JP2004315654A - ポリエステルフィルム、その製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の目的は、裁断性、切断加工適性に優れ、かつ透明性、カール性能、脆弱耐性が良好なポリエステルフィルムとその製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】実質的に単一組成で、かつ膜厚方向で表面近傍と中心部分でポリエステル樹脂の分子量が異なることを特徴とするポリエステルフィルム。
【選択図】 なし
【解決手段】実質的に単一組成で、かつ膜厚方向で表面近傍と中心部分でポリエステル樹脂の分子量が異なることを特徴とするポリエステルフィルム。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、裁断性、切断加工適性に優れたポリエステルフィルムとその製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法に関し、詳しくは、フィルムスリッティング工程、穿孔工程、舌端部加工工程等の加工適性に優れ、透明性、カール性能が良好なポリエステルフィルムとその製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、プラスチックフィルムは柔軟性、加工のし易さなどから様々な分野で使用されている。特に、二軸延伸ポリエステルフィルムは、各種の特性をバランス良く保有し、産業用資材としても使われており、写真感光材料の分野においても、例えば、X線用フィルム、印刷用、ディスプレイ用等の比較的大きい面積で平面のまま使用される分野では、支持体として実績がある材料である。
【0003】
一方、一般撮影用のカラーフィルムおよびモノクロフィルムは、永い間、三酢酸セルロース(以降、TACともいう)ベースを主とする繊維素系ポリマーのベースが使用されている。TACフィルムを用いた写真フィルムは、現在の市場においては主流であり、カメラ、現像処理機などの機器設計は、このTACフィルムの物性に合わせて設計されることになり、現実にそのような設計の機材が大量に市場には存在する。TACフィルムは、光学的な等方性と優れた透明性を有し、適度な透湿性と保水性を有し、ロール状に保管した際に生じる巻き癖(カール)が、湿式処理で回復する、といった一般消費者用のロール形態の写真フィルムでは、特徴的な特性を有しており、この特性を充たす代替品は存在しなかった。
【0004】
湿式処理中や処理後に、巻き癖がついたままであると、例えば、現像処理機での搬送中に折れたり、搬送ロールに巻き込まれる等の問題が発生する上、例え無事に現像処理ができた場合でも、写真印画紙に画像を形成させる焼き付け工程等でスリ傷の発生、ピントのボケ、搬送時のジャミング、折れ等の問題が発生しやすくなる。巻き癖(カール)が湿式処理時にもとに戻る速度や、現像液中で支持体としての適度な強度と剛性を維持できることも、TACフィルムの有利な特徴である。更に、TACフィルムは、その分子構造に由来すると思われる低密度と、アセチル基と水酸基との間の水素結合に由来すると思われる破断伸びの低さから、切断性に優れるため、様々な切断加工に対して極めて加工しやすい特徴を兼ね備えている。135フォーマットの写真用フィルムは、一般的に感光性層を塗設したのち、35mm幅へのスリッティング、24枚撮り等の撮影枚数に応じた長さへの切断、先端及び後端部の所定形状への打ち抜き加工、パーフォレーション(穿孔)加工ののち、スプールに固定されパトローネ内に巻き込まれて市販の135フォーマットとなる。撮影後、集積型現像所で現像される際には、個別の未現像フィルムを、多本数スプライスして長尺のロール状に加工した後、現像したり、ノッチ処理(指定の画像コマの片側の切り欠きをいれるなど)、6駒づつに切断してネガシートに挿入したりと、フィルムの生産からお客様にプリントとして画像を提供するまでの間に、様々な切断工程を経ることになる。前述のように、135写真システムでは、長い間、切断性に優れるTACフィルムを用いたハロゲン化銀写真感光材料に対応するため、切断に関与する機器の設計も、それ程厳密な管理を行わなくても、トラブルを起こすことは非常に少なかった。
【0005】
しかしながら、TACフィルムでも、いくつかの欠点を有している。TACフィルムを製造する上で、溶解性等の観点からメチレンクロライド(沸点41℃)などの塩素系炭化水素を有機溶媒として使用せざるを得ない点が、その代表として指摘されている。メチレンクロライドは、従来からセルローストリアセテートの良溶媒として用いられ、製造工程の製膜及び乾燥工程において沸点が低いことから乾燥させ易いという利点により好ましく使用されている。ところが、最近、塩素系化合物の使用が制限される方向にあり、環境への影響を懸念して製造工程での有機溶剤の回収を厳密に行う様になり、製造コストや環境対応の工場建設費が上昇し、安価に供給することが困難となる。
【0006】
上記課題に対し、一つの方法として、特開平11−310640号(TACの冷却溶解)、特開平11−152342号(溶媒の変更)などで、メチレンクロライドを使用しないか大幅に削減できるセルローストリアセテートフィルムの製造方法が提案されているが、有機溶媒を使用するため設備が大がかりになったり、逆に、引火性、爆発性などの懸念を低減するため設備や運転のコストが上昇する等の懸念があり、これら提案されている方法では、有機溶媒を使う以上、本質的な解決には至っていない。
【0007】
一方、このTACフィルムを他のプラスチックベースで置き換える様々な方法が提案されている。例えば、米国特許第4,141,735号には、アニール処理を施したポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート(以降、PENともいう)などが開示されており、このうち、アニール処理されたPENベースは、厚さ85μm付近のものが、APS写真システムの支持体として実際に実用化されている。アニール処理されたPENベースは、ロール状に保管しても、巻き癖がつきにくいことが特徴であるが、このアニール処理したPENベースの厚さを、現行の135フォーマットで使われているTACフィルムの厚さと同じ120〜130μmにすると、支持体の機械物性(例えば、剛性、破断強度など)が高すぎて、現行の135フォーマット対応のカメラ、現像処理機で故障が生じたり、切断加工時に切断できなかったりする。そのため、APS写真システムでは、市場に出荷した後は切断加工が一切無いシステムになっており、切断トラブルを防いでいる面がある。
【0008】
また、ポリエチレン2,6ナフタレートと変性ポリエチレンテレフタレートとを積層する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。これは、APSベースのコストを下げるには有効であるが、現行のTACフィルム並みの厚さには適用できない。PENを主要素材とする限り、機械強度の観点と溶融時の他の改質樹脂との混和性の観点から、TACに近似した写真フィルムのベースを得るのは難しいのが現状である。
【0009】
また、特開平10−20441号、特開2000−206646号、特開2001−98089号、特開2001−342245号などでは、強度を落としたり、分子量分布を工夫するなどして切断しやすくし、135フォーマットへの応用の検討がされているが、いまだ十分でない。
【0010】
一方、切断性、透明性に優れた積層ポリエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照。)が、異なる2種類の樹脂を必要とすること、総膜厚が25μmと非常に薄いフィルムであることから、樹脂原料が多くなり、生産が複雑になることと、本発明の目的である120μm前後の膜厚のポリエステルフィルムに適用した場合には、易切断性が十分ではない。更に、芯層(コア層)が実質結晶化していないため、塑性変形が大きく、親水性コロイド層等を設置した場合、湿式処理後の乾燥工程などで、高温に曝されながら親水性コロイド層の脱湿収縮力がかかるため、塑性変形してしまい、その後の処理に悪影響を及ぼす。
【0011】
一方、滑り性と透明性を両立するため、固有粘度(IV)が0.45〜0.55のポリエチレンテレフタレートに粒子を含有させた層をポリエチレンテレフタレートに積層する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照。)が、これも総膜厚が40μm程度であり、更に透明性と滑り性を両立する目的であるため、表層(スキン層)部分が全体膜厚の1/10以下と非常に薄く、また基材であるコア層のポリエチレンテレフタレートには特別に固有粘度を調整するという処理はなされておらず、この構成を、120μm近辺の膜厚に適用しても切断性は全く向上しない。
【0012】
一方、固有粘度(IV)が異なるポリエステルを積層して、カール制御する技術が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。しかし、この技術では、基本的に2層構成で製膜した際に既にカールを有しているため、感光性層を塗布した後に、初めて最適のカールバランスとなる。これは、支持体自身が製膜時にフラットで平面性が良く、アニール処理または親水性成分の共重合によりカールを付けない、あるいは湿式処理でカール回復すると言う観点とは全く異なる方法であるといえる。また、上記特許文献4では、熱固定時の熱収縮差を利用しているため、二軸延伸製膜では一般的によく見られるボーイング現象により製膜端部からスリットしたフィルムは、斜め方向のカールを示すことになり、135フォーマット対応フィルムとしたときに、トラブルの原因となる点で製品としては使用に耐えず、また生産性が非常に悪いという課題を有している。
【0013】
【特許文献1】
米国特許第5,759,756号明細書 (特許請求の範囲)
【0014】
【特許文献2】
特開2002−337290号公報 (特許請求の範囲)
【0015】
【特許文献3】
特開2003−11311号公報 (特許請求の範囲)
【0016】
【特許文献4】
特開昭50−123420号公報 (特許請求の範囲)
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を鑑みなされたものであり、その目的は、フィルムスリッティング工程、穿孔工程、舌端部加工工程等での裁断性、切断加工適性に優れ、かつ透明性、カール性能、脆弱耐性が良好なポリエステルフィルムとその製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0019】
1.実質的に単一組成で、かつ膜厚方向で表面近傍と中心部分でポリエステル樹脂の分子量が異なることを特徴とするポリエステルフィルム。
【0020】
2.ポリエステルである基材の少なくとも一方の面側に、基材と同一組成のポリエステルで、かつ固有粘度(IV)が基材を構成するポリエステルよりも小さい層を設けることを特徴とする前記1項に記載のポリエステルフィルム。
【0021】
3.前記基材を構成するポリエステルの固有粘度(IVc)と、少なくとも基材の一方の面側に設ける層のポリエステルの固有粘度(IVs)とが、下式(1)の関係を満足することを特徴とする前記1または2項に記載のポリエステルフィルム。
【0022】
式(1)
1.1≦IVc/IVs≦1.8
4.前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0023】
5.前記ポリエステルが、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレートであることを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0024】
6.前記ポリエステルが、ポリエチレン−2,6−ナフタレートからなることを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0025】
7.全エステル結合単位に対して、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分を1〜15mol%、ポリエステルの質量に対してポリアルキレングリコール成分またはポリアルキレングリコール・ジオキシカルボニルアルキルエーテル成分を1〜10質量%含有するコポリエステルで形成されていることを特徴とする前記1〜6項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0026】
8.膜厚が105〜130μm、ヘーズが15%以下であることを特徴とする前記1〜7項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0027】
9.前記1〜8項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを製造する方法であって、溶融共押出法により、単一組成で分子量の異なるポリエステル樹脂層を積層し、その後、逐次または同時に製膜方向と幅方向の二軸に延伸し、更にその後、基材層の融解温度より30℃低い温度と、融解温度との間の温度で熱処理してロール状に積層することを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。
【0028】
10.フィルム中に、平均粒径が0.05〜1.2μmの不活性微粒子を0.01〜0.4質量%含有し、ロール状に積層した状態で、ポリエステルのガラス転移点以下の温度で0.1〜1000時間熱処理されることを特徴とする前記9項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【0029】
11.前記1〜8項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの少なくとも一方の面側に感光性層を設けたことを特徴とする写真感光材料。
【0030】
12.前記1〜8項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの少なくとも一方の面側に感光性層を塗設することを特徴とする写真感光材料の製造方法。
【0031】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、実質的に単一組成で、かつ膜厚方向で表面近傍と中心部分でポリエステル樹脂の分子量が異なるポリエステルフィルムにより、フィルムスリッティング工程、穿孔工程、舌端部加工工程等での裁断性、切断加工適性に優れ、かつ透明性、カール性能が良好なポリエステルフィルムを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0032】
更に、上記構成からなる本発明のポリエステルフィルムが、ポリエステルである基材の少なくとも一方の面側に、基材と同一組成のポリエステルで、かつ固有粘度(IV)が基材を構成するポリエステルよりも小さい層を設けること、基材を構成するポリエステルの固有粘度(IVc)と、少なくとも基材の一方の面側に設ける層のポリエステルの固有粘度(IVs)とが、前式(1)の関係を満足すること、ポリエステルがポリエチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、またはポリエチレン−2,6−ナフタレートであること、全エステル結合単位に対して、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分を1〜15mol%、ポリエステルの質量に対してポリアルキレングリコール成分またはポリアルキレングリコール・ジオキシカルボニルアルキルエーテル成分を1〜10質量%含有するコポリエステルで形成されていること、膜厚が105〜130μm、ヘーズが15%以下であることにより、上記効果がより一層発揮されるものである。
【0033】
また、本発明の上記構成からなるポリエステルフィルムの製造方法として、溶融共押出法により、単一組成で分子量の異なるポリエステル樹脂層を積層し、その後、逐次または同時に製膜方向と幅方向の二軸に延伸し、更にその後、基材層の融解温度より30℃低い温度と、融解温度との間の温度で熱処理してロール状に積層することにより、フィルムスリッティング工程、穿孔工程、舌端部加工工程等での裁断性、切断加工適性に優れ、かつ透明性、カール性能が良好なポリエステルフィルムの製造方法を実現できるものである。
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステルフィルムは、同一組成のポリエステル樹脂からなり、膜厚方向に分子量の分布、すなわち、同一樹脂であればIVの分布が、フィルムの膜厚に存在することを特徴とする。本発明のポリエステルフィルムにおいては、その分布は、表面ほど分子量が小さく(IVが低く)、中心部ほど分子量が大きい(IVが高い)構成とすることが必要である。
【0035】
本発明のポリエステルフィルムの構成として、連続的な分子量分布を持たせても良いが、同一組成で分子量の異なる2層以上の多層構造とする方が製造上、容易であるのでより好ましい。例えば、コア層を構成する基材として、分子量が大きい(IVが高い)ポリエステル樹脂を用い、更に、分子量が小さく(IVが低く)、かつコア層と同一組成のポリエステル樹脂を用いて、そのコア層の一方の面、あるいは両面に表層(スキン層)を構成することが好ましい。
【0036】
本発明で規定する構成からなるポリエステルフィルムにおいて、切断性が向上するメカニズムは明らかではないが、分子量が小さい樹脂層を表面側に配置することにより、切断加工時に刃が入る起点が形成されやすくなり、その結果、より小さな力で切断が始まるため、切断性が向上すると推測している。これに対し、全層全てを分子量の小さい樹脂で構成すると、フィルム全体として脆すぎて実用に耐えられないものとなる。すなわち、フィルム膜厚方向の中心部分でフィルム全体の強度を保ちつつ、表面部分で良好な切断性を付与する構成とすることが好ましい。
【0037】
上述のように、本発明のポリエステルフィルムにおいて、多層構造とする場合、基材となるポリエステル樹脂層の少なくとも片面に、基材と同一組成のポリエステル樹脂からなる層を設けて多層構造とするが、層の数については制限するものではない。しかし、生産性、設備の大型化、フィルム表裏両方からの切断性向上等を考慮すると、コア層の両面をスキン層で被覆した三層構造が好ましい。また、本発明に用いられるポリエステル樹脂は、基材になるポリエステル樹脂とその少なくとも一方の面側に設けられる層のポリエステル樹脂とに大別できるが、それらのポリエステル樹脂は同一組成であり、かつ互いの固有粘度が異なるポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0038】
本発明でいう同一組成とは、ポリエステルの基本構造をなすジカルボン酸成分とジオール成分からなる単位構成成分が同一であることを言う。
【0039】
多層構造にする手段は、熱溶融接着剤等を用いたドライラミネート法、溶融押し出したシートを重ねて冷却ドラム上で固化接着する押出ラミネート法、溶融押出時に、ポリエステル樹脂をダイス内の溶融状態で重ね、積層した状態で押し出す共押出法でも良い。製造工程の簡略化や層間接着、切断性の向上のためには、共押出法によって多層構造にすることが好ましい。ただし、本発明においては、ラミネート法で形成する場合、層間の接着を受け持つ層は層の数に含まないものとする。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムにおいては、基材となるポリエステル樹脂層の少なくとも一方の面側に、基材と同一組成のポリエステルで固有粘度(IV)が基材部分よりも小さな樹脂を用いた層を設けてなることが好ましい。より好ましくは、基材部分のポリエステルの固有粘度(IVc)と、少なくとも基材の一方の面側に設ける層のポリエステルの固有粘度(IVs)が、前記式(1)で規定する条件を満足することが好ましい。
【0041】
本発明で規定する範囲の固有粘度とする方法には、特に制限はないが、例えば、重合過程の反応条件をコントロールする方法、通常の反応条件で合成した後、樹脂の含水率をコントロールして溶融押出する方法等を適宜選択、あるいは組み合わせることにより達成することができる。ただし、3層以上で構成される場合IVcは、フィルムの厚み方向で最も芯側に位置する層(例えば、コア層)を構成するポリエステル樹脂のIVであり、IVsは最も表面に位置する層(例えば、スキン層)を構成するポリエステル樹脂のIVとする。
【0042】
本発明において、式(1)で規定する比率IVc/IVsが1.1より小さいと、異なる固有粘度を有する樹脂を積層したことによる効果が小さくなり、1.8を越えると溶融粘度が違いすぎて積層時に界面が乱れてムラが発生したり、製膜時に幅手方向で積層比が異なってくることがある。また、同一組成の樹脂といえども物性差が大きくなり、層間剥離が生じる場合が出てくるため好ましくない。
【0043】
本発明のポリエステルフィルムは、二軸延伸後に、基材層の融解温度より30℃低い温度と、融解温度の間の温度で熱処理されてロール状に積層することが好ましい。表層に固有粘度(IV)が低い樹脂を用いることにより本発明の目的効果は発揮されるが、更に、熱固定段階で通常よりもやや高め温度で熱処理を施すことで、表層がより非晶状態に近くなり、クラック伝搬し易い性質を付与することができ、その結果として裁断性が更に向上する。加えて、IVの異なる層間の接着性が向上し、層間剥離の低減、コア層へのクラック伝搬がし易くなりフィルム全体としての切断性も向上する。
【0044】
本発明のポリエステルフィルム全体の平均厚みは、105〜130μmであることが好ましく、110〜127μmであることがより好ましい。105μm未満では、パトローネの入り口にフィルム端部を出した状態ですき間が生じるのため、外光による漏光を生じ、カブリが発生する可能性があり、また写真用支持体としての機械強度が不十分となる。一方、厚みが130μmを越えると、従来の135仕様のパトローネへ充填する際に、例えば、36枚撮り等の長尺フィルムでは、巻径が膨らみすぎて巻き込めなかったり、支持体としての切断性が低下してしまう。また、これよりベースが厚かったり、薄かったりすると既存のカメラや露光機でのピントズレを引き起こす要因となるため好ましくない。
【0045】
また、本発明のポリエステルフィルムは、ヘーズが2.0%以下であることが好ましい。更に好ましくは0.01〜1%である。ヘーズが2.0%より大きいと、本発明のポリエステルフィルムを写真感光材料用の支持体として用いた場合、写真用印画紙に焼付けた際に、画像がぼけてしまい不鮮明になる。なお、本発明で規定する上記ヘーズは、ASTM−D1003−52に従って測定したものである。
【0046】
次いで、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルについて説明する。
【0047】
本発明に用いられるポリエステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とするポリエステルである。主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ポリエチレングリコールジカルボン酸、ポリプロピレングリコールジカルボン酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9−ビス(4,4′−ジ−β−ヒドロキシエチル)フルオレン、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。スルホン酸基またはその塩を有するジカルボン酸としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(5−SIP)、2−ナトリウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体、およびこれらのナトリウムを他の金属(例えば、カリウム、リチウムなど)で置換した化合物が用いられる。
【0048】
こうした金属スルホネート基を有するジカルボン酸成分の共重合割合は、全エステル結合単位に対して1〜15モル%であり、1モル%未満では十分な巻ぐせ解消性が得られず、15モル%を越えると延伸性に劣ったり、機械的強度に劣ったものとなり好ましくない。特に、写真現像処理条件を厳しくしたpHの高い現像処理システム、例えば、カラーネガフィルム処理、カラーリバーサル処理に適合させるには、耐アルカリ溶液の性質がベースに要求されるので、更に1〜12モル%の共重合割合が好ましい。
【0049】
ポリアルキレンオキシジカルボン酸としては、例えば、ポリエチレンオキシジカルボン酸、ポリトリメチレンオキシジカルボン酸、ポリテトラメチレンオキシジカルボン酸などが用いられるが、このうちポリエチレンオキシジカルボン酸が好ましく、分子量は特に限定されないが、300〜20,000が好ましく、更に好ましくは600〜10,000、特に1,000〜5,000のものが好ましく用いられる。ポリアルキレングリコールまたはポリアルキレンオキシジカルボン酸の共重合割合は、該共重合ポリエステル反応生成物の1〜10質量%であることが好ましい。
【0050】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが用いられるが、このうちポリエチレングリコールが好ましく、分子量としては特に限定されないが300 20,000が好ましく、更に好ましくは600〜10,000、特に800〜5,000のものが好ましく用いられる。ポリエチレングリコールの分子量が、5,000以下であると、製膜後のポリエステルフィルムの中に、ポリエチレングリコールのユニットが均一に分布するので、透明性が良好であり、ポリエステルフィルムが吸水後に再乾燥されても平面性が良好に維持される。また、ポリエチレングリコールの分子量が800以下であると、重合時の共重合ポリエステルの分子量や組成を均一にするのが、やや困難である。
【0051】
ポリアルキレングリコールは、反応生成物のポリエステルの全質量に対して1〜10質量%含有され、好ましくは2〜8質量%である。ポリアルキレングリコールが1質量%未満では十分な巻ぐせ解消性が得られない。また、10質量%を越えると水中浸漬直後の弾性率が低下し、機械的強度に劣ったものとなる。
【0052】
本発明のポリエステルフィルムに用いられる共重合ポリエステルには、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に他の成分が共重合されていても良いし、他のポリマーがブレンドされていても良い。
【0053】
上記以外の二塩基酸で、本発明に使用できるベンゼンジカルボン酸またはその誘導体としては、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸及びその低級アルキルエステル(無水物、低級アルキルエステル等のエステル形成可能な誘導体);シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸及びヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸及びその誘導体(無水物、低級アルキルエステル等のエステル形成可能な誘導体);及びアジピン酸、コハク酸、シュウ酸、アゼライン酸、セバシン酸及びダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体(無水物、低級アルキルエステルなどのエステル形成可能な誘導体)を、全二塩基酸の10モル%以下の量で使用しても良い。
【0054】
これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が、ジオール成分として、エチレングリコールまたは1,4−シクロヘキシレンジメチレングリコールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレートユニット、ポリエチレンナフタレートユニット、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートユニットを含有するポリエステルが好ましい。ポリエステルに対して、エチレンテレフタレートユニットまたはポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが70質量%以上含有されていると、透明性、機械的強度、寸法安定性などに高度に優れたフィルムが得られる。
【0055】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法としては、例えば、ポリエステル樹脂を120℃以上、180℃以下の温度であるホッパー内で十分乾燥させ、外気との接触を断ってホッパー下端から押出機へ定量供給し、積層する各層のポリエステルを別々の押出機から溶融押出した後、溶融ポリマーの導管内(フィードブロックタイプ)、または押出口金内(マルチマニホールドタイプ)において層流状で接合せしめて押出した後、溶融ポリマーのまま導管内を経由して押出口金(ダイス)から押出し、冷却ドラム上で冷却固化して未延伸フィルムを得た後、二軸延伸し、熱固定する押出し方法が好ましい。延伸は、製膜方向(MD方向)と幅方向(TD方向)を同時に延伸する同時二軸延伸法、MD方向に延伸した後、TD方向に延伸する逐次二軸延伸法、また延伸を何工程かに分けて行う多段延伸法を用いても良い。なお、本発明の範囲の固有粘度にするには、重合過程の反応条件をコントロールするか、または通常の反応条件で合成した後、樹脂の含水率をコントロールして溶融押出する事で得られる。本発明に係るIVの構成の範囲内で、目的を阻害しない範囲であれば2種類以上のポリエステルを混合しても良い。
【0056】
更に、本発明においては、得られたポリエステルフィルムにアニール処理を施すことも好ましい。アニール処理は、ポリエステルフィルムの巻癖を低減するために、ポリエステルフィルムに施す熱処理である。この熱処理の効果は、ガラス転移点を越える温度にさらされると消失する。
【0057】
熱処理は、50℃以上、ガラス転移点温度以下の温度で、0.1時間以上、1000時間以下、更に好ましくは0.2〜72時間行うことが必要である。このうち、特に好ましい熱処理方法は、例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合はTgが約85℃であり、従って84℃以下の温度で、更に好ましいのは77℃以下で、24時間程度熱処理することである。特に、短時間で熱処理をするために、Tg以上に一度昇温し、Tg近辺で徐々に冷却することが非常に効率的で好ましい。ポリエチレンテレフタレートの場合、一例として、一度85℃以上、120℃の間の温度に保った後90℃まで冷却し、その後70℃まで40分間で徐冷することで熱処理時間を著しく短縮できる。ただし、これらの時間は所定の温度にフィルムが実質的に曝された時間である。このような熱処理を行ったポリエステルフィルムを示差熱分析計(DSC)で測定すると、Tg近傍に吸熱ピークが出現し、この吸熱ピークが大きいほど巻癖は付きにくい。また、0.42J/g以上、更には0.96J/g以上となるように熱処理するのが好ましい。このDSCによるピークは、例えば、特開平10−20441号公報に記載の方法で測定できる。
【0058】
一方、特開平1−244446号、特開平4−234039号、特開平5−210199号、特開平6−82969号公報などには、スルホン酸基またはその塩を有する芳香族ジカルボン酸またはポリアルキレングリコールが共重合成分として含有するポリエステルについて、更に、特開平4−93937号、特開平6−11795号、特開平6−161035号、特開平6−289534号、特開平6−240020号、特開平6−110154号公報などには、ポリエステルを2層以上積層したポリエステルについて記載されているが、これら提案されているポリエステルは、巻き癖低減、現像後の巻き癖解消等の効果があり、本発明の技術と組み合わせても好ましく用いることができる。
【0059】
上述のアニール処理は、巻癖カールを付きにくくする技術であり、親水性ポリエステルの使用は湿式現像処理後の巻癖カールを低減する技術であるので、どちらかを別々に行っても、同時に行っても良く、目的に応じて適宜選択できる。
【0060】
本発明のポリエステルフィルムに用いられるポリエステル樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に他の成分が共重合されていても良いし、他のポリマーがブレンドされていても良い。上記ポリエステル樹脂としては、例えば、安息香酸、ベンゾイル安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの1官能性化合物によって末端の水酸基および/またはカルボキシル基を封鎖したものであってもよく、あるいは、例えば、極く少量のグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如き3官能、4官能エステル形成化合物で実質的に線状の共重合体が得られる範囲内で変性されたものでもよい。
【0061】
本発明に用いられる共重合ポリエステルの重合は、通常の公知の方法で行うことができる。すなわち、ジカルボン酸成分とグリコール成分をエステル交換後、高温、減圧下にて重縮合せしめて共重合ポリエステルを得ることができ、この際、共重合成分である金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸類やポリエチレングリコールをエステル交換反応後に添加し、重縮合を行う。エステル交換反応の触媒組成は、例えば、特開平10−13041号公報に記載のものを用いることが出来る。
【0062】
本発明に係る固有粘度(IV)は、下記の方法に従い測定することができる。
本発明では、ポリエステルフィルムあるいは各ポリエステル樹脂の固有粘は、ウベローデ型粘度計を用いて行うことができる。溶媒としては、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの混合溶媒(混合質量比、60:40)のものを用い、サンプル濃度0.2g/dl、0.6g/dl、1.0g/dlの溶液(温度20℃)を調製する。ウベローデ型粘度計によって、それぞれの濃度(C)における各比粘度(ηsp)を求め、ηsp/cを、c(濃度)に対してプロットし、得られた直線を濃度零に補外して固有粘度を求めた。単位はdl/gで示される。
【0063】
特に、本発明においては、透明性、機械物性などの観点から、ポリエチレンテレフタレートとポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートと、これらのスルホイソフタル酸とポリエチレングリコールを共重合して親水性にした変性ポリエチレンテレフタレート、変性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、変性ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂が好ましく用いられる。それらが基材として用いられる場合の固有粘度(IV)は、ポリエチレンテレフタレート系で0.50〜0.60、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート系で0.70〜0.95、ポリエチレン−2,6−ナフタレート系で0.45〜0.60であることが好ましい。各樹脂の固有粘度が上限値より大きいと、製膜後のフィルムベースが強靱になって、断裁性が劣悪となる。また、各樹脂の固有粘度が下限値より小さいと、フィルムベースが脆くなり、キャストドラム上で結晶化して白く濁ってしまったり、冷却後の原反を延伸機へ導入するまでにひび割れたり、破断するので、製膜時の延伸が困難となる。
【0064】
本発明に用いられるポリエステルには、酸化防止剤を含有させることができる。特にポリエステル樹脂が、ポリオキシアルキレン基を有する化合物を含む場合に有効である。含有させる酸化防止剤は、その種類として特に限定はなく、各種の酸化防止剤を使用することができ、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物などの酸化防止剤を挙げることができる。中でも、透明性の点でヒンダードフェノール系化合物の酸化防止剤が好ましい。なお、これらの酸化防止剤は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組合せて使用しても良い。その他の酸化防止剤の例としては、特開平5−323496に記載されている酸化防止剤を挙げることができる。
【0065】
本発明に用いられるポリエステルには、ライトパイピング現象を防止する目的で、染料を含有させることが好ましい。このような目的で配合される染料としては、その種類に特に限定があるわけではないが、フィルムベースの製造上、耐熱性に優れていることが必要であり、好ましい染料としては、アンスラキノン系やペリノン系の染料が挙げられる。また、色調としては、一般の写真感光材料に見られるようにグレー染色が好ましい。これらの染料としては、Bayer社製のMACROLEXシリーズ、住友化学社製のSUMIPLASTシリーズ、三菱化成社製のDiaresinシリーズなどが挙げられ、これらを1種単独で、もしくは2種以上の染料を必要な色調となるように混合して用いることができる。この際、フィルムの分光透過率を400〜700nmの波長範囲で60%以上、85%以下とし、更に600〜700nmの波長範囲で分光透過率の最大と最小の差が10%以内とするように染料を用いることが、ライトパイピング現象を防止し、かつ良好な写真プリントを得る上で好ましい。
【0066】
着色剤の添加方法としては、特に限定がある訳ではなく、ポリエステルの重合から溶融押出までのいずれかの段階で必要量の着色剤を添加し、着色すればよく、また、あらかじめ高濃度のいわゆるマスターペレットを用意しておき、適宜希釈して溶融押出する方法は濃度をコントロールしやすいことから好ましく用いられる。回収ポリエステルを含有させる場合などで、濃度の微調整が必要な場合はこの方法が有効である。マスターペレットにおける染料の濃度は、100〜10000ppmが好ましく、例えば、特公平7−51635号、特公平8−15734号に記載の方法を用いることができる。
【0067】
また、ポリエステルに対して染料を同じ濃度にした場合、厚膜フィルムでは、薄手のフィルムに比べ、総染料添加量が増加し、透過率の低下を招くことになる。この濃度上昇が問題となる場合には、例えば、写真感光材料に適用する場合、感光性層が塗設するされる面側の表層にくる層以外の層の濃度を低めに設定することもできる。染料としては、例えば、バイエル社製の染料を、下記の配合割合で混練し、染料濃度2000ppmのマスターペレットを調製し、着色ポリエステル樹脂として、混ぜてもよい。
【0068】
Macrolex Red EG:Macrolex Violet B:Macrolex Green G=1:1:1
本発明のポリエステルフィルムには、必要に応じて易滑性を付与することもできる。特に、1000m以上の長尺フィルムを1本のロールに積層して巻き取る場合には、表面に適度な凹凸を形成して、積層したロールの巻締まりによるシワや変形、アニール時の変形を防ぐ手段が必要となる。
【0069】
本発明のポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのフィルムとは機械強度が異なるため、巻き取りの際に易滑性付与手段を形成してあると、平面性の優れた良品の歩留まりが95%以上となり好ましい。易滑性付与手段としては、特に限定はないが、例えば、ポリエステルに不活性無機粒子を添加する外部粒子添加方法、ポリエステルの合成時に添加する触媒を析出させる内部粒子析出方法、あるいは界面活性剤などをフィルム表面に塗布する方法などが一般的である。フィルム中に含まれる不活性粒径のサイズについては、横延伸時の破断を防ぐ観点からは0.05〜1.2μmが好ましい。0.05μmより小さいと易滑性の効果がなくなる。存在量は、フィルムのヘーズから上限が自ずと存在し、0.4質量%以下であることが好ましい。これらの中でも、析出する粒子を比較的小さくコントロールできる内部粒子析出方法が、フィルムの透明性を損なうことなく易滑性を付与できる点で好ましい。触媒としては、公知の各種触媒が使用できるが、特に、Ca、Mnを使用すると高い透明性が得られるので好ましい。これらの触媒は、1種でも良いし、2種を併用しても良い。少量の不活性粒子で、易滑性効果を発揮するために不活性粒子の含有量の異なる同種の樹脂を積層して、表層に不活性粒子を偏在させてもよい。本発明で使用される不活性無機粒子としては、SiO2、TiO2、BaSO4、CaCO3、タルク、カオリン等が例示される。
【0070】
本発明のポリエステルフィルムを写真感光材料用の支持体として使用する場合には、透明性が重要な要件となるため、ポリエステルフィルムと比較的近い屈折率をもつSiO2を用いた外部粒子系による易滑性付与は良く知られている。添加量を表面側部分の層に多めに、芯層部分に少なめに配分することにより、添加量を抑えられることから、透明性を劣化せず易滑性を付与できる。また、本発明のポリエステルフィルムに、平均粒径が0.005〜1.2μmのシリカ粒子が、0.01〜0.4質量%存在することによって、例えば、120μmの写真感光材料用ベースフィルムとしての断裁性、穿孔性が、従来のポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルムでの結果から予想されるよりも、飛躍的に改善されることが明らかになった。本発明のポリエステルフィルムでは、粒子が断裁時の亀裂が入るきっかけを更に形成しやすくなり、またその進行を助長しているため、断裁性がより改善されたものと思われる。
【0071】
なお、本発明でいう平均粒径とは、粉体そのまま、あるいは液中、固体中に分散された粉粒子体を一粒子ずつの直径を同種の全粒子について平均した値のことである。実際の計測にあたっては、個々の粒子形状が真球でない場合には、粒子に外接する仮想球の直径と内接する仮想球の直径の平均値とする。電子顕微鏡下で一定の倍率で、多数の写真撮影撮影を行い500個以上の異なる場所にある粒子の直径の平均値を求め、これを平均粒径とする。上記のデータを統計処理してヒストグラムを作ると、通常は単一の山の分布が得られるが、同一種の粒子を数えて、複数の山を持つヒストグラムが得られた場合には、複数の平均粒径の異なる粒子が混合していると見なし、各々の山の最頻値の粒径をそれぞれの平均粒径とする。
【0072】
本発明において、有機粒子を用いる場合には、本発明に係るポリエステル樹脂組成の溶融押し出し温度である280〜310℃で溶融したり、分解しないものが望ましい。窒素気流中で常温から300℃まで、10℃/minで昇温したときの300℃での質量減少率が10%以下のものが好ましく用いられる。有機粒子は、製膜後のポリエステルフィルム中で、有機粒子表面とポリエステル樹脂との結着が良好なものが、フィルムの透明性の点から好ましい。例えば、3次元架橋させたポリメタクリル酸メチル(PMMA)、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体粒子、メラミンホルムアルデヒド粒子などが好ましく、粒径分布は平均粒径の15%上下限の幅に質量分率で90%の粒子が含まれる単分散粒子であれば、更に好ましい。
【0073】
上記説明した以外に、内部粒子系による易滑性付与ではCa、Mn、Mgなどの金属とPの添加量を調整することによ、り易滑性をコントロールすることが可能であり併用すると好ましい。
【0074】
本発明のポリエステルフィルムにおいては、回収ポリエステルを含有させることができる。回収ポリエステルとは、写真用ポリエステル支持体の製膜工程において、エッジ屑や不良巻などとして発生するフィルム屑を回収して粉砕したもの、あるいは、ポリエステル支持体を用いて作られた写真感光材料の屑(先端加工やパーフォ屑、不良巻きなど)やユーザーで不要となったフィルムを回収して支持体以外の層を剥離し、粉砕したものである。回収ポリエステルは、写真感光材料の支持体として用いる場合には、感光性層等が塗設される面の支持体の最外層以外の層に混合することが好ましく、3層以上の場合は中間層の少なくとも1層に混合することが好ましい。混合する割合は、40質量%以下であることが好ましい。40質量%以上では強度、透明性等が問題となる。また、特公平7−332号、特公平7−333号等に記載される方法も用いることができる。
【0075】
なお、回収ポリエステルとして、PETボトルなどの回収屑も考えられるが、不純物、写真感光材料の支持体として用いた場合の写真性能への影響等の問題からあまり好ましくない。ただし、この様な屑も性能に影響しない範囲で混合させることは可能であり、資源リサイクルの観点からは好ましい。
【0076】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル層を積層する方法としては、従来公知の方法で行うことができる。例えば、複数の押出機およびフィードブロック式ダイあるいはマルチマニフォールド式ダイによる共押出し法、積層体を構成する単層フィルムまたは積層フィルム上に積層体を構成するその他の樹脂を押出機から溶融押出し、冷却ドラム上で冷却固化させる押出しラミネート法、積層体を構成する単層フィルムまたは積層フィルムを必要に応じてアンカー剤や接着剤を介して積層するドライラミネート法などが挙げられる。中でも製造工程が少なくてすみ、各層間の接着性が良好な共押出し法が好ましい。
【0077】
添加粒子濃度を各層で変化させる場合には、所望の濃度になるように粒子とポリエステル樹脂を溶融二軸混練等で混練し樹脂中に粒子を均一に分散させた後、ペレット化し、それぞれの層を受け持つ押出機に投入することができる。樹脂の含水率と混練条件を適切に選んで、混練と同時にIVをコントロールしても良い。
【0078】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法において、未延伸シートを得る方法および縦方向に一軸延伸する方法は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、原料のポリエステルをペレット状に成型し、熱風乾燥あるいは熱をかけながら真空乾燥する。乾燥温度は熱で酸化分解しない範囲で高い方が好ましく、通常100〜200℃、好ましくは140〜180℃である。真空乾燥は酸素、水分を減らし酸化を防止できることから好ましく用いられる。乾燥は、含水率が100ppm、好ましくは30ppm以下とするのがよい。その後、溶融押出し、Tダイよりシート状に押出して、静電印加法などにより冷却ドラムに密着させ、冷却固化させ、未延伸シートを得る。
【0079】
次いで、得られた未延伸シートを複数のロール群または赤外線ヒーターなどの加熱装置を介して、ポリエステルのガラス転移温度(Tg)からTg+100℃の範囲内に加熱し、一段または多段縦延伸する方法である。延伸倍率は、通常2.5倍〜6倍の範囲で、続く横延伸が可能な範囲とする必要がある。延伸温度の設定は各構成層のポリエステルのTgのなかで最も高いTgを基準にすることが好ましい。
【0080】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法では、上記の様にして得られた縦方向に一軸延伸されたポリエステルフィルムを、Tg〜Tm(融点)−20℃の温度範囲内で、2つ以上に分割された延伸領域で昇温しながら横延伸し、次いで熱固定することが好ましい。横延伸倍率は通常3〜6倍であり、また縦、横延伸倍率の比は、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整する。延伸温度の分割領域は、少なくとも2段階、更に3段階であることが好ましい。それ以上でもかまわないが、設備が大きくなるなどの問題が生じる。各領域の温度は、順次高くなるように設定し、かつ温度差は1〜50℃の範囲とすることが好ましい。なお、同時二軸延伸等の無接触延伸も、傷等の故障が発生しにくいことから好ましく用いることができる。
【0081】
次いで、熱固定を行うが、この前に二軸延伸フィルムを、その最終横延伸温度以下で、かつTg−40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持することが好ましい。縦、横方向に二軸延伸したフィルムを熱固定するに際しては、その最終横延伸温度より高温、Tm−30℃〜Tm−5℃の温度範囲内で、2つ以上に分割された領域で昇温しながら熱固定することが好ましい。積層構成の場合は、先にも述べた様にコア層のポリエステル成分のTmを基準にすることが重要である。通常、熱固定温度は、最終横延伸温度より高温で、かつTm−30℃以下の温度で実施されるが、本発明では通常の熱固定温度よりも高めに取ることで、より切断性を改良することができる。これは、ポリエステル層間の接着性が向上し、コア層へのクラック伝搬が起こりやすくなっているためと考えている。特に、積層構造の場合は、剛性と切断性が高次でバランスされたポリエステルフィルムを得ることができる。固定時間は、通常0.5〜300秒間である。熱固定されたポリエステルフィルムは、通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、横方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また、冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は、特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことが、フィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。なお、冷却速度の算出は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとしたとき、(T1−Tg)/tで算出した値である。これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するポリエステルにより異なるので、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
【0082】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、積層比率は目的に応じて設定することができるが、効果を発現するためには表面側の層が、フィルム全体膜厚の10%以上、60%以下であることが好ましい。3層構成の場合、表裏合わせた2層の表層の総膜厚が、上記の比率になることを意味する。ポリエステルの種類やポリエステルフィルムの用途により最適な積層比率は異なるので、一概に決めることはできないが、表層比率が大きくなるほど切断性は向上するが、柔軟性、強靱性に欠けてくるので目的に応じて調整することが好ましい。また、湿式現像処理での巻癖カール回復を目的に吸水成分を共重合した樹脂を用いる場合、低分子量成分の吸湿膨張係数が若干大きくなることを利用して、写真用ハロゲン化銀乳剤層を塗布する面とは反対側の面の低分子量層を厚く設計することで、現像処理工程での巻癖カール回復率が向上するため好ましい。ただし、表裏層であまり膜厚差を付けすぎると、処理液中や高湿での巻癖カールが大きくなってしまうため、表裏層の膜厚比を1:1〜1:4の範囲内で設計することが好ましい。
【0083】
また、本発明のポリエステルフィルムの製造方法において、延伸前または延伸後に、必要に応じて、帯電防止層、易滑性層、接着層、バリアー層などの機能性層を塗設してもよい。この際、コロナ放電処理、薬液処理などの各種表面処理を必要に応じて施すことができ、例えば、特許第2649457号、特開平5−169592号に記載の方法が使用できる。更に、強度を向上させる目的で、多段縦延伸、再縦延伸、再縦横延伸、横・縦延伸など、公知の延伸フィルムに適用される各種延伸を行うこともできる。
【0084】
以上の様にして得られた本発明のポリエステルフィルムは、厚みムラが小さく、平面性に優れ、品質むらが非常に少ないので、本発明の効果を最大限に発揮させることができる。
【0085】
次に、本発明のポリエステルフィルムの物性について説明する。
カメラや現像処理機での搬送不良や、搬送不良に起因する擦り傷発生を防止するため、本発明のポリエステルフィルムは、以下のようなフィルム物性を保持していることが好ましい。
【0086】
熱処理後の巻癖カール度は135m−1以下であり、好ましくは130m−1以下である。これ以上のカール度を有する場合は、カメラや現像処理機で搬送不良や、搬送不良に起因する擦り傷を発生するトラブルを生じることがある。
【0087】
現像処理後のカール度は55m−1以下が好ましい。更に好ましくは45m−1以下である。これ以下であれば、現像処理後の印画紙への焼き付け操作時のピントのボケや現像済みフィルムを裁断したり、スリーブへ挿入する機器でのトラブルを防止することができる。
【0088】
長手および幅手方向の熱収縮は、いずれも−1.0〜+2.0%であることが好ましい。この範囲を越えると、接着層や導電層を塗設する際に塗布故障を生じたり、平面性が劣化したりする。
【0089】
なお、上記の各値は、本発明のポリエステルフィルムに塗設される親水性コロイド層が25μm以下の場合であり、これを越える場合、上記物性値の好ましい範囲は自ずと変化する。
【0090】
また、本発明のポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー、ジエチレングリコール(DEG)等の不純物は、カブリ等の写真性能に影響することがあるので少ない方が好ましい。例えば、オリゴマー量は3%以下、好ましくは1%以下である。DEGは5mol%以下、好ましくは3mol%以下である。
【0091】
本発明のポリエステルフィルムは、少なくとも一方の側に、少なくとも一層のハロゲン化銀乳剤層を有することにより、ハロゲン化銀写真感光材料である写真感光材料を構成することができる。ハロゲン化銀乳剤層は、ポリエステルフィルム上に直接塗設されてもよいし、他の層、例えば、ハロゲン化銀乳剤を含まない親水性コロイド層を介して塗設されてもよい。この際、ポリエステルフィルムには、接着性向上の為、コロナ放電処理、グロー放電処理、紫外線処理、火炎処理、大気圧ガス中放電プラズマ処理、薬液処理などの各種表面処理を必要に応じて施すことができる。更に接着性向上の為、下引層を塗設してもよい。
【0092】
また、ハロゲン化銀乳剤層や下引層以外に、導電層、バックコート層、滑り層、透明磁性層、保護層なども設けることができる。特に、導電層や滑り層は、スタチック防止、擦り傷発生防止から好ましく用いられる。導電剤としては、例えば、特公昭60−51693号、特開昭61−223736号及び同62−9346号公報に記載の第4級アンモニウム基を側鎖に持つ架橋型共重合体粒子、特開平7−28194号公報に記載のアイオネン重合体架橋型あるいはアイオネン重合体を側鎖に持つ共重合体粒子等のカチオン帯電防止剤、特公昭35−6616号公報記載のアルミナゾルを主成分とするもの、特開昭57−104931号公報に記載のZnO、SnO2、TiO2、Al2O3、In2O3、SiO2、MgO、BaO、MoO3、ZiO2等の微粒子金属酸化物、特公昭55−5982号公報に記載のV2O5等の金属酸化物などが利用できる。滑り剤としては、例えば、特開2000−19682号公報に記載の滑り剤が使用できる。
【0093】
本発明の写真感光材料に用いるハロゲン化銀乳剤層を構成するハロゲン化銀としては、任意の組成のものを使用できる。例えば、塩化銀、塩臭化銀、塩沃臭化銀、純臭化銀もしくは沃臭化銀がある。
【0094】
ハロゲン化銀乳剤は、例えば、リサーチ・ディスクロージャー(以下、RDと略す。)No.17643、22〜23頁(1979年12月)の“1.乳剤製造法( Emulsion preparation and types )”、およびRDNo.18716、648頁、グラキデ著「写真の物理と化学」ポールモンテル社刊(P.Glkides,Chimie et Physique Photographique,Paul Montel,1967)、ダフィン著「写真乳剤化学」、フォーカルプレス社刊(G.F.Dauffin,Photographic Emulsion Chemistry Focal Press 1966)、ゼリクマン等著「写真乳剤の製造と塗布」、フォーカルプレス社刊(V.L.Zelikman etal,Making and coating Photographic Emulsion, Focal Press 1964)などに記載された方法を用いて調製することができる。ハロゲン化銀乳剤は、米国特許3,574,628号、同3,665,394号および英国特許第1,413,748号などに記載された単分散乳剤も好ましい。
【0095】
ハロゲン化銀乳剤には物理熟成、化学熟成及び分光増感を行うことができる。このような工程で使用される添加剤は、RDNo.17643、RDNo.18716及びRDNo.308119(それぞれ、以下、RD17643、RD18716及びRD308119と略す。)に記載されている。下記にその記載箇所を示す。なお、下記に記載の各数値は、記載されている頁を表す。
本発明のハロゲン化銀カラー写真感光材料に使用できる公知の写真用添加剤も、上記RDに記載されている。以下に関連のある記載箇所を示す。
本発明に係る感光性層には、種々のカプラーを使用することが出来、その具体例は、上記RDに記載されている。以下に関連のある記載箇所を示す。
【0096】
〔項目〕 〔RD308119の頁〕 〔RD17643〕
イエローカプラー 1001VII−D項 VIIC〜G項
マゼンタカプラー 1001VII−D項 VIIC〜G項
シアンカプラー 1001VII−D項 VIIC〜G項
カラードカプラー 1002VII−G項 VIIG項
DIRカプラー 1001VII−F項 VIIF項
BARカプラー 1002VII−F項
その他の有用残基放出 1001VII−F項
カプラー
アルカリ可溶カプラー 1001VII−E項
上記各添加剤は、RD308119XIVに記載されている分散法などにより、添加することが出来る。
【0097】
本発明に係るハロゲン化銀写真感光材料には、前述RD308119VII−K項に記載されているフィルター層や中間層等の補助層を設けることも出来る。
【0098】
本発明に係るハロゲン化銀写真感光材料は、前述RD308119VII−K項に記載されている順層、逆層、ユニット構成等の様々な層構成をとることが出来る。
【0099】
本発明に係るハロゲン化銀写真感光材料を現像処理するには、例えば、T.H.ジェームズ著、セオリイ オブ ザ ホトグラフィック プロセス第4版(The Theory of The Photographic Process Forth Edition)第291〜334頁及びジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサエティ(Journal of the American Chemical Society)第73巻、No.3、100頁(1951)に記載されている公知の現像剤を使用することができる。またカラー写真感光材料は、前述のRD17643の28〜29頁、RD18716の615頁及びRD308119XIXに記載された通常の方法によって、現像処理することができる。
【0100】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されない。
【0101】
《セルロースエステルフィルムの作製》
〔試料1の作製〕
(コア層用樹脂の調製)
市販のポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.64)を、ポリエステル樹脂Aとして用いた。
【0102】
(表層用樹脂の調製)
異方向回転の2軸スクリュー混練機の第一ホッパーより、ポリエステル樹脂A(固有粘度0.64)のペレットを投入し、ポリエステル樹脂Aを溶融した。次いで、第二ホッパーから平均粒径0.2μmのシリカ粒子を0.05質量%となるように添加し、ポリエチレンテレフタレートが溶融した状態で十分に混練し、シリカ粒子が均一に分散したポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。この時、入り口からは乾燥窒素ガスを流しながら、2ヶ所のベントから20hPaの減圧脱気をおこなった。混練部のバレル温度は280℃であり、混練槽内の滞留時間は10分であった。流出したストランドを冷水で急冷し、細かく裁断して、ペレットとして、ポリエステル樹脂Bを調製した。
【0103】
(製膜)
コア層形成用の上記ポリエステル樹脂Aを150℃で4時間乾燥した後、メイン押出し機上の設置したホッパーから樹脂を押出し機へ供給し、上記調製した表層形成用のポリエステル樹脂Bのペレットを130℃で4時間乾燥した後、2台のサブ押出機に供給し280℃で溶融押出して、40メッシュのフィルターを通過させてから、Tダイ内でコア層の両面を表層が層状に接合するようにして、30℃の冷却ドラム上に静電印加しながら密着させて冷却固化し、3層構成の積層未延伸シートを得た。この未延伸シートをロール式縦延伸機へ導き、90℃で縦方向に3.5倍延伸した。得られた1軸延伸フィルムをテンター式横延伸機を用いて、第1延伸ゾーン100℃で総横延伸倍率の50%延伸し、更に第2延伸ゾーン120℃で総横延伸倍率3.6倍となるように延伸した。次いで、100℃で2秒間熱処理し、更に、第1熱固定ゾーン170℃で5秒間熱固定し、第2熱固定ゾーン210℃で15秒間熱固定した。次いで横方向に5%弛緩処理しながら室温まで30秒かけて徐冷してトータル膜厚120μmで3層構成の2軸延伸ポリエステルフィルムである試料1を得た。この試料1は、コア層(ポリエステル樹脂A)の膜厚が70μm、コア層の両面に設けた各表層の膜厚は、いずれも25μmであった。なお、各ポリエステル層の膜厚調整は、各押出機のギヤポンプ吐出量を調整して行った。フィルムのコア層のポリエステル樹脂の固有粘度(IVc)は0.59、各表層のポリエステル樹脂の固有粘度(IVs)は0.46であった。
【0104】
次いで、上記作製した試料1の両端部をトリミングして、両端に高さ25μm、幅6mmのナーリング加工を施して、各500mずつ、直径170mmのコアに巻き取った。コアに巻いたまま、75℃、48時間の熱処理(アニール)を行った。
【0105】
〔試料2の作製〕
(ポリエステル樹脂C、Dの調製)
撹拌機、添加剤導入口、窒素ガス導入口、真空流出系を備えた反応器にテレフタル酸ジメチルの95質量部、イソフタル酸ジメチルの5質量部、1,4シクロヘキサンジメタノールの77質量部に、酢酸カルシウムの水和物と酢酸マンガンの水和物とをそれぞれテレフタル酸ジメチルとイソフタル酸のモル数の合計に対するモル比で2×10−4相当量添加し、200℃、窒素雰囲気下でエステル交換反応を行った。その後、三酸化アンチモンの0.05質量部、リン酸トリメチルエステルの0.13質量部、酸化防止剤としてイルガノックス1010(登録商標、CIBA−GEIGY社製)の0.4質量部および酢酸ナトリウムの0.04質量部を添加した。次いで、徐々に昇温、減圧にし、280℃、60Paの圧力下で重合を行い、共重合のポリエステル樹脂Cを得た。このポリエステル樹脂Cの固有粘度(IV)は0.95であった。
【0106】
次いで、上記ポリエステル樹脂Bの調製において、ポリエステル樹脂Aに代えて、上記調製したポリエステル樹脂Cを用いた以外は同様にして、シリカ粒子が均一に分散したポリエステル樹脂Dを得た。
【0107】
(製膜)
上記試料1の作製において、コア層としてポリエステル樹脂Aに代えてポリエステル樹脂Cを、またポリエステル樹脂Bに代えてポリエステル樹脂Dを用いた以外は同様にして、試料2を作製した。
【0108】
ただし、製膜各工程の温度は、樹脂の性質、目的とするフィルム物性に合わせて、表1に記載の温度条件とし、アニール処理は温度90℃、48時間行った。試料2におけるコア層のポリエステル樹脂Cの固有粘度(IVc)は0.85、表層のポリエステル樹脂Dの固有粘度(IVs)は0.71であった。
【0109】
〔試料3の作製〕
(ポリエステル樹脂E、Fの調製)
撹拌機、添加剤導入口、窒素ガス導入口、真空流出系を備えた反応器に、テレフタル酸ジメチルの100質量部、エチレングリコールの64質量部に、酢酸カルシウムの水和物と酢酸マンガンの水和物とをそれぞれテレフタル酸ジメチルに対するモル比で2×10−4相当量添加し、常法によりエステル交換反応を行った。得られた生成物に、5−ナトリウムスルホジ(β−ヒドロキシエチル)イソフタル酸のエチレングリコール溶液(濃度35質量%)の32質量部(5.8モル%/全酸成分)、ポリエチレングリコール(数平均分子量1000)の8.4質量部(6.7質量%/ポリマー)、三酸化アンチモンの0.05質量部、リン酸トリメチルエステルの0.13質量部、酸化防止剤としてイルガノックス1010(登録商標、CIBA−GEIGY社製)の0.4質量部および酢酸ナトリウムの0.04質量部を添加した。次いで、徐々に昇温、減圧にし、280℃、0.5mmHgで、攪拌トルクをモニターしながら重合を行い、共重合のポリエステル樹脂Eを得た。このポリエステル樹脂Eの固有粘度(IV)は0.58であった。
【0110】
次いで、前記ポリエステル樹脂Bの調製において、ポリエステル樹脂Aに代えて、上記調製したポリエステル樹脂Eを用いた以外は同様にして、シリカ粒子が均一に分散したポリエステル樹脂Fを得た。
【0111】
(製膜)
前記試料1の作製において、コア層としてポリエステル樹脂Aに代えてポリエステル樹脂Eを、またポリエステル樹脂Bに代えてポリエステル樹脂Fを用いた以外は同様にして、試料3を作製した。
【0112】
ただし、製膜各工程の温度は、樹脂の性質、目的とするフィルム物性に合わせて、表1に記載の温度条件とし、アニール処理は行わなかった。試料3におけるコア層のポリエステル樹脂Eの固有粘度(IVc)は0.55、表層のポリエステル樹脂Fの固有粘度(IVs)は0.45であった。
【0113】
〔試料4の作製〕
(ポリエステル樹脂G、Hの調製)
市販のポリエチレンナフタレート(固有粘度0.62)をポリエステル樹脂Gとし、前記ポリエステル樹脂Bの調製において、ポリエステル樹脂Aに代えて、上記ポリエステル樹脂Gを用いた以外は同様にして、シリカ粒子が均一に分散したポリエステル樹脂Hを得た。
【0114】
(製膜)
前記試料1の作製において、コア層としてポリエステル樹脂Aに代えてポリエステル樹脂Gを、またポリエステル樹脂Bに代えてポリエステル樹脂Hを用いた以外は同様にして、試料4を作製した。
【0115】
試料4におけるコア層のポリエステル樹脂Gの固有粘度(IVc)は0.60、表層のポリエステル樹脂Hの固有粘度(IVs)は0.43であった。
【0116】
〔試料5の作製〕
試料1の作製に用いたポリエステル樹脂Aのみを用いて、試料1と同条件で膜厚120μmのポリエステル樹脂A単層からなる試料5を作製した。なお、試料5の作製においては、アニール処理は行わなかった。
【0117】
〔試料6の作製〕
前記試料1の作製に用いたポリエステル樹脂Aを、ポリエステル樹脂Bの乾燥条件(130℃、4時間)で乾燥し、試料1と同条件で膜厚120μmのポリエステル樹脂A単層からなる試料6を作製した。
【0118】
〔試料7の作製〕
前記試料1の作製において、熱固定温度を220℃に変更した以外は同様にして、積層ポリエステルフィルムである試料7を作製した。
【0119】
〔試料8の作製〕
前記試料1の作製において、ポリエステル樹脂Bの乾燥条件を110℃、4時間に、また熱固定温度を220℃に変更した以外は同様にして、積層ポリエステルフィルムである試料8を作製した。この試料8の表層のポリエステル樹脂の固有粘度(IVs)は0.31であった。
【0120】
《写真感光材料の作製》
上記作製した各試料に、特開2001−33913号公報の実施例11に記載の下引層、バック層及びハロゲン化銀乳剤層を塗布した。ただし、下引層、バック層を乾燥する条件は、75℃を越えないように制御した。この後、135サイズに断裁加工して、ISO規格通りにパフォレーション部の穿孔を行い、135用カートリッジに装填して、135フォーマットのカラーフィルムであるフィルム1〜フィルム8を作製した。
【0121】
【表1】
【0122】
《ポリエステルフィルム及び写真感光材料の評価》
上記作製したポリエステルフィルム及び写真感光材料について、下記の各評価を行った。
【0123】
〔膜厚の測定〕
各試料について、透過型電子顕微鏡(TEM)によるフィルム断面の観察にて行った。具体的には、各試料の小片を、エポキシ樹脂に硬化剤、加速剤を配合した樹脂で覆い硬め、ミクロトームにて厚み200nmの切片を作成し、観察用サンプルとした。得られたサンプルを透過型電子顕微鏡を用いて倍率1万〜10万倍で断面撮影し、粒子を含有した表面側層の厚みを測定した。膜厚測定は50点行い、薄い方から10点、厚い方から10点のデータを除いて、30点平均で算出した。芯層の膜厚は、全体膜厚を、触針式膜厚計を用いて測定し、表面側層の膜厚を全体膜厚から差し引いて求めた。
【0124】
上記測定の結果、試料6、7を除いた各試料は、コア層の膜厚は70μm、各表層の膜厚はそれぞれ25μmであった。また、試料6、7はそれぞれ120μmであった。
【0125】
〔へーズの測定〕
各試料のヘーズは、ASTM−D1003−52に従って測定した。尚、測定は下引層、乳剤層等の機能層の塗設前の各試料(ポリエステルフィルム)について行った。
【0126】
(熱処理後の巻癖カール度の測定)
各フィルムを、35mm(製造時の横方法)×120mm(製造時の縦方向)の帯状に切断し、温度23℃、相対湿度55%の条件下で1日放置した後、直径が10.8mmであるコアに、感光性層塗設面が内側となるように巻き付けた。その後、温度55℃、相対湿度20%の条件下で24時間熱処理を行った。
【0127】
熱処理後、温度23℃、相対湿度55%の条件下で30分かけて放冷した後、コアから解放し、1分経過後に各フィルムの巻癖カール度(m−1)を測定した。
【0128】
(現像処理後の回復カール度の測定)
各フィルムを、35mm(製造時の横方法)×120mm(製造時の縦方向)の帯状に切断し、温度23℃、相対湿度55%の条件下で1日放置した後、直径が10.8mmであるコアに、感光性層塗設面が内側となるように巻き付け、熱処理後の巻癖カール度と同様に熱処理を行った。熱処理後、ミニラボKP50QA(コニカ製)で処理し、出口から排出後、温度23℃、相対湿度55%の条件下で1時間放置した後に、フィルムの中央部のカール度(m−1)を測定した。
【0129】
(ミニラボ切断性の評価)
市販の35サイズカラーネガフィルム(24枚撮り)を、連続1500本カットして、フィルム切断ナイフを摩耗させたミニラボKP50QA(コニカ製)を用いて、35mm幅×1.2mの各フィルムを100本連続してカットし、その破断面を光学顕微鏡を用いて50倍で観察して、切れ味を比較した。バリや劈開、切断できないなど何らかの不良が発生したフィルムの発生本数を数え、不良率を計算し、下記の基準に則りミニラボ切断性の評価を行った。
【0130】
○:不良率が5%以下である
△:不良率が6〜15%である
×:不良率が16%以上である
(脆弱耐性の評価)
135パトローネに装填した各フィルムをパトローネから引き出し、23℃、15%RHの条件下で24時間放置した後、ISO 18907に準拠して、脆弱耐性の評価した。
【0131】
評価は、ひび割れが入るもっとも小さい間隙の長さをmmで表した。また、最小の間隙である2mmでも破断しなかったものは、○とした。
【0132】
以上により得られた結果を、表2に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
表2より明らかなように、本発明で規定する単一組成で、かつ膜厚方向で表面近傍と中心部分でポリエステル樹脂の分子量(固有粘度)が異なる本発明のポリエステルフィルム、あるいはそれを用いた写真感光材料は、比較例に対し、透明性、カール性能が良好で、かつ切断性、脆弱耐性に優れていることが分かる。
【0135】
【発明の効果】
本発明により、裁断性、切断加工適性に優れ、かつ透明性、カール性能、脆弱耐性が良好なポリエステルフィルムとその製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法を提供することができた。
【発明の属する技術分野】
本発明は、裁断性、切断加工適性に優れたポリエステルフィルムとその製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法に関し、詳しくは、フィルムスリッティング工程、穿孔工程、舌端部加工工程等の加工適性に優れ、透明性、カール性能が良好なポリエステルフィルムとその製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、プラスチックフィルムは柔軟性、加工のし易さなどから様々な分野で使用されている。特に、二軸延伸ポリエステルフィルムは、各種の特性をバランス良く保有し、産業用資材としても使われており、写真感光材料の分野においても、例えば、X線用フィルム、印刷用、ディスプレイ用等の比較的大きい面積で平面のまま使用される分野では、支持体として実績がある材料である。
【0003】
一方、一般撮影用のカラーフィルムおよびモノクロフィルムは、永い間、三酢酸セルロース(以降、TACともいう)ベースを主とする繊維素系ポリマーのベースが使用されている。TACフィルムを用いた写真フィルムは、現在の市場においては主流であり、カメラ、現像処理機などの機器設計は、このTACフィルムの物性に合わせて設計されることになり、現実にそのような設計の機材が大量に市場には存在する。TACフィルムは、光学的な等方性と優れた透明性を有し、適度な透湿性と保水性を有し、ロール状に保管した際に生じる巻き癖(カール)が、湿式処理で回復する、といった一般消費者用のロール形態の写真フィルムでは、特徴的な特性を有しており、この特性を充たす代替品は存在しなかった。
【0004】
湿式処理中や処理後に、巻き癖がついたままであると、例えば、現像処理機での搬送中に折れたり、搬送ロールに巻き込まれる等の問題が発生する上、例え無事に現像処理ができた場合でも、写真印画紙に画像を形成させる焼き付け工程等でスリ傷の発生、ピントのボケ、搬送時のジャミング、折れ等の問題が発生しやすくなる。巻き癖(カール)が湿式処理時にもとに戻る速度や、現像液中で支持体としての適度な強度と剛性を維持できることも、TACフィルムの有利な特徴である。更に、TACフィルムは、その分子構造に由来すると思われる低密度と、アセチル基と水酸基との間の水素結合に由来すると思われる破断伸びの低さから、切断性に優れるため、様々な切断加工に対して極めて加工しやすい特徴を兼ね備えている。135フォーマットの写真用フィルムは、一般的に感光性層を塗設したのち、35mm幅へのスリッティング、24枚撮り等の撮影枚数に応じた長さへの切断、先端及び後端部の所定形状への打ち抜き加工、パーフォレーション(穿孔)加工ののち、スプールに固定されパトローネ内に巻き込まれて市販の135フォーマットとなる。撮影後、集積型現像所で現像される際には、個別の未現像フィルムを、多本数スプライスして長尺のロール状に加工した後、現像したり、ノッチ処理(指定の画像コマの片側の切り欠きをいれるなど)、6駒づつに切断してネガシートに挿入したりと、フィルムの生産からお客様にプリントとして画像を提供するまでの間に、様々な切断工程を経ることになる。前述のように、135写真システムでは、長い間、切断性に優れるTACフィルムを用いたハロゲン化銀写真感光材料に対応するため、切断に関与する機器の設計も、それ程厳密な管理を行わなくても、トラブルを起こすことは非常に少なかった。
【0005】
しかしながら、TACフィルムでも、いくつかの欠点を有している。TACフィルムを製造する上で、溶解性等の観点からメチレンクロライド(沸点41℃)などの塩素系炭化水素を有機溶媒として使用せざるを得ない点が、その代表として指摘されている。メチレンクロライドは、従来からセルローストリアセテートの良溶媒として用いられ、製造工程の製膜及び乾燥工程において沸点が低いことから乾燥させ易いという利点により好ましく使用されている。ところが、最近、塩素系化合物の使用が制限される方向にあり、環境への影響を懸念して製造工程での有機溶剤の回収を厳密に行う様になり、製造コストや環境対応の工場建設費が上昇し、安価に供給することが困難となる。
【0006】
上記課題に対し、一つの方法として、特開平11−310640号(TACの冷却溶解)、特開平11−152342号(溶媒の変更)などで、メチレンクロライドを使用しないか大幅に削減できるセルローストリアセテートフィルムの製造方法が提案されているが、有機溶媒を使用するため設備が大がかりになったり、逆に、引火性、爆発性などの懸念を低減するため設備や運転のコストが上昇する等の懸念があり、これら提案されている方法では、有機溶媒を使う以上、本質的な解決には至っていない。
【0007】
一方、このTACフィルムを他のプラスチックベースで置き換える様々な方法が提案されている。例えば、米国特許第4,141,735号には、アニール処理を施したポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート(以降、PENともいう)などが開示されており、このうち、アニール処理されたPENベースは、厚さ85μm付近のものが、APS写真システムの支持体として実際に実用化されている。アニール処理されたPENベースは、ロール状に保管しても、巻き癖がつきにくいことが特徴であるが、このアニール処理したPENベースの厚さを、現行の135フォーマットで使われているTACフィルムの厚さと同じ120〜130μmにすると、支持体の機械物性(例えば、剛性、破断強度など)が高すぎて、現行の135フォーマット対応のカメラ、現像処理機で故障が生じたり、切断加工時に切断できなかったりする。そのため、APS写真システムでは、市場に出荷した後は切断加工が一切無いシステムになっており、切断トラブルを防いでいる面がある。
【0008】
また、ポリエチレン2,6ナフタレートと変性ポリエチレンテレフタレートとを積層する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。これは、APSベースのコストを下げるには有効であるが、現行のTACフィルム並みの厚さには適用できない。PENを主要素材とする限り、機械強度の観点と溶融時の他の改質樹脂との混和性の観点から、TACに近似した写真フィルムのベースを得るのは難しいのが現状である。
【0009】
また、特開平10−20441号、特開2000−206646号、特開2001−98089号、特開2001−342245号などでは、強度を落としたり、分子量分布を工夫するなどして切断しやすくし、135フォーマットへの応用の検討がされているが、いまだ十分でない。
【0010】
一方、切断性、透明性に優れた積層ポリエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照。)が、異なる2種類の樹脂を必要とすること、総膜厚が25μmと非常に薄いフィルムであることから、樹脂原料が多くなり、生産が複雑になることと、本発明の目的である120μm前後の膜厚のポリエステルフィルムに適用した場合には、易切断性が十分ではない。更に、芯層(コア層)が実質結晶化していないため、塑性変形が大きく、親水性コロイド層等を設置した場合、湿式処理後の乾燥工程などで、高温に曝されながら親水性コロイド層の脱湿収縮力がかかるため、塑性変形してしまい、その後の処理に悪影響を及ぼす。
【0011】
一方、滑り性と透明性を両立するため、固有粘度(IV)が0.45〜0.55のポリエチレンテレフタレートに粒子を含有させた層をポリエチレンテレフタレートに積層する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照。)が、これも総膜厚が40μm程度であり、更に透明性と滑り性を両立する目的であるため、表層(スキン層)部分が全体膜厚の1/10以下と非常に薄く、また基材であるコア層のポリエチレンテレフタレートには特別に固有粘度を調整するという処理はなされておらず、この構成を、120μm近辺の膜厚に適用しても切断性は全く向上しない。
【0012】
一方、固有粘度(IV)が異なるポリエステルを積層して、カール制御する技術が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。しかし、この技術では、基本的に2層構成で製膜した際に既にカールを有しているため、感光性層を塗布した後に、初めて最適のカールバランスとなる。これは、支持体自身が製膜時にフラットで平面性が良く、アニール処理または親水性成分の共重合によりカールを付けない、あるいは湿式処理でカール回復すると言う観点とは全く異なる方法であるといえる。また、上記特許文献4では、熱固定時の熱収縮差を利用しているため、二軸延伸製膜では一般的によく見られるボーイング現象により製膜端部からスリットしたフィルムは、斜め方向のカールを示すことになり、135フォーマット対応フィルムとしたときに、トラブルの原因となる点で製品としては使用に耐えず、また生産性が非常に悪いという課題を有している。
【0013】
【特許文献1】
米国特許第5,759,756号明細書 (特許請求の範囲)
【0014】
【特許文献2】
特開2002−337290号公報 (特許請求の範囲)
【0015】
【特許文献3】
特開2003−11311号公報 (特許請求の範囲)
【0016】
【特許文献4】
特開昭50−123420号公報 (特許請求の範囲)
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を鑑みなされたものであり、その目的は、フィルムスリッティング工程、穿孔工程、舌端部加工工程等での裁断性、切断加工適性に優れ、かつ透明性、カール性能、脆弱耐性が良好なポリエステルフィルムとその製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0019】
1.実質的に単一組成で、かつ膜厚方向で表面近傍と中心部分でポリエステル樹脂の分子量が異なることを特徴とするポリエステルフィルム。
【0020】
2.ポリエステルである基材の少なくとも一方の面側に、基材と同一組成のポリエステルで、かつ固有粘度(IV)が基材を構成するポリエステルよりも小さい層を設けることを特徴とする前記1項に記載のポリエステルフィルム。
【0021】
3.前記基材を構成するポリエステルの固有粘度(IVc)と、少なくとも基材の一方の面側に設ける層のポリエステルの固有粘度(IVs)とが、下式(1)の関係を満足することを特徴とする前記1または2項に記載のポリエステルフィルム。
【0022】
式(1)
1.1≦IVc/IVs≦1.8
4.前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0023】
5.前記ポリエステルが、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレートであることを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0024】
6.前記ポリエステルが、ポリエチレン−2,6−ナフタレートからなることを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0025】
7.全エステル結合単位に対して、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分を1〜15mol%、ポリエステルの質量に対してポリアルキレングリコール成分またはポリアルキレングリコール・ジオキシカルボニルアルキルエーテル成分を1〜10質量%含有するコポリエステルで形成されていることを特徴とする前記1〜6項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0026】
8.膜厚が105〜130μm、ヘーズが15%以下であることを特徴とする前記1〜7項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【0027】
9.前記1〜8項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを製造する方法であって、溶融共押出法により、単一組成で分子量の異なるポリエステル樹脂層を積層し、その後、逐次または同時に製膜方向と幅方向の二軸に延伸し、更にその後、基材層の融解温度より30℃低い温度と、融解温度との間の温度で熱処理してロール状に積層することを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。
【0028】
10.フィルム中に、平均粒径が0.05〜1.2μmの不活性微粒子を0.01〜0.4質量%含有し、ロール状に積層した状態で、ポリエステルのガラス転移点以下の温度で0.1〜1000時間熱処理されることを特徴とする前記9項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【0029】
11.前記1〜8項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの少なくとも一方の面側に感光性層を設けたことを特徴とする写真感光材料。
【0030】
12.前記1〜8項のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの少なくとも一方の面側に感光性層を塗設することを特徴とする写真感光材料の製造方法。
【0031】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、実質的に単一組成で、かつ膜厚方向で表面近傍と中心部分でポリエステル樹脂の分子量が異なるポリエステルフィルムにより、フィルムスリッティング工程、穿孔工程、舌端部加工工程等での裁断性、切断加工適性に優れ、かつ透明性、カール性能が良好なポリエステルフィルムを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0032】
更に、上記構成からなる本発明のポリエステルフィルムが、ポリエステルである基材の少なくとも一方の面側に、基材と同一組成のポリエステルで、かつ固有粘度(IV)が基材を構成するポリエステルよりも小さい層を設けること、基材を構成するポリエステルの固有粘度(IVc)と、少なくとも基材の一方の面側に設ける層のポリエステルの固有粘度(IVs)とが、前式(1)の関係を満足すること、ポリエステルがポリエチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、またはポリエチレン−2,6−ナフタレートであること、全エステル結合単位に対して、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分を1〜15mol%、ポリエステルの質量に対してポリアルキレングリコール成分またはポリアルキレングリコール・ジオキシカルボニルアルキルエーテル成分を1〜10質量%含有するコポリエステルで形成されていること、膜厚が105〜130μm、ヘーズが15%以下であることにより、上記効果がより一層発揮されるものである。
【0033】
また、本発明の上記構成からなるポリエステルフィルムの製造方法として、溶融共押出法により、単一組成で分子量の異なるポリエステル樹脂層を積層し、その後、逐次または同時に製膜方向と幅方向の二軸に延伸し、更にその後、基材層の融解温度より30℃低い温度と、融解温度との間の温度で熱処理してロール状に積層することにより、フィルムスリッティング工程、穿孔工程、舌端部加工工程等での裁断性、切断加工適性に優れ、かつ透明性、カール性能が良好なポリエステルフィルムの製造方法を実現できるものである。
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステルフィルムは、同一組成のポリエステル樹脂からなり、膜厚方向に分子量の分布、すなわち、同一樹脂であればIVの分布が、フィルムの膜厚に存在することを特徴とする。本発明のポリエステルフィルムにおいては、その分布は、表面ほど分子量が小さく(IVが低く)、中心部ほど分子量が大きい(IVが高い)構成とすることが必要である。
【0035】
本発明のポリエステルフィルムの構成として、連続的な分子量分布を持たせても良いが、同一組成で分子量の異なる2層以上の多層構造とする方が製造上、容易であるのでより好ましい。例えば、コア層を構成する基材として、分子量が大きい(IVが高い)ポリエステル樹脂を用い、更に、分子量が小さく(IVが低く)、かつコア層と同一組成のポリエステル樹脂を用いて、そのコア層の一方の面、あるいは両面に表層(スキン層)を構成することが好ましい。
【0036】
本発明で規定する構成からなるポリエステルフィルムにおいて、切断性が向上するメカニズムは明らかではないが、分子量が小さい樹脂層を表面側に配置することにより、切断加工時に刃が入る起点が形成されやすくなり、その結果、より小さな力で切断が始まるため、切断性が向上すると推測している。これに対し、全層全てを分子量の小さい樹脂で構成すると、フィルム全体として脆すぎて実用に耐えられないものとなる。すなわち、フィルム膜厚方向の中心部分でフィルム全体の強度を保ちつつ、表面部分で良好な切断性を付与する構成とすることが好ましい。
【0037】
上述のように、本発明のポリエステルフィルムにおいて、多層構造とする場合、基材となるポリエステル樹脂層の少なくとも片面に、基材と同一組成のポリエステル樹脂からなる層を設けて多層構造とするが、層の数については制限するものではない。しかし、生産性、設備の大型化、フィルム表裏両方からの切断性向上等を考慮すると、コア層の両面をスキン層で被覆した三層構造が好ましい。また、本発明に用いられるポリエステル樹脂は、基材になるポリエステル樹脂とその少なくとも一方の面側に設けられる層のポリエステル樹脂とに大別できるが、それらのポリエステル樹脂は同一組成であり、かつ互いの固有粘度が異なるポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0038】
本発明でいう同一組成とは、ポリエステルの基本構造をなすジカルボン酸成分とジオール成分からなる単位構成成分が同一であることを言う。
【0039】
多層構造にする手段は、熱溶融接着剤等を用いたドライラミネート法、溶融押し出したシートを重ねて冷却ドラム上で固化接着する押出ラミネート法、溶融押出時に、ポリエステル樹脂をダイス内の溶融状態で重ね、積層した状態で押し出す共押出法でも良い。製造工程の簡略化や層間接着、切断性の向上のためには、共押出法によって多層構造にすることが好ましい。ただし、本発明においては、ラミネート法で形成する場合、層間の接着を受け持つ層は層の数に含まないものとする。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムにおいては、基材となるポリエステル樹脂層の少なくとも一方の面側に、基材と同一組成のポリエステルで固有粘度(IV)が基材部分よりも小さな樹脂を用いた層を設けてなることが好ましい。より好ましくは、基材部分のポリエステルの固有粘度(IVc)と、少なくとも基材の一方の面側に設ける層のポリエステルの固有粘度(IVs)が、前記式(1)で規定する条件を満足することが好ましい。
【0041】
本発明で規定する範囲の固有粘度とする方法には、特に制限はないが、例えば、重合過程の反応条件をコントロールする方法、通常の反応条件で合成した後、樹脂の含水率をコントロールして溶融押出する方法等を適宜選択、あるいは組み合わせることにより達成することができる。ただし、3層以上で構成される場合IVcは、フィルムの厚み方向で最も芯側に位置する層(例えば、コア層)を構成するポリエステル樹脂のIVであり、IVsは最も表面に位置する層(例えば、スキン層)を構成するポリエステル樹脂のIVとする。
【0042】
本発明において、式(1)で規定する比率IVc/IVsが1.1より小さいと、異なる固有粘度を有する樹脂を積層したことによる効果が小さくなり、1.8を越えると溶融粘度が違いすぎて積層時に界面が乱れてムラが発生したり、製膜時に幅手方向で積層比が異なってくることがある。また、同一組成の樹脂といえども物性差が大きくなり、層間剥離が生じる場合が出てくるため好ましくない。
【0043】
本発明のポリエステルフィルムは、二軸延伸後に、基材層の融解温度より30℃低い温度と、融解温度の間の温度で熱処理されてロール状に積層することが好ましい。表層に固有粘度(IV)が低い樹脂を用いることにより本発明の目的効果は発揮されるが、更に、熱固定段階で通常よりもやや高め温度で熱処理を施すことで、表層がより非晶状態に近くなり、クラック伝搬し易い性質を付与することができ、その結果として裁断性が更に向上する。加えて、IVの異なる層間の接着性が向上し、層間剥離の低減、コア層へのクラック伝搬がし易くなりフィルム全体としての切断性も向上する。
【0044】
本発明のポリエステルフィルム全体の平均厚みは、105〜130μmであることが好ましく、110〜127μmであることがより好ましい。105μm未満では、パトローネの入り口にフィルム端部を出した状態ですき間が生じるのため、外光による漏光を生じ、カブリが発生する可能性があり、また写真用支持体としての機械強度が不十分となる。一方、厚みが130μmを越えると、従来の135仕様のパトローネへ充填する際に、例えば、36枚撮り等の長尺フィルムでは、巻径が膨らみすぎて巻き込めなかったり、支持体としての切断性が低下してしまう。また、これよりベースが厚かったり、薄かったりすると既存のカメラや露光機でのピントズレを引き起こす要因となるため好ましくない。
【0045】
また、本発明のポリエステルフィルムは、ヘーズが2.0%以下であることが好ましい。更に好ましくは0.01〜1%である。ヘーズが2.0%より大きいと、本発明のポリエステルフィルムを写真感光材料用の支持体として用いた場合、写真用印画紙に焼付けた際に、画像がぼけてしまい不鮮明になる。なお、本発明で規定する上記ヘーズは、ASTM−D1003−52に従って測定したものである。
【0046】
次いで、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルについて説明する。
【0047】
本発明に用いられるポリエステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とするポリエステルである。主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ポリエチレングリコールジカルボン酸、ポリプロピレングリコールジカルボン酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9−ビス(4,4′−ジ−β−ヒドロキシエチル)フルオレン、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。スルホン酸基またはその塩を有するジカルボン酸としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(5−SIP)、2−ナトリウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体、およびこれらのナトリウムを他の金属(例えば、カリウム、リチウムなど)で置換した化合物が用いられる。
【0048】
こうした金属スルホネート基を有するジカルボン酸成分の共重合割合は、全エステル結合単位に対して1〜15モル%であり、1モル%未満では十分な巻ぐせ解消性が得られず、15モル%を越えると延伸性に劣ったり、機械的強度に劣ったものとなり好ましくない。特に、写真現像処理条件を厳しくしたpHの高い現像処理システム、例えば、カラーネガフィルム処理、カラーリバーサル処理に適合させるには、耐アルカリ溶液の性質がベースに要求されるので、更に1〜12モル%の共重合割合が好ましい。
【0049】
ポリアルキレンオキシジカルボン酸としては、例えば、ポリエチレンオキシジカルボン酸、ポリトリメチレンオキシジカルボン酸、ポリテトラメチレンオキシジカルボン酸などが用いられるが、このうちポリエチレンオキシジカルボン酸が好ましく、分子量は特に限定されないが、300〜20,000が好ましく、更に好ましくは600〜10,000、特に1,000〜5,000のものが好ましく用いられる。ポリアルキレングリコールまたはポリアルキレンオキシジカルボン酸の共重合割合は、該共重合ポリエステル反応生成物の1〜10質量%であることが好ましい。
【0050】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが用いられるが、このうちポリエチレングリコールが好ましく、分子量としては特に限定されないが300 20,000が好ましく、更に好ましくは600〜10,000、特に800〜5,000のものが好ましく用いられる。ポリエチレングリコールの分子量が、5,000以下であると、製膜後のポリエステルフィルムの中に、ポリエチレングリコールのユニットが均一に分布するので、透明性が良好であり、ポリエステルフィルムが吸水後に再乾燥されても平面性が良好に維持される。また、ポリエチレングリコールの分子量が800以下であると、重合時の共重合ポリエステルの分子量や組成を均一にするのが、やや困難である。
【0051】
ポリアルキレングリコールは、反応生成物のポリエステルの全質量に対して1〜10質量%含有され、好ましくは2〜8質量%である。ポリアルキレングリコールが1質量%未満では十分な巻ぐせ解消性が得られない。また、10質量%を越えると水中浸漬直後の弾性率が低下し、機械的強度に劣ったものとなる。
【0052】
本発明のポリエステルフィルムに用いられる共重合ポリエステルには、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に他の成分が共重合されていても良いし、他のポリマーがブレンドされていても良い。
【0053】
上記以外の二塩基酸で、本発明に使用できるベンゼンジカルボン酸またはその誘導体としては、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸及びその低級アルキルエステル(無水物、低級アルキルエステル等のエステル形成可能な誘導体);シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸及びヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸及びその誘導体(無水物、低級アルキルエステル等のエステル形成可能な誘導体);及びアジピン酸、コハク酸、シュウ酸、アゼライン酸、セバシン酸及びダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体(無水物、低級アルキルエステルなどのエステル形成可能な誘導体)を、全二塩基酸の10モル%以下の量で使用しても良い。
【0054】
これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が、ジオール成分として、エチレングリコールまたは1,4−シクロヘキシレンジメチレングリコールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレートユニット、ポリエチレンナフタレートユニット、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートユニットを含有するポリエステルが好ましい。ポリエステルに対して、エチレンテレフタレートユニットまたはポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが70質量%以上含有されていると、透明性、機械的強度、寸法安定性などに高度に優れたフィルムが得られる。
【0055】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法としては、例えば、ポリエステル樹脂を120℃以上、180℃以下の温度であるホッパー内で十分乾燥させ、外気との接触を断ってホッパー下端から押出機へ定量供給し、積層する各層のポリエステルを別々の押出機から溶融押出した後、溶融ポリマーの導管内(フィードブロックタイプ)、または押出口金内(マルチマニホールドタイプ)において層流状で接合せしめて押出した後、溶融ポリマーのまま導管内を経由して押出口金(ダイス)から押出し、冷却ドラム上で冷却固化して未延伸フィルムを得た後、二軸延伸し、熱固定する押出し方法が好ましい。延伸は、製膜方向(MD方向)と幅方向(TD方向)を同時に延伸する同時二軸延伸法、MD方向に延伸した後、TD方向に延伸する逐次二軸延伸法、また延伸を何工程かに分けて行う多段延伸法を用いても良い。なお、本発明の範囲の固有粘度にするには、重合過程の反応条件をコントロールするか、または通常の反応条件で合成した後、樹脂の含水率をコントロールして溶融押出する事で得られる。本発明に係るIVの構成の範囲内で、目的を阻害しない範囲であれば2種類以上のポリエステルを混合しても良い。
【0056】
更に、本発明においては、得られたポリエステルフィルムにアニール処理を施すことも好ましい。アニール処理は、ポリエステルフィルムの巻癖を低減するために、ポリエステルフィルムに施す熱処理である。この熱処理の効果は、ガラス転移点を越える温度にさらされると消失する。
【0057】
熱処理は、50℃以上、ガラス転移点温度以下の温度で、0.1時間以上、1000時間以下、更に好ましくは0.2〜72時間行うことが必要である。このうち、特に好ましい熱処理方法は、例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合はTgが約85℃であり、従って84℃以下の温度で、更に好ましいのは77℃以下で、24時間程度熱処理することである。特に、短時間で熱処理をするために、Tg以上に一度昇温し、Tg近辺で徐々に冷却することが非常に効率的で好ましい。ポリエチレンテレフタレートの場合、一例として、一度85℃以上、120℃の間の温度に保った後90℃まで冷却し、その後70℃まで40分間で徐冷することで熱処理時間を著しく短縮できる。ただし、これらの時間は所定の温度にフィルムが実質的に曝された時間である。このような熱処理を行ったポリエステルフィルムを示差熱分析計(DSC)で測定すると、Tg近傍に吸熱ピークが出現し、この吸熱ピークが大きいほど巻癖は付きにくい。また、0.42J/g以上、更には0.96J/g以上となるように熱処理するのが好ましい。このDSCによるピークは、例えば、特開平10−20441号公報に記載の方法で測定できる。
【0058】
一方、特開平1−244446号、特開平4−234039号、特開平5−210199号、特開平6−82969号公報などには、スルホン酸基またはその塩を有する芳香族ジカルボン酸またはポリアルキレングリコールが共重合成分として含有するポリエステルについて、更に、特開平4−93937号、特開平6−11795号、特開平6−161035号、特開平6−289534号、特開平6−240020号、特開平6−110154号公報などには、ポリエステルを2層以上積層したポリエステルについて記載されているが、これら提案されているポリエステルは、巻き癖低減、現像後の巻き癖解消等の効果があり、本発明の技術と組み合わせても好ましく用いることができる。
【0059】
上述のアニール処理は、巻癖カールを付きにくくする技術であり、親水性ポリエステルの使用は湿式現像処理後の巻癖カールを低減する技術であるので、どちらかを別々に行っても、同時に行っても良く、目的に応じて適宜選択できる。
【0060】
本発明のポリエステルフィルムに用いられるポリエステル樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に他の成分が共重合されていても良いし、他のポリマーがブレンドされていても良い。上記ポリエステル樹脂としては、例えば、安息香酸、ベンゾイル安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの1官能性化合物によって末端の水酸基および/またはカルボキシル基を封鎖したものであってもよく、あるいは、例えば、極く少量のグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如き3官能、4官能エステル形成化合物で実質的に線状の共重合体が得られる範囲内で変性されたものでもよい。
【0061】
本発明に用いられる共重合ポリエステルの重合は、通常の公知の方法で行うことができる。すなわち、ジカルボン酸成分とグリコール成分をエステル交換後、高温、減圧下にて重縮合せしめて共重合ポリエステルを得ることができ、この際、共重合成分である金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸類やポリエチレングリコールをエステル交換反応後に添加し、重縮合を行う。エステル交換反応の触媒組成は、例えば、特開平10−13041号公報に記載のものを用いることが出来る。
【0062】
本発明に係る固有粘度(IV)は、下記の方法に従い測定することができる。
本発明では、ポリエステルフィルムあるいは各ポリエステル樹脂の固有粘は、ウベローデ型粘度計を用いて行うことができる。溶媒としては、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの混合溶媒(混合質量比、60:40)のものを用い、サンプル濃度0.2g/dl、0.6g/dl、1.0g/dlの溶液(温度20℃)を調製する。ウベローデ型粘度計によって、それぞれの濃度(C)における各比粘度(ηsp)を求め、ηsp/cを、c(濃度)に対してプロットし、得られた直線を濃度零に補外して固有粘度を求めた。単位はdl/gで示される。
【0063】
特に、本発明においては、透明性、機械物性などの観点から、ポリエチレンテレフタレートとポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートと、これらのスルホイソフタル酸とポリエチレングリコールを共重合して親水性にした変性ポリエチレンテレフタレート、変性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、変性ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂が好ましく用いられる。それらが基材として用いられる場合の固有粘度(IV)は、ポリエチレンテレフタレート系で0.50〜0.60、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート系で0.70〜0.95、ポリエチレン−2,6−ナフタレート系で0.45〜0.60であることが好ましい。各樹脂の固有粘度が上限値より大きいと、製膜後のフィルムベースが強靱になって、断裁性が劣悪となる。また、各樹脂の固有粘度が下限値より小さいと、フィルムベースが脆くなり、キャストドラム上で結晶化して白く濁ってしまったり、冷却後の原反を延伸機へ導入するまでにひび割れたり、破断するので、製膜時の延伸が困難となる。
【0064】
本発明に用いられるポリエステルには、酸化防止剤を含有させることができる。特にポリエステル樹脂が、ポリオキシアルキレン基を有する化合物を含む場合に有効である。含有させる酸化防止剤は、その種類として特に限定はなく、各種の酸化防止剤を使用することができ、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物などの酸化防止剤を挙げることができる。中でも、透明性の点でヒンダードフェノール系化合物の酸化防止剤が好ましい。なお、これらの酸化防止剤は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組合せて使用しても良い。その他の酸化防止剤の例としては、特開平5−323496に記載されている酸化防止剤を挙げることができる。
【0065】
本発明に用いられるポリエステルには、ライトパイピング現象を防止する目的で、染料を含有させることが好ましい。このような目的で配合される染料としては、その種類に特に限定があるわけではないが、フィルムベースの製造上、耐熱性に優れていることが必要であり、好ましい染料としては、アンスラキノン系やペリノン系の染料が挙げられる。また、色調としては、一般の写真感光材料に見られるようにグレー染色が好ましい。これらの染料としては、Bayer社製のMACROLEXシリーズ、住友化学社製のSUMIPLASTシリーズ、三菱化成社製のDiaresinシリーズなどが挙げられ、これらを1種単独で、もしくは2種以上の染料を必要な色調となるように混合して用いることができる。この際、フィルムの分光透過率を400〜700nmの波長範囲で60%以上、85%以下とし、更に600〜700nmの波長範囲で分光透過率の最大と最小の差が10%以内とするように染料を用いることが、ライトパイピング現象を防止し、かつ良好な写真プリントを得る上で好ましい。
【0066】
着色剤の添加方法としては、特に限定がある訳ではなく、ポリエステルの重合から溶融押出までのいずれかの段階で必要量の着色剤を添加し、着色すればよく、また、あらかじめ高濃度のいわゆるマスターペレットを用意しておき、適宜希釈して溶融押出する方法は濃度をコントロールしやすいことから好ましく用いられる。回収ポリエステルを含有させる場合などで、濃度の微調整が必要な場合はこの方法が有効である。マスターペレットにおける染料の濃度は、100〜10000ppmが好ましく、例えば、特公平7−51635号、特公平8−15734号に記載の方法を用いることができる。
【0067】
また、ポリエステルに対して染料を同じ濃度にした場合、厚膜フィルムでは、薄手のフィルムに比べ、総染料添加量が増加し、透過率の低下を招くことになる。この濃度上昇が問題となる場合には、例えば、写真感光材料に適用する場合、感光性層が塗設するされる面側の表層にくる層以外の層の濃度を低めに設定することもできる。染料としては、例えば、バイエル社製の染料を、下記の配合割合で混練し、染料濃度2000ppmのマスターペレットを調製し、着色ポリエステル樹脂として、混ぜてもよい。
【0068】
Macrolex Red EG:Macrolex Violet B:Macrolex Green G=1:1:1
本発明のポリエステルフィルムには、必要に応じて易滑性を付与することもできる。特に、1000m以上の長尺フィルムを1本のロールに積層して巻き取る場合には、表面に適度な凹凸を形成して、積層したロールの巻締まりによるシワや変形、アニール時の変形を防ぐ手段が必要となる。
【0069】
本発明のポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのフィルムとは機械強度が異なるため、巻き取りの際に易滑性付与手段を形成してあると、平面性の優れた良品の歩留まりが95%以上となり好ましい。易滑性付与手段としては、特に限定はないが、例えば、ポリエステルに不活性無機粒子を添加する外部粒子添加方法、ポリエステルの合成時に添加する触媒を析出させる内部粒子析出方法、あるいは界面活性剤などをフィルム表面に塗布する方法などが一般的である。フィルム中に含まれる不活性粒径のサイズについては、横延伸時の破断を防ぐ観点からは0.05〜1.2μmが好ましい。0.05μmより小さいと易滑性の効果がなくなる。存在量は、フィルムのヘーズから上限が自ずと存在し、0.4質量%以下であることが好ましい。これらの中でも、析出する粒子を比較的小さくコントロールできる内部粒子析出方法が、フィルムの透明性を損なうことなく易滑性を付与できる点で好ましい。触媒としては、公知の各種触媒が使用できるが、特に、Ca、Mnを使用すると高い透明性が得られるので好ましい。これらの触媒は、1種でも良いし、2種を併用しても良い。少量の不活性粒子で、易滑性効果を発揮するために不活性粒子の含有量の異なる同種の樹脂を積層して、表層に不活性粒子を偏在させてもよい。本発明で使用される不活性無機粒子としては、SiO2、TiO2、BaSO4、CaCO3、タルク、カオリン等が例示される。
【0070】
本発明のポリエステルフィルムを写真感光材料用の支持体として使用する場合には、透明性が重要な要件となるため、ポリエステルフィルムと比較的近い屈折率をもつSiO2を用いた外部粒子系による易滑性付与は良く知られている。添加量を表面側部分の層に多めに、芯層部分に少なめに配分することにより、添加量を抑えられることから、透明性を劣化せず易滑性を付与できる。また、本発明のポリエステルフィルムに、平均粒径が0.005〜1.2μmのシリカ粒子が、0.01〜0.4質量%存在することによって、例えば、120μmの写真感光材料用ベースフィルムとしての断裁性、穿孔性が、従来のポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルムでの結果から予想されるよりも、飛躍的に改善されることが明らかになった。本発明のポリエステルフィルムでは、粒子が断裁時の亀裂が入るきっかけを更に形成しやすくなり、またその進行を助長しているため、断裁性がより改善されたものと思われる。
【0071】
なお、本発明でいう平均粒径とは、粉体そのまま、あるいは液中、固体中に分散された粉粒子体を一粒子ずつの直径を同種の全粒子について平均した値のことである。実際の計測にあたっては、個々の粒子形状が真球でない場合には、粒子に外接する仮想球の直径と内接する仮想球の直径の平均値とする。電子顕微鏡下で一定の倍率で、多数の写真撮影撮影を行い500個以上の異なる場所にある粒子の直径の平均値を求め、これを平均粒径とする。上記のデータを統計処理してヒストグラムを作ると、通常は単一の山の分布が得られるが、同一種の粒子を数えて、複数の山を持つヒストグラムが得られた場合には、複数の平均粒径の異なる粒子が混合していると見なし、各々の山の最頻値の粒径をそれぞれの平均粒径とする。
【0072】
本発明において、有機粒子を用いる場合には、本発明に係るポリエステル樹脂組成の溶融押し出し温度である280〜310℃で溶融したり、分解しないものが望ましい。窒素気流中で常温から300℃まで、10℃/minで昇温したときの300℃での質量減少率が10%以下のものが好ましく用いられる。有機粒子は、製膜後のポリエステルフィルム中で、有機粒子表面とポリエステル樹脂との結着が良好なものが、フィルムの透明性の点から好ましい。例えば、3次元架橋させたポリメタクリル酸メチル(PMMA)、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体粒子、メラミンホルムアルデヒド粒子などが好ましく、粒径分布は平均粒径の15%上下限の幅に質量分率で90%の粒子が含まれる単分散粒子であれば、更に好ましい。
【0073】
上記説明した以外に、内部粒子系による易滑性付与ではCa、Mn、Mgなどの金属とPの添加量を調整することによ、り易滑性をコントロールすることが可能であり併用すると好ましい。
【0074】
本発明のポリエステルフィルムにおいては、回収ポリエステルを含有させることができる。回収ポリエステルとは、写真用ポリエステル支持体の製膜工程において、エッジ屑や不良巻などとして発生するフィルム屑を回収して粉砕したもの、あるいは、ポリエステル支持体を用いて作られた写真感光材料の屑(先端加工やパーフォ屑、不良巻きなど)やユーザーで不要となったフィルムを回収して支持体以外の層を剥離し、粉砕したものである。回収ポリエステルは、写真感光材料の支持体として用いる場合には、感光性層等が塗設される面の支持体の最外層以外の層に混合することが好ましく、3層以上の場合は中間層の少なくとも1層に混合することが好ましい。混合する割合は、40質量%以下であることが好ましい。40質量%以上では強度、透明性等が問題となる。また、特公平7−332号、特公平7−333号等に記載される方法も用いることができる。
【0075】
なお、回収ポリエステルとして、PETボトルなどの回収屑も考えられるが、不純物、写真感光材料の支持体として用いた場合の写真性能への影響等の問題からあまり好ましくない。ただし、この様な屑も性能に影響しない範囲で混合させることは可能であり、資源リサイクルの観点からは好ましい。
【0076】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル層を積層する方法としては、従来公知の方法で行うことができる。例えば、複数の押出機およびフィードブロック式ダイあるいはマルチマニフォールド式ダイによる共押出し法、積層体を構成する単層フィルムまたは積層フィルム上に積層体を構成するその他の樹脂を押出機から溶融押出し、冷却ドラム上で冷却固化させる押出しラミネート法、積層体を構成する単層フィルムまたは積層フィルムを必要に応じてアンカー剤や接着剤を介して積層するドライラミネート法などが挙げられる。中でも製造工程が少なくてすみ、各層間の接着性が良好な共押出し法が好ましい。
【0077】
添加粒子濃度を各層で変化させる場合には、所望の濃度になるように粒子とポリエステル樹脂を溶融二軸混練等で混練し樹脂中に粒子を均一に分散させた後、ペレット化し、それぞれの層を受け持つ押出機に投入することができる。樹脂の含水率と混練条件を適切に選んで、混練と同時にIVをコントロールしても良い。
【0078】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法において、未延伸シートを得る方法および縦方向に一軸延伸する方法は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、原料のポリエステルをペレット状に成型し、熱風乾燥あるいは熱をかけながら真空乾燥する。乾燥温度は熱で酸化分解しない範囲で高い方が好ましく、通常100〜200℃、好ましくは140〜180℃である。真空乾燥は酸素、水分を減らし酸化を防止できることから好ましく用いられる。乾燥は、含水率が100ppm、好ましくは30ppm以下とするのがよい。その後、溶融押出し、Tダイよりシート状に押出して、静電印加法などにより冷却ドラムに密着させ、冷却固化させ、未延伸シートを得る。
【0079】
次いで、得られた未延伸シートを複数のロール群または赤外線ヒーターなどの加熱装置を介して、ポリエステルのガラス転移温度(Tg)からTg+100℃の範囲内に加熱し、一段または多段縦延伸する方法である。延伸倍率は、通常2.5倍〜6倍の範囲で、続く横延伸が可能な範囲とする必要がある。延伸温度の設定は各構成層のポリエステルのTgのなかで最も高いTgを基準にすることが好ましい。
【0080】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法では、上記の様にして得られた縦方向に一軸延伸されたポリエステルフィルムを、Tg〜Tm(融点)−20℃の温度範囲内で、2つ以上に分割された延伸領域で昇温しながら横延伸し、次いで熱固定することが好ましい。横延伸倍率は通常3〜6倍であり、また縦、横延伸倍率の比は、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整する。延伸温度の分割領域は、少なくとも2段階、更に3段階であることが好ましい。それ以上でもかまわないが、設備が大きくなるなどの問題が生じる。各領域の温度は、順次高くなるように設定し、かつ温度差は1〜50℃の範囲とすることが好ましい。なお、同時二軸延伸等の無接触延伸も、傷等の故障が発生しにくいことから好ましく用いることができる。
【0081】
次いで、熱固定を行うが、この前に二軸延伸フィルムを、その最終横延伸温度以下で、かつTg−40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持することが好ましい。縦、横方向に二軸延伸したフィルムを熱固定するに際しては、その最終横延伸温度より高温、Tm−30℃〜Tm−5℃の温度範囲内で、2つ以上に分割された領域で昇温しながら熱固定することが好ましい。積層構成の場合は、先にも述べた様にコア層のポリエステル成分のTmを基準にすることが重要である。通常、熱固定温度は、最終横延伸温度より高温で、かつTm−30℃以下の温度で実施されるが、本発明では通常の熱固定温度よりも高めに取ることで、より切断性を改良することができる。これは、ポリエステル層間の接着性が向上し、コア層へのクラック伝搬が起こりやすくなっているためと考えている。特に、積層構造の場合は、剛性と切断性が高次でバランスされたポリエステルフィルムを得ることができる。固定時間は、通常0.5〜300秒間である。熱固定されたポリエステルフィルムは、通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、横方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また、冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は、特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことが、フィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。なお、冷却速度の算出は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとしたとき、(T1−Tg)/tで算出した値である。これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するポリエステルにより異なるので、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
【0082】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、積層比率は目的に応じて設定することができるが、効果を発現するためには表面側の層が、フィルム全体膜厚の10%以上、60%以下であることが好ましい。3層構成の場合、表裏合わせた2層の表層の総膜厚が、上記の比率になることを意味する。ポリエステルの種類やポリエステルフィルムの用途により最適な積層比率は異なるので、一概に決めることはできないが、表層比率が大きくなるほど切断性は向上するが、柔軟性、強靱性に欠けてくるので目的に応じて調整することが好ましい。また、湿式現像処理での巻癖カール回復を目的に吸水成分を共重合した樹脂を用いる場合、低分子量成分の吸湿膨張係数が若干大きくなることを利用して、写真用ハロゲン化銀乳剤層を塗布する面とは反対側の面の低分子量層を厚く設計することで、現像処理工程での巻癖カール回復率が向上するため好ましい。ただし、表裏層であまり膜厚差を付けすぎると、処理液中や高湿での巻癖カールが大きくなってしまうため、表裏層の膜厚比を1:1〜1:4の範囲内で設計することが好ましい。
【0083】
また、本発明のポリエステルフィルムの製造方法において、延伸前または延伸後に、必要に応じて、帯電防止層、易滑性層、接着層、バリアー層などの機能性層を塗設してもよい。この際、コロナ放電処理、薬液処理などの各種表面処理を必要に応じて施すことができ、例えば、特許第2649457号、特開平5−169592号に記載の方法が使用できる。更に、強度を向上させる目的で、多段縦延伸、再縦延伸、再縦横延伸、横・縦延伸など、公知の延伸フィルムに適用される各種延伸を行うこともできる。
【0084】
以上の様にして得られた本発明のポリエステルフィルムは、厚みムラが小さく、平面性に優れ、品質むらが非常に少ないので、本発明の効果を最大限に発揮させることができる。
【0085】
次に、本発明のポリエステルフィルムの物性について説明する。
カメラや現像処理機での搬送不良や、搬送不良に起因する擦り傷発生を防止するため、本発明のポリエステルフィルムは、以下のようなフィルム物性を保持していることが好ましい。
【0086】
熱処理後の巻癖カール度は135m−1以下であり、好ましくは130m−1以下である。これ以上のカール度を有する場合は、カメラや現像処理機で搬送不良や、搬送不良に起因する擦り傷を発生するトラブルを生じることがある。
【0087】
現像処理後のカール度は55m−1以下が好ましい。更に好ましくは45m−1以下である。これ以下であれば、現像処理後の印画紙への焼き付け操作時のピントのボケや現像済みフィルムを裁断したり、スリーブへ挿入する機器でのトラブルを防止することができる。
【0088】
長手および幅手方向の熱収縮は、いずれも−1.0〜+2.0%であることが好ましい。この範囲を越えると、接着層や導電層を塗設する際に塗布故障を生じたり、平面性が劣化したりする。
【0089】
なお、上記の各値は、本発明のポリエステルフィルムに塗設される親水性コロイド層が25μm以下の場合であり、これを越える場合、上記物性値の好ましい範囲は自ずと変化する。
【0090】
また、本発明のポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー、ジエチレングリコール(DEG)等の不純物は、カブリ等の写真性能に影響することがあるので少ない方が好ましい。例えば、オリゴマー量は3%以下、好ましくは1%以下である。DEGは5mol%以下、好ましくは3mol%以下である。
【0091】
本発明のポリエステルフィルムは、少なくとも一方の側に、少なくとも一層のハロゲン化銀乳剤層を有することにより、ハロゲン化銀写真感光材料である写真感光材料を構成することができる。ハロゲン化銀乳剤層は、ポリエステルフィルム上に直接塗設されてもよいし、他の層、例えば、ハロゲン化銀乳剤を含まない親水性コロイド層を介して塗設されてもよい。この際、ポリエステルフィルムには、接着性向上の為、コロナ放電処理、グロー放電処理、紫外線処理、火炎処理、大気圧ガス中放電プラズマ処理、薬液処理などの各種表面処理を必要に応じて施すことができる。更に接着性向上の為、下引層を塗設してもよい。
【0092】
また、ハロゲン化銀乳剤層や下引層以外に、導電層、バックコート層、滑り層、透明磁性層、保護層なども設けることができる。特に、導電層や滑り層は、スタチック防止、擦り傷発生防止から好ましく用いられる。導電剤としては、例えば、特公昭60−51693号、特開昭61−223736号及び同62−9346号公報に記載の第4級アンモニウム基を側鎖に持つ架橋型共重合体粒子、特開平7−28194号公報に記載のアイオネン重合体架橋型あるいはアイオネン重合体を側鎖に持つ共重合体粒子等のカチオン帯電防止剤、特公昭35−6616号公報記載のアルミナゾルを主成分とするもの、特開昭57−104931号公報に記載のZnO、SnO2、TiO2、Al2O3、In2O3、SiO2、MgO、BaO、MoO3、ZiO2等の微粒子金属酸化物、特公昭55−5982号公報に記載のV2O5等の金属酸化物などが利用できる。滑り剤としては、例えば、特開2000−19682号公報に記載の滑り剤が使用できる。
【0093】
本発明の写真感光材料に用いるハロゲン化銀乳剤層を構成するハロゲン化銀としては、任意の組成のものを使用できる。例えば、塩化銀、塩臭化銀、塩沃臭化銀、純臭化銀もしくは沃臭化銀がある。
【0094】
ハロゲン化銀乳剤は、例えば、リサーチ・ディスクロージャー(以下、RDと略す。)No.17643、22〜23頁(1979年12月)の“1.乳剤製造法( Emulsion preparation and types )”、およびRDNo.18716、648頁、グラキデ著「写真の物理と化学」ポールモンテル社刊(P.Glkides,Chimie et Physique Photographique,Paul Montel,1967)、ダフィン著「写真乳剤化学」、フォーカルプレス社刊(G.F.Dauffin,Photographic Emulsion Chemistry Focal Press 1966)、ゼリクマン等著「写真乳剤の製造と塗布」、フォーカルプレス社刊(V.L.Zelikman etal,Making and coating Photographic Emulsion, Focal Press 1964)などに記載された方法を用いて調製することができる。ハロゲン化銀乳剤は、米国特許3,574,628号、同3,665,394号および英国特許第1,413,748号などに記載された単分散乳剤も好ましい。
【0095】
ハロゲン化銀乳剤には物理熟成、化学熟成及び分光増感を行うことができる。このような工程で使用される添加剤は、RDNo.17643、RDNo.18716及びRDNo.308119(それぞれ、以下、RD17643、RD18716及びRD308119と略す。)に記載されている。下記にその記載箇所を示す。なお、下記に記載の各数値は、記載されている頁を表す。
本発明のハロゲン化銀カラー写真感光材料に使用できる公知の写真用添加剤も、上記RDに記載されている。以下に関連のある記載箇所を示す。
本発明に係る感光性層には、種々のカプラーを使用することが出来、その具体例は、上記RDに記載されている。以下に関連のある記載箇所を示す。
【0096】
〔項目〕 〔RD308119の頁〕 〔RD17643〕
イエローカプラー 1001VII−D項 VIIC〜G項
マゼンタカプラー 1001VII−D項 VIIC〜G項
シアンカプラー 1001VII−D項 VIIC〜G項
カラードカプラー 1002VII−G項 VIIG項
DIRカプラー 1001VII−F項 VIIF項
BARカプラー 1002VII−F項
その他の有用残基放出 1001VII−F項
カプラー
アルカリ可溶カプラー 1001VII−E項
上記各添加剤は、RD308119XIVに記載されている分散法などにより、添加することが出来る。
【0097】
本発明に係るハロゲン化銀写真感光材料には、前述RD308119VII−K項に記載されているフィルター層や中間層等の補助層を設けることも出来る。
【0098】
本発明に係るハロゲン化銀写真感光材料は、前述RD308119VII−K項に記載されている順層、逆層、ユニット構成等の様々な層構成をとることが出来る。
【0099】
本発明に係るハロゲン化銀写真感光材料を現像処理するには、例えば、T.H.ジェームズ著、セオリイ オブ ザ ホトグラフィック プロセス第4版(The Theory of The Photographic Process Forth Edition)第291〜334頁及びジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサエティ(Journal of the American Chemical Society)第73巻、No.3、100頁(1951)に記載されている公知の現像剤を使用することができる。またカラー写真感光材料は、前述のRD17643の28〜29頁、RD18716の615頁及びRD308119XIXに記載された通常の方法によって、現像処理することができる。
【0100】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されない。
【0101】
《セルロースエステルフィルムの作製》
〔試料1の作製〕
(コア層用樹脂の調製)
市販のポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.64)を、ポリエステル樹脂Aとして用いた。
【0102】
(表層用樹脂の調製)
異方向回転の2軸スクリュー混練機の第一ホッパーより、ポリエステル樹脂A(固有粘度0.64)のペレットを投入し、ポリエステル樹脂Aを溶融した。次いで、第二ホッパーから平均粒径0.2μmのシリカ粒子を0.05質量%となるように添加し、ポリエチレンテレフタレートが溶融した状態で十分に混練し、シリカ粒子が均一に分散したポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。この時、入り口からは乾燥窒素ガスを流しながら、2ヶ所のベントから20hPaの減圧脱気をおこなった。混練部のバレル温度は280℃であり、混練槽内の滞留時間は10分であった。流出したストランドを冷水で急冷し、細かく裁断して、ペレットとして、ポリエステル樹脂Bを調製した。
【0103】
(製膜)
コア層形成用の上記ポリエステル樹脂Aを150℃で4時間乾燥した後、メイン押出し機上の設置したホッパーから樹脂を押出し機へ供給し、上記調製した表層形成用のポリエステル樹脂Bのペレットを130℃で4時間乾燥した後、2台のサブ押出機に供給し280℃で溶融押出して、40メッシュのフィルターを通過させてから、Tダイ内でコア層の両面を表層が層状に接合するようにして、30℃の冷却ドラム上に静電印加しながら密着させて冷却固化し、3層構成の積層未延伸シートを得た。この未延伸シートをロール式縦延伸機へ導き、90℃で縦方向に3.5倍延伸した。得られた1軸延伸フィルムをテンター式横延伸機を用いて、第1延伸ゾーン100℃で総横延伸倍率の50%延伸し、更に第2延伸ゾーン120℃で総横延伸倍率3.6倍となるように延伸した。次いで、100℃で2秒間熱処理し、更に、第1熱固定ゾーン170℃で5秒間熱固定し、第2熱固定ゾーン210℃で15秒間熱固定した。次いで横方向に5%弛緩処理しながら室温まで30秒かけて徐冷してトータル膜厚120μmで3層構成の2軸延伸ポリエステルフィルムである試料1を得た。この試料1は、コア層(ポリエステル樹脂A)の膜厚が70μm、コア層の両面に設けた各表層の膜厚は、いずれも25μmであった。なお、各ポリエステル層の膜厚調整は、各押出機のギヤポンプ吐出量を調整して行った。フィルムのコア層のポリエステル樹脂の固有粘度(IVc)は0.59、各表層のポリエステル樹脂の固有粘度(IVs)は0.46であった。
【0104】
次いで、上記作製した試料1の両端部をトリミングして、両端に高さ25μm、幅6mmのナーリング加工を施して、各500mずつ、直径170mmのコアに巻き取った。コアに巻いたまま、75℃、48時間の熱処理(アニール)を行った。
【0105】
〔試料2の作製〕
(ポリエステル樹脂C、Dの調製)
撹拌機、添加剤導入口、窒素ガス導入口、真空流出系を備えた反応器にテレフタル酸ジメチルの95質量部、イソフタル酸ジメチルの5質量部、1,4シクロヘキサンジメタノールの77質量部に、酢酸カルシウムの水和物と酢酸マンガンの水和物とをそれぞれテレフタル酸ジメチルとイソフタル酸のモル数の合計に対するモル比で2×10−4相当量添加し、200℃、窒素雰囲気下でエステル交換反応を行った。その後、三酸化アンチモンの0.05質量部、リン酸トリメチルエステルの0.13質量部、酸化防止剤としてイルガノックス1010(登録商標、CIBA−GEIGY社製)の0.4質量部および酢酸ナトリウムの0.04質量部を添加した。次いで、徐々に昇温、減圧にし、280℃、60Paの圧力下で重合を行い、共重合のポリエステル樹脂Cを得た。このポリエステル樹脂Cの固有粘度(IV)は0.95であった。
【0106】
次いで、上記ポリエステル樹脂Bの調製において、ポリエステル樹脂Aに代えて、上記調製したポリエステル樹脂Cを用いた以外は同様にして、シリカ粒子が均一に分散したポリエステル樹脂Dを得た。
【0107】
(製膜)
上記試料1の作製において、コア層としてポリエステル樹脂Aに代えてポリエステル樹脂Cを、またポリエステル樹脂Bに代えてポリエステル樹脂Dを用いた以外は同様にして、試料2を作製した。
【0108】
ただし、製膜各工程の温度は、樹脂の性質、目的とするフィルム物性に合わせて、表1に記載の温度条件とし、アニール処理は温度90℃、48時間行った。試料2におけるコア層のポリエステル樹脂Cの固有粘度(IVc)は0.85、表層のポリエステル樹脂Dの固有粘度(IVs)は0.71であった。
【0109】
〔試料3の作製〕
(ポリエステル樹脂E、Fの調製)
撹拌機、添加剤導入口、窒素ガス導入口、真空流出系を備えた反応器に、テレフタル酸ジメチルの100質量部、エチレングリコールの64質量部に、酢酸カルシウムの水和物と酢酸マンガンの水和物とをそれぞれテレフタル酸ジメチルに対するモル比で2×10−4相当量添加し、常法によりエステル交換反応を行った。得られた生成物に、5−ナトリウムスルホジ(β−ヒドロキシエチル)イソフタル酸のエチレングリコール溶液(濃度35質量%)の32質量部(5.8モル%/全酸成分)、ポリエチレングリコール(数平均分子量1000)の8.4質量部(6.7質量%/ポリマー)、三酸化アンチモンの0.05質量部、リン酸トリメチルエステルの0.13質量部、酸化防止剤としてイルガノックス1010(登録商標、CIBA−GEIGY社製)の0.4質量部および酢酸ナトリウムの0.04質量部を添加した。次いで、徐々に昇温、減圧にし、280℃、0.5mmHgで、攪拌トルクをモニターしながら重合を行い、共重合のポリエステル樹脂Eを得た。このポリエステル樹脂Eの固有粘度(IV)は0.58であった。
【0110】
次いで、前記ポリエステル樹脂Bの調製において、ポリエステル樹脂Aに代えて、上記調製したポリエステル樹脂Eを用いた以外は同様にして、シリカ粒子が均一に分散したポリエステル樹脂Fを得た。
【0111】
(製膜)
前記試料1の作製において、コア層としてポリエステル樹脂Aに代えてポリエステル樹脂Eを、またポリエステル樹脂Bに代えてポリエステル樹脂Fを用いた以外は同様にして、試料3を作製した。
【0112】
ただし、製膜各工程の温度は、樹脂の性質、目的とするフィルム物性に合わせて、表1に記載の温度条件とし、アニール処理は行わなかった。試料3におけるコア層のポリエステル樹脂Eの固有粘度(IVc)は0.55、表層のポリエステル樹脂Fの固有粘度(IVs)は0.45であった。
【0113】
〔試料4の作製〕
(ポリエステル樹脂G、Hの調製)
市販のポリエチレンナフタレート(固有粘度0.62)をポリエステル樹脂Gとし、前記ポリエステル樹脂Bの調製において、ポリエステル樹脂Aに代えて、上記ポリエステル樹脂Gを用いた以外は同様にして、シリカ粒子が均一に分散したポリエステル樹脂Hを得た。
【0114】
(製膜)
前記試料1の作製において、コア層としてポリエステル樹脂Aに代えてポリエステル樹脂Gを、またポリエステル樹脂Bに代えてポリエステル樹脂Hを用いた以外は同様にして、試料4を作製した。
【0115】
試料4におけるコア層のポリエステル樹脂Gの固有粘度(IVc)は0.60、表層のポリエステル樹脂Hの固有粘度(IVs)は0.43であった。
【0116】
〔試料5の作製〕
試料1の作製に用いたポリエステル樹脂Aのみを用いて、試料1と同条件で膜厚120μmのポリエステル樹脂A単層からなる試料5を作製した。なお、試料5の作製においては、アニール処理は行わなかった。
【0117】
〔試料6の作製〕
前記試料1の作製に用いたポリエステル樹脂Aを、ポリエステル樹脂Bの乾燥条件(130℃、4時間)で乾燥し、試料1と同条件で膜厚120μmのポリエステル樹脂A単層からなる試料6を作製した。
【0118】
〔試料7の作製〕
前記試料1の作製において、熱固定温度を220℃に変更した以外は同様にして、積層ポリエステルフィルムである試料7を作製した。
【0119】
〔試料8の作製〕
前記試料1の作製において、ポリエステル樹脂Bの乾燥条件を110℃、4時間に、また熱固定温度を220℃に変更した以外は同様にして、積層ポリエステルフィルムである試料8を作製した。この試料8の表層のポリエステル樹脂の固有粘度(IVs)は0.31であった。
【0120】
《写真感光材料の作製》
上記作製した各試料に、特開2001−33913号公報の実施例11に記載の下引層、バック層及びハロゲン化銀乳剤層を塗布した。ただし、下引層、バック層を乾燥する条件は、75℃を越えないように制御した。この後、135サイズに断裁加工して、ISO規格通りにパフォレーション部の穿孔を行い、135用カートリッジに装填して、135フォーマットのカラーフィルムであるフィルム1〜フィルム8を作製した。
【0121】
【表1】
【0122】
《ポリエステルフィルム及び写真感光材料の評価》
上記作製したポリエステルフィルム及び写真感光材料について、下記の各評価を行った。
【0123】
〔膜厚の測定〕
各試料について、透過型電子顕微鏡(TEM)によるフィルム断面の観察にて行った。具体的には、各試料の小片を、エポキシ樹脂に硬化剤、加速剤を配合した樹脂で覆い硬め、ミクロトームにて厚み200nmの切片を作成し、観察用サンプルとした。得られたサンプルを透過型電子顕微鏡を用いて倍率1万〜10万倍で断面撮影し、粒子を含有した表面側層の厚みを測定した。膜厚測定は50点行い、薄い方から10点、厚い方から10点のデータを除いて、30点平均で算出した。芯層の膜厚は、全体膜厚を、触針式膜厚計を用いて測定し、表面側層の膜厚を全体膜厚から差し引いて求めた。
【0124】
上記測定の結果、試料6、7を除いた各試料は、コア層の膜厚は70μm、各表層の膜厚はそれぞれ25μmであった。また、試料6、7はそれぞれ120μmであった。
【0125】
〔へーズの測定〕
各試料のヘーズは、ASTM−D1003−52に従って測定した。尚、測定は下引層、乳剤層等の機能層の塗設前の各試料(ポリエステルフィルム)について行った。
【0126】
(熱処理後の巻癖カール度の測定)
各フィルムを、35mm(製造時の横方法)×120mm(製造時の縦方向)の帯状に切断し、温度23℃、相対湿度55%の条件下で1日放置した後、直径が10.8mmであるコアに、感光性層塗設面が内側となるように巻き付けた。その後、温度55℃、相対湿度20%の条件下で24時間熱処理を行った。
【0127】
熱処理後、温度23℃、相対湿度55%の条件下で30分かけて放冷した後、コアから解放し、1分経過後に各フィルムの巻癖カール度(m−1)を測定した。
【0128】
(現像処理後の回復カール度の測定)
各フィルムを、35mm(製造時の横方法)×120mm(製造時の縦方向)の帯状に切断し、温度23℃、相対湿度55%の条件下で1日放置した後、直径が10.8mmであるコアに、感光性層塗設面が内側となるように巻き付け、熱処理後の巻癖カール度と同様に熱処理を行った。熱処理後、ミニラボKP50QA(コニカ製)で処理し、出口から排出後、温度23℃、相対湿度55%の条件下で1時間放置した後に、フィルムの中央部のカール度(m−1)を測定した。
【0129】
(ミニラボ切断性の評価)
市販の35サイズカラーネガフィルム(24枚撮り)を、連続1500本カットして、フィルム切断ナイフを摩耗させたミニラボKP50QA(コニカ製)を用いて、35mm幅×1.2mの各フィルムを100本連続してカットし、その破断面を光学顕微鏡を用いて50倍で観察して、切れ味を比較した。バリや劈開、切断できないなど何らかの不良が発生したフィルムの発生本数を数え、不良率を計算し、下記の基準に則りミニラボ切断性の評価を行った。
【0130】
○:不良率が5%以下である
△:不良率が6〜15%である
×:不良率が16%以上である
(脆弱耐性の評価)
135パトローネに装填した各フィルムをパトローネから引き出し、23℃、15%RHの条件下で24時間放置した後、ISO 18907に準拠して、脆弱耐性の評価した。
【0131】
評価は、ひび割れが入るもっとも小さい間隙の長さをmmで表した。また、最小の間隙である2mmでも破断しなかったものは、○とした。
【0132】
以上により得られた結果を、表2に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
表2より明らかなように、本発明で規定する単一組成で、かつ膜厚方向で表面近傍と中心部分でポリエステル樹脂の分子量(固有粘度)が異なる本発明のポリエステルフィルム、あるいはそれを用いた写真感光材料は、比較例に対し、透明性、カール性能が良好で、かつ切断性、脆弱耐性に優れていることが分かる。
【0135】
【発明の効果】
本発明により、裁断性、切断加工適性に優れ、かつ透明性、カール性能、脆弱耐性が良好なポリエステルフィルムとその製造方法、それを用いた写真感光材料及びその製造方法を提供することができた。
Claims (12)
- 実質的に単一組成で、かつ膜厚方向で表面近傍と中心部分でポリエステル樹脂の分子量が異なることを特徴とするポリエステルフィルム。
- ポリエステルである基材の少なくとも一方の面側に、基材と同一組成のポリエステルで、かつ固有粘度(IV)が基材を構成するポリエステルよりも小さい層を設けることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルフィルム。
- 前記基材を構成するポリエステルの固有粘度(IVc)と、少なくとも基材の一方の面側に設ける層のポリエステルの固有粘度(IVs)とが、下式(1)の関係を満足することを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
式(1)
1.1≦IVc/IVs≦1.8 - 前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
- 前記ポリエステルが、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
- 前記ポリエステルが、ポリエチレン−2,6−ナフタレートからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
- 全エステル結合単位に対して、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸成分を1〜15mol%、ポリエステルの質量に対してポリアルキレングリコール成分またはポリアルキレングリコール・ジオキシカルボニルアルキルエーテル成分を1〜10質量%含有するコポリエステルで形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
- 膜厚が105〜130μm、ヘーズが15%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを製造する方法であって、溶融共押出法により、単一組成で分子量の異なるポリエステル樹脂層を積層し、その後、逐次または同時に製膜方向と幅方向の二軸に延伸し、更にその後、基材層の融解温度より30℃低い温度と、融解温度との間の温度で熱処理してロール状に積層することを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。
- フィルム中に、平均粒径が0.05〜1.2μmの不活性微粒子を0.01〜0.4質量%含有し、ロール状に積層した状態で、ポリエステルのガラス転移点以下の温度で0.1〜1000時間熱処理されることを特徴とする請求項9に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの少なくとも一方の面側に感光性層を設けたことを特徴とする写真感光材料。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの少なくとも一方の面側に感光性層を塗設することを特徴とする写真感光材料の製造方法。
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