JP2004336981A - 圧電アクチュエータおよびインクジェット記録ヘッド - Google Patents
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Abstract
【課題】インク流路や個別電極を高密度に配列した場合であっても、低電圧で十分な変位振動を得ることができる高効率なアクチュエータ、並びにクロストークの発生を抑制しかつ低電圧で十分なアクチュエータの変位振動を得ることができるインクジェット記録ヘッドを提供することである。
【解決手段】振動板2上に、共通電極3、圧電セラミック層4、個別電極5、圧電セラミック層6、共通電極7、圧電セラミック層8および個別電極9がこの順に積層され、個別電極5,9が圧電セラミック層4,8の表面に複数配列され、圧電セラミック層4,6,8が、高圧電定数部4a,6a,8aと、低圧電定数部4b,6b,8bとから構成され、高圧電定数部4a,6a,8aの表面に個別電極5,9が設けられている圧電アクチュエータ1である。また、この圧電アクチュエータを備えたインクジェット記録ヘッドである。
【選択図】図1
【解決手段】振動板2上に、共通電極3、圧電セラミック層4、個別電極5、圧電セラミック層6、共通電極7、圧電セラミック層8および個別電極9がこの順に積層され、個別電極5,9が圧電セラミック層4,8の表面に複数配列され、圧電セラミック層4,6,8が、高圧電定数部4a,6a,8aと、低圧電定数部4b,6b,8bとから構成され、高圧電定数部4a,6a,8aの表面に個別電極5,9が設けられている圧電アクチュエータ1である。また、この圧電アクチュエータを備えたインクジェット記録ヘッドである。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細な変位を発生させることにより、各種デバイスの位置決めや加圧などに用いられる圧電アクチュエータおよびこれを利用したインクジェット記録ヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、パーソナルコンピュータの普及やマルチメディアの発達に伴って、情報を記録媒体に出カする記録装置として、インクジェット方式の記録装置、特に圧電方式の記録装置の利用が急速に拡大している。
【0003】
かかる圧電方式の記録装置には、圧電アクチュエータを用いたインクジェット記録ヘッドが搭載されている。このインクジェット記録ヘッドは、例えば圧電セラミック層の一方の表面に共通電極を形成するとともに他方の表面に複数の個別電極を形成して複数の変位部が設けられてなるアクチュエータが、流路部材の開口部であるインク流路の直上に前記個別電極を配置するように、流路部材と積層接着されたものである。
【0004】
共通電極と個別電極との間に電圧を印加して変位部を振動させることによりインク流路内のインクを加圧してインク吐出口よりインク滴を吐出させる構造になっており、各変位部を独立して制御することにより、インクジェットプリンタの高速化及び高精度化に寄与することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、近年、印字画像の高画質の要求に伴い上記インク吐出口の高密度、高精度配置が求められ、それに伴うインク流路、個別電極のピッチをますます小さく、高密度に配列することが求められている。それに伴い、インク流路の寸法もますます小さく形成する必要が生じ、変位部の振動には不利な構造となってしまう。
【0006】
そこで、インク流路の形状を概略正方形とし、その外接円直径と内接円直径の比に着目し、インク流路の寸法が小さくても十分なアクチュエータの振動を得ることができるとされるインク流路形状が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
また、インク流路などを高密度に配列すると、変位部の変位振動が流路部材の隔壁を支点として隣り合うインク流路上の変位部に干渉しやすくなり、この干渉により所定のインク吐出量が得られないという、いわゆるクロストークがより生じ易くなる。
【0008】
特許文献3には、インク流路および個別電極の形状および配置に特徴を有するインクジェット記録ヘッドが提案されている。このインクジェット記録ヘッドによれば、クロストークの発生を抑え、複数の圧力室からインク吐出を安定して行うことができるとされている。
【0009】
【特許文献1】
特公平7−96301号公報
【特許文献2】
特開2001−334661号公報
【特許文献3】
特開2002−292860号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献2に記載のインクジェット記録ヘッドでは、十分なインク吐出量を維持する為には、圧電セラミックスに印可する電圧を高くし、アクチュエータの十分な変位振動を維持しなければならなかった。印可電圧が高くなると、消費電力の増加につながるばかりでなく、印可電圧の高電圧化は駆動回路が複雑となり製造コストが増加する問題があった。
【0011】
また、特許文献3に記載のインクジェット記録ヘッドでは、変位部、インク流路及びインクノズルなどを高密度に配列した場合には、クロストークの発生を抑制する効果が十分ではなかった。
【0012】
したがって、本発明の主たる目的は、個別電極を高密度に配列した場合であっても、低電圧で十分な変位振動を得ることができる高効率な圧電アクチュエータを提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、インク流路や個別電極を高密度に配列した場合であっても、クロストークの発生を抑制しかつ低電圧で十分なアクチュエータの変位振動を得ることができるインクジェット記録ヘッドを提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明の圧電アクチュエータは以下の構成からなる。
(1)振動板上に、共通電極、厚さが100μm以下の圧電セラミック層および個別電極がこの順に積層され、前記個別電極が圧電セラミック層の表面に複数配列された圧電アクチュエータであって、前記圧電セラミック層が、圧電定数の大きい高圧電定数部と、圧電定数の小さい低圧電定数部とから構成され、前記高圧電定数部の表面に前記個別電極が設けられていることを特徴とする圧電アクチュエータ。
(2)前記高圧電定数部の圧電定数が、前記低圧電定数部の圧電定数よりも3%以上大きい(1)記載の圧電アクチュエータ。
(3)前記高圧電定数部と低圧電定数部は同一材料からなり、前記高圧電定数部には分極処理を施し、低圧電定数部分には分極処理を施さない(1)または(2)記載の圧電アクチュエータ。
(4)前記高圧電定数部と低圧電定数部は圧電定数の異なる異種材料からなる(1)または(2)記載の圧電アクチュエータ。
(5)前記高圧電定数部が高弾性化成分を含む(1)または(2)記載の圧電アクチュエータ。
(6)前記高弾性化成分がBi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種である(5)記載の圧電アクチュエータ。
(7) 振動板上に、共通電極、厚さが100μm以下の圧電セラミック層および個別電極がこの順に積層され、前記個別電極が圧電セラミック層の表面に複数配列された圧電アクチュエータであって、前記圧電セラミック層が、弾性コンプライアンスの大きい高弾性部と、弾性コンプライアンスの小さい低弾性部とから構成され、前記高弾性部の表面に前記個別電極が設けられていることを特徴とする圧電アクチュエータ。
(8) 前記高弾性部の弾性コンプライアンスが、前記低弾性部の弾性コンプライアンスよりも3%以上大きい(7)記載の圧電アクチュエータ。
(9)前記高弾性部が高弾性化成分を含む(7)または(9)記載の圧電アクチュエータ。
(10) 前記高弾性化成分がBi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種である(9)記載の圧電アクチュエータ。
【0015】
前記(1)〜(10)に記載の圧電アクチュエータは、特に、インクジェット記録ヘッドに好適である。すなわち、本発明のインクジェット記録ヘッドは以下の構成からなる。
(11)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の圧電アクチュエータを、インク吐出口を有する複数のインク流路が配列された流路部材上に、前記振動板を下にしてかつインク流路と前記高弾性部との位置を揃えて積層接着したことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
(12)複数の前記インク流路間の最短距離が0.6mm以下である(11)記載のインクジェット記録ヘッド。
【0016】
前記(1)および(7)記載の圧電アクチュエータによれば、高圧電定数の圧電セラミックスまたは高弾性の圧電セラミックで変位部を構成しているので、個別電極などの高密度配置に伴って変位振動には不利な構造となったとしても、低電圧で効率的な変位振動を得ることができる。また、前記(2),(3)及び(4)記載の圧電アクチュエータのように前記高圧電定数部の圧電定数は、前記低圧電定数部の圧電定数より3%以上大きくするのがよい。これにより、高効率な変位振動をより確実に達成することができる。また、前記(7)記載の圧電アクチュエータの高弾性部の弾性コンプライアンスは、低弾性部の弾性コンプライアンスより3%以上大きくするのがよい。
【0017】
前記(5)、(6)、(11)および(12)記載の圧電アクチュエータによれば、高圧電定数部および高弾性部は、例えばBi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である高弾性化成分を含有しているので、変位部を構成する領域の弾性コンプライアンスを選択的に大きくし、かつ圧電定数を選択的に大きくすることが可能になる。
【0018】
前記(11)記載のインクジェット記録ヘッドには、前記圧電アクチュエータが備えられ、インク流路と高圧電定数部または高弾性部との位置が揃えられており、低圧電定数部において圧電アクチュエータと流路部材が接着されているので、インク吐出口、インク流路、個別電極などの高密度配置に伴って、インク流路の寸法が小さく、圧電アクチュエータの振動には不利な構造となったとしても、クロストークを抑制しかつ低電圧でも効率的な圧電アクチュエータの変位振動を得ることができる。これにより、低電圧で安定したインク吐出性能を得ることができる。
【0019】
また、前記(12)に記載のように、本発明は、複数の前記インク流路間の最短距離が0.6mm以下という高密度の状態に各インク流路が配置されているインクジェット記録ヘッドに好適である。
【0020】
また、前記(7)記載のように、圧電セラミック層において、高弾性部の弾性コンプライアンスを大きくして選択的に高弾性化することにより、高弾性部の圧電定数が大きくなり、前記(1)に記載のように、圧電定数の選択的に大きな高圧電定数部を有する圧電セラミック層となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態にかかる圧電アクチュエータおよびこれを備えたインクジェット記録ヘッドについて図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の圧電アクチュエータを示す断面図である。なお、図1は、後述する図2に示すインクジェット記録ヘッドに備えられた圧電アクチュエータを矢印A方向から見たときの断面図である。
【0022】
同図に示すように、アクチュエータ1は、振動板2上に、共通電極3、圧電セラミック層4、個別電極5、圧電セラミック層6、共通電極7、圧電セラミック層8および個別電極9がこの順に積層され、個別電極5が圧電セラミック層4の表面に複数配列され、個別電極9が圧電セラミック層8の表面に複数配列されたものである。
【0023】
圧電セラミック層4、圧電セラミック層6および圧電セラミック層8は、圧電定数の大きい高圧電定数部4a、高圧電定数部6aおよび高圧電定数部8aと、圧電定数の小さい低圧電定数部4b、低圧電定数部6bおよび低圧電定数部8bとから構成され、高圧電定数部4aおよび高圧電定数部6aの表面(高圧電定数4aと高圧電定数部6aの間)に個別電極5が、高圧電定数部8aの表面に個別電極9がそれぞれ設けられている。また、振動板2、共通電極3、高圧電定数部4a、個別電極5、高圧電定数部6a、共通電極7、高圧電定数部8aおよび個別電極9により複数の変位部12が形成されている。
【0024】
個別電極5と個別電極9はビア電極10により電気的に接続されており、共通電極3と共通電極7はビア電極11(後述する図2参照)により電気的に接続されている。個別電極5および個別電極9は配線基板(図示せず)の配線を介して振動電圧信号を供給するドライブ回路(図示せず)と接続され、共通電極3および共通電極7はグランド電位に接続されている。
【0025】
図2は、圧電アクチュエータ1を備えた本発明のインクジェット記録ヘッドを示す一部破断斜視図であり、図3は該インクジェット記録ヘッドを示す断面図である。なお、図3は、図2に示すインクジェット記録ヘッドを矢印A方向から見たときの断面図である。図2および図3に示すように、インクジェット記録ヘッド13は、圧電アクチュエータ1を、インク吐出口14を有する複数のインク流路15が配列された流路部材16上に、振動板2を下にしてかつインク流路15と高圧電定数部4a、高圧電定数部6aおよび高圧電定数部8aとの位置を揃えて積層接着したものである。流路部材16は、インク流路15を形成する隔壁17の下面にインク吐出口14を有する基板18が配置されて構成されている。本発明では、複数のインク流路15間の最短距離は、特に限定されないが、高画質の印字画像を得るために0.6mm以下とすることも可能である。
【0026】
また、本発明では、変位部12に、高圧電定数部4a、高圧電定数部6aおよび高圧電定数部8aが配置されているので、インク流路の寸法が小さく、アクチュエータの振動には不利な構造になったとしても、低電圧でも効率的なアクチュエータの変位振動を得ることができる。
【0027】
ここで、仮にアクチュエータ1を構成する圧電セラミック層4、圧電セラミック層6および圧電セラミック層8の全体を高圧電性にすると、変位部12の変位振動が流路部材16の隔壁17を支点として隣り合うインク流路15上の変位部12に干渉しやすくなり、インク流路15の不所望な圧力変動が生じてしまい、この後、このインク流路15からインク吐出を行う際、圧力変動が重畳し、所定のインク吐出が得られないという、いわゆるクロストークがより起こりやすくなってしまう。
【0028】
そこで、本発明では、圧電セラミック層において、変位部12を構成する領域のみを選択的に高圧電性としている。このように選択的に高圧電性にするには、1)変位部12を構成する領域に高誘電率材料を用い、その他の領域には低誘電率材料を用いる、2)変位部12を構成する領域をその他の領域と同一材料とし、変位部12を構成する領域のみに選択的に分極処理を施す、3)変位部12を構成する領域をその他の領域と同一材料とし、変位部12を構成する領域のみに高弾性化成分を加える等の方法を用いればよい。
【0029】
第一の方法では、変位部12を構成する領域の圧電セラミック層とその他の領域の圧電セラミック層とを圧電定数の異なる異種材料で構成することにより、両領域の誘電率に差異を生じさせている。すなわち、変位部12を構成する領域の圧電セラミック層に高誘電率材料を使用し、その他の領域の圧電セラミック層に低誘電率材料を使用することにより、高圧電定数部で分極を起こりやすくなり、選択的に高圧電性になる。高圧電定数部の誘電率は、低圧電定数部の誘電率よりも3%以上、好ましくは5〜10%小さくするのがよい。
このような異種材料で圧電セラミック層を構成するためには、例えば、高誘電率材料からなるグリーンシート19と、低誘電率材料からなるグリーンシート20とを作製し、図4に示すように、低誘電率材料からなるグリーンシート20の内部に孔21を開け、その孔21にグリーンシート19を埋め込めばよい。具体的には、図5(a)に示すように、下金型22の上に、グリーンシート19,20を重ねて載せ、図5(b)のように上金型23をグリーンシート20の表面まで押し込んでグリーンシート20の一部をグリーンシート19の一部で置き換える。図5(c),(d)は、このようにして得られた複合グリーンシート24であり、グリーンシート20の所定の部位に、グリーンシート19が同じ大きさで埋め込まれている。
このようにして得られた複合グリーンシート24と他のグリーンシートとを積層して得られた積層体を焼成し、表面電極を形成することにより、高誘電率材料を用いた部位が高圧電定数部となり、低誘電率材料を用いた部位が低圧電定数部となる。
【0030】
第二の方法では、変位部12を構成する領域のみを選択的に分極処理を施し、それ以外の領域には分極処理を施さないようにすればよい。具体的には、変位部12を構成する領域の圧電セラミック層のみに直流高電界を印加し、内部の電気双極子を一方方向に揃えることにより、変位部12を構成する領域のみに選択的に分極処理を施す。
【0031】
第三の方法では、圧電セラミック層において、変位部12を構成する領域のみを選択的に高弾性化した高弾性部としている。このように、変位部12を構成する領域のみに高弾性化成分を加えて高弾性化することにより、変位部12を構成する領域を、圧電定数の選択的に大きな高圧電定数部とすることができる。具体的には、このように選択的に高弾性にするには、Bi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素(高弾性化成分)を、圧電セラミック層4、圧電セラミック層6および圧電セラミック層8における変位部12を構成する領域(すなわち高圧電定数部4a,6a,8a)に選択的に多く含有させるようにして、この部分の弾性コンプライアンスを大きくすればよい。これらの元素は圧電セラミックスに高弾性化剤として働き、弾性コンプライアンスを大きくすることができる。高圧電定数部の弾性コンプライアンスは、低圧電定数部の弾性コンプライアンスよりも3%以上、好ましくは5〜10%大きくするのがよい。なお、弾性コンプライアンスが小さいと固く変形しにくくなり、大きいと柔らかくなり変形しやすい。
【0032】
上述の高弾性化成分を変位部の領域に選択的に多くするには、個別電極を形成するための電極ペースト内に上述の元素を添加しておき、個別電極の焼き付け形成時に意図的に圧電セラミックスに拡散反応させればよい。また、その他の方法としては、上述の元素をイオン注入等の手法により変位部12を構成する領域の圧電セラミック層に選択的に反応させてもよい。
また、変位部12を構成する高圧電定数部の圧電定数は、低圧電定数部の圧電定数よりも3%以上3%以上、好ましくは5〜10%大きくするのがよい。
【0033】
前記圧電セラミック層4、圧電セラミック層6および圧電セラミック層8には、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN系)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN系)のうち少なくとも1種を主成分とする圧電材料が使用される。これらの圧電セラミック層4,6,8の厚さは100μm以下、好ましくは10〜50μmである。圧電セラミック層4,6,8の厚さが100μmを超えると、高弾性化成分が圧電セラミック層の厚さ方向に十分に拡散せず、高弾性にならないおそれがある。振動板2には圧電セラミック層4,6,8と同じ圧電材料を使用するのが好ましいが、これに限定されず、他のセラミックス材料を使用してもよい。振動板2の厚さは10〜100μm、好ましくは10〜50μmであるのがよい。
【0034】
共通電極3、共通電極7、個別電極5および個別電極9は、例えばAg、Pd、Pt、Rh、Au、Ni、Cr、Al、Cuなどの金属またはこれらの少なくとも1種以上を主成分とする合金(例えばAg−Pd合金)などからなる。共通電極3および共通電極7の厚さは1〜5μmであるのがよい。個別電極5および個別電極9の厚さは0.5〜5μmであるのがよい。
【0035】
次に、圧電アクチュエータ1とこれを備えたインクジェット記録ヘッド13の製造方法について説明する。
まず、前記したPZT、PMN系、PNN系のうち少なくとも1種を主成分とする圧電セラミック粉末を準備する。この圧電セラミック粉末からなるスラリーを作製し、ロールコーター法、ドクターブレード法等のテープ成形法にて厚さ20〜80μm程度のグリーンシートを4枚作製し、金型打ち抜きによってグリーンシートに貫通孔を形成する。
【0036】
その後、前記した金属または合金を主成分としバインダー樹脂および溶媒と共に混合した金属ペーストを、各々のグリーンシート表面の対応する位置に、共通電極および個別電極のパターン形状にスクリーン印刷法にて塗布する。このとき、個別電極用の金属ペーストには、Bi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種(高弾性化成分)を添加しておく。高弾性化成分の添加量は1〜15質量%、好ましくは2〜8質量%とするのがよい。添加量が1質量%未満になると、変位部12を構成する領域の圧電性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、添加量が15質量%を超えると、成分元素が拡散せずに異相として残存し、圧電特性が低下し、変位部としての変位特性が低下するおそれがある。また、貫通孔には個別電極と同様の電極を用いることが出来るが、圧電体粉末をフィラー剤として添加しておいてもよい。
【0037】
ついで、上記の4枚のグリーンシートを図1に示す順に積層し、60〜100℃の温度で3〜10MPaの圧力で圧着することによって積層体を形成する。この積層体を、必要に応じて300℃の温度で脱脂した後、圧電材料に適した焼成温度(通常、900〜1100℃程度)で焼成することにより焼結一体化し、得られた焼結体を厚み方向に分極して、本発明のアクチュエータ1を得る。
【0038】
一方、流路部材12は、厚さ30〜100μm程度の複数の金属箔で構成される積層体からなり、各金属箔にエッチングや金型による打ち抜き等によってインク流路15、インク吐出口14、隔壁17等がそれぞれ形成される。使用する金属箔としては、例えばステンレス箔、アルミニウム箔、モリブデン箔などがあげられる。
【0039】
上記圧電アクチュエータ1の高圧電定数部4a,6a,8aを備えた変位部12と流路部材16のインク流路15とが対応するように位置を揃えて、圧電アクチュエータ1と流路部材16とを積層接着し、さらに圧電アクチュエータ1に、グランドおよび駆動信号配線をそれぞれ形成した配線基板(図示せず)を接合することにより、本発明のインクジェット記録ヘッド13を得る。
【0040】
なお、以上、本発明の実施形態について示したが、本発明は上述した実施形態のみに限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更や改良したものにも適用できることは言うまでもない。
【0041】
例えば、上記実施形態では、振動板2および圧電セラミック層4,6,8からなる4層のセラミック層が積層され、これらに電極が設けられたものを例示したが、本発明では、積層数は限定されるものでなく、少なくとも1層の振動板と、1層の圧電セラミック層と、この圧電セラミック層の表面に配置された共通電極および個別電極とが備えられていればよい。
【0042】
また、図1の圧電アクチュエータ1では、個別電極5と個別電極9とをビア電極10で電気的に接続しているが、このビア電極10を設けないで個別電極5と個別電極9とを切り離した状態で使用することもできる。この場合には、共通電極7と個別電極9の間にのみ電圧が印加され、圧電セラミック層8の高圧電性部8aのみが変位振動し、その他のセラミック層2,4,6は振動板としての役割を果たす。
【0043】
上記実施形態では、高弾性化成分を個別電極5と個別電極9の両方に含有させる場合について説明したが、高弾性化成分はいずれか一方の個別電極に含有させるだけでもよく、これにより本発明の効果を得ることができる。
【0044】
さらに、上記実施形態では、振動板2と圧電セラミック層4,6,8の材質が同じ場合を例に挙げて説明したが、例えば振動板2を他の圧電材料で形成することも可能である。
【0045】
【実施例】
実施例1
以下のようにして試料No.1〜24のインクジェット記録ヘッドを作製した。
まず、表1に示す圧電材料からなる圧電セラミックス粉末を用いてスラリーを作成し、ロールコーター法にてグリーンシートを、一試料につき4枚ずつ作製した。
【0046】
ついで、金型打ち抜きによって、100μm径の貫通孔をグリーンシートに形成した。その後、Ag−Pd合金からなる金属ペーストを、各グリーンシートに対して、それぞれの所望の部位に共通電極が形成されるように、電極パターンをスクリーン印刷法にて形成した。また、貫通孔には共通電極と同様の電極で、圧電体粉末をフィラー剤として20体積%添加した電極材をスクリーン印刷にて充填し、ビア電極を形成した。
【0047】
そして、グリーンシートを積層して、表面電極及びビア電極を備えた積層体を作製した。その後、この積層体を1000℃の温度で焼成した後、主成分Auに表1に示す微量の高弾性化成分を添加した個別電極用の電極ペーストを、共通電極に相対するようにスクリーン印刷により塗布し、800℃の温度にて熱処理した後に、各電極層に電圧を印加して分極処理を行って、圧電アクチュエータを得た。
【0048】
次に、溝幅0.4mm、溝長さ0.4mmの溝形状(開口部面積0.16mm2)を有し、溝ピッチが0.6mmで格子状にマトリックス配置された流路部材に上記アクチュエータを、インク流路と変位部とが対応するように位置を揃えて積層接着して、試料No.1〜24のインクジェット記録ヘッドを得た。
【0049】
なお、試料No.5のインクジェット記録ヘッドでは、圧電アクチュエータを作製する際に、個別電極用の金属ペーストには高弾性化成分を添加しなかった。また、試料No.6のインクジェット記録ヘッドでは、積層体の一方の表面に、ほぼその全面を覆うようにして一つの電極を形成するために金属ペーストを塗布し、熱処理を行って電極を形成した。その後に個別電極となる部位を残してエッチングにて電極の不必要な部位を除去した。なお、金属ペーストには高弾性化成分が添加され、熱処理によって、変位部の周辺部(低圧電定数部)も高圧電性化したのは言うまでもない。
【0050】
得られたインクジェット記録ヘッドの個別電極と共通電極間に電圧20Vを印加したときの変位部の変位量を測定した。また、変位量が約100nmとなるように駆動させるのに必要な印可電圧を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0051】
表1によれば、試料No.1〜4およびNo.7〜24では、変位部を構成する圧電セラミック層(高圧電定数部)の圧電定数部が、その周辺部を構成する圧電セラミック層(低圧電性部)の圧電定数よりも大きいほど、変位量が大きくなる傾向にあることがわかる。なお、表1中の「対周辺部比率」欄の数値(%)は、高圧電性部の圧電定数と、低圧電性部の圧電定数との差(高圧電定数部の圧電定数−低圧電定数部の圧電定数)を計算し、低圧電定数部の圧電定数に対する前記差の割合を算出したものである。また、表1中の高弾性化成分の「変位部」欄における()内の数値は、電圧が印加される個別電極と共通電極間にある圧電セラミック層に含有される元素量(質量%)を示す。
【0052】
特に、圧電定数が10%大きい試料No.1では、変位量を大きくできるので、インク流路寸法が小さくなったとしてもインク滴の吐出に十分な変位量を確保できる。また、試料No.1〜4およびNo.6〜24の圧電アクチュエータは低電圧駆動が可能であった。ただし、試料No.6では、変位部のみでなく、その周辺部の圧電セラミックスの圧電定数も同様に大きくしているので、変位量は大きく稼げる一方で、変位量のバラツキが大きくなってしまい、いわゆるクロストークが生じることになる。
【0053】
実施例2
以下のようにして試料No.25〜31のインクジェット記録ヘッドを作製した。
まず、表2に示す圧電材料からなる圧電セラミックス粉末を用いてスラリーを作成し、ロールコーター法にてグリーンシートを、一試料につき4枚ずつ作製した。同様に、表2に示す周辺部の圧電材料からなる圧電セラミックス粉末を用いてグリーンシートを一試料につき4枚ずつ作製した。
【0054】
ついで、図5(a)に示すように、下金型22の上に、圧電材料からなるグリーンシート19および周辺部の圧電材料からなるグリーンシート20を重ねて載せ、図5(b)のように上金型23をグリーンシート20の表面まで押し込んでグリーンシート20の一部をグリーンシート19の一部で置き換え、図5(c),(d)に示すような複合グリーンシート24を形成した。
【0055】
そして、上記例1と同様に、形成された高圧電定数部が重なるように複合グリーンシート24を積層して、表面電極及びビア電極を備えた積層体を作製した。その後、この積層体を1000℃の温度で焼成した後、各電極層に電圧を印加して分極処理を行って、圧電アクチュエータを得た。
【0056】
次に、溝幅0.4mm、溝長さ0.4mmの溝形状(開口部面積0.16mm2)を有し、溝ピッチが0.6mmで格子状にマトリックス配置された流路部材に上記アクチュエータを、インク流路と変位部とが対応するように位置を揃えて積層接着して、試料No.25〜31のインクジェット記録ヘッドを得た。
なお、試料No.31のインクジェット記録ヘッドでは、均一の圧電材料で形成したグリーンシートを使用した。
【0057】
得られたインクジェット記録ヘッドの個別電極と共通電極間に電圧20Vを印加したときの変位部の変位量を測定した。また、変位量が約100nmとなるように駆動させるのに必要な印可電圧を測定した。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2によれば、均一の圧電材料で形成された試料No.31に比べ、試料No.25〜30では、変位部を構成する圧電セラミック層(高圧電定数部)の誘電率を、その周辺部を構成する圧電セラミック層(低圧電性部)の誘電率よりも大きくすることにより、変位量が大きくなる傾向にあることがわかる。また、変位量のばらつきおよび必要電圧も減少する。なお、表1中の「対周辺部比率」欄の数値(%)は、高圧電性部の圧電定数と、低圧電性部の圧電定数との差(高圧電定数部の圧電定数−低圧電定数部の圧電定数)を計算し、低圧電定数部の圧電定数に対する前記差の割合を算出したものである。
【0060】
【発明の効果】
本発明の前記アクチュエータによれば、高圧電性の圧電セラミックスで変位部を構成しているので、個別電極の高密度配置に伴って変位振動には不利な構造となったとしても、低電圧で効率的な変位振動を得ることができるという効果がある。
【0061】
本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、前記圧電アクチュエータが備えられ、インク流路と高圧電性部との位置が揃えられており、低圧電性部において圧電アクチュエータと流路部材が接着されているので、インク吐出口、インク流路、個別電極などの高密度配置に伴って、インク流路の寸法が小さく、圧電アクチュエータの振動には不利な構造となったとしても、クロストークを抑制しかつ低電圧でも効率的な圧電アクチュエータの変位振動を得ることができる。これにより、低電圧で安定したインク吐出性能を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかる圧電アクチュエータの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるインクジェット記録ヘッドの構造を示す一部破断斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるインクジェット記録ヘッドの構造を示す断面図である。
【図4】低誘電材料からなるグリーンシートの一例を示す斜視図である。
【図5】(a)〜(d)はグリーンシートの形成方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1・・・圧電アクチュエータ、2・・・振動板、3・・・共通電極、4・・・圧電セラミック層、4a・・・高圧電定数部、4b・・・低圧電定数部、5・・・個別電極、6・・・圧電セラミック層、6a・・・高圧電定数部、6b・・・低圧電定数部、7・・・共通電極、8・・・圧電セラミック層、8a・・・高圧電定数部、8b・・・低圧電定数部、9・・・個別電極、10・・・ビア電極、11・・・ビア電極、12・・・変位部、13・・・インクジェット記録ヘッド、14・・・インク吐出口、15・・・インク流路、16・・・流路部材、17・・・隔壁、18・・・基板、19・・・グリーンシート、20・・・グリーンシート、21・・・孔、22・・・下金型、23・・・上金型、24・・・複合グリーンシート
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細な変位を発生させることにより、各種デバイスの位置決めや加圧などに用いられる圧電アクチュエータおよびこれを利用したインクジェット記録ヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、パーソナルコンピュータの普及やマルチメディアの発達に伴って、情報を記録媒体に出カする記録装置として、インクジェット方式の記録装置、特に圧電方式の記録装置の利用が急速に拡大している。
【0003】
かかる圧電方式の記録装置には、圧電アクチュエータを用いたインクジェット記録ヘッドが搭載されている。このインクジェット記録ヘッドは、例えば圧電セラミック層の一方の表面に共通電極を形成するとともに他方の表面に複数の個別電極を形成して複数の変位部が設けられてなるアクチュエータが、流路部材の開口部であるインク流路の直上に前記個別電極を配置するように、流路部材と積層接着されたものである。
【0004】
共通電極と個別電極との間に電圧を印加して変位部を振動させることによりインク流路内のインクを加圧してインク吐出口よりインク滴を吐出させる構造になっており、各変位部を独立して制御することにより、インクジェットプリンタの高速化及び高精度化に寄与することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、近年、印字画像の高画質の要求に伴い上記インク吐出口の高密度、高精度配置が求められ、それに伴うインク流路、個別電極のピッチをますます小さく、高密度に配列することが求められている。それに伴い、インク流路の寸法もますます小さく形成する必要が生じ、変位部の振動には不利な構造となってしまう。
【0006】
そこで、インク流路の形状を概略正方形とし、その外接円直径と内接円直径の比に着目し、インク流路の寸法が小さくても十分なアクチュエータの振動を得ることができるとされるインク流路形状が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
また、インク流路などを高密度に配列すると、変位部の変位振動が流路部材の隔壁を支点として隣り合うインク流路上の変位部に干渉しやすくなり、この干渉により所定のインク吐出量が得られないという、いわゆるクロストークがより生じ易くなる。
【0008】
特許文献3には、インク流路および個別電極の形状および配置に特徴を有するインクジェット記録ヘッドが提案されている。このインクジェット記録ヘッドによれば、クロストークの発生を抑え、複数の圧力室からインク吐出を安定して行うことができるとされている。
【0009】
【特許文献1】
特公平7−96301号公報
【特許文献2】
特開2001−334661号公報
【特許文献3】
特開2002−292860号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献2に記載のインクジェット記録ヘッドでは、十分なインク吐出量を維持する為には、圧電セラミックスに印可する電圧を高くし、アクチュエータの十分な変位振動を維持しなければならなかった。印可電圧が高くなると、消費電力の増加につながるばかりでなく、印可電圧の高電圧化は駆動回路が複雑となり製造コストが増加する問題があった。
【0011】
また、特許文献3に記載のインクジェット記録ヘッドでは、変位部、インク流路及びインクノズルなどを高密度に配列した場合には、クロストークの発生を抑制する効果が十分ではなかった。
【0012】
したがって、本発明の主たる目的は、個別電極を高密度に配列した場合であっても、低電圧で十分な変位振動を得ることができる高効率な圧電アクチュエータを提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、インク流路や個別電極を高密度に配列した場合であっても、クロストークの発生を抑制しかつ低電圧で十分なアクチュエータの変位振動を得ることができるインクジェット記録ヘッドを提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明の圧電アクチュエータは以下の構成からなる。
(1)振動板上に、共通電極、厚さが100μm以下の圧電セラミック層および個別電極がこの順に積層され、前記個別電極が圧電セラミック層の表面に複数配列された圧電アクチュエータであって、前記圧電セラミック層が、圧電定数の大きい高圧電定数部と、圧電定数の小さい低圧電定数部とから構成され、前記高圧電定数部の表面に前記個別電極が設けられていることを特徴とする圧電アクチュエータ。
(2)前記高圧電定数部の圧電定数が、前記低圧電定数部の圧電定数よりも3%以上大きい(1)記載の圧電アクチュエータ。
(3)前記高圧電定数部と低圧電定数部は同一材料からなり、前記高圧電定数部には分極処理を施し、低圧電定数部分には分極処理を施さない(1)または(2)記載の圧電アクチュエータ。
(4)前記高圧電定数部と低圧電定数部は圧電定数の異なる異種材料からなる(1)または(2)記載の圧電アクチュエータ。
(5)前記高圧電定数部が高弾性化成分を含む(1)または(2)記載の圧電アクチュエータ。
(6)前記高弾性化成分がBi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種である(5)記載の圧電アクチュエータ。
(7) 振動板上に、共通電極、厚さが100μm以下の圧電セラミック層および個別電極がこの順に積層され、前記個別電極が圧電セラミック層の表面に複数配列された圧電アクチュエータであって、前記圧電セラミック層が、弾性コンプライアンスの大きい高弾性部と、弾性コンプライアンスの小さい低弾性部とから構成され、前記高弾性部の表面に前記個別電極が設けられていることを特徴とする圧電アクチュエータ。
(8) 前記高弾性部の弾性コンプライアンスが、前記低弾性部の弾性コンプライアンスよりも3%以上大きい(7)記載の圧電アクチュエータ。
(9)前記高弾性部が高弾性化成分を含む(7)または(9)記載の圧電アクチュエータ。
(10) 前記高弾性化成分がBi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種である(9)記載の圧電アクチュエータ。
【0015】
前記(1)〜(10)に記載の圧電アクチュエータは、特に、インクジェット記録ヘッドに好適である。すなわち、本発明のインクジェット記録ヘッドは以下の構成からなる。
(11)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の圧電アクチュエータを、インク吐出口を有する複数のインク流路が配列された流路部材上に、前記振動板を下にしてかつインク流路と前記高弾性部との位置を揃えて積層接着したことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
(12)複数の前記インク流路間の最短距離が0.6mm以下である(11)記載のインクジェット記録ヘッド。
【0016】
前記(1)および(7)記載の圧電アクチュエータによれば、高圧電定数の圧電セラミックスまたは高弾性の圧電セラミックで変位部を構成しているので、個別電極などの高密度配置に伴って変位振動には不利な構造となったとしても、低電圧で効率的な変位振動を得ることができる。また、前記(2),(3)及び(4)記載の圧電アクチュエータのように前記高圧電定数部の圧電定数は、前記低圧電定数部の圧電定数より3%以上大きくするのがよい。これにより、高効率な変位振動をより確実に達成することができる。また、前記(7)記載の圧電アクチュエータの高弾性部の弾性コンプライアンスは、低弾性部の弾性コンプライアンスより3%以上大きくするのがよい。
【0017】
前記(5)、(6)、(11)および(12)記載の圧電アクチュエータによれば、高圧電定数部および高弾性部は、例えばBi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である高弾性化成分を含有しているので、変位部を構成する領域の弾性コンプライアンスを選択的に大きくし、かつ圧電定数を選択的に大きくすることが可能になる。
【0018】
前記(11)記載のインクジェット記録ヘッドには、前記圧電アクチュエータが備えられ、インク流路と高圧電定数部または高弾性部との位置が揃えられており、低圧電定数部において圧電アクチュエータと流路部材が接着されているので、インク吐出口、インク流路、個別電極などの高密度配置に伴って、インク流路の寸法が小さく、圧電アクチュエータの振動には不利な構造となったとしても、クロストークを抑制しかつ低電圧でも効率的な圧電アクチュエータの変位振動を得ることができる。これにより、低電圧で安定したインク吐出性能を得ることができる。
【0019】
また、前記(12)に記載のように、本発明は、複数の前記インク流路間の最短距離が0.6mm以下という高密度の状態に各インク流路が配置されているインクジェット記録ヘッドに好適である。
【0020】
また、前記(7)記載のように、圧電セラミック層において、高弾性部の弾性コンプライアンスを大きくして選択的に高弾性化することにより、高弾性部の圧電定数が大きくなり、前記(1)に記載のように、圧電定数の選択的に大きな高圧電定数部を有する圧電セラミック層となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態にかかる圧電アクチュエータおよびこれを備えたインクジェット記録ヘッドについて図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の圧電アクチュエータを示す断面図である。なお、図1は、後述する図2に示すインクジェット記録ヘッドに備えられた圧電アクチュエータを矢印A方向から見たときの断面図である。
【0022】
同図に示すように、アクチュエータ1は、振動板2上に、共通電極3、圧電セラミック層4、個別電極5、圧電セラミック層6、共通電極7、圧電セラミック層8および個別電極9がこの順に積層され、個別電極5が圧電セラミック層4の表面に複数配列され、個別電極9が圧電セラミック層8の表面に複数配列されたものである。
【0023】
圧電セラミック層4、圧電セラミック層6および圧電セラミック層8は、圧電定数の大きい高圧電定数部4a、高圧電定数部6aおよび高圧電定数部8aと、圧電定数の小さい低圧電定数部4b、低圧電定数部6bおよび低圧電定数部8bとから構成され、高圧電定数部4aおよび高圧電定数部6aの表面(高圧電定数4aと高圧電定数部6aの間)に個別電極5が、高圧電定数部8aの表面に個別電極9がそれぞれ設けられている。また、振動板2、共通電極3、高圧電定数部4a、個別電極5、高圧電定数部6a、共通電極7、高圧電定数部8aおよび個別電極9により複数の変位部12が形成されている。
【0024】
個別電極5と個別電極9はビア電極10により電気的に接続されており、共通電極3と共通電極7はビア電極11(後述する図2参照)により電気的に接続されている。個別電極5および個別電極9は配線基板(図示せず)の配線を介して振動電圧信号を供給するドライブ回路(図示せず)と接続され、共通電極3および共通電極7はグランド電位に接続されている。
【0025】
図2は、圧電アクチュエータ1を備えた本発明のインクジェット記録ヘッドを示す一部破断斜視図であり、図3は該インクジェット記録ヘッドを示す断面図である。なお、図3は、図2に示すインクジェット記録ヘッドを矢印A方向から見たときの断面図である。図2および図3に示すように、インクジェット記録ヘッド13は、圧電アクチュエータ1を、インク吐出口14を有する複数のインク流路15が配列された流路部材16上に、振動板2を下にしてかつインク流路15と高圧電定数部4a、高圧電定数部6aおよび高圧電定数部8aとの位置を揃えて積層接着したものである。流路部材16は、インク流路15を形成する隔壁17の下面にインク吐出口14を有する基板18が配置されて構成されている。本発明では、複数のインク流路15間の最短距離は、特に限定されないが、高画質の印字画像を得るために0.6mm以下とすることも可能である。
【0026】
また、本発明では、変位部12に、高圧電定数部4a、高圧電定数部6aおよび高圧電定数部8aが配置されているので、インク流路の寸法が小さく、アクチュエータの振動には不利な構造になったとしても、低電圧でも効率的なアクチュエータの変位振動を得ることができる。
【0027】
ここで、仮にアクチュエータ1を構成する圧電セラミック層4、圧電セラミック層6および圧電セラミック層8の全体を高圧電性にすると、変位部12の変位振動が流路部材16の隔壁17を支点として隣り合うインク流路15上の変位部12に干渉しやすくなり、インク流路15の不所望な圧力変動が生じてしまい、この後、このインク流路15からインク吐出を行う際、圧力変動が重畳し、所定のインク吐出が得られないという、いわゆるクロストークがより起こりやすくなってしまう。
【0028】
そこで、本発明では、圧電セラミック層において、変位部12を構成する領域のみを選択的に高圧電性としている。このように選択的に高圧電性にするには、1)変位部12を構成する領域に高誘電率材料を用い、その他の領域には低誘電率材料を用いる、2)変位部12を構成する領域をその他の領域と同一材料とし、変位部12を構成する領域のみに選択的に分極処理を施す、3)変位部12を構成する領域をその他の領域と同一材料とし、変位部12を構成する領域のみに高弾性化成分を加える等の方法を用いればよい。
【0029】
第一の方法では、変位部12を構成する領域の圧電セラミック層とその他の領域の圧電セラミック層とを圧電定数の異なる異種材料で構成することにより、両領域の誘電率に差異を生じさせている。すなわち、変位部12を構成する領域の圧電セラミック層に高誘電率材料を使用し、その他の領域の圧電セラミック層に低誘電率材料を使用することにより、高圧電定数部で分極を起こりやすくなり、選択的に高圧電性になる。高圧電定数部の誘電率は、低圧電定数部の誘電率よりも3%以上、好ましくは5〜10%小さくするのがよい。
このような異種材料で圧電セラミック層を構成するためには、例えば、高誘電率材料からなるグリーンシート19と、低誘電率材料からなるグリーンシート20とを作製し、図4に示すように、低誘電率材料からなるグリーンシート20の内部に孔21を開け、その孔21にグリーンシート19を埋め込めばよい。具体的には、図5(a)に示すように、下金型22の上に、グリーンシート19,20を重ねて載せ、図5(b)のように上金型23をグリーンシート20の表面まで押し込んでグリーンシート20の一部をグリーンシート19の一部で置き換える。図5(c),(d)は、このようにして得られた複合グリーンシート24であり、グリーンシート20の所定の部位に、グリーンシート19が同じ大きさで埋め込まれている。
このようにして得られた複合グリーンシート24と他のグリーンシートとを積層して得られた積層体を焼成し、表面電極を形成することにより、高誘電率材料を用いた部位が高圧電定数部となり、低誘電率材料を用いた部位が低圧電定数部となる。
【0030】
第二の方法では、変位部12を構成する領域のみを選択的に分極処理を施し、それ以外の領域には分極処理を施さないようにすればよい。具体的には、変位部12を構成する領域の圧電セラミック層のみに直流高電界を印加し、内部の電気双極子を一方方向に揃えることにより、変位部12を構成する領域のみに選択的に分極処理を施す。
【0031】
第三の方法では、圧電セラミック層において、変位部12を構成する領域のみを選択的に高弾性化した高弾性部としている。このように、変位部12を構成する領域のみに高弾性化成分を加えて高弾性化することにより、変位部12を構成する領域を、圧電定数の選択的に大きな高圧電定数部とすることができる。具体的には、このように選択的に高弾性にするには、Bi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素(高弾性化成分)を、圧電セラミック層4、圧電セラミック層6および圧電セラミック層8における変位部12を構成する領域(すなわち高圧電定数部4a,6a,8a)に選択的に多く含有させるようにして、この部分の弾性コンプライアンスを大きくすればよい。これらの元素は圧電セラミックスに高弾性化剤として働き、弾性コンプライアンスを大きくすることができる。高圧電定数部の弾性コンプライアンスは、低圧電定数部の弾性コンプライアンスよりも3%以上、好ましくは5〜10%大きくするのがよい。なお、弾性コンプライアンスが小さいと固く変形しにくくなり、大きいと柔らかくなり変形しやすい。
【0032】
上述の高弾性化成分を変位部の領域に選択的に多くするには、個別電極を形成するための電極ペースト内に上述の元素を添加しておき、個別電極の焼き付け形成時に意図的に圧電セラミックスに拡散反応させればよい。また、その他の方法としては、上述の元素をイオン注入等の手法により変位部12を構成する領域の圧電セラミック層に選択的に反応させてもよい。
また、変位部12を構成する高圧電定数部の圧電定数は、低圧電定数部の圧電定数よりも3%以上3%以上、好ましくは5〜10%大きくするのがよい。
【0033】
前記圧電セラミック層4、圧電セラミック層6および圧電セラミック層8には、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN系)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN系)のうち少なくとも1種を主成分とする圧電材料が使用される。これらの圧電セラミック層4,6,8の厚さは100μm以下、好ましくは10〜50μmである。圧電セラミック層4,6,8の厚さが100μmを超えると、高弾性化成分が圧電セラミック層の厚さ方向に十分に拡散せず、高弾性にならないおそれがある。振動板2には圧電セラミック層4,6,8と同じ圧電材料を使用するのが好ましいが、これに限定されず、他のセラミックス材料を使用してもよい。振動板2の厚さは10〜100μm、好ましくは10〜50μmであるのがよい。
【0034】
共通電極3、共通電極7、個別電極5および個別電極9は、例えばAg、Pd、Pt、Rh、Au、Ni、Cr、Al、Cuなどの金属またはこれらの少なくとも1種以上を主成分とする合金(例えばAg−Pd合金)などからなる。共通電極3および共通電極7の厚さは1〜5μmであるのがよい。個別電極5および個別電極9の厚さは0.5〜5μmであるのがよい。
【0035】
次に、圧電アクチュエータ1とこれを備えたインクジェット記録ヘッド13の製造方法について説明する。
まず、前記したPZT、PMN系、PNN系のうち少なくとも1種を主成分とする圧電セラミック粉末を準備する。この圧電セラミック粉末からなるスラリーを作製し、ロールコーター法、ドクターブレード法等のテープ成形法にて厚さ20〜80μm程度のグリーンシートを4枚作製し、金型打ち抜きによってグリーンシートに貫通孔を形成する。
【0036】
その後、前記した金属または合金を主成分としバインダー樹脂および溶媒と共に混合した金属ペーストを、各々のグリーンシート表面の対応する位置に、共通電極および個別電極のパターン形状にスクリーン印刷法にて塗布する。このとき、個別電極用の金属ペーストには、Bi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種(高弾性化成分)を添加しておく。高弾性化成分の添加量は1〜15質量%、好ましくは2〜8質量%とするのがよい。添加量が1質量%未満になると、変位部12を構成する領域の圧電性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、添加量が15質量%を超えると、成分元素が拡散せずに異相として残存し、圧電特性が低下し、変位部としての変位特性が低下するおそれがある。また、貫通孔には個別電極と同様の電極を用いることが出来るが、圧電体粉末をフィラー剤として添加しておいてもよい。
【0037】
ついで、上記の4枚のグリーンシートを図1に示す順に積層し、60〜100℃の温度で3〜10MPaの圧力で圧着することによって積層体を形成する。この積層体を、必要に応じて300℃の温度で脱脂した後、圧電材料に適した焼成温度(通常、900〜1100℃程度)で焼成することにより焼結一体化し、得られた焼結体を厚み方向に分極して、本発明のアクチュエータ1を得る。
【0038】
一方、流路部材12は、厚さ30〜100μm程度の複数の金属箔で構成される積層体からなり、各金属箔にエッチングや金型による打ち抜き等によってインク流路15、インク吐出口14、隔壁17等がそれぞれ形成される。使用する金属箔としては、例えばステンレス箔、アルミニウム箔、モリブデン箔などがあげられる。
【0039】
上記圧電アクチュエータ1の高圧電定数部4a,6a,8aを備えた変位部12と流路部材16のインク流路15とが対応するように位置を揃えて、圧電アクチュエータ1と流路部材16とを積層接着し、さらに圧電アクチュエータ1に、グランドおよび駆動信号配線をそれぞれ形成した配線基板(図示せず)を接合することにより、本発明のインクジェット記録ヘッド13を得る。
【0040】
なお、以上、本発明の実施形態について示したが、本発明は上述した実施形態のみに限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更や改良したものにも適用できることは言うまでもない。
【0041】
例えば、上記実施形態では、振動板2および圧電セラミック層4,6,8からなる4層のセラミック層が積層され、これらに電極が設けられたものを例示したが、本発明では、積層数は限定されるものでなく、少なくとも1層の振動板と、1層の圧電セラミック層と、この圧電セラミック層の表面に配置された共通電極および個別電極とが備えられていればよい。
【0042】
また、図1の圧電アクチュエータ1では、個別電極5と個別電極9とをビア電極10で電気的に接続しているが、このビア電極10を設けないで個別電極5と個別電極9とを切り離した状態で使用することもできる。この場合には、共通電極7と個別電極9の間にのみ電圧が印加され、圧電セラミック層8の高圧電性部8aのみが変位振動し、その他のセラミック層2,4,6は振動板としての役割を果たす。
【0043】
上記実施形態では、高弾性化成分を個別電極5と個別電極9の両方に含有させる場合について説明したが、高弾性化成分はいずれか一方の個別電極に含有させるだけでもよく、これにより本発明の効果を得ることができる。
【0044】
さらに、上記実施形態では、振動板2と圧電セラミック層4,6,8の材質が同じ場合を例に挙げて説明したが、例えば振動板2を他の圧電材料で形成することも可能である。
【0045】
【実施例】
実施例1
以下のようにして試料No.1〜24のインクジェット記録ヘッドを作製した。
まず、表1に示す圧電材料からなる圧電セラミックス粉末を用いてスラリーを作成し、ロールコーター法にてグリーンシートを、一試料につき4枚ずつ作製した。
【0046】
ついで、金型打ち抜きによって、100μm径の貫通孔をグリーンシートに形成した。その後、Ag−Pd合金からなる金属ペーストを、各グリーンシートに対して、それぞれの所望の部位に共通電極が形成されるように、電極パターンをスクリーン印刷法にて形成した。また、貫通孔には共通電極と同様の電極で、圧電体粉末をフィラー剤として20体積%添加した電極材をスクリーン印刷にて充填し、ビア電極を形成した。
【0047】
そして、グリーンシートを積層して、表面電極及びビア電極を備えた積層体を作製した。その後、この積層体を1000℃の温度で焼成した後、主成分Auに表1に示す微量の高弾性化成分を添加した個別電極用の電極ペーストを、共通電極に相対するようにスクリーン印刷により塗布し、800℃の温度にて熱処理した後に、各電極層に電圧を印加して分極処理を行って、圧電アクチュエータを得た。
【0048】
次に、溝幅0.4mm、溝長さ0.4mmの溝形状(開口部面積0.16mm2)を有し、溝ピッチが0.6mmで格子状にマトリックス配置された流路部材に上記アクチュエータを、インク流路と変位部とが対応するように位置を揃えて積層接着して、試料No.1〜24のインクジェット記録ヘッドを得た。
【0049】
なお、試料No.5のインクジェット記録ヘッドでは、圧電アクチュエータを作製する際に、個別電極用の金属ペーストには高弾性化成分を添加しなかった。また、試料No.6のインクジェット記録ヘッドでは、積層体の一方の表面に、ほぼその全面を覆うようにして一つの電極を形成するために金属ペーストを塗布し、熱処理を行って電極を形成した。その後に個別電極となる部位を残してエッチングにて電極の不必要な部位を除去した。なお、金属ペーストには高弾性化成分が添加され、熱処理によって、変位部の周辺部(低圧電定数部)も高圧電性化したのは言うまでもない。
【0050】
得られたインクジェット記録ヘッドの個別電極と共通電極間に電圧20Vを印加したときの変位部の変位量を測定した。また、変位量が約100nmとなるように駆動させるのに必要な印可電圧を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0051】
表1によれば、試料No.1〜4およびNo.7〜24では、変位部を構成する圧電セラミック層(高圧電定数部)の圧電定数部が、その周辺部を構成する圧電セラミック層(低圧電性部)の圧電定数よりも大きいほど、変位量が大きくなる傾向にあることがわかる。なお、表1中の「対周辺部比率」欄の数値(%)は、高圧電性部の圧電定数と、低圧電性部の圧電定数との差(高圧電定数部の圧電定数−低圧電定数部の圧電定数)を計算し、低圧電定数部の圧電定数に対する前記差の割合を算出したものである。また、表1中の高弾性化成分の「変位部」欄における()内の数値は、電圧が印加される個別電極と共通電極間にある圧電セラミック層に含有される元素量(質量%)を示す。
【0052】
特に、圧電定数が10%大きい試料No.1では、変位量を大きくできるので、インク流路寸法が小さくなったとしてもインク滴の吐出に十分な変位量を確保できる。また、試料No.1〜4およびNo.6〜24の圧電アクチュエータは低電圧駆動が可能であった。ただし、試料No.6では、変位部のみでなく、その周辺部の圧電セラミックスの圧電定数も同様に大きくしているので、変位量は大きく稼げる一方で、変位量のバラツキが大きくなってしまい、いわゆるクロストークが生じることになる。
【0053】
実施例2
以下のようにして試料No.25〜31のインクジェット記録ヘッドを作製した。
まず、表2に示す圧電材料からなる圧電セラミックス粉末を用いてスラリーを作成し、ロールコーター法にてグリーンシートを、一試料につき4枚ずつ作製した。同様に、表2に示す周辺部の圧電材料からなる圧電セラミックス粉末を用いてグリーンシートを一試料につき4枚ずつ作製した。
【0054】
ついで、図5(a)に示すように、下金型22の上に、圧電材料からなるグリーンシート19および周辺部の圧電材料からなるグリーンシート20を重ねて載せ、図5(b)のように上金型23をグリーンシート20の表面まで押し込んでグリーンシート20の一部をグリーンシート19の一部で置き換え、図5(c),(d)に示すような複合グリーンシート24を形成した。
【0055】
そして、上記例1と同様に、形成された高圧電定数部が重なるように複合グリーンシート24を積層して、表面電極及びビア電極を備えた積層体を作製した。その後、この積層体を1000℃の温度で焼成した後、各電極層に電圧を印加して分極処理を行って、圧電アクチュエータを得た。
【0056】
次に、溝幅0.4mm、溝長さ0.4mmの溝形状(開口部面積0.16mm2)を有し、溝ピッチが0.6mmで格子状にマトリックス配置された流路部材に上記アクチュエータを、インク流路と変位部とが対応するように位置を揃えて積層接着して、試料No.25〜31のインクジェット記録ヘッドを得た。
なお、試料No.31のインクジェット記録ヘッドでは、均一の圧電材料で形成したグリーンシートを使用した。
【0057】
得られたインクジェット記録ヘッドの個別電極と共通電極間に電圧20Vを印加したときの変位部の変位量を測定した。また、変位量が約100nmとなるように駆動させるのに必要な印可電圧を測定した。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2によれば、均一の圧電材料で形成された試料No.31に比べ、試料No.25〜30では、変位部を構成する圧電セラミック層(高圧電定数部)の誘電率を、その周辺部を構成する圧電セラミック層(低圧電性部)の誘電率よりも大きくすることにより、変位量が大きくなる傾向にあることがわかる。また、変位量のばらつきおよび必要電圧も減少する。なお、表1中の「対周辺部比率」欄の数値(%)は、高圧電性部の圧電定数と、低圧電性部の圧電定数との差(高圧電定数部の圧電定数−低圧電定数部の圧電定数)を計算し、低圧電定数部の圧電定数に対する前記差の割合を算出したものである。
【0060】
【発明の効果】
本発明の前記アクチュエータによれば、高圧電性の圧電セラミックスで変位部を構成しているので、個別電極の高密度配置に伴って変位振動には不利な構造となったとしても、低電圧で効率的な変位振動を得ることができるという効果がある。
【0061】
本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、前記圧電アクチュエータが備えられ、インク流路と高圧電性部との位置が揃えられており、低圧電性部において圧電アクチュエータと流路部材が接着されているので、インク吐出口、インク流路、個別電極などの高密度配置に伴って、インク流路の寸法が小さく、圧電アクチュエータの振動には不利な構造となったとしても、クロストークを抑制しかつ低電圧でも効率的な圧電アクチュエータの変位振動を得ることができる。これにより、低電圧で安定したインク吐出性能を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかる圧電アクチュエータの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるインクジェット記録ヘッドの構造を示す一部破断斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるインクジェット記録ヘッドの構造を示す断面図である。
【図4】低誘電材料からなるグリーンシートの一例を示す斜視図である。
【図5】(a)〜(d)はグリーンシートの形成方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1・・・圧電アクチュエータ、2・・・振動板、3・・・共通電極、4・・・圧電セラミック層、4a・・・高圧電定数部、4b・・・低圧電定数部、5・・・個別電極、6・・・圧電セラミック層、6a・・・高圧電定数部、6b・・・低圧電定数部、7・・・共通電極、8・・・圧電セラミック層、8a・・・高圧電定数部、8b・・・低圧電定数部、9・・・個別電極、10・・・ビア電極、11・・・ビア電極、12・・・変位部、13・・・インクジェット記録ヘッド、14・・・インク吐出口、15・・・インク流路、16・・・流路部材、17・・・隔壁、18・・・基板、19・・・グリーンシート、20・・・グリーンシート、21・・・孔、22・・・下金型、23・・・上金型、24・・・複合グリーンシート
Claims (12)
- 振動板上に、共通電極、厚さが100μm以下の圧電セラミック層および個別電極がこの順に積層され、前記個別電極が圧電セラミック層の表面に複数配列された圧電アクチュエータであって、
前記圧電セラミック層が、圧電定数の大きい高圧電定数部と、圧電定数の小さい低圧電定数部とから構成され、前記高圧電定数部の表面に前記個別電極が設けられていることを特徴とする圧電アクチュエータ。 - 前記高圧電定数部の圧電定数が、前記低圧電定数部の圧電定数よりも3%以上大きい請求項1記載の圧電アクチュエータ。
- 前記高圧電定数部と低圧電定数部とが同一材料からなり、前記高圧電定数部には分極処理を施し、低圧電定数部分には分極処理を施さない請求項1または2記載の圧電アクチュエータ。
- 前記高圧電定数部と低圧電定数部とが圧電定数の異なる異種材料からなる請求項1または2記載の圧電アクチュエータ。
- 前記高圧電定数部が高弾性化成分を含む請求項1または2記載の圧電アクチュエータ。
- 前記高弾性化成分がBi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項5記載の圧電アクチュエータ。
- 振動板上に、共通電極、厚さが100μm以下の圧電セラミック層および個別電極がこの順に積層され、前記個別電極が圧電セラミック層の表面に複数配列された圧電アクチュエータであって、
前記圧電セラミック層が、弾性コンプライアンスの大きい高弾性部と、弾性コンプライアンスの小さい低弾性部とから構成され、前記高弾性部の表面に前記個別電極が設けられていることを特徴とする圧電アクチュエータ。 - 前記高弾性部の弾性コンプライアンスが、前記低弾性部の弾性コンプライアンスよりも3%以上大きい請求項7記載の圧電アクチュエータ。
- 前記高弾性部が高弾性化成分を含む請求項7または8記載の圧電アクチュエータ。
- 前記高弾性化成分がBi、La、Th、Nb、Sb、TaおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項9記載の圧電アクチュエータ。
- 請求項1〜10のいずれかに記載の圧電アクチュエータを、インク吐出口を有する複数のインク流路が配列された流路部材上に、前記振動板を下にしてかつインク流路と前記高圧電定数部または前記高弾性部との位置を揃えて積層接着したことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
- 複数の前記インク流路間の最短距離が0.6mm以下である請求項11記載のインクジェット記録ヘッド。
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