JP2005019327A - 有機el素子材料の選択方法、有機el素子の製造方法及び有機el素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】有機EL素子の長寿命化を実現できるホスト材料及びドーパント材料を効率的に選択する有機EL素子材料の選択方法を提供する。
【解決手段】有機EL素子の発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を、ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する二種類以上の試料の蛍光寿命により決定する材料選択工程を備えることを特徴とする有機EL素子材料の選択方法。
【選択図】 なし
【解決手段】有機EL素子の発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を、ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する二種類以上の試料の蛍光寿命により決定する材料選択工程を備えることを特徴とする有機EL素子材料の選択方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機EL素子材料の選択方法、有機EL素子の製造方法及び有機EL素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機ELディスプレイ等に用いられる有機EL素子は、例えば、蛍光性有機化合物や燐光性有機化合物等の発光性有機化合物を含む発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有するものであり、この発光性有機化合物に電界を印加することにより励起・発光させる素子である(例えば、非特許文献1参照)。このような有機EL素子は、無機EL素子と比較して、輝度や発光効率(量子収率)等の素子特性において優れており、現在実用化の段階を迎えつつある。
【0003】
この有機EL素子の発光層は、大別して、1種類の発光性有機化合物を単独で含有するものと、発光能力が比較的低く成膜性に優れた発光性有機化合物(以下、「ホスト材料」という。)に発光能力が比較的高く成膜性に劣る発光性有機化合物(以下、「ドーパント材料」という。)をドープさせて含有するもの(例えば、非特許文献2参照)とがある。これらのうち後者の発光層は、有機EL素子の発光効率を向上させることができ、しかも多様な発光性有機化合物を使用することができるので、近年、特に注目されているものであり、多くのホスト材料及びドーパント材料が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方、この有機EL素子は、上述のように優れた輝度及び発光効率を有している反面、寿命が未だ充分ではないという欠点を有しており、素子の更なる長寿命化が要求されている。
【0005】
【非特許文献1】
シー・ダブリュー・タン(C. W. Tang)ら,アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters),アメリカン・インスティチュート・オブ・フィジックス(American Institute of Physics),1987年,第51巻,p.913
【非特許文献2】
シー・ダブリュー・タン(C. W. Tang)ら,ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journal of Applied Physics),アメリカン・インスティチュート・オブ・フィジックス(American Institute of Physics),1989年、第65巻,p.3610
【特許文献1】
特開2003−26616号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らは、上記非特許文献1,2及び特許文献1に記載されているものを初めとする従来の有機EL素子、特に発光層にホスト材料とドーパント材料とを含有する有機EL素子について詳細に検討を行ったところ、このような従来の有機EL素子の発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料は、試行錯誤の末に得られたものであることを見出した。
【0007】
すなわち、従来の有機EL素子に用いられていたホスト材料及びドーパント材料の選択方法は、任意のホスト材料と任意のドーパント材料とを選択して有機EL素子を作製した後にその寿命を測定することによって、初めてそのホスト材料とドーパント材料との組み合わせが該素子の長寿命化に適したものであるか否かを判断したものであることが明らかになった。このような従来のホスト材料及びドーパント材料の選択方法は、所望の長寿命化を実現できる有機EL素子を得るまで、有機EL素子の作製及びその性能測定という作業を繰り返さなければならず、膨大な数の試行錯誤を行うこととなり、労力、時間及び費用的な面から非効率的な方法であるといえる。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、有機EL素子の長寿命化を実現できるホスト材料及びドーパント材料を効率的に選択する有機EL素子材料の選択方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ホスト材料が有する蛍光寿命とドーパント材料が有する蛍光寿命との関係が特定の条件を満たすと、それらの材料を用いた有機EL素子は十分に長寿命化されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の有機EL素子材料の選択方法は、有機EL素子の発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を、ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する二種類以上の試料の蛍光寿命により決定する材料選択工程を備えることを特徴とする。
【0011】
このようにして選択されたホスト材料とドーパント材料とを用いて作製された有機EL素子が、耐久性を向上できる、すなわち、長寿命化を実現できる要因は現在のところ詳細には明らかにされていないが、本発明者らは以下のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。
【0012】
本発明者らが考えているその要因を説明するために、まず、ホスト材料とドーパント材料とを含有する発光層(有機層)を備えた有機EL素子の発光原理について、図を参照しながら説明する。
【0013】
有機EL素子の一般的な構成の一例を図1に示す。図1に示す有機EL素子100は、いわゆる5層型有機EL素子であり、互いに対向して配置されている2つの電極(第一の電極1及び第二の電極2)により、正孔注入層14、正孔輸送層12、発光層10、電子輸送層16及び電子注入層18が挟持された構造を有している。正孔注入層14、正孔輸送層12、発光層10、電子輸送層16及び電子注入層18はいずれも有機層であり、第一の電極1側からこの順に積層されている。これらのなかで、発光層10は、ホスト材料にドーパント材料をドープすることにより作製されたものである。また、第一の電極1は基板4上に形成されている。なお、電子注入層18は無機層とすることもできる。
【0014】
この有機EL素子100において、第一の電極1及び第二の電極2が、それぞれ陽極及び陰極として機能し、電源Pによる電界の印加により、第一の電極1から正孔注入層14に正孔(ホール)が注入され、正孔輸送層12を経由して輸送されるとともに、第二の電極2から電子注入層18に電子が注入され、電子輸送層16を経由して輸送され、これらが発光層10において再結合する。この再結合により、発光層10に含有される有機化合物分子の電子状態が基底状態から高いエネルギーを有する励起状態に励起される。そして、不安定な励起状態から安定な基底状態への緩和過程の際にエネルギーを放出し、そのエネルギー放出に伴い発光する、と考えられている。
【0015】
また、上記励起状態には、電子スピン多重度の違いから一重項励起状態及び三重項励起状態があり、一重項励起状態から基底状態へ戻る際に発せられる光が本発明にかかる蛍光であり、三重項励起状態から基底状態へ戻る際に発せられる光が燐光である。また、発光層中の有機化合物分子は光を照射することによっても励起状態に励起されるが、この場合は一重項励起状態に選択的に励起される。
【0016】
発光層がホスト材料とドーパント材料とからなる場合は、以下の二種類の発光機構が考えられている。
【0017】
一つ目は、まず電子と正孔とが、ホスト材料として用いられる有機化合物分子(以下、「ホスト分子」という。)において再結合し、これにより、ホスト分子が励起状態に励起される。このホスト分子が基底状態に戻る際に放出されるエネルギーにより、今度はドーパント材料として用いられる有機化合物分子(以下、「ドーパント分子」という。)が励起状態に励起される。そして、そのドーパント分子が基底状態に戻る際に発光する、と考えられている。
【0018】
二つ目は、まず電子と正孔とがドーパント分子において再結合し、これにより、ドーパント分子が励起状態に励起される。そして、そのドーパント分子が基底状態に戻る際に発光する、と考えられている。すなわちこの二つ目の発光機構は、ホスト分子が直接的に発光に関与しないものと考えられる。
【0019】
したがって、発光層がホスト材料とドーパント材料とからなる有機EL素子では、上記二つの発光機構のいずれの場合も、ドーパント分子から発光が得られることになる。
【0020】
ここで、「蛍光寿命」は、ホスト分子或いはドーパント分子などの有機化合物分子の、上述した一重項励起状態から基底状態への緩和過程の際に発せられる蛍光の発光時間のことをいい、下記式(3)中のτで定義されるものである。
τ=1/(kf+kd+kr+kisc) …(3)
【0021】
なお、kfは蛍光放射遷移、すなわち有機化合物分子が蛍光を発しつつ一重項励起状態から基底状態へ戻る際の速度定数を示す。また、kdは分子運動による減衰の速度定数、krは光化学反応等の分子間相互作用による減衰の速度定数、及びkiscは項間交差による減衰の速度定数をそれぞれ示す。
【0022】
これらのうち、蛍光放射遷移並びに分子運動及び項間公差に伴う減衰(関連する速度定数は、それぞれkf,kd,kisc)は、同一分子内におけるものであり、分子間相互作用による減衰(関連する速度定数はkr)は異なる分子間によるものである。また、分子運動、分子間相互作用及び項間交差に伴う減衰(関連する速度定数は、それぞれkd,kr,kisc)は発光を伴わないものであるので、「無放射過程」と呼ばれる。
【0023】
上記式から明らかなように、蛍光寿命τは、蛍光放射遷移の速度が大きくなる場合のみならず、発光に寄与しない無放射過程の影響が大きくなっても、短くなってしまう。
【0024】
この「蛍光寿命」は、従来の蛍光寿命測定装置を用いて、蛍光分子の蛍光波長の蛍光強度が初期蛍光強度の1/eとなるまでの時間を測定することにより導出される。ここでeは自然対数の底を示す。より具体的には、蛍光寿命測定装置を用いることにより、横軸を経過時間とし、縦軸を蛍光強度の対数とした蛍光強度減衰曲線と呼ばれる曲線が得られ、その曲線より蛍光寿命が導出される。その模式図を図2に示す。
【0025】
この図中、I0は初期蛍光強度、I1/eは初期蛍光強度I0の1/eの蛍光強度、τは蛍光寿命を示す。この図2から明らかなとおり、蛍光寿命τは、初期蛍光強度I0が得られる時間を開始時間とし、そこから蛍光強度I1/eが得られるまでの経過時間として表される。
【0026】
以上のことから、ホスト材料及びドーパント材料は、発光層が蛍光を発光する際に互いに密接な関連性をもって、その発光層の蛍光発光に寄与していると考えられる。したがって、ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する二種類以上の試料の蛍光寿命によりホスト材料及びドーパント材料を決定することは、結果的に有機EL素子が備える発光層の蛍光発光時間を延長せしめる、すなわち有機EL素子の長寿命化を実現すると考えられる。
【0027】
本発明の有機EL素子材料の選択方法は、試料として、ホスト材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ホスト材料にドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ドーパント材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液及びドーパント材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜からなる群より選ばれるものを二種類以上用いると好ましい。
【0028】
このような試料の蛍光寿命によりホスト材料及びドーパント材料を決定することで、有機EL素子の長寿命化を実現できる傾向にある。
【0029】
ここで、「希薄溶液」とは、後述するように、溶質であるホスト材料若しくはドーパント材料が、その分子間相互作用を無視できる程度の濃度となるように調製されたものであり、そのような観点から10−4〜10−6mol/Lの濃度であると好ましい。
【0030】
また、「有機薄膜」とは、ホスト材料若しくはドーパント材料に、必要に応じてバインダー樹脂等を混合して作成される薄膜であって、その成形法としては蒸着法又は塗布法などが挙げられる。これらのうち、目的とする分子(ホスト分子若しくはドーパント分子)以外の分子の影響を無視する観点からバインダー樹脂等を含有しない有機薄膜が好ましい。
【0031】
一種類のホスト材料又はドーパント材料のような蛍光性有機化合物を溶媒に添加して得られる希薄溶液中の該有機化合物分子は、その分子間に相互作用がない傾向にある。したがって、このような希薄溶液試料から得られる蛍光寿命は、上記式(3)中のkrの影響を受けない傾向にあると考えられ、この点では蛍光寿命τの数値が大きくなる傾向にある。一方、希薄溶液中においては、該有機化合物分子は比較的自由な分子運動をすることができる。したがって、このような希薄溶液試料から得られる蛍光寿命は、上記式(3)中のkdの影響を受ける傾向にあると考えられ、この点では蛍光寿命τの数値が小さくなる傾向にある。
【0032】
また、一種類のホスト材料又はドーパント材料のような蛍光性有機化合物を薄膜状に成形して得られる有機薄膜中の該有機化合物分子は、上述した溶液と比較して分子運動が制限される傾向にある。したがって、このような有機薄膜試料から得られる蛍光寿命は、上述した溶液試料の蛍光寿命と比較して、上記式(3)中のkdの値が小さくなる傾向にあると考えられ、この点では蛍光寿命τの数値が大きくなる傾向にある。一方、一種類のホスト材料又はドーパント材料のみからなる有機薄膜において、同種分子間の相互作用は強くなる傾向にある。したがって、このような有機薄膜試料から得られる蛍光寿命は、上述した希薄溶液試料の蛍光寿命と比較して、上記式(3)中のkrの値が大きくなる傾向にあると考えられ、この点では蛍光寿命τの数値が小さくなる傾向にある。
【0033】
さらに、ホスト材料にドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜中のそれらの材料の分子は、上述した試料に含有される分子とは異なり、蛍光放射或いは光化学反応などの影響を互いに受け易い傾向にある。したがって、このような試料から得られる蛍光寿命は、上述した試料から得られる蛍光寿命とは異なる傾向にある。
【0034】
以上のことから、本発明の有機EL素子材料の選択方法において、上述したような試料の蛍光寿命により、発光を伴わない無放射過程が蛍光寿命に与える影響についての情報を得ることができ、また、ホスト材料及びドーパント材料を組み合わせた場合に生じる蛍光放射等が蛍光寿命に与える影響についての情報を得ることができる。したがって、これらの影響を考慮して、有機EL素子の長寿命化を実現できるホスト材料及びドーパント材料を決定することが可能となる。
【0035】
また、本発明の有機EL素子材料の選択方法において、二種類以上の試料のいずれかの蛍光寿命が複数の蛍光寿命成分からなる場合、材料選択工程より前に、蛍光寿命を各蛍光寿命成分に分解する分解工程をさらに備え、材料選択工程において、各蛍光寿命成分に分解した状態の蛍光寿命によりホスト材料及びドーパント材料を決定すると好ましい。
【0036】
このような分解工程及び材料選択工程を経ることにより、有機EL素子の駆動寿命をさらに長期化できるホスト材料及びドーパント材料を決定できる傾向にある。
【0037】
最も単純な蛍光強度減衰曲線は、図2中のτのように一種類の蛍光寿命成分で表される。しかしながら、ある試料の蛍光強度減衰曲線は、例えば図3中のγのように表される曲線を示す場合もあり、このような場合、その蛍光強度減衰曲線γは、2種類の蛍光強度減衰曲線α,βからなる。そして蛍光強度減衰曲線αから、その初期蛍光強度Ia0に対して1/eの強度Ia1/eとなるときの蛍光寿命成分τaが得られ、蛍光強度減衰曲線βから、その初期蛍光強度Ib0に対して1/eの強度Ib1/eとなるときの蛍光寿命成分τbが得られる。したがって、その試料は2種類の蛍光寿命成分τa及びτbを有しているものと考えられている。
【0038】
蛍光寿命が複数の蛍光寿命成分からなる理由として、主として化学的性質の異なる複数種の蛍光分子が試料中に存在することが挙げられる。さらには、試料に溶媒若しくはバインダー樹脂等の発光しない分子を含むと、それらの分子と蛍光分子との相互作用により新たな蛍光寿命成分が生成する場合もあると考えられる。
【0039】
しかしながら、化学的には一種類の分子(蛍光分子)しか含まれていない試料であっても、図3中のγで表されるような蛍光強度減衰を示す場合もある。これは、複数の異なる励起状態、或いは、複数の異なる緩和過程の存在を示唆している。その原因として、化学的には一種類の蛍光分子であっても、その分子が複数のコンフォメーション(配座)を有すること、或いは、同一種類の分子間での相互作用が存在し、場合によっては励起錯体(エキサイマー)を形成することなどが考えられる。
【0040】
したがって、複数の蛍光寿命成分が存在する場合に、蛍光寿命をその各成分に分解した後に、試料同士の各蛍光寿命成分を比較することにより、異種分子間及び/又は同種分子間の相互作用が蛍光寿命に与える影響などに関する情報をより詳細に得ることができる。その結果、これらの影響を考慮して、有機EL素子の長寿命化を実現できるホスト材料及びドーパント材料を決定することが可能となる。
【0041】
本発明の有機EL素子材料の選択方法は、二種類以上の試料のうちの一つとして、ホスト材料にドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜を用い、且つ、二種類以上の試料のうちの別の一つとして、該ドーパント材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液を用い、材料選択工程は、一つの試料の最も短い蛍光寿命成分τsと、別の一つの試料の蛍光寿命τdとが下記式(1)で表される関係を有するようなホスト材料及びドーパント材料を決定する工程であると、より好ましい。
τs≧τd …(1)
【0042】
このような関係を有するホスト材料及びドーパント材料を選択すると、それらの材料を含有する発光層を備えた有機EL素子は、より耐久性が向上する傾向にあると共に、発光効率も向上する傾向にある。
【0043】
上記希薄溶液試料において、ドーパント分子は、その分子同士が隔離された状態にあるため、分子間に相互作用がない傾向にある。したがって、このような試料から得られる蛍光寿命τdは、上記式(3)中のkrの影響を受けない(krの値が小さい)傾向にあると考えられる。
【0044】
一方、上記有機薄膜試料において、ドーパント分子がその周囲の分子、特にホスト分子との間に光反応等の相互作用を有すると、上記式(3)中のkrの影響を受ける(krの値が大きい)傾向にある。このような場合に、その有機薄膜試料の蛍光寿命は複数の蛍光寿命成分からなると考えられる。そして、その複数の蛍光寿命成分のうち、最も短い蛍光寿命成分τsは、krの影響を受けた結果として得られる蛍光寿命成分であるので、τdと同じ長さの寿命になると本発明者らは考えている。
【0045】
さらに、上記希薄溶液の試料により得られる蛍光寿命τdは、分子運動による減衰の影響を受ける場合もあり、そのような場合は、蛍光寿命τdがさらに短くなるものと考えられる。
【0046】
以上より、ドーパント分子が分子間の相互作用を受けない希薄溶液試料から得られる蛍光寿命τdと、ドーパント分子が分子間の相互作用を受ける可能性のある上記有機薄膜試料から得られる蛍光寿命成分のうち最も短い蛍光寿命成分τsとの関係が上記式(1)を満たすことにより、そのホスト材料とドーパント材料との組み合わせは、ドーパント材料が分子間の相互作用を受けない傾向にある組み合わせとなる。このような要因により、該組み合わせは有機EL素子の長寿命化に寄与するものと考えられる。
【0047】
また、このホスト材料とドーパント材料との組み合わせは、注入されたキャリアのうち分子間の相互作用により消費されるものが減少する傾向にあり、その分、有機EL素子の発光に用いられることになると考えられるので、発光効率が向上する傾向にある。
【0048】
ここで、発光効率とは、注入されたキャリア量(電流)に対する発光エネルギーの割合をいう。
【0049】
さらに、本発明の有機EL素子材料の選択方法は、二種類以上の試料のうちの一つとして、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜を用い、且つ、二種類以上の試料のうちの別の一つとして、ドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜を用い、材料選択工程は、一つの試料の最も長い蛍光寿命成分τhと、別の一つの試料の最も長い蛍光寿命成分τlとが下記式(2)で表される関係を有するようなホスト材料及びドーパント材料を決定する工程であってもよい。
τh>τl …(2)
【0050】
このようにして選択されたホスト材料及びドーパント材料を有機EL素子の発光層に用いると、該有機EL素子の耐久性がより向上する傾向にあると共に、発光効率も向上する傾向にある。
【0051】
ドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜試料の各蛍光寿命成分のうち、最も長い蛍光寿命成分τlは、励起状態にあるドーパント分子が、周囲のホスト分子との相互作用により励起錯体(エキサイプレックス)等を形成することにより生じたものであり得ると考えられる。このような異種分子間の相互作用により生じた励起錯体等は長時間発光するものではあるが、ドーパント分子の所望の発光とは異なるものである。したがって、この励起錯体等の存在は、その発光によりエネルギーが消費され、ドーパント分子の所望の発光効率が低下する傾向にあるばかりではなく、ドーパント分子の蛍光寿命を低下させる傾向ともなり好ましくない。
【0052】
一方、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜試料は、ドーパント材料を含有しないので、上記励起錯体等に由来する蛍光寿命成分が生成することはない。
【0053】
以上より、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜試料、及びドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜試料からそれぞれ得られる蛍光強度減衰曲線とを比較し、それらの最も長い蛍光強度成分τhとτlとの関係が上記式(2)を満たすと、そのようなホスト材料とドーパント材料との組み合わせは、上述したような励起錯体等を形成しない傾向にある組み合わせとなる。したがって、この組み合わせは、有機EL素子の長寿命化に寄与し、さらには発光効率の向上に寄与するものと考えられる。
【0054】
また、本発明の有機EL素子材料の選択方法は、ホスト材料及びドーパント材料が、それぞれ環数3〜10の縮合芳香環を有する化合物からなる群より選択されるものであるとさらに好ましい。このような化合物をホスト材料及びドーパント材料に用いることにより、得られる有機EL素子は、発光層の安定性がさらに向上する傾向にあるので、その駆動寿命をさらに向上させることができる。
【0055】
本発明の有機EL素子の製造方法は、上述した本発明の有機EL素子材料の選択方法を用いて発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を決定する工程を含むことを特徴とする。この製造方法によって得られる本発明の有機EL素子は、上述したように、十分に長い駆動寿命を有することができる。
【0056】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0057】
本発明の有機EL素子材料の選択方法は、互いに対向して配置されている2つの電極間に1又は2以上の有機層を備える有機EL素子の発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を、ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する二種類以上の試料の蛍光寿命により決定する材料選択工程を備えるものである。
【0058】
本発明の有機EL素子材料の選択方法の材料選択工程において決定及び選択されるホスト材料及びドーパント材料は、特に限定されることなく、有機EL素子に備えられる発光層に含有されるホスト材料又はドーパント材料として用いることができるもののなかから適宜選択される。従って該ホスト材料及び該ドーパント材料は、低分子有機化合物であってもよく、高分子有機化合物であってもよい。なお、本明細書における「有機化合物」とは、有機金属錯体化合物をも含むものである。
【0059】
該ホスト材料及び該ドーパント材料は、例えば、アルミニウム錯体、ベリリウム錯体、亜鉛錯体、イリジウム錯体若しくは希土類金属錯体等の有機金属錯体化合物、アントラセン、ナフタセン、ベンゾフルオランテン、ナフトフルオランテン、スチリルアミン若しくはテトラアリールジアミン又はこれらの誘導体、ペリレン、キナクリドン、クマリン、DCM若しくはDCJTBなどの低分子有機化合物、或いは、ポリアセチレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体若しくはポリチオフェン誘導体等のπ共役系ポリマー、又は、ポリビニル化合物、ポリスチレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアクリレート誘導体若しくはポリメタクリレート誘導体等の非π共役系の側鎖型ポリマー若しくは主鎖型ポリマー等に色素を含有させたものなどの高分子有機化合物などのなかから選択される。
【0060】
これらのなかで、該ホスト材料及びドーパント材料が、環数3〜10の縮合芳香環を有する化合物からなる群より選択されると、いずれの化合物を選択しても発光層の安定性が確保される傾向にあるので好ましい。そのような化合物を用いて作製された有機EL素子は、より長期間の駆動寿命を有することができる。
【0061】
ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する試料としては、ホスト分子或いはドーパント分子の蛍光寿命に影響を与える因子を考慮して、種々の形態のものを調製することができる。蛍光分子の蛍光寿命は、上記式(3)から明らかなとおり、蛍光放射遷移、分子運動による減衰、光化学反応等の分子間相互作用による減衰及び項間交差による減衰に影響を受ける。したがって、例えば、ホスト材料或いはドーパント材料単独の分子間相互作用による影響を無視し、分子運動の影響を考慮したい場合は、その材料を溶媒に添加して、10−4〜10−6mol/Lの濃度の希薄溶液を調製すればよい。
【0062】
上記希薄溶液は、具体的には、例えば以下のようにして調製される。まず、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ジエチルエーテル、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン若しくはクロロホルム等の通常用いられる溶媒のなかから、試料を溶解させるのに十分な溶解性を有するものを適宜選択し、定法にしたがい乾燥及び精製して準備する。次いで、試料(蛍光分子)を5mg秤量し、5mLの上記精製溶媒中に入れて完全に溶解する。続いて、その試料濃度が10−4〜10−6mol/L程度になるように、上記精製溶媒でさらに希釈して希薄溶液を得る。ただし、希薄溶液の調製方法はこれに限定されない。
【0063】
また、ホスト材料或いはドーパント材料単独の分子間相互作用による影響及び分子運動による影響の両方を考慮したい場合は、その材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜を調製すればよい。
【0064】
この有機薄膜は、具体的には、例えば以下のようにして調製される。まず、石英基板を準備する。この石英基板は不純物による影響を取り除くために、中性洗剤及び純水を用いて超音波洗浄し、さらにUV/O3洗浄したものを用いることが好ましい。次いで、その石英基板を市販の真空蒸着装置の真空槽内にある基板ホルダーに固定して、真空槽内を1×10−4Pa以下になるまで減圧する。続いて、その減圧状態を保持したまま、ホスト材料又はドーパント材料を蒸着速度0.1nm/秒程度で該石英基板表面に蒸着させ、約100nmの厚みを有する有機薄膜を得る。
【0065】
ただし、有機薄膜の調製方法はこのような真空蒸着法に限定されず、ホスト材料又はドーパント材料に高分子有機化合物を用いる場合は、スピンコート法、スプレーコート法若しくはディップコート法等の塗布法により有機薄膜を調整してもよい。
【0066】
有機薄膜の厚みは、蛍光寿命を測定するために試料の蛍光光量(強度)が十分に確保できる厚みであれば、特に限定されない。
【0067】
さらに、試料のうちの一つが、ドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜であると好ましい。このような試料を用いて蛍光寿命を測定することにより、ホスト材料とドーパント材料とを組み合わせた場合に生じる蛍光放射等が蛍光寿命に与える影響についての情報を得ることができる。
【0068】
この有機薄膜は、例えば、上述したホスト材料或いはドーパント材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜の調製方法において、蒸着の際に両方の材料を同時に共蒸着させることにより得ることができる。
【0069】
この有機薄膜に含有されるホスト材料とドーパント材料との混合比は、実際の有機EL素子の発光層に用いる場合を考慮して、50:50〜100:1であると好ましい。
【0070】
本発明にかかる試料として、その他に、溶液中の材料濃度を比較的濃厚にした濃厚溶液、試料にバインダー樹脂をも添加して調製した有機薄膜なども、必要に応じて適宜用いることができる。また、試料に含有するホスト材料及び/又はドーパント材料の種類は、上述したように1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
上記各試料の蛍光寿命は、従来の蛍光寿命測定装置を用いることにより測定することができる。このような装置としては、例えば、レーザー等の励起光源とストリークカメラ等の数ナノ秒〜数ピコ秒の超高速分解能を有する観測器を備えた蛍光寿命測定装置などを用いることができる。具体的には、C4780(ピコ秒蛍光寿命測定装置、浜松ホトニクス株式会社製、商品名)などを用いることができる。
【0072】
蛍光寿命は、上述したように、上記測定装置を用いて得られた蛍光強度減衰曲線より導出される。
【0073】
また、試料が複数の蛍光寿命成分を含んでいる場合は、通常のカーブフィッティング処理などの演算処理を行うことにより、蛍光寿命の蛍光強度減衰曲線を分解して、容易に各蛍光寿命成分毎の蛍光強度減衰曲線を得ることができる(分解工程)。そのような演算処理は、上記蛍光寿命測定装置に備えられているカーブフィッティング用ソフトを用いて行ってもよく、該測定装置とは別に得られる市販若しくは自製のカーブフィッティング用ソフトを用いて行ってもよい。そして、そのようなソフトを用いて得られた各蛍光強度減衰曲線から、蛍光寿命の場合と同様にして各蛍光寿命成分を求めることができる。
【0074】
得られた各蛍光寿命成分は、上述したように、用いた試料の種類及び形態によって、その蛍光寿命成分の生成要因が異なるものと考えられる。
【0075】
上述のようにして得られた各試料の蛍光寿命若しくは蛍光寿命成分は、その長さを比較されるが、比較される試料の種類の数は、二種類以上であれば特に限定されない。したがって、例えば、ホスト材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ホスト材料にドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ドーパント材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液、ドーパント材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜、上記溶液中の材料濃度を比較的濃厚にした濃厚溶液、上記有機薄膜にバインダー樹脂をも添加して調製したものなどから選ばれる二種類以上の試料から得られる蛍光寿命若しくは蛍光寿命成分を比較することができる。
【0076】
これにより、比較した各試料が式(3)の分母に速度定数で表される無放射過程、すなわち、分子運動による減衰、光化学反応等の分子間相互作用による減衰及び項間交差による減衰の影響を受けているか否かについての情報を得ることができる。
【0077】
本発明の有機EL素子材料の選択方法において、上記比較を行った後に、各試料の蛍光寿命若しくは蛍光寿命成分(以下、「蛍光寿命等」という。)の関係が所望の基準を満たすようなホスト材料とドーパント材料との組み合わせを選択することにより、そのような材料を用いて作製された有機EL素子は、十分に長い駆動寿命を有するものとなる。
【0078】
上記所望の基準とは、蛍光寿命等の長短関係のことをいう。例えば、二以上の蛍光寿命若しくは蛍光寿命成分を比較して、例えば、それらが同じ長さであれば、いずれの蛍光寿命等とも、無放射過程の影響を受けていないか、若しくは同じ無放射過程の影響を受けているもの等と考えられる。
【0079】
また、二以上の蛍光寿命等のいずれかが他の蛍光寿命等よりも長くなる場合、その蛍光寿命等は、例えば励起錯体を形成したことに起因していると考えられる。さらに、二以上の蛍光寿命等のいずれかが他の蛍光寿命等よりも短くなる場合、その蛍光寿命等は、例えば分子運動の影響を受けたか、或いは光反応等の分子間の相互作用の影響を受けたものと考えられる。
【0080】
したがって、上述したような影響を考慮して、有機EL素子の長寿命化に繋がるような所望の基準を設定することが好ましい。このような基準としては、具体的には、上記式(1)或いは上記式(2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
本発明の有機EL素子材料の選択方法は、上述したような発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を決定する材料選択工程の他に、以下に説明する基板、第一の電極層及び第二の電極層、並びに、必要に応じて、電子輸送層、正孔輸送層、電子注入層及び正孔注入層に用いられる材料を選択する工程も含まれる。
【0082】
本発明の有機EL素子の製造方法は、上述した本発明の有機EL素子材料の選択方法において選択された有機層(発光層)のホスト材料及びドーパント材料、並びにその他の各材料を用いて、公知の製造方法で製造できる。有機層の形成方法としては、真空蒸着法、イオン化蒸着法若しくは塗布法等を、有機層を構成する材料に応じて適宜選択して採用できる。
【0083】
本発明の有機EL素子は、上記有機EL素子の製造方法によって得られるものであれば、特に限定されることはない。したがって、この有機EL素子は、例えば、図1に示すようないわゆる5層型有機EL素子であってもよく、単層型、2層型、3層型若しくは4層型有機EL素子のいずれかであってもよい。
【0084】
単層型有機EL素子は、互いに対向して配置されている2つの電極層(第一の電極層及び第二の電極層)により、発光層が挟持された構造を有している。また、2層型有機EL素子は、単層型有機EL素子の第一の電極層と発光層との間に正孔輸送層を設けた構造を有している。さらに、3層型有機EL素子は、2層型有機EL素子の第二の電極層と発光層との間に電子輸送層を設けた構造を有している。
【0085】
4層型有機EL素子は、互いに対向して配置されている2つの電極層(第一の電極層及び第二の電極層)により、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子注入層が挟持された構造を有している。
【0086】
なお、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層はいずれも有機層であり、第一の電極側からこの順に積層されている。また、電子注入層は無機層(金属層、金属化合物層等)とすることもできる。さらに、第一の電極は基板上に形成されている。
【0087】
なお、単層型有機EL素子では、発光層において電子及び正孔の注入、電子及び正孔の輸送が行われる。また、2層型有機EL素子では、正孔輸送層において正孔の注入が行われ、発光層において電子の注入及び輸送が行われる。さらに4層型有機EL素子では、発光層において電子の輸送が行われる。
【0088】
また、発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び電子注入層の厚さは特に限定されず、用いる材料およびそれらの形成方法によっても異なるが、好適な厚さは、発光層については5〜1000nm、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び電子注入層については、それぞれ0.1〜100nm、1〜1000nm、0.1〜100nm及び1〜1000nmである。
【0089】
基板としては、ガラス、石英等の非晶質基板、Si、GaAs、ZnSe、ZnS、GaP、InP等の結晶基板、Mo、Al、Pt、Ir、Au、Pd、SUS等の金属基板等を用いることができる。また、結晶質又は非晶質のセラミック、金属、有機物等の薄膜を所定基板上に形成したものを用いてもよい。
【0090】
基板の側を光取出し側とする場合には、基板としてガラスや石英等の透明基板を用いることが好ましく、特に、安価なガラスの透明基板を用いることが好ましい。透明基板には、発色光の調整のために、色フィルター膜や蛍光物質を含む色変換膜、あるいは誘電体反射膜等を設けてもよい。
【0091】
第一の電極層は陽極であり正孔注入電極として機能する。そのため、第一の電極層の材料としては、第一の電極層に隣接する有機層に正孔を効率よく注入できる材料が好ましく、かかる観点からは仕事関数が4.5〜5.5eVである材料が好ましい。
【0092】
また、基板の側を光取出し側とする場合、有機EL素子の発光波長領域である波長400〜700nmにおける透過率、特にRGB各色の波長における第一の電極層の透過率は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。第一の電極層の透過率が50%未満であると、発光層からの発光が減衰されて画像表示に必要な輝度が得られにくくなる。
【0093】
光透過率の高い第一の電極層は、各種酸化物で構成される透明導電膜を用いて構成することができる。かかる材料としては、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)等が好ましく、中でも、ITOは、面内の比抵抗が均一な薄膜が容易に得られる点で特に好ましい。ITO中のIn2O3に対するSnO2の比は、1〜20重量%が好ましく、5〜12重量%がより好ましい。また、IZO中のIn2O3に対するZnOの比は12〜32重量%が好ましい。上記材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
なお、第一の電極層を構成する酸化物の組成は化学量論組成から多少偏倚していてもよい。例えば、ITOは、通常、In2O3とSnO2とを化学量論組成で含有するが、ITOの組成をInOx・SnOyで表すとき、xは1.0〜2.0の範囲内、yは0.8〜1.2の範囲内であればよい。
【0095】
また、第一の電極層に酸化シリコン(SiO2)等の透明な誘電体を添加することにより、第一の電極層の仕事関数を調整することができる。例えば、ITOに対して0.5〜10mol%程度のSiO2を添加することによりITOの仕事関数を増大させ、第一の電極層の仕事関数を上述の好ましい範囲内とすることができる。
【0096】
第一の電極層の膜厚は、上述の光透過率を考慮して決定することが好ましい。例えば酸化物透明導電膜を用いる場合、その膜厚は、好ましくは50〜500nm、より好ましくは50〜300nmであることが好ましい。第一の電極層の膜厚が500nmを超えると、光透過率が不充分となると共に、基板からの第一の電極層の剥離が発生する場合がある。また、膜厚の減少に伴い光透過性は向上するが、膜厚が50nm未満の場合、発光層等への正孔注入効率が低下すると共に膜の強度が低下してしまう。
【0097】
第二の電極層は陰極であり電子注入電極として機能する。第二の電極層の材料としては、金属材料、有機金属錯体、金属塩等が挙げられ、発光層等への電子注入が容易となるように仕事関数が低い材料が好ましい。
【0098】
第二の電極層を構成する金属材料の具体的態様としては、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、LiF、CsI等のアルカリ金属ハロゲン化物等が挙げられる。また、La、Ce、Sn、Zn、Zr等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属と特性が近い金属を用いることができる。これらの中でも、Caは仕事関数が非常に低いため特に好ましい。
【0099】
なお、第二の電極層上には補助電極を設けてもよい。これにより、発光層等への電子注入効率を向上させることができ、また、発光層や電子注入層への水分又は有機溶媒の侵入を防止することができる。補助電極の材料としては、仕事関数及び電荷注入能力に関する制限がないため、一般的な金属を用いることができるが、導電率が高く取り扱いが容易な金属を用いることが好ましい。また、特に第二の電極層が有機材料を含む場合には、有機材料の種類や密着性等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0100】
補助電極に用いられる材料としては、Al、Ag、In、Ti、Cu、Au、Mo、W、Pt、Pd、Ni等が挙げられるが、中でもAl及びAg等の低抵抗の金属を用いると電子注入効率を更に高めることができる。また、TiN等の金属化合物を用いることにより一層高い封止性を得ることができる。これらの材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。また、2種類以上の金属を用いる場合は合金として用いてもよい。このような補助電極は、例えば、真空蒸着法等によって形成可能である。
【0101】
正孔輸送層には、低分子材料、高分子材料のいずれの正孔輸送性材料も使用可能である。正孔輸送性低分子材料としては、例えば、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体などが挙げられる。また、正孔輸送性高分子材料としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸共重合体(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリスチレンスルホン酸共重合体(Pani/PSS)などが挙げられる。これらの正孔輸送性材料は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
電子輸送層には、低分子材料、高分子材料のいずれの電子輸送材料も使用可能である。電子輸送性低分子材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレン及びその誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、フェナントロリン及びその誘導体、並びにこれらの化合物を配位子とする金属錯体などが挙げられる。また、電子輸送性高分子材料としては、ポリキノキサリン、ポリキノリンなどが挙げられる。これらの電子輸送性材料は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
正孔注入層には、アリールアミン、フタロシアニン、ポリアニリン/有機酸、ポリチオフェン/ポリマー酸等を用いることができ、電子注入層にはリチウム等のアルカリ金属、フッ化リチウム、酸化リチウム等を用いることができる。
【0104】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0105】
まず、ドーパント材料として、下記式(4),(5)で表される化合物を用い、これを含有する希薄溶液を調製した。具体的には、まず、溶媒であるトルエンを定法に従い乾燥・精製した。次いで、5mgの式(4)で表される化合物(以下「化合物(4)」という。他の化合物についても同様とする。)を秤量し、5mLの精製トルエンで完全に溶解させた。続いて、得られた溶液のうち1mLを、さらに精製トルエンで全量が20mLになるように希釈して、化合物(4)の1.4×10−5mol/Lの希薄溶液を得た。化合物(5)についても、同様にして、1.4×10−5mol/Lの希薄溶液を得た。
【化1】
【化2】
【0106】
続いて、ホスト材料として、化合物(6)、化合物(7)、化合物(8)を用い、これを含有する有機薄膜を調製した。具体的には、まず、中性洗剤及び純水を用いて超音波洗浄し乾燥した石英基板を準備した。次いで、その石英基板をさらにUV/O3洗浄した後、真空蒸着装置(VPC−410、真空機工株式会社製、商品名)の基板ホルダーに固定し、その装置の真空槽を1×10−4Pa以下となるまで減圧した。続いて、その真空槽内を減圧状態に維持したまま、化合物(6)を、蒸着速度0.1nm/秒で、石英基板の表面上に厚み100nmとなるまで蒸着し、化合物(6)の有機薄膜を得た。化合物(7)及び化合物(8)についても、同様にして、厚み100nmの有機薄膜を得た。
【化3】
【化4】
【化5】
【0107】
次に、ドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜を準備した。ドーパント材料とホスト材料の組み合わせは、化合物(4)と化合物(6)、化合物(5)と化合物(7)、化合物(4)と化合物(8)の3種類を準備した。この有機薄膜の調製方法は、蒸着を、重量比97:3でホスト材料とドーパント材料とを共蒸着(蒸着速度:0.1nm/秒)することにより行った以外は、上述したホスト材料の有機薄膜の調製方法と同様にした。
【0108】
そして、上記希薄溶液及び有機薄膜について、それぞれ蛍光寿命を測定した。蛍光寿命の測定は、C4780(ピコ秒蛍光寿命測定装置、浜松ホトニクス株式会社製、商品名)を用いて室温で行った。ドーパント材料の蛍光発光に相当する波長における蛍光寿命が複数の蛍光寿命成分からなるものと認められる場合は、その蛍光強度減衰曲線を、多成分フィッティング演算を行うことにより、各蛍光寿命成分の蛍光強度減衰曲線に分解し、各蛍光寿命成分の長さを求めた。
【0109】
ドーパント材料の希薄溶液から得られた蛍光寿命の結果を表1に、ホスト材料の有機薄膜から得られた蛍光寿命の結果を表2に、ドーパント材料をホスト材料に添加した有機薄膜から得られた蛍光寿命の結果を表3にそれぞれ示す。なお、蛍光寿命及び蛍光寿命成分の単位はナノ秒であり、蛍光寿命成分は短い方からa,b,cとした。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
表1〜3より、化合物(4)及び化合物(6)の組み合わせは、数1及び数2の基準を両方とも満たしていた。また、化合物(5)及び化合物(7)の組み合わせは、数1の基準を満たしていたが、数2の基準を満たしていなかった。さらに、化合物(4)及び化合物(8)の組み合わせは、数1及び数2の基準を両方とも満たしていなかった。
【0114】
(有機EL素子1)
まず、100nmの厚みを有するITO透明電極(陽極)を備えるガラス基板を、中性洗剤及び純水を用いて超音波洗浄し乾燥した。次いで、該当面電極表面をUV/O3洗浄した後、上述した真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、真空槽内を1×10−4Pa以下となるまで減圧した。続いて、真空槽内を減圧状態に維持したまま、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス[N−(4−メチルフェニル)−N−フェニル−(4−アミノフェニル)]−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンを蒸着速度0.1nm/秒で80nmの厚みになるまで蒸着し、これを正孔注入層とした。
【0115】
次に、真空槽内を減圧状態に維持したまま、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチル−ベンジジンを蒸着速度0.1nm/秒で15nmの厚みになるまで蒸着し、これを正孔輸送層とした。さらに、真空槽内を減圧状態に維持したまま、化合物(4)と化合物(6)を重量比97:3で全体の蒸着速度0.1nm/秒で40nmの厚みになるまで蒸着(共蒸着)し、これを発光層とした。続いて、真空槽内を減圧状態に維持したまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.1nm/秒で15nmの厚みとなるまで蒸着し、これを電子輸送層とした。そして、真空槽内を減圧状態に維持したまま、LiF(フッ化リチウム)を蒸着速度0.01nm/秒で0.3nmの厚みになるまで蒸着し、これを電子注入層(陰極)とし、さらに保護電極としてアルミニウムを150nmの厚みになるまで蒸着して、有機EL素子1を得た。
【0116】
この有機EL素子1に直流電圧を印加して電流を流したところ、6.0V、10mA/cm2で1200cd/m2の発光が確認された。この時の発光極大波長はλmax=475nmであった。また、この素子に、50mA/cm2の一定電流を流し、連続発光させたところ、初期輝度6000cd/m2で、輝度半減時間(駆動寿命)は300時間の寿命特性を示した。
【0117】
(有機EL素子2)
化合物(4)と化合物(6)を重量比97:3で蒸着したのに代えて、化合物(5)と化合物(7)を重量比97:3で蒸着した以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子2を得た。
【0118】
この有機EL素子2に直流電圧を印加して電流を流したところ、6.0V、10mA/cm2で1100cd/m2の発光が確認された。この時の発光極大波長はλmax=475nmであった。また、この素子に、50mA/cm2の一定電流を流し、連続発光させたところ、初期輝度5500cd/m2で、輝度半減時間(駆動寿命)は280時間の寿命特性を示した。
【0119】
(有機EL素子3)
化合物(4)と化合物(6)を重量比97:3で蒸着したのに代えて、化合物(4)と化合物(8)を重量比97:3で蒸着した以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子3を得た。
【0120】
この有機EL素子3に直流電圧を印加して電流を流したところ、6.5V、10mA/cm2で1200cd/m2の発光が確認された。この時の発光極大波長はλmax=475nmであった。また、この素子に、50mA/cm2の一定電流を流し、連続発光させたところ、初期輝度6000cd/m2で、輝度半減時間(駆動寿命)は120時間の寿命特性を示した。
【0121】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、有機EL素子の長寿命化を実現できるホスト材料及びドーパント材料を効率的に選択する有機EL素子材料の選択方法を提供することができる。また、このような有機EL素子材料の選択方法を用いた有機EL素子の製造方法を提供することができる。さらに、その製造方法により、長期間に亘って良好な発光を示す有機EL素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】有機EL素子の一般的な構成の一例を示す模式断面図である。
【図2】蛍光強度減衰曲線の模式図である。
【図3】2種類の蛍光寿命成分からなる蛍光強度減衰曲線の模式図である。
【符号の説明】
1…第一の電極層、2…第二の電極層、4…基板、10…発光層、12…正孔輸送層、14…正孔注入層、16…電子輸送層、18…電子注入層、100…有機EL素子、P…電源。
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機EL素子材料の選択方法、有機EL素子の製造方法及び有機EL素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機ELディスプレイ等に用いられる有機EL素子は、例えば、蛍光性有機化合物や燐光性有機化合物等の発光性有機化合物を含む発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有するものであり、この発光性有機化合物に電界を印加することにより励起・発光させる素子である(例えば、非特許文献1参照)。このような有機EL素子は、無機EL素子と比較して、輝度や発光効率(量子収率)等の素子特性において優れており、現在実用化の段階を迎えつつある。
【0003】
この有機EL素子の発光層は、大別して、1種類の発光性有機化合物を単独で含有するものと、発光能力が比較的低く成膜性に優れた発光性有機化合物(以下、「ホスト材料」という。)に発光能力が比較的高く成膜性に劣る発光性有機化合物(以下、「ドーパント材料」という。)をドープさせて含有するもの(例えば、非特許文献2参照)とがある。これらのうち後者の発光層は、有機EL素子の発光効率を向上させることができ、しかも多様な発光性有機化合物を使用することができるので、近年、特に注目されているものであり、多くのホスト材料及びドーパント材料が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方、この有機EL素子は、上述のように優れた輝度及び発光効率を有している反面、寿命が未だ充分ではないという欠点を有しており、素子の更なる長寿命化が要求されている。
【0005】
【非特許文献1】
シー・ダブリュー・タン(C. W. Tang)ら,アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters),アメリカン・インスティチュート・オブ・フィジックス(American Institute of Physics),1987年,第51巻,p.913
【非特許文献2】
シー・ダブリュー・タン(C. W. Tang)ら,ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journal of Applied Physics),アメリカン・インスティチュート・オブ・フィジックス(American Institute of Physics),1989年、第65巻,p.3610
【特許文献1】
特開2003−26616号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らは、上記非特許文献1,2及び特許文献1に記載されているものを初めとする従来の有機EL素子、特に発光層にホスト材料とドーパント材料とを含有する有機EL素子について詳細に検討を行ったところ、このような従来の有機EL素子の発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料は、試行錯誤の末に得られたものであることを見出した。
【0007】
すなわち、従来の有機EL素子に用いられていたホスト材料及びドーパント材料の選択方法は、任意のホスト材料と任意のドーパント材料とを選択して有機EL素子を作製した後にその寿命を測定することによって、初めてそのホスト材料とドーパント材料との組み合わせが該素子の長寿命化に適したものであるか否かを判断したものであることが明らかになった。このような従来のホスト材料及びドーパント材料の選択方法は、所望の長寿命化を実現できる有機EL素子を得るまで、有機EL素子の作製及びその性能測定という作業を繰り返さなければならず、膨大な数の試行錯誤を行うこととなり、労力、時間及び費用的な面から非効率的な方法であるといえる。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、有機EL素子の長寿命化を実現できるホスト材料及びドーパント材料を効率的に選択する有機EL素子材料の選択方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ホスト材料が有する蛍光寿命とドーパント材料が有する蛍光寿命との関係が特定の条件を満たすと、それらの材料を用いた有機EL素子は十分に長寿命化されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の有機EL素子材料の選択方法は、有機EL素子の発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を、ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する二種類以上の試料の蛍光寿命により決定する材料選択工程を備えることを特徴とする。
【0011】
このようにして選択されたホスト材料とドーパント材料とを用いて作製された有機EL素子が、耐久性を向上できる、すなわち、長寿命化を実現できる要因は現在のところ詳細には明らかにされていないが、本発明者らは以下のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。
【0012】
本発明者らが考えているその要因を説明するために、まず、ホスト材料とドーパント材料とを含有する発光層(有機層)を備えた有機EL素子の発光原理について、図を参照しながら説明する。
【0013】
有機EL素子の一般的な構成の一例を図1に示す。図1に示す有機EL素子100は、いわゆる5層型有機EL素子であり、互いに対向して配置されている2つの電極(第一の電極1及び第二の電極2)により、正孔注入層14、正孔輸送層12、発光層10、電子輸送層16及び電子注入層18が挟持された構造を有している。正孔注入層14、正孔輸送層12、発光層10、電子輸送層16及び電子注入層18はいずれも有機層であり、第一の電極1側からこの順に積層されている。これらのなかで、発光層10は、ホスト材料にドーパント材料をドープすることにより作製されたものである。また、第一の電極1は基板4上に形成されている。なお、電子注入層18は無機層とすることもできる。
【0014】
この有機EL素子100において、第一の電極1及び第二の電極2が、それぞれ陽極及び陰極として機能し、電源Pによる電界の印加により、第一の電極1から正孔注入層14に正孔(ホール)が注入され、正孔輸送層12を経由して輸送されるとともに、第二の電極2から電子注入層18に電子が注入され、電子輸送層16を経由して輸送され、これらが発光層10において再結合する。この再結合により、発光層10に含有される有機化合物分子の電子状態が基底状態から高いエネルギーを有する励起状態に励起される。そして、不安定な励起状態から安定な基底状態への緩和過程の際にエネルギーを放出し、そのエネルギー放出に伴い発光する、と考えられている。
【0015】
また、上記励起状態には、電子スピン多重度の違いから一重項励起状態及び三重項励起状態があり、一重項励起状態から基底状態へ戻る際に発せられる光が本発明にかかる蛍光であり、三重項励起状態から基底状態へ戻る際に発せられる光が燐光である。また、発光層中の有機化合物分子は光を照射することによっても励起状態に励起されるが、この場合は一重項励起状態に選択的に励起される。
【0016】
発光層がホスト材料とドーパント材料とからなる場合は、以下の二種類の発光機構が考えられている。
【0017】
一つ目は、まず電子と正孔とが、ホスト材料として用いられる有機化合物分子(以下、「ホスト分子」という。)において再結合し、これにより、ホスト分子が励起状態に励起される。このホスト分子が基底状態に戻る際に放出されるエネルギーにより、今度はドーパント材料として用いられる有機化合物分子(以下、「ドーパント分子」という。)が励起状態に励起される。そして、そのドーパント分子が基底状態に戻る際に発光する、と考えられている。
【0018】
二つ目は、まず電子と正孔とがドーパント分子において再結合し、これにより、ドーパント分子が励起状態に励起される。そして、そのドーパント分子が基底状態に戻る際に発光する、と考えられている。すなわちこの二つ目の発光機構は、ホスト分子が直接的に発光に関与しないものと考えられる。
【0019】
したがって、発光層がホスト材料とドーパント材料とからなる有機EL素子では、上記二つの発光機構のいずれの場合も、ドーパント分子から発光が得られることになる。
【0020】
ここで、「蛍光寿命」は、ホスト分子或いはドーパント分子などの有機化合物分子の、上述した一重項励起状態から基底状態への緩和過程の際に発せられる蛍光の発光時間のことをいい、下記式(3)中のτで定義されるものである。
τ=1/(kf+kd+kr+kisc) …(3)
【0021】
なお、kfは蛍光放射遷移、すなわち有機化合物分子が蛍光を発しつつ一重項励起状態から基底状態へ戻る際の速度定数を示す。また、kdは分子運動による減衰の速度定数、krは光化学反応等の分子間相互作用による減衰の速度定数、及びkiscは項間交差による減衰の速度定数をそれぞれ示す。
【0022】
これらのうち、蛍光放射遷移並びに分子運動及び項間公差に伴う減衰(関連する速度定数は、それぞれkf,kd,kisc)は、同一分子内におけるものであり、分子間相互作用による減衰(関連する速度定数はkr)は異なる分子間によるものである。また、分子運動、分子間相互作用及び項間交差に伴う減衰(関連する速度定数は、それぞれkd,kr,kisc)は発光を伴わないものであるので、「無放射過程」と呼ばれる。
【0023】
上記式から明らかなように、蛍光寿命τは、蛍光放射遷移の速度が大きくなる場合のみならず、発光に寄与しない無放射過程の影響が大きくなっても、短くなってしまう。
【0024】
この「蛍光寿命」は、従来の蛍光寿命測定装置を用いて、蛍光分子の蛍光波長の蛍光強度が初期蛍光強度の1/eとなるまでの時間を測定することにより導出される。ここでeは自然対数の底を示す。より具体的には、蛍光寿命測定装置を用いることにより、横軸を経過時間とし、縦軸を蛍光強度の対数とした蛍光強度減衰曲線と呼ばれる曲線が得られ、その曲線より蛍光寿命が導出される。その模式図を図2に示す。
【0025】
この図中、I0は初期蛍光強度、I1/eは初期蛍光強度I0の1/eの蛍光強度、τは蛍光寿命を示す。この図2から明らかなとおり、蛍光寿命τは、初期蛍光強度I0が得られる時間を開始時間とし、そこから蛍光強度I1/eが得られるまでの経過時間として表される。
【0026】
以上のことから、ホスト材料及びドーパント材料は、発光層が蛍光を発光する際に互いに密接な関連性をもって、その発光層の蛍光発光に寄与していると考えられる。したがって、ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する二種類以上の試料の蛍光寿命によりホスト材料及びドーパント材料を決定することは、結果的に有機EL素子が備える発光層の蛍光発光時間を延長せしめる、すなわち有機EL素子の長寿命化を実現すると考えられる。
【0027】
本発明の有機EL素子材料の選択方法は、試料として、ホスト材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ホスト材料にドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ドーパント材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液及びドーパント材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜からなる群より選ばれるものを二種類以上用いると好ましい。
【0028】
このような試料の蛍光寿命によりホスト材料及びドーパント材料を決定することで、有機EL素子の長寿命化を実現できる傾向にある。
【0029】
ここで、「希薄溶液」とは、後述するように、溶質であるホスト材料若しくはドーパント材料が、その分子間相互作用を無視できる程度の濃度となるように調製されたものであり、そのような観点から10−4〜10−6mol/Lの濃度であると好ましい。
【0030】
また、「有機薄膜」とは、ホスト材料若しくはドーパント材料に、必要に応じてバインダー樹脂等を混合して作成される薄膜であって、その成形法としては蒸着法又は塗布法などが挙げられる。これらのうち、目的とする分子(ホスト分子若しくはドーパント分子)以外の分子の影響を無視する観点からバインダー樹脂等を含有しない有機薄膜が好ましい。
【0031】
一種類のホスト材料又はドーパント材料のような蛍光性有機化合物を溶媒に添加して得られる希薄溶液中の該有機化合物分子は、その分子間に相互作用がない傾向にある。したがって、このような希薄溶液試料から得られる蛍光寿命は、上記式(3)中のkrの影響を受けない傾向にあると考えられ、この点では蛍光寿命τの数値が大きくなる傾向にある。一方、希薄溶液中においては、該有機化合物分子は比較的自由な分子運動をすることができる。したがって、このような希薄溶液試料から得られる蛍光寿命は、上記式(3)中のkdの影響を受ける傾向にあると考えられ、この点では蛍光寿命τの数値が小さくなる傾向にある。
【0032】
また、一種類のホスト材料又はドーパント材料のような蛍光性有機化合物を薄膜状に成形して得られる有機薄膜中の該有機化合物分子は、上述した溶液と比較して分子運動が制限される傾向にある。したがって、このような有機薄膜試料から得られる蛍光寿命は、上述した溶液試料の蛍光寿命と比較して、上記式(3)中のkdの値が小さくなる傾向にあると考えられ、この点では蛍光寿命τの数値が大きくなる傾向にある。一方、一種類のホスト材料又はドーパント材料のみからなる有機薄膜において、同種分子間の相互作用は強くなる傾向にある。したがって、このような有機薄膜試料から得られる蛍光寿命は、上述した希薄溶液試料の蛍光寿命と比較して、上記式(3)中のkrの値が大きくなる傾向にあると考えられ、この点では蛍光寿命τの数値が小さくなる傾向にある。
【0033】
さらに、ホスト材料にドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜中のそれらの材料の分子は、上述した試料に含有される分子とは異なり、蛍光放射或いは光化学反応などの影響を互いに受け易い傾向にある。したがって、このような試料から得られる蛍光寿命は、上述した試料から得られる蛍光寿命とは異なる傾向にある。
【0034】
以上のことから、本発明の有機EL素子材料の選択方法において、上述したような試料の蛍光寿命により、発光を伴わない無放射過程が蛍光寿命に与える影響についての情報を得ることができ、また、ホスト材料及びドーパント材料を組み合わせた場合に生じる蛍光放射等が蛍光寿命に与える影響についての情報を得ることができる。したがって、これらの影響を考慮して、有機EL素子の長寿命化を実現できるホスト材料及びドーパント材料を決定することが可能となる。
【0035】
また、本発明の有機EL素子材料の選択方法において、二種類以上の試料のいずれかの蛍光寿命が複数の蛍光寿命成分からなる場合、材料選択工程より前に、蛍光寿命を各蛍光寿命成分に分解する分解工程をさらに備え、材料選択工程において、各蛍光寿命成分に分解した状態の蛍光寿命によりホスト材料及びドーパント材料を決定すると好ましい。
【0036】
このような分解工程及び材料選択工程を経ることにより、有機EL素子の駆動寿命をさらに長期化できるホスト材料及びドーパント材料を決定できる傾向にある。
【0037】
最も単純な蛍光強度減衰曲線は、図2中のτのように一種類の蛍光寿命成分で表される。しかしながら、ある試料の蛍光強度減衰曲線は、例えば図3中のγのように表される曲線を示す場合もあり、このような場合、その蛍光強度減衰曲線γは、2種類の蛍光強度減衰曲線α,βからなる。そして蛍光強度減衰曲線αから、その初期蛍光強度Ia0に対して1/eの強度Ia1/eとなるときの蛍光寿命成分τaが得られ、蛍光強度減衰曲線βから、その初期蛍光強度Ib0に対して1/eの強度Ib1/eとなるときの蛍光寿命成分τbが得られる。したがって、その試料は2種類の蛍光寿命成分τa及びτbを有しているものと考えられている。
【0038】
蛍光寿命が複数の蛍光寿命成分からなる理由として、主として化学的性質の異なる複数種の蛍光分子が試料中に存在することが挙げられる。さらには、試料に溶媒若しくはバインダー樹脂等の発光しない分子を含むと、それらの分子と蛍光分子との相互作用により新たな蛍光寿命成分が生成する場合もあると考えられる。
【0039】
しかしながら、化学的には一種類の分子(蛍光分子)しか含まれていない試料であっても、図3中のγで表されるような蛍光強度減衰を示す場合もある。これは、複数の異なる励起状態、或いは、複数の異なる緩和過程の存在を示唆している。その原因として、化学的には一種類の蛍光分子であっても、その分子が複数のコンフォメーション(配座)を有すること、或いは、同一種類の分子間での相互作用が存在し、場合によっては励起錯体(エキサイマー)を形成することなどが考えられる。
【0040】
したがって、複数の蛍光寿命成分が存在する場合に、蛍光寿命をその各成分に分解した後に、試料同士の各蛍光寿命成分を比較することにより、異種分子間及び/又は同種分子間の相互作用が蛍光寿命に与える影響などに関する情報をより詳細に得ることができる。その結果、これらの影響を考慮して、有機EL素子の長寿命化を実現できるホスト材料及びドーパント材料を決定することが可能となる。
【0041】
本発明の有機EL素子材料の選択方法は、二種類以上の試料のうちの一つとして、ホスト材料にドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜を用い、且つ、二種類以上の試料のうちの別の一つとして、該ドーパント材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液を用い、材料選択工程は、一つの試料の最も短い蛍光寿命成分τsと、別の一つの試料の蛍光寿命τdとが下記式(1)で表される関係を有するようなホスト材料及びドーパント材料を決定する工程であると、より好ましい。
τs≧τd …(1)
【0042】
このような関係を有するホスト材料及びドーパント材料を選択すると、それらの材料を含有する発光層を備えた有機EL素子は、より耐久性が向上する傾向にあると共に、発光効率も向上する傾向にある。
【0043】
上記希薄溶液試料において、ドーパント分子は、その分子同士が隔離された状態にあるため、分子間に相互作用がない傾向にある。したがって、このような試料から得られる蛍光寿命τdは、上記式(3)中のkrの影響を受けない(krの値が小さい)傾向にあると考えられる。
【0044】
一方、上記有機薄膜試料において、ドーパント分子がその周囲の分子、特にホスト分子との間に光反応等の相互作用を有すると、上記式(3)中のkrの影響を受ける(krの値が大きい)傾向にある。このような場合に、その有機薄膜試料の蛍光寿命は複数の蛍光寿命成分からなると考えられる。そして、その複数の蛍光寿命成分のうち、最も短い蛍光寿命成分τsは、krの影響を受けた結果として得られる蛍光寿命成分であるので、τdと同じ長さの寿命になると本発明者らは考えている。
【0045】
さらに、上記希薄溶液の試料により得られる蛍光寿命τdは、分子運動による減衰の影響を受ける場合もあり、そのような場合は、蛍光寿命τdがさらに短くなるものと考えられる。
【0046】
以上より、ドーパント分子が分子間の相互作用を受けない希薄溶液試料から得られる蛍光寿命τdと、ドーパント分子が分子間の相互作用を受ける可能性のある上記有機薄膜試料から得られる蛍光寿命成分のうち最も短い蛍光寿命成分τsとの関係が上記式(1)を満たすことにより、そのホスト材料とドーパント材料との組み合わせは、ドーパント材料が分子間の相互作用を受けない傾向にある組み合わせとなる。このような要因により、該組み合わせは有機EL素子の長寿命化に寄与するものと考えられる。
【0047】
また、このホスト材料とドーパント材料との組み合わせは、注入されたキャリアのうち分子間の相互作用により消費されるものが減少する傾向にあり、その分、有機EL素子の発光に用いられることになると考えられるので、発光効率が向上する傾向にある。
【0048】
ここで、発光効率とは、注入されたキャリア量(電流)に対する発光エネルギーの割合をいう。
【0049】
さらに、本発明の有機EL素子材料の選択方法は、二種類以上の試料のうちの一つとして、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜を用い、且つ、二種類以上の試料のうちの別の一つとして、ドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜を用い、材料選択工程は、一つの試料の最も長い蛍光寿命成分τhと、別の一つの試料の最も長い蛍光寿命成分τlとが下記式(2)で表される関係を有するようなホスト材料及びドーパント材料を決定する工程であってもよい。
τh>τl …(2)
【0050】
このようにして選択されたホスト材料及びドーパント材料を有機EL素子の発光層に用いると、該有機EL素子の耐久性がより向上する傾向にあると共に、発光効率も向上する傾向にある。
【0051】
ドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜試料の各蛍光寿命成分のうち、最も長い蛍光寿命成分τlは、励起状態にあるドーパント分子が、周囲のホスト分子との相互作用により励起錯体(エキサイプレックス)等を形成することにより生じたものであり得ると考えられる。このような異種分子間の相互作用により生じた励起錯体等は長時間発光するものではあるが、ドーパント分子の所望の発光とは異なるものである。したがって、この励起錯体等の存在は、その発光によりエネルギーが消費され、ドーパント分子の所望の発光効率が低下する傾向にあるばかりではなく、ドーパント分子の蛍光寿命を低下させる傾向ともなり好ましくない。
【0052】
一方、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜試料は、ドーパント材料を含有しないので、上記励起錯体等に由来する蛍光寿命成分が生成することはない。
【0053】
以上より、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜試料、及びドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜試料からそれぞれ得られる蛍光強度減衰曲線とを比較し、それらの最も長い蛍光強度成分τhとτlとの関係が上記式(2)を満たすと、そのようなホスト材料とドーパント材料との組み合わせは、上述したような励起錯体等を形成しない傾向にある組み合わせとなる。したがって、この組み合わせは、有機EL素子の長寿命化に寄与し、さらには発光効率の向上に寄与するものと考えられる。
【0054】
また、本発明の有機EL素子材料の選択方法は、ホスト材料及びドーパント材料が、それぞれ環数3〜10の縮合芳香環を有する化合物からなる群より選択されるものであるとさらに好ましい。このような化合物をホスト材料及びドーパント材料に用いることにより、得られる有機EL素子は、発光層の安定性がさらに向上する傾向にあるので、その駆動寿命をさらに向上させることができる。
【0055】
本発明の有機EL素子の製造方法は、上述した本発明の有機EL素子材料の選択方法を用いて発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を決定する工程を含むことを特徴とする。この製造方法によって得られる本発明の有機EL素子は、上述したように、十分に長い駆動寿命を有することができる。
【0056】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0057】
本発明の有機EL素子材料の選択方法は、互いに対向して配置されている2つの電極間に1又は2以上の有機層を備える有機EL素子の発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を、ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する二種類以上の試料の蛍光寿命により決定する材料選択工程を備えるものである。
【0058】
本発明の有機EL素子材料の選択方法の材料選択工程において決定及び選択されるホスト材料及びドーパント材料は、特に限定されることなく、有機EL素子に備えられる発光層に含有されるホスト材料又はドーパント材料として用いることができるもののなかから適宜選択される。従って該ホスト材料及び該ドーパント材料は、低分子有機化合物であってもよく、高分子有機化合物であってもよい。なお、本明細書における「有機化合物」とは、有機金属錯体化合物をも含むものである。
【0059】
該ホスト材料及び該ドーパント材料は、例えば、アルミニウム錯体、ベリリウム錯体、亜鉛錯体、イリジウム錯体若しくは希土類金属錯体等の有機金属錯体化合物、アントラセン、ナフタセン、ベンゾフルオランテン、ナフトフルオランテン、スチリルアミン若しくはテトラアリールジアミン又はこれらの誘導体、ペリレン、キナクリドン、クマリン、DCM若しくはDCJTBなどの低分子有機化合物、或いは、ポリアセチレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体若しくはポリチオフェン誘導体等のπ共役系ポリマー、又は、ポリビニル化合物、ポリスチレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアクリレート誘導体若しくはポリメタクリレート誘導体等の非π共役系の側鎖型ポリマー若しくは主鎖型ポリマー等に色素を含有させたものなどの高分子有機化合物などのなかから選択される。
【0060】
これらのなかで、該ホスト材料及びドーパント材料が、環数3〜10の縮合芳香環を有する化合物からなる群より選択されると、いずれの化合物を選択しても発光層の安定性が確保される傾向にあるので好ましい。そのような化合物を用いて作製された有機EL素子は、より長期間の駆動寿命を有することができる。
【0061】
ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する試料としては、ホスト分子或いはドーパント分子の蛍光寿命に影響を与える因子を考慮して、種々の形態のものを調製することができる。蛍光分子の蛍光寿命は、上記式(3)から明らかなとおり、蛍光放射遷移、分子運動による減衰、光化学反応等の分子間相互作用による減衰及び項間交差による減衰に影響を受ける。したがって、例えば、ホスト材料或いはドーパント材料単独の分子間相互作用による影響を無視し、分子運動の影響を考慮したい場合は、その材料を溶媒に添加して、10−4〜10−6mol/Lの濃度の希薄溶液を調製すればよい。
【0062】
上記希薄溶液は、具体的には、例えば以下のようにして調製される。まず、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ジエチルエーテル、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン若しくはクロロホルム等の通常用いられる溶媒のなかから、試料を溶解させるのに十分な溶解性を有するものを適宜選択し、定法にしたがい乾燥及び精製して準備する。次いで、試料(蛍光分子)を5mg秤量し、5mLの上記精製溶媒中に入れて完全に溶解する。続いて、その試料濃度が10−4〜10−6mol/L程度になるように、上記精製溶媒でさらに希釈して希薄溶液を得る。ただし、希薄溶液の調製方法はこれに限定されない。
【0063】
また、ホスト材料或いはドーパント材料単独の分子間相互作用による影響及び分子運動による影響の両方を考慮したい場合は、その材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜を調製すればよい。
【0064】
この有機薄膜は、具体的には、例えば以下のようにして調製される。まず、石英基板を準備する。この石英基板は不純物による影響を取り除くために、中性洗剤及び純水を用いて超音波洗浄し、さらにUV/O3洗浄したものを用いることが好ましい。次いで、その石英基板を市販の真空蒸着装置の真空槽内にある基板ホルダーに固定して、真空槽内を1×10−4Pa以下になるまで減圧する。続いて、その減圧状態を保持したまま、ホスト材料又はドーパント材料を蒸着速度0.1nm/秒程度で該石英基板表面に蒸着させ、約100nmの厚みを有する有機薄膜を得る。
【0065】
ただし、有機薄膜の調製方法はこのような真空蒸着法に限定されず、ホスト材料又はドーパント材料に高分子有機化合物を用いる場合は、スピンコート法、スプレーコート法若しくはディップコート法等の塗布法により有機薄膜を調整してもよい。
【0066】
有機薄膜の厚みは、蛍光寿命を測定するために試料の蛍光光量(強度)が十分に確保できる厚みであれば、特に限定されない。
【0067】
さらに、試料のうちの一つが、ドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜であると好ましい。このような試料を用いて蛍光寿命を測定することにより、ホスト材料とドーパント材料とを組み合わせた場合に生じる蛍光放射等が蛍光寿命に与える影響についての情報を得ることができる。
【0068】
この有機薄膜は、例えば、上述したホスト材料或いはドーパント材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜の調製方法において、蒸着の際に両方の材料を同時に共蒸着させることにより得ることができる。
【0069】
この有機薄膜に含有されるホスト材料とドーパント材料との混合比は、実際の有機EL素子の発光層に用いる場合を考慮して、50:50〜100:1であると好ましい。
【0070】
本発明にかかる試料として、その他に、溶液中の材料濃度を比較的濃厚にした濃厚溶液、試料にバインダー樹脂をも添加して調製した有機薄膜なども、必要に応じて適宜用いることができる。また、試料に含有するホスト材料及び/又はドーパント材料の種類は、上述したように1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
上記各試料の蛍光寿命は、従来の蛍光寿命測定装置を用いることにより測定することができる。このような装置としては、例えば、レーザー等の励起光源とストリークカメラ等の数ナノ秒〜数ピコ秒の超高速分解能を有する観測器を備えた蛍光寿命測定装置などを用いることができる。具体的には、C4780(ピコ秒蛍光寿命測定装置、浜松ホトニクス株式会社製、商品名)などを用いることができる。
【0072】
蛍光寿命は、上述したように、上記測定装置を用いて得られた蛍光強度減衰曲線より導出される。
【0073】
また、試料が複数の蛍光寿命成分を含んでいる場合は、通常のカーブフィッティング処理などの演算処理を行うことにより、蛍光寿命の蛍光強度減衰曲線を分解して、容易に各蛍光寿命成分毎の蛍光強度減衰曲線を得ることができる(分解工程)。そのような演算処理は、上記蛍光寿命測定装置に備えられているカーブフィッティング用ソフトを用いて行ってもよく、該測定装置とは別に得られる市販若しくは自製のカーブフィッティング用ソフトを用いて行ってもよい。そして、そのようなソフトを用いて得られた各蛍光強度減衰曲線から、蛍光寿命の場合と同様にして各蛍光寿命成分を求めることができる。
【0074】
得られた各蛍光寿命成分は、上述したように、用いた試料の種類及び形態によって、その蛍光寿命成分の生成要因が異なるものと考えられる。
【0075】
上述のようにして得られた各試料の蛍光寿命若しくは蛍光寿命成分は、その長さを比較されるが、比較される試料の種類の数は、二種類以上であれば特に限定されない。したがって、例えば、ホスト材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ホスト材料にドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ドーパント材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液、ドーパント材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜、上記溶液中の材料濃度を比較的濃厚にした濃厚溶液、上記有機薄膜にバインダー樹脂をも添加して調製したものなどから選ばれる二種類以上の試料から得られる蛍光寿命若しくは蛍光寿命成分を比較することができる。
【0076】
これにより、比較した各試料が式(3)の分母に速度定数で表される無放射過程、すなわち、分子運動による減衰、光化学反応等の分子間相互作用による減衰及び項間交差による減衰の影響を受けているか否かについての情報を得ることができる。
【0077】
本発明の有機EL素子材料の選択方法において、上記比較を行った後に、各試料の蛍光寿命若しくは蛍光寿命成分(以下、「蛍光寿命等」という。)の関係が所望の基準を満たすようなホスト材料とドーパント材料との組み合わせを選択することにより、そのような材料を用いて作製された有機EL素子は、十分に長い駆動寿命を有するものとなる。
【0078】
上記所望の基準とは、蛍光寿命等の長短関係のことをいう。例えば、二以上の蛍光寿命若しくは蛍光寿命成分を比較して、例えば、それらが同じ長さであれば、いずれの蛍光寿命等とも、無放射過程の影響を受けていないか、若しくは同じ無放射過程の影響を受けているもの等と考えられる。
【0079】
また、二以上の蛍光寿命等のいずれかが他の蛍光寿命等よりも長くなる場合、その蛍光寿命等は、例えば励起錯体を形成したことに起因していると考えられる。さらに、二以上の蛍光寿命等のいずれかが他の蛍光寿命等よりも短くなる場合、その蛍光寿命等は、例えば分子運動の影響を受けたか、或いは光反応等の分子間の相互作用の影響を受けたものと考えられる。
【0080】
したがって、上述したような影響を考慮して、有機EL素子の長寿命化に繋がるような所望の基準を設定することが好ましい。このような基準としては、具体的には、上記式(1)或いは上記式(2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
本発明の有機EL素子材料の選択方法は、上述したような発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を決定する材料選択工程の他に、以下に説明する基板、第一の電極層及び第二の電極層、並びに、必要に応じて、電子輸送層、正孔輸送層、電子注入層及び正孔注入層に用いられる材料を選択する工程も含まれる。
【0082】
本発明の有機EL素子の製造方法は、上述した本発明の有機EL素子材料の選択方法において選択された有機層(発光層)のホスト材料及びドーパント材料、並びにその他の各材料を用いて、公知の製造方法で製造できる。有機層の形成方法としては、真空蒸着法、イオン化蒸着法若しくは塗布法等を、有機層を構成する材料に応じて適宜選択して採用できる。
【0083】
本発明の有機EL素子は、上記有機EL素子の製造方法によって得られるものであれば、特に限定されることはない。したがって、この有機EL素子は、例えば、図1に示すようないわゆる5層型有機EL素子であってもよく、単層型、2層型、3層型若しくは4層型有機EL素子のいずれかであってもよい。
【0084】
単層型有機EL素子は、互いに対向して配置されている2つの電極層(第一の電極層及び第二の電極層)により、発光層が挟持された構造を有している。また、2層型有機EL素子は、単層型有機EL素子の第一の電極層と発光層との間に正孔輸送層を設けた構造を有している。さらに、3層型有機EL素子は、2層型有機EL素子の第二の電極層と発光層との間に電子輸送層を設けた構造を有している。
【0085】
4層型有機EL素子は、互いに対向して配置されている2つの電極層(第一の電極層及び第二の電極層)により、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子注入層が挟持された構造を有している。
【0086】
なお、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層はいずれも有機層であり、第一の電極側からこの順に積層されている。また、電子注入層は無機層(金属層、金属化合物層等)とすることもできる。さらに、第一の電極は基板上に形成されている。
【0087】
なお、単層型有機EL素子では、発光層において電子及び正孔の注入、電子及び正孔の輸送が行われる。また、2層型有機EL素子では、正孔輸送層において正孔の注入が行われ、発光層において電子の注入及び輸送が行われる。さらに4層型有機EL素子では、発光層において電子の輸送が行われる。
【0088】
また、発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び電子注入層の厚さは特に限定されず、用いる材料およびそれらの形成方法によっても異なるが、好適な厚さは、発光層については5〜1000nm、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び電子注入層については、それぞれ0.1〜100nm、1〜1000nm、0.1〜100nm及び1〜1000nmである。
【0089】
基板としては、ガラス、石英等の非晶質基板、Si、GaAs、ZnSe、ZnS、GaP、InP等の結晶基板、Mo、Al、Pt、Ir、Au、Pd、SUS等の金属基板等を用いることができる。また、結晶質又は非晶質のセラミック、金属、有機物等の薄膜を所定基板上に形成したものを用いてもよい。
【0090】
基板の側を光取出し側とする場合には、基板としてガラスや石英等の透明基板を用いることが好ましく、特に、安価なガラスの透明基板を用いることが好ましい。透明基板には、発色光の調整のために、色フィルター膜や蛍光物質を含む色変換膜、あるいは誘電体反射膜等を設けてもよい。
【0091】
第一の電極層は陽極であり正孔注入電極として機能する。そのため、第一の電極層の材料としては、第一の電極層に隣接する有機層に正孔を効率よく注入できる材料が好ましく、かかる観点からは仕事関数が4.5〜5.5eVである材料が好ましい。
【0092】
また、基板の側を光取出し側とする場合、有機EL素子の発光波長領域である波長400〜700nmにおける透過率、特にRGB各色の波長における第一の電極層の透過率は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。第一の電極層の透過率が50%未満であると、発光層からの発光が減衰されて画像表示に必要な輝度が得られにくくなる。
【0093】
光透過率の高い第一の電極層は、各種酸化物で構成される透明導電膜を用いて構成することができる。かかる材料としては、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)等が好ましく、中でも、ITOは、面内の比抵抗が均一な薄膜が容易に得られる点で特に好ましい。ITO中のIn2O3に対するSnO2の比は、1〜20重量%が好ましく、5〜12重量%がより好ましい。また、IZO中のIn2O3に対するZnOの比は12〜32重量%が好ましい。上記材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
なお、第一の電極層を構成する酸化物の組成は化学量論組成から多少偏倚していてもよい。例えば、ITOは、通常、In2O3とSnO2とを化学量論組成で含有するが、ITOの組成をInOx・SnOyで表すとき、xは1.0〜2.0の範囲内、yは0.8〜1.2の範囲内であればよい。
【0095】
また、第一の電極層に酸化シリコン(SiO2)等の透明な誘電体を添加することにより、第一の電極層の仕事関数を調整することができる。例えば、ITOに対して0.5〜10mol%程度のSiO2を添加することによりITOの仕事関数を増大させ、第一の電極層の仕事関数を上述の好ましい範囲内とすることができる。
【0096】
第一の電極層の膜厚は、上述の光透過率を考慮して決定することが好ましい。例えば酸化物透明導電膜を用いる場合、その膜厚は、好ましくは50〜500nm、より好ましくは50〜300nmであることが好ましい。第一の電極層の膜厚が500nmを超えると、光透過率が不充分となると共に、基板からの第一の電極層の剥離が発生する場合がある。また、膜厚の減少に伴い光透過性は向上するが、膜厚が50nm未満の場合、発光層等への正孔注入効率が低下すると共に膜の強度が低下してしまう。
【0097】
第二の電極層は陰極であり電子注入電極として機能する。第二の電極層の材料としては、金属材料、有機金属錯体、金属塩等が挙げられ、発光層等への電子注入が容易となるように仕事関数が低い材料が好ましい。
【0098】
第二の電極層を構成する金属材料の具体的態様としては、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、LiF、CsI等のアルカリ金属ハロゲン化物等が挙げられる。また、La、Ce、Sn、Zn、Zr等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属と特性が近い金属を用いることができる。これらの中でも、Caは仕事関数が非常に低いため特に好ましい。
【0099】
なお、第二の電極層上には補助電極を設けてもよい。これにより、発光層等への電子注入効率を向上させることができ、また、発光層や電子注入層への水分又は有機溶媒の侵入を防止することができる。補助電極の材料としては、仕事関数及び電荷注入能力に関する制限がないため、一般的な金属を用いることができるが、導電率が高く取り扱いが容易な金属を用いることが好ましい。また、特に第二の電極層が有機材料を含む場合には、有機材料の種類や密着性等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0100】
補助電極に用いられる材料としては、Al、Ag、In、Ti、Cu、Au、Mo、W、Pt、Pd、Ni等が挙げられるが、中でもAl及びAg等の低抵抗の金属を用いると電子注入効率を更に高めることができる。また、TiN等の金属化合物を用いることにより一層高い封止性を得ることができる。これらの材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。また、2種類以上の金属を用いる場合は合金として用いてもよい。このような補助電極は、例えば、真空蒸着法等によって形成可能である。
【0101】
正孔輸送層には、低分子材料、高分子材料のいずれの正孔輸送性材料も使用可能である。正孔輸送性低分子材料としては、例えば、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体などが挙げられる。また、正孔輸送性高分子材料としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸共重合体(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリスチレンスルホン酸共重合体(Pani/PSS)などが挙げられる。これらの正孔輸送性材料は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
電子輸送層には、低分子材料、高分子材料のいずれの電子輸送材料も使用可能である。電子輸送性低分子材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレン及びその誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、フェナントロリン及びその誘導体、並びにこれらの化合物を配位子とする金属錯体などが挙げられる。また、電子輸送性高分子材料としては、ポリキノキサリン、ポリキノリンなどが挙げられる。これらの電子輸送性材料は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
正孔注入層には、アリールアミン、フタロシアニン、ポリアニリン/有機酸、ポリチオフェン/ポリマー酸等を用いることができ、電子注入層にはリチウム等のアルカリ金属、フッ化リチウム、酸化リチウム等を用いることができる。
【0104】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0105】
まず、ドーパント材料として、下記式(4),(5)で表される化合物を用い、これを含有する希薄溶液を調製した。具体的には、まず、溶媒であるトルエンを定法に従い乾燥・精製した。次いで、5mgの式(4)で表される化合物(以下「化合物(4)」という。他の化合物についても同様とする。)を秤量し、5mLの精製トルエンで完全に溶解させた。続いて、得られた溶液のうち1mLを、さらに精製トルエンで全量が20mLになるように希釈して、化合物(4)の1.4×10−5mol/Lの希薄溶液を得た。化合物(5)についても、同様にして、1.4×10−5mol/Lの希薄溶液を得た。
【化1】
【化2】
【0106】
続いて、ホスト材料として、化合物(6)、化合物(7)、化合物(8)を用い、これを含有する有機薄膜を調製した。具体的には、まず、中性洗剤及び純水を用いて超音波洗浄し乾燥した石英基板を準備した。次いで、その石英基板をさらにUV/O3洗浄した後、真空蒸着装置(VPC−410、真空機工株式会社製、商品名)の基板ホルダーに固定し、その装置の真空槽を1×10−4Pa以下となるまで減圧した。続いて、その真空槽内を減圧状態に維持したまま、化合物(6)を、蒸着速度0.1nm/秒で、石英基板の表面上に厚み100nmとなるまで蒸着し、化合物(6)の有機薄膜を得た。化合物(7)及び化合物(8)についても、同様にして、厚み100nmの有機薄膜を得た。
【化3】
【化4】
【化5】
【0107】
次に、ドーパント材料をホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜を準備した。ドーパント材料とホスト材料の組み合わせは、化合物(4)と化合物(6)、化合物(5)と化合物(7)、化合物(4)と化合物(8)の3種類を準備した。この有機薄膜の調製方法は、蒸着を、重量比97:3でホスト材料とドーパント材料とを共蒸着(蒸着速度:0.1nm/秒)することにより行った以外は、上述したホスト材料の有機薄膜の調製方法と同様にした。
【0108】
そして、上記希薄溶液及び有機薄膜について、それぞれ蛍光寿命を測定した。蛍光寿命の測定は、C4780(ピコ秒蛍光寿命測定装置、浜松ホトニクス株式会社製、商品名)を用いて室温で行った。ドーパント材料の蛍光発光に相当する波長における蛍光寿命が複数の蛍光寿命成分からなるものと認められる場合は、その蛍光強度減衰曲線を、多成分フィッティング演算を行うことにより、各蛍光寿命成分の蛍光強度減衰曲線に分解し、各蛍光寿命成分の長さを求めた。
【0109】
ドーパント材料の希薄溶液から得られた蛍光寿命の結果を表1に、ホスト材料の有機薄膜から得られた蛍光寿命の結果を表2に、ドーパント材料をホスト材料に添加した有機薄膜から得られた蛍光寿命の結果を表3にそれぞれ示す。なお、蛍光寿命及び蛍光寿命成分の単位はナノ秒であり、蛍光寿命成分は短い方からa,b,cとした。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
表1〜3より、化合物(4)及び化合物(6)の組み合わせは、数1及び数2の基準を両方とも満たしていた。また、化合物(5)及び化合物(7)の組み合わせは、数1の基準を満たしていたが、数2の基準を満たしていなかった。さらに、化合物(4)及び化合物(8)の組み合わせは、数1及び数2の基準を両方とも満たしていなかった。
【0114】
(有機EL素子1)
まず、100nmの厚みを有するITO透明電極(陽極)を備えるガラス基板を、中性洗剤及び純水を用いて超音波洗浄し乾燥した。次いで、該当面電極表面をUV/O3洗浄した後、上述した真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、真空槽内を1×10−4Pa以下となるまで減圧した。続いて、真空槽内を減圧状態に維持したまま、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス[N−(4−メチルフェニル)−N−フェニル−(4−アミノフェニル)]−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンを蒸着速度0.1nm/秒で80nmの厚みになるまで蒸着し、これを正孔注入層とした。
【0115】
次に、真空槽内を減圧状態に維持したまま、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチル−ベンジジンを蒸着速度0.1nm/秒で15nmの厚みになるまで蒸着し、これを正孔輸送層とした。さらに、真空槽内を減圧状態に維持したまま、化合物(4)と化合物(6)を重量比97:3で全体の蒸着速度0.1nm/秒で40nmの厚みになるまで蒸着(共蒸着)し、これを発光層とした。続いて、真空槽内を減圧状態に維持したまま、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.1nm/秒で15nmの厚みとなるまで蒸着し、これを電子輸送層とした。そして、真空槽内を減圧状態に維持したまま、LiF(フッ化リチウム)を蒸着速度0.01nm/秒で0.3nmの厚みになるまで蒸着し、これを電子注入層(陰極)とし、さらに保護電極としてアルミニウムを150nmの厚みになるまで蒸着して、有機EL素子1を得た。
【0116】
この有機EL素子1に直流電圧を印加して電流を流したところ、6.0V、10mA/cm2で1200cd/m2の発光が確認された。この時の発光極大波長はλmax=475nmであった。また、この素子に、50mA/cm2の一定電流を流し、連続発光させたところ、初期輝度6000cd/m2で、輝度半減時間(駆動寿命)は300時間の寿命特性を示した。
【0117】
(有機EL素子2)
化合物(4)と化合物(6)を重量比97:3で蒸着したのに代えて、化合物(5)と化合物(7)を重量比97:3で蒸着した以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子2を得た。
【0118】
この有機EL素子2に直流電圧を印加して電流を流したところ、6.0V、10mA/cm2で1100cd/m2の発光が確認された。この時の発光極大波長はλmax=475nmであった。また、この素子に、50mA/cm2の一定電流を流し、連続発光させたところ、初期輝度5500cd/m2で、輝度半減時間(駆動寿命)は280時間の寿命特性を示した。
【0119】
(有機EL素子3)
化合物(4)と化合物(6)を重量比97:3で蒸着したのに代えて、化合物(4)と化合物(8)を重量比97:3で蒸着した以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子3を得た。
【0120】
この有機EL素子3に直流電圧を印加して電流を流したところ、6.5V、10mA/cm2で1200cd/m2の発光が確認された。この時の発光極大波長はλmax=475nmであった。また、この素子に、50mA/cm2の一定電流を流し、連続発光させたところ、初期輝度6000cd/m2で、輝度半減時間(駆動寿命)は120時間の寿命特性を示した。
【0121】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、有機EL素子の長寿命化を実現できるホスト材料及びドーパント材料を効率的に選択する有機EL素子材料の選択方法を提供することができる。また、このような有機EL素子材料の選択方法を用いた有機EL素子の製造方法を提供することができる。さらに、その製造方法により、長期間に亘って良好な発光を示す有機EL素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】有機EL素子の一般的な構成の一例を示す模式断面図である。
【図2】蛍光強度減衰曲線の模式図である。
【図3】2種類の蛍光寿命成分からなる蛍光強度減衰曲線の模式図である。
【符号の説明】
1…第一の電極層、2…第二の電極層、4…基板、10…発光層、12…正孔輸送層、14…正孔注入層、16…電子輸送層、18…電子注入層、100…有機EL素子、P…電源。
Claims (9)
- 有機EL素子の発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を、ホスト材料及び/又はドーパント材料を含有する二種類以上の試料の蛍光寿命により決定する材料選択工程を備えることを特徴とする有機EL素子材料の選択方法。
- 前記試料として、ホスト材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液、ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ホスト材料にドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜、ドーパント材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液及びドーパント材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜からなる群より選ばれる試料を用いることを特徴とする請求項1記載の有機EL素子材料の選択方法。
- 前記二種類以上の試料のうちの一つが、前記ドーパント材料を前記ホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる前記有機薄膜を用い、前記二種類以上の試料のうちの別の一つが、前記ホスト材料若しくは前記ドーパント材料を、溶媒に添加して得られる前記希薄溶液若しくは薄膜状に成形して得られる前記有機薄膜を用いることを特徴とする請求項2記載の有機EL素子材料の選択方法。
- 前記二種類以上の試料のいずれかの蛍光寿命が複数の蛍光寿命成分からなる場合、前記材料選択工程より前に、前記蛍光寿命を各前記蛍光寿命成分に分解する分解工程をさらに備え、
前記材料選択工程において、各前記蛍光寿命成分に分解した状態の前記蛍光寿命により前記ホスト材料及び前記ドーパント材料を決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機EL素子材料の選択方法。 - 前記二種類以上の試料のうちの一つとして、前記ホスト材料に前記ドーパント材料を添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜を用い、且つ、
前記二種類以上の試料のうちの別の一つとして、前記ドーパント材料を溶媒に添加して得られる希薄溶液を用い、
前記材料選択工程は、前記一つの試料の最も短い蛍光寿命成分τsと、前記別の一つの試料の蛍光寿命τdと、が下記式(1)で表される関係を有するような前記ホスト材料及び前記ドーパント材料を決定する工程であることを特徴とする請求項4記載の有機EL素子材料の選択方法。
τs≧τd …(1) - 前記二種類以上の試料のうちの一つとして、前記ホスト材料を薄膜状に成形して得られる有機薄膜を用い、且つ、
前記二種類以上の試料のうちの別の一つとして、前記ドーパント材料を前記ホスト材料に添加し薄膜状に成形して得られる有機薄膜を用い、
前記材料選択工程は、前記一つの試料の最も長い蛍光寿命成分τhと、前記別の一つの試料の最も長い蛍光寿命成分τlと、が下記式(2)で表される関係を有するような前記ホスト材料及び前記ドーパント材料を決定する工程であることを特徴とする請求項4記載の有機EL素子材料の選択方法。
τh>τl …(2) - 前記ホスト材料及び前記ドーパント材料が、それぞれ環数3〜10の縮合芳香環を有する化合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機EL素子材料の選択方法。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機EL素子材料の選択方法を用いて発光層に用いられるホスト材料及びドーパント材料を決定する工程を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
- 請求項8記載の有機EL素子の製造方法によって得られることを特徴とする有機EL素子。
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