JP2004300338A - 水性インク及び画像形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】医療用の診断画像等にも有効な、インクジェット記録で、2.5以上の透過画像濃度と、高い保存性を達成した画像が得られる水性インクの提供。
【解決手段】光透過媒体に透過濃度が2.5以上の画像を形成することができ、且つ、少なくとも1種の染料と、水と、少なくとも1種の不揮発性の水溶性有機溶剤とを含んでなるインクジェット記録用の水性インクであって、該インクの染料濃度[g/100g]をDとし、且つ、該インク100g中に含まれる上記不揮発性の水溶性有機溶剤の全量に、該インク100g中に含まれる上記染料の全量を溶解させて得られる溶液の染料濃度をD’[g/100g]とした場合に、D、D’が下記式(1)の関係を満たす範囲内にある水性インク。
2.0≧D’/D≧0.6 式(1)
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光透過性の記録媒体(以下、光透過媒体という)に対してインクを印字するインクジェット記録システムに用いられる水性インクに関し、高い透過の画像濃度、及び該画像の高い保存性が要求されるシステムに好適な水性インク及び画像形成方法に関する。例えば、本発明にかかる水性インクは、医療の分野で用いられるレントゲン写真等の診断画像及び参照画像等に好適に利用が可能である。
【0002】
【従来の技術】
近年のインクジェット記録方式の進歩は著しく、高精細の画像が得られるに至っている。かかる高精細の画像は、インクジェットのプリンター、インク及び記録紙、のそれぞれの技術の発展により達成されてきている。例えば、インクジェットプリンターヘッドの進歩によるインク滴の微細化、精密なインク滴の吐出によるインク滴の記録紙への着弾精度の向上、インクの物性及び光学特性の改良によるドットの広がりや形状、色や濃度の改良、更には、記録紙の進歩によるインクのにじみ防止、等によってインクジェットプリント方式の画質は改良されてきている。
【0003】
その中で、画像濃度を高める目的の水性黒色インクに関する発明は数多くあり、例えば、黒色染料の調色や、異なる色調の染料を調色してより高い画像濃度を出す試みがなされている。又、インクの改良以外の方法としては、インクの単位面積あたりの打ち込み量を増やす方法や、記録媒体の透明性を高めることにより画像濃度を向上する方法が取られてきた。
【0004】
一方、医療分野における、レントゲン写真等の診断画像や、その参照画像について、ハードコピーを得る方式としては、現像液による現像工程を含むウェット処理方式による銀塩写真が主流である。しかしながら、ウェット処理方式では現像処理過程で廃液が生じるため、その廃液の回収や減量、更には、その再資源化が課題となっている。そのため、近年では、ウェット処理方式から現像工程が不要であるドライ処理へのニーズの高まりが顕著となり、レーザー露光熱現像方式やサーマルヘッド方式、レーザーヒートモード方式といったドライ処理の方式が急速に普及してきている。この分野では2.5、更には3.0という高い透過の画像濃度が求められ、更には、診断に使用するという性格上、得られた透過画像が劣化を生じることなく、画質が安定に維持されるという高い画像の保存性が要求される。
【0005】
医療分野におけるインクジェット方式を利用した発明としては、例えば、記録媒体上に濃度の異なる二つ以上の黒色インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法に関する発明や(例えば、特許文献1参照)、複数の色材濃度の異なるブラックインクからなる階調表現用インクと、色調を調整するための色調調整用インクを有することを特徴とするインクセット、これを用いた記録方法に関する発明や(例えば、特許文献2参照)、複数のインクをインクジェット法によって記録媒体に付与して複数の階調(tone)を有する画像を上記記録媒体上に形成するインクジェット記録方法で、各々のインクが単独で透光性の画像記録媒体上に、シングルパスでCIELABを測定することによって求まるCが15以下であることを特徴とするインクジェット記録方法に関する発明や(例えば、特許文献3参照)、濃度の異なる黒色インクを複数用いて階調記録を行うインクジェット記録方法で、階調記録に用いられる第1種のインクと、第1種のインクと異なる色材を含有するインクで第1種のインクにより記録媒体に表現可能な最高濃度を更に向上させる第2種のインクとを用いて記録媒体に記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法、これを用いた記録装置に関する発明(例えば、特許文献4参照)、の開示がある。
【0006】
上記した発明は、何れも医療用の診断画像を印刷するシステムにおいて高い画像濃度を課題としている発明であるが、特許文献1においては染料濃度が最も高いインクで1.8という記載があり、医療用の診断画像に要求される十分な画像濃度が得られるとは考え難い。
【0007】
又、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4は、色材として水溶性染料を用いたインクでは、色材の透明性が高いために十分な画像濃度が出難く、顔料のような隠蔽力の高い色材と併用することで医療用の診断画像に耐え得る画像を達成するという発明である。即ち、インク中の染料濃度やインク打ち込み量を極端に高くしないと、この分野で要求される画像濃度には到達せず、インクの吐出信頼性や固着性、或いは記録媒体におけるインクの溢れ等の問題に直面していたものと思われる。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−048502号公報
【特許文献2】
特開平11−061019号公報
【特許文献3】
特開平11−286126号公報
【特許文献4】
特開2000−079708公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、光透過用の記録媒体に対して、高い画像濃度と、画像に対しての高い保存性が要求されるシステム、例えば、医療用の診断画像等に用いるシステムにおいても適応可能な、インクジェット記録によって、2.5以上の高い透過の画像濃度を実現でき、しかも高い保存性を達成した画像が得られる水性インク及び画像形成方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、[1]光透過媒体に透過濃度が2.5以上の画像を形成することができ、且つ、少なくとも1種の染料と、水と、少なくとも1種の不揮発性の水溶性有機溶剤とを含んでなるインクジェット記録用の水性インクであって、該インクの染料濃度[g/100g]をDとし、且つ、該インク100g中に含まれる上記不揮発性の水溶性有機溶剤の全量に、該インク100g中に含まれる上記染料の全量を溶解させて得られる溶液の染料濃度をD’[g/100g]とした場合に、D、D’が下記式(1)の関係を満たす範囲内にあることを特徴とする水性インクである。
2.0≧D’/D≧0.6 (1)
【0011】
又、本発明のより好ましい形態は、[2]光透過媒体に透過濃度が2.5以上の画像を形成することができ、且つ、少なくとも1種の染料と、水と、少なくとも1種の不揮発性の水溶性有機溶剤とを含んでなるインクジェット記録用の水性インクであって、該インクの染料濃度をD[g/100g]とし、且つ、該インク100g中に含まれる上記不揮発性の水溶性有機溶剤の全量に、該インク100g中に含まれる上記染料の全量を溶解させて得られる溶液の染料濃度をD’[g/100g]とした場合に、D、D’が下記式(2)の関係を満たす範囲内にあることを特徴とする水性インクである。
2.0≧D’/D≧1.0 (2)
【0012】
又、本発明にかかる水性インクのより好ましい形態としては、[3]前記不揮発性の水溶性有機溶剤が、グリセリン、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、平均分子量が200〜600のポリエチレングリコール、平均分子量が200〜600のポリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオールから選択される上記[1]又は[2]に記載の水性インクが挙げられる。
【0013】
又、本発明の別の実施形態としては、[4]光透過媒体に、透過濃度が2.5以上の画像を形成する方法であって、少なくとも1種の染料と、水と、少なくとも1種の不揮発性の水溶性有機溶剤とを含んでなるインクジェット記録用の水性インクを滴として光透過媒体に付与する工程を有し、且つ、該工程で使用するインクが、上記[1]〜[3]の何れかに記載の水性インクであることを特徴とする画像形成方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、色材として染料だけを用いたインクの場合においても、用いる色材と水溶性有機溶剤の種類と量をうまく配合することによって、かかる水性染料インクを用いて光透過媒体に画像を形成した場合に、透過の画像濃度を格段に向上させることができるという、従来技術では知られていない効果があることを見いだした。そして、この技術を用いることにより、インクジェット記録に用いた場合に、インクの吐出信頼性や固着性に問題ない程度の染料濃度で、又、光透過媒体におけるインクの溢れ等の問題がないインク打ち込み量で、医療用の診断画像等のような、画像濃度及び画像の保存性に対する要求レベルが極めて高いシステムに用いる場合にも、十分に対応可能な、高い画像濃度と、高い保存性を実現できる透過画像の形成が可能な水性インクの構成を見いだして、本発明を達成した。
【0015】
本発明にかかる水性インクは、少なくとも1種の染料と、水と、少なくとも1種の不揮発性の水溶性有機溶剤とを含んでなるが、以下、これらの成分について説明する。本発明にかかる水性インク中の色材としては、水溶性の染料を用いることが好ましい。水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、反応性染料、塩基性染料の何れも用いることができる。具体的には、下記に挙げるようなものを用いることができるが、これらは、単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。以下、インクの色相毎に例示する。
【0016】
(ブラックインク)
ブラックインクに用いられる染料としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、C.I.ダイレクトブラック19、C.I.ダイレクトブラック22、C.I.ダイレクトブラック31、C.I.ダイレクトブラック32、C.I.ダイレクトブラック51、C.I.ダイレクトブラック62、C.I.ダイレクトブラック71、C.I.ダイレクトブラック74、C.I.ダイレクトブラック112、C.I.ダイレクトブラック113、C.I.ダイレクトブラック154、C.I.ダイレクトブラック168、C.I.アシッドブラック2、C.I.アシッドブラック48、C.I.アシッドブラック110、C.I.リアクティブブラック1、C.I.リアクティブブラック8、C.I.リアクティブブラック12、C.I.リアクティブブラック13、C.I.フードブラック1、C.I.フードブラック2等が挙げられる。
【0017】
(イエローインク)
イエローインクに用いられる染料としては、例えば、C.I.アシッドイエロー11、C.I.アシッドイエロー17、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー25、C.I.アシッドイエロー29、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドイエロー49、C.I.アシッドイエロー61、C.I.アシッドイエロー71、C.I.ダイレクトイエロー12、C.I.ダイレクトイエロー24、C.I.ダイレクトイエロー26、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー87、C.I.ダイレクトイエロー98、C.I.ダイレクトイエロー100、C.I.ダイレクトイエロー130、C.I.ダイレクトイエロー132、C.I.ダイレクトイエロー142等が挙げられる。
【0018】
(マゼンタインク)
マゼンタインクに用いられる染料としては、例えば、C.I.アシッドレッド1、C.I.アシッドレッド6、C.I.アシッドレッド8、C.I.アシッドレッド32、C.I.アシッドレッド35、C.I.アシッドレッド37、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド80、C.I.アシッドレッド85、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド94、C.I.アシッドレッド115、C.I.アシッドレッド254、C.I.アシッドレッド289、C.I.ダイレクトレッド1、C.I.ダイレクトレッド4、C.I.ダイレクトレッド13、C.I.ダイレクトレッド17、C.I.ダイレクトレッド23、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトレッド31、C.I.ダイレクトレッド62、C.I.ダイレクトレッド79、C.I.ダイレクトレッド81、C.I.ダイレクトレッド83、C.I.ダイレクトレッド89、C.I.ダイレクトレッド227、C.I.ダイレクトレッド240、C.I.ダイレクトレッド242、C.I.ダイレクトレッド243等が挙げられる。
【0019】
(シアンインク)
シアンインクに用いられる染料としては、例えば、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー40、C.I.アシッドブルー59、C.I.アシッドブルー93、C.I.アシッドブルー102、C.I.アシッドブルー104、C.I.アシッドブルー113、C.I.アシッドブルー117、C.I.アシッドブルー120、C.I.ダイレクトブルー6、C.I.ダイレクトブルー22、C.I.ダイレクトブルー25、C.I.ダイレクトブルー71、C.I.ダイレクトブルー78、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー106、C.I.ダイレクトブルー199等が挙げられる。又、カラーインデックスに記載のないものでも、水溶性染料であれば使用することができる。
【0020】
(ブラックインク)
本発明にかかる水性インクを構成する染料に使用することが可能な、カラーインデックスに記載のないブラック染料の具体例としては、例えば、下記の例示化合物1〜10が挙げられる。
【0021】
Figure 2004300338
【0022】
Figure 2004300338
【0023】
インク中におけるこれらの色材量としては、医療用の診断画像等に適用する目的でも十分な画像濃度を発揮できるようにするために、質量基準で、インク中に3%以上、更には3.5%以上含有させることが好ましい。これ以下では、十分な画像濃度を容易に得ることが難しくなる。一方、インク中における色材の含有量を10%以上とすると、インクジェット記録に用いた場合におけるインクの吐出性や固着性の点で、あまり好ましくない。
【0024】
本発明にかかるインクは、先に述べた本発明の効果を得る目的で、上記した染料とともに、少なくとも1種の不揮発性の水溶性有機溶剤を含んでなる。ここで、本発明でいう不揮発性の水溶性有機溶剤とは、下記の方法によって分類されたもののことである。先ず、温度25℃、湿度50%R.H.環境下でパイレックス(登録商標)ガラス製のJIS R3503準拠のビーカー100mlに、対象とする水溶性有機溶剤を5g入れ、温度60℃、湿度5%以下の環境下に15日間放置して該水溶性有機溶剤を蒸発させる。そして、再び温度25℃、湿度50%R.H.環境下に蒸発した水溶性有機溶剤が残留しているビーカーを戻し、2時間放置後、同環境下で重量を測定して重量蒸発率を算出する。本発明では、上記の方法で得られる重量蒸発率が20%未満であるものを、不揮発性の水溶性有機溶剤(以下、不揮発性溶剤という)と定義する。
【0025】
上記のようにして分類された不揮発性溶剤の具体例としては、グリセリン、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600等の平均分子量が200〜600程度のポリエチレングリコール、平均分子量が200〜600のポリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール等が挙げられる。
【0026】
本発明にかかるインクは、上記に挙げたような不揮発性溶剤を少なくとも1種含んでなるが、更に、該溶剤のインク中における含有量を、使用する染料の種類及び含有量との兼ね合いで、下記の方法で決定してインクを構成する。即ち、インク中の染料濃度[g/インク100g]をDとし、且つ、該インク100g中に含まれる上記不揮発性溶剤の全量に、該インク100g中に含有させる染料の全量を溶解させて得られる溶液の染料濃度をD’[g/溶液100g]とした場合に、D、D’が下記式(1)の関係を満足する範囲内となるように、更に好ましくは、下記式(2)を満たすように、用いる不揮発性溶剤の種類と含有量とを決定する。
2.0≧D’/D≧0.6 (1)
2.0≧D’/D≧1.0 (2)
【0027】
本発明者らの検討によれば、水性インクを構成する染料の種類及び染料濃度に対する、インク中の不揮発性溶剤の種類及び含有量を、上記式(1)、より好ましくは上記式(2)の関係を満たすように適宜に決定してインクを調製することで、医療分野においてインクジェット記録を用いる場合に求められる、医療用の診断画像等に要求される2.5以上という高い透過画像濃度で、しかも高い画像の保存性を実現できる、という高い要求を達成することができるインクが得られる。これに対して、上記D’/D値が0.6よりも小さいインク、換言すれば、インク中の染料の含有量に対して、インク中の不揮発性溶剤に溶解している染料の量が少ないインクの場合には、2.5以上という医療分野で要求される高い透過画像濃度を達成することが極めて困難となる。
【0028】
上記の現象についての詳細は明らかではないが、インク中の不揮発性溶剤に、インク中の染料をある程度の濃度以上の割合で溶解させた形態としたことで、染料分子の会合が解け、染料分子が本来持つ着色力が最大限に発揮させることが可能になったものと思われる。その結果として、光透過媒体における透過画像濃度が高まっていると推測する。更には、光透過媒体にインクを付与して画像形成を行なった場合に、インクの水や揮発性の水溶性有機溶剤等が蒸発しても不揮発性溶剤は蒸発することはないが、本発明にかかる水性インクでは、インク中の染料が、ある程度の濃度以上でインク中の不揮発性溶剤に溶解する構成となっているため、光透過媒体中に、染料とともに不揮発性溶剤が定着することになり、染料が分子として存在している状態が保たれる。このため、画像濃度や色調の変化が比較的少なく、画像の保存性という点でも好ましい透過画像が得られたものと考えられる。
【0029】
透過画像濃度を高めるという点では、例えば、インク中にジエチレングリコールやプロピレングリコールといった比較的揮発しやすい水溶性有機溶剤を含有させたり、或いは、尿素、エチレン尿素、糖類といった固体系の保湿剤を含有させることでも高めることは可能である。しかしながら、本発明者らの検討によれば、この場合には、印字物を長期間放置しておくと、経時で濃度が低下したり、色調が変化してしまうことがあり、上記した方法だけでは画像の保存性という点で十分な透過画像を得ることはできなかった。
【0030】
又、調製したインクが、前記したD’/Dの値が2.0よりも大きい水性染料インク、換言すれば、インク中の染料の含有量に対して、インク中の不揮発性溶剤に溶解している染料の量が多いインクの場合には、該インクを用いて光透過媒体に画像を記録すると、該画像を保存した際に、不揮発性溶剤に溶解した染料が湿度の影響によって光透過媒体中を移動し、画像ににじみが生じてしまう場合があり、画像の保存性の点で好ましくない。
【0031】
更に、本発明かかる水性インクは、上記不揮発性溶剤以外に、インクジェット記録用インクとするために必要となる、ノズルの目詰まり防止や吐出信頼性の点から、前記の方法で不揮発性溶剤に分類されない、下記に挙げるような水溶性有機溶剤を、他の構成成分として適宜に含有させることが好ましい。
【0032】
具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0033】
これらの水溶性有機溶剤は、本発明にかかる水性インクを調製する場合に、前記した不揮発性溶剤とともに混合して使用すればよい。又、本発明にかかる水性インクには、尿素、エチレン尿素、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンといった固体系の保湿剤も含有させてもよい。本発明にかかる水性インクはインクジェット記録用であるので、ノズルの目詰まりや吐出性の観点から、インク中における好ましい有機溶剤量としては、前記した不揮発性溶剤も含めて、質量基準で、10〜50%、更には15〜35%程度とすることが好ましい。
【0034】
本発明にかかる水性インクは、水を含有してなるが、水としては脱イオン水を使用することが望ましい。又、インクに含有される水の含有量は、質量基準で、インク全量に対して、好ましくは50〜95%の範囲とする。更に、本発明にかかる水性インクは、上記の成分の他に必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加することもできる。
【0035】
上記した構成を有する本発明にかかる水性インクは、インクジェット記録方式で医療用の診断画像や参照画像を印刷する際に好適に用いることができるが、その場合に、本発明にかかる水性インクを最も色材濃度の高いインクとして用い、これを含めた、同一の色相で色材濃度が異なる3種以上の濃淡インクの組み合わせを用いることが好ましい。このような構成の濃淡インクの組み合わせを用いて、光透過媒体にインクジェット記録することによって、高い透過画像濃度を有し、しかも高階調性で、画像の保存性にも優れる、医療分野における診断画像や参照画像としても利用可能な、透過画像を得ることが可能となる。
【0036】
その際に用いる同一の色相で色材濃度が異なる3種以上の濃淡インクを調製する場合には、各インクの染料濃度を決定する場合に、これらのインクを用いて光透過媒体へ印字して得られる透過印字濃度が、以下の関係を満足するように構成することが、階調性の点で好ましい。即ち、インクの種類がn種類(n≧3)であり、染料濃度の高いインクから順に光透過媒体へ、例えば、体積4〜5plの滴として解像度1,200dpi、100%のデューティで印字した場合における透過印字濃度が、A1、A2、A3、・・・An−1、Anであるとしたときに、An/An−1の値が0.1〜0.7、更には0.2〜0.6の範囲になるように、濃淡インクを構成する各インクの染料濃度を決定すればよい。
【0037】
本発明にかかる水性インクを有する濃淡インクを用いて、インクジェット記録方式で、医療分野における診断画像や参照画像としても利用可能な透過画像を形成する場合に使用する光透過媒体は、いずれのものであってもよいが、青色の色調を有しているものが好ましい。例えば、透明基材上にシリカ又はアルミナ等から構成される多孔質のインク受容層を有するものが挙げられる。特に医療診断用の透過画像を得る目的においては、CIELAB色空間で表されるLab値が、L=70〜90、a=−3〜10、b=−14〜0であるブルーベースフィルムに、多孔質のインク受容層を有する光透過媒体を用いることが好ましい。
【0038】
例えば、上記したようなブルーベースフィルム上に、シリカ又はアルミナ等から構成される多孔質のインク受容層を有するものを好適に利用できる。インク受容層としてアルミナを使用している例としては、例えば、特開平2−276670号公報が挙げられる。又、インク受容層としてシリカを使用している例としては、例えば、特開2001−150803公報が挙げられる。本発明にかかる水性インクを有する濃淡インクは、上記のような構成の、多孔質のインク受容層を有する光透過媒体に対して画像を形成する場合に用いると、特に効果的である。
【0039】
本発明にかかる水性インクを用いてインクジェット記録方式で画像を形成する場合の、光透過媒体への単位面積あたりのインク打ち込み量としては、透過の画像濃度を2.5以上まで高めるために、本発明にかかるインクを用いて600dpi四方あたり27ng以上、54ng以下の打ち込み量とすることが好ましい。即ち、インク打ち込み量を上記したような範囲内とした場合、光透過媒体上でインクが溢れて画像に乱れが生じたり、或いは、インクが溢れないようにするために印字速度を落としたりすることなしに、光透過媒体上に透過の画像濃度が2.5以上という高品位画像を形成することができる。
【0040】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。尚、以下で用いる「%」は、断りのない限り質量%を表すものである。
【0041】
[ブラックインクの作製]
インク全量が100%となるように水で調整した下記の組成からなる各成分を混合し、充分攪拌して溶解後、ポアサイズが0.2μmのフロロポアフィルター(住友電工(株)製)にて加圧濾過し、ブラックインク1〜9をそれぞれ作製した。これらのインクは、色材の種類及び濃度を一定にし、不揮発性溶剤の量を適宜に変化させたものである。尚、下記のアセチレングリコールエチレンオキサイド付加物としては、アセチレノールEH(商品名:川研ファインケミカル社製)を使用した。又、ポリエチレングリコール200とは、平均分子量が200のポリエチレングリコールのことである。各例示化合物とは、先に構造式を挙げて説明した各ブラック染料のことである。
【0042】
Figure 2004300338
【0043】
Figure 2004300338
【0044】
Figure 2004300338
【0045】
Figure 2004300338
【0046】
Figure 2004300338
【0047】
Figure 2004300338
【0048】
Figure 2004300338
【0049】
Figure 2004300338
【0050】
Figure 2004300338
【0051】
[各ブラックインクのD’/D値の算出]
上記で調製したブラックインク1〜9について、下記の方法でD’/D値をそれぞれ求めた。先ず、上記した何れかのブラックインク100g中に含有させた染料と、同じ種類で同じ量の、全染料を、該インク100g中に含有させたと同じ種類、同じ量の、全不揮発性溶剤に溶解させた。その後、0.45μmの濾紙を用いて濾過し、不溶分を取り除いて、不揮発性溶剤に染料が溶解した染料溶液を作製し、得られた染料溶液を適宜に希釈して測定用試料を調製した。そして、この測定用試料を用いて、400〜700nmの中の極大吸収波長における吸光度値を測定し、これを予め作製した検量線の吸光度値と対比することで、上記で調製した不揮発性溶剤に染料が溶解した染料溶液の染料濃度D’[g/100g]値を求めた。検量線は、測定対象のブラックインクに用いた全色材と色材比率を同じにした染料を用いて、染料濃度が段階的に異なる、染料濃度が既知の染料水溶液を使用して作製した。測定対象のブラックインクの染料濃度D[g/100g]は、インク100g中に含有させた全色材量から求めた。最後に、上記で得たD’とDの値から、これらの比(D’/D値)を算出した。尚、上記の染料溶液の希釈と、検量線作成の際に用いた水は、アンモニアによってpHを9〜9.5に調整したアンモニア水を用いた。又、染料濃度の測定の際に極大吸収波長が2つ以上ある場合には、吸光度の値が高い方の波長で算出した。
【0052】
[透過画像の作製]
(光透過媒体の作成)
予め青色に着色した、厚さ175μmのポリエステル製の透明基材を用い、該基材の両面に、コロナ放電処理を行った。そして、以下に示す組成を有する塗布液を用いて、基材の片面にインク受容層を形成した。尚、このフィルムのCIELAB色空間で表されるLab値はL=77、a=−7、b=−1であった。
【0053】
Figure 2004300338
先ず、上記成分をスターラー上で攪拌・混合した。その後、これに5%ホウ酸水溶液を50g加えて、インク受容層形成用の塗布液を得た。そして、得られた塗布液を上記フィルムに塗布して光透過媒体Aを得た。
【0054】
(印字方法)
インクジェット記録装置としてキヤノン(株)製BJF−870を用い、上記で作製した光透過媒体Aに対して、上記で得た各ブラックインク1〜9をそれぞれ、600dpiあたり約36ngになるよう吐出量を制御して印字した。
【0055】
(透過の画像濃度の測色)
上記で得られた各印字物について、透過の画像濃度を測色した。光透過媒体の画像濃度の測色には、X−Rite社製X−Rite310TRを用いた。表1に、得られた透過の画像濃度の結果を示した。表1中に、各インク中の不溶性溶剤の種類と含有量、及び、先のようにして求めた各インクのD’/D値の結果を合わせて示した。又、図1に、D’/D値と透過の画像濃度の関係をグラフ化したものを示した。
【0056】
Figure 2004300338
【0057】
図1のグラフに示した通り、D’/D値と透過の画像濃度の関係は、D’/D値が0.6以上になると、透過濃度が2.5以上の画像を光透過媒体上に形成することができることがわかった。更に、D’/D値が1以上になると、透過画像濃度が急激に高まるため、より好ましいことがわかった。更に、比較例6のブラックインク9の場合は、D’/D値が2よりも大きいが、この場合は、高い透過の画像濃度が実現できたものの、得られた透過画像を高温高湿の環境下(30℃、80%)で2週間保存したところ、画像ににじみが生じ、画像の保存性の点で好ましくないことがわかった。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、インクの吐出信頼性や固着性、或いは光透過媒体におけるインクの溢れ等の問題もなく、光透過媒体に対して高い画像濃度、画像の高い保存性が求められる、要求レベルが極めて高いシステム、例えば、医療用の診断画像等に用いるシステムにおいても適応可能な、2.5以上の高い透過の画像濃度を実現でき、しかも高い画像の保存性を実現したインクジェット記録を達成できる水性インクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例及び比較例のブラックインクにおけるD’/D値と透過画像濃度の関係を示すグラフである。

Claims (2)

  1. 光透過媒体に透過濃度が2.5以上の画像を形成することができ、且つ、少なくとも1種の染料と、水と、少なくとも1種の不揮発性の水溶性有機溶剤とを含んでなるインクジェット記録用の水性インクであって、
    該インクの染料濃度[g/100g]をDとし、且つ、該インク100g中に含まれる上記不揮発性の水溶性有機溶剤の全量に、該インク100g中に含まれる上記染料の全量を溶解させて得られる溶液の染料濃度をD’[g/100g]とした場合に、D、D’が下記式(1)の関係を満たす範囲内にあることを特徴とする水性インク。
    2.0≧D’/D≧0.6 (1)
  2. 光透過媒体に、透過濃度が2.5以上の画像を形成する方法であって、
    少なくとも1種の染料と、水と、少なくとも1種の不揮発性の水溶性有機溶剤とを含んでなるインクジェット記録用の水性インクを滴として光透過媒体に付与する工程を有し、且つ、該工程で使用するインクが、請求項1に記載の水性インクであることを特徴とする画像形成方法。
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