JP2005009467A - 内燃機関の燃料噴射量制御装置 - Google Patents

内燃機関の燃料噴射量制御装置 Download PDF

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晃司 三輪
Junichi Kako
純一 加古
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Abstract

【課題】本発明は内燃機関の燃料噴射量制御装置に関し、燃料噴射弁から噴射された後の燃料の挙動を表す燃料挙動モデルを用いて、所望の燃料噴射量を精度良く算出することを目的とする。
【解決手段】燃料噴射弁から噴射された燃料がポートウェットとなる割合(付着率R)と、壁面に付着した燃料が吸気行程の課程で気化することなくポートウェットのまま残留する割合(残留率P)とを用いて、噴射量fiと、壁面付着量fwと、筒内燃焼要求量fc(現実に吸入される燃料量)との関係を規定するモデルを作成する。内燃機関の運転状態等に基づいて、付着率Rおよび残留率Pを適宜取得する。噴射燃料の温度を取得し、付着率Rには、燃料温度の影響を反映させる。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の燃料噴射量制御装置に係り、特に、燃料噴射弁から噴射された後の燃料挙動を表す燃料挙動モデルを用いて燃料噴射量を算出する燃料噴射量制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポート噴射型の内燃機関においては、吸気通路に配置された燃料噴射弁によって、吸気ポート内部に燃料が噴射される。このようにして噴射された燃料は、吸気バルブの開弁に伴い、筒内負圧が吸気ポートに導かれることにより、空気と共に筒内に吸入される。吸気ポートに噴射された燃料の一部は、その内壁や吸気弁などに付着する。内燃機関が定常状態にある場合は燃料の付着量が一定値で平衡し、筒内に吸入される燃料の量は、噴射される燃料の量と等しくなる。
【0003】
ところが、内燃機関の過渡運転時には、吸入空気量や燃料噴射量が変化することにより、その燃料付着量にも増減が生ずる。そして、この増減が生ずる間は、筒内に吸入される燃料の量と、噴射される燃料の量との間にずれが生ずる。従って、過渡運転時に所望量の燃料を筒内に吸入させるためには、上記燃料付着量の増減が相殺されるように燃料噴射量を補正することが必要である。
【0004】
特許第2754744号公報は、ポート噴射型の内燃機関において、燃料噴射量に上記の補正を施す燃料噴射量制御装置を開示している。この装置は、吸気ポート等への燃料の付着量を状態変数とする燃料挙動モデルを有している。燃料挙動モデルのパラメータは、内燃機関の運転状態により更新される。そして、この装置は、内燃機関の運転状態に応じて更新された燃料挙動モデルに則って燃料付着量を算出し、その算出量に基づいて燃料噴射量の補正を行う。
【0005】
【特許文献1】
特許2754744号公報
【特許文献2】
特開2001−280181号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の装置において、精度良く所望の燃料噴射量を算出するためには、燃料挙動モデルのパラメータを精度良く更新することが必要である。このパラメータは、既述した通り、内燃機関の運転状態に基づいて更新される。より具体的には、上記従来の装置において、燃料挙動モデルのパラメータは、吸気管圧力Pmや機関回転数NE、更には吸気温度THA等との関係で更新される。しかしながら、上記従来の装置が用いるパラメータの更新手法は、必ずしも常に適切に燃料挙動モデルのパラメータを更新し得るものではなく、改良の余地を残すものであった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、燃料噴射弁から噴射された後の燃料の挙動を表す燃料挙動モデルを用いて、所望の燃料噴射量を精度良く算出することのできる内燃機関の燃料噴射量制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料噴射弁から噴射された後の燃料の挙動を所定のパラメータとの関係で定めた燃料挙動モデルを用いて燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御装置であって、
前記パラメータを取得するパラメータ取得手段と、
取得されたパラメータに対応する燃料の挙動を前提として燃料噴射量を算出する噴射量算出手段と、
前記燃料噴射弁から噴射される燃料の温度を取得する燃料温度取得手段とを備え、
前記パラメータ取得手段は、前記パラメータの少なくとも一つに前記燃料温度の影響を反映させる手段を含むことを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記パラメータは、噴射燃料の付着率と、付着燃料の残留率とを含み、
前記パラメータ取得手段は、前記付着率に前記燃料温度の影響を反映させることを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第2の発明において、
内燃機関の負荷を検出する負荷検出手段を備え、
前記パラメータ取得手段は、前記付着率に、前記燃料温度の影響と前記負荷の影響とを反映させることを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第3の発明において、
前記パラメータ取得手段は、
内燃機関の運転状態に基づいて前記付着率の基本値を算出する基本値算出手段と、
前記基本値を、前記燃料温度および前記負荷に基づいて補正する付着率補正手段と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0013】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。図1に示す構成は、内燃機関10を備えている。内燃機関10には、吸気通路12および排気通路14が連通している。吸気通路12は、上流側の端部にエアフィルタ16を備えている。エアフィルタ16には、吸気温センサ18が組み付けられている。
【0014】
エアフィルタ16の下流には、エアフロメータ20が配置されている。エアフロメータ20は、吸気通路12を流れる吸入空気量Gaを検出するセンサである。エアフロメータ20の下流には、スロットルバルブ22が設けられている。スロットルバルブ22の近傍には、スロットル開度TAを検出するスロットルセンサ24と、スロットルバルブ22が全閉となることでオンとなるアイドルスイッチ26とが配置されている。
【0015】
スロットルバルブ22の下流には、サージタンク28が設けられている。また、サージタンクの更に下流には、内燃機関10の吸気ポート30に燃料を噴射するための燃料噴射弁32が配置されている。
【0016】
内燃機関10は、吸気バルブ34を駆動する可変バルブタイミング(VVT)機構36、および排気弁38を駆動するVVT機構40を備えている。更に、内燃機関10は、冷却水温THWを検出する水温センサ42、機関回転数NEを検出する回転数センサ44、および図示しない燃料タンクの内部において燃料温度を検出する燃料温度センサ46を備えている。
【0017】
本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50には、上述した各種センサと共に、燃料噴射弁32や、VVT機構36,40が接続されている。ECU50は、燃料噴射弁32を駆動して所望の燃料を噴射させることができると共に、VVT機構36,40の状態を検出し、また、それらを適当に駆動することができる。
【0018】
[燃料噴射量補正の必要性]
図2は、本実施形態の装置が用いる燃料挙動モデルを説明するための図である。この燃料挙動モデルは、燃料噴射弁32から噴射された後の燃料の挙動を表すモデルである。図2に示す残留率P、付着率R、壁面付着量fw、噴射量fi、および筒内燃焼要求量fcは、何れも、その燃料挙動モデルにおいて用いられるパラメータである。ここで、噴射量fiは燃料噴射弁32から噴射される燃料の量を意味する。また、壁面付着量fwは、吸気ポート30の内壁や吸気バルブ34の上面などに付着している燃料の総量を意味する。そして、筒内燃焼要求量fcは、内燃機関10の筒内に現実に吸入される燃料の量を意味する。
【0019】
燃料噴射料fiは、燃料噴射弁32から噴射された後、その一部が吸気ポート30の内壁等に付着し、その残部が筒内に吸入される。この際、吸気ポート30等の内壁に付着する噴射料fiの割合を「付着率R」と定義すれば、筒内に吸入されることなくポートウェットの一部となる燃料の量は、「R×fi」で表されることとなり、一方、筒内に吸入される燃料の量は「(1−R)×fi」で表されることとなる。
【0020】
内燃機関10の筒内には、上記の演算式fi×(1−R)で表される量の燃料が燃料噴射弁32から直接的に吸入される他、吸気ポート30の内壁等に付着していた燃料の気化分が吸入される。ここで、吸気行程の実行後にポートウェットが壁面等に付着したままの状態で残る割合を「残留率P」とすれば、吸気行程の開始時に存在していた壁面付着量fwは、その吸気行程の後には「P×fw」で表される量に減少していることになり、一方、その吸気行程の間には、「(1−P)×fw」で表される量の燃料がポートウェットの存在に起因して筒内に吸入されたことになる。
【0021】
従って、第kサイクルにおける噴射行程の開始時における壁面付着量がfwであり、第kサイクルにおける燃料噴射量がfiである場合、第kサイクルの終了後に発生している壁面付着量(つまり、第k+1サイクルにおける壁面付着量)fwk+1、および、第kサイクルにおける筒内燃焼要求量fcは、付着率Rおよび残留率Pを用いて次式のように表すことができる。
fwk+1=P×fw+R×fi ・・・(1)
fck=(1−P)×fw+(1−R)×fi ・・・(2)
【0022】
以上説明した通り、内燃機関10の筒内に現実に吸入される筒内燃焼要求量fcは、上記(1)式および(2)式の関係を用いることにより、付着率Rおよび残留率Pをパラメータとして、個々のサイクル毎に演算により求めることができる(尚、壁面付着量fwの初期値fwはゼロである)。このため、本実施形態のシステムによれば、付着率Rおよび残留率Pを精度良く設定することができれば、壁面付着量fwの変化に影響されることなく、内燃機関10の過渡運転時においても筒内燃焼要求量fcを精度良く演算により求めることが可能である。
【0023】
燃料の付着率Rや残留率Pは、内燃機関10の運転状態に応じて変化する。すなわち、噴射燃料fiが吸気ポート30の内壁等に付着する様子や、壁面に付着しているポートウェットが気化する様子は、内燃機関10の負荷KLや機関回転数Ne、或いは吸気弁34の開閉タイミングVT、更にはポート内壁面温度Twなどに応じて適宜変化する。このため、付着率Rや残留率Pの精度を確保するためには、それらのパラメータを、内燃機関10の運転状態に応じて適宜設定することが必要である。
【0024】
そこで、本実施形態では、付着率Rおよび残留率Pのそれぞれを、機関負荷KL、機関回転数Ne、バルブタイミングVT、およびポート内壁面温度Twとの関係で特定するための規則を予め作成しておき、ECU50に、その規則に従って付着率Rおよび残留率Pを設定させることとしている。このような手法によれば、内燃機関10の運転状態が変化し、その変化に伴って噴射後の燃料の挙動が変化するのに対応して、適宜適切な付着率R及び残留率Pを取得することができるため、高精度な燃料噴射量制御を実現することが可能である。
【0025】
ところで、図3は、吸気ポート30に噴射された燃料の付着率Rと、その燃料の温度Tiおよび吸気管圧力Pmとの関係を表した図である。吸気ポート30に噴射された燃料は、その温度Tiが高いほど気化し易い状態となる。このため、付着率Rは、燃料温度Tiが高いほど小さな値となる。このように、燃料の付着率Rは、燃料温度Tiに対して有意な依存性を有している。更に、図3は、付着率Rの温度依存性が、吸気管圧力Pmに応じて有意に変化することも示している。
【0026】
付着率Rがこのように燃料温度Tiおよび吸気管圧力Pmに対して有意な依存性を示すのであれば、筒内燃料要求量fcを求める前提として付着率Rを設定するにあたり、燃料温度Tiや吸気管圧力Pmを付着率Rに反映させることが望ましい。そこで、本実施形態では、既述した手法により、内燃機関10の運転状態に基づいて、付着率Rの基本値を算出した後に、その算出値を更に燃料温度Tiおよび吸気管圧力Pmに基づいて補正することにより、より現実の値に合致する付着率R´を算出することとした。
【0027】
図4は、上述した機能を実現するために、本実施形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートを示す。尚、図4に示すルーチンは、内燃機関10が1サイクル動作する毎に実行されるルーチンである。このルーチンでは、先ず、現在の内燃機関10の状態を表す各種のパラメータが取得される(ステップ100)。具体的には、ここでは、機関負荷KL(Ga、Ne、TAなどから算出)、機関回転数Ne、吸気弁34の開閉タイミングVT、ポート内壁面温度Tw(THWから推定)、および吸気管圧力Pm(Ga、Neなどから推定)など、内燃機関10の運転状態を表す物理量が、計測により、或いは公知の演算により求められる。
【0028】
図4に示すルーチンでは、次に、残留率Pの算出処理と、付着率R´の算出処理とが実行される。ECU50は、ポートウェットの残留率Pを、機関負荷KL、機関回転数Ne、吸気弁34の開閉タイミングVT、およびポート内壁面温度Twとの関係で定めたマップを記憶している。ここでは、そのマップを参照して、現在の運転状態に応じた残留率Pが算出される(ステップ102)。
【0029】
付着率R´の算出処理では、先ず、基本の付着率Rを算出するための処理が実行される(ステップ104)。ECU50は、基本の付着率Rを、機関負荷KL、機関回転数Ne、吸気弁34の開閉タイミングVT、およびポート内壁面温度Twとの関係で定めたマップを記憶している。ここでは、そのマップを参照して、現在の運転状態に応じた基本の付着率Rが算出される。
【0030】
次に、燃料温度Tiが計測される(ステップ106)。ECU50は、燃料温度センサ46の検出値を燃料温度Tiとして検出する。燃料温度センサ46が検出する値は、厳密には燃料タンクの内部における燃料の温度である。ここでは、その温度が噴射後の燃料の温度と大きく異ならないものとして、燃料温度センサ46の検出値を噴射後の燃料の温度Tiとして取り扱うこととしている。尚、両者の温度が大きく異なる場合には、燃料噴射弁32の近傍に温度センサを配置して、より噴射位置に近い場所で燃料温度Tiを検出し、或いは、燃料温度センサ46の検出値に補正を施して燃料温度Tiを算出することとしてもよい。
【0031】
図4に示すルーチンでは、次に、燃料温度Tiに基づいて付着率Rの補正値αを算出する処理が行われる(ステップ108)。ECU50は、図3に示すようなマップ、つまり、付着率Rの燃料温度Tiおよび吸気管圧力Pmに対する依存性を表すマップ、更に換言すると、その依存性を付着率Rに反映させるための補正値αのマップを記憶している。本ステップ108では、そのマップを参照して、現在の燃料温度Tiおよび吸気管圧力Pmに対応する補正値αが算出される。
【0032】
次に、補正値αが基本の付着率Rに掛け合わされることにより、補正後の付着率R´=R×αが算出される(ステップ110)。ECU50は、以上説明したステップ102〜110の処理を行うことにより、内燃機関10の運転状態に精度良く適合した残留率P、および内燃機関10の運転状態および燃料温度Tiに精度良く適合した付着率Rを求めることができる。
【0033】
図4に示すルーチンでは、次に、今回の吸気サイクルにおける筒内要求燃料噴射量fcが算出される(ステップ112)。筒内要求噴射量fcは、内燃機関10において目標空燃比を実現するために必要な燃料噴射量である。ここでは、実現すべき目標空燃比と、現在の吸入空気量Gaなどに基づいて、筒内要求噴射量fcが算出される。
【0034】
その後、筒内要求噴射量fcを実現するために必要な燃料噴射量fiが算出され(ステップ114)、更に、今回の吸気サイクル後に吸気ポート30内に残存すると推定される壁面付着量fwが算出された後(ステップ116)、今回の処理サイクルが終了される。上記ステップ116の処理が行われることにより、ECU50は、吸気行程が行われる毎に、壁面付着量fwを最新値に更新することができる。
【0035】
既述した通り、筒内要求噴射量fcと燃料噴射量fiとの間には、上記(2)式の関係が成立する。ECU50は、上記ステップ114において、その(2)式に、上記ステップ102で算出した残留率P、上記ステップ110で算出した補正後の付着率R´、および前回の処理サイクル時に求めた壁面付着量fwを代入することにより、筒内要求噴射量fcを実現するための燃料噴射量fiを算出する。そして、ECU50は、そのようにして算出した燃料噴射量fiを、残留率P、補正後の付着率R´、および前回の処理サイクル時に求めた壁面付着量fwと共に(1)式に代入することにより、上記ステップ116において最新の壁面付着量fwを算出する。
【0036】
以上説明した通り、図4に示すルーチンによれば、噴射後の燃料の挙動を表すパラメータのうち、付着率Rに、燃料温度Tiの影響と、吸気管圧力Pmの影響とを反映させることができる。このため、本実施形態の装置によれば、付着率Rの算出にそれらが反映されない場合に比して、その算出精度を高めることができ、燃料噴射に関する制御精度を改善することができる。
【0037】
ところで、上述した実施の形態1では、残留率Pおよび基本の付着率Rを、KL、Ne、VTおよびTwの4パラメータを軸とする4軸マップで定め、かつ、付着率Rの補正値αをTiとPmの2パラメータを軸とする2軸マップで定めた上で、αとRを掛け合わせることにより、最終的に必要なパラメータPおよびR´を取得することとしている。しかしながら、残留率Pおよび補正後の付着率R´の取得方法は、このような手法に限定されるものではない。以下、それらを取得するための他のいくつかの手法を例示する。
【0038】
第1に、補正値αを設定するための基礎パラメータは、燃料温度Tiと吸気管圧力Pmの組み合わせに限られるものではない。すなわち、補正値αは、燃料温度Tiのみを基礎パラメータとして求めることとしても、或いは、燃料温度Tiに加えて、吸気管圧力Pmと共に、或いは、吸気管圧力Pmに代えて、バルブタイミングVTや機関回転数Neなどをも基礎パラメータとして求めることとしてもよい。
【0039】
第2に、補正値αは、必ずしもマップを参照して算出する必要はない。例えば、補正値αの燃料温度Tiに対する依存性を表す関数f(Ti)を予め準備しておき、基本の付着率Rに施すべき補正量を、ECU50に、その関数f(Ti)に従って算出させることとしてもよい。図5は、このような手法を採用する場合にECU50に実行させるべきルーチンのフローチャートを示す。つまり、このルーチンは、補正後の付着率R´をR´=f(Ti)なる演算により算出するためのルーチンである(ステップ120)。尚、図5に示すルーチンは、補正値αが関数f(Ti)に置き換えられている点を除き実質的に図4に示すルーチンと同様であるため、ここでは、これ以上の説明は省略する。
【0040】
第3に、補正後の付着率R´は、必ずしも基本の付着率Rに補正値αを掛け合わせることにより取得する必要はなく、KL、Ne、VTおよびTwにTiを加えた5パラメータを軸とする5軸マップから直接的に取得することとしてもよい。図6は、このような手法を採用する場合にECU50に実行させるべきルーチンのフローチャートを示す。つまり、このルーチンは、補正後の付着率R´を上記の5軸マップを用いて算出するためのルーチンである(ステップ130)。尚、図6に示すルーチンは、R´の算出手法が異なる他は図4に示すルーチンと同様であるため、ここでは、これ以上の説明は省略する。
【0041】
第4に、補正後の付着率R´は、必ずしもマップを参照して算出する必要はない。すなわち、補正後の付着率R´は、その値を求めるための演算式を予め準備しておき、ECU50にその演算式に則った処理を行わせることにより取得することとしてもよい。この場合において、補正後の付着率R´は、例えば以下に示すような演算式を用いることにより算出することができる。尚、以下の説明では、R´を単に「付着率」と称することとする。また、以下の説明において、記号「´」は、これが付されたパラメータに燃料温度Tiの影響が反映されていることを表しているものとする。
【0042】
R´=R1´×β×R2 ・・・(3)
燃料の付着率R´は、燃料噴射弁32から噴射された後、飛行の過程で蒸発せずに壁面まで到達する燃料の割合R1´と、壁面に到達した後、反射により失われることなく壁面に付着する燃料の割合βと、壁面に付着した後、蒸発することなく付着状態を維持する燃料の割合R2とを掛け合わせることにより、上記(3)式のように算出することができる。上記(3)式に含まれる3つのパラメータR1´、βおよびR2は、それぞれ次式(4)、(5)、(6)のように表すことができる。尚、これら3つのパラメータのうち、後ろの2つは燃料温度Tiの影響を殆ど受けないのに対して、最初のパラメータR1´はその影響を大きく受ける。このため、付着率R´の温度依存性は、主としてパラメータR1´の温度依存性により決定される。
【0043】
【数1】
Figure 2005009467
【0044】
但し、上記(4)乃至(6)式に含まれる個々のパラメータは、それぞれ下記のような物理量である。尚、下記の説明において、「層流」とは、吸気工程が終了した後、次サイクルの吸気工程が開始されるまでの間、つまり、吸気バルブ34が閉じられている間の吸気ポート30の内部の状態を意味している。また、「乱流」とは吸気バルブ34が開いている間の吸気ポート30の内部の状態を意味している。
Sc:層流用適合係数(既定値)
Sc:乱流用適合係数(既定値)
ρl:液体燃料の密度(既定値)
ρg:空気の密度
ρg=Pg/Rconst・Tgとして算出される。
但し、Pgはポート内ガス圧力、Rconstは気体定数、Tgはポート内ガス温度。
di:液滴の代表粒径(既定値)
μl:液体燃料の粘性(既定値)
μg:空気の粘性(既定値)
V:液滴飛行速度(既定値)
´:層流時質量輸送係数(詳細は後述)
:乱流時質量輸送係数(詳細は後述)
Δtdrop:液滴飛行時間(既定値)
=(燃料噴射弁から吸気バルブまでの距離)/V
Δtturb:乱流期間、すなわち、吸気バルブ34の開弁期間(作用角)
h:付着燃料の膜厚
h=fw/ρl/sとして算出される。但し、sは濡れ面積(既定値)。
D:吸気ポートの径
Ug:ポート内ガス流速
Ug=(Volvalve/Avalve)×(Aport/Avalve)として算出される。
但し、Volvalve=(バルブ通過流量)/ρg、
Avalveはバルブ面積、
Aportはポート面積
σ:燃料の表面張力
θ:噴射方向と衝突壁面のなす角度
【0045】
上述した層流時質量輸送係数B´および乱流時質量輸送係数Bは、それぞれ、層流時または乱流時における付着燃料の蒸発のし易さを表すパラメータである。それらの値B´およびBは、それぞれ以下のように表すことができる。
【0046】
【数2】
Figure 2005009467
【0047】
上記(7)式において、Tは温度を意味するパラメータであり、層流時質量輸送係数B´を算出する際には燃料温度TiがそのTとなり、一方、乱流時質量輸送係数Bの算出時には、ポート内壁面温度Twとポート内ガス温度Tgとを次式に代入することで得られる温度TfがそのTとなる。尚、以下の記載においても、「T」は、B´を算出する場合にはTiを、また、Bを算出する場合にはTfを、適宜意味しているものとする。
Tf=ε・Tw+(1−ε)Tg ・・・(8)
ここで、εは、0<ε<1を満たす値である。通常は、Ysjに対する影響度の大きさを考慮して、εには0.7程度の値が代入される。
【0048】
また、上記(7)式において、jは、燃料に含まれる個々の成分に付した識別番号である。つまり、ΣYsj(T)、或いはΣYgjは、それぞれ、燃料に含まれる個々の成分のYs(T)やYgの積算値である。ここで、Ysj(T)は、燃料に含まれる個々の成分の飽和蒸気濃度を意味している。飽和蒸気濃度Ysj(T)は、温度Tに対して依存性を有する物理量であり、以下に示す(9)式により算出することができる。
【0049】
【数3】
Figure 2005009467
【0050】
但し、上記(9)式に含まれる個々のパラメータは、それぞれ以下のような物理量である。
wj:燃料に含まれる個々の成分のモル質量(既定値)、
wair:空気のモル質量(既定値)
Pvsj:アントンの式による個々の成分の飽和蒸気圧
飽和蒸気濃度Pvsjは、次式(10)により求めることができる。
【0051】
【数4】
Figure 2005009467
【0052】
但し、上記(10)式中、a1j、a2jおよびa3jは、燃料成分毎に既定のアントン係数である。また、yfjは、噴射燃料に含まれる個々の成分の質量割合である。
【0053】
既述した(7)式に示す通り、層流時質量輸送係数B´の関係式には、Ygjの項が含まれている。Ygjは、吸気ポート10の内部における個々の燃料成分の蒸気濃度である。層流状態では、蒸気濃度Ygiが無視できない値(例えば10%程度)となる。このため、層流時質量輸送係数B´の式には、その項が含まれている。一方、乱流時には、吸気ポート30内の個々の成分濃度がほぼ0となるため、乱流時質量輸送係数Bの式からは、その項が省かれている。
【0054】
以上説明した通り、上述した(7)式〜(10)式によれば、層流時質量輸送係数B´と、乱流時質量輸送係数Bとを演算により求めることができる。そして、それらの係数値と、上記(3)式および(4)式の関係を用いれば、付着率R´を演算により求めることが可能である。このように、燃料温度Tiの影響をも考慮した付着率R´は、上述した手法を用いることにより、マップに頼ることなく演算により取得することが可能である。
【0055】
尚、上述した実施の形態1においては、上述した(1)式および(2)式の関係が前記第1の発明における「燃料挙動モデル」に、残留率Pおよび補正後の付着率R´が前記第1の発明における「パラメータ」に、それぞれ相当している。また、実施の形態1においては、ECU50が、上記ステップ102の処理と、上記ステップ110、120および130の何れかの処理を実行することにより前記第1の発明における「パラメータ取得手段」が、上記ステップ112〜116の処理を実行することにより前記第1の発明における「噴射量算出手段」が、上記ステップ106の処理を実行することにより前記第1の発明における「燃料温度取得手段」が、それぞれ実現されている。また、上述した実施の形態1においては、ECU50が、吸気管圧力Pmを取得することにより前記第3の発明における「負荷検出手段」が、上記ステップ104の処理を実行することにより前記第4の発明における「基本値算出手段」が、上記ステップ110または120の処理を実行することにより前記第4の発明における「付着率補正手段」が、それぞれ実現されている。
【0056】
【発明の効果】
この発明は以上説明したように構成されているので、以下に示すような効果を奏する。
第1の発明によれば、燃料噴射弁から噴射された後の燃料の挙動を定めた燃料挙動モデルにおいて用いられるパラメータに、燃料温度を反映させることができる。噴射後の燃料挙動は、燃料温度に応じて異なる挙動を示す。本発明によれば、燃料の挙動を推定するにあたり、そのような燃料温度の影響を考慮することができるため、極めて高い精度で燃料噴射量を算出することができる。
【0057】
第2の発明によれば、燃料の付着率と残留率とを用いて噴射後の燃料の挙動を表すことができる。そして、その付着率に燃料温度の影響を反映させることができる。燃料の付着率は、燃料温度の影響を大きく受ける。従って、本発明によれば、付着率と残留率とをパラメータとする燃料挙動モデルを用いて、所望の燃料噴射量を極めて精度良く算出することができる。
【0058】
第3の発明によれば、燃料の付着率に内燃機関の負荷の影響をも反映させることができる。燃料の付着率は、内燃機関の負荷(吸気管圧力や吸入空気量)の影響を大きく受ける。従って、本発明によれば、付着率と残留率とをパラメータとする燃料挙動モデルを用いて、所望の燃料噴射量を極めて精度良く算出することができる。
【0059】
第4の発明によれば、内燃機関の運転状態に基づいて付着率の基本値を算出したうえで、その基本値に、燃料温度と負荷とに基づく補正を施すことにより、現実の値と精度良く合致する付着率を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】燃料噴射弁から噴射された後の燃料の挙動を表すモデルの内容を説明するための図である。
【図3】図2に示すモデルにおいて用いられる付着率の、燃料温度および吸気管圧力に対する依存性を表した図である。
【図4】本発明の実施の形態1において実行される制御ルーチンの第1例のフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態1において実行される制御ルーチンの第2例のフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態1において実行される制御ルーチンの第3例のフローチャートである。
【符号の説明】
10 内燃機関
12 吸気通路
20 エアフロメータ
22 スロットルバルブ
32 燃料噴射弁
34 吸気バルブ
36、40 可変バルブタイミング機構
fw 燃料付着量
fi 燃料噴射量
VT 吸気バルブの開弁タイミング
P 残留率
R 付着率

Claims (4)

  1. 燃料噴射弁から噴射された後の燃料の挙動を所定のパラメータとの関係で定めた燃料挙動モデルを用いて燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御装置であって、
    前記パラメータを取得するパラメータ取得手段と、
    取得されたパラメータに対応する燃料の挙動を前提として燃料噴射量を算出する噴射量算出手段と、
    前記燃料噴射弁から噴射される燃料の温度を取得する燃料温度取得手段とを備え、
    前記パラメータ取得手段は、前記パラメータの少なくとも一つに前記燃料温度の影響を反映させる手段を含むことを特徴とする内燃機関の燃料噴射量制御装置。
  2. 前記パラメータは、噴射燃料の付着率と、付着燃料の残留率とを含み、
    前記パラメータ取得手段は、前記付着率に前記燃料温度の影響を反映させることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射量制御装置。
  3. 内燃機関の負荷を検出する負荷検出手段を備え、
    前記パラメータ取得手段は、前記付着率に、前記燃料温度の影響と前記負荷の影響とを反映させることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の燃料噴射量制御装置。
  4. 前記パラメータ取得手段は、
    内燃機関の運転状態に基づいて前記付着率の基本値を算出する基本値算出手段と、
    前記基本値を、前記燃料温度および前記負荷に基づいて補正する付着率補正手段と、
    を含むことを特徴とする請求項3記載の内燃機関の燃料噴射量制御装置。
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