JP2004306762A - 三軸姿勢制御用推進装置及びその装置を備えた飛行物体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ノズルの数が六である三軸姿勢制御用推進装置4において、これが含むモータケース6の一端に、弁体が回転することによって流路を切り替え可能な弁体回転式の三方向吐出切換弁10と10’とを一ずつ含んだ構成とする。モータケース6に装填されている推薬8を燃焼させて燃焼ガス18を得て、一ないし二のノズルを開放して燃焼ガス18を吐出し、残り五ないし四のノズルは全閉止の動作とする。これにより、ピッチ制御、ロール制御及びヨー制御の三軸姿勢制御並びにニュートラルの選択を行う。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、飛行物体に含まれる五軸姿勢制御用の推進装置のうち、三軸姿勢制御用の推進装置に関する。また本発明は、特には、人工衛星、軌道上作業機、月探査機、惑星探査機、飛しょう体及び打ち上げロケットなどの飛行物体に適する。
【0002】
【従来の技術】
五軸の推進装置によって姿勢制御されながら飛行する飛行物体が知られている。推進装置とは、高圧の流体、特には高温高圧のガスを外部に噴射することを作用とし、その反作用として推力を得る原動機である。代表的な推進装置としては、ロケットエンジンが知られている。
【0003】
この種の飛行物体においては、並進二軸と姿勢制御三軸との計五軸を推進装置によって制御することにより、進行方向制御や姿勢制御を行う。
【0004】
参考までに並進二軸について述べれば、これは一定の大きさを有する飛行物体全体を質点として捉えたときの空間移動の制御を司る軸である。三次元空間における質点が慣性によりx軸方向に進行しているとすれば、残りの二軸、すなわちy軸及びz軸に推力を与えることで、飛行物体の軌道を変更することができる。
これを並進二軸という。
【0005】
ところが、実際の飛行物体は一定の大きさを有するものであり、また、その形状は球以外の形状である。したがって、仮想的な質点、すなわち重心点の位置が同一であっても、異なる姿勢をとり得るものである。姿勢の自由度は、ピッチ、ロール、及びヨーの三つがあり、これを姿勢制御三軸という。
【0006】
この分野の技術として、日本国特許第3291542号に示される技術が知られている。ここには、互いに反対を向いた1対2個のノズルを5対、つまり10個のノズルを含み、最大十の向きに推力を発生させることにより五軸、つまり、二軸の並進と三軸の姿勢制御を行う技術が開示されている。
【0007】
【特許文献】日本国特許第3291542号
【0008】
ここでは、それぞれの対にノズルプラグを設け、一方のノズルから燃焼ガスの全量を噴射するか、あるいは両方のノズルから燃焼ガスを半分ずつ噴射するかをノズルプラグの操作によって選択できる。つまり、二方向吐出切換手段であり、これが5対存在する。
【0009】
10個のノズルのうち、2対4個のノズルは二軸並進に用いられる。残りの3対6個のノズルは三軸姿勢制御に用いられる。ただし、二軸並進に用いられる2対4個のノズルは、本発明の三軸姿勢制御用推進装置とは直接対応しないため、その説明を省略する。そのため、ここには3対6個のノズルが存在するものとして説明を進める。
【0010】
ところが、この技術では特定の方向について推力を発生させたくない場合には、対応するノズル1対2個から半分ずつ燃焼ガスを噴射して推力を打ち消す態様を採用することとなるので、燃焼ガスを利用する効率が低い。そのため、燃焼ガス源である推薬を余計に搭載しなければならない不利、あるいは推薬の搭載量が制限されるならば三軸姿勢制御用推進装置の作動可能な時間が短くなるか、又は推力が小さくなってしまう不利が発生する。なお、この技術における燃焼ガスの噴射の状況は比較例の項目を設け、本発明の実施例との対比によって後述する。
【0011】
ところでこの技術とは別に、6個のノズルを個別に、つまり6個のバルブで開閉する構成も知られている。この構成によれば推薬の無駄な消費を抑えることはできるが、動かすべきバルブの個数が多い分だけ機械の構成が複雑になり、重量増を招きやすいので、一長一短である。
【0012】
また、前記した日本国特許第3291542号に示される技術における流路選択手段であるノズルプラグは往復動式であるため、高温高圧の燃焼ガスの圧力を直接受けている。このため、一方のノズルへ燃焼ガスを全量流しているときはその状態を保持する向きに燃焼ガスの圧力をノズルプラグが受けるので安定する。
しかし、他のモードへの切換、つまり、反対側のノズルへ燃焼ガスを半分流すモードや、反対側のノズルに燃焼ガスを全部流すモードに切換えようとするときに、燃焼ガスの圧力に打ち勝つだけの作動トルクの大きな駆動手段を使用する必要がある。このことは、三軸姿勢制御用推進装置の重量増につながるので不利となる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、姿勢制御時における燃焼ガスを利用する効率の高い三軸姿勢制御用推進装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、燃焼ガスの流路を選択するに際して、作動トルクの小さな駆動手段を以って動作を可能とする三軸姿勢制御用推進装置を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、操作系統などの装置の構成が簡素であって、重量の小さな三軸姿勢制御用推進装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の三軸姿勢制御用推進装置は、ノズルプラグ式の二方向吐出切換手段を三つ含むことに代えて、弁体回転式の三方向吐出切換手段を二つ含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の第一の思想は、圧力発生手段と、前記圧力発生手段の一端に接続した2個の三方向吐出切換手段とを含み、前記2個の三方向吐出切換手段は、前記圧力発生手段の軸を基準として互いに180度の回転対称に位置してなる三軸姿勢制御用推進装置である。
【0016】
この思想に基づく三軸姿勢制御用推進装置によれば、2個の吐出切換手段を備え、6方向へ燃焼ガスを吐出できる構成となる。また、2個の吐出切換手段を連携して操作することにより、燃焼ガスの吐出を制御できる。従来は3個の吐出切換手段を必要としていたので、本発明では吐出切換手段の数が一つ少ないので、その分だけ装置の軽量化を図ることができる。また、従来は3個の吐出切換手段を連携させる操作を必要としていたところ、本発明では2個の吐出切換手段を連携させればよいので、連携の操作が相対的に簡単となる。
【0017】
なお、ここで述べた圧力発生手段の種類は特に限定されるものではない。詳細は実施例の項を設けて後述する。
【0018】
本発明の第二の思想は、第一の思想に加えて、前記2個の三方向吐出切換手段のうち一方が有する3個の吐出口の開口する向きは、(イ)第一の特定角度の向きと、(ロ)前記第一の特定角度よりも反時計回りに90度ずれた向きと、(ハ)前記第一の特定角度よりも時計回りに90度ずれた向きとの3種類であり、前記2個の三方向吐出切換手段のうち他方が有する3個の吐出口の開口する向きは、(ニ)前記第一の特定角度よりも180度ずれた第二の特定角度の向きと、(ホ)前記第二の特定角度よりも時計回りに90度ずれた向きと、(ヘ)前記第二の特定角度よりも反時計回りに90度ずれた向きとの3種類であり、前記(ロ)の向きと前記(ホ)の向きは平行であるを特徴とする三軸姿勢制御用推進装置である。
【0019】
この思想に基づく三軸姿勢制御用推進装置によれば、上下方向ないし左右方向に推力を必要とする際に、三軸姿勢制御用推進装置の作動流体である燃焼ガスや排出ガスのベクトルを無駄なく利用することができる。なお、この部分の詳細な因果関係については後述する。
【0020】
本発明の第三の思想は、第二の思想に加えて、前記(イ)の向きと前記(ニ)の向きは前記圧力発生手段の軸に直交してなり、前記(イ)ないし(ヘ)の向きはいずれも、前記圧力発生手段の軸に直交する一平面内に収まることを特徴とする三軸姿勢制御用推進装置である。
【0021】
この思想に基づく三軸姿勢制御用推進装置によれば、ノズルから噴射される燃焼ガスや排出ガスを三軸姿勢制御のためだけに使用することができ、意図しない方向に推力を発生するような不具合は起こらない。
【0022】
本発明の第四の思想は、第一ないし第三の思想に加えて、前記2個の三方向吐出切換手段はいずれも、弁体が回転される弁体回転式の三方向切換弁であることを特徴とする三軸姿勢制御用推進装置である。
【0023】
この思想に基づく三軸姿勢制御用推進装置によれば、燃焼ガスないし排出ガスの圧力は弁体の全周方向に分散して付与されることとなる。そのため、三方切換弁が特定の位置に押し付けられることがなくなり、噴射方向の変更に要する作動トルクが少なくて済む。
【0024】
本発明の第五の思想は、第四の思想に加えて、前記弁体は、炭素材料で構成されていることを特徴とする三軸姿勢制御用推進装置である。
【0025】
この思想に基づく三軸姿勢制御用推進装置によれば、炭素材料が発揮する自己潤滑性によって、前述した作動トルクはさらに少なくて済む。
【0026】
本発明の第六の思想は、第五の思想に加えて、前記炭素材料は、グラファイトであることを特徴とする三軸姿勢制御用推進装置である。
【0027】
この思想に基づく三軸姿勢制御用推進装置によれば、炭素材料のうちでは比較的に酸化反応速度の低いグラファイトを弁体として採用するので、弁体の耐用時間を長くすることができる。
【0028】
本発明の第七の思想は、第一ないし第六の思想に基づく三軸姿勢制御用推進装置を含んでなる飛行物体である。
【0029】
この思想に基づく飛行物体は、燃焼ガスないし排出ガスの無駄な消費を抑えることのできる姿勢制御装置を含んでなるので、ガス発生源である推薬や液化ガスの搭載量を減らすことができる。減らした分の質量は、飛行物体の軽量化、あるいは飛行物体の他の部品に割り振ることができる。そのため、飛行物体の設計上の自由度を増すことができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
[第一の実施の形態]まず、本発明の三軸姿勢制御用推進装置及びこれを含む飛行物体の第一の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
[構成]図1は、本発明の飛行物体2の全体を示す断面図である。ここでは、紙面上で見て左側が飛行物体2の進行する向きである。飛行物体2は、三軸姿勢制御用推進装置4及び二軸並進用推進装置20を含む。三軸姿勢制御用推進装置4の開口部は飛行物体2の後端に、二軸並進用推進装置20の開口部は飛行物体2の重心付近に、それぞれ配置されている。
【0032】
図2は、飛行物体2のうちでも三軸姿勢制御用推進装置4付近の断面を拡大して示したものである。三軸姿勢制御用推進装置4は、モータケース6と、推薬8と、三方向吐出切換手段である三方向吐出切換弁10及び10’と、ノズルを6個、含んでいる。ただし、図2は断面図につき、紙面上に現れているノズルは、ノズル12aと12a’との2個だけである。ノズルが6個含まれている様子は、図2のA−A断面を示す図3によって後に説明する。三方向吐出切換弁10及び10’はいずれもモータケース6の一端、図1の紙面上において右の端に接続されている。図1及び図2に戻り、飛行物体2の軸と三軸姿勢制御用推進装置4の軸とが一致している様子は図面から理解される。
【0033】
なお、モータケース6とは圧力容器であって、固体の推薬8と図示しない点火装置とを収納するとともに、燃焼室としての機能も兼ね備えた部材である。
【0034】
ここで、三軸姿勢制御用推進装置4は、飛行物体2の重心よりも後方に配置されているものである。この場合の後方とは、飛行物体2の進行方向に対する後方である。三軸姿勢制御用推進装置4を飛行物体2の重心よりも前方に配置する場合にくらべ、排出された燃焼ガスが、飛行物体2そのものに熱的・化学的あるいは流体力学的に錯乱を与えるようなことが少なくなって有利である。
【0035】
図3は、前述の通り、図2のA−A断面を示す模式図である。
【0036】
三方向切換弁には各々、1本の吸入路と3本の吐出路があり、3本の吐出路の先はいずれも飛行物体の外部に向けて開口し、計6個のノズルを形成している。
各々のノズルを区別するに、一方の三方向吐出切換弁10には(イ)ノズル12a、(ロ)ノズル12b、(ハ)ノズル12cが接続されている。他方の三方向吐出切換弁10’には(ニ)ノズル12a’、(ホ)ノズル12b’、(ヘ)ノズル12c’が接続されている。図3は飛行物体2の断面を円で示しており、ノズル12a及び12a’は同円の直径方向かつ互いに逆向きに開口している(仮想線L1−L1)。同円の中心を通って仮想線L1に直交する直径方向を仮想線L2−L2として、仮想線L2を挟んで一定距離ずつだけ離れた平行線である仮想線L3−L3とL3’−L3’を考える。すると、ノズル12b及び12cは仮想線L3−L3上に、ノズル12b’と12c’は仮想線L3’−L3’上に開口していることとなる。
【0037】
前記(イ)ないし(ヘ)は、請求項と図面との対比の便を図って付した記号である。以降は簡潔を旨とし、(イ)ないし(ヘ)の表示は省略する。
【0038】
まず、三方向吐出切換弁10について考えれば、仮想線L1−L1とL3−L3との交点を基準として、ノズル12aの開口方向を正面としたときに、これよりも反時計回りに90度ずれた向きにノズル12bが、時計回りに90度ずれた向きにノズル12cが、それぞれ開口している。一方、三方向吐出切換弁10’について考えれば、今度は仮想線L1−L1とL3’−L3’の交点を基準として、ノズル12a’の開口方向を正面としたときに、これよりも時計回りに90度ずれた向きにノズル12b’が、反時計回りに90度ずれた向きにノズル12c’が、それぞれ開口している。
【0039】
このように、三方向吐出切換弁10と10’とは互いに同一の形状を有していると同時に、仮想線L1−L1と仮想線L2−L2との交点を基準として互いに180度の回転対称に位置しているのである。同交点が飛行物体2の軸を通ることはもちろんである。また、6個のノズル12a、12b、12c、12a’、12b’、12c’は、同交点を含む一の平面内に収まっている。これにより、6個のノズルの少なくとも1箇所から噴射される燃焼ガスのベクトルを、三軸姿勢制御のために有効に利用することができる。
【0040】
変形例としては、前述した6個のノズルをいずれも飛行物体2の斜め後方に向けて開口しておいても良い。このようにすると、後述するピッチ制御、ロール制御、ヨー制御及びニュートラルのいずれにおいても、飛行物体2を正面に進行させるための推力を定常的に発生することができ、たとえば空気抵抗による飛行物体2の速度低下を補うために利用することも可能となる。
【0041】
三方向吐出切換弁10と10’についてはその形式に特に制限はなく、図2や図3による詳細な図示は省略する。ここでは好ましい形式として、孔明き球状や孔明き円筒状の弁体が回転される弁体回転式の三方向吐出切換弁を挙げておく。
図3で示した三方向吐出切換弁10と10’は、孔明き球状の弁体が回転される弁体回転式のものである。O字とX字とを重ねた記号は燃焼ガスが流入する流入路を示す。この流入の向きは、紙面と垂直の向きである。弁体14には内部流路が一本だけ貫通している。ここで、弁体14を図示しない駆動手段によって回転することにより、内部流路の開口方向を紙面上の任意の方向変更することができる。図3では、三方向吐出切換弁10はノズル12aのみを開口しつつ、三方向吐出切換弁10’はいずれのノズルも閉止した状態を例示している。これは、後で説明する図4の(a)に対応する状態である。
【0042】
なお、弁体とは弁の主要部を指す用語である。このことは当業者に良く知られているので、詳細な説明を省略する。
【0043】
いずれにしても、弁体回転式の弁であれば、燃焼ガスの圧力が円筒ないし球の表面に分散して受け止められることとなる。そのため、特定の向きに燃焼ガスの応力が集中することがない。よって、弁体を駆動するための作動トルクを小さくすることができる。
【0044】
この構成であれば、ここでは三方向吐出切換弁を2個だけ含むため、駆動手段も2個だけあればよい。
【0045】
また、三方向吐出切換手段の別の形態として、1個の三方向吐出切換弁に代えて、二方向吐出切換弁を2個だけ組み合わせたものも採用することができる。
【0046】
弁体14の材質にも特に制限はないが、好ましくは炭素材料を用いることができる。これは、炭素材料が固有する自己潤滑性が、弁体14の摺動性の高さ、ひいては飛行物体2の姿勢制御の円滑性の高さとして現れるためである。さらに、弁体14を取り囲む部分と弁体14との間に燃焼滓などの異物が万が一入り込んでも、炭素材料が異物の形に合わせて削られるとともに、その異物がベアリングとして作用するので、特段の障害とはならない、といった効果も奏する。
【0047】
また、さらに好ましくは炭素材料として特にグラファイトを用いることができる。グラファイトは酸素共存下で高温に曝されると赤熱することが知られているが、急激な燃焼は起こりにくいことから、グラファイト以外のものを採用した場合よりも弁体14の耐用時間を長くする傾向が得られる。
【0048】
[作用]この実施の形態では、図示しない点火装置により推薬8の燃焼が始められる。このとき、推薬8が全部消費されるまでの間、一定時間あたりに発生する燃焼ガス18の質量は相対的に300単位であると定義して以降の説明を進める。この単位をSIで表現すれば、キログラム毎秒となる。なお、ここで基準の数字を「300」に定義したのは、説明の便宜上「6で割り切れる数」を意図したためである。
【0049】
三方向吐出切換弁10と10’は前述の通り、同一形状を有しており、モータケース6の軸に対して対称の位置にあることから、流動の条件としても同一となる。そのため、燃焼ガス18は両方の三方向吐出切換弁10と10’とに等しく150単位ずつ到達する。
【0050】
【実施例】
説明の前に、x軸及びy軸の定義を明らかにしておく。図1及び図2で見れば紙面の左右方向を、また、図3で見れば紙面を貫通する方向をx方向とし、x方向のうちで特に飛行物体2の軸をx軸と定義する。y軸とは、前述した仮想線L2−L2のことである。
【0051】
次に、三軸姿勢制御の三軸たる所以を明らかにしておく。第一の軸は、ピッチ制御を司る軸である。ピッチ制御は、飛行物体2の先頭の上がりないし下がりを支配する。第二の軸は、ヨー制御を司る軸である。ヨー制御は、飛行物体2の先頭の右反れないし左反れを支配する。第三の軸は、ロール制御を司る軸である。
ロール制御は、x軸を回転中心として飛行物体2のスピンすなわち時計回りないし半時計回りを支配する。ここで云うところの“上がり”“下がり”“右反れ”“左反れ”“時計回り”“半時計回り”との表現は、いずれも飛行物体2の後方を基準として、飛行物体2の軸の前方を眺める視点に立った場合の定義である。
【0052】
[ピッチ制御]ここでは、飛行物体2の先頭を持ち上げる場合について図3及び図4の(a)を用いて説明する。この場合は、三方向吐出切換弁10’は全閉止状態とする。すると、300単位の燃焼ガスは全部がもう一方の三方向吐出切換弁10に到達する。このとき、三方向切換弁はノズル12aの方向に開口させておく。すると、300単位の燃焼ガス18は図4の(a)(飛行物体2の重心よりも後方の断面)で見て紙面の上向きに排出されるので下向きの推力が発生する。すると、飛行物体2の重心を中心として、飛行物体2の先頭は上向きとなる。
【0053】
この場合、300単位の燃焼ガス18は全部、ピッチ制御のために有効に利用されていることがわかる。なお、燃焼ガス18及びその噴射方向は、図4の全体において模式的に黒塗りの矢印で示した。
【0054】
[ヨー制御]ここでは、飛行物体2の先頭を左に向ける場合について図3及び図4の(b)を用いて説明する。この場合、三方向吐出切換弁10はノズル12bの方向に開口させておき、もう一方の三方向吐出切換弁10’はノズル12b’の方向に開口させておく。すると150単位ずつの燃焼ガスは、図4の(b)で見て紙面の左向きに排出されるので右向きの推力が発生する。すると、飛行物体2の重心を中心として、飛行物体2の先頭は左向きとなる。
【0055】
この場合、ノズル12b及び12b’はその開口する向きが平行であるから、ベクトルの合成としては単純な足し算となり、計300単位の燃焼ガス18は全部、ヨー制御のために有効に利用されていることがわかる。
【0056】
[ロール制御]ここでは、飛行物体2を時計回りに捻る場合について図3及び図4の(c)を用いて説明する。この場合、三方向吐出切換弁10はノズル12bの方向に開口させておき、もう一方の三方向吐出切換弁10’はノズル12c’の方向に開口させておく。すると、150単位ずつの燃焼ガス18は、図4の(c)で見て紙面の左右方向の推力を打ち消しあって保ちつつ、x軸を中心として時計回りに捻られる。
【0057】
この場合の燃焼ガス18の利用効率は二つの三方向吐出切換弁10と10’の位置関係に拠るため一律に規定できない。しかし、図3で見ての仮想線L3−L3と仮想線L3’−L3’との間隔を離しておくほどロール制御の効率が上がる。このことはテコの原理により容易に理解できる。
【0058】
[ニュートラル]ニュートラルとは、前述した3種類の姿勢制御のいずれも行わない状態、すなわち飛行物体2の運動を成り行きに依存させる運転モードである。この状態を、図2及び図3の(d)を用いて説明する。この場合は、三方向吐出切換弁10はノズル12aの方向に開口させておき、三方向吐出切換弁10’はノズル12a’の方向に開口させておく。
【0059】
この場合、150単位ずつの燃焼ガス18は図4の(d)で見て紙面の上下方向の推力を打ち消しあって保つので、見かけ上は推力を全く発生していない状態となり、ニュートラルとなる。
【0060】
[第二の実施の形態]次に、本発明の三軸姿勢制御用推進装置4及びこれを含む飛行物体2の第二の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0061】
図5は、第二の実施の形態による飛行物体2の全体を断面で示した図である。ここでは、三軸姿勢制御用推進装置4と、その反対側の二軸並進用推進装置20とが完全には独立しておらず、連通路22によって接続されている点において、図1で示した第一の実施の形態と異なる。
【0062】
第二の実施形態による飛行物体2の利点は、ニュートラル時に顕著に表れる。
つまり、第一の実施の形態ではニュートラル時といえども三軸姿勢制御用推進装置4としては150単位ずつ反対向きに燃焼ガス18を吐き出さざるを得ない。
もし、燃焼ガス18を全く吐き出させないとすれば、燃焼ガス18は行き場を失ってモータケース6の内部圧力が異常に上昇するからである。しかし、第二の実施の形態によれば、二軸並進制御が行われている限り、三軸姿勢制御用推進装置4の有する2個の三方向吐出切換弁10及び10’をいずれも全閉止することができる。なぜならば、300単位の燃焼ガス18は連通路22を用いて、図5の紙面上で見て左側、すなわち二軸並進用推進装置20側に逃がし、二軸並進用推力の補助として有効に利用することができるからである。
【0063】
[共通]ところで、前述した両実施の形態は、いずれも飛行物体2がx軸方向に進行するための構成は有していない。これは、図示しない加速手段によって前もってx軸方向の速度を与えられて、慣性を利用してx軸方向に進行しているためである。加速手段としてはランチャーや切り離し式ロケットなどがある。
【0064】
本発明の三軸姿勢制御用推進装置4を利用する飛行物体2としては特に制限はない。ただし、人工衛星、軌道上作業機、月探査機、惑星探査機、飛しょう体、打ち上げロケットなどは、特に姿勢制御性能が重視される飛行物体であるので、本発明の利用先として特に好適である。
【0065】
ところで、当明細書では燃焼室を設けた場合、すなわちモータケース6における推薬8の燃焼によって発生させた燃焼ガス18を外部に噴射して姿勢制御用推力源とする場合について一貫して説明してきた。しかし、本発明はこれに限ることなく、燃焼室に代えて蓄圧室を設けた場合、すなわち蓄圧された気体の膨張や、液体の物理的な気化によって発生する気体を外部に噴射して姿勢制御用推力源とする場合も含むことは、もちろんである。この場合、推薬8を用いる場合と異なり、行き場を失ったガス(気体)がモータケース6内の異常な圧力上昇を起こすことはない。そのため、ニュートラルを選択するときに、三軸姿勢制御に用いる六のバルブをすべて全閉止することができるので、同気体の無駄な噴射をせずに済む。
【0066】
ここで述べた燃焼室及び蓄圧室は、いずれも、圧力を発生する圧力発生手段である。本発明に適用する圧力発生手段が、燃焼室及び蓄圧室に限定されないことはもちろんである。ただし、燃焼室及び蓄圧室は、いずれもこの分野において実績のある方式であるから、製造原価の削減や、運用上の信頼性向上を図る意味で、本発明に特に好ましく用いることができるのである。
【0067】
【比較例】
前述した日本国特許第3291452号に示される技術に拠れば、三軸姿勢制御における燃焼ガス68の噴射状況は次のようになる。単位時間あたりに発生する燃焼ガス68の量を300単位として統一すれば、まず、これが100単位ずつ、仮想線L1−L1の上下方向と、仮想線L3−L3の左右方向と、仮想線L3’−L3’の左右方向とに3等分される。ついで、3等分されたこの100単位のガスを片側から全量噴射するか、両側から半分ずつ噴射するかの選択となる。噴射の様子については図6の(a)ないし(d)に、三軸姿勢制御用推進装置54の断面とともに模式的に示す。
【0068】
この技術においては、三方向吐出切換弁を2個だけ含むのではなく、二方向吐出切換弁を3個だけ含む点において本発明のものと相違する。しかし、仮想線L1−L1、L2−L2、L3−L3及びL3’−L3’の位置関係は相違せず、また、計六のノズルの開口する位置関係についても相違がない。そのため、ここでは燃焼ガス68の噴射される向きと量だけに着目して説明を行う。
【0069】
[ピッチ制御]図6の(a)を用いて説明する。この場合は、仮想線L1−L1の上向きに100単位を噴射して有効な推力となし、仮想線L3−L3の方向について左右から50単位ずつを噴射して打消し、仮想線L3’−L3’の方向についても左右から50単位ずつを噴射して打ち消す。すなわち、仮想線L3−L3及びL3’−L3’の方向から噴射される計200単位の燃焼ガス68は無駄に消費される。
【0070】
[ロール制御]図6の(b)を用いて説明する。この場合は、仮想線L1−L1の方向について上下から50単位ずつを噴射して打ち消し、仮想線L3−L3の左向きに100単位を噴射して有効な推力となし、仮想線L3’−L3’の左向きに100単位を噴射して有効な推力となす。すなわち、仮想線L1−L1の方向から噴射される計100単位の燃焼ガス68は無駄に消費される。
【0071】
[ヨー制御]図6の(c)を用いて説明する。この場合は、仮想線L1−L1の方向について上下から50単位ずつを噴射して打ち消し、仮想線L3−L3の左向きに100単位を噴射し、仮想線L3’−L3’の右向きに100単位を噴射する。すなわち、仮想線L1−L1の方向から噴射される計100単位の燃焼ガス68は少なくとも無駄に消費される。
【0072】
[ニュートラル]図6の(d)を用いて説明する。この場合は全方向、すなわち仮想線L1−L1、仮想線L3−L3及び仮想線L3’−L3’の三方向、6種類の向きに開口したノズルから燃焼ガス68を50単位ずつ噴射することにより、見かけ上の推力をゼロとし、ニュートラルを実現している。
【0073】
比較例の技術によれば、三軸姿勢制御のために3対のノズルを駆動すべく、3系統の駆動手段を備える必要がある。つまり、本発明のものよりも1系統余計に駆動手段を備えなければならない分、重量増や、操作系統の複雑化の原因となる。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、燃焼ガスを効率よく利用できる三軸姿勢制御用推進装置を提供することができる。
また、本発明によれば、同駆動手段を駆動するための作動トルクが小さくて済む三軸姿勢制御用推進装置を提供することができる。
さらに、本発明によれば、重量が小さく、かつ操作系統の簡単な三軸姿勢制御用推進装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる第一の実施の形態である三軸姿勢制御用推進装置を含んだ飛行物体の全体を、軸に平行な断面で示す全体断面図である。
【図2】本発明にかかる第一の実施の形態である三軸姿勢制御用推進装置を含んだ飛行物体の一部を、軸に平行な断面で示す部分断面図である。
【図3】本発明にかかる三軸姿勢制御用推進装置を、軸に垂直な断面で示す断面図である。
【図4】本発明にかかる三軸姿勢制御用推進装置の断面をノズル部分について模式的に示すとともに、燃焼ガスの噴射される向きを示した概念図である。
【図5】本発明にかかる第二の実施の形態として示す三軸姿勢制御用推進装置を含んだ、飛行物体の全体を示す断面図である。
【図6】従来から知られている三軸姿勢制御用推進装置の断面をノズル部分について模式的に示すとともに、燃焼ガスの噴射される向きを示した概念図である。
【符号の説明】
2 飛行物体
4 三軸姿勢制御用推進装置
6 モータケース
8 推薬
10 三方向吐出切換弁
10’ 三方向吐出切換弁
12a ノズル
12b ノズル
12c ノズル
12a’ ノズル
12b’ ノズル
12c’ ノズル
14 弁体
18 燃焼ガス
20 二軸並進用推進装置
22 連通路
54 三軸姿勢制御用推進装置
68 燃焼ガス
Claims (7)
- 圧力発生手段と、前記圧力発生手段の一端に接続した2個の三方向吐出切換手段とを含み、前記2個の三方向吐出切換手段は、前記圧力発生手段の軸を基準として互いに180度の回転対称に位置してなる三軸姿勢制御用推進装置。
- 前記2個の三方向吐出切換手段のうち一方が有する3個の吐出口の開口する向きは、
(イ)第一の特定角度の向きと、
(ロ)前記第一の特定角度よりも反時計回りに90度ずれた向きと、
(ハ)前記第一の特定角度よりも時計回りに90度ずれた向きと
の3種類であり、前記2個の三方向吐出切換手段のうち他方が有する3個の吐出口の開口する向きは、
(ニ)前記第一の特定角度よりも180度ずれた第二の特定角度の向きと、
(ホ)前記第二の特定角度よりも時計回りに90度ずれた向きと、
(ヘ)前記第二の特定角度よりも反時計回りに90度ずれた向きと
の3種類であり、前記(ロ)の向きと前記(ホ)の向きは平行であるを特徴とする請求項1に記載の三軸姿勢制御用推進装置。 - 前記(イ)の向きと前記(ニ)の向きは前記圧力発生手段の軸に直交してなり、前記(イ)ないし(ヘ)の向きはいずれも、前記圧力発生手段の軸に直交する一平面内に収まることを特徴とする請求項2に記載の三軸姿勢制御用推進装置。
- 前記2個の三方向吐出切換手段はいずれも、弁体が回転される弁体回転式の三方向切換弁であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載の三軸姿勢制御用推進装置。
- 前記弁体は、炭素材料で構成されていることを特徴とする請求項4に記載の三軸姿勢制御用推進装置。
- 前記炭素材料は、グラファイトであることを特徴とする請求項5に記載の三軸姿勢制御用推進装置。
- 請求項1ないし6のいずれか一に記載の三軸姿勢制御用推進装置を備えた飛行物体。
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Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20061219 |