JP2004359114A - 車体パネル構造体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アウターパネル4の内面にインナーパネル1aが配置され、インナーパネル1aの内面に補強インナーパネル40が配置されている。これらのインナーパネル1a及び補強インナーパネル40の少なくとも一部には、車幅方向における断面形状が波型をなす凹凸が形成されている。そして、インナーパネルと補強インナーパネルとはその波型の夫々凹部と凸部とを接触させて接合されている。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の車体フード、ルーフ、ドアー、トランクリッド等のパネルとして使用され、歩行者保護における頭部の衝撃耐性が優れた車体パネル構造体に関し、特に曲げ剛性及び張り剛性などの剛性が優れたアルミニウム合金又は鋼製等の金属製の車体パネル構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、自動車などの車体部材のパネル構造体には、アウターパネル(外装パネル又は外板といわれる:以下、単にアウターという)とインナーパネル(内装パネル又は内板といわれる:以下、単にインナーという)とが、空間を介した閉断面構造をとって組み合わされたものが使用されている。
【0003】
このうち、特に、自動車のフード、ルーフ及びドア等のパネル構造体部分には、アウターと、このアウターを補強するためにアウターの車体内側に設けられたインナーとが、機械的に結合され、又は溶接若しくは樹脂等の接着剤等による接合により結合されている。
【0004】
これらのインナー及びアウターの車体用パネル構造体には、従来から使用されていた鋼材と共に、又はこの鋼材に代わって、軽量化のために、AA又はJIS規格による3000系、5000系、6000系、7000系等の高強度で高成形性のアルミニウム合金板(以下、アルミニウムを単にAlと記す)が使用され始めている。
【0005】
近時、歩行者保護の観点から、フードの設計要件として頭部衝突時の安全性が要求される傾向にあり、ビーム型フード構造に関して、種々の技術が提案されている(特開平7−165120、特開平7−285466、特開平5−139338)。また、EEVC(European Enhanced Vehicle−Safety Committee)において、大人頭部と子供頭部の衝突耐性に関し、フードが具備すべき条件として、HIC値1000以下が規定されている(EEVC Working Group 17 Report,Improved test Methods to evaluate pedestrian protection afforded by passenger
cars,December 1998に記載)。
【0006】
本願発明者等は、波型インナーについて、既に波形断面が規則的な場合と不規則なスプライン型インナーの場合について、特許出願している(特願2001−378764号、国際公開番号WO02/47961)。この波型インナーは、ビーム型インナー及びコーン型インナーに比較して、アウターからエンジン等の剛体物までのクリアランスが小さくても、より一層のHIC値の低減が可能であり、歩行者保護に好適の構造である。即ち、この波型インナーを使用した先願に係る発明は、歩行者保護に優れた車体パネル構造体として、その所期の目的は達成された。しかしながら、歩行者保護のためには、更に一層のHIC値の低減が要望されている。
【0007】
次に、エンジンルーム内からの騒音低減の観点から、特開2001−122049、特開2001−122050には、閉断面構造の特徴を有するコーン型フードを対象に1kHz以下の周波数帯域の防音性に優れた輸送機用パネル構造体が提案されている。
【0008】
一方、吸音パネルについては、特開昭61−249878に車両の内燃機関から発生する騒音を低減するための複数の孔を備えたパネルが開示されており、特開2000−56777には多孔板吸音パネルの改良型が示されている。また、特開2002−175083においては、凹凸面を有する多孔内装板を備えた多孔質防音体構造が提案されている。
【0009】
また、吸音効果向上のための微細孔の開口率と、孔径の定量的検討については、宇津野の論文(多孔板と吸音材の吸音メカニズムに関する検討振動屋と音屋の接点を求めて、日本機械学会ダンピングシンポNo.2、講演2002年1月)があり、この中で、吸音板の吸音率が測定され、板厚0.5mmの鋼板では、開口率1%で孔径0.5mmのとき、1kHz以下の周波数領域で概略0.5程度の吸音効果が得られることが実験的に確認されている。同様に、板厚0.8mmの鋼板では、開口率2%、孔径2mmで同様の効果が確認されている。
【0010】
更に、特開2003−50586においては、外装板と内装板とが対向配置するように形成され、吸音効果が0.3以上の吸音率となる周波数帯域幅が共鳴周波数に対して10%以上に設定されている多孔質防音構造体が提案されており、内装板の板厚は0.3mmから1mmの範囲で、開口率は1%から5%の範囲で、孔径は0.5mmから3mmの範囲で、これらのパラメータが吸音率に与える効果が調べられている。この場合、開口率は3%以下で、孔径は3mm以下で、特に孔径1mm以下の場合に十分な吸音効果が得られ、所定の効果が得られるようである。上記公報には、更に、内装板が空気層を介して2枚以上設けられている多孔質防音体構造が提案されている。但し、吸音構造と歩行者保護構造の両者を満足する車体フード構造については、未だ、未開発の状況である。
【0011】
ところで、前述の如く、頭部の衝撃耐性は、一般には下記数式1により表されるHIC値(頭部性能基準)により評価される(自動車技術ハンドブック第3分冊試験評価編1992年6月15日第2版自動車技術会編)。
【0012】
【数1】
HIC=[1/(t2−t1)∫t1t2adt]2.5(t2−t1)
但し、aは頭部重心における3軸合成加速度(単位はG)、t1、t2は0<t1<t2となる時刻で、HIC値が最大となる時間で、作用時間(t2−t1)は15msec以下と定められている。
【0013】
EEVC Working Group 17 Reportにおいて、大人頭部と子供頭部の衝突耐性に関し、フードが具備すべき条件として、夫々HIC値1000以下と規定されている。この中で、頭部衝突試験時の頭部衝突速度は40km/時で、大人頭部(重量4.8kg、外径165mm、衝突角65度)と子供頭部(重量2.5kg、外径130mm、衝突角50度)とが設定されている。
【0014】
頭部衝突時において、歩行者頭部は、初めにアウターへ衝突し、次に変形が進み、インナーを介してエンジンルーム内のエンジン等の剛体的な部品に反力が伝わり、頭部には過大な衝撃力が生じる。頭部には、主にアウターとの衝突により生じる加速度第1波(衝突開始からほぼ5m秒までの間に生じる)と、インナーが剛体物と衝突する際に生じる加速度第2波(衝突開始からほぼ5m秒経過以後に生じる)が作用する。加速度第1波の大きさは主にアウターの弾性及び剛性で決まり、加速度第2波の大きさは主にインナーの弾塑性及び剛性で決まる。頭部の運動エネルギーはこれらのアウターとインナーの変形エネルギーにより吸収されるが、頭部の移動距離がアウターとエンジン等の剛体物とのクリアランスを超えると、頭部は剛体物からの反力を直接受けることになり、HIC値の制限値1000を大幅に超える過大な衝撃力を受け、致命的なダメージを受けることになる。
【0015】
そこで、頭部移動距離が小さくてもHIC値の低減が可能であることが必要である(課題1)。先ず、アウターとエンジン等の剛体物とのクリアランスが大きい程、頭部の移動距離を大きくでき、HIC値の低減には有利であるが、フードの設計上、アウターとエンジン等の剛体物との間のクリアランスにはおのずと限界があり、小さなクリアランスで、頭部移動距離が小さくてもHIC値の低減が可能なフード構造が求められている。
【0016】
特に、大人の頭部衝突では、子供の頭部衝突に比較して衝突条件が厳しく、このため、アウターから剛体面へのクリアランスについては、設計上の許容範囲を超えた過大なクリアランスを設ける必要があり、問題となっている(EEVC Working Group 17 Reportに記載)。
【0017】
更に、子供頭部と大人頭部のどちらも衝突する可能性があるWAD1500(車体先端の地面からフード衝突位置までの輪郭線の距離が1500mmのライン)のライン上において、衝突特性の異なる子供と大人の両者について、HIC値1000を満足するのは、極めて困難であり、問題点としてあげられている。特に大型セダンのフードでは、WAD1500のラインが、アウターと剛体面とのクリアランスが小さくなるエンジン直上にあり、衝撃耐性の向上に関する有効な対策が要望されている(EEVC Working Group 17 Report)。
【0018】
次に、衝突部位によらずHIC値が均一であることが必要である(課題2)。頭部衝突位置について、ビーム型フード構造の場合はフレーム直上の位置で、コーン型フード構造の場合はコーン頂点部の位置であり、いずれもHIC値が大きくなる。これは、これらの部位では局部剛性が高く、剛体部と衝突しても変形が小さく、剛体物からの高い反力を受けるためである。このため、安全性の観点から、衝突部位によらず、概ね均質なHIC値がえられるフード構造が要望されている。
【0019】
第3に、車体の軽量化が可能なAl合金材の適用が可能であることが必要である(課題3)。フードの材料として軽量化が可能なAl合金材を適用しても、頭部衝突耐性が優れていることが必要である。フードの軽量化にはしばしばAl合金材が使用されるが、この場合、鉄材を使用する場合に比較して、歩行者保護の観点では、一般的には不利と考えられる。それは、Al合金材の弾性率と比重が、双方とも鋼材の約3分の1で、頭部の運動エネルギーをフードで吸収するには、パネル構造体としてのAl合金製フードの膜剛性と重量が鋼製フードに比較して不足することに起因する。
【0020】
板材の曲げ剛性は、ET3(ヤング率E,板厚Tとする)に比例し、膜剛性はETに比例する。鉄材(ヤング率Es,板厚Ts,比重γs)をAl合金材(ヤング率Ea,板厚Ta,比重γa)に置き換える場合には、通常、曲げ剛性が同一になるように板厚が決定される。この場合、EaTa3=EsTs3、Ea/Es=1/3であり、Ta/Ts=31/3=1.44となる。アルミニウム合金製フードと鋼製フードの膜剛性比は、(EaTa)/EsTs=1.44/3=0.48となり、同じく重量比は(Taγa)/(Tsγs)=1.44/3=0.48となり、アルミ製フードの膜剛性と重量は、鋼製フードの0.48倍しかない。この結果、頭部とフードとの衝突問題では、頭部移動距離が増加し、剛体物に衝突しやすくなるとともに、加速度第1波でのアウターによるエネルギー吸収が少なく、加速度第2波が増加するため、従来のフード構造ではHIC値が増加し、HIC値の制限値を満足させることが極めて困難になる。
【0021】
勿論、TaをTsの3倍にすれば、膜剛性比及び重量比とも鋼製フードと同等となるが、コストが上がりすぎ、設計としては成立しない。
【0022】
このように、フードにアルミ合金材を適用し、この条件で頭部衝突での制約条件を満足させるのは、かなり困難である。勿論、アルミ材ニウムでこの条件が満足されるフード構造がみつかれば、この構造を採用した鋼製フードではHIC値の更に一層の低下が可能となる。
【0023】
以上のように、歩行者保護のために、フード構造が解決すべき課題は、
・頭部移動距離が小さくてもHIC値の低減可能なこと、
・フードへの衝突部位によらずHIC値が概ね均一となること、
・Al合金製フードでも、十分HIC値を低減できること、
等である。
【0024】
一方、エンジンル―ム内から車外にもれる騒音を抑制する役目を果たしているインシュレータは、リサイクル性に問題があり、フード自身が吸音特性を有すれば、リサイクル性に優れたアルミ材の使用により騒音問題を解決でき、地球環境の観点から好ましい。このため、フード自体に吸音特性を持たせることができるフード構造が要望されている。
【0025】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、頭部移動距離が小さくてもHIC値を低減することができ、フードへの衝突部位によらずHIC値を均一化することができ、更に、Al合金製フードでも、十分HIC値を低減できて、車体の軽量化に寄与する車体パネル構造体を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、インシュレータがなくても吸音特性が良い車体フードを提供することを目的とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本願第1発明に係る車体パネル構造体は、アウターパネルと、このアウターパネルの内面に配置され車体長手方向に全面に断面形状が波型をなす凹凸が複数形成されたインナーパネルと、このインナーパネルの内面に配置され車体長手方向に全面に断面形状が波型をなす凹凸が複数形成された補強インナーパネルと、を有し、前記インナーパネルと前記補強インナーパネルはその波型の夫々凹部と凸部とを接触させて固定されていることを特徴とする。
【0027】
本願第2発明に係る車体パネル構造体は、アウターパネルと、このアウターパネルの内面に配置され全面に同心円状の凹凸が複数形成されたインナーパネルと、このインナーパネルの内面に配置され全面に同心円状の凹凸が複数形成された補強インナーパネルと、を有し、前記インナーパネルと前記補強インナーパネルはその凹凸の夫々凹部と凸部とを接触させて固定されていることを特徴とする。
【0028】
本願第3発明に係る車体パネル構造体は、アウターパネルと、このアウターパネルの内面に配置され全面に第1方向における断面形状が波型をなす第1の凹凸と前記第1方向に交差する第2方向における断面形状が波型をなす第2の凹凸とが複数形成されたインナーパネルと、このインナーパネルの内面に配置され全面に前記第1方向における断面形状が波型をなす第1の凹凸と前記第1方向に交差する前記第2方向における断面形状が波型をなす第2の凹凸とが複数形成された補強インナーパネルと、を有し、前記インナーパネルと前記補強インナーパネルはその第1及び第2の波型の夫々凹部と凸部とを接触させて固定されていることを特徴とする。
【0029】
本発明においては、上述の如く、断面形状が波型をなす凹凸が形成されたインナーパネルと、同様に断面形状が波型をなす凹凸が形成された補強インナーパネルとを、その一方の凹部と他方の凸部とを接触させて固定した2重波型フード構造を有するので、アウターパネル及びインナーパネルを薄肉化しても、フード構造体の張り剛性を著しく高めることが可能である。また、曲げ剛性及び捩じり剛性についても十分な特性が得られ、この結果、外部荷重に対するフードの変形を効果的に抑制することができる。
【0030】
更に、本発明によれば、歩行者保護に関し、頭部とフードとの衝突における衝撃耐性を高めて、安全性を向上でき、頭部移動距離が小さくてもHIC値を低減することができ、フードへの衝突部位によらずHIC値を概ね均一とすることができ、更に、アルミ合金製フードでも十分にHIC値を低減できる。
【0031】
しかも、本発明のパネル構造体は、インナー及び補強インナーを波型形状に成形するだけでよく、構造が簡素であり、インナーの板厚を増すことなく、張り剛性及び曲げ剛性を高めることができ、軽量化が可能である。また、平板状パネルから上記波型パネルへのプレス成形は容易であり、インナー自体の製造コストが低い。
【0032】
更に、パネル構造体としての剛性を高めることができるので、アウター、インナー及び補強インナーの素材としては、軽量なアルミニウム(Al)合金を使用することが可能である。
【0033】
更にまた、本発明においては、前記インナーパネル又は補強インナーパネルに、開口率3%以下、孔径3mm以下の吸音効果を有する複数個の貫通孔を設けることができ、このように、インナーパネル又は補強インナーパネルに複数の貫通孔を設けることにより、その吸音効果を一層高めることができる。
【0034】
なお、HIC値低減のために、凹凸の波の波長pは、頭部外径dに対して、下記数式を満足することが好ましい。
0.7<p/d<1.7
【0035】
また、HIC低減のために、インナーパネルの凹凸の波の波高h1、及び補強インナーパネルの凹凸の波の波高h2は、頭部外径dに対して、下記数式を満足することが好ましい。
0.15<(h1+h2)/d<0.3
【0036】
また、アウターパネルとインナーパネルとを柔に接合するために、波型インナーパネルの凸部に局部的な接着部をちどり状に、又は分散させて設けることにより、極めて柔らかな接合部を設けることができ、これにより、歩行者保護での頭部衝突に際し、アウターパネルとインナーパネルとの間にガタ振動が生じ、頭部加速度波が撹乱する効果を高めることができ、これにより、HIC値を低下させることができる。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1はインナーの斜視図、図2はインナー及び補強インナーがアウターに取り付けられた状態を示す図1のA−A線で示す断面図である。なお、図1には、本発明の波型形状が分かりやすいようにメッシュを入れている。
【0038】
インナー1aは、アルミニウム合金又は高張力鋼板等の軽量で高張力な金属により成形されており、インナー1aの周縁部9a、9b(9a車体先端側、9b運転席側)及び周縁部10a、10b(車幅側)を除く中央部分に、稜線が車体長手方向に向かう複数本の波型ビード2aが互いに略平行に形成されている。この波型ビード2aにより、車幅方向の断面形状において、凸条5と凹条6が交互に現れる波形の凹凸がインナー1aに設けられている。
【0039】
補強インナー40も、インナー1aと同様の形状を有し、周縁部を除く中央部分に、車幅方向の断面形状において、凸条と凹条が交互に現れる波形の凹凸が形成されている。これにより、稜線が車体長手方向に向かう複数本の波型ビードが互いに略平行に形成されている。また、アルミニウム合金又は高張力鋼板等の軽量で高張力な金属により成形されている。
【0040】
アウター4は本体部4aが平面であり、周辺部4bがヘム(曲げ)加工されて折り返され、この周辺部4bのヘム加工部8でインナー1a及び補強インナー40を支持固定している。この場合に、インナー1aと補強インナー40は、インナー1aの凹条と、補強インナー40の凸条とが接触するようにして配置され、このインナー1aの凹条と補強インナーの凸状との接触部を、アウター4のヘム加工部8が挟持することにより、アウター4に固定されている。この接触部にてインナー1aと補強インナー40とは接着剤により相互に接合されるか、又はリベットにより固定されている。なお、インナー1aとアウター4との間に、樹脂槽7を介在させており、これにより、インナー1aとアウター4との間のガタをなくしている。
【0041】
波型ビード2aは、アウターの裏面側に向かって張り出し、断面がなだらかな円弧状又は長手方向に畝状の凸条5であり、これとは反対側に窪んだ同じく断面がなだらかな円弧状又は長手方向に畝状の凹条6とによって、車幅方向にサイン波状に連続する曲線からなる波型を構成している。そして、図1に示す例では、直線状の波型ビード2aを7本略平行でかつ互いに独立させて(間隔をあけて)インナー1aの表面に設けている。
【0042】
波型ビード2aは、凹条6も含めて、その長手方向に渡って概ね同じ幅を有している。但し、波型ビード2aは、凹条6も含めて、必ずしも、その長手方向に亘って同じ幅を有する必要はない。例えば、平面視で見て、部分的に幅が狭くなるくびれ又は凹みを設けて、車体衝突の際に、インナーの全体変形の起点となって衝撃を吸収し、乗員を保護する形状としても良く、又は、車体設計に応じて順次幅が狭くなる又は拡がる形状としても良い。
【0043】
なお、これら波型ビード2a及び凹条6の断面形状(幅、高さ、斜面の傾斜角度)並びに数(本数)及び長さ等の条件は、この態様に限定されるものではない。但し、剛性の発揮と成形のしやすさを考慮すると、前記波の高さhは10〜60mm、前記波長pは90〜300mmの範囲から選択することが好ましい。
【0044】
また、凹条も含めて、これらの波型ビード断面形状が大きく、また波型ビードの数が多いほど、またパネル全面に渡って設けられるほど、インナー又はパネル構造体の剛性を高めることができる。
【0045】
従って、これらの波型ビード2a及び凹条6の断面形状並びに条件は、剛性設計で要求される張り剛性、捩り剛性、及び曲げ剛性と、成形が可能又は容易であること(成形性)との関係から適宜選択される。
【0046】
また、インナーを更に一層軽量化するために、剛性及び強度に影響のない範囲で、波型ビード2a及び凹条6の部分に、部分的にパネルをトリミングした空間又は切欠き部分(円、矩形など空間部分の形状は問わない)を設けても良い。
【0047】
更に、例えば、インナーをテーラーブランク化するなどして、インナーの外縁部(外周部)の板厚を中央部の板厚よりも厚くし、パネル又はパネル構造体の先端部にかかる曲げ荷重に対し、パネル又はパネル構造体の曲げ剛性を向上させる等、別の剛性補強手段と適宜組み合わせても良い。
【0048】
補強インナー40はインナー1aとそれらの頂点部分が相互に結合する形態で一体となる。結合部は接着材、リベット等を用いて結合される。2重波型構造とすることで、頭部衝突時の吸収エネルギーが高められ、頭部衝突性が向上し、騒音対策の観点からも吸音率が高まる。
【0049】
インナー及び補強インナーの断面形状は、基本的にはサイン曲線状の波型であるが、曲率の自由度が高いスプライン曲線であるほうが実用的である。図4乃至6は、スプライン曲線を用いた例を示す。図4に示すように、通常、エンジンルーム内は複雑な部品配置をしており、このようなスプライン形状により、部品配置を考慮した柔軟なインナー形状設計が可能となる。図5はこのスプライン形状のインナーを示す斜視図であり、図6(a)乃至(d)はスプライン曲線を示すインナーの断面形状を示す。補強インナーもインナーと同一の形状を有し、インナーと補強インナーの断面形状の組み合わせは基本的には同一形状での組み合わせを有し、波高は異なるが波長は同一となる。但し、例外的に異なる形状を組み合わせる場合も考えられる。また、これらの曲線上に、小さな凹凸を設けたり、小さな波を重ねたりして、局部剛性を調整してもよい。車体長手方向に伸びる小さなビードにより凹凸を設ければ、車体長手方向の剛性が高まり、局部的に頭部衝突耐性が高まる場合がある。
【0050】
また、本発明に係るインナー及び補強インナーの断面形状は、基本的にはサイン曲線状の波型であるが、断面形状に略台形を用いてもよい。図7(a)、(b)は台形形状を示す図である。図7(a)は凸部及び凹部の双方が台形形状の場合、図7(b)は凸部が台形状、凹部が円弧状の場合を示す。これらの台形状の波型は、インナーと補強インナーとの双方が同一の形状を有することが原則であるが、インナー又は補強インナーの一方をサイン曲線又はスプライン曲線にしてもよい。また、台形状の面上に、小さな凹凸を設けたり、小さな波を重ねたりして、局部剛性を調整してもよい。
【0051】
図8乃至図14は凹凸形状(波型形状)の変形例を示す図である。図8に示すインナー1bの波型ビード2bの凹凸形状は、同心円状をなすものである。また、図9に示すインナー1cは、中央部に楕円状の波型ビード2dを設け、その両側に直線状の波型ビード2cを形成したものである。図10に示すインナー1dは、図1と同様に稜線が直線状でこれが車体長手方向に延びる波型ビード2aと、稜線が直線状でこれが車体幅方向に延びる波型ビード2eとが直交するように形成されている。図10に示す波型ビード2a及び2eは断面形状がサイン曲線である。図11に示すインナー1eは、同様に、稜線が車体長手方向に延びる波型ビード2aと稜線が車体幅方向に延びる波型ビード2eとが直交するように形成されているが、波型ビード2a及び2eの断面形状はスプライン形状である。
【0052】
図12に示すインナー1fは、稜線が車体長手方向に対して傾斜して延びる直線状の波型ビード2f、2gが、車体幅方向の両側に分割された領域に形成されている。この図12に示す波型ビード2f、2gは、車体方向に向いて、それらの稜線が相互に出合うハ型に配置されている。図13に示すインナー1gは、同様に、稜線が車体長手方向に対して傾斜して延びる直線状の波型ビード2f、2gが、車体幅方向の両側に分割された領域に形成されているが、図13に示す波型ビード2f、2gは、車体方向に向いて、それらの稜線が相互に離れる逆ハ型に配置されている。
【0053】
図14に示すインナー1hは、稜線が車体長手方向に対して傾斜して延びる直線状の波型ビード2f、2gが、いずれも車体パネルの全面に形成されており、従って、各波型ビード2f、2gは相互に交差している。
【0054】
補強インナーも、上述のインナーと同様の形状を有し、インナーの凹部と、補強インナーの凸部とが相互に接触し、この接触部で相互に接合又は結合されている。
【0055】
上述の如く、本発明のインナー及び補強インナーの断面形状は、複数本の波型ビードが、パネル構造体の長手方向に対し平行方向又は斜め方向、又はパネル構造体の略中心に対し同心円状、又はこれらの組み合わせである2重波状から選択される配列で設けられている。インナー及び補強インナーとアウターとの一体化は、基本的に、図2に示す方法により行う。
【0056】
なお、これらの波型ビードの具体的な配列は、必ずしも厳密な意味で規定されるものではない。例えば、平行又は同心円状といっても数学的な意味の平行又は同心円状ではなく、剛性向上効果を損なわない範囲での多少のズレを許容する点で略平行又は略同心円状であればよい。なお、この略平行とは、直線状の波型ビードに限らず、同心円又は楕円等の曲線状の波型ビードにおいても同様である。
【0057】
図2に示すフード構造体は、インナー1aの波型ビード2aの凸条5の頂部5aに樹脂層7を配置し、この樹脂層7を接着剤として、波型ビード2aの平坦な頂部5aと、緩やかな円弧状に成形されたアウター4の裏面とを互いに接合し、空間を介した閉断面構造をとって一体化した形状を有している。
【0058】
また、フード構造体として一体化させるために、前記接着剤とともに、インナー1a及び補強インナー40とアウター4との周縁部を、アウター4周縁部4bのヘム部8をヘム(曲げ)加工することにより、相互に固定している。
【0059】
また、上述の如く、アウターとインナーとは樹脂層7を接着剤として結合され、更に、ヘム部8により縁部を挟持して結合されている。これにより、アウターとインナーとは柔に結合されている。また、インナーと補強インナーも同様に凸部と凹部との接合により柔に結合されている。このような柔な結合方法を適用し、この樹脂層7又は凸部と凹部との接合部のような接合部をちどり状に配置し、又は分散させて配置することにより、歩行者保護での頭部衝突に際し、アウターとインナー又は補強インナーとのがた振動を損なわず、この結果、頭部加速度波が撹乱され、HIC値を低下させることが可能となる。
【0060】
なお、樹脂層7は、樹脂の特性及び種類を選択することにより、制振性及び消音(遮音)性、衝撃緩衝効果等を持たせることも可能である。そして、これらの効果を向上させるため、波型ビード5の頂部5aのみではなく、樹脂層及びクッション材などを凹条6の上など、インナー1aとアウター4との間隙に充填するようにしても良い。
【0061】
図2に示す2重波型フード構造は、図3に示すように、ヒンジレインフォースメント21及びラッチレインフォースメント22等の補強部材によって、局部補強することができる。
【0062】
次に、この波型ビード2aの存在によって、また、インナーを波型とすることによって、パネルの局部的な曲げ剛性を高め、インナー又は波型フード構造としての剛性を高める機構を以下に説明する。
【0063】
先ず、張り剛性とは、アウター中央部での集中荷重に対する局部剛性であり、集中荷重は、アウターからインナーの方向で、アウター面に垂直に作用する荷重である。
【0064】
次に、曲げ剛性とは、図15(a)に示すフード構造体への曲げ荷重に対する剛性で、曲げ荷重は、主としてフード先端部に、垂直方向に作用する曲げ荷重Fbである。この曲げ荷重Fbは、フード1の運転席側端部A、B点と先端部の中央部C点の3点を支持点とし、先端部の両端部D、E点に作用する集中荷重で、曲げ剛性Kbは,この曲げ荷重Fbに対する荷重点(D、E点)での変位Ubとの比で定義される値(Kb=Fb/Ub)である。
【0065】
更に、捩り剛性とは、図15(b)に示すフード構造体への捩り荷重に対する剛性で、捩り荷重は、主としてフード先端部に、垂直方向に(下方から上方)に向けて作用する荷重Ftである。この捩り荷重Ftは、フード1の運転席側端部A、B点と先端部の両端部E点の3点を支持点とし、先端部の両端部D点に作用する集中荷重で、捩り剛性Ktとは,この捩り荷重Ftに対する荷重点(D点)での変位Utとの比で定義される値(Kt=Ft/Ut)である。
【0066】
これらの剛性に対し、先ず、張り剛性に関しては、波型インナーを組み込んだ本発明波型フード構造は、コーン型フード構造に比較して、波型インナー中央部の凹凸により局部曲げ剛性が増加するとともに、インナーとアウターとの接着部面積が増加し、アウターからインナーへの荷重伝達が広範囲に分散されるため、荷重点での変位が抑制され、この結果、張り剛性が増加する。
【0067】
また、曲げ剛性に関しては、波型フード構造は、コーン型フード構造に比較し、波型形状により曲げ剛性向上に有効な断面部面積が増加し、この結果フードの曲げ剛性が向上する。
【0068】
更に、捩り剛性に関しては、コーン型フード構造及び波型フード構造で採用している閉断面構造が、捩り剛性の向上につながり、基本的には従来のビーム型フード構造に比較して約2倍の捩り剛性がある。但し、波型インナー中央部の凹凸は、捩り剛性をやや低下させる方向に作用するため、波型フード構造の捩り剛性は、コーン型フード構造の捩り剛性に比較し、同等又はやや低めの値となる。しかしながら、閉断面構造の場合、もともと捩り剛性が高く、やや低下したとしても、設計条件を十分に満足できる。
【0069】
このように、本発明の2重波型フード構造は、張り剛性と曲げ剛性に関し、コーン型フード構造を上回るが、捩り剛性に関してはコーン型フード構造を若干下回るものの、設計条件は十分満足しているため、総合的に、フード設計要求に対し、高い剛性を有するフード構造を得ることができる。
【0070】
一方、歩行者保護における頭部とフードとの衝突での課題解決について、従来型の波型インナーは頭部の運動エネルギーを極めて良好に吸収可能で、HIC値を大幅に下げることが可能である。その解析例につき、既存のビーム型フード構造と従来の波型フード構造との頭部加速度波形の比較を図16に示し、解析モデルを図17に示す。図16は大人の頭部の場合で、クリアランスLは84mmである。図16より、従来型波型フード構造では加速度第2波の大きさが大幅に低下し、この結果HIC値が大幅に低下していることがわかる。これは、波型インナーの波長pを、概ね頭部外径を基準として、その前後の値とすることにより、頭部衝突時に、頭部を概ね1つの波でささえる構造となり、頭部を柔らかく受け止める変形を生じ、その結果、HIC値低減が得られ、加速度第2波が減少し、HIC値が減少する。また、頭部衝突時に、アウターとインナーとが、がた振動を生じ、頭部加速度波形を撹乱させ、その結果加速度第2波を大幅に低減でき、HIC値が減少する。
【0071】
本発明の2重波型フード構造では、従来型の波型フード構造に、さらに補強インナーを追加したことにより、頭部衝突エネルギーを効率よく吸収できるため、HIC値は従来の波型フード構造に比較して更に低下し、頭部衝突耐性は高まる。
【0072】
また、インナー及び補強インナーの凹凸形状をスプライン型とすることにより、エンジンルーム内のエンジン、バッテリ及びラジエータ等の剛な部品の配置を考慮した場合より、現実的な設計が可能となる。
【0073】
エンジンルーム内には、エンジン、バッテリ及びラジエータ等の堅い部品があり、波型インナーの設計では、これらの部品の配置を考慮した設計が必要となる。これらの部品の配置は車により千差万別であり、波型インナーの断面形状は、単純で規則的な波型から、波長、波高、波形が不規則に変化する波型形状に修正する必要が生じる。このため、波型の断面形状は主としてスプライン関数のような任意の3次元形状を表せる形状関数で定義される図4のような形状であることが好ましい。このようなスプライン関数の波型形状を有するインナーをスプライン型インナーというが、これは波型インナーの1形態である。
【0074】
図4は、フード長手方向のある断面での断面形状で、アウター、スプライン型インナー、スプライン型補強インナー、エンジンルーム内の剛体面を現している。先ず、スプライン型インナー及びスプライン型補強インナーと、剛体面との位置関係は、頭部衝突時に波の谷部が剛体面で概ね均等に衝突し、剛体面からの反力が波型インナー全面に伝わるよう配慮する。このため、アウターと剛体面とのクリアランスが小さく頭部と剛体物との衝突が避けられない部位B1では、スプライン波の谷部D1、D2で均等に支持されるような断面形状とする(B2、B3、B4も同様である)。また、クリアランスが十分あり、剛体物との衝突が発生しない部位A1では、波長を大きくとり、波の谷部D2、D3で均等に支持されるような断面形状とする。この部位で波長を短くし、波数を複数にすると、インナーの車幅方向の曲げ剛性が低下し、鉛直方向の変位が増加し、頭部衝突耐性が低下するため、D2からD3までを1つの波でつなげる(A2も同様である)。但し、HIC値が低く許容できる範囲での波を設けることは問題ない。なお、C1、C2、C3、C4、C5の波の谷部での頭部衝突では、はじめに荷重がインナーの山部に伝わり、その後インナーの谷部を介して剛体面に伝わるため、頭部衝突耐性は、山部に衝突したときと概ね同様となる。このように、スプライン型インナーでは、車ごとに異なるエンジンルーム内の剛体物の配置によらず、概ね一定の頭部衝突耐性を実現できる。
【0075】
なお、エンジンルーム内の剛体物の配置は非常に複雑であり、スプライン波の波高及び波長は、車幅及び車長手方向に柔軟に変化させるため、スプライン型インナーの形状は複雑な曲面となる。
【0076】
更に、クリアランスが不足し、頭部衝突耐性が不足する部位については、インナーに補強板を張り付けたり、スプライン型インナーに、局部的に凹凸(いわゆるエンボス加工)をつけたり、又は小さな波をフード長手方向に重ねることにより、インナーの局部剛性を増加でき、頭部衝突耐性が改善される。
【0077】
また、アウター下面に鋼製又はアルミ製等の金属板を貼り付けることにより、局部的にアウター重量を増加させ、頭部衝突時の加速度第1波の値を200G程度に増加できれば、頭部加速度波形の最適形状が得られ、その結果HIC値が低下する。
【0078】
アウター、インナー及び補強インナーは、通常、汎用されるAl合金板又は高張力鋼板等を使用することができる。但し、樹脂については、材料強度等の特性からして、本発明で目的とする剛性を持たせるためには、厚さが極端に厚くなるため、非現実的であり、本発明の車体パネルには適用しにくい。
【0079】
また、車体の更に一層の軽量化のためには、高張力鋼板ではなく、Al合金板を適用することが好ましい。本発明の波型フード構造であれば、高張力鋼板を使用せずとも、又は特別に高強度のAl合金を使用せずとも、十分高剛性化することができる。
【0080】
この点、本発明の車体用インナー又はアウターに用いるAl合金自体としては、通常、この種のパネル用途に汎用されるもの、例えば、AA又はJIS規格による3000系、5000系、6000系、7000系等の耐力の比較的高い汎用(規格)Al合金板から選択することが好ましい。これらのAl合金板は、圧延加工などの常法により製造され、適宜調質処理されて使用される。
【0081】
歩行者保護における頭部衝突耐性向上について、簡易解析モデルを使用し、2重波型フード構造の効果を調べた。波型断面は、サイン波形状とし、波の分布はフード長手方向に平行な場合について調べた。
【0082】
解析モデルは、下記のごとく設定した。図18は本発明の波型インナーの歩行者頭部衝突モデルの概略を示す側面図、図18は正面図である。また、頭部衝突モデルの斜視図を図20,21に示す。
【0083】
図18及び図19において、アウター4の内面に波形インナー1が設けられ、波型インナー1の内面に補強インナー40が設けられ、アウター4とインナー1との間は、樹脂層30により接着されている。なお、符号23は歩行者の頭部、符号24は剛体面である。また、各寸法類は、頭部外径d、衝突速度v、衝突角α、アウターと剛体面との衝突方向の間隔L、接着剤の厚さc、波型インナーの波高h1、補強インナーの波高h2、波型インナー、及び補強インナーの波長pを表わす。また、歩行者の頭部モデルの解析条件を下記表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
解析モデルでは、以下の項目を考慮した。頭部衝突モデルは、実物を想定した詳細モデル化が困難なため、頭部を球状の頭部モデルとし、車体部をフード構造体、と剛体面とから構成される簡易モデルとした。剛体面は、エンジンルーム内でモデル化が困難なエンジン等の剛対物を模擬しており、アウターに平行な曲面で衝突方向にクリアランスLを有している。フェンダー、ウィンドーシールド、サスペンション等の車体部はモデル化していない。フードモデルは、通常のセダンでインナー、及び補強インナーは5000系アルミ材、アウターは6000系アルミ材で、フード長手方向曲率3100mm、幅方向曲率4300mmの2重曲率を有する2重板構造の簡易モデルで、弾塑性体としてモデル化した。アウターとインナーとの接着部はモデル化されておらず、接着部の厚さcは、隙間を許すモデル化となっている。図20中の黒3角の3点が支持部であり、その他の部位は拘束されておらず、頭部衝突時にフード構造体は大きく変形し、衝突部が剛体面に衝突する。頭部モデルは、EEVC/WG10に示された子供と大人の頭部モデルを適用し、頭部外周が均一厚さのスキンで覆われた剛な球体として簡易的にモデル化している。なお、スキンは弾性体とし、その弾性率はEEVC/WG10で要求される落下試験状態において、加速度応答が所定の範囲におさまるように決定した。物性値を表1に示す。
【0086】
本発明のインナー及び補強インナーによる2重波型フード構造の頭部衝突耐性の効果を調べるため、既に頭部衝突耐性についての効果が確認されている従来型の波型フード構造との比較検討を行った。両者の諸寸法を下記表2に示す。アウター板厚は両者とも板厚1mmとしたが、インナーと補強インナーの板厚は両者で重量が一定となるよう、波型フード構造の場合インナー板厚は0.8mm、2重波型フード構造の場合インナーは0.4mm、補強インナーは0.4mmとした。
【0087】
波型インナーの解析モデルは図20で両者に共通し、頭部衝突位置はフード中央部としている。図21は2重波型フード構造の波の部分を取り出して表示しており、波型インナーの下面の補強インナーは、インナーとの接触部で固着されている。一方、波型フード構造では、補強インナーは着いていない。
【0088】
図22は波型フード構造での解析結果を示し、図23は2重波型フード構造での解析結果を示す。これらの解析結果より、波型フード構造の場合HIC値966.2であったが、2重波型フード構造の場合HIC値826.5に低下している。これは、2重波型フード構造により、頭部衝突エネルギーが効率よく吸収されたからであり、この結果2重波型フード構造の頭部衝突耐性の効果が確認された。
【0089】
なお、ここでは、インナーと補強インナーの板厚について十分な検討を行っていないが、インナー板厚は0.8mm程度に増加させれば、フード重量は若干増加するが、頭部加速度の加速度第1波が増加し、HIC値は更に低下すると考えられる。
【0090】
【表2】
【0091】
従来型の波型フード構造でのHIC値低減に効果のある波長pの好適範囲は、図24に示すごとく頭部外径dを用いて、0.7<p/d<1.7となることは、既に発明者により開示されている。
【0092】
これは、波長pがこの範囲より小さい場合には、波型インナーのフード長手方向の曲げ剛性が高くなるものの、フードの幅方向の曲げ剛性が低下し、頭部衝突時のインナーの剛性は低下し、HIC値は増加する。また、波長pがこの範囲より大きい場合には、フードの幅方向の曲げ剛性が高くなるものの、フード長手方向の曲げ剛性が低下し、頭部衝突時のインナーの剛性は低下し、HIC値は増加する。このように、波長pには好適範囲が存在し、その範囲は、概ね頭部外径を基準にその前後の値が好ましい。これは、頭部衝突時に、頭部を概ね1つの波でささえる構造が、頭部を柔らかく受け止める変形を生じ、その結果HIC値低減を図ることができるからである。
【0093】
2重波型フード構造においても、頭部外径基準の好適範囲は、そのまま流用可能である。先願にて開示された波型フード構造の場合は、波高hの好適な範囲は、同じく頭部外径dを用いて、0.15<h/d<0.4となる。これは、波高hに関しては、波高hがこの範囲より小さい場合には、波型インナーの局部曲げ剛性が不足し、頭部衝突エネルギーを吸収できず、頭部は剛体面に衝突し、HIC値は増加する。波高hがこの範囲より大きい場合には、波型インナーの局部曲げ剛性が過大となり、フードの剛性が高すぎるためにHIC値は増加する。このように、波高hにも好適範囲が存在し、波型インナーの断面形状は上記の好適範囲で設計することが好ましい。2重波型フード構造においても、頭部外径基準のこの好適範囲は、そのまま流用可能である。但し、波高h1、h2を考慮すると、上記の式は、0.15<(h1+h2)/d<0.4と修正されるべきである。修正後の好適範囲を図25に示す。
【0094】
次に、頭部衝突位置の影響について、説明する。従来型の波型フード構造について子供の頭部衝突の場合での解析結果から、アウターと剛体面とのクリアランスLが75mmの場合について頭部衝突位置の影響を示す。図26は頭部衝突位置を示し、下記表3はそれらの衝突位置でのHIC値を示す。この表3より、頭部衝突位置が変わっても、HIC値が概ね一定であることがわかる。この衝突部位に関するHIC値の均一性は、波型フード構造が有している極めて有用な特長である。
【0095】
2重波型フード構造においても、頭部衝突エネルギーの吸収メカニズムは従来型の波型フード構造と基本的には同様であり、上記特徴は2重波型フード構造においても、あてはまることは明らかである。
【0096】
【表3】
【0097】
アウターとインナーとはその接着部に数ミリの隙間があいているが、現実にはフードの適切な張り剛性をえるために、最小限の接着部が必要である。従来型フード構造での解析検討より、がた振動を阻害しないためには、接触断面形状が比較的局部的な面積で、極めて柔なスポンジ状の接着剤を使用して、図27の如く波型インナーの山部にちどり状に、又は分散して配置されたような構造が好ましい。接着部の断面積が増加し、又は接着材の剛性が増加すると、アウターとインナーとは一体となって振動しやすくなり、がた振動がなくなり、その結果加速度第2波が増加し、HIC値は増加する傾向が確認されている。
【0098】
本発明では、フードはアウターとインナー、インナーと補強インナーの2つの空気層を有し、インナーと補強インナーに微細の孔が設けられているため、吸音効率はかなりの効果が期待できる。なお、微細孔の大きさは、製造上の一般常識から板厚程度以下の微細な孔をパンチングであけるのはかなり困難であり、大量生産を前提とした場合には、孔径は板厚0.5mmの場合0.5mmから1mm程度となり、板厚0.8mmの場合は0.8mmから約2mm程度の範囲に制限される。
【0099】
これらの効果を達成する上で、前記インナー及び補強インナーには吸音効果を有する多数の貫通孔が設けられていることが好ましい。この場合に、前記貫通孔は、開口率が3%以下、孔径が3mm以下であることが好ましい。吸音効果はヘルムホルツの共鳴原理に従う。本発明では、フードはアウターとインナーとの間、及びインナーと補強インナーとの間に2つの空気層を有し、インナーと補強インナーに微細の孔が設けられているため、吸音効率はかなりの効果が期待できる。なお、微細孔の大きさは、製造上の一般常識から板厚程度以下の微細な孔をパンチングであけるのはかなり困難であり、大量生産を前提とした場合には、孔径は板厚0.5mmの場合0.5mmから1mm程度となり、板厚0.8mmの場合は0.8mmから約2mm程度の範囲に制限される。
【0100】
2重波型構造は、剛性及び衝突耐性が優れており、吸音特性を備えていることから、車体構造のフード以外にも適用でき、具体的にはルーフ、ドアー、トランクリッド等へも適用できる。
【0101】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、2重波型フード構造により、フード軽量化の観点から、フードの張り剛性を格段に高めることができ、捩り剛性と曲げ剛性についても十分な剛性を有するフード構造を提供できる。また、歩行者保護の観点から、アウターと剛対物へのクリアランスが小さくてもHIC値低減可能で、フードへの衝突部位によらずHIC値が概ね均一で、さらにアルミニウム合金製フードでも十分HIC値を低減でき、頭部衝突耐性に優れたフード構造を得ることができる。また、本発明の波型インナーにより、フードの静剛性を高めることができ、また歩行者保護に於ける頭部衝突での頭部加速度を低下できる。
【0102】
また、波型凹凸形状を、スプライン型にすることにより、エンジンルーム内の複雑な剛体部品の配置を考慮しつつ、頭部衝突耐性の向上を図ることができる。また、略形状の波型インナーにより、フードの静剛性を高めることができ、更に歩行者保護に於ける頭部衝突での頭部加速度を低下できる。
【0103】
更に、インナー及び補強インナーの双方に吸音効果を有する多数の貫通孔を設けることにより、エンジンル―ム内から車外にもれる騒音を防止する機能を有するインシュレーターを装着しなくてもよくなり、リサイクル性が優れたアルミニウム合金材の使用により騒音問題を解決でき、地球環境の観点から有用である。
【0104】
更にまた、波高と波長をその好適範囲に設定することにより、更に、HIC値を大幅に低下させることができ、頭部衝突耐性を更に向上させることができる。
【0105】
更にまた、アウターとインナーとの間を柔な結合とすることにより、頭部衝突時にアウターとインナーががた振動を生じ、この結果、頭部加速度波が乱され、HIC値が低減される。
【0106】
本発明の車体パネルを、車体のルーフ、ドアー又はトランクリッドに適用することにより、車体の衝突耐性を向上させ、あわせて吸音効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るインナーを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る2重波型フード構造の断面図であり、図1のA−A線の位置の断面図である。
【図3】2重波型フード構造の斜視図である。
【図4】本実施形態の2重波型フード構造におけるスプライン型インナー車幅方向の断面図である。
【図5】本発明に係るスプライン型インナーを示す斜視図である。
【図6】(a)乃至(d)はスプライン型インナーの波形状を示す図である。
【図7】(a)、(b)は略台形型波型インナーの波形状を示す図である。
【図8】波型インナーの変形例の形状を示す斜視図である。
【図9】波型インナーの他の変形例の形状を示す斜視図である。
【図10】波型インナーの更に他の変形例の形状を示す斜視図である。
【図11】波型インナーの更に他の変形例の形状を示す斜視図である。
【図12】波型インナーの更に他の変形例の形状を示す斜視図である。
【図13】波型インナーの更に他の変形例の形状を示す斜視図である。
【図14】波型インナーの更に他の変形例の形状を示す斜視図である。
【図15】フード構造体への荷重条件を示し、(a)は曲げ荷重、(b)は捩じり荷重を夫々示す斜視図である。
【図16】ビーム型フード構造と従来型波型フード構造でのHIC値の比較を示す。
【図17】従来型波型フード構造でのHIC値の解析に使用した解析モデル図を示す。
【図18】本発明の2重波型フード構造の頭部衝突モデルの概略図(側面図)である。
【図19】本発明の2重波型フード構造の頭部衝突モデルの概略図(正面図)である。
【図20】本発明の波型インナーと頭部モデルのモデル図(斜視図)である。
【図21】本発明の2重波型フード構造におけるインナーと補強インナー、及び頭部モデルのモデル図(斜視図)である。
【図22】従来の波型フード構造での頭部加速度波形を示す説明図である。
【図23】本発明の2重波型フード構造での頭部加速度波形を示す説明図である。
【図24】波型フード構造での波長がHIC値に及ぼす影響を示す説明図である。
【図25】波型フード構造での波高がHIC値に及ぼす影響を示す説明図である。
【図26】従来の波型フード構造での頭部衝突位置を示す斜視図である。
【図27】波型フード構造及び2重波型フード構造でのアウターとインナーとの接着部位を示す概略図である。
【符号の説明】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h:インナー、2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g:波型ビード、3:パネル構造体、4:アウター、5:ビード凸部、6:ビード凹部、7:樹脂層、8:ヘム加工部、9、10:インナー周縁部、23:歩行者の頭部、24:剛体面、25:樹脂等の接着剤、26:波型インナー、27:ビーム型インナー、28:頭部モデル、29:補強部、30:接着部、31:スプライン型インナー、32:衝突位置、40:補強インナー
Claims (14)
- アウターパネルと、このアウターパネルの内面に配置され車体長手方向に全面に断面形状が波型をなす凹凸が複数形成されたインナーパネルと、このインナーパネルの内面に配置され車体長手方向に全面に断面形状が波型をなす凹凸が複数形成された補強インナーパネルと、を有し、前記インナーパネルと前記補強インナーパネルはその波型の夫々凹部と凸部とを接触させて固定されていることを特徴とする車体パネル構造体。
- アウターパネルと、このアウターパネルの内面に配置され全面に同心円状の凹凸が複数形成されたインナーパネルと、このインナーパネルの内面に配置され全面に同心円状の凹凸が複数形成された補強インナーパネルと、を有し、前記インナーパネルと前記補強インナーパネルはその凹凸の夫々凹部と凸部とを接触させて固定されていることを特徴とする車体パネル構造体。
- アウターパネルと、このアウターパネルの内面に配置され全面に第1方向における断面形状が波型をなす第1の凹凸と前記第1方向に交差する第2方向における断面形状が波型をなす第2の凹凸とが複数形成されたインナーパネルと、このインナーパネルの内面に配置され全面に前記第1方向における断面形状が波型をなす第1の凹凸と前記第1方向に交差する前記第2方向における断面形状が波型をなす第2の凹凸とが複数形成された補強インナーパネルと、を有し、前記インナーパネルと前記補強インナーパネルはその第1及び第2の波型の夫々凹部と凸部とを接触させて固定されていることを特徴とする車体パネル構造体。
- 前記インナーパネルの凹凸の波型をなす方向が車体の幅方向に一致するように車体に組み立てられるものであることを特徴とする請求項1に記載の車体パネル構造体。
- 前記インナーパネルの凹凸の波型をなす方向が車体の幅方向に対して傾斜するように車体に組み立てられるものであることを特徴とする請求項1に記載の車体パネル構造体。
- 前記凹凸の断面形状がスプライン形状であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車体パネル構造体。
- 前記凹凸の断面形状が略台形であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車体パネル構造体。
- 前記インナーパネル又は補強インナーパネルに、開口率3%以下、孔径3mm以下の吸音効果を有する複数個の貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の車体パネル構造体。
- 前記インナーパネルの前記凹凸の断面形状が、前記凹凸により表現される波の波長をp、歩行者の頭部外径をdとしたとき、0.7<p/d<1.7を満足するものであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の車体パネル構造体
- 前記インナーパネルの前記凹凸の断面形状が、前記凹凸により表現される波の波高をh1、前記補強インナーパネルの前記凹凸により表現される波の波高をh2、歩行者の頭部外径をdとしたとき、0.15<(h1+h2)/d<0.3を満足するものであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の車体パネル構造体。
- 前記インナーパネルの凹凸の凸面と前記アウターパネルとが柔結合されて接合されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の車体パネル構造体。
- 前記柔接合部が、千鳥状に配列されていることを特徴とする請求項11に記載の車体パネル構造体。
- 前記アウターパネル、インナーパネル及び補強インナーパネルのいずれかが、アルミニウム合金又は鋼製であることを特徴とする請求項1至12のいずれか1項に記載の車体パネル構造体。
- 自動車のルーフ、ドアー又はトランクリッドとして使用されるものであることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の車体パネル構造体。
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