JP2004300479A - プラズマcvd法による化学蒸着膜の形成方法 - Google Patents

プラズマcvd法による化学蒸着膜の形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】プラスチック等の基材の表面に、プラズマCVD法により、密着性や柔軟性、可撓性に優れた化学蒸着膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】プラズマ処理室内に処理すべき基材を保持し、該処理室内に有機ケイ素化合物と酸化性ガスとを供給して化学プラズマ処理を行うことにより、基材表面にケイ素酸化物からなる蒸着膜を形成する方法において、プラズマ処理室内の有機ケイ素化合物ガスの供給量を一定とし、蒸着膜を製膜中に酸化性ガスの供給量を変化させることを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の利用分野】
本発明は、プラスチック基材などの基材表面に、プラズマCVD法によりケイ素酸化物からなる蒸着膜を形成する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
化学蒸着法(CVD)は、常温では反応の起こらない原料ガスを用いて、高温雰囲気での気相成長により、基体表面に反応生成物を膜状に析出させる技術であり、半導体の製造、金属やセラミックの表面改質等に広く採用されている技術であり、最近ではプラスチック容器の表面改質、特にガスバリア性の向上にも用いられるようになりつつある。
【0003】
プラズマCVDとは、プラズマを利用して薄膜成長を行うものであり、基本的には、減圧下において原料ガスを含むガスを高電界による電気的エネルギーで放電させ、分解させ、生成する物質を気相中或いは基板上での化学反応を経て、基板上に堆積させるプロセスから成る。
プラズマ状態は、グロー放電によって実現されるものであり、このグロー放電の方式によって、直流グロー放電を利用する方法、高周波グロー放電を利用する方法、マイクロ波グロー放電を利用する方法などが知られている。
【0004】
このようなプラズマCVD法により、プラスチック容器などの基材表面に、ケイ素酸化膜(SiOx)を形成させる方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−255579号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1に記載されている方法は、プラズマ処理室中に有機ケイ素化合物ガスと酸化性ガスとの混合ガスを供給してグロー放電によるプラズマ処理を行ってプラスチック容器の内面にケイ素酸化膜を形成するものであり、プラズマ処理に際して、プラズマ処理室に供給する混合ガス中の有機ケイ素化合物ガス濃度を変化させることを特徴とし、プラズマ処理装置における排気系の軽装備化や製膜時間の短縮を実現できるという利点を有している。
【0007】
そして、上記特許文献1におけるプラズマ処理室に供給する混合ガス中の有機ケイ素化合物ガス濃度を変化させる方法は、有機ケイ素化合物ガス濃度を製膜中に「1.減少させる」か「2.減少・増加を繰り返す」、或いは有機ケイ素化合物ガスの供給自体を製膜中に「3.止める」か「4.止めて再度開始する」か「5.止めて再度開始することを繰り返す」、さらに有機ケイ素化合物ガスの流量及び酸素もしくは酸化力を有するガスの流量を「6.ともに変化させる」ことである。
しかしながら、このような方法で形成される酸化ケイ素膜は、柔軟性や可撓性にかけ、基材に対する密着性に乏しいという問題があった。特に基材がプラスチックである場合には、この傾向が強く、膜破断が生じやすい。すなわち、例えば内面に酸化ケイ素膜を形成したプラスチック容器に熱水をパックして保管した場合に、容器の減圧変形と容器自体の熱による僅かながらの収縮(容器としての実用上の問題は無い程度)によっても膜破断等が生じて所望のガスバリア性やフレーバー性が得られないという問題があった。
また、蒸着膜の重要な構成元素であるケイ素の供給源であるべき有機ケイ素化合物ガス自体の供給量を変化させてしまうこのような方法では、数多くの基材に処理を行った場合にガスバリア性能の安定性に劣るといった問題があった。更に、こうした傾向はより薄膜でありながらもより高性能であるケイ素酸化膜をより短時間のプラズマ処理で得ようとした場合に特に顕著であった。
【0008】
従って、本発明の目的は、プラズマCVD法により、極めて容易に密着性に優れた化学蒸着膜をより安定して基材表面に形成することが可能な方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、プラズマ処理室内に処理すべき基材を保持し、該処理室内に少なくとも有機ケイ素化合物と酸化性ガスとを供給して化学プラズマ処理を行うことにより、基材表面にケイ素酸化物からなる蒸着膜を形成する方法において、蒸着膜を製膜中にプラズマ処理室内に供給される有機ケイ素化合物ガスの供給量は一定とし、酸化性ガスの供給量を変化させることを特徴とするプラズマCVD法による化学蒸着膜の形成方法が提供される。
【0010】
本発明においては、
1.蒸着膜を製膜中に酸化性ガスの供給量を増加、又は増加させた後に減少させること、
2.有機ケイ素化合物ガスのみをプラズマ処理室内に供給する前蒸着と、前蒸着に引き続いて有機ケイ素化合物ガスと共に酸化性ガスをプラズマ処理室内に供給して本蒸着を行うこと、
3.化学プラズマ処理のグロー放電をマイクロ波電界または高周波電界で行うこと、
4.本蒸着工程における化学プラズマ処理を、低出力領域から高出力領域に変化させてグロー放電を行うこと、
5.本蒸着の後、プラズマ処理室内の酸化性ガスの供給を減らすか又は停止する共に、有機ケイ素化合物ガスを一定量供給して蒸着を行う後蒸着を行うこと、
6.前記基材がプラスチック容器であること、
が好適である。
【0010】
【発明の実施形態】
本発明においては、プラズマ処理室内に、常時一定量の有機ケイ素化合物ガスを供給しながらプラズマ処理を行うが、製膜中において、酸化性ガスの供給量を変化させることが重要な特徴である。
具体的には、蒸着膜を製膜中に酸化性ガスの供給量を増加、又は増加させた後に減少させるものであり、より具体的には、一定量の有機ケイ素化合物ガスのみをプラズマ処理室内に供給する前蒸着と、前蒸着に引き続いて有機ケイ素化合物ガスと共に、酸化性ガスをプラズマ処理室内に供給する本蒸着と、本蒸着の後で必要により、前蒸着及び本蒸着と同様に一定量の有機ケイ素化合物ガスをプラズマ処理室内に供給しつつ酸化性ガスの供給を減らすか又は停止する後蒸着によってプラズマ処理を行う。
尚、上述した前蒸着から本蒸着へ移行は引き続いて行われるが、連続或いは逐次のどちらでも良い。
【0011】
一般に、有機ケイ素化合物ガスと酸化性ガスとの混合ガスを供給してのプラズマ処理によるケイ素酸化膜の形成は、次の反応経路を経て進行するものと考えられる。
(a)水素の引き抜き:SiCH→SiCH
(b)酸化:SiCH・→SiOH
(c)縮合:SiOH→SiO
例えば特許文献1に開示されている方法のように、反応ガス中の有機ケイ素化合物ガス濃度を変化させながらプラズマ処理を行ったとしても、有機ケイ素化合物が(c)の段階まで一挙に反応してしまうため、即ち、従来公知のケイ素酸化膜は、可撓性に乏しく、基材との密着性も低いものであった。しかるに、本発明では、プラズマ処理室内に、常時一定量の有機ケイ素化合物ガスを供給しながらプラズマ処理を行うが、製膜途中において酸化性ガスの供給量を変化させる、即ち、製膜初期の前蒸着工程では、一定量の有機ケイ素化合物ガスのみを供給して酸化性ガスは供給されない。そのため、(a)の段階までしか反応が進行せず、この段階で生成したSiCH・ラジカル同士の反応により、柔軟性に優れ、プラスチック等の基材に対して密着性の良好な有機ケイ素重合膜となる。また、引き続いて行う本蒸着工程では酸化性ガスも供給されるために、(c)の段階まで反応が進行し、この結果、有機ケイ素重合膜上にガスバリア性に優れたケイ素酸化膜が形成される。
【0012】
このことから理解されるように、本発明によれば、図1(a)に示すように、プラスチック等の基材1の表面に、前蒸着工程により有機ケイ素重合膜2が形成され、その後に行われる本蒸着工程により、ケイ素酸化膜(SiOx)3が形成される。即ち、ガスバリア性に優れたケイ素酸化膜3は、柔軟性に優れ、基材1に対する密着性が良好な有機ケイ素重合膜2を介して基材1の表面に形成されることとなる。従って、例えばプラスチック容器の内面に本発明によってプラズマ処理膜を形成すれば、ケイ素酸化膜3を直接容器内面に形成した場合に比して、膜破断等が有効に防止され、ケイ素酸化膜3の優れた特性が安定して発現し、優れたガスバリア性を示し、内容物の劣化が抑制され、フレーバー特性を向上させることが可能となるのである。
【0013】
また、上述した本発明によれば、製膜開始時の前蒸着工程において酸化性ガスが供給されないことから、酸化性ガスによる基材1表面のエッチングなどによる変質を有効に回避することができるという付加的な利点も達成される。即ち、酸化性ガスが供給される段階では、基材1表面に有機ケイ素重合膜2が既に形成されているため、酸化性ガスによる基材1表面のエッチング等が有効に防止されることとなる。この結果、例えばプラスチック容器を基材1として用いて本発明方法を適用した場合、フレーバー特性は一層向上するのである。
【0014】
本発明においては、上記の本蒸着工程に引き続いて、必要により後蒸着工程を行うこともできる。後蒸着工程は、本蒸着工程の場合よりも少ない量の酸化性ガスと一定量の有機ケイ素化合物ガスをプラズマ処理室内に供給してプラズマ処理が行われる。このような後蒸着工程を行うことによって、(b)や(c)の段階まで進む有機ケイ素化合物の反応の割合が少なくなり、図1(b)に示されるように、ケイ素酸化膜3上に有機ケイ素重合膜2に近い組成の表面膜4が形成される。この表面膜4は、疎水性に優れているため、このような後蒸着工程の実施により、水蒸気等に対するバリア性もさらに向上させることができる。
【0015】
尚、本発明において、上記で述べたような基材1表面に形成される膜の組成変化は、例えば、X線光電子分光分析によりカーボン量等を検出することにより行うことができる。
【0016】
[基材]
本発明において、プラズマ処理すべき基材としては、ガラス、各種金属等からなるものを使用することもできるが、最も好適には、プラスチック基材が使用される。このようなプラスチックとしては、それ自体公知の熱可塑性樹脂、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、ピロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等のポリオレフィン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフエニレンオキサイド等や、ポリ乳酸など生分解性樹脂、あるいはそれらの混合物のいずれかの樹脂であってもよい。
【0017】
これらの基材は、フィルム乃至シートの形で用いることができるし、またボトル、カップ、チューブ等の容器やその他の成形品の形で使用することができる。特に、ボトルとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルから形成された二軸延伸ブロー成形ボトルが挙げられる。勿論、本発明は上記ポリエステルのカップや二軸延伸フィルムにも同様に適用することができる。
また、プラスチック基材は、前述した熱可塑性樹脂(好ましくはポリエステル系樹脂)を内外層とし、これらの内外層の間に酸素吸収性層を有するガスバリア性の多層構造物であってもよく、このような多層構造物の内層及び/または外層表面に、ケイ素酸化膜等の金属酸化膜を形成することにより、酸素バリア性に加え炭酸ガスや水蒸気等のバリア性及びフレーバー性をも著しく向上させることができる。
【0018】
[有機ケイ素化合物及び酸化性ガス]
本発明において、有機ケイ素化合物としては、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の有機シラン化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等の有機シロキサン化合物等が使用される。また、これらの材料以外にも、アミノシラン、シラザンなどを用いることもできる。これらの有機ケイ素化合物は、単独でも或いは2種以上の組合せでも用いることができる。また、上述した有機ケイ素化合物とともに、シラン(SiH)や四塩化ケイ素を併用することができる。
【0019】
酸化性ガスとしては、酸素やNOxが使用され、キャリヤガスとしては、アルゴンやヘリウムなどが使用される。
【0020】
(プラズマ処理)
本発明においては、上述した有機ケイ素化合物、酸化性ガス及びキャリヤガスを含む雰囲気中で、プラズマ処理室内に保持された基体表面にプラズマCVD法によるプラズマ処理を行って、前述した組成の蒸着膜を形成させる。
【0021】
プラズマ処理に際して、プラズマ処理室は、グロー放電が発生する真空度に保持するべきであり、一般的にいって、製膜時の圧力を1〜200Pa、特に好適には、5〜50Paの範囲に維持し、この状態で、マイクロ波や高周波などを供給してのグロー放電により、以下に述べる前蒸着、本蒸着、及び必要により後蒸着が行われる。
【0022】
−前蒸着工程−
蒸着開始時における前蒸着工程においては、処理すべき基材が保持されたプラズマ処理室に一定量の有機ケイ素化合物ガス(及び必要によりキャリヤガス)が供給される。
有機ケイ素化合物の導入量は、処理すべき基材の表面積や有機ケイ素化合物の種類等によっても相違するが、基材がプラスチック容器の場合には、容器1個当たり、ケイ素原料を標準状態で、0.5〜50cc/min、特に1〜20cc/min(以下単にsccmと記載することがある)の比較的少ない流量で供給するのが望ましい。この流量は、バラツキのない安定な組成の蒸着膜を形成するため、後述する本蒸着工程や後蒸着工程においても変動させず、常に一定流量に設定しておくことが好ましい。
【0023】
また、この前蒸着工程では既に述べた通り酸化性ガスを供給していないことから、グロー放電を発生させる出力によらず有機ケイ素化合物の反応は 水素引き抜き(a)でとどまり、SiCH・ラジカル同士の反応によって有機ケイ素重合膜2が形成される。従って、プラズマ発生のグロー放電はマイクロ波または高周波電界の何れで発生させることもでき、有機ケイ素化合物の反応を行わせるのに必要な出力以上で基材の熱変形等が生じない範囲であれば良く、マイクロ波による場合は、その出力を30W乃至1500Wに、高周波による場合は、チャンバーサイズによっても異なるが、その出力を50W乃至2000Wとする。
【0024】
さらに、この前蒸着工程でのプラズマ処理時間は、処理すべき基体の表面積、形成させる蒸着膜の厚さ及び有機ケイ素化合物の種類等によっても相違し、一概に規定できないが、一例としてプラスチック容器のプラズマ処理について説明すると、容器1個当たり、0.05乃至5秒程度の処理で、0.1乃至10nm程度の厚みの有機ケイ素重合膜2が形成されるようにすることが好ましい。
【0025】
−本蒸着工程−
前蒸着工程に引き続いて行われる本蒸着工程では、一定量の有機ケイ素化合物ガスに加えて酸化性ガス(及び必要によりキャリヤガス)をプラズマ処理室に供給してのグロー放電により、ケイ素酸化膜3を形成する。
この際、酸化性ガスの導入量は、有機ケイ素化合物ガスの種類、処理すべき基材の表面積等によっても相違するが、ケイ素酸化膜が形成される反応が最後の段階(c)まで進むのに必要なだけの量が供給される必要があり、一般に容器1個当たり、5〜500sccm、特に、10〜300sccmの比較的多い流量で供給するのが好ましい。
【0026】
また、この本蒸着工程では、プラズマ発生のグロー放電を低出力領域から高出力領域に変化させながら発生させることが好ましい。即ち、この工程では、有機ケイ素化合物の反応が前蒸着での水素引き抜き(a)に引き続き、水素引き抜き(a)から酸化(b)及び縮合(c)の段階まで一挙に進行させる。このため、初期は低出力領域での放電が好ましく、その後の反応では、グロー放電出力が低いと縮合(c)の段階まで進行するのに時間がかかり、場合によってはSiCH・ラジカル同士の反応による有機ケイ素重合物や縮合(c)の段階まで到達していないSiOHが膜中の一部に形成されてしまい、ケイ素酸化膜3の優れたガスバリア性が低下するおそれがあるために、基材の熱変形等が生じない範囲でより高出力領域での反応を行うことが好ましい。
従って、例えばマイクロ波による場合は、その出力を30W乃至300Wから100W乃至1500Wの範囲と変化させることがよく、高周波による場合は、その出力を50W乃至350Wから150W乃至2000Wの範囲と変化させることがよい。
【0027】
本蒸着工程でのプラズマ処理時間も、処理すべき基体の表面積、形成させる蒸着膜の厚さ及び有機ケイ素化合物の種類等によっても相違し、一概に規定できないが、プラスチック容器のプラズマ処理について説明すると、容器1個当たり、1.5秒以上の処理で、3乃至300nm程度の厚みのケイ素酸化膜3が形成されるようにすることが好ましい。
【0028】
−後蒸着工程−
本蒸着工程の後には、必要により、後蒸着工程が引き続いて行われ、疎水性に優れた表面膜4を形成する。
この後蒸着工程においては、酸化性ガスの供給を減らすか停止して、本蒸着工程の場合よりも少ない量の酸化性ガスと前蒸着工程及び本蒸着工程と同様に、一定量の有機ケイ素化合物ガス(及び必要によりキャリヤガス)が供給されてプラズマ処理が行われる。このため、この工程で形成される表面膜4は、有機ケイ素重合膜2に近い組成であり、優れた疎水性を示し、表面への水分吸着や表面からの水蒸気の侵入が有効に防止される。
従って、この工程において、グロー放電出力は、前蒸着工程と同様の出力範囲に設定されていることが好適である。
後蒸着工程でのプラズマ処理時間も、処理すべき基体の表面積、形成させる蒸着膜の厚さ及び有機ケイ素化合物の種類等によっても相違し、一概に規定できないが、例えばプラスチック容器1個当たり、0.05乃至3秒程度の処理で、0.1乃至6nm程度の厚みの表面膜4が形成されるようにすることが好ましく、特に、基材1表面に形成される膜のトータル厚み(有機ケイ素重合膜2、ケイ素酸化膜3及び表面膜4の合計厚み)が、2乃至500nm、特に5乃至300nmの範囲とすることが好ましい。
【0029】
尚、前蒸着工程から本蒸着工程、さらに本蒸着工程からこの後蒸着工程に移る際の酸化性ガスの供給量を変化させる速度は、適宜設定することができ、例えば、瞬時に或いは徐々に供給量を増大させ或いは減少させるなどの手段を採用することが可能である。
【0030】
また、本発明において、処理すべき基体がプラスチック容器のような立体成形品である場合、プラスチック容器内部及び/または外部について、上述した処理を行うことにより、容器内面及び/または外面に化学蒸着膜を形成させることができる。
【0031】
−処理装置−
上述した本発明方法を実行するためのプラズマ処理装置の構造を、プラスチックボトルの内面にマイクロ波グロー放電によるプラズマ処理を行う場合を例にとって、図2に示した。
【0032】
図2において、全体として10で示すプラズマ処理室は、環状の基台12と、ピン等によって環状の基台12に取り付けられた筒状のチャンバ14と、チャンバ14の上部を閉じている天蓋16とから構成されている。
【0033】
環状の基台12の内側中空部には、やはり環状のボトルホルダー18が設けられており、プラスチックボトル20の口部がボトルホルダー18に保持されており、チャンバ14内でボトル20は倒立状態に保持されている。また、基台12の内側中空部には、ボトル20内を減圧に保持するための排気管22が接続されており、且つ倒立状態に保持されているボトル20の口部上端近傍にマイクロ波閉じ込め用のシールド24が設けられている。
また、基台12には、チャンバ14内(処理室10内)を減圧に保持するための排気管26が設けられている。
さらに、金属製の多孔質管などからなるガス供給管30が環状の基台12の内側中空部からボトル20の内部に挿入されている。即ち、このガス供給管30により、プラズマ処理を行うための反応性ガス、即ち有機ケイ素化合物ガスや酸化性ガス)がボトル20の内部に供給されるようになっている。
【0034】
一方、チャンバ14には、導波管や同軸ケーブル等のマイクロ波伝送部材32が接続されており、所定のマイクロ波発振器からマイクロ波伝送部材32を介してプラズマ処理室10内にマイクロ波が導入されるようになっている。
【0035】
天蓋16には、必要により外気をチャンバ14内に導入するための給気管34が設けられている。
【0036】
上記の装置において、ガス供給管30は、シールド24から先端部までの長さ(ボトル20の口部上端から供給管30の先端までの長さに相当)が、マイクロ波の半波長の整数倍±15mm程度の長さとなるようにボトル内部に挿入され、この範囲で、可及的にボトル20の底部に近いに位置に先端が位置するように設定されていることが好ましい。即ち、マイクロ波との電気的整合性により、マイクロ波導入開始から短期間でプラズマが生成し、所定の被膜を効率よく形成することができる。
【0037】
プラズマ処理に際しては、先ず真空ポンプを駆動しての排気管22からの排気により、ボトル20の内部を真空状態に維持する。この際、ボトル20の外圧による変形を防止するために、ボトル外部のチャンバ14(プラズマ処理室10)内も、排気管26により減圧状態にする。
【0038】
ボトル20内の減圧の程度は、既に述べた通り、ガス供給管30から処理用ガスが導入され且つマイクロ波が導入されてグロー放電が発生するような減圧の程度が高いものである。一方、チャンバ14内(ボトル20の外部)の減圧の程度は、マイクロ波が導入されてもグロー放電が発生しないような減圧の程度である。
【0039】
この減圧状態に達した後、ガス供給管30により、ガスの供給を行いながら、マイクロ波伝送部材32を通してプラズマ処理室10内にマイクロ波を導入し、グロー放電によるプラズマを発生させる。このプラズマ中での電子温度は数万Kであり、ガス粒子の温度は数100Kであるのに比して約2桁高く、熱的に非平衡の状態であり、低温のプラスチック基体に対しても有効にプラズマ処理を行うことができる。
即ち、本発明では、上記のプラズマ処理に際して、有機ケイ素化合物ガスの供給速度を一定に設定しておき、適当な段階で酸化性ガスを有機ケイ素化合物ガスと混合してボトル20内に導入することにより、前蒸着工程、本蒸着工程及び必要により後蒸着工程を連続的に行うことにより、図1(a)或いは図1(b)に示す組成の蒸着膜を形成することができる。
【0040】
上述した蒸着工程が終了した後には、ガス供給管20による処理用ガスの導入及びマイクロ波の導入を停止すると共に、給気管34他を通して冷却空気を徐々に導入して、容器の内外を常圧に復帰させ、プラズマ処理されたボトルをプラズマ処理室10外に取り出し、プラズマ処理されたボトルを得ることができる。
【0041】
【実施例】
本発明の優れた効果を次の実験例で説明する。
1.蒸着ボトルの製造
内容積500mlのポリエチレンテレフタレート製のボトルをプラズマ処理室10(チャンバ14)内に挿入し、真空ポンプにより排気することでボトル内およびボトル外のそれぞれの空間を20Paと3000Paに保ちつつ、表1に示すように、各実験例及びそれぞれの蒸着工程に応じて処理用ガスである有機シロキサン化合物ガス(A)と酸素ガス(B)とを供給し、マイクロ波の照射(出力C)によって化学プラズマ処理を行った。
そして、処理条件の密着性への影響を評価するために、処理後に90℃の熱水を充填して40℃で2週間保管した後の各条件のボトルについて、以下のバリア性評価を行った。
【0042】
2.バリア性評価
(1)酸素バリア性
酸素バリア性については、MOCON社のOXTRANにより37℃50%の条件での酸素透過量を測定した。
0.01CC/ボトル/day以下 → ◎
0.02CC/ボトル/day以下 → ○
0.02CC/ボトル/day以上 → ×(許容限界以下の性能)
【0043】
(2)水蒸気バリア性
水を満中充填した後にアルミキャップを施し、40℃20%の条件で3週間経時したのちの重量減少率を測定した。
0.01g/ボトル/day以下 → ◎
0.02g/ボトル/day以下 → ○
0.02g/ボトル/day以上 → ×(許容限界以下の性能)
【0044】
[実施例1]
表1に示す条件で前,本,後蒸着を行ったところ、何れの評価においても良好な性能を示す蒸着ボトルが得られた。
【0045】
[実施例2]
表1に示す条件で前,本,後蒸着を行ったところ、何れの評価においても良好な性能を示す蒸着ボトルが得られた。
【0046】
[実施例3]
表1に示す条件で前,本蒸着を行ったところ、水分バリア性において実施例1及び実施例2よりは若干劣るものの製品としては十分満足のいく性能を有する蒸着ボトルが得られた。
【0047】
[比較例1]
表1に示すとおり、本蒸着のみを行ったところ、得られたボトルの蒸着膜は満足な密着性が得られていなかったためと思われるが、酸素バリア性・水分バリア性ともに実施例1または2と比較して劣るものであった。さらに、充填した水からはポリエチレンテレフタレートが酸素プラズマに曝されたことに由来したと推察される種類の異味・異臭が感じられた。
【0048】
[比較例2]
表1に示すとおり、前蒸着において有機シロキサン化合物ガスと同量の酸素ガスを僅かながら供給したところ、やはり得られたボトルの蒸着膜は満足な密着性が得られていなかったためと思われるが、酸素バリア性・水分バリア性ともに実施例1または2と比較して劣るものであった。また、比較例1ほどではなかったが、充填した水からはポリエチレンテレフタレートが酸素プラズマに曝されたことに由来したと推察される種類の異味・異臭が感じられた。
【0049】
[比較例3]
表1に示すとおり、実施例2とマイクロ波出力のみが異なる条件で処理を行ったが、それぞれの蒸着工程においてエネルギーが不足したためと考えられるが、何れの評価においても満足のいく性能を得ることが出来なかった。
【0050】
【表1】
Figure 2004300479
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、プラズマCVD法によって、所定の基材表面に、密着性や柔軟性、可撓性に優れたケイ素酸化膜を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によって基材表面に形成される化学蒸着膜の構造例を示す断面図。
【図2】本発明を実施するために好適なマイクロ波プラズマ処理装置の概略配置を示す図。

Claims (7)

  1. プラズマ処理室内に処理すべき基材を保持し、該処理室内に少なくとも有機ケイ素化合物ガスと酸化性ガスとを供給して化学プラズマ処理を行うことにより、基材表面にケイ素酸化物からなる蒸着膜を形成する方法において、蒸着膜を製膜中にプラズマ処理室内に供給される有機ケイ素化合物ガスの供給量は一定とし、酸化性ガスの供給量を変化させることを特徴とするプラズマCVD法による化学蒸着膜の形成方法。
  2. 蒸着膜を製膜中に酸化性ガスの供給量を増加、又は増加させた後に減少させる請求項1に記載のプラズマCVD法による化学蒸着膜の形成方法。
  3. 有機ケイ素化合物ガスのみをプラズマ処理室内に供給する前蒸着と、前蒸着に引き続いて有機ケイ素化合物ガスと共に酸化性ガスをプラズマ処理室内に供給して本蒸着を行う請求項1又は2に記載のプラズマCVD法による化学蒸着膜の形成方法。
  4. 化学プラズマ処理のグロー放電をマイクロ波電界または高周波電界で行う請求項1乃至3の何れかに記載のプラズマCVD法による化学蒸着膜の形成方法。
  5. 本蒸着工程における化学プラズマ処理を、低出力領域から高出力領域に変化させてグロー放電を行う請求項3乃至4の何れかに記載のプラズマCVD法による化学蒸着膜の形成方法。
  6. 本蒸着の後、プラズマ処理室内の酸化性ガスの供給を減らすか又は停止する共に、有機ケイ素化合物ガスを一定量供給して蒸着を行う後蒸着を行う請求項3乃至5の何れかに記載のプラズマCVD法による化学蒸着膜の形成方法。
  7. 前記基材がプラスチック容器である請求項1乃至6の何れかに記載のプラズマCVD法による化学蒸着膜の形成方法。
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