JP2004356075A - 高分子電解質複合膜の連続的製造方法及び装置 - Google Patents

高分子電解質複合膜の連続的製造方法及び装置 Download PDF

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Abstract

【課題】シワの発生等が防止され外観が優れた高分子電解質複合膜を連続的に製造し得る。
【解決手段】[1]多孔質基材の空隙部に高分子電解質を含浸せしめた高分子電解質複合
膜を連続的に製造するに当り、多孔質基材の少なくとも一方の面に、高分子電解質の溶液を塗工した後、塗工された多孔質基材に下式(A)
0.01≦F≦10 (A)
を満たす範囲の張力F(kg/cm)をかけた状態でロールを用いて、該塗工された多孔質基材と支持材とを積層することを特徴とする高分子電解質複合膜の連続的製造方法。
[2]前記高分子電解質の溶液の粘度η(cps)が5≦η≦5000の範囲で
あることを特徴とする上記[1]の連続的製造方法。
[3]前記高分子電解質の溶液の濃度C(wt%)が1≦C≦50であることを特徴とする上記[1]〜[2]いずれかの連続的製造方法。
【選択図】図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、多孔質基材の空隙部に高分子電解質を含浸せしめた高分子電解質複合膜の連続的製造方法及び装置に関し、詳しくは、多孔質基材に該高分子電解質の溶液を塗工した後、塗工された多孔質基材に特定範囲の張力をかけた状態でロールを用いて、該塗工された多孔質基材と支持材とを積層することを特徴とする該高分子電解質複合膜の連続的製造方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術、発明が解決しようとする課題】
近年プロトン伝導性の高分子膜を電解質として用いる燃料電池(固体高分子電解質型燃料電池)は、低温で作動し出力密度が高く小型化が可能であるという特徴を有し、車載用電源等の用途に対し有力視され、その研究開発も盛んに行われている。
例えば、高分子電解質膜に機械強度、耐久性等を付与する方法として、多孔質基材の空隙部に高分子電解質を含浸せしめ高分子電解質複合膜とする方法が提案されている(特許文献1)。
また該高分子電解質複合膜の製造方法、特に多孔質基材の空隙部に高分子電解質を含浸せしめる方法として、多孔質基材を高分子電解質の溶液にディッピングするディッピング法、多孔質基材に高分子電解質の溶液を塗布する塗布法等が提案されている(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−29032号公報
【特許文献2】特開平8−329962号公報
【0004】
しかしながら、上記の高分子電解質複合膜を連続的に製造した場合、例えば多孔質基材を予め支持材上に配置して高分子電解質の溶液を塗工すると、多孔質基材の膨潤や弛みが発生するためか、得られる製品の外観にシワ等が生じ、外観が損なわれるなどの問題が惹起された。
【0005】
本発明の目的は、シワの発生が防止され外観が優れた高分子電解質複合膜を連続的に製造する製造方法及び装置を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、シワの発生等が防止され外観が優れた高分子電解質複合膜を連続的に製造すべく、鋭意検討を重ねた結果、多孔質基材に高分子電解質の溶液を塗工した後、塗工された多孔質基材に特定範囲の張力をかけた状態でロールを用いて、該塗工された多孔質基材と支持材とを積層することにより、その目的を達成し得ることを見出すとともに更に種々の検討を加え、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明に係る製造方法は、[1]多孔質基材の空隙部に高分子電解質を含浸せしめた高分子電解質複合膜を連続的に製造するに当り、多孔質基材の少なくとも一方の面に、高分子電解質の溶液を塗工した後、塗工された多孔質基材に下式(A)
0.01≦F≦10 (A)
を満たす範囲の張力F(kg/cm)をかけた状態でロールを用いて、該塗工された多孔質基材と支持材とを積層することを特徴とする高分子電解質複合膜の連続的製造方法、
[2]塗工された多孔質基材の塗工面に支持材を積層することを特徴とする上記[1]の連続的製造方法、
[3]支持材における多孔質基材と積層される面が、前記高分子電解質の溶液で予め塗工されていることを特徴とする上記[1]または[2]の連続的製造方法、
【0008】
[4]前記高分子電解質の溶液の粘度η(cps)が5≦η≦5000の範囲であることを特徴とする上記[1]〜[3]いずれかの連続的製造方法、
[5]前記高分子電解質の溶液の濃度C(wt%)が1≦C≦50であることを特徴とする上記[1]〜[4]いずれかの連続的製造方法、
[6]上記[1]〜[5]いずれかの方法により得られた高分子電解質複合膜、
[7]上記[6]の高分子電解質複合膜を用いてなることを特徴とする燃料電池、
等を提供するものである。
【0009】
また、本発明に係る高分子電解複合膜の製造装置は、搬送される多孔質基材に対して高分子電解質の溶液を塗工する第一塗工手段と、高分子電解質の溶液が塗工された多孔質基材に対して0.01≦F≦10を満たす範囲の張力F(kg/cm)を付与する張力付与手段と、張力が付与されかつ高分子電解質の溶液が塗工された多孔質基材と支持材とを積層して積層体を形成させるロールと、を備えることを特徴とする。
【0010】
これによれば、高分子電解質の溶液が塗布された多孔質基材が、上述の所定の張力Fが付与されつつ支持材と積層されるので、積層体における多孔質基材の膨潤や弛みが十分抑制され、乾燥された積層体において多孔質基材のシワ等の外観不良が低減されている。
【0011】
ここで、第一塗工手段は、多孔質基材において支持材が積層される面に高分子電解質の溶液を塗工することが好ましく、これにより、積層体において多孔質基材と支持材とが良好に密着する。
【0012】
また、積層体を乾燥させる乾燥手段を備えることが好ましく、これにより、乾燥された高分子電解質複合膜の大量生産が好適に行える。
【0013】
また、乾燥手段により乾燥された積層体における多孔質基材に対して、高分子電解質の溶液をさらに塗工する第二塗工手段を備えることが好ましく、これにより、[電解質層/複合層/電解質層/支持材層]という構造の高分子電解質複合膜を好適に製造できる。
【0014】
また、乾燥手段により乾燥される前の積層体における多孔質基材に対して、高分子電解質の溶液をさらに塗工する第二塗工手段を備えてもよく、これによれば、
[電解質層/複合層/電解質層/支持材層]という構造の高分子電解質複合膜を一回の乾燥工程で好適に製造できる。また、積層体とされた後の多孔質基材に対して高分子電解質の溶液を塗工するので、積層体とされる前の多孔質基材の非塗工面に高分子電解質の溶液をさらに塗布する場合に比して、多孔質基材に対するしわ抑制効果が高い。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明で使用する多孔質基材は、高分子電解質を含浸するための基材となるものであり、高分子電解質膜の強度や柔軟性、耐久性の向上のために使用される。
そのため、上記使用目的を満たす多孔質状のものであれば特に限定はなく、例えば多孔質膜、織布、不織布、フィブリル等が挙げられ、その形状や材質によらず用いることができる。固体高分子電解質型燃料電池の隔膜として使用する場合、多孔質基材は、膜厚が1〜100μm、好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは5〜20μmであり、孔径が0.01〜100μm、好ましくは0.02〜10μmであり、空隙率が20〜98%、好ましくは40〜95%である。
【0017】
多孔質基材の膜厚が薄すぎると複合化後の強度補強の効果あるいは、柔軟性や耐久性を付与するといった補強効果が不十分となり、ガス漏れ(クロスリーク)が発生しやすくなる。また膜厚が厚すぎると電気抵抗が高くなり、得られた複合膜が固体高分子型燃料電池の隔膜として不十分なものとなる。孔径が小さすぎると高分子固体電解質の充填が困難となり、大きすぎると高分子固体電解質への補強効果が弱くなる。空隙率が小さすぎると固体電解質膜としての抵抗が大きくなり、大きすぎると一般に多孔質基材自体の強度が弱くなり補強効果が低減する。
【0018】
多孔質基材は、耐熱性の観点や、物理的強度の補強効果を鑑みれば、脂肪族系高分子、芳香族系高分子または含フッ素高分子が好ましく使用される。
ここで、脂肪族系高分子としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なおここで言うポリエチレンとはポリエチレンの結晶構造を有するエチレン系のポリマーの総称であり、例えば直鎖状高密度ポリエチレン(HDPE)や低密度ポリエチレン(LDPE)の他に、エチレンと他のモノマーとの共重合体をも含み、具体的には直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)と称されるエチレン、α−オレフィンとの共重合体や超高分子量ポリエチレンなどを含む。またここでいうポリプロピレンはポリプロピレンの結晶構造を有するプロピレン系のポリマーの総称であり、一般に使用されているプロピレン系ブロック共重合体、ランダム共重合体など(これらはエチレンや1−ブテンなどとの共重合体である)を含むものである。芳香族系高分子としては、例えばポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスルホン等が挙げられる。
【0019】
また、含フッ素高分子としては、分子内に炭素−フッ素結合を少なくとも1個有する熱可塑性樹脂が使用されるが、脂肪族系高分子の水素原子のすべてまたは大部分がフッ素原子によって置換された構造のものが好適に使用される。その具体例としては、例えばポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルエーテル)、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでもポリテトラフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)が好ましく、特にポリテトラフルオロエチレンが好ましい。また、これらのフッ素系樹脂は、機械的強度の良好さから平均分子量が10万以上のものが好ましい。
【0020】
本発明においては、上記のような多孔質基材を用い、その空隙部に高分子電解質を含浸せしめるが、高分子電解質としては、イオン交換基、例えば、−SOH、−COOH、−PO(OH)、−POH(OH)、−SONHSO−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等の陽イオン交換基、−NH、−NHR、−NRR’、−NRR’R’’、−NH 等(R:アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等を表す)等の陰イオン交換基を有し、溶媒に可溶な高分子が通常使用される。これらの基は、その一部または全部が対イオンととの塩を形成していても良い。
【0021】
かかる高分子電解質の代表例としては、例えば(A)主鎖が脂肪族炭化水素からなる高分子であり、スルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入された形の高分子電解質;(B)主鎖の一部または全部の水素原子がフッ素で置換された脂肪族炭化水素からなる高分子であり、スルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入された形の高分子電解質;(C)主鎖が芳香環を有する高分子であり、スルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入された形の高分子電解質;(D)主鎖に実質的に炭素原子を含まないポリシロキサン、ポリホスファゼンなどの高分子であり、スルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入された形の高分子電解質;(E)(A)〜(D)のスルホン酸基および/またはホスホン酸基導入前の高分子を構成する繰り返し単位から選ばれるいずれか2種以上の繰り返し単位からなる共重合体であり、スルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入された形の高分子電解質;(F)主鎖あるいは側鎖に窒素原子を含み、硫酸やリン酸等の酸性化合物がイオン結合により導入された形の高分子電解質等が挙げられる。
【0022】
ここで、上記(A)の高分子電解質としては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(α−メチルスチレン)スルホン酸、等が挙げられる。
また上記(B)の高分子電解質としては、Nafion(デュポン社の登録商標、以下同様)に代表される側鎖にパーフルオロアルキルスルホン酸を有し、主鎖がパーフルオロアルカンである高分子、炭化フッ素系ビニルモノマと炭化水素系ビニルモノマとの共重合によって作られた主鎖と、スルホン酸基を有する炭化水素系側鎖とから構成されるスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE、例えば特開平9−102322号公報)や、炭化フッ素系ビニルモノマと炭化水素系ビニルモノマとの共重合によって作られた膜に、α,β,β−トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにスルホン酸基を導入して固体高分子電解質膜とした、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFE膜(例えば、米国特許第4,012,303号及び米国特許第4,605,685号)等が挙げられる。
【0023】
上記(C)の高分子電解質としては、主鎖が酸素原子等のヘテロ原子で中断されているものであってもよく、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン等の単独重合体のそれぞれにスルホン酸基が導入されたもの、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホアルキル化ポリベンズイミダゾール(例えば、特開平9−110982)、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)(例えば、J. Appl. Polym. Sci., 18, 1969 (1974) )等が挙げられる。
【0024】
また上記(D)の高分子電解質としては例えば、ポリホスファゼンにスルホン酸基が導入されたもの、Polymer Prep., 41, No.1, 70 (2000) に記載の、ホスホン酸基を有するポリシロキサン等が挙げられる。
上記(E)の高分子電解質としては、ランダム共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでも、交互共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでも、ブロック共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでもよい。ランダム共重合体にスルホン酸基が導入されたものとしては、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン−ジヒドロキシビフェニル共重合体が挙げられる(例えば、特開平11−116679号公報。)
【0025】
また上記(F)の高分子電解質としては例えば、特表平11−503262号公報に記載の、リン酸を含有せしめたポリベンズイミダゾール等が挙げられる。上記(E)の高分子電解質に含まれるブロック共重合体において、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を持つブロックの具体例としては、例えば特開2001−250567号公報に記載のスルホン酸基および/またはホスホン酸基を持つブロックが挙げられる。本発明に使用される高分子電解質の重量平均分子量は、通常1000〜1000000程度であり、イオン交換基当量重量は、通常500〜5000g/モル程度である。
【0026】
上記(A)〜(F)の高分子電解質の中でも(C)の主鎖が芳香環を有する高分子であり、スルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入された形の高分子電解質が好ましく用いられる。また高分子電解質は、高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等の添加剤を本発明の目的に反しない範囲内で含有できる。
【0027】
本発明においては、上記のような高分子電解質を溶媒と混合した溶液すなわち高分子電解質の溶液が塗工液として用いられる。
かかる溶媒としては、高分子電解質を溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルなどが好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン・メタノール混合溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドが溶解性が高く好ましい。
【0028】
本発明における塗工液としては、粘度η(cps:センチポイズ)が5≦η≦5000の範囲のものが通常使用される。
ここで、粘度ηは、BL型粘度計(株式会社東京計器製)を用いて、相対湿度50%下に測定した値であり、5未満の場合、5000を超える場合はいずれも厚み精度が低下する。ここで、厚み精度が十分でないと、厚みの薄い部分に応力集中し破膜しやすくなる等の問題が生じるので、粘度は上記の範囲であることが好ましい。
粘度ηは好ましくは30≦η≦5000、いっそう好ましくは100≦η≦3000、最も好ましくは300≦η≦1500の範囲である。
【0029】
また塗工液は、濃度C(重量%)が1≦C≦50程度であることが好ましい。上記濃度以下では乾燥した際、多孔質基材空隙内部への含浸が不十分となりやすく、上記濃度以上では粘度が高くなりやすく塗工厚みをコントロールしにくくなる場合がある。濃度Cは、6≦C≦35程度であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明においては、塗工液として、上記のような高分子電解質の溶液を用い、これを多孔質基材に塗工することにより、多孔質基材の空隙部に高分子電解質を含浸せしめる。ここで塗工方法としては、所望の塗工厚みを達成しうる方法であれば良く、例えばロールコーター、コンマコーター、ドクターブレードコーター、リップコーター、ワイヤーバーやグラビアコーター、バーコーター等を用いた一般的な方法や、キャスト法と呼ばれる所望のクリアランスに設定したダイ等から所望の塗工厚みになるように塗工液を押出してキャストする方法や、塗工溶液に多孔質基材を浸漬する方法等があげられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0031】
また塗工を、多孔質基材の片面或いは支持材の片面に塗工する場合は、上記方法から少なくとも1種選択して塗工すればよく、多孔質基材の両面に塗工する場合は一旦片面のみ塗工後、もう一方の面に時間を空けて塗工する方法や、両面同時に塗工する方法が挙げられる。多孔質基材の両面に同時または別々に塗工する方法としては、例えば上記塗工方法を組み合わせて塗工する方法、例えばコーターを用いた方法とキャストする方法の組み合わせや、塗工液に浸漬した後に所望のクリアランスに設定した間隙を通し厚みを調整する等の方法が挙げられるが何らこれらに限定されるものではない。
【0032】
本発明において、未塗工の多孔質基材に塗工する場合は、支持体に接触していない状態で塗工する。そして支持体と該塗工された多孔質基材とを、該塗工された多孔質基材に下式(A)
0.01≦F≦10 (A)
を満たす特定範囲の張力F(kg/cm)をかけた状態でロールを用いて積層する。このことにより、支持体に接触させた状態で塗工した場合に惹起される製品外観のシワ等の発生を防止し得、外観に優れた製品を連続的に製造し得る。ここで、張力Fが、0.01より低い場合や、10より高い場合は、多孔質基材の膨潤や弛みが発生するためかシワ等の外観不良が惹起される。張力Fは、好ましくは、0.05≦F≦2、さらに好ましくは0.1≦F≦1の範囲である。
なお、上記のように塗工された多孔質基材に再度塗工する場合は、支持体と接触した状態、非接触の状態いずれの状態でも実施し得る。
【0033】
次に高分子電解質の多孔質基材の空隙への含浸は、上記の塗工により行われる。すなわち塗工液は、その多孔質基材に対する接触角が90°以下であるので、それにより高分子電解質溶液を毛細管現象により吸い込む効果を有するため、多孔膜の空隙内に塗工液がほぼ完全に充填された状態となる。従って、少なくとも必要量の塗工液を用いて、塗工、乾燥することにより、多孔膜の空隙内に高分子電解質がほぼ完全に含浸された状態での多孔膜と高分子電解質の複合体を得ることができる。
ここで、塗工、乾燥は1度のみならず複数回実施し得ることはいうまでもない。また塗工液の必要量としては、例えば、所望の塗工範囲における多孔質基材中の空隙体積に相当する高分子電解質の量を少なくとも含む塗工液の量が上げられる。多孔質基材の空隙体積は、例えば該基材の厚み、塗工面積、見かけの密度、該基材を構成する原料の密度等から算出し得る。
【0034】
また多孔質基材に積層される支持材としては、例えば本発明で言う高分子電解質以外のイオン交換基を有さない高分子からなるシートや、それ以外の金属製、ガラス製シート等が挙げられ、上記塗工液により膨潤或いは溶解することなく、製膜後に得られる膜を剥離し得るものであるならば特に制限は無いが、製膜後に得られる膜に追随して変形しうるものが良く、中でも本発明で言う高分子電解質以外のイオン交換基を有さない高分子からなるシートが好ましい。上記イオン交換基を有さない高分子からなるシートとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂や、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)やポリエチレンテレフタレート(PET)からなるシート等が好適に用いられる。該支持材は必要に応じ離型処理、鏡面処理、エンボス処理、或いは艶消し処理等が施されていても良い。
【0035】
また複合膜を電極と接合された燃料電池用電解質膜(MEA)として使用する場合には、予め電極として使用される触媒が塗布されたカーボン織布や、カーボンペーパーを支持材として用いると支持材と多層高分子電解質を剥離することや、電極接合等の工程が省ける観点から好ましい態様である。
上記のような支持材を一方の面が塗工された多孔質基材に積層する場合は、支持材は塗工されていない面に積層しても良いが、塗工された面に積層することが好ましい。ここで支持材としては、塗工液で塗工されているものも使用でき、これを用いる場合、積層される多孔質基材の面は、塗工されていても、塗工されていなくても良いが、塗工されていない方が好ましい。
【0036】
また支持材を積層するに当っては、支持材にも張力をかける事が好ましい。支持材への張力は支持材が弛まない程度の張力以上であれば良く、破断に至らない張力以下で高分子電解質溶液を充填させた多孔質基材に積層すれば良い。
例えば、塗工された多孔質基材と支持材をロールに沿わせながら積層する方法や、所望のクリアランスに設定された一対のロール間に通す方法等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
本発明においては、該塗工された多孔質基材と支持材とを積層後、必要に応じてさらに多孔質基材や、既に塗工された状態の多孔質基材等と積層することも好適な態様であり、この積層も上記の方法を採用し得る。
【0037】
また乾燥方法としては、塗布液を充填した多孔質基材から溶媒を十分除去し得る方法であれば特に制限はなく、例えばマイクロ波、高周波、遠赤外線、熱風ヒータ、スチーム、加熱炉等を用いた間接加熱方式や、熱転写ロール等を用いた直接加熱方式を用いても良い。熱風ヒータや加熱炉による間接加熱方式が設備上安価に作製できるため好ましい。乾燥は、通常、溶媒が十分除去でき、支持材が変形しない温度で実施される。
【0038】
なお、本発明においては、乾燥後多孔質基材の空隙内部まで高分子電解質が十分に含浸されていない場合や、最外層に電解質層を設けたい場合には、上記乾燥工程後に再度高分子電解質の溶液を塗布、乾燥することも好適な態様である。
【0039】
かくして本発明の目的物である高分子電解質複合膜が得られるが、その基本的な層構成は、例えば[複合層/電解質層/支持材層]、[電解質層/複合層/支持材層]、[電解質層/複合層/電解質層/支持材層]からなる。また本発明ではこれら上記層構成を重ね合わせた[電解質層/複合層/電解質層/複合層/電解質層/支持材層]等も好適な態様である。かかる高分子電解質複合膜は、燃料電池に使用する際には場合によっては支持材を剥離して使用する。高分子電解質複合膜は、その厚みが通常5〜200μm程度、好ましくは10〜100μm程度、より好ましくは15〜80μm程度である。
【0040】
次にこれを用いた燃料電池について説明する。
燃料電池は、互いに対向して配設されたガス拡散電極のアノード及びカソードと、両電極に接触しながらその間に介在し、イオンを選択的に通過させる高分子電解質膜からなる膜電極接合体によって構成される単位電池を、ガス流通手段を設けたセパレーターを介して交互に複数個積層され構成されている。この燃料電池において、水素、改質ガス、メタノール等の燃料がアノードに、酸素などの酸化剤がカソードに供給されることによって起こる電気化学反応を利用して、すなわち燃料が電気触媒的に酸化されると同時に酸化剤が電気触媒的に還元されて化学反応エネルギーが直接電気エネルギーに変換されることによって発電されるものである。
【0041】
該触媒としては、水素または酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、白金の微粒子を用いることが好ましい。白金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されたものが好ましく用いられる。
集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
多孔質性のカーボン織布またはカーボンペーパーに白金微粒子または白金微粒子を担持したカーボンを接合させる方法、およびそれを高分子電解質シートと接合させる方法については、例えば、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209 に記載されている方法等の公知の方法を用いることができる。
【0042】
次に、本発明の第一実施形態に係る高分子電解質複合膜の連続的製造装置100について説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る高分子電解質複合膜の連続的製造装置100を示す模式図である。
【0043】
この連続的製造装置100は、可撓性の多孔質基材1に高分子電解質の溶液70を塗工した後、可撓性の支持材2と重ね合わせて積層体3aを形成し、この積層体3aを乾燥させて高分子電解質複合膜を連続的に製造する装置である。
【0044】
この連続的製造装置100は、主として、図1に示すように、多孔質基材1を供給する供給機10と、支持材2を供給する供給機20と、供給機10から供給された多孔質基材1に高分子電解質の溶液70を塗工する第一塗工ユニット(第一塗工手段)65と、高分子電解質の溶液70が塗工された多孔質基材1と供給機20から供給された支持材2とを重ね合わせて積層して積層体3aを形成させる積層ロール30と、積層体3aを乾燥させる乾燥ユニット(乾燥手段)40と、乾燥された積層体3bを巻き取る巻取機80と、を有している。
【0045】
供給機20は、支持材2が巻き取られたボビン20aを有しており、このボビン20aを回転させることにより、支持材2を供給可能とする。そして、供給機20から供給された支持材2は、ガイドローラ21によってガイドされて積層ロール30に供給される。
【0046】
供給機10は、多孔質基材1が巻き取られたボビン10aを装着可能であり、このボビン10aを回転させることにより、多孔質基材1を供給可能とする。供給機10から巻き出された多孔質基材1は、ガイドローラ11,12によってガイドされ、第一塗工ユニット65内を通過した後、積層ロール30に供給される。
【0047】
第一塗工ユニット65は、水平方向に離間されかつ互いに平行な一対の水平軸回りに各々回転可能である円筒状の一対の水平ローラ13,14を有しており、塗工対象である多孔質基材1を各々の水平ローラ13,14の両上端に掛け渡し、多孔質基材1をこの水平ローラ13,14間において水平に搬送する。また、第一塗工ユニット65は、この水平ローラ13,14によって水平に搬送される多孔質基材1に対して、上方から高分子電解質の溶液70を塗工するスロットダイ60を有している。
【0048】
このスロットダイ60は、多孔質基材1に面する下端部に、多孔質基材1の幅方向に延びる所定の矩形形状の開口部60aを有している。そして、このスロットダイ60は、高分子電解質供給装置62から供給される高分子電解質の溶液70を所定量ずつ開口部60aから押し出して多孔質基材1上に帯状に塗工する。ここで、塗工する高分子電解質の溶液70の塗工量は、乾燥後所望の厚みになるよう、供給圧力、開口部60aの形状等が設定されている。そして、スロットダイ60は、積層ロール30に供給される前の多孔質基材1に対して高分子電解質の溶液70を塗工することとなる。
【0049】
積層ロール30は、円筒形状を有し水平軸回りに回転する回転体であり、支持材2と多孔質基材1とをその周面上を沿わせて搬送し、支持材2上に多孔質基材1を重ねてなる積層体3aを形成する。ここでは、支持体2が積層ロール30に接触するようになっている。
【0050】
また、上述のスロットダイ60は、多孔質基材1のうち積層ロール30における積層工程において支持材2と接触する側の面に高分子電解質の溶液70を塗布する。
【0051】
この製造装置100においては、積層体3aは、積層ロール30の周面に沿って搬送された後、ガイドローラ31,32,33,34,35,36,37,38によってガイドされて乾燥ユニット40中を通過し、巻取機80に供給されるように構成されている。
【0052】
乾燥ユニット(乾燥手段)40は、ガイドローラ31〜38によってガイドされる積層体3aの多孔質基材1側から熱風を吹き付ける複数の乾燥機40aと、この積層体3aの支持材2側から熱風を吹き付ける複数の乾燥機40bとを有しており、積層体3aを乾燥して積層体3bとする。乾燥ユニット40内における搬送長さは、例えば、5〜6m程度である。
【0053】
ここで、本実施形態において、乾燥が完了する前の積層体3aに接触する、積層ロール30、ガイドローラ31〜38は、積層体3aの支持材2側に接触するようになっており、高分子電解質の溶液70が各ローラに付着することが防止されている。
【0054】
巻取機80は、乾燥した積層体3bを巻き取るボビン80aを有しており、このボビン80aを所定の速度で回転させて積層体3bを巻き取る。巻き取り速度は、使用する溶媒にもよるが、通常、1m/min程度である。
【0055】
そして、本実施形態に係る高分子電解質複合膜の連続的製造装置100において、供給機10及び供給機20は、上述のように巻取機80の巻き取り動作に伴って、ボビン10a、20aを回転させて各々多孔質基材1、支持材2を送り出す。ここで、供給機10及び供給機20は、これらのボビン10a、20aを回転させるのに要する回転トルクを調整することで、多孔質部材1、支持材2に各々搬送方向に所望の張力Fを付与させる。すなわち、本実施形態においては、供給機10、供給機20が張力付与手段の機能を果たしている。具体的には、この張力Fは、上述のように、0.01kg/cm以上10kg/cm以下であり、好ましくは、0.05≦F≦2、さらに好ましくは0.1≦F≦1の範囲である。
【0056】
さらに、本実施形態の連続的製造装置100は、図2に示すように、乾燥された積層体3bを巻き取ったボビン80aを、供給機10に装着可能となっている。そして、供給機10は、乾燥済の積層体3bを第二塗工ユニット55を介して積層ロール30に対して供給可能である。
【0057】
第二塗工ユニット(第二塗工手段)55は、上述の水平ローラ13,14を第一塗工ユニット65と共有している。これらの水平ローラ13,14は、塗工対象である乾燥済の積層体3bを各々のローラの両下端に掛け渡して水平に搬送可能である。ここで、供給機10は、乾燥済の積層体3aを、その支持材2側が水平ローラ13,14と接触するように、すなわち、図示下面側に多孔質基材1が面するように、乾燥済の積層体3aを第二塗工ユニット55に供給する。
【0058】
そして、第二塗工ユニット55は、水平ローラ13,14により水平に搬送される乾燥済の積層体3bの多孔質基材1に対して、下方から高分子電解質の溶液70を塗工するグラビアロール50と、このグラビアロール50に対して高分子電解質溶液70を供給するパン52と、を備えている。
【0059】
そして、この第二塗工ユニット55によって高分子電解質の溶液70がさらに塗工された積層体3dは、積層ロール30、ガイドローラ31〜38にガイドされ、乾燥ユニット40を経て巻取機80にて巻き取られる。
【0060】
ここで、積層体3dに接触する、積層ロール30、ガイドローラ31〜38は、積層体3dの支持材2側に接触するようになっており、乾燥前の高分子電解質の溶液70が各ローラに付着することが防止されている。
【0061】
次に、本実施形態の製造装置100における作用について説明する。
図1に示すように、供給機10から供給される多孔質基材1の上面に対して、第一塗工ユニット65のスロットダイ60から、高分子電解質の溶液70が塗工される。また、この多孔質基材1には、供給機10によって、上述の所定の張力Fが付与される。そして、この張力が付与された多孔質基材1の塗布面は、積層ロール30において支持材2と重ね合わされ、多孔質基材1と支持材2とが互いに張り付き、積層体3aが形成される。
【0062】
そして、この積層体3aは、乾燥ユニット40内を搬送される。この際に、多孔質基材1の細孔内に含浸された高分子電解質の溶液70の溶媒が除去されることにより、高分子電解質が細孔内に充填されて乾燥された多孔質基材1Aとなり、さらに高分子電解質70の層が乾燥して高分子電解質層70Aが形成され、このような乾燥された積層体3bが巻取機80のボビン80aに巻き取られる。この積層体3bは、[複合層/電解質層/支持材層]の構造を有する高分子電解質複合膜である(図3(a)参照)。
【0063】
このような本実施形態によれば、高分子電解質の溶液70が塗布された多孔質基材1に、上述の所定の張力Fを付与しているので、多孔質基材1の膨潤や弛みが十分抑制された状態で多孔質基材1が支持材2と積層され、この結果、乾燥された積層体3bにおいて多孔質基材1Aのシワ等の外観不良が低減されている。このため、このような積層体3bを上述のような燃料電池等における高分子電解質複合膜として採用すると寿命の向上等が実現される。
【0064】
また、第一塗工ユニット65は、多孔質基材1において支持材2が積層される面に高分子電解質の溶液を塗工しているので、積層体3aにおいて多孔質基材1と支持材2とが良好に密着する。
【0065】
また、この製造装置100は、積層体3aを乾燥させる乾燥ユニット40を備えているので、乾燥された高分子電解質複合膜としての積層体3bの大量生産を好適に行える。
【0066】
引き続いて、図2に示すように、乾燥された積層体3bが巻き取られたボビン80aを供給機10に装着し、乾燥された積層体3bに所望の張力を加えつつ、多孔質基材1Aが下面となるように水平ローラ13,14の両下端に掛け渡し、さらに積層ロール30を介して後段に搬送する。ここで、乾燥された積層体3bの多孔質基材1Aの表面に、第二塗工ユニット55のグラビアロール50から、高分子電解質の溶液70が塗布され、この溶液が塗布された積層体3dがさらに乾燥ユニット40で乾燥されて、高分子電解質の溶液70の乾燥により高分子電解質層70Aが形成され、積層体3eが形成される。この積層体3eは、[電解質層/複合層/電解質層/支持材層]の構造を有する高分子電解質複合膜となる(図3(b)参照)。
【0067】
これによれば、一度乾燥された積層体3bにおける多孔質基材1Aに対して高分子電解質の溶液をさらに塗工する第二塗工ユニット55を備えているので、[電解質層/複合層/電解質層/支持材層]という構造の高分子電解質複合膜を好適に製造できる。
【0068】
次に、第二実施形態に係る高分子電解質複合膜の連続的製造装置200について説明する。本実施形態に係る製造装置200が、第一実施形態に係る製造装置100と異なる点は、第二塗工ユニット(第二塗工手段)55が、積層ロール30で積層された後の未乾燥の積層体3aに対して高分子電解質の溶液70を塗工する点である。
【0069】
具体的には、第二塗工ユニット55は、積層ロール30によって形成された積層体3aを、その両下端に掛け渡して水平に搬送させる一対の水平ローラ113,114を有している。この水平ローラ113,114は、第一塗工ユニット65の水平ローラ13,14とは独立に設けられている。
【0070】
そして、グラビアロール50は、水平ローラ113、114によって水平搬送される積層体3aに対して、下面側から高分子電解質の溶液70を塗工し、多孔質基材1の両面に高分子電解質の溶液70が塗工された積層体3fを形成する。
【0071】
このような製造装置200によれば、第一実施形態における作用効果に加えて、積層体3aにおける多孔質基材1のうち高分子電解質の溶液70が塗工されていない面(下面)側にも、グラビアロール50によって高分子電解質の溶液70が塗工されるので、[電解質層/複合層/電解質層/支持材層]のような構造の高分子電解質複合膜を一回の乾燥工程で簡易に製造できる。さらに、積層体3aとされた後に、多孔質基材1の下面に対して高分子電解質の溶液70を塗工するので、積層体3aとされる前の、上面が塗工された多孔質基材1の下面にさらに高分子電解質の溶液70を塗布する場合に比して、多孔質基材1に対するしわ抑制効果が高い。
【0072】
ここで、上記実施形態においては、第一塗工ユニット65はスロットダイ60を、第二塗工ユニット55はグラビアロール50を備えているが、各々これ以外の前述の塗工手段を用いてもかまわない。
【0073】
また、上記第二実施形態において、第二塗工ユニット55は、積層ロール30で積層された後の積層体3aの多孔質基材1に対して、高分子電解質の溶液70を塗工しているが、積層ロール30で積層される前の、例えば、第一塗工ユニット65で上面に塗工がなされた多孔質基材1の下面等に高分子電解質の溶液70を塗工しても、製造装置200の動作は可能である。
【0074】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0075】
<高分子電解質複合膜の外観の評価>
高分子電解質複合膜の中央部から20cm×20cmのサイズで1枚サンプルを切り出し、切り出した地点から巻出し方向へ1m離れた地点の、先に切り出したサンプルと同じ位置となる中央部から20cm×20cmのサイズで1枚切り出した。この合計2枚の複合膜サンプルにおいて、支持材を剥離して、目視で認められるシワの本数を確認した。この値が高いものほど外観が不良であり、値が低いほど外観が良好であることを意味する。
【0076】
<燃料電池特性評価>
支持材を剥離した多層高分子電解質複合膜の両面に、繊維状のカーボンに担持された白金触媒と集電体としての多孔質性のカーボン織布を接合した。該ユニットの一面に加湿酸素ガス、他面に加湿水素ガスを流し、作動、停止操作を繰り返し、1週間後該接合体の発電特性を測定した。
【0077】
<多孔質基材と支持材>
多孔質基材としてポリエチレン製多孔質膜(膜厚14μm、幅30cm、空隙率57%)を用い、支持材として、東洋紡積株式会社製ポリエチレンテレフタレート(PET)(コスモシャインA4100:厚さ100μm、幅30cm)を用いた。
【0078】
参考例1(高分子電解質の溶液の製造例)
特開2001−250567記載の方法に準拠し、ポリエーテルスルホンセグメントとポリ(2−フェニル−1,4−フェニレンオキシド)セグメントからなるブロック共重合体を合成後、スルホン化した。
得られたスルホン化ブロック共重合体を用いて、15重量%の濃度となるようにN、N−ジメチルアセトアミドに溶解させ溶液を調整した。溶液の粘度ηは株式会社東京計器製BL型粘度計で測定した結果710cpsであった。
【0079】
実施例1
参考例1で得られた高分子電解質の溶液を用い、グラビアコーターにて0.1(kg/cm)の張力をかけた状態でポリエチレン製多孔質膜の片面に150μmの厚みで塗工し、同張力状態で、張力 0.03(kg/cm)をかけたPETに塗工面側が接する様に積層し、80℃に設定した乾燥炉で乾燥させて(複合層/電解質層/支持材)からなる高分子電解質複合膜を得た。外観の評価を行うとともに燃料電池特性評価を行い、結果を表1に示した。
【0080】
実施例2
参考例1で得られた高分子電解質の溶液を用い、グラビアコーターにて0.1(kg/cm)の張力をかけた状態でポリエチレン製多孔質膜の片面に150μmの厚みで塗工し、同張力状態で、張力 0.03(kg/cm)をかけたPETに塗工面側が接する様に積層し、80℃に設定した乾燥炉で乾燥させたものを再度、PETを積層していない面側から同手法にて塗工し、80℃に設定した乾燥炉で乾燥させて(電解質層/複合層/電解質層/支持材)からなる高分子電解質複合膜を得た。評価結果を表1に示した。
【0081】
実施例3
参考例1で得られた高分子電解質の溶液を用い、グラビアコーターとダイを用いてにてポリエチレン製多孔質膜の両面に0.1(kg/cm)の張力をかけた状態でそれぞれ150μmの厚みで塗工し、同張力状態で、張力 0.03(kg/cm)をかけた参考例2のPETに積層し、80℃に設定した乾燥炉で乾燥させて(電解質層/複合層/電解質層/支持材)からなる高分子電解質複合膜を得た。評価結果を表1に示した。
【0082】
比較例1
実施例1と同様に塗工し、支持材を積層せず、そのまま乾燥炉で乾燥させて(電解質層/複合層)からなる高分子電解質複合膜を得た。評価結果を表1に示した。
【0083】
【表1】
Figure 2004356075
【0084】
【発明の効果】
本発明によれば、多孔質基材に高分子電解質の溶液を塗工した後、塗工された多孔質基材に0.01≦F≦10という特定範囲の張力F(kg/cm)をかけた状態でロールを用いて、該塗工された多孔質基材と支持材とを積層することにより、シワの発生等が防止され外観が優れた高分子電解質複合膜を連続的に製造し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施形態に係る高分子電解質複合膜の連続的製造装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の高分子電解質複合膜の連続的製造装置を示す概略構成図である。
【図3】図3(a)は、図1における積層体3bを示す断面図である。図3(b)は、図2における積層体3eを示す断面図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る高分子電解質複合膜の連続的製造装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1…多孔質基材、2…支持材、70…高分子電解質の溶液、65…第一塗工ユニット(第一塗工手段)、10…供給機(張力付与手段)、30…積層ロール(ロール)、3a,3b,3d,3e…積層体、40…乾燥ユニット(乾燥手段)、55…第二塗工ユニット(第二塗工手段)、100,200…高分子電解質複合膜の連続的製造装置。

Claims (12)

  1. 多孔質基材の空隙部に高分子電解質を含浸せしめた高分子電解質複合膜を連続的に製造するに当り、
    多孔質基材の少なくとも一方の面に、高分子電解質の溶液を塗工した後、塗工された多孔質基材に下式(A)
    0.01≦F≦10 (A)
    を満たす範囲の張力F(kg/cm)をかけた状態でロールを用いて、該塗工された多孔質基材と支持材とを積層することを特徴とする高分子電解質複合膜の連続的製造方法。
  2. 塗工された多孔質基材の塗工面に支持材を積層することを特徴とする請求項1記載の連続的製造方法。
  3. 支持材における多孔質基材と積層される面が、前記高分子電解質の溶液で予め塗工されていることを特徴とする請求項1または2記載の連続的製造方法。
  4. 前記高分子電解質の溶液の粘度η(cps)が5≦η≦5000の範囲であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の連続的製造方法。
  5. 前記高分子電解質の溶液の濃度C(wt%)が1≦C≦50であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の連続的製造方法。
  6. 請求項1〜5いずれかに記載の方法により得られた高分子電解質複合膜。
  7. 請求項6記載の高分子電解質複合膜を用いてなることを特徴とする燃料電池。
  8. 搬送される多孔質基材に対して高分子電解質の溶液を塗工する第一塗工手段と、
    前記高分子電解質の溶液が塗工された多孔質基材に対して次式(B)
    0.01≦F≦10 (B)
    を満たす範囲の張力F(kg/cm)を付与する張力付与手段と、
    前記張力が付与され、かつ、前記高分子電解質の溶液が塗工された多孔質基材と支持材とを積層して積層体を形成させるロールと、
    を備えることを特徴とする高分子電解質複合膜の製造装置。
  9. 前記第一塗工手段は、前記多孔質基材において前記支持材が積層される面に前記高分子電解質の溶液を塗工することを特徴とする、請求項8に記載の高分子電解質複合膜の製造装置。
  10. 前記積層体を乾燥させる乾燥手段を備えることを特徴とする請求項9に記載の高分子電解質複合膜の製造装置。
  11. 前記乾燥手段により乾燥された積層体における多孔質基材に対して、高分子電解質の溶液をさらに塗工する第二塗工手段を備えることを特徴とする請求項10に記載の高分子電解質複合膜の製造装置。
  12. 前記乾燥手段により乾燥される前の積層体における多孔質基材に対して、高分子電解質の溶液をさらに塗工する第二塗工手段を備えることを特徴とする請求項10に記載の高分子電解質複合膜の製造装置。
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