JP2004332002A - 透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板 - Google Patents
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Abstract
【課題】陽極酸化処理材の合金発色のメタル質感を損なわず、高い成形性を有し、加工傷の発生を防止すると共に、絶縁性に優れ、プレス加工等の際に脱プレス油処理も容易な透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板を得る。
【解決手段】0.9〜2.0%のMn、必要に応じ更に0.05〜6.0%のMgを含有し、Feを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、Al―Mn系金属間化合物粒子を適切に制御したアルミニウム合金板の表面に、厚さ3〜10μmの陽極酸化皮膜と、その陽極酸化皮膜の上に有機樹脂系のワックス潤滑剤を1〜10%の範囲内で含有する塗膜厚3〜8μmの熱硬化タイプの透明樹脂塗膜を形成する。
【選択図】 なし
【解決手段】0.9〜2.0%のMn、必要に応じ更に0.05〜6.0%のMgを含有し、Feを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、Al―Mn系金属間化合物粒子を適切に制御したアルミニウム合金板の表面に、厚さ3〜10μmの陽極酸化皮膜と、その陽極酸化皮膜の上に有機樹脂系のワックス潤滑剤を1〜10%の範囲内で含有する塗膜厚3〜8μmの熱硬化タイプの透明樹脂塗膜を形成する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、スイッチカバー、家電筐体部品、ケース類、内装の装飾用として使用されるアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理板に関し、特に、陽極酸化処理板の灰色系合金発色のメタル質感を損なわず維持し、プレス加工の成形性が高く、加工時の加工傷が防止でき、かつ高絶縁性が得られると共に、加工等の際に使用する潤滑油の省略が可能な様に、潤滑性の向上を図った透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム又はアルミニウム合金板の陽極酸化処理加工品はその優れた特性から、特に、耐食性と意匠性の向上を目的に幅広い分野で使用されている。
【0003】
これまで陽極酸化処理が施された加工品の生産は、陽極酸化処理板のままでは、ロール成形や加工性が低下すると共に金型との接触部分にカジリ傷や、黒ずみ変色が発生すると共に、強い加工が加えられた陽極酸化皮膜層部分にクラックが発生し易く、外観上好ましくない等商品価値を損ねる事から、ロール成形やプレス加工を先に行った後に陽極酸化処理されるのが一般的であり、陽極酸化処理された板材を加工することは少なかった。そして、プレス等の加工後に単品毎に陽極酸化処理されて製作された製品はコスト高となり、その幅広い普及が妨げられており、コストダウンの要請からも成形加工可能な陽極酸化処理されたプレコート板の要求が高まっている。
【0004】
又、陽極酸化処理材は建材等の外壁材へ使用される場合には色調以外に特に耐食性や耐候性が求められている。しかし、ケース類や家電部品類及び装飾品類の場合には陽極酸化皮膜の本来持っている耐食性や耐候性等の特性を求めるよりも、陽極酸化処理の合金発色特有のメタル質感を重視した意匠性と陽極酸化処理されていると言う商品イメージアップの為に用いられるものが増えている。
尚、陽極酸化処理板が電気部品のスイッチプレートやパソコン筐体等部材に使用される場合、意匠性と共に絶縁性も求められる場合もあるが、陽極酸化処理仕上のままのプレス加工品では加工を受けた部分にクラックが発生したり、プレス加工時に金型と接触する事により陽極酸化処理層に黒ずみ変色やカジリの問題が発生すると共に、陽極酸化皮膜層の脱落等の為に絶縁性も損なわれ易い。又、陽極酸化皮膜層がアルミの酸化物であり、硬いことから、陽極酸化処理板そのままの加工では成形加工用に使用する金型も痛み易い。
【0005】
これら陽極酸化処理板のプレス加工では黒ずみ変色や傷付き防止の観点から、成形金型の表面を滑らかにすると共に、潤滑性が高いプレス潤滑油の大量の塗布が必要となる。この結果、アルミ素材のままに較べて、手間及びコストがかかるし、プレス潤滑油の大量の塗布には、工場における作業環境を悪化させるという欠点もある。又、大量に塗布されたプレス潤滑油を洗浄する必要が生じる為、湯洗や溶剤脱脂の工程を追加する必要があるし、又、製品に組立てる際に陽極酸化処理材は組み付け時に指紋が付き易く、この指紋除去も行う必要を生じると言う問題点がある。
【0006】
また、例えばスイッチプレートやパソコン筐体等部材に使用される素材ではその外観は極めて重要である為、陽極酸化処理された材料を使用する場合には、加工傷の発生を防止する方法として、表面保護の目的でマスキングフィルムを貼りつけた後プレス加工する方法があるが、マスキングフィルムの使用はコストアップ要因となるばかりでなく、加工後に剥離する手間と剥離したマスキングフィルムの処分もせねばならない。又、陽極酸化処理材にマスキングフィルム貼って加工したとしても、その後の組み付け工程で、指紋が付き易かったり、陽極酸化皮膜の加工を受けた部分にクラックが発生しこのクラック部分の絶縁性が低下する為、スイッチプレート等の製品として使用した際、湿った手で触った場合には感電し易い等の不具合が生じる。
【0007】
これら問題点の解決を図るために、特開平8−187818号公報、特開平8−252885号公報等の技術が提案されている。
【0008】
特許文献1(特開平8−187818号公報)の技術は、アルミニウム材の表面に陽極酸化皮膜が形成され、その陽極酸化皮膜上に有機樹脂皮膜が形成されたアルミニウム板であって、前記有機樹脂皮膜は、ポリオレフィン系ワックス微粉末粒子、ポリエチレン系ワックス微粉末粒子、フッ素樹脂系微粉末粒子のうちの少なくとも1つからなる潤滑剤が、ポリウレタン系樹脂またはエポキシ系樹脂に分散した構成である。
これは、アルマイト材への適用だが、一般に塗装材の下地処理として使用されているリン酸クロメート皮膜(塗装アルミ板等)やリン酸亜鉛皮膜(自動車材の塗装等)の代わりに、塗装の下地処理として薄い陽極酸化皮膜を付けて、その上に塗装を施すと同時にこの塗装塗料皮膜中にワックスを含んだ有機樹脂皮膜を形成させる事により、アルミニウム板に良好な耐食性を付与すると同時に、プレス成形における板表面の傷の発生を抑えるようにしたものである。
【0009】
特許文献2(特開平8−252885号公報)の技術は、成形加工と陽極酸化処理の少なくとも一方を行なう成形性及び陽極酸化処理性に優れた成形加工用アルミニウム板材において、水溶性ポリエステル類樹脂と水溶性ポリアミド類樹脂の一方に又は両方の混合物に、ポリエチレン系ワックスとポリオレフィン系ワックスの一方又は両方を分散させた潤滑性を有する潤滑性有機皮膜によって被覆されている。又、潤滑性有機皮膜は、紫外線によって硬化するポリエステルアクリレート樹脂に、ポリエチレン系ワックスとポリオレフィン系ワックスの一方又は両方を分散させたものである。
これは、素材に溶解性の脱膜容易な潤滑塗膜を塗装した後にプレス加工を行い、通常のアルマイト処理工程(湯洗又はアルカリ脱脂洗浄→水洗→アルマイト処理→水洗→封孔処理→水洗→乾燥)に含まれる湯洗又はアルカリ脱脂洗浄時に塗装塗膜を溶解脱膜させて、次工程のアルマイト処理をし易くしたものである。又、プレス成形に必要な潤滑性を持たせる為に、塗膜中ワックスを添加したものである。
【0010】
しかし、これらによっても、非脱膜タイプの塗膜であると同時に陽極酸化処理の合金発色特有のメタル質感を損ねず成形性も確保することについては、完全には解決されていない。
【0011】
【特許文献1】
特開平8−187818号公報
【特許文献2】
特開平8−252885号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、陽極酸化処理材の合金発色のメタル質感を損なわず、高い成形性を有し、加工傷の発生を防止すると共に、絶縁性に優れ、プレス加工等の際に脱プレス油処理も容易な透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る、透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板には、先に出願中の特許2002−300852記載の陽極酸化処理板を基材として用い、灰色系合金発色のメタル質感を損なわない様に、この陽極酸化皮膜層の上に潤滑剤を含有した透明な潤滑樹脂塗膜を一定膜厚範囲で形成させる事により、成形性向上と加工傷の発生を防止すると共に高絶縁性が得られる様にした事を特徴としている。
【0014】
すなわち、請求項1の発明は、0.9〜2.0%のMnを含有し、不純物としてのFeを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、残部がAlとその他不可避的不純物からなり、円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上でかつ円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きいアルミニウム合金板よりなる基材の表面に厚さ3〜10μmの陽極酸化皮膜が形成され、その陽極酸化皮膜の上に有機樹脂系のワックス潤滑剤を固形分量として1〜10%の範囲内で含有する塗膜厚3〜8μmの熱硬化タイプの透明樹脂塗膜が形成されていることにより、陽極酸化処理材の合金発色のメタル質感を損なわず、高い成形性を有し、加工傷の発生を防止すると共に、絶縁性に優れ、プレス加工等の際に脱潤滑油処理も容易であることを特徴とする透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板である。
【0015】
また、請求項2は、基材がさらに0.05〜6.0%のMgを含有する発明である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板について、更に説明する。
【0017】
本発明では、0.9〜2.0%のMnを含有し、不純物としてのFeを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、残部がAlとその他不可避的不純物からなる組成のAl−Mn系合金板材又はこれらに0.05〜6.0%のMgを含有させた組成のAl−Mn−Mg系合金板材であり、いずれも基材中に円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上でかつ円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きく、表面に厚さ3〜10.0μmの陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム合金板を用する。その理由は、先願の特許2002−300852で述べている様に、これらの合金材を用いてこの基材表面に陽極酸化皮膜の厚さを3〜10μm設ければ、灰色系の合金発色が可能であると共に、陽極酸化皮膜厚さを調整する事により、灰色から濃い灰色まで色調の調整も可能となるからである。
【0018】
MnはAlと金属間化合物粒子(主にAl6MnおよびAl6(Mn,Fe))を形成し、これらの金属間化合物粒子は硫酸を含む液での陽極酸化処理中には基本的に不溶性である。そのため、これらの粒子が皮膜中に残存し多数分散して皮膜の灰色化に寄与する。薄い陽極酸化皮膜ではMnが0.9%未満では灰色化が不十分の淡色となり、不適当である。Mnが2.0%を超えると合金鋳造時にMnを含んだ粗大な晶出物が生じる場合が多く、色むらを生じやすく皮膜の割れの原因ともなるため不適当である。なお、固溶状態のMnが多く存在すると、陽極酸化皮膜に色味を与えるので、無彩色の灰色を得るためには固溶Mn量が0.3%以下であることが望ましい。
【0019】
Mgは一般的にアルミニウム合金の強度向上のために添加される元素であるが、陽極酸化皮膜の色調に関しては、Mnの析出を促進してMnを含む微細な金属間化合物粒子数および面積率を上げて、薄い陽極酸化皮膜でも灰色を得るために有効である。この効果は添加量0.05%未満では明確でなく、6.0%を超えて添加すると圧延が困難となるので健全な板材が得られないため不適当である。
【0020】
不純物元素であるFe,Siはそれぞれ0.20%、0.13%以下に規制される。これを超えて含有すると、基材材料の鋳造時に粗大な晶出物を生成しやすく、皮膜の色むらや変形時の皮膜割れを助長するため不適当である。
【0021】
その他に、基材アルミニウム合金の鋳造組織微細化あるいは再結晶粒の微細化に寄与する元素としてTi、Cr、Zr、Vの一種又は二種以上を添加をするのが好ましい。Tiは0.003〜0.10%の添加とする。0.003%未満では微細化の効果が少なく0.10%を超えると粗大な晶出物形成につながり、皮膜の色むらや変形時の割れを助長する。Crは0.05〜0.15%の添加とするが、0.05%未満では微細化の効果が乏しく、0.15%を超えると陽極酸化皮膜に黄色みを与えるので好ましくない。Zr,Vは0.05〜0.30%の添加とするが、0.05%未満では微細化の効果が乏しく、0.30%を超えると、粗大な晶出物を生成しやすくなり不適当である。
なお、上記範囲のTiを0.0001〜0.05%のBとを組み合わせて添加するのが鋳造組織の微細化の効果上好ましい。TiにBを組み合わせて添加する場合、Bが0.0001%未満では添加の効果がなく、0.05%を超えて添加されると粗大な晶出物を生成しやすく、皮膜の色むらや変形時の割れを助長するため不適当である。
【0022】
この他の不純物元素としてCu,Znが挙げられるが、Cuは陽極酸化皮膜の色調に黄色みを与えるので、0.10%以下が望ましい。Znは0.50%までの混入は特性に悪影響なく許容される。
なお、鋳造時の溶湯酸化防止のため0.01%以下のBeを添加してもよい。
【0023】
基材中には、円相当径0.03〜1.0μmのAl−Mn系金属間化合物が106個/mm2以上分散していることが必要である。これは薄い陽極酸化皮膜で十分に灰色化するために必要な条件である。0.03〜1.0μmの粒子が薄い皮膜の灰色化に寄与するが、この分布密度が106個/mm2未満であると、十分な灰色が得られない。また、0.03〜1.0μmの粒子は皮膜中に存在しても、後成形時の皮膜割れを助長しない。
ここで、粒子の分布数と同様に重要なのが、この粒子径の範囲の粒子の占める面積率である。径0.03〜1.0μmの粒子の面積率が1.8%以上であることが、特に薄い陽極酸化皮膜で灰色色調を実現するために必要である。1.8%未満の面積率では、淡色となり安定して灰色の色調が得られない。なお、Mn添加量0.9%未満では、径0.03〜1.0μmの粒子に関し、灰色の発色に十分な面積率を得ることができない。
【0024】
粒径0.03μm未満の粒子は灰色化に対する効果が少ない。また、1.0μm超の粒子で特に2.0μm程度までの粒子は、一般の膜厚の厚い皮膜では灰色化に寄与するが、本発明の対象である薄い陽極酸化皮膜の灰色化に対する効果が少ない。Mn添加量により形成される金属間化合物粒子の量(体積)は制限されるので、1μm超の粗大な粒子が多く存在すると、薄い皮膜の灰色化に有効な微細粒子が相対的に減る。また、陽極酸化処理では前処理としてエッチングを行なうのが通例であるが、この際、表面に露出している粒子が溶解あるいは脱落する。1.0μm超の粒子が多く、結果としてより微細な粒子が少なくなる場合、エッチングによる粒子の消失で表面付近の粒子分布密度が下がりやすく、その後の陽極酸化で薄い皮膜を形成すると灰色化が不十分となるのである。そこで、色調の観点から、基材中でより微細な0.03〜1.0μmの粒子が1.0μmを超える粒子の面積率を上回るよう規定する。
また、1.0μmを超える粒子が皮膜中に多く残存する場合、陽極酸化後の成形時にその粒子の周囲が割れの起点あるいは伝播経路となるので、皮膜割れが助長される。特に、径が5.0μm以上の粒子は基材中で500個/mm2以下であることが望ましい。
【0025】
現状として、Mnを添加したアルミニウム合金で、薄い陽極酸化皮膜でも灰色の色調を呈し、陽極酸化処理後に曲げなどの成形を好適に行なうことができることの全てを満足するアルミニウム陽極酸化処理板に関して完成された技術は今までに存在せず、先に出願中の特許2002−300852はこの解決をはかったものである。
【0026】
なお、ここで灰色という色調は、JIS Z 8730に記載のハンター色差式のL,a,b値により規定すると、次のようである。
37<L<77、−1.5<a<1.5、−1.5<b<1.5。
L値はこの表色系の明度指数で、数値の大きいほど明るい色調となる。aがプラス側で高い値では赤みを帯び、逆では緑色みを帯びる。また、bがプラス側で高いほど黄色みを帯び、逆では青色みを帯びる。上記のL,a,b値の範囲は、ほぼ色味の無い淡灰色から暗灰色までを表すものといってよい。
【0027】
又、陽極酸化皮膜層は、その構造から、アルミの酸化物層が成長して形成されたものであり、陽極酸化処理皮膜形成後の板表面は合金発色特有の灰色の色調を呈すると共に、メタル質感を重視した意匠性と陽極酸化処理されている高級品という商品イメージアップが図れ、電気絶縁性にも優れている。
なお、加工後に単品毎に陽極酸化処理する方法に較べて、板の状態やコイル材の状態での陽極酸化処理は、一度に大面積の処理が可能で有る為、製造コストの低減が可能である。
【0028】
又、成形加工用の材料として陽極酸化皮膜層の上に潤滑樹脂被膜を設ければ、加工時の潤滑性が向上する事により、陽極酸化皮膜の酸化物層との接触によって金型を痛める事も防げるし陽極酸化皮膜の脱落も防げる、更に、潤滑剤の添加量を制限する事により、灰色系合金発色表面のクリアー性を維持すると共に潤滑樹脂被膜表面への指紋も付着しにくくする作用もあり耐指紋性を向上させる事もできる。更にプレス潤滑油を使わずともプレス加工が可能となり、脱潤滑油が可能となる。
【0029】
又、陽極酸化処理された表面は微少な凸凹が形成されており、潤滑樹脂を塗装等により被覆する場合、リン酸クロメート処理等の下地処理が施されていなくとも、潤滑樹脂被膜と陽極酸化皮膜表面との間に強固な密着性を具備している。この為、陽極酸化処理基材の表面脱脂が行われていれば、そのままでのコーティングが可能であり、下地処理も省略できる。この点においても、製造コストを低減することが可能である。
【0030】
陽極酸化皮膜は、薄い程安価になるが、3μm未満となると、十分な絶縁抵抗が得られない事があると共に、安定して製造することが困難になることが考えられる。一方、陽極酸化皮膜が10μmを超えると、成形加工の際に加工部の陽極酸化皮膜層部分にクラックの発生が目立ち易くなったりコスト高になると共に、絶縁性も飽和しそれ以上向上しないし、灰色発色が濃くなりすぎて、本発明の目的とする用途としては適さないので、陽極酸化皮膜の厚さは、3〜10μmとする。
【0031】
但し、陽極酸化皮膜の皮膜厚さは、絶縁性を必要としなければ、先に出願中の特許2002−300852(後成形性良好なアルミニウム合金陽極酸化処理板)の様に、陽極酸化処理板の皮膜厚さの下限値を0.7μmの範囲とする事も可能であるし、透明潤滑樹脂皮膜の塗装材としては陽極酸化処理が出来て成形可能な材料であれば特に限定せずとも良い。
【0032】
尚、材料を成形加工した際に大きな肌荒れや、ストレッチャーストレインマークが発生すると、この部分で局部的に変形が進み、歪が大きくなる為、陽極酸化処理層に余分なクラックを発生させ易く、又、この部分に色調の変化を生じ、加工品表面の美観が損なわれるので、肌荒れや、ストレッチャーストレインマークが発生しない、結晶粒制御やスキンパス、レベラー加工等により降伏点伸びを無くした処理材料が好ましい。
【0033】
クリアー潤滑樹脂皮膜の形成には熱硬化タイプの透明潤滑樹脂皮膜を用いる。クリアー性を保つ意味から、皮膜が強い加工を受けた際に塗膜が白濁し難いアクリルウレタン系やエポキシ系の塗料が望ましい。
尚、潤滑樹脂皮膜の成膜にあたっては、アルミニウム基材の表面に塗布する塗料として、有機溶剤系塗料や水溶性塗料どちらを使用しても良いが、有機溶剤を殆ど含まない水溶性溶剤を使用することが望ましい。この様な水溶性溶剤は、その作成工程の段階から環境汚染を引き起こしにくく、又、潤滑樹脂皮膜形成時においても有機溶剤を排出しない。この為、排気装置及び防爆装置が不要となるので、設備に関するコストが低減される。
【0034】
尚、アルミニウム基材の表面状態については、その表面の油が十分に除去されていて、塗布される塗料がはじかれない状態になっていればよい。
【0035】
更に、透明潤滑樹脂皮膜中には潤滑剤をある一定範囲で含有させる。潤滑剤には、潤滑性を向上させると共に、アルミニウム基材との密着性を阻害しないことと塗膜の透明性の維持が要求される。この様な潤滑剤としては、例えばポリエチレンやフッ素樹脂系等の有機樹脂系の微粒子ワックスを用いる。
但し、潤滑樹脂皮膜全体に占める潤滑剤の割合が1%未満であると、大きな成形性向上の効果が認められない。一方、潤滑剤の割合が10%を越えると、成形性向上の効果が飽和すると共に、潤滑樹脂被膜のクリアー性が阻害されて下地の陽極酸化処理皮膜が見えづらく、陽極酸化処理板の灰色系合金発色のメタル質感が損なわれ意匠性商品としての価値がなくなると共に陽極酸化されている高級品という商品イメージが崩れてしまう恐れがある。従って、潤滑樹脂被膜全体に占める潤滑剤の割合は、1〜10%とする。又、潤滑剤には有機系潤滑剤以外に無機系潤滑剤もあり、これらの無機系潤滑剤の中にはカーボン、二硫化モリブデン、ボロンナイトライド、タルク等があるがこれらを適用した場合には、潤滑樹脂皮膜が着色する為に、陽極酸化皮膜の色調が損ねられ、陽極酸化特有のメタル感が損なわれ意匠性商品としての価値が少なくなる。そこで、潤滑樹脂皮膜中に添加する潤滑剤は透明に近い有機樹脂系の微粒子ワックスに限定するのである。
また、ワックス潤滑剤の添加量を本発明範囲内に制限する事により、樹脂皮膜表面への指紋を付着しにくく、付着した指紋を除去しやすくする作用もあり耐指紋性を向上させる事ができる。
【0036】
又、塗料の塗布方法としては、一般的なロールコーターを使用して、塗料をアルミニウム基材の表面に塗布することが望ましいが、スプレーや引き上げ法によって塗料を塗布してもよい。これらの方法によって潤滑樹脂皮膜を形成した後、焼付けを行えば良い。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、その特許請求の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。
【0038】
基材の作成
通常のDC法により表1に示す合金組成のスラブを作成した。これを表2の条件で熱間圧延の予備加熱を行った後、熱間圧延して5.0mm厚の板とした。これを、冷間圧延して1.0mm厚の板材とした。この際、一部中間焼鈍を施し、また全て最終焼鈍により0材とした。これらの中間焼鈍及び最終焼鈍はバッチ焼鈍炉(BAF)及び連続焼鈍ライン(CAL)により行った。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
この基材の金属組織を観察したところ、円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上(2.5%)でかつ円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率が1.3%で、円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率の方が、円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きいものが得られている。
【0042】
陽極酸化処理
次に、基材表面にアルカリ脱脂を施した後、10%硫酸浴中で陽極酸化膜厚が0.9〜12μmの範囲で変化するように条件を変えて処理を施すことによりサンプルを作成した。
種々膜厚を変えた陽極酸化処理終了段階での皮膜色調を表4に示す。
この表からわかるように、陽極酸化皮膜の厚さを変化させることによって皮膜色調を広い範囲で変化させることができる。
【0043】
【表4】
【0044】
潤滑樹脂塗膜の塗装
陽極酸化皮膜基材表面上に、潤滑塗膜として、水溶性エポキシ塗料に潤滑剤としてポリエチレンワックスを1〜20%の範囲で数種類変化させて添加した塗料を作成し、ロールコーターにより塗装した後、230℃雰囲気の乾燥炉中に投入しPMT210℃になるまで乾燥させ、その後冷却する焼付処理を行ったものと、同様に、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル塗料それぞれに潤滑剤としてポリエチレンワックスを添加したものについてもサンプルを作成し、評価した。
尚、潤滑樹脂皮膜の膜厚は、膜厚計で測定し、又、皮膜が形成されたアルミニウム合金板の質量を皮膜剥離前後で計測し密度で換算することにより測定した。
【0045】
絶縁性の判定
JIS K6911 熱硬化性プラスチック一般試験方法に基づき、表面抵抗率の測定を行った。
1×1016Ω以上の抵抗値のものを :○
1×1016Ω以下の抵抗値のものを :×
とした。
【0046】
クリアー性の判定
塗装板を目視観察し、基材の陽極酸化皮膜層の色調が得られているものを ○
基材の陽極酸化皮膜層の色調が得られていないものを ×
とした。
【0047】
成形性の評価
油圧プレスにより角筒絞りを行い、絞り限界高さと、絞り壁部分の接触傷や黒ずみ(陽極酸化皮膜層の色調変化)を調べた。角筒絞りはシワ押え力を3tonとし、プレス速度を100mm/分として行った。また、ポンチの断面形状は、一辺の長さが100mmの正方形の四隅に半径が10mmの面取りが施されたものである。
とした。
*壁黒ずみの評価
絞り品のコーナー壁部分に金型の強い擦れによる黒ずみやかじり傷の発生が無いものを ○
絞り品のコーナー壁部分に金型の強い擦れによる黒ずみやかじり傷が発生したものを ×
とした。
【0048】
表5に潤滑樹脂皮膜形成後の特性を示す。
【0049】
【表5】
【0050】
表5の実施例に示す様に、本発明例1〜16においては、陽極酸化皮膜とワックス添加量が適正な範囲にある為、透明な潤滑樹脂皮膜が基材上に形成されているので、絶縁性やクリアー性及び角絞り成形性に優れた加工品を得る事ができた。
【0051】
一方、比較例34〜36の既存の潤滑油やワックスを塗布した条件の絞り加工では、陽極酸化皮膜表面が金型と強く接触する事により、絞り壁部分に黒ずみやカジリ等の損傷を生じている。
【0052】
又、比較例17〜22においては、樹脂皮膜厚さが本発明範囲より少ない為に、絞り加工時に特に強い変形を受ける四隅部分の塗膜が破断しカジリの発生が見られた。
【0053】
比較例22〜25においては、ワックス添加量が多かったり、樹脂皮膜が厚過ぎる為、皮膜のクリアーが悪く、陽極酸化皮膜特有のメタル感や意匠性外観が得られなくなってしまった。又、比較例26〜30においては、ワックス添加量は少ないものの、樹脂皮膜量が多すぎる為に、樹脂皮膜がにごりクリアー性が低下してしまった。
【0054】
比較例33においては、樹脂皮膜厚さとワックス添加量が本発明の範囲に入っている為、絶縁性、クリアー性、角絞り成形性共に良好な結果が得られているものの、本発明例1〜16と比較したときに陽極酸化皮膜厚を厚くした分だけ無駄になっている。
【0055】
尚、比較例18〜23においては、樹脂皮膜量が少なすぎる為、十分な絶縁性が得られていない、又、比較例23、31、32においては、樹脂皮膜量は発明範囲内であるものの、陽極酸化皮膜量が少ない為に十分な絶縁性が得られなかった。
【0056】
【発明の効果】
以上、詳述した様に、本発明によれば、陽極酸化処理の硬い酸化膜の表面に潤滑性が高い樹脂塗膜が形成されているので、プレス加工やロール成形等の際に陽極酸化皮膜層が金型とじかに接触する事が防げ潤滑性が向上し加工時にカジリや陽極酸化被膜の脱落を防止できる。この結果、従来潤滑油を塗油しなければ成形できなかった様な部位に使用する場合であっても、潤滑油を塗油せずに成形することができる。また、陽極酸化処理基材表面に潤滑塗膜を塗装することで絶縁性も高めることができ、さらに、樹脂の種類・潤滑剤の種類・潤滑樹脂皮膜中の潤滑剤量を制限する事等により透明な潤滑樹脂皮膜が得られ、陽極酸化処理の合金発色のメタル質感も維持でき意匠性が向上し、耐指紋性も向上する。これらによって、陽極酸化処理板の成形加工が可能となり、低価格で比較的成形性に優れた材料を使用する事が可能になり、加工成形部材、家庭用電化製品の部品、装飾用部品等として幅広く使用する事ができる。
【発明が属する技術分野】
本発明は、スイッチカバー、家電筐体部品、ケース類、内装の装飾用として使用されるアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理板に関し、特に、陽極酸化処理板の灰色系合金発色のメタル質感を損なわず維持し、プレス加工の成形性が高く、加工時の加工傷が防止でき、かつ高絶縁性が得られると共に、加工等の際に使用する潤滑油の省略が可能な様に、潤滑性の向上を図った透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム又はアルミニウム合金板の陽極酸化処理加工品はその優れた特性から、特に、耐食性と意匠性の向上を目的に幅広い分野で使用されている。
【0003】
これまで陽極酸化処理が施された加工品の生産は、陽極酸化処理板のままでは、ロール成形や加工性が低下すると共に金型との接触部分にカジリ傷や、黒ずみ変色が発生すると共に、強い加工が加えられた陽極酸化皮膜層部分にクラックが発生し易く、外観上好ましくない等商品価値を損ねる事から、ロール成形やプレス加工を先に行った後に陽極酸化処理されるのが一般的であり、陽極酸化処理された板材を加工することは少なかった。そして、プレス等の加工後に単品毎に陽極酸化処理されて製作された製品はコスト高となり、その幅広い普及が妨げられており、コストダウンの要請からも成形加工可能な陽極酸化処理されたプレコート板の要求が高まっている。
【0004】
又、陽極酸化処理材は建材等の外壁材へ使用される場合には色調以外に特に耐食性や耐候性が求められている。しかし、ケース類や家電部品類及び装飾品類の場合には陽極酸化皮膜の本来持っている耐食性や耐候性等の特性を求めるよりも、陽極酸化処理の合金発色特有のメタル質感を重視した意匠性と陽極酸化処理されていると言う商品イメージアップの為に用いられるものが増えている。
尚、陽極酸化処理板が電気部品のスイッチプレートやパソコン筐体等部材に使用される場合、意匠性と共に絶縁性も求められる場合もあるが、陽極酸化処理仕上のままのプレス加工品では加工を受けた部分にクラックが発生したり、プレス加工時に金型と接触する事により陽極酸化処理層に黒ずみ変色やカジリの問題が発生すると共に、陽極酸化皮膜層の脱落等の為に絶縁性も損なわれ易い。又、陽極酸化皮膜層がアルミの酸化物であり、硬いことから、陽極酸化処理板そのままの加工では成形加工用に使用する金型も痛み易い。
【0005】
これら陽極酸化処理板のプレス加工では黒ずみ変色や傷付き防止の観点から、成形金型の表面を滑らかにすると共に、潤滑性が高いプレス潤滑油の大量の塗布が必要となる。この結果、アルミ素材のままに較べて、手間及びコストがかかるし、プレス潤滑油の大量の塗布には、工場における作業環境を悪化させるという欠点もある。又、大量に塗布されたプレス潤滑油を洗浄する必要が生じる為、湯洗や溶剤脱脂の工程を追加する必要があるし、又、製品に組立てる際に陽極酸化処理材は組み付け時に指紋が付き易く、この指紋除去も行う必要を生じると言う問題点がある。
【0006】
また、例えばスイッチプレートやパソコン筐体等部材に使用される素材ではその外観は極めて重要である為、陽極酸化処理された材料を使用する場合には、加工傷の発生を防止する方法として、表面保護の目的でマスキングフィルムを貼りつけた後プレス加工する方法があるが、マスキングフィルムの使用はコストアップ要因となるばかりでなく、加工後に剥離する手間と剥離したマスキングフィルムの処分もせねばならない。又、陽極酸化処理材にマスキングフィルム貼って加工したとしても、その後の組み付け工程で、指紋が付き易かったり、陽極酸化皮膜の加工を受けた部分にクラックが発生しこのクラック部分の絶縁性が低下する為、スイッチプレート等の製品として使用した際、湿った手で触った場合には感電し易い等の不具合が生じる。
【0007】
これら問題点の解決を図るために、特開平8−187818号公報、特開平8−252885号公報等の技術が提案されている。
【0008】
特許文献1(特開平8−187818号公報)の技術は、アルミニウム材の表面に陽極酸化皮膜が形成され、その陽極酸化皮膜上に有機樹脂皮膜が形成されたアルミニウム板であって、前記有機樹脂皮膜は、ポリオレフィン系ワックス微粉末粒子、ポリエチレン系ワックス微粉末粒子、フッ素樹脂系微粉末粒子のうちの少なくとも1つからなる潤滑剤が、ポリウレタン系樹脂またはエポキシ系樹脂に分散した構成である。
これは、アルマイト材への適用だが、一般に塗装材の下地処理として使用されているリン酸クロメート皮膜(塗装アルミ板等)やリン酸亜鉛皮膜(自動車材の塗装等)の代わりに、塗装の下地処理として薄い陽極酸化皮膜を付けて、その上に塗装を施すと同時にこの塗装塗料皮膜中にワックスを含んだ有機樹脂皮膜を形成させる事により、アルミニウム板に良好な耐食性を付与すると同時に、プレス成形における板表面の傷の発生を抑えるようにしたものである。
【0009】
特許文献2(特開平8−252885号公報)の技術は、成形加工と陽極酸化処理の少なくとも一方を行なう成形性及び陽極酸化処理性に優れた成形加工用アルミニウム板材において、水溶性ポリエステル類樹脂と水溶性ポリアミド類樹脂の一方に又は両方の混合物に、ポリエチレン系ワックスとポリオレフィン系ワックスの一方又は両方を分散させた潤滑性を有する潤滑性有機皮膜によって被覆されている。又、潤滑性有機皮膜は、紫外線によって硬化するポリエステルアクリレート樹脂に、ポリエチレン系ワックスとポリオレフィン系ワックスの一方又は両方を分散させたものである。
これは、素材に溶解性の脱膜容易な潤滑塗膜を塗装した後にプレス加工を行い、通常のアルマイト処理工程(湯洗又はアルカリ脱脂洗浄→水洗→アルマイト処理→水洗→封孔処理→水洗→乾燥)に含まれる湯洗又はアルカリ脱脂洗浄時に塗装塗膜を溶解脱膜させて、次工程のアルマイト処理をし易くしたものである。又、プレス成形に必要な潤滑性を持たせる為に、塗膜中ワックスを添加したものである。
【0010】
しかし、これらによっても、非脱膜タイプの塗膜であると同時に陽極酸化処理の合金発色特有のメタル質感を損ねず成形性も確保することについては、完全には解決されていない。
【0011】
【特許文献1】
特開平8−187818号公報
【特許文献2】
特開平8−252885号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、陽極酸化処理材の合金発色のメタル質感を損なわず、高い成形性を有し、加工傷の発生を防止すると共に、絶縁性に優れ、プレス加工等の際に脱プレス油処理も容易な透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る、透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板には、先に出願中の特許2002−300852記載の陽極酸化処理板を基材として用い、灰色系合金発色のメタル質感を損なわない様に、この陽極酸化皮膜層の上に潤滑剤を含有した透明な潤滑樹脂塗膜を一定膜厚範囲で形成させる事により、成形性向上と加工傷の発生を防止すると共に高絶縁性が得られる様にした事を特徴としている。
【0014】
すなわち、請求項1の発明は、0.9〜2.0%のMnを含有し、不純物としてのFeを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、残部がAlとその他不可避的不純物からなり、円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上でかつ円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きいアルミニウム合金板よりなる基材の表面に厚さ3〜10μmの陽極酸化皮膜が形成され、その陽極酸化皮膜の上に有機樹脂系のワックス潤滑剤を固形分量として1〜10%の範囲内で含有する塗膜厚3〜8μmの熱硬化タイプの透明樹脂塗膜が形成されていることにより、陽極酸化処理材の合金発色のメタル質感を損なわず、高い成形性を有し、加工傷の発生を防止すると共に、絶縁性に優れ、プレス加工等の際に脱潤滑油処理も容易であることを特徴とする透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板である。
【0015】
また、請求項2は、基材がさらに0.05〜6.0%のMgを含有する発明である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板について、更に説明する。
【0017】
本発明では、0.9〜2.0%のMnを含有し、不純物としてのFeを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、残部がAlとその他不可避的不純物からなる組成のAl−Mn系合金板材又はこれらに0.05〜6.0%のMgを含有させた組成のAl−Mn−Mg系合金板材であり、いずれも基材中に円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上でかつ円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きく、表面に厚さ3〜10.0μmの陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム合金板を用する。その理由は、先願の特許2002−300852で述べている様に、これらの合金材を用いてこの基材表面に陽極酸化皮膜の厚さを3〜10μm設ければ、灰色系の合金発色が可能であると共に、陽極酸化皮膜厚さを調整する事により、灰色から濃い灰色まで色調の調整も可能となるからである。
【0018】
MnはAlと金属間化合物粒子(主にAl6MnおよびAl6(Mn,Fe))を形成し、これらの金属間化合物粒子は硫酸を含む液での陽極酸化処理中には基本的に不溶性である。そのため、これらの粒子が皮膜中に残存し多数分散して皮膜の灰色化に寄与する。薄い陽極酸化皮膜ではMnが0.9%未満では灰色化が不十分の淡色となり、不適当である。Mnが2.0%を超えると合金鋳造時にMnを含んだ粗大な晶出物が生じる場合が多く、色むらを生じやすく皮膜の割れの原因ともなるため不適当である。なお、固溶状態のMnが多く存在すると、陽極酸化皮膜に色味を与えるので、無彩色の灰色を得るためには固溶Mn量が0.3%以下であることが望ましい。
【0019】
Mgは一般的にアルミニウム合金の強度向上のために添加される元素であるが、陽極酸化皮膜の色調に関しては、Mnの析出を促進してMnを含む微細な金属間化合物粒子数および面積率を上げて、薄い陽極酸化皮膜でも灰色を得るために有効である。この効果は添加量0.05%未満では明確でなく、6.0%を超えて添加すると圧延が困難となるので健全な板材が得られないため不適当である。
【0020】
不純物元素であるFe,Siはそれぞれ0.20%、0.13%以下に規制される。これを超えて含有すると、基材材料の鋳造時に粗大な晶出物を生成しやすく、皮膜の色むらや変形時の皮膜割れを助長するため不適当である。
【0021】
その他に、基材アルミニウム合金の鋳造組織微細化あるいは再結晶粒の微細化に寄与する元素としてTi、Cr、Zr、Vの一種又は二種以上を添加をするのが好ましい。Tiは0.003〜0.10%の添加とする。0.003%未満では微細化の効果が少なく0.10%を超えると粗大な晶出物形成につながり、皮膜の色むらや変形時の割れを助長する。Crは0.05〜0.15%の添加とするが、0.05%未満では微細化の効果が乏しく、0.15%を超えると陽極酸化皮膜に黄色みを与えるので好ましくない。Zr,Vは0.05〜0.30%の添加とするが、0.05%未満では微細化の効果が乏しく、0.30%を超えると、粗大な晶出物を生成しやすくなり不適当である。
なお、上記範囲のTiを0.0001〜0.05%のBとを組み合わせて添加するのが鋳造組織の微細化の効果上好ましい。TiにBを組み合わせて添加する場合、Bが0.0001%未満では添加の効果がなく、0.05%を超えて添加されると粗大な晶出物を生成しやすく、皮膜の色むらや変形時の割れを助長するため不適当である。
【0022】
この他の不純物元素としてCu,Znが挙げられるが、Cuは陽極酸化皮膜の色調に黄色みを与えるので、0.10%以下が望ましい。Znは0.50%までの混入は特性に悪影響なく許容される。
なお、鋳造時の溶湯酸化防止のため0.01%以下のBeを添加してもよい。
【0023】
基材中には、円相当径0.03〜1.0μmのAl−Mn系金属間化合物が106個/mm2以上分散していることが必要である。これは薄い陽極酸化皮膜で十分に灰色化するために必要な条件である。0.03〜1.0μmの粒子が薄い皮膜の灰色化に寄与するが、この分布密度が106個/mm2未満であると、十分な灰色が得られない。また、0.03〜1.0μmの粒子は皮膜中に存在しても、後成形時の皮膜割れを助長しない。
ここで、粒子の分布数と同様に重要なのが、この粒子径の範囲の粒子の占める面積率である。径0.03〜1.0μmの粒子の面積率が1.8%以上であることが、特に薄い陽極酸化皮膜で灰色色調を実現するために必要である。1.8%未満の面積率では、淡色となり安定して灰色の色調が得られない。なお、Mn添加量0.9%未満では、径0.03〜1.0μmの粒子に関し、灰色の発色に十分な面積率を得ることができない。
【0024】
粒径0.03μm未満の粒子は灰色化に対する効果が少ない。また、1.0μm超の粒子で特に2.0μm程度までの粒子は、一般の膜厚の厚い皮膜では灰色化に寄与するが、本発明の対象である薄い陽極酸化皮膜の灰色化に対する効果が少ない。Mn添加量により形成される金属間化合物粒子の量(体積)は制限されるので、1μm超の粗大な粒子が多く存在すると、薄い皮膜の灰色化に有効な微細粒子が相対的に減る。また、陽極酸化処理では前処理としてエッチングを行なうのが通例であるが、この際、表面に露出している粒子が溶解あるいは脱落する。1.0μm超の粒子が多く、結果としてより微細な粒子が少なくなる場合、エッチングによる粒子の消失で表面付近の粒子分布密度が下がりやすく、その後の陽極酸化で薄い皮膜を形成すると灰色化が不十分となるのである。そこで、色調の観点から、基材中でより微細な0.03〜1.0μmの粒子が1.0μmを超える粒子の面積率を上回るよう規定する。
また、1.0μmを超える粒子が皮膜中に多く残存する場合、陽極酸化後の成形時にその粒子の周囲が割れの起点あるいは伝播経路となるので、皮膜割れが助長される。特に、径が5.0μm以上の粒子は基材中で500個/mm2以下であることが望ましい。
【0025】
現状として、Mnを添加したアルミニウム合金で、薄い陽極酸化皮膜でも灰色の色調を呈し、陽極酸化処理後に曲げなどの成形を好適に行なうことができることの全てを満足するアルミニウム陽極酸化処理板に関して完成された技術は今までに存在せず、先に出願中の特許2002−300852はこの解決をはかったものである。
【0026】
なお、ここで灰色という色調は、JIS Z 8730に記載のハンター色差式のL,a,b値により規定すると、次のようである。
37<L<77、−1.5<a<1.5、−1.5<b<1.5。
L値はこの表色系の明度指数で、数値の大きいほど明るい色調となる。aがプラス側で高い値では赤みを帯び、逆では緑色みを帯びる。また、bがプラス側で高いほど黄色みを帯び、逆では青色みを帯びる。上記のL,a,b値の範囲は、ほぼ色味の無い淡灰色から暗灰色までを表すものといってよい。
【0027】
又、陽極酸化皮膜層は、その構造から、アルミの酸化物層が成長して形成されたものであり、陽極酸化処理皮膜形成後の板表面は合金発色特有の灰色の色調を呈すると共に、メタル質感を重視した意匠性と陽極酸化処理されている高級品という商品イメージアップが図れ、電気絶縁性にも優れている。
なお、加工後に単品毎に陽極酸化処理する方法に較べて、板の状態やコイル材の状態での陽極酸化処理は、一度に大面積の処理が可能で有る為、製造コストの低減が可能である。
【0028】
又、成形加工用の材料として陽極酸化皮膜層の上に潤滑樹脂被膜を設ければ、加工時の潤滑性が向上する事により、陽極酸化皮膜の酸化物層との接触によって金型を痛める事も防げるし陽極酸化皮膜の脱落も防げる、更に、潤滑剤の添加量を制限する事により、灰色系合金発色表面のクリアー性を維持すると共に潤滑樹脂被膜表面への指紋も付着しにくくする作用もあり耐指紋性を向上させる事もできる。更にプレス潤滑油を使わずともプレス加工が可能となり、脱潤滑油が可能となる。
【0029】
又、陽極酸化処理された表面は微少な凸凹が形成されており、潤滑樹脂を塗装等により被覆する場合、リン酸クロメート処理等の下地処理が施されていなくとも、潤滑樹脂被膜と陽極酸化皮膜表面との間に強固な密着性を具備している。この為、陽極酸化処理基材の表面脱脂が行われていれば、そのままでのコーティングが可能であり、下地処理も省略できる。この点においても、製造コストを低減することが可能である。
【0030】
陽極酸化皮膜は、薄い程安価になるが、3μm未満となると、十分な絶縁抵抗が得られない事があると共に、安定して製造することが困難になることが考えられる。一方、陽極酸化皮膜が10μmを超えると、成形加工の際に加工部の陽極酸化皮膜層部分にクラックの発生が目立ち易くなったりコスト高になると共に、絶縁性も飽和しそれ以上向上しないし、灰色発色が濃くなりすぎて、本発明の目的とする用途としては適さないので、陽極酸化皮膜の厚さは、3〜10μmとする。
【0031】
但し、陽極酸化皮膜の皮膜厚さは、絶縁性を必要としなければ、先に出願中の特許2002−300852(後成形性良好なアルミニウム合金陽極酸化処理板)の様に、陽極酸化処理板の皮膜厚さの下限値を0.7μmの範囲とする事も可能であるし、透明潤滑樹脂皮膜の塗装材としては陽極酸化処理が出来て成形可能な材料であれば特に限定せずとも良い。
【0032】
尚、材料を成形加工した際に大きな肌荒れや、ストレッチャーストレインマークが発生すると、この部分で局部的に変形が進み、歪が大きくなる為、陽極酸化処理層に余分なクラックを発生させ易く、又、この部分に色調の変化を生じ、加工品表面の美観が損なわれるので、肌荒れや、ストレッチャーストレインマークが発生しない、結晶粒制御やスキンパス、レベラー加工等により降伏点伸びを無くした処理材料が好ましい。
【0033】
クリアー潤滑樹脂皮膜の形成には熱硬化タイプの透明潤滑樹脂皮膜を用いる。クリアー性を保つ意味から、皮膜が強い加工を受けた際に塗膜が白濁し難いアクリルウレタン系やエポキシ系の塗料が望ましい。
尚、潤滑樹脂皮膜の成膜にあたっては、アルミニウム基材の表面に塗布する塗料として、有機溶剤系塗料や水溶性塗料どちらを使用しても良いが、有機溶剤を殆ど含まない水溶性溶剤を使用することが望ましい。この様な水溶性溶剤は、その作成工程の段階から環境汚染を引き起こしにくく、又、潤滑樹脂皮膜形成時においても有機溶剤を排出しない。この為、排気装置及び防爆装置が不要となるので、設備に関するコストが低減される。
【0034】
尚、アルミニウム基材の表面状態については、その表面の油が十分に除去されていて、塗布される塗料がはじかれない状態になっていればよい。
【0035】
更に、透明潤滑樹脂皮膜中には潤滑剤をある一定範囲で含有させる。潤滑剤には、潤滑性を向上させると共に、アルミニウム基材との密着性を阻害しないことと塗膜の透明性の維持が要求される。この様な潤滑剤としては、例えばポリエチレンやフッ素樹脂系等の有機樹脂系の微粒子ワックスを用いる。
但し、潤滑樹脂皮膜全体に占める潤滑剤の割合が1%未満であると、大きな成形性向上の効果が認められない。一方、潤滑剤の割合が10%を越えると、成形性向上の効果が飽和すると共に、潤滑樹脂被膜のクリアー性が阻害されて下地の陽極酸化処理皮膜が見えづらく、陽極酸化処理板の灰色系合金発色のメタル質感が損なわれ意匠性商品としての価値がなくなると共に陽極酸化されている高級品という商品イメージが崩れてしまう恐れがある。従って、潤滑樹脂被膜全体に占める潤滑剤の割合は、1〜10%とする。又、潤滑剤には有機系潤滑剤以外に無機系潤滑剤もあり、これらの無機系潤滑剤の中にはカーボン、二硫化モリブデン、ボロンナイトライド、タルク等があるがこれらを適用した場合には、潤滑樹脂皮膜が着色する為に、陽極酸化皮膜の色調が損ねられ、陽極酸化特有のメタル感が損なわれ意匠性商品としての価値が少なくなる。そこで、潤滑樹脂皮膜中に添加する潤滑剤は透明に近い有機樹脂系の微粒子ワックスに限定するのである。
また、ワックス潤滑剤の添加量を本発明範囲内に制限する事により、樹脂皮膜表面への指紋を付着しにくく、付着した指紋を除去しやすくする作用もあり耐指紋性を向上させる事ができる。
【0036】
又、塗料の塗布方法としては、一般的なロールコーターを使用して、塗料をアルミニウム基材の表面に塗布することが望ましいが、スプレーや引き上げ法によって塗料を塗布してもよい。これらの方法によって潤滑樹脂皮膜を形成した後、焼付けを行えば良い。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、その特許請求の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。
【0038】
基材の作成
通常のDC法により表1に示す合金組成のスラブを作成した。これを表2の条件で熱間圧延の予備加熱を行った後、熱間圧延して5.0mm厚の板とした。これを、冷間圧延して1.0mm厚の板材とした。この際、一部中間焼鈍を施し、また全て最終焼鈍により0材とした。これらの中間焼鈍及び最終焼鈍はバッチ焼鈍炉(BAF)及び連続焼鈍ライン(CAL)により行った。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
この基材の金属組織を観察したところ、円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上(2.5%)でかつ円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率が1.3%で、円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率の方が、円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きいものが得られている。
【0042】
陽極酸化処理
次に、基材表面にアルカリ脱脂を施した後、10%硫酸浴中で陽極酸化膜厚が0.9〜12μmの範囲で変化するように条件を変えて処理を施すことによりサンプルを作成した。
種々膜厚を変えた陽極酸化処理終了段階での皮膜色調を表4に示す。
この表からわかるように、陽極酸化皮膜の厚さを変化させることによって皮膜色調を広い範囲で変化させることができる。
【0043】
【表4】
【0044】
潤滑樹脂塗膜の塗装
陽極酸化皮膜基材表面上に、潤滑塗膜として、水溶性エポキシ塗料に潤滑剤としてポリエチレンワックスを1〜20%の範囲で数種類変化させて添加した塗料を作成し、ロールコーターにより塗装した後、230℃雰囲気の乾燥炉中に投入しPMT210℃になるまで乾燥させ、その後冷却する焼付処理を行ったものと、同様に、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル塗料それぞれに潤滑剤としてポリエチレンワックスを添加したものについてもサンプルを作成し、評価した。
尚、潤滑樹脂皮膜の膜厚は、膜厚計で測定し、又、皮膜が形成されたアルミニウム合金板の質量を皮膜剥離前後で計測し密度で換算することにより測定した。
【0045】
絶縁性の判定
JIS K6911 熱硬化性プラスチック一般試験方法に基づき、表面抵抗率の測定を行った。
1×1016Ω以上の抵抗値のものを :○
1×1016Ω以下の抵抗値のものを :×
とした。
【0046】
クリアー性の判定
塗装板を目視観察し、基材の陽極酸化皮膜層の色調が得られているものを ○
基材の陽極酸化皮膜層の色調が得られていないものを ×
とした。
【0047】
成形性の評価
油圧プレスにより角筒絞りを行い、絞り限界高さと、絞り壁部分の接触傷や黒ずみ(陽極酸化皮膜層の色調変化)を調べた。角筒絞りはシワ押え力を3tonとし、プレス速度を100mm/分として行った。また、ポンチの断面形状は、一辺の長さが100mmの正方形の四隅に半径が10mmの面取りが施されたものである。
とした。
*壁黒ずみの評価
絞り品のコーナー壁部分に金型の強い擦れによる黒ずみやかじり傷の発生が無いものを ○
絞り品のコーナー壁部分に金型の強い擦れによる黒ずみやかじり傷が発生したものを ×
とした。
【0048】
表5に潤滑樹脂皮膜形成後の特性を示す。
【0049】
【表5】
【0050】
表5の実施例に示す様に、本発明例1〜16においては、陽極酸化皮膜とワックス添加量が適正な範囲にある為、透明な潤滑樹脂皮膜が基材上に形成されているので、絶縁性やクリアー性及び角絞り成形性に優れた加工品を得る事ができた。
【0051】
一方、比較例34〜36の既存の潤滑油やワックスを塗布した条件の絞り加工では、陽極酸化皮膜表面が金型と強く接触する事により、絞り壁部分に黒ずみやカジリ等の損傷を生じている。
【0052】
又、比較例17〜22においては、樹脂皮膜厚さが本発明範囲より少ない為に、絞り加工時に特に強い変形を受ける四隅部分の塗膜が破断しカジリの発生が見られた。
【0053】
比較例22〜25においては、ワックス添加量が多かったり、樹脂皮膜が厚過ぎる為、皮膜のクリアーが悪く、陽極酸化皮膜特有のメタル感や意匠性外観が得られなくなってしまった。又、比較例26〜30においては、ワックス添加量は少ないものの、樹脂皮膜量が多すぎる為に、樹脂皮膜がにごりクリアー性が低下してしまった。
【0054】
比較例33においては、樹脂皮膜厚さとワックス添加量が本発明の範囲に入っている為、絶縁性、クリアー性、角絞り成形性共に良好な結果が得られているものの、本発明例1〜16と比較したときに陽極酸化皮膜厚を厚くした分だけ無駄になっている。
【0055】
尚、比較例18〜23においては、樹脂皮膜量が少なすぎる為、十分な絶縁性が得られていない、又、比較例23、31、32においては、樹脂皮膜量は発明範囲内であるものの、陽極酸化皮膜量が少ない為に十分な絶縁性が得られなかった。
【0056】
【発明の効果】
以上、詳述した様に、本発明によれば、陽極酸化処理の硬い酸化膜の表面に潤滑性が高い樹脂塗膜が形成されているので、プレス加工やロール成形等の際に陽極酸化皮膜層が金型とじかに接触する事が防げ潤滑性が向上し加工時にカジリや陽極酸化被膜の脱落を防止できる。この結果、従来潤滑油を塗油しなければ成形できなかった様な部位に使用する場合であっても、潤滑油を塗油せずに成形することができる。また、陽極酸化処理基材表面に潤滑塗膜を塗装することで絶縁性も高めることができ、さらに、樹脂の種類・潤滑剤の種類・潤滑樹脂皮膜中の潤滑剤量を制限する事等により透明な潤滑樹脂皮膜が得られ、陽極酸化処理の合金発色のメタル質感も維持でき意匠性が向上し、耐指紋性も向上する。これらによって、陽極酸化処理板の成形加工が可能となり、低価格で比較的成形性に優れた材料を使用する事が可能になり、加工成形部材、家庭用電化製品の部品、装飾用部品等として幅広く使用する事ができる。
Claims (2)
- 0.9〜2.0%(mass%、以下同じ)のMnを含有し、不純物としてのFeを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、残部がAlとその他不可避的不純物からなり、円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上でかつ円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きいアルミニウム合金板よりなる基材の表面に厚さ3〜10μmの陽極酸化皮膜が形成され、その陽極酸化皮膜の上に有機樹脂系のワックス潤滑剤を固形分量として1〜10%の範囲内で含有する塗膜厚3〜8μmの熱硬化タイプの透明樹脂塗膜が形成されていることにより、陽極酸化処理材の合金発色のメタル質感を損なわず、高い成形性を有し、加工傷の発生を防止すると共に、絶縁性に優れ、プレス加工等の際に脱プレス油処理も容易であることを特徴とする透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板。
- 基材がさらに0.05〜6.0%のMgを含有することを特徴とする請求項1に記載の透明潤滑樹脂被覆陽極酸化処理板。
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