JP2004300999A - エンジンの燃焼室環境検出装置、燃焼室環境検出方法、及びエンジンの制御装置 - Google Patents

エンジンの燃焼室環境検出装置、燃焼室環境検出方法、及びエンジンの制御装置 Download PDF

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Abstract

【課題】放電実行時期における燃焼室6内の環境を高精度に検出する
【解決手段】圧縮工程中期以降において、火炎核を発生させかつ保持させる相対的に小さいエネルギの先行放電を実行する(i)と共に、先行放電終了から所定時間経過後に、火炎を成長させる相対的に大きいエネルギの主放電を実行する(iii )。先行放電の終了後、主放電の開始前(ii)にイオン電流を計測し、そのイオン電流の特性に基づいて、主放電の実行前における燃焼室内の環境を検出する。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃焼室内に生じたイオン電流を計測することによって、その燃焼室内の環境を検出するエンジンの燃焼室環境検出装置、燃焼室環境検出方法、及びこの燃焼室環境検出装置を備えたエンジンの制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、燃焼室に臨んで配設された点火プラグの放電電極と、この放電電極に接続されたイオン電流検出回路とを利用して、火炎によって生じる燃焼室内のイオン電流を計測し、それによって、例えば空燃比等の燃焼室内の環境を検出することが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平9−317618号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の燃焼室内環境の検出方法では、放電を開始してから、その放電が終了するまでは、放電電流がノイズとなって、燃焼室内に生じたイオン電流を検出することができない。このため、例えば放電開始時期における燃焼室内の環境を検出したいという要求があるが、放電時間が比較的長い(例えばトランジスタ式の点火回路では数msec)ために、放電開始時期から大きく遅れたタイミングでしか燃焼室内の環境を検出することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的とするところは、放電実行時期における燃焼室内の環境を高精度に検出することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のエンジンの燃焼室環境検出装置は、燃焼室内のイオン電流を計測することによって、該燃焼室内の環境を検出する装置である。
【0007】
上記燃焼室環境検出装置は、上記燃焼室内に臨んで配設される放電電極の放電パターンを制御する放電制御手段と、上記放電電極に接続されて、上記燃焼室内に生じたイオン電流を計測するイオン電流計測手段と、上記イオン電流計測手段によって検出されたイオン電流の特性に基づいて、上記燃焼室内の環境を検出する環境検出手段と、を備える。そして、上記放電制御手段は、圧縮行程中期以降において、火炎核を発生させかつ保持させる相対的に小さいエネルギの先行放電を実行すると共に、該先行放電終了から所定時間経過後に、火炎を成長させる相対的に大きいエネルギの主放電を実行し、上記イオン電流計測手段は、上記先行放電の終了後、上記主放電の開始前に、上記燃焼室内に生じたイオン電流を計測し、上記環境検出手段は、上記イオン電流計測手段によって計測されたイオン電流の特性に基づいて、上記主放電の実行前における燃焼室内の環境を検出する。
【0008】
この構成によると、放電制御手段は、圧縮行程中期以降において、主放電を実行する前に先行放電を実行する。これにより、火炎核が生成・保持され、燃焼室内にはイオン電流が生じる。イオン電流計測手段は、上記先行放電の終了後、上記主放電の開始前に、その先行放電によって燃焼室内に生じたイオン電流を計測する。このように、先行放電及び主放電が行われていないときにイオン電流を計測するため、先行放電及び主放電の放電電流を検出することなく、イオン電流のみを正確に計測することが可能になる。
【0009】
そして、環境検出手段は、上記イオン電流計測手段によって計測されたイオン電流の特性に基づいて、上記主放電の実行前における燃焼室内の環境を検出する。ここで、「燃焼室内の環境」には、空燃比や、燃焼室内の流動状態(流速、乱れ強さ、タンブル/スワール比)が含まれる。
【0010】
こうして、主放電の実行前に、その主放電よる火炎の成長に影響を与えない程度の相対的に小さいエネルギの先行放電を行う。このことで、主放電の開始時期における燃焼室内の環境を高精度に検出することが可能になる。また、主放電の実行前に燃焼室内の環境を検出するため、主放電自体は従来と同様に、放電時間を比較的長くすることができ、それにより、燃焼状態を安定化させて、燃費の向上やエミッション特性の向上も図られる。
【0011】
本発明のエンジンの燃焼室環境検出方法は、燃焼室内のイオン電流を計測することによって、該燃焼室内の環境を検出する方法である。
【0012】
この方法は、圧縮行程中期以降において、上記燃焼室内で、火炎核を発生させかつ保持させる相対的に小さいエネルギの先行放電を実行するステップと、上記先行放電終了から所定時間経過後に、上記燃焼室内で、火炎を成長させる相対的に大きいエネルギの主放電を実行するステップと、上記先行放電の終了後、上記主放電の開始前に、上記燃焼室内に生じたイオン電流を計測するステップと、上記計測したイオン電流の特性に基づいて、上記主放電の実行前における燃焼室内の環境を検出するステップとを含む。
【0013】
この構成によって、上述したように、主放電を実行する前に、相対的に小さいエネルギの先行放電を実行することによって、その先行放電終了後、主放電開始前に、放電電流を計測することなくイオン電流のみを計測することが可能になる。その結果、主放電の開始時期における燃焼室内の環境を高精度に検出することが可能になる。
【0014】
本発明のエンジンの制御装置は、上記の燃焼室環境検出装置と、エンジンの運転状態に応じて設定される主放電実行時期及び燃料噴射態様の内の少なくとも一方の補正を行う補正手段と、を備える。そして、上記燃焼室環境検出装置の環境検出手段は、イオン電流の特性に基づいて、主放電の実行前における燃焼室内の空燃比を検出し、上記補正手段は、上記環境検出手段によって検出された空燃比に応じて、上記主放電実行時期及び燃料噴射態様の少なくとも一方の補正を行う。
【0015】
この構成によると、燃焼室環境検出装置の環境検出手段は、主放電の実行前における燃焼室内の環境として空燃比を検出する。補正手段は、その検出された空燃比に応じて、主放電実行時期及び燃料噴射態様の少なくとも一方の補正を行う。
【0016】
燃料噴射態様には、例えば、検出された空燃比がエンジンの運転状態に応じて設定された目標空燃比よりもリーン側であったときには、主放電の実行前に追加の燃料噴射を行うことが含まれる。こうすることで、主放電実行時期における燃焼室内の空燃比を目標空燃比に近づけることが可能になる。また、検出された空燃比がエンジンの運転状態に応じて設定された目標空燃比よりもリッチ側であったときには、次の燃焼サイクルにおける燃料噴射量を減少補正することが含まれる。
【0017】
上述したように上記燃焼室環境検出装置は、主放電の実行前に空燃比を検出することが可能であるため、その空燃比の検出結果を、当該燃焼サイクルに反映させることが可能になる。これにより、各燃焼サイクルの燃焼状態が最適化される。また、空燃比に応じて主放電実行時期及び燃料噴射態様の少なくとも一方の補正を行うことによって、着火安定性を高めることができ、例えば理論空燃比よりも空気の割合が大きいリーン運転を行っているときには、リーン限界を高めることができる。その結果、燃費の向上や、エミッション特性の向上が図られる。
【0018】
また、目標空燃比よりも空燃比がリーン側であるときには、圧縮行程後半の混合気の温度が上昇するためノッキングが発生し易いが、主放電実行前に検出した空燃比が目標空燃比よりもリーン側であったときには、それに応じて主放電実行時期及び燃料噴射態様の少なくとも一方の補正を行えば、ノッキングの発生を未然に防止することも可能になる。
【0019】
本発明の他のエンジン制御装置は、上記の燃焼室環境検出装置と、エンジンの運転状態に応じて設定される主放電実行時期の補正を行う補正手段と、を備える。そして、上記燃焼室環境検出装置の環境検出手段は、イオン電流の特性に基づいて、主放電の実行前における燃焼室内の流動状態を検出し、上記補正手段は、上記環境検出手段によって検出された流動状態に応じて、上記主放電実行時期の補正を行う。
【0020】
この構成によると、燃焼室環境検出装置の環境検出手段は、主放電の実行前における燃焼室内の環境として流動状態を検出する。
【0021】
そして、補正手段は、その検出された流動状態に応じて、主放電実行時期の補正を行う。
【0022】
ここで、流動状態が強いときの一形態として、吸気側から排気側へのタンブル流が強いときには、火炎が排気側に流されてしまって吸気側には広がりにくくなる。その結果、吸気側においてノッキングが発生する虞がある。つまり、上記燃焼室環境検出装置が、主放電の実行前に流動状態を検出することにより、ノッキングの発生を予測することが可能になる。そこで、ノッキング発生の予測結果を当該燃焼サイクルに反映させるべく、その流動状態の検出結果に応じて主放電実行時期を補正する。流動状態によってノッキングの発生が予測されたとには、主放電実行時期をリタードさせればよい。こうすることで、ノッキングの発生が未然に防止される。
【0023】
本発明のさらに他のエンジンの制御装置は、上記の燃焼室環境検出装置と、エンジンの運転状態に応じて主放電実行時期を設定する主放電時期設定手段と、上記主放電時期設定手段によって設定された主放電実行時期の補正を行う主放電時期補正手段と、を備える。そして、上記燃焼室環境検出装置の放電制御手段は、主放電の実行前に、所定の時間間隔を空けて複数回の先行放電を実行し、上記燃焼室環境検出装置のイオン電流計測手段は、上記先行放電毎に上記燃焼室内に生じたイオン電流を計測し、上記燃焼室環境検出装置の環境検出手段は、計測された複数回のイオン電流の特性に基づいて、主放電実行時期における燃焼室内の空燃比を予測し、上記主放電時期補正手段は、上記環境検出手段によって予測された予測空燃比に応じて、上記主放電実行時期の補正を行う。
【0024】
この構成によると、燃焼室環境検出装置の放電制御手段は、主放電の実行前に、先行放電を複数回実行する。これにより、各先行放電終了後、次の先行放電開始前に、放電電流を計測することなく燃焼室内に生じたイオン電流のみを計測することが可能になる。イオン電流計測手段は、その各先行放電終了後に、燃焼室内に生じたイオン電流を計測する。こうして、主放電の実行前に、所定時間毎のイオン電流(燃焼室内の空燃比)が検出される。これにより、空燃比の時間変動が算出でき、環境検出手段は、その空燃比の時間変動に基づいて主放電実行時期における空燃比を予測可能になる。こうして、主放電実行時期における空燃比が予測されれば、主放電時期補正手段は、その予測空燃比に応じて主放電実行時期の補正を行う。
【0025】
これは特に、点火プラグの電極(放電電極)周りに偏在させた混合気を燃焼させる成層燃焼を行っているときに最適な制御である。つまり、成層燃焼運転では、主放電実行時期に、放電電極の周囲に層状に分布する混合気塊を形成する。このため、主放電実行時期における放電電極周りの空燃比(局所空燃比)が、着火安定性には特に重要になる。一方で、主放電実行時期に放電電極近傍の混合気濃度がピークとなるように、圧縮行程中期以降において局所空燃比は大きく変動する。そこで、先行放電を複数回実行することにより局所空燃比の変動を検出し、それによって主放電実行時期の空燃比を予測する。そして、その予測空燃比に応じて主放電実行時期を補正することにより、成層燃焼運転における着火安定性を向上させることができる。その結果、リーン限界を大幅に高めることが実現する。
【0026】
上記エンジンの制御装置においては、エンジンの運転状態に応じて目標空燃比を設定する空燃比設定手段と、上記目標空燃比に応じて設定される燃料噴射態様の補正を行う燃料噴射補正手段と、をさらに備え、上記燃料噴射補正手段は、予測空燃比が目標空燃比よりもリーン側であるときには、主放電の実行前に追加の燃料噴射を実行し、上記予測空燃比が目標空燃比よりもリッチ側であるときには、次の燃焼サイクル以降の燃料噴射量を減少補正してもよい。
【0027】
この構成によると、燃料噴射補正手段は、主放電実行時期における空燃比が、目標空燃比よりもリーン側であることが予測されたときには、追加の燃料噴射を実行する。このことにより、主放電を実行するタイミングでの局所空燃比を目標空燃比に近づけることが可能になり、着火安定性が高まる。一方、主放電実行時期における空燃比が、目標空燃比よりもリッチ側であることが予測されたときには、上記燃料噴射補正手段は、次の燃焼サイクル以降の燃料噴射量を減少補正する。これにより、燃費の向上や、エミッション特性の向上が図られる。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のエンジンの燃焼室環境検出装置及び検出方法によれば、主放電の実行前に先行放電を行い、その先行放電終了後、主放電開始前においてイオン電流を計測するため、イオン電流のみを計測することができ、それによって、主放電の開始時期における燃焼室内の環境を高精度に検出することができる。
【0029】
また、本発明のエンジンの制御装置によれば、主放電実行前における空燃比や流動状態に応じて、主放電の実行時期や燃料噴射態様を補正することにより、着火安定性を高めてリーン限界を高めたり、ノッキングの発生を未然に防止したりすることができる。
【0030】
さらに、本発明のエンジンの制御装置によれば、主放電前に先行放電を複数回実行し、それによってイオン電流を複数回検出することにより、主放電実行時期における空燃比を予測することができ、その予測した空燃比によって主放電実行時期や燃料噴射態様を補正することによって、特に成層燃焼運転における着火安定性を高めることができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明する。ここでは先ず、エンジンの燃焼室環境検出装置について説明し、その後に、この燃焼室環境検出装置を備えたエンジンの制御装置について説明する。
【0032】
−エンジンの燃焼室環境検出装置−
図1は、エンジンの燃焼室環境検出装置Aを示していて、この装置Aは、燃焼室6内に臨んで配設された放電電極としての点火プラグ17と、この点火プラグ17に接続された点火回路18及びイオン電流検出回路19と、これら点火回路18及びイオン電流検出回路19とを制御するECU50とから構成されている。
【0033】
この装置Aにおいて、点火回路18とECU50によって、放電電極の放電パターンを制御する放電制御手段61が構成され、イオン電流検出回路19とECU50によって、燃焼室6内に生じたイオン電流を計測するイオン電流計測回路62が構成される。また、上記ECU50は、上記イオン電流計測手段62によって検出されたイオン電流の特性に基づいて、上記燃焼室6内の環境を検出する上記環境検出手段63をも構成する、
上記点火回路18は、トランジスタ型の点火回路、及びCDI型の点火回路のいずれであってもよが、点火プラグ17における放電エネルギを可変に構成されたものとする。この放電エネルギ可変とは、少なくとも、火炎核を生成させて保持させる一方で火炎は成長させない相対的にエネルギの小さい放電(先行放電)と、火炎を成長させる相対的にエネルギの大きい放電(主放電)との2種類の放電を実現するものであればよい。こうした点火回路18としては、従来公知の回路を用いればよい。
【0034】
また、イオン電流検出回路19は、燃焼室6内に生じたイオン電流を検出する回路であり、従来周知の回路を利用することが可能である。
【0035】
従来、燃焼室内のイオン電流を計測して、この燃焼室内の環境を検出する場合は、図2に示すように、ivの時間範囲において、主放電により成長した火炎によって燃焼室6内に生じたイオン電流を検出していた。つまり、主放電の開始からその主放電が終了するまでのiii の時間範囲では、放電電流が流れているため(同図の一点鎖線参照)、計測される電流(同図の実線参照)には、イオン電流(同図の破線参照)と放電電流とが含まれる。このため、主放電が終了するまではイオン電流のみを計測することができず、これにより、主放電時期から大きく遅れた時期の燃焼室内環境しか検出することができなかった。
【0036】
これに対し、本発明に係るエンジンの燃料室環境検出装置Aは、主放電(主点火)を実行する前に、相対的にエネルギの小さい先行放電(先行点火)を実行して(図2のiの時間範囲参照)、火炎核を生成・保持する。そして、その生成した火炎核によって生じたイオン電流を、先行放電の終了後、主放電の開始前であるiiの時間範囲で計測する。これによって、放電電流を計測することなくイオン電流のみを計測することが可能になり、その計測したイオン電流の特性に基づいて主放電直前の燃焼室6内の環境を検出することができる。
【0037】
ここで、上記燃焼室環境検出装置Aが検出する燃焼室6内の環境とは、具体的には空燃比(特に点火プラグ17近傍の局所空燃比)と、燃焼室6内の流動値と、である。このうち、空燃比は、イオン電流のピーク値(I)によって検出され、流動値は、イオン電流のピーク位置(t)によって検出される。
【0038】
図3は、実験によって得られた、当量比(空燃比)とイオン電流ピーク値Iとの関係を示している。この図によると、理論空燃比(当量比が1)において、イオン電流のピーク値(I)は最大となり、空燃比が理論空燃比よりもリッチになるほど(当量比が小さくなるほど)ピーク値(I)が小さくなり、空燃比が理論空燃比よりもリーンになるほど(当量比が大きくなるほど)ピーク値(I)が小さくなる。この関係からは、一つのピーク値(I)に対して、リッチ側とリーン側との2つの空燃比が得られることになるが、エンジン1がリーン運転であるかリッチ運転であるかが既知であれば、検出したイオン電流のピーク値(I)から空燃比を一義的に検出することが可能になる。
【0039】
つまり、図3において、エンジン1が、理論空燃比よりも空気の割合が大きいリーン運転をしているときには、一点鎖線よりも右側の曲線(実線の曲線)をピーク値−空燃比マップとし、このマップを用いてピーク値(I)から空燃比を検出すればよい(同図の矢印参照)。逆に、エンジン1が、理論空燃比よりも空気の割合が小さいリッチ運転をしているときには、一点鎖線よりも左側の曲線(破線の曲線)をピーク値−空燃比マップとし、このマップを用いて検出したピーク値(I)から空燃比を検出すればよい。尚、イオン電流値と空燃比との間には相関があるため、イオン電流のピーク値(I)でなくても、イオン電流値そのものから空燃比を検出することは可能であるが、ピーク値(I)を利用することによって、計測が容易になるという利点がある。
【0040】
図4は、実験により得られた流動値とイオン電流のピーク位置(t)との関係を示している。これによると、所定の流動値において、イオン電流のピーク位置(t)が最短となる。つまり、この所定の流動値よりも流動状態が強くなるほど、ピーク位置(t)が長くなり、所定の流動値よりも流動状態が弱くなるほど、ピーク位置(t)が長くなる。この曲線からは、一つのピーク位置(t)に対して2つの流動値が得られる。
【0041】
しかしながら、エンジン1の圧縮行程では、ピストンが圧縮上死点(TDC)に向かうに連れて燃焼室6内の容積が小さくなるため、この流動室6内の流動は次第に弱くなる(図4の矢印参照)。本燃焼室環境検出装置Aは、圧縮行程中期以降にイオン電流を計測することから、図4に示す曲線の一点鎖線よりも右側の部分のみをマップとして用いればよい。このマップを用いることによって、検出したイオン電流のピーク位置(t)から燃焼室6内の流動値を一義的に検出することができるようになる(同図の矢印参照)。
【0042】
このように、このエンジンの燃焼室環境検出装置Aでは、先行放電を行うことで、主放電を行う前にイオン電流のみを計測することができ、これによって、主放電の開始時期における燃焼室6内の環境を高精度に検出することができる。
【0043】
−エンジンの制御装置−
図5及び図6は、エンジンの制御装置Bの全体構成を示している。このエンジンの制御装置Bは、上記燃焼室環境検出装置Aを備えていて、この装置Aによって検出した燃焼室6内の環境に応じて、主放電時期及び燃料噴射態様を制御するように構成されている。
【0044】
上記エンジン1は、いわゆる直噴エンジンであり、このエンジン1は、複数の気筒2,2,…(1つのみ図示する)が直列に設けられたシリンダブロック3と、このシリンダブロック3上に配置されたシリンダヘッド4とを有し、各気筒2内にはそれぞれピストン5が往復動可能に嵌挿されていて、そのピストン5の冠面とシリンダヘッド4の下面との間の気筒2内に燃焼室6が区画形成されている。ピストン5の往復動はコネクティングロッド7を介してクランク軸8の回転運動に変替され、このクランク軸8により出力される。
【0045】
また、上記シリンダブロック3には、クランク軸8の一端側においてその回転角度を検出する電磁式のクランク角センサ9と、各気筒2毎の燃焼圧の変動に基づいてノッキングを検出するためのノックセンサ10と、図示しないウオータジャケットの内部に臨んで冷却水の温度(エンジン水温)を検出する水温センサ11とがそれぞれ配設されている。尚、後述するように、燃焼室環境検出装置Aによってノッキングの発生を検出することが可能であるため、上記ノックセンサ10は省略してもよい。
【0046】
上記シリンダヘッド4には、各気筒2毎に燃焼室6の天井面に臨んで開口するように吸気ポート12及び排気ポート13が2つずつ開口していて、その各ポート開口部に吸気及び排気弁14,15が配置されている。これら吸気弁14及び排気弁15は、それぞれシリンダヘッド4の内部に軸支された吸気側及び排気側カム軸(図示せず)によって、上記クランク軸8の回転に同期して開作動されるようになっている。また、吸気側のカム軸には、その回転角度を検出するための電磁式のカム角センサ16が付設されている。また、各気筒2毎に上記シリンダヘッド4を上下方向に貫通し且つ吸排気弁14,15に取り囲まれるようにして、点火プラグ17が配設されている。この点火プラグ17の先端の電極は燃焼室6の天井面から所定距離だけ下方に突出している。また、点火プラグ17の基端部は、ヘッドカバーを貫通するように配設された点火回路18に接続されている。
【0047】
また、燃焼室6の吸気側の周縁部に噴口を臨ませて、インジェクタ(燃料噴射弁)20が配設されている。このインジェクタ20は、例えば、燃焼室6に臨む先端部の噴口から燃料を旋回流として噴出させて、軸心の延びる方向に沿うようにホローコーン状に噴射する公知のスワールインジェクタであり、その燃料噴霧の貫徹力は燃料の噴射圧力が高いほど、大きくなる。尚、インジェクタ20としては上記スワールインジェクタに限らず、例えば、スリットタイプや多噴口タイプのものとしてもよいし、或いは芯弁を圧電素子によって動作させる構成のものを用いてもよい。
【0048】
上記インジェクタ20の基端側は全気筒2,2,…に共通の燃料分配管21に接続されていて、この燃料分配管21により高圧燃料ポンプ22から吐出される燃料が各気筒2毎のインジェクタ20に分配されるようになっている。そして、詳しくは後述するが、インジェクタ20により気筒2の圧縮行程で燃料が噴射されると、この燃料噴霧は燃焼室6内の吸気流動によって点火プラグ17側に輸送されて、該点火プラグ17の電極の周りに混合気塊を形成する。尚、上記燃料分配管21には、インジェクタ20から噴射される燃料の圧力状態(燃料噴射圧)を測定するための燃圧センサ23が配設されていて、この燃圧センサ23からの信号に基づいて、上記高圧燃料ポンプ22のスピル弁の開度が後述のECU50によりフィードバック制御されるようになっている。
【0049】
エンジン1の一側面(図の右側の側面)には、各気筒2毎の吸気ポート12に連通するように吸気通路25が接続されている。この吸気通路25は、エンジン1の燃焼室6に対してエアクリーナ26で濾過した吸気を供給するものであり、その上流側から下流側に向かって順に、エンジン1への吸入空気量を検出するホットワイヤ式エアフローセンサ27と、吸気通路25の断面積を変更する電気式スロットル弁28及びその位置を検出するスロットルセンサ29と、サージタンク30とが配設されている。サージタンク30には、スロットル弁28よりも下流の吸気通路25の圧力を検出するブーストセンサ31が配設されている。
【0050】
上記サージタンク30よりも下流側の吸気通路25は、各気筒2毎に分岐する独立通路とされ、該各独立通路の下流端部はさらに2つに分岐してそれぞれ吸気ポート12に個別に連通する分岐路となっている。この分岐路乃至独立通路には、気筒2内へ流入する吸気の流れを絞って燃焼室6内の吸気流動の強さを調節する絞り弁32(Tunble Swirl Conrol Valve:以下、TSCVという)が配設されていて、例えばステッピングモータ等のアクチュエータによって開閉作動される。このTSCV32の弁体には一部に切り欠きが形成されており、全閉状態ではその切り欠き部のみから下流側に流れる吸気の流速が高くなって、この高速の吸気流がが燃焼室6において強い空気流動を生成する。一方、TSCV32が開かれるに従い、吸気は切り欠き部以外からも流通するようになって、その流速が徐々に低下し、気筒2内の空気流動の強さも徐々に低下するようになる。
【0051】
エンジン1の他側面(図の左側の側面)には、気筒2内の燃焼室6から既燃ガス(排気ガス)を排出するための排気通路34が接続されている。この排気通路34の上流端側は、各気筒2毎の排気ポート13に繋がる排気マニホルド35により構成され、該排気マニホルド35よりも下流側の排気通路34には、排気ガス中の有害成分である炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を浄化するための2つの触媒コンバータ36,37が直列に配設されている。
【0052】
上記上流側の触媒コンバータ36は、詳細は図示しないが、ケーシング内にハニカム構造の担体を収容したもので、この担体の各貫通孔の壁面にいわゆる三元触媒の触媒層が形成されている。この三元触媒(以下、上流側三元触媒36ともいう)は、従来より周知の通り、排気ガスの空燃比状態が略理論空燃比を含む所定の状態にあるときに、HC、CO、NOxを略完全に浄化可能なものである。また、下流側の触媒コンバータ37は、1つのケーシング内に2つの担体を直列に収容し、そのうちの上流側の担体の各貫通孔壁面にいわゆるNOx吸蔵タイプの触媒層を形成して、NOx触媒38を構成するとともに、下流側の担体にも同様にNOx吸蔵タイプの触媒層を形成して、下流側NOx触媒39を構成したものである。
【0053】
上記エンジン1の排気マニホルド35の集合部付近には排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ40(第1の酸素濃度センサ)が配設されており、主にこのセンサ40からの信号に基づいてエンジン1の空燃比フィードバック制御が行われるようになっている。尚、この空燃比フィードバック制御は、本発明に係るエンジンの制御とは異なる制御である。また、上記2つの触媒コンバータ36,37の中間には上流側の三元触媒36の劣化状態を判定するための第2の酸素濃度センサ41と、NOx触媒38へ流入する排気ガスの温度を検出する排気温度センサ42とが配設され、さらに、2つのNOx触媒38,39の中間には第3の酸素濃度センサ43が配設されている。
【0054】
また、上記排気マニホルド35よりも下流側の排気通路34には、そこから分岐するようにして、排気ガスの一部を吸気通路25に還流させる排気還流通路45(以下、EGR通路という)の上流端が連通している。このEGR通路45の下流端は上記サージタンク30の内部に臨んで開口していて、該下流端近傍のEGR通路45にはデューティソレノイド弁からなるEGR弁46が配設されている。このEGR弁46によってEGR通路45における排気の還流量が調節されるようになっている。尚、符号47は、各気筒2の燃焼室6から漏れ出るブローバイガスをサージタンク30まで導くパージ通路である。
【0055】
上述した点火回路18、インジェクタ20、高圧燃料ポンプ22、スロットル弁28、TSCV32等は、いずれもエンジンコントロールユニット50(以下、ECUという)によって作動制御される。一方、このECU50には、少なくとも、上記クランク角センサ9、カム角センサ16、エアフローセンサ27、スロットルセンサ29等からの出力信号がそれぞれ入力され、さらに、アクセルペダルの操作量(以下、アクセル開度という)を検出するアクセル開度センサ51からの出力信号と、エンジン回転速度(クランク軸8の回転速度)を検出する回転速度センサ52からの出力信号とが入力されるようになっている。
【0056】
図6は、エンジンの制御装置Bの制御ブロック図を示しており、この制御装置Bは、上記のECU50に対して、アクセル開度センサ51、回転速度センサ52、クランク角センサ9、エアフローセンサ27、及びイオン電流検出回路19からの信号が入力され、インジェクタ20及び点火回路18に対して、信号が出力されるように構成されている。上記ECU50、点火回路18、イオン電流検出回路19、及び点火プラグ17によって、燃焼室環境検出装置Aが構成されている。
【0057】
次に、上記ECU50によるエンジン1の運転制御の概要について説明する。ECU50は、上述の如く多数のセンサから入力する信号に基づいてエンジン1の運転状態を検出し、例えば図7に示すような制御マップに基づいて、エンジンの燃焼モードを決定する。より具体的には、図示の如くエンジン1の負荷状態とエンジン回転速度とによって規定される温間の全運転領域のうち、低速低負荷側の所定範囲が予め成層燃焼領域(S)とされており、ここでは、インジェクタ20により主に気筒2の圧縮行程で燃料を噴射させ、気筒内の吸気流動を利用して点火プラグ17の電極の周りに成層化させて、燃焼させる(成層燃焼モード)。この成層燃焼モードにおける各気筒2の燃焼室6における平均的な空燃比は理論空燃比よりも大幅にリーンな状態(例えばA/F>30)になる。
【0058】
一方、上記成層燃焼領域(S)以外はいわゆる均一燃焼領域(H)であり、ここでは、インジェクタ20により主に気筒2の吸気行程で燃料を噴射させて、燃焼室6内で吸気と燃料とを十分に混合し、該燃焼室6全体に概ね均一な混合気を形成した上で燃焼させる(均一燃焼モード)。
【0059】
また、均一燃焼領域(H)のうちの大部分の領域では混合気の空燃比を略理論空燃比(A/F≒14.7)とし、特に全負荷付近では理論空燃比よりもリッチな状態(例えばA/F=12〜14)になるように制御する。
【0060】
尚、ここでは、低速低負荷側の所定範囲を成層燃焼領域(S)としているが、この範囲を、理論空燃比よりもリーンな状態(例えばA/F=18〜24)とした均一燃焼領域としてもよい。
【0061】
<実施形態1>
次に、図8のフローチャートを参照しながら、本発明の実施形態1に係るエンジン制御について説明する。
【0062】
ステップS11では、エンジン1の運転状態に応じて、マップを用いて目標空燃比及び目標主放電時期を設定する(設定手段64)。すなわち、図7に示すマップに基づいて、エンジン負荷(目標トルク)とエンジン回転数に応じて運転領域を設定し、それに応じて目標空燃比及び目標主放電時期を設定する。こうして、上述したように、リーン運転では成層燃焼モードとなり、それ以外の非リーン運転では均一燃焼モードとなる。
【0063】
ステップS12では、予め設定されたマップを用いて、所定の噴射時期に、所定の噴射量でインジェクタ20による燃料噴射を実行する。
【0064】
ステップS13では、上記燃焼室環境検出装置Aによる燃焼室内の空燃比検出を行う。これは、図9に示すフローチャートに従って行われる。つまり、上述したように、ステップS21では先行放電を実行し、ステップS22ではその先行放電終了後(主放電実行前)のイオン電流の時間変化を計測する。
【0065】
そして、ステップS23でイオン電流のピーク値(I)を検出し(図2参照)、ステップS24では、図3に示すイオン電流のピーク値−空燃比マップを用いて、検出したピーク値(I)から空燃比を算出する。
【0066】
こうして空燃比を検出すれば、図8のフローに戻り、ステップS14では、上記ステップS11で設定した目標空燃比とステップS13で検出した検出空燃比との偏差を算出する。
【0067】
ステップS15では、その算出した偏差が所定値以下であるか否かを判定する。これは、目標空燃比と検出空燃比とが等しいか否かを判定するものであり、検出誤差を考慮して、偏差が所定値以下であれば、目標空燃比と検出空燃比とが略等しいとし、偏差が所定値よりも大きければ、目標空燃比と検出空燃比とが等しくないとするものである。このステップS15で所定値以下である(目標空燃比と検出空燃比とが略等しい)のYESのときにはステップS16に移行し、所定値以下でない(目標空燃比と検出空燃比とが等しくない)のNOのときにはステップS17に移行する。
【0068】
ステップS16では、検出空燃比が目標空燃比と略等しいことから追加燃料噴射量を0(零)に設定し(追加の燃料噴射を行わない)、ステップS112に移行する。
【0069】
一方、ステップS17では、検出した空燃比は目標空燃比に対してリーン側であるか否かを判定し、リーン側であるのYESのときにはステップS18に移行する一方、リーン側ではない(リッチ側である)のNOのときにはステップS110に移行する。
【0070】
上記ステップS18では、検出空燃比が目標空燃比よりもリーン側であることから、ステップS14で算出した空燃比の偏差量に応じて追加燃料噴射量を設定する(補正手段65)。続くステップS19では、その追加噴射は可能な否かを判定する。これは、ステップS18で設定した追加燃料噴射の量と、目標主放電時期までの残り時間とに基づいて判定すればよい。そして、追加噴射が可能であるのYESのときには、ステップS112に移行する一方、追加噴射が不可能であるのNOのときには、ステップS110に移行する。
【0071】
上記ステップS110では、検出空燃比が目標空燃比よりもリッチ側である、又は追加の燃料噴射が不可能であることから、当該燃焼サイクルでの追加燃料噴射量を0に設定すると共に、次の燃焼サイクルの燃料噴射量を、ステップS14で算出した空燃比の偏差量に応じて補正する。尚、ここで補正した燃料噴射量は、エンジンの運転状態が当該燃焼サイクルと同じである場合に限って適用される。次の燃焼サイクルのときに、エンジンの運転状態が変更されたときには、その運転状態に応じた燃料噴射量が新たに設定される。
【0072】
そして、ステップS111では、ステップS14で算出した空燃比の偏差量に応じて、ステップS11で設定した目標主放電時期の補正を行い(補正手段65)、その後にステップS112に移行する。
【0073】
上記ステップS112では、追加燃料噴射を実行する。ステップS16等で、追加燃料噴射量が0に設定されているときは、追加の燃料噴射は行われない。一方、ステップS18で、追加燃料噴射量が0以外に設定されているときは、その噴射量で追加の燃料噴射が行われる。これにより、空燃比を目標空燃比に近づける。
【0074】
また、ステップS113では、設定されている目標時期で主放電を実行する。つまり、ステップS11で設定した時期、又はステップS111で補正した時期に、主放電を実行する。
【0075】
このように、実施形態1に係るエンジンの制御では、主放電の実行前に、先行放電を行うことによって燃焼室内の空燃比を検出し、その検出した空燃比に応じて、主放電時期の補正又は燃料噴射態様の補正を行う。こうすることで、燃焼サイクル毎に、燃焼状態を最適化させることができる。また、着火安定性を高めることができるため、特に理論空燃比よりも空気の割合の大きいリーン運転を行っているときには、リーン限界を高めることができる。その結果、燃費の向上や、エミッション特性の向上が図られる。
【0076】
さらに、検出した空燃比が目標空燃比よりもリッチ側であったときには、次の燃焼サイクルにおける燃料噴射量が補正されるため、燃費の向上や、エミッション特性の向上が図られる。
【0077】
尚、図10に示すように、先行放電終了後、主放電開始前のiiの時間範囲でイオン電流を計測した後、主放電終了後のivの時間範囲でも、イオン電流を計測することが可能であるため、イオン電流検出回路19によって燃焼室6内のイオン電流を計測するのがよい。このivの時間範囲において、例えば図10に一点鎖線で示すようにイオン電流が計測されなかったときには、失火していると考えられる。このように失火したことを検出したときであって、主放電実行前の空燃比が目標空燃比よりもリーン側であったときには、直ちに追加の燃料噴射を行うと共に、再度の放電を実行することによって、完全失火を防止するようにしてもよい。
【0078】
<実施形態2>
次に、図11のフローチャートを参照しながら、本発明の実施形態2に係るエンジンの制御について説明する。このエンジン制御は、ノッキングの抑制に有効な制御であり、主放電実行前の空燃比及び流動状態に基づいて、ノッキングの発生を予測し、ノッキングの発生が予測されたときには、追加の燃料噴射や、主放電時期の補正(リタード)を行うことによって、ノッキングの発生を未然に防止する制御である。
【0079】
つまり、ノッキングは、空燃比が目標空燃比よりもリーンな状態のとき、及び燃焼室6内の流動状態が比較的強いときに生じ易い。これは、空燃比が目標空燃比よりもリーンな状態のときには、圧縮行程後半の混合気の温度が上昇するためであり、燃焼室6内の流動状態が比較的強いとき、特に吸気側から排気側へのタンブル流が強いときには、火炎が排気側に流されてしまい、吸気側には火炎が広がりにくくなるためである。
【0080】
図11のフローチャートにおいて、ステップS31では、エンジン1の運転状態に応じて、マップを用いて目標空燃比、目標主放電時期、及び目標流動値をそれぞれ設定する(設定手段64)。続くステップS32では、予め設定されたマップを用いて、所定の噴射時期に、所定の噴射量でインジェクタ20による燃料噴射を実行する。
【0081】
ステップS33では、空燃比の検出を行う。これは図9に示すフローに従って行う。続くステップS34では、燃焼室6内の流動値を検出する。これは、図12に示すフローに従って行う。
【0082】
この流動値検出フローにおけるステップS41,ステップS42は、上記空燃比検出フローにおけるステップS21,ステップS22と同じである。つまり、先行放電を行い、それによって生じたイオン電流の時間変化を計測する。このため、上記ステップS33の空燃比の検出ステップにおいて、先行放電の実行とイオン電流の計測とは既に行われているため、実際にはこのステップS41,42は省略される。
【0083】
ステップS43では、計測したイオン電流の時間変化において、そのピーク位置(クランク角度)tを検出する(図2参照)。ステップS44では、図4に示すイオン電流のピーク位置−流動値マップを用いて、検出したピーク位置(t)から流動値を算出する。
【0084】
こうして空燃比及び流動値を検出すれば、図11のステップS35に移行し、このステップでは、ステップS31で設定した目標空燃比と、ステップS33で検出した検出空燃比との偏差を算出する。これと共に、ステップS31で設定した目標流動値と、ステップS34で検出した検出流動値との偏差を算出する。そして、ステップS36では、算出した各偏差は所定値以下であるか否かを判定する。偏差が共に所定値以下であるときにはステップS37に移行する一方、いずれか一方の偏差が所定値よりも大きい、又は偏差が共に所定値よりも大きいときには、ステップS38に移行する。
【0085】
ステップS38では、検出空燃比は目標空燃比よりもリッチ側であるか否かを判定し、リッチ側であるのYESのときにはステップS39に移行する。一方、リッチ側ではないときには、ステップS311に移行する。
【0086】
上記ステップS39では、空燃比がリッチ側である(又は、後述するように追加の燃料噴射が不可能である)ことから、当該燃焼サイクルの追加燃料噴射量を0に設定すると共に、次の燃焼サイクルにおける燃料噴射量を、ステップS35で算出した空燃比の偏差に応じて補正する。具体的には、次の燃焼サイクルでは燃料噴射量が減少補正されることになる。こうして、空燃比の検出結果を、次の燃焼サイクルに反映させる。
【0087】
そして、ステップS310で、ステップS35で算出した空燃比の偏差量に応じて目標主放電時期を補正し、これを目標主放電時期Aとした上でステップS314に移行する(補正手段65)。
【0088】
一方、ステップS311では、ステップS35で算出した空燃比の偏差量に応じて追加燃料噴射量を設定し(補正手段65)、ステップS312で、ステップS311で設定した追加燃料噴射量と、目標主放電時期までの残り時間とに基づいて、追加燃料噴射が可能であるか否かを判定する。追加燃料噴射が可能であるのYESのときには、ステップS313に移行する一方、追加燃料噴射が不可能であるのNOのときには、ステップS39に移行する。
【0089】
上記ステップS313では、ステップS31で設定した目標主放電時期(マップの主放電時期)を目標主放電時期Aに設定し、ステップS314に移行する。つまり、このステップでは、目標主放電時期の補正を行わない。
【0090】
上記ステップS314では、検出流動値は目標流動値よりも大であるか否か(流動が強いか否か)を判定する。流動が強いのYESのときにはステップS315に移行する一方、流動が同程度か又は弱いのNOのときにはステップS316に移行する。
【0091】
上記ステップS315では、流動値が目標流動値よりも大きく、ノッキング発生の虞があることから、ステップS35で算出した流動値の偏差量に応じて、目標主放電時期をリタード側に補正する(補正手段65)。そして、その補正した目標主放電時期を目標主放電時期Bに設定する。
【0092】
一方、ステップS316では、流動値が目標流動値以下であるから、ステップS31で設定した目標主放電時期を目標主放電時期Bに設定する(目標主放電時期の補正を行わない)。
【0093】
続くステップS317では、次の燃焼サイクルにおける目標主放電時期を、ステップS35で算出した流動値の偏差量に応じて補正する。こうして、流動値の検出結果を次の燃焼サイクルに反映させる。
【0094】
ステップS318では、上記ステップS310,313,315,316でそれぞれ設定した目標主放電時期A,Bの平均化処理を行い、それを最終的な目標主放電時期に設定する(補正手段65)。
【0095】
一方、上記ステップS37では、検出空燃比が目標空燃比と略等しくかつ、検出流動値が目標流動値と略等しいため、追加燃料噴射量を0に設定する。
【0096】
そして、ステップS319では、ステップS311で設定した噴射量で追加燃料噴射を実行し、ステップS320では、ステップS31で設定した、又はステップS318で補正した目標時期で、主放電を実行する。
【0097】
このように、実施形態2に係るエンジンの制御では、燃焼室内環境がノッキングが生じやすい環境であることを主放電実行前に検出し、ノッキングが生じやすい環境であるときには、主放電時期の補正や、燃料噴射態様の補正を行う。つまり、空燃比が目標空燃比よりもリーン側であるときには、追加の燃料噴射を行って空燃比を目標空燃比に近づけたり、主放電時期を補正する。また、流動値が目標流動値よりも強いときには、主放電時期をリタードさせる。こうすることにより、ノッキングの発生を未然に防止することができる。
【0098】
尚、実施形態1と同様に、図10に示すように、主放電終了後のivの時間範囲においてイオン電流を計測してもよい。このivの時間範囲において、例えば図10に破線で示すように、イオン電流の変動を検出したときには、ノッキングが発生したと考えられる。このように、ノッキングの発生を検出したときには、次の燃焼サイクルにおける目標空燃比及び目標主放電時期を補正するようにしてもよい。
【0099】
<実施形態3>
次に、図13のフローチャートを参照しながら、本発明の実施形態3に係るエンジン1の制御について説明する。このエンジン制御は、特に成層運転モードのときに効果的な制御であり、目標主放電時期における、点火プラグ17周りの局所空燃比を予測し、その予測した局所空燃比に応じて、主放電時期の補正及び燃料噴射態様を補正する制御である。
【0100】
成層運転モードでは、少なくとも主放電時期において、点火プラグ17周りに所要の濃度状態の混合気が存在しなくてはならないが、点火プラグ17周りの混合気濃度は常に変化していて安定しない。そこで、実施形態3に係るエンジン制御では、主放電の実行前に、点火プラグ17周りの局所空燃比の変動を検出し、それによって、目標主放電時期における局所空燃比を予測する。
【0101】
図13のフローチャートにおけるステップS51では、エンジン1の運転状態に応じて、マップを用いて目標空燃比(点火プラグ17周りの目標局所空燃比としてもよい)及び目標主放電時期を設定する(設定手段64)。ステップS52では、予め設定されたマップを用いて、所定の噴射時期に、所定の噴射量でインジェクタ20による燃料噴射を実行する。
【0102】
続くステップS53では、図9に示すフローチャートに従って行う空燃比の検出を、所定の時間間隔で少なくとも4回実行する。こうすることで、図14に示すように、主放電の実行前に、複数回の先行放電が行われ、その各先行放電の終了後、次の先行放電の開始前に、イオン電流のみを計測することができる。これにより、各計測タイミングにおける局所空燃比(同図の白丸「○」参照)が検出される。
【0103】
ステップS54では、ステップS53で検出した少なくとも4つの検出空燃比によって回帰近似を行い、この回帰近似曲線(近似式)を用いて目標主点火時期における空燃比を予測する(図14の黒丸「●」参照)。
【0104】
そして、ステップS55ではこの予測した空燃比と目標空燃比との偏差を算出し、ステップS56でその空燃比偏差が所定値以下であるか否かを判定する。所定値以下である(予測空燃比と目標空燃比とが略等しい)のYESのときにはステップS57に移行する。一方、ステップS56で所定値以下でない(予測空燃比と目標空燃比とが等しくない)のNOのときにはステップS58に移行する。
【0105】
ステップS57では、予測空燃比が目標空燃比と略等しいことから追加燃料噴射量を0(零)に設定し、ステップS513に移行する。
【0106】
一方、ステップS58では、予測空燃比は、目標空燃比に対してリーン側であるか否かを判定し、リーン側であるのYESのときにはステップS59に移行する。例えば、図14に破線で示すような回帰近似曲線が得られた場合である。一方、リーン側ではない(リッチ側である)のNOのときにはステップS511に移行する。
【0107】
上記ステップS59では、予測空燃比が目標空燃比よりもリーン側であることから、ステップS55で算出した空燃比の偏差量に応じて追加燃料噴射量を設定する。続くステップS510では、ステップS59で設定した追加燃料噴射の量と、目標主放電時期までの残り時間とに基づいて、その追加噴射は可能な否かを判定する。追加噴射が可能であるのYESのときには、ステップS513に移行する一方、追加噴射が不可能であるのNOのときには、ステップS511に移行する。
【0108】
上記ステップS511では、予測空燃比が目標空燃比よりもリッチ側である、又は追加の燃料噴射が不可能であることから、当該燃焼サイクルでの追加燃料噴射量を0に設定すると共に、次の燃焼サイクルの燃料噴射量を、ステップS55で算出した空燃比の偏差量に応じて設定する。
【0109】
そして、ステップS512では、ステップS55で算出した空燃比の偏差量に応じて、ステップS51で設定した目標主放電時期の補正を行い、ステップS513に移行する。
【0110】
上記ステップS513では、ステップS59で設定した噴射量で追加燃料噴射を実行する。これにより、目標主放電時期における局所空燃比を目標空燃比に近づける。また、ステップS514では、ステップS51で設定した、又はステップS512で補正した目標時期で主放電を実行する。
【0111】
このように、実施形態3に係るエンジンの制御では、主放電の実行前に、先行放電を複数回行い、それによって得られた局所空燃比の変動から目標主放電時期における局所空燃比を予測する。そして、その予測した局所空燃比に応じて、主放電時期の補正や、追加の燃料噴射を実行することで、局所空燃比の変動の大きい成層燃焼モードにおいて、着火安定性を高めることができる。その結果、リーン限界を高めることができる。
【0112】
尚、実施形態3に係るエンジンの制御では、先行放電を短い期間内に複数回行うことから、点火回路18としては、放電時間の短いCDI型を用いることが好ましい。
【0113】
また、実施形態3に係るエンジンの制御は、上述したように、成層燃焼モードに適しているが、均一燃焼モード(理論空燃比よりもリーンな状態の均一燃焼モードを含む)においても、このエンジン制御を適用してもよい。均一燃焼モードにおいても、点火プラグ17周りの局所空燃比の変動は、小さいながらも生じる場合があるためであり、均一燃焼モードにおいて実施形態3に係るエンジン制御を適用することによって、各燃焼サイクルの燃焼状態の安定化が図られる。
【0114】
(変形例)
主放電の実行前に先行放電を複数回行うことによって、次のようなエンジン1の制御が可能になる。
【0115】
つまり、主放電の実行前に先行点火を複数回行うことによって、局所空燃比の時間変動が検出できる。少なくとも成層燃焼モードでは、圧縮行程中期以降の局所空燃比は、リーン側からリッチ側に単調に変化する。このため、局所空燃比の時間変動に基づいて、局所空燃比が目標空燃比となるタイミング(クランク角度)を外挿により予測可能である。そこで、局所空燃比が目標空燃比となるタイミングを予測し、その予測したタイミングで主放電を実行する制御を行う。このように、局所空燃比が目標空燃比となるタイミングで主放電を実行することで、着火安定性を向上させることができる。
【0116】
また、主放電の実行前に先行点火を複数回行うことによって、局所空燃比ではなく、流動値の時間変動を検出することができる。流動値は、ピストンが圧縮上死点(TDC)に向かうに連れて次第に小さくなることから、流動値の時間変動に基づいて、流動値が目標流動値(図4参照)となるタイミング(クランク角度)を外挿により予測可能である。そこで、流動値が目標流動値となるタイミングを予測し、その予測したタイミングで主放電を実行する制御を行うようにしてもよい。こうすることで、燃焼状態を安定化させることができる。これは特に、理論空燃比よりもリーンな状態の均一燃焼モードに適した制御である。
【0117】
−他の実施形態−
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の実施形態を包含するものである。すなわち、上記実施形態では、エンジンの制御装置Bを、直噴エンジン1の制御を行うものにしているが、例えばポート噴射のエンジンに上記のエンジン制御装置Bを用いてもよい。但し、ポート噴射では、圧縮行程における追加の燃料噴射は不可能であるから、上記各実施形態の制御フローにおいて追加燃料噴射を行うときには、次の燃焼サイクルにおいて、燃料噴射量の補正を行うようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンジンの燃焼室環境検出装置の全体構成を示す図である。
【図2】放電電流、イオン電流、及び検出電流の時間変化を示す図である。
【図3】イオン電流のピーク値と空燃比との関係を示す図図である。
【図4】イオン電流のピーク位置と流動値との関係を示す図図である。
【図5】直噴エンジンの全体構成を示す図である。
【図6】エンジンの制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】エンジンを成層燃焼状態又は均一燃焼状態とする運転領域をそれぞれ設定した制御マップの一例を示す図である。
【図8】実施形態1に係るエンジンの制御手順を示すフローチャートである。
【図9】空燃比の検出手順を示すフローチャートである。
【図10】イオン電流の時間変化を示す図である。
【図11】実施形態2に係るエンジンの制御手順を示すフローチャートである。
【図12】流動値の検出手順を示すフローチャートである。
【図13】実施形態3に係るエンジンの制御手順を示すフローチャートである。
【図14】先行点火及び主点火のタイミングチャートと、これに対応した局所空燃比の変化を示す図である。
【符号の説明】
1 エンジン
17 点火プラグ(放電電極)
50 ECU
6 燃焼室
61 放電制御手段
62 イオン電流計測手段
63 環境検出手段
64 設定手段
65 補正手段
A エンジンの燃焼室環境検出装置
B エンジンの制御装置

Claims (6)

  1. 燃焼室内のイオン電流を計測することによって、該燃焼室内の環境を検出するエンジンの燃焼室環境検出装置であって、
    上記燃焼室内に臨んで配設される放電電極の放電パターンを制御する放電制御手段と、
    上記放電電極に接続されて、上記燃焼室内に生じたイオン電流を計測するイオン電流計測手段と、
    上記イオン電流計測手段によって検出されたイオン電流の特性に基づいて、上記燃焼室内の環境を検出する環境検出手段と、を備え、
    上記放電制御手段は、圧縮行程中期以降において、火炎核を発生させかつ保持させる相対的に小さいエネルギの先行放電を実行すると共に、該先行放電終了から所定時間経過後に、火炎を成長させる相対的に大きいエネルギの主放電を実行し、
    上記イオン電流計測手段は、上記先行放電の終了後、上記主放電の開始前に、上記燃焼室内に生じたイオン電流を計測し、
    上記環境検出手段は、上記イオン電流計測手段によって計測されたイオン電流の特性に基づいて、上記主放電の実行前における燃焼室内の環境を検出することを特徴とするエンジンの燃焼室環境検出装置。
  2. 燃焼室内のイオン電流を計測することによって、該燃焼室内の環境を検出するエンジンの燃焼室環境検出方法であって、
    圧縮行程中期以降において、上記燃焼室内で、火炎核を発生させかつ保持させる相対的に小さいエネルギの先行放電を実行するステップと、
    上記先行放電終了から所定時間経過後に、上記燃焼室内で、火炎を成長させる相対的に大きいエネルギの主放電を実行するステップと、
    上記先行放電の終了後、上記主放電の開始前に、上記燃焼室内に生じたイオン電流を計測するステップと、
    上記計測したイオン電流の特性に基づいて、上記主放電の実行前における燃焼室内の環境を検出するステップとを含むことを特徴とするエンジンの燃焼状態検出方法。
  3. 請求項1に記載の燃焼室環境検出装置と、
    エンジンの運転状態に応じて設定される主放電実行時期及び燃料噴射態様の内の少なくとも一方の補正を行う補正手段と、を備え、
    上記燃焼室環境検出装置の環境検出手段は、計測されたイオン電流の特性に基づいて、主放電の実行前における燃焼室内の空燃比を検出し、
    上記補正手段は、上記環境検出手段によって検出された空燃比に応じて、上記主放電実行時期及び燃料噴射態様の少なくとも一方の補正を行うことを特徴とするエンジンの制御装置。
  4. 請求項1に記載の燃焼室環境検出装置と、
    エンジンの運転状態に応じて設定される主放電実行時期の補正を行う補正手段と、を備え、
    上記燃焼室環境検出装置の環境検出手段は、計測されたイオン電流の特性に基づいて、主放電の実行前における燃焼室内の流動状態を検出し、
    上記補正手段は、上記環境検出手段によって検出された流動状態に応じて、上記主放電実行時期の補正を行うことを特徴とするエンジンの制御装置。
  5. 請求項1に記載の燃焼室環境検出装置と、
    エンジンの運転状態に応じて主放電実行時期を設定する主放電時期設定手段と、
    上記主放電時期設定手段によって設定された主放電実行時期の補正を行う主放電時期補正手段と、を備え、
    上記燃焼室環境検出装置の放電制御手段は、主放電の実行前に、所定の時間間隔を空けて複数回の先行放電を実行し、
    上記燃焼室環境検出装置のイオン電流計測手段は、上記先行放電毎に上記燃焼室内に生じたイオン電流を計測し、
    上記燃焼室環境検出装置の環境検出手段は、計測された複数回のイオン電流の特性に基づいて、上記主放電実行時期における燃焼室内の空燃比を予測し、
    上記主放電時期補正手段は、上記環境検出手段によって予測された予測空燃比に応じて、上記主放電実行時期の補正を行うことを特徴とするエンジンの制御装置。
  6. 請求項5において、
    エンジンの運転状態に応じて目標空燃比を設定する空燃比設定手段と、
    上記目標空燃比に応じて設定される燃料噴射態様の補正を行う燃料噴射補正手段と、をさらに備え、
    上記燃料噴射補正手段は、予測空燃比が目標空燃比よりもリーン側であるときには、主放電の実行前に追加の燃料噴射を実行し、上記予測空燃比が目標空燃比よりもリッチ側であるときには、次の燃焼サイクル以降の燃料噴射量を減少補正することを特徴とするエンジンの制御装置。
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