JP2005002348A - 二色性色素および液晶表示素子 - Google Patents

二色性色素および液晶表示素子 Download PDF

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Abstract

【課題】光に対する耐性が高く、しかも液晶に対する溶解性の高いアントラキノン色素またはクマリン色素からなる二色性色素を提供する。
【解決手段】下記一般式(T1)
【化1】
Figure 2005002348

(ここで、R1は水素原子、炭素数12以下のアルキル基、および炭素数12以下のアルキル基で置換されたアリール基からなる群より選択される。)
で表されるものに代表される、SR1基を導入したアントラキノン色素またはクマリン色素からなる二色性色素。
【選択図】 なし

Description

本発明は二色性色素およびこれを用いた液晶表示素子に関する。
パーソナルコンピュータなどの情報機器のディスプレーとして、TN(twisted nematic)モードおよびSTN(super twisted nematic)モードの液晶表示素子(LCD)が広く用いられている。TNまたはSTN−LCDは、初期状態では液晶セル中の液晶分子の配列が捩れた状態になっている。この状態にあるセルに入射された光は、液晶の捩れと複屈折によって偏光状態が変化して出射する。液晶セルに電界を印加すると、液晶分子は電界方向に再配列して捩れが解かれ、複屈折が失われる。この状態にあるセルに入射された光は、偏光状態が変化することなく出射する。したがって、2枚の直線偏光子で液晶セルを挟むことにより、電界印加による液晶層の光学的性質の変化を光の強度変化として観察することができる。
LCDは、陰極線管(CRT)ディスプレーと比較して消費電力が著しく少ないという長所がある。しかし、TNまたはSTN−LCDは偏光子を用いるので、本質的に入射光の利用効率が悪い。このため、LCDではバックライトを設けて明るさを確保することが多い。特に、カラーフィルタを有するLCDでは、透過光が著しく減少するため、強力なバックライトを必要とする。バックライトの電力は、液晶セルの駆動電力に匹敵するため、電池で電力を供給する携帯用ディスプレイでは使用可能な時間を制限する要因となる。また、バックライトは、使用者に眼の疲労を与える点からも望ましくない。
以上のような背景から、バックライトを必要としないゲスト−ホスト方式の反射形液晶表示素子(GH−LCD)の開発が盛んに行われている。GH−LCDは、二色性色素を混入した液晶を用いたものであり、明るい色表示が可能で、視野界が広いなどの利点を有する。
また、LCDの駆動方式としては、薄型軽量で鮮明な画像が得られるなどの利点を有することから、薄膜トランジスタ(TFT)による駆動が主流になりつつある。TFT駆動を行う場合、疎水性が高いフッ素系液晶を用いることが有利である。
GH−LCDで明るく鮮明な色表示を実現するためには、液晶中に含まれる二色性色素の量が多く、吸光度が高いことが要求される。したがって、二色性色素の液晶(特にフッ素系液晶)に対する溶解性および溶解安定性が良好であることが必要になる。なお、吸光度の低さを補うためにセル厚を大きくすると、消費電力が大きくなるうえに液晶の電場に対する応答速度が低下する。
また、TFT駆動のGH−LCDを実現するためには、液晶の電圧保持率が高いことが重要になる。このためには、液晶層の抵抗値が十分に大きいことが必要になる。この場合、液晶中に混入される二色性色素の光劣化に起因して液晶層の抵抗値ひいては電圧保持率が著しく低下することが問題になるため、二色性色素は光劣化に対する耐性が高いことが望ましい。
現在、二色性色素としては主にアゾ色素またはアントラキノン色素が用いられている。アゾ色素は分子の直線性が良好であり、直線構造である液晶に対する溶解性の大きいものが多い。しかし、アゾ色素は光に対する耐性に劣るという欠点がある。一方、アントラキノン色素はアゾ色素と比較して光に対する耐性に優れており、TFT駆動に適していると考えられる。しかし、従来のアントラキノン色素は液晶に対する溶解性が不十分であった。
また、吸光係数の高い二色性色素としてクマリン色素が知られている。しかし、従来のクマリン色素は低温では液晶に対してほとんど溶解しない。このため、LCDが低温にさらされると色素が析出する。そして、いったん析出した色素を再び液晶に溶解させることは困難である。
このため、アントラキノン色素およびクマリン色素の液晶に対する溶解性を向上させる種々の試みが検討されてきたが、溶解度を十分に向上できるまでには至っていない。
本発明の目的は、光に対する耐性が高く、しかも液晶に対する溶解性の高いアントラキノン色素およびクマリン色素の二色性色素を提供し、さらに明るく鮮明な色表示を実現できるゲスト−ホスト方式の液晶表示素子を提供することにある。
本発明の二色性色素は、下記一般式(P1)〜(P8)
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
(ここで、R1 は水素原子、炭素数12以下のアルキル基、および炭素数12以下のアルキル基で置換されたアリール基からなる群より選択され、R2 は炭素数12以下のアルキル基、および炭素数12以下のアルキル基で置換されたアリール基からなる群より選択され、前記アルキル基およびアリール基はハロゲン原子で置換されていてもよく、Zはハロゲン原子であり、nは1〜12の整数である。)
のいずれかで表されることを特徴とする。
本発明の他の二色性色素は、下記一般式(T1)〜(T5)
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
(ここで、R1 は水素原子、炭素数12以下のアルキル基、および炭素数12以下のアルキル基で置換されたアリール基からなる群より選択される。)
のいずれかで表されることを特徴とする。
本発明のさらに他の二色性液晶は、−5℃から融点までの単位重量当りの転移エンタルピー変化と融解エンタルピー変化との和をΣΔHtr,m、−5℃から融点までの単位重量当りの転移エントロピー変化と融解エントロピー変化との和をΣΔStr,mとするとき、
Y={ΣΔHtr,m/268−ΣΔStr,m}(kJK-1kg-1
の値が0.08以下であるアントラキノン色素からなる。アントラキノン色素のYの値は0.07以下であることがより好ましい。
前記アントラキノン色素として、下記一般式(A1)
Figure 2005002348
(ここで、X1 はH、OH、SRおよびNHRからなる群より選択され、RはH、アルキル基およびアリール基からなる群より選択され、X1 のうち2つ以上はOH、SRまたはNHRであり、R3 はH、アルキル基、アリール基、アルコキシル基およびチオアルコキシル基からなる群より選択される。アルキル基はハロゲン原子で置換されていてもよい。アリール基は複素環基でもよい。)
で表されるものが挙げられる。
また、前記アントラキノン色素として、下記一般式(A2)〜(A4)
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
(ここで、X2 はSおよびNHからなる群より選択され、AはH、OHおよびNHRからなる群より選択され、RはH、アルキル基およびアリール基からなる群より選択され、R3 はH、アルキル基、アリール基、アルコキシル基およびチオアルコキシル基からなる群より選択され、R4 はH、パーフルオロアルキル基、シアノ基およびニトロ基からなる群より選択される。)
で表されるものが挙げられる。
本発明の液晶表示素子は、表面に電極を有する一対の基板間に、液晶および二色性色素を含有する液晶層が設けられた液晶表示素子において、前記二色性色素が一般式(P1)〜(P8)のいずれかで表されるものであることを特徴とする。
本発明の他の液晶表示素子は、表面に電極を有する一対の基板間に液晶および二色性色素を含有する液晶層が設けられた液晶表示素子において、前記二色性色素が一般式(T1)〜(T5)のいずれかで表されるものであることを特徴とする。
本発明のさらに他の液晶表示素子は、表面に電極を有する一対の基板間に液晶および二色性色素を含有する液晶層が設けられた液晶表示素子において、前記二色性色素が前記Yの値が0.08以下であるアントラキノン色素であることを特徴とする。
本発明によれば、光に対する耐性が高く、しかも液晶に対する溶解性の高い二色性色素を提供し、さらに明るく鮮明な色表示を実現できるゲスト−ホスト方式の液晶表示素子を提供することができる。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の二色性色素は、一般式(P1)〜(P8)のいずれかで表されるアントラキノン色素である。一般式(P1)〜(P8)における置換基は以下の通りである。R1 は水素原子、炭素数12以下のアルキル基、および炭素数12以下のアルキル基で置換されたアリール基からなる群より選択される。R2 は炭素数12以下のアルキル基、および炭素数12以下のアルキル基で置換されたアリール基からなる群より選択される。R1 およびR2 に含まれるアルキル基およびアリール基はハロゲン原子で置換されていてもよい。なお、二色性色素の液晶への溶解性の観点から、R1 およびR2 は炭素数1から4のアルキル基が好ましい。特に、R1 はt−ブチル基またはn−ブチル基であることが好ましい。Zはハロゲン原子を示す。Cn 2n+1は、代表的にはCn 2n+1(パーフルオロアルキル基)である。この基の炭素数を表すnは1〜12の整数である。nは1〜4であることが好ましい。
本発明の他の二色性色素は、一般式(T1)〜(T5)のいずれかで表されるアントラキノン色素またはクマリン色素である。一般式(T1)〜(T5)における置換基R1 は水素原子、炭素数12以下のアルキル基、および炭素数12以下のアルキル基で置換されたアリール基からなる群より選択される。
次に、上述した一般式(P1)〜(P8)および(T1)〜(T5)の二色性色素について補足的に説明する。以下においては、Cn 2n+1としてパーフルオロアルキル基を用いた場合について説明する。
一般式(P1)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位および5位にチオフェニル基を有し、一方のチオフェニル基にパーフルオロアルキル基、他方のチオフェニル基にR1 基を有するイエロー色素である。
一般式(P2)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位、4位、5位および8位にチオフェニル基を有し、1位および4位のチオフェニル基にパーフルオロアルキル基、5位および8位のチオフェニル基にR1 基を有するマゼンタ色素である。
一般式(P3)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位および5位にアニリノ基を有し、1位のアニリン基にパーフルオロアルキル基、5位のアニリノ基にR1 基を有するマゼンタ色素である。
一般式(P4)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位および4位にチオフェニル基、5位および8位にアニリノ基を有し、1位および4位のチオフェニル基にパーフルオロアルキル基、5位および8位のアニリノ基にR1 基を有するシアン色素である。
一般式(P5)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位および4位にチオフェニル基、5位および8位に2級アミノ基を有し、1位および4位のチオフェニル基にパーフルオロアルキル基、5位および8位の2級アミノ基にR2 基を有するシアン色素である。
一般式(P6)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位および4位にチオフェニル基、5位および8位にヒドロキシル基を有し、1位および4位のチオフェニル基にパーフルオロアルキル基を有するマゼンタ色素である。
一般式(P7)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位および4位にアニリノ基を有し、これらのアニリン基にパーフルオロアルキル基を有するシアン色素である。
一般式(P8)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位および4位にアニリノ基、5位および8位にチオフェニル基を有し、1位および4位のアニリノ基にパーフルオロアルキル基、5位および8位のチオフェニル基にR1 基を有するシアン色素である。
一般式(P1)〜(P8)において、パーフルオロアルキル基はメタ位に位置していることが好ましく、R1 基はパラ位に位置していることが好ましい。
一般式(T1)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位、4位および5位にチオフェニル基を有し、1位および4位のチオフェニル基にSR1 基、5位のチオフェニル基にR1 基を有するイエロー色素である。
一般式(T2)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位および5位にアニリノ基を有し、1位のアニリノ基にSR1 基、5位のアニリノ基にR1 基を有するマゼンタ色素である。
一般式(T3)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位、4位、5位および8位にチオフェニル基を有し、1位および4位のチオフェニル基にSR1 基、5位および8位のチオフェニル基にR1 基を有するマゼンタ色素である。
一般式(T4)で表される二色性色素は、アントラキノン骨格の1位および4位にチオフェニル基、5位および8位にアニリノ基を有し、1位および4位のチオフェニル基にSR1 基、5位および8位のアニリノ基にR1 基を有するシアン色素である。
一般式(T5)で表される二色性色素は、クマリン誘導体であり、両末端のベンゼン環にそれぞれSR1 基および2級アミノ基を有する。
上記のいずれの二色性色素も液晶(特にフッ素系液晶)に対する溶解性が高い。また、これらの二色性色素は、加熱により、室温における溶解度を超える濃度まで液晶に溶解した後に温度を下げても、析出することはない。したがって、これらの二色性色素は液晶中において過飽和状態でも安定に存在する。このことは、これらの二色性色素のアモルファス性が高いことを意味する。さらに、これらの二色性色素は光に対する高い耐性を示し、光照射による電圧保持率の低下を抑制できる。
一般式(P1)〜(P8)で表され、R1 またはR2 が例えばt−ブチル基である二色性色素の液晶への溶解性が高くなるのは、色素の分子軸に沿う方向で構造上の非対称性が顕著になり、しかもパーフルオロアルキル基の導入により分子自体の疎水性が高くなり、かつパーフルオロアルキル基の局所的双極子により液晶分子との静電相互作用が大きくなるためであると考えられる。
一般式(T1)〜(T5)の二色性色素の液晶への溶解性が高くなるのは、SR1 基の導入による効果であると考えられる。
従来は、アントラキノン色素へのアルキル基の導入による溶解性の改善が試みられてきた。このような色素の液晶への溶解性は、室温付近では向上するが、低温ではほとんど向上しない。これは、低温ではメチレン鎖の運動性が低下するため、溶解性を向上させる効果が失われるためであると考えられる。
また、本発明の二色性色素はイエロー、マゼンタまたはシアンの色相を示すので、異なる色相を示す2種以上の二色性色素を混合して用いると、多様な色相の混合色素を得ることができる。たとえば、イエロー色素とマゼンタ色素の混合によりレッド色素、イエロー色素とシアン色素の混合によりグリーン色素、マゼンタ色素とシアン色素の混合によりブルー色素、イエロー色素、マゼンタ色素およびシアン色素の混合によりブラック色素を得ることができる。
本発明に係るアントラキノン色素については、本発明者らの低分子アモルファス理論(ケミストリー・マテリアルズ誌、第6巻、2343頁、1994年)に基づいて、熱力学パラメータから液晶に対する溶解性を予測することができる。したがって、良好な溶解性を示すアントラキノン色素を容易に選択できる。
本発明のアントラキノン色素は、−5℃から融点までの単位重量当りの転移エンタルピー変化と融解エンタルピー変化との和をΣΔHtr,m、−5℃から融点までの単位重量当りの転移エントロピー変化と融解エントロピー変化との和をΣΔStr,mとするとき、
Y={ΣΔHtr,m/268−ΣΔStr,m}(kJK-1kg-1
の値が0.08以下である。
以下、低分子アモルファス理論に基づいて、二色性色素の液晶への溶解性について考察する。
純固相の物質Aが、物質Aを含む溶液と平衡状態にあるためには、固相および液相の両相において物質Aの化学ポテンシャルμが等しい必要がある。この条件は、
μA *S=μA L
と表わされる。理想溶液中の物質Aの化学ポテンシャルは、
μA L =μA *L+RTlnXA
と表わされる。この式において、μA *Lは純液相の物質Aの化学ポテンシャル、XA はモル分率である。したがって、平衡の条件は、
μA *S=μA *L+RTlnXA (1)
となる。ここで、μA *SおよびμA *Lは、純固相および純液相の物質Aの化学ポテンシャル(モル自由エネルギー)である。したがって、(1)式は、
(GA *S−GA *L)/RT=lnXA (2)
となる。ここで、
d(G/T)/dT=−H/T2
である。(2)式をTについて微分すると、下記(3)式が得られる。
(HA *S−HA *L)/RT2
ΔHf /RT2 =dlnXA /dT (3)
(3)式において、ΔHf は融解エンタルピー変化である。あまり広くない温度範囲では、ΔHf はTに依存しないとみなすことができる。(3)式を、XA =1となる温度すなわち純固相の物質Aの融点Tm から、純固相の物質Aがモル分率XA の物質Aを含む溶液と平衡にある温度Tまで積分すると、下記(4)式が得られる。
(ΔHf /R)(1/Tm −1/T)=
−(ΔHf −TΔSf )/RT=lnXA
−lnXA =(ΔHf −TΔSf )/RT (4)
(4)式は、理想溶液であれば、溶媒の種類に関わらず、溶解度は純物質Aの融解の熱力学パラメータによって決定されることを意味する。
現実の溶液を表わすには、活動度係数γA を導入し、(4)式の代わりに下記(5)式を用いる。
−(ΔHf −TΔSf )/RT=lnγA A
−lnXA =(ΔHf −TΔSf )/RT+lnγA (5)
ここで、固体が溶媒に溶解する過程は、仮想的に次の2つの段階に分けることができる。(i)結晶配列にある固体の分子が分離して液体となる過程;および(ii)分子が溶媒と混合する過程;である。(5)式の(ΔHf −TΔSf )は温度Tにおける、純固相の物質Aと純液相の物質A(T<Tm の場合には過冷却液体)とのモル自由エネルギーの差を示し、(i)の過程に近似している。一方、RTlnγA は近似的に部分モル混合熱を表わしている。色素分子には、融解の前に、固体−固体相転移を起こすものもある。したがって、現実の熱力学パラメータは、温度Tから融点Tm までの総和(ΣΔHtr,m、ΣΔStr,m)で考える必要がある。
理想溶液は、溶質自体が剛直な球のように1つの運動単位として振る舞うこと仮定している。これに対して、剛直な複数の球をフレキシブルな結合で結合したような、複数の運動単位を有する分子は、式(5)を満たさなくなる。特に、色素分子のTm は室温より高いため、溶解の素過程(i)は結晶から過冷却液体への変化となる。低分子アモルファス理論によれば、過冷却液体における分子運動は、分子全体ではなく、運動単位当たりの自由エネルギー差によって決定される。しかし、複雑な色素分子においては、どの部分が運動単位になるかを正確に決定することは困難である。一方、分子の大きさ(分子量Mw)が大きくなると、これに比例して運動単位の数も増加するとみなすことができる。しかも、色素分子や液晶分子では、溶解性に影響する構造(親水基や疎水基)が不均一に存在する。これらの点を考慮すると、複数の運動単位の自由エネルギーに関しては、モル自由エネルギーを分子量Mwで割った、単位重量当りの自由エネルギーが重要になる。単位重量当りの自由エネルギーは、分子量が未知の色素や混合色素についても、通常の示差走査型熱量分析計(DSC)で測定されるΔHf およびΔSf によって評価することができる。
本発明の対象であるゲスト・ホスト液晶組成物では、低温において色素分子が析出しやすい。本発明では、アントラキノン色素が液晶に対して十分な溶解性を示す基準として、温度−5℃における溶解度が1重量%以上であるという条件を設定する。この場合、−5℃(268K)から融点までの単位重量当りの転移エンタルピー変化と融解エンタルピー変化との和をΣΔHtr,m、−5℃から融点までの単位重量当りの転移エントロピー変化と融解エントロピー変化との和をΣΔStr,mとして、Y={ΣΔHtr,m/268−ΣΔStr,m}(kJK-1kg-1)の値が小さいほど溶解度は大きくなる。本発明者らの実験によれば、−5℃において、アントラキノン色素の溶解度が1重量%以上になるためには、Yの値が0.08以下である必要があることが判明した。さらに、Yの値が0.07以下であることが好ましい。
上記のYの値が小さいということは、ΣΔHtr,mが小さく、ΣΔStr,mが大きいことが望ましいことを意味する。これらの転移および融解の熱力学パラメータと、分子構造との定性的な関係はよく知られている。ΣΔHtr,mを小さくするためには、バルキーで剛直な置換基や大きなイオウ原子などを導入して、分子間のパッキングを防いだり、分子全体の双極子モーメントを小さくすることが有効である。ΣΔHtr,mを小さくすると、溶解性の温度依存性も小さくすることができる。しかし、一般的には、ΣΔHtr,mが小さく色素分子間の相互作用が小さいと、ΣΔStr,mも小さくなる。ΣΔStr,mが小さくなるのを防ぐには、色素分子に剛直でバルキーな置換基を非対称的に導入して対称中心の数を減らし、末端に重い原子を配置して回転モーメントを上げて融点を下げるのが効果的である。
また、アントラキノン色素の非対称的な複数の位置に、シアノ基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシル基、ハロゲン原子、エステル基、カルボニル基、アルコキシル基、チオアルコキシル基、ニトロ基およびヒドロキシル基からなる群より選択される極性基を導入することが有効である。このような構造を有するアントラキノン色素は、Y値を増加させることなく、極性のあるフッ素系液晶との静電相互作用を増大できるため、その溶解性および二色比を向上できる。一方、対称的な複数の位置に極性基を導入したアントラキノン色素は、ΔHtr,mの値が増加するため好ましくない。
以上のような観点から、小さいYの値を示すアントラキノン色素の候補として、上述した一般式(A1)〜(A4)で表されるものが挙げられる。また、低分子アモルファス理論からは、ガラス転移点が低く、結晶成長速度が遅く、アモルファス状態が安定であるほど、溶解性の高い色素であると判断できる。
本発明に係るゲスト−ホスト方式の液晶表示素子は、表面に電極を有する一対の基板間に液晶および二色性色素を含有する液晶層を有し、二色性色素として一般式(P1)〜(P8)および一般式(T1)〜(T5)のいずれかで表されるアントラキノン色素もしくはクマリン色素、または上記のYの値が0.08以下であるアントラキノン色素を用いる。
本発明において、液晶は屈折率異方性があり電圧によって配向が変化するものであれば特に限定されないが、ネマチック液晶、コレステリック液晶が好ましい。特にフッ素系のネマチック液晶が好ましい。具体的には、下記化学式(LC1)〜(LC10)で示される液晶が挙げられる。これらの液晶は、単独で用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。
Figure 2005002348
(ここで、R11、R12は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシル基、アルキルフェニル基、アルコキシアルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルシクロヘキシル基、アルコキシアルキルシクロヘキシル基、アルキルシクロヘキシルフェニル基、シアノフェニル基、シアノ基、ハロゲン原子、フルオロメチル基、フルオロメトキシ基、アルキルフェニルアルキル基、アルコキシアルキルフェニルアルキル基、アルコキシアルキルシクロヘキシルアルキル基、アルコキシアルコキシシクロヘキシルアルキル基、アルコキシフェニルアルキル基、およびアルキルシクロヘキシルフェニルアルキル基からなる群より選択される。これらの置換基は光学活性中心を有していてもよい。フェニル基またはフェノキシ基はハロゲン原子で置換されていてもよい。Yは水素原子およびハロゲン原子からなる群より選択される。)
これらの液晶はいずれも正の誘電異方性を示す。ただし、誘電異方性が負の液晶でも、誘電異方性が正の液晶と混合することにより、全体として誘電異方性が正になるようにすれば使用することができる。また、適当な素子構成および駆動方法を用いれば、誘電異方性が負の液晶のみを使用することもできる。
本発明のGH−LCDでは、液晶および二色性色素を含むマイクロカプセルのを用いて液晶層を構成してもよい。マイクロカプセルを用いると、LCDの製造が容易になる。例えば、イエロー、マゼンタおよびシアンの3色の液晶層を積層してカラーディスプレイを作製する場合に、スパッタリングや印刷によって、液晶層上に透明電極層を設けることができる。このため、液晶層の間に、透明電極を形成したガラス基板を挿入する必要がなくなり、色ずれをなくすことができる。
また、マイクロカプセルを用いると、印刷により液晶層を形成できるので、同一平面上に液晶層のパターンを形成することも容易になる。
また、2層の液晶層を積層することもできる。この場合、第1の色相を示すマイクロカプセルからなる液晶層と、第1の色相に対して補色の関係にある第2の色相を示すマイクロカプセルからなる液晶層とを積層し、上下の液晶層のしきい値電圧を適宜調整すれば、モノクロ表示とカラー表示が可能になる。
マイクロカプセルの作製方法としては、相分離法、液中乾燥法、界面重合法、in situ重合法、液中硬化皮膜法、噴霧乾燥法などが挙げられる。
マイクロカプセルの被膜(シェル)を構成するポリマーは特に限定されず、種々のポリマーを用いることができる。具体的には、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン共重合体(エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸・無水マレイン酸共重合体など)、ポリブタジエン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニル、天然ゴム、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、四フッ化エチレン、三フッ化エチレン、フッ化エチレン・プロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、四フッ化エチレン共重合体(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレン・エチレン共重合体など)、フッ素樹脂(含フッ素ポリベンゾオキサゾールなど)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル共重合体(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体など)、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アセタール樹脂、ポリアミド(ナイロン66など)、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、セルロース樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、ジアリールフタレート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルホン、シリコーン樹脂、ポリイミド、ビスマレイミドトリアゾール、ノルボルネン系非晶質ポリオレフィンが挙げられる。
反射板は、一方の基板の外面に形成してもよいし、一方の基板と液晶層との間に形成してもよい。基板と液晶層との間に反射板を形成した場合、開口率を向上することができる。
実施例1
下記化学式で示される二色性色素を用いた。なお、各化学式に付した記号は、同一記号の一般式に対応する実施例(E)または比較例(C)を示す。
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
ここで、上記の二色性色素のいくつかについて製造方法を説明する。なお、以下に例示した以外の二色性色素も、同様な方法により合成することができる。
二色性色素(P2E1)の合成経路を下記に示す。まず、窒素雰囲気で、炭酸ナトリウムを入れたDMF中において1,4−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシアントラキノンを4−t−ブチルチオフェノールと約80℃で5時間反応させる。DMFを真空留去した後、純水を加えて生成物を結晶化させる。この結晶を純水でよく洗浄して乾燥させ、トルエン−ヘキサン混合溶液で再結晶させて4−t−ブチルチオフェノール誘導体を得る。ピリジン中において、4−t−ブチルチオフェノール誘導体をトシルクロライド(TsCl)と70℃で5時間反応させ、一昼夜放置した後、純水中に投入する。析出した結晶をろ別して、純水、つづいてヘキサンで洗浄してトシル化物を得る。窒素気流中で、炭酸ナトリウムを入れたDMF中において、トシル化物を3−トリフルオロメチルチオフェノールと約80℃で7時間反応させる。DMFを真空留去した後、生成物をヘキサン−トルエン=1:2の混合溶液を用いて湿式カラムで精製する。この反応は多くの副生成物を生じるため、さらに薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=1:1)で精製してマゼンタの二色性色素(P2E1)を得る。
Figure 2005002348
この二色性色素の13C−{ 1H}NMRスペクトルの結果は以下の通りである。
13CNMR(CDCl3 ) δ(ppm):31.2(Me炭素)、34.8(t−Bu4級炭素)、123.5(q)(CF3 炭素)、126.4(1位チオフェニル基の4位炭素)、127.0(5位チオフェニル基のメタ位炭素)、128.5(アントラキノン骨格の4a位炭素)、129.2(5位チオフェニル基の1位炭素)、130.3(1位チオフェニル基の5位炭素)、131.0(アントラキノン骨格の2位炭素)、132.4(1位チオフェニル基の2位炭素)、135.6(5位チオフェニル基のオルト位炭素)、139.1(1位チオフェニル基の6位炭素)、[141〜145(アントラキノン骨格の1位炭素)、153.0(5位チオフェニル基のパラ位炭素)、183.5(アントラキノン骨格のカルボニル炭素)。
二色性色素(P8E1)の合成経路を下記に示す。3−トリフルオロメチルチオフェノールの代わりに、3−トリフルオロメチルアニリンを用いる以外は二色性色素(P2E1)の合成方法と同様であるので、詳細な説明は省略する。
Figure 2005002348
二色性色素(T1E1)は以下のようにして合成することができる。窒素雰囲気で、炭酸ナトリウムを入れたDMF中において1当量の1,5−ジクロロアントラキノンを1当量のチオフェノールと80℃で3時間反応させ、さらに1.5当量の4−メチルチオチオフェノールを加えて80℃で4時間反応させる。DMFを真空留去した後、残留した生成物を少量のトルエンに溶解して湿式カラムで分離精製し、二色性色素(T1E1)を得る。
二色性色素(T1E2)は、チオフェノールの代わりに3−トリフルオロメチルチオフェノールを用いる以外は上記と同様にして合成することができる。
二色性色素(T2E1)の合成経路を下記に示す。窒素雰囲気で、ピリジン中において1当量の1,5−ジヒドロキシアントラキノンを3当量のトシルクロライドと80℃で5時間反応させる。再結晶および湿式カラムによる精製を行い、トシル化物を得る。DMF中において銅触媒の存在下で、トシル化物をアニリンと4−メチルチオアニリンとの混合物(4当量)と反応させる。再結晶および湿式カラムによる精製を行い、二色性色素(T2E1)を得る。
Figure 2005002348
二色性色素(T3E1)の合成経路を下記に示す。窒素雰囲気で、炭酸ナトリウムを入れたDMF中において1当量の1,4−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシアントラキノンを3当量のチオフェノールと80℃で5時間反応させる。DMFを真空留去した後、再結晶および湿式カラムによる精製を行い、チオフェノール誘導体を得る。次に、チオフェノール誘導体をトシル化し、さらに4−メチルチオチオフェノールと反応させて二色性色素(T3E1)を得る。
Figure 2005002348
二色性色素(T4E1)の合成経路を下記に示す。窒素雰囲気で、炭酸ナトリウムを入れたDMF中において1当量の1,4−ジクロロ−5,8−ジヒドロキシアントラキノンを3当量の4−メチルチオチオフェノールと80℃で5時間反応させる。DMFを真空留去した後、再結晶および湿式カラムによる精製を行い、4−メチルチオチオフェノール誘導体を得る。この4−メチルチオチオフェノール誘導体をトシル化し、さらにアニリンと反応させて二色性色素(T4E1)を得る。
Figure 2005002348
二色性色素(T5E1)の合成経路を下記に示す。(T5C1)のクマリン色素を臭素と反応させて、臭化物を得る。ジメチルイミダゾリドン(DMI)中において、臭化物をC1225SNaと反応させて二色性色素(T5E1)を得る。
Figure 2005002348
次に、表1に示す二色性色素について、液晶に対する溶解性を評価した。まず、種々の既知濃度で二色性色素をフッ素系液晶(チッソ化学工業社製、LIXSON5052xx)と混合し、シクロヘキサンで5mLに定容し、極大吸収波長における吸光度を測定して検量線を作成した。この際、高濃度の二色性色素を含有する試料を調製するために、加熱により室温での溶解度を超える色素を液晶に溶解させた後に冷却した。また、吸光度の高い領域の検量線を作成するために、試料重量を増加させて吸光度を測定した。
次に、二色性色素を上記と同一のフッ素系液晶材料と混合し、十分に攪拌して1000時間以上静置した。過剰の色素が残存して飽和状態になっていることを確認し、フィルターを通して色素を除去した。所定量の着色液晶を秤量し、シクロヘキサンで5mLに定容した。極大吸収波長における吸光度を測定し、検量線に基づいて溶解度を求めた。測定は、24℃および−5℃で行った。この結果を表1に示す。
Figure 2005002348
表1から、比較例の二色性色素は液晶にほとんど溶解しないかまたは溶解度が小さいのと比較して、実施例の二色性色素は液晶に対する溶解性が非常に高いことがわかる。比較例のうち、分子の両端にトリフルオロメチル基を導入した二色性色素でも、溶解性は非常に低い。このことから、本発明の二色性色素においては、一方の末端にトリフルオロメチル基を導入し、他方の末端にアルキル基を導入するかまたは無置換とした分子構造を有することが、溶解性の向上に寄与しているものと考えられる。
また、例えば二色性色素(P2E1)は、液晶と混合して加熱することにより10wt%以上溶解させた後に室温で1000時間放置しても析出することはなく、過飽和状態でも安定であった。これに対して、比較例の二色性色素の場合には、加熱によっても溶解度がそれほど向上することはなく、室温に放置すると析出が生じた。
次に、1対の基板にそれぞれ電極および液晶配向膜(垂直配向用)を形成し、一方の基板上にスペーサを散布し、互いに対向させて接着することにより、セル厚約10μmのセルを作製した。この液晶セル中に、n型液晶材料(メルク社製、ZLI−2806)、カイラル剤(メルク社製、S811)、各実施例の二色性色素、および他の二色性色素(日本感光色素製)の混合物を注入して液晶表示素子を作製した。この液晶表示素子はコレステリック−ネマチック相転移によりスイッチングする。
これらの液晶表示素子について電圧保持率を測定した結果を表2に示す。これらの液晶表示素子は高い電圧保持率を有することがわかる。なお、二色性液晶を用いずに液晶材料のみを注入して作製した液晶表示素子の電圧保持率は99.2%であった。また、これらの液晶表示素子は、キセノンランプを用いて500MJ/m2 の照射量で光を照射した後にも電圧保持率が低下せず、光に対する安定性に優れていることがわかった。
Figure 2005002348
二色性色素(P2E1)を用いた液晶表示素子について、電圧無印加および電圧印加の状態で透過率を測定した結果を図1に示す。
また、表3に示す二色性色素について、以下のようにして液晶に対する溶解性および電圧保持率を評価した。所定の温度(24℃および−5℃)において、十分な量の二色性色素にフッ素系液晶(チッソ化学工業社製、LIXSON5052xx)を加え240時間攪拌して二色性色素を液晶に飽和溶解させた。得られた着色液晶組成物を0.2μmのフィルターに通し、析出した二色性色素を除去した。その後、着色液晶組成物の吸光分析を行い、二色性色素の溶解度を求めた。また、配向膜を設けていない透明基板を用いて厚さ10μmの液晶セルを作製し、二色性色素を1wt%の濃度で溶解した着色液晶組成物を注入した。得られた液晶セルを用い、50℃における電圧保持率を測定した。これらの結果を表3に示す。
Figure 2005002348
表3から、比較例の二色性色素は室温では比較的高い溶解性を示す場合でも、−5℃における溶解性は低くなっている。これに対して、実施例の二色性色素は−5℃における溶解性が高いことがわかる。また、(T1E1)の末端にパーフルオロアルキル基を導入した分子構造を有する(T1E2)は、(T1E1)よりも優れた溶解性を示している。パーフルオロアルキル基の導入による溶解性の改善は他の二色性色素でも認められる。なお、図示しないが、(T3E1)は吸収スペクトルの半値幅が特に小さく、鮮明な色表示が可能である。
実施例2
実施例1で合成したものに加えて、新たに下記に示す各種のアントラキノン色素を合成した。
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
Figure 2005002348
表4に示すアントラキノン色素について熱力学パラメータの測定を行い、Yの値を求めた。また、−5℃における各アントラキノン色素のフッ素系液晶(LIXON5052xx)に対する溶解度を測定した。これらの結果を表4に示す。また、図2にYと溶解度との関係を示す。なお、表4の(P2E2)は(P2E1)と同様な分子構造を有するが、末端のアルキル基がt−ブチル基およびメチル基である分子の混合物である。同様に、表4の(P4E2)は(P4E1)と同様な分子構造を有するが、末端のアルキル基がt−ブチル基およびメチル基である分子の混合物である。
Figure 2005002348
図2から明らかなように、アントラキノン色素が−5℃において1wt%以上の溶解度を示すためには、Yの値が0.08以下であることが必要である。また、Yの値が0.07以下のアントラキノン色素は2重量%以上の溶解度を示すので、液晶層を薄くして駆動電圧を低減するのに有利になる。
実施例3
図3に示すTFT駆動の3層構造の反射型GH−LCDを作製した。このLCDは対角4インチで、画素数は320×240である。
まず、2枚の厚さ0.5mmのガラス基板21の両面にITO電極23のパターンを形成した。1枚の厚さ1mmのガラス基板22の片面にITO電極23を形成した。1枚の厚さ1mmのガラス基板22の片面にアルミニウム反射電極24を形成した。各電極上にポリイミド膜を塗布した後、ラビングした。
これらの基板を用い、図3に示すように、セルを組み立てた。具体的には、アルミニウム反射電極24を形成した基板22上に直径9μmのガラス製スペーサー(図示せず)を散布し、周縁部にエポキシシール剤25を設け、両面にITO電極23を形成したガラス基板21を載せた。同様にして、もう1つの両面にITO電極23を形成したガラス基板21を載せ、さらに片面にITO電極23を形成したガラス基板22を載せた。各層の液晶セルに着色液晶を封入することにより液晶層26a、26b、26cを形成した。本実施例では、下層の液晶セルから順にそれぞれイエロー、シアン、マゼンタの着色液晶を封入した。なお、液晶層26a〜26cに封入する着色液晶の順序は特に限定されない。
ここで、イエロー色素として(P1E1)、シアン色素として(P4E1)、マゼンタ色素として(P2E1)または(P3E1)を用いた単独の液晶セルで得られる反射光の色相を図4の色度座標に示す。
(P1E1)、(P4E1)および(P2E1)の二色性色素を用いたGH−LCDでは、マゼンタ色素(P2E1)を用いた液晶セルの反射光の色相がレッドよりであるため、レッドよりの鮮明な表示に有利な色表示範囲を得ることができる。これに対して、(P1E1)、(P4E1)および(P3E1)の二色性色素を用いたGH−LCDでは、マゼンタ色素(P3E1)を用いた液晶セルの反射光の色相がブルーよりであるため、ブルーよりの鮮明な表示に有利な色表示範囲を得ることができる。したがって、マゼンタ色素として(P2E1)および(P3E1)を用い、その混合比を調整することにより所望の色表示に有利なGH−LCDを作製することができる。
実施例4
以下のようにして液晶および二色性色素を含有するマイクロカプセルを調製し、これを用いて表示素子を作製した。
フッ素系ネマチック液晶(チッソ社製、LIXON5052)にイエローの二色性色素(P1E1)を1.3重量%溶解した。この液晶組成物80重量部、親水性のメチルメタクリレートモノマー7重量部、疎水性のイソブチルメタクリレートモノマー7重量部、架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート1重量部およびベンゾイルパーオキサイド0.2重量部を混合し、ポリビニルアルコール3重量部、純水300重量部とともにホモジナイザーで乳化した後、500rpmで攪拌しながら、85℃で1時間モノマーを重合させた。1μmのフィルターでろ過し、純水で3回洗浄することにより、液晶組成物が透明高分子被膜で包まれたマイクロカプセルを得た。
10%イソプロピルアルコール水溶液に、マイクロカプセル10重量%を分散させ、アルミニウム反射電極を形成したガラス基板に塗布し乾燥して液晶層を形成した。この液晶層の上に、透明電極を形成したガラス基板を載せた。これをポリアミド製の袋に入れ、袋内を減圧し、120℃で加熱密着させて、表示素子を作製した。液晶層の厚みは10μmであった。
この表示素子は黄色を呈しており、50Hzで12Vの交流電圧を印加すると透明になった。反射濃度から求めたコントラストは3.4であり、十分な色調を示した。
実施例5
以下のようにして図3に示す3層構造のGH−LCDを作製した。カイラル剤(E.Merk社製、S811)を含有するSTN用液晶混合物(チッソ社製、LIXON4031)を用意した。液晶混合物にイエローのアントラキノン色素(P1E2)を2.5%溶解させて液晶組成物を調製した。液晶混合物にマゼンタのアントラキノン色素(P2E2)を2.0%溶解させて液晶組成物を調製した。液晶混合物にシアンのアントラキノン色素(P3E2)を1.5%溶解させて液晶組成物を調製した。図3に示す3層の液晶セルに、下層からそれぞれマゼンタ、イエロー、シアンの液晶組成物を封入してGH−LCDを作製した。
このGH−LCDを電圧2V、電圧幅0.2Vで駆動したところ、白黒のコントラスト比が3.4であり、十分な色調を示した。また、この液晶表示素子を−5℃で3日間放置したが、表示性能の劣化は見られなかった。
比較のために、イエロー色素として(P1E2)の代わりに(P1C3)、マゼンタ色素として(P2E2)の代わりに(P2C3)、シアン色素として(P3E2)の代わりに(P4C3)を用いた以外は、上記と同様にしてGH−LCDを作製した。
このGH−LCDを電圧2V、電圧幅0.2Vで駆動したところ、白黒のコントラスト比は3.3であり、十分な色調を示した。しかし、このGH−LCDを−5℃で3日間放置すると、各液晶層で色素の析出が起こり、表示性能が大幅に低下した。
実施例6
液晶および二色性色素を含有するマイクロカプセルを用い、図5に示す3層構造のGH−LCDを作製した。図5(A)は、本実施例のGH−LCDの概略図である。図5(B)は、図5(A)の断面図である。ガラス基板31上には複数のTFT32が形成されている。ガラス基板31上には絶縁膜を介してアルミニウムからなる反射板33が配置されている。この反射板33は画素電極を構成している。反射板33上には、イエロー液晶層34a、透明電極層(画素電極)35、マゼンタ液晶層34b、透明電極層(画素電極)35、シアン液晶層34cが積層されている。透明電極層35は、透明電極材料をスパッタリングしてフォトリソグラフィーによりパターニングするか、透明電極材料を分散させた溶剤を印刷することにより形成されている。シアン液晶層34c上には、透明の対向電極36を有するガラス基板または高分子フィルムが配置されている。なお、各TFTと、反射板33および透明電極35とは電気的に接続されている。
上記の液晶層34a〜34cは、フッ素系液晶(LIXON5052xx)にアントラキノン色素(P1E2)、(P2E2)および(P3E2)をそれぞれ2.4%、2.0%および1.5%の濃度で溶解させたゲスト・ホスト液晶組成物を用い、実施例4と同様の方法で調製されたマイクロカプセルにより形成されている。
このGH−LCDでカラー表示を行う場合、各液晶層を挟む4つの電極に印加する電圧を予め決定し、演算回路に設定値を与えておく。図6(A)〜(H)に各電極に印加する電圧を示す。図中GはGNDを意味し、基準となる電位である。Vは飽和透過率に近い高透過率が得られる電位である。なお、2通りの電圧を示しているのは、液晶層に交流波形を加えるためである。
例えば、「白」を表示する場合には、図6(A)に示すように電圧を印加する。このように電圧を印加することにより、液晶分子および色素分子を電極面に対して垂直方向に配向させ、光を透過させるようにする。他の色を表示する場合にも、それぞれ図6(B)〜(H)に示すように各液晶層間の電圧を制御する。
この液晶表示素子を電圧5Vで駆動したところ、白黒のコントラスト比は3.2であり、十分な色調を示した。また、この液晶表示素子を−5℃で3日間放置したが、表示性能の劣化は見られなかった。
実施例7
イエロー色素(P1E1)とマゼンタ色素(P2E1)を重量で2:3の割合に混合してレッド混合色素を得た。イエロー色素(P1E1)とシアン色素(P4E1)を重量で1:1の割合に混合してグリーン混合色素を得た。マゼンタ色素(P2E1)とシアン色素(P4E1)を重量で1:1の割合に混合してブルー混合色素を得た。それぞれの混合色素を用い、実施例4と同様にして、3種の液晶マイクロカプセルを調製した。これらのマイクロカプセルは、単独で液晶層を形成したときに、しきい値電圧が6Vになるように粒径が調整されている。
また、それぞれ、イエロー色素(P1E1)、マゼンタ色素(P2E1)およびシアン色素(P4E1)を用い、実施例4と同様にして、3種の液晶マイクロカプセルを調製した。これらのマイクロカプセルは、単独で液晶層を形成したときに、しきい値電圧が4Vになるように粒径が調整されている。
これらのマイクロカプセルを用いて、図7に示すLCDを作製した。ガラス基板51の裏面にはアルミニウム反射板52が、表面にはITO電極53が形成されている。ITO電極53上に、印刷により、レッド(R)、グリーン(G)およびブルー(B)のそれぞれの液晶層54a、54b、54cが、ストライプパターンに形成されている。同様に、印刷により、レッドの液晶層54a上にシアンの液晶層55a、グリーンの液晶層54b上にマゼンタの液晶層55b、ブルーの液晶層54c上にイエローの液晶層55cが、ストライプパターンに形成されている。積層された上下の2つの液晶層の色相は、互いに補色の関係にある。ガラス基板51の周縁部にはシール剤56が設けられ、表面にITO電極58が形成された対向するガラス基板57が載せられている。
このLCDでは、印加電圧を調整することにより、たとえばレッド液晶層54aとシアン液晶層55aとが積層されている1つの画素だけで、ホワイト、レッドおよびブラックを表示できる。同様に、他の画素でも、印加電圧を調整することにより、ホワイト、グリーンおよびブラック、またはホワイト、ブルーおよびブラックを表示できる。
本発明に係る二色性色素(P2E1)を用いたGH−LCDで測定された透過率を示す図。 アントラキノン色素のYの値と−5℃における溶解度との関係を示す図。 実施例3における3層構造の反射型GH−LCDの構造を示す図。 本発明に係る二色性色素を用いたGH−LCDで得られる反射光の色相を示す色度座標図。 実施例6における3層構造の反射型GH−LCDの概略図および断面図。 実施例6における3層構造の反射型GH−LCDの各電極に印加する電圧と表示色との関係を示す図。 実施例7における反射型GH−LCDの断面図。
符号の説明
21、22…ガラス板
23…ITO電極
24…アルミニウム電極
25…シール剤
26a、26b、26c…液晶層
31…ガラス基板
32…TFT
33…反射板
34a、34b、34c…液晶層
35…透明電極層
36…対向電極
51、57…ガラス基板
52…アルミニウム反射板
53、58…ITO
54a、54b、54c…液晶層
55a、55b、55c…液晶層
56…シール剤

Claims (7)

  1. 下記一般式(T1)〜(T5)
    Figure 2005002348
    Figure 2005002348
    Figure 2005002348
    Figure 2005002348
    Figure 2005002348
    (ここで、R1は水素原子、炭素数12以下のアルキル基、および炭素数12以下のアルキル基で置換されたアリール基からなる群より選択される。)
    のいずれかで表されることを特徴とする二色性色素。
  2. 表面に電極を有する一対の基板間に、液晶および二色性色素を含有する液晶層が設けられた液晶表示素子において、前記二色性色素が請求項1記載の一般式(T1)〜(T5)のいずれかで表されるものであることを特徴とする液晶表示素子。
  3. 前記液晶が、フッ素系液晶を含有することを特徴とする請求項2に記載の液晶表示素子。
  4. 前記二色性色素が、異なる色相を示す2種以上の二色性色素の混合物であることを特徴とする請求項2に記載の液晶表示素子。
  5. 前記液晶および二色性色素がマイクロカプセルに封入されていることを特徴とする請求項2に記載の液晶表示素子。
  6. 一対の基板間に、イエローの液晶層、マゼンタの液晶層およびシアンの液晶層が、電極層を挟んで積層して設けられ、各液晶層には独立して電圧が印加されることを特徴とする請求項2に記載の液晶表示素子。
  7. 一対の基板間に、第1の色相を示すマイクロカプセルからなる液晶層と、第1の色相に対して補色の関係にある第2の色相を示すマイクロカプセルからなる液晶層とが積層して設けられていることを特徴とする請求項2に記載の液晶表示素子。
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