JP3958182B2 - 後成形性良好なアルミニウム合金陽極酸化処理板 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
光沢が抑制された灰色を呈する陽極酸化皮膜を有し陽極酸化処理後に成形するアルミニウム合金板に関するもので、文具や電気機器のケース・カバー・筐体、建材等の用途に有用なものである。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウムおよびその合金の板材は、本質的に軽量であり、良好な成形性、耐食性、電磁遮蔽性を持ち、比較的高い強度も有するので、現在でも電気機器用の筐体、建築部材、文具などのケース等の成形用素材として使用されている。これらの用途では、デザイン性が重要となるため、色調を含めた外観のバリエーションが求められる。アルミニウム本来の高光沢の銀白色表面は、直接に光を反射するので落ち着かない印象を与える場合がある。また、たとえばデジタルカメラの筺体に高光沢のアルミ素材を用いると、場合により筺体の反射光が写りこむという実害も生じる。そこで、表面の金属感は残しながら、落ち着いた印象を与える外観が実現できれば、上記の用途での有用性は高い。具体的には、アルミの色調をより濃くして灰色化するとともに、光沢を抑制することができれば落ち着いた印象につながる。灰色は様々な製品のスタンダード色の一つとなっており、他の色との親和性も良い。さらに、そのような色調の製品を効率よく生産できるように、色調を付与する処理を板の段階で行い、後成形する技術が有利と考えられる。
【0003】
上記の用途で灰色の色調の材料ということでは、樹脂や塗装金属板のプレス成形品も用いられている。この中で樹脂は強度、電磁シールド性やリサイクル性の点で問題があり、金属の持つ高級感が求められる場合には不適当である。有色の塗装金属板の多くは、金属表面としての外観を呈さず、またリサイクル時に樹脂塗膜部の分離が難しい点に問題がある。また、塗料の色調は紫外線などで経年変化する欠点もある。
【0004】
アルミニウム材を陽極酸化して、これに着色することも行なわれている。これは、塗装に比べ金属感のある外観を得やすく、また樹脂塗膜がないのでリサイクルにも好都合な方法といえる。ただ、成形部材を得る場合、アルミニウム板材をプレス成形した後、陽極酸化処理する工程がとられ、結果として煩雑な作業を生じコストがかかる。陽極酸化表面を着色する技術としては染色法が一般的だが、染色の工程が余計にかかるだけでなく、紫外線や熱で変色する欠点がある。
【0005】
そこで、アルミニウムの陽極酸化処理のみで色調安定性の高い着色皮膜を得る方法の一つとして合金発色法がある。この場合、外観として金属感を有しながら色調を付与でき、その色調が安定であることに特徴がある。この合金発色法により灰色の色調を得るため、Mnを添加したアルミニウム合金で、Mnを含む金属間化合物を陽極酸化皮膜中に分散させることを骨子とする技術がすでに存在する(特許文献1−4)。ただ、これらは陽極酸化処理後の板材を加工するための技術となっていない。すなわち、これらの技術で灰色の陽極酸化皮膜を有する成形品を得るためには、プレス成形した後、成形品を陽極酸化処理する工程を前提としており、工程が煩雑で陽極酸化処理のセッティングに手間がかかり、全体としてコストがかかる。そこで、合金発色陽極酸化により灰色の色調としたアルミニウム合金板材について曲げなどの成形を行なうことが可能であれば、効率的な生産工程が実現され、電子機器筺体などの素材として有用なものとなる。
また、従来の技術として灰色色調と光沢抑制を両立させたものは見当たらない。
【0006】
なお、特許文献1、2は、Mnを重量で1.3〜1.5%含むAl−Mn−Mg系合金に関し、10μm程度の薄い陽極酸化皮膜で安定に灰色の色調を実現するための技術に関するものである。このような皮膜では曲げなどの成形を加えると、皮膜に肉眼で確認できる割れが発生してしまう。陽極酸化皮膜は薄いほうが顕著な割れの発生が抑えられる傾向にあるが、合金発色法では色調は皮膜厚さの影響を直接に受ける。結論として、特許文献1、2の技術では、より薄い皮膜で十分に灰色の陽極酸化皮膜色調は得られない。
また、特許文献3、4はMnをそれぞれ0.29〜0.49%および0.3〜0.8%含むAl−Mg−Mn系合金で陽極酸化による灰色色調を得る技術に関するものである。本文の説明中には陽極酸化皮膜厚に対する記述がないが、皮膜厚が色調に直接的な影響を及ぼすのは自明であり、実施例にある20μmあるいはそれに近い膜厚で灰色色調を得るための技術と考えられる。このような皮膜で、陽極酸化後に曲げなどの変形を加えると肉眼で確認できるほどの割れが発生する。
その他に、特許文献5もMnを0.1〜0.3%含むアルミニウム合金で合金発色陽極酸化により淡灰色色調を得るための技術であるが、特許文献1〜4とは異なり、Mnを含む金属間化合物を発色原因としておらず系統の異なる技術といえる。この詳細な説明中に皮膜厚5〜30μmで淡灰色を得るとの記述があり、実施例では15〜16μmの皮膜での色調が記載されている。しかし、この公報にも、基材のアルミニウム合金板の曲げ性などの記述はあるが、皮膜形成後の成形性に関して考慮されていない。
【特許文献1】
特開2000−273563号公報
【特許文献2】
特開平11−229102号公報
【特許文献3】
特開平09−071831号公報
【特許文献4】
特開平08−041570号公報
【特許文献5】
特開平09−143602号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
現状として、Mnを添加したアルミニウム合金で、薄い陽極酸化皮膜でも灰色の色調を呈し、表面光沢が抑制され、陽極酸化処理後に曲げなどの成形を好適に行なうことができることの全てを満足するアルミニウム陽極酸化処理板に関して完成された技術は今までに存在せず、本発明はこの解決をはかったものである。
【0008】
なお、ここで灰色という色調は、JIS Z 8730に記載のハンター色差式のL,a,b値により規定すると、次のようである。
37<L<77、−1.5<a<1.5、−1.5<b<1.5。
L値はこの表色系の明度指数で、数値の大きいほど明るい色調となる。aがプラス側で高い値では赤みを帯び、逆では緑色みを帯びる。また、bがプラス側で高いほど黄色みを帯び、逆では青色みを帯びる。上記のL,a,b値の範囲は、ほぼ色味の無い淡灰色から暗灰色までを表すものといってよい。
【0009】
光沢が抑制された表面とは、JIS Z 8741に規定される60°鏡面反射率で52%以下のものとする。なお、一般の光沢測定に用いる中光沢の基準面の60°鏡面反射率が49%であることから、ここで規定する表面光沢は低光沢から中光沢の範囲にあるといえる。
【0010】
【課題を解決する手段】
上記課題に向けて、本発明者らは基材のアルミニウム合金の組成やMnを含む金属間化合物の分布および面積率、皮膜の厚さや皮膜表面に存在する粗大な介在物に着目し、種々の検討を加えた。
曲げなどの成形時の皮膜割れは、陽極酸化皮膜が厚い場合に顕著となり肉眼でもはっきりと見えるようになる。皮膜を薄くしていくと、成形されても割れが見えなくなり、外観上問題の無いレベルになることがわかった。ただし、皮膜厚を下げていくと合金発色による陽極酸化皮膜の色調が薄くなり灰色とするのが困難となる。これまでの、灰色色調を持つ陽極酸化皮膜を得るための材料技術では、例えば2〜3μm程度の非常に薄い皮膜で灰色を実現することができない。
そこで新たに、このような薄い皮膜で灰色を実現するための条件を追求し、色調と後成形性の両立をはかるよう検討を進め、さらに光沢が抑制される条件を合わせて見出して本発明に至ったのである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち、請求項1の発明は、基材が、0.9〜2.0%のMnを含有し、不純物としてのFeを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、残部がAlとその他不可避的不純物からなる組成のAl−Mn系合金板材であり、基材中に円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上でかつ円相当径1.0μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きく、表面に厚さ0.7〜7.0μmの陽極酸化皮膜が形成され、60°鏡面反射率が52%以下の光沢が抑制された灰色を呈することを特徴とする後成形性良好なアルミニウム合金陽極酸化処理板である。
【0012】
請求項2のように、基材が、更に0.05〜6.0%のMgを含有しても良く、請求項3のように、さらに0.003〜0.10%のTi、0.01〜0.15%のCr、0.01〜0.30%のZr、0.05〜0.30%のVの一種または二種以上を含有しても良い。
また、請求項4のように、陽極酸化皮膜厚が、上記範囲内でも薄い方の0.7μm以上4.0μm未満の場合、本発明の効果が著しい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
基材のアルミニウム合金は、0.9〜2.0%のMn、残部がAlと不可避的不純物からなるAl−Mn系合金、あるいは0.9〜2.0%のMnと0.05〜6.0%のMgとを含有し残部がAlと不可避的不純物からなるAl−Mn−Mg系合金を基本とする。
【0014】
MnはAlと金属間化合物粒子(主にAl6MnおよびAl6(Mn,Fe))を形成し、これらの金属間化合物粒子は硫酸を含む液での陽極酸化処理中には基本的に不溶性である。そのため、これらの粒子が皮膜中に残存し多数分散して皮膜の灰色化に寄与する。薄い陽極酸化皮膜ではMnが0.9%未満では灰色化が不十分の淡色となり、不適当である。Mnが2.0%を超えると合金鋳造時にMnを含んだ粗大な晶出物が生じる場合が多く、色むらを生じやすく皮膜の割れの原因ともなるため不適当である。なお、固溶状態のMnが多く存在すると、陽極酸化皮膜に色味を与えるので、無彩色の灰色を得るためには固溶Mn量が0.3%以下であることが望ましい。
【0015】
Mgは一般的にアルミニウム合金の強度向上のために添加される元素であるが、陽極酸化皮膜の色調に関しては、Mnの析出を促進してMnを含む微細な金属間化合物粒子数および面積率を上げて、薄い陽極酸化皮膜でも灰色を得るために有効である。この効果は添加量0.05%未満では明確でなく、6.0%を超えて添加すると圧延が困難となるので健全な板材が得られないため不適当である。
【0016】
不純物元素であるFe,Siはそれぞれ0.20%、0.13%以下に規制される。これを超えて含有すると、基材材料の鋳造時に粗大な晶出物を生成しやすく、皮膜の色むらや変形時の皮膜割れを助長するため不適当である。
【0017】
その他に、基材アルミニウム合金の鋳造組織微細化あるいは再結晶粒の微細化に寄与する元素としてTi、Cr、Zr、Vの一種又は二種以上を添加をするのが好ましい。Tiは0.003〜0.10%の添加とする。0.003%未満では微細化の効果が少なく0.10%を超えると粗大な晶出物形成につながり、皮膜の色むらや変形時の割れを助長する。Crは0.05〜0.15%の添加とするが、0.05%未満では微細化の効果が乏しく、0.15%を超えると陽極酸化皮膜に黄色みを与えるので好ましくない。Zr,Vは0.05〜0.30%の添加とするが、0.05%未満では微細化の効果が乏しく、0.30%を超えると、粗大な晶出物を生成しやすくなり不適当である。
なお、上記範囲のTiを0.0001〜0.05%のBとを組み合わせて添加するのが鋳造組織の微細化の効果上好ましい。TiにBを組み合わせて添加する場合、Bが0.0001%未満では添加の効果がなく、0.05%を超えて添加されると粗大な晶出物を生成しやすく、皮膜の色むらや変形時の割れを助長するため不適当である。
【0018】
この他の不純物元素としてCu,Znが挙げられるが、Cuは陽極酸化皮膜の色調に黄色みを与えるので、0.10%以下が望ましい。Znは0.50%までの混入は特性に悪影響なく許容される。
なお、鋳造時の溶湯酸化防止のため0.01%以下のBeを添加してもよい。
【0019】
基材中には、円相当径0.03〜1.0μmのAl-Mn系金属間化合物が106個/mm2以上分散していることが必要である。これは薄い陽極酸化皮膜で十分に灰色化するために必要な条件である。0.03〜1.0μmの粒子が薄い皮膜の灰色化に寄与するが、この分布密度が106個/mm2未満であると、十分な灰色が得られない。また、0.03〜1.0μmの粒子は皮膜中に存在しても、後成形時の皮膜割れを助長しない。
ここで、粒子の分布数と同様に重要なのが、この粒子径の範囲の粒子の占める面積率である。径0.03〜1.0μmの粒子の面積率が1.8%以上であることが、特に薄い陽極酸化皮膜で灰色色調を実現するために必要である。1.8%未満の面積率では、淡色となり安定して灰色の色調が得られない。なお、Mn添加量0.9%未満では、径0.03〜1.0μmの粒子に関し、灰色の発色に十分な面積率を得ることができない。
【0020】
粒径0.03μm未満の粒子は灰色化に対する効果が少ない。また、1.0μm超の粒子で特に2.0μm程度までの粒子は、一般の膜厚の厚い皮膜では灰色化に寄与するが、本発明の対象である薄い陽極酸化皮膜の灰色化に対する効果が少ない。Mn添加量により形成される金属間化合物粒子の量(体積)は制限されるので、1μm超の粗大な粒子が多く存在すると、薄い皮膜の灰色化に有効な微細粒子が相対的に減る。また、陽極酸化処理では前処理としてエッチングを行なうのが通例であるが、この際、表面に露出している粒子が溶解あるいは脱落する。1.0μm超の粒子が多く、結果としてより微細な粒子が少なくなる場合、エッチングによる粒子の消失で表面付近の粒子分布密度が下がりやすく、その後の陽極酸化で薄い皮膜を形成すると灰色化が不十分となるのである。そこで、色調の観点から、基材中でより微細な0.03〜1.0μmの粒子が1.0μmを超える粒子の面積率を上回るよう規定する。
また、1.0μmを超える粒子が皮膜中に多く残存する場合、陽極酸化後の成形時にその粒子の周囲が割れの起点あるいは伝播経路となるので、皮膜割れが助長される。特に、径が5.0μm以上の粒子は基材中で500個/mm2以下であることが望ましい。
【0021】
陽極酸化皮膜の厚さは、色調と陽極酸化処理後の成形性を両立させるために0.7μm〜7.0μmとする。0.7μm未満であると陽極酸化皮膜は灰色とならず、7.0μmを超えると曲げなどの成形で皮膜に顕著な割れが生じる。より良好な皮膜の成形性(曲げ性など)が求められる場合、皮膜厚は4.0μm未満とする。
なお、特に薄い皮膜、例えば厚さ0.7〜1.4μmの皮膜では、ある特定の角度で光の当たると淡い干渉色(虹の七色)が薄灰色にかぶった色調となる。これは、単純に膜厚が薄いだけでなく、アルミニウム合金基材の析出粒子が皮膜中に取り込まれて、析出物表面での反射も加わった多重層干渉が生じているためと考えられる。外観として、灰色系でありながら見る角度により色の変わるものが求められる場合には、0.7〜1.4μmの薄い皮膜が好適である。逆にそのような干渉色の影響のない灰色色調を得たい場合には、本発明の規定膜厚範囲の中で1.4μmを超える膜厚とすることが望ましい。
また陽極酸化処理表面の光沢を抑制するためには、皮膜の灰色化とともに、陽極酸化処理の前処理としてアルカリエッチングを経て、基材表面に露出した金属間化合物粒子が溶解あるいは脱落することが必要である。この光沢は60°鏡面反射率で52%以下に制御されるものとする。これは灰色の色調とあいまって落ち着いた外観を与えるためである。前記の灰色色調を得るための粒子分散状態を実現すれば、アルカリエッチング、例えば5〜15%のNaOH水溶液中でのエッチングと、後の陽極酸化処理により、この鏡面反射率が実現される。
【0022】
基材となるAl−MnあるいはAl−Mn−Mg系合金板は、通常のDC鋳造、熱間圧延、冷間圧延および焼鈍を組み合わせた工程で作ることができる。
この中で、鋳造後Al―Mn系金属間化合物を析出させるため400℃から530℃の温度範囲で0.5〜48hの加熱処理を行うことが必要である。この処理温度が400℃未満では灰色化に有効な粒子径の金属間化合物数および面積率が不十分となる。これが、530℃超では析出する金属間化合物の粒子径が大きくなりすぎ、薄い陽極酸化皮膜で安定な灰色が得られなくなる。また、この処理時間が0.5h未満では金属間化合物数および面積率が不十分となるので不適当であり、48hを超える長時間の処理は特段の特性向上をもたらさずコストおよび生産時間の点で不利になるため好ましくない。なお、本発明の範囲内でも特に薄い陽極酸化膜厚(0.7μm以上4.0μm未満)で濃い灰色が必要な場合の望ましい加熱処理温度は、420℃から490℃である。
析出のための加熱処理の好ましい形態は、熱間圧延前に行なうもので、均質化処理あるいは熱間圧延の予備加熱を兼ねる。この他に、熱間圧延後の焼鈍、冷間圧延の中間焼鈍と兼ねて、この加熱処理をおこなってもよい。
【0023】
鋳造をDC鋳造でなく、板連続鋳造(ストリップキャスティング)としても構わない。この場合、熱間圧延を省いても構わないが、冷間圧延前あるいは冷間圧延途中で析出のための加熱処理を行なう必要がある。板連続鋳造と連続ラインでの熱間圧延を行なう場合にも、析出のための加熱処理を、冷間圧延前あるいは途中で行なう必要がある。
【0024】
基材となる板は最終焼鈍されたO材として用いるのが好ましいが、場合により加工材(JISの調質記号でH1X、H2X、Mg含有合金に関してはH3X。Xは1〜9の整数)として用いても構わない。
基材を最終焼鈍でO材とする場合、その後の結晶粒径が90μm以下となるよう制御することが望ましい。これは、結晶粒がこれより粗大であると、陽極酸化後の成形で変形部に基材の肌荒れが原因となり表面皮膜割れが生じるためである。この結晶粒の粗大化防止には、最終焼鈍前の冷間圧延圧下率を50%以上とすること、連続焼鈍ライン(CAL)などで急速加熱焼鈍を行なうことが有効である。Mnとともに微細化に働くCr、Zr、Vの微量添加も有効である。
【0025】
製造方法について色々と説明してきたが、要は、本願発明で規定する範囲内の実際の供試材の化学組成に応じて、上記製造プロセス条件の範囲内で適切に選択して、最終的に基材中に円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上で、円相当径1.0μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きくなるような金属組織が得られるようにすることが必要である。
【0026】
陽極酸化処理の前処理として、種々の方法による脱脂、苛性ソーダなどのアルカリ溶液でのエッチングおよび硝酸などでのデスマットを行なうのが好ましい。アルカリエッチング条件は、例えば5〜15%のNaOH水溶液に、室温〜60℃で10〜300sec浸漬することが望ましい。
陽極酸化処理は硫酸を主成分とする水溶液中で行なうが、この浴温度は10〜22℃が好ましい。具体的には10〜20%の硫酸水溶液が好適である。
陽極酸化処理後、封孔処理を行なうことが好ましく、酢酸ニッケル封孔など通常の封孔手段が採用できる。また、封孔処理を兼ねて透明な塗装を陽極酸化皮膜面に付与してもよい。
【0027】
本発明の陽極酸化処理方法として最も好適なのは、連続コイルアルマイト法である。これは、基材コイルを連続的に陽極酸化処理するもので、バッチ式の陽極酸化処理に比べて処理コストや生産効率の面で有利で、膜厚を安定して薄い陽極酸化皮膜を形成するのに適し、色調などの安定性の点でも有利となる。コイル状の板をアンコイルし、予備処理、陽極酸化処理、封孔処理および最終乾燥まで連続的に処理してリコイルあるいは切り板にする。連続陽極酸化処理の給電方法は、関節給電方法でもロールによる直接給電方法でもかまわない。
【0028】
【実施例】
通常のDC法により、表1に示す合金組成のスラブを作製した。
【0029】
【表1】
【0030】
これを表2の条件で均質化処理あるいは熱間圧延の予備加熱を行なった後、熱間圧延して5.0mm厚の板とした。これを、冷間圧延して1.0mm厚の板材とした。この際、一部中間焼鈍を施し、また全て最終焼鈍によりO材とした。これらの中間焼鈍および最終焼鈍はバッチ焼鈍炉(BAF)および連続焼鈍ライン(CAL)により行なった。
【0031】
【表2】
【0032】
各圧延板について通常のバッチ式あるいは連続コイル式の陽極酸化処理を施した。
バッチ式の場合、基材を溶剤脱脂し、その後50℃に保持された10%のNaOH水溶液中に40sec浸漬してアルカリエッチングし、水洗後、硝酸でデスマット処理した。この後、18℃の15%硫酸水溶液中で、電流密度1.5A/dm2で陽極酸化処理し、一部で処理時間により膜厚を変化させた。この後、酢酸ニッケル系の封孔助剤を加えた封孔浴で90℃×5minの封孔処理を行なった。一部でアルカリエッチングを省いて同様のバッチ式の陽極酸化処理を行なったものも比較例とした。
連続コイル式の陽極酸化処理は、間接給電式の装置を用いて行なった。基材コイルは、板幅30cmのもので、予備処理として弱アルカリの脱脂槽、アルカリエッチング槽、デスマット槽を通る。アルカリエッチングは、50℃に保持された10%のNaOH水溶液中を材料が通ることで行なわれる。陽極酸化処理は、18℃の15%硫酸水溶液中で、12〜16A/dm2の電流密度で行なわれた。基材の通過速度は6〜12m/minで処理された。この後、酢酸ニッケル系の封孔助剤を加えた封孔槽で封孔処理を行なった。
【0033】
これらと比較材について、色調、反射率および後成形性として曲げ成形後の皮膜外観を調査した。なお、一部試料については、絞り成形後の皮膜外観も調査した。なお、基材の金属間化合物粒子は試料断面を電子顕微鏡で観察し画像解析装置で測定した。
発明例および比較例の金属組織、陽極酸化皮膜厚、特性等を表3に示した。
なお、表中の下線を付けた部分は本発明範囲または本発明での推奨範囲を外れるところである。
【0034】
【表3】
【0035】
後成形性:曲げ性の評価は、曲げ半径(内半径)0.5mmの90°曲げと、曲げ半径(内半径)1.5mmの180°曲げを行い、肉眼および5倍のルーペによる観察で、顕著な皮膜割れが確認されない場合を○、肉眼では見えないがルーペでは皮膜割れが確認できるものを△、肉眼でも皮膜割れが確認できるものを×とした。
また一部の試料に対しては絞り成形での評価も行った。これは、潤滑樹脂フィルムを陽極酸化処理板の表面に密着させて、φ50mmの円筒で、ポンチのRを5mmとして成形深さ20mmまで成形し、成形品R部の皮膜外観を曲げの場合と同様に評価した。
【0036】
全ての発明例で、光沢が抑制された灰色色調が得られ、90°曲げ性も良好であった。ただし、180°曲げでは、本発明範囲内だが膜厚の厚いG7(膜厚5.7μm)が、ルーペ観察で割れが確認され、膜厚4μm未満のそれ以外の発明例は、この180°曲げでも皮膜外観は○であった。
【0037】
一方、低Mn組成のAl−Mn合金B1では、円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子(以後、実施例の説明では「微細粒子」と呼ぶ)が少なく、微細粒子の面積率が小となるため、L値大で色が薄く、反射率大であった。高Mn組成のAl−Mn合金B2の場合、円相当径1.0μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子(以後、実施例の説明では「粗大粒子」と呼ぶ)の面積率が大となり、曲げでの皮膜割れが顕著となった。高Si,高Fe組成のAl−Mn合金B3の場合、粗大粒子面積率が大となり、曲げ性が不良になるとともに、黄色味がついた皮膜となった。
低Mn組成のAl−Mn−Mg合金B4は、微細粒子が少なく、微細粒子の面積率が小となるため、皮膜色調が薄く、反射率が大となった。高CrのAl−Mn−Mg合金B5では、粗大粒子の面積率が大となり、皮膜が黄色がかるとともに、曲げでの皮膜割れが確認された。高ZrでCuも高めのAl−Mn−Mg合金B6の場合、粗大粒子の面積率が大となったため、曲げでの皮膜割れが確認され、やや色味のついた灰色色調となった。高VのAl−Mn−Mg合金B7では、粗大粒子の面積率が大きくなったため、曲げによる皮膜割れが目立った。
析出物を形成するための加熱が低温であったB8では、基材に0.52%という高い濃度の固溶Mnが残留(同一組成で適切な加熱のG1では固溶Mnは0.15%であった)したため、微細粒子の面積率が小さく、L値が大きくなり、赤色味が乗った色調となった。加熱が高温のB9の例では、微細粒子が少くかつ微細粒子面積率が小で、粗大粒子面積率が大となり、色調が薄く、曲げによる割れが認められた。
膜厚が規定より薄いB10では、皮膜の色が薄く灰色とならず、反射率も高かった。
規定を超えた膜厚のB11は、L値が小さく灰色でなく黒色となり、曲げによる皮膜割れが観察された。
なお、曲げで皮膜割れの無かった発明例G6は絞り成形でも皮膜割れは観察されなかったが、曲げで皮膜割れの観察された比較例B2とB11は絞り成形でも皮膜割れが観察された。
この様に、本発明の範囲を外れたものは、光沢の抑制、灰色色調、曲げ性の少なくとも一つが達成されない。
【0038】
【発明の効果】
本発明のように、合金成分、析出物の状態および陽極酸化皮膜厚を制御することにより、薄膜でも灰色を呈する光沢が抑制された陽極酸化処理板が得られ、後成形しても皮膜割れが生じにくいので、電気機器用の筐体、建築部材、文具などのケース等の成形用素材としての用途範囲が広がる。
Claims (4)
- 基材が、0.9〜2.0%(mass%、以下同じ)のMnを含有し、不純物としてのFeを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、残部がAlとその他不可避的不純物からなる組成のAl−Mn系合金板材であり、基材中に円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上でかつ円相当径1.0μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きく、表面に厚さ0.7〜7.0μmの陽極酸化皮膜が形成され、60°鏡面反射率が52%以下の光沢が抑制された灰色を呈することを特徴とする後成形性良好なアルミニウム合金陽極酸化処理板。
- 基材が、0.9〜2.0%のMnおよび0.05〜6.0%のMgを含有し、不純物としてのFeを0.20%以下、Siを0.13%以下に規制し、残部がAlとその他不可避的不純物からなる組成のAl−Mn−Mg系合金板材であり、基材中に円相当径0.03〜1.0μmのAl―Mn系金属間化合物粒子が106個/mm2以上分散し、その面積率が1.8%以上でかつ円相当径1μmを超えるサイズのAl―Mn系金属間化合物粒子の面積率より大きく、表面に厚さ0.7μm〜7.0μmの陽極酸化皮膜が形成され、60°鏡面反射率が52%以下の光沢が抑制された灰色を呈することを特徴とする後成形性良好なアルミニウム合金陽極酸化処理板。
- 基材が、さらに0.003〜0.10%のTi、0.01〜0.15%のCr、0.01〜0.30%のZr、0.05〜0.30%のVの一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1〜2の後成形性良好なアルミニウム合金陽極酸化処理板。
- 陽極酸化皮膜厚が、0.7μm以上4.0μm未満であることを特徴とする請求項1〜3の後成形性良好なアルミニウム合金陽極酸化処理板。
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