置換型の脂肪酸モノアミドが好ましく、脂肪酸ビスアミドが特に好ましい。本発明にて好ましい滑剤とされる脂肪酸ビスアミドとは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
また本発明で好ましい滑剤とされるアルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
本発明における繊維とは、細く長い形状を指し、一般的に言われる長繊維(フィラメント)であっても、該フィラメントを数本〜数十本撚り合わせて1本のフィラメント糸としたマルチフィラメントであっても、短繊維(ステープル)であってもよく、あるいは電気植毛加工などに用いられる短い繊維、すなわちパイルであってもよく、これらの繊維形状を有すると認められるものであれば特に制限はないが、本発明の効果である耐摩耗性を活かしやすい点で、マルチフィラメントであることが好ましい。
また、生糸、撚糸、加工糸など繊維の形態等についても特に制限はないが、バルキー性を有することにより、繊維に加わる外力がそれぞれの単繊維に分散され易く、優れた耐摩耗性を発揮するため、捲縮糸であることが好ましい。
捲縮糸の捲縮形態としては、例えば捲縮ノズル内部おける加熱流体の乱流によって発現されたランダムなループ状の捲縮形態を有するエアースタッファ捲縮糸や、スタッフィングボックス内に強制的に押し込むことで形成されたジグザグ状の捲縮を有する機械捲縮糸や、コイル状の捲縮形態を有する3次元スパイラル捲縮糸や、仮撚加工糸や、ニットデニット捲縮糸などの、公知の捲縮形態を有する捲縮糸が挙げられるが、バルキー性が高く、過度に屈曲された単繊維を含まず、耐摩耗性に優れることから、エアースタッファ捲縮糸、仮撚加工糸であることが好ましく、エアースタッファ捲縮糸であることが特に好ましい。
本発明の好ましい捲縮糸であるエアースタッファ捲縮糸について、図4、図5の説明写真にて説明する。図4はエアースタッファ捲縮糸をマルチフィラメントの状態で黒紙の上に置き側面から観察した写真であり、図5はエアースタッファ捲縮糸を単糸にばらして黒紙の上に置き、側面から観察した写真である。図4、図5から分かるようにエアースタッファ捲縮糸はマルチフィラメントを構成する単糸がそれぞれランダムなループ状を呈し、かつ単糸間に適度な絡合が存在する捲縮形態を有する。このため、バルキー性が高く、かつバルキー性を長期に渡って維持しやすいため好ましい。本発明の芯鞘型複合繊維をエアースタッファ捲縮糸とした場合、過度な折れ曲がり部分を有さず、バルキーであるマルチフィラメントとなるため、外力がそれぞれの単糸に分散して特に耐摩耗性に優れるのである。
本発明の芯鞘型複合繊維より耐摩耗性に優れる点で、捲縮糸のバルキー性が高いことが好ましい。具体的にはバルキー性の指標である沸騰水処理後の捲縮伸長率が高いことが好ましく、5%以上であることが好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が特に好ましい。沸騰水処理後の捲縮伸長率の上限については、特に制限されるものではないが、あまりに高いと、芯成分と鞘成分の界面に両ポリマーの歪み差を生じて耐摩耗性が悪化するという不具合を抑制するために、沸騰水処理後の伸長率は35%以下であることが好ましく、33%以下であることがより好ましく、30%以下であることが特に好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維が捲縮糸である場合、染色工程や高次加工工程、あるいは繊維構造体とした後の長期使用において、捲縮がへたり難く(捲縮の堅牢度が高く)、結果として優れた耐摩耗性が発現し易い点で、2mg/dtex荷重下で沸騰水処理した後の捲縮伸長率(以下、2mg/dtex荷重下で沸騰水処理した後の捲縮伸長率のことを、単に「拘束荷重下伸長率」と記載することがある)が3%以上であることが好ましい。より好ましくは5%以上であり、さらにより好ましくは7%以上であり、特に好ましくは10%以上である。上限については特に制限はないが、例えばチーズ染色加工をする時に巻き締まってしまい、パッケージの端面で染色の濃淡斑がおこるなどの悪影響を抑制するという点で30%以下であることが好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維は、力学特性に優れるほど、繊維製品にする際の工程通過性が良好であり、強度は1.5cN/dtex以上であることが好ましく、1.8cN/dtex以上であることがより好ましく、2cN/dtex以上であることが特に好ましい。強度が高いほど製品強度の高い繊維構造体を得られるため好ましいが、本発明の芯鞘型複合繊維が捲縮糸である場合、強度があまりに高いと繊維の剛性が過度に高くなって、擦過を受けた際に屈曲部に応力が集中して耐摩耗性が低下することがある。このため強度は4cN/dtex以下であることが好ましく、3.8cN/dtex以下であることがより好ましく、3.5cN/dtex以下であることが特に好ましい。このような強度を有する芯鞘型合成繊維は後述する溶融紡糸法および延伸法により製造することが可能である。
また、本発明の芯鞘型複合繊維の伸度は15〜70%であると、繊維製品にする際の工程通過性が良好であり好ましい。このような伸度を有する芯鞘型合成繊維は後述する溶融紡糸法および延伸方法により製造することが可能である。より好ましくは20〜60%であり、さらに好ましくは30〜50%である。
また、沸騰水収縮率は0〜20%であれば、繊維および繊維製品の寸法安定性が良好であり好ましい。より好ましくは3〜15%であり、さらに好ましくは5〜10%である。
本発明の芯鞘複合繊維は単糸繊度が太いほど、鞘成分の厚みを厚くし易く耐摩耗性に優れるため好ましい。一方で、単糸繊度が太すぎると繊維の剛性が過度に高くなって、品位に劣るものとなるだけでなく、紡糸工程において吐出ポリマーの冷却が不十分となって、島成分の直径が粗大化することがある。このため、単糸繊度は0.1〜100dtexであることが好ましく、1〜50dtexであることがより好ましく、2〜30dtexであることが特に好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維の糸斑は小さいことが好ましい。糸斑を小さくすることで、擦過を受けた際に局部的に摩耗が侵攻することを抑制でき、耐摩耗性に優れるため好ましい。このため糸斑の指標である糸斑(ウスター)(U%)(Normal)は2%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましい。さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下である。従来の脂肪族ポリエステルとポリアミドとの単純ポリマーアロイ繊維では、溶融紡糸において吐出孔付近でいわゆるバラスが生じ、細化変形過程で太細が生じることにより、品質が低下する場合があったが、本発明の芯鞘型複合繊維は繊維の表面に鞘成分を有するため、バラスが抑制されて細化挙動が極めて安定化し、糸斑が小さく、耐摩耗性に優れるのである。
本発明の芯鞘型複合繊維の断面形状は、丸型、Y型、多葉型、多角形型、扁平型、中空型などの多種多様の断面形状を取ることができる。またマルチフィラメントである場合、それぞれのフィラメントの断面形状は同一であっても異なっていても良い。
図7に本発明の芯鞘型複合繊維について例示する。芯鞘型複合繊維の芯成分の断面形状についても任意であるが、芯鞘界面の接着性が高まり、芯鞘型複合繊維の芯成分の比率、しいては成分Aの含有量が多くとも耐摩耗性に優れる繊維となる点で、芯成分の断面形状は、繊維の断面形状と相似形であることが好ましい。勿論本発明の芯鞘型複合繊維は図7の断面形状に限定されるものではない。なお本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分の数については任意であり、1本のフィラメントが内部に1個の芯成分を有しても良いし、複数個の芯成分を有しても良い。もちろん繊維横断面の重心と、芯成分の断面の重心が同一であっても、異なっていても良いが、繊維表面が均一に鞘成分で被覆されているほど耐摩耗性に優れるため、繊維横断面の重心と、芯成分の断面の重心は同一であることが好ましい。またマルチフィラメントにおいて、それぞれのフィラメントが有する芯成分の断面形状や、芯成分の数は、同一であっても異なっていても良い。
本発明にて好ましいとされるエアースタッファ捲縮糸である場合、捲縮糸のバルキー性が高いほど耐摩耗性に優れることから断面形状が丸形ではない異形断面形状であることが好ましい。また、異形断面とすることにより紡糸工程において糸条の冷却効果が高まり、高い応力が加えられるため島成分を均一に微細化できるため好ましい。さらに異形断面を採用することによって繊維の表面積が大きくなり、捲縮加工時の加熱効率が高まって捲縮がセットされ易く、捲縮の堅牢度に優れたものとなるため好ましい。具体的にはY型、多葉型、扁平型であることが好ましく、Y型あるいは扁平型であることが特に好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維が異形断面を有する場合、異形度が高いほど耐摩耗性、捲縮の堅牢度が優れたものとなるため好ましい。異形度は1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.8以上であることがさらにより好ましく、2以上であることが特に好ましい。上限については特に制限されないが、あまりに異形度が高いと、外力によって断面形状が変化し易くなって繊維の光沢感が変化し易くなるといったデメリットが生じることがあるため、異形度は8以下であることが好ましく、7.7以下であることがより好ましく、7.5以下であることがさらにより好ましく、7.2以下であることが特に好ましい。
本発明の異形度は単繊維の横断面をTEMにより観察し、横断面の外接円の直径D1と、内接円の直径D2の比(D1/D2)として定義する。異形断面が概ね線対称性、点対称性を保持すると判断される場合、内接円とは単繊維横断面において異形断面繊維の輪郭をなす曲線に内接する円であり、外接円とは単繊維横断面において異形断面繊維の輪郭をなす曲線に外接する円である。異形断面が線対称性、点対称性を全く保持しない形状であると判断される場合には、異形断面繊維の輪郭をなす曲線と少なくとも2点で内接し、繊維の内部にのみ存在して内接円の円周と異形断面繊維の輪郭をなす曲線とが交差しない範囲においてとりうる最大の半径を有する円を内接円とする。外接円は異形断面繊維の輪郭を示す曲線において少なくとも2点で外接し、単繊維横断面の外部にのみ存在し、外接円の円周と異形断面繊維の輪郭が交差しない範囲においてとりうる最小の半径を有する円を外接円とする。異形度の算出においては異なる箇所を切削して得た横断面10カ所について異形度を算出して平均化して求めた。
また、本発明の繊維の繊維を繊維構造体として用いる場合には、織物、編物、不織布、パイル、綿等に適用でき、他の繊維を含んでいても良い。例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維との引き揃え、撚糸、混繊であっても良い。他の繊維としては、木綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維や、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアクリロニトルおよびポリ塩化ビニルなどの合成繊維などが適用できる。
また、本発明の繊維を用いた繊維構造体の用途としては、耐摩耗性が要求される衣料、例えばアウトドアウェアやゴルフウェア、アスレチックウェア、スキーウェア、スノーボードウェアおよびそれらのパンツ等のスポーツウェア、ブルゾン等のカジュアルウェア、コート、防寒服およびレインウェア等の婦人・紳士用アウターがある。また、長時間使用による耐久性や湿老化特性に優れたものが要求される用途として、ユニフォーム、掛布団や敷布団、肌掛け布団、こたつ布団、座布団、ベビー布団、毛布等の布団類や枕、クッション等の側地やカバー、マットレスやベッドパッド、病院用、医療用、ホテル用およびベビー用のシーツ等、さらには寝袋、揺りかごおよびベビーカー等のカバー等の寝装資材用途があり、これらにも好ましく用いることができる。また、自動車用の内装資材にも好適に用いることができる。中でも高い耐摩耗性と湿老化特性が要求される自動車用カーペットに用いることが最適である。なお、これら用途に限定されるものではなく、例えば農業用の防草シートや建築資材用の防水シート等に用いても良い。
ここで、本発明における好ましい繊維構造体の用途である自動車用カーペットは、その加工形態は限定されるものではなく、例えば、段通、ウイルトン、ダブルフェイス、アキスミンスター等の織りカーペットや、タフティング、フックドラグ等の刺繍カーペットや、ボンデッド、電着、コード等の接着カーペットや、ニット、ラッセル等の編みカーペットや、ニードルパンチ等の圧縮カーペットに代表されるパイルをもつカーペット、あるいはその組み合わせを用いることができる。より低コストでボリューム感に富むカーペットを得るためには、少なくともパイル繊維糸である表糸と、この表糸をタフトした基布と、この基布の裏に張り付けたバッキング材から構成されるタフティングカーペットとすることが好ましい。
本発明の芯鞘型複合繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下の様な方法を採用することができる。
すなわち、ポリL乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂(成分A)とナイロン6などの熱可塑性ポリアミド樹脂(成分B)を別々に計量しながら成分Bの融点(Tmb)〜成分Bの融点(Tmb)+40℃で、2軸押出混練機または1軸押出混練機を用いて混練し、ポリマーアロイを製造する。このとき島成分の直径を制御し易いことから、2軸押出混練機を用いることが好ましい。そしてポリマーアロイ構造と、島成分の直径を制御する手法としては、前記2成分(成分Aと成分B)のブレンド比、溶融粘度比を前記した範囲で調整し、剪断速度200〜20,000sec−1、滞留時間0.5〜30分の範囲で混練することで制御できる。特に島成分の直径を小さくする方法としては、上記範囲で混練温度が低い方がよく、剪断速度が高い方がよく、滞留時間が短い方が良い。繊維の芯成分を構成する成分Aと成分Bを含んでなるポリマーアロイ樹脂は、紡糸機とは別の押出混練機にて予め調整したものを乾燥した後に用いても、紡糸機に付帯する押出混練機で紡糸時に連続的に調整しても良い。また予め調整して用いる場合には、芯成分に用いるポリマーアロイ全てが予め調整されたチップであっても良く、成分Aまたは成分Bを高濃度で混練したマスターチップを調整し、該マスターチップと成分Aおよび/または成分Bをチップブレンドして用いても良い。より成分Aと成分Bをより均一に分散させ易く、かつ成分Aの熱劣化を抑制し易いことから、紡糸機に付帯する1軸混練機および/または2軸押出混練機で、成分Aと成分Bのポリマーアロイを連続的に調整して紡糸パックに供給する方法を用いることが好ましい。
前記の成分Aと成分Bからなるポリマーアロイ樹脂を芯成分として用い、ナイロン6などの熱可塑性ポリアミド樹脂(成分C)を鞘成分として、溶融紡糸法にて繊維化する。芯成分と鞘成分について別々の押出混練機にて溶融させ、別々のギヤポンプで計量し、紡糸パック内部の紡糸口金にて合流させて吐出するが、このとき島成分(成分A)の再凝集を抑制するために、芯成分の濾層にはハイメッシュの濾層(#100〜#200)やポーラスメタル、濾過径の小さい不織布フィルター(濾過径5〜30μm)、パック内ブレンドミキサー(スタティックミキサーやハイミキサー)を組み込む等の工夫が必要である。
芯成分の脂肪族ポリエステル(成分A)とポリアミド(成分B)とのポリマーアロイは非相溶系であり、溶融体は弾性項の強い挙動を示すため、紡出後にバラスと呼ばれる膨らみが発生し、細化・変形を不安定にさせる傾向がある。本発明の鞘成分であるポリアミド(成分C)にはバラスを抑制する効果があり、成分Cの溶融粘度、鞘成分の厚みを前記した範囲で調整することが有効である。またバラスを抑制する方法としては、紡糸温度を高くして伸長粘度を下げたり、紡糸口金の吐出孔径を大きくし、吐出線速度(吐出孔の最終絞り部のポリマー流速)を低下せしめたり、吐出孔長と孔径の比であるL/Dを長くする方法、吐出糸条を急冷する方法等が有効である。なお本発明における吐出孔長とは、図8に示した口金孔の断面模式図における43の長さを指すものであり、孔形状が吐出孔の形状と同形状に保たれた部分の長さであり、ポリマーを吐出する際の流速を制御する部分である。また吐出孔が丸穴である場合、孔径とは図8に示した口金下面部の模式図において44の長さを指すものである。また、Y孔、多葉孔、扁平孔における、スリット長とスリット幅とは、図8に示した口金下面部の模式図において、スリット長さは45の長さ、スリット幅は46の長さを指すものである。
本発明における、芯鞘型複合繊維は複数の口金を図9のごとく組み合わせ、芯成分と鞘成分を吐出孔にて合流させることによって得ることができる。なお本発明における吐出線速度は、図9の48のポリマー吐出直前の口金について、吐出孔面積、総吐出量、孔数から下記式を用いて計算する。紡糸口金の孔形状が孔間で異なる場合、すべての孔の吐出面積の平均値を算出し、その面積に最も近い孔の吐出面積を用いて下記式にて吐出線速度を算出した。
吐出線速度(m/分)=Q/H/ρ/A/100
Q:総吐出量(g/分)
H:ホール数
ρ:溶融密度(g/分)
ρ=1.08×繊維総重量に対する成分Aの含有量(wt%)/100+1.00×(1−繊維総重量に対する成分Aの含有量(wt%)/100)
A:吐出面積(cm2)
例えば、口金孔形状がY孔の場合(図8参照)には、A(cm2)=3×スリット幅(cm)×スリット長(cm)+(スリットで囲まれた真ん中の三角形)の式で吐出面積を計算できるが、スリット幅がスリット長に比べ、無視できる位小さい場合には、(スリットで囲まれた真ん中の三角形)の面積を無視して、A(cm2)=3×スリット幅(cm)×スリット長(cm)の式で吐出面積を計算しても良い。
紡糸温度は成分B(ポリアミド)の融点により決めることができ、最適な範囲は成分Bの融点Tmb+5℃〜Tmb+40℃(例えば、成分Bの融点Tmbが200℃の場合は205〜240℃)である。また、前記紡出糸条のバラスによる膨らみを抑制し、細化・変形を安定させるための吐出線速度は好ましくは1〜20m/分であり、より好ましくは2〜15m/分、さらに好ましくは3〜12m/分である。また、L/Dは好ましくは0.6〜10であり、より好ましくは0.8〜7であり、さらに好ましくは1〜5である。また、冷却開始位置は口金面からの距離である口金面深度が浅い(冷却開始位置と口金面からの距離が短い)ほど、紡出糸におけるバラスの発生を抑制できるため好ましい。しかしながらあまりに口金面深度が浅いと、口金面が冷えて紡出糸が未溶融のポリマーを含んで吐出不良を招き、結果として繊維の均一性や、強度が低いものとなることがあるため注意が必要である。このため口金面深度は0.01〜0.15mであることが好ましく、0.015〜0.1mがより好ましい。さらに好ましくは0.02〜0.05mである。また、口金面の温度が低くならないように、口金面の周囲にリングヒーターを配置し、口金面を積極的に加熱する手法も好ましい。
また、紡糸速度の最適値は成分Aと成分Bとの溶融粘度の比、およびブレンド比により異なるが、大凡500〜5000m/分とすることが好ましい。本発明の芯鞘型複合繊維は、適切な強度、伸度などの力学物性を備えることが好ましく、捲縮加工を施した時に高捲縮が発現することが好ましいことから、得られる芯鞘型複合繊維の伸度が15〜70%の範囲となるように、延伸および熱処理を施し、配向結晶化させることが好ましい。例えば紡糸速度が500〜3000m/分と比較的低い紡糸速度である場合には、1.5〜6倍で延伸することが好ましく、より好ましくは2〜5倍で延伸することが好ましい。また例えば紡糸速度が3000m/分以上と比較的高い紡糸速度である場合には、1.1〜4倍で延伸することが好ましく、1.2〜3倍で延伸することがより好ましい。延伸温度や熱処理温度は成分Aおよび成分Bのガラス転移点や融点により、適宜選択すれば良いが、延伸温度は20〜80℃、熱セット温度は100〜200℃で実施することができる。
また本発明の繊維は未延伸繊維の状態で放置すると配向緩和が生じやすく、未延伸パッケージ間で延伸するまでの時間差があると、容易に繊維の強伸度特性や熱収縮特性がばらつく。そのため、紡出した未延伸糸の芯鞘型複合繊維をロールにて引き取った後、巻き取ることなく連続的に延伸、熱処理する、すなわち1工程で紡糸と延伸を行う、直接紡糸延伸法を採用することが好ましい。
このようにして得た延伸糸に捲縮加工を施すことによって、高い捲縮を有する捲縮糸が得られる。本発明にて特に好ましい捲縮形態であるエアースタッファ捲縮を付与する場合には、通常の加熱流体加工処理を施す捲縮付与装置を用いればよく、例えば、ジェットノズルタイプ、ジェットスタッファタイプ、さらにあるいはギヤ方式など各種の捲縮付与方法が採用される。高い捲縮付与とその顕在化を達成するためにはジェットノズル方式が好ましく、例えば米国特許第3,781,949号明細書に記載の捲縮ノズルなどが好ましく使用される。目的用途に応じて適宜選択すれば良いが、捲縮糸の沸騰水処理後の捲縮伸長率、拘束荷重下伸長率の高い捲縮糸を得るには、捲縮ノズル内における糸温度を高くすることが好ましく、該捲縮ノズルに供糸する前に、熱ローラーや熱プレートなどの熱源により予め熱処理を施すことが極めて有効である。このため、捲縮ノズル前の熱源の温度は130〜220℃とすることが好ましく、150〜210℃とすることがより好ましく、170〜200℃とすることが特に好ましい。また捲縮を付与した後に、捲縮を固定する目的で、例えば特開平5−321058号公報に記載のごとく、冷却装置、さらにはロータリーフィルタを組み合わせても良い。
また、本発明の芯鞘型複合繊維がエアースタッファ捲縮糸である場合、紡糸、延伸工程と同様に、パッケージ間で配向緩和が起こることによって熱収縮特性がばらつくと、捲縮特性が長手方向にばらついて製品品位が低下することがある。このため、紡糸、延伸、捲縮加工の3工程を1工程で行うことが最も好ましい。
以下、本発明を、実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.脂肪族ポリエステルの重量平均分子量
試料(脂肪族ポリエステルポリマー)のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。測定条件は下記の通りである。
GPC装置:Waters2690
カラム:Shodex GPC K-805L (8mmID*300mmL) 2本連結して使用
溶媒:クロロホルム(和光、HPLC用)
温度:40℃
流速:1ml/分
試料濃度:10mg/4ml
濾過:マイショリディスク0.5μ-TOSOH
注入量:200μl
検出器:示差屈折計RI(Waters 2410)
スタンダード:ポリスチレン(濃度:サンプル0.15mg/溶媒1ml)
測定時間:40分。
B.ポリ乳酸の残存ラクチド量
試料(ポリ乳酸ポリマー)1gをジクロロメタン20mlに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加した。さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、島津社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線にてラクチド量を求めた。
C.熱可塑性ポリアミドの硫酸相対粘度
ナイロン6の硫酸相対粘度は、0.01g/mLの98%硫酸溶液を調製し25℃で測定した。
D.ポリマーの融点
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、芯鞘型複合繊維の元ポリマーである試料(成分A、成分B、成分C)20mgを昇温速度16℃/分にて測定して得た示差熱量曲線において吸熱側に極値を与える温度を融点(℃)とし、該ピークをそのポリマーの融解ピークと判断した。元ポリマーの結晶性の有無は、融解ピークの面積から算出される熱容量が10J/g以上である場合、結晶性を有すると判断した。
元ポリマーを入手出来ない場合は、繊維の示差熱量曲線を持って、元ポリマーの融点を判別する。繊維の示差熱量曲線の融解ピークがどの成分に帰属するかについては下記の方法より判別した。
まず、芯鞘型複合繊維(繊維1:成分A、成分B、成分Cを含む繊維)を試料とし、上記と同じ測定条件でDSC測定を行い、示差熱量曲線1を得た。
次に、芯鞘型複合繊維(繊維1)中の成分Aを溶媒(クロロホルム)にて除去し、得られた繊維を水洗し、24時間室温にて真空乾燥した後の繊維(繊維2:成分Bと成分Cを含む繊維)について、上記と同条件にてDSC測定を行い、示差熱量曲線2を得た。示差熱量曲線1と2を比較して、消失した融解ピークを、成分Aの融解ピークであると判断し、示差熱量曲線1から融点を求めた。
次に、芯鞘型複合繊維(繊維1)中の成分Cを、溶媒(硫酸溶液)にて除去し、得られた繊維を水洗し、24時間室温にて真空乾燥した後の繊維(繊維3:成分Aと成分Bを含む繊維)について、上記と同条件によりDSC測定を行って示差熱量曲線3を得た。示唆熱量曲線1、2、3を比較することにより、成分Cの融点を判別した。このとき繊維3を得るために、実質的に成分C(鞘成分)のみを除去する溶媒処理条件(溶媒温度、浸漬時間)を予め決定した。すなわち、芯鞘型複合繊維を一定温度の溶媒(硫酸溶液)に、一定時間浸した後、取り出して、得られた繊維を水洗し、24時間室温にて真空乾燥する。この繊維について、光学顕微鏡で繊維側面を観察し、鞘成分が除去されているかどうか確認する。複数の溶媒処理条件(溶媒温度、浸漬時間)について上記操作を繰り返し、実質的に成分C(鞘成分)のみを除去する溶媒処理条件を予め決定した。
E.芯鞘型複合繊維の示差熱量曲線の融解ピークの熱容量の総和
本発明の芯鞘型複合繊維を試料とし、D項と同じ条件で示差熱量曲線を得た。示差熱量曲線に存在する吸熱側に極値を示すピークを融解ピークと判断し、それぞれの融解ピークの面積から求められる熱容量を積算して熱容量の総和とした。
F.溶融粘度η
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、チッソ雰囲気下において、融点が240℃以下の樹脂については温度240℃で、融点が240℃以上の樹脂の場合には融点+20℃で、剪断速度1216sec−1における脂肪族ポリエステル樹脂(成分A)および熱可塑性ポリアミド樹脂(成分B、成分C)の溶融粘度を、それぞれ測定をした。測定は3回行い平均値を溶融粘度とした。
G.ポリマーアロイ構造の同定
芯鞘型複合繊維の繊維軸と垂直の方向に超薄切片を切り出し、該切片のポリアミド成分をリンタングステン酸にて金属染色し、4万倍の透過型電子顕微鏡(TEM)にてポリマーアロイ構造を観察・撮影した。このとき島成分が染色されていない場合をポリマーアロイ構造(a)と判定し、島成分が染色されている場合をポリマーアロイ構造(b)であると判定し、島成分と海成分が判別できない(それぞれの成分が略円形を呈しておらず、島と海の判別ができない)場合をポリマーアロイ構造(c)であると同定した。
TEM装置:日立社製H−7100FA型
条件:加速電圧 100kV。
H.島成分の直径の測定
Gの項において、ポリマーアロイ構造が(a)または(b)と判定された場合、同様にして撮影した画像を、三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF」を用い、島成分を円と仮定し、島成分の面積から換算される直径を島成分の直径として計測した。なお、測定する島数は1試料あたり100個とし、その分布を島成分の直径分布とした。
I.成分A/成分Bのブレンド比率(重量比)
溶融紡糸に供する際の成分Aと成分Bの重量をそれぞれ計量し、成分Aと成分Bのブレンド比率により算出した。
製造工程において、成分Aと成分Bをそれぞれ計量することが困難な場合、芯鞘型複合繊維から、成分A/成分Bのブレンド比率(重量比)を算出した。本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分は成分Aと成分Bとその他の少量成分を含むことがあるが、かかる場合、芯成分が実質的に成分Aと成分Bの2成分のみからなるものとみなして、成分A/成分Bのブレンド比率(重量比)を算出することができる。
Gの項において撮影した画像を用い、三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF」を用い、芯成分を構成する成分Aの総面積(Aa)と成分Bの総面積(Ab)とを求め、成分Aの比重を1.26、成分Bの比重を1.14として、下記の式を用いて算出した。
成分A/成分B=(Aa×1.26)/(Ab×1.14)。
このとき横断面において鞘成分と、芯成分との境界線が判別しにくい場合は、横断面において、最外層に存在する成分Aと外接し、成分Aを内部のみ含む繊維横断面と相似形の図形を境界線として、鞘成分と芯成分とを判別した。
J.鞘成分の厚み
Gの項において、撮影した画像を用いて、鞘成分と芯成分を判別し、鞘成分の厚みをランダムに10カ所計測して、平均値を求めた。また最も鞘成分の厚みが薄い部分の厚みについて測定し、鞘成分の厚みの最小値とした。横断面において鞘成分と、芯成分との境界線が判別しにくい場合は、Iの項と同様の手法により判別した。
K.成分Aの含有量
10gの芯鞘型複合繊維を取り出し、その重量(W1)を秤量して試料とした。該試料を25℃のクロロホルム500mlに24時間浸して、成分Aを完全に溶脱処理した。溶脱処理後の芯鞘型複合繊維を水洗し、25℃で24時間乾燥した後、繊維の重量(W2)を秤量した。W1、W2を用いて、成分Aの含有量を下記の式にて算出した。
成分Aの含有量(重量%)=(W1−W2)×100/W1。
L.強度および伸度
試料(芯鞘型複合繊維)をオリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100でJIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法、1998年)に示される定速伸長条件で測定した。なお、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
M.沸騰水収縮率(沸収)
芯鞘型複合繊維を沸騰水に15分間浸積し、浸積前後の寸法変化から次式により求めた。
沸騰水収縮率(%)=[(L0−L1)/L0]×100
L0:試料をかせ取りし、初荷重0.088cN/dtex下で測定したかせ長。
L1:L0を測定したかせを荷重フリーの状態で沸騰水処理し、25℃、乾湿度65%で24時間乾後、初荷重0.088cN/dtex下で測定されるかせ長。
N.糸斑U%
芯鞘型複合繊維を試料とし、Zellwegen Uster社製UT4−CX/Mを用い、糸速度:200m/分、測定時間:1分間でU%(Normal)を測定した。
O.異形度
Fの項で撮影した画像を用いて、単繊維横断面の外接円の直径D1と、単糸横断面の内接円の直径D2から次式により求めた。
異形度=D1/D2。
P.沸騰水処理後の捲縮伸長率
室温25℃、相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置されていたパッケージから解舒した捲縮糸を、無荷重状態で、30分間沸騰水で浸漬処理した後、室温25℃、相対湿度65%で24時間乾燥し、これを沸騰水処理後の捲縮伸長率を測定する試料とした。この試料に、室温25℃、相対湿度65%の雰囲気下において、2mg/dtexの初荷重をかけ、30秒経過した後に試料長50cm(L1)にマーキングをした。次いで初荷重を除去した後、同試料に100mg/dtexの定荷重をかけて30秒経過後に伸びた試料長(L2)を測定する。そして下記式により、沸騰水処理後の伸長率(%)を求めた。
沸騰水処理後の伸長率(%)=[(L2−L1)/L2]×100。
Q.2mg/dtex荷重下での沸騰水処理後の伸長率(拘束荷重下伸長率)
Pの項において、沸騰水で浸漬処理する際に、捲縮糸に2mg/dtexの荷重を吊り下げた状態で、該捲縮糸を沸騰水処理する以外は、Pの項と同様にして、拘束荷重下伸長率を測定した。
R.延伸糸の耐摩耗性評価
一定回転速度で回転するローラーにサンドペーパー(P600番)を巻き付けて固定し、図3に示す様に延伸糸の片端を壁に固定し、他端に荷重をかけ、一定速度で延伸糸をトラバースさせながら、ローラーを回転させてサンドペーパーで延伸糸を削り、延伸糸が切断するまでのローラー回転数を測定した。以下に測定条件を示す。
回転体直径:80mm
糸の接触長:62.8mm
糸の接触角:90°
ローラー回転数:160rpm
トラバース幅:10mm
トラバース速度:3回
測定荷重:0.06cN/dtex。
S.捲縮糸の耐摩耗性評価
捲縮糸にS撚、Z撚をかけて双糸2本合わせて撚糸した後、該撚糸を表糸としてPPスパンボンド不織布にタフティングした後、基布の裏にバッキング材を塗布して乾燥し、タフティングカーペットを得た(目付1200g/m2)。
前記タフティングカーペットを直径120mmの円形状に切り出し、中央に6mmの穴を空けて試験片とした。該試験片を、ASTM D 1175(1994)に規定されるテーバー摩耗試験機(Rotary Abraster)に表面を上にして取り付け、H#18摩耗綸、圧縮荷重1kgf、試料ホルダ回転速度70rpm、摩耗回数5500回の摩耗試験を行った前後の試料重量を測定した。これらの測定値と下記の式を用いて摩耗減量率を算出した。
摩耗減量率(%)=(W0−W1)×100/(W2×A1/A0)
W0:測定前の円形カーペットの重量(g)
W1:測定後の円形カーペットの重量(g)
W2:カーペットの目付(g/m2)
A0:円形カーペットの全面積(m2)
A1:摩耗輪が接触する部分の全面積(m2)。
S.製糸性の評価
100kgのチーズパッケージを得るに際し、糸切れが起こった回数により製糸性の評価を行った。評価は優れる(二重丸)、良好(○)、可(△)、不可(×)の4段階で評価した。
二重丸:糸切れ無し
○:糸切れ1〜5回
△:糸切れ6〜10回
×:糸切れ11以上。
T.アイロン耐熱性
芯鞘型複合繊維からなる丸編みを作製し、スチームアイロン(三洋電機(株)社製のスチームアイロンA−1F)のアイロン表面温度が170℃の温度に達したら布帛にアイロン自重(面圧約8g/cm2)で10秒間プレスし、プレス後の外観変化を下記の基準で評価した。
二重丸:外観に変化なし
○:若干のアタリ有
△:明確なアタリ有
×:繊維間で部分的に融着あり
××:溶融による穴あきあり。
[製造例1](ポリ乳酸、PLA−1の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で220分間重合を行い、ポリ乳酸(PLA−1)を得た。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は21万であった。また、残留しているラクチド量は0.13重量%であった。該ポリマーの融点は170℃、溶融粘度は200Pa・sec−1であった。
[製造例2](ポリ乳酸、PLA−2の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で150分間重合を行い、ポリ乳酸(PLA−2)を得た。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は15万であった。また、残留しているラクチド量は0.10重量%であった。該ポリマーの融点は170℃、溶融粘度は120Pa・sec−1であった。
[製造例3](ポリ乳酸、PLA−3の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドと、光学純度99.5%のD乳酸から製造したラクチドと、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(L乳酸ラクチド:D乳酸ラクチド:触媒モル比=8900:1100:1)とを存在させてチッソ雰囲気下180℃で220分間重合を行い、ポリ乳酸(PLA−3)を得た。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は21.2万であった。また、残留しているラクチド量は0.12重量%であった。該ポリマーの融点は130℃、溶融粘度は200Pa・sec−1であった。
(実施例1)
成分Aとしてポリ乳酸(PLA−1、融点170℃、溶融粘度200Pa・sec−1)、成分Bとして硫酸相対粘度2.15のナイロン6(N6−1、融点225℃、溶融粘度60Pa・sec−1)、成分Cとして硫酸相対粘度2.60のナイロン6(N6−2、融点225℃、溶融粘度150Pa・sec−1)、をそれぞれ乾燥して水分率を50〜100ppmに調整した。
図1に示す2軸混練機を備えた紡糸装置を用いて、溶融紡糸を行うに際し、紡糸ホッパー1の芯成分ホッパーに、成分A(PLA−1)/成分B(N6−1)をブレンド比=40/60(重量比)となるように別々に計量してチップブレンドして投入し、紡糸ホッパー2の鞘成分ホッパーには成分C(N6−2)を投入し、成分Aと成分Bのブレンドポリマー、成分Cを、それぞれ2軸押出混練機3、4にて別々に溶融および混練して紡糸ブロック5に導き、ギヤポンプ6、7にてそれぞれのポリマーを計量、排出し、内蔵された紡糸パック8に導き、紡糸口金9から紡出した。この時、芯成分/鞘成分の複合比=80/20(重量比)となるように、芯成分、鞘成分のギヤポンプの回転数を選定した(芯鞘型複合繊維は総重量に対して成分Aを32重量%含有している)。そしてユニフロー冷却装置10で糸条11を冷却固化し、給油装置12により給油した。さらに第1ロール13で引き取った後、第2ロール14、第3ロール15の速度比により延伸を施し、第3ロール15で熱処理を施し、第4ロール16で糸を室温に冷却し、巻取機17で巻き取ることにより、紡糸、延伸、熱処理を1段階で施した900デシテックス60フィラメントの延伸糸(チーズパッケージ17)を得た。紡糸は約100kgサンプリングしたが糸切れ、単糸流れ等は発生せず、極めて安定していた。
なお、成分Aの溶融粘度は200Pa・s、成分Bの溶融粘度は60Pa・sであるため、溶融粘度の比ηb/ηaは0.30であった。
溶融紡糸条件は以下のとおりである。
・混練機温度:230℃
・紡糸温度:240℃
・濾層:30#モランダムサンド充填
・フィルター:20μm不織布フィルター
・口金1(ポリマー吐出直前の口金):孔径0.6mm、吐出孔長1.2mm、孔数60
・口金2(口金1の直前にあり芯成分、鞘成分に別々の流路を有するもの):
鞘成分 孔径0.4mm、吐出孔長0.5mm、1フィラメントに対して孔数4
芯成分 孔径0.6mm、吐出孔長0.9mm、1フィラメントに対して孔数1
・吐出量:270g/分(1パック1糸条、60フィラメント)
・冷却:冷却長1mのユニフロー使用。冷却風温度20℃、風速0.5m/秒、冷却開始位置は口金面下0.1mである。
・油剤:脂肪酸エステル10%濃度エマルジョン油剤を糸に対して10%付着
・第1ロール速度:750m/分
・第2ロール速度:775m/分
・第3ロール速度:3100m/分
・第4ロール速度:3050m/分
・巻取速度:3000m/分
・第1ロール温度:25℃
・第2ロール温度:80℃
・第3ロール温度:140℃
・第4ロール温度:25℃。
得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島成分の直径は0.05〜0.20μmであった。また非染色成分が島成分を形成していることから、成分Aが島、成分Bが海の海島構造(ポリマーアロイ構造(a))であった。
また、得られた繊維は強度4.5cN/dtex、伸度45%、沸騰水収縮率10%、糸斑U%0.8%と良好な繊維物性を示した。さらに摩耗試験による糸切断回転数は1142回であり、試験時にフィブリル化の発生もなく、耐摩耗性に優れていた。
該芯鞘型複合繊維の丸編を作製してアイロン耐熱性試験を行ったところ、全く外観の変化はなく、耐熱性に優れた繊維であった。そして該繊維のDSCを測定したところ、170℃近傍と(成分Aに由来するピーク)および225℃近傍(成分Bと成分Cに由来するピーク)と、各成分起因の融解ピークが観測された。それぞれの融解ピークの熱容量の総和は72J/gであり、十分な結晶性を有していた。
(実施例2〜5、比較例1)
実施例1において、芯成分のホッパーに充填する成分Aと成分Bのブレンド比率を、変更した以外は実施例1と同様にして実施例2〜5、比較例1の延伸糸を得た。実施例2〜5、比較例1の結果を表1に、それぞれにおける成分Aと成分Bのブレンド比率(重量比)を下記に示す。
・実施例2:成分A/成分B=20/80
・実施例3:成分A/成分B=55/45
・実施例4:成分A/成分B=70/30
・実施例5:成分A/成分B=90/10
・比較例1:成分A/成分B=100/0
実施例1〜5、比較例1から分かるように、芯成分の成分A、成分Bのブレンド比率を本発明にて好ましいとされる範囲とすることによって、芯成分のポリマーアロイ構造、島成分の直径が好ましい範囲にある芯鞘型複合繊維とすることができる。このため成分Aの含有量が高くとも耐摩耗性、耐熱性に優れた延伸糸を得ることができる。実施例1〜5、比較例1の結果を表1に示す。
(実施例6〜8、比較例2)
実施例1において、芯成分と鞘成分の複合比を変更し、得られる延伸糸の鞘成分の厚みを変更した以外は、実施例1と同様にして実施例6〜8、比較例2の延伸糸を得た。実施例6〜7については糸切れ無く製糸性が優れていたのに対し、実施例8は100kgの紡糸において糸切れが1回発生し、比較例2については紡出糸のバラスが大きく、細化点が変動し易く、100kgの紡糸において糸切れが6回発生した。実施例6〜8、比較例2の結果を表2に示す。それぞれにおける芯成分と鞘成分の複合比(重量比)を下記に示す。なお比較例2では、口金2として鞘成分の流路を有さない下記のスペックのものを用いた。
・実施例6:芯成分/鞘成分=85/15
・実施例7:芯成分/鞘成分=90/10
・実施例8:芯成分/鞘成分=95/5
・比較例2:芯成分/鞘成分=100/0
・比較例2の口金2:鞘成分 孔なし、芯成分 孔径0.6mm、吐出孔長0.9mm、1フィラメントに対して孔数1
実施例1(表1)、実施例6〜8、比較例2(表2)を比較するとわかるように、本発明の芯鞘型複合繊維は、鞘成分を有することによって、良好な耐摩耗性を示すことがわかる。また鞘成分が厚いほど、耐摩耗性に優れるだけでなく、紡出糸におけるバラスの発生を抑制できるため製糸性に優れ、均一性に優れた延伸糸が得られることがわかる。
(実施例9)
実施例1において、成分Aとしてポリ乳酸(PLA−3、融点130℃、溶融粘度200Pa・sec−1)、を用いた以外は実施例1と同様にして、紡糸、延伸、熱処理を行い実施例9の延伸糸を得た。紡出糸から発煙が確認され、また100kgの延伸糸の作製において、糸切れが3回発生した。得られた延伸糸の耐摩耗性は511回、強度2.5cN/dtex、U%1.8と、実施例9より、実施例1の方が耐摩耗性、強度、均一性に優れていた。実施例9の結果を表3に示す。
実施例1(表1)、実施例9(表3)を比較してわかるように、成分Aとして本発明にて好ましいとされる融点範囲の脂肪族ポリエステル樹脂を用いることによって、紡糸工程における成分Aの熱劣化を抑制でき、得られる芯鞘型複合繊維の芯成分において、本発明にて好ましいとされるポリマーアロイ構造、島成分の直径を形成し易くなることがわかる。
(実施例10〜14)
実施例1において、成分B、成分Cとして用いるポリアミド樹脂を変更した以外は、実施例1と同様にして紡糸、延伸、熱処理を行い実施例10〜14の延伸糸を得た。実施例13、14は融点260℃のポリアミド樹脂で有るため、該ポリアミド樹脂を溶融させるために混練機温度を270℃、紡糸温度を280℃として紡糸を行った。実施例10〜12については、実施例1と同様にバラスの発生は小さく、製糸は安定を極めたが、実施例13〜14の紡出糸は成分Aの熱分解に起因すると考えられる発煙が観察されバラスも大きかった。実施例13では糸切れが9回、実施例14では糸切れが8回観察され、実施例1の方が製糸性に優れていた。実施例10〜14の結果を表3に示す。なお実施例10〜14で成分B、成分Cに用いたポリアミド樹脂を下記に示す。
・実施例10:成分B=N610−1、成分C=N610−2
・実施例11:成分B=N6/N66、成分C=N6−2
・実施例12:成分B=N6−1、成分C=N11
・実施例13:成分B=N66−1、成分C=N6−2
・実施例14:成分B=N6−1、成分C=N66−2
N6/N66:N6とN66がモル比80/20で共重合されたナイロン、硫酸相対粘度2.20、融点200℃、溶融粘度60Pa・sec−1)
N610−1:ナイロン610、硫酸相対粘度2.15、融点225℃、溶融粘度60Pa・sec−1
N610−2:ナイロン610、硫酸相対粘度2.60、融点225℃、溶融粘度150Pa・sec−1
N66−1:ナイロン66、硫酸相対粘度2.15、融点260℃、溶融粘度60Pa・sec−1
N66−1:ナイロン66、硫酸相対粘度2.60、融点260℃、溶融粘度150Pa・sec−1
N11:ナイロン11、融点185℃、溶融粘度150Pa・sec−1
表1、表3から分かるように、実施例1(表1)、実施例10〜11(表3)の延伸糸は実施例12(表3)よりも耐摩耗性に優れた延伸糸となる。すなわち、本発明において成分Bと成分Cが同種類のモノマーを主たる成分とするポリアミド樹脂で構成することにより、芯成分と鞘成分の界面の接着性が向上し、耐摩耗性に優れた延伸糸となることが分かる。
また、実施例1(表1)、実施例10〜14(表3)から分かるように、成分B、成分Cとして本発明にて好ましいとされる融点範囲のポリアミドを採用することにより、成分Aの熱分解が起こりにくい温度で溶融紡糸を行うことが可能となる。これにより、ポリマーを溶融してから紡出するまでの間、成分Aの溶融粘度を高く維持することができる。このため本発明にて好ましいとされるポリマーアロイ構造aを形成せしめ易く、また粗大な島成分を含まない延伸糸となるため、耐摩耗性に優れた延伸糸となることが分かる。
(実施例15〜17)
実施例1において、成分A、成分Bとして用いる熱可塑性樹脂を変更した以外は、実施例1と同様にて、紡糸、延伸、熱処理を行い実施例15〜17の延伸糸を得た。実施例15については糸切れ2回と良好な製糸性を示した。実施例16、17については紡出糸におけるバラスが大きくやや糸揺れがあり、糸切れ7回、8回であったことから、実施例15の方が製糸性は良好であった。実施例15〜17の結果を表4に示す。実施例15〜17で用いた、成分A、成分Bについて下記に示す。
・実施例15:成分A=PLA−1、成分B=N6−2
・実施例16:成分A=PLA−2、成分B=N6−2
・実施例17:成分A=PLA−2、成分B=N6−3
N6−3:ナイロン6、硫酸相対粘度3.15、融点225℃、溶融粘度300Pa・sec−1
実施例1(表1)、実施例15〜17(表4)を比較すると、本発明において、成分Aと成分Bの粘度比を好ましい範囲で選択することによって、芯成分のポリマーアロイ構造、島成分の直径を本発明の好ましい範囲とすることができ、より耐摩耗性に優れる芯鞘型複合繊維となることが分かる。
(実施例18〜19)
実施例1において、成分Cとして用いるポリアミド樹脂を変更した以外は、実施例1と同様にして、紡糸、延伸、熱処理を行い実施例18〜19の延伸糸を得た。実施例18〜19で使用した成分Cを下記に、実施例18〜19の結果を表4に示す。
・実施例18:成分C=N6−1
・実施例19:成分C=N6−3
実施例1(表1)、実施例18〜19(表4)を比較すると、本発明において成分Cとして好ましい範囲の溶融粘度のポリアミドを採用することにより、耐摩耗性に優れた延伸糸となることが分かる。実施例19では、繊維横断面観察において芯成分の偏心(芯成分と鞘成分の重心が異なる)が確認され、場所によって鞘成分の厚みに違いがみられた。
(実施例20)
実施例1において、紡糸機として、図2に示す2軸混練機を備えた紡糸連続捲縮付与装置を用い、溶融紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理を連続的に施し、エアースタッファ捲縮糸を得た。
図2に示した芯成分ホッパー18に、成分A(PLA−1)/成分B(N6−1)をブレンド比=40/60(重量比)となるように別々に計量してチップブレンドして投入し、鞘成分ホッパー19には成分C(N6−2)を投入し、成分Aと成分Bのブレンドポリマー、成分Cを、それぞれ2軸押出混練機20、21にて別々に溶融および混練して紡糸ブロック22に導き、ギヤポンプ23、24にてそれぞれのポリマーを計量、排出し、内蔵された紡糸パック25に導き、三葉断面用口金の細孔を120ホール有する、紡糸口金26から紡出した。この時、芯成分/鞘成分の複合比=80/20(重量比)となるように、芯成分、鞘成分のギヤポンプの回転数を選定した(芯鞘型複合繊維は総重量に対して成分Aを32重量%含有している)。そしてユニフロー冷却装置27で糸条28を冷却固化し、給油装置29により給油した。さらに第1ロール30で引き取った後、第2ロール31、第3ロール32の速度比により延伸を施し、第3ロール32で熱処理を施し、第3ロール32、第4ロール33の速度比によりさらに延伸を施し、第4ロール33で再度熱処理を施し、第4ロールと第5ロールとの間で糸条をリラックスさせながら加熱流体を用いる捲縮処理ノズル34にてエアースタッファ捲縮を付与し、第5ロール35の表面において捲縮糸を室温に冷却して構造固定し、第6ロール36、第7ロール37の間で捲縮を伸ばさない程度の張力(0.05〜0.10cN/dtex、繊度は巻取った捲縮糸の繊度を用いる)をかけながらストレッチし、巻取機38で巻き取ることにより、紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理を1段階で施した1800デシテックス120フィラメントのエアースタッファ捲縮糸を得た(チーズパッケージ39)を得た。約100kgサンプリングしたが糸切れ、単糸流れ等は発生せず、製糸は極めて安定していた。実施例20の結果を表5に示す。
なお溶融紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理条件は以下のとおりである。
・混練機温度:230℃
・紡糸温度:240℃
・濾層:30#モランダムサンド充填
・フィルター:20μm不織布フィルター
・口金:スリット幅0.15mm、スリット長1.5mm、孔数120
・口金1(ポリマー吐出直前の口金):スリット幅0.15mm、スリット長1.5mm、孔数120
・口金2(図9の模式図47の口金。口金1の直前にあり芯成分、鞘成分に別々の流路を有するもの):
鞘成分 孔径0.4mm、吐出孔長0.5mm、1フィラメントに対して孔数4
芯成分 スリット幅0.08mm、スリット長1.2mm、1フィラメントに対して孔数1
・吐出量:360g/分(1パック1糸条、120フィラメント)
・冷却:冷却長1mのユニフロー使用。冷却風温度20℃、風速0.5m/秒、冷却開始位置は口金面下0.1m
・油剤:脂肪酸エステル10%濃度エマルジョン油剤を糸に対して10%付着
・第1ロール温度:25℃
・第2ロール温度:75℃
・第3ロール温度:140℃
・第4ロール温度:190℃
・第5ロール温度:25℃
・第6ロール温度:25℃
・第7ロール温度:25℃
・加熱蒸気処理温度:225℃
・第1ロール速度:690m/分
・第2ロール速度:700m/分
・第3ロール速度:1750m/分
・第4ロール速度:2800m/分
・第5ロール速度:80m/分
・第6ロール速度:2000m/分
・第7ロール速度:2040m/分
・巻取速度:2000m/分
得られたエアースタッファ捲縮糸の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島成分の直径は0.05〜0.30μmであった。また非染色成分が島成分を形成していることから、成分Aが島、成分Bが海の海島構造(ポリマーアロイ構造a)であった。また捲縮伸長率25%、拘束荷重下伸長率19%と、優れた捲縮特性を示し、へたり難い捲縮を有する捲縮糸であった。そして該捲縮糸を用いてカーペットを作製して耐摩耗試験を行った結果、摩耗減量率10%と優れた耐摩耗性を示した。また該捲縮糸の丸編を作製してアイロン耐熱性の評価を行った結果、全く外観変化はなく優れた耐熱性を示した。該捲縮糸のDSCでの融点は170℃近傍(成分Aに由来するピーク)および225℃近傍(成分Bと成分Cに由来するピーク)と、各成分起因の融解ピークが観測され、それぞれの融解ピークの熱容量の総和は74J/gであり、十分な結晶性を示した。
(実施例21〜24、比較例3)
実施例20において、芯成分のホッパーに充填する成分Aと成分Bのブレンド比率を、変更した以外は実施例20と同様にして実施例21〜24、比較例3のエアースタッファ捲縮糸を得た。実施例21〜24、比較例3の結果を表5に、それぞれにおける成分Aと成分Bのブレンド比率(重量比)を下記に示す。
・実施例21:成分A/成分B=20/80
・実施例22:成分A/成分B=55/45
・実施例23:成分A/成分B=70/30
・実施例24:成分A/成分B=90/10
・比較例3:成分A/成分B=100/0
実施例20〜24、比較例3から、本発明の芯鞘型複合繊維の捲縮糸は芯成分として成分Bを有することで芯成分の成分B、鞘成分の成分Cの相互作用によって芯鞘界面の接着性が高まり、優れた耐摩耗性を示す。また芯成分の成分A、成分Bのブレンド比率を本発明にて好ましいとされる範囲とすることによって、芯成分のポリマーアロイ構造、島成分の直径を好ましい範囲とすることができ、耐摩耗性に優れたエアースタッファ捲縮糸を得ることができる。そしてへたり難い捲縮を有することから、カーペットとした時の嵩高間に代表される品位が長期使用においても維持でき、また耐摩耗性の老化も無いカーペットを得ることができる。
(実施例25〜27、比較例4)
実施例20において、芯成分と鞘成分の複合比を変更し、得られる延伸糸の鞘成分の厚みを変更した以外は、実施例20と同様にして実施例25〜27のエアースタッファ捲縮糸を得た。比較例4についても、実施例20と同様の条件で捲縮糸を得ようと試みたが、繊維表面に露出した成分Aが第4ロールの表面に熱融着してしまって製糸は不可能であった。そこで第4ロールの温度を140℃、第3ローラーの温度を100℃として、比較例4のエアースタッファ捲縮糸を得た。
実施例25〜26については糸切れ無く製糸性が優れていたのに対し、実施例27は100kgの紡糸において糸切れが2回発生し、比較例4については紡出糸のバラスが大きく、細化点が変動し易く、100kgの紡糸において糸切れが3回発生した。実施例25〜27、比較例4の結果を表6に、それぞれにおける芯成分と鞘成分の複合比(重量比)を下記に示す。
・実施例25:芯成分/鞘成分=85/15
・実施例26:芯成分/鞘成分=90/10
・実施例27:芯成分/鞘成分=95/5
・比較例4:芯成分/鞘成分=100/0
実施例20(表5)、実施例25〜27(表6)、比較例4(表6)を比較すると、本発明の芯鞘型複合繊維は、鞘成分を有することによって、捲縮伸長率が高く、拘束荷重下伸長率が高く、かつ耐摩耗性に優れる捲縮糸を得ることが出来る。また鞘成分が厚いほど、耐摩耗性に優れるだけでなく、拘束荷重下伸長率の高い、すなわち捲縮がへたり難い高品位な捲縮糸となる。さらに鞘成分が厚いほど紡出糸におけるバラスの発生をも抑制でき、製糸性よく、均一性の高い捲縮糸を得ることができる。
(実施例28〜32)
実施例20において、第4ロールの温度を変更した以外は実施例20と同様にして、紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理を施し、エアースタッファ捲縮糸を得た。実施例28〜31については紡出糸のバラスの発生も小さく、糸切れもなく、紡糸は安定を極めたが、実施例31については第4ロール上で若干の糸揺れが発生して糸切れが1回起こった。実施例28〜32の結果を表7に示す。また実施例28〜32における第4ロールの温度について下記に示す。
・実施例28:第4ロールの温度=140℃
・実施例29:第4ロールの温度=150℃
・実施例30:第4ロールの温度=175℃
・実施例31:第4ロールの温度=200℃
・実施例32:第4ロールの温度=210℃
実施例20(表5)および実施例29〜30(表7)と、実施例28、32(表7)とを比較すると分かるように、本発明において好ましいとされる捲縮伸長率を有する捲縮糸とすることによって、耐摩耗性が飛躍的に向上することが分かる。実施例20、29〜30の捲縮糸は適度な捲縮伸長率を有する捲縮糸であるため、外力により摩耗された際に捲縮糸が倒れにくく、かつ単糸間に適度な屈曲や絡合を有するため、外力がそれぞれの単糸に分散されて優れた耐摩耗性を示した。
(実施例33〜35)
実施例20において、使用する口金孔のスペックを変更し、得られるエアースタッファ捲縮糸の異形度を変更した以外は、実施例20と同様にして、紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理を施して実施例33〜35のエアースタッファ捲縮糸を得た。実施例33〜35の結果を表8に示す。また実施例33〜35にて使用した口金孔スペックを下記に示す。
・実施例33
口金1(ポリマー吐出直前の口金):スリット幅0.20mm、スリット幅0.8mm、孔数120
・実施例34
口金1(ポリマー吐出直前の口金):スリット長0.18mm、スリット幅1.0mm、孔数120
・実施例35
口金1(ポリマー吐出直前の口金):スリット長0.12mm、スリット幅1.8mm、孔数120
実施例20(表5)、実施例33〜35(表8)を比較して分かるように、本発明において異形度が高いエアースタッファ捲縮糸とすることにより、耐摩耗性に優れるものとなる。すなわち本発明において捲縮糸の異形度が高いほど、紡糸工程において島成分の直径を微細化され易く、島が均一に分散したポリマーアロイ構造を有するため成分Aと成分Bおよび/または成分Cとの界面での接着性が高くなり、フィブリル化の無い耐摩耗性に優れた捲縮糸となった。さらに異形度の高い捲縮糸とすることで、へたり難い捲縮糸となり、長期使用においても耐摩耗性が低下しない捲縮糸となった。
本発明の芯鞘型複合繊維を製造するために好ましい、紡糸、延伸、熱処理を1段階で施す装置の概略図である。
本発明の芯鞘型複合繊維の捲縮糸を製造するために好ましい、紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理を1段階で施す装置を示す概略図である。
本発明の芯鞘型複合繊維の延伸糸の耐摩耗性試験を行う測定装置の概略図である。
エアースタッファ捲縮糸(マルチフィラメント)の説明写真である。
エアースタッファ捲縮糸(単糸)の説明写真である。
海島構造の説明写真である。
芯鞘型複合繊維の断面形状を示す模式図である。
吐出孔長、孔径、スリット長、スリット幅を説明する模式図である。
芯鞘型複合繊維の口金の断面模式図である。
符号の説明
1:芯成分ホッパー
2:鞘成分ホッパー
3:芯成分の2軸押出混練機
4:鞘成分の2軸押出混練機
5:紡糸ブロック
6:芯成分のギヤポンプ
7:鞘成分のギヤポンプ
8:紡糸パック
9:紡糸口金
10:ユニフロー冷却装置
11:糸条
12:給油装置
13:第1ロール
14:第2ロール
15:第3ロール
16:第4ロール
17:巻取機
18:チーズパッケージ
19:芯成分ホッパー
20:鞘成分ホッパー
21:芯成分の2軸押出混練機
22:鞘成分の2軸押出混練機
23:紡糸ブロック
24:芯成分のギヤポンプ
25:鞘成分のギヤポンプ
26:紡糸パック
27:紡糸口金
28:ユニフロー冷却装置
29:糸条
30:給油装置
31:第1ロール
32:第2ロール
33:第3ロール
34:第4ロール
35:捲縮ノズル
36:第5ロール
37:第6ロール
38:第7ロール
39:巻取機
40:チーズパッケージ
41:芯成分(ポリマーアロイ)
42:鞘成分
43:吐出孔長
44:孔径
45:スリット長
46:スリット幅
47:口金1(吐出直前の口金)
48:口金2(口金1の直前にあり芯成分、鞘成分に別々の流路を有するもの)
49:延伸糸
50:摩耗ローラー
51:荷重