JP2004330725A - インクジェット記録紙及び製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】現状の紙を基材とするキャスト光沢紙は、塗工層強度などのインクジェット記録紙として要求される基本性能が不十分であり、さらに「インク吸収性と光沢」の両立が、未だ達成できていないと判断した。そこで、本発明は「インク吸収性と光沢」を両立可能な、ひび割れのない多孔質インク受容層を有するキャスト光沢紙を提供することを目的とした。
【解決手段】原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に顔料と、架橋された電子線硬化成分を含むキャスト仕上げされたインク受容層を有するインクジェット記録紙であって、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下であることを特徴とするインクジェット記録紙。
【選択図】なし
【解決手段】原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に顔料と、架橋された電子線硬化成分を含むキャスト仕上げされたインク受容層を有するインクジェット記録紙であって、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下であることを特徴とするインクジェット記録紙。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、目視外観や光沢が良好で、かつ高品質のフルカラー画像印刷に好適なインクジェット記録紙に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまでにコンピューターなどの出力用として、ワイヤードット記録方式、感熱発色記録方式、溶融熱転写記録方式、昇華記録方式、電子写真方式、インクジェット記録方式などの種々の方式が開発されている。中でもインクジェット記録方式は、記録用シートとして普通紙を使用できること、ランニングコストが安価なこと、ハードウェアがコンパクトで安価なことから、パーソナルユーズに適した記録方式として認知され、近年、プリンターの販売台数を急速に伸ばしてきた。その普及に伴ってハードウエアの改良も進み、フルカラー化や、高速化、高画質化が急速に進展したため、出力用途も単純なモノクロ文字出力から銀塩写真の代替えとなるデジタル画像出力までに拡大しつつあり、必然的に記録紙側に要求される品質も厳しくなってきた。
【0003】
現在市販されているインクジェット記録紙の中でも、銀塩写真調のフルカラー画像を出力できるメディアとして、光沢紙の販売量が増加傾向にある。これらの中でも、特に紙を基材とする光沢紙は、紙基材自体もインクを吸収できるため高品位の印字画像が得られやすく、材料費が比較的安価で済むため、今後も手軽な光沢紙としての一翼を担うものと期待される。一般にキャスト光沢紙と呼ばれる、このタイプの光沢インクジェット記録紙は、紙基材上に設けた一層以上のインク吸収層にキャスト仕上げされた光沢層を設けて製造される。キャスト光沢紙の製造技術においては、如何にして「インク吸収性と光沢」の両立を計るかが重要な鍵となっている。
【0004】
キャスト光沢紙の製造法に関しては、ウェット法、リウェット法、凝固法などの技術が提案されている。具体的な例としては、顔料と接着剤を主成分とする下塗り塗被層を設けた原紙上に、ガラス転移点が適当な重合体樹脂並びにコロイダルシリカなどを含有するキャスト用塗工層を塗布後、該塗工層が湿潤状態にある内に加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して製造する手法が挙げられる(例えば、特開平10−6639号公報:特許文献1参照)。しかし、この方法で製造されるキャスト層は、インクを吸収または通過させるために必要な「塗工層の空隙」を確保するために、成膜性物質である重合体樹脂を含む塗工層を、完全には成膜していない状態でキャスト仕上げされているため、キャスト層の表面には図1に示すような連続的な「ひび割れ」が存在する。それ故に、塗工層の目視光沢感はそれほど高くならない。更に、画像保存性が高いために近年需要が増加してきた顔料インクを搭載したインクジェットプリンターで該キャスト光沢紙に出力した場合は、塗工層のひび割れの部分で印字部の顔料インクの層もひび割れてしまうため、印字画像が大きく破綻してしまう。しかし、このひび割れはインクをキャスト層の下に設けられた下塗り層、もしくは原紙に導く重要な役割がある。もし、塗工層のひび割れを無くすために該キャスト層を完全に成膜させてしまうと、当然のことながらインク吸収能力が不十分となって画像の破綻を招いてしまう。
【0005】
実際には、現在市販されているほとんどのキャスト光沢紙の表面に、図1のような連結した連続的な「ひび割れ」が存在している。これは、キャスト光沢紙のひび割れ制御が非常に困難であるか、もしくはインク塗出量の多い銀塩写真調インクジェットプリンターに対応するためには、ひび割れによるインク吸収能力に頼らざるを得ない状況を物語っている。
【0006】
しかしながら「インク吸収性と光沢」を両立して高品位の印字画像を得るためには、ひび割れのない平滑な塗工層で充分なインク吸収能力を確保することが必須である。この要求は、高細孔容積の微細顔料を最小量のバインダー樹脂で固めて非常に多孔質なインク受容層を作り、該塗工層に平滑化処理(キャスト処理)を施せば、達成することができる。しかし、高細孔容積の微細顔料は細孔径も非常に小さいため、塗工後の乾燥工程で毛管力による受容層のひび割れが生じ易い。吸水性のある紙基材上では乾燥過程の塗工層中の水分蒸発過程がより複雑化するため、更にその制御が難しくなる。加えて、塗工層にキャスト処理を施すためには、処理によって塗工層がひび割れたり、必要以上に潰れてしまわないための強度や、平滑面から塗工層を速やかに剥がすための離型性も必要となってくる。
【0007】
キャスト処理前の塗工層の強度を上げるには凝固法が適しているが、中でも多くの提案がなされているのが、ポリビニルアルコールとホウ素化合物のゲル化反応を利用するものである(例えば、特開2001−287442号公報:特許文献2参照)。このゲル化反応は、塗工層に必須なバインダー成分として利用可能なポリビニルアルコールと、他のゲル化剤に比べ少量で高ゲル強度が期待できるホウ素化合物により実施できるため、塗工層のインク吸収を担う空隙をゲル化剤で埋めてしまう心配がほとんどない。但し、ホウ素化合物とポリビニルアルコールは非常に反応性が高いため、両者を共存させた塗料は経時的に増粘して塗工性が悪化しやすい。その対策として、ホウ素化合物を含む硬膜液を無機微細顔料とポリビニルアルコールを含む塗料とは別途に調整し、塗工直前に混合したり、後から塗工するなどの手段が提案されているものの、実際にはその反応制御がかなり難しい(例えば、特開2001−80207号公報:特許文献3、並びに特開2002−293004号公報:特許文献4参照)。また、ホウ素化合物のゲル化反応により硬膜した多孔質顔料層は非常に脆くなるため、乾燥後の塗膜が折り曲げなどの軽度な変形や温湿度の環境変化で容易にひび割れてしまうことが多い。本発明者らが検討したところ、特に高温高湿度の環境に長時間曝されると、ホウ素化合物によるポリビニルアルコールの架橋がさらに進行するためか、塗膜に無数のひび割れが発生することが確認された。逆に、低湿環境下に長時間曝した場合も、塗工層に含まれる調湿水分が減少するため、塗工層が脆くなり軽度の変形でひび割れやすくなった。これらの欠点を克服するために、有機系架橋剤と併用することでホウ素系化合物の使用量を低減することも提案されている(例えば、特開2001−146068号公報:特許文献5参照)。しかし、有機系架橋剤の反応速度はホウ素化合物のゲル化反応に比べて遅く、必要な温度も高温であるため、実際の生産ライン上でキャスト処理前に十分な反応を進めることは、ほぼ困難である。従って、代替え品への置き換えでホウ素化合物の使用量を大幅に削減することは実質的に不可能である。
【0008】
更に、ホウ素化合物に関しては2001年の水質汚濁防止法の施行令改正により排水規制物質の対象とされるなど、その有害性に懸念点があるため、銀塩写真の代替えとして一般家庭に普及が拡大している記録紙の材料としては、使用しないことが望ましい。
【0009】
【特許文献1】
特開平10−6639号公報(第2頁、請求項1、第3頁)
【特許文献2】
特開2001−287442号公報(第2頁、請求項4)
【特許文献3】
特開2001−80207号公報(第2頁、請求項1)
【特許文献4】
特開2002−293004号公報(第2頁、請求項3)
【特許文献5】
特開2001−146068号公報(第2頁、請求項2)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
これらの状況を鑑みた結果、本発明者らは、現状の紙を基材とするキャスト光沢紙は、塗工層強度などのインクジェット記録紙として要求される基本性能が不十分であり、さらに「インク吸収性と光沢」の両立が、未だ達成できていないと判断した。そこで、本発明は「インク吸収性と光沢」を両立可能な、ひび割れのない多孔質インク受容層を有するキャスト光沢紙を提供することを目的とした。
【0011】
【発明が解決するための手段】
本発明は下記の態様を含む。
[1] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に顔料と、架橋された電子線硬化成分を含むキャスト仕上げされたインク受容層を有するインクジェット記録紙であって、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下であることを特徴とするインクジェット記録紙。
[2] 40℃、相対湿度90%の環境に48時間保持した後も、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下であることを特徴とする[1]に記載のインクジェット記録紙。
[3] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に顔料と、架橋された電子線硬化成分を含むキャスト仕上げされたインク受容層を有するインクジェット記録紙であって、キャスト層が平均粒径1μm以下の微細顔料を含み、細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積が0.2〜2.0ml/gの多孔質層であることを特徴とするインクジェット記録紙。
[4] 該微細顔料がシリカ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする[3]に記載のインクジェット記録紙。
[5] キャスト層中にホウ素化合物を含まないことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
[6] ISO 8254−1に基づいて測定した75度光沢が30以上である[1]〜[5]のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
[7] 電子線硬化成分が、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、カゼイン、及びこれらの水溶性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性樹脂であることを特徴とする[1]〜[6]に記載のインクジェット記録紙。
[8] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙の透気度が、JISP8117に基づいてガーレー高圧型透気度試験機で測定した値で、200秒/100ml以下であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
[9] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に、顔料と電子線硬化性成分を含有する水性塗料からなる塗工層を形成し、ついで電子線を照射して該塗工層をハイドロゲル化させた後、湿潤状態にある該塗工層に加熱された鏡面ドラムを圧接して乾燥して仕上げたことを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のインクジェット記録紙の製造方法。
[10] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に、顔料と電子線硬化性成分を含有する水性塗料からなる塗工層を形成し、ついで電子線を照射して該塗工層をハイドロゲル化させた後、湿潤状態にある該塗工層に加熱された鏡面ドラムを圧接して乾燥して仕上げることを特徴とするインクジェット記録紙の製造方法。
[11]インク受容層に含まれる電子線硬化成分が、電子線照射により架橋されていることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
【0012】
本発明者らは、紙を基材とするひび割れのないキャスト光沢紙を開発するため、特開2002−160439号公報で提案した「乾燥前の塗工層を電子線照射によりハイドロゲル化する技術」を応用することを検討した。
特開2002−160439号公報は、
「基材上に一層以上の塗工層を有するインクジェット記録体において、少なくとも一層が、(a)平均粒径が1μm以下で細孔容量が0.4〜2.5ml/gの微細顔料と、(b)ラジカル重合性の不飽和結合を有さず、かつ水溶液に電子線を照射することによりハイドロゲルを形成する親水性樹脂とを、前記(a)100重量部に対して、前記(b)1〜100重量部の割合で含有する水性塗料を塗布し、ついで電子線を照射して該塗布層をハイドロゲル化させたのち乾燥して形成した多孔質のインク受容層であるインクジェット記録体。」を開示している。
【0013】
前記の技術を用いて紙基材上に形成したハイドロゲル化塗工層は、非常に高ゲル強度となり、加熱された鏡面ドラムに圧接し、キャスト処理を施しても塗工層が壊れることがなかった。しかも、該塗工層は水分を多く含んでいて適度な変形は可能であるため、加熱された鏡面ドラムに圧接した状態で乾燥すると平滑なキャスト層が得られた。この際、電子線照射によりハイドロゲル化された該塗工層はバインダー樹脂が3次元網目構造となっているため粘着性が低く、通常のキャスト処理では必須とされる離型剤を使用しなくても、問題なくキャスト層を鏡面から剥離することが出来た。以上の工程により、高いインク吸収性能を得るために紙基材上に非常にひび割れやすい多孔質塗工層を積層する場合でも、ひび割れを起こさずにキャスト処理を施すことが可能となった。
【0014】
このキャスト光沢紙は、ひび割れのない平滑なキャスト塗工層を有しているため光沢が高い。加えて、インク吸収性に優れた塗工層を有していながら、容易な方法で製造出来るため、生産性も高い。また、基材に安価な紙を用い、塗料にも特にゲル化剤を必要としてはいないため、材料コストも抑えられる。ゲル化剤に関しては、近年規制が強化されつつあるホウ素化合物や、活性の高い有機系架橋剤、紫外線硬化剤等、安全性が懸念される材料も多いため、それらを必要としない本発明のキャスト光沢紙は、安全性の面で優位性がある。また、本発明のキャスト層は、電子線照射により水分を多量に含む状態でゆとりある架橋構造が形成されるためか、ホウ素化合物による架橋塗膜の様に脆弱ではない。従って、乾燥後の塗工層が軽度な折り曲げなどの変形や環境変化で、容易にひび割れることも無かった。さらに、キャスト層や基材に望ましい材料を検討し、目標とした要求品質を実現できることを見出し、本発明を完成した。
本発明のキャスト光沢紙に、一般に銀塩写真の代替え出力用として用いられる染料インクを搭載したフォトインクジェットプリンターで印字すると、高精細の鮮やかな画像が得られた。更に、高保存性を有するが画像が破綻しやすい顔料インク搭載のプリンターで印字した場合でも、ひび割れのない均質なキャスト層の上に、ひび割れのない良好な画像を得ることができた。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明で用いる原紙としては、特に限定されるものではなく、一般の塗工紙に使用される酸性紙、あるいは中性紙等の紙基材が適宜使用される。また透気性を有する樹脂シート類も用いることができる。紙基材は木材パルプと必要に応じ含有する顔料を主成分として構成される。
木材パルプは、各種化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ、合成パルプ等を使用することができ、これらのパルプは、紙力、抄紙適性等を調整するために、叩解機により叩解度を調整できる。パルプの叩解度(フリーネス)は特に限定しないが、一般に250〜550ml(CSF:JIS P−8121)程度である。紙送り歯車の傷を軽減するには叩解度を進めるほうが望ましいが、用紙に記録した場合にインク中の水分によって起こる用紙のボコツキや記録画像のにじみは、叩解を進めないほうが良好な結果を得る場合が多い。従ってフリーネスは300〜500ml程度が好ましい。
顔料は不透明性等を付与したり、インク吸収性を調整する目的で配合し、炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、タルク、シリカ、酸化チタン、ゼオライト、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等が使用できる。特に焼成カオリン、シリカ、ゼオライトは、インク中の溶媒を吸収するため、好適に使用される。この場合、配合量は1〜20質量%程度が好ましい。多すぎると紙力が低下するおそれがある。また、前述の紙送り歯車の傷も付き易くなる。従って灰分として3〜15質量%程度がさらに好ましい。
【0016】
助剤としてサイズ剤、定着剤、紙力増強剤、カチオン化剤、歩留り向上剤、染料、蛍光増白剤等を添加することができる。さらに、抄紙機のサイズプレス工程において、デンプン、ポリビニルアルコール類、カチオン樹脂等を塗布・含浸させ、表面強度、サイズ度等を調整できる。サイズ度(100g/m2の紙として)は1〜200秒程度が好ましい。サイズ度が低いと、塗工時に皺が発生する等操業上問題となる場合があり、高いとインク吸収性が低下したり、印字後のカールやコックリングが著しくなる場合がある。より好ましいサイズ度の範囲は4〜120秒である。基材の坪量は、特に限定されないが、20〜400g/m2程度である。
【0017】
本発明のキャスト層を設ける原紙上に、下塗り層を設けてもよい。下塗り層は、インクの吸収容量や吸収速度を高める(特にインク成分中の溶媒を速やかに吸収する)、原紙の表面を平滑化する、記録紙や印字画像の色調を調整する、印字画像の保存性を向上させるなど種々の目的に応じて、処方や構成を決定する。但し、キャスト層を積層することを考慮すると、下塗り層を設けた原紙の状態で、JIS−P8117に基づいてガーレー高圧型透気度試験機で測定した透気度が200秒/100ml以下(値が低い方ほど透気性が良い)にあることが望ましい。因みに、200秒/100mlを越えるとインクジェット記録時のインクの吸収性が低下するのみならず、キャスト操業性も低下する傾向にある。
【0018】
下塗り層を設けた原紙の透気度を所望の範囲内とするためには、下塗り層を主に顔料と接着剤となる樹脂で構成し、多孔質層を形成することが好ましい。また、特に限定されるものではないが、塗工工程の作業性や積層するキャスト層との親和性を考慮すると、水系塗料が好適である。
下塗り層用の顔料としては、カオリン、クレー、焼成クレー、非晶質シリカ(無定形シリカともいう)、合成非晶質シリカ、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、アルミナ、コロイダルシリカ、ゼオライト、合成ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等、一般塗工紙製造分野で公知公用の各種顔料が1種もしくはそれ以上を併用することが出来る。
これらの中でも、インク吸収性の高い合成非晶質シリカ、アルミナ、ゼオライトを主成分として含有させるのが好ましい。これらの顔料(主成分として使用するもの)の平均粒子径(凝集顔料の場合は凝集粒径)は1〜20μm程度が好ましく、より好ましくは2〜10μm、さらに好ましくは3〜8μmである。1μm未満であるとインク吸収速度向上の効果に乏しくなり、20μmを超えて大きいとキャスト層を設けた後での平滑性や光沢が不十分となる恐れがある。ただし、インク吸収性を調整したり、下塗り層上に積層するキャスト層用塗料の浸透を制御する目的で、副成分として粒子径の小さい顔料を配合することができる。この様な顔料としてはコロイダルシリカ、アルミナゾル、或いは後述するキャスト層に含有させるシリカ微細粒子等が挙げられる。
【0019】
下塗り層の接着剤となる樹脂としては、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、等一般に塗工紙用として用いられている従来公知の接着剤が単独、あるいは併用して用いられる。顔料と接着剤の配合割合は、その種類にもよるが、一般に顔料100質量部に対し接着剤1〜100質量部、好ましくは2〜50質量部の範囲で調節される。その他、一般塗工紙の製造において使用される分散剤、増粘剤、消泡剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。下塗り層中には蛍光染料、着色剤を添加することもできる。
【0020】
下塗り層中には、インクジェット記録用インク中の着色剤(染料または着色顔料)成分を定着させ、印字耐水性や高温高湿下での印字画像保存性を向上させる目的で、カチオン性化合物を配合することもできる。但し、インク中の着色剤はできるだけ表面に近い部分に定着させた方が、印字(記録)濃度が高くなるため好ましい。このためには、下塗り層中のカチオン量は、上層に積層するキャスト層中のカチオン量よりも少ない方が好ましい。カチオン量とは、各層に含まれるカチオン基の総量を指し、具体的には、各層に含まれるカチオン樹脂量にカチオン強度を掛けたものを指す。カチオン強度は、広くコロイド滴定法や流動電位法等により測定されているが、後者の流動電位法が測定の個人差が少なく、望ましい。カチオン強度の単位はミリ当量/gで表されるため、カチオン量の単位はミリ当量/層で表される。尚、カチオン性化合物配合の効果は、着色剤がアニオン性である場合特に有効である。
【0021】
また、下塗り層中には、コロイダルシリカ及び/またはエチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させてなる重合体樹脂、或いは、コロイダルシリカとエチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させてなる重合体樹脂との複合体を含有させると、光沢がより発揮される。この理由は必ずしも明らかではないが、前記重合体樹脂或いは複合体の存在が、下塗り層のインク吸収性を維持したまま、キャスト層用塗料の下塗り層への浸透を抑制するためと推定される。エチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させてなる重合体樹脂としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアルキル基炭素数が1〜18個のアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のアルキル基炭素数が1〜18個のメタクリル酸エステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、エチレン、ブタジエン等のエチレン性モノマーを重合して得られる重合体が挙げられる。なお、重合体は、必要に応じて2種類以上のエチレン性モノマーを併用した共重合体であっても良いし、さらに、これら重合体あるいは共重合体の置換誘導体でも良い。因みに、置換誘導体としては、例えばカルボキシル基化したもの、またはそれをアルカリ反応性にしたもの等が例示される。
また、下塗り組成物中に架橋剤を添加したり、自己架橋型のエマルジョンを用いたりして下塗り層の耐水性を高めると、上層(キャスト層)の塗工性が向上するため好ましい。
【0022】
上記材料をもって構成される下塗り層用組成物は、一般に固形分濃度を5〜50質量%程度に調整し、紙基材上に乾燥質量で2〜60g/m2、好ましくは5〜40g/m2程度、更に好ましくは10〜20g/m2程度になるように塗工する。塗工量が少ないと、インク吸収性改良効果が充分に得られなかったり、上層(キャスト層)を設けた際に光沢が十分に出ない恐れがあり、多いと、印字濃度が低下したり、塗工層の強度が低下し粉落ちや傷が付き易くなる場合がある。下塗り層用組成物は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ブラシコーター、チャンプレックスコーター、バーコーター、リップコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、スライドコーター等の各種公知公用の塗工装置により塗工、乾燥される。さらに、必要に応じて下塗り層の乾燥後にスーパーキャレンダー、ブラシ掛け等の平滑化処理を施すこともできる。但し、下塗り層の乾燥を実施しない、もしくは完全には乾燥していない状態で連続してキャスト層用塗料の塗布を行っても良い。
【0023】
原紙もしくは上記の如き手法で下塗り層を設けた原紙は、そのままの状態でキャスト層用塗料を塗布することもできるが、キャスト層の密着性増強、サイズ度、濡れ性、カール矯正など種々の目的に応じて、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、水、サイズ剤、界面活性剤等の薬液塗布など各種処理を施しても良い。これらの処理は、キャスト層の塗工前に実施しておいても良いし、処理と塗工工程を連続して実施しても良い。また、下塗り層や界面活性剤塗布、洗浄処理などの溶媒を使用する処理は、乾燥を行なわずにインク受容層(キャスト層)の塗工工程に移行しても良い。
【0024】
本発明のキャスト層に供される顔料としては、特に限定されるものではないが、市販の顔料、例えばシリカ、アルミノシリケート、ゼオライト、カオリン、クレー、焼成クレー、酸化亜鉛、酸化錫、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミナ、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等、一般塗工紙の分野で公知の各種顔料が挙げられる。これらの顔料の中でも、特に粒径が小さく、細孔容積が大きい微細顔料は、毛細管現象により素早くインクを吸収できる多孔質のインク受容層が形成できるため、非常に好ましい。シリカ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミナは細孔容積が大きい顔料であり、その値は0.4〜2.5ml/gの範囲であり好適に用いられる。
また、顔料の平均粒径は1μm以下であると、インク吸収性に優れ、透明性、光沢性にも優れる塗工層(キャスト層)が得られるため、より好ましい。ここで平均粒径とは動的光散乱法によって測定した粒径(キュムラント法で求められる値)である。
【0025】
特にシリカは細孔容積が大きいためキャスト層として用いるのに最も適している。シリカにはケイ酸アルカリ塩を原料とする湿式法シリカと、四塩化珪素などの揮発性珪素化合物を火炎中で分解する乾式法シリカがあるが、いずれも好ましい。好適なシリカの細孔径100nm以下の細孔容積は0.4〜2.5ml/gである。また、一般にコロイダルシリカと呼ばれるシリカもあるが、これは通常、ケイ酸アルカリ塩水溶液をイオン交換樹脂で処理して活性ケイ酸水溶液を製造し、アルカリを添加して活性ケイ酸水溶液を安定化したのち、加熱して微細なシリカが単分散した液(シード液)を作り、ケイ酸水溶液を徐々に添加して該シリカ微粒子を成長させて製造されるものであり、これも本発明に使用することができる。但し、コロイダルシリカは製造方法からわかるように、シリカ粒子は二次粒子を形成していないため細孔径100nm以下の細孔容積は0.2〜0.3ml/gの範囲であり、キャスト層に用いるにはインク吸収量が多少少ない。
【0026】
高光沢、高透明性のキャスト層を得るためには平均粒径1μm以下の微細顔料を使用するのが好ましいが、中でも、その微細顔料が平均粒径3〜60nmの一次粒子が凝集してなる平均粒径20〜800nmの二次粒子であるとより好適である。特に二次粒子の粒径は、より好ましくは30〜700nm、最も好ましくは40〜500nmである。このような二次粒子は二次粒子内部に空隙があるので細孔容積が大きい。さらに二次粒子間の空隙もインク吸収に利用できるためインク吸収能力が高い。また一次粒子は光の波長に比べて充分小さいので二次粒子を形成していない顔料と比較して光の散乱能力が小さく、キャスト層の透明性が高くなる利点がある。顔料の一次粒子径や二次粒子径が小さすぎるとインク吸収に寄与する空隙を形成し難くなるため、受容層のインク吸収性が劣る恐れがある。逆に、一次粒子径や二次粒子径が大きすぎると記録層の透明性が低下し、高印字濃度を得にくい恐れがある。また、二次粒子径が大きすぎると、受容層の光沢が低下するだけでなく、表面のざらつきや、粉落ちの原因となるおそれがある。なお、本発明でいう顔料の一次粒子径はすべて電子顕微鏡(SEM及びTEM)で観察した粒径(マーチン径)である(「微粒子ハンドブック」、朝倉書店、p52参照)。また、二次粒子径は、動的光散乱法によって測定した粒径である。
【0027】
また、インク吸収能の高いキャスト層を得るためには、使用する微細顔料の細孔容積は高いほうが好ましいが、0.4〜2.5ml/gが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0ml/gであり、更に好ましくは0.6〜1.9ml/g、最も好ましくは0.7〜1.8ml/gである。この細孔容積はガス吸着法による比表面積・細孔分布測定装置を用いて求めた値であり、細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積である。
【0028】
これらの微細顔料の製造方法は特に限定されないが、その手段の一つとして市販の顔料(数μm〜数十μm)に機械的手段で強い力を与えることにより粉砕、分散して得る方法が挙げられる。つまり、breaking down法(塊状原料を細分化する方法)によって得られるものである。機械的手段としては、超音波ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザー、ナノマイザー、高速回転ミル、ローラーミル、容器駆動媒体ミル、媒体攪拌ミル、ジェットミル、サンドグラインダー等の機械的手法が挙げられる。得られる微細顔料はコロイド状であっても、スラリー状であっても良い。その他の好ましい微細顔料の製造方法として、特開平5−32413号公報や特開平7−76161号公報などに開示されている金属アルコキシドの加水分解による方法が挙げられる。
【0029】
最も好ましい微細顔料は、活性ケイ酸を縮合して製造され、平均二次粒子径が1μm以下で、細孔径100nm以下の細孔容積が0.4〜2.5ml/gの微細シリカである。このような微細シリカとして特開2001−354408号公報において開示されている微細シリカが好ましい。
「窒素吸着法による比表面積が300m2/g〜1000m2/gで、細孔容積が0.4ml/g〜2.0ml/gであるシリカ微粒子がコロイド状に分散した液をシード液とし、該シード液にアルカリを添加したのち、該シード液に対し活性ケイ酸水溶液及びアルコキシシランから選ばれる少なくとも一種類からなるフィード液を少量ずつ添加してシリカ微粒子を成長させることを特徴とする、窒素吸着法による比表面積が100m2/g〜400m2/g、平均二次粒子径が20nm〜300nm、かつ細孔容積が0.5ml/g〜2.0ml/gのシリカ微粒子がコロイド状に分散したシリカ微粒子分散液の製造方法。」
【0030】
特開2001−354408号公報で開示されている活性ケイ酸の縮合による方法は、機械的手段によらずに直接、上記の粒子径や細孔容積を有する微細シリカを製造でき、かつ粒度分布が狭いのでキャスト層の透明度や光沢が良好なので本発明に好ましく用いることができる。ここで活性ケイ酸とは、例えばアルカリ金属ケイ酸塩水溶液を水素型陽イオン交換樹脂でイオン交換処理して得られるpH4以下のケイ酸水溶液をさす。SiO2濃度として1〜6質量%が好ましく、より好ましくは2〜5質量%でかつpH2〜4である活性ケイ酸水溶液が望ましい。アルカリ金属ケイ酸塩としては、市販工業製品として入手できるものでよく、より好ましくはSiO2/M2O(但し、Mはアルカリ金属原子を表す)モル比として2〜4程度のナトリウム水ガラスを用いるのが好ましい。活性ケイ酸の縮合方法としては、熱水に活性ケイ酸水溶液を滴下するか、活性ケイ酸水溶液を加熱してシード粒子を生成させ、分散液が沈殿を生じる前、若しくはゲル化する前にアルカリを添加してシード粒子を安定化し、次いで該安定状態を保ちながら活性ケイ酸水溶液をシード粒子に含まれるSiO21モルに対してSiO2に換算して0.001〜0.2モル/分の速度で添加してシード粒子を構成する各一次粒子を成長させたものが好ましい。平均二次粒子径は1μm以下であり、好ましくは20nm〜800nm、最も好ましくは30nm〜700nmである。尚、この平均二次粒子径は動的光散乱法を採用した粒度計で測定し、キュムラント法で解析した値である。
【0031】
一次粒子径については特に限定されないが、好ましくは直径5nm〜60nmである。ただし、該微細シリカはシリカ一次粒子が化学結合して二次粒子を形成しているため、一次粒子の直径を正確に求めることは困難である。このため一次粒子の平均粒子径の尺度として窒素吸着法による比表面積を採用すると、好ましい比表面積は50m2/g〜500m2/gである。比表面積がこの範囲よりも小さい場合には、光散乱が強くなり、乾燥塗膜の透明性が低下する。ひいては印字濃度が低下する。一方、比表面積が上記範囲よりも大きい場合には、塗工液がゲル化を起こしやすくなり、作業性を損ねる恐れがある。また、バインダーと混合して乾燥塗膜を作成する場合にひび割れが起こり易くなり、良好な塗膜が得られにくくなる恐れがある。より好ましくは100m2/g〜400m2/g、更に好ましくは150m2/g〜350m2/gである。尚、凝集していない真球状シリカ粒子の場合、一次粒子径(nm)=2720/比表面積(m2/g)の関係が成立するが凝集粒子の場合でも近似的にはこの関係が成立する。
【0032】
本発明に用いる電子線硬化性成分としては、水性塗料中に溶解もしくは分散した状態で電子線を照射されると、重合反応や架橋反応のように分子量が増加する反応を起こし、塗料をハイドロゲル化する性質を有している物質であれば、特に種類を限定されるものではない。一例として、一般的に電子線硬化型樹脂と言われる分子末端或いは側鎖にアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有するポリマーまたはオリゴマーがあり、それらの中にはポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエポキシ系、ポリエーテル系がありいずれも使用できる。また1分子の中に複数のアクリロイル基またはメタクリロイル基を含むモノマーも使用でき、上記の電子線硬化性ポリマーまたはオリゴマーと混合して使用しても良い。
【0033】
その他にも、ラジカル重合性の不飽和結合は有さないが、水溶液に電子線を照射することによりハイドロゲルを形成する親水性樹脂も電子線硬化性成分として用いることができる。これらの具体例としては、完全けん化ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、カゼイン及びこれらの水溶性誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。水溶性誘導体には、カチオン変性品、アニオン変性品や、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの官能基を例えばエステル化、エーテル化、アミド化して化学修飾した誘導体、グラフト重合によって他の側鎖を導入した重合体を例示できる。
また、水溶性誘導体には前記各樹脂の構成単位を含む共重合体も含まれる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリル酸などを構成するビニルモノマーからなる共重合体、また、これらのモノマーとそれ以外のモノマーを含む共重合体を例示できる。また、これらの樹脂を単独で使用するだけでなく二種類以上混合して用いることもできる。これらの樹脂は汎用の樹脂であるので安価であり、皮膚刺激性も弱く、分子量を選択する事で電子線照射後に得られるゲルの強度も容易に調整できるため、電子線硬化性成分として好適に用いられる。また前記のアクリロイル基またはメタクリロイル基を含む電子線硬化性ポリマー、オリゴマー、及びモノマーよりも親水性が高い点も好ましい点である。これらの樹脂の中でも、扱いやすく種類も豊富である事からポリビニルアルコールが特に好適に用いられる。
【0034】
電子線硬化性成分として前記の特定親水性樹脂を用いる場合、その分子量の最適値は樹脂の種類毎に性状が異なるので一概にいえないが、あまり高すぎると塗料の保存性や塗工性に問題を生じる恐れがある。逆に、分子量が低すぎても、電子線照射によって得られるハイドロゲルのゲル強度が不十分となるため乾燥後の塗膜のひび割れが発生し、記録紙の外観を妨げる恐れがある。分子量の目安としては1万〜500万程度がよく、より好ましくは、5万〜100万である。
【0035】
インクジェットプリンターに用いられるインク中の着色成分である染料や顔料はアニオン性基を有するものが多いため、キャスト層にはカチオン性のインク定着剤を添加することが望ましい。そのため本発明の電子線硬化性成分としてカチオン性のものを使用すると、インク定着剤として機能するため好適である。例えばカチオン性ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルピロリドン、カチオン性水溶性ポリビニルアセタール、カチオン性ポリ−N−ビニルアセトアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリロイルモルホリン、カチオン性ポリヒドロキシアルキルアクリレート、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、カチオン性メチルセルロース、カチオン性ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カチオン性ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン性ゼラチン、カチオン性カゼイン等が挙げられる。インク定着剤は受容層(キャスト層)の中でも表層部分に多く添加すると、インクの発色や耐水性により効果的である。従って、本発明を利用して多層構成の受容層を作製する場合、特に前記カチオン性の電子線硬化性成分を含有する層を最表層のキャスト層として設けると好適である。
【0036】
本発明のインクジェット記録紙のキャスト用塗工層は、溶媒を含んだ状態で電子線を照射される。この塗料中に含まれる溶媒の主成分は水であるが、副成分として各種溶剤を添加することもできる。その場合、比較的沸点が低い、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、アセトン、トルエン、キシレン、ジオキサン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が好適に用いられるがこれらに限定するものではない。また、これらの溶媒を2種類以上混合して使用してもよい。
【0037】
顔料と電子線硬化性成分の配合比は、顔料100質量部に対して、電子線硬化性成分を1〜100質量部混合することが好適である。前述したように電子線硬化性成分としてはラジカル重合性の不飽和結合は有さないが、水溶液に電子線を照射することによりハイドロゲルを形成する親水性樹脂が好ましい。インク吸収の観点から前記電子線硬化性成分は最小量に抑えることが望ましい。また、電子線硬化性成分は受容層(キャスト層)中の微細顔料の周囲に付着して見かけ粒径を増大させる可能性もあるため、受容層(キャスト層)の透明性の観点からも電子線硬化性成分はひび割れが発生しない範囲内で少ないほうが良い。以上の理由から、顔料と電子線硬化性成分の配合比は、さらに好ましくは微細顔料100質量部に対して前記電子線硬化性成分を3〜50質量部、最も好ましくは5〜30質量部である。
【0038】
キャスト層は細孔容積が0.2〜2.0ml/gの範囲になるよう調節することが好ましい。この値は、前述したような適当な細孔容積を有する微細顔料の選択や、電子線硬化性成分の添加量により調節されるものである。キャスト層の細孔容積が0.2ml/g未満の場合、塗工量を多くしないとインクを吸収できないのでインクジェット記録紙が嵩高くなり、製造コストも高くなる。また2.0ml/gを越える細孔容積ではキャスト用層の機械的強度が低下し、受容層(キャスト層)に傷がついたり、剥がれたり、割れたりしやすくなり好ましくない。尚、この細孔容積はガス吸着法による比表面積・細孔分布測定装置を用いて求めた値であり、細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積である。
【0039】
本発明に用いるキャスト層用塗料の好適な固形分濃度は、塗料の組成によって大きく異なるが、塗料が安定かつ塗工可能な範囲内で、より高濃度であることが好ましい。それは、塗料が高濃度である程、電子線照射によって進行する架橋反応の効率が高まるので、ゲル化後の塗工層の強度が上がり、基材との密着安定性が向上するためである。また、塗工層(キャスト層)が顔料を含む場合は、ひび割れ防止効果も高まるため好適である。更に言うまでもなく、乾燥負荷が軽くなる利点もある。しかし、実際には塗料の粘度及び安定性の面で濃度の上限が決まる場合が多い。以上の点を考慮すると、塗料の固形分濃度は、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜25質量%である。
【0040】
主成分以外にも、キャスト層用塗料に他の成分を添加することもできる。これらの添加物自体は、電子線硬化性成分でなくても良い。その一例としては、カチオン性樹脂が挙げられる。カチオン性樹脂の種類も特に限定されるものではないが、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート四級化物、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド四級化物、ビニルイミダゾリウムメトクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、メチルジアリルアミン塩、モノアリルアミン塩、ジアリルアミン塩等のカチオン性を有する構造単位を含む樹脂が挙げられる。その他、アミジン環を有するカチオン樹脂、ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン縮合物、2級アミン・エピクロロヒドリン付加重合物、ポリエポキシアミン等を含むカチオン性樹脂も利用可能である。また、カチオン性物質として、無機塩、有機塩、アルミナゾルなどを配合することも可能である。カチオン性物質の添加により印字の耐水保存性が向上する。
【0041】
その他にも、塗料に消泡剤を添加して塗工時の作業性を向上したり、基材との密着性を高めるために界面活性剤を添加することもできるし、得られる記録紙の貼りつき防止や通紙性向上のため、デンプンや合成樹脂粒子を混合しても良い。また、透明性や表面光沢の調整に、主成分以外の各種顔料を添加することもできるし、例えば印字画像の保存性向上のため、紫外線吸収剤や光安定化剤などの耐光性向上剤を添加することもできる。また、一般的なキャスト光沢紙には必須である離型剤は、離型性が良好な本発明においては必ずしも必要とはしていないが、塗料処方や操業条件によっては添加しても良い。
【0042】
これら添加物の添加方法としては、予め塗料に混合しておいてもよいし、まず塗工層(キャスト層)を形成してから添加物を含む溶液を上塗り、噴霧、含浸するなどの方法で、後から添加しても良い。添加物を塗料に予め添加する場合、添加のショックで塗料がゲル化してしまった時には、機械的手段を用いて再分散させることも有効な手段である。例えば、シリカなどのアニオン性顔料の分散液にカチオン性樹脂を添加すると、両者の静電特性のため塗料は一時的にゲル化するが機械的手段を用いて再分散させれば塗工は可能であり、乾燥後の塗膜中では両者が静電気的に強固に結着しているため、水溶性のカチオン性樹脂が特に架橋されていなくても塗膜の耐水性は充分に保たれる。
【0043】
これらの成分を含有するキャスト層塗料の塗工には公知の塗布装置、例えばバーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーターなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、キャスト用塗工層を高機能化等の目的で多層化した場合、単層塗工を繰り返し行なっても良いが、専用の多層式スロットダイコーター、多層式スライドダイコーター、多層式カーテンコーター等の同時多層塗工装置を使用して同時多層塗工を行なっても良い。
【0044】
キャスト層の塗工量は記録紙の用途によっても大きく異なるため特に限定するものではないが、乾燥後の全塗工層の総塗工量は質量として1〜80g/m2程度が好ましく、さらに好ましくは3〜60g/m2程度である。塗工量が大きすぎると、カールが発生しやすくなるし、コストもかさむので好ましくない。また、電子線照射によって層全体を十分にゲル化させることができなかったり、乾燥が不十分となりがちである。塗工量が1g/m2より少ないとインクの吸収が不十分となる恐れがある。多層塗工の場合の各層塗工量は特に限定はしないが、一層の塗布量があまり少ないと塗工量を制御するのが難しくなり、層構造に乱れが生じやすくなるため注意を要する。
【0045】
また、キャスト層を塗設する側、即ちインクジェットプリンターの印字適性を付与する側は、基材の片面だけでも両面であっても良く、両面の場合もその層構成が異なっていても良い。但し、その場合は、キャスト層を片面に塗設した状態の紙シートの透気度がガーレー高圧型透気度試験機で測定した値で、200秒/100ml以下であることが望ましい。キャスト層が片面のみの場合は、得られるインクジェット記録紙がキャスト層を内側にカールしやすくなるため、反対側の面(裏面)にカール制御を目的とした塗工層や、ポリエチレン系樹脂あるいはポリオレフィン系樹脂等によるラミネート加工を施しても良い。それらカール矯正層を設ける場合の処方や処理厚は、記録紙のカールを考慮して調整する。
【0046】
キャスト用塗工層を電子線を照射することによりハイドロゲル化する。塗料に含まれる電子線硬化成分が架橋して3次元網目構造を形成するためゲル化が起こって塗工層が不動化する。電子線の照射は、塗布後直ちに行なっても良いし、塗工層中に含まれる溶媒の一部を予備乾燥で蒸発させてから行なっても良い。但し、該塗工層表面が乾いて不動化してしまうと、後に続くキャスト処理が十分に実施できなくなるため、過度の乾燥は避ける必要がある。また、塗工工程と電子線照射工程を数回繰り返してからキャスト処理に供しても良い。しかし、生産性を重視するのであれば、キャスト用塗工層を単層もしくは同時多層で一括塗工し、直ちに電子線照射を行なった後、キャスト処理を行なうのがコストや各層の密着性の観点から最も好ましい。
【0047】
本発明における電子線の照射方式としては、例えばスキャニング方式、カーテンビーム方式、ブロードビーム方式などが採用され、電子線を照射する際の加速電圧は50〜300kV程度が適当である。電子線の照射量は1〜200kGy程度の範囲で調節するのが好ましい。1kGy未満では塗工層をゲル化させるのに不十分である恐れがあり、200kGyを越えるような照射は基材や塗工層の劣化や変色をもたらす恐れがある。また、電子線を照射する環境下に酸素が存在するとオゾンが発生する副反応が進行しやすいため、窒素ガスなどで酸素を追い出した雰囲気下で電子線照射を実施することが望ましい。
【0048】
本発明においては、この電子線照射工程により、特にゲル化剤等を必要とせずにキャスト前の塗工層強度を向上できるため、材料コストが抑えられる。また、ゲル化剤に関しては、近年規制が強化されつつあるホウ素化合物や、活性の高い有機系架橋剤、紫外線硬化剤等、安全性が懸念される材料も多いため、それらを必要としない安全性の面からも、好適である。更に、本発明の架橋反応は電子線照射により瞬時に進行するため、水分を多量に含む状態でゆとりある架橋構造が形成された後、過剰に架橋反応が進行することが無い。従って、ホウ素化合物による架橋の様に過剰に架橋反応が進行して塗膜が脆弱化し、乾燥後の軽度な折り曲げなどの変形や環境変化で、塗工層が容易にひび割れることも無い。
【0049】
ハイドロゲル化したキャスト用塗工層は、湿潤状態にあるうちに加熱された鏡面ドラムに圧接してキャスト処理を行なう。具体的には、該塗工層が加熱した光沢ロールに接するようにプレスロールでプレスすることにより、圧接、乾燥し、光沢ロールから離型して加熱された鏡面ドラムを写し取るドラムキャスト法が好適に利用できる。キャスト処理には、電子線照射によりハイドロゲル化した該塗工層はそのまま供しても良いし、必要に応じて該塗工層のキャスト処理を妨げない範囲で、各種物質を溶解もしくは分散した溶液を該塗工層に公知の塗工方法で塗布してからでも良い。後者の場合、キャスト処理によるプレス圧がかかるため、新たに添加される溶液の実質的塗布量は非常に少量となるが、塗工層表面に高濃度に分布させたい添加剤や光沢感の調整剤等の塗布に好適に利用できる。
キャスト処理工程での乾燥は、必ずしも完全に行なう必要はない。キャスト用塗工層中の水分が下塗り層や原紙に移行し、キャスト用塗工層中の固形分濃度が上昇して、その表面が変形に耐えられる強度を得た時点で鏡面ドラムから剥離しても良い。その後、原紙を含む各層に残留する過剰水分を、乾燥ゾーンで別途乾燥することも可能である。
【0050】
ドラムキャスト法における光沢ロールの表面温度は、乾燥条件等の操業性、キャスト層表面の光沢性から70〜150℃の範囲が好ましく、80〜110℃の範囲がより好ましい。光沢ロールの表面温度が、70℃未満の場合は、乾燥速度が遅くなるため操業性が悪化するだけでなく、キャスト層中の細孔が潰れやすくなる懸念があり、150℃を超える場合は、乾燥速度は上がるものの光沢ロール表面に乾いた塗料カスが付着しやすくなり、それが塗工層の欠陥を招く可能性があるため好ましくない。
圧接のためのプレスロールの材質は、光沢ロールとプレスロールに加圧をより均一にするために耐熱樹脂製が好ましい。
光沢ロールとプレスロール間の加圧線圧は、20〜300kg/cmが好ましく、30〜250kg/cmがより好ましい。光沢ロールとプレスロール間の加圧線圧が、20kg/cm未満の場合は、加圧線圧が均一になり難く光沢性が低下するおそれがあり、300kg/cmを超える場合は、インクジェット記録用紙を過度に加圧するために下塗り層およびキャスト層の空隙を破壊するためにインク吸収性が低下するおそれがある。
【0051】
本発明において、光沢ロールから剥離した直後の記録用紙の水分は、その平衡水分より高めになる場合が多い。ベンチスケールでの試験の場合は、常温・常湿でそのまま放置し、平衡水分にしても良い。実機で生産する場合、光沢ロールから剥離した後、ワインダーで巻き取るまでの間に平衡水分に達するような場合には、調湿・乾燥装置は不要である。
しかし、塗布速度が速く、紙水分が高い場合は、前述の通り光沢ロールから剥離してワインダーまでの間に、調湿装置を有する調湿工程または乾燥装置を有する乾燥工程を設置しても良い。調湿または乾燥装置の能力や仕様は、記録用紙が剥離された時点で持っている水分と平衡水分との差および塗布速度により、適宜設定される。記録用紙の水分を平衡水分まで調湿する場合、その水分変化は可能な限り穏やかにするのが好ましい。水分を急激に変化させた場合、塗布層がひび割れたり記録用紙に強いカールが発生する可能性がある。したがって、常温・常湿の空気中で、調湿に十分な時間を確保するのが最良である。塗布速度が速く、または空間的な制約で十分な場所を確保できない場合、常温・低湿の空気を満たしたボックスの中を通すのが良い。それでも不足の場合は、ボックス内の温度を上げ、高温・低湿とする必要がある。
【0052】
本発明のキャスト層には、長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下である。但し、個数は出来る限り少ない方が良く、好ましくは5個以下、より好ましくは1個以下が良い。この際、ひび割れは連結したものもあり形状が複雑なので、長さを表わすためにひび割れを内接する最小円の直径を長さと定義し、図2のような連結しているが長さが100μm以上1mm未満のひび割れは、1個と数える。
このようにキャスト層のひび割れを制御すると、光沢や目視外観に優れ、顔料インク搭載のプリンターで印字した場合でも、ひび割れのない良好な画像を得ることができる。一方、図1のようにひび割れが連結して長さが1mm以上に達しているものは、光沢や目視外観に支障をきたすだけでなく、画質も劣るため、本発明には含まれない。ひび割れの制御はキャスト層に用いる顔料と電子線硬化成分の配合比や電子線照射量で主に決定されるのでそれらを最適に調節することで達成できる。具体的には、電子線硬化成分の配合比は多いほどひび割れ難くなるが、同時にインク吸収性が低下するため両者のバランスを取る必要がある。また、電子線照射量も高いほどひび割れ難くなるが、過剰照射はコスト増につながるため、最適値を見極める必要がある。また顔料の種類、平均粒径、及び細孔容積の調節、塗料の濃度、キャスト仕上げの条件の変更でも多少調整可能である。
【0053】
またインクジェット記録紙を高温高湿の環境で使用することも想定すると、40℃、相対湿度90%の環境に48時間保持した後も、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ拡大観察で判別される長さ100μm以上1mm以下のひび割れが1cm2あたり10個以下であることが好ましい。そのためにはホウ素化合物を用いないことが最も重要である。更に、顔料と電子線硬化成分の種類や配合比や電子線照射量、顔料の平均粒径や細孔容積の調節などでも多少調成可能であり、特に、電子線硬化性成分にラジカル重合性の不飽和結合は有さないが、水溶液に電子線を照射することによりハイドロゲルを形成する親水性樹脂を使用することが、温度や湿度などの環境変化に伴う塗工層のひび割れ増加を抑制するのに効果的である。
【0054】
キャスト仕上げ後の光沢はISO 8254−1に基づいて測定した75度光沢が30以上が好ましい。光沢が30以上の場合、ひび割れが少ない効果もあって目視でも光沢感が良好で、銀塩写真に近い画像が得られる。
【0055】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、本実施例で表示する%、部は質量パーセント、質量部を意味する。
【0056】
基材の製造方法
1.原紙A
木材パルプ(LBKP;ろ水度400mlCSF)100部、焼成カオリン(商品名:アンシレックス)5部、市販サイズ剤0.05部、硫酸バンド1.5部、湿潤紙力剤0.5部、澱粉0.75部よりなる製紙材料を使用し、長網抄紙機にて坪量140g/m2の紙基材を製造した。
【0057】
2.原紙B
CSF(JIS P−8121)が250mlまで叩解した針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)と、CSFが280mlまで叩解した広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)とを、質量比2:8の割合で混合し、濃度0.5%のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリー中にパルプ絶乾質量に対しカチオン化澱粉2.0%、アルキルケテンダイマー0.4%、アニオン化ポリアクリルアミド樹脂0.1%、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂0.7%を添加し、十分に撹拌して分散させた。上記組成のパルプスラリーを長網マシンで抄紙し、ドライヤー、サイズプレス、マシンカレンダーを通し、坪量101g/m2 、緊度1.0g/cm3 の原紙を製造した。上記サイズプレス工程に用いたサイズプレス液は、カルボキシル変性ポリビニルアルコールと塩化ナトリウムとを2:1の質量比で混合し、これを水に加えて加熱溶解し、濃度5%に調製したもので、このサイズプレス液を紙の両面にトータルして25ml/m2塗布して原紙Bを得た。
【0058】
3.ラミネート紙
原紙Bの両面にコロナ放電処理を施した後、バンバリーミキサーで混合分散した下記のポリオレフィン樹脂組成物1を原紙のフェルト面側に塗工量が15g/m2 になるようにして、またポリオレフィン樹脂組成物2(裏面用樹脂組成物)をワイヤー面側に塗工量が25g/m2 になるようにして、T型ダイを有する溶融押し出し機(溶融温度320℃)で塗布し、フェルト側を鏡面、ワイヤー側を粗面のクーリングロールで冷却固化して、鏡面ラミネート紙を製造した。
(ポリオレフィン樹脂組成物1)
長鎖型低密度ポリエチレン樹脂(密度0.926g/cm3 、メルトインデックス20g/10分)35部、低密度ポリエチレン樹脂(密度0.919g/cm3、メルトインデックス2g/10分)50部、アナターゼ型二酸化チタン(A−220;石原産業製)15部、ステアリン酸亜鉛0.1部、酸化防止剤(Irganox1010;チバガイギー製)0.03部、群青(青口群青No. 2000;第一化成製)0.09部、蛍光増白剤(UVITEX OB;チバガイギー製)0.3部
(ポリオレフィン樹脂組成物2)
高密度ポリエチレン樹脂(密度0.954g/cm3 、メルトインデックス20g/10分)65部、低密度ポリエチレン樹脂(密度0.924g/cm3、メルトインデックス4g/10分)35部
【0059】
塗料の調製方法
1.下塗り層用塗料a
下記に示す合成非晶質シリカとゼオライトをそれぞれ水に分散し、30%の水分散液とした。更に下記に示すシリル変性ポリビニルアルコールの10%水溶液を調製し、その他材料とともに下記の固形分比率で順次混合し、固形分濃度17%の下塗り用塗料aを調製した。
(下塗り層用塗料aの処方)
合成非晶質シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60、平均二次粒子径6.0μm、一次粒子径15nm)と80部、ゼオライト(トーソー社製、商品名:トヨビルダー、平均粒子径1.5μm)20部、シリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R−1130)20部、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド重縮合体(センカ社製、商品名:ユニセンスCP−104、重量平均分子量20万)15部、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド重縮合体(センカ社製、商品名:ユニセンスCP−101、重量平均分子量2万)5部、蛍光染料(住友化学社製、Whitex BPSH)2部。
【0060】
2.下塗り層用塗料b
平均粒径3μmの合成無定型シリカ(日本シリカ工業(株)製、商品名:Nipsil HD−2、一次粒径=11nm)を水に分散し、サンドグラインダーにより粉砕分散した後、油圧式超高圧ホモジナイザー(みづほ工業(株)製、マイクロフルイダイザーM110−E/H)で、下記の方法で測定した平均粒径(平均二次粒径)が168nmになるまで繰り返し粉砕分散し、20%のシリカゾル水分散液bとした。
ここに下記に示す固形分比率で完全けん化ポリビニルアルコール((株)クラレ製、商品名:PVA―140H、重合度=4000、けん化度=99%以上)の6%水溶液を混合し、固形分濃度15%の下塗り層用塗料bを調製した。
(下塗り層用塗料bの処方)
シリカの水分散液b:100部
完全けん化ポリビニルアルコール:15部
【0061】
[微細顔料の平均二次粒径測定方法]
微細顔料の水分散液100mlを500ml容のステンレス製カップに入れ、特殊機化工業(株)製T.K.ホモディスパーを用いて分散処理(3000rpm、5分間)し、水分散液中の3次粒子を分散した。処理後の分散液を充分に蒸留水で希釈して試料液とし、動的光散乱法によるレーザー粒度計(大塚電子(株)製、LPA3000/3100)を用いて、平均粒径を測定した。平均粒径はキュムラント法を用いた解析から算出される値を用いた。
【0062】
3.キャスト層用塗料A
(活性ケイ酸水溶液の調製)
SiO2濃度30%、SiO2/Na2Oモル比3.1のケイ酸ソーダ溶液((株)トクヤマ製、三号珪酸ソーダ)に蒸留水を混合し、SiO2濃度4.0%の希ケイ酸ソーダ水溶液を調製した。この水溶液を、水素型陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、ダイヤイオンSK−1BH)が充填されたカラムに通じて活性ケイ酸水溶液を調製した。
得られた活性ケイ酸水溶液中のSiO2濃度は4.0%、pHは2.9であった。
【0063】
(シード液の調製)
還流器、攪拌機、温度計を備えた5リットルのガラス製反応容器中で、500gの蒸留水を100℃に加温した。この熱水を100℃に保ちながら、上記の活性ケイ酸水溶液を1.5g/分の速度で合計450g添加し、シード液を調製した。このシード液中のシード粒子の物性は、平均二次粒子径184nm、比表面積832m2/g、細孔容積0.60ml/g、細孔径4nmであった。
【0064】
(微細シリカ分散液の調製)
上記のガラス製反応容器中で、950gの上記シード液に対しアンモニアを0.015モル添加し安定化させ、100℃に加温した。このシード液に対して、上記の活性ケイ酸水溶液を1.5g/分の速度で合計550g添加した。活性ケイ酸の添加終了後、そのまま溶液を100℃に保って9時間加熱還流を行い、微細シリカ分散液を得た。分散液は青みを帯びた透明溶液であり、pHは7.2であった。この微細シリカ分散液の性状は、平均二次粒子径130nm、比表面積257m2/g、細孔容積1.0ml/g、細孔径16nmであった。この分散液をエバポレーターでシリカ濃度11%に濃縮した。
【0065】
この分散液100部にジアリルジメチルアンモニウムクロライド・アクリルアミド共重合体(日東紡績(株)製、商品名:PAS−J−81)の11%水溶液10部を添加し、前記の油圧式超高圧ホモジナイザーにて分散し、平均粒径376nmのカチオン性シリカの水分散液Aを製造した。この分散液は固形分濃度が11%であり、シリカ濃度は10%、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・アクリルアミド共重合体濃度は1%であった。また、該共重合体を含んだ状態で細孔容積を測定したところ0.9ml/gであった。
ここに下記に示す固形分比率で前述の完全けん化ポリビニルアルコールの6%水溶液を混合し、固形分濃度10%のキャスト層用塗料Aを調製した。
(キャスト層用塗料Aの処方)
カチオン化シリカA:100部
完全けん化ポリビニルアルコール:15部
【0066】
4.キャスト層用塗料B
気相法にて製造された平均一次粒径9nmのシリカ(日本アエロジル(株)製、商品名:AEROSIL 300)の11%水分散液を、前記の油圧式超高圧ホモジナイザーにて3回分散した。この水分散液中のシリカの細孔容量を上記の測定方法で測定したところ、1.6ml/gであった。また平均粒径(平均二次粒径)は228nmであった。該分散液100部に前記のジアリルジメチルアンモニウムクロライド・アクリルアミド共重合体の11%水溶液10部を添加し、ゲル化した混合物を同ホモジナイザーにて更に分散を繰り返し、平均二次粒径376nmのカチオン化シリカの水分散液Bを製造した。この分散液は固形分濃度11%であり、シリカ濃度は10%、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・アクリルアミド共重合体濃度は1%であった。また、該共重合体を含んだ状態で細孔容量を測定したところ1.4ml/gであった。
ここに下記に示す固形分比率で前述の完全けん化ポリビニルアルコールの6%水溶液を混合し、固形分濃度10%のキャスト層用塗料Bを調製した。
(キャスト層用塗料Bの処方)
カチオン化シリカB:100部
完全けん化ポリビニルアルコール:15部
【0067】
5.キャスト層用塗料C
アルミナ(住友化学社製、AKP−G020、γ−アルミナ、比表面積150m2/g)の12%水分散液を、サンドグラインダーにより粉砕分散した後、更に油圧式超高圧ホモジナイザーにて分散し、上記の測定方法で測定した細孔容積が0.5ml/g、平均粒径(平均二次粒径)が200nmのアルミナゾルを作製した。
ここに下記に示す固形分比率で前述の完全けん化ポリビニルアルコールの6%水溶液を混合し、固形分濃度11%のキャスト層用塗料Cを調製した。
(キャスト層用塗料Cの処方)
アルミナゾル:100部
完全けん化ポリビニルアルコール:7.5部
【0068】
6.キャスト層用塗料D
下記に示す固形分比率で材料を混合し、固形分濃度30%のキャスト層用塗料Dを調製した。
(キャスト層用塗料Dの処方)
アニオン性コロイダルシリカ(日産化学製、商品名:スノーテックス20):80部とスチレン・アクリル共重合体エマルジョン(ライオン社製、商品名:エルサード740):20部、離型剤としてレシチン2部。(固形分濃度30%)
【0069】
<実施例1>
原紙Aを基材とし、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が15g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、直ちに窒素ガス環境下で電子線照射装置(ESI社製エレクトロカーテン)により加速電圧175kV、照射量40kGyの電子線を照射した。照射後の塗工面に触ったところ塗料はゼリー状の固体となっており、ハイドロゲルとなったことがわかった。これを直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接、乾燥後、離型させてインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0070】
<実施例2>
キャスト層用塗料Aの代わりにキャスト層用塗料Bを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0071】
<実施例3>
キャスト層用塗料Aの代わりにキャスト層用塗料Cを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0072】
<実施例4>
原紙Aに下塗り層用塗料aを乾燥質量で塗工量が10g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工した。これを基材として、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が10g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、直ちに窒素ガス環境下で電子線照射装置により加速電圧175kV、照射量40kGyの電子線を照射した。照射後の塗工面に触ったところ塗料はゼリー状の固体となっており、ハイドロゲルとなったことがわかった。これを直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接、乾燥後、離型させてインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0073】
<実施例5>
キャスト層用塗料Aの代わりにキャスト用層塗料Bを用いたこと以外は実施例4と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0074】
<実施例6>
キャスト層用塗料Aの代わりにキャスト層用塗料Cを用いたこと以外は実施例4と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0075】
<実施例7>
原紙Aの代わりに原紙Bを基材として用いたこと以外は実施例4と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0076】
<実施例8>
下塗り層用塗料aの代わりに下塗り層用塗料bを用いたこと以外は実施例4と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0077】
<比較例1>
原紙Aを基材とし、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が15g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接させたところ、プレス圧のために大半の塗料が原紙の周辺から流れ出した。更に、乾燥後、離型させようと試みたが、キャスト面が加熱ロールに貼り付いてしまい、無理に剥がそうとすると原紙の層間が剥離してしまった。そのため、比較用サンプルシートを得ることは出来なかった。
【0078】
<比較例2>
原紙Aを基材とし、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が15g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、その上から1%ホウ砂水溶液を1g/m2となるように噴霧塗布した。塗工面はある程度ゲル状になっていたが、その強度はあまり強くなかった。これを直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接させたところ、プレス圧のために塗工層が変形し一部の塗料が原紙の周辺からはみ出した。乾燥後、離型させたところ、部分的には光沢が発現したが、キャスト層にムラや大きなひび割れがある比較用サンプルシートが得られた。
【0079】
<比較例3>
原紙Aを基材とし、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が15g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、直ちに窒素ガス環境下で電子線照射装置により加速電圧175kV、照射量40kGyの電子線を照射した。照射後の塗工面に触ったところ塗料はゼリー状の固体となっており、ハイドロゲルとなったことがわかった。これを直ちに110℃の熱風で乾燥させ比較用サンプルシートを得た。
【0080】
<比較例4>
原紙Aの代わりにラミネート紙を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で比較用サンプルシートを得ようとした。しかし、加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥する段階でキャスト用塗工層から生じた水蒸気がラミネート紙を透過できないため、蒸気圧で塗工層と鏡面ドラムの間が部分的に剥離してしまった。そのため、得られた比較用サンプルシートは乾燥が不十分で、且つ塗工層表面にはムラが生じた。
【0081】
<比較例5>
原紙Aを基材とし、下塗り層用塗料aを乾燥質量で塗工量が12g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、乾燥した。これを基材として、キャスト層用塗料Dを乾燥質量で塗工量が7g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工した後、直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接、乾燥後、離型させてインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0082】
実施例及び比較例で使用した基材の透気度、作成したインクジェット記録用キャスト光沢紙もしくは比較用サンプルシートのキャスト層の細孔容積、75゜白紙光沢、インクジェット印字評価、高温高湿環境試験前後のひび割れを以下に示す方法で評価し、それぞれの作製条件を表1に、評価結果を表2に示した。但し、均一な塗工層が得られなかった比較用サンプルシートの評価に関しては、正確な判定が困難であったため、評価の一部を省略した。
【0083】
[基材の透気度測定方法]
JIS−P8117に基づいてガーレー高圧型透気度試験機で測定し、秒/100mlの単位で表示した。
【0084】
[キャスト層の細孔容積]
キャスト層表面をカッターナイフで削りとって試料とした。その際、下塗り層や原紙が混合しないように注意して採取した。この試料をガス吸着法比表面積・細孔分布測定装置(Coulter社製、SA3100Plus型)を用い、前処理として150℃で2時間真空脱気した後、測定した。細孔容積は細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積(Total Pore Volume)を吸着等温線から求めた値を使用した。
但し、乾燥中にキャスト層が極端にひび割れて剥離していたり、ムラの著しい塗膜となった場合は、標準的な試料を得ることが不可能であったため測定できなかった。
【0085】
[75゜白紙光沢]
村上色彩技術研究所の光沢度計(GM−26 PRO/AUTO)を用い、ISO 8254−1に基づいて測定した。
【0086】
[インクジェット印字評価]
染料インク評価
サンプルシートにインクジェットプリンター(EPSON製、PM−970C:染料インク搭載)のPM写真用紙推奨設定印刷モードで、JISX9204高精細カラーディジタル標準画像(XYZ/SCID)画像(N1、名称:グラスと女性)を印字した上で、目視外観を次の5段階に評価した。
5点:塗膜の平滑感、光沢感共に優れており光沢が銀塩写真調の外観である。
4点:塗膜の平滑感、光沢感が光沢銀塩写真調に若干及ばない。
3点:塗工層表面に若干のざらつきが感じられる。そのため光沢感が上位レベルに比べ低く感じる。
2点:塗工層表面の凹凸が大きく、そのため光沢感が劣る。
1点:塗工層表面のざらつきが大きいのに加え、基材の表面性や乾燥時の収縮の影響による塗工層の凹凸がはっきりしており、品位が低い。
【0087】
顔料インク評価
サンプルシートにインクジェットプリンター(EPSON製、PM−4000PX:顔料インク搭載)のMC光沢紙推奨設定印刷モードで、2cm角の7色(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルー)100%ベタを、1cmずつ間隔を空けて印字した、印字部の状態を次の3段階に評価した。
○:印字部が均質で、光沢もある。
△:容易に確認できるひび割れはないが、印字部の光沢がやや低い。
×:印字部のひび割れが容易に確認できる。
【0088】
[(高温高湿環境試験前後の)ひび割れ]
インクジェットプリンター(EPSON製、PM−970C)のPM写真用紙推奨設定印刷モードで、1cm角の100%ブラックベタを、1cmずつ間隔を空けて5ヵ所に印字した後、23℃、相対湿度50%の環境下で3時間調湿したA4サイズのサンプルシートを準備した。そのサンプルシートを40℃、相対湿度90%に調製したチャンバー内に移し、48時間保持した。その後サンプルシートを取り出し、23℃、相対湿度55%の環境下で3時間調湿した。
高温高湿環境に保持する前後のサンプルシート表面のひび割れを、目視とデジタル顕微鏡(株式会社ハイロックス製、パワーハイスコープKH−2700、ズームレンズMX2525CS使用、レンズ設定1000倍)の拡大画像で観察し、次の5段階に評価した。尚、ひび割れは連結したものもあり、形状が複雑なので、長さを表わすために、ひび割れを内接する最小円の直径を長さと定義した。
5点:長さ1mm以上のひび割れが無く、図2のような長さ100μm以上1mm未満のひび割れは10個/cm2以下である。
4点:長さ1mm以上のひび割れが無く、長さ100μm以上1mm未満のひび割れが10個/cm2以上ある。
3点:長さ1mm以上のひび割れが、塗工層の一部にある。
2点:長さ1mm以上のひび割れが、塗工層のほぼ全面にある。
1点:目視で容易に確認できる大きな亀裂がある。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1および表2の実施例1〜8から明らかなように、本発明の記録紙においては、電子線照射によりハイドロゲル化されたキャスト用塗工層が、キャスト処理により潰れることがなく、離型性も高いため、ひび割れが無く高光沢な記録紙となっている。且つインクの吸収性も良好であるため、インクジェットプリンターで印字した場合、染料インクでは銀塩写真調の高品位な画像が得られた。また、顔料インクでもひび割れによる光沢低下もない高品位な画像が得られた。
【0092】
一方、比較例1のように塗工層の強度を何ら増強せずにキャスト処理を行うと、キャスト用塗工層がプレス圧に負けて大幅に変形するだけでなく、塗工層が鏡面ドラムに貼り付いて剥離することが出来なくなった。比較例2のように硼砂を塗料に混合して該塗工層をゲル化させても、その強度がプレス圧に耐えられるほど高くはならなかったために塗工層の一部が変形し、ムラのある塗膜となった。また、塗工層が脆弱であり、離型性も不十分であったため、鏡面ドラムから剥離する際に塗膜の一部に大きな亀裂が入ってしまった。更に、この塗膜を高温高湿環境下に保持すると、塗膜のひび割れが増加した。これはホウ素化合物により架橋された多孔質顔料塗膜に特徴的な現象である。塗工層に問題が無くても、基材に透気性のないラミネート紙を用いると、キャスト用塗工層中の水分の逃げ道が無いために乾燥が進行せず、一部の水分は加熱により蒸気圧となってキャスト処理時の妨げとなるため、ムラのある半乾燥のサンプルしか得ることが出来なかった。これらの塗工シートは実際にインクジェット記録紙として使用できるものではなかった。
【0093】
更に、キャスト処理を実施せずに得たサンプルは、電子線照射による塗工層のハイドロゲル化によりひび割れこそ無かったが、乾燥収縮や基材表面凹凸の影響のため、得られる塗工シートの目視外観が著しく悪化し、光沢紙としては問題のあるものとなった(比較例4)。比較例5は従来のキャスト光沢紙の作成方法を踏襲したものである。白紙光沢の測定値は比較的高く、目視観察でもキャスト層のひび割れが明らかに目に付くことはなかったが、染料インクの印字部の光沢感が若干劣り、画像が曇った感じになっており、拡大してみると一面にひび割れがあることが判った。また、顔料インクプリンターの印字画像には目視で判別が可能なひび割れが生じており、見劣りする画像となった。
【0094】
【発明の効果】
本発明のインクジェット記録紙は、キャスト仕上げされたインク受容層を有しているが、従来のインクジェット記録用キャスト光沢紙につきもののキャスト層のひび割れがほとんど無く、光沢や目視外観に優れている。またインク吸収性にも優れており、顔料インク搭載のプリンターで印字した場合でも、ひび割れのない良好な画像を得ることができる。従来の技術ではひび割れや光沢の改善とインク吸収の改善はトレードオフの関係にあったが本発明ではそれが解消された。
【図面の簡単な説明】
【図1】ひび割れが多いインクジェット記録紙の拡大写真。本発明外。
【図2】ひび割れが1つ存在するインクジェット記録紙の拡大写真(1000倍)
【発明の属する技術分野】
本発明は、目視外観や光沢が良好で、かつ高品質のフルカラー画像印刷に好適なインクジェット記録紙に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまでにコンピューターなどの出力用として、ワイヤードット記録方式、感熱発色記録方式、溶融熱転写記録方式、昇華記録方式、電子写真方式、インクジェット記録方式などの種々の方式が開発されている。中でもインクジェット記録方式は、記録用シートとして普通紙を使用できること、ランニングコストが安価なこと、ハードウェアがコンパクトで安価なことから、パーソナルユーズに適した記録方式として認知され、近年、プリンターの販売台数を急速に伸ばしてきた。その普及に伴ってハードウエアの改良も進み、フルカラー化や、高速化、高画質化が急速に進展したため、出力用途も単純なモノクロ文字出力から銀塩写真の代替えとなるデジタル画像出力までに拡大しつつあり、必然的に記録紙側に要求される品質も厳しくなってきた。
【0003】
現在市販されているインクジェット記録紙の中でも、銀塩写真調のフルカラー画像を出力できるメディアとして、光沢紙の販売量が増加傾向にある。これらの中でも、特に紙を基材とする光沢紙は、紙基材自体もインクを吸収できるため高品位の印字画像が得られやすく、材料費が比較的安価で済むため、今後も手軽な光沢紙としての一翼を担うものと期待される。一般にキャスト光沢紙と呼ばれる、このタイプの光沢インクジェット記録紙は、紙基材上に設けた一層以上のインク吸収層にキャスト仕上げされた光沢層を設けて製造される。キャスト光沢紙の製造技術においては、如何にして「インク吸収性と光沢」の両立を計るかが重要な鍵となっている。
【0004】
キャスト光沢紙の製造法に関しては、ウェット法、リウェット法、凝固法などの技術が提案されている。具体的な例としては、顔料と接着剤を主成分とする下塗り塗被層を設けた原紙上に、ガラス転移点が適当な重合体樹脂並びにコロイダルシリカなどを含有するキャスト用塗工層を塗布後、該塗工層が湿潤状態にある内に加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥して製造する手法が挙げられる(例えば、特開平10−6639号公報:特許文献1参照)。しかし、この方法で製造されるキャスト層は、インクを吸収または通過させるために必要な「塗工層の空隙」を確保するために、成膜性物質である重合体樹脂を含む塗工層を、完全には成膜していない状態でキャスト仕上げされているため、キャスト層の表面には図1に示すような連続的な「ひび割れ」が存在する。それ故に、塗工層の目視光沢感はそれほど高くならない。更に、画像保存性が高いために近年需要が増加してきた顔料インクを搭載したインクジェットプリンターで該キャスト光沢紙に出力した場合は、塗工層のひび割れの部分で印字部の顔料インクの層もひび割れてしまうため、印字画像が大きく破綻してしまう。しかし、このひび割れはインクをキャスト層の下に設けられた下塗り層、もしくは原紙に導く重要な役割がある。もし、塗工層のひび割れを無くすために該キャスト層を完全に成膜させてしまうと、当然のことながらインク吸収能力が不十分となって画像の破綻を招いてしまう。
【0005】
実際には、現在市販されているほとんどのキャスト光沢紙の表面に、図1のような連結した連続的な「ひび割れ」が存在している。これは、キャスト光沢紙のひび割れ制御が非常に困難であるか、もしくはインク塗出量の多い銀塩写真調インクジェットプリンターに対応するためには、ひび割れによるインク吸収能力に頼らざるを得ない状況を物語っている。
【0006】
しかしながら「インク吸収性と光沢」を両立して高品位の印字画像を得るためには、ひび割れのない平滑な塗工層で充分なインク吸収能力を確保することが必須である。この要求は、高細孔容積の微細顔料を最小量のバインダー樹脂で固めて非常に多孔質なインク受容層を作り、該塗工層に平滑化処理(キャスト処理)を施せば、達成することができる。しかし、高細孔容積の微細顔料は細孔径も非常に小さいため、塗工後の乾燥工程で毛管力による受容層のひび割れが生じ易い。吸水性のある紙基材上では乾燥過程の塗工層中の水分蒸発過程がより複雑化するため、更にその制御が難しくなる。加えて、塗工層にキャスト処理を施すためには、処理によって塗工層がひび割れたり、必要以上に潰れてしまわないための強度や、平滑面から塗工層を速やかに剥がすための離型性も必要となってくる。
【0007】
キャスト処理前の塗工層の強度を上げるには凝固法が適しているが、中でも多くの提案がなされているのが、ポリビニルアルコールとホウ素化合物のゲル化反応を利用するものである(例えば、特開2001−287442号公報:特許文献2参照)。このゲル化反応は、塗工層に必須なバインダー成分として利用可能なポリビニルアルコールと、他のゲル化剤に比べ少量で高ゲル強度が期待できるホウ素化合物により実施できるため、塗工層のインク吸収を担う空隙をゲル化剤で埋めてしまう心配がほとんどない。但し、ホウ素化合物とポリビニルアルコールは非常に反応性が高いため、両者を共存させた塗料は経時的に増粘して塗工性が悪化しやすい。その対策として、ホウ素化合物を含む硬膜液を無機微細顔料とポリビニルアルコールを含む塗料とは別途に調整し、塗工直前に混合したり、後から塗工するなどの手段が提案されているものの、実際にはその反応制御がかなり難しい(例えば、特開2001−80207号公報:特許文献3、並びに特開2002−293004号公報:特許文献4参照)。また、ホウ素化合物のゲル化反応により硬膜した多孔質顔料層は非常に脆くなるため、乾燥後の塗膜が折り曲げなどの軽度な変形や温湿度の環境変化で容易にひび割れてしまうことが多い。本発明者らが検討したところ、特に高温高湿度の環境に長時間曝されると、ホウ素化合物によるポリビニルアルコールの架橋がさらに進行するためか、塗膜に無数のひび割れが発生することが確認された。逆に、低湿環境下に長時間曝した場合も、塗工層に含まれる調湿水分が減少するため、塗工層が脆くなり軽度の変形でひび割れやすくなった。これらの欠点を克服するために、有機系架橋剤と併用することでホウ素系化合物の使用量を低減することも提案されている(例えば、特開2001−146068号公報:特許文献5参照)。しかし、有機系架橋剤の反応速度はホウ素化合物のゲル化反応に比べて遅く、必要な温度も高温であるため、実際の生産ライン上でキャスト処理前に十分な反応を進めることは、ほぼ困難である。従って、代替え品への置き換えでホウ素化合物の使用量を大幅に削減することは実質的に不可能である。
【0008】
更に、ホウ素化合物に関しては2001年の水質汚濁防止法の施行令改正により排水規制物質の対象とされるなど、その有害性に懸念点があるため、銀塩写真の代替えとして一般家庭に普及が拡大している記録紙の材料としては、使用しないことが望ましい。
【0009】
【特許文献1】
特開平10−6639号公報(第2頁、請求項1、第3頁)
【特許文献2】
特開2001−287442号公報(第2頁、請求項4)
【特許文献3】
特開2001−80207号公報(第2頁、請求項1)
【特許文献4】
特開2002−293004号公報(第2頁、請求項3)
【特許文献5】
特開2001−146068号公報(第2頁、請求項2)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
これらの状況を鑑みた結果、本発明者らは、現状の紙を基材とするキャスト光沢紙は、塗工層強度などのインクジェット記録紙として要求される基本性能が不十分であり、さらに「インク吸収性と光沢」の両立が、未だ達成できていないと判断した。そこで、本発明は「インク吸収性と光沢」を両立可能な、ひび割れのない多孔質インク受容層を有するキャスト光沢紙を提供することを目的とした。
【0011】
【発明が解決するための手段】
本発明は下記の態様を含む。
[1] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に顔料と、架橋された電子線硬化成分を含むキャスト仕上げされたインク受容層を有するインクジェット記録紙であって、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下であることを特徴とするインクジェット記録紙。
[2] 40℃、相対湿度90%の環境に48時間保持した後も、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下であることを特徴とする[1]に記載のインクジェット記録紙。
[3] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に顔料と、架橋された電子線硬化成分を含むキャスト仕上げされたインク受容層を有するインクジェット記録紙であって、キャスト層が平均粒径1μm以下の微細顔料を含み、細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積が0.2〜2.0ml/gの多孔質層であることを特徴とするインクジェット記録紙。
[4] 該微細顔料がシリカ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする[3]に記載のインクジェット記録紙。
[5] キャスト層中にホウ素化合物を含まないことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
[6] ISO 8254−1に基づいて測定した75度光沢が30以上である[1]〜[5]のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
[7] 電子線硬化成分が、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、カゼイン、及びこれらの水溶性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性樹脂であることを特徴とする[1]〜[6]に記載のインクジェット記録紙。
[8] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙の透気度が、JISP8117に基づいてガーレー高圧型透気度試験機で測定した値で、200秒/100ml以下であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
[9] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に、顔料と電子線硬化性成分を含有する水性塗料からなる塗工層を形成し、ついで電子線を照射して該塗工層をハイドロゲル化させた後、湿潤状態にある該塗工層に加熱された鏡面ドラムを圧接して乾燥して仕上げたことを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のインクジェット記録紙の製造方法。
[10] 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に、顔料と電子線硬化性成分を含有する水性塗料からなる塗工層を形成し、ついで電子線を照射して該塗工層をハイドロゲル化させた後、湿潤状態にある該塗工層に加熱された鏡面ドラムを圧接して乾燥して仕上げることを特徴とするインクジェット記録紙の製造方法。
[11]インク受容層に含まれる電子線硬化成分が、電子線照射により架橋されていることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
【0012】
本発明者らは、紙を基材とするひび割れのないキャスト光沢紙を開発するため、特開2002−160439号公報で提案した「乾燥前の塗工層を電子線照射によりハイドロゲル化する技術」を応用することを検討した。
特開2002−160439号公報は、
「基材上に一層以上の塗工層を有するインクジェット記録体において、少なくとも一層が、(a)平均粒径が1μm以下で細孔容量が0.4〜2.5ml/gの微細顔料と、(b)ラジカル重合性の不飽和結合を有さず、かつ水溶液に電子線を照射することによりハイドロゲルを形成する親水性樹脂とを、前記(a)100重量部に対して、前記(b)1〜100重量部の割合で含有する水性塗料を塗布し、ついで電子線を照射して該塗布層をハイドロゲル化させたのち乾燥して形成した多孔質のインク受容層であるインクジェット記録体。」を開示している。
【0013】
前記の技術を用いて紙基材上に形成したハイドロゲル化塗工層は、非常に高ゲル強度となり、加熱された鏡面ドラムに圧接し、キャスト処理を施しても塗工層が壊れることがなかった。しかも、該塗工層は水分を多く含んでいて適度な変形は可能であるため、加熱された鏡面ドラムに圧接した状態で乾燥すると平滑なキャスト層が得られた。この際、電子線照射によりハイドロゲル化された該塗工層はバインダー樹脂が3次元網目構造となっているため粘着性が低く、通常のキャスト処理では必須とされる離型剤を使用しなくても、問題なくキャスト層を鏡面から剥離することが出来た。以上の工程により、高いインク吸収性能を得るために紙基材上に非常にひび割れやすい多孔質塗工層を積層する場合でも、ひび割れを起こさずにキャスト処理を施すことが可能となった。
【0014】
このキャスト光沢紙は、ひび割れのない平滑なキャスト塗工層を有しているため光沢が高い。加えて、インク吸収性に優れた塗工層を有していながら、容易な方法で製造出来るため、生産性も高い。また、基材に安価な紙を用い、塗料にも特にゲル化剤を必要としてはいないため、材料コストも抑えられる。ゲル化剤に関しては、近年規制が強化されつつあるホウ素化合物や、活性の高い有機系架橋剤、紫外線硬化剤等、安全性が懸念される材料も多いため、それらを必要としない本発明のキャスト光沢紙は、安全性の面で優位性がある。また、本発明のキャスト層は、電子線照射により水分を多量に含む状態でゆとりある架橋構造が形成されるためか、ホウ素化合物による架橋塗膜の様に脆弱ではない。従って、乾燥後の塗工層が軽度な折り曲げなどの変形や環境変化で、容易にひび割れることも無かった。さらに、キャスト層や基材に望ましい材料を検討し、目標とした要求品質を実現できることを見出し、本発明を完成した。
本発明のキャスト光沢紙に、一般に銀塩写真の代替え出力用として用いられる染料インクを搭載したフォトインクジェットプリンターで印字すると、高精細の鮮やかな画像が得られた。更に、高保存性を有するが画像が破綻しやすい顔料インク搭載のプリンターで印字した場合でも、ひび割れのない均質なキャスト層の上に、ひび割れのない良好な画像を得ることができた。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明で用いる原紙としては、特に限定されるものではなく、一般の塗工紙に使用される酸性紙、あるいは中性紙等の紙基材が適宜使用される。また透気性を有する樹脂シート類も用いることができる。紙基材は木材パルプと必要に応じ含有する顔料を主成分として構成される。
木材パルプは、各種化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ、合成パルプ等を使用することができ、これらのパルプは、紙力、抄紙適性等を調整するために、叩解機により叩解度を調整できる。パルプの叩解度(フリーネス)は特に限定しないが、一般に250〜550ml(CSF:JIS P−8121)程度である。紙送り歯車の傷を軽減するには叩解度を進めるほうが望ましいが、用紙に記録した場合にインク中の水分によって起こる用紙のボコツキや記録画像のにじみは、叩解を進めないほうが良好な結果を得る場合が多い。従ってフリーネスは300〜500ml程度が好ましい。
顔料は不透明性等を付与したり、インク吸収性を調整する目的で配合し、炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、タルク、シリカ、酸化チタン、ゼオライト、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等が使用できる。特に焼成カオリン、シリカ、ゼオライトは、インク中の溶媒を吸収するため、好適に使用される。この場合、配合量は1〜20質量%程度が好ましい。多すぎると紙力が低下するおそれがある。また、前述の紙送り歯車の傷も付き易くなる。従って灰分として3〜15質量%程度がさらに好ましい。
【0016】
助剤としてサイズ剤、定着剤、紙力増強剤、カチオン化剤、歩留り向上剤、染料、蛍光増白剤等を添加することができる。さらに、抄紙機のサイズプレス工程において、デンプン、ポリビニルアルコール類、カチオン樹脂等を塗布・含浸させ、表面強度、サイズ度等を調整できる。サイズ度(100g/m2の紙として)は1〜200秒程度が好ましい。サイズ度が低いと、塗工時に皺が発生する等操業上問題となる場合があり、高いとインク吸収性が低下したり、印字後のカールやコックリングが著しくなる場合がある。より好ましいサイズ度の範囲は4〜120秒である。基材の坪量は、特に限定されないが、20〜400g/m2程度である。
【0017】
本発明のキャスト層を設ける原紙上に、下塗り層を設けてもよい。下塗り層は、インクの吸収容量や吸収速度を高める(特にインク成分中の溶媒を速やかに吸収する)、原紙の表面を平滑化する、記録紙や印字画像の色調を調整する、印字画像の保存性を向上させるなど種々の目的に応じて、処方や構成を決定する。但し、キャスト層を積層することを考慮すると、下塗り層を設けた原紙の状態で、JIS−P8117に基づいてガーレー高圧型透気度試験機で測定した透気度が200秒/100ml以下(値が低い方ほど透気性が良い)にあることが望ましい。因みに、200秒/100mlを越えるとインクジェット記録時のインクの吸収性が低下するのみならず、キャスト操業性も低下する傾向にある。
【0018】
下塗り層を設けた原紙の透気度を所望の範囲内とするためには、下塗り層を主に顔料と接着剤となる樹脂で構成し、多孔質層を形成することが好ましい。また、特に限定されるものではないが、塗工工程の作業性や積層するキャスト層との親和性を考慮すると、水系塗料が好適である。
下塗り層用の顔料としては、カオリン、クレー、焼成クレー、非晶質シリカ(無定形シリカともいう)、合成非晶質シリカ、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、アルミナ、コロイダルシリカ、ゼオライト、合成ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等、一般塗工紙製造分野で公知公用の各種顔料が1種もしくはそれ以上を併用することが出来る。
これらの中でも、インク吸収性の高い合成非晶質シリカ、アルミナ、ゼオライトを主成分として含有させるのが好ましい。これらの顔料(主成分として使用するもの)の平均粒子径(凝集顔料の場合は凝集粒径)は1〜20μm程度が好ましく、より好ましくは2〜10μm、さらに好ましくは3〜8μmである。1μm未満であるとインク吸収速度向上の効果に乏しくなり、20μmを超えて大きいとキャスト層を設けた後での平滑性や光沢が不十分となる恐れがある。ただし、インク吸収性を調整したり、下塗り層上に積層するキャスト層用塗料の浸透を制御する目的で、副成分として粒子径の小さい顔料を配合することができる。この様な顔料としてはコロイダルシリカ、アルミナゾル、或いは後述するキャスト層に含有させるシリカ微細粒子等が挙げられる。
【0019】
下塗り層の接着剤となる樹脂としては、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、等一般に塗工紙用として用いられている従来公知の接着剤が単独、あるいは併用して用いられる。顔料と接着剤の配合割合は、その種類にもよるが、一般に顔料100質量部に対し接着剤1〜100質量部、好ましくは2〜50質量部の範囲で調節される。その他、一般塗工紙の製造において使用される分散剤、増粘剤、消泡剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。下塗り層中には蛍光染料、着色剤を添加することもできる。
【0020】
下塗り層中には、インクジェット記録用インク中の着色剤(染料または着色顔料)成分を定着させ、印字耐水性や高温高湿下での印字画像保存性を向上させる目的で、カチオン性化合物を配合することもできる。但し、インク中の着色剤はできるだけ表面に近い部分に定着させた方が、印字(記録)濃度が高くなるため好ましい。このためには、下塗り層中のカチオン量は、上層に積層するキャスト層中のカチオン量よりも少ない方が好ましい。カチオン量とは、各層に含まれるカチオン基の総量を指し、具体的には、各層に含まれるカチオン樹脂量にカチオン強度を掛けたものを指す。カチオン強度は、広くコロイド滴定法や流動電位法等により測定されているが、後者の流動電位法が測定の個人差が少なく、望ましい。カチオン強度の単位はミリ当量/gで表されるため、カチオン量の単位はミリ当量/層で表される。尚、カチオン性化合物配合の効果は、着色剤がアニオン性である場合特に有効である。
【0021】
また、下塗り層中には、コロイダルシリカ及び/またはエチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させてなる重合体樹脂、或いは、コロイダルシリカとエチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させてなる重合体樹脂との複合体を含有させると、光沢がより発揮される。この理由は必ずしも明らかではないが、前記重合体樹脂或いは複合体の存在が、下塗り層のインク吸収性を維持したまま、キャスト層用塗料の下塗り層への浸透を抑制するためと推定される。エチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させてなる重合体樹脂としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアルキル基炭素数が1〜18個のアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のアルキル基炭素数が1〜18個のメタクリル酸エステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、エチレン、ブタジエン等のエチレン性モノマーを重合して得られる重合体が挙げられる。なお、重合体は、必要に応じて2種類以上のエチレン性モノマーを併用した共重合体であっても良いし、さらに、これら重合体あるいは共重合体の置換誘導体でも良い。因みに、置換誘導体としては、例えばカルボキシル基化したもの、またはそれをアルカリ反応性にしたもの等が例示される。
また、下塗り組成物中に架橋剤を添加したり、自己架橋型のエマルジョンを用いたりして下塗り層の耐水性を高めると、上層(キャスト層)の塗工性が向上するため好ましい。
【0022】
上記材料をもって構成される下塗り層用組成物は、一般に固形分濃度を5〜50質量%程度に調整し、紙基材上に乾燥質量で2〜60g/m2、好ましくは5〜40g/m2程度、更に好ましくは10〜20g/m2程度になるように塗工する。塗工量が少ないと、インク吸収性改良効果が充分に得られなかったり、上層(キャスト層)を設けた際に光沢が十分に出ない恐れがあり、多いと、印字濃度が低下したり、塗工層の強度が低下し粉落ちや傷が付き易くなる場合がある。下塗り層用組成物は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ブラシコーター、チャンプレックスコーター、バーコーター、リップコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、スライドコーター等の各種公知公用の塗工装置により塗工、乾燥される。さらに、必要に応じて下塗り層の乾燥後にスーパーキャレンダー、ブラシ掛け等の平滑化処理を施すこともできる。但し、下塗り層の乾燥を実施しない、もしくは完全には乾燥していない状態で連続してキャスト層用塗料の塗布を行っても良い。
【0023】
原紙もしくは上記の如き手法で下塗り層を設けた原紙は、そのままの状態でキャスト層用塗料を塗布することもできるが、キャスト層の密着性増強、サイズ度、濡れ性、カール矯正など種々の目的に応じて、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、水、サイズ剤、界面活性剤等の薬液塗布など各種処理を施しても良い。これらの処理は、キャスト層の塗工前に実施しておいても良いし、処理と塗工工程を連続して実施しても良い。また、下塗り層や界面活性剤塗布、洗浄処理などの溶媒を使用する処理は、乾燥を行なわずにインク受容層(キャスト層)の塗工工程に移行しても良い。
【0024】
本発明のキャスト層に供される顔料としては、特に限定されるものではないが、市販の顔料、例えばシリカ、アルミノシリケート、ゼオライト、カオリン、クレー、焼成クレー、酸化亜鉛、酸化錫、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミナ、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等、一般塗工紙の分野で公知の各種顔料が挙げられる。これらの顔料の中でも、特に粒径が小さく、細孔容積が大きい微細顔料は、毛細管現象により素早くインクを吸収できる多孔質のインク受容層が形成できるため、非常に好ましい。シリカ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミナは細孔容積が大きい顔料であり、その値は0.4〜2.5ml/gの範囲であり好適に用いられる。
また、顔料の平均粒径は1μm以下であると、インク吸収性に優れ、透明性、光沢性にも優れる塗工層(キャスト層)が得られるため、より好ましい。ここで平均粒径とは動的光散乱法によって測定した粒径(キュムラント法で求められる値)である。
【0025】
特にシリカは細孔容積が大きいためキャスト層として用いるのに最も適している。シリカにはケイ酸アルカリ塩を原料とする湿式法シリカと、四塩化珪素などの揮発性珪素化合物を火炎中で分解する乾式法シリカがあるが、いずれも好ましい。好適なシリカの細孔径100nm以下の細孔容積は0.4〜2.5ml/gである。また、一般にコロイダルシリカと呼ばれるシリカもあるが、これは通常、ケイ酸アルカリ塩水溶液をイオン交換樹脂で処理して活性ケイ酸水溶液を製造し、アルカリを添加して活性ケイ酸水溶液を安定化したのち、加熱して微細なシリカが単分散した液(シード液)を作り、ケイ酸水溶液を徐々に添加して該シリカ微粒子を成長させて製造されるものであり、これも本発明に使用することができる。但し、コロイダルシリカは製造方法からわかるように、シリカ粒子は二次粒子を形成していないため細孔径100nm以下の細孔容積は0.2〜0.3ml/gの範囲であり、キャスト層に用いるにはインク吸収量が多少少ない。
【0026】
高光沢、高透明性のキャスト層を得るためには平均粒径1μm以下の微細顔料を使用するのが好ましいが、中でも、その微細顔料が平均粒径3〜60nmの一次粒子が凝集してなる平均粒径20〜800nmの二次粒子であるとより好適である。特に二次粒子の粒径は、より好ましくは30〜700nm、最も好ましくは40〜500nmである。このような二次粒子は二次粒子内部に空隙があるので細孔容積が大きい。さらに二次粒子間の空隙もインク吸収に利用できるためインク吸収能力が高い。また一次粒子は光の波長に比べて充分小さいので二次粒子を形成していない顔料と比較して光の散乱能力が小さく、キャスト層の透明性が高くなる利点がある。顔料の一次粒子径や二次粒子径が小さすぎるとインク吸収に寄与する空隙を形成し難くなるため、受容層のインク吸収性が劣る恐れがある。逆に、一次粒子径や二次粒子径が大きすぎると記録層の透明性が低下し、高印字濃度を得にくい恐れがある。また、二次粒子径が大きすぎると、受容層の光沢が低下するだけでなく、表面のざらつきや、粉落ちの原因となるおそれがある。なお、本発明でいう顔料の一次粒子径はすべて電子顕微鏡(SEM及びTEM)で観察した粒径(マーチン径)である(「微粒子ハンドブック」、朝倉書店、p52参照)。また、二次粒子径は、動的光散乱法によって測定した粒径である。
【0027】
また、インク吸収能の高いキャスト層を得るためには、使用する微細顔料の細孔容積は高いほうが好ましいが、0.4〜2.5ml/gが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0ml/gであり、更に好ましくは0.6〜1.9ml/g、最も好ましくは0.7〜1.8ml/gである。この細孔容積はガス吸着法による比表面積・細孔分布測定装置を用いて求めた値であり、細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積である。
【0028】
これらの微細顔料の製造方法は特に限定されないが、その手段の一つとして市販の顔料(数μm〜数十μm)に機械的手段で強い力を与えることにより粉砕、分散して得る方法が挙げられる。つまり、breaking down法(塊状原料を細分化する方法)によって得られるものである。機械的手段としては、超音波ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザー、ナノマイザー、高速回転ミル、ローラーミル、容器駆動媒体ミル、媒体攪拌ミル、ジェットミル、サンドグラインダー等の機械的手法が挙げられる。得られる微細顔料はコロイド状であっても、スラリー状であっても良い。その他の好ましい微細顔料の製造方法として、特開平5−32413号公報や特開平7−76161号公報などに開示されている金属アルコキシドの加水分解による方法が挙げられる。
【0029】
最も好ましい微細顔料は、活性ケイ酸を縮合して製造され、平均二次粒子径が1μm以下で、細孔径100nm以下の細孔容積が0.4〜2.5ml/gの微細シリカである。このような微細シリカとして特開2001−354408号公報において開示されている微細シリカが好ましい。
「窒素吸着法による比表面積が300m2/g〜1000m2/gで、細孔容積が0.4ml/g〜2.0ml/gであるシリカ微粒子がコロイド状に分散した液をシード液とし、該シード液にアルカリを添加したのち、該シード液に対し活性ケイ酸水溶液及びアルコキシシランから選ばれる少なくとも一種類からなるフィード液を少量ずつ添加してシリカ微粒子を成長させることを特徴とする、窒素吸着法による比表面積が100m2/g〜400m2/g、平均二次粒子径が20nm〜300nm、かつ細孔容積が0.5ml/g〜2.0ml/gのシリカ微粒子がコロイド状に分散したシリカ微粒子分散液の製造方法。」
【0030】
特開2001−354408号公報で開示されている活性ケイ酸の縮合による方法は、機械的手段によらずに直接、上記の粒子径や細孔容積を有する微細シリカを製造でき、かつ粒度分布が狭いのでキャスト層の透明度や光沢が良好なので本発明に好ましく用いることができる。ここで活性ケイ酸とは、例えばアルカリ金属ケイ酸塩水溶液を水素型陽イオン交換樹脂でイオン交換処理して得られるpH4以下のケイ酸水溶液をさす。SiO2濃度として1〜6質量%が好ましく、より好ましくは2〜5質量%でかつpH2〜4である活性ケイ酸水溶液が望ましい。アルカリ金属ケイ酸塩としては、市販工業製品として入手できるものでよく、より好ましくはSiO2/M2O(但し、Mはアルカリ金属原子を表す)モル比として2〜4程度のナトリウム水ガラスを用いるのが好ましい。活性ケイ酸の縮合方法としては、熱水に活性ケイ酸水溶液を滴下するか、活性ケイ酸水溶液を加熱してシード粒子を生成させ、分散液が沈殿を生じる前、若しくはゲル化する前にアルカリを添加してシード粒子を安定化し、次いで該安定状態を保ちながら活性ケイ酸水溶液をシード粒子に含まれるSiO21モルに対してSiO2に換算して0.001〜0.2モル/分の速度で添加してシード粒子を構成する各一次粒子を成長させたものが好ましい。平均二次粒子径は1μm以下であり、好ましくは20nm〜800nm、最も好ましくは30nm〜700nmである。尚、この平均二次粒子径は動的光散乱法を採用した粒度計で測定し、キュムラント法で解析した値である。
【0031】
一次粒子径については特に限定されないが、好ましくは直径5nm〜60nmである。ただし、該微細シリカはシリカ一次粒子が化学結合して二次粒子を形成しているため、一次粒子の直径を正確に求めることは困難である。このため一次粒子の平均粒子径の尺度として窒素吸着法による比表面積を採用すると、好ましい比表面積は50m2/g〜500m2/gである。比表面積がこの範囲よりも小さい場合には、光散乱が強くなり、乾燥塗膜の透明性が低下する。ひいては印字濃度が低下する。一方、比表面積が上記範囲よりも大きい場合には、塗工液がゲル化を起こしやすくなり、作業性を損ねる恐れがある。また、バインダーと混合して乾燥塗膜を作成する場合にひび割れが起こり易くなり、良好な塗膜が得られにくくなる恐れがある。より好ましくは100m2/g〜400m2/g、更に好ましくは150m2/g〜350m2/gである。尚、凝集していない真球状シリカ粒子の場合、一次粒子径(nm)=2720/比表面積(m2/g)の関係が成立するが凝集粒子の場合でも近似的にはこの関係が成立する。
【0032】
本発明に用いる電子線硬化性成分としては、水性塗料中に溶解もしくは分散した状態で電子線を照射されると、重合反応や架橋反応のように分子量が増加する反応を起こし、塗料をハイドロゲル化する性質を有している物質であれば、特に種類を限定されるものではない。一例として、一般的に電子線硬化型樹脂と言われる分子末端或いは側鎖にアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有するポリマーまたはオリゴマーがあり、それらの中にはポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエポキシ系、ポリエーテル系がありいずれも使用できる。また1分子の中に複数のアクリロイル基またはメタクリロイル基を含むモノマーも使用でき、上記の電子線硬化性ポリマーまたはオリゴマーと混合して使用しても良い。
【0033】
その他にも、ラジカル重合性の不飽和結合は有さないが、水溶液に電子線を照射することによりハイドロゲルを形成する親水性樹脂も電子線硬化性成分として用いることができる。これらの具体例としては、完全けん化ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、カゼイン及びこれらの水溶性誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。水溶性誘導体には、カチオン変性品、アニオン変性品や、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの官能基を例えばエステル化、エーテル化、アミド化して化学修飾した誘導体、グラフト重合によって他の側鎖を導入した重合体を例示できる。
また、水溶性誘導体には前記各樹脂の構成単位を含む共重合体も含まれる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリル酸などを構成するビニルモノマーからなる共重合体、また、これらのモノマーとそれ以外のモノマーを含む共重合体を例示できる。また、これらの樹脂を単独で使用するだけでなく二種類以上混合して用いることもできる。これらの樹脂は汎用の樹脂であるので安価であり、皮膚刺激性も弱く、分子量を選択する事で電子線照射後に得られるゲルの強度も容易に調整できるため、電子線硬化性成分として好適に用いられる。また前記のアクリロイル基またはメタクリロイル基を含む電子線硬化性ポリマー、オリゴマー、及びモノマーよりも親水性が高い点も好ましい点である。これらの樹脂の中でも、扱いやすく種類も豊富である事からポリビニルアルコールが特に好適に用いられる。
【0034】
電子線硬化性成分として前記の特定親水性樹脂を用いる場合、その分子量の最適値は樹脂の種類毎に性状が異なるので一概にいえないが、あまり高すぎると塗料の保存性や塗工性に問題を生じる恐れがある。逆に、分子量が低すぎても、電子線照射によって得られるハイドロゲルのゲル強度が不十分となるため乾燥後の塗膜のひび割れが発生し、記録紙の外観を妨げる恐れがある。分子量の目安としては1万〜500万程度がよく、より好ましくは、5万〜100万である。
【0035】
インクジェットプリンターに用いられるインク中の着色成分である染料や顔料はアニオン性基を有するものが多いため、キャスト層にはカチオン性のインク定着剤を添加することが望ましい。そのため本発明の電子線硬化性成分としてカチオン性のものを使用すると、インク定着剤として機能するため好適である。例えばカチオン性ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルピロリドン、カチオン性水溶性ポリビニルアセタール、カチオン性ポリ−N−ビニルアセトアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリロイルモルホリン、カチオン性ポリヒドロキシアルキルアクリレート、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、カチオン性メチルセルロース、カチオン性ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カチオン性ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン性ゼラチン、カチオン性カゼイン等が挙げられる。インク定着剤は受容層(キャスト層)の中でも表層部分に多く添加すると、インクの発色や耐水性により効果的である。従って、本発明を利用して多層構成の受容層を作製する場合、特に前記カチオン性の電子線硬化性成分を含有する層を最表層のキャスト層として設けると好適である。
【0036】
本発明のインクジェット記録紙のキャスト用塗工層は、溶媒を含んだ状態で電子線を照射される。この塗料中に含まれる溶媒の主成分は水であるが、副成分として各種溶剤を添加することもできる。その場合、比較的沸点が低い、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、アセトン、トルエン、キシレン、ジオキサン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が好適に用いられるがこれらに限定するものではない。また、これらの溶媒を2種類以上混合して使用してもよい。
【0037】
顔料と電子線硬化性成分の配合比は、顔料100質量部に対して、電子線硬化性成分を1〜100質量部混合することが好適である。前述したように電子線硬化性成分としてはラジカル重合性の不飽和結合は有さないが、水溶液に電子線を照射することによりハイドロゲルを形成する親水性樹脂が好ましい。インク吸収の観点から前記電子線硬化性成分は最小量に抑えることが望ましい。また、電子線硬化性成分は受容層(キャスト層)中の微細顔料の周囲に付着して見かけ粒径を増大させる可能性もあるため、受容層(キャスト層)の透明性の観点からも電子線硬化性成分はひび割れが発生しない範囲内で少ないほうが良い。以上の理由から、顔料と電子線硬化性成分の配合比は、さらに好ましくは微細顔料100質量部に対して前記電子線硬化性成分を3〜50質量部、最も好ましくは5〜30質量部である。
【0038】
キャスト層は細孔容積が0.2〜2.0ml/gの範囲になるよう調節することが好ましい。この値は、前述したような適当な細孔容積を有する微細顔料の選択や、電子線硬化性成分の添加量により調節されるものである。キャスト層の細孔容積が0.2ml/g未満の場合、塗工量を多くしないとインクを吸収できないのでインクジェット記録紙が嵩高くなり、製造コストも高くなる。また2.0ml/gを越える細孔容積ではキャスト用層の機械的強度が低下し、受容層(キャスト層)に傷がついたり、剥がれたり、割れたりしやすくなり好ましくない。尚、この細孔容積はガス吸着法による比表面積・細孔分布測定装置を用いて求めた値であり、細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積である。
【0039】
本発明に用いるキャスト層用塗料の好適な固形分濃度は、塗料の組成によって大きく異なるが、塗料が安定かつ塗工可能な範囲内で、より高濃度であることが好ましい。それは、塗料が高濃度である程、電子線照射によって進行する架橋反応の効率が高まるので、ゲル化後の塗工層の強度が上がり、基材との密着安定性が向上するためである。また、塗工層(キャスト層)が顔料を含む場合は、ひび割れ防止効果も高まるため好適である。更に言うまでもなく、乾燥負荷が軽くなる利点もある。しかし、実際には塗料の粘度及び安定性の面で濃度の上限が決まる場合が多い。以上の点を考慮すると、塗料の固形分濃度は、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜25質量%である。
【0040】
主成分以外にも、キャスト層用塗料に他の成分を添加することもできる。これらの添加物自体は、電子線硬化性成分でなくても良い。その一例としては、カチオン性樹脂が挙げられる。カチオン性樹脂の種類も特に限定されるものではないが、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート四級化物、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド四級化物、ビニルイミダゾリウムメトクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、メチルジアリルアミン塩、モノアリルアミン塩、ジアリルアミン塩等のカチオン性を有する構造単位を含む樹脂が挙げられる。その他、アミジン環を有するカチオン樹脂、ジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン縮合物、2級アミン・エピクロロヒドリン付加重合物、ポリエポキシアミン等を含むカチオン性樹脂も利用可能である。また、カチオン性物質として、無機塩、有機塩、アルミナゾルなどを配合することも可能である。カチオン性物質の添加により印字の耐水保存性が向上する。
【0041】
その他にも、塗料に消泡剤を添加して塗工時の作業性を向上したり、基材との密着性を高めるために界面活性剤を添加することもできるし、得られる記録紙の貼りつき防止や通紙性向上のため、デンプンや合成樹脂粒子を混合しても良い。また、透明性や表面光沢の調整に、主成分以外の各種顔料を添加することもできるし、例えば印字画像の保存性向上のため、紫外線吸収剤や光安定化剤などの耐光性向上剤を添加することもできる。また、一般的なキャスト光沢紙には必須である離型剤は、離型性が良好な本発明においては必ずしも必要とはしていないが、塗料処方や操業条件によっては添加しても良い。
【0042】
これら添加物の添加方法としては、予め塗料に混合しておいてもよいし、まず塗工層(キャスト層)を形成してから添加物を含む溶液を上塗り、噴霧、含浸するなどの方法で、後から添加しても良い。添加物を塗料に予め添加する場合、添加のショックで塗料がゲル化してしまった時には、機械的手段を用いて再分散させることも有効な手段である。例えば、シリカなどのアニオン性顔料の分散液にカチオン性樹脂を添加すると、両者の静電特性のため塗料は一時的にゲル化するが機械的手段を用いて再分散させれば塗工は可能であり、乾燥後の塗膜中では両者が静電気的に強固に結着しているため、水溶性のカチオン性樹脂が特に架橋されていなくても塗膜の耐水性は充分に保たれる。
【0043】
これらの成分を含有するキャスト層塗料の塗工には公知の塗布装置、例えばバーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーターなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、キャスト用塗工層を高機能化等の目的で多層化した場合、単層塗工を繰り返し行なっても良いが、専用の多層式スロットダイコーター、多層式スライドダイコーター、多層式カーテンコーター等の同時多層塗工装置を使用して同時多層塗工を行なっても良い。
【0044】
キャスト層の塗工量は記録紙の用途によっても大きく異なるため特に限定するものではないが、乾燥後の全塗工層の総塗工量は質量として1〜80g/m2程度が好ましく、さらに好ましくは3〜60g/m2程度である。塗工量が大きすぎると、カールが発生しやすくなるし、コストもかさむので好ましくない。また、電子線照射によって層全体を十分にゲル化させることができなかったり、乾燥が不十分となりがちである。塗工量が1g/m2より少ないとインクの吸収が不十分となる恐れがある。多層塗工の場合の各層塗工量は特に限定はしないが、一層の塗布量があまり少ないと塗工量を制御するのが難しくなり、層構造に乱れが生じやすくなるため注意を要する。
【0045】
また、キャスト層を塗設する側、即ちインクジェットプリンターの印字適性を付与する側は、基材の片面だけでも両面であっても良く、両面の場合もその層構成が異なっていても良い。但し、その場合は、キャスト層を片面に塗設した状態の紙シートの透気度がガーレー高圧型透気度試験機で測定した値で、200秒/100ml以下であることが望ましい。キャスト層が片面のみの場合は、得られるインクジェット記録紙がキャスト層を内側にカールしやすくなるため、反対側の面(裏面)にカール制御を目的とした塗工層や、ポリエチレン系樹脂あるいはポリオレフィン系樹脂等によるラミネート加工を施しても良い。それらカール矯正層を設ける場合の処方や処理厚は、記録紙のカールを考慮して調整する。
【0046】
キャスト用塗工層を電子線を照射することによりハイドロゲル化する。塗料に含まれる電子線硬化成分が架橋して3次元網目構造を形成するためゲル化が起こって塗工層が不動化する。電子線の照射は、塗布後直ちに行なっても良いし、塗工層中に含まれる溶媒の一部を予備乾燥で蒸発させてから行なっても良い。但し、該塗工層表面が乾いて不動化してしまうと、後に続くキャスト処理が十分に実施できなくなるため、過度の乾燥は避ける必要がある。また、塗工工程と電子線照射工程を数回繰り返してからキャスト処理に供しても良い。しかし、生産性を重視するのであれば、キャスト用塗工層を単層もしくは同時多層で一括塗工し、直ちに電子線照射を行なった後、キャスト処理を行なうのがコストや各層の密着性の観点から最も好ましい。
【0047】
本発明における電子線の照射方式としては、例えばスキャニング方式、カーテンビーム方式、ブロードビーム方式などが採用され、電子線を照射する際の加速電圧は50〜300kV程度が適当である。電子線の照射量は1〜200kGy程度の範囲で調節するのが好ましい。1kGy未満では塗工層をゲル化させるのに不十分である恐れがあり、200kGyを越えるような照射は基材や塗工層の劣化や変色をもたらす恐れがある。また、電子線を照射する環境下に酸素が存在するとオゾンが発生する副反応が進行しやすいため、窒素ガスなどで酸素を追い出した雰囲気下で電子線照射を実施することが望ましい。
【0048】
本発明においては、この電子線照射工程により、特にゲル化剤等を必要とせずにキャスト前の塗工層強度を向上できるため、材料コストが抑えられる。また、ゲル化剤に関しては、近年規制が強化されつつあるホウ素化合物や、活性の高い有機系架橋剤、紫外線硬化剤等、安全性が懸念される材料も多いため、それらを必要としない安全性の面からも、好適である。更に、本発明の架橋反応は電子線照射により瞬時に進行するため、水分を多量に含む状態でゆとりある架橋構造が形成された後、過剰に架橋反応が進行することが無い。従って、ホウ素化合物による架橋の様に過剰に架橋反応が進行して塗膜が脆弱化し、乾燥後の軽度な折り曲げなどの変形や環境変化で、塗工層が容易にひび割れることも無い。
【0049】
ハイドロゲル化したキャスト用塗工層は、湿潤状態にあるうちに加熱された鏡面ドラムに圧接してキャスト処理を行なう。具体的には、該塗工層が加熱した光沢ロールに接するようにプレスロールでプレスすることにより、圧接、乾燥し、光沢ロールから離型して加熱された鏡面ドラムを写し取るドラムキャスト法が好適に利用できる。キャスト処理には、電子線照射によりハイドロゲル化した該塗工層はそのまま供しても良いし、必要に応じて該塗工層のキャスト処理を妨げない範囲で、各種物質を溶解もしくは分散した溶液を該塗工層に公知の塗工方法で塗布してからでも良い。後者の場合、キャスト処理によるプレス圧がかかるため、新たに添加される溶液の実質的塗布量は非常に少量となるが、塗工層表面に高濃度に分布させたい添加剤や光沢感の調整剤等の塗布に好適に利用できる。
キャスト処理工程での乾燥は、必ずしも完全に行なう必要はない。キャスト用塗工層中の水分が下塗り層や原紙に移行し、キャスト用塗工層中の固形分濃度が上昇して、その表面が変形に耐えられる強度を得た時点で鏡面ドラムから剥離しても良い。その後、原紙を含む各層に残留する過剰水分を、乾燥ゾーンで別途乾燥することも可能である。
【0050】
ドラムキャスト法における光沢ロールの表面温度は、乾燥条件等の操業性、キャスト層表面の光沢性から70〜150℃の範囲が好ましく、80〜110℃の範囲がより好ましい。光沢ロールの表面温度が、70℃未満の場合は、乾燥速度が遅くなるため操業性が悪化するだけでなく、キャスト層中の細孔が潰れやすくなる懸念があり、150℃を超える場合は、乾燥速度は上がるものの光沢ロール表面に乾いた塗料カスが付着しやすくなり、それが塗工層の欠陥を招く可能性があるため好ましくない。
圧接のためのプレスロールの材質は、光沢ロールとプレスロールに加圧をより均一にするために耐熱樹脂製が好ましい。
光沢ロールとプレスロール間の加圧線圧は、20〜300kg/cmが好ましく、30〜250kg/cmがより好ましい。光沢ロールとプレスロール間の加圧線圧が、20kg/cm未満の場合は、加圧線圧が均一になり難く光沢性が低下するおそれがあり、300kg/cmを超える場合は、インクジェット記録用紙を過度に加圧するために下塗り層およびキャスト層の空隙を破壊するためにインク吸収性が低下するおそれがある。
【0051】
本発明において、光沢ロールから剥離した直後の記録用紙の水分は、その平衡水分より高めになる場合が多い。ベンチスケールでの試験の場合は、常温・常湿でそのまま放置し、平衡水分にしても良い。実機で生産する場合、光沢ロールから剥離した後、ワインダーで巻き取るまでの間に平衡水分に達するような場合には、調湿・乾燥装置は不要である。
しかし、塗布速度が速く、紙水分が高い場合は、前述の通り光沢ロールから剥離してワインダーまでの間に、調湿装置を有する調湿工程または乾燥装置を有する乾燥工程を設置しても良い。調湿または乾燥装置の能力や仕様は、記録用紙が剥離された時点で持っている水分と平衡水分との差および塗布速度により、適宜設定される。記録用紙の水分を平衡水分まで調湿する場合、その水分変化は可能な限り穏やかにするのが好ましい。水分を急激に変化させた場合、塗布層がひび割れたり記録用紙に強いカールが発生する可能性がある。したがって、常温・常湿の空気中で、調湿に十分な時間を確保するのが最良である。塗布速度が速く、または空間的な制約で十分な場所を確保できない場合、常温・低湿の空気を満たしたボックスの中を通すのが良い。それでも不足の場合は、ボックス内の温度を上げ、高温・低湿とする必要がある。
【0052】
本発明のキャスト層には、長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下である。但し、個数は出来る限り少ない方が良く、好ましくは5個以下、より好ましくは1個以下が良い。この際、ひび割れは連結したものもあり形状が複雑なので、長さを表わすためにひび割れを内接する最小円の直径を長さと定義し、図2のような連結しているが長さが100μm以上1mm未満のひび割れは、1個と数える。
このようにキャスト層のひび割れを制御すると、光沢や目視外観に優れ、顔料インク搭載のプリンターで印字した場合でも、ひび割れのない良好な画像を得ることができる。一方、図1のようにひび割れが連結して長さが1mm以上に達しているものは、光沢や目視外観に支障をきたすだけでなく、画質も劣るため、本発明には含まれない。ひび割れの制御はキャスト層に用いる顔料と電子線硬化成分の配合比や電子線照射量で主に決定されるのでそれらを最適に調節することで達成できる。具体的には、電子線硬化成分の配合比は多いほどひび割れ難くなるが、同時にインク吸収性が低下するため両者のバランスを取る必要がある。また、電子線照射量も高いほどひび割れ難くなるが、過剰照射はコスト増につながるため、最適値を見極める必要がある。また顔料の種類、平均粒径、及び細孔容積の調節、塗料の濃度、キャスト仕上げの条件の変更でも多少調整可能である。
【0053】
またインクジェット記録紙を高温高湿の環境で使用することも想定すると、40℃、相対湿度90%の環境に48時間保持した後も、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ拡大観察で判別される長さ100μm以上1mm以下のひび割れが1cm2あたり10個以下であることが好ましい。そのためにはホウ素化合物を用いないことが最も重要である。更に、顔料と電子線硬化成分の種類や配合比や電子線照射量、顔料の平均粒径や細孔容積の調節などでも多少調成可能であり、特に、電子線硬化性成分にラジカル重合性の不飽和結合は有さないが、水溶液に電子線を照射することによりハイドロゲルを形成する親水性樹脂を使用することが、温度や湿度などの環境変化に伴う塗工層のひび割れ増加を抑制するのに効果的である。
【0054】
キャスト仕上げ後の光沢はISO 8254−1に基づいて測定した75度光沢が30以上が好ましい。光沢が30以上の場合、ひび割れが少ない効果もあって目視でも光沢感が良好で、銀塩写真に近い画像が得られる。
【0055】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、本実施例で表示する%、部は質量パーセント、質量部を意味する。
【0056】
基材の製造方法
1.原紙A
木材パルプ(LBKP;ろ水度400mlCSF)100部、焼成カオリン(商品名:アンシレックス)5部、市販サイズ剤0.05部、硫酸バンド1.5部、湿潤紙力剤0.5部、澱粉0.75部よりなる製紙材料を使用し、長網抄紙機にて坪量140g/m2の紙基材を製造した。
【0057】
2.原紙B
CSF(JIS P−8121)が250mlまで叩解した針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)と、CSFが280mlまで叩解した広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)とを、質量比2:8の割合で混合し、濃度0.5%のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリー中にパルプ絶乾質量に対しカチオン化澱粉2.0%、アルキルケテンダイマー0.4%、アニオン化ポリアクリルアミド樹脂0.1%、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂0.7%を添加し、十分に撹拌して分散させた。上記組成のパルプスラリーを長網マシンで抄紙し、ドライヤー、サイズプレス、マシンカレンダーを通し、坪量101g/m2 、緊度1.0g/cm3 の原紙を製造した。上記サイズプレス工程に用いたサイズプレス液は、カルボキシル変性ポリビニルアルコールと塩化ナトリウムとを2:1の質量比で混合し、これを水に加えて加熱溶解し、濃度5%に調製したもので、このサイズプレス液を紙の両面にトータルして25ml/m2塗布して原紙Bを得た。
【0058】
3.ラミネート紙
原紙Bの両面にコロナ放電処理を施した後、バンバリーミキサーで混合分散した下記のポリオレフィン樹脂組成物1を原紙のフェルト面側に塗工量が15g/m2 になるようにして、またポリオレフィン樹脂組成物2(裏面用樹脂組成物)をワイヤー面側に塗工量が25g/m2 になるようにして、T型ダイを有する溶融押し出し機(溶融温度320℃)で塗布し、フェルト側を鏡面、ワイヤー側を粗面のクーリングロールで冷却固化して、鏡面ラミネート紙を製造した。
(ポリオレフィン樹脂組成物1)
長鎖型低密度ポリエチレン樹脂(密度0.926g/cm3 、メルトインデックス20g/10分)35部、低密度ポリエチレン樹脂(密度0.919g/cm3、メルトインデックス2g/10分)50部、アナターゼ型二酸化チタン(A−220;石原産業製)15部、ステアリン酸亜鉛0.1部、酸化防止剤(Irganox1010;チバガイギー製)0.03部、群青(青口群青No. 2000;第一化成製)0.09部、蛍光増白剤(UVITEX OB;チバガイギー製)0.3部
(ポリオレフィン樹脂組成物2)
高密度ポリエチレン樹脂(密度0.954g/cm3 、メルトインデックス20g/10分)65部、低密度ポリエチレン樹脂(密度0.924g/cm3、メルトインデックス4g/10分)35部
【0059】
塗料の調製方法
1.下塗り層用塗料a
下記に示す合成非晶質シリカとゼオライトをそれぞれ水に分散し、30%の水分散液とした。更に下記に示すシリル変性ポリビニルアルコールの10%水溶液を調製し、その他材料とともに下記の固形分比率で順次混合し、固形分濃度17%の下塗り用塗料aを調製した。
(下塗り層用塗料aの処方)
合成非晶質シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX−60、平均二次粒子径6.0μm、一次粒子径15nm)と80部、ゼオライト(トーソー社製、商品名:トヨビルダー、平均粒子径1.5μm)20部、シリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R−1130)20部、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド重縮合体(センカ社製、商品名:ユニセンスCP−104、重量平均分子量20万)15部、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド重縮合体(センカ社製、商品名:ユニセンスCP−101、重量平均分子量2万)5部、蛍光染料(住友化学社製、Whitex BPSH)2部。
【0060】
2.下塗り層用塗料b
平均粒径3μmの合成無定型シリカ(日本シリカ工業(株)製、商品名:Nipsil HD−2、一次粒径=11nm)を水に分散し、サンドグラインダーにより粉砕分散した後、油圧式超高圧ホモジナイザー(みづほ工業(株)製、マイクロフルイダイザーM110−E/H)で、下記の方法で測定した平均粒径(平均二次粒径)が168nmになるまで繰り返し粉砕分散し、20%のシリカゾル水分散液bとした。
ここに下記に示す固形分比率で完全けん化ポリビニルアルコール((株)クラレ製、商品名:PVA―140H、重合度=4000、けん化度=99%以上)の6%水溶液を混合し、固形分濃度15%の下塗り層用塗料bを調製した。
(下塗り層用塗料bの処方)
シリカの水分散液b:100部
完全けん化ポリビニルアルコール:15部
【0061】
[微細顔料の平均二次粒径測定方法]
微細顔料の水分散液100mlを500ml容のステンレス製カップに入れ、特殊機化工業(株)製T.K.ホモディスパーを用いて分散処理(3000rpm、5分間)し、水分散液中の3次粒子を分散した。処理後の分散液を充分に蒸留水で希釈して試料液とし、動的光散乱法によるレーザー粒度計(大塚電子(株)製、LPA3000/3100)を用いて、平均粒径を測定した。平均粒径はキュムラント法を用いた解析から算出される値を用いた。
【0062】
3.キャスト層用塗料A
(活性ケイ酸水溶液の調製)
SiO2濃度30%、SiO2/Na2Oモル比3.1のケイ酸ソーダ溶液((株)トクヤマ製、三号珪酸ソーダ)に蒸留水を混合し、SiO2濃度4.0%の希ケイ酸ソーダ水溶液を調製した。この水溶液を、水素型陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、ダイヤイオンSK−1BH)が充填されたカラムに通じて活性ケイ酸水溶液を調製した。
得られた活性ケイ酸水溶液中のSiO2濃度は4.0%、pHは2.9であった。
【0063】
(シード液の調製)
還流器、攪拌機、温度計を備えた5リットルのガラス製反応容器中で、500gの蒸留水を100℃に加温した。この熱水を100℃に保ちながら、上記の活性ケイ酸水溶液を1.5g/分の速度で合計450g添加し、シード液を調製した。このシード液中のシード粒子の物性は、平均二次粒子径184nm、比表面積832m2/g、細孔容積0.60ml/g、細孔径4nmであった。
【0064】
(微細シリカ分散液の調製)
上記のガラス製反応容器中で、950gの上記シード液に対しアンモニアを0.015モル添加し安定化させ、100℃に加温した。このシード液に対して、上記の活性ケイ酸水溶液を1.5g/分の速度で合計550g添加した。活性ケイ酸の添加終了後、そのまま溶液を100℃に保って9時間加熱還流を行い、微細シリカ分散液を得た。分散液は青みを帯びた透明溶液であり、pHは7.2であった。この微細シリカ分散液の性状は、平均二次粒子径130nm、比表面積257m2/g、細孔容積1.0ml/g、細孔径16nmであった。この分散液をエバポレーターでシリカ濃度11%に濃縮した。
【0065】
この分散液100部にジアリルジメチルアンモニウムクロライド・アクリルアミド共重合体(日東紡績(株)製、商品名:PAS−J−81)の11%水溶液10部を添加し、前記の油圧式超高圧ホモジナイザーにて分散し、平均粒径376nmのカチオン性シリカの水分散液Aを製造した。この分散液は固形分濃度が11%であり、シリカ濃度は10%、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・アクリルアミド共重合体濃度は1%であった。また、該共重合体を含んだ状態で細孔容積を測定したところ0.9ml/gであった。
ここに下記に示す固形分比率で前述の完全けん化ポリビニルアルコールの6%水溶液を混合し、固形分濃度10%のキャスト層用塗料Aを調製した。
(キャスト層用塗料Aの処方)
カチオン化シリカA:100部
完全けん化ポリビニルアルコール:15部
【0066】
4.キャスト層用塗料B
気相法にて製造された平均一次粒径9nmのシリカ(日本アエロジル(株)製、商品名:AEROSIL 300)の11%水分散液を、前記の油圧式超高圧ホモジナイザーにて3回分散した。この水分散液中のシリカの細孔容量を上記の測定方法で測定したところ、1.6ml/gであった。また平均粒径(平均二次粒径)は228nmであった。該分散液100部に前記のジアリルジメチルアンモニウムクロライド・アクリルアミド共重合体の11%水溶液10部を添加し、ゲル化した混合物を同ホモジナイザーにて更に分散を繰り返し、平均二次粒径376nmのカチオン化シリカの水分散液Bを製造した。この分散液は固形分濃度11%であり、シリカ濃度は10%、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・アクリルアミド共重合体濃度は1%であった。また、該共重合体を含んだ状態で細孔容量を測定したところ1.4ml/gであった。
ここに下記に示す固形分比率で前述の完全けん化ポリビニルアルコールの6%水溶液を混合し、固形分濃度10%のキャスト層用塗料Bを調製した。
(キャスト層用塗料Bの処方)
カチオン化シリカB:100部
完全けん化ポリビニルアルコール:15部
【0067】
5.キャスト層用塗料C
アルミナ(住友化学社製、AKP−G020、γ−アルミナ、比表面積150m2/g)の12%水分散液を、サンドグラインダーにより粉砕分散した後、更に油圧式超高圧ホモジナイザーにて分散し、上記の測定方法で測定した細孔容積が0.5ml/g、平均粒径(平均二次粒径)が200nmのアルミナゾルを作製した。
ここに下記に示す固形分比率で前述の完全けん化ポリビニルアルコールの6%水溶液を混合し、固形分濃度11%のキャスト層用塗料Cを調製した。
(キャスト層用塗料Cの処方)
アルミナゾル:100部
完全けん化ポリビニルアルコール:7.5部
【0068】
6.キャスト層用塗料D
下記に示す固形分比率で材料を混合し、固形分濃度30%のキャスト層用塗料Dを調製した。
(キャスト層用塗料Dの処方)
アニオン性コロイダルシリカ(日産化学製、商品名:スノーテックス20):80部とスチレン・アクリル共重合体エマルジョン(ライオン社製、商品名:エルサード740):20部、離型剤としてレシチン2部。(固形分濃度30%)
【0069】
<実施例1>
原紙Aを基材とし、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が15g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、直ちに窒素ガス環境下で電子線照射装置(ESI社製エレクトロカーテン)により加速電圧175kV、照射量40kGyの電子線を照射した。照射後の塗工面に触ったところ塗料はゼリー状の固体となっており、ハイドロゲルとなったことがわかった。これを直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接、乾燥後、離型させてインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0070】
<実施例2>
キャスト層用塗料Aの代わりにキャスト層用塗料Bを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0071】
<実施例3>
キャスト層用塗料Aの代わりにキャスト層用塗料Cを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0072】
<実施例4>
原紙Aに下塗り層用塗料aを乾燥質量で塗工量が10g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工した。これを基材として、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が10g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、直ちに窒素ガス環境下で電子線照射装置により加速電圧175kV、照射量40kGyの電子線を照射した。照射後の塗工面に触ったところ塗料はゼリー状の固体となっており、ハイドロゲルとなったことがわかった。これを直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接、乾燥後、離型させてインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0073】
<実施例5>
キャスト層用塗料Aの代わりにキャスト用層塗料Bを用いたこと以外は実施例4と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0074】
<実施例6>
キャスト層用塗料Aの代わりにキャスト層用塗料Cを用いたこと以外は実施例4と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0075】
<実施例7>
原紙Aの代わりに原紙Bを基材として用いたこと以外は実施例4と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0076】
<実施例8>
下塗り層用塗料aの代わりに下塗り層用塗料bを用いたこと以外は実施例4と同様の方法でインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0077】
<比較例1>
原紙Aを基材とし、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が15g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接させたところ、プレス圧のために大半の塗料が原紙の周辺から流れ出した。更に、乾燥後、離型させようと試みたが、キャスト面が加熱ロールに貼り付いてしまい、無理に剥がそうとすると原紙の層間が剥離してしまった。そのため、比較用サンプルシートを得ることは出来なかった。
【0078】
<比較例2>
原紙Aを基材とし、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が15g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、その上から1%ホウ砂水溶液を1g/m2となるように噴霧塗布した。塗工面はある程度ゲル状になっていたが、その強度はあまり強くなかった。これを直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接させたところ、プレス圧のために塗工層が変形し一部の塗料が原紙の周辺からはみ出した。乾燥後、離型させたところ、部分的には光沢が発現したが、キャスト層にムラや大きなひび割れがある比較用サンプルシートが得られた。
【0079】
<比較例3>
原紙Aを基材とし、キャスト層用塗料Aを乾燥質量で塗工量が15g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、直ちに窒素ガス環境下で電子線照射装置により加速電圧175kV、照射量40kGyの電子線を照射した。照射後の塗工面に触ったところ塗料はゼリー状の固体となっており、ハイドロゲルとなったことがわかった。これを直ちに110℃の熱風で乾燥させ比較用サンプルシートを得た。
【0080】
<比較例4>
原紙Aの代わりにラミネート紙を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で比較用サンプルシートを得ようとした。しかし、加熱された鏡面ドラムに圧接、乾燥する段階でキャスト用塗工層から生じた水蒸気がラミネート紙を透過できないため、蒸気圧で塗工層と鏡面ドラムの間が部分的に剥離してしまった。そのため、得られた比較用サンプルシートは乾燥が不十分で、且つ塗工層表面にはムラが生じた。
【0081】
<比較例5>
原紙Aを基材とし、下塗り層用塗料aを乾燥質量で塗工量が12g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工し、乾燥した。これを基材として、キャスト層用塗料Dを乾燥質量で塗工量が7g/m2となるようにアプリケーターバーで塗工した後、直ちに表面温度90℃の鏡面ドラムに圧接、乾燥後、離型させてインクジェット記録用キャスト光沢紙を得た。
【0082】
実施例及び比較例で使用した基材の透気度、作成したインクジェット記録用キャスト光沢紙もしくは比較用サンプルシートのキャスト層の細孔容積、75゜白紙光沢、インクジェット印字評価、高温高湿環境試験前後のひび割れを以下に示す方法で評価し、それぞれの作製条件を表1に、評価結果を表2に示した。但し、均一な塗工層が得られなかった比較用サンプルシートの評価に関しては、正確な判定が困難であったため、評価の一部を省略した。
【0083】
[基材の透気度測定方法]
JIS−P8117に基づいてガーレー高圧型透気度試験機で測定し、秒/100mlの単位で表示した。
【0084】
[キャスト層の細孔容積]
キャスト層表面をカッターナイフで削りとって試料とした。その際、下塗り層や原紙が混合しないように注意して採取した。この試料をガス吸着法比表面積・細孔分布測定装置(Coulter社製、SA3100Plus型)を用い、前処理として150℃で2時間真空脱気した後、測定した。細孔容積は細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積(Total Pore Volume)を吸着等温線から求めた値を使用した。
但し、乾燥中にキャスト層が極端にひび割れて剥離していたり、ムラの著しい塗膜となった場合は、標準的な試料を得ることが不可能であったため測定できなかった。
【0085】
[75゜白紙光沢]
村上色彩技術研究所の光沢度計(GM−26 PRO/AUTO)を用い、ISO 8254−1に基づいて測定した。
【0086】
[インクジェット印字評価]
染料インク評価
サンプルシートにインクジェットプリンター(EPSON製、PM−970C:染料インク搭載)のPM写真用紙推奨設定印刷モードで、JISX9204高精細カラーディジタル標準画像(XYZ/SCID)画像(N1、名称:グラスと女性)を印字した上で、目視外観を次の5段階に評価した。
5点:塗膜の平滑感、光沢感共に優れており光沢が銀塩写真調の外観である。
4点:塗膜の平滑感、光沢感が光沢銀塩写真調に若干及ばない。
3点:塗工層表面に若干のざらつきが感じられる。そのため光沢感が上位レベルに比べ低く感じる。
2点:塗工層表面の凹凸が大きく、そのため光沢感が劣る。
1点:塗工層表面のざらつきが大きいのに加え、基材の表面性や乾燥時の収縮の影響による塗工層の凹凸がはっきりしており、品位が低い。
【0087】
顔料インク評価
サンプルシートにインクジェットプリンター(EPSON製、PM−4000PX:顔料インク搭載)のMC光沢紙推奨設定印刷モードで、2cm角の7色(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルー)100%ベタを、1cmずつ間隔を空けて印字した、印字部の状態を次の3段階に評価した。
○:印字部が均質で、光沢もある。
△:容易に確認できるひび割れはないが、印字部の光沢がやや低い。
×:印字部のひび割れが容易に確認できる。
【0088】
[(高温高湿環境試験前後の)ひび割れ]
インクジェットプリンター(EPSON製、PM−970C)のPM写真用紙推奨設定印刷モードで、1cm角の100%ブラックベタを、1cmずつ間隔を空けて5ヵ所に印字した後、23℃、相対湿度50%の環境下で3時間調湿したA4サイズのサンプルシートを準備した。そのサンプルシートを40℃、相対湿度90%に調製したチャンバー内に移し、48時間保持した。その後サンプルシートを取り出し、23℃、相対湿度55%の環境下で3時間調湿した。
高温高湿環境に保持する前後のサンプルシート表面のひび割れを、目視とデジタル顕微鏡(株式会社ハイロックス製、パワーハイスコープKH−2700、ズームレンズMX2525CS使用、レンズ設定1000倍)の拡大画像で観察し、次の5段階に評価した。尚、ひび割れは連結したものもあり、形状が複雑なので、長さを表わすために、ひび割れを内接する最小円の直径を長さと定義した。
5点:長さ1mm以上のひび割れが無く、図2のような長さ100μm以上1mm未満のひび割れは10個/cm2以下である。
4点:長さ1mm以上のひび割れが無く、長さ100μm以上1mm未満のひび割れが10個/cm2以上ある。
3点:長さ1mm以上のひび割れが、塗工層の一部にある。
2点:長さ1mm以上のひび割れが、塗工層のほぼ全面にある。
1点:目視で容易に確認できる大きな亀裂がある。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1および表2の実施例1〜8から明らかなように、本発明の記録紙においては、電子線照射によりハイドロゲル化されたキャスト用塗工層が、キャスト処理により潰れることがなく、離型性も高いため、ひび割れが無く高光沢な記録紙となっている。且つインクの吸収性も良好であるため、インクジェットプリンターで印字した場合、染料インクでは銀塩写真調の高品位な画像が得られた。また、顔料インクでもひび割れによる光沢低下もない高品位な画像が得られた。
【0092】
一方、比較例1のように塗工層の強度を何ら増強せずにキャスト処理を行うと、キャスト用塗工層がプレス圧に負けて大幅に変形するだけでなく、塗工層が鏡面ドラムに貼り付いて剥離することが出来なくなった。比較例2のように硼砂を塗料に混合して該塗工層をゲル化させても、その強度がプレス圧に耐えられるほど高くはならなかったために塗工層の一部が変形し、ムラのある塗膜となった。また、塗工層が脆弱であり、離型性も不十分であったため、鏡面ドラムから剥離する際に塗膜の一部に大きな亀裂が入ってしまった。更に、この塗膜を高温高湿環境下に保持すると、塗膜のひび割れが増加した。これはホウ素化合物により架橋された多孔質顔料塗膜に特徴的な現象である。塗工層に問題が無くても、基材に透気性のないラミネート紙を用いると、キャスト用塗工層中の水分の逃げ道が無いために乾燥が進行せず、一部の水分は加熱により蒸気圧となってキャスト処理時の妨げとなるため、ムラのある半乾燥のサンプルしか得ることが出来なかった。これらの塗工シートは実際にインクジェット記録紙として使用できるものではなかった。
【0093】
更に、キャスト処理を実施せずに得たサンプルは、電子線照射による塗工層のハイドロゲル化によりひび割れこそ無かったが、乾燥収縮や基材表面凹凸の影響のため、得られる塗工シートの目視外観が著しく悪化し、光沢紙としては問題のあるものとなった(比較例4)。比較例5は従来のキャスト光沢紙の作成方法を踏襲したものである。白紙光沢の測定値は比較的高く、目視観察でもキャスト層のひび割れが明らかに目に付くことはなかったが、染料インクの印字部の光沢感が若干劣り、画像が曇った感じになっており、拡大してみると一面にひび割れがあることが判った。また、顔料インクプリンターの印字画像には目視で判別が可能なひび割れが生じており、見劣りする画像となった。
【0094】
【発明の効果】
本発明のインクジェット記録紙は、キャスト仕上げされたインク受容層を有しているが、従来のインクジェット記録用キャスト光沢紙につきもののキャスト層のひび割れがほとんど無く、光沢や目視外観に優れている。またインク吸収性にも優れており、顔料インク搭載のプリンターで印字した場合でも、ひび割れのない良好な画像を得ることができる。従来の技術ではひび割れや光沢の改善とインク吸収の改善はトレードオフの関係にあったが本発明ではそれが解消された。
【図面の簡単な説明】
【図1】ひび割れが多いインクジェット記録紙の拡大写真。本発明外。
【図2】ひび割れが1つ存在するインクジェット記録紙の拡大写真(1000倍)
Claims (10)
- 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に顔料と、架橋された電子線硬化成分を含むキャスト仕上げされたインク受容層を有するインクジェット記録紙であって、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下であることを特徴とするインクジェット記録紙。
- 40℃、相対湿度90%の環境に48時間保持した後も、該キャスト層に長さ1mm以上のひび割れが無く、且つ長さ100μm以上1mm未満のひび割れが1cm2あたり10個以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録紙。
- 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に顔料と、架橋された電子線硬化成分を含むキャスト仕上げされたインク受容層を有するインクジェット記録紙であって、キャスト層が平均粒径1μm以下の微細顔料を含み、細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積が0.2〜2.0ml/gの多孔質層であることを特徴とするインクジェット記録紙。
- 該微細顔料がシリカ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、及びアルミナからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録紙。
- キャスト層中にホウ素化合物を含まないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
- ISO 8254−1に基づいて測定した75度光沢が30以上である請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
- 電子線硬化成分が、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、カゼイン、及びこれらの水溶性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性樹脂であることを特徴とする請求項1〜6に記載のインクジェット記録紙。
- 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙の透気度が、JISP8117に基づいてガーレー高圧型透気度試験機で測定した値で、200秒/100ml以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット記録紙。
- 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に、顔料と電子線硬化性成分を含有する水性塗料からなる塗工層を形成し、ついで電子線を照射して該塗工層をハイドロゲル化させた後、湿潤状態にある該塗工層に加熱された鏡面ドラムを圧接して乾燥して仕上げたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット記録紙の製造方法。
- 原紙もしくは下塗り層を設けた原紙上に、顔料と電子線硬化性成分を含有する水性塗料からなる塗工層を形成し、ついで電子線を照射して該塗工層をハイドロゲル化させた後、湿潤状態にある該塗工層に加熱された鏡面ドラムを圧接して乾燥して仕上げることを特徴とするインクジェット記録紙の製造方法。
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